IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ガスケット株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-繊維強化樹脂の成形装置 図1
  • 特開-繊維強化樹脂の成形装置 図2
  • 特開-繊維強化樹脂の成形装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006114
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂の成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20240110BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C43/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106704
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000228383
【氏名又は名称】日本ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】田島 渉
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AB25
4F204AC03
4F204AD16
4F204FA01
4F204FB01
4F204FF05
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ15
4F205AA36
4F205AB25
4F205AC03
4F205AD16
4F205HA08
4F205HA25
4F205HA33
4F205HA35
4F205HA45
4F205HB01
4F205HC08
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK31
(57)【要約】
【課題】 強度の高い屈曲部4cを備えた繊維強化樹脂4を成形する。
【解決手段】 補強繊維Fと樹脂粉末とを水に分散混合した混合液を抄造して作成した素形体を上型2と下型3との間で加熱加圧して所要形状からなる繊維強化樹脂4に成形する成形装置1に関する。
上記繊維強化樹脂4に断面略L字形の屈曲部4cを形成するため、上型2と下型3に、接近方向に対して略直交する水平面2a、3aと、上記接近方向と略同じ方向に形成された垂直面2b、3bとを設け、このうち上記垂直面2b、3bを上記接近方向に対して傾斜させて形成し、かつ上記水平面2a、3aと垂直面2b、3bとの境界部分にコーナーRを設けた
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に接近可能に設けられた上型と下型とを備え、補強繊維と樹脂粉末とを水に分散混合した混合液を抄造して作成した素形体を、上記上型と下型とを接近させて加熱加圧することにより、所要形状の繊維強化樹脂を成形する繊維強化樹脂の成形装置において、
上記繊維強化樹脂に断面略L字形の屈曲部を形成するため、上記上型および下型のそれぞれに、上型と下型との接近方向に対して略直交する水平面と、上記接近方向と略同じ方向に形成された垂直面とを設け、
このうち上記垂直面を上記接近方向に対して傾斜させて形成し、かつ上記水平面と垂直面との境界部分にコーナーRを設けたことを特徴とする繊維強化樹脂の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化樹脂の成形装置に関し、より詳しくは、補強繊維と樹脂粉末とを水に分散混合した混合液を抄造して作成した素形体を加熱加圧して成形する繊維強化樹脂の成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
補強繊維と樹脂粉末とを水に分散混合した混合液を抄造して素形体を作成し、当該素形体を加熱加圧することにより、上記補強繊維を含んだ繊維強化樹脂を成形することが行われており、このような上記繊維強化樹脂を成形する際には、上記素形体を上型と下型とを接近させながら加熱加圧する成形装置が用いられている(特許文献1)。
ここで、上記素形体を加熱加圧して繊維強化樹脂を成形する際、素形体に対して十分な圧縮力を作用させないと、成形後の繊維強化樹脂の内部で補強繊維の向きが揃わず、当該部分の強度が十分に得られないという問題が指摘されていた。
そこで上記特許文献1では、屈曲部などの複雑な形状を有した繊維強化樹脂を成形するために、上型と下型との少なくともいずれか一方に、上型と下型との接近方向とは異なる方向に移動する可動部材を設けて、最初に上型と下型とで上記素形体の一部分を加圧成形してから、可動部材を作動させて他の部分を加圧するようにしていた。
