(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061121
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20240425BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20240425BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20240425BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20240425BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240425BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20240425BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20240425BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/12
C23C2/40
C23C2/26
C23C28/00 C
C23C22/78
C22C18/04
C22C21/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168850
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 哲也
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】天野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】山口 伸一
【テーマコード(参考)】
4K026
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4K026AA02
4K026AA13
4K026AA22
4K026BB01
4K026EA10
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB15
4K027AB44
4K027AB48
4K027AC82
4K027AE23
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA14
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC09
4K044CA11
4K044CA53
4K044CA64
(57)【要約】
【課題】めっき層の表面に、文字やデザイン等をより簡易かつ明瞭に発現させることが可能な表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板と、鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、溶融めっき層の表面に形成された化成処理層と、を備え、溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、溶融めっき層には、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、パターン部と非パターン部との色差ΔEが3.0以上であり、パターン部上にある化成処理層の厚みtPと、非パターン部上にある化成処理層の厚みtBとの膜厚比(tP/tB)が1.5以上である、表面処理鋼板を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、前記鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、前記溶融めっき層の表面に形成された化成処理層と、を備え、
前記溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、
前記溶融めっき層には、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、
前記パターン部と前記非パターン部との色差ΔEが3.0以上であり、
前記パターン部上にある前記化成処理層の厚みtPと、前記非パターン部上にある前記化成処理層の厚みtBとの膜厚比(tP/tB)が1.5以上である、表面処理鋼板。
【請求項2】
前記パターン部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記パターン部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記パターン部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されるとともに、前記パターン部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
鋼板と、前記鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、前記溶融めっき層の表面に形成された化成処理層と、を備え、
前記溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、
前記化成処理層には、所定の形状となるように配置された厚膜部と、非厚膜部とが形成され、
前記化成処理層の前記厚膜部の厚みtPと、前記化成処理層の前記非厚膜部の厚みtBとの膜厚比(tP/tB)が、1.5以上である、表面処理鋼板。
【請求項6】
前記厚膜部の厚みtPが0.2~25μmの範囲であり、前記非厚膜部の厚みtBが0.1~15μmの範囲である、請求項5に記載の表面処理鋼板。
【請求項7】
前記厚膜部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されていることを特徴とする請求項5に記載の表面処理鋼板。
【請求項8】
前記厚膜部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の表面処理鋼板。
【請求項9】
前記厚膜部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されるとともに、前記厚膜部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の表面処理鋼板。
【請求項10】
前記溶融めっき層の付着量が鋼板両面合計で30~600g/m2である、請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
【請求項11】
前記溶融めっき層は、更に、平均組成で、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有する、請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
【請求項12】
前記溶融めっき層が、質量%で、前記A群を含有する平均組成を有する請求項11に記載の表面処理鋼板。
【請求項13】
前記溶融めっき層が、質量%で、前記B群を含有する平均組成を有する請求項11に記載の表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
