(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061085
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】接合継手
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240425BHJP
C22C 38/22 20060101ALI20240425BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20240425BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20240425BHJP
B23K 20/12 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/22
C22C38/54
C22C21/02
B23K20/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168795
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】加田 修
(72)【発明者】
【氏名】松井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】成宮 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】新貝 康晴
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167BF02
4E167BF12
4E167BF13
4E167BF14
4E167BF18
(57)【要約】
【課題】優れた強度を有する接合継手を提供する。
【解決手段】本実施形態の接合継手1は、鋼部10と、アルミニウム合金部20と、鋼部10とアルミニウム合金部20との間に形成されている拡散層30とを備える。拡散層30は、アルミニウム合金部20と隣接し、鋼部10でのFe含有量を100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域32を含み、拡散層30の厚さ方向にグロー放電発光分析を実施して得られたアルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さが19.5~25.0μmである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部と、
アルミニウム合金部と、
前記鋼部と前記アルミニウム合金部との間に形成されている拡散層とを備え、
前記鋼部は、
化学組成が、質量%で、
C:0.15~0.50%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.20~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.50~1.50%、
Mo:0.01~0.30%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.020%以下、及び、
O:0.0050%以下、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記アルミニウム合金部は、
化学組成が、質量%で、
Cu:0.80~1.30%、
Si:11.00~13.00%、
Mg:0.70~1.30%、
Ni:0.80~1.50%、
Zn:0.15%以下、
Fe:0.80%以下、
Mn:0.15%以下、
Ti:0.20%以下、及び、
Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなり、
前記拡散層は、
前記アルミニウム合金部と隣接し、前記鋼部でのFe含有量を100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域を含み、
前記拡散層の厚さ方向にグロー放電発光分析を実施して得られた前記アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが19.5~25.0μmである、
接合継手。
【請求項2】
鋼部と、
アルミニウム合金部と、
前記鋼部と前記アルミニウム合金部との間に形成されている拡散層とを備え、
前記鋼部は、
化学組成が、質量%で、
C:0.15~0.50%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.20~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.50~1.50%、
Mo:0.01~0.30%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.020%以下、及び、
O:0.0050%以下、を含有し、
さらに、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記アルミニウム合金部は、
化学組成が、質量%で、
Cu:0.80~1.30%、
Si:11.00~13.00%、
Mg:0.70~1.30%、
Ni:0.80~1.50%、
Zn:0.15%以下、
Fe:0.80%以下、
Mn:0.15%以下、
Ti:0.20%以下、及び、
Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなり、
前記拡散層は、
前記アルミニウム合金部と隣接し、前記鋼部でのFe含有量を100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域を含み、
前記拡散層の厚さ方向にグロー放電発光分析を実施して得られた前記アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが19.5~25.0μmである、
接合継手。
[第1群]
Cu:0.40%以下、
Ni:0.40%以下、
Sn:0.100%以下、
Ti:0.050%以下、
Nb:0.050%以下、及び、
B:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
【請求項3】
請求項2に記載の接合継手であって、
前記鋼部は、第1群を含有する、
接合継手。
【請求項4】
請求項2に記載の接合継手であって、
前記鋼部は、第2群を含有する、
接合継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合継手に関し、さらに詳しくは、鋼材と、アルミニウム合金材とが接合された、接合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業機械等に利用される機械構造用部品では、特定部位に強度が求められ、全体としては軽量化が求められる場合がある。このような要求を満たすために、強度が要求される部分を鋼材とし、全体の軽量化を図るために他の部分をアルミニウム合金材とした接合継手が提案されている。このような接合継手は例えば、自動車や産業機械等に利用されるエンジン内のピストン等に利用される。具体的には、強度が求められるピストン上部を鋼材とし、全体の軽量化を図るために、ピストン下部をアルミニウム合金材とする。この場合、軽量化を図りつつ、優れた強度も得ることができる。
