(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061155
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの設計方法及び同設計方法で設計された眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/02 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
G02C7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168908
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】322010534
【氏名又は名称】東海光学ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】朝野 彰
(57)【要約】
【課題】簡単に中心窩の位置を算出でき視軸を基準としたレンズの光学性能を取得できる眼鏡レンズの設計方法及びそのような設計方法によって設計された眼鏡レンズを提供すること。
【解決手段】コンピュータ装置による眼球モデル及び同眼球モデルの前方に配置されたレンズに対して光線を透過させるシミュレーションを実行して眼球モデルの眼軸上のデータを取得し、眼軸上のデータを用いて眼球モデル内の中心窩の位置データを算出し、得られた中心窩の位置データと節点を結ぶ視軸を通過する光線に基づいてレンズの光学性能を取得し、回転対称とはならない左右非対称なレンズの設計をするようにした。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ装置による眼球モデル及び同眼球モデルの前方に配置されたレンズに対して光線を透過させるシミュレーションを実行して前記眼球モデルの眼軸上のデータを取得し、前記眼軸上のデータを用いて前記眼球モデル内の中心窩の位置データを算出し、得られた中心窩の前記位置データと節点を結ぶ視軸を通過する光線に基づいて前記レンズの光学性能を取得し、回転対称とはならない左右非対称なレンズの設計をすることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
【請求項2】
前記視軸の算出においては前記眼軸と前記視軸との軸方向の角度のズレに基づいて計算を行うことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項3】
任意の視距離の二次元平面上に視軸を通過させる注視点を設定し、前記注視点を視線が通過する際に前記二次元平面上に軸線が通過する位置を交点とし、前記交点から眼回旋中心に向かう光線に基づいて眼回旋量を算出し、算出した前記眼回旋量に基づいて中心窩の位置データを算出するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項4】
前記眼軸を通り前記眼球モデルと交差する第3の交点に、算出した前記眼回旋量を適用して中心窩の位置データを算出するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項5】
前記眼球モデルの前方に前記レンズを配置させた状態で前記眼回旋量を算出することを特徴とする請求項4に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項6】
前記眼回旋量を算出する際には回旋量に応じた回転行列を求め、前記回転行列に基づいて中心窩の位置データを算出することを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項7】
前記眼軸と前記視軸との軸方向角度のズレに基づく計算では眼軸長に応じて異なるパラメータを使用して計算されることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項8】
請求項1又は2の眼鏡レンズの設計方法によって設計された、耳側領域と鼻側領域が回転対称とはならない左右非対称な単焦点眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡レンズの設計方法及び同設計方法で設計された眼鏡レンズ等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの設計において、光線追跡で、例えば度数や収差のレンズ特性をコンピュータ装置によってシミュレーションする際、従来から光線が眼回旋点を通過することを前提として実施している。眼回旋点は眼球が回転する際の中心であり「眼軸」が通過する点である。しかし、実際には物体を見る際の視線は眼回旋点を通過しない。視線が通過する軸を「視軸」と称し、この視軸は視力が一番出る中心窩を通過する。中心窩は網膜の黄斑部の中心に位置する部分で中心視野での視覚に寄与する。