Zn-Al-Mg系溶融めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板に比べて高い耐食性を有するため、建材、家電、自動車分野等種々の製造業において広く使用されており、近年、その使用量が増加している。
【0003】
ところで、めっき鋼板の溶融めっき層の表面に、文字、模様、デザイン画などを現すことを目的として、めっき層に印刷や塗装などの工程を施すことにより、文字、模様、デザイン画などを溶融めっき層の表面に現す場合がある。
【0004】
しかし、めっき層に印刷や塗装などの工程を行うと、文字やデザイン等を施すためのコストや時間が増大する問題がある。更に、印刷や塗装によって文字やデザイン等をめっき層の表面に現す場合は、需要者から高い支持を得ている金属光沢外観が失われるだけでなく、塗膜自体の経時劣化や塗膜の密着性の経時劣化の問題から、耐久性が劣り、時間とともに文字やデザイン等が消失してしまう恐れがある。また、めっき層表面にインクをスタンプすることで文字やデザイン等をめっき層の表面に現す場合は、コストや時間は比較的抑えられるものの、インクによってめっき層の耐食性が低下する懸念がある。
【0005】
そこで、下記特許文献1には、Zn-Al-Mg系溶融めっき鋼板のめっき層の表面に、文字やデザイン等を現す技術が提案されている。
【0006】
特許文献1に記載されたZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板は、めっき層表面に第一領域および第二領域を設けるとともに、第一領域を、直線部、曲線部などからなる意図的な形状となるように配置することで、めっき層表面に文字やデザイン等を現すものである。当該Zn-Al-Mg系溶融めっき鋼板は、デザイン等の耐久性に優れるとともに、めっき層の耐食性にも優れるといった利点がある。しかしながら、特許文献1とは異なる見た目の文字やデザイン等を発現させたいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、めっき層の表面に、文字やデザイン等をより簡易かつ明瞭に発現させることが可能な表面処理鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鋼板と、前記鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、前記溶融めっき層の表面に形成された化成処理層と、を備え、
前記溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、
前記溶融めっき層には、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、
前記パターン部と前記非パターン部との色差ΔEが3.0以上であり、
前記パターン部上にある前記化成処理層の厚みtPと、前記非パターン部上にある前記化成処理層の厚みtBとの膜厚比(tP/tB)が1.5以上である、表面処理鋼板。
[2] 前記パターン部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されていることを特徴とする[1]に記載の表面処理鋼板。
[3] 前記パターン部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする[1]に記載の表面処理鋼板。
[4] 前記パターン部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されるとともに、前記パターン部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする[1]に記載の表面処理鋼板。
[5] 鋼板と、前記鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、前記溶融めっき層の表面に形成された化成処理層と、を備え、
前記溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、
前記化成処理層には、所定の形状となるように配置された厚膜部と、非厚膜部とが形成され、
前記化成処理層の前記厚膜部の厚みtPと、前記化成処理層の前記非厚膜部の厚みtBとの膜厚比(tP/tB)が、1.5以上である、表面処理鋼板。
[6] 前記厚膜部の厚みtPが0.2~25μmの範囲であり、前記非厚膜部の厚みtBが0.1~15μmの範囲である、[5]に記載の表面処理鋼板。
[7] 前記厚膜部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されていることを特徴とする[5]に記載の表面処理鋼板。
[8] 前記厚膜部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする[5]に記載の表面処理鋼板。
[9] 前記厚膜部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されるとともに、前記厚膜部が、意図的に形成されたものであることを特徴とする[5]に記載の表面処理鋼板。
[10] 前記溶融めっき層の付着量が鋼板両面合計で30~600g/m2である、請求項[1]乃至[9]の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[11] 前記溶融めっき層は、更に、平均組成で、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有する、[1]乃至[9]の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
[12] 前記溶融めっき層が、質量%で、前記A群を含有する平均組成を有する[11]に記載の表面処理鋼板。
[13] 前記溶融めっき層が、質量%で、前記B群を含有する平均組成を有する[11]に記載の表面処理鋼板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、めっき層の表面に、文字やデザイン等をより簡易かつ明瞭に発現させることが可能な表面処理鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態である表面処理鋼板の一例の断面模式図。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態である表面処理鋼板の別の例の断面模式図。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態である表面処理鋼板の製造方法の一例を説明する工程図。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態である表面処理鋼板の製造方法の一例を説明する工程図。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態である表面処理鋼板の製造方法の別の例を説明する工程図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
Zn-Al-Mg系溶融めっき鋼板のようなZn系めっき鋼板のめっき層には、例えば、塗装密着性の改善や表面の白錆の発生を抑制するために、化成処理層が形成される場合がある。従前のZn系めっき鋼板には、クロメート系化成処理層が備えられていたが、近年、環境保全に対する意識の高まりを受けて、化成処理層としてクロメートフリーの化成処理層が用いられている。
【0013】
