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特開2024-6108脈波測定装置の調整方法、脈波測定システム、及び脈波測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006108
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】脈波測定装置の調整方法、脈波測定システム、及び脈波測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A61B5/02 310K
A61B5/02 310P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106687
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】原田 高志
(72)【発明者】
【氏名】岡 博之
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AB02
4C017AC03
4C017BC11
4C017DD14
4C017EE01
4C017FF15
4C017FF17
(57)【要約】
【課題】調整に要する時間を短縮して、適切な押圧力に調整し、誤差を低減する。
【解決手段】使用者の手首に装着可能な脈波測定装置の調整方法であって、脈波測定装置は、ひずみゲージを有し、橈骨動脈の脈を測定することで、脈波を取得する脈波センサと、脈波センサを、橈骨動脈へ向けて押圧する押圧手段と、前記脈波センサの測定値をデジタル信号として出力する出力部と、を備え、調整方法は、使用者の手首へ当該脈波測定装置を装着した際に、前記脈波センサによって脈波を取得し、取得した測定値をデジタル信号として出力するステップと、前記デジタル信号の電圧レベルを、前記出力部の最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較するステップと、前記デジタル信号の電圧レベルが前記予め設定された範囲の範囲外の場合に、前記脈波センサへの押圧力を調整又は指示するステップと、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の手首に装着可能な脈波測定装置の調整方法であって、
脈波測定装置は、
ひずみゲージを有し、橈骨動脈の脈を測定することで、脈波を取得する脈波センサと、
前記脈波センサを、橈骨動脈へ向けて押圧する押圧手段と、
前記脈波センサの測定値をデジタル信号として出力する出力部と、を備え、
調整方法は、
使用者の手首へ当該脈波測定装置を装着した際に、前記脈波センサによって脈波を取得し、取得した測定値をデジタル信号として出力するステップと、
前記デジタル信号の電圧レベルを、前記出力部の最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較するステップと、
前記デジタル信号の電圧レベルが前記予め設定された範囲の範囲外の場合に、前記脈波センサへの押圧力を調整又は指示するステップと、を有する
脈波測定装置の調整方法。
【請求項2】
前記比較するステップで比較される、前記電圧レベルの、前記予め設定された範囲は、前記出力部の最大出力レベルに対して、35%以上である
請求項1に記載の脈波測定装置の調整方法。
【請求項3】
前記比較するステップで比較される、前記デジタル信号の出力レベルは、前記デジタル信号の任意の期間の平均電圧である
請求項1に記載の脈波測定装置の調整方法。
【請求項4】
使用者の手首へ当該脈波測定装置を初回装着した際に、前記比較するステップの前に、初回調整として、前記脈波センサによって取得した前記デジタル信号の、0点補正を行うステップを有する
請求項1に記載の脈波測定装置の調整方法。
【請求項5】
使用者の手首に装着可能な脈波測定装置と、該脈波測定装置と通信可能な情報処理装置とを有する、脈波測定システムであって、
前記脈波測定装置は、
ひずみゲージを有し、使用者の手首へ前記脈波測定装置を装着した際に、橈骨動脈の脈波を取得する脈波センサと、
前記脈波センサの測定値をデジタル信号として出力する出力部と、
前記脈波センサを、橈骨動脈へ向けて押圧する押圧手段と、
前記脈波センサへの押圧力を調整する調整部と、を備え、
前記情報処理装置は、
前記デジタル信号の電圧レベルを、前記出力部の最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較する比較部と、
前記デジタル信号の電圧レベルが前記予め設定された範囲の範囲外の場合に、前記脈波センサへの押圧力の調整を指示する調整指示部と、を備える
脈波測定システム。
【請求項6】
前記脈波測定装置は、使用者の手首に装着し、前記脈波センサの外側に巻回される装着用のベルトを有し、
前記脈波センサは、前記ひずみゲージが配置され、使用者の手首と接触する起歪体を備え、
前記押圧手段は、前記起歪体と反対側から前記脈波センサを保持するセンサ固定部であり、
前記調整部は、前記ベルトであって、前記ベルトのベルト長を調整することで、前記押圧手段の付勢力を調整可能である
請求項5に記載の脈波測定システム。
【請求項7】
前記脈波センサは、前記ひずみゲージが配置され、使用者の手首と接触する起歪体を備え、
前記押圧手段は、前記起歪体と反対側から前記脈波センサを保持するセンサ固定部であり、
前記調整部は、前記脈波センサと反対側から前記センサ固定部と接触し、前記センサ固定部を使用者の手首側に付勢する付勢力調整機構である
請求項5に記載の脈波測定システム。
【請求項8】
前記脈波測定装置の前記脈波センサはアナログ信号を出力し、
前記出力部は、増幅回路、及びA/D変換部を有する
請求項5に記載の脈波測定システム。
【請求項9】
前記情報処理装置は、
前記押圧力が調整された後の、前記脈波の測定値である前記デジタル信号を、二階微分ひて、加速度脈波を算出する
請求項5に記載の脈波測定システム。
【請求項10】
前記脈波センサは、前記ひずみゲージが取り付けられる起歪体を備え、
前記起歪体の変形に伴なう前記ひずみゲージの抵抗値の変化に基づいて脈波を検出する
請求項5に記載の脈波測定システム。
【請求項11】
前記ひずみゲージは、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された抵抗体を有するひずみゲージを含む
請求項10に記載の脈波測定システム。
【請求項12】
前記脈波測定装置は、脛骨動脈に対する脈波センサの位置を検出する位置検出部をさらに備える
請求項5に記載の脈波測定システム。
【請求項13】
使用者の手首に装着可能な脈波測定装置であって、
ひずみゲージを有し、使用者の手首へ当該脈波測定装置を装着した際に、橈骨動脈の脈波を取得する脈波センサと、
前記脈波センサの測定値をデジタル信号として出力する出力部と、
前記デジタル信号の電圧レベルを、前記出力部の最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較する比較部と、
前記脈波センサを、橈骨動脈へ向けて押圧する押圧手段と、
前記デジタル信号の電圧レベルが前記予め設定された範囲の範囲外の場合に、前記脈波センサへの押圧力を調整する調整部と、を備える
脈波測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波測定装置の調整方法、脈波測定システム、及び脈波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、手首に装着するバイタルセンサによって、血管の拡張・収縮による血流と血管抵抗による反射波の情報を含む脈波等の生体信号波を取得することが知られている。
【0003】
しかし、このようなバイタルセンサでは、センサを肌への押しつける押圧力の差に起因して信号に誤差が発生する。
【0004】
そこで、特許文献1では、脈信号の各血圧波の最大値と最小値との間の差を計算し、差が増加されなくなるまで脈保持装置の圧力を強くするように調整し続け、最も適切な圧力値に従って前記血圧波を感知することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-6291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、最大値と最小値の変化がなくなるまで圧力を大きくし続ける必要があるため、圧力調整に時間が変動し、本測定までの時間が不確定であり、時間がかかってしまった。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、調整に要する時間を短縮して、適切な押圧力に調整し、誤差を低減することができる、脈波測定装置における調整方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では、
