(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061160
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240425BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168916
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 進
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA08
5H501BB08
5H501GG03
5H501HA07
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ12
5H501JJ16
5H501JJ17
5H501LL05
5H501LL12
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL35
5H501LL39
5H501LL52
5H501LL53
5H501MM01
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】モータ駆動制御装置において、コストを抑えつつ、モータの異常の有無を適切に検出できるようにする。
【解決手段】モータ駆動制御装置3において、制御回路30は、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値よりも低い場合に、目標回転速度に対応する第1閾値Dthと駆動制御信号Sdのデューティ比との比較結果に基づいて異常の有無を判定し、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値以上である場合に、モータ2の回転速度と第2閾値Rthとの比較結果に基づいて異常の有無を判定する異常判定処理を行うことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記モータの回転速度の目標値である目標回転速度を取得する目標回転速度取得部と、
前記モータの回転速度を取得する回転速度取得部と、
前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度が前記目標回転速度取得部によって取得した目標回転速度に一致するようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部と、
前記目標回転速度毎に設定された、前記駆動制御信号のデューティ比に関する第1閾値と、回転速度に関する第2閾値とを記憶する記憶部と、
前記駆動制御信号のデューティ比が所定値よりも低い場合に、前記記憶部に記憶されている、前記目標回転速度取得部によって取得した前記目標回転速度に対応する前記第1閾値と、前記駆動制御信号のデューティ比との比較結果に基づいて異常の有無を判定し、前記駆動制御信号のデューティ比が前記所定値以上である場合に、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度と前記第2閾値との比較結果に基づいて異常の有無を判定する、異常判定処理を行う動作制御部と、を有する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記第2閾値は、前記第1閾値が前記所定値になるときの前記モータの回転速度に相当する値であり、
前記動作制御部は、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度が前記第2閾値よりも低い場合に、異常があると判定し、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度が前記第2閾値よりも高い場合に、異常がないと判定する
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記所定値は、前記駆動制御信号のデューティ比の最大値である
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、
前記目標回転速度毎に前記駆動制御信号のデューティ比を測定し、前記駆動制御信号のデューティ比の測定値を前記目標回転速度に対応付けて前記記憶部に記憶する測定データ生成部と、
前記目標回転速度毎の前記駆動制御信号のデューティ比の測定値に基づいて、前記目標回転速度毎に前記第1閾値を算出し、前記記憶部に記憶する閾値算出部と、を更に有する
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動制御装置において、
前記閾値算出部は、前記駆動制御信号のデューティ比の測定値をn倍(nは実数)した値に基づいて前記第1閾値を算出する
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、動作モードとして、前記モータが外部から指定された駆動指令に応じた回転状態となるように前記駆動制御信号を生成する通常モードと、前記モータの動作に関連するパラメータを測定する測定モードとを有し、
前記測定データ生成部は、前記動作モードが前記測定モードである場合に、前記目標回転速度を順次変更しながら前記駆動制御信号のデューティ比を測定し、
前記動作制御部は、前記動作モードが前記通常モードである場合に、前記異常判定処理を行う
モータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、前記動作モードを設定する動作モード設定部を更に有し、
前記動作モード設定部は、前記動作モードが前記通常モードであるときに所定の条件を満足した場合に、前記動作モードを前記通常モードから前記測定モードに切り替える
モータ駆動制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ駆動制御装置において、
前記所定の条件は、前記モータの駆動時間が基準時間に到達したことである
モータ駆動制御装置。
【請求項9】
請求項7に記載のモータ駆動制御装置において、
前記所定の条件は、外部から所定の信号が入力されたことである
モータ駆動制御装置。
【請求項10】
モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路と、を備えるモータ駆動制御装置によるモータ駆動制御方法であって、
前記制御回路が、前記モータの回転速度の目標値である目標回転速度を取得する第1ステップと、
前記制御回路が、前記モータの回転速度を取得する第2ステップと、
前記制御回路が、前記第2ステップにおいて取得した前記モータの回転速度が前記第1ステップにおいて取得した目標回転速度に一致するようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する第3ステップと、
前記制御回路が、前記駆動制御信号のデューティ比が所定値よりも低いか否かを判定する第4ステップと、
前記第4ステップにおいて、前記駆動制御信号のデューティ比が所定値より低い場合に、前記制御回路が、前記目標回転速度毎に設定された、前記駆動制御信号のデューティ比に関する第1閾値のうち、前記第1ステップにおいて取得した前記目標回転速度に対応する前記第1閾値と、前記駆動制御信号のデューティ比との比較結果に基づいて、異常の有無を判定する第5ステップと、
前記第4ステップにおいて、前記駆動制御信号のデューティ比が前記所定値以上である場合に、前記制御回路が、前記第2ステップにおいて取得した前記モータの回転速度と回転速度に関する第2閾値との比較結果に基づいて、異常の有無を判定する第6ステップと、を含む
モータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法に関し、例えば、モータの異常を検出する機能を備えたモータ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータの駆動を制御するためのモータ駆動制御装置として、モータを駆動する機能のみらならず、モータの異常を検出する機能を備えたモータ駆動制御装置が増えつつある。
【0003】
例えば、特許文献1には、モータの異常の項目毎に監視対象の制御パラメータ(例えば、電源電圧、回転数、負荷電圧等)を設定するとともに、異常の項目毎に各制御パラメータの判定閾値を設定し、モータの駆動中に取得した制御パラメータの値と判定閾値とを比較することにより、モータの異常の兆候を判定する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、モータを駆動するためのパルス幅変調(PWM)信号のデューティ比を基準値と比較し、デューティ比が基準値を超えた場合にモータが異常であると判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-19398号公報