中心窩は正確には光軸上に位置せず、光軸から4~8度耳側にずれた位置にあり平均すると耳側に5.5度ずれた位置となる(下方には1度)。中心窩についての先行技術として特許文献1を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシミュレーションにおいて眼軸を基準としたのは、主として眼球モデルの回転中心となる眼回旋点を原点として計算することができるため計算上有利であることであるが、それ以外にも視軸と眼軸の差がそれほど厳密には考えられていなかったため眼回旋点が視線上にあると仮定してもレンズ特性を取得する手法として十分であるとされてきたためである。一方、視軸を基準とすると中心窩の位置を算出しなければならず計算上面倒である。更に、中心窩の位置を算出する際に眼軸長をパラメータとして用いる場合には更に計算が面倒となる。
しかし、近年の眼鏡レンズはユーザーの見え方に応じたカスタマイズした光学特性が求められるようになっており、より正確なレンズの光学性能が望まれている。そのため、眼鏡レンズの設計や評価において改めて視軸を基準としたシミュレーションが求められており、そのために簡単に中心窩の位置を算出でき視軸を基準としたレンズ特性を取得できる方法が求められていた。また、そのような設計思想で設計され、得られた加工データに基づいて作製された眼鏡レンズも求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、簡単に中心窩の位置を算出でき視軸を基準としたレンズの光学性能を取得できる眼鏡レンズの設計方法及びそのような設計方法によって設計された眼鏡レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1の手段として、ココンピュータ装置による眼球モデル及び同眼球モデルの前方に配置されたレンズに対して光線を透過させるシミュレーションを実行して前記眼球モデルの眼軸上のデータを取得し、前記眼軸上のデータを用いて前記眼球モデル内の中心窩の位置データを算出し、得られた中心窩の前記位置データと節点を結ぶ視軸を通過する光線に基づいて前記レンズの光学性能を取得し、回転対称とはならない左右非対称なレンズの設計をするようにした。
これによって、位置情報として明確な眼軸上のデータを用いて中心窩の位置データを正確に算出することができるため、算出された中心窩の位置データと節点を結ぶ視軸を通過する光線に基づいてレンズの光学性能を取得できるようになる。そして、中心窩の位置データに基づいてそのユーザーに応じたより正確なレンズの光学性能となる中心窩を基準とした耳側領域と鼻側領域が回転対称とはならない左右非対称なレンズを得ることができる。
【0006】
「レンズの光学性能」とは、既存のレンズ評価において用いているレンズ性能(特性)のことを言い、例えば、S度数、C度数、等価球面度数(S+C/2)、乱視度数とその軸度、プリズム量とそのベース値、累進屈折力レンズにおける加入度、非点収差、歪曲収差、度数誤差(パワーエラー)等であって、これら性能を単独あるいは複数組み合わせて設計や評価に用いることができる。
「眼球モデル」としては、例えば、グストランドの模型眼に代表される実測された眼のデータを用いても良いし、簡易的に眼回旋中心をレンズ裏面から24~29mm程度離れた位置に設定しても良い。レンズ裏面から眼回旋中心までの距離は、軸性の近視のような場合には距離が長くなるし、鼻の高さによりレンズの位置が変化する場合などにも距離が変動するため、シミュレートする条件に合わせて設定することが好ましい。
「眼軸」は眼球の眼回旋中心と節点を通過する直線の軸である。
「視軸」は眼球の網膜上の中心窩と節点を通過する直線の軸である。
シミュレーションにおいては注視点が光線追跡における点光源の射出点となり、レンズ上のいたるところを注視点としてシミュレートする。得られた光学特性は必要に応じて補間計算をして補充する。
【0007】
「回転対称とはならない左右非対称なレンズ」とは、左右非対称なレンズであったとしても、例えばある眼鏡レンズにC 1.00 AX45というように斜め方向に乱視軸のあるレンズ度数が設定されている場合では回転対称となるためこの発明では含まない意である。回転対称の回転中心は幾何中心となる。左右対称・非対称の基準となる対称軸としては、例えば幾何中心を通る垂直線を想定することがよい。
中心窩の位置は光軸から4~8度耳側にずれた位置にある。つまり、視軸を通過する光線に基づいてレンズの光学性能を取得してレンズを作製する場合に、そのずれが反映されるため単焦点レンズにおいては光学性能は左右対称とならないためである。「左右対称とならない」とは単焦点レンズで乱視のないS度数を想定した場合に、眼軸を基準とした計算であれば中心から同心円状に度数は変化し、少なくともレンズ中心を通過する光軸(眼軸)を基準として左右対称になるところ、本発明ではレンズ中心を通過する視軸を基準として中心から等距離にある左右の点の度数が異なるということになる。中心窩は耳側にずれているため視線を内側に振った場合に外側に振るよりもずれ量は大きい。その結果、レンズ中心を通る視軸を基準として左右等距離にある点では鼻側の点が耳側の点よりもレンズ度数が強くなる傾向となる。