使用者の手首に装着可能な脈波測定装置の調整方法であって、
脈波測定装置は、
ひずみゲージを有し、橈骨動脈の脈を測定することで、脈波を取得する脈波センサと、
前記脈波センサを、橈骨動脈へ向けて押圧する押圧手段と、
前記脈波センサの測定値をデジタル信号として出力する出力部と、を備え、
調整方法は、
使用者の手首へ当該脈波測定装置を装着した際に、前記脈波センサによって脈波を取得し、取得した測定値をデジタル信号として出力するステップと、
前記デジタル信号の電圧レベルを、前記出力部の最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較するステップと、
前記デジタル信号の電圧レベルが前記予め設定された範囲の範囲外の場合に、前記脈波センサへの押圧力を調整又は指示するステップと、を有する
脈波測定装置の調整方法、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
一態様によれば、脈波測定装置における調整方法によって、調整に要する時間を短縮して、適切な押圧力に調整し、誤差を低減することができる
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1に係る脈波測定システムの全体図である。
図2】第1実施形態に係る脈波測定装置を例示する側面図である。
図3図1の脈波測定システムに含まれる脈波測定装置の分解図である。
図4】実施形態1の脈波測定システムの制御ブロック図である。
図5】ベルト長を変更した場合の脈波の出力電圧の平均値を示す図である。
図6】測定される脈波と、脈波から算出される加速度脈波の例を示すグラフである。
図7】一般的な加速度脈波の変曲点の説明図である。
図8】脈波センサに付加される圧力の変化に起因する、加速度脈波の変化を示すグラフである。
図9】脈波の出力レベルの平均値の説明図である。
図10】平均出力レベルの電圧値に応じた、加速度脈波の変曲点を示す図である。
図11】脈波計測範囲内にある押圧力変化での信号バラつきをまとめた図である。
図12】脈波測定用圧量調整の詳細フローチャートである。
図13】脈波測定の全体フローチャートである。
図14】脈波測定装置に含まれる脈波センサの圧力検出面側の正面図である。
図15図14の脈波センサの断面図である。
図16図14の脈波センサに含まれるひずみゲージを例示する平面図である。
図17図16のひずみゲージの断面図である。
図18】実施形態2の脈波測定装置のヘッド部の断面図である。
図19】実施形態3の脈波測定装置の全体ブロック図である。
図20】実施形態4の脈波測定装置の全体ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
〔実施形態1〕
まず、図1図2図3を用いて、実施形態1に係る脈波測定システム1000について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る脈波測定システム1000の全体図である。図2は、第1実施形態に係る脈波測定装置1を例示する側面図である。図3は、図1の脈波測定システム1000に含まれる脈波測定装置1の分解図である。
【0013】
図1に示すように、実施形態1に係る脈波測定システム1000は、脈波測定装置1と、該脈波測定装置1と通信可能な情報処理装置5とを備える。
【0014】
脈波測定装置1は、例えば、脈波センサ10が被験者の橈骨動脈の近くに配置されるように、被験者の手首に装着される、バイタルセンサである。脈波は、心臓が血液を送り出すことに伴い発生する血管の容積変化を波形としてとらえたもので、脈波測定装置1は、血管の容積変化をモニターすることができる。
【0015】
(実施形態1の脈波測定装置の構成)
図1図2図3を参照すると、脈波測定装置1は、被験者に装着可能な腕時計型のウェアラブルデバイスであり、主に、脈波センサ10と、センサ固定部20と、ベルト80とを有している。なお、図2の矢印Nは、脈波センサ10の検出面(図2では下面)の法線方向を示している。
【0016】
脈波センサ10は、ひずみセンサであって、センサ固定部20の一方側(被験者側)に固定されている。具体的には、例えば、脈波センサ10の裏面側には、複数のねじ孔10yが設けられている。また、例えば、センサ固定部20には、ねじが挿入される複数の挿入孔20yがセンサ固定部20を貫通するように設けられている。例えば、2本のねじ90が各挿入孔20yに挿入され、先端部が各挿入孔20yから突出して各ねじ孔10yと螺合され、脈波センサ10がセンサ固定部20の一方側に固定される。センサ固定部20の一方側に、脈波センサ10を位置決めする円筒状等の位置決め孔を設けてもよい。
【0017】
脈波センサ10の側面に、脈波センサ10の内部から電気信号を取り出すためのケーブルが通る貫通孔10xを設けてもよい。貫通孔10xにケーブルを通すことで、脈波センサ10で検出した信号を外部の回路と有線で接続することができる。例えば、センサ固定部20に切り欠き20xが設けられ、貫通孔10xは切り欠き20x内に露出する。
【0018】
ベルト80は、調整部であり、脈波センサ10及びセンサ固定部20を被験者の手首等に装着するための帯状体であり、被験者の手首等に外側から巻き付け可能に構成されている。ベルト80は、例えば、樹脂、ゴム、布等により形成され、可撓性を有する。
【0019】
ベルト80の一端は、センサ固定部20の一端側に一軸で揺動自在に連結され、ベルト80の他端は、センサ固定部20の他端側に一軸で揺動自在に連結されている。詳細には、ベルト80の一端は、ベルト固定部30に設けられた溝に挿入されて、ベルト固定部30に固定されている。ベルト固定部30のセンサ固定部20側の端部には、ベルト80の幅方向の両側に突起する突起部30aが設けられている。突起部30aはセンサ固定部20に設けられた取付部20aの貫通孔に挿入されている。
【0020】
これにより、図2に示すように、センサ固定部20と、ベルト80の一端が固定されたベルト固定部30とは、UA1を軸とし、矢印方向に一軸で揺動自在に連結される。ベルト固定部30とベルト80とは、一体に動く。つまり、軸UA1は、ベルト80の一端側が揺動する際の軸となる。
【0021】
ベルト80の他端は、ベルト挿入部40に設けられた貫通孔に挿入されている。ベルト挿入部40のセンサ固定部20側の端部には、ベルト80の幅方向の両側に突起する突起部40aが設けられている。突起部40aはセンサ固定部20に設けられた取付部20bの貫通孔に挿入されている。つまり、ベルト80の他端は、ベルト挿入部40を介して、センサ固定部20の他端側に軸UA2で揺動自在に連結されている。
【0022】
これにより、センサ固定部20と、ベルト80の他端が挿入されたベルト挿入部40とは、UA2を軸とし、矢印方向に一軸で揺動自在に連結される。ベルト挿入部40とベルト80とは、一体に動く。つまり、軸UA2は、ベルト80の他端側が揺動する際の軸となる。図2の矢印方向は、ベルト80を締め付ける強さを強めたり弱めたりする方向である。
【0023】
ベルト挿入部40の貫通孔に挿入されたベルト80の他端は、ベルト挿入部40の貫通孔を通り抜けて、ベルト80のベルト挿入部40に挿入されていない部分の外周面に、例えば、面ファスナー等により、取り外し自在に接続可能である。ベルト80の長手方向において、ベルト80の他端を接続する位置を変えることにより、脈波測定装置1を被験者に装着する際の締め付け強さを変えることができる。
【0024】
脈波測定装置1は、被験者に装着する際に、センサ固定部20とベルト80が軸UA1及び軸UA2を軸に揺動するため、脈波測定装置1の全体が被験者の手首等の形状に追従することができる。その際に、ベルト80の締め付け強さを変えることにより、脈波センサ10をN方向に押圧できるため、被験者と脈波センサ10との密着性を調整可能である。これにより、脈波センサ10の起歪体12側を被験者の橈骨動脈に密着させることができる。本実施形態では、センサ固定部20は、ベルト80の締め付けに起因して、脈波センサ10の手首へ押圧する押圧手段となる。
【0025】
また、図2においては、脈波センサ10の下面が脈波を検出する検出面となるが、軸UA1及び軸UA2は、脈波センサ10の検出面よりも上方、すなわち、脈波センサ10の検出面に対して被験者とは反対側に位置している。なお、脈波センサ10の検出面とは、脈波センサ10において被験者と接する面であり、具体的には、後述の起歪体12の被験者側の面である。
【0026】
軸UA1及び軸UA2が脈波センサ10の検出面に対して被験者とは反対側に位置していることにより、ベルト80を締め付ける強さを変えることで、脈波センサ10の検出面を被験者の手首に容易に押圧可能となる。特に、脈波センサ10の下面が、センサ固定部20から被験者側に突出していることが好ましい。これにより、ベルト80を締め付ける強さを変えることで、脈波センサ10の検出面を被験者の手首に一層容易に押圧可能となる。