【0003】
このような異種合金材からなる接合継手では、接合部分の強度の向上が求められる。そこで、このような接合継手の接合部分の改善が、特開2003-33885号公報(特許文献1)で提案されている。
【0004】
特許文献1に開示された接合構造体は、鋼からなる第1部材とアルミニウム合金からなる第2部材とを接合させている。そして、第1部材と第2部材との接合界面に生成する反応生成物層の厚さを0.5μm以下としている。第1部材(鋼)と第2部材(アルミニウム合金材)との接合部分に反応生成物層が形成される。反応生成物層は金属間化合物からなり、脆い。そのため、接合部分である反応生成物層を薄くする。これにより、金属間化合物を起点とした亀裂が発生する確率を低減することができ、接合構造体において、十分な強度が確保できる、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、鋼材とアルミニウム合金材との接合継手において、接合部分を薄くしても、必ずしも十分な強度が得られない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、優れた強度を有する接合継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による接合継手は、
鋼部と、
アルミニウム合金部と、
前記鋼部と前記アルミニウム合金部との間に形成されている拡散層とを備え、
前記鋼部は、
化学組成が、質量%で、
C:0.15~0.50%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.20~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.50~1.50%、
Mo:0.01~0.30%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.020%以下、及び、
O:0.0050%以下、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記アルミニウム合金部は、
化学組成が、質量%で、
Cu:0.80~1.30%、
Si:11.00~13.00%、
Mg:0.70~1.30%、
Ni:0.80~1.50%、
Zn:0.15%以下、
Fe:0.80%以下、
Mn:0.15%以下、
Ti:0.20%以下、及び、
Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなり、
前記拡散層は、
前記アルミニウム合金部と隣接し、前記鋼部でのFe含有量を100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域を含み、
前記拡散層の厚さ方向にグロー放電発光分析を実施して得られた前記アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが19.5~25.0μmである。
【0009】
本発明による接合継手は、
鋼部と、
アルミニウム合金部と、
前記鋼部と前記アルミニウム合金部との間に形成されている拡散層とを備え、
前記鋼部は、
化学組成が、質量%で、
C:0.15~0.50%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.20~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.50~1.50%、
Mo:0.01~0.30%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.020%以下、及び、
O:0.0050%以下、を含有し、
さらに、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記アルミニウム合金部は、
化学組成が、質量%で、
Cu:0.80~1.30%、
Si:11.00~13.00%、
Mg:0.70~1.30%、
Ni:0.80~1.50%、
Zn:0.15%以下、
Fe:0.80%以下、
Mn:0.15%以下、
Ti:0.20%以下、及び、
Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなり、
前記拡散層は、
前記アルミニウム合金部と隣接し、前記鋼部でのFe含有量を100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域を含み、
前記拡散層の厚さ方向にグロー放電発光分析を実施して得られた前記アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが19.5~25.0μmである。
[第1群]
Cu:0.40%以下、
Ni:0.40%以下、
Sn:0.100%以下、
Ti:0.050%以下、
Nb:0.050%以下、及び、
B:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
【発明の効果】
【0010】
本発明の接合継手は、優れた強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態による接合継手の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の接合継手中の拡散層を含む部分の厚さ方向(接合継手の軸方向)にGDS分析を実施して得られた、厚さ方向の距離と、Fe濃度及びAl濃度との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、拡散層における、厚さ方向(接合継手の軸方向)の距離(μm)と、Fe含有量比率(%)との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、接合継手の引張強さ(MPa)と、アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さ(μm)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、優れた強度を有する接合継手について、検討を行った。その結果、次の知見を得た。
【0013】
特許文献1でも指摘されているように、鋼材とアルミニウム合金材との接合継手において、接合部分が金属間化合物からなる場合、接合部分の強度が低くなる。したがって、本発明者らは、接合部分が金属間化合物で構成されるのではなく、FeとAlとが互いに拡散して形成される構成とすれば、接合継手の強度が高まる可能性があると考えた。
【0014】