【特許文献2】特開平5-252778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のモータの異常を検出する機能を備えたモータ駆動制御装置は、特許文献1に代表されるような複雑な異常判定処理を実現するために、多くのセンサや、AI(Artificial Intelligence)およびFFT(Fast Fourier Transform)等の高度な演算処理が可能な高性能のMCU(Micro Controller Unit)を搭載しているため、モータ駆動制御装置のコストが高くなる。そのため、例えば、冷却装置等に適用されるファン(ファンモータ)のように低コスト化が重要視される製品には、従来の高コストのモータ駆動制御装置は適さない。
【0007】
一方で、特許文献2に代表される、モータを駆動するためのPWM信号のデューティ比の値と基準値との比較結果に基づいてモータの異常を検出する従来技術によれば、高コスト化を抑制することは可能である。しかしながら、PWM信号の適切なデューティ比はモータの回転速度(単位時間当たりの回転数)等によって変化するため、単にPWM信号のデューティ比の値を基準値と比較するだけでは、モータの異常の有無を適切に検出できない虞がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、本発明の目的は、モータ駆動制御装置において、コストを抑えつつ、モータの異常の有無を適切に検出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路と、を備え、前記制御回路は、前記モータの回転速度の目標値である目標回転速度を取得する目標回転速度取得部と、前記モータの回転速度を取得する回転速度取得部と、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度が前記目標回転速度取得部によって取得した目標回転速度に一致するようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部と、前記目標回転速度毎に設定された、前記駆動制御信号のデューティ比に関する第1閾値と、回転速度に関する第2閾値とを記憶する記憶部と、前記駆動制御信号のデューティ比が所定値よりも低い場合に、前記記憶部に記憶されている、前記目標回転速度取得部によって取得した前記目標回転速度に対応する前記第1閾値と、前記駆動制御信号のデューティ比との比較結果に基づいて異常の有無を判定し、前記駆動制御信号のデューティ比が前記所定値以上である場合に、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度と前記第2閾値との比較結果に基づいて、異常の有無を判定する動作制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、モータ駆動制御装置において、コストを抑えつつ、モータの異常の有無を適切に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を含むモータ駆動制御システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】目標回転速度毎のデューティ比の測定値と第1閾値および第2閾値の一例を示す図である。
【
図3】実施の形態に係るモータ駆動制御装置による処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】通常モードにおけるモータ駆動制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】測定モードにおけるモータ駆動制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0013】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(3)は、モータ(2)の駆動を制御するための駆動制御信号(Sd)を生成する制御回路(30)と、前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路(31)と、を備え、前記制御回路は、前記モータの回転速度の目標値である目標回転速度を取得する目標回転速度取得部(11)と、前記モータの回転速度を取得する回転速度取得部(22)と、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度が前記目標回転速度取得部によって取得した目標回転速度に一致するようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部(12)と、前記目標回転速度毎に設定された、前記駆動制御信号のデューティ比に関する第1閾値(Dth)と、回転速度に関する第2閾値(Rth)とを記憶する記憶部(20)と、前記駆動制御信号のデューティ比が所定値よりも低い場合に、前記記憶部に記憶されている、前記目標回転速度取得部によって取得した前記目標回転速度に対応する前記第1閾値と前記駆動制御信号のデューティ比との比較結果に基づいて異常の有無を判定し、前記駆動制御信号のデューティ比が前記所定値以上である場合に、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度と前記第2閾値との比較結果に基づいて異常の有無を判定する、異常判定処理を行う動作制御部(18)と、を有することを特徴とする。
【0014】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記第2閾値は、前記第1閾値が前記所定値になるときの前記モータの回転速度に相当する値であり、前記動作制御部は、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度が前記第2閾値よりも低い場合に、異常があると判定し、前記回転速度取得部によって取得した前記モータの回転速度が前記第2閾値よりも高い場合に、異常がないと判定してもよい。
【0015】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記所定値は、前記駆動制御信号のデューティ比の最大値(例えば、デューティ比100%)であってもよい。
【0016】
〔4〕上記〔2〕または〔3〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記目標回転速度毎に前記駆動制御信号のデューティ比を測定し、前記駆動制御信号のデューティ比の測定値を前記目標回転速度に対応付けて前記記憶部に記憶する測定データ生成部(19)と、前記目標回転速度毎の前記駆動制御信号のデューティ比の測定値に基づいて、前記目標回転速度毎に前記第1閾値を算出し、前記記憶部に記憶する閾値算出部(21)と、を更に有していてもよい。
【0017】
〔5〕上記〔4〕記載のモータ駆動制御装置において、前記閾値算出部は、前記駆動制御信号のデューティ比の測定値をn倍(nは実数)した値に基づいて前記第1閾値を算出してもよい。
【0018】
〔6〕上記〔4〕または〔5〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、動作モードとして、前記モータが外部から指定された駆動指令に応じた回転状態となるように前記駆動制御信号を生成する通常モードと、前記モータの動作に関連するパラメータを測定する測定モードとを有し、前記測定データ生成部は、前記動作モードが前記測定モードである場合に、前記目標回転速度を順次変更しながら前記駆動制御信号のデューティ比を測定し、前記動作制御部は、前記動作モードが前記通常モードである場合に、前記異常判定処理を行ってもよい。
【0019】
〔7〕上記〔6〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記動作モードを設定する動作モード設定部(17)を更に有し、前記動作モード設定部は、前記動作モードが前記通常モードであるときに所定の条件を満足した場合に、前記動作モードを前記通常モードから前記測定モードに切り替えてもよい。
【0020】
〔8〕上記〔7〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記所定の条件は、前記モータの駆動時間が基準時間に到達したことであってもよい。
【0021】
〔9〕上記〔7〕または〔8〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記所定の条件は、外部から所定の信号が入力されたことであってもよい。
【0022】
〔10〕本発明の代表的な実施の形態に係る方法は、モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路(30)と、前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路(31)と、を備えるモータ駆動制御装置(3)によるモータ駆動制御方法である。本方法は、前記制御回路が、前記モータの回転速度の目標値である目標回転速度を取得する第1ステップ(S11)と、前記制御回路が、前記モータの回転速度を取得する第2ステップ(S13)と、前記制御回路が、前記第2ステップにおいて取得した前記モータの回転速度が前記第1ステップにおいて取得した目標回転速度に一致するようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する第3ステップ(S13)と、前記制御回路が、前記駆動制御信号のデューティ比が所定値よりも低いか否かを判定する第4ステップ(S14)と、前記第4ステップにおいて、前記駆動制御信号のデューティ比が所定値より低い場合に(S14:NO)、前記制御回路が、前記目標回転速度毎に設定された、前記駆動制御信号のデューティ比に関する第1閾値(Dth)のうち、前記第1ステップにおいて取得した前記目標回転速度に対応する前記第1閾値と、前記駆動制御信号のデューティ比との比較結果に基づいて、異常の有無を判定する第5ステップ(S15,S17)と、前記第4ステップにおいて、前記駆動制御信号のデューティ比が前記所定値以上である場合に(S14:YES)、前記制御回路が、前記第2ステップにおいて取得した前記モータの回転速度と回転速度に関する第2閾値(Rth)との比較結果に基づいて、異常の有無を判定する第6ステップ(S16,S17)と、を含むことを特徴とする。