【0027】
軸UA1及び軸UA2は、ベルト80を図2の左右方向に伸ばした際のベルト80の長手方向に対して直交する方向(図2の奥行方向)に延伸することが好ましい。
【0028】
また、図2において、すなわち側面視において、軸UA1の中心と軸UA2の中心を結ぶ直線は、脈波センサ10の検出面と平行であることが好ましい。この場合、軸UA1の中心と軸UA2の中心を結ぶ直線と、脈波センサ10の検出面との距離は、例えば、2mm以上8mm以下である。なお、ここでの平行は、2つの直線のなす角度が±5度以内の場合を含む。軸UA1の中心と軸UA2の中心を結ぶ直線が、脈波センサ10の検出面と平行であることで、ベルト80を締めたときに、脈波センサ10の検出面を均等に被験者に押圧することができる。
【0029】
なお、脈波センサ10の検出面が被験者側に突起する湾曲面である場合は、脈波センサ10の検出面において最も被験者に近い先端部の接線を、上記説明の脈波センサ10の検出面と読み替えるものとする。
【0030】
また、図2の側面視において、軸UA1の中心と軸UA2の中心を結ぶ直線の中点と、脈波センサ10の検出面の中点とを結ぶ直線は、軸UA1の中心と軸UA2の中心を結ぶ直線と垂直であることが好ましい。なお、ここでの垂直は、2つの直線のなす角度が90±5度以内の場合を含む。軸UA1の中心と軸UA2の中心を結ぶ直線の中点と、脈波センサ10の検出面の中点とを結ぶ直線が、軸UA1の中心と軸UA2の中心を結ぶ直線と垂直であることで、ベルト80を締めたときに、脈波センサ10の検出面を均等に被験者に押圧することができる。
【0031】
なお、センサ固定部20と脈波センサ10との間に、脈波センサ10を被験者側に付勢する付勢機構を有してもよい。付勢機構は、例えば、ばねのみで構成してもよいし、ばねと、ばねの付勢力を調整する調整部とを含む構成としてもよいし、その他の構成としてもよい。脈波センサ10を被験者側に付勢する付勢機構を有することで、脈波センサ10の検出面を被験者の手首に安定的に押圧可能となる。付勢力を調整可能なバネを有する構成については、図18に示す第2実施形態で詳述する。
【0032】
(制御ブロック)
また、図4を参照して、脈波測定装置1は、制御構成として、脈波センサ10と、制御基板17と、センサ固定部(押圧手段)20と、ベルト(調整部)80と、を有している。さらに、脛骨動脈に対する脈波センサ10の位置を検出する位置検出部90をさらに有していてもよい。
【0033】
脈波センサ10は、筐体100内に、起歪体12と、4つのひずみゲージを有している。制御基板17は、アナログフロントエンド部13と、制御部14と、通信部15と、バッテリー16とを有している。
【0034】
ひずみゲージ11a、11b、11c、11dは抵抗体を有し、被験者の脈波に応じて脈波センサの負荷部123(図14参照)に負荷が加わって梁部122が弾性変形すると、抵抗値が変化する。
【0035】
アナログフロントエンド部(AFE)13は、例えば、ブリッジ回路131、増幅回路132、アナログ/デジタル変換回路(A/D変換回路)133、及びインターフェース134等を備えている。AFE13は、温度補償回路を備えていてもよい。AFE13において、増幅回路132、A/D変換回路133、及びインターフェース134は、出力部αとして機能する。
【0036】
ひずみゲージ11a、11b、11c、11dの全ての端子部である電極114及び115(図16参照)が、AFE13のブリッジ回路131に接続され、フルブリッジが組まれる。これにより、4つのひずみゲージ11a、11b、11c、11dの各抵抗体の抵抗値の変化に対応した電圧(アナログ信号)をブリッジ回路131から出力することができる。
【0037】
このような構成の複数のひずみゲージ11a、11b、11c、11dの抵抗値が変化した場合には、ひずみゲージ11a、11b、11c、11dの位置関係が変化したことにより、密着した被験者の橈骨動脈から脈波情報を検出する、即ち脈波を測定することができる。なお、本実施形態では、脈波センサ10が4つのひずみゲージを有する例を示した。しかしながら、脈波センサ10の有するひずみゲージの数は1個以上であれば、その数は特に限定されない。なお、脈波センサ10が1つのひずみゲージを有している場合、「脈波センサ10の抵抗値」とは、「ひずみゲージの抵抗値」と略同義である。
【0038】
また、脈波測定装置1において、ひずみゲージ11a~11d及び起歪体12を有する脈波センサ10と、制御基板17は、同じ筐体100(図15参照)内に配置されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0039】
AFE13のブリッジ回路131は、ひずみゲージ11a~11dの抵抗体の抵抗値に対応した電圧(アナログ信号)を出力する。ブリッジ回路131から出力された電圧は、増幅回路132で増幅された後、A/D変換回路(A/D変換部)133によりデジタル信号に変換され、制御部14に送られる。AFE13が温度補償回路を備えている場合には、温度補償されたデジタル信号が制御部14に送られる。
【0040】
制御部14は、AFE13から送られたデジタル信号を、通信部15を介して情報処理装置5へ出力する。制御部14は、例えば、マイクロプロセッサや、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の演算部に加えて、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メインメモリ等を含む構成とすることができる。制御部14は、例えば、情報処理装置5からの指示に応じてひずみゲージ11a~11dで抵抗値を取得するように指示したり、ひずみゲージ11a~11dからAFE13を介して出力された抵抗値を取得して送信する等指示したりするように、プログラムされている。制御部14の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPU等の演算部により実行されることによって実現できる。但し、制御部14の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、制御部14は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。
【0041】
通信部15は、脈波測定装置1と情報処理装置5との間の通信を行う。具体的には、通信部15は、ひずみゲージ11a~11dが出力する抵抗値からAFE13で変換されたデジタル信号を、情報処理装置5に送信する。また、脈波測定装置1が情報処理装置5の指示に基づき動作する場合、通信部15は、情報処理装置5から脈波センサ10に対する制御指示を受信する。
【0042】
通信部15の通信方式は特に限定されない。例えば、通信部15は、Wifi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)等、無線または有線LANなどの通信方式を用いてもよい。
【0043】
バッテリー16は、脈波センサ10及び制御基板17の各部に電力を供給する電源である。なお、脈波センサ10はバッテリー16を備える代わりに、外部電源から電力の供給を受けてもよい。
【0044】
また、図4を参照して、情報処理装置5は、通信部51と、制御部52と、記憶部53とを少なくとも有する。また、情報処理装置5は、表示部54及び/又は音声出力部55、および計時部56を有していてもよい。
【0045】
通信部51は、脈波測定装置1の通信部15から発信された、抵抗値からAD変換されたデジタル信号を取得する。また、情報処理装置5が脈波測定装置1に対して駆動/停止等の動作の指示を行う場合、通信部51は、脈波測定装置1に対して制御指示を送信する。
【0046】
表示部54は、制御部52の処理内容及び/又は処理結果に関連する文字や画像等を表示する。表示の態様は特に限定されない。また、情報処理装置5は、表示部54とともに、もしくは表示部54の代わりに、音声出力部55を備えていてもよい。そして、音声出力部55は、制御部52の処理内容および/または処理結果に関連する音声を出力してもよい。表示部54及び音声出力部55は通知部β及び調整指示部として機能する。
【0047】
計時部56は、時間を計測し、必要に応じて、脈波の測定タイミング(例えば、毎時0分、前回計測から所定時間(例えば12時間)経過)等を制御部52に通知する。
【0048】
記憶部53は、情報処理装置5の動作に必要な情報を記憶する。記憶部53は、例えば、臨界点データ531を記憶している。臨界点データ531は、制御部52において、事前調整における圧力調整の要否の比較対象となる出力電圧の閾値を示すデータである。
