(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061097
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】スクロール式電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
F04C18/02 311X
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168816
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】望月 悠太
(72)【発明者】
【氏名】笠原 世裕
(72)【発明者】
【氏名】近藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】木暮 雅之
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA06
3H039AA12
3H039BB02
3H039BB21
3H039BB25
3H039CC02
3H039CC08
3H039CC24
3H039CC32
3H039CC33
3H039CC39
(57)【要約】
【課題】モータの停止時に、スクロール圧縮機構内部の圧力を早期に低下させて、円滑且つ効率的に逆回転を防止して騒音の改善を図ることができるスクロール式電動圧縮機を提供する。
【解決手段】制御装置62は、モータ2の停止指示を受信した後、当該モータ2の回転数を低下させるようにスイッチング素子をスイッチングする減速制御と、この減速制御によりモータ2の回転数が低下した後、可動スクロールの背圧孔が塞がれない角度、又は、固定スクロールの吐出孔が塞がれない角度にてモータ2のロータ29を停止させ、当該角度にて固定するようにスイッチング素子66A~66Fをスイッチングするブレーキ制御を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背圧孔を有する可動スクロールと、固定スクロールを備えて作動流体を圧縮するスクロール圧縮機構と、
前記可動スクロールを駆動するモータと、
複数のスイッチング素子を有して前記モータを駆動するインバータ回路と、
前記スイッチング素子をスイッチングする制御装置を備えたスクロール式電動圧縮機において、
前記制御装置は、
前記モータの停止指示を受信した後、当該モータの回転数を低下させるように前記スイッチング素子をスイッチングする減速制御と、
該減速制御により前記モータの回転数が低下した後、前記可動スクロールの背圧孔が塞がれない角度、又は、前記固定スクロールの吐出孔が塞がれない角度にて前記モータのロータを停止させ、当該角度にて固定するように前記スイッチング素子をスイッチングするブレーキ制御を実行することを特徴とするスクロール式電動圧縮機。
【請求項2】
前記制御装置が実行する前記減速制御は、
前記モータの停止指示を受信した後、センサレスベクトル制御により前記モータの回転数を低下させるセンサレス減速制御と、
該センサレス減速制御により前記モータの回転数が低下した後に、強制転流制御により前記モータの回転数を所定の低い値に低下させる強制転流減速制御を含むことを特徴とする請求項1に記載のスクロール式電動圧縮機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記センサレス減速制御における相電流、又は、前記スクロール圧縮機構の圧力状態に基づき、前記強制転流減速制御、及び/又は、前記ブレーキ制御における相電流の値を制御することを特徴とする請求項2に記載のスクロール式電動圧縮機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記モータの回転数が零に到達する前に電磁ブレーキによる前記ブレーキ制御を実行すると共に、該ブレーキ制御においては前記モータの相電流の値をフィードバック制御することを特徴とする請求項1に記載のスクロール式電動圧縮機。
【請求項5】
前記制御装置は、相電流と前記背圧孔又は前記吐出孔が塞がれない角度との相関関係、トルク脈動による相電流の振幅変化、予め決定された前記ロータの角度、当該ロータの角度を検出するセンサ、のうちの少なくとも何れかを用いて前記背圧孔又は前記吐出孔が塞がれない角度を検出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のスクロール式電動圧縮機。
【請求項6】
前記スクロール圧縮機構は、各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された前記固定スクロール及び前記可動スクロールから成り、該可動スクロールを前記固定スクロールに対して公転旋回運動させ、両スクロールの前記各ラップ間に形成された圧縮室を外側から内側に向けて縮小させながら移動させることにより、作動流体を圧縮し、前記吐出孔は、前記固定スクロールの鏡板背面の吐出室と前記圧縮室を連通し、前記背圧孔は、前記可動スクロールの鏡板背面の背圧室と前記圧縮室とを連通すると共に、
前記背圧孔が塞がれない角度とは、前記ロータが停止した状態で、前記固定スクロールのラップが前記可動スクロールの背圧孔を塞がない角度であり、前記吐出孔が塞がれない角度とは、前記ロータが停止した状態で、前記可動スクロールのラップが前記固定スクロールの吐出孔を塞がない角度であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のスクロール式電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール式電動圧縮機に関し、特に、スクロール圧縮機構及びロータの逆回転を防止する制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクロール式の電動圧縮機は、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた固定スクロールと、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた可動スクロールから成るスクロール圧縮機構を備え、各スクロールのラップを対向させてラップ間に圧縮室を形成し、モータにより固定スクロールに対して可動スクロールを公転旋回運動させることにより、圧縮室の容積を外側から内側に向けて縮小させながら移動させることで、作動流体(冷媒)を圧縮するように構成されている。