化成処理層は、めっき層の全面において均一な厚みになるように形成することが一般的である。ところが、本発明者らが、めっき層上に化成処理層を形成する際に、一部分の厚みが他の部分よりも厚くなるように形成し、そのまま一定時間放置したところ、化成処理層を厚くした部分において、めっき層の表面がより黒色に近い色に変色していることが見出された。
【0014】
そこで、本発明者らが更に鋭意検討したところ、めっき層には着色処理等を施さないまま、化成処理層に所定の形状の厚膜部を設けるとともに所定時間放置することで、厚膜部の下のめっき層に、周囲より変色が促進された領域が形成可能であることを見出し、更に厚膜部の形状を任意に設定することで所望の意匠やデザインをめっき層に現すことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
化成処理層の厚膜部に対応する箇所において周辺部よりもめっき層の変色が促進される原因は不明だが、化成処理層の厚膜部では、厚膜部以外の部分に比べて、化成処理層の表面からめっき層表面までの間の酸素の透過が阻害され、これにより、腐食反応におけるアノード領域となり、変色が促進された可能性がある。
【0016】
以下、本発明の実施形態である表面処理鋼板について説明する。
本実施形態の表面処理鋼板は、鋼板と、鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、溶融めっき層の表面に形成された化成処理層と、を備え、溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、溶融めっき層には、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、パターン部と非パターン部との色差ΔEが3.0以上であり、パターン部上にある化成処理層の厚みtPと、非パターン部上にある化成処理層の厚みtBとの膜厚比(tP/tB)が1.5以上の表面処理鋼板である。
【0017】
また、上記の表面処理鋼板を得るための表面処理鋼板として、本実施形態は、鋼板と、鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、溶融めっき層の表面に形成された化成処理層と、を備え、溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、化成処理層には、所定の形状となるように配置された厚膜部と、非厚膜部とが形成され、化成処理層の前記厚膜部の厚みtPと、前記化成処理層の前記非厚膜部の厚みtBとの膜厚比(tP/tB)が、1.5以上である表面処理鋼板を含む。
【0018】
めっき層の下地となる鋼板は、材質に特に制限はない。詳細は後述するが、材質として、一般鋼などを特に制限はなく用いることができ、Alキルド鋼や一部の高合金鋼も適用することも可能であり、形状にも特に制限はない。鋼板に対して例えば後述する溶融めっき法を適用することで、本実施形態に係るめっき層が形成される。
【0019】
次に、めっき層の化学成分について説明する。
めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含む。好ましくは、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物からなる。
【0020】
更に、めっき層は、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有してもよい。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
【0021】
Alの含有量は、平均組成で0~90質量%、好ましくは4~22質量%の範囲である。Alは、耐食性を確保するために含有させるとよい。めっき層中のAlの含有量が4質量%以上であれば、耐食性を向上させる効果がより高まる。90質量%以下であれば、めっき層を安定して形成できる。22質量%を超えると耐食性を向上させる効果が飽和する。耐食性の観点から、好ましくは5~20質量%とする。より好ましくは6~19質量%とする。
【0022】
Mgの含有量は、平均組成で0~10質量%、好ましくは1~10質量%の範囲である。Mgは、耐食性を向上させるために含有させるとよい。めっき層中のMgの含有量が1質量%以上であれば、耐食性を向上させる効果がより高まる。10質量%を超えると、めっき層を溶融めっき法で形成する場合に、めっき浴でのドロス発生が著しくなり、安定的にめっき鋼板を製造するのが困難となる。耐食性とドロス発生のバランスの観点から、好ましくは1.5~8質量%とする。より好ましくは2~6質量%の範囲とする。
【0023】
なお、Al及びMgはそれぞれ0%であってもよい。すなわち、本実施形態の表面処理鋼板のめっき層は、Zn-Al-Mg系めっき層に限定されるものではなく、Zn-Al系めっき層であってもよく、亜鉛めっき層であってもよく、合金化亜鉛めっき層であってもよい。また、めっき層は、溶融めっき法により形成される溶融めっき層でもよい。
【0024】
めっき層には、A群の元素として、平均組成で0.0001~2質量%のSiを含有してもよい。Siは、めっき層の密着性を向上させるのに有効な元素である。Siをめっき層に0.0001質量%以上含有させることで、めっき層の密着性を向上させる効果が発現するため、Siを0.0001質量%以上含有させることが好ましい。一方、2質量%を超えてSiを含有させてもめっき密着性を向上させる効果が飽和するため、めっき層にSiを含有させる場合であっても、Siの含有量は2質量%以下とする。めっき密着性の観点からは、めっき層におけるSiの含有量は、0.0010~1質量%としてもよく、0.0100~0.8質量%としてもよい。
【0025】
めっき層中には、B群の元素として、平均組成で、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cの1種又は2種以上を合計で0.0001~2質量%を含有していてもよい。これらの元素を含有することで、めっき層の耐食性を更に改善することができる。REMは、周期律表における原子番号57~71の希土類元素の1種または2種以上である。
【0026】
めっき層の化学成分の残部は、亜鉛及び不純物である。不純物には、亜鉛ほかの地金中に不可避的に含まれるもの、めっき浴中で、鋼が溶解することによって含まれるものがある。
【0027】
なお、めっき層の平均組成は、次のような方法で測定できる。まず、めっきを浸食しない塗膜剥離剤(例えば、三彩化工社製ネオリバーSP-751)で表層塗膜を除去した後に、インヒビタ(例えば、スギムラ化学工業社製ヒビロン)入りの塩酸でめっき層を溶解し、得られた溶液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析に供することで求めることができる。
【0028】
本実施形態の化成処理層は、いわゆるクロメートフリーの化成処理層である。化成処理層は、特に限定されず、無機系の化成処理層であってもよく、有機系の化成処理層であってもよく、有機無機複合系の化成処理層であってもよい。本実施形態において、化成処理層の材質の違いは、パターン部、非パターン部の形成に特に影響することはない。
【0029】
例えば、有機系の化成処理層として、20質量%以上の樹脂と、1~20質量%の粒径5~200nmのシリカ粒子とが含有されている化成処置層を例示できる。更に、Cu、CoまたはFeを含有する顔料が含有されている化成処置層でもよい。この化成処理層は、樹脂、シリカ粒子、顔料を含有する水性組成物を、めっき層に塗布、乾燥することにより得られる皮膜である。