また、中心窩の位置にずれがあることからレンズ中心を通過する光軸(眼軸)を基準として左右非対称になる際には鼻側と耳側で異なる非球面係数とすることがよい。非球面係数とは、原点(例えば、レンズの幾何学中心)から半径rだけ離れた位置における、球面サグに対するずれ量を示す係数である。非球面係数を表す式の項において変数が例えば、半径の4乗に掛かる場合は、4次の非球面係数と呼ぶ。
【0008】
また、第2の手段として、前記視軸の算出においては前記眼軸と前記視軸との軸方向角度のずれに基づいて計算を行うようにした。
視軸と眼軸はいずれも節点を通過するが、眼軸は眼回旋中心を通過するものの視軸は眼回旋中心を通過しない。そのため、両者の角度の違いに応じて眼軸上の座標を適用することで中心窩の位置データを算出することが可能となる。眼軸に対する視軸の角度は耳側と下側にそれぞれずれており、耳側の角度の方がずれは大きい。そのため少なくとも耳側の角度を考慮して計算を行うことがよい。
また、第3の手段として、任意の視距離の二次元平面上に視軸を通過させる注視点を設定し、前記注視点に視軸が通過する際に前記二次元平面上に上軸線が通過する位置を交点とし、前記交点から眼回旋中心に向かう光線に基づいて眼回旋量を算出し、算出した前記眼回旋量に基づいて中心窩の位置データを算出するようにした。
より具体的な中心窩の位置データを算出するための手法である。つまり、眼軸に基づいたデータであれば座標が明確となるため、視軸を通過させる注視点を二次元平面上に設定し、視軸に対応した眼軸が二次元平面上に結ぶ交点を用いるという手法である。これによって、注視線に視軸が向かう際の眼球モデルの回転量を眼軸を基準とした眼回旋量を適用して計算することが可能となる。
「交点から眼回旋中心に向かう光線」は軸線と一致し、レンズがなければ直線となり、レンズがある場合にはレンズ面で屈折して眼回旋中心に向かう。
【0009】
また、第4の手段として、前記眼軸を通り前記眼球モデルと交差する第3の交点に算出した前記眼回旋量を適用して中心窩の位置データを算出するようにした。
第3の交点は網膜上の点を仮想している。中心窩も網膜上の点であるため、眼軸上の第3の交点を眼軸と視軸のずれの角度に応じて眼回旋量を与えることで正確な視軸上の中心窩を算出することができる。
また、第5の手段として、前記眼球モデルの前方に前記レンズを配置させた状態で前記眼回旋量を算出するようにした。
この手段でわかるように、設計対象となるレンズを設置させなくとも眼軸のデータに基づいて視軸上の中心窩を算出することは可能である。しかし、レンズの屈折力や収差の影響で実際の中心窩の位置はレンズを設置させない場合と比較するとわずかにずれが生じることとなる。そのため、より正確さを求めるためには設計対象となるレンズを眼球モデルの前方に配置させた状態で算出することがよい。
【0010】
また、第6の手段として、前記眼回旋量を算出する際には回旋量に応じた回転行列を求め、前記回転行列に基づいて中心窩の位置データを算出するようにした。
三次元的な座標移動となる眼回旋量を算出する手法としては回転行列を求めることがもっともよい。これによって、眼軸上の座標の移動量を視軸上の座標に適用することが可能となる。回転行列としては眼球モデルは眼回旋中心を通過する眼軸を回転軸とするため、例えば「ロドリゲスの回転行列」を用いて眼回旋量の計算を効率化することがよい。
また、第7の手段として、前記眼軸と前記視軸との軸方向角度のずれに基づく計算では眼軸長に応じて異なるパラメータを使用して計算されるようにした。
眼軸長によって眼軸と視軸のなす角度は異なるため、眼軸長をパラメータとして角度を計算することがよい。特に耳側への眼軸に対する視軸のずれ角が大きいため、そのずれ角を調整することがよい。
例えば下記数1や数2の式を用いて眼軸長を考慮して補正した角度を使用することがよい。式1においてはLが平均的な眼軸長でありΔが眼軸長の変化量である。式2のSRは、装用者の処方球面度数であり、オートレフやフォロプターなどの検眼器で得られた測定値を参照する。なお、眼軸長をパラメータとする式1を適用する方が、単に処方球面度数を考慮するだけの式2に比べて、個人の眼球モデルをより考慮できるためよい。
【0011】
【0012】
【0013】
また、第8の手段として、第1の手段~第8の手段のいずれかの眼鏡レンズの設計方法によって設計された、耳側領域と鼻側領域が回転対称とはならない左右非対称な単焦点眼鏡レンズとした。
