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特開2024-61159有害金属吸着材、その製造方法及び汚染水の浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061159
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】有害金属吸着材、その製造方法及び汚染水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/08 20060101AFI20240425BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B01J20/08 C
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168915
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】522414800
【氏名又は名称】日新商事株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522413489
【氏名又は名称】有限会社末田窯業
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昌岳
(72)【発明者】
【氏名】馬場 麟大郎
(72)【発明者】
【氏名】馬場 一憲
(72)【発明者】
【氏名】福山 文広
(72)【発明者】
【氏名】中平 敦
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA02B
4G066AA12D
4G066AA13D
4G066AA16B
4G066AA20B
4G066AA22D
4G066AA61B
4G066AA64D
4G066AA71D
4G066BA03
4G066BA05
4G066BA36
4G066CA46
4G066DA08
4G066FA02
4G066FA22
4G066FA26
4G066FA40
(57)【要約】
【課題】アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水から有害金属を十分に除去可能な有害金属吸着材を提供する。また、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水中の有害金属を十分に浄化可能な汚染水の浄化方法を提供する。
【解決手段】本発明の有害金属吸着材は、鉄及び銅の少なくとも1種を主成分とする金属からなり、金属の酸化物を実質的に有さない金属粒子1と、金属粒子1と接触して存在し、ハイドロタルサイトを含む無機酸化物3とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及び銅の少なくとも1種を主成分とする金属からなり、前記金属の酸化物を実質的に有さない金属粒子と、前記金属粒子と接触して存在し、ハイドロタルサイトを含む無機酸化物とを備えていることを特徴とする有害金属吸着材。
【請求項2】
前記金属粒子がコアとされ、前記無機酸化物が前記コアを覆うシェルとされている請求項1記載の有害金属吸着材。
【請求項3】
前記無機酸化物がゼオライトを含む請求項1又は2記載の有害金属吸着材。
【請求項4】
鉄及び銅の少なくとも1種を主成分とする金属からなり、前記金属の酸化物を実質的に有さない金属粒子と、前記金属粒子と接触して存在し、ハイドロタルサイトを含む無機酸化物とを用意する準備工程と、
前記金属粒子と前記無機酸化物とを混合しつつ前記金属粒子を酸化させないように加熱し、前記金属粒子をコアとし、前記無機酸化物を前記コアを覆うシェルとするように造粒する造粒工程とを備えていることを特徴とする有害金属吸着材の製造方法。
【請求項5】
請求項1の有害金属吸着材に対し、有害金属を含む汚染水を接触させ、前記汚染水を浄化することを特徴とする汚染水の浄化方法。
【請求項6】
請求項2の有害金属吸着材に対し、有害金属を含む汚染水を接触させ、前記汚染水を浄化する浄化工程と、
前記浄化工程後の前記有害金属吸着材を磁力によって回収する回収工程とを備えていることを特徴とする汚染水の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害金属吸着材と、その製造方法と、汚染水の浄化方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に金属粒子が開示されている。この金属粒子は、MnやNiを含む溶鋼を溶製した後、この溶鋼を一定水圧の条件で水アトマイズすることによって得られる。この金属粒子は、特許文献1によれば、少なくともMn:0.45~1.1質量%を含有しているか、少なくともNi:0.2~12質量%を含有している。また、この金属粒子は、目開き300μmの篩を通過する割合が90質量%以上であり、アトマイズ時に形成される酸化被膜の量がH2による還元減量で0.1~0.8質量%であり、組織はマルテンサイト又は焼戻しマルテンサイトであり、フェライトを含まないものである。この金属粒子は、商品名ECOMEL/エコメル(登録商標)で市販されている。
