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特開2024-61074二次電池用負極材料及びその製造方法、二次電池用負極、並びに二次電池
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  • 特開-二次電池用負極材料及びその製造方法、二次電池用負極、並びに二次電池 図1
  • 特開-二次電池用負極材料及びその製造方法、二次電池用負極、並びに二次電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061074
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】二次電池用負極材料及びその製造方法、二次電池用負極、並びに二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20240425BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240425BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/36 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168778
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】近藤 史也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB11
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】 炭素とシリコン系材料を用いた電極を用いた電池の反応偏在を抑止し、さらに高い入出力特性を有する二次電池を製造することができる二次電池用負極材料の提供。
【解決手段】 本発明の二次電池用負極材料は、焼成固化した第1の非晶質炭素中にナノシリコン粒子とカーボンナノチューブを含むコア部分と、前記コア部分を第2の非晶質炭素で被覆したシェル部分かなる。前記ナノシリコン粒子の平均粒径が0.5μm以下であることが好ましく、第1の非晶質炭素は、前駆体を900℃以上1090℃以下で焼成して形成される。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成固化した第1の非晶質炭素中にナノシリコン粒子とカーボンナノチューブを含むコア部分と、前記コア部分を第2の非晶質炭素で被覆したシェル部分を含む二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記ナノシリコン粒子の平均粒径が0.5μm以下である、請求項1に記載の二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記二次電池用負極材料の総量を100質量%として、前記コア部分のナノシリコン粒子の含有量が10~50質量%であり、前記コア部分のカーボンナノチューブの含有量が0.01質量%~1.0質量%であり、前記コア部分の第1の非晶質炭素の含有量が44~89.89質量%である、請求項1に記載の二次電池用負極材料。
【請求項4】
(a)ナノシリコン、カーボンナノチューブおよび第1の非晶質炭素の前駆体を液相で分散混合しスラリーを得る工程と、
(b)前記スラリーを不活性ガス雰囲気条件下にて、900℃以上1090℃以下で焼成し、第1の非晶質炭素中にナノシリコン粒子とカーボンナノチューブを含む複合材料を得る工程と、
(c)前記工程(b)で得られた複合材料を粉砕する工程と、
(d)前記工程(c)で得られた複合材料の表面を第2の非晶質炭素により被覆する工程と、
を含むことを特徴とする二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用負極材料を含む、二次電池用負極。
【請求項6】
請求項5に記載の負極と、
正極活物質を含む正極と、
前記負極と前記正極との間に介在されるセパレータと、
を含む、二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極材料及びその製造方法、二次電池用負極、並びに二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の負極材料としては、炭素材料が使用され、特に黒鉛と非晶質炭素材料が使用されている。しかしながら、黒鉛の理論容量は、372mAh/gであり、黒鉛には理論的な限界がある。また、黒鉛は急速充電や低温充電にリチウム析出が生じるなど、充電受け入れ性にも課題がある。
非晶質炭素材料は、黒鉛と比較し、充電受け入れ性は高いが、容量及び密度が小さいことから、エネルギー密度に課題があり、更なる放電容量の増大が望まれている。
一方、黒鉛や非晶質炭素材料よりも高い容量を示す材料として、シリコン系材料が提案されている。しかし、それらの材料を単独で用いるのには、充放電にともなう膨張が大きく、寿命特性が低下するため課題がある。したがって、シリコン系材料と炭素材料を、複合化することにより、シリコン系材料を使いこなす試みは実施されている。
【0003】
特許文献1には、シリコン系材料と黒鉛の複合した負極材料は、高容量化と寿命特性を両立させる技術として提案されている。一方で、黒鉛とシリコン系材料では、充放電電位が、黒鉛は0.25V vs.Li/Liよりも低く、シリコン系材料は0.25V vs.Li/Liよりも高いため、同時に充放電することが難しい。したがって、充放電時には黒鉛もしくはシリコン系材料のどちらかに反応が集中し、この反応の偏在化により、電池抵抗は増加し、充電受け入れ性を低下させると考えられる。