【0023】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0024】
≪実施の形態≫
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を含むモータ駆動制御システムの構成の一例を示す図である。
【0025】
図1に示されるモータ駆動制御システム1は、制御装置である上位装置4と、モータ駆動制御装置3と、モータ2とを備え、上位装置4がモータ駆動制御装置3を制御することにより、各モータ駆動制御装置3に接続されたモータ2を駆動するシステムである。
【0026】
モータ駆動制御システム1は、例えば、電気機器に適用される。例えば、モータ駆動制御システム1は、1つの制御装置によってファンの動作を制御し、冷却対象に送風するファンシステムである。以下の説明において、モータ駆動制御システム1を「ファンシステム1」とも称する。本実施の形態に係るファンシステム1は、例えば、サーバ内の閉ざされた空間に配置されて、当該サーバを構成する各種の電子部品等を冷却する冷却システムを構成している。
【0027】
図1に示すように、ファンシステム1は、例えば、ファン6を構成するモータ2の駆動を制御するモータ駆動制御装置3と、モータ駆動制御装置3の上位装置としての上位装置4とを備える。
【0028】
ファン(ファンモータ)6は、モータ2およびインペラ(羽根車)5を有する。
モータ2は、例えば、3相のブラシレスモータである。なお、モータ2の種類は特に限定されず、相数も3相に限定されない。インペラ5は、例えば、モータ2の出力軸に同軸に連結されている。インペラ5は、モータ2の回転力によって回転可能となっている。
【0029】
なお、モータ2とモータ駆動制御装置3とは、一つのモータユニットを構成している。上述したように、モータ2がファン6を構成している場合、モータユニットは、一つのファンユニットとなる。
【0030】
なお、
図1では、一例として、ファンシステム1が1個のファンユニット(ファン6およびモータ駆動制御装置3)を備える場合が示されているが、ファンシステム1は複数のファンユニットを備えていてもよい。
【0031】
上位装置4は、ファンユニットの駆動を制御する制御装置である。例えば、ファンシステム1がサーバ用の冷却システムを構成している場合、上位装置4は、サーバとしての主たる機能を実現するためのプログラム処理装置(情報処理装置)である。
【0032】
例えば、上位装置4は、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えばマイクロコントローラ)が、ファンユニットとともに一つの筐体内に収容されることによって実現されている。
【0033】
上位装置4は、例えば、ファンシステム1の環境変化(処理負荷の変化やサーバ内部の温度の変化)等に応じてファン6(モータ2)の風量が適切になるように、モータ駆動制御装置3を制御することにより、ファン6の駆動を制御する。
【0034】
上位装置4とモータ駆動制御装置3とは、有線による通信(例えば、シリアル通信)または無線による通信(例えば、近距離無線通信)によって互いにデータの送受信が可能となっている。なお、当該通信に係る通信媒体および通信方式等は、特に制限されない。
【0035】
上位装置4は、例えば、サーバ内に配置されたファン6から出力される風量を調整するために、ファン6のモータ2の目標となる駆動状態を指定する駆動指令を出力する。本実施の形態において、上位装置4は、駆動指令として、例えば、モータ2の目標となる回転速度(以下、「目標回転速度」と称する。)を指定する速度指令信号Scを出力する。
【0036】
なお、速度指令信号Scの送受信は、上述したシリアル通信等ではなく、例えば、上位装置4とモータ駆動制御装置3とを接続する専用線を用いて実現されてもよい。この場合、速度指令信号Scは、例えば、目標回転速度に応じたデューティ比を有するPWM信号としてもよい。
【0037】
上位装置4は、モータ駆動制御装置3から出力されるモータ2の実際の回転速度(単位時間当たりの回転数)を表す回転速度信号St(例えばFG(Frequency Generator)信号)を受信することにより、ファン6(モータ2)の回転状態を監視する。なお、回転速度信号Stの送受信は、例えば、上位装置4とモータ駆動制御装置3とを接続する専用線を用いて実現してもよいし、上述のシリアル通信等によって実現してもよい。
【0038】
上位装置4は、例えば、モータ2の電流や温度、電源電圧、モータ2の累積駆動時間、異常の有無等のモータ2の動作に関する情報を送信するようにモータ駆動制御装置3に要求し、要求に応じてモータ駆動制御装置3から送信された情報を受信する。これにより、上位装置4は、ファン6(モータ2)の駆動状態をより詳細に知ることができる。
【0039】
また、上位装置4は、後述する測定モードにおいて実行される測定に関する測定条件の情報をモータ駆動制御装置3に対して送信してもよい。
【0040】
なお、ファンシステム1が複数のファンユニット(ファン6およびモータ駆動制御装置3)を備えている場合には、上位装置4は、上述した手法によって各ファンユニットと通信を行うことにより、各ファンユニットを個別に制御する。
【0041】
モータ駆動制御装置3は、モータ2(ファン6)の駆動を制御するための装置である。モータ駆動制御装置3は、例えば、制御回路30と、駆動回路31と、センサ装置32とを有している。モータ駆動制御装置3は、更に、外部の機器(例えば、モータ2、上位装置4)との間で通信を行うための複数の外部端子(不図示)を有している。
【0042】
制御回路30は、モータ2の駆動を制御するための駆動制御信号Sdを生成する回路である。駆動制御信号Sdは、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)信号である。制御回路30は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とがバスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ(MCU:Micro Controller Unit))である。制御回路30の詳細については、後述する。
【0043】
駆動回路31は、駆動制御信号Sdに基づいて、モータ2を駆動する回路である。駆動回路31は、例えば、インバータ回路及びプリドライブ回路(不図示)を有している。
【0044】
インバータ回路は、プリドライブ回路から出力された出力信号に基づいてモータ2に駆動信号を出力し、モータ2が備えるコイルに通電する。インバータ回路は、例えば、直流電源の両端に設けられた2つのスイッチ素子(例えば、トランジスタ)の直列回路の対が、各相のコイルに対してそれぞれ配置されて構成されている。すなわち、インバータ回路は、例えば、Hブリッジ回路を含む。2つのスイッチ素子の各対において、スイッチ素子同士の接続点に、モータ2の各相の端子が接続されている。
【0045】
プリドライブ回路は、駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路を駆動するための出力信号を生成し、インバータ回路に出力する。プリドライブ回路は、例えば、駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路の各スイッチ素子を駆動する駆動信号を生成して出力する。この駆動信号がインバータ回路を構成する各スイッチ素子をオン/オフさせることにより、モータ2の各相に電力が供給されてモータ2のロータが回転する。
【0046】
モータ駆動制御装置3において、制御回路30と駆動回路31とがそれぞれ独立した集積回路装置(IC)として実現されていてもよいし、制御回路30と駆動回路31とが一つの集積回路装置(IC)としてパッケージ化されていてもよい。
【0047】
センサ装置32は、モータ2の駆動状態に関する物理量を検出する装置である。
ここで、モータ2の駆動状態に関する物理量は、例えば、モータ2のステータを構成するコイルの電流、モータ2の温度(例えば、モータ2周辺の温度)、モータ2のロータの位置(回転位置)、モータ2の回転速度、モータ2のコイルに印加される電圧(モータ駆動制御装置3の電源電圧VDD)等を例示することができる。
【0048】