上記特許文献1の成形装置によれば、上型と下型とを接近させただけでは十分に素形体を加圧できない部分であっても、上記可動部材を用いることで素形体に十分な圧縮力を作用させることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-52650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の成形装置は、成形する繊維強化樹脂の形状が複雑な場合、必要な位置に可動部材を設けることができない場合があり、また可動部材を備えることから成形装置が複雑になるといった問題があった。
このような問題に鑑み、本発明は屈曲部における補強繊維を揃えた状態で繊維強化樹脂を成形することが可能な成形装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明は、相互に接近可能に設けられた上型と下型とを備え、補強繊維と樹脂粉末とを水に分散混合した混合液を抄造して作成した素形体を、上記上型と下型とを接近させて加熱加圧することにより、所要形状の繊維強化樹脂を成形する繊維強化樹脂の成形装置において、
上記繊維強化樹脂に断面略L字形の屈曲部を形成するため、上記上型および下型のそれぞれに、上型と下型との接近方向に対して略直交する水平面と、上記接近方向と略同じ方向に形成された垂直面とを設け、
このうち上記垂直面を上記接近方向に対して傾斜させて形成し、かつ上記水平面と垂直面との境界部分にコーナーRを設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、繊維強化樹脂に断面略L字形の屈曲部を成形するために、上記上型および下型に上記屈曲部に対応した形状を有する水平面と垂直面とを形成し、このうち垂直面を上型と下型との接近方向に対して傾斜させたものとなっている。
これにより、上型と下型とを接近させて素形体を変形させると、上記垂直面において素形体に上型と下型とからの圧縮力を作用させることができ、補強繊維の配列を揃えることができる。
また、上記水平面と垂直面との境界部分にコーナーRを設けたことにより、屈曲部のコーナーR部分に補強繊維を入り込ませることができ、屈曲部の強度を得ることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1実施例を示す断面図。
図2図1の屈曲部の拡大図。
図3】従来の繊維強化樹脂における屈曲部の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1において、成形装置1は上型2と下型3とを備えており、上型2は図示しない昇降手段によって垂直方向上下に移動可能に設けられている。
本実施例の成形装置1は、補強繊維と樹脂粉末とを水に分散混合した混合液を抄造して作成した素形体を、上記上型2と下型3とで加熱加圧することにより、所要形状の繊維強化樹脂4を成形するものとなっている。
本実施例で成形する繊維強化樹脂4は、一例として、中央部が下方に向けて膨出したドーム状部4aと、当該ドーム状部4aを囲繞するフランジ部4bとを備えており、上記ドーム状部4aとフランジ部4bとの境界部分には、断面略L字形を有する屈曲部4cが形成されている。
【0009】
本実施例で使用する上記素形体は、例えばフェノール樹脂といった熱硬化性樹脂と、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、セラミック繊維といった補強繊維Fとが配合されたものから構成されている。
そして上記素形体の作成方法としては、上記補強繊維Fと樹脂粉末とを水に分散混合した混合液を抄造して抄造シートを作成し、必要に応じて当該抄造シートを複数枚積層させた後、これを加熱加圧して上記樹脂が架橋されない程度に硬化させる方法が知られ、また、立体的に形成した空間内に上記混合液を投入して、立体的な形状を有する素形体を一度に作成する方法も採用することができる。
【0010】
上記成形装置1を構成する上記上型2および下型3は、それぞれ成形すべき繊維強化樹脂4の形状に応じた形状を有しており、また図示しないが上型2または下型3の少なくともいずれか一方には加熱手段が設けられている。
上記繊維強化樹脂4を上型2および下型3によって成形する際には、上記加熱手段によって上型2または下型3を加熱した状態で、上記上型2を下降させて下型3に接近させ、これにより上記素形体を上型2と下型3とによって変形させながら加熱する。
これにより上記素形体が圧縮されながら変形し、これに伴って素形体に含まれる熱硬化性樹脂が架橋しながら硬化して、上記繊維強化樹脂4が成形されるようになっている。
【0011】
図2は、本実施例にかかる上記繊維強化樹脂4の屈曲部4cと、当該屈曲部4cを成形している状態の上型2および下型3の拡大図を示している。また図3は従来の成形装置1によって成形中の繊維強化樹脂4の屈曲部4cと、上型2および下型3の拡大図を示している。
本実施例の成形装置1の上型2および下型3には、上記繊維強化樹脂4の屈曲部4cを成形するために、水平を向いた上記フランジ部4bを成形するための水平面2a、3aと、上記ドーム状部4aの上端部分を成形するための垂直面2b、3bとが形成されている。なお上記垂直面2b、3bよりも下方側の部分は製品形状に従って断面円弧状に形成されている。