【0049】
制御部52は、所定期間内平均値算出部521、比較部522、0点調整部523、加速度脈波算出部524、測定タイミング通知部525、及び加速度脈波分析部526を実行可能に有している。さらに、血糖値分析部527を有していてもよい。
【0050】
所定期間内平均値算出部521及び比較部522は、本発明の脈波測定時の圧力調整のための演算機構に相当する。詳しくは、所定期間内平均値算出部521は、被験者が、脈波測定装置1を装着した直後に測定された脈波からAD変換されたデジタル信号の電圧レベルの所定期間における平均値を算出する。
【0051】
比較部522は、デジタル信号の平均値と、閾値となる臨界点とを比較して、平均値が臨界点未満の場合は、表示部54、音声出力部55によって、圧力を強くするように通知する。
【0052】
0点調整部523が、初回使用時に、0点調整を実行する。
【0053】
加速度脈波算出部524は、デジタル信号を二階微分して加速度脈波を算出する。
【0054】
測定タイミング通知部525は、測定タイミングに到達したら、測定を促すように、表示部54、音声出力部55によって通知する。
【0055】
加速度脈波分析部526は、今回測定した加速度脈波や過去に測定した加速度脈波に基づいて、被験者の健康状態を分析する。
【0056】
血糖値分析部527は、必要に応じて、今回測定した加速度脈波や過去に測定した加速度脈波に基づいて、被験者の血糖値を分析する。なお、血糖値分析部527は設けなくてもよい。
【0057】
また、制御部52は、情報処理装置5を統括的に制御する。制御部22は、例えば、CPU、FPGA、ASIC等で実現することができる。また、制御部52はメモリを備えていてもよい。制御部52の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。但し、制御部52の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、制御部52は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。制御部52は、脈波測定装置1から受信したデジタル信号を、臨界点と比較することで圧力調整の要否を判断するとともに、本測定の際の加速度脈波を算出する。以下、図5~13を用いて、制御部52の処理内容について詳細に説明する。
【0058】
(出力電圧とベルト長)
ここで、図5に、ベルト長を変更した場合の脈波の出力電圧の平均値を示す図を示す。
図5に示すように、ベルトの長さが長くなるにつれ、脈波センサ10の肌への押しつけ力が低下し、測定した脈波のデジタル信号の信号レベルが下がる。
【0059】
ただし、手首の太さや、手首の扁平度は人それぞれのため、人によって出力電圧が低下するベルト長さが異なっている。
【0060】
そこで、本発明では、測定された脈波として出力されたデジタル信号の電圧レベルを、出力部αの最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較して、デジタル信号の電圧レベルが範囲未満の場合に、脈波センサ10への押圧力を調整する又は調整を指示する。
【0061】
これにより、装着される人の手首の特性に合わせて、脈波センサ10にかかる圧力を適切に調整することができる。例えば図5の例で、10mVを最大、臨界点を4mVとした場合、被験者Cは、ベルト長が165mmの場合でも、臨界点以上のため、被験者Cは圧力の調整は必要としない。一方、被験者Dは、ベルト長さが、155mmの場合で、臨界点未満のため、ベルト長さが155mm以上の場合に、圧力調整指示を受ける。
【0062】
このように、脈波センサ10にかかる圧力は、脈波センサ10から出力される出力信号レベルそのもので確認できるので、圧力計の様な装置を必要とせず、出力信号のレベルを基に圧力を調整して、出力信号レベルを適正範囲にすることができる。これにより、被験者ごとに異なる腕の太さによる押圧力差や、同一被験者による繰り返し測定等の押圧力変化から起こる信号誤差を抑制できる。
【0063】
ここで、図6に、脈波測定装置で、測定される脈波と、脈波から算出される加速度脈波の例を示すグラフを示す。図6において、(a)は、脈波をAD変換したデジタル出力波形を示し、(b)は、加速度脈波の波形を示す。
【0064】
情報処理装置5の、加速度脈波算出部524は、脈波をAD変換したデジタル信号に対して、ノイズ除去、及び平滑化及び規格化を経て、二階微分をすることで、加速度脈波を算出する。なお、脈波測定装置1で計測し、AD変換されたデジタル脈波は、心拍における指尖容積脈波に相当するため、加速度脈波は、元波形となる尖容積脈波を2回微分した波形に相当する。一般的に、加速度脈波の状態で、脈の状態が分析可能となる。
【0065】
ここで、図7に、一般的な加速度脈波の変曲点の説明図を示す。
【0066】
変曲点a(a波)は、周期内の最初の変曲点であって、収縮初期陽性波と呼ばれ、血管膨張速度の変化率の最大の点を示す。変曲点b(b波)は、周期内の2番目の変曲点であって、収縮初期陰性波と呼ばれ、動脈の伸展性が悪いと浅く(絶対値が小さく)なる。a波とb波は収縮期前方成分であって、血液の駆出によって生ずる駆動圧波を反映したものである。
【0067】
変曲点cは、周期内の3番目の変曲点であって、収縮中期再上昇波と呼ばれ、血管抵抗による反射波である。変曲点dは、周期内の4番目の変曲点であって、収縮後期再下降波と呼ばれ、血管抵抗による反射波の終点である。血管抵抗が高くなると深く(絶対値が大きく)なる。
【0068】
なお、変曲点eは、周期内の5番目の変曲点であって、拡張初期陽性波(e波)とも呼ばれる。変曲点fは、周期内の6番目の変曲点であって、拡張初期陰性波(f波)とも呼ばれる。
【0069】
c波とd波は収縮期後方成分であり、収縮期後方成分は駆動圧波が末梢に伝搬し反射して戻ってきた反射圧波を反映したものである。ここで、一般的に、加齢、動脈硬化、高血圧等により反射波が増大し、収縮期前方成分(a波、b波)に対して、収縮期後方成分(c波、d波)が上昇することが知られている。特に、血管年齢の増加とともに、b波の深さに対して、d波の深さが深くなる。そのため、加速度脈波中の変曲点を分析することで、血管年齢や動脈の状態を把握することができる。
【0070】
このように、加速度脈波を算出して分析するために、前提として、加速度脈波の元波形となる脈波を、適切な条件で測定する必要がある。
【0071】
ここで、図8に、脈波センサ10に付加される圧力の変化に起因する、加速度脈波の変化を示すグラフを示す。詳しくは、図8は、50代男性の同一の被験者に対して、ベルト圧力を変化させて、脈波を測定した場合の加速度脈波を示すグラフである。
【0072】
上述のように実施形態1の脈波測定装置では、ベルト長さを変化させることで、脈波センサの検出面を被験者の手首への押圧力が変化する。そのため図5に示したようにベルト圧力に依存して脈波デジタル信号の波形が変化すると、図8に示すようにデジタル信号から算出される加速度脈波においても、波形指数となるc波、d波、e波の振幅方向位置及び時間が変化する。
【0073】
図8の例では、特にベルト長が165mmの場合は、他のベルト長の場合と比較して、b波とd波の大小関係が逆転してしまっているため、165mmの場合は、脈波測定に対して、圧力が低すぎて適切ではない、といえる。
【0074】
逆に、きつくした場合は、顕著な特別に悪影響はない。そのため、本発明の脈波測定では、数値が明らかにおかしくなる臨界点未満を除外するように、圧力調整を実行する。
【0075】
詳しくは、本発明の制御では、脈波を測定し、AD変換したデジタル信号の電圧レベルの平均値と、予め定められた所定範囲(臨界点)とを比較し、所定範囲未満の場合に、測定は適切ではないとして、脈波センサへの押圧力を強くするように圧力調整を指示する。
【0076】
一例として、図9に、脈波の出力レベルの平均値の説明図を示す。デジタル信号の電圧レベルの平均値は、例えば、心拍数の所定回(例えば、10回(10周期))の平均値、あるいは、所定期間(例えば5秒、10秒等)の、平均値である。本例では、心拍数10回を所定期間として、その出力レベルの平均値が、2.41mVである例を示す。
【0077】
ここで、圧力が適切かどうかの判定の際に比較される電圧レベルの所定の閾値(臨界点)は、出力部αに含まれるA/D変換回路133の最大出力レベルに対して設定される。例えば、予め設定された範囲である臨界点は、出力部αの最大出力レベルに対して、35%以上、より好ましくは、40%以上である。なお、出力部αの上限である最大出力レベルは、起歪体のサイズ等によって変動するが、事前に把握されている。
【0078】
図9の出力レベルの平均値2.41mVは、例えば、出力部αの最大出力レベルが5mVの場合は、48%に相当するため、圧力は適正の範囲になる。