センサ装置32は、例えば、モータ2の回転位置を検出する位置検出器(例えば、ホール素子)、モータ2のコイルの電流を検出する電流センサ(例えば、シャント抵抗)、電圧を監視する電圧センサ、およびモータ2の周辺の温度を検出する温度センサ(例えば、サーミスタ)等を含む。センサ装置32を構成する各センサは、検出した物理量に応じた電気信号をそれぞれ出力する。
【0049】
電圧センサは、例えば、上位装置4からモータ駆動制御装置3に供給される電源電圧VDDを監視する。電圧センサは、例えば、電源電圧VDDを分圧する分圧回路(抵抗分圧回路)と、分圧された電圧に基づいて電源電圧VDDの値を測定する電圧測定回路とを含む。電圧測定回路は、例えば、分圧回路によって電源電圧VDDを分圧した電圧をデジタル値に変換し、制御回路30に入力するA/D変換回路を含む。
【0050】
なお、本実施の形態において、センサ装置32を構成する各センサがモータ駆動制御装置3の内部に設けられる場合を例示するが、センサ装置32を構成する各センサの全部または一部がモータ駆動制御装置3の外部に設けられていてもよい。あるいは、センサ装置32を構成する各センサのうち少なくとも一つが制御回路30に内蔵されていてもよい。例えば、温度センサが制御回路30に内蔵されていてもよいし、上述した電圧センサのA/D変換回路が制御回路30に内蔵されていてもよい。
【0051】
なお、制御回路30が所謂位置センサレス方式のモータ駆動制御を行う場合には、ホール素子などの位置検出器を設けなくてもよい。
【0052】
次に、制御回路30について詳細に説明する。
【0053】
制御回路30は、上述した駆動制御信号Sdを生成してモータ2を駆動するモータ駆動機能に加えて、モータ2の異常を検出する異常検出機能を備えている。詳細は後述するが、制御回路30は、異常検出機能として、モータ2の異常の有無を判定する異常判定処理を行う。
【0054】
ここで、モータ2の異常とは、モータ2自体の異常のみならず、モータ駆動制御装置3を含むモータ周辺の回路等における異常も含んでもよい。
【0055】
更に、制御回路30は、異常判定処理において用いられるパラメータ(後述する第1閾値Dthおよび第2閾値Rth)を算出するために必要な、モータの動作に関するパラメータ(後述するデューティ比等)を測定する測定機能を有している。
【0056】
制御回路30は、動作モードとして、通常モードおよび測定モードを有している。通常モードは、モータ2が指定された駆動指令に応じた回転状態となるように駆動制御信号Sdを生成する動作モードである。測定モードは、モータ2の動作に関連するパラメータ(例えば、駆動制御信号Sdのデューティ比)を測定する動作モードである。例えば、通常モードにおいて、上述したモータ駆動機能および異常検出機能が実現され、測定モードにおいて、上述したモータ駆動機能および測定機能が実現される。なお、制御回路30は、上述した通常モードおよび測定モードの他に、他の動作モードを有していてもよい。
【0057】
制御回路30は、上述したモータ駆動機能、異常検出機能、および測定機能を実現するための機能ブロックとして、例えば、目標回転速度取得部11、駆動制御信号生成部12、通信部16、動作モード設定部17、動作制御部18、測定データ生成部19、記憶部20、閾値算出部21、回転速度取得部22、および信号生成部23を有している。
【0058】
これらの機能ブロックは、例えば、制御回路30を構成するプログラム処理装置を構成するハードウェア資源とプログラム処理装置内のソフトウェアとが協働することによって実現される。例えば、制御回路30(MCU)において、CPUがメモリに記憶されているプログラムに従って各種演算処理を実行し、その処理結果に基づいてA/D変換回路や入出力インターフェース回路等の周辺回路を制御することによって、目標回転速度取得部11、駆動制御信号生成部12、通信部16、動作モード設定部17、動作制御部18、測定データ生成部19、記憶部20、閾値算出部21、回転速度取得部22、および信号生成部23が実現される。
【0059】
目標回転速度取得部11は、外部から入力された駆動指令としての速度指令信号Scを受信し、速度指令信号Scによって指定された目標回転速度を取得する機能ブロックである。例えば、速度指令信号Scが目標回転速度に対応するデューティ比を有するPWM信号である場合、目標回転速度取得部11は、速度指令信号Scのデューティ比を解析し、そのデューティ比に対応する回転速度の情報を目標回転速度として出力する。
【0060】
駆動制御信号生成部12は、駆動制御信号Sdを生成するための機能部である。駆動制御信号生成部12は、目標回転速度取得部11または動作制御部18から目標回転速度が与えられた場合に、モータ2の回転速度が目標回転速度に一致するように駆動制御信号Sdを生成する回転速度フィードバック制御を行う。上述したように、駆動制御信号Sdは、例えば、PWM信号である。
【0061】
図1に示すように、駆動制御信号生成部12は、例えば、速度制御部13、デューティ比決定部14、および通電制御部15を備えている。
【0062】
速度制御部13は、モータ2の回転速度が目標回転速度に一致するように、制御量を算出する機能部である。速度制御部13は、例えば、目標回転速度取得部11または動作制御部18から与えられた目標回転速度と後述する回転速度取得部22によって取得されたモータ2の回転速度(実回転速度)との差を算出し、その差がゼロになるようにPID制御演算を行うことにより、モータ2の制御量を算出する。
【0063】
デューティ比決定部14は、速度制御部13によって算出された制御量に基づいて、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比を決定し、出力する。デューティ比決定部14は、モータ2の回転速度が目標回転速度に満たない場合に、モータ2の回転速度と目標回転速度との差が大きいほどデューティ比が高くなるように、デューティ比を決定する。
【0064】
通電制御部15は、デューティ比決定部14によって決定したデューティ比を有するPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして駆動回路31に出力する。
【0065】
回転速度取得部22は、モータ2の回転速度(実回転速度)を取得する機能部である。回転速度取得部22は、例えば、センサ装置32における位置検出器としてのホール素子の検出信号(ホール信号)に基づいてモータ2の回転速度を算出し、出力する。なお、制御回路30が位置センサレス方式のモータ駆動制御を行う場合には、回転速度取得部22は、公知の位置センサレス方式の演算手法(例えば、ベクトル制御演算やモータの逆起電圧に基づく演算等)により、モータ2の回転速度を算出してもよい。
【0066】
信号生成部23は、外部に出力する信号を生成する機能部である。信号生成部23は、モータ2の回転速度に応じた信号を生成する。例えば、信号生成部23は、センサ装置32に含まれる位置検出器としてのホール素子から出力された検出信号(ホール信号)に基づいて、モータ2の回転速度に比例する周期(周波数)を有するFG信号を生成し、回転速度信号Stとして出力する。回転速度信号Stは、例えば上位装置4に入力される。
【0067】
なお、信号生成部23は、後述する動作制御部18によって異常が検出された場合に、動作制御部18からの制御に応じて、回転速度信号Stの代わりに、異常が検出されたことを示す別の信号を出力してもよい。例えば、周期信号である回転速度信号Stの代わりに、論理レベルをハイレベルまたはローレベルに固定した信号を出力してもよい。
【0068】
通信部16は、制御回路30が外部の機器と通信を行うための機能部である。具体的には、通信部16は、上位装置4との間でデータの送受信を行う。上位装置4と通信部16との間の通信は、例えば、上述したシリアル通信等によって実現される。
【0069】
通信部16は、例えば、上位装置4から送信された要求を受信して動作制御部18に与えるとともに、動作制御部18から与えられた、上記要求に対する応答を上位装置4に送信する。例えば、通信部16は、ファン6(モータ2)の動作に関する情報の送信要求を上位装置4から受信して動作制御部18に与える。また、通信部16は、動作制御部18から受け取った上記送信要求に応じた情報(データ)を上位装置4に送信する。ここで、ファン6(モータ2)の動作に関する情報としては、上述したように、モータ2の電流、温度、電源電圧VDD、モータ2の累積駆動時間、異常の有無等を例示することができる。
【0070】
また、通信部16は、上位装置4から動作モードを指定する指令を受信した場合に、その指令を動作モード設定部17に与える。
なお、通信部16は、上位装置4からの要求に関わらず、データを上位装置4に送信してもよい。例えば、動作制御部18によって異常が検出された場合に、通信部16は、モータ2等が異常であることを示すデータを上位装置4に送信してもよい。
【0071】
動作モード設定部17は、制御回路30の動作モードを設定する機能部である。
動作モード設定部17は、例えば、制御回路30の初期状態として、動作モードを通常モードに設定する。例えば、モータ駆動制御装置3に電源電圧が供給され、制御回路30の初期化処理の後、動作モード設定部17は、動作モードを通常モードに設定する。
【0072】