上記の設計方法によって設計されたレンズ形状データに基づいて耳側領域と鼻側領域が回転対称とはならない左右非対称な単焦点眼鏡レンズを作製することができる。レンズ形状データはレンズ表面又は裏面に施されるレンズ度数に応じた形状データであり、形状データに基づいて任意のユーザーのレンズ度数の眼鏡レンズを作製する。眼鏡レンズは、セミフィニッシュトブランクと呼ばれるガラスや樹脂素材からなる透明なブロック体からなる半製品の表裏いずれかを加工面として加工ツールで切削あるいは研削して前駆体レンズ(いわゆる丸レンズ)を得るようにしてもよく、眼鏡用レンズのレンズ型を使用して型取りし樹脂成形によって前駆体レンズ(いわゆる丸レンズ)を得るようにしてもよい。以下ではこれらの前駆体レンズ状態のレンズをもって眼鏡レンズとする。前駆体レンズとするのは実際の眼鏡レンズは一般にその後フレーム形状に合わせて加工しいわゆる玉型状態とするためである。つまり、玉型加工してもしなくても眼鏡レンズとされる。加工ツールとしては、例えばNC旋盤装置、CAD・CAM装置等がよい。これらの装置において加工データを入力してプログラムによってコンピュータを制御することで加工することがよい。レンズ型についてもCAD・CAM装置等によって加工することがよい。加工データは一般に基準点に基づいて切削量を決定するサグデータとなる。
【0014】
また、第9の手段として、第1の手段~第8の手段のいずれかの眼鏡レンズの設計方法によって取得した光学性能に基づいて前記レンズの光学性能を評価するコンピュータシミュレーションによって得られたレンズの光学性能に基づいてレンズを評価するようにした。本発明では例えば、眼鏡メーカーの設計者が設計を実行し、設計者が設計したレンズを評価する。
尚、本発明では例えば、眼鏡メーカーの設計者が設計を実行し、またレンズを評価する。
本願発明は以下の実施の形態に記載の構成に限定されない。各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材とてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本願発明では、位置情報として明確な眼軸上のデータを用いて中心窩の位置データを正確に算出することができるため、算出された中心窩の位置データと節点を結ぶ視軸を通過する光線に基づいてレンズの光学性能を取得できるようになり、中心窩の位置データに基づいてそのユーザーに応じたより正確なレンズの光学性能となる中心窩を基準とした耳側領域と鼻側領域が回転対称とはならない左右非対称なレンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態の電気的構成を説明するためのブロック図。
【
図2】実施の形態のシミュレーションにおいてスクリーン上の指定注視点に向かう視軸とその際に眼軸が向かうスクリーン上の交点を説明する説明図。
【
図3】実施の形態のシミュレーションにおいて交点を求める際の計算条件について説明する説明図。
【
図4】リスティングの法則による眼球モデルの回旋運動を説明するための模式図。
【
図5】(a)及び(b)は実施の形態のシミュレーションにおいて、正面視から指定注視点の方向を向いた際の眼軸の回旋状態を説明する説明図。
【
図6】実施の形態のシミュレーションにおいて眼軸と交点と指定注視点の関係を説明する説明図。
【
図7】実施の形態のシミュレーションにおいて視軸が指定注視点に向いているときの中心窩位置を求める際の光線の方向を説明する説明図。
【
図8】実施の形態のシミュレーションにおいて主光線周りの円周上に副光線の出発点を所定角度で複数配置することを説明する説明図。
【
図9】(a)~(c)は中心窩を通る視軸が鼻側と耳側でレンズ上の通過位置が異なることを説明するための模式図。
【
図10】従来の眼回旋を基準とした眼鏡レンズと中心窩を基準とした実施例1の眼鏡レンズについて視力分布のシミュレーションを実施した結果を示すグラフ。
【
図11】従来の眼回旋を基準とした眼鏡レンズと中心窩を基準とした実施例2の眼鏡レンズについて視力分布のシミュレーションを実施した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、具体的な実施の形態の説明をする。
(実施の形態)
図1は本発明の設計方法を実現するための一例としての演算用コンピュータ装置1の概略ブロック図である。演算用コンピュータ装置1には表示手段あるいは出力手段としてのモニター2とプリンタ3、キーボードやマウス等の入力装置4が接続されている。
演算用コンピュータ装置1はCPU(中央処理装置)5及び記憶装置6等の周辺装置によって構成される。CPU5は入力装置4からの命令により各種プログラムに基づいて処理を実行する。記憶装置6にはCPU5の動作を制御するためのプログラム、複数のプログラムに共通して適用できる機能を管理するOA処理プログラム(例えば、日本語入力機能や印刷機能等)等の基本プログラムが格納されている。
また、記憶装置6にはレンズの形状データに基づいて視軸による裏面光線追跡や透過光光線追跡のシミュレーションを実行するシミュレーションプログラム、光線追跡の結果として得られた光学性能データに基づいて視力のシミュレーションを実行するシミュレーションプログラムが格納されている。
