(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061118
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミドナノファイバー不織布および糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4342 20120101AFI20240425BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20240425BHJP
【FI】
D04H1/4342
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168845
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】丸田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊巳
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 秀樹
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA24
4L047AB02
4L047AB08
4L047CA19
4L047CC12
4L047CC14
(57)【要約】
【課題】 芳香族ポリアミドの種類、結晶形態と形状と関係なく、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドの混合液に溶解した芳香族ポリアミド溶液を用いた電界紡糸法による芳香族ポリアミド連続ナノファイバー糸又はその不織布及びその製造方法の提供。
【解決手段】 本発明の電界紡糸溶液は、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶液に溶解した芳香族ポリアミド溶液を用い、平均繊維系100nm未満の芳香族ポリアミドナノファイバー糸及び、厚み0.5μm以上20μm未満、且つ目付が0.5g/m
2以上3.0g/m
2未満の芳香族ポリアミド不織布のであることを特徴とする電界紡糸芳香族ポリアミドナノファイバー不織布であることを特徴とする。前記不織布は電池用セパレータ及び該当セパレータを具備するリチウムイオン二次電池が好ましい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の製造方法であって、下記式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶媒に芳香族ポリアミドを溶解して得られた溶液を電界紡糸することにより製造する芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の製造方法。
【化1】
式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表す。
【請求項2】
ポリパラフェニレンテレフタルアミドとポリメタフェニレンイソフタルアミドを少なくとも一つ以上を含むナノファイバー糸からなる不織布であって、ナノファイバーの平均繊維径が100nm未満、不織布の厚みが0.5μm以上20μm未満、且つ目付が0.5g/m2以上3.0g/m2未満であることを特徴とする電界紡糸芳香族ポリアミドナノファイバー不織布。
【請求項3】
請求項2に記載の電界紡糸芳香族ポリアミドナノファイバー不織布を用いた電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項3に記載のセパレータを具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
芳香族ポリアミドナノファイバー糸の製造方法であって、下記式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶媒に芳香族ポリアミドを溶解して得られた溶液を電界紡糸することにより製造する芳香族ポリアミドナノファイバー糸の製造方法。
【化1】
式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸法を用いて芳香族ポリアミドナノファイバー不織布および糸の製造、ならびに、得られる芳香族ポリアミドナノファイバー不織布とその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドは、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のパラ系芳香族ポリアミド、及びポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ系芳香族ポリアミドがあり、ともに繊維として実用化されている。芳香族ポリアミドは機械的特性・耐熱性・難燃性・電子絶縁性・電解液の濡れ性に優れたため、LIB等の二次電池用セパレータ材料として好適である。