【0030】
有機系の化成処理層に含まれる樹脂は、一般的な樹脂であればよく、例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、水溶性樹脂であってもよく、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になりうる樹脂(水分散性樹脂)であってもよい。水溶性樹脂のほか、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になりうる樹脂(水分散性樹脂)を含めて言う。特に、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂のうちのいずれか1種以上の樹脂を含むことが耐候性に優れるため好ましい。
【0031】
樹脂は、化成処理層中に、20質量%以上の割合で含有させるとよい。樹脂の含有量を20質量%以上にすることで、化成処理層自体が脆くなることがなく、めっき層を安定して被覆することができる。なお、化成処理層には、樹脂、シリカ粒子及び顔料とともに、Nb化合物、リン酸化合物等の樹脂以外の成分を含有させる場合があるところ、樹脂の含有量は、これらの成分の残部としてよい。
【0032】
シリカ粒子は、化成処理層の耐食性を向上させるために配合する。シリカ粒子としては、平均粒子径が5~200nmの範囲のものが好適である。シリカ粒子は、化成処理層中に1~20質量%の割合で含有させるとよい。シリカ粒子の含有量を1質量%以上にすることで、耐食性の向上効果が得られる。また、シリカ粒子の含有量を20質量%以下とすることで、化成処理層自体が脆くならず、めっき層を安定して被覆できる。平均粒子径5nm未満のシリカ粒子は入手自体が困難であり、平均粒径5nm未満のシリカ粒子を含む化成処理層は、事実上、作製・製造が困難であるため、シリカ粒子の平均粒径の下限は5nm以上にする。また、シリカ粒子の平均粒子径が200nmを超えると、化成処理層が白濁してめっき層の外観が損なわれるおそれがある。
【0033】
また、化成処理層の耐食性を向上させるために、シリカ粒子以外に、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子等を含有させてもよい。
【0034】
化成処理層には、Cu、CoまたはFeを含有する顔料が含まれていてもよい。顔料としては、銅(II)フタロシアニン、コバルト(II)フタロシアニン、硫酸銅、硫酸コバルト、硫酸鉄または酸化鉄を挙げることができる。化成処理層中の顔料の含有量は、0.1~10質量%の範囲にすることが好ましい。
【0035】
化成処理層には、更に、Nb化合物、リン酸化合物のいずれか一方または両方が含まれていてもよい。Nb化合物、リン酸化合物を含有させた場合、Zn系めっき層の耐食性が向上する。
【0036】
Nb化合物やリン酸化合物は、合計で、化成処理層中に0.5~30質量%の割合で含有されるとよい。0.5質量%以上であれば耐食性の向上効果が得られ30質量%以下であれば化成処理層が脆くならず、めっき層を安定して被覆できる。
【0037】
化成処理層には、めっき層に対する密着性を向上させるために、シランカップリング剤、架橋性ジルコニウム化合物及び架橋性チタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤を含有してもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記シランカップリング剤、架橋性ジルコニウム化合物及び架橋性チタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤は、樹脂の固形分100質量%に対して0.1~50質量%含有することが好ましい。0.1質量%未満の場合、含有量が少なく密着性の向上効果が得られない場合があり、50質量%を超える量では水性組成物の安定性が低下する場合がある。
【0039】
化成処理層には、更に、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、そのブロック体、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤を含有してもよい。これらの架橋剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
化成処理層には、めっき層の耐食性向上のために、バナジウム化合物、タングステン化合物及びモリブデン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記バナジウム化合物、タングステン化合物及びモリブデン化合物からなる群より選択される少なくとも1種)は樹脂の固形分100質量%に対して0.01~20質量%含有することが好ましい。0.01質量%未満の場合、含有量が少なく耐食性の向上効果が得られない場合があり、20質量%を超える量では化成処理層が脆くなり耐食性が低下する場合がある。
【0042】
更に、めっき層の片面当たりに対する化成処理層の付着量は、化成処理層の材質によらず、0.1~15g/m2であることが好ましい。付着量が0.1g/m2以上であれば、化成処理層の付着量が十分となり、めっき層の耐食性を向上できる。また、付着量が15g/m2以下であれば、化成処理層に顔料が含まれていたとしても、化成処理層表面での光の反射が少なくなり、めっき層の表面の金属外観を視認できる。更に好ましい付着量は、0.2~2g/m2である。
【0043】
なお、無機系または有機無機複合系の化成処理層としては、例えば、ジルコニウムとして10質量%以上のジルコニウム化合物(A1)と、バナジウムとして5質量%以上のバナジルイオン(VO2+)の塩として供給されるバナジル化合物(A2)とを含有する化成処理層を挙げることができる。この化成処理層における樹脂の含有量は0超~10質量%とされている。化成処理層は、ジルコニウム化合物(A1)およびバナジル化合物(A2)を必須の造膜成分とする。ジルコニウム化合物(A1)およびバナジル化合物(A2)を造膜成分とする化成処理層は、腐食因子である水や酸素等のバリヤー性、すなわち耐食性に優れる。
【0044】
ジルコニウム化合物(A1)としては、例えば、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムフッ化水素酸、又はその塩等が挙げられる。これらのジルコニウム化合物のうち、ジルコニウムフッ化水素酸、又はその塩、炭酸ジルコニウム錯イオンを含有するジルコニウム化合物が耐食性の観点から好ましい。炭酸ジルコニウム錯イオンを含有するジルコニウム化合物としては特に限定するものではないが、例えば、炭酸ジルコニウム錯イオン〔Zr(CO3)2(OH)2〕2-もしくは〔Zr(CO3)3(OH)〕3-のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。
【0045】
バナジル化合物(A2)は、バナジルイオン(VO2+)の塩として供給される化合物である。バナジルイオン(VO2+)は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸、若しくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸等の有機酸アニオンとの塩によって供給されるオキソバナジウムカチオンである。
【0046】