【0003】
また、スクロール式電動圧縮機には複数のスイッチング素子から成る三相のインバータ回路と制御装置から構成されたインバータ装置が一体に設けられ、制御装置によりスイッチング素子をスイッチングすることにより、バッテリ等の直流電源からの直流電圧を三相交流電圧に変換し、モータに印加することで駆動していた。
【0004】
そして、モータの停止指示を外部から受信すると、制御装置はスイッチング素子のスイッチング動作を停止し、モータの駆動を停止させるものであった。このとき、圧縮室内に残存する作動流体(冷媒)が膨張することに伴い、スクロール圧縮機構の吐出側と吸入側との差圧によって可動スクロール(及びモータのロータ)が逆回転し、スクロール圧縮機構から騒音が発生する。そこで、モータを停止した場合、発電ブレーキによるブレーキ制御を行ってロータを固定し、係る逆回転を防止するものも開発されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、
図7は一般的なスクロール圧縮機構を構成する可動スクロール100と固定スクロール101の断面図を示している。可動スクロール100の鏡板102の表面にはラップ103が形成され、固定スクロール101の鏡板104の表面にもラップ106が形成されている。そして、これらラップ103、106間に圧縮室107が形成される。
【0007】
可動スクロール100の鏡板102には、背圧孔108が形成されている。この背圧孔108は鏡板102背面の背圧室109と圧縮室107とを連通する孔であり、背圧室109の圧力(背圧)が過剰となった場合に、中間圧部の圧縮室107に圧力を逃がす役割を果たすものであるが、モータを停止したときに、
図7に示すように固定スクロール101のラップ106がこの背圧孔108を塞いでしまうと、背圧孔108から圧縮室107内の圧力(冷媒とオイル)が背圧室109に逃げられなくなり、圧力の抜けが遅くなる。そのため、ブレーキ制御の終了時にスクロール圧縮機構の圧縮室107内に圧力が残ってしまい、逆回転が始まって騒音が発生する危険性がある。
【0008】
そこで、ブレーキ制御を実行する時間を延長することも考えられるが、その分長くスイッチング素子に通電することになるため、今度はスイッチング素子の発熱による故障、寿命短縮等の問題が生じる。
【0009】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、モータの停止時に、スクロール圧縮機構内部の圧力を早期に低下させて、円滑且つ効率的に逆回転を防止して騒音の改善を図ることができるスクロール式電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスクロール式電動圧縮機は、背圧孔を有する可動スクロールと、固定スクロールを備えて作動流体を圧縮するスクロール圧縮機構と、可動スクロールを駆動するモータと、複数のスイッチング素子を有してモータを駆動するインバータ回路と、スイッチング素子をスイッチングする制御装置を備えたものであって、制御装置は、モータの停止指示を受信した後、当該モータの回転数を低下させるようにスイッチング素子をスイッチングする減速制御と、この減速制御によりモータの回転数が低下した後、可動スクロールの背圧孔が塞がれない角度、又は、固定スクロールの吐出孔が塞がれない角度にてモータのロータを停止させ、当該角度にて固定するようにスイッチング素子をスイッチングするブレーキ制御を実行することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明のスクロール式電動圧縮機は、上記発明において制御装置が実行する減速制御は、モータの停止指示を受信した後、センサレスベクトル制御によりモータの回転数を低下させるセンサレス減速制御と、このセンサレス減速制御によりモータの回転数が低下した後に、強制転流制御によりモータの回転数を所定の低い値に低下させる強制転流減速制御を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明のスクロール式電動圧縮機は、上記発明において制御装置は、センサレス減速制御における相電流、又は、スクロール圧縮機構の圧力状態に基づき、強制転流減速制御、及び/又は、ブレーキ制御における相電流の値を制御することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明のスクロール式電動圧縮機は、請求項1の発明において制御装置は、モータの回転数が零に到達する前に電磁ブレーキによるブレーキ制御を実行すると共に、このブレーキ制御においてはモータの相電流の値をフィードバック制御することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明のスクロール式電動圧縮機は、上記各発明において制御装置は、相電流と背圧孔又は吐出孔が塞がれない角度との相関関係、予め決定されたロータの角度、当該ロータの角度を検出するセンサ、のうちの少なくとも何れかを用いて背圧孔又は吐出孔が塞がれない角度を検出することを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明のスクロール式電動圧縮機は、請求項1乃至請求項4の発明においてスクロール圧縮機構は、各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから成り、この可動スクロールを固定スクロールに対して公転旋回運動させ、両スクロールの各ラップ間に形成された圧縮室を外側から内側に向けて縮小させながら移動させることにより、作動流体を圧縮し、吐出孔は、固定スクロールの鏡板背面の吐出室と圧縮室を連通し、背圧孔は、可動スクロールの鏡板背面の背圧室と圧縮室とを連通すると共に、背圧孔が塞がれない角度とは、ロータが停止した状態で、固定スクロールのラップが可動スクロールの背圧孔を塞がない角度であり、吐出孔が塞がれない角度とは、ロータが停止した状態で可動スクロールのラップが固定スクロールの吐出孔を塞がない角度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、背圧孔を有する可動スクロールと、固定スクロールを備えて作動流体を圧縮するスクロール圧縮機構と、可動スクロールを駆動するモータと、複数のスイッチング素子を有してモータを駆動するインバータ回路と、スイッチング素子をスイッチングする制御装置を備えたスクロール式電動圧縮機において、制御装置が、モータの停止指示を受信した後、当該モータの回転数を低下させるようにスイッチング素子をスイッチングする減速制御と、この減速制御によりモータの回転数が低下した後、可動スクロールの背圧孔が塞がれない角度、又は、固定スクロールの吐出孔が塞がれない角度にてモータのロータを停止させ、当該角度にて固定するようにスイッチング素子をスイッチングするブレーキ制御を実行するようにしたので、モータが停止したとき、請求項6の発明の如く固定スクロールのラップにより可動スクロールの背圧孔が塞がれない角度、又は、可動スクロールのラップにより固定スクロールの吐出孔が塞がれない角度でロータは固定されるようになる。
【0017】
これにより、可動スクロールの背圧孔、又は、固定スクロールの吐出孔から早期にスクロール圧縮機構内部の圧力を抜いて減少させることができるようになる。従って、ブレーキ制御を実行する時間も短くすることが可能となるので、スイッチング素子の発熱による故障や寿命短縮も最小限に抑制しながら、効果的に可動スクロールの逆回転を防止し、スクロール圧縮機構から生じる騒音の改善を図ることができるようになる。
【0018】
この場合、制御装置が実行する減速制御を、請求項2の発明の如くモータの停止指示を受信した後、センサレスベクトル制御によりモータの回転数を低下させるセンサレス減速制御と、このセンサレス減速制御によりモータの回転数が低下した後に、強制転流制御によりモータの回転数を所定の低い値に低下させる強制転流減速制御を含むものとすることで、センサレス減速制御によりモータの回転数を早期に低下させ、位置検出が困難になる領域では強制転流減速制御によりモータの回転数を強制的に低下させることが可能となる。
【0019】
また、請求項3の発明の如く制御装置が、センサレス減速制御における相電流、又は、スクロール圧縮機構の圧力状態に基づき、強制転流減速制御、及び/又は、ブレーキ制御における相電流の値を制御するようにすれば、例えばセンサレス減速制御における相電流の値が小さいときには強制転流減速制御やブレーキ制御における相電流の値もそれに応じて小さくすること等、或いは、スクロール圧縮機構の残圧が小さいときには強制転流減速制御やブレーキ制御における相電流の値もそれに応じて小さくすること等により、安定的且つ効率的に強制転流減速制御やブレーキ制御を実行することが可能となる。
【0020】
また、請求項4の発明の如く制御装置が、モータの回転数が零に到達する前にブレーキ制御を実行するようにすれば、ロータを停止させて固定する角度を、可動スクロールの背圧孔が塞がれない角度に的確且つ容易に合わせることが可能となる。その際、ブレーキ制御においては電磁ブレーキを行い、モータの相電流の値をフィードバック制御することで、従来の発電ブレーキで懸念される回生電流による過剰な相電流の跳ね上がりを防止し、素子の故障等が発生する不都合も未然に回避することが可能となる。
【0021】
尚、背圧孔が塞がれない角度は、請求項5の発明の如く、トルク脈動による相電流の振幅変化、予め決定されたロータの角度、当該ロータの角度を検出するセンサ等を用いて検出することができる。
【0022】
また、スクロール圧縮機構の詳細は請求項6の発明の如く、各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから成り、この可動スクロールを固定スクロールに対して公転旋回運動させ、両スクロールの各ラップ間に形成された圧縮室を外側から内側に向けて縮小させながら移動させることにより、作動流体を圧縮するものであり、吐出孔は、固定スクロールの鏡板背面の吐出室と圧縮室を連通し、背圧孔は可動スクロールの鏡板背面の背圧室と圧縮室とを連通するものであって、背圧孔が塞がれない角度とは、ロータが停止した状態で、前述した如く固定スクロールのラップが可動スクロールの背圧孔を塞がない角度であり、吐出孔が塞がれない角度とは、ロータが停止した状態で可動スクロールのラップが固定スクロールの吐出孔を塞がない角度である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明を適用した一実施形態のスクロール式電動圧縮機の縦断側面図である。
【
図2】
図1のスクロール式電動圧縮機の電気回路図である。
【
図3】
図2の制御装置が実行するセンサレス減速制御、強制転流減速制御及びブレーキ制御を説明するフローチャートである。
【
図4】
図2の制御装置が実行するセンサレス減速制御、強制転流減速制御及びブレーキ制御におけるモータの回転数の変化を説明する図である。
【
図5】
図1の背圧孔が塞がれない状態の可動スクロールと固定スクロールの拡大断面図である。
【
図6】トルク脈動によるモータの相電流の振幅変化を示す図である。
【
図7】背圧孔が塞がれた状態の可動スクロールと固定スクロールの断面図である。
【