【0003】
一方、二次電池の小型化・高エネルギー密度化が進行している中、セパレータの薄型化と微細孔化が必要となり、通常の芳香族ポリアミド繊維不織布は適用できなくなった。その代わりに芳香族ポリアミドナノファイバー不織布、特に機械的特性に優れた芳香族ポリアミド連続ナノファイバー糸不織布が期待されている。
しかしながら、芳香族ポリアミドは有機溶剤への溶解性が極めて悪いため芳香族ポリアミドナノファイバー、特に芳香族ポリアミド連続ナノファイバー糸不織布の作製は非常に困難である。
【0004】
特許文献1には、無機塩を含有するアミド系溶媒を用い芳香族ポリアミドの溶解法を記載されるが、溶解度が低いため電界紡糸法に適用でき難い。また、溶解に用いた溶媒は芳香族ポリアミドの60~200重量%の無機塩を含んでいるため電界紡糸後無機塩はナノファイバーに残留する恐れがある。
【0005】
特許文献2には、界面重合法により製造したポリメタフェニレンイソフタルアミド粉未をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し湿式紡糸法で不織布を作成する方法が記載されているが、得られた微細繊維の繊維径が400nm以上、不織布の厚みは16μm以上、目付は9g/m2以上である。
【0006】
特許文献3にはアラミド繊維不織布とその製造方法が記載されているが、特許文献2と同じ湿式法で製作したアラミド繊維で構成された不織布であって、アラミド繊維の平均繊維直径が0.1~3000μmであり、不織布の、目付が3~1000g/m2、厚みが1~100μmである。
【0007】
特許文献4には、平均繊維直径5μm以上の基材繊維シートの上に電界紡糸法(エレクトロスピニング法)でメタアラミドナノファイバーを積層した積層又は混合されて一体化されたクリーニングシートが記載されているが、得られた不織布の目付は5g/m2以上である。加えて、ポリメタフェニレンイソフタルアミドパウダーが塩化リチウムとN,N-ジメチルアセトアミドの混合液に溶解させたものを紡糸溶液として用いたため得られたナノファイバーに塩化リチウムが含まれる。
【0008】
特許文献6(特開2012-209181)には、2層以上からなる芳香族ポリアミドセパレータの製造方法が記載されている。しかし、一方の層が、平均繊維径が0.5~10μmの芳香族ポリアミド連続繊維を含み、かつ目付が3~50g/m2の不織布からなり、他方の層が、平均繊維径が1~400nmの芳香族ポリアミド極細繊維を含み、かつ目付が、0.1~2g/m2の繊維構造体からなるセパレータである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-241624号公報
【特許文献2】特開2012-9165号公報
【特許文献3】特開2013―139652号公報
【特許文献4】特開2010-250220号公報
【特許文献5】特開2012-209181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、芳香族ポリアミドを溶媒に溶解させて、電界紡糸法を利用して芳香族ポリアミド連続ナノファイバー不織布およびその製造方法、前記不織布を具備する電池用セパレータ、リチウムイオン二次電池並びに芳香族ポリアミド連続ナノファイバー糸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、以下に示す発明を完成するに至った。
【0012】
〔1〕 芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の製造方法であって、下記式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶媒に芳香族ポリアミドを溶解して得られた溶液を電界紡糸することにより製造する芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の製造方法。
【化1】
式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表す。
〔2〕 ポリパラフェニレンテレフタルアミドとポリメタフェニレンイソフタルアミドを少なくとも一つ以上を含むナノファイバー糸からなる不織布であって、ナノファイバーの平均繊維径が100nm未満、不織布の厚みが0.5μm以上20μm未満、且つ目付が0.5g/m
2以上3.0g/m
2未満であることを特徴とする電界紡糸芳香族ポリアミドナノファイバー不織布。
〔3〕 前記〔2〕に記載の電界紡糸芳香族ポリアミドナノファイバー不織布を用いた電池用セパレータ。