バナジル化合物(A2)として、オキソバナジウムカチオンと、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸アニオン又は蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸等の有機酸アニオンとの塩や、グリコール酸バナジル、デヒドロアスコルビン酸バナジルのような、有機酸とバナジル化合物のキレートを例示できる。
【0047】
無機系の化成処理層には、更に、リン酸化合物、シリカ粒子、コバルト化合物、チタン化合物等を含有してもよい。
【0048】
次に、めっき層のパターン部および非パターン部、および、化成処理層の厚膜部及び非厚膜部について
図1A及び
図1Bを参照して説明する。
【0049】
図1Aには、本実施形態の表面処理鋼板の断面模式図の一例を示す。
図1Aに示す表面処理鋼板には、鋼板1と、鋼板1の表面に形成されためっき層2と、めっき層2の表面に形成された化成処理層3とが備えられている。
図1Aでは、めっき層2の表面は、平坦な面とされている。
【0050】
化成処理層3には、非厚膜部3bと、非膜厚部3bに対して膜厚が大きな厚膜部3aとが設けられている。厚膜部3aは、化成処理層3を平面視した場合に、所定の形状となるように配置されている。なお、平坦なめっき層2の上に厚膜部3a及び非厚膜部3bがあるため、化成処理層3の表面は平坦面ではなく、凹凸がある。
【0051】
化成処理層3の厚膜部3aの厚みtPと、非厚膜部3bの厚みtBとの膜厚比(tP/tB)は1.5以上とされている。膜厚比(tP/tB)は1.75以上でもよく、2以上でもよい。また、膜厚比(tP/tB)は4以下でもよく、3以下でもよい。膜厚比を1.5以上にすることで、厚膜部3aの下に位置するめっき層2の表面に、変色領域が形成されるようになる。
【0052】
化成処理層3の厚膜部3aの厚みtPは、0.2~25μmの範囲でもよく、0.3~10μmの範囲でもよく、0.4~3μmの範囲でもよい。非厚膜部3bの厚みtBは、0.1~15μmの範囲でもよく、0.2~6μmの範囲でもよく、0.2~1.5μmの範囲でもよい。厚膜部3aおよび非厚膜部3bの厚みが上述の範囲にあることで、本来の化成処理層としての機能、すなわち、めっき層の耐食性向上や塗装密着性の向上が図られるとともに、めっき層2にパターン部2a及び非パターン部2bを形成することが可能になる。
【0053】
化成処理層の厚膜部13aの厚みtPと、非厚膜部13bの厚みtBは、以下の方法によって測定・計算する。まず、本実施形態の表面処理鋼板から所定の大きさに切り出したサンプルの表面に対して、厚さ50nmの金蒸着層を形成する。次いで、金蒸着したサンプルを樹脂に埋め込み、サンプルの板厚方向の断面が露出するように研磨する。なお、金蒸着層の厚みは化成処理層と比較して無視できる程度に小さい。
【0054】
そして、サンプルの断面を走査電子顕微鏡を用いて5000倍の倍率で観察し、金蒸着層の形態を観察する。金蒸着は、埋込用の樹脂と化成処理層との境界を明確にするために実施するものである。すなわち、金蒸着層は、化成処理層の表面の形状に追従して付着するので、SEM観察により金蒸着層を確認することで、化成処理層を断面視した場合の化成処理層の表面の輪郭を確認することが可能になる。これにより、金蒸着層とめっき層とに挟まれた領域を化成処理層と特定することができ、特定された化成処理層の厚みをSEM画像から測定することが可能になる。このようにして、化成処理層の厚膜部13aの厚みtPと、非厚膜部13bの厚みtBをそれぞれ測定する。
【0055】
めっき層2の表面には、パターン部2aと、非パターン部2bとが形成されている。
図1Aに示すように、パターン部2a及び非パターン部2bは、めっき層2の同一面上にある。パターン部2aは強い変色領域とされており、非パターン部2bはパターン部2aに比べて弱い変色領域とされている。また、パターン部2aは、めっき層2を平面視した場合に、所定の形状となるように配置されている。パターン部2aは、化成処理層3の厚膜部3aに対応する位置に形成されている。非パターン部2bは、化成処理層3の非厚膜部3bに対応する位置に形成されている。
【0056】
めっき層2の弱い変色領域(非パターン部2b)は、めっき層本来の外観に近い外観を呈している領域である。例えば、めっき層2がZn-Al-Mg系溶融めっき層である場合、弱い変色領域(非パターン部3b)は梨地状に近い外観を呈している。また、めっき層2がZn系溶融めっき層である場合、弱い変色領域(非パターン部2b)は亜鉛めっき層特有の外観に近い外観を呈している。
【0057】
これに対して、めっき層2の強い変色領域(パターン部2a)は、めっき層本来の外観に対して黒色に変色した外観を呈している。このため、めっき層2にパターン部2aと非パターン部2bとが形成されることにより、黒色に変色したパターン部2aの形状を、肉眼で把握することが可能になる。
【0058】
本実施形態では、強い変色領域(パターン部2a)と弱い変色領域(非パターン部2b)との色差ΔEが、3.0以上とされている。色差ΔEは、5.0以上でもよく、7.0以上でもよい。パターン部2aと非パターン部2bの色差ΔEが3.0以上であることにより、パターン部2aが肉眼で明瞭に識別される。色差ΔEの上限は限定する必要はないが、例えば、20以下でもよく、15以下でもよく、10以下でもよい。
【0059】
パターン部2aと非パターン部2bの色差ΔEは、JIS K 5600-4-6:1999に準拠して評価する。具体的には、パターン部2aと非パターン部2bのL*、a*、b*色空間の差異から色差を求める。測定領域が微小である場合は微小面分光色差計(日本電色工業株式会社製、VSS 7700)を用いることができる。色差(ΔE)は、以下の式によって算出する。
【0060】
ΔE={(L*
2-L*
1)2+(a*
2-a*
1)2+(b*
2-b*
1)2}1/2
ここで、L*
1、a*
1、b*
1は非パターン部の色空間L*a*b*の測定値、L*
2、a*
2、b*
2はパターン部の色空間L*a*b*の測定値である。
【0061】
また、本実施形態の表面処理鋼板は、
図1Aに示す形態に限られるものではなく、
図1Bに示す形態であってもよい。
【0062】
図1Bに示す表面処理鋼板には、鋼板1と、鋼板の表面に形成されためっき層12と、めっき層12の表面に形成された化成処理層13とが備えられている。めっき層12の表面は、凹凸面とされている。
【0063】
めっき層12には、めっき厚が比較的薄い凹部12aと、めっき厚が比較的厚い凸部12bとが形成されている。このめっき層12の上に、化成処理層13がある。化成処理層13の上面13cは平坦面とされている。これにより、化成処理層13には、非厚膜部13bと、非膜厚部13bに対して膜厚が大きな厚膜部13aとが設けられる。厚膜部13aはめっき層12の凹部12a上にあり、非厚膜部13bはめっき層12の凸部12b上にある。化成処理層13の厚膜部13a及びめっき層12の凹部12aは、化成処理層13を平面視した場合に、所定の形状となるように配置されている。
【0064】
図1Bにおける化成処理層13の厚膜部13aの厚みt
Pと、非厚膜部13bの厚みt
Bとの膜厚比(t
P/t
B)は、
図1Aの場合と同様に、1.5以上、好ましくは1.75以上、更に好ましくは2以上である。膜厚比(t
P/t
B)は4以下でもよく、3以下でもよい。膜厚比(t
P/t
B)の限定理由も
図1Aの場合と同様である。
【0065】
図1Aの場合と同様に、厚膜部13aの厚みt