【0003】
この金属粒子に対し、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素、ダイオキシンを含む有機ハロゲン化物を含む汚染水を接触させれば、金属粒子が有機ハロゲン化物を効率よく分解し、汚染水を浄化することができる。
【0004】
また、工業廃水や汚染土壌中には、砒素(As)、セレン(Se)等の有害金属が含まれる場合がある。このため、工業廃水や汚染土壌から沁みだしてくる汚染水から有害金属を除去し、汚染水を浄化する吸着材が求められている。この点、商品名ECOMEL/エコメル(登録商標)の金属粒子は、非特許文献1に開示されているように、有機ハロゲン化物を分解できるだけでなく、AsO4 3-、Cd2+、Pb2+、Cr27 2-等の有害金属を除去できる。有害金属のイオンが存在する環境下において、この金属粒子がそのイオンとの間に不溶性の化合物を錯体として形成し、有害金属を安定的に吸着した上で保持することができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-82106号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】https://www.kobelco.co.jp/products/powder/ecomel.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、発明者らの試験結果によれば、上記従来の金属粒子だけを吸着材としても、有害金属の吸着能を十分発揮できない。
【0008】
特に、発明者らの試験結果によれば、上記従来の金属粒子は、弱酸性領域においては高いレベルで除去能を示すが、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在により除去能のレベルが低下する。アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下では、金属粒子の表面における有害金属の錯体化の進行が阻害されていると推察される。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水から有害金属を十分に除去可能な有害金属吸着材を提供することを解決すべき課題としている。また、本発明は、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水中の有害金属を十分に浄化可能な汚染水の浄化方法を提供することも解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。そして、金属粒子だけを吸着材としても、有害金属の吸着能を十分発揮できない理由は、金属粒子だけでは比表面積が小さく、汚染水中や汚染土壌中において沈殿や散逸を生じやすいため、有害金属のイオンが金属粒子に接触する機会が少なかったり、接触する時間が短かったりすることが原因であると推察した。この結果、本発明の有害金属吸着材、その製造方法並びに汚染水の浄化方法を完成させた。
【0011】
本発明の有害金属吸着材は、鉄及び銅の少なくとも1種を主成分とする金属からなり、前記金属の酸化物を実質的に有さない金属粒子と、前記金属粒子と接触して存在し、ハイドロタルサイトを含む無機酸化物とを備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明の有害金属吸着材は、金属粒子に無機酸化物が接触して存在していることから、金属粒子だけよりも比表面積が大きい。また、この有害金属吸着材は、汚染水中や汚染土壌中において沈殿や散逸を生じ難い。このため、有害金属のイオンが金属粒子に接触する機会が増加し、かつ接触する時間が長くなると推察している。こうして、金属粒子の表面で不溶性の化合物を形成し、有害金属を安定的に吸着する。
【0013】
特に、本発明の有害金属吸着材は、無機酸化物がハイドロタルサイトを含んでいる。ハイドロタルサイトは、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O等に代表される天然に産出する粘土鉱物の一種であり、正に帯電した基本層[Mg1-xAlx(OH)2]x+と、負に帯電した中間層[(CO3x/2・mH2O]x-とからなるLDH(Layered Double Hydroxide)構造をなしている。このため、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下においても、層間でのイオン交換によって層間に有害金属のアニオンを十分に保持できると推察される。
【0014】
したがって、本発明の有害金属吸着材によれば、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水から有害金属を十分に除去できる。
【0015】
本発明の有害金属吸着材の製造方法は、鉄及び銅の少なくとも1種を主成分とする金属からなり、前記金属の酸化物を実質的に有さない金属粒子と、前記金属粒子と接触して存在し、ハイドロタルサイトを含む無機酸化物とを用意する準備工程と、