〔4〕 前記〔3〕に記載のセパレータを具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
〔5〕 芳香族ポリアミドナノファイバー糸の製造方法であって、下記式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶媒に芳香族ポリアミドを溶解して得られた溶液を電界紡糸することにより製造する芳香族ポリアミドナノファイバー糸の製造方法。
【化1】
式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電界紡糸液と紡糸法により得られた芳香族ポリアミドナノファイバー糸および不織布は、芳香族ポリアミドナノファイバー糸および不織布の繊維径が小さく、不織布は薄くて目付が低い。
【0014】
本発明により得られた芳香族ポリアミドナノファイバー糸の不織布は、アラミド本来の機能性を持つことに加え、ナノ構造制御による高エネルギー密度化が期待できるため様々な応用展開が可能です。その一例として高機能LIB用セパレータが挙げられる。
【0015】
本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー不織布は、その特性から電池用セパレータとして使用することができ、耐熱性、耐薬品性、絶縁性に加え、抵抗が低く、二次電池の小型化・高エネルギー密度化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】実施例1で得た芳香族ポリアミドナノファイバー糸のSEM写真と繊維径の評価結果
【
図3】実施例2で得た芳香族ポリアミドナノファイバー糸のSEM写真と繊維径の評価結果
【
図4】実施例3で得た芳香族ポリアミドナノファイバー糸のSEM写真と繊維径の評価結果
【
図5】実施例4で得た芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の外観とSEM写真
【
図6】実施例4で得た芳香族ポリアミドナノファイバー不織布のTMAチャート
【
図7】実施例5で評価した芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の充放電時の電圧と充放電容量の変化グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー不織布は芳香族ポリアミド連続ナノファイバー糸が集積して形成される。本発明の芳香族ポリアミド連続ナノファイバー糸とは、電界紡糸の連続射出により得た連続ナノファイバーのことであり、物理的方法、機械的方法又は化学的方法により芳香族ポリアミド繊維を解きほぐし調製した芳香族ポリアミドナノファイバーと異なる。
【0018】
本発明に用いられた芳香族ポリアミドは、特に制限がなく、結晶化度と重合度に関わらず、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のパラ系芳香族ポリアミド、及びポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ系芳香族ポリアミド又はそれらの誘導体などが適用できる。
【0019】
その中でも、東レ・デュポンのケブラー(登録商標)(PPTA)、帝人テクノプロダクツのトワロン(登録商標)(PPTA)とテクノーラ(登録商標)(共重合型アラミド)等のパラ系アラミド、デュポンのノーメックス(登録商標)(メタ系アラミド)と帝人のコーネックス(登録商標)(メタ系アラミド)等のメタ系アラミドは優れた機械特性、熱特性と耐薬品性を持ち、広い分野で応用されているためより好ましい。これらのアラミドは市販されており、原料として市販品が利用できる。
【0020】
本発明に用いられる芳香族ポリアミドの溶解に用いられる溶媒は、前記〔1〕中に示した化学式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶媒である。本発明は、従来の芳香族ポリアミドの溶解に使用される硫酸または、塩化カルシウムとNMPを使用しないため高い絶縁性と安全性が期待できる。
【0021】
芳香族ポリアミドを溶解する溶媒の成分の一つである水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)は、前記の化学式のR1~R4が、炭素数1~5のアルキル基である水酸化テトラアルキルアンモニウムであれば何の制限もなく、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
具体的な化合物を例示すると以下のような化合物を例示できる。