また、CPU5は記憶装置6内の設計対象となるレンズについての形状データ、形状データのあるレンズに対する裏面光線追跡や透過光光線追跡のシミュレーションを実行した結果、算出した光学性能データ等を記憶装置6に格納する。
また、CPU5は記憶装置6内に記憶された演算プログラムに従ってシミュレーションを実行した結果、得られたデータに基づいて平均度数分布図、非点収差分布図、プリズム分布図、歪曲収差分布図等を作成し、モニター2やプリンタ3から出力させる。
尚、以下の計算においては必ずしも単一の演算用コンピュータ装置1で実行しなくともよく、一の演算用コンピュータ装置1で計算した結果に基づいて他の一の演算用コンピュータ装置1で実行させるようにしてもよい。
【0018】
次に、演算用コンピュータ装置1のシミュレーションソフトによって実行される視軸の計算及び視軸を通る光線追跡によるシミュレーションの具体的な一例について
図2~
図7に基づいて具体的に説明する。尚、実際には視軸と眼軸のずれ角はごくわずかであるが、以下の図を用いた説明においては、理解を容易にするために視軸と眼軸のずれ角を誇張して表現している。
尚、実際には視軸と眼軸のずれ角はごくわずかであるが、以下の図を用いた説明においては、理解を容易にするために視軸と眼軸のずれ角を誇張して表現している。
ここでは単焦点レンズでのシミュレーションとし、無限遠方(例えば10m)の中央を、眼鏡レンズを通して両眼で見ることを想定する。もちろん片眼でのシミュレーションも可能である。
【0019】
A.指定注視点に対する交点の算出
図2に示すように、本実施の形態では視軸が向かう方向として、まず任意の視距離の位置に想定したスクリーン上に指定注視点Tを設定する(想定する)。視軸が指定注視点Tに向かうとするとスクリーン上にその視軸に対応した眼軸も通過することになるため、シミュレーションにおいては左右の眼軸とスクリーンとの交点(Pr,Pl)を求めるものとする。
(1)計算条件について
図3に基づいて計算条件について説明する。この段階ではレンズ無しを想定して計算する。光線進行方向をX座標とし、これと直交する上下方向をY方向とし、スクリーンの左右方向をZ座標とする。
図2に示すように指定注視点T=(Z0,Y0)とおく(単位はmm)。視距離(瞳孔間中点~指定注視点Tまで距離)=D[mm]で固定値とする。瞳孔間中点を基準とし、各眼における眼回旋点のZ座標(Kz)を、L眼をKz=-PD/2[mm]、R眼が Kz=+PD/2[mm]とする(PDは指定した瞳孔間距離)。眼回旋点Kは瞳孔間中点を含む水平線上にある点と仮定する。
【0020】
(2)計算方法(R眼とL眼で計算方法は同様)
a)眼回旋についてはリスティングの法則、すなわち「ある第3眼位(斜め方向)に視線を向けた際の眼球の回旋は、第1眼位(正面)と第3眼位の視線を含む平面(リスティング平面)に垂直な眼回旋軸(リスティング回転軸)を回転させることにより唯一に決まる。」という法則に従う。(
図4に示すように、)リスティングの法則によるリスティング平面においては第1眼位ベクトルを正面視方向とし、第3眼位ベクトルを眼回旋方向とする。第1眼位ベクトルはG1(1,0,0)となり、第3眼位ベクトルはG3(qx、qy、qz)となる。これらは単位ベクトルである。
リスティングの法則によるリスティング回転軸のベクトルIはG1とG3の外積として計算できる。すなわち、
I=G1×G3
このようなリスティング回転軸の眼回旋角θiは、下記数3の式で計算される。
【0021】
【0022】
この眼回旋角θiを用いてリスティングの法則に従った眼回旋行列としてロドリゲスの回転行列Lを求める。回転行列Lは下記数4の式で示される。数4の式はベクトルIの要素を(dx,dy,dz)として示している。
【0023】
【0024】
b)
図3の正面視に基づき節点Nの三次元座標をN=(Nx, Ny, Nz)とおく。原点となる眼回旋中心から節点までを、例えば5.6mmとすれば節点NはN=(5.6,0,0) となる。節点Nを原点とした眼軸とスクリーンの交点T0=(D-Nx, 0, 0)を定め 眼軸に対する視軸のずれ角(α,β)を基に、αのY軸回転、βのZ軸回転で、T0'へと座標変換する。そして、
図5(a)(b)に示すように、点T0 と 点T0'のZ座標、Y座標の差分(ΔZ, ΔY)を求める。ΔY、ΔZ及びT0'は数5の式で定義される。視軸があらゆる注視点を向く際、スクリーン上の視軸と眼軸のずれ量は、常にΔY、ΔZと仮定する。但し、本仮定が不成立の場合が想定される際は、その不成立分を適宜補正することを可能とする。
指定注視点T=(Z0,Y0)、差分(ΔZ,ΔY) より下記数6の式に基づいて眼回旋点を原点とした視軸が注視点Tを向く際の、眼軸とスクリーンの交点P(Pr,Pl)=(Px,Py,Pz)が求まる。
尚、α,β、ΔZ,ΔY、Z0,Y0、Py,Pzなどの座標の符号は、
図5の座標系の取り方で適宜変更される。
【0025】
【0026】
【0027】
B.
