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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006115
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】模擬尿臭組成物および評価方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20240110BHJP
   A41B 17/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C11B9/00 R
G01N33/00 C
C11B9/00 A
A41B17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106705
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直里
(72)【発明者】
【氏名】亀崎 悠
【テーマコード(参考)】
3B128
4H059
【Fターム(参考)】
3B128SB05
4H059BA14
4H059BA26
4H059BA49
4H059BB14
4H059BB45
4H059BC10
4H059DA09
4H059EA32
(57)【要約】
【課題】実際の尿臭を適切に模擬した尿臭を発生する模擬尿臭組成物、および、模擬尿臭組成物を用いた消臭効果の評価方法を提供する。
【解決手段】フェニル酢酸を含む模擬尿臭組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニル酢酸を含む
模擬尿臭組成物。
【請求項2】
p-クレゾールを含み、
前記フェニル酢酸の含有量に対する前記p-クレゾールの含有量の質量比(p-クレゾール/フェニル酢酸)は、1/9~9/1である
請求項1の模擬尿臭組成物。
【請求項3】
アセトアミノフェンを含み、
前記フェニル酢酸の含有量に対する前記アセトアミノフェンの含有量の質量比(アセトアミノフェン/フェニル酢酸)は、1/9~9/1である
請求項1の模擬尿臭組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかの模擬尿臭組成物を用いて、尿臭に対して対象物が有する消臭効果を評価する
評価方法。
【請求項5】
前記対象物は、下着用の繊維である
請求項4の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿臭を模擬した模擬尿臭組成物、および、当該模擬尿臭組成物を使用した消臭効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿臭を抑制するための各種の技術が従来から提案されている。例えば、特許文献1には、尿臭を抑制するための尿臭抑制剤が開示されている。以上のような尿臭抑制剤を開発するにあたって、当該尿臭抑制剤が尿臭に対して有する消臭効果を評価する必要がある。しかし、消臭効果を評価する際に実際の人間の尿を使用することは、尿の成分(ひいては尿臭)に個人差があることや衛生面の観点から、好ましくないという実情がある。
【0003】
そこで、特許文献2には、尿臭を模擬した疑似尿臭組成物が開示されている。特許文献2の技術では、炭素数6~10のフェノール化合物とトリメチルアミンとを所定の質量比で含有させることで、尿臭を模擬している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-33511号公報
【特許文献2】特許第5368696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2の技術では、尿臭というよりも腐敗臭が強く、実際の尿臭に近づけるという観点からは改善の余地がある。さらに、尿臭の臭気は、尿が付着する場所や環境に応じて異なる。特許文献2では、飛び散った尿の付着したトイレから発生する尿臭やニオイの使用済みおむつの尿臭を模擬している。したがって、特許文献2の技術では、着用の繊維に付着して時間が経過した尿から発生する実際の尿臭などとは大きく異なるという実情がある。以上の事情を考慮して、本発明では、実際の尿臭を適切に模擬した尿臭を発生する模擬尿臭組成物、および、模擬尿臭組成物を用いた消臭効果の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係る模擬尿臭組成物は、フェニル酢酸を含む。
【0007】