水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化メチルトリプロピルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、水酸化エチルトリプロピルアンモニウム、水酸化エチルトリブチルアンモニウム、水酸化プロピルトリブチルアンモニウム、水酸化ジメチルジプロピルアンモニウム、水酸化ジメチルトリブチルアンモニウム、水酸化ジエチルジプロピルアンモニウム、水酸化ジエチルジブチルアンモニウム、等であり、特に好ましくは、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)および水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)である。
【0023】
芳香族ポリアミドの溶解に用いられる水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)は、水溶性であり、水溶液の状態で安定であり、主な物は、市販の薬品が水溶液で市販されており入手が容易である。
芳香族ポリアミドの溶解溶媒は、水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)、水及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含むため、TAAHは水溶液としてDMSOと混合して溶解剤とすることができる。
【0024】
本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒は、TAAH、水およびDMSOから構成され、その構成比は、TAAHが0.5~40wt%、水が0.5~45wt%、DMSOが15~99wt%の濃度範囲内になるように調整される。より好ましくは、TAAHが2~35wt%、水が2.0~40wt%、DMSOが25~96wt%、さらに好ましくは、TAAHが2.0~30wt%、水が3.0~35wt%、DMSOが35~95wt%、最も好ましくは、TAAHが3.0~25wt%、水が4~30wt%、DMSOが45~93wt%の濃度範囲内になるように調整される。
【0025】
TAAHの濃度が0.5wt%より低くなると溶解度と溶解速度が低いため好ましくない。一方、40wt%より高くなると芳香族ポリアミドの溶解性が低下したり、必要な溶解温度は高くなったりする。また、得られた芳香族ポリアミド溶液を室温で保存する時に芳香族ポリアミドが析出する恐れがあるため好ましくない。
【0026】
水の濃度は0.5wt%より低くなると芳香族ポリアミドの溶解性が低下したり、TAAHが不安定で分解したりする恐れがあるため好ましくない。一方、45wt%より高くなると芳香族ポリアミドの溶解性が低下するため好ましくない。
【0027】
溶媒は、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシド以外に、他の有機溶媒を含むこともできる。例えば、アルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリトン、ピリジンが挙げられる。これらの溶媒を添加することで芳香族ポリアミドの溶解を改善したり、芳香族ポリアミド溶液の粘度と紡糸性を改良したりすることができる。
【0028】
芳香族ポリアミド溶解溶媒の調製方法は、特に制限はない。例えば、通常市販から購入したTAAH水溶液を所望の濃度まで調製した後、そこにDMSOを加えて攪拌することで芳香族ポリアミド溶解溶媒が得られる。市販TAAH水溶液がTAAHの濃度が、水の濃度を最適範囲にしたときに所望濃度より低い場合、使用する前に蒸留し所望水分率まで濃縮してから使用することが好ましい。また、所望濃度より高い場合、水を加え希釈してから使用する。TAAH/水の重量比は20/80~60/40が好ましい。より好ましくは30/70~60/40、最も好ましくは35/65~55/45である。
混ぜる時の温度に特に制限しないが、10~120℃が好ましい。さらに好ましくは15~100℃、最も好ましくは23~85℃である。
【0029】
本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒に芳香族ポリアミドを溶解する方法は、特に制限はない。例えば、既定量の本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒に芳香族ポリアミドを加え、透明な溶液になるまで攪拌することで芳香族ポリアミド溶液を調製する。攪拌は、通常用いられる機械式撹拌機で攪拌すればよい。ビーカースケールならマグネティックスターラーの攪拌で十分である。溶解する時の温度は、10~150℃であればよく、室温で温度調整せずに溶解させればよい。10℃より低くなると芳香族ポリアミドの溶解度または溶解速度が低いため好ましくない。150℃より高くなると水が蒸発したり、TAAHが分解したり分解したりする恐れがあるため好ましくない。より好ましくは15~140℃、さらに好ましくは15~130℃、最も好ましくは23~125℃である。