図8】相電流のピーク値とフィルタ値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明を適用した一実施形態のスクロール式電動圧縮機1の縦断側面図である。
【0025】
(1)スクロール式電動圧縮機1
実施例のスクロール式電動圧縮機1は、例えば電動車両用の空調装置の冷媒回路に使用され、空調装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出配管に吐出するものであり、三相のモータ2と、このモータ2を駆動(運転)するためのインバータ装置3と、モータ2によって駆動されるスクロール圧縮機構4を備えた所謂横置き型のインバータ一体型スクロール式電動圧縮機である。
【0026】
実施例のスクロール式電動圧縮機1は、モータ2やセンターケーシング6をその内側に収容するステータハウジング7と、このステータハウジング7の一端側の端壁7Aに取り付けられ、インバータ装置3をその内側に収容するインバータケース8と、ステータハウジング7の他端側に取り付けられたリアケーシング9を備えている。
【0027】
これらステータハウジング7、インバータケース8、リアケーシング9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されて実施例のスクロール式電動圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0028】
ステータハウジング7内にはモータ2を収容するモータ室12が構成されており、モータ室12の一端面はステータハウジング7の端壁7Aにより基本的には閉塞されている。そして、この端壁7Aがモータ室12と後述するインバータ収容部13とを区画する隔壁となる。モータ室12の他端面は開口しており、この開口にはモータ2が収容された後、センターケーシング6が収容される。また、端壁7Aの内面(モータ室12側)には、モータ2の駆動軸14の一端部を回転可能に支持するための副軸受16が取り付けられている。
【0029】
センターケーシング6は、モータ2とは反対側(他端側)が開口しており、この開口はスクロール圧縮機構4の後述する可動スクロール22が収容された後、スクロール圧縮機構4のこれも後述する固定スクロール21が固定されたリアケーシング9がステータハウジング7に固定されることで閉塞される。
【0030】
また、センターケーシング6にはモータ2の駆動軸14の他端部を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17のスクロール圧縮機構4側のセンターケーシング6内には、スクロール圧縮機構4側で駆動軸14の他端部を回転可能に支持する主軸受18が取り付けられている。
【0031】
モータ2は、コイルが巻装されてステータハウジング7の周壁内側に固定されたステータ25と、その内側で回転するロータ29から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(
図2)からの直流電圧がインバータ装置3により三相交流電圧に変換され、モータ2のステータ25のコイルに給電されることで、ロータ29が回転駆動されるよう構成されている。そして、駆動軸14はこのロータ29に固定されている。
【0032】
また、ステータハウジング7には、吸入ポート20が形成されており、吸入ポート20から吸入された冷媒は、ステータハウジング7内のモータ2を通過した後、センターケーシング6内に流入し、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37に吸入される。これにより、モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、スクロール圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出室27からリアケーシング9に形成された吐出ポート30より、ハウジング11外の図示しない冷媒回路の吐出配管に吐出される構成とされている。
【0033】
スクロール圧縮機構4は、前述した固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をセンターケーシング6側としてリアケーシング9に固定されている。
【0034】
この固定スクロール21の鏡板23の渦巻きの中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26はリアケーシング9内の吐出室27に連通されている。即ち、吐出孔26は固定スクロール21の鏡板23の背面(他方の面)に構成された吐出室27と圧縮室34を連通する。図中において28は、吐出孔26の鏡板23の背面側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0035】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。
【0036】
この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧縮室34を形成する。
【0037】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、駆動軸14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌め合わされている。そして、モータ2のロータ29と共に駆動軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。
【0038】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧縮室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出室27に吐出される。
【0039】