【0079】
一方、図9の出力レベルの平均値2.41mVは、例えば、出力部αでの最大出力レベルが10mVの場合は、24%に相当するため、電圧レベルが予め設定された範囲未満となる。よって、脈波センサ10にかかる圧力は不足しているため、圧力を強く、即ちベルト80を強く締めるようにするように指示をする。
【0080】
ここで、図10に平均出力レベルの電圧値に応じた、加速度脈波の変曲点を示す図を示す。本例では、最大出力レベルを10mVとし、予め定められた範囲である臨界点を4mVである例を示している。
【0081】
上記図8では、一人の被験者に対してベルト長を変化させたが、図10では、被験者2人の、ベルト長さを5回変化させた場合の、脈波測定装置1により取得した脈波に対して二階微分を行い、加速度脈波を得て、それぞれの変曲点のプロットをとった。
【0082】
そして、算出された加速度脈波の最大値を1(a波の値)、最小値を0(b波の値)とした規格化信号のc波、d波、e波、及びf波の値をそれぞれ圧脈波の信号レベルを横軸にプロットすると、図10(a)のように示される。詳しくは、図10(a)は、図8のような規格化平均加速度脈波の各ピーク(c、e)とボトム(b、d、f)が出現した時間(時刻)を、サンプリング周波数=1kHzにて取得した脈波を、再度50Hzでリサンプリングした状態を示している。例えば、図10(a)では、0秒点(原点)はa点から33.3msec分左に相当している。
【0083】
図10(a)によると、規格化信号値において、特に、d波の波高値が臨界値である4.0mV以下で、他の値よりも上方に(大きな値をとるように)ばらついていることがわかる。
【0084】
また、図8に示した変曲点c、d、eおよびfそれぞれが出現した時間(以下、ピーク/ボトム時間と呼称することがある)を、図10(b)に示す。
【0085】
図10(b)によると、ピーク/ボトム時間について、臨界値である4.0mV以下で下方向にばらついている、即ち、時間の減少及び時間シフトが発生していることがわかる。
【0086】
図11は、脈波計測範囲内にある押圧力変化での信号バラつきをまとめた図である。詳しくは、脈波計測範囲内にある押圧力変化での信号バラつきを示し、エラーバーは縦/横軸共にσである。
【0087】
図11に示すように、調整しない場合の、一般的な脈波測定装置(バイタルセンサ)から得られる脈波である生体信号から算出される加速度脈波における各波形指数(変曲点)のバラつきはおおよそ10%前後である。
【0088】
そこで、上述のように、所定期間における脈波信号そのものの電圧の平均値を、臨界点と比較して、図10(a)、(b)のグラフの右側で示すような臨界点以上の場合のみ次工程の本測定へ移行可能とすると、誤差を数%レベルにまで低減できる。これにより、デジタル信号から算出され、分析に用いられる加速度脈波において、変曲点であるa波、b波、c波、d波、e波、f波が適切な強度範囲で出現する。
【0089】
このように、脈波測定装置1を装着した際に、圧力調整として、センサの出力信号レベルを制御することで、測定の際、毎回同等の条件で、血流や反射波速度で測定を行うことができる。これにより、圧力差に起因する測定値のバラつきが抑制されるため、脈波から算出される加速度脈波を用いた健康管理や病気のサイン検知のための解析精度を向上させることができる。
【0090】
(脈波測定用圧力調整と本測定)
ここで、図12図13を参照して、本発明の脈波測定のための事前圧力調整について説明する。図12は、脈波測定用圧力調整方法の詳細フローチャートである。
【0091】
ステップS101で、使用者が手首へ脈波測定装置1を装着して、測定を開始しようとすると、その前に圧力調整が開始される。
【0092】
ステップS102で、脈波測定装置1において脈波を測定して、出力であるデジタル信号を情報処理装置5へ送信する。
【0093】
ステップS103で、情報処理装置5において、脈波のデジタル信号の出力レベルの任意の期間での平均値を算出する。平均値を算出するための、任意の期間は、例えば心拍数10回分、5秒、など予め設定された期間である。
【0094】
ステップS104で、情報処理装置5において、任意の期間での脈波の出力レベルの平均値は臨界点以上かどうか、比較する。
【0095】
S104でNoの場合、即ち、出力レベルの平均値が臨界点未満の場合、ステップS105で、情報処理装置5は、表示部54又は音声出力部55で、圧力調整を指示する。
【0096】
そして、ステップS106で、本実施形態では、手動により、ベルト80の締め付け力を調整することで圧力を調整する。調整が終わったら、本フローを終了し、本測定工程(図13のS204)へ進む。
【0097】
一方、ステップS104で、任意の期間での脈波の出力レベルの平均値は臨界点以上である場合、S107へ進み、表示部54又は音声出力部55で、圧力調整は不要であると通知し、本フローを終了し、本測定工程(図13のS204)へ進む。
【0098】
本制御では、臨界点は出力部αの最大電圧によって予め設定されているため、センサにかかる圧力を、様子を見ながら段階的に調整する必要がなく、調整に要する時間を短縮して、適切な押圧力に調整することができる。よって、誤差を低減することができる。
【0099】
次に、上記圧力調整を含む脈波測定の全体フローについて図13を用いて説明する。図13は、脈波測定の全体フローチャートである。
【0100】
購入後、脈波測定装置1を初めて使用しようとする場合(ステップS201)、ステップS202へ進んで、脈波測定装置1の0点補正を行う。0点補正では、ひずみゲージ11a~11d自体の固体差等に起因する初期誤差を調整するために、装着前に、脈波センサ10の検出面が浮いた状態で、信号を出力し、0を指すように調整する。なお、本発明の脈波測定装置1を、病院やスポーツジム等で貸与する場合は、予め管理者が、0点調整の工程を済ませておくため、測定者は、ステップS203からフローを開始する。
【0101】
0点補正が終わったら、ステップS203へ進み、図12で示した脈波測定のための圧力調整工程へ進む。
【0102】
一方、今回の装着が初めての装着ではない場合で(S201でNo)、装着されていない状態から、被験者に再び装着された場合は、ステップS203で、脈波を測定して、出力であるデジタル信号を情報処理装置5へ送る。
【0103】
ステップS203で上記図12の事前圧力調整(S102~S107)を実施した後、ステップS204へ進み、脈波測定装置1で、脈波を所定期間測定して、情報処理装置5へ送信する。なお、ステップS204は、本測定のため、上述の調整のための測定期間(図12のS102)よりも長くてもよいし、あるいは同じ程度の期間であってもよい。
【0104】
ステップS205で、情報処理装置5は、デジタル信号である脈波を二階微分する等の信号処理を行い、加速度脈波を算出する。
【0105】
ステップS206で、情報処理装置5は、S205で算出した加速度脈波を、記憶しておく。
【0106】
ステップS207で、繰り返し測定する意思がある場合は、測定者は、ベルト80を外さず、そのまま脈波測定装置1の装着状態を維持しておく。
【0107】
ステップS208で、次回のトリガーに到達したら、ステップS209へ進み、再度、脈波測定装置1で、脈波を所定期間測定して、情報処理装置5へ送信する。なお、次回の測定トリガーは、例えば、食時後、所定時間経過(例えば、毎時0分、12時間後、運動後等、次回の測定に適切な機会に到達したタイミングに相当する。あるいは、次回のトリガーとして、測定者の意思により測定したくなったことも含まれる。
【0108】
続いて、ステップS210で、情報処理装置5は、デジタル信号である脈波を二階微分する等の信号処理を行い、加速度脈波を算出する。
【0109】
ステップS211で、情報処理装置5は、S205で算出した加速度脈波と、ステップS210で算出した加速度脈波を比較して、変化を検出する。
【0110】
ステップS212で、必要に応じて、加速度脈波の変化を基に、血糖値状態を推測する。一例として、加速度脈波における変曲点の大小及びタイミングは、血糖値とも相関があることが知られているため、必要に応じて記憶された、加速度脈波の波形と血糖値との相関関係を基に血糖値状態を推測する。
【0111】
そして、ステップS213で、情報処理装置5で、加速度脈波の変化を基にした分析・評価又は血糖値状態の分析・評価結果を表示する。
【0112】
このような制御により、本発明では、出力レベルを用いて圧力調整を実行した後に、本測定として、脈波測定を実行する。即ち、事前圧力調整工程において、出力レベルが範囲外の場合はそもそも本測定に移行しないため、本測定された脈波の信号レベル(デジタル信号)の平均値が、図5の右側のベルト長が長いときのように、低くなるおそれがなくなる。そして、所定期間における出力レベルの平均値が臨界点以上になってから、実際の測定が開始されるため、誤差が発生しやすい臨界点未満は測定対象とせずに、本測定された脈波が適正な範囲となり、誤差を大幅に低減できる。