非晶質炭素材料は、充放電電位が0~2.0V vs.Li/Liと広い電位範囲で充放電するため、シリコン系材料と複合化した際に、炭素材料とシリコン系材料を均一に充放電することができる。特許文献2では、ナノシリコンと非晶質炭素の複合負極材料について記載がされている。ところが、特許文献2に記載された負極材料は、複合負極材料を保護する層がなく、比表面積が大きくなると考えられる。その結果、電解液の分解を促進させるため、負極で消費される不可逆容量が大きくなり、エネルギー密度および寿命特性を低下させる。特許文献3では、カーボンナノチューブとアセチレンブラックとシリコンを複合化後、CVD法により非晶質炭素で被覆し得られる材料について記載されている。しかし、この場合、エネルギー密度は向上するが、負極材中に含まれた非晶質炭素系化合物の割合が低いため、シリコンの膨張収縮を緩和することが難しく、良好な寿命特性を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-154114号公報
【特許文献2】国際公開第2015/097974号
【特許文献3】国際公開第2013/183187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、炭素とシリコン系材料を用いた電極を用いた二次電池の反応偏在を抑止し、さらに高い入出力特性を有する二次電池を製造することができる二次電池用負極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねてきた。その結果、ナノシリコンが非晶質炭素内に分散されたコア部分と、コア部分を被覆する非晶質炭素からなるシェル部分から構成されるナノシリコンと非晶質炭素が複合化された構造を有する二次電池用負極材料を用いることで、高いエネルギー密度を有しながら、電極内の反応を均一化し、電池の入出力特性を向上することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、完成したものである。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0007】
〔1〕 焼成固化した第1の非晶質炭素中にナノシリコン粒子とカーボンナノチューブを含むコア部分と、前記コア部分を第2の非晶質炭素で被覆したシェル部分を含む二次電池用負極材料。
〔2〕 前記ナノシリコン粒子の平均粒径が0.5μm以下である、前記〔1〕に記載の二次電池用負極材料。
〔3〕 前記二次電池用負極材料の総量を100質量%として、前記コア部分のナノシリコン粒子の含有量が10~50質量%であり、前記コア部分のカーボンナノチューブの含有量が0.01質量%~1.0質量%であり、前記コア部分の第1の非晶質炭素の含有量が44~89.89質量%である、前記〔1〕に記載の二次電池用負極材料。
〔4〕 (a)ナノシリコン、カーボンナノチューブおよび第1の非晶質炭素の前駆体を液相で分散混合しスラリーを得る工程と、
(b)前記スラリーを不活性ガス雰囲気条件下にて、900℃以上1090℃以下で焼成し、第1の非晶質炭素中にナノシリコン粒子とカーボンナノチューブを含む複合材料を得る工程と、
(c)前記工程(b)で得られた複合材料を粉砕する工程と、
(d)前記工程(c)で得られた複合材料の表面を第2の非晶質炭素により被覆する工程と、
を含むことを特徴とする二次電池用負極材料の製造方法。
〔5〕 前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の二次電池用負極材料を含む、二次電池用負極。
〔6〕 前記〔5〕に記載の負極と、
正極活物質を含む正極と、
前記負極と前記正極との間に介在されるセパレータと、
を含む、二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ナノシリコンが非晶質炭素内に分散されており、ナノシリコンと非晶質炭素が複合化された構造を有する二次電池用負極材料を用いることで、高いエネルギー密度を有しながら、電極内の反応を均一化し、二次電池の入出力特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ナノシリコンと非晶質炭素が複合化された構造を有する二次電池用負極材料の模式図である
図2】試験例2の放電カーブの測定結果を示すグラフである。
図3】試験例3の内部抵抗の測定の概略を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、具体的な実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
1.二次電池用負極材料
図1は本発明を実施するための形態に関わる二次電池用負極材料の模式図である。二次電池用負極材料は、ナノシリコン粒子100とカーボンナノチューブ102が、第1の非晶質炭素101により内包されているコア部分と、前記コア部分を第2の非晶質炭素103で被覆したシェル部分を備えている。
【0012】
(1-1)ナノシリコン粒子
ナノシリコン粒子100は、ナノシリコン材料により構成される。ナノシリコン材料は、平均粒径が0.5μm以下ののシリコン単体粒子であり、二次電池用負極において充放電をおこなうための活物質として機能する。ナノシリコン粒子100を構成するナノシリコン材料の表層は一部、シリコンの酸化物となっているものを用いることができる。なお、平均粒径は、レーザ回折・散乱法により測定する。
【0013】
ナノシリコン粒子100を構成するナノシリコン材料の形状は、球状、鱗片状、塊状、繊維状、ウィスカー状、破砕状等様々なものを採用することができる。また、複数の形状の負極材料を組合せて用いることもできる。
【0014】
また、ナノシリコン粒子の平均粒径は0.01~0.5μmであることが望ましく、0.05~0.4μmであることがより好ましく、0.1~0.3μmであることがさらに望ましい。平均粒径を上記範囲にすることで、充放電時の体積変化によるナノシリコン材料のクラックを抑制し、寿命特性を向上することができる。平均粒径は、レーザ回折・散乱法により測定する。
【0015】
また、ナノシリコン粒子100は、規則的な原子構造を有さないアモルファスナノシリコンの方が好ましい。アモルファスナノシリコンの放電曲線は0.45V vs. Li/Liに平坦部を持たない、傾斜形状を示す。傾斜形状の放電曲線を有することにより、第一の非晶質炭素を構成する非晶質炭素材料と均一に充放電することができる。