図1において、38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面とセンターケーシング6との間に形成された背圧室39と、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してセンターケーシング6と可動スクロール22の間に介設されている。また、41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に当接するシール材であり、このシール材41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。
【0040】
また、48はリアケーシング9(ハウジング11)の吐出室27内に取り付けられた遠心式のオイルセパレータである。このオイルセパレータ48はスクロール圧縮機構4から吐出室27に吐出された冷媒に混入した潤滑用のオイルを当該冷媒から分離するものである。このオイルセパレータ48には流入口49が形成され、この流入口49から流入したオイルを含む冷媒は、オイルセパレータ48内で旋回する。このときの遠心力でオイルは分離され、冷媒は上端の流出口から吐出ポート30に向かい、前述した如く吐出配管に吐出される。
【0041】
オイルセパレータ48の下方のリアケーシング9には貯油室44が形成されており、オイルセパレータ48で冷媒から分離されたオイルは、オイルセパレータ48の下端からこの貯油室44に流入する。図中において43は、リアケーシング9からセンターケーシング6に渡って形成された背圧通路である。この背圧通路43はリアケーシング9内の吐出室27内(スクロール圧縮機構4の吐出側)のオイルセパレータ48と背圧室39とを連通する経路であり、実施例ではオリフィス50を有している。これにより、背圧室39には背圧通路43のオリフィス50で減圧調整された吐出圧が、オイルセパレータ48で分離された貯油室44内のオイルと共に供給されるように構成されている。
【0042】
この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、スクロール圧縮機構4の圧縮室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧縮室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0043】
また、可動スクロール22の鏡板31には、背圧室39と圧縮室34とを連通する背圧孔5が実施例では二箇所削設されている。各背圧孔5は、背圧室39内の圧力(背圧)が過剰になったときに、背圧室39から圧縮室34に圧力(冷媒とオイル)を逃がす役割を果たす。
【0044】
一方、インバータケース8は、内部にインバータ装置3が収容されるインバータ収容部13を構成するケース本体10と、このケース本体10の一端面の開口を閉塞する蓋部材15から構成されている。この蓋部材15はインバータ装置3をインバータ収容部13に収容した後、ケース本体10に取り付けられるものである。
【0045】
ステータハウジング7の端壁7A(隔壁)にはハーメチックプレート52が取り付けられており、このハーメチックプレート52には導電性のハーメチックピン53が取り付けられている。ハーメチックピン53の一端側は端壁7Aを貫通してモータ室12内に入り、モータ2のステータ25のコイルに接続されている。また、ハーメチックピン53の他端側はプレスフィット端子56を介してインバータ装置3の回路基板51に電気的に接続されている。
【0046】
(2)インバータ装置3
次に、
図2は前述したモータ2とインバータ装置3を含むスクロール式電動圧縮機1の電気回路を示している。実施例のインバータ装置3は、三相のインバータ回路61と、制御装置62を備えている。インバータ回路61は、直流電源(車両のHVバッテリ-:例えば、HV電圧300V)63の直流電圧を三相交流電圧に変換してモータ2に印加する回路である。
【0047】
このインバータ回路61は、U相ハーフブリッジ回路64U、V相ハーフブリッジ回路64V、W相ハーフブリッジ回路64Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路64U~64Wは、それぞれ上アームスイッチング素子66A~66Cと、下アームスイッチング素子66D~66Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子66A~66Fには、それぞれフライホイールダイオード67が逆並列に接続されている。尚、各スイッチング素子66A~66Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0048】
そして、インバータ回路61の上アームスイッチング素子66A~66Cの上端側は、直流電源63の上アーム電源ライン(正極側母線)68に接続されている。一方、インバータ回路61の下アームスイッチング素子66D~66Fの下端側は、直流電源63の下アーム電源ライン(負極側母線)69に接続されている。
【0049】
この場合、U相ハーフブリッジ回路64Uの上アームスイッチング素子66Aと下アームスイッチング素子66Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路64Vの上アームスイッチング素子66Bと下アームスイッチング素子66Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路64Wの上アームスイッチング素子66Cと下アームスイッチング素子66Fが直列に接続されている。
【0050】
そして、U相ハーフブリッジ回路64Uの上アームスイッチング素子66Aと下アームスイッチング素子66Dの接続点は、モータ2のU相の電機子コイルに接続され、V相ハーフブリッジ回路64Vの上アームスイッチング素子66Bと下アームスイッチング素子66Eの接続点は、モータ2のV相の電機子コイルに接続され、W相ハーフブリッジ回路64Wの上アームスイッチング素子66Cと下アームスイッチング素子66Fの接続点は、モータ2のW相の電機子コイルに接続されている。