図6に示すように、眼回旋中心から交点に向かう眼軸の方向、つまり第3眼位ベクトルが明確である。第3眼位ベクトルはY座標では(Y0-ΔY)/D、Z座標では((Z0-Kz)-ΔZ) /Dとなる。
図6ではZ座標側の眼軸と視軸の関係を図示している。ここで、眼軸が交点を向く際のレンズ裏面からの射出光線に基づくリスティングの法則に従い、節点をN→N'へと座標変換する。左右眼に設計対象あるいは評価対象となるレンズを装用した状態で、A.で座標が算出された交点(Pr,Pl)から眼回旋に向かう射出光線を想定し、正面視時の第1眼位ベクトルG1と、レンズ裏面からの射出光線に基づく第3眼位ベクトルG3から眼回旋量を回転行列Lとして取得する。ここでは、上記の数3の式に基づいて改めてθiを求め、眼回旋を原点とする三次元空間における任意座標Pを第3眼位方向に回旋させた後の座標P'へと変換させる。つまり、下記数7の式である。回転行列Lは上記の数4のロドリゲスの回転行列Lである。
【0028】
【0029】
C.B.で求めた回転行列Lを用いて初期の中心窩(Fr, Fl)を座標変換する。これにより、左右眼の視軸が注視点Tに向いているときの中心窩(Fr', Fl')が決定される。この変換は以下のように計算される。ここではR眼を例にとって計算する。
a)第1眼位の方向、つまり正面視を想定し、節点を原点とした眼軸上の点F0(16.5,0,0)を考える。ここでx座標は、節点から網膜までの距離16.5mmを意味する。但し、数2の式を適用する場合は、装用者の標準眼軸長に対するずれΔを考慮するため、それに合わせて、点F0(16.5+Δ,0,0)と定義する。
b)
図2に示すように、耳側のずれ角α、下側のずれ角βだけ、F0を座標変換し、初期の中心窩位置Fを求める。初期の中心窩位置Fが第3の交点に相当する。この計算は下記の数8の式による。
ずれ角αを考慮したY軸を回転させる座標変換(回転行列Y(α) )で、F0を耳側に回転させ、その後、ずれ角βを考慮したZ軸を回転させる座標変換(回転行列Z(β) )で、F0を網膜下側に回転させる。これは節点を基準に、眼軸に対して中心窩が、耳側にα、下側にβ、だけずれているためである。
尚、L眼の場合は、ずれ角αが負になり、回転行列Z(α)におけるsin(α)の符号が変わることとなる。
【0030】
【0031】
c)
図7に示すように、回転行列Lで、上記b)の初期の中心窩位置F(Fr, Fl)を、指定の第3眼位方向へと座標変換させ視軸が注視点Tに向いているときの中心窩位置F'(Fr', Fl')を求める。つまり、下記数9の式を用いる。回転行列Lは上記の数4のロドリゲスの回転行列Lである。このとき、節点から眼回旋点へと原点を変えるため、座標変換前の中心窩位置Fにおけるx座標において節点から眼回旋点までの距離(実施の形態では5.6mmで固定)を引く。
【0032】
【0033】
D.C.によって左右眼の視線が注視点Tに向いているときの、中心窩(Fr', Fl')の位置が求められたので、左右眼に設計対象あるいは評価対象となるレンズを装用した状態で、注視点Tから中心窩(Fr', Fl')に向かう主光線を考え、注視点Tを見たときの、各眼におけるいたるところのレンズ度数(S,C,AX,Prism/Base等)を計算する。
より、具体的には
a)主光線は注視点Tからレンズを透過して、中心窩(Fr', Fl')に到達する。主光線の入射角度(注視点からレンズ表面への入射角度)を計算する。その際レンズの表・裏面における屈折を考慮して、中心窩に到達するよう入射角度を調整する。
b)主光線の注視点の位置から半径1.5mm(つまり瞳孔径分)だけ離れた位置に副光線を2度間隔で設定し、上記a)の入射角度で主光線と同様にレンズを透過させる。
c)主光線、少なくとも2つの副光線、がレンズ裏面に到達して最接近する位置までの距離(焦点距離f:単位mm)を計算して、レンズパワーを求める。最大レンズパワーがS度数、最小レンズパワーがS+C度数となる。
【0034】
(3)具体的な計算
上記a)~c)の内容について具体的な計算例でより詳しく説明する。
処方のS度数、 C度数、 中心厚、 表カーブを基に、レンズの裏面カーブを下記数10の式で計算する。以下、数式において裏面側はUra、表面側はOmoteと表す。C度数があるためカーブの方向を直交する2方向とする。以下のベクトルによる計算においてはX軸方向は一定で、Y軸方向とZ軸方向とのみが変化する。
【0035】
【0036】
次に、ある方向に視軸が向く際のレンズを通過後の中心窩を通る主光線を求める。
ここで、レンズの表面を通過後における光線の屈折後ベクトルは下記数11のベクトル関数の式で、レンズの裏面を通過後における光線の屈折後ベクトルは下記数12のベクトル関数の式で計算される。この式においてレンズ通過後に中心窩を通るよう、主光線のレンズ表面に対する入射ベクトルを調整する。
【0037】
【0038】
【0039】
ここで、屈折後のベクトルを返す上記ベクトル関数に代入する法線ベクトルを考える。法線ベクトルをE=(1,Ey,Ez)と表す。法線ベクトルは光線の通過点におけるサグと、通過点から微小変化(ΔY,ΔZ)させた点のサグとの差(変化量)を基に計算している。数13と数14に示すようにベクトル要素Ey,Ezを表すことができる。