前記金属粒子と前記無機酸化物とを混合しつつ前記金属粒子を酸化させないように加熱し、前記金属粒子をコアとし、前記無機酸化物を前記コアを覆うシェルとするように造粒する造粒工程とを備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明の製造方法により、金属粒子をコアとし、無機酸化物をシェルとした有害金属吸着材を製造することができる。準備工程において、有機バインダ、ガラス成分、繊維等の造粒成分を用意し、造粒工程で金属粒子、無機酸化物及び造粒成分を混合しつつ加熱することもできる。この場合、造粒成分によってハイドロタルサイトやゼオライトの機能を過剰に損なわないようにすることが好ましい。
【0017】
本発明の汚染水の浄化方法は、上記有害金属吸着材に対し、有害金属を含む汚染水を接触させ、前記汚染水を浄化することを特徴とする。
【0018】
本発明の汚染水の浄化方法により、汚染水中の有害金属のイオンが有害金属吸着材の無機酸化物に保持された状態で金属粒子と多くかつ長期間接触することから、金属粒子の表面で不溶性の化合物を形成し、有害金属を安定的に吸着する。
【0019】
また、本発明の汚染水の浄化方法は、前記金属粒子がコアとされ、前記無機酸化物が前記コアを覆うシェルとされている有害金属吸着材に対し、有害金属を含む汚染水を接触させ、前記汚染水を浄化する浄化工程と、
前記浄化工程後の前記有害金属吸着材を磁力によって回収する回収工程とを備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明の汚染水の浄化方法により、有害金属を安定的に吸着した有害金属吸着材を容易に回収することができる。
【0021】
したがって、本発明の汚染水の浄化方法によれば、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水から有害金属を十分に除去できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の有害金属吸着材によれば、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水から有害金属を十分に除去できる。また、本発明の汚染水の浄化方法によれば、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下において、汚染水中の有害金属を十分に浄化できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例1の有害金属吸着材の断面図である。
図2図2は、評価1において、試験品1、2の有害金属吸着材を用いた場合における吸着時間と砒素の吸着量との関係を示すグラフである。
図3図3は、評価1において、比較品の有害金属吸着材を用いた場合における吸着時間と砒素の吸着量との関係を示すグラフである。
図4図4は、実施例2の有害金属吸着材の断面図である。
図5図5は、実施例3の有害金属吸着材の断面図である。
図6図6は、評価2において、試験品3、4の有害金属吸着材及び比較品の有害金属吸着材を用いた場合における繰り返し数と、吸着した砒素の量との関係を示すグラフである。
図7図7は、評価2において、試験品3、4の有害金属吸着材及び比較品の有害金属吸着材を用いた場合における繰り返し数と、吸着したセレンの量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明者らの知見によれば、金属粒子としては、鉄(Fe)及び銅(Cu)の少なくとも1種を主成分とする金属からなり、金属の酸化物を実質的に有さなければ、種々のものを採用できる。金属粒子は、鉄又は銅の表面での配位子交換反応による錯体化によって有害金属のイオンを吸着し、不溶性の化合物を形成するからであると推察している。このため、金属粒子は、鉄や銅以外に、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)等を含んでいてもよい。
【0025】
発明者らは、金属粒子として、市販の商品名ECOMEL/エコメル(登録商標)を用いて試験を行ったことから、本発明の有害金属吸着材は、金属粒子が以下の構成を有することが好ましい。すなわち、金属粒子は、少なくともMn:0.45~1.1質量%を含有しているか、少なくともNi:0.2~12質量%を含有している。また、この金属粒子は、目開き300μmの篩を通過する割合が90質量%以上であり、アトマイズ時に形成される酸化被膜の量がH2による還元減量で0.1~0.8質量%であり、組織はマルテンサイト又は焼戻しマルテンサイトであり、フェライトを含まないものであることが好ましい。
【0026】
有害金属としては、砒素、セレン、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、クロム(Cr)、水銀(Hg)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)等が挙げられる。発明者らは、砒素及びセレンにおいて効果を確認している。