また図2図3には、繊維強化樹脂4の内部の補強繊維Fの向きを示しており、以下の説明において、補強繊維Fの向きが揃った状態とは、図2に示すように、素形体が圧縮される方向に対して直交する面内でランダムな方向を向いており、これが層状に並んだ状態をいう。
これに対し、補強繊維Fの向きが揃っていない状態とは、図3に示すように、補強繊維Fが繊維強化樹脂4の内部でランダムな方向を向いており、また補強繊維Fが位置しない疎の部分が形成されるような状態をいう。
そして、成形された繊維強化樹脂4において、上記補強繊維Fの向きが揃っている場合には、当該部分の強度は高くなり、これに対し補強繊維Fの向きが揃っていない場合には、当該部分の強度は低くなる傾向にあることが知られている。
【0012】
まず、上記上型2および下型3における上記水平面2a、3aを構成する部分は、上記上型2の下降方向に対して略直交する方向に設けられている。
このような構成により、素形体を上型2と下型3とによって挟持した際に、素形体に作用する圧縮力が上型2の下降方向と同じ垂直方向に作用するため、大きな圧縮力を作用させることができる。
その結果、素形体が圧縮される間に、素形体中の補強繊維Fの向きが揃えられ、成形後の繊維強化樹脂4において補強繊維Fの向きを揃えることが可能となっている。
なお本実施例において、上記水平面2a、3aは図示水平方向を向いているが、製品形状に合わせて、水平面2a、3aを上型2と下型3との接近方向に対して多少傾斜させてもよい。
【0013】
次に、上記上型2および下型3における上記垂直面2b、3bは、上型2の下降方向に対して傾斜して設けられており、かつ上型2の下降方向に対するなす角を30°以上とすることが望ましい。
このように上記なす角を30°以上に設定することで、成形装置1による加工の際に素形体を上型2と下型3とによって挟持すると、上型2の下降方向に対して斜めの方向に圧縮力が作用することとなる。
この圧縮力は、上型2および下型3の水平面2a、3aによって素形体を圧縮する場合よりも低いものの、この圧縮力を素形体に作用させることで、圧縮中の素形体の補強繊維Fの向きを揃えることが可能となる。
これに対し、なす角を30°未満に設定してしまうと、素形体に圧縮力を十分に作用させることができなくなる。具体的に説明すると、例えば図3のように垂直面2b、3bが上型2の下降方向と同じ垂直方向を向いている場合、上型2が下降して素形体が上型2と下型3との間で変形しても、垂直面2bと垂直面3bとの間に位置する素形体には圧縮力が作用しないこととなる。
その結果、圧縮力により補強繊維Fの向きを揃えるという効果が得られず、変形中の素形体の内部で補強繊維Fが遊走してしまうため、補強繊維Fの向きがランダムとなってしまう。
【0014】
次に、図2に示すように、上記成形装置1における上記水平面2a、3aと垂直面2b、3bとの境界部分にはコーナーRが設けられており、当該コーナーRは半径3mm以上とすることが望ましい。
具体的には、図2に示す本実施例の構成の場合、下型3における水平面2a、3aと垂直面2b、3bとのコーナーRの半径を3mm以上に設定すればよく、上型2におけるコーナーRについては、下型3のコーナーRと成形される繊維強化樹脂4の板厚等に応じて設定すればよい。
このようにすることで、上型2と下型3とによって素形体を圧縮した際に、補強繊維Fが上型2や下型3のコーナーR部分に入り込むことが可能となり、水平面2a、3aと垂直面2b、3bとの境界部分において補強繊維Fの向きを揃えることができる。
一方、コーナーRを半径3mm未満にすると、当該コーナーR部分に補強繊維Fが入り込めなくなることから、当該部分が補強繊維Fの位置しない疎の部分(図示破線部分)となり、当該部分の強度が低下することとなる。
【0015】
以上のように、本実施例の成形装置1によれば、繊維強化樹脂4に屈曲部4cを成形する際、垂直面2b、3bを傾斜させて設けたことにより、当該部分で挟持した素形体に対して十分に圧縮力を作用させて補強繊維Fの向きを揃えることが可能となっている。
また水平面2a、3aと垂直面2b、3bとの境界部分にコーナーRを設けたことで、上記境界部分に補強繊維Fを入り込ませることができ、補強繊維Fが適切に配置された高い強度を有する屈曲部4cを備えた繊維強化樹脂4を成形することができる。
【0016】
なお、上記実施例における繊維強化樹脂4はドーム状部4aとフランジ部4bとから構成されており、ドーム状部4aを下方に向けたものとなっているが、ドーム状部4aを上方に向けた状態であっても成形は可能である。
また、その他の形状であっても、略L字形の屈曲部4cを備えた繊維強化樹脂4を成形するために、当該形状に合わせて上型2および下型3に上記水平面2a、3aおよび垂直面2b、3bを設けて、屈曲部4cを高い強度で成形することが可能となる。
【符号の説明】
【0017】
1 成形装置 2 上型
3 下型 2a、3a 水平面
2b、3b 垂直面 4 繊維強化樹脂
4c 屈曲部 F 補強繊維
R コーナーR

図1
図2
図3