Pは、0.2~25μmの範囲でもよく、0.3~10μmの範囲でもよく、0.4~3μmの範囲でもよい。非厚膜部13bの厚みt
Bは、0.1~15μmの範囲でもよく、0.2~6μmの範囲でもよく、0.2~1.5μmの範囲でもよい。厚み(t
P、t
B)の限定理由も
図1Aの場合と同様である。
【0066】
めっき層12の表面には、凹部12aと凸部12bとが形成されている。凹部12aは、強い変色領域とされており、パターン部とされる。凸部12bは、弱い変色領域とされており、非パターン部とされる。以下の説明では、凹部及びパターン部をともに符号12aで示す。また、凸部及び非パターン部をともに符号12bで示す。パターン部12a(凹部)は、めっき層12を平面視した場合に、所定の形状となるように配置されている。パターン部12aは、化成処理層13の厚膜部13aに対応する位置に形成されている。非パターン部12b(凸部)は、化成処理層13の非厚膜部13bに対応する位置に形成されている。
【0067】
めっき層12の弱い変色領域(非パターン部12b)は、めっき層本来に近い外観を呈している領域である。
図1Aの場合と同様に、めっき層がZn-Al-Mg系溶融めっき層である場合、弱い変色領域(非パターン部12b)は梨地状に近い外観を呈する。めっき層がZn系溶融めっき層である場合、弱い変色領域(非パターン部12b)は亜鉛めっき層特有の外観に近い外観を呈する。
【0068】
これに対して、めっき層12の強い変色領域(パターン部12a)は、めっき層本来の外観に対して黒色に変色した外観を呈する。このため、めっき層12にパターン部12aと非パターン部12bとが形成されることにより、黒色に変色したパターン部12aの形状を、肉眼で把握することが可能になる。
【0069】
図1Aの場合と同様に、強い変色領域(パターン部12a)と弱い変色領域(非パターン部12b)との色差ΔEが、3.0以上であることが好ましく、5.0以上でもよく、7.0以上でもよい。色差ΔEの限定理由も
図1Aの場合と同様である。
【0070】
図1A及び
図1Bにおけるパターン部2a、12aは、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されていることが好ましい。また、非パターン部2b、12bは、パターン部2a、12a以外の領域である。パターン部2a、12aの形状は、ドット抜けのように一部が欠けていても、全体として認識できれば、許容される。非パターン部2b、12bは、パターン部2a、12aの境界を縁取るような形状であってもよい。
【0071】
めっき層2、12の表面に、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状が配置されている場合に、これらの領域をパターン部2a、12aとし、それ以外の領域を非パターン部2b、12bとすることができる。パターン部2a、12aと非パターン部2b、12bの境界は、肉眼で把握することができる。パターン部2a、12aと非パターン部2b、12bの境界は、光学顕微鏡や拡大鏡などによる拡大像から把握してもよい。
【0072】
パターン部2a、12aは、肉眼、拡大鏡下または顕微鏡下でパターン部2a、12aの存在を判別可能な程度の大きさに形成されるとよい。また、非パターン部2b、12bは、めっき層2、12の表面の大部分を占める領域であり、非パターン部2b、12b内にパターン部2a、12aが配置される場合がある。
【0073】
パターン部2a、12aは、非パターン部2b、12b内において所定の形状に配置されている。具体的には、パターン部2a、12aは、非パターン部2b内おいて、直線部、曲線部、図形、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されている。パターン部2a、12aの形状を調整することによって、めっき層2、12の表面に、直線部、曲線部、図形、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状が現される。例えば、めっき層の表面には、パターン部2a、12aからなる文字列、数字列、記号、マーク、線図、デザイン画あるいはこれらの組合せ等が現される。この形状は、後述する製造方法によって意図的若しくは人工的に形成された形状であり、自然に形成されたものではない。
【0074】
パターン部2a、12a及び非パターン部2b、12bは、肉眼で識別可能であってもよく、拡大鏡下または顕微鏡下で識別可能であってもよい。拡大鏡下または顕微鏡下で識別可能とは、例えば、パターン部2a、12aで構成される形状が50倍以下の視野で識別可能であればよい。50倍以下の視野であれば、パターン部2a、12aと非パターン部2b、12bは、その外観の違いにより、識別可能である。パターン部2a、12aと非パターン部2b、12bは、好ましくは20倍以下、さらに好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下で識別可能である。
【0075】
化成処理層3、13の厚膜部3a、13aおよび非厚膜部3b、13bの形状は、めっき層のパターン部2a、12aおよび非パターン部2b、12bの形状と同様なので、説明を省略する。
【0076】
本実施形態に係るめっき鋼板は、化成処理層の表面に、更にクリア塗装膜を有してもよい。ただし、化成処理層上にクリア塗装膜を形成する場合は、後述するようにめっき層にパターン部が明瞭に現れた後に形成するとよい。
【0077】
次に、本実施形態の溶融めっき鋼板の製造方法を説明する。
本実施形態のめっき鋼板を溶融めっき法により製造するには、化学成分を調整した溶融めっき浴に鋼板を浸漬させることにより、溶融金属を鋼板表面に付着させる。次いで、鋼板をめっき浴から引き上げ、ガスワイピングにより付着量を制御した後に、溶融金属を凝固させる。このようにしてめっき層を形成した後に、めっき層表面に化成処理層を形成する。化成処理層を形成する際には、厚膜部と非厚膜部とを形成する。このようにして、厚膜部と非厚膜部とを有する化成処理層を備えためっき鋼板を製造する。更に、めっき鋼板を例えば、高湿度環境下で一ヶ月以上放置することにより、めっき層にパターン部と非パターン部とが形成されためっき鋼板が得られる。
【0078】
以下、本実施形態の溶融めっき鋼板の製造方法をより詳細に説明する。以下の説明は、
図1Aに示す表面処理鋼板の製造方法である。
【0079】
まず、熱間圧延鋼板を製造し、必要に応じて熱延板焼鈍を行う。酸洗後、冷間圧延を行い、冷延板とする。冷延板を脱脂、水洗した後、焼鈍(冷延板焼鈍)し、焼鈍後の冷延板を溶融めっき浴に浸漬させて溶融めっき層を形成する。
【0080】
次に、鋼板を、溶融めっき浴に浸漬させる。溶融めっき浴は、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部としてZnおよび不純物を含む。更に、溶融めっき浴は、Si:0.0001~2質量%を含有してもよい。更にまた、溶融めっき浴は、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%含有してもよい。なお、本実施形態の溶融めっき層の平均組成は、溶融めっき浴の組成とほぼ同じである。溶融めっき法は、鋼板を溶融めっき浴に連続通板させる連続式溶融めっき法でもよく、鋼板を溶融めっき浴に浸漬させてから引き上げるいわゆるどぶ漬けめっき法でもよい。
【0081】
溶融めっき浴の温度は、組成によって異なるが、例えば、400~500℃の範囲が好ましい。溶融めっき浴の温度がこの範囲であれば、所望の溶融めっき層を形成できるためである。