【0016】
ナノシリコン材料の含有量が大きいと高い比容量を得ることができる。したがって、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、ナノシリコンの含有量の下限は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。一方で、ナノシリコンの含有量が大きすぎると、寿命特性を低下させる可能性がある。したがって、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、ナノシリコンの含有量の上限は50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。なお、上記ナノシリコンの含有量は、負極材料をICP発光分析法により測定して求めることができる。
【0017】
(1-2)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブ102は、ナノシリコン同士、およびナノシリコンと第1の非晶質炭素との集電性の向上し、反応均一性を向上するための導電助剤として機能する。
【0018】
カーボンナノチューブは、黒鉛シート(即ち、黒鉛構造の炭素原子面又は単層のグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。壁構造が一枚の黒鉛シート(単層のグラフェンシート)でチューブ状に閉じた形状のカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブと呼ばれている。一方、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているカーボンナノチューブは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれも採用できるが、ナノシリコン同士、およびナノシリコンと第1の非晶質炭素材料との集電性の向上、反応均一性の向上の観点から、単層カーボンナノチューブが好ましい。このようなカーボンナノチューブは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0019】
体積あたりのカーボンナノチューブの本数を増大させやすく、カーボンナノチューブの含有量を少なくすることができ、反応均一性の向上の観点からは、カーボンナノチューブの平均外径は小さいことが好ましい。このため、カーボンナノチューブの平均外径は、0.43~20nmが好ましく、0.43~10nmがより好ましい。カーボンナノチューブの平均外径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。このような平均外径を有するカーボンナノチューブは、平均外径に応じて平均内径が設定される。
カーボンナノチューブの平均長さは、長いほどナノシリコン同士、およびナノシリコンと第1の非晶質炭素材料との集電をしやすい一方、分散性を向上させやすく、反応均一性の向上の観点からは、カーボンナノチューブの平均長さは短いほうが好ましい。そのため、カーボンナノチューブの平均長さは、0.5~200μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。カーボンナノチューブの平均長さは、電子顕微鏡(SEM)観察により測定する。
【0020】
上述のカーボンナノチューブの平均長さと平均外径の比として定義されるカーボンナノチューブの平均アスペクト比は、高いほど少ないカーボンナノチューブの含有量でナノシリコン同士、およびナノシリコンと第1の非晶質炭素材料との集電性の向上、反応均一性の向上の観点から、25~200000が好ましく、100~50000がより好ましい。カーボンナノチューブの平均アスペクト比は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定した平均外径と、電子顕微鏡(SEM)観察により測定した平均長さとから算出する。
【0021】
本発明において、カーボンナノチューブは、1本ずつ独立しているものを使用することもできるし、束として強度を発現しやすいために複数のカーボンナノチューブがバンドル化したカーボンナノチューブ集合体を使用することもできる。いずれを使用した場合であっても、ごく少量のカーボンナノチューブによって、ナノシリコン同士、およびナノシリコンと第1の非晶質炭素材料との集電性、反応均一性を向上することができる。
【0022】
また、カーボンナノチューブのグラフェン構造に欠陥が少ないこと、つまりはラマンスペクトルにおいてG/D比が高いことは、電子導電性の向上の観点から好ましいと考えられる。このため、本発明において、カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいてG/D比が1~200であることが好ましく、50~150であることがより好ましい。
【0023】
カーボンナノチューブの含有量が大きいと高い寿命特性を得ることができる。したがって、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、カーボンナノチューブの含有量の下限は0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.08質量%以上がさらに好ましい。
一方で、カーボンナノチューブの含有量が大きすぎると、比容量を低下させる。したがって、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、カーボンナノチューブの含有量の上限は1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
(1-3)第1の非晶質炭素
第1の非晶質炭素101は、非晶質炭素の前駆体を、焼成固化することによって生成し、二次電池用負極において充放電をおこなうための活物質として機能する。