そこで、上記観点から検討した結果、接合継手の鋼部が質量%で、C:0.15~0.50%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.20~1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.50~1.50%、Mo:0.01~0.30%、Al:0.005~0.060%、N:0.020%以下、及び、O:0.0050%以下、を含有し、任意元素を含有する場合はさらに、上述の第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有し、アルミニウム合金部が質量%で、Cu:0.80~1.30%、Si:11.00~13.00%、Mg:0.70~1.30%、Ni:0.80~1.50%、Zn:0.15%以下、Fe:0.80%以下、Mn:0.15%以下、Ti:0.20%以下、及び、Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなる化学組成を有していれば、接合部分では、Fe含有量が鋼部からアルミニウム合金部に向かって徐々に低下し、Al含有量が鋼部からアルミニウム合金部側に向かって徐々に高まる構成となり、接合部分が、金属間化合物ではなく、Fe及びAlが互いに拡散して形成される拡散層とすることができることを見出した。
【0015】
本発明者らはさらに、拡散層の厚さに注目した。特許文献1では、接合部分をなるべく薄くすることにより、強度の向上を試みている。しかしながら、上述の化学組成の鋼部及びアルミニウム合金部と、上述の拡散層とで構成される接合継手の場合、拡散層のうち、アルミニウム合金部と隣接し、鋼部でのFe含有量を質量%で100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが、拡散層の強度に特に影響することが判明した。そこで、グロー放電発光分析(GDS:Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)によりアルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さを測定し、アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さと接合継手の強度との関係を調査した。その結果、アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが19.5~25.0μmであれば、接合継手において、十分な強度が得られることを見出した。
【0016】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の接合継手は、以下の構成を有する。
【0017】
[1]
鋼部と、
アルミニウム合金部と、
前記鋼部と前記アルミニウム合金部との間に形成されている拡散層とを備え、
前記鋼部は、
化学組成が、質量%で、
C:0.15~0.50%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.20~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.50~1.50%、
Mo:0.01~0.30%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.020%以下、及び、
O:0.0050%以下、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記アルミニウム合金部は、
化学組成が、質量%で、
Cu:0.80~1.30%、
Si:11.00~13.00%、
Mg:0.70~1.30%、
Ni:0.80~1.50%、
Zn:0.15%以下、
Fe:0.80%以下、
Mn:0.15%以下、
Ti:0.20%以下、及び、
Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなり、
前記拡散層は、
前記アルミニウム合金部と隣接し、前記鋼部でのFe含有量を100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域を含み、
前記拡散層の厚さ方向にグロー放電発光分析を実施して得られた前記アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが19.5~25.0μmである、
接合継手。
【0018】
[2]
鋼部と、
アルミニウム合金部と、
前記鋼部と前記アルミニウム合金部との間に形成されている拡散層とを備え、
前記鋼部は、
化学組成が、質量%で、
C:0.15~0.50%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.20~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.50~1.50%、
Mo:0.01~0.30%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.020%以下、及び、
O:0.0050%以下、を含有し、
さらに、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記アルミニウム合金部は、
化学組成が、質量%で、
Cu:0.80~1.30%、
Si:11.00~13.00%、
Mg:0.70~1.30%、
Ni:0.80~1.50%、
Zn:0.15%以下、
Fe:0.80%以下、
Mn:0.15%以下、
Ti:0.20%以下、及び、
Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなり、
前記拡散層は、
前記アルミニウム合金部と隣接し、前記鋼部でのFe含有量を100%とした場合のFe含有量比率が1.0~3.0%であるアルミニウム合金部隣接拡散領域を含み、
前記拡散層の厚さ方向にグロー放電発光分析を実施して得られた前記アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さが19.5~25.0μmである、
接合継手。
[第1群]
Cu:0.40%以下、
Ni:0.40%以下、
Sn:0.100%以下、
Ti:0.050%以下、
Nb:0.050%以下、及び、
B:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
【0019】
[3]
[2]に記載の接合継手であって、
前記鋼部は、第1群を含有する、
接合継手。
【0020】
[4]
[2]又は[3]に記載の接合継手であって、
前記鋼部は、第2群を含有する、
接合継手。
【0021】
以下、本実施形態による接合継手について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0022】
[接合継手の構成]
図1は、本実施形態による接合継手の一例を示す斜視図である。