[2]p-クレゾールを含み、前記フェニル酢酸の含有量に対する前記p-クレゾールの含有量の質量比(p-クレゾール/フェニル酢酸)は、2/8~8/2である[1]に記載の模擬尿臭組成物。
【0008】
[3]アセトアミノフェンを含み、前記フェニル酢酸の含有量に対する前記アセトアミノフェンの含有量の質量比(アセトアミノフェン/フェニル酢酸)は、1/9~5/5である[1]または[2]に記載の模擬尿臭組成物。
【0009】
[4][1]から[3]の何れかに記載の模擬尿臭組成物を用いて、尿臭に対して対象物が有する消臭効果を評価する評価方法。
【0010】
[5]前記対象物が下着用の繊維である[4]の評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る模擬尿臭組成物によれば、実際の尿臭を適切に模擬した尿臭を発生させることができる。特に、下着(パンツ)に付着して時間が経過した尿から発生する実際の尿臭を適切に模擬した尿臭を発生させることが可能である。
【0012】
本発明に係る評価方法によれば、実際の尿臭を適切に模擬した尿臭を発生する模擬尿臭組成物を使用するから、尿臭に対する消臭効果を適切に評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る模擬尿臭組成物は、実際の人間の尿臭を模擬した組成物である。ここで、本発明の発明者らは、模擬尿臭組成物から発生する尿臭を実際の尿臭により近づけるために、実際の尿臭を分析した。なお、本発明の発明者は、臭気判定士(国家資格)を保有する。
【0014】
具体的には、まず、尿臭に関する以下の報告1~4)より共通する特定の22成分を抽出した。
1)石田浩彦,田添由起,森一郎,山田達也,松房弘子,尿臭の発生源に着目した介護施設内全体の臭気の低減について,におい・かおり環境学会誌, 2016, 49(2), 129-138
2)加藤寛之,悪臭の原因物質とその発生のメカニズム,ビルと環境,2017, 159, 15-23
3)Mika Shirasu, Kazushige Tohara, The scent of disease:volatile organic compounds of the human body related to disease and disorder, J. Biochem, 2011, 150(3), 257-266
4)Myriam Troccaz, Yvan Niclass, Pauline Anziani, Christian Starkenmann, The influence of thermal reaction and microbial transformation on the odour of human urine, Flavour Fragr.J. 2013, 28, 200-211
【0015】
しかし、抽出した22成分のうち何れの成分が尿臭に大きく影響しているのかまでは確認がされていなかった。そこで、本発明の発明者らは、22成分のにおいをそれぞれ嗅ぎ、尿臭に近い5~10成分を特定した。その結果、特にフェニル酢酸が尿臭に大きく寄与していることが新たな知見として得られた。以上の知見を踏まえて、検討した結果、以下の模擬尿臭組成物が考案された。
【0016】
具体的には、本発明に係る模擬尿臭組成物は、フェニル酢酸を含むことを特徴とする。模擬尿臭組成物がフェニル酢酸を含むことで、実際の尿臭を適切に模擬した尿臭を発生させることができる。
【0017】
模擬尿臭組成物中のフェニル酢酸の含有量は、実際の尿臭に近づける観点からは、例えば10~100質量%であり、好ましくは20~80質量%である。
【0018】
模擬尿臭組成物は、フェニル酢酸に加えて、p-クレゾールを含むことが好ましい。模擬尿臭組成物がp-クレゾールを含むことで、実際の尿臭をより適切に模擬した尿臭を発生させることができる。
【0019】
模擬尿臭組成物中のp-クレゾールの含有量は、実際の尿臭に近づける観点からは、例えば10~90質量%であり、好ましくは20~80質量%である。
【0020】
フェニル酢酸の含有量に対するp-クレゾールの含有量の質量比(p-クレゾール/フェニル酢酸)は、例えば0/10~9/1であり、好ましく2/8~8/2である。質量比(p-クレゾール/フェニル酢酸)を上記の範囲内とすることで、実際の尿臭により近い尿臭を発生させることができる。特に、下着に付着して時間が経過した尿から発生する実際の尿臭を適切に模擬することが可能である。
【0021】
さらに、模擬尿臭組成物は、アセトアミノフェンを含むことが好ましい。模擬尿臭組成物がアセトアミノフェンを含むことで、実際の尿臭をより適切に模擬した尿臭を発生させることができる。
【0022】