【0025】
第1の非晶質炭素材料の(002)面の層間距離は、反応均一性の向上の観点から、0.35nm以上が好ましく、0.36nm以上がより好ましい。第1の非晶質層状炭素材料の(002)面の層間距離の上限値は、特に制限はないが、通常0.40nmである。なお、非晶質炭素材料の層間距離は、X線回折法により測定する。以上のような条件を満たす第1の非晶質炭素材料としては、例えば、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素材料)、ソフトカーボン(易黒鉛化性炭素材料)、メゾ相ピッチ炭化物等が挙げられる。これらの材料は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、電池内の反応を均一化しやすい観点から、ハードカーボンが好ましい。
【0026】
より、具体的には、非晶質炭素の前駆体を900℃以上1090℃以下で焼成してハードカーボンを生成させることができる。非晶質炭素の前駆体としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、石油系ピッチ、石油系タール、コールタールピッチ、コールピッチなどが挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。この中でも、炭化比率が高い、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
第1の非晶質炭素の含有量が大きいと高い寿命特性を得ることができる。したがって、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、第1の非晶質炭素の含有量の下限は50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方で、比容量を大きくするために、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、第1の非晶質炭素の含有量の上限は90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
(1-4)第2の非晶質炭素
第2の非晶質炭素104は、負極材料のシェル部分を構成し、二次電池用負極において充放電にともなう電解液の還元分解を抑制するための保護層として機能する。
【0029】
第2の非晶質炭素材料の(002)面の層間距離の下限は、反応均一性の向上の観点から、0.35nm以上が好ましく、0.36nm以上がより好ましい。第2の非晶質層状炭素材料の(002)面の層間距離の上限は、電解液の還元分解の抑制の観点から、0.40nm以下が好ましく、0.39nm以下がより好ましい。以上のような条件を満たす第2の非晶質炭素材料としては、例えば、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素材料)、ソフトカーボン(易黒鉛化性炭素材料)、メゾ相ピッチ炭化物等が挙げられる。これらの材料は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、電解液の還元分解の抑制の観点から、ソフトカーボンが好ましい。
【0030】
第2の非晶質炭素の含有量が大きいと電解液の還元分解を抑制し高い寿命特性を得ることができる。したがって、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、第2の非晶質炭素の含有量の下限は0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましい。一方で、比容量を大きくするためには、二次電池用負極材料の総量を100質量%としたとき、第2の非晶質炭素の含有量の上限は5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
(1-5)二次電池用負極材料の粉体物性
二次電池用負極材料の形状は、粒子であれば特に制限はなく、球状、鱗片状、塊状、繊維状、ウィスカー状、破砕状等様々なものを採用することができる。また、複数の形状の粒子を組合せて用いることもできる。
【0032】
また、二次電池用負極材料の平均粒径は、1~20μmであることが望ましく、3~15μmであることがより好ましく、4~10μmであることがさらに望ましい。平均粒径を上記範囲にすることで、反応均一性を向上しつつ、寿命特性を向上することができる。平均粒径は、レーザ回折・散乱法により測定する。
【0033】
二次電池用負極材料の比表面積は、1~20m/gであることが望ましく、3~15m/gであることがより好ましく、4~10m/gであることがさらに望ましい。比表面積を上記範囲にすることで、反応均一性を向上しつつ、寿命特性を向上することができる。比表面積は、Brunauer,Emmet and Teller(BET)法により測定する。
【0034】
2.二次電池用負極材料の製造方法
本発明の二次電池用負極材料の製造方法は、少なくとも、以下の工程(a)~(d)を含む。
工程(a)ナノシリコン、カーボンナノチューブおよび第1の非晶質炭素の前駆体を液相で分散混合しスラリーを得る工程:
工程(b):前記スラリーを不活性ガス雰囲気条件下にて、900℃以上1090℃以下で焼成し、第1の非晶質炭素中にナノシリコン粒子とカーボンナノチューブを含む複合材料を得る工程

工程(c):前記工程(b)で得られた複合材料を粉砕する工程
工程(d):前記工程(c)で得られた複合材料に第2の非晶質炭素を被覆する工程
【0035】
(2-1)工程(a):分散工程
工程(a)では、ナノシリコンとカーボンナノチューブと第1の非晶質炭素の前駆体とを溶媒中で分散混合し、ナノシリコンとカーボンナノチューブを分散させ、および第1の非晶質炭素の前駆体が溶解しているスラリーを得る。