【0051】
尚、図中71は低電圧電源(車両のLVバッテリ-:例えば、LV電圧12V)であり、制御装置62の電源となる。また、72は電流センサ(例えば、シャント抵抗)であり、下アーム電源ライン69に接続されてモータ2の相電流を検出するために用いられる。
【0052】
制御装置62は、プロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、制御装置62には電動車両の上記システムであるECU60から回転数指令値や停止指示等の駆動指示が入力される。即ち、制御装置62はECU60から回転数指令値を入力し、電流センサ72に基づくモータ2の相電流を入力して、これらに基づき、インバータ回路61の各スイッチング素子66A~66Fにスイッチング指示を出力して、それらのON/OFF状態を制御する。具体的には、各スイッチング素子66A~66Fのゲート電極に印加するゲート電圧を制御する。
【0053】
制御装置62は、電流センサ72により下アーム電源ライン69の電流値(シャント電流の値)を検出し、その電流値とモータ2の運転状態からUVW各相の相電流を算出・推定する。そして、実施例の制御装置62は、モータ2の回転数指令値から得られる電流指令値、推定された相電流に基づいてロータ29の位置(角度θ)を推定するセンサレスベクトル制御により、インバータ回路61のスイッチング素子66A~66Fをスイッチングして、モータ2のUVW各相の電機子コイルに相電圧を印加することで、ロータ29を回転駆動し、スクロール圧縮機構4の可動スクロール22を駆動するものである。尚、角度θとはこの出願では例えば電気角零度からの角度とする。
【0054】
(3)制御装置62によるモータ2の減速制御及びブレーキ制御
次に、
図3~
図6を参照しながら、制御装置62によるモータ2を停止する際の減速制御とブレーキ制御について説明する。尚、この実施例ではモータ2の減速制御に、後述するセンサレス減速制御と強制転流減速制御を含む。
【0055】
即ち、制御装置62は、この実施例では、電動車両のECU60からモータ2の停止指示を受信すると、
図3のステップS1で先ず固定スクロール21のラップ24により可動スクロール22の背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1(ロータ29の位置)を算出する。
【0056】
この背圧孔5が塞がれない状態を
図5に示している。この状態では、可動スクロール22の二つの背圧孔5は固定スクロール21のラップ24からずれており、背圧孔5は固定スクロール21のラップ24により塞がれておらず、開放(全開)されて中間圧部の圧縮室34と背圧室39とを連通している。制御装置62は可動スクロール22がこの
図5の位置(背圧孔5が塞がれない位置)となるロータ29の角度θ1を算出する。
【0057】
この背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1の算出の方法には以下のようなものがある。
(i)トルク脈動による相電流の振幅変化に基づく算出
図6はスクロール圧縮機構4の圧縮動作に伴って発生するトルク脈動によるモータ2の相電流の振幅変化を示している。この図に示すように冷媒を吐出する角度(吐出バルブ28が開く)で相電流の振幅は最大となり、冷媒を吸入する角度(吐出バルブ28が閉じる)で相電流の振幅は最小となる。
【0058】
制御装置62に背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1と、トルク脈動による相電流の振幅変化との相関関係(相電流と背圧孔が塞がれない角度との相関関係の一例)を予め実験により求め、記憶させておく。そして、制御装置62により、この相電流の振幅変化に基づき、上記ロータ29の角度θ1を算出する。
【0059】
(ii)相電流の最大値と最小値に基づく算出
或いは、上記のような相電流の振幅が最大/最小となる角度と、背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1との相関関係(相電流と背圧孔が塞がれない角度との相関関係の他の例)に基づいて算出するようにしてもよい。
【0060】
(iii)相電流のピーク値とフィルタ値に基づく算出
又は、相電流情報とフィルタ処理した遅い相電流情報との交差する角度と、背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1との相関関係(相電流と背圧孔が塞がれない角度との相関関係のもう一つの他の例)に基づいて算出するようにしてもよい。その場合は、
図8に示す如く相電流のピーク値(相電流情報)と、当該相電流をフィルタ処理したフィルタ値(フィルタ処理した遅い相電流情報)とが交差する角度と、背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1との相関関係を予め制御装置62に記憶させておく。
【0061】
(3-1)センサレス減速制御
次に、制御装置62はステップS2でセンサレス減速制御を実行する。
図4はモータ2の回転数Nの変化を示している。前述した如く制御装置62は通常の運転中、モータ2の回転数Nをセンサレスベクトル制御により制御しているが、電動車両のECU60からモータ2の停止指示を受信した時点から、センサレスベクトル制御によりスイッチング素子66A~66Fをスイッチングしてモータ2の回転数Nを低下させるセンサレス減速制御を実行する(
図4の(A)の領域)。このセンサレス減速制御では、所定の低下率で連続して回転数Nを低下させてよく、段階的に、即ち、減速と保持(回転数Nを低下させない)を繰り返す低下のさせ方でもよい。
【0062】
次に、制御装置62は
図3のステップS3でモータ2の回転数Nが所定の小さい値である規定回転数N1未満になったか否か判断し、規定回転数N1未満になっていなければステップS2に戻り、これを繰り返す。ここで、上記のようなセンサレス減速制御でモータ2の回転数Nが低下していくと、やがてロータ29の位置(角度θ)を推定できなくなってくる。