図1を参照して、接合継手1は、鋼部10と、アルミニウム合金部20と、拡散層30とを備える。拡散層30は、鋼部10とアルミニウム合金部20との間に配置されている。拡散層30は、鋼部10と、アルミニウム合金部20との接合部分に相当する。以下、鋼部10、アルミニウム合金部20、及び、拡散層30について説明する。
【0023】
[鋼部10]
鋼部10の化学組成は、質量%で、C:0.15~0.50%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.20~1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.50~1.50%、Mo:0.01~0.30%、Al:0.005~0.060%、N:0.020%以下、及び、O:0.0050%以下、を含有し、残部はFe及び不純物からなる。
【0024】
炭素(C)は鋼部10の強度を高める。C含有量の好ましい下限は0.16%であり、さらに好ましくは0.17%である。C含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.46%である。
【0025】
シリコン(Si)は鋼の製造工程の製鋼工程において、鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼部10の強度を高める。Si含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Si含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
【0026】
マンガン(Mn)は鋼部10の強度を高める。Mn含有量の好ましい下限は0.25%であり、さらに好ましくは0.30%である。Mn含有量の好ましい上限は1.20%であり、さらに好ましくは0.90%である。
【0027】
りん(P)は不純物である。Pは粒界に偏析して鋼部10の加工性を低下する。P含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましいが、P含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、P含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0028】
硫黄(S)は不純物である。Sは粒界に偏析して、又は、Mn硫化物を生成して、鋼部10の加工性を低下する。S含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。S含有量はなるべく低い方が好ましいが、S含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、S含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0029】
クロム(Cr)は固溶して鋼部10の強度を高める。Cr含有量の好ましい下限は0.55%であり、さらに好ましくは0.60%である。Cr含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.30%である。
【0030】
モリブデン(Mo)は固溶して、又は、析出物を形成して、鋼部10の強度を高める。Mo含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Mo含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
【0031】
アルミニウム(Al)は鋼の製造工程の製鋼工程において、鋼を脱酸する。Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。Al含有量の好ましい上限は0.050%であり、さらに好ましくは0.040%である。
【0032】
窒素(N)は不純物である。Nは鋼部10の加工性を低下する。N含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。N含有量はなるべく低い方が好ましいが、N含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、N含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0033】
酸素(O)は不純物である。Oは酸化物を形成して、鋼部10の強度を低下する。O含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%である。O含有量はなるべく低い方が好ましいが、O含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、O含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
【0034】
鋼部10の残部はFe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼部10の素材である鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図せずに含有されるものであり、本実施形態による鋼部10に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0035】
鋼部10の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[第1群]
Cu:0.40%以下、
Ni:0.40%以下、
Sn:0.100%以下、
Ti:0.050%以下、
Nb:0.050%以下、及び、
B:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
【0036】
第1群である銅(Cu)、ニッケル(Ni)、すず(Sn)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、これらの各元素の含有量は0%であってもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、鋼部10の強度を高める。したがって、Cu含有量は0~0.40%であり、含有される場合、0.40%以下である。Ni含有量は0~0.40%であり、含有される場合、0.40%以下である。Sn含有量は0~0.100%であり、含有される場合、0.100%以下である。Ti含有量は0~0.050%であり、含有される場合、0.050%以下である。Nb含有量は0~0.050%であり、含有される場合、0.050%以下である。B含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、0.0050%以下である。
【0037】
Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。Cu含有量の好ましい上限は0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。Ni含有量の好ましい上限は0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Sn含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。Sn含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。Ti含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。
Nb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。Nb含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。
B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
【0038】
第2群であるカルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、これらの各元素の含有量は0%であってもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、硫化物を微細化して、鋼部の加工性を高める。したがって、Ca含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、0.0050%以下である。Mg含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、0.0050%以下である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
Mg含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
【0039】
[アルミニウム合金部20]
アルミニウム合金部20の化学組成は、質量%で、Cu:0.80~1.30%、Si:11.00~13.00%、Mg:0.70~1.30%、Ni:0.80~1.50%、Zn:0.15%以下、Fe:0.80%以下、Mn:0.15%以下、Ti:0.20%以下、及び、Cr:0.10%以下、を含有し、残部はAl及び不純物からなる。
【0040】
銅(Cu)はアルミニウム合金部20のα-Al相に固溶して、アルミニウム合金部20の強度を高める。Cuはさらに、Alと結合して析出物を形成し、アルミニウム合金部20の強度を高める。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、アルミニウム合金部20の質量が増加する。したがって、Cu含有量は0.80~1.30%である。
Cu含有量の好ましい下限は0.90%であり、さらに好ましくは1.00%である。Cu含有量の好ましい上限は1.20%であり、さらに好ましくは1.10%である。
【0041】
シリコン(Si)はアルミニウム合金部20中で微細な初晶Si及び共晶Siを形成する。これにより、アルミニウム合金部20の強度が高まる。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、Si析出物が過剰に生成して、アルミニウム合金部20の加工性が低下する。したがって、Si含有量は11.00~13.00%である。
Si含有量の好ましい下限は11.30%であり、さらに好ましくは11.60%である。Si含有量の好ましい上限は12.70%であり、さらに好ましくは12.40%である。
【0042】
マグネシウム(Mg)はアルミニウム合金部20のα-Al相に固溶して、アルミニウム合金部20の強度を高める。したがって、Mg含有量は0.70~1.30%である。
Mg含有量の好ましい下限は0.80%であり、さらに好ましくは0.90%である。Mg含有量の好ましい上限は1.20%であり、さらに好ましくは1.10%である。
【0043】
ニッケル(Ni)はAlと金属間化合物を形成して、アルミニウム合金部20の強度を高める。したがって、Ni含有量は0.80~1.50%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.90%であり、さらに好ましくは1.00%である。Ni含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.30%である。
【0044】
亜鉛(Zn)はアルミニウム合金部20の耐食性を低下する。Znはさらに、アルミニウム合金の鋳造時に割れの発生を促進する。そのため、Zn含有量は0.15%以下である。
Zn含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、Zn含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、Zn含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Zn含有量の好ましい上限は0.14%であり、さらに好ましくは0.13%である。
【0045】
鉄(Fe)はアルミニウム合金の鋳造時において、合金と金型との焼付きを抑制する。Feはさらに、アルミニウム合金の鋳造性を高める。しかしながら、過剰なFeは金属間化合物を形成し、アルミニウム合金部20の強度を低下する。したがって、Fe含有量は0.80%以下である。
Fe含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.20%である。Fe含有量の好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0046】
マンガン(Mn)はAl-Mn-Si系、Al-Fe-Mn-Si系等の金属間化合物を形成し、アルミニウム合金部20の強度を高める。しかしながら、Mn含有量が高すぎれば、粗大な析出物が多量に生成する。この場合、アルミニウム合金部20の強度がかえって低下する。したがって、Mn含有量は0.15%以下である。
Mn含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。Mn含有量の好ましい上限は0.13%であり、さらに好ましくは0.11%である。
【0047】
チタン(Ti)は結晶粒を微細化してアルミニウム合金部20の強度を高める。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、Al-Ti系の粗大な析出物が生成する。この場合、アルミニウム合金部20の強度が低下する。したがって、Ti含有量は0.20%以下である。
Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Ti含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.16%である。
【0048】
クロム(Cr)はアルミニウム合金部20の耐摩耗性を高める。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、アルミニウム合金部20の加工性を低下する。したがって、Cr含有量は0.10%以下である。