工程(a)の分散に用いる装置としては、プラネタリ―ミキサー、薄膜旋回型ミキサー、ビーズミル、湿式ジェットミル、超音波ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザーなどが挙げられる。これらの装置は1種だけでなく2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの装置の中でも、薄膜旋回型ミキサー、ビーズミル、湿式ジェットミルを用いるのが好ましい。
【0036】
第1の非晶質炭素の前駆体としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、石油系ピッチ、石油系タール、コールタールピッチ、コールピッチなどが挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。この中でも、炭化比率が高い、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
溶媒としては、非晶質炭素の前駆体が溶解するものを用い、水や、アルコール(メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等)、アセトン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
また、必要に応じて分散剤を用いることも可能である。分散剤としては、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルエーテル、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、ポリウレタン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
(2-2)工程(b):焼成工程
工程(b)では、上記スラリーを熱処理することにより溶媒を除去し、その後、不活性ガス雰囲気条件下において、900~1090℃で熱処理し、非晶質炭素の前駆体を炭素化させ、ナノシリコンとカーボンナノチューブと第1の非晶質炭素の複合材料を得る。
不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素などが挙げられる。不活性ガス雰囲気条件とすることにより、非晶質炭素の前駆体が二酸化炭素等として除去されると防止できる。
【0040】
熱処理温度の下限は、900℃以上が好ましく、950以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好ましい。熱処理温度の下限を上記範囲とすることで、寿命特性を向上することができる。また、熱処理温度の上限は、1090℃以下であればよいが、1080℃以下が好ましく、1070℃以下がより好ましく、1050℃以下がさらに好ましい。熱処理温度の上限を上記範囲とすることで、比容量を向上することができる。
必要に応じて、900℃以上1090℃以下で熱処理前に、溶媒の除去や非晶質炭素の前駆体を硬化させることを目的とし、100~900℃で予備焼成をおこなうことができる。
【0041】
(2-3)工程(c):粉砕工程
工程(c)では、第1の非晶質炭素中にナノシリコンとカーボンナノチューブを含む複合材料の塊を粉砕して、平均粒径20μm以下の微粒子を得る。
【0042】
工程(c)の粉砕に用いる装置としては、乾式ジェットミル、湿式ジェットミル、ビーズミル、ボールミル、遊星ボールミル等が挙げられる。これらの装置は1種だけでなく2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの装置の中でも乾式ジェットミル、ボールミル、遊星ボールミル、を用いるのが好ましい。
【0043】
粉砕後に粒度分布を調整するために、分級工程をおこなうこともできる。分級工程をおこない、1μm未満の微粉を除去することにより、寿命特性を向上することができる。
【0044】
(2-4)工程(d):第2の非晶質炭素を被覆する工程
工程(d)では、工程(c)で粉砕して得られた複合材料の粉末を第2の非晶質炭素による被覆をおこなう。
【0045】
第2の非晶質炭素による被覆の方法は、炭素源を用い前記粉末に第2の非晶質炭素を被覆できる方法であればいずれを用いても良いが、不活性ガス、あるいは不活性ガスと水素との混合ガス中で、炭素源を熱分解させ、前記粉末の表面に薄い被覆膜を形成できる蒸着法により被覆することが好ましく、スパッタ法、アーク蒸着法、化学気相蒸着法(CVD法)等が挙げられる。これらの中でも、蒸着温度や蒸着雰囲気を制御しやすい観点から、CVD法が好ましい。CVD法による炭素被覆においては、炭素源を熱分解させ、生成した炭素をナノシリコンと非晶質炭素の複合材料の粉末の表面へ付着させることにより炭素被覆をおこなうことができる。
【0046】
炭素源としては、特に制限されるものではないが、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン等の炭化水素、またはレゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、石油系ピッチ、石油系タール、コールタールピッチ、コールピッチなどを用いても良い。この中でも、比表面積を低減させるためには、石油系ピッチ、コールタールピッチを用いるのが好ましい。
【0047】
また、雰囲気ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガス、あるいは不活性ガスと水素との混合ガスを用いることができる。反応温度は、例えば、400℃以上1090℃以下とすることができる。
【0048】
3.二次電池用負極
本発明の二次電池用負極は、本発明の二次電池用負極材料を含有する。二次電池用負極には、上記二次電池用負極材料の他に、必要に応じて導電助剤、高分子材料(バインダー、増粘剤、分散剤)等の任意成分を含んでもよい。
【0049】