動作モード設定部17は、動作モードの切替条件を満足したか否かを判定し、切替条件を満足した場合に、設定されている動作モードを別の動作モードに切り替える。動作モードの切替条件は、動作モードを通常モードから測定モードに切り替えるための第1切替条件と、動作モードを測定モードから通常モードに切り替えるための第2切替条件とを含む。
【0073】
第1切替条件は、例えば、モータ2の駆動時間が基準時間に到達したことである。駆動時間は、例えば、モータ2の駆動を開始してから停止させるまでの時間でもよいし、ファンシステム1の運用を開始してから特定の時点までのモータ2(ファン6)の累積駆動時間であってもよい。駆動時間は、後述する測定データ生成部19によって測定され、記憶部20に記憶されている。動作モード設定部17は、例えば、測定データ生成部19によって測定された駆動時間と記憶部20に記憶されている所定の閾値とを比較し、駆動時間が所定の閾値以上となったとき第1切替条件を満足したと判定し、動作モードを通常モードから測定モードに切り替える。
【0074】
また、第1切替条件は、例えば、外部から所定の信号が入力されたことである。動作モード設定部17は、例えば、上位装置4から送信された測定モードを指定する信号を通信部16を介して受信した場合に、第1切替条件を満足したと判定し、動作モードを通常モードから測定モードに切り替える。
【0075】
第2切替条件は、例えば、後述する測定モードにおいて指定された測定条件での測定が完了したことである。動作モード設定部17は、測定モードにおいて指定された測定条件での測定が完了した場合に、第2切替条件を満足したと判定し、動作モードを測定モードから通常モードに切り替える。
【0076】
また、第2切替条件は、例えば、外部から所定の信号が入力されたことである。動作モード設定部17は、上位装置4から送信された通常モードを指定する信号を通信部16を介して受信した場合に、第2切替条件を満足したと判定し、動作モードを測定モードから通常モードに切り替える。
【0077】
測定データ生成部19は、モータ2の動作に関連するパラメータを測定し、測定データを生成する機能部である。具体的に、測定データ生成部19は、センサ装置32の各センサから出力された出力信号(電気信号)に基づいて、モータ2の動作に関連するパラメータを測定し、測定データ201,204を生成する。
【0078】
測定データ生成部19は、例えば、動作モードが通常モードである場合に、センサ装置32の各センサから出力される電気信号の大きさを単位時間毎に測定し、その測定値をデジタル信号に変換し、モータ2の動作に関連するパラメータの測定データとして記憶部20に記憶する。なお、測定値のデジタル信号への変換は、測定データ生成部19が行ってもよいし、各センサ自身が行ってもよい。
【0079】
モータ2の動作に関連するパラメータとしては、温度、回転速度、モータ2の電流(コイル電流)、電源電圧VDD、駆動時間、および駆動制御信号のデューティ比を例示することができる。
【0080】
例えば、測定データ生成部19は、単位時間毎に、センサ装置32の温度センサによる温度の検知結果を測定データ204として記憶部20に記憶する。測定データ生成部19は、例えば、回転速度取得部22によって算出されたモータ2の回転速度(単位時間当たりの回転数)を測定データ204として記憶部20に記憶する。測定データ生成部19は、例えば、単位時間毎に、センサ装置32の電流センサによるモータ2の電流(コイル電流)の検出値を測定データ204として記憶部20に記憶する。測定データ生成部19は、例えば、単位時間毎に、センサ装置32の電圧センサによるモータ2の駆動電圧(電源電圧VDD)の検出値を測定データ204として記憶部20に記憶する。
【0081】
また、測定データ生成部19は、目標回転速度毎に駆動制御信号Sdのデューティ比を測定し、当該デューティ比の測定値を目標回転速度に対応付けて測定データ201として記憶部20に記憶する。例えば、測定データ生成部19は、動作モードが測定モードである場合に、目標回転速度を順次変更しながら駆動制御信号Sdのデューティ比を測定し、目標回転速度毎のデューティ比の測定値を測定データ201として記憶部20に記憶する。
【0082】
なお、測定データ生成部19による駆動制御信号Sdのデューティ比の測定は、デューティ比決定部14から出力されるデューティ比の指定値を取得することによって実現してもよいし、通電制御部15から実際に出力された駆動制御信号Sd(PWM信号)の周期およびパルス幅を測定することによって、駆動制御信号Sdのデューティ比を算出してもよい。
【0083】
なお、測定データ201,204の記憶部20への記憶は、上述したように測定データ生成部19が直接行ってもよいし、動作制御部18が行ってもよい。また、測定データ生成部19による測定データ201,204の生成および記憶は、上位装置4からの要求に応じて行われてもよい。
【0084】
記憶部20は、モータ2の駆動制御に係るプログラムやパラメータ、測定データ201,204等を記憶する機能部である。記憶部20は、例えば、書き換え可能な不揮発性の記憶領域を有しており、フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等によって構成されている。
【0085】
例えば、記憶部20には、上述した測定データ201,204に加えて、異常検出機能において用いられるパラメータである第1閾値Dthの情報202および第2閾値Rthの情報203が記憶される。なお、第1閾値Dthおよび第2閾値Rthの詳細については後述する。
【0086】
閾値算出部21は、異常判定処理において用いられるパラメータである第1閾値Dthおよび第2閾値Rthを算出する機能部である。閾値算出部21は、目標回転速度毎の駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値(測定データ201)に基づいて、目標回転速度毎に第1閾値Dthを算出し、記憶部20に記憶する。また、閾値算出部21は、目標回転速度毎の駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値(測定データ201)に基づいて、第2閾値Rthを算出し、記憶部20に記憶する。なお、第1閾値Dthおよび第2閾値Rthの具体的な算出方法については後述する。
【0087】
動作制御部18は、制御回路30の動作を統括的に制御するための機能部である。動作制御部18は、駆動制御信号Sdのデューティ比および測定データ生成部19によって生成された測定データ204等に基づいて、モータ2の駆動状態を監視するともに、動作モード設定部17によって設定された動作モードに基づいて駆動制御信号生成部12を制御することにより、駆動制御信号Sdの生成を制御する。
【0088】
具体的には、動作制御部18は、動作モードが通常モードである場合に、目標回転速度取得部11によって取得された目標回転速度に基づいて駆動制御信号Sdを生成するように、駆動制御信号生成部12を制御する。このとき、動作制御部18は、測定データ生成部19に対して測定データ204の生成を指示するとともに、測定データ204および駆動制御信号Sdのデューティ比およびモータ2の回転速度を監視し、監視結果に基づいて異常判定処理を行う。
【0089】
また、動作制御部18は、動作モードが測定モードである場合に、測定データ生成部19を制御して、駆動制御信号Sdのデューティ比を測定させる。例えば、動作制御部18は、速度制御部13に対して指示する目標回転速度を順次変更しつつ、測定データ生成部19に対して目標回転速度毎の駆動制御信号Sdのデューティ比を測定させ、測定データ201として記憶部20に記憶させる。動作制御部18は、閾値算出部21を制御して、測定データ201に基づいて、異常判定処理に用いる第1閾値Dthおよび第2閾値Rthを算出させる。
【0090】
次に、動作制御部18による異常判定処理について、詳細に説明する。
【0091】
一般的に、モータの回転速度フィードバック制御は、モータの回転速度が目標回転速度に到達していない場合に、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比を上げることにより、モータの回転速度を目標回転速度に到達させる。そして、回転速度フィードバック制御において、モータの負荷、温度、および電源電圧VDD等のモータの動作環境が一定であれば、モータを所定の目標回転速度で回転させるために必要な駆動制御信号Sdのデューティ比は、略一定となる。すなわち、モータの負荷、温度、および電源電圧VDD等のモータの動作環境が変わらなければ、モータを所定の回転速度(目標回転速度)で回転させるために必要な駆動制御信号Sdのデューティ比は、理論上一定の値となる。
【0092】
そのため、モータに何等かの異常があり、モータが正常時よりも回転し難くなっている場合には、モータを所定の目標回転速度で回転せるために必要なデューティ比は、通常時のデューティ比よりも高くなる。したがって、駆動制御信号Sdのデューティ比を監視することにより、モータ2の異常の有無を判定することが可能となる。
【0093】
一方で、駆動制御信号Sdのデューティ比は100%を超えることはない。また、モータ駆動制御装置3が適用されるシステムによっては、駆動制御信号Sdのデューティ比の最大値が定められている場合もある(例えば、デューティ比90%等)。そのため、モータ2が正常であっても、回転速度フィードバック制御において、目標回転速度によっては駆動制御信号Sdのデューティ比が最大値(例えば、100%)となる場合がある。