Cr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Cr含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%である。
【0049】
アルミニウム合金部20の残部はAl及び不純物からなる。ここで、不純物とは、アルミニウム合金部20の素材であるアルミニウム合金材を工業的に製造する際に、原料又は製造環境などから混入されるものであって、意図せずに含有されるものであり、本実施形態によるアルミニウム合金部20に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0050】
[鋼部10の化学組成の測定方法]
鋼部10の化学組成は、JIS G0321:2017に準拠した周知の成分分析法で測定できる。具体的には、ドリルを用いて、鋼部10の表面から1mm深さ以上の内部から、切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。O含有量については、周知の不活性ガス溶融-赤外線吸収法を用いて求める。
【0051】
[アルミニウム合金部20の化学組成の測定方法]
アルミニウム合金部20の化学組成は、JIS H1305:2005に準拠した周知の成分分析法で測定できる。具体的には、ドリルを用いて、アルミニウム合金部20の表面から1mm深さ以上の内部から試験片を採取する。試験片は円柱状であり、直径を12mm以上とする。採取した試験片に対して、発光分光分析法を実施して、化学組成の元素分析を実施する。
【0052】
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。例えば、鋼部10のC含有量は小数第二位までの数値で規定される。したがって、C含有量は、測定された数値の小数第三位を四捨五入して得られた小数第二位までの数値とする。
【0053】
鋼部10のC含有量以外の他の元素含有量も同様に、測定された値に対して、本実施形態で規定された最小桁までの数値の端数を四捨五入して得られた値を、当該元素含有量とする。
【0054】
なお、四捨五入とは、端数が5未満であれば切り捨て、端数が5以上であれば切り上げることを意味する。
【0055】
[拡散層30]
拡散層30は、鋼部10と、アルミニウム合金部20との間に形成されている。
図2は、接合継手1中の拡散層30を含む部分の厚さ方向(接合継手1の軸方向)にGDS分析を実施して得られた、厚さ方向の距離と、Fe濃度及びAl濃度との関係を示す図である。
【0056】
図2を参照して、拡散層30では、厚さ方向において、鋼部10からアルミニウム合金部20に向かってFe含有量が低下し、かつ、Al濃度が上昇している。仮に、特許文献1に記載されているように、拡散層が金属間化合物からなる場合、軸方向におけるFe含有量比率はある程度一定になるはずである。なぜなら、金属間化合物の化学組成は一定であるからである。
【0057】
一方、拡散層30では、Fe含有量及びAl含有量が厚さ方向で変化している。したがって、上述の化学組成を満たす鋼部10と、上述の化学組成を満たすアルミニウム合金部20との間に形成されている拡散層30では、金属間化合物はほとんど存在しない。拡散層30は、鋼部10からアルミニウム合金部20に向かってFeが拡散し、かつ、アルミニウム合金部20から鋼部10に向かってAlが拡散することにより形成されている。
【0058】
図3は、拡散層30における、厚さ方向(接合継手1の軸方向)の距離(μm)と、Fe含有量比率(%)との関係を示す図である。ここで、Fe含有量比率(%)とは、鋼部10のFe含有量を100%とした場合の、拡散層30の対応する位置(対応する厚さ方向の距離)でのFe含有量の比率(%)を意味する。
図3における位置D10から位置D20までの厚さ方向の長さが、拡散層30の厚さ(μm)に相当する。
【0059】
図3を参照して、拡散層30のうち、アルミニウム合金部20と隣接する領域であって、Fe含有量比率が1.0~3.0%である領域を、アルミニウム合金部隣接拡散領域32と定義する。アルミニウム合金部隣接拡散領域32は、拡散層30のうち、鋼部10からアルミニウム合金部20に向かってFe含有量比率が低下してから一定に至るまでの、変曲点を含む領域である。
【0060】
[アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さについて]
図4は、接合継手1の引張強さ(MPa)と、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さとの関係を示す図である。
図4を参照して、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さが19.5μm未満である場合、又は、厚さが25.0μmを超えれば、接合継手1において、十分な引張強さが得られない。したがって、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さは19.5~25.0μmである。
アルミニウム合金部隣接拡散領域32の好ましい下限は20.0μmであり、さらに好ましくは20.5μmであり、さらに好ましくは21.0μmである。
アルミニウム合金部隣接拡散領域32の好ましい上限は24.5μmであり、さらに好ましくは24.0μmであり、さらに好ましくは23.5μmである。
【0061】
[アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さの測定方法]
接合継手1のアルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さは、次の方法で求める。
【0062】
接合継手1の軸方向(拡散層30の厚さ方向)に対して垂直に切断して、厚さ3mmの板状試験片を作製する。ここで、板状試験片の切断面を主面と呼ぶ。板状試験片の厚さ方向(接合継手1の軸方向に相当)中央位置に拡散層30が配置されるように、板状試験片を採取する。板状試験片の主面の中央部から、厚さ方向に、GDS分析を実施する。具体的には、高周波グロー発光分光分析装置(GD-OES)を用いて、アルゴン雰囲気下(Ar圧力:0.27MPa)において、板状試験片を陰極として出力25Wの電力を印可して、厚さ方向の元素濃度を測定する。測定対象の元素を、C、O、Si、Mn、Cu、Cr、Ni、Fe、Mg、Al、V、Ti及びZnとする。測定面積は直径10mmの円形とし(10mmφ)、測定時間は1600秒とし、測定間隔は0.3秒とする。以上の測定により、
図2に示すFe及びAlのスペクトルを測定する。
【0063】
得られたFeのグロー発光分光スペクトルを用いて、上述の鋼部10の化学組成の測定方法で得られた、鋼部10のFe含有量を100%として、縦軸をFe含有量比率(%)、横軸を接合継手1の軸方向距離(μm)とした