【0030】
芳香族ポリアミドの溶解量は、特に制限しない。芳香族ポリアミドの種類、重合度(分子量)及び電界紡糸条件により適宜に調整すればよい。例えば、3~50wt%である。より好ましくは4~40wt%、最も好ましくは5~30wt%である。溶解量が低すぎると紡糸性が悪くなったり、ナノファイバーや不織布の生産性が低くなったりする恐れがあるため好ましくない。一方、溶解量が高すぎると、溶液の粘度が高くなったり、芳香族ポリアミド溶液の均一性が低下したりすることにより、得られた芳香族ポリアミド溶液の電界紡糸性が失われたり、ナノファイバーが弱くなったりする恐れがあるため好ましくない。
【0031】
前記の芳香族ポリアミド溶液をそのまま電界紡糸液として用いることができるが、場合により電界紡糸性を改善するため、前記の芳香族ポリアミド溶液に他の有機溶媒を加えることが好ましい。有機溶媒の例として、ケトン類、アルコール類及びN,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリトン等の窒素系溶媒が挙げられる。その中に、アルコール類とケトン類の揮発性が良好であるためより好ましい。さらに好ましくはアセトン、エタノールとイソプロパノール(IPA)である。これらの溶媒を添加することで電界紡糸性と紡糸速度を改善したり、芳香族ポリアミドナノファイバー糸や不織布の形状と物性を制御したりすることができる。
【0032】
本発明では、前記の芳香族ポリアミド溶液を用い電界紡糸法で芳香族ポリアミドナノファイバー不織布又は糸を成形する。一般的方法としては、芳香族ポリアミド溶液を高電圧印加したシリンジ針の先端から対極のターゲットに射出させることによってナノファイバー不織布又は糸をターゲット上に集積することである。芳香族ポリアミド溶液の濃度、印加電圧、射出速度及び環境温度などの因子を制御することによりナノファイバー径を制御することができる。
【0033】
本発明の芳香族ポリアミド溶液を用いた電界紡糸は、一般的に乾式成形法と湿式成形法のいずれも適用することができる。乾式法の場合、芳香族ポリアミド溶液をシリンジに充填した後、ノズル(シリンジ針)を付けてからシリンジポンプ又はマイクロフィーダーに装着し、芳香族ポリアミド溶液を吐出する。このときノズルと対極のターゲット間に電圧を印加することで、芳香族ポリアミドナノファイバーが生じ、ターゲットに集積する。
【0034】
本発明のアラミド溶媒の沸点が高いため周りの環境やターゲットを加熱しながら電界紡糸することが好ましい。加熱温度は50~300℃、より好ましくは60~200℃、もっと好ましくは70~180℃である。加熱することでDMSOを除くことだけでなく、水酸化テトラアルキルアンモニウムを分解ガスとして除去できる。また、電界紡糸後ナノファイバー糸又は不織布を150~250℃で熱処理することや、水又はアルコール中に入れて浸漬、洗浄することにより水酸化テトラアルキルアンモニウムとDMSOを残さずに除去することができる。浸漬、洗浄後ナノファイバー糸又は不織布を風乾又は加熱乾燥により溶媒を除き、ナノファイバー不織布又は糸を得る。
【0035】
一方、湿式法の場合は、対極のターゲットを液浴中に設置する。ノズルから芳香族ポリアミド溶液を水又はアルコールなどの液浴に向けて吐出し、ナノファイバー糸を浸漬、洗浄した後、乾燥することで芳香族ポリアミドナノファイバー不織布又は糸を調製する。
【0036】
また、電界紡糸は、電荷の反発力が紡糸液の表面張力に打ち勝って生じるので、紡糸液の表面張力は、得られる繊維の繊維径に影響し、一般に表面張力が低ければ繊維径が細くなり、高ければ太くなる。また、紡糸液の表面張力は、大きすぎるとエレクトロスピン現象が生じ難くなって繊維径が大きくなるばかりか、液球の飛散を生じるため、70ダイン以下が好ましい。同様により好ましくは60ダイン以下、最も好ましくは50ダイン以下である。本発明の電界紡糸条件としては、電圧は2.0~70kv、特に好ましくは、15~30kvである。紡糸距離は、3.0~30cmであり、好ましくは、8.0~20cmである。
【0037】
電界紡糸の流量条件としては、0.1~20μL/min、好ましくは0.5~5μL/minである。
【0038】
アミドナノファイバー不織布又は糸は、ターゲットを変えることにそれぞれ製造することができる。
【0039】
最初に、電界紡糸法によって不織布を製造する方法について説明する。
不織布を製造する場合は、ターゲットには金属基板を用いる。金属基板の表面には電界紡糸を妨げない範囲で有機フィルムや膜を貼ることもできる。金属基板を上下左右に移動することにより、基板上にナノファイバーが連続的にランダムに集積し、不織布が形成される。用途によりナノファイバーを並列する必要がある場合、ロール状なターゲットを用い、ターゲットを回転しながら集積すると並列に配列したナノファイバーを有する不織布が得られる。不織布の厚みは集積時間と紡糸液の吐出速度により制御できる。ターゲット上に形成した不織布は、ターゲットから剥がし取り、電池用セパレータや絶縁紙などとして利用することができる。