【0094】
このような場合には、駆動制御信号Sdのデューティ比を監視するだけでは、モータ2の異常の有無を判別することはできない。
【0095】
そこで、動作制御部18は、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値よりも低い場合に、異常判定処理として、記憶部20に記憶されている目標回転速度に対応する第1閾値Dthと駆動制御信号Sdのデューティ比との比較結果に基づいて異常の有無を判定する。例えば、動作制御部18は、駆動制御信号Sdのデューティ比Dxが第1閾値Dth以上である場合に、異常があると判定し、駆動制御信号Sdのデューティ比Dxが第1閾値Dthより低い場合に、異常がないと判定する。
【0096】
一方、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値以上である場合に、動作制御部18は、異常判定処理として、回転速度取得部22によって取得したモータ2の回転速度(実回転速度)と回転速度に関する第2閾値Rthとの比較結果に基づいて、異常の有無を判定する。例えば、動作制御部18は、モータ2の回転速度が第2閾値Rthよりも低い場合に、異常があると判定し、モータ2の回転速度が第2閾値Rth以上である場合に、異常がないと判定する。
【0097】
ここで、上記所定値は、所定のデューティ比を示す値であり、例えば、モータ駆動制御装置3に設定されている駆動制御信号Sdのデューティ比の最大値である。以下の説明では、一例として、上記所定値が、デューティ比100〔%〕を示す値であるとする。
【0098】
次に、第1閾値Dthおよび第2閾値Rthの算出方法について説明する。
【0099】
第1閾値Dthは、駆動制御信号Sdのデューティ比に関する閾値である。第2閾値Rthは、モータ2の回転速度に関する閾値である。
【0100】
上述したように、駆動制御信号Sdのデューティ比はモータ2の目標回転速度によって変化する。すなわち、目標回転速度が上がるにつれて、モータ2を目標回転速度で回転させるために必要な駆動制御信号Sdのデューティ比が上がる。
【0101】
そこで、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置3は、第1閾値Dthを、目標回転速度毎に設定する。具体的には、閾値算出部21は、正常なモータ2を所定の回転速度(目標回転速度)で回転させているときの駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値(測定データ201)に基づいて、第1閾値Dthを算出する。そして、動作制御部18は、目標回転速度が変更される毎に、異常判定処理に用いる第1閾値Dthを目標回転速度に応じて変更する。
【0102】
また、上述したように、目標回転速度が上がるにつれて、モータ2を目標回転速度で回転させるために必要な駆動制御信号Sdのデューティ比が高くなるため、第1閾値Dthも上がることになる。そして、目標回転速度がある値を超えると、第1閾値Dthも所定値(100%)を超えてしまう。
【0103】
そこで、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置3は、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値(100%)以上の範囲において、第2閾値Rthを設定する。具体的には、閾値算出部21が、正常なモータ2を所定の回転速度(目標回転速度)で回転させているときの駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値(測定データ201)に基づいて、第2閾値Rthを算出する。
【0104】
図2は、目標回転速度毎のデューティ比の測定値と第1閾値Dthおよび第2閾値Rthの一例を示す図である。
【0105】
図2には、各目標回転速度に設定したときの駆動制御信号Sdの測定値である測定データ201と、目標回転速度毎に決定された第1閾値Dthの情報202と、目標回転速度毎に決定された第2閾値Rthの情報203と、が示されている。
【0106】
図2には、一例として、ファン6(モータ2)に設定可能な目標回転速度の最大値が20000〔rpm〕である場合において、回転速度フィードバック制御によって目標回転速度を0〔rpm〕から20000〔rpm〕まで1000〔rpm〕ずつ変化させてモータ2を回転させたときの、目標回転速度毎の駆動制御信号Sdのデューティ比の測定データ201が示されている。例えば、
図2に示すように、正常なモータ2が2000〔rpm〕で回転しているときの駆動制御信号Sdのデューティ比は9.0〔%〕である。
【0107】
先ず、第1閾値Dthの算出方法について説明する。
モータ駆動制御装置3において、各目標回転速度に対応する第1閾値Dthは、各目標回転速度において測定された駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値に基づいて算出される。例えば、閾値算出部21は、各目標回転速度において測定された駆動制御信号Sdのデューティ比をn倍(nは実数)した値に基づいて、目標回転速度毎の第1閾値Dthを算出する。
【0108】
図2には、一例として、各目標回転速度において測定された駆動制御信号Sdのデューティ比を“1.5倍”した値を各目標回転速度の第1閾値Dthとした場合が示されている。例えば、
図2に示すように、目標回転速度が2000〔rpm〕であるときの第1閾値Dthは、13.5(=9.0×1.5)〔%〕となる。ここで、上記第1閾値Dthは、モータ2が2000〔rpm〕で回転しているときの駆動制御信号Sdのデューティ比が13.5%未満でなければ、“異常”とすることを意味している。したがって、駆動制御信号Sdのデューティ比が第1閾値Dth以上であれば、何かしらの異常があると判定することが可能となる。
【0109】
なお、nは、モータが適用されるアプリケーションにおいて求められる、モータを正常とみなす範囲に応じて設定すればよい。例えば、nが大きくなるほど、モータを正常とみなす範囲が拡がり、ファンシステムとしての異常の許容度が上がる。
【0110】
一方、駆動制御信号Sdのデューティ比が測定されていない目標回転速度での第1閾値Dthは、測定済みの他の目標回転速度のデューティ比を用いて算出される。例えば、閾値算出部21は、測定済みの目標回転速度毎のデューティ比を用いた線形補完の演算により、駆動制御信号Sdのデューティ比が測定されていない目標回転速度での第1閾値Dthを求める。より具体的には、閾値算出部21は、例えば、下記式(1)に基づいて、駆動制御信号Sdのデューティ比が測定されていない目標回転速度での第1閾値Dthを算出し、第1閾値Dthの情報202として記憶部20に記憶する。
【0111】
【0112】
上記式(1)において、Aは、第1閾値Dthを求めたい目標回転速度、Bは、デューティ比を測定済みの目標回転速度のうちAよりも低い目標回転速度、Cは、デューティ比を測定済みの目標回転速度のうちAよりも高い目標回転速度、Dは、Bの第1閾値Dth、Eは、Cの第1閾値Dthである。
【0113】
例えば、
図2に示されていない目標回転速度が7500〔rpm〕であるときの第1閾値Dthを求める場合を考える。この場合、A=7500〔rpm〕とし、
図2より、B=7000〔rpm〕、C=8000〔rpm〕、D=47.25〔%〕、E=54〔%〕とし、A乃至Eの値を上記式(1)に代入すると、目標回転速度が7500〔rpm〕であるときの第1閾値Dthは、下記式(2)で表される。
【0114】
【0115】
このように、上述した手法により、駆動制御信号Sdのデューティ比が測定されていない目標回転速度での第1閾値Dthを容易に算出することができる。
【0116】
なお、より高精度に第1閾値Dthを算出するために、Bはデューティ比を測定済みのAよりも低い目標回転速度のうち最も高い目標回転速度であり、Cはデューティ比を測定済みのAよりも高い目標回転速度のうち最も低い目標回転速度であることが好ましい。
【0117】
次に、第2閾値Rthの算出方法について説明する。
図2から理解されるように、目標回転速度が上がるにつれて、モータ2を目標回転速度で回転させるために必要な駆動制御信号Sdのデューティ比が高くなり、第1閾値Dthも高くなる。そして、目標回転速度がある値を超えると、第1閾値Dthが100〔%〕を超えてしまう。そこで、第1閾値Dthが所定値を超える範囲において、回転速度に関する第2閾値Rthを設定する。
【0118】
本実施の形態では、第2閾値Rthを、例えば、第1閾値Dthが所定値(デューティ比の最大値)になるときのモータ2の回転速度に相当する値とする。例えば、所定値をデューティ比100%とした場合、第2閾値Rthは、第1閾値Dthが100%となるときの回転速度に相当する値である。
【0119】
例えば、閾値算出部21は、上記式(1)と同様の線形補完の考えに基づく下記式(3)を用いて第2閾値Rthを算出し、第2閾値Rthの情報203として記憶部20に記憶する。
【0120】
【0121】