導電助剤は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、鱗片状黒鉛、グラフェン、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらの導電助剤は1種だけでなく2種以上を組み合わせて使用することもできる。この中でも、少ない導電助剤の量で高い電子伝導度を得るためには、単層カーボンナノチューブとアセチレンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。
【0050】
高分子材料(バインダー、増粘剤、分散剤)は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン、スチレンブタジエン、エチレンビニルアルコール、アクリロニトリルブタジエン、エチレンプロピレンジエンゴム、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルエーテル、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、ポリウレタン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。これらの高分子材料は1種だけでなく2種以上を組み合わせて使用することもできる。この中でも、十分な電極強度、高い導電助剤の分散性、及び反応の均一性を得るためには、スチレンブタジエンとカルボメチルセルロースナトリウム塩を組み合わせて使用することが好ましい。
【0051】
本発明の二次電池用負極の厚みは、特に制限されないが、イオンの浸透と電子伝導度を確保して反応を均一化させやすい点では薄いほうがよい一方で、本発明はナノシリコンが非晶質炭素内に分散されたコア部分と、コア部分を被覆する非晶質炭素からなるシェル部分から構成されるナノシリコンと非晶質炭素が複合化された構造を有する二次電池用負極材料を用いることで、高いエネルギー密度を有しながら、電池の反応を均一化させようとしているため、電極あたりのエネルギー密度のために厚くすることも可能である。このため、本発明の二次電池用負極材料層の厚みは、1~300μmが好ましく、10~150μmがより好ましく、15~100μmがさらに好ましい。
【0052】
このような本発明の二次電池用負極は、上記した本発明の二次電池用負極材料を層状に成形することで製造することができる。例えば、本発明の二次電池用負極材料を二次電池用負極形成用ペースト組成物とし、当該ペースト組成物を常法により乾燥させて層状に成形して二次電池用負極とすることができる。
【0053】
本発明の二次電池用負極は、負極集電体を備えていることが好ましい。
負極集電体は、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、炭素材料等の使用する電位において電気化学的に安定であり、高い電子導電性を有する材料からなることが好ましい。この負極集電体は、例えば、箔状、メッシュ状等の部材とすることができる。
このような本発明の二次電池用負極を製造する場合は、負極集電体上に、上記した本発明の二次電池用負極材料層形成用組成物を層状に成形することで製造することができる。例えば、本発明の二次電池用負極材料層形成用組成物を二次電池用負極材料層形成用ペースト組成物とする場合は、負極材料に対して、当該ペースト組成物を常法により乾燥させて層状に成形し、本発明の二次電池用負極を製造することができる。
【0054】
4.二次電池の構成
本発明の二次電池は、上記した本発明の二次電池用負極を備えている。また、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用負極以外に、公知の二次電池に適用される正極、電解液及びこれらを収納するための容器を備えることができる。
【0055】
正極としては、イオンを負極に供給できる物であればよく、周知の正極を使用することができる。
正極を構成する正極集電体として、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、炭素材料等の使用する電位において電気化学的に安定であり、高い電子導電性を有する材料を例示することができる。
【0056】
また、正極を構成する正極活物質としては、通常、イオン吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[Lix1Niγ1Mnβ1Co(1-x1-γ1-β1)]O(0≦x1<0.5、0≦γ1≦1、0≦β1≦1、0≦γ1+β1≦1)、Li[Lix2Niγ2Coβ2Al(1-x2-γ2-β2)]O(0≦x2<0.5、0≦γ2≦1、0≦β2≦1、0≦γ2+β2≦1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、Lix3Mn(0.9≦x3<1.5)、Lix4Niγ4Mn(2-γ4)(0.9≦x4<1.5、0≦γ4≦2)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの正極活物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。上記正極活物質としては、これらの中でも、高エネルギー密度化の観点から上記リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0057】
また、電解液は、非プロトン性有機溶媒に塩を溶解した電解液であって、正極と負極との間に配置されており、例えば、正極と負極との短絡を防止するための不織布等からなるセパレータに含浸されて保持されていることが好ましい。
なお、上述の電解液を構成する非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル、酢酸メチル等のエステル類;テトラヒドロフランや2-メチルテトラヒドロフラン等のフラン類;ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;アセトニトリル等が挙げられる。これらの非プロトン性有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0058】
