(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061128
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168860
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】小口 剛
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622PP19
5H622PP20
(57)【要約】
【課題】接着剤による点当たりを防止できるロータを提供する。
【解決手段】本発明のロータは、ロータコアと、上記ロータコアのスロットに挿入された永久磁石と、を備える。
そして、上記ロータコアは、そのスロット内面の周方向中央部に、軸方向一端から他端まで延びる溝を有し、上記溝は、少なくとも一方の軸方向端部で周方向両端部まで広がり、上記ロータコアの軸方向端面がエンドプレートで封止され、接着剤が、上記スロット内面の周方向両端部で軸方向に延在し、上記ロータコアと上記永久磁石とを固定することとしたため、接着剤を均一に付与して、接着剤による点当たりを防止可能なロータを提供することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアと、上記ロータコアのスロットに挿入された永久磁石と、を備えるロータであって、
上記ロータコアは、そのスロット内面の周方向中央部に、軸方向一端から他端まで延びる溝を有し、
上記溝は、少なくとも一方の軸方向端部で周方向両端部まで広がり、
上記ロータコアの軸方向端面がエンドプレートで封止され、
接着剤が、上記スロット内面の周方向両端部で軸方向に延在し、上記ロータコアと上記永久磁石とを固定していることを特徴とするロータ。
【請求項2】
上記スロット内面と上記永久磁石との間の隙間は、軸方向と直交する方向の断面積が、周方向両端部の上記接着剤の存在領域よりも、上記溝部が大きいことを特徴とする請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
上記溝は、軸方向と直交する方向の断面形状が、径方向よりも周方向が大きいことを特徴とする請求項2に記載のロータ。
【請求項4】
上記溝を周方向に複数有することを特徴とする請求項2に記載のロータ。
【請求項5】
上記溝と接着剤とを、上記スロット内面の径方向内側に有することを特徴とする請求項1に記載のロータ。
【請求項6】
上記永久磁石は、軸方向と直交する方向の断面形状が、かまぼこ形、半円形及び半楕円形から成る群から選ばれた一種であり、その弧が径方向外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに係り、更に詳細には、ロータコアに永久磁石が挿入されたモータ用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータコアに永久磁石が挿入されたモータ用のロータが知られており、このようなロータは、一般に接着剤でロータコアと永久磁石とを固定している。
【0003】
上記ロータコアと永久磁石とを接着する接着剤が存在する隙間は、磁気回路設計の観点などから狭小であることが好ましく、この狭小な隙間に接着剤を付与することが困難であり、接着不良が生じ易い。
【0004】
特許文献1には、磁石の周方向端部に大きな隙間、すなわち、接着剤溜まりを形成し、この接着剤溜まりから周方向中央方向に流れる接着剤によって、ロータコアと永久磁石とを接着することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、ロータコアのスロット内面に接着剤を塗布した後に永久磁石を挿入した場合、スロット内面と永久磁石との間の隙間が狭小であるため、僅かな挿入角度のズレによって永久磁石の先端がスロット内面に接触し、塗布した接着剤が永久磁石の先端で刮ぎ取られ、接着剤の付与ムラが生じ易い。
【0007】
この接着剤の付与ムラが生じると、部分的に残った接着剤による点当たりが発生し、ロータが回転する際の遠心力による永久磁石からロータコアが受ける応力が場所によってバラつき、局所的に大きな応力がかかってロータコアの破断の原因となる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、接着剤による点当たりを防止できるロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ロータコアのスロット内面の周方向中央部に、軸方向一端から他端まで延び、かつ軸方向端部で周方向両端部まで広がる溝を設けることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明のロータは、ロータコアと、上記ロータコアのスロットに挿入された永久磁石と、を備える。
そして、上記ロータコアは、そのスロット内面の周方向中央部に、軸方向一端から他端まで延びる溝を有し、
上記溝は、少なくとも一方の軸方向端部で周方向両端部まで広がり、
上記ロータコアの軸方向端面がエンドプレートで封止され、
接着剤が、上記スロット内面の周方向両端部で軸方向に延在し、上記ロータコアと上記永久磁石とを固定していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロータコアのスロット内面の周方向中央部に、軸方向一端から他端まで延び、かつ軸方向端部で周方向両端部まで広がる溝を設けることとしたため、上記溝に空気を圧送することで、永久磁石の挿入時に刮ぎ取られた接着剤を押し戻すことができ、接着剤を均一に付与し、接着剤による点当たりを防止可能なロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ロータの一例を示す1/4形状平面図である。