上記式(3)において、Gは所定値〔%〕、Hは、デューティ比を測定済みの目標回転速度のうち第1閾値DthがGよりも低い目標回転速度、Iは、デューティ比を測定済みの目標回転速度のうち第1閾値DthがGよりも高い目標回転速度、Jは、Hの第1閾値Dth、Kは、Iの第1閾値Dthである。
【0122】
例えば、所定値Gをデューティ比=100%とし、
図2より、H=14000〔rpm〕、I=15000〔rpm〕、J=94.5〔%〕、K=101.25〔%〕としたとき、G乃至Kの値を上記式(3)に代入すると、第1閾値Dthが100%になるときのモータ2の回転速度である第2閾値Rthは、下記式(4)で表される。
【0123】
【0124】
したがって、第1閾値Dthが100%を超える範囲では、
図2に示すように、各目標回転速度の第2閾値Rthを14814〔rpm〕に設定する。ここで、上記第2閾値Rthは、駆動制御信号Sdのデューティ比が100%であるときにモータ2が14814〔rpm〕以上の回転速度で回転しなければ、“異常”とすることを意味している。したがって、例えば、駆動制御信号Sdのデューティ比が100%であるときにモータ2の回転速度が第2閾値Rthより低ければ、何かしらの異常があると判定することが可能となる。
【0125】
なお、上述した第1閾値Dthおよび第2閾値Rthの算出方法は、測定データ201の取得時と第1閾値Dthおよび第2閾値Rthを用いた異常判定処理の実行時において、モータの動作環境が同一であることを前提にしている。
【0126】
そこで、測定データ201の取得時と第1閾値Dthおよび第2閾値Rthを用いた異常判定処理の実行時において、モータの動作環境が異なる場合には、動作環境の違いに応じて第1閾値Dthおよび第2閾値Rthの値を補正してもよい。
【0127】
例えば、駆動制御信号Sdのデューティ比と、モータの駆動電圧(電源電圧VDD)と、回転速度とは相関があることが知られている。そこで、測定データ201の取得時の電源電圧VDDと異常判定処理の実行時の電源電圧VDDが相違する場合、閾値算出部21は、例えば下記式(5)に基づいて、第1閾値Dthを補正してもよい。
【0128】
【0129】
VDD0は測定データ201の取得時の電源電圧(モータ2の駆動電圧)であり、VDDcは異常判定処理の実行時の電源電圧である。Dth0は測定データ201に基づいて算出した第1閾値である。Dthcは、補正後の第1閾値、すなわち異常判定処理の実行時の電源電圧VDDcにおける第1閾値である。
【0130】
温度に関しても電源電圧の場合と同様に、測定データ201の取得時の温度と異常判定処理の実行時の温度とのずれに応じて、測定データ201に基づいて算出した第1閾値Dthを補正すればよい。
【0131】
なお、モータ駆動制御装置3が、モータ2の電流に関する過電流保護機能を有している場合には、上記異常判定処理が適切に行われるようにするために、電源電圧VDDの大きさ等を考慮して、過電流保護機能に係る閾値をより高い値に設定しておくことが好ましい。
【0132】
次に、モータ駆動制御装置3によるモータ駆動制御に係る処理の流れについて、説明する。
【0133】
図3は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置3による処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0134】
例えば、上位装置4からモータ駆動制御装置3に電源電圧VDDが供給されたとき、モータ駆動制御装置3が起動する。モータ駆動制御装置3の起動後、制御回路30としてのMCUの初期化処理が実行され、制御回路30の動作モードが通常モードとなり、制御回路30は、通常モードにおいてモータ2の駆動制御を開始する(ステップS1)。なお、通常モードにおける制御回路30による処理の詳細については後述する。
【0135】
通常モードにおいて、制御回路30の動作モード設定部17は、動作モードの切替条件(第1条件)を満足したか否かを判定する(ステップS2)。動作モード設定部17が動作モードの切替条件(上述した第1条件)を満足していないと判定した場合(ステップS2:NO)には、動作モード設定部17は動作モードを変更せず、制御回路30は、通常モードによるモータ2の駆動制御を継続する。
【0136】
一方、動作モード設定部17が動作モードの切替条件(上述した第1条件)を満足したと判定した場合(ステップS2:YES)には、動作モード設定部17は、動作モードを通常モードから測定モードに変更し、制御回路30は、測定モードによるモータ2の駆動制御を開始する(ステップS3)。例えば、モータ2の累積駆動時間が基準時間に到達した場合(ステップS2:YES)、制御回路30は、測定モードによるモータ2の駆動制御(デューティ比の測定)を開始する(ステップS3)。なお、測定モードにおける制御回路30による処理の詳細については後述する。
【0137】
測定モードによるモータ2の駆動制御の終了後、制御回路30は、上位装置4からファン6の停止指示が入力されたか否かを判定する(ステップS4)。停止指示が入力された場合、制御回路30は、ファン6(モータ2)を停止させる。一方、停止指示が入力されていない場合、制御回路30は、上述したステップS1~S4の処理を繰り返し実行する。
【0138】
次に、制御回路30による通常モードにおける処理の流れについて説明する。
【0139】
図4は、通常モードにおけるモータ駆動制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートは、
図3におけるステップS1の処理の一例である。なお、通常モードにおけるモータの駆動が行われる前に測定モードにおける駆動制御信号Sdのデューティ比の測定が行われていない場合には、第1閾値Dthおよび第2閾値Rthとして、予め設定された初期値が用いられるものとする。
【0140】
通常モードにおいて、制御回路30は、目標回転速度が変更されたか否かを判定する(ステップS11)。例えば、制御回路30の起動直後は、目標回転速度がゼロに設定されている。制御回路30は、上位装置4から速度指令信号Scが入力されるまで待機する。
【0141】
モータ駆動制御装置3に速度指令信号Scが入力された場合、制御回路30は、目標回転速度が変更(設定)されたと判定し(ステップS1:YES)、速度指令信号Scで指定された目標回転速度に対応する第1閾値Dthを選択する(ステップS12)。
【0142】
次に、制御回路30において、駆動制御信号生成部12が、上述した手法により、速度指令信号Scで指定された目標回転速度に基づいて、回転速度フィードバック制御を開始する(ステップS13)。これにより、モータ2が速度指令信号Scで指定された目標回転速度になるように、駆動制御信号Sdのデューティ比が調整される。
【0143】
回転速度フィードバック制御が行われているとき、制御回路30は、駆動制御信号Sdのデューティ比Dxが所定値(ここでは、100%)以上であるか否かを判定する(ステップS14)。
【0144】
デューティ比Dxが100%より低い場合には(ステップS14:NO)、制御回路30は、第1閾値Dthを用いた異常判定処理を行う(ステップS15)。具体的には、上述したように、動作制御部18が、駆動制御信号Sdのデューティ比Dxが第1閾値Dth以上であるか否かを判定する。駆動制御信号Sdのデューティ比Dxが第1閾値Dthより低い場合(ステップS15:NO)、動作制御部18は、異常がないと判定し、回転速度フィードバック制御を継続しつつ、ステップS1の処理を終了する。
【0145】
一方、駆動制御信号Sdのデューティ比Dxが第1閾値Dth以上である場合(ステップS15:YES)、動作制御部18は、モータ2に異常があると判定する(ステップS17)。この場合、動作制御部18は、上述したように、通信部16からの信号または論理レベルを固定した回転速度信号Stを外部に出力することにより、異常が検出されたことを上位装置4に報知する(ステップS18)。その後、動作制御部18は、ステップS1の処理を終了する。
【0146】
ステップS14において、デューティ比Dxが100%である場合には(ステップS14:YES)、制御回路30は、第2閾値Rthを用いた異常判定処理を行う(ステップS16)。具体的には、上述したように、動作制御部18が、回転速度取得部22によって取得したモータ2の回転速度R(実回転速度)が第2閾値Rth以上であるか否かを判定する。モータ2の回転速度が第2閾値Rth以上である場合(ステップS16:YES)、動作制御部18は、異常がないと判定し、回転速度フィードバック制御を継続しつつ、ステップS1の処理を終了する。
【0147】
一方、モータ2の回転速度が第2閾値Rthより低い場合(ステップS16:NO)、動作制御部18は、モータ2に異常があると判定し(ステップS17)、上述した手法により、異常が検出されたことを上位装置4に報知する(ステップS18)。その後、動作制御部18は、ステップS1の処理を終了する。
【0148】
次に、制御回路30による測定モードにおける処理の流れについて説明する。
【0149】
図5は、測定モードにおけるモータ駆動制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
図5に示すフローチャートは、
図3におけるステップS3の処理の一例である。
【0150】