【0113】
このように、脈波測定装置1を装着した際に、圧力調整として、センサの出力信号レベルを臨界点以上となるように制御することで、測定の際、毎回同等の条件で、脈波の測定を行うことができる。これにより、圧力差に起因する測定値のバラつきが抑制され、加速度脈波や血糖値の解析精度を向上させることができる。
【0114】
<脈波センサの構成>
次に、図14図15を用いて、脈波センサ10の詳細構成について説明する。図14は、脈波センサ10の圧力検出面側の正面図であり、図15は、脈波センサ10の断面図である。図14図15を参照すると、脈波センサ10は、筐体100と、起歪体12と、ひずみゲージ11a~11dとを有している。
【0115】
起歪体12は、基部121と、梁部122と、負荷部123と、延伸部124とを有している。起歪体12は平板状であり、各構成要素は、例えばプレス加工法等により一体に形成されている。起歪体12は、例えば、平面視で4回対称の形状である。負荷部123を除く起歪体12の厚さtは一定である。厚さtの好適な範囲については後述する。
【0116】
なお、図2とは上下逆向きの状態である図15において、便宜上、脈波センサ10において、起歪体12の負荷部123が設けられている側を上側又は一方の側、負荷部23が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の負荷部23が設けられている側の面を一方の面又は上面、負荷部123が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、脈波センサ10は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を起歪体12の上面の法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を起歪体12の上面の法線方向から視た形状を指すものとする。
【0117】
脈波センサ10において、筐体100は起歪体12を保持する部分である。筐体100は中空円柱状であって、一方の面側が塞がれ他の面(検出側の面)が開口されている。筐体100は、例えば、金属や樹脂等から形成できる。筐体100の上面側の開口を塞ぐように、略円板状の起歪体12が接着剤等により固定されている。
【0118】
起歪体12において、基部121は、図14で示す円形の破線よりも外側の円形枠状(リング状)の領域である。なお、円形の破線よりも内側の領域を円形開口部と称する場合がある。つまり、起歪体12の基部121は、円形開口部を備えている。基部121の幅wは、例えば、1mm以上5mm以下である。基部121の内径d(すなわち、円形開口部の直径)の好適な範囲については後述する。
【0119】
梁部122は、基部121の内側を橋渡しするように設けられている。梁部122は、例えば、平面視で十字状に交差する2本の梁を有し、2本の梁の交差する領域は円形開口部の中心を含む。図14の例では、十字を構成する1本の梁がX方向を長手方向とし、十字を構成する他の1本の梁がY方向を長手方向とし、両者は直交している。直交する2本の梁の各々は、基部121の内径d(円形開口部の直径)より内側にあり、かつ可能な限り長いことが好ましい。つまり、各々の梁の長さは、円形開口部の直径と略等しいことが好ましい。梁部122を構成する各々の梁において、交差する領域以外の幅wは一定であり、例えば、1mm以上5mm以下である。幅wが一定であることは必須ではないが、幅wを一定とすることで、ひずみをリニアに検出するできる点で好ましい。
【0120】
負荷部123は、梁部122に設けられている。負荷部123は、例えば、梁部122を構成する2本の梁の交差する領域に設けられる。負荷部123は、梁部122の上面から突起している。梁部122の上面を基準とする負荷部123の突起量は、例えば、0.1mm程度である。梁部122は可撓性を有しており、負荷部123に負荷が加わると弾性変形する。
【0121】
4つの延伸部124は、平面視で基部121の内側から梁部122の方向に延伸する扇形の部分である。各々の延伸部124と梁部122との間には、1mm程度の隙間が設けられている。延伸部124は、脈波センサ10のセンシングには寄与しないため、設けなくてもよい。
【0122】
また、図15に示すように、脈波センサ10の内部に制御基板17が設けられている。制御基板17は、例えばフレキシブル基板であって、図4で示す、AFE13、制御部14、通信部15、バッテリー16等が搭載されている。また、制御基板17と、ひずみゲージ11a~11dとは、電気信号の入出力を行うケーブル(不図示)で接続されている。ケーブルは、例えばシールドケーブル等の線材である。なお、制御基板17は、脈波測定装置1の内部に設けられていればよいため、筐体100の外部に設けられていてもよい。
【0123】
ひずみゲージ11a~11dは、起歪体12に設けられている。ひずみゲージ11a~11dは、例えば、梁部122の下面側に設けることができる。梁部122は平板状であるため、ひずみゲージを容易に貼り付けることができる。ひずみゲージ11a~11dは、1個以上設ければよいが、本実施形態では、4つのひずみゲージ11a~11dを設けている。4つのひずみゲージ11a~11dを設けることで、フルブリッジにより、ひずみを検出することができる。
【0124】
4つのひずみゲージうちの2つのひずみゲージ11b、11dは、X方向を長手方向とする梁の負荷部123に近い側(円形開口部の中心側)に、平面視で負荷部23を挟んで対向するように配置されている。4つのひずみゲージのうちの他の2つのひずみゲージ11a、11cは、Y方向を長手方向とする梁の基部121に近い側に、平面視で負荷部23を挟んで対向するように配置されている。このような配置により、圧縮力と引張力を有効に検出してフルブリッジにより大きな出力を得ることができる。
【0125】
脈波センサ10は、負荷部123が被験者の橈骨動脈に当たるように被験者の腕に固定して使用される。被験者の脈波に応じて負荷部123に負荷が加わって梁部122が弾性変形すると、ひずみゲージ11a~11dの抵抗体の抵抗値が変化する。脈波センサ10は、梁部122の変形に伴なうひずみゲージ11a~11dの抵抗体の抵抗値の変化に基づいて脈波を検出できる。脈波は、例えば、ひずみゲージ11a~11dの電極と接続された測定回路であるAFE13から、周期的な電圧の変化として出力される。
【0126】
[ひずみゲージの構成]
ここで、図16図17を参照してひずみゲージの構成について説明する。図16は、本発明の一実施形態に係るひずみゲージ11aを例示する平面図である。図17は、一実施形態に係るひずみゲージ11aを例示する断面図であり、図16のA-A線に沿う断面を示している。なお、下記では一例としてひずみゲージ11aを用いて構成を説明するが、ひずみゲージ11b、11c、11dも同様の構成である。
【0127】
図16及び図17を参照すると、ひずみゲージ11aは、基材110と、抵抗体111と、配線112、113と、電極114、115と、カバー層116とを有している。なお、図16では、便宜上、カバー層116の外縁のみを破線で示している。なお、カバー層116は、必要に応じて設けることができる。
【0128】
図16に示すひずみゲージ11aは、基材110において、構成要素がない側が、図14に示すX方向に伸びる梁部122に貼り付けられる。この際、基材110の構成要素がない側が接着剤等で梁部122の下面(背面)に貼り付けられる。又、図16の平面視とは、基材110の上面110Uに対する上側から下側への法線方向で対象物を視ることを指すものとする。そして、平面形状とは、前記法線方向で対象物を視たときの、対象物の形状を指すものとする。
【0129】
基材110は、抵抗体111等を形成するためのベース層となる部材である。基材110は可撓性を有する。基材110の厚さは特に限定されないが、例えば、5μm~500μm程度であってよい。なお、起歪体12の外面から受感部へのひずみの伝達性、および、環境変化に対する寸法安定性の観点から考えると、基材110の厚さは5μm~200μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁性の観点から考えると、基材110の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0130】
基材110は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、かつ可撓性を有する部材を指す。
【0131】