図3に示すグラフを作成する。作成したグラフのFe含有量比率に基づいて、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さを次のとおり定義する。
【0064】
アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さ:Fe含有量比率が1.0~3.0%の範囲の軸方向距離(μm)
なお、Fe含有量比率(%)とは、鋼部10の質量%でのFe含有量を100%とした場合の、鋼部10のFe含有量に対するアルミニウム合金部隣接拡散領域32での質量%でのFe含有量の比率であり、以下の式で定義される。
Fe含有量比率(%)=アルミニウム合金部隣接拡散領域32中の質量%でのFe含有量/鋼部10中の質量%でのFe含有量×100
【0065】
[本実施形態の接合継手1の効果]
本実施形態の接合継手は、鋼部10が上述の化学組成を有し、アルミニウム合金部20が上述の化学組成を有する。さらに、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さは19.5~25.0μmである。そのため、本実施形態の接合継手1は、優れた強度を有する。
【0066】
[本実施形態の接合継手1の用途]
本実施形態の接合継手1は、優れた強度が求められる用途に適する。本実施形態の接合継手1は例えば、自動車や産業機械の機械構造用部品として好適である。ただし、本実施形態の接合継手1は、機械構造用部品に限定されず、優れた強度が求められる用途に広く適用可能である。
【0067】
[本実施形態の接合継手1の形状]
図1では、接合継手1は円柱状である。しかしながら、接合継手1の形状は特に限定されない。接合継手1は、鋼部10と、アルミニウム合金部20と、拡散層30とを備えていれば、形状は特に限定されない。
【0068】
[製造方法]
本実施形態による接合継手1の製造方法の一例を説明する。以降に説明する接合継手1の製造方法は、本実施形態による接合継手1を製造するための一例である。したがって、上述の特徴を満たす接合継手1は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態による接合継手1の製造方法の好ましい一例である。
【0069】
本実施形態の接合継手1の製造方法は例えば、次のとおりである。
(工程1)素材準備工程
(工程2)摩擦接合工程
以下、各工程について説明する。
【0070】
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、接合継手1の鋼部10の素材となる鋼材、及び、アルミニウム合金部20の素材となるアルミニウム合金材を準備する。鋼材及びアルミニウム合金材は、製造してもよいし、第三者から供給されてもよい。
【0071】
[(工程2)摩擦接合工程]
摩擦接合工程では、鋼材及びアルミニウム合金材を、摩擦接合により接合して、接合継手1を製造する。
図5は、摩擦接合装置の模式図である。
図5を参照して、摩擦接合装置100は、クランプ110及び120と、クランプ110の取り付けられた回転駆動装置130と、クランプ120に取り付けられた押し込み装置140とを備える。
【0072】
クランプ110は、アルミニウム合金材20Rを固定する。回転駆動装置130は、アルミニウム合金材20Rが固定されたクランプ110を、アルミニウム合金材20Rの中心軸周りに回転させる。クランプ120は、クランプ110と対向して配置される。クランプ120は、鋼材10Rを固定する。このとき、鋼材10Rの端面は、アルミニウム合金材20Rの端面と対向して配置される。押し込み装置140は、鋼材10Rが固定されたクランプ120を、クランプ110に向かって押し進め、クランプ120に固定された鋼材10Rを、クランプ110に固定されたアルミニウム合金材20Rと接触させ、さらに、押し込む。なお、クランプ110に鋼材10Rを固定して、クランプ120にアルミニウム合金材20Rを固定してもよい。以上の摩擦接合装置100を用いた摩擦接合工程は、次の工程を含む。
(工程21)準備工程
(工程22)摩擦工程
(工程23)アップセット工程
以下、各工程について説明する。
【0073】
[(工程21)準備工程]
準備工程では、接合継手1の素材であるアルミニウム合金材20Rと鋼材10Rとを、摩擦接合装置100に固定する。具体的には、クランプ110でアルミニウム合金材20Rを固定し、クランプ120で鋼材10Rを固定する。このとき、アルミニウム合金材20Rの端面は、鋼材10Rの端面と対向して配置されている。好ましくは、アルミニウム合金材20Rと鋼材10Rとは同軸に配置される。
【0074】
[(工程22)摩擦工程]
摩擦工程では、アルミニウム合金材20Rの端面を鋼材10Rの端面に接触させながら、アルミニウム合金材20Rを鋼材10Rに対して相対的に中心軸周りに回転させて、接触加熱を発生させる。
【0075】
具体的には、準備工程では、クランプ110に固定されたアルミニウム合金材20Rと、クランプ120に固定された鋼材10Rとは、隙間を介して離間して配置されている。回転駆動装置130によりアルミニウム合金材20Rを回転数Nで回転させる。回転後、押し込み装置140により鋼材10Rをアルミニウム合金材20Rに向かって移動させ、鋼材10Rの端面をアルミニウム合金材20Rの端面と接触させる。接触後、押し込み装置140により、さらに鋼材10Rをアルミニウム合金材20Rに押し込み、寄り代U1及び摩擦圧力P1を調整する。
【0076】
摩擦工程での回転数N、摩擦圧力P1、寄り代U1は次の条件とする。ここで、寄り代U1は、アルミニウム合金材20Rの端面と鋼材10Rの端面との接触位置を0mmとした場合の、摩擦工程完了時での鋼材10Rのアルミニウム合金材20Rへの押し込み量を意味する。
(条件1)回転数N :1000rpm以上
(条件2)摩擦圧力P1:15MPa以上
(条件3)寄り代U1 :1.5mm以上
(条件4)式(1)で定義されるF1が5.0以下
F1=-0.0036N+1/(0.0257P1)+8.1436 (1)
【0077】
回転数Nが1000rpm未満であったり、摩擦圧力P1が15MPa未満であったり、寄り代U1が1.5mm未満であれば、摩擦加熱が十分に発生しない。この場合、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さが19.5μm未満となる。また、F1が5.0超であれば、摩擦加熱が十分に発生するまでの時間が長くなる。この場合、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さが25.0μm超となる。
したがって、摩擦工程では条件1~条件4を満たすように、回転数N、摩擦圧力P1、寄り代U1及びF1を調整する。
【0078】
[(工程23)アップセット工程]
アップセット工程では、初めに、アルミニウム合金材20Rの鋼材10Rに対する相対的な回転を止める。その後、押し込み装置140により、鋼材10Rをアルミニウム合金材20Rにさらに押し込む。これにより、拡散層30が形成される。
【0079】