模擬尿臭組成物中のアセトアミノフェンの含有量は、実際の尿臭に近づける観点からは、例えば10~90質量%であり、好ましくは10~70質量%である。
【0023】
フェニル酢酸の含有量に対するアセトアミノフェンの含有量の質量比(アセトアミノフェン/フェニル酢酸)は、例えば1/9~9/1であり、好ましくは1/9~5/5である。質量比(アセトアミノフェン/フェニル酢酸)を上記の範囲内とすることで、実際の尿臭により近い尿臭を発生させることができる。特に、下着に付着して時間が経過した尿から発生する実際の尿臭を適切に模擬することが可能である。
【0024】
p-クレゾールの含有量に対するアセトアミノフェンの含有量の質量比(アセトアミノフェン/p-クレゾール)は、例えば1/9~9/1であり、好ましくは1/9~5/5である。質量比(アセトアミノフェン/フェニル酢酸)を上記の範囲内とすることで、実際の尿臭により近い尿臭を発生させることができる。特に、下着(典型的にはパンツ)に付着して時間が経過した尿から発生する実際の尿臭を適切に模擬することが可能である。
【0025】
模擬尿臭組成物には、尿臭を損なわない範囲でその他の各種の成分を配合してもよい。その他の成分としては、例えば、グアイアコール、フラネオール、フェニルエタノール、メチオナール、2-メトキシ-5-メチルフェノールおよび2-メトキシ-4-ビニルフェノールから選択される1種以上が例示される。これらの中でもフェニルエタノール、2-メトキシ-4-ビニルフェノール、が好ましい。
【0026】
本発明に係る模擬尿臭組成物を用いて、尿臭に対して対象物が有する消臭効果を評価する方法(以下「評価方法」という)が提案される。対象物としては、特に限定されないが、例えば、下着(下着用の繊維)、おむつ、尿パッド、ベッドパッド、ベッドマット、シーツ、ブランケット、便座シート、トイレ用マット、および、トイレ用の消臭剤などが例示される。模擬尿臭組成物が特に下着に付着して時間が経過した尿から発生する実際の尿臭を適切に模擬できることから、これらの中でも下着用の繊維を対象物として消臭効果を評価する場合に適している。
【0027】
なお、下着用の繊維について消臭効果を評価する場合には、下着用繊維を採取した臭気用バッグ内に窒素ガス充填後に模擬尿臭組成物を注入し、40~60℃の環境下で静置して行う。そして、所定の時間(例えば10分~1時間程度)の経過前後で模擬尿臭組成物の成分の濃度をガスクロマトグラフ質量分析計により比較することで消臭評価を評価する。所定の時間経過後の濃度が経過前(開始時)の濃度と比較して低下しているか否か、および、低下している場合にはその変化量に応じて、消臭評価を評価する。
【実施例0028】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0029】
実施例および比較例は、表1の配合で調整した。表1の各成分の詳細は、以下の通りである。
アンモニア水:アンモニア水、関東化学株式会社製、28~30%
フェニル酢酸:フェニル酢酸、富士フィルム和光純薬株式会社製、>98%
p-クレゾール:p-クレゾール、東京化成工業株式会社、>99%
フェニルエタノール:2-フェニルエチルアルコール、東京化成工業株式会社、>98%
アミノアセトフェノン:p-アミノアセトフェノン、富士フィルム和光純薬株式会社製、98%
【0030】
【表1】
【0031】
実施例および比較例について、嗅覚試験を合格したパネル(研究対象者)8名によって、尿臭と感じるか否かの官能評価を行った。嗅覚試験は、悪臭防止法第12条の嗅覚測定法(嗅覚による臭気の有無を判定する方法)を実施するパネルの選定に使用される検査に準拠して実施した。そして、30代~40代の男女4名ずつのパネル計8名のうち尿臭と感じた人数を表1に示す。
【0032】
表1から把握される通り、フェニル酢酸を使用した実施例1~3では、半数を上回るパネルが尿臭と感じたことが確認できた。特に、フェニル酢酸とp-クレゾールとアミノアセトフェノンとを所定の質量比で使用した実施例3では、7人のパネルが実際の尿臭と感じた。さらに、実施例1~3においては、尿臭であると感じたパネルの全員が、尿が下着に付着して時間が経過した際に発生する尿臭に近いと感じた。
【0033】
それに対して、フェニル酢酸を使用していない比較例1~3では、尿臭と感じた人数が尿臭と感じない人数以下であった。特に、一般的に尿臭と言われているアンモニアを単独で使用した実施例1については、最も尿臭と感じない人数が多かった。また、特許文献2において尿臭に対する寄与が大きいとされているp-クレゾールを単独で使用した比較例2と、当該p-クレゾールとフェニルエタノールとを使用した比較例3は、尿臭というよりも薬品臭のような臭いであった。