基材110が絶縁樹脂フィルムから形成される場合、当該絶縁樹脂フィルムには、フィラーや不純物等が含まれていてもよい。例えば、基材110は、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成されてもよい。
【0132】
基材110の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO、ZrO(YSZも含む)、Si、Si、Al(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO、BaTiO)等の結晶性材料が挙げられる。又、前述の結晶性材料以外に非晶質のガラス等を基材110の材料としてもよい。又、基材110の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。金属を用いる場合、金属製の基材110上に絶縁膜が設けられる。
【0133】
抵抗体111は、基材110の上側に所定のパターンで形成された薄膜である。ひずみゲージ11aにおいて、抵抗体111は、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体111は、基材110の上面110Uに直接形成されてもよいし、基材110の上面110Uに他の層(図17で示す機能層117)を介して形成されてもよい。なお、図16では、便宜上、抵抗体111を濃い梨地模様で示している。
【0134】
抵抗体111は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(図16の例では横方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(図16の例では縦方向)となる。
【0135】
抵抗体111において、図16中、最も上側に位置する細長状部の左側の端部は、上方向に屈曲し、抵抗体111のグリッド幅方向の一方の終端122eに達する。また、図16中、最も下側に位置する細長状部の左側の端部は、下方向に屈曲し、抵抗体111のグリッド方向の他方の終端122eに達する。各々の終端122e及び122eは、配線112、113を介して、電極114、115と電気的に接続されている。言い換えれば、配線112、113は、抵抗体111のグリッド幅方向の各々の終端122e及び122eと各々の電極114、115とを電気的に接続している。
【0136】
抵抗体111は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体111は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0137】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、及びCrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0138】
抵抗体111の厚さは特に限定されないが、例えば、0.05μm~2μm程度であってよい。特に、抵抗体111の厚さが0.1μm以上である場合、抵抗体111を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する。また、抵抗体111の厚さが1μm以下である場合、抵抗体111を構成する膜の内部応力に起因する、(i)膜のクラックおよび(ii)膜の基材110からの反り、が低減される。
【0139】
横感度を生じ難くすることと、断線対策とを考慮すると、抵抗体111の幅は10μm以上100μm以下であることが好ましい。更に言えば、抵抗体111の幅は10μm以上70μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であるとより好ましい。
【0140】
例えば、抵抗体111がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上させることができる。又例えば、抵抗体111がCr混相膜である場合、抵抗体111がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ11aのゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、「主成分」とは、抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占める成分のことを意味する。ゲージ特性を向上させるという観点から考えると、抵抗体111はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。更に言えば、同観点から考えると、抵抗体111はα-Crを90重量%以上含むことがより好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0141】
又、抵抗体111がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNが20重量%以下であることで、ひずみゲージ11aのゲージ率の低下を抑制することができる。
【0142】
又、Cr混相膜におけるCrNとCrNとの比率は、CrNとCrNの重量の合計に対し、CrNの割合が80重量%以上90重量%未満となるようにすることが好ましい。更に言えば、同比率は、CrNとCrNの重量の合計に対し、CrNの割合が90重量%以上95重量%未満となるようにすることがより好ましい。CrNは半導体的な性質を有する。そのため、前述のCrNの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、前述のCrNの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで抵抗体111のセラミックス化を低減することができるため、抵抗体111の脆性破壊が起こりにくくすることができる。
【0143】
一方で、CrNは化学的に安定であるという利点も有する。Cr混相膜にCrNをより多く含むことで、不安定なNが発生する可能性を低減することができるため、安定なひずみゲージを得ることができる。ここで「不安定なN」とは、Cr混相膜の膜中に存在し得る、微量のN2もしくは原子状のNのことを意味する。これらの不安定なNは、外的環境(例えば高温環境)によっては膜外へ抜け出ることがある。不安定なNが膜外へ抜け出るときに、Cr混相膜の膜応力が変化し得る。
【0144】
配線112、113は、基材110上に設けられている。配線112、113は、抵抗体111及び電極114、115と電気的に接続されている。配線112、113は、直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線112、113は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、図16では、便宜上、配線112、113を抵抗体111よりも薄い梨地模様で示している。
【0145】
電極114、115は、基材110上に設けられている。電極114、115は、配線112、113を介して抵抗体111と電気的に接続されている。電極114、115は、平面視において、配線112、113よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極114、115は、ひずみにより生じる抵抗体111の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極である。電極114、115には、例えば外部接続用のリード線(不図示)が接合される。電極114、115の上面に、銅等の抵抗の低い金属層、または、金等のはんだ付け性が良好な金属層を積層してもよい。抵抗体111と配線112、113と電極114、115とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。なお、図16では、便宜上、電極114、115を配線112、113と同じ梨地模様で示している。
【0146】
カバー層116は、必要に応じて、基材110上に設けられる。カバー層116は、基材110の上面110Uに、抵抗体111及び配線112、113を被覆し電極114、115を露出するように設けられる。カバー層116の材料としては、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、カバー層116は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層116の厚さは、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。カバー層116を設けることで、抵抗体111に機械的な損傷等が生じることを抑制することができる。又、カバー層116を設けることで、抵抗体111を湿気等から保護することができる。