一方、このような非プロトン性有機溶媒に溶解される塩は、例えば、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、6フッ化リン酸リチウム、6フッ化砒酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ハロゲン化リチウム、塩化アルミン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)等のリチウム塩が挙げられる。これらの塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【実施例0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0060】
二次電池用負極材料
〔比較例1〕
平均粒径0.3μmのシリコン20gと単層カーボンナノチューブ(単層CNT)分散液(重量比;単層CNT/カルボメチルセルロースナトリウム塩/水=0.4/0.4/99.2)50gと水30gを湿式ジェットミルを用いて混合分散し、シリコン/単層CNTの分散液を得た。得られたシリコン/単層CNT分散液20gとレゾール型フェノール樹脂(固形分70%)27.52gと自転公転式ミキサーにて2000rpmで2分間混合分散し、前駆体スラリーを得た。作製した前駆体スラリーをステンレス容器に入れ、通常雰囲気中で150℃にて2時間熱処理し、溶媒の除去およびフェノール樹脂を硬化させた。次いで、得られた材料を磁性皿に移し管状炉を用いて窒素雰囲気中(流量0.5L/min)で1000℃にて4時間熱処理し、フェノール樹脂を炭化し、重量比がシリコン/非晶質炭素1/単層CNT=25.5/74.2/0.26の複合材料のブロックを得た。得られた複合材料のブロックについて遊星ボールミルを用いて粉砕し、平均粒径が5.2μm、BET比表面積138m/gの比較例1の二次電池用負極材料を得た。
【0061】
〔実施例1〕
比較例1で得られた二次電池用負極材料3gをステンレススチール製の籠に入れ、ピッチ(軟化点110℃)3gを入れた磁性皿の上に配置し、更に磁性皿で蓋をした。これを管状炉内に配置して、窒素雰囲気中(流量0.5L/min)で1000℃にて4時間熱処理し、非晶質炭素2による被覆をおこない、重量比がシリコン/非晶質炭素1/単層CNT/非晶質炭素2=24.47/71.13/0.24/4.16、BET比表面積が8.68m/gの実施例1の二次電池用負極材料を得た。
【0062】
〔実施例2〕
平均粒径0.3μmのシリコン4gとレゾール型フェノール樹脂(固形分70%)27.52gと単層CNT分散液(重量比;単層CNT/CMC/水=0.4/0.4/99.2)10gを自転公転式ミキサーにて2000rpmで2分間混合分散し、前駆体スラリーを得た。以降は、比較例1および実施例1と同じ工程により、重量比がシリコン/非晶質炭素1/単層CNT/非晶質炭素2=25.31/71.19/0.25/3.25の実施例2の二次電池用負極材料を得た。
【0063】
〔比較例2~4〕
平均粒径0.3μmのシリコン3gとレゾール型フェノール樹脂(固形分70%)36.00gと単層CNT分散液(重量比;単層CNT/CMC/水=0.4/0.4/99.2)4.53gを自転公転式ミキサーにて2000rpmで2分間混合分散し、前駆体スラリーを得た。作製した前駆体スラリーをステンレス容器に入れ、通常雰囲気中で150℃にて2時間熱処理し、溶媒の除去およびフェノール樹脂を硬化させた。次いで、得られた材料を磁性皿に移し管状炉を用いて窒素雰囲気中(流量0.5L/min)で表1に示す温度にて4時間熱処理し、フェノール樹脂を炭化し、表1に示す重量比の複合材料のブロックを得た。得られた複合材料のブロックについて遊星ボールミルを用いて粉砕し、比較例2~4の二次電池用負極材料を得た。
【0064】
〔比較例5〕
平均粒径3μmのシリコン3gとレゾール型フェノール樹脂(固形分70%)36.00gと単層CNT分散液(重量比;単層CNT/CMC/水=0.4/0.4/99.2)4.53gを自転公転式ミキサーにて2000rpmで2分間混合分散し、前駆体スラリーを得た。以降は、比較例2~4と同じ工程により、表1に示す重量比の比較例5の二次電池用負極材料を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
〔比較例6〕
負極材料として、C-SiO23.6質量%および被覆天然黒鉛70.7質量%を混合したものを用意した。
【0067】
試験例1:二次電池用負極の作製
負極材料として、実施例1、2及び比較例1~6で得られた二次電池用負極材料94.3質量%と、増粘剤としてカルボメチルセルロースナトリウム塩2.2%質量%と、導電助剤としてアセチレンブラック1.5質量%および単層CNT0.5質量%と、バインダーとしてスチレンブタジエン1.5質量%と、適量の水を加え、自転公転式ミキサーにより混錬しスラリーを得た。得られたスラリーをドクターブレードで厚み10μmの銅箔上に塗布し、60℃で乾燥した後、密度が1.0g/cmとなるようにロールプレスし、120℃で10時間減圧乾燥し、二次電池用負極を得た。
【0068】
リチウム対極ハーフセル
試験例2:リチウム対極ハーフセルによる充放電特性評価
作用極としては、実施例1~2及び比較例1~6で得られた二次電池用負極材料を使用した二次電池用負極を用いた。
対極としては厚さ50μmのリチウム箔を用いた。
電解液としては、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(MEC)を体積比3:7で混合したもの、塩として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウム(LiPF)からなる電解液を用いた。この電解液を、セパレータであるポリエチレン多孔質フィルムに含浸させた。
上記の作用極、対極、電解液及びセパレータで構成したリチウム対極ハーフセルを作製した。また、作製したリチウム対極ハーフセルの作用極と対極の対向面積は3.15cmとした。