【0063】
(3-2)強制転流減速制御
そこで、制御装置62は上記センサレス減速制御によりモータ2の回転数Nが低下して規定回転数N1未満になった場合(規定回転数N1未満になった後)、ステップS4に進んで強制転流減速制御を実行する(
図4の(B)の領域)。この強制転流減速制御では、制御装置62は回転数を決めて強制的にスイッチング素子66A~66Fをスイッチングするフィードフォワードの強制転流制御により、モータ2の回転数Nを低下させていく。
【0064】
この強制転流減速制御では、所定の低下率で連続して回転数Nを後述する規定回転数N2まで低下させてもよく、規定回転数N2まで減速した後、或る期間回転数N2を保持するようにしてもよい。
【0065】
次に、制御装置62は
図3のステップS5でモータ2の回転数Nが前記規定回転数N1よりも小さい値であって零に到達する前の値である規定回転数N2(所定の低い値)未満になり、且つ、ロータ29の角度θが、ステップS1で算出した背圧孔5が塞がれない角度θ1となったか否か判断し、なっていなければステップS4に戻り、これを繰り返す。
【0066】
尚、モータ2の回転数Nは、強制転流制御なので制御装置62は自ら把握している。また、ロータ29の角度θは、前述したセンサレスベクトル制御で推定したロータ29の位置(角度)に、強制転流制御で把握できるロータ29の角度を加算して把握することができる。
【0067】
また、
図4の領域(A)のセンサレス減速制御ではモータ2の相電流を検出しているので、この実施例では、制御装置62はセンサレス減速制御における相電流に基づいて、強制転流減速制御における相電流の値を必要とされる適正な値に制御する。即ち、制御装置62はセンサレス減速制御における相電流の値からトルクを推定し、トルクが小さければ強制転流減速制御における相電流の値を小さくし、逆に大きければ大きくするように変更する。
【0068】
(3-3)ブレーキ制御
上記のような強制転流減速制御により、モータ2の回転数Nが規定回転数N2未満になり、且つ、ロータ29の角度θが角度θ1となった場合、即ち、回転数Nが規定回転数N2未満になった後、ロータ29の角度θが角度θ1となった場合、制御装置62はステップS5からステップS6に進み、ブレーキ制御を実行してロータ29の角度θを角度θ1に固定する。
【0069】
このブレーキ制御では、制御装置62は狙いの角度且つ狙いの出力電圧となるデューティーで各スイッチング素子66A~66FをONする電磁ブレーキを実行することで、モータ2に電流を流しながらロータ29の角度θを背圧孔5が塞がれない角度θ1に固定する(
図4の(C)の領域)。この場合、制御装置62は電磁ブレーキによりモータ2の相電流の値をフィードバック制御する。ここで、圧縮室34が複数、或いは、背圧孔5が単一又は一組の場合は、所定の回数だけ角度θ1を変更してもよい。
【0070】
この実施例では、このブレーキ制御においても制御装置62は、センサレス減速制御における相電流に基づいて、相電流の値を必要とされる適正な値に制御する。即ち、制御装置62はセンサレス減速制御における相電流の値からトルクを推定し、トルクが小さければブレーキ制御における相電流の値を小さくし、逆に大きければ大きくするように変更する。
【0071】
このようなブレーキ制御により、モータ2のロータ29の角度θは、角度θ1に固定されるので、スクロール圧縮機構4の圧縮室34内の圧力(冷媒とオイル)は背圧孔5から背圧室39に逃げていく。これにより、スクロール圧縮機構4の逆回転が回避されることになる。
【0072】
制御装置62は次にステップS7でブレーキ制御の開始から所定の規定時間t1が経過したか判断する。そして、経過していなければステップS6に戻り、ブレーキ制御を継続する。そして、ブレーキ制御の開始から規定時間t1が経過した場合、制御装置62はステップS8に進んでブレーキ制御を終了し、スイッチング素子66A~66Fを全てOFFする。
【0073】
以上、詳述した如く本発明によれば、制御装置62が、モータ2の停止指示を受信した後、当該モータ2の回転数Nを低下させるようにスイッチング素子66A~66Fをスイッチングする減速制御と、この減速制御によりモータ2の回転数Nが低下した後、可動スクロール22の背圧孔が塞がれない角度θ1にてモータ2のロータ29を停止させ、当該角度θ1にて固定するようにスイッチング素子66A~66Fをスイッチングするブレーキ制御を実行するようにしたので、モータ2が停止したとき、固定スクロール21のラップ24により可動スクロール22の背圧孔5が塞がれない角度θ1でロータ29は固定されるようになる。
【0074】
これにより、可動スクロール22の背圧孔5から早期にスクロール圧縮機構4内部の圧力を抜いて減少させることができるようになる。従って、ブレーキ制御を実行する時間も短くすることが可能となるので、スイッチング素子66A~66Fの発熱による故障や寿命短縮も最小限に抑制しながら、効果的に可動スクロール22の逆回転を防止し、スクロール圧縮機構4から生じる騒音の改善を図ることができるようになる。
【0075】
この場合、実施例では制御装置62が減速制御で、モータ2の停止指示を受信した後、センサレスベクトル制御によりモータ2の回転数Nを低下させるセンサレス減速制御と、このセンサレス減速制御によりモータ2の回転数Nが低下した後に、強制転流制御によりモータ2の回転数Nを所定の低い値に低下させる強制転流減速制御を実行するので、センサレス減速制御によりモータ2の回転数Nを早期に低下させ、位置検出が困難になる領域では強制転流減速制御によりモータ2の回転数Nを強制的に低下させることが可能となる。
【0076】
また、実施例では制御装置62が、センサレス減速制御における相電流に基づき、強制転流減速制御とブレーキ制御における相電流の値を制御するようにしたので、前述した如くセンサレス減速制御における相電流の値が小さいときには強制転流減速制御やブレーキ制御における相電流の値もそれに応じて小さくすること等により、安定的且つ効率的に強制転流減速制御やブレーキ制御を実行することが可能となる。