表面通過後の屈折後ベクトルQ0moteを計算時に参照する、
数13中のレンズ表面におけるサグ計算式は数15の式で表される。また、裏面通過後の屈折後ベクトルQuraを計算時に参照する、数14中のレンズ裏面におけるサグ計算式は数16の式で表される。数15及び数16の式は、S度数、 C度数等に基づいた基本サグ値(サグ量)に非球面サグ値(AS)を考慮したサグ値となっている。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
上記によって設計レンズについて中心窩を基準としたレンズのサグ値が決定される。そのサグ値に基づいて具体的な眼鏡レンズが作製されることとなる。そして、この設計による眼鏡レンズは乱視度数のない単焦点レンズであっても左右非対称なレンズとして作製される。中心窩を基準として設計した単焦点眼鏡レンズが左右非対称であることについて説明する。
数17はレンズ裏面のある点と、その点における焦点距離の関係を示す式である。数17の式は裏面通過後の屈折後ベクトルQuraと裏面通過点をもとに主光線と副光線についてそれぞれ光線追跡のシミュレーションを実行する際に用いる。焦点距離を求めるためには主光線回りの副光線が必要となるからである。このシミュレーションは具体的には例えば次のように実行される。
i)
図8のように、主光線周りの半径rの円周上に、副光線の出発点を角度θ間隔で複数配置する。例えば、r=1.5mm、θ=2度とする。ここでは副光線は主光線の入射ベクトルと同じ(すなわち主光線に対して平行)にし、その後の度数計算を容易にしている。
ii)あるθ方向の副光線と、それと180度対向する副光線について、レンズ裏面通過点、レンズ裏面で屈折後のベクトルを光線追跡で求め、主光線のレンズ裏面通過点、レンズ裏面で屈折後のベクトルも用いて、下記の数17の式に従って焦点距離を計算し、度数を求める。三次元空間上で光線追跡をするため、光線同士がねじれて、焦点距離の計算精度が悪くならないよう、2つの副光線に加えて主光線も考える。
【0045】
【0046】
iii)上記ii)を各θについて実行し、θ毎の度数を求める。そして、最大度数をS度数、最小度数をS+C度数、度数が最大となるθを乱視軸とする。
【0047】
改めて、数17の式において係数αは、次式で表される。
α=光束径_ur / (光束径_ur-光束径_K)
光束径_ur … レンズ裏面通過時の光束径(光束径_ur>0)
光束径_K … レンズ裏面通過後の点K(眼回旋点)における光束径(光束径_K>0)
上記のように副光線は瞳孔径の半径だけ主光線から離れて設定したため、実施の形態のシミュレーションにおいては光束径はレンズ表面上の評価したいある1点から、瞳孔の半径だけ離れた位置(副光線の位置)までの距離となる。そのため、光束径_ur、光束径_Kは、主光線と隣り合う一対の副光線の間の距離として計算される。光束径として点K(眼回旋点)を使用したのは目線を動かしても位置が変わらないため計算上有利だからである。
レンズがマイナス度数であれば、光束径_ur<光束径_Kにより、αはマイナス値となり、プラス度数であれば、光束径_ur>光束径_Kにより、αがプラス値となる。また、光束径_urと光束径_Kの差が大きくなるほど、求められるレンズ度数の絶対値は大きくなる。
【0048】
このような係数αに係る光束径_Kは上式に示すレンズ度数の計算式における、主光線のレンズ裏面通過後の数17における屈折ベクトル(tanY_ura,tanZ_ura)に依存する。つまり、レンズ裏面通過後の屈折ベクトルが大きければ大きいほど光が大きく屈折することとなるためである。例えば、例えばマイナス度数のレンズであれば、凹レンズのため、レンズ通過後の光は発散し、プラス度数のレンズでは光が収束する。その発散あるいは収束が屈折ベクトルが大きければより大きくなる。
ここで
図9(a)~(c)に基づいて、L眼となる単焦点レンズについてレンズ幾何中心を通る垂直線(左右対称の基準線(中央線))を基準として、基準線から等距離にある左右の鼻側周辺のある点と耳側周辺のある点を目視するシミュレーションを想定する。
図9(a)と
図9(c)を比較するとわかるように、鼻側周辺を目視する場合の方が耳側周辺を目視する場合よりも光線のレンズ表面に対する入射角度が大きくなる。入射角度が大きくなると主光線のレンズ裏面通過後の屈折ベクトルも大きくなる。屈折ベクトルが大きくなると上記のようにマイナス度数のレンズではレンズ通過後の光はより大きく発散し、αの値は小さくなるため、ここでは鼻側周辺を目視する場合の方がレンズ度数が相対的に大きくなることとなり、結果として中心窩を基準として設計に基づいて耳側領域と鼻側領域の等価球面度数が回転対称とはならない左右非対称な光学性能となる。
ここで、左右非対称の程度は、光軸に対する中心窩のシフト角が依存する。数1と数2からも判る通り、前述シフト角には個人差があるが、冒頭示した通り、概ねは4~8度であるため、シフト角として10度未満で適用されるものとする。