また、溶融めっき層の付着量は、溶融めっき浴から引き上げられた鋼板に対してガスワイピング等の手段で調整すればよい。溶融めっき層の付着量は、鋼板両面の合計の付着量が30~600g/m2の範囲になるように調整することが好ましい。付着量が30g/m2未満の場合、溶融めっき鋼板の耐食性が低下するので好ましくない。付着量が600g/m2超の場合、鋼板に付着した溶融金属の垂れが発生して、溶融めっき層の表面を平滑にすることができなくなるため好ましくない。
【0082】
溶融めっき層の付着量を調整した後、鋼板を冷却する。冷却条件は特に限定する必要はない。
【0083】
次に、溶融めっき層の表面に、厚膜部および非厚膜部を有する化成処理層を形成する。化成処理層は、例えば、上述の樹脂、シリカ粒子、顔料、Nb化合物、リン酸化合物等の成分を含有する水性組成物を、めっき層の表面に塗布、乾燥することにより得られるが、本実施形態では、厚膜部を形成するために、例えば、以下に説明するプロセスを行う。
【0084】
なお、水性組成物には、造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成するために溶剤を用いてもよい。溶剤としては、塗料に一般的に用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、レベリングの点から、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の親水性溶剤等を挙げることができる。
【0085】
化成処理層の形成方法の一例として、
図2(a)に示すように、めっき層2の全面に、水性組成物を被覆させてから乾燥することにより、化成処理膜3Aを形成する。化成処理膜3Aを形成する際は、膜厚が、非厚膜部の厚みt
Bの範囲になるように調整するとよい。
【0086】
化成処理膜3Aの形成の際の水性組成物の被覆方法は特に限定されず、一般に使用されるロールコート、エアスプレー、エアレススプレー、浸漬等を適宜採用することができる。
【0087】
次に、
図2(b)に示すように、化成処理膜3Aの上に、化成処理膜3Bを形成する。なお、
図2(b)は、化成処理膜3Bの形成途中の状態にある。化成処理膜3Bは、化成処理膜3Aの全面ではなく一部の上であって、めっき層2のパターン部の形成予定領域に形成する。このようにして、化成処理層3を形成する。
【0088】
化成処理膜3Bを形成後の化成処理層3には、化成処理膜3Aのみが積層された箇所と、化成処理膜3Aおよび3Bが積層された箇所とがある。
図2(c)に示すように、化成処理膜3Aのみが積層された箇所が非厚膜部3bとなり、化成処理膜3Aおよび3Bが積層された箇所が厚膜部3aになる。
【0089】
化成処理膜3Bを形成する際には、化成処理膜3A、3Bの合計膜厚が、化成処理膜3Aの厚みに対して1.5倍以上になるように調整する。更に、化成処理膜3Bの形成方法は、例えば、水性組成物をノズルから吐出するインクジェット法でもよく、水性組成物を印刷法でもよい。
【0090】
化成処理層3の形成方法は、
図2に示した例に限らず、例えば、
図3に示す手順で形成してもよい。
【0091】
図3(a)に示すように、めっき層2の上に、化成処理膜3Cを形成する。化成処理膜3Cは、めっき層2のパターン部の形成予定領域に形成する。化成処理膜3Cの形成方法は、例えば、水性組成物をノズルから吐出するインクジェット法でもよく、水性組成物を印刷する印刷法でもよい。
【0092】
次に、めっき層2および化成処理膜3Cを覆うように、化成処理膜3Dを形成する。化成処理膜3Dの形成方法は、ロールコート、エアスプレー、エアレススプレー等を適宜採用できる。化成処理膜3Dを形成する際は、その膜厚が、非厚膜部の厚みtBの範囲になるように、かつ、化成処理膜3C、3Dの合計膜厚が化成処理膜3Cの厚みの1.5倍以上になるように調整するとよい。
【0093】
化成処理膜3Dを形成後の化成処理層3には、化成処理膜3Dのみが積層された箇所と、化成処理膜3Cおよび3Dが積層された箇所とがある。
図3(c)に示すように、化成処理膜3Dのみが積層された箇所が非厚膜部3bとなり、化成処理膜3Cおよび3Dが積層された箇所が厚膜部3aになる。
【0094】
図2および
図3において、化成処理膜3B、3Cを形成する際には、これらの平面視形状が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた意図的な形状となるように形成する。
【0095】
なお、化成処理層の硬化性を高めるために、化成処理膜3A~3Dの形成前に、あらかじめ被塗布物であるめっき層2を加熱しておくか、化成処理層3の形成後に熱乾燥させてもよい。
【0096】
以上のようにして、厚膜部3a及び非厚膜部3bを有する化成処理層3と、めっき層2とを備えためっき鋼板を製造する。
【0097】
化成処理層3を形成直後のめっき鋼板のめっき層2には、パターン部が現れていない状態にある。このようなめっき鋼板を、例えば1ヶ月以上放置すると、化成処理層3の厚膜部3aの形成領域においてめっき層2の表面の変色がより進行することで、所定の形状のパターン部2aが現れる。めっき鋼板の放置期間中における雰囲気は大気中でよく、特別に制御された雰囲気にする必要はないが、高湿度である方が良い場合がある。また、放置期間中の雰囲気温度は、特別に制御された温度にする必要はなく、室内温度ないし室外温度のいずれでもよい。放置する場所は、屋内でも屋外でもどちらでもよい。
【0098】
このようにして、化成処理層3に厚膜部3a及び非厚膜部3bを有するとともに、めっき層2にパターン部2a及び非パターン部2bが形成されためっき鋼板が得られる。
【0099】
また、本実施形態の表面処理鋼板の製造方法の別の例として、表面に凹部及び凸部を設けためっき層の上に化成処理層を形成し、その後、1ヶ月以上放置してもよい。
【0100】
すなわち、
図4(a)に示すように、鋼板1に対して溶融めっき法によりめっき層12を形成する。溶融めっき法は、連続式溶融めっき法でもよく、どぶ漬けめっき法でもよい。めっき浴温度、溶融めっき層の付着量は、
図2、
図3の場合と同様でよい。
【0101】
次に、
図4(b)に示すように、めっき層12の表面に凹部2a及び凸部2bを設ける。例えば、所定のパターンになるように凹部2aを設け、凹部2a以外の領域を凸部2bとする。凹部2a及び凸部を設ける手段としては、凹凸パターンをロール面に設けた圧延ロールによってめっき層12を圧延して転写する方法、凹部を化学的にエッチングにより形成する方法、凹部を研削により形成する方法、などを例示できる。
【0102】
次に、
図4(c)に示すように、凹部2a及び凸部2bを設けためっき層12の表面に化成処理層13を形成する。化成処理層13は、例えば、上述の樹脂、シリカ粒子、顔料、Nb化合物、リン酸化合物等の成分を含有する水性組成物を、めっき層12の表面に塗布、乾燥することにより得られる。このとき、化成処理層13の上面13cが平坦になるように、化成処理層13の付着量を調整する。これにより、厚膜部13aおよび非厚膜部13bを有する化成処理層13が得られる。厚膜部13a及び非厚膜部13bの厚みt
P、t
Bの調整は、めっき層12における凸部2bの上面から凹部12aの底面までの深さ、めっき層12の凸部12bの上に形成する化成処理層13の厚みを調整することにより行う。
【0103】
以上のようにして、厚膜部13a及び非厚膜部13bを有する化成処理層13と、めっき層12とを備えためっき鋼板を製造する。
【0104】