【0077】
また、実施例では制御装置62が、モータ2の回転数Nが零に到達する前にブレーキ制御を実行するようにしたので、ロータ29を停止させて固定する角度θを、可動スクロール22の背圧孔5が塞がれない角度θ1に的確且つ容易に合わせることが可能となる。その際、実施例では電磁ブレーキによりモータ2の相電流の値をフィードバック制御するようにしたので、発電ブレーキで懸念される回生電流による過剰な相電流の跳ね上がりを防止し、スイッチング素子等の故障が発生する不都合も未然に回避することが可能となる。
【0078】
尚、実施例ではステップS1で背圧孔5が塞がれない角度θ1を制御装置62が算出し、ステップS5でロータ29の角度がこの算出された角度θ1となったことを検出するようにしたが、算出すること無く、以下のようにステップS5で角度θ1を検出するようにしてもよい。
【0079】
(ア)予め決定されたロータ29の角度に基づく検出
背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1を予め実験により求め、制御装置62に記憶させておく。そして、前述したセンサレスベクトル制御で推定したロータ29の位置に、後述する強制転流制御で把握できるロータ29の位置を加算した角度θが、角度θ1となったことで、ロータ29の角度が角度θ1となったことを検出する。
【0080】
(イ)ロータ29の角度θ(位置)を検出するセンサによる検出
背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1を予め実験により求め、制御装置62に記憶させておく。更に、ロータ29の位置検出センサを設けておき、このセンサの出力に基づき、背圧孔5が塞がれないロータ29の角度θ1となったことを検出する。
【0081】
ステップS5では制御装置62が、ステップS1で角度θ1を算出し、ロータ29の角度θがこの角度θ1になったことを前述の如く検出するか、上記(ア)、(イ)の何れかの方法で検出するか、或いは、それらの組み合わせでロータ29の角度θが角度θ1になったことを検出するようにしてもよい。
【0082】
また、実施例では制御装置62が、背圧孔5が塞がれない角度θ1にてロータ29を停止させ、固定するようにしたが、吐出孔26のクリアランスを設定する吐出バルブ28を使用する場合には、固定スクロール21の鏡板23の渦巻きの中央にある吐出孔26が可動スクロール22のラップ32により塞がれない角度をθ1とし、この角度θ1にてロータ29を停止させ、固定するようにしてもよい。それによっても、吐出孔28から早期にスクロール圧縮機構4内部の圧力を抜いて減少させることができるようになる。
【0083】
また、実施例では減速制御において制御装置62がセンサレス減速制御と強制転流減速制御を実行するようにしたが、請求項1の発明では、減速制御の全てを強制転流減速制御としてもよい。更に、実施例では規定回転数N1でセンサレス減速制御から強制転流減速制御に切り替えるようにしたが、それに限らず、センサレス減速制御において回転数Nが低下し、センサレスベクトル制御が困難になって相電流が増大する等の相電流の変化に基づいて強制転流減速制御に切り替えるようにしてもよい。
【0084】
また、実施例では規定回転数N2に基づいて強制転流減速制御からブレーキ制御に切り替えるようにしたが、それに限らず、スクロール圧縮機構4の残圧の状況に基づいて切り替えるようにしても良い。その場合は、モータ2の回転数Nが規定回転数N2に低下した時点でそれを保持する。規定回転数N2に保持していると、スクロール式電動圧縮機1の吸入圧は上昇するため、吸入圧に起因するモータ負荷トルクは上昇する。一方で、スクロール式電動圧縮機1の吐出圧は下降するため、吐出圧に起因するモータ負荷トルクは下降する。係るメカニズムを利用してスクロール圧縮機構4の残圧の状況を把握し、強制転流減速制御からブレーキ制御に移行するようにしてもよい。その際の圧力情報は 通電電流と印加電圧情報から設定しても良いし、電動車両のECU60から圧力センサ情報を取得しても良く、スクロール式電動圧縮機1自体にセンサを設けて、その情報を利用するようにしてもよい。
【0085】
また、実施例では強制転流減速制御とブレーキ制御の双方において、センサレス減速制御における相電流に基づき相電流の値を変更するようにしたが、強制転流減速制御とブレーキ制御のうちの何れか一方のみで行うようにしてもよい。
【0086】
また、実施例ではセンサレス減速制御における相電流に基づき、強制転流減速制御やブレーキ制御における相電流の値を変更するようにしたが、それに限らず、スクロール圧縮機構4の圧力状態(上記残圧の状況)に基づいて強制転流減速制御やブレーキ制御における相電流の値を変更するようにしてもよい。その場合は、例えばスクロール圧縮機構4の残圧が小さいときには強制転流減速制御やブレーキ制御における相電流の値もそれに応じて小さくする。
【0087】
また、実施例では車両用の空調装置の冷媒回路に使用されるスクロール式電動圧縮機1に本発明を適用したが、それに限らず、各種冷凍装置の冷媒回路で使用されるスクロール式電動圧縮機に本発明は有効である。更に、実施例では所謂インバータ一体型のスクロール式電動圧縮機に本発明を適用したが、それに限らず、インバータを一体に備えない通常のスクロール式電動圧縮機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 スクロール式電動圧縮機
2 モータ
3 インバータ装置
4 スクロール圧縮機構
5 背圧孔
21 固定スクロール
22 可動スクロール
23、31 鏡板
24、32 ラップ
26 吐出孔
27 吐出室
29 ロータ
34 圧縮室
61 インバータ回路
62 制御装置
63 直流電源
66A~66F スイッチング素子
72 電流センサ