【0147】
ひずみゲージ11aにおいて、抵抗体111の材料としてCr混相膜を用いた場合、高感度化かつ、小型化を実現することができる。例えば、従来のひずみゲージの出力が0.04mV/2V程度であったのに対して、抵抗体111の材料としてCr混相膜を用いた場合は0.3mV/2V以上の出力を得ることができる。また、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、抵抗体111の材料としてCr混相膜を用いた場合の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化することができる。
【0148】
したがって、抵抗体111の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ11aは、起歪体12の狭いスペースでも後付けできる、ウェアラブルデバイスである脈波測定装置1内の脈波センサ10に好適に用いることができる。また、抵抗体111の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ11aは、従来のひずみゲージよりも高抵抗である。したがって、バッテリー16として電池でひずみゲージ11aを駆動する場合に、低消費電力化が可能となるため、電池寿命を長くし、より長く、あるいは繰り返し、測定者の脈波を測定することができる。
【0149】
機能層117の平面形状は、例えば抵抗体111、配線112、113、及び電極114、115の平面形状と略同一にパターニングされてよい。図17の構成では、配線等の構成要素が形成された金属層の下層に機能層117を設けることにより、金属層の結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層を作製することができる。その結果、ひずみゲージ11aにおいて、ゲージ特性の安定性が向上する。又は、機能層を構成する材料が金属層に拡散することにより、ひずみゲージ11aにおいて、ゲージ特性が向上する。
【0150】
(ひずみゲージの他の積層構造)
なお、図17では、抵抗体111、配線112、113、及び電極114、115の下地層として機能層117を設けた場合の断面形状を示しているが、機能層117は設けなくてもよい。
【0151】
<実施形態2>
上述の構成では、脈波測定装置では、ベルト80の長さを調整することで、脈波センサの肌に対する押圧力を調整したが、他の構成によって、押圧力を調整してもよい。
【0152】
図18を用いて、脈波測定装置の変形例について説明する。図18は、実施形態2の脈波測定装置1Aのヘッド部Hの断面図である。
【0153】
図17に示すように、本変形例に係る脈波測定装置1Aのヘッド部Hは、例えば、脈波センサ10と、箱状のセンサ固定部201と、ベルト固定部301、302と、付勢力調整機構60とを有している。脈波センサ10は、実施形態1と同様の構成である。
【0154】
センサ固定部201は、脈波センサ10の側面及び上面を固定し、付勢力調整機構60からの押圧力を受けて、脈波センサ10を使用者の手首側に押す押圧手段となる。
【0155】
付勢力調整機構60は、調整部であり、上面昇降板61と、円環筒状の支持板62と、バネ63とを有している。バネ63は、例えばコイルばねであり、センサ固定部201の上面に固定されている。付勢力調整機構60では、上面昇降板61を、支持板62に対して昇降させることで、バネ63によって、センサ固定部201を介して脈波センサ10をN方向に押し込む力を調整することができる。
【0156】
付勢力調整機構60の一例として、支持板62には上下方向の延伸するギザギザ状の係合突起が設けられ、上面昇降板61は被験者の押し込みにより押し込んだ分だけ降下し、その位置で止まる。そのため、押し込み量に応じて、バネ63によるセンサ固定部201への付勢力が変化する。あるいは、上面昇降板61は、支持板62と螺合係合しており、被験者が、上面昇降板61を支持板62に対して回転させることにより、上面昇降板61を回転量の分だけ降下させ、その位置で停止させることで、付勢力を変化させてもよい。
【0157】
このように、本実施形態では、上面昇降板61の高さを変更することで、バネ63によって被験者側に付勢する圧力を変更可能である。そのため、被験者の橈骨動脈に適度な値の圧力を調整してかけることができる。その結果、脈波測定装置1Aでは、被験者と脈波センサ10との良好な密着性が得られ、脈波の測定精度を向上できる。
【0158】
本実施形態において、脈波測定装置1Aを装着した際に、センサの出力信号レベルを臨界点以上となるように通知し、付勢力調整機構60により圧力を制御することで、測定の際、毎回同等の条件で、脈波の測定を行うことができる。これにより、圧力差に起因する測定値のバラつきが抑制され、加速度脈波や血糖値の解析精度を向上させることができる。
【0159】
<実施形態3>
図19は、実施形態3の脈波測定装置1Bの全体ブロック図である。
【0160】
上記実施形態1では、比較等の演算機能を情報処理装置側で実行したが、脈波測定装置1Bの内部で演算を行い、調整を指示してもよい。この場合、脈波測定装置は、内部で演算機能が実行可能であるため、情報処理装置と通信しなくてもよい。
【0161】
本例では、脈波測定装置1Bの制御部14Bは、所定期間内平均値算出部141、比較部142、0点調整部143、加速度脈波算出部144、測定タイミング通知部145、及び加速度脈波分析部146等を実行可能に有している。また、制御基板17Bには、記憶部18と通知部19が設けられている。通知部19は、例えば、音声出力部、表示部、又は発光手段等で構成され、圧力調整を指示する調整指示部としても機能する。
【0162】
本実施形態では、脈波測定装置1B内部で、測定された脈波として出力されたデジタル信号の電圧レベルを、出力部の最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較して、デジタル信号の電圧レベルが範囲未満の場合に、通知部19によって、脈波センサ10への押圧力の調整を指示する。そして、使用者はベルト80の長さ又は付勢力調整機構60の上面昇降板61の位置を調整する。
【0163】
そのため、被験者ごとに異なる腕の太さによる押圧力差等があっても、調整に要する時間を短縮して、適切な押圧力に調整し、誤差を低減することができる。
【0164】
なお、図19では、すべての演算機能を脈波測定装置1B側に設け、脈波測定装置1B単体で完結する構成を示したが、本構成でも、情報処理装置と通信可能な構成であってもよく、図19の制御部14Bの一部の機能、例えば、処理量が多い、加速度脈波算出部144や、加速度脈波分析部146の機能を情報処理装置側に設けてもよい。
【0165】
<実施形態4>
図20は、実施形態4の脈波測定装置1Cの全体ブロック図である。本実施形態では、脈波測定装置1Cは、自動調整部29を有し、自動調整機能を有している。そのため、脈波測定装置1Cの制御部14Cの内部で演算を行い、調整を行う。本実施形態では、自動を前提としているため、図18のような付勢力調整機構60によって圧力を調整可能な構成であると好適である。
【0166】
本実施形態では、脈波測定装置1C内部で、測定された脈波として出力されたデジタル信号の電圧レベルを、出力部αの最大電圧レベルに対して予め設定された範囲と比較して、デジタル信号の電圧レベルが範囲未満の場合に、脈波センサ10への押圧力を自動調整する。例えば、自動調整として、上面昇降板61を自動で昇降させて、圧力を自動で調整する。
【0167】
そのため、被験者ごとに異なる腕の太さによる押圧力差等があっても、調整に要する時間を短縮して、適切な押圧力に調整し、誤差を低減することができる。
【0168】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0169】
1、1A、1B、1C 脈波測定装置、 5 情報処理装置、 10 脈波センサ、 11a、11b、11c、11d ひずみゲージ、 12 起歪体、 13 AFE、 20、201 センサ固定部(押圧手段)、 60 付勢力調整機構(調整部)、 80 ベルト(調整部)、 131 ブリッジ回路、 132 増幅回路、 133 A/D変換回路(A/D変換部)、 1000 脈波測定システム、 α 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12
図13
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図15
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図17
図18
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