化成処理層13を形成直後のめっき鋼板のめっき層12には、変色したパターン部が現れていない状態にある。このようなめっき鋼板を、例えば1ヶ月以上放置すると、化成処理層13の厚膜部13aの形成領域においてめっき層12の表面の変色がより進行することで、所定の形状の変色したパターン部12aが現れる。めっき鋼板の放置期間中における雰囲気および雰囲気温度は、
図2、
図3の場合と同様でよい。
【0105】
このようにして、化成処理層13に厚膜部13a及び非厚膜部13bを有するとともに、めっき層12にパターン部12a及び非パターン部12bが形成されためっき鋼板が得られる。
【0106】
本実施形態のめっき鋼板は、めっき層に、変色度に強弱のある領域からなるパターン部と非パターン部とが形成されているので、パターン部と非パターン部とを容易に識別できる。形成されたパターン部及び非パターン部は、印刷や塗装によって形成されたものではないため、耐久性が高い。また、パターン部及び非パターン部が印刷や塗装によって形成されたものではないため、溶融めっき層の耐食性への影響もない。よって、本実施形態の溶融めっき鋼板は、耐食性に優れたものとなる。
【0107】
本実施形態によれば、所定の形状に成形したパターン部の耐久性が高く、耐食性等が好適なめっき特性を有するめっき鋼板を提供できる。特に本実施形態では、化成処理層を形成する際に、所定の形状の厚膜部と、厚膜部よりも膜厚が小さい非厚膜部とを設け、更に放置するという、比較的簡易な方法によって、めっき層の表面に、パターン部を形成することができ、しかも、パターン部の形状を意図的若しくは人工的な形状にすることができる。
【0108】
そして、本実施形態によれば、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるようにパターン部を配置できる。これにより、めっき層の表面に、印刷、塗装または研削を行うことなく様々な意匠、商標、その他の識別マークを表すことができ、めっき鋼板の出所の識別性やデザイン性等を高めることができる。また、パターン部によって、工程管理や在庫管理などに必要な情報や需要者が求める任意の情報を、めっき鋼板に付与することもできる。これにより、めっき鋼板の生産性の向上にも寄与することができる。
【実施例0109】
次に、本発明の実施例を説明する。冷間圧延後の鋼板に対して冷延板焼鈍を行い、焼鈍後の冷延板を溶融めっき浴に浸漬させてめっき層を形成した。
【0110】
次に、めっき層の表面に、化成処理層を形成した。化成処理層には、50mm間隔の格子状パターンよりなる厚膜部と、非厚膜部とを形成した。
【0111】
化成処理層は、フタロシアニン顔料を含有する化成処理剤による化成処理を行うことにより形成した。化成処理剤としては、シラノール基及びアルコキシシリル基を有するポリウレタン樹脂粒子及びエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子と、酸化ケイ素粒子と、有機チタン化合物と、Cuフタロシアニンと、を有し、Cuフタロシアニン顔料の含有量が、ポリウレタン樹脂粒子とエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子との合計100質量部に対して、0.01~10質量部であり、Cuフタロシアニンの一次粒子径が0.01~1.0μmである水性被覆剤を用いた。
【0112】
また、比較例として、めっき層の形成後に、めっき層の表面に、インクジェット法により、50mm間隔の格子状パターンを印刷した。その後、化成処理層を形成した。このようにして、No.75のめっき鋼板を製造した。
【0113】
以上のようにして得られためっき鋼板を、製鉄所内の屋内保管ヤードにて、大気中で1ヶ月間放置した。温度は特に制御せず、季節変動のままとした。環境温度の振れ幅は10~20℃の範囲であった。
【0114】
放置後のめっき鋼板について、めっき層にパターン部が現れているかどうかを確認し、パターン部が現れた場合は、パターン部と非パターン部の色差ΔEを測定した。パターン部及び非パターン部は、めっき層の表面を肉眼で観察することにより特定した。肉眼での特定が難しい場合は、拡大鏡や光学顕微鏡の拡大像を利用した。パターン部の判別が難しい例では、化成処理層の厚膜部に対応する箇所がパターン部であるとした。
【0115】
色差ΔEは、JIS K 5600-4-6:1999に準拠して評価した。具体的には、パターン部2aと非パターン部2bのL*、a*、b*色空間の差異から色差を求めた。色差の測定は、微小面分光色差計(日本電色工業株式会社製、VSS 7700)を用いた。色差(ΔE)は、以下の式によって算出した。
【0116】
ΔE={(L*
2-L*
1)2+(a*
2-a*
1)2+(b*
2-b*
1)2}1/2
ここで、L*
1、a*
1、b*
1は非パターン部の色空間L*a*b*の測定値、L*
2、a*
2、b*
2はパターン部の色空間L*a*b*の測定値である。
【0117】
化成処理層の厚膜部の厚みtPと、非厚膜部の厚みtBは、以下の方法によって測定した。溶融めっき鋼板から所定の大きさに切り出したサンプルの表面を50nmの厚さに金蒸着し、金蒸着したサンプルを樹脂に埋め込み、サンプルの板厚方向の断面が露出するように研磨した。サンプルの断面を走査電子顕微鏡を用いて5000倍の倍率で観察し、金蒸着層の形態を観察した。そして、金蒸着層とめっき層とに挟まれた領域を化成処理層と特定し、SEM画像から化成処理層の厚みtP、tBを測定した。
【0118】
[識別性]
1ヶ月放置しためっき鋼板について、下記の判定基準に基づいて目視評価した。◎~△を合格とした。
【0119】
◎:5m先からでもパターン部を視認できる。
○:5m先からはパターン部を視認できないが、3m先からの視認性は高い。
△:3m先からはパターン部を視認できないが、1m先からの視認性は高い。
×:1m先からパターン部を視認できない。
【0120】
[耐食性]
試験板を150×70mmに切断し、JASO-M609に準拠した腐食促進試験CCTを30サイクル試験した後、錆発生状況を調査し、下記の判定基準に基づいて評価した。◎~△を合格とした。
◎:錆発生がなく、パターン部と非パターン部ともに美麗な意匠外観を維持している。
○:錆発生はないが、パターン部と非パターン部にごくわずかな意匠外観変化が認められる。
△:意匠外観がやや損なわれているが、パターン部と非パターン部が目視で区別できる。
×:パターン部と非パターン部の外観品位が著しく低下しており、目視で区別できない。
【0121】
表1A~表1Cに示すように、No.1~No.71の発明例は、めっき層の化学組成、化成処理層の膜厚比が本発明の範囲を満足するため、明瞭に変色した変色領域からなるパターン部が現れ、パターン部と非パターン部との色差ΔEが3.0以上になった。これにより、優れた識別性及び耐食性が得られた。
【0122】
表1Cに示すように、No.72の比較例は、化成処理層の膜厚比が本発明の範囲を満足しなかったため、パターン部となる領域の変色が不十分となり、パターン部と非パターン部との色差ΔEが3.0未満になった。これにより、識別性が低下した。
【0123】
No.73の比較例は、めっき層のAl含有量が過剰であったため、めっき層の密着性が低下し、耐食性が不十分になった。
【0124】
No.74の比較例は、めっき層のMg含有量が過剰であったため、めっき層の密着性が低下し、耐食性が不十分になった。
【0125】
No.75の比較例は、めっき層に対して印刷法によってパターン部を形成したため、パターン部の耐久性が十分ではなく、識別性が低下した。
【0126】
【0127】
【0128】