【0040】
前記のように製造される本発明の電界紡糸芳香族ポリアミドナノファイバーは、ナノファイバーの平均繊維径が100nm未満、不織布の厚みが0.5μm以上20μm未満、且つ目付が0.5g/m2以上3.0g/m2未満であることが好ましい。
【0041】
不織布の厚みは0.5μm以下になると不織布は十分の強さを担保できないため好ましくない。一方、20μm以上になると抵抗が高くなるため好ましくない。もっと好ましい厚みは0.7~1.8μmとである。不織布の目付は0.5g/m2より低くなると十分の強さを担保できない、且つ細孔径が大き過ぎる恐れがあるため好ましくない。一方、3.0g/m2より大きくなると抵抗が大きくなるため好ましくない。もっと好ましくは0.6~2.8g/m2である。
【0042】
また、好ましい芳香族ポリアミドナノファイバー不織布は、ポリパラフェニレンテレフタルアミドとポリメタフェニレンイソフタルアミドを少なくとも一つ以上を含むナノファイバーからなる不織布である。
【0043】
また、好ましい芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の線膨張係数は25×10-6/K未満である。より好ましくは20×10-6である。線膨張係数は25×10-6/Kより小さくなると電池セパレータに好適である。
【0044】
以上の特徴を有する不織布は、電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【0045】
次に、電界紡糸法によって糸を製造する方法について説明する。
本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー糸の製造は、電界紡糸法のターゲットを変更することにより、不織布の製造と同様に電界紡糸法で糸を製造することができる。糸を製造するには、通常、電界紡糸法で糸を製造する方法によれば良い。一例を示すと、回転するロール状ターゲットに向けて電解液を射出することにより、ナノファイバーをロール状ターゲットに配列して糸を集積することができる。
【0046】
得られる芳香族ポリアミドナノファイバー糸は樹脂の補強材として好適である。また、ターゲットを回転するとナノファイバーが不織布を得られる。
【0047】
本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー不織布又は糸は、電界紡糸装置のターゲット上に形成され、その後不織布をターゲットから回収する。必要に応じて紡糸後水洗することも可能である。ナノファイバー糸の場合、樹脂補強材としての応用が期待できる。
(電池セパレータ)
【0048】
本発明の電界紡糸芳香族ポリアミドナノファイバー不織布は、電池用セパレータとして用いることができる。
【0049】
本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー不織布を電池用セパレータとして使用した場合、その特性から電池用セパレータとして使用することができ、耐熱性、耐薬品性、絶縁性に加え、抵抗が低く、二次電池の小型化・高エネルギー密度化を実現できる。
【0050】
本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー不織布は、以上のように電池のセパレータとしての優れた性能を有するものであるが、電池の中でもセパレータのシャットダウン性能が強く要求されるリチウムイオン二次電池用セパレータとして用いる場合は、網目状または多孔質状の熱可塑性樹脂と複合したセパレータとして用いられるのが最も好ましい。
【0051】
本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー不織布を用いたセパレータは、リチウムイオン二次電池の製作に用いることができる。本発明の芳香族ポリアミド不織布をセパレータとするリチウムイオン二次電池は、従来のセパレータに替えて本発明の芳香族ポリアミド不織布を使用することにより、従来のリチウムイオン二次電池の製造方法と同様に製造することができる。
【0052】
熱可塑性樹脂と芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の複合セパレータは、電界紡糸におけるターゲット面に網目状または多孔質状の熱可塑性樹脂を固定し、電界紡糸法により、その面上に直接に芳香族ポリアミドナノファイバーを集積することにより製造できる。複合化の方法と手順について特に制限しない。例えば、同じ電界紡糸でターゲット面に熱可塑性樹脂ナノファイバー不織布を形成した後、その上に更に芳香族ポリアミドナノファイバー不織布を集積することにより複合体セパレータを製造できる。或いは、ターゲット面に芳香族ポリアミドナノファイバー不織布を形成した後、その上にさらに熱可塑性樹脂ナノファイバーを集積することにより複合セパレーターを製造できる。芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の両面をそれぞれ熱可塑性樹脂で形成した網目状または多孔質状膜と複合することもできる。