【0049】
上記のように構成することで、実施の形態では次のような効果が奏される。
(1)座標的に不明な中心窩(Fr', Fl')の位置を眼軸を通過する座標的に明確な交点(Pr,Pl)や節点や眼回旋点とずれ角に基づいて求めるようにしたため、本来の見え方である視軸を使用して光線追跡が可能となり、より正確にユーザーの目視状態を検証することができる。
(2)中心窩(Fr', Fl')の算出に至るまでに回転行列による座標変換を行うことで、回転する眼球モデルについて正確で最適な計算が可能となっている。
(3)耳側領域と鼻側領域の等価球面度数が回転対称とはならない左右非対称な単焦点を設計することによって中心窩を基準としたそのユーザーに応じたより正確な光学性能となる単焦点眼鏡レンズを作製することができる。
【0050】
以下、片眼視を想定して、本発明の方法に従って設計したレンズのシミュレーション結果を示す。
(実施例1)
・R眼 S-4.00
・中心厚 CT=1.1(mm)
・基材屈折率 n =1.600
・表カーブ 1.15カーブ(基材屈折率換算)
・表面の曲率半径 r0=1000・(n-1)/1.15=521(mm)
・表面の曲率 Co=1/r0=0.00191(mm
-1)
・内面の主曲率 Cx=(1.15-(-4.00))/(1000・(n-1))
=0.00858(mm
-1)
Cy=(1.15-(-4.00))/(1000・(n-1))
=0.00858(mm
-1)
・シフト角度 平均値として5.5度
シミュレーショの結果を
図10に示す。
図10において右方が本実施の形態の中心窩を基準として設計した実施例1の眼鏡レンズの特性であり、左方が上記の処方における従来の眼回旋を基準とした眼鏡レンズの特性となる。従来の眼回旋を基準とした眼鏡レンズではシフト角度は0度である。R眼であるため、横軸の座標値がマイナスならば鼻側、プラスならば耳側となる。
図10はシミュレーションで得たS度数、C度数及び乱視軸に基づいて計算した実施例1と従来例の視力の分布を示す。分布の中心から周辺にかけて、視力が1.0からどのように推移するかを示している。従来例と比較して実施例1では視力分布が、中心の視力1.0に近い値と同じ領域が広く、改善していることが分かる。
【0051】
(実施例2)
・R眼S+4.00
・中心厚 CT=4.5(mm)
・基材屈折率 n =1.600
・表カーブ 5.97カーブ(基材屈折率換算)
・表面の曲率半径 r0=1000・(n-1)/1.15=100(mm)
・表面の曲率 Co=1/r0=0.00995(mm
-1)
・内面の主曲率 Cx=(5.97-(+4.00))/(1000・(n-1))
=0.00328(mm
-1)
Cy=(5.97-(+4.00))/(1000・(n-1))
=0.00328(mm
-1)
・シフト角度 平均値として5.5度
シミュレーショの結果を
図11に示す。
図11において右方が本実施の形態の中心窩を基準として設計した実施例2の眼鏡レンズの特性であり、左方が上記の処方における従来の眼回旋を基準とした眼鏡レンズの特性となる。
図11はシミュレーションで得たS度数、C度数及び乱視軸に基づいて計算した実施例1と従来例の視力の分布を示す。分布の中心から周辺にかけて、視力が1.0からどのように推移するかを示している。実施例1と同様に従来例と比較して実施例2では視力分布が、中心の視力1.0に近い値と同じ領域が広く、改善していることが分かる。
【0052】
上記実施例は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態は一例である。計算においては上記以外の順番で算出するようにしてもよい。
・上記の具体的な計算における数15と数16ではサグ値は非球面サグを考慮して算出するようにしていたが、基本サグ値のみでサグ値を計算し非球面サグ量は後から別計算をして合算するようにしてもよい。同様に累進屈折力レンズであれば累進サグ量を考慮する必要があるが、非球面サグ量と同様に数15と数16に当初から累進サグ量を考慮して算出するようにしてもよく、後から別計算をして合算するようにしてもよい。
・シミュレーションする場合において副光線の数や位置について上記は一例であって、上記以外の数や位置の副光線を用いて計算をするようにしてもよい。
・上記では単焦点レンズでのシミュレーションの例で説明したが、累進屈折力レンズを装用するシミュレーションも可能である。
・交点(Pr,Pl)を求めるために上記実施の形態では一例として、正面視を想定した計算方法を挙げたが、指定注視点Tを基準とした計算で求めるようにしてもよい。
・シミュレーションにおいて装用する設計対象あるいは評価対象となるレンズは眼鏡レンズとして使用されるものであればなんでもよい。例えば、球面レンズ、非球面レンズ、累進屈折力レンズ等を用いることができる。
・上記では計算を簡便化するため、ずれ角α、βは平均的な角度を用いたが、装用者の眼軸長を想定して適宜ずれ角α、βを変更してシミュレーションするようにしてもよい。