【
図2】スロット部分のロータコアの軸と直交する方向の要部断面図である。
【
図4】空気流路に空気を圧送したときの接着剤の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のロータについて詳細に説明する。
本発明のロータは、ロータコアと、該ロータコアのスロットに挿入された永久磁石と、を備える。
【0014】
上記ロータコアは、
図1に示すように、該ロータコアを軸方向に貫通するスロットを有し、このスロットが周方向に並んで複数設けられ、それぞれのスロットには上記永久磁石が挿入されている。
【0015】
図2にスロット部分のロータコアの軸と直交する方向の要部断面図、
図3にスロットの内面を軸側又は外周側から見た形状を示す。
【0016】
永久磁石が挿入されたロータコアは、
図2に示すように、スロット内面と永久磁石との間に接着剤が存在できる程度、例えば、0.05~0.15mmの隙間(接着剤の存在領域)を有し、この隙間がスロットの周方向両端部に形成されている。
【0017】
また、スロットの周方向中央部では、スロット内面に永久磁石が当接している。この周方向中央部のスロット内面には、
図3に示すように、軸方向一端から他端まで延び、軸方向端部で周方向両端部まで広がった形状の溝が形成され、上記永久磁石とで空気流通路を形成している。
【0018】
すなわち、上記溝によって形成された空気流通路は、軸方向端部で周方向両端部の接着剤の存在領域まで連通している。
【0019】
なお、上記「永久磁石がスロット内面に当接」は、永久磁石を挿入するための極僅かな隙間が存在することを排除するものではない。
【0020】
ロータコアと永久磁石とを固定する際、上記のようにスロット内面の周方向両端部に接着剤を塗布した後、スロットに永久磁石を挿入すると、接着剤が永久磁石で刮ぎ取られ、挿入方向に押しやられてしまう。
【0021】
本発明では、永久磁石挿入方向(軸方向)出口側のロータコアの端面をエンドプレートで封止し、永久磁石挿入方向入口側から上記空気流通路内に空気を圧送すると、
図4中、矢印で示すように、空気がエンドプレートに当たって周方向両側に流れて、周方向両端部の接着剤存在領域に達する。
【0022】
したがって、永久磁石の挿入時に、永久磁石挿入方向に押しやられた接着剤を、永久磁石挿入方向と逆方向に押し戻すことができ、接着剤を軸方向に連続して延在させることが可能である。
【0023】
このように、本発明のロータは、周方向両端部に塗布した接着剤を軸方向に連続して延在させることができるので、接着剤による点当たりが防止された状態でロータコアと永久磁石とを固定することができる。
【0024】
加えて、ロータコアと永久磁石との間に接着剤を確実に付与できるので、ロータコアと永久磁石との間の隙間を狭小化することが可能であり、ロータコアの断面積が増加して磁場を確保することができる。
【0025】
なお、「接着剤が軸方向に連続して延在」とは、軸方向に接着剤が途切れずに存在していることをいい、周方向の接着剤の塗布幅が同一であることを意味しない。
【0026】
上記ロータコアは、スロットとなる貫通孔を有し、該貫通孔の形状が内面に溝が形成された形状の電磁鋼板を積層し、終端の電磁鋼板として、永久磁石との間の隙間が周方向両端部間を繋ぐように、他の電磁鋼板よりも開口径が大きな貫通孔を有する電磁鋼を用いることで作製できる。また、上記スロット形状を有する圧粉磁心により構成されてもよい。
【0027】
上記スロット内面と上記永久磁石との間の隙間は、軸方向と直交する方向の断面積が、周方向両端部の上記接着剤の存在領域よりも、上記溝部が大きいことが好ましい。
溝部の断面積が接着剤の存在領域よりも大きいことで、空気流路に圧送する空気圧が低くても接着剤を押し流すことができる。
【0028】
上記溝は、軸方向と直交する方向の断面形状が径方向よりも周方向が大きく、ロータコアへの切れ込みが浅い形状であることが好ましい。このような形状の切れ込みが浅い溝であれば、溝を形成することによるロータコア自体の強度低下を抑制でき、接着剤の均一付与と相俟ってロータ強度の信頼性が向上する。
【0029】
また、上記溝を複数に分割して周方向に並べて設けることができる。溝を複数形成することで、溝の断面積が確保されて接着剤を容易に押し流すことができると共に、溝と溝との間でロータコアと永久磁石とが当接するので、磁場を確保することができ、モータの高性能化が可能である。
【0030】
上記溝や接着剤の存在領域は、スロット内面の径方向外側、径方向内側のどちら側に設けてもよく、内側と外側との両方に設けてもよいが、径方向内側に設けることが好ましい。スロット内面の径方向外側に上記溝や接着剤の存在領域を設けないことで、ロータコアのブリッジ部の厚さを確保することができ、ロータ強度の信頼性が向上する。
【0031】
上記永久磁石は、軸方向と直交する方向の断面形状が、かまぼこ形、半円形及び半楕円形から成る群から選ばれた一種であることが好ましい。
このような断面形状の永久磁石を、その弧が径方向外側になるように配置すると、永久磁石の径方向外側に応力が集中する角が存在しないので、ロータ回転による遠心力が分散されてロータコアの破断を防止することができる。
【0032】
上記のように、本発明ロータは、ロータコアに局部的に大きな応力がかかることを防止できるので、ロータ強度の信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0033】
1 ロータコア
11 スロット
12 溝
13 永久磁石当接領域
14 接着剤存在領域
15 ブリッジ部
2 永久磁石
3 接着剤
4 エンドプレート
5 空気の流れ
6 接着剤の流れ