【0027】
本発明の有害金属吸着材では、金属粒子と無機酸化物とが接触して存在しておれば、本発明の作用効果が生じる。金属粒子と無機酸化物とが接触して存在する状態には、金属粒子と無機酸化物とが混合されている状態、無機酸化物中に金属粒子が分散されている状態、金属粒子がコアとされ、無機酸化物がコアを覆うシェルとされている状態等が含まれる。個々の金属粒子が複数種類であってもよい。接触は、直接接触している場合に限られず、他の物質を介在させた間接接触でもよい。
【0028】
本発明の有害金属吸着材は、金属粒子がコアとされ、無機酸化物がコアを覆うシェルとされていることが好ましい。この場合、金属粒子と無機酸化物とが複合化されて独立した粒状となり、取扱性が向上する。また、有害金属吸着材が個々独立した粒状となることから、汚染水の通水抵抗を低減しつつ、有害金属のイオンはシェルに保持されるため、有害金属のイオンは金属粒子に接触する機会が増加し、かつ接触する時間が長くなる。このため、高い作業性と高い効率とを実現できる。また、後述するように、汚染水の浄化方法において、浄化工程後の有害金属吸着材を磁力によって回収し、利便性を高めることができる。複数個の金属粒子がコアとされていてもよい。
【0029】
無機酸化物としては、ハイドロタルサイトを含めば、ゼオライト等の他の無機酸化物を含んでいてもよい。本発明の有害金属吸着材は、無機酸化物がゼオライト(MI,MII 1/2m(AlmSin2(m+n))・xH2O,(n≧m)(MI:Li+,Na+,K+等、MII:Ca2+,Mg2+,Ba2+等)を含むことが好ましい。ゼオライトは、多孔質であるため、セレンや砒素のイオンをより保持し易い。
【0030】
発明者らの試験結果によれば、ゼオライトの中でも、モルデナイト((Ca,K2,Na2)〔AlSi5122・7H2O)を含むことが好ましい。ゼオライトは大きく3種類あり、天然ゼオライト、合成ゼオライト、人工ゼオライトに分類されるが、どのゼオライトを採用することも可能である。なお、天然ゼオライトにはホウ沸石、モルデナイト、クリノプチロライト等の種類がある。合成ゼオライトは人工的に合成されたゼオライトである。人工ゼオライトは合成ゼオライトの高コストを抑えて合成されたゼオライトである。
【0031】
以下、本発明を具体化した実施例1~3に基づいて説明する。
(実施例1)
まず、準備工程として、金属粒子、ハイドロサイト、ゼオライト、粘土及びガラス成分を用意する。粘土及びガラス成分は造粒成分である。なお、粘土はセルロースナノファイバー等の繊維を含有していてもよい。繊維がセルロースナノファイバー等の有機繊維であれば、繊維は造粒後の焼成時に消失する。
【0032】
金属粒子は(株)神戸製鋼所製「ECOMEL/エコメル(登録商標)53NJ」である。ハイドロサイトは協和化学工業(株)製「キョーワード(登録商標)500」、ゼオライトは天然モルデナイト((株)イズカ製「イズカライト」)、粘土は(株)ダイドーハント製のモンモリロナイト等であり、ガラス成分は(株)セムテック製のリサイクルガラスである。ガラス成分の組成は、CeO2が3質量%以上、SiO2が28.5質量%以上、Na2Oが10質量%以下である。CeO2を含むガラス成分を用いる理由は、Ceが重金属やAsに対して電子吸引性を有すると考えられるからである。
【0033】
そして、造粒工程として、表1に示す質量%でハイドロサイト、ゼオライト、粘土及びガラス成分をボールミルに投入し、ボールミルで混合することによって組成物C1、C2を得た。
【表1】
【0034】
また、表2に示す質量%で金属粒子及びガラス成分をボールミルに投入し、ボールミルで混合することによって混合し、組成物Mを得た。
【表2】
【0035】
組成物C1、C2と組成物Mとを1:1の体積比で造粒機内に投入し、所定量の水をさらに投入し、大気中において常温下で造粒した後、180°Cで2時間乾燥し、無数の造粒体C1M、C2Mを得た。各造粒体C1M、C2M内には一つずつの金属粒子が内包されている。
【0036】
金属粒子を含まない組成物C1、C2と金属粒子を含む組成物Mとを別々に製造せず、金属粒子、ハイドロサイト、ゼオライト、粘土及びガラス成分を同時に混合、造粒することも可能であるが、金属粒子を含まない組成物C1、C2と金属粒子を含む組成物Mとを別々に製造してから造粒機内に投入することによって、金属粒子を含む造粒体C1M、C2Mを製造しやすい。
【0037】
得られた各造粒体C1M、C2Mを密閉した坩堝内に入れ、大気中で昇温速度4.5°C/分で550°Cまで昇温し、その温度で3時間保持した。大気中での焼成であるが、各造粒体C1M、C2Mは密閉した坩堝内に入れられているため、金属粒子は酸化しない。こうして、金属粒子を酸化させないように加熱し、図1に示すように、試験品1、2の有害金属吸着材5を得た。
【0038】
各有害金属吸着体5は、1個の金属粒子がコア1となり、ハイドロサイト、ゼオライト、粘土及びガラス成分からなる焼成された無機酸化物がコア1を覆うシェル3となっている。
【0039】
<評価1>