【0069】
作製したリチウム対極ハーフセルにおいて、初期の充放電容量及びクーロン効率を確認することを目的とし、充放電試験を行った。
充放電は、下限電圧0.01Vまで電流値1.89mAで電流値が0.95mAになるまで定電流定電圧充電(CCCV充電)を行い、10分間休止した後に、上限電圧1.5Vまで電流値1.89mAで放電を行い、その後10分間休止した。
上記充放電を10回繰り返し、充放電特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
比較例2~4の負極材料を使用したハーフセルの充放電特性評価を比較すると、炭化温度の増加にともない初回効率及び10サイクル後の容量維持率が向上する一方で、初回放電容量は低下する。実施例1と比較例1の負極材料を使用したハーフセルの充放電特性評価を比較すると、炭素被覆により、初回放電容量は大きく変化はしない、一方で、初回効率は7.3%と大幅に向上する、比較例3と比較例5の負極材料を使用したハーフセルの充放電特性評価を比較すると、シリコンの粒子径が3.0μmと大きい場合、10サイクル後の容量維持率は10%低下する。
【0072】
以上より、平均粒径が0.5μm以下のシリコンと、不活性ガス雰囲気条件下にて900℃以上1090℃以下で焼成された非晶質炭素1内に分散されたコア部分と、コア部分を被覆する非晶質炭素2からなるシェル部分から構成される、二次電池負極材料とすることで、良好な初回放電容量、初回効率、及び寿命特性が得られることが分かる。
また、図2に実施例1及び比較例6の負極材料を使用したハーフセルの放電カーブを示す。負極材料にC-SiO及び天然黒鉛を用いた比較例6においては、電位が0.25V vs.Li/Liより卑な領域では黒鉛由来の放電カーブの形状が、0.25V vs.Li/Liより貴な領域ではシリコン系活物質由来の放電カーブの形状が明確に分離されることが確認された。これは、充電状態により、黒鉛もしくはシリコン系活物質に反応が集中することを表し、この反応の偏在化により、電池抵抗は増加し、充電受け入れ性を低下させると考えられる。一方で、実施例1の放電カーブは非晶質炭素もしくはシリコン系活物質の形状が明確に表れず、反応は均一に進行していることが確認できる。
【0073】
試験例3:フルセルによる出力特性評価
負極としては、実施例1~2及び比較例6で得られた二次電池用負極材料を使用した二次電池用負極を用いた。
正極組成物の全質量に対して、正極活物質としてLiFePO(LFP;平均粒子径1μm)を95.0質量%と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を2.5質量%、導電助剤として単層CNTを0.5質量%とグラフェンを0.5質量%とアセチレンブラックを2.5質量%、適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを加えて混練し、スラリーとし、アルミニウム箔(厚み17μm)上にこのスラリーをドクターブレードで乾燥後の正極活物質層の単位面積当りの質量が6.35mg/cmとなるように塗布し、100℃で乾燥した後、正極活物質層の密度が2.2g/cmとなるようにロールプレスし、170℃で減圧乾燥し、正極を得た。
電解液としては、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(MEC)を体積比3:7で混合したもの、塩として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウム(LiPF)からなる電解液を用いた。この電解液を、セパレータであるポリエチレン多孔質フィルムに含浸させた。
上記の負極、正極、電解液及びセパレータで構成したリチウムイオン二次電池を作製した。また、作製したフルセルの正負極の対向面積は2.8cmとした。
【0074】
作製したフルセルにおいて、出力特性を確認することを目的とし、直流抵抗の測定を行った。
具体的には、各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池について、25℃において、充電レート0.5Cの条件で、カット電流0.05Cとして、SOC100%に相当する上限電圧3.6Vまで定電流低電圧充電(CCCV充電)した。次に、10分間休止した後に、放電レート3.0Cの条件で、SOC90%まで(2分間)放電し、その後、10分間休止した。電率SOCは、以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義される。
そのうえで、以下の式:
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇「ΔV(10min)」/放電時の電流値「3C電流値」)×正負極の対向面積「2.8cm
により内部抵抗を算出した。なお、本内部抵抗の測定の概略を図3に示す。
【0075】
この内部抵抗の測定結果を表3に示す。
この結果、平均粒径が0.5μm以下のシリコンと、不活性ガス雰囲気条件下にて900℃以上1090℃以下で焼成された非晶質炭素1内に分散されたコア部分と、コア部分を被覆する非晶質炭素2からなるシェル部分から構成される、二次電池負極材料とすることで、負極材料としてC-SiO及び天然黒鉛を用いた場合と比較し、-27.9%と大幅に内部抵抗が低減されることが確認された。これは、図2に示した通り、非晶質炭素とシリコン系活物質が均一に反応したためだと考えられる。
また、実施例1と実施例2を比較すると、分散プロセスで湿式ジェットミルを用いた場合、更に内部抵抗が低減されることが確認された。非晶質炭素内のシリコン粒子の分散状態が均一になり、更に反応が均一化したためだと考えられる。
【0076】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、自動車、パーソナルコンピューター、通信端末等の電子機器、産業用等に用いる二次電池に適用できる。



図1
図2
図3