アップセット工程でのアップセット圧力P2及び寄り代U2は次の条件とする。ここで、寄り代U2は、アップセット工程開始時でのアルミニウム合金材20Rの端面と鋼材10Rの端面との接触位置を0mmとした場合の、アップセット工程完了時での鋼材10Rのアルミニウム合金材20Rへの押し込み量を意味する。
(条件5)アップセット圧力P2:250MPa以上
(条件6)寄り代U2 :2.0mm以上
【0080】
アップセット圧力P2が250MPa未満であったり、寄り代U2が2.0mm未満であったりすれば、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さが19.5mm未満となる。アップセット圧力P2が250MPa以上であり、寄り代U2が2.0mm以上であれば、アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さが19.5~25.0mmとなる。
【0081】
なお、アップセット圧力P2の上限は特に限定されない。ただし、アップセット圧力P2が高すぎれば、アルミニウム合金部20が座屈する場合がある。そのため、アップセット圧力P2の好ましい上限は350MPaである。
【0082】
また、寄り代U2の上限は制限されない。アップセット圧力P2が250~350MPaを満たしていれば、鋼材10R及びアルミニウム合金材20Rが十分に冷却されるまで(自然に押し込みが止まるまで)鋼材10Rをアルミニウム合金材20Rに押し込んでもアルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さが19.5~25.0mmを満たすためである。製造効率向上を考慮した場合、寄り代U2の好ましい上限は8.0mmである。
以上の工程により、本実施形態の接合継手1が製造される。
【0083】
[その他の工程]
本実施形態の接合継手の製造方法は、摩擦接合工程後に、機械加工工程を含んでもよい。機械加工工程では、摩擦接合工程後の接合継手の接合部分に形成されたバリ等を機械加工により除去して、最終製品である接合継手を製造する。
【実施例0084】
実施例により本実施形態の接合継手の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の接合継手の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の接合継手はこの一条件例に限定されない。
【0085】
[製造工程]
表1-1及び表1-2に示す化学組成を有する鋼材と、表2に示す化学組成を有するアルミニウム合金材とを準備した。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
図5に示す摩擦接合装置のクランプに、円柱状の鋼材と、円柱状のアルミニウム合金材とを固定した。その後、摩擦工程を実施した。摩擦工程での回転数N、摩擦圧力P1、寄り代U1、及び、F1は表3に示すとおりであった。
【0090】
【0091】
摩擦工程後、アップセット工程を実施した。アップセット工程でのアップセット圧力P2、及び、寄り代U2は表3に示すとおりであった。以上の工程により、各試験番号の接合継手を製造した。
【0092】
各試験番号の接合継手に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)鋼部の化学組成及びアルミニウム合金部の化学組成の測定試験
(試験2)アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さの測定試験
(試験3)引張強さ評価試験
以下、試験1~試験3について説明する。
【0093】
[(試験1)鋼部の化学組成及びアルミニウム合金部の化学組成の測定試験]
上述の[鋼部10及びアルミニウム合金部20の化学組成の測定方法]に記載の方法に準拠して、鋼部の化学組成及びアルミニウム合金部の化学組成を測定した。その結果、各試験番号の接合継手の鋼部の化学組成は表1-1及び表1-2に示すとおりであって、アルミニウム合金部の化学組成は表2に示すとおりであった。
【0094】
[(試験2)アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さの測定試験]
上述の[アルミニウム合金部隣接拡散領域32の厚さの測定方法]に記載の方法に準拠して、各試験番号の接合継手1のアルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さを求めた。得られたアルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さを、表4中の「アルミニウム合金部隣接拡散領域厚さ(μm)」欄に示す。
【0095】
【0096】
[(試験3)引張強さ評価試験]
各試験番号の接合継手の強度を、次の方法で評価した。各試験番号の接合継手の長手方向に垂直な断面の中央部から、機械加工(旋削加工)により、丸棒引張試験片を作製した。丸棒引張試験片の平行部の長さを80mmとし、平行部の直径を14mmとした。丸棒引張試験片の中心軸線は、接合継手の中心軸線と略一致した。平行部の軸方向における中央位置は、接合継手の接合位置(つまり、拡散層部分)に相当した。
【0097】
作製された丸棒引張試験片を用いて、JIS Z 2241:2011に準拠して、常温、大気中において引張試験を実施して、引張強さ(MPa)を得た。得られた引張強さを、表4中の「引張強さ(MPa)」欄に示す。
【0098】
[評価結果]
表1-1、表1-2、表2~表4を参照して、試験番号1~21の接合継手では、鋼部及びアルミニウム合金部の化学組成が適切であり、さらに、アルミニウム合金部隣接拡散領域の厚さも適切であった。そのため、引張強度が250MPa以上であり、接合継手であっても、優れた強度が得られた。
【0099】
一方、試験番号22及び23では、摩擦工程での回転数Nが低かった。そのため、アルミニウム合金部隣接拡散領域が薄すぎた。その結果、接合継手の引張強さが低かった。
【0100】
試験番号24及び25では、摩擦工程での摩擦圧力P1が低かった。そのため、アルミニウム合金部隣接拡散領域が薄すぎた。その結果、接合継手の引張強さが低かった。
【0101】
試験番号26及び27では、摩擦工程での寄り代U1が短すぎた。そのため、アルミニウム合金部隣接拡散領域が薄すぎた。その結果、接合継手の引張強さが低かった。
【0102】
試験番号28及び29では、摩擦工程において、F1が高すぎた。そのため、アルミニウム合金部隣接拡散領域が厚すぎた。その結果、接合継手の引張強さが低かった。
【0103】
試験番号30及び31では、アップセット工程でのアップセット圧力P2が低すぎた。そのため、アルミニウム合金部隣接拡散領域が薄すぎた。その結果、接合継手の引張強さが低かった。
【0104】
試験番号32及び33では、アップセット工程での寄り代U2が短すぎた。そのため、そのため、アルミニウム合金部隣接拡散領域が薄すぎた。その結果、接合継手の引張強さが低かった。
【0105】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。