【0053】
前記複合セパレータは、セパレータには機械的強度と溶融形状保持性に加えて、異常反応が起こって電池内に高温な条件が発生した場合、セパレータの穴が塞がり、電極間のリチウムイオンの流れを停止して安全に電位の機能を停める機能、所謂、シャットダウン機能を有し、電池に異常が生じた時の安全性を確保することができる。
【0054】
前記熱可塑性樹脂の種類について特に制限しないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンなどのポリアラミド、ポリカーボネート、ポリ乳酸又はポリブチレンサクシネート(PBS)などのポリエステルが好ましい。一方、リチウムイオンの流れをシャットダウンした後、電池内の温度上昇による電極間の短絡を防ぐためセパレータの溶融形状保持性を担保することを兼備するため熱可塑性樹脂と芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の重量比は、熱可塑性樹脂:芳香族ポリアミドナノファイバー不織布=5:95~50:50が好ましい。熱可塑性樹脂の重量比が5wt%より低くなるとセパレータの溶融形状保持性が低下し電極間の短絡が生じる恐れがあるため好ましくない。さらに好ましくは10:90~45:55、最も好ましくは20:80~40:60である。
【0055】
また、本発明のリチウムイオン二次電池に用いるセパレータの製造は、表面に網目状または多孔質状の熱可塑性樹脂を有する正極又は負極を電界紡糸のコレクタとし連続的な電界紡糸法によって、セパレータ-電極一体型素子として製造することができる。
【0056】
本発明のセパレータを用いることにより、従来の組み立て方法により、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0058】
(芳香族ポリアミドの溶解例1)
20mlのバイアル瓶にDMSO3.0gと48%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液2.0gを加え、磁性スターラーで攪拌しながら市販メタアラミド短繊維1.2gを加え、120分攪拌した。黄色の透明溶液が得られた。
【0059】
(芳香族ポリアミドの溶解例2)
DMSO4.2gと48%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.8gを用いた以外、溶解例1と同じ手法でメタアラミド短繊維0.75gを溶解した。黄色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は120分であった。得られた溶液は室温で流動性を有した。
【0060】
(芳香族ポリアミドの溶解例3)
20mlのバイアル瓶にDMSO4.5gと48%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.5gを加え、溶解例1と同じ手法でケブラー繊維0.35gを溶解した。
【0061】
(電界紡糸)
図1の電界紡糸装置の概略図に示す。
電界紡糸装置は、高電圧電源(メック社製HVU-30P100)、マイクロシリンジポンプ(Chemyx社製Fusion Touch 100)、ターゲット(15cm×15cmのステンレス板やアルミニウム板)用いて株式会社KRIが組み立てた電界紡糸装置を用いた。
【0062】
前記装置を用いて、前記芳香族ポリアミドの溶解液の電界紡糸を行った。シリンジ(針の内径0.22mm)で電界紡糸液を吸い込み、シリンジ針を装着した後シリンジポンプに固定し、次に示す紡糸条件で芳香族ポリアミドナノファイバー糸及び不織布を形成した。
・シリンジ針先とターゲット間距離:20cm
・エレクトロスピニング電圧:16kv
・吐出速度:0.003ml/分
・ターゲットをドライヤー温風で加熱しながら温度を110℃に維持した。
【0063】
(芳香族ポリアミドナノファイバー糸又は不織布のSEM観察)
ナノファイバー不織布の繊維径は、電界紡糸の射出時間を短くして薄い膜を形成させて、走査電子顕微鏡(日立ハイテク社のSU3500系)を用いて観察することにより測定した。低真空モード(真空度30Pa、加速電圧15kv)で観察した。
【0064】
(芳香族ポリアミドナノファイバー糸又は不織布の平均繊維径の評価)
芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の薄層を平均繊維径は、実施例1~3で形成した不織布の薄層を1万倍のSEM画像により観察した。SEM画像からランダムに20本以上のナノファイバーを選択し、それぞれの繊維径を計測し平均値を算出した。
【0065】
(芳香族ポリアミドナノファイバー不織布の評価)
不織布の膜厚はミツトヨ社製のシックネスゲージ(機種No.7301)で測定する。また、目付の測定については、不織布を5cm×5cmに裁断し、マイクロ電子天秤で重さを秤量して算出した。不織布の線膨張係数とガラス転移温度は、熱機械分析装置(TMA)を用いて窒素雰囲気中で測定した。なお、TMA装置として島津製作所社のTMA―60を用い、23~300℃の測定温度範囲、5℃/分の昇温速度で測定した。
【0066】
(リチウムイオン二次電池セパレータとしての評価)
電界紡糸により調製した芳香族ポリアミド不織布を用いリチウムイオン二次電池を作成し、電池特性を評価するにあたり、正極としてLiFePO4、導電助剤、バインダー の合剤をアルミニウムの集電体に塗布したもの、負極として金属Li、電解液としてEC/EMC とLiPF6を用い電池評価用セルを作成し、充放電速度として0.1 C で充放電評価を行う。
【0067】
[実施例1]
溶解例1で得た芳香族ポリアミド溶液5gにアセトン1mlを加え、均一まで攪拌した後超音波により脱泡し、紡糸液とした。その中に固形分濃度は16.6重量%であった。1mlのシリンジで紡糸液を吸い込んでからシリンジ針を装着し、シリンジポンプに固定した。前記に示す電界紡糸条件でナノファイバーを調製した。ターゲットとしてステンレス板上にポリイミドフィルムを貼って用い、そこに3分間射出することでナノファイバーを得た。得られたナノファイバーをSEM観察した。ナノファイバーの繊維径は
図2に示すに77nmであった。
【0068】
[実施例2]
溶解例1で得た芳香族ポリアミド溶液5gにIPA2mlを加え、均一まで攪拌した後超音波により脱泡し、電界紡糸液とした。固形分濃度は14.6重量%の紡糸液となった。この電界紡糸液を用い実施例1と同じ紡糸条件でナノファイバーを調製した。得られたナノファイバーをSEM観察した。ナノファイバーの繊維径は
図3に示すに75nmであった。
【0069】
[実施例3]
溶解例2と3で得た溶液を混合した後5gを採集し紡糸液とした。実施例1と同様に紡糸液を調製し電界紡糸を行った。得られたナノファイバーのSEM写真を
図4に示す。平均繊維径は74nmであった。
【0070】
[実施例4]
ターゲットとしてポリイミドフィルムに代えてステンレス板に直接に射出した以外実施例1と同様に電界紡糸を行った。ターゲットに連続1時間紡糸液を射出することにより不織布を調製した。得られた不織布がステンレス板に付いたままで蒸留水浴に入れて数時間浸漬し、DMSOとテトラエチルアンモニウム水酸化物を除いた。蒸留水浴を繰り返し3回変えた後風乾させた後不織布を剥離した。得られた不織布の外観を
図5(左)に示す。不織布の厚みと目付を測った結果、それぞれは13.2μmと1.41g/m
2であった。
不織布をSEMで観察し、得られたSEM写真を
図5(右)に示す。TMA(熱メカニカル分析)で不織布の熱特性を評価し、得られたTMAチャートを
図6示す。線膨張係数は17ppm/K、ガラス転移温度は265℃であった。
【0071】
[実施例5]
実施例4で得られた芳香族ポリアミドナノファイバー不織布を用いリチウムイオン二次電池を作成し、電池特性を評価した。電解液への濡れ性も一般的セパレータと同程度であり、
図7に示す如く、一般的なセパレータを用いた場合と同程度の容量を得ることができた。
【0072】
[比較例1]
DMSO3.0gと48%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液2.0gに代えて、塩化カルシウム0.25gとN-メチル-2-ピロリドンと(NMP)4.75gを用いた以外、溶解例1と同様にメタアラミドを5時間攪拌し続いた後、不透明薄黄色のペースト状分散液となった。この分散液を用いて実施例1と同様に電界紡糸を行ったが、糸の形成が出来なかった。
【0073】
実施例1~4は、電界紡糸法により芳香族ポリアミドナノファイバー糸又は不織布を製作できた。実施例5より、本発明の芳香族ポリアミドナノファイバー不織布は、二次電池用のセパレータとして使用可能であるだけでなく、耐熱特性を具備するセパレータとなることが示された。
一方、比較例1では、芳香族ポリアミドナノファイバーを調製できなかった。
上述のように、本発明によれば、簡便に芳香族ポリアミドナノファイバー糸又はファイバー不織布を作製可能である。得られた芳香族ポリアミドナノファイバー糸と不織布は、繊維径100nm以下、不織布の膜厚が薄くて目付が小さかった。また、本発明の方法で調製した不織布の線膨張係数は低く、ガラス転移温度は高いため、電池セパレータとして電気自動車、大型設置型電池等の各分野に応用が期待できる。