砒素含有水溶液を用意した。砒素含有溶液は、3価のAsを1ppmと、珪酸イオン(HSi(OH)6-)を20ppmとを含み、pHは9~10である。砒素含有溶液に珪酸イオンを含有させた理由は、アルカリ性領域かつケイ酸イオンの存在下においても、本発明の有害金属吸着材が作用効果を発揮できるか否かを確認するためである。
【0040】
金属粒子だけを比較品の有害金属吸着材とした。上記試験品1、2の有害金属吸着材1gと、比較品の吸着材1gとを室温の砒素含有溶液内に投入し、所定時間を経た後、各有害金属吸着材を取り出した。
【0041】
砒素含有溶液から取り出した上記試験品1、2の有害金属吸着材と比較品の吸着材とにおいて、金属粒子が吸着した砒素の量を測定した。試験品1、2の有害金属吸着材の結果の平均を図2に示し、比較品の有害金属吸着材の結果を図3に示す。
【0042】
図2及び図3からわかるように、試験品1、2の有害金属吸着材は、比較品の有害金属吸着材よりも、金属粒子が砒素を大量に吸着している。試験品1、2の有害金属吸着材では、砒素イオンがシェル3によってコア1の金属粒子に多くの機会で接触し、かつ長時間接触しているためであると推察している。また、試験品1、2の有害金属吸着材は、無機酸化物がハイドロタルサイトを含んでいるため、アルカリ性領域かつケイ酸イオンだけにかかわらず、アニオンをかなり層間に収蔵し、その効果によって金属粒子の表面による吸着の負荷が低減したのではないかと推察される。
【0043】
このため、試験品1、2の有害金属吸着材に対し、有害金属を含む汚染水を接触させれば、汚染水を浄化できることがわかる。汚染水中の有害金属のイオンが試験品1、2の有害金属吸着材の無機酸化物に保持された状態で金属粒子と多くかつ長期間接触することから、金属粒子の表面で不溶性の化合物を形成し、有害金属を安定的に吸着するからである。
【0044】
また、浄化工程として、汚染水を浄化した後、浄化工程後の試験品1、2の有害金属吸着材を磁力によって回収する回収工程ことも可能である。この場合、有害金属を安定的に吸着した有害金属吸着材を容易に回収することができる。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、水の含有量を変更することによって、各造粒体内には複数の金属粒子を内包させた。他の条件は実施例1と同様とし、図4に示す有害金属吸着体7を得た。
【0046】
各有害金属吸着体7は、複数個の金属粒子がコア1となり、無機酸化物が各コア1を覆うシェル9となっている。
【0047】
これらの有害金属吸着体11においても実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0048】
(実施例3)
実施例1の組成物C1と組成物Mとを1:2の重量比で混合し、試験品3の有害金属吸着材9を得た。また、実施例1の組成物C1と組成物Mとを1:1の重量比で混合し、試験品3の有害金属吸着材11を得た。試験品3、4の有害金属吸着材9、11は、図5に示すように、複数の金属粒子1が無機酸化物3中に分散されている。
【0049】
<評価2>
砒素含有水溶液とセレン含有水溶液とを用意した。砒素含有水溶液は、3価のAsを1.4ppmと、珪酸イオンを12ppmとを含み、pHは8.8である。セレン含有水溶液は6価のSeを0.15ppm含む。
【0050】
評価1と同様、金属粒子だけを比較品の有害金属吸着材とした。漏斗内にろ紙を介して試験品3、4の有害金属吸着材9、11又は比較品の有害金属吸着材を層状に成形した試験装置を用意した。これらの試験装置に80mlの砒素含有水溶液又はセレン含有水溶液を保持時間5分で繰り返し通水させた。
【0051】
各試験装置から取り出した試験品3、4の有害金属吸着材9、11又は比較品の有害金属吸着材において、繰り返し回数と、金属粒子1が吸着した砒素又はセレンの量との関係を求めた。試験品3、4の有害金属吸着材9、11の結果の平均を図6に示し、比較品の有害金属吸着材の結果を図7に示す。
【0052】
図6及び図7より、砒素及びSeについて、繰り返し初期段階での性能向上が認められる。すなわち、試験品3、4では、Asイオン及びSeイオンによる金属粒子表面での錯体生成の際、共存する他のアニオンによる阻害影響が軽減されている。特に、繰り返し回数の少ない初期段階において、この阻害影響の軽減が顕著である。この浄化方法により、汚染水中の砒素又はセレンのイオンが試験品3、4の有害金属吸着材9、11の無機酸化物3に保持された状態で金属粒子1と多くかつ長期間接触することから、金属粒子1の表面で不溶性の化合物を形成し、砒素又はセレンを安定的に吸着できる。
【0053】
以上において、本発明を実施例1~3に即して説明したが、本発明は上記実施例1~3に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は汚染水の浄化処理等に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…金属粒子、コア
3…無機酸化物、シェル
5、7、9、11…有害金属吸着材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7