測定モードにおいて、先ず、制御回路30の動作制御部18は、測定条件を取得する(ステップS31)。測定条件は、例えば、目標回転速度の変化させる範囲および目標回転速度の単位変化量である。
図2の場合、目標回転速度の変化させる範囲は0〔rpm〕から20000〔rpm〕であり、目標回転速度の単位変化量は1000〔rpm〕である。なお、測定条件には、電源電圧VDDの指定値等が含まれていてもよい。
【0151】
測定条件の情報は、上述したように外部(上位装置4)から受信してもよいし、予め記憶部20に記憶されていてもよい。動作制御部18は、外部または記憶部20から測定条件に関する情報を取得する。
【0152】
次に、動作制御部18は、目標回転速度を設定する(ステップS32)。具体的には、動作制御部18は、ステップS31において取得した測定条件で指定された目標回転速度を駆動制御信号生成部12(速度制御部13)に与える。
【0153】
次に、駆動制御信号生成部12が、上述した手法により、モータ2の回転速度がステップS32において動作制御部18によって指定された目標回転速度に一致するように、回転速度フィードバック制御を行う(ステップS33)。
【0154】
例えば、回転速度フィードバック制御によってモータ2の回転速度が安定した後、動作制御部18が、測定データ生成部19を制御して、駆動制御信号Sdのデューティ比を測定させる(ステップS34)。測定データ生成部19は、そのときの目標回転速度と駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値を対応付けて、測定データ201として記憶部20に記憶する(ステップS35)。
【0155】
次に、動作制御部18が、閾値算出部21を制御して、そのときの目標回転速度に対応する第1閾値Dthを算出させる(ステップS36)。例えば、閾値算出部21は、上述した手法により、ステップS35において記憶部20に記憶された駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値をn倍した値を第1閾値Dthとし、そのときの目標回転速度に対応付けて記憶部20に記憶する。このとき、第2閾値Rthが算出されていない場合には、閾値算出部21は、上述した手法により、第2閾値Rthも算出して記憶部20に記憶する。
【0156】
次に、動作制御部18は、ステップS31において取得した全ての測定条件での駆動制御信号Sdのデューティ比の測定が完了したか否かを判定する(ステップS37)。全ての測定条件での駆動制御信号Sdのデューティ比の測定が完了していない場合(ステップS37:NO)、動作制御部18は、ステップS32に戻り、ステップS31において取得した測定条件に基づいて、直前に設定した目標回転速度に測定条件で指定された単位回転速度を加算した新たな目標回転速度を速度制御部13に設定し、回転速度フィードバック制御を実行させることにより、新たな目標回転速度における駆動制御信号Sdのデューティ比の測定と第1閾値Dthの算出を行う(ステップS32~S37)。
【0157】
全ての測定条件での駆動制御信号Sdのデューティ比の測定が完了した場合(ステップS37:YES)、制御回路30は、測定モードにおける処理を終了し、ステップS4に移行する。
【0158】
なお、
図3乃至
図5のフローチャートでは、測定モードにおいて第1閾値Dthを算出する場合を例示したが、これに限られない。例えば、通常モードにおいて目標回転速度が変更される毎に第1閾値Dthを算出してもよい。具体的には、
図4に示した通常モードにおける処理フローのステップS12において、動作制御部18が、ステップS11において変更された目標回転速度に対応する駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値を記憶部20から読み出し、読み出した測定値を用いて上述した手法により、変更後の目標回転速度に対応する第1閾値Dthを算出してもよい。なお、第2閾値Rthについても、上述したように測定モードにおいて算出してもよいし、通常モードにおけるステップS12において、第1閾値Dthと同様に算出してもよい。
【0159】
以上、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置3は、モータ2を回転速度フィードバック制御によって駆動してるとき、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値よりも低い場合に、記憶部20に記憶されている、目標回転速度毎に対応したデューティ比に関する第1閾値Dthと駆動制御信号Sdのデューティ比との比較結果に基づいて異常の有無を判定する。一方、駆動制御信号のデューティ比が所定値以上である場合に、モータ駆動制御装置3は、モータ2の回転速度(実回転速度)と回転速度に関する第2閾値Rthとの比較結果に基づいて、異常の有無を判定する。
【0160】
これによれば、モータ2が正常であるときの適切なデューティ比として許容される第1閾値Dthと実際にモータ2を駆動しているときの駆動制御信号Sdのデューティ比とを比較することにより、モータの異常の有無を容易に判定することができる。これによれば、従来技術のように複数のパラメータを組み合わせた複雑な演算が不要となるので、安価なMCUを制御回路30として採用することができ、モータ駆動制御装置3のコストを抑えることが可能となる。
【0161】
また、モータ駆動制御装置3は、目標回転速度毎に適切な駆動制御信号Sdのデューティ比が異なることを考慮して、目標回転速度毎に第1閾値Dthが設定されている。これによれば、目標回転速度によらず一律の基準(閾値)を設ける場合に比べて、設定された目標回転速度毎のモータの理想の動作状態を基準として異常の有無を判定するので、より高精度な異常判定を実現することが可能となる。
【0162】
また、モータ駆動制御装置3は、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値以上の場合、例えば、駆動制御信号Sdのデューティ比が最大値(例えば、100%)となる場合には、デューティ比ではなく、モータの回転速度(実回転速度)と第2閾値Rthとを比較することにより、異常の有無を判定する。
【0163】
これによれば、目標回転速度に応じて駆動制御信号Sdのデューティ比が最大値(例えば、100%)となる状態であっても、モータの異常の有無を適切に判定することが可能となる。また、これによれば、上述したデューティ比に関する第1閾値Dthを用いる場合と同様に、従来技術のように複数のパラメータを組み合わせた複雑な演算が不要なので、安価なMCUを制御回路30として採用することができる。
【0164】
このように、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置3によれば、コストを抑えつつ、モータの異常の有無を適切に検出することが可能となる。
【0165】
モータ駆動制御装置3において、第2閾値Rthは、第1閾値Dthが所定値(例えば、デューティ比の最大値(100%))になるときのモータ2の回転速度に相当する値とし、動作制御部18は、モータ2の回転速度が第2閾値Rthよりも低い場合に、異常があると判定し、モータ2の回転速度が第2閾値Rthよりも高い場合に、異常がないと判定する。
【0166】
これによれば、デューティ比が100%であるときに到達すべきモータの回転速度に基づいて第2閾値Rthが定義されるので、モータの回転速度と第2閾値Rthを比較することにより、モータの異常の有無を適切に判定することが容易となる。
【0167】
また、モータ駆動制御装置3において、制御回路30は、目標回転速度毎に駆動制御信号Sdのデューティ比を測定し、駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値を目標回転速度に対応付けて記憶部20に記憶するとともに、目標回転速度毎の駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値に基づいて、目標回転速度毎に第1閾値Dthを算出し、記憶部20に記憶する。
【0168】
これによれば、モータ2の理想の動作状態、すなわちモータ2およびモータ駆動制御装置3をアプリケーションに組み込んだ後にモータ2が正常に動作している状態を基準として、モータ2の実動作環境に応じた適切な第1閾値Dthを設定することができるので、より高精度な異常判定処理を実現することが可能となる。
【0169】
また、モータ駆動制御装置3において、第1閾値Dthは、例えば、駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値を逓倍(n倍)した値に基づいて算出される。これによれば、第1閾値Dthを算出するために複雑な演算が必要ないので、より安価なMCUを制御回路30として適用することが可能となる。
【0170】
また、制御回路30は、動作モードとして通常モードおよび測定モードを有し、測定データ生成部19は、動作モードが測定モードである場合に、目標回転速度を順次変更しながら駆動制御信号Sdのデューティ比を測定し、動作制御部18は、動作モードが通常モードである場合に、異常判定処理を行う。
【0171】
これによれば、動作モードが測定モードに設定された場合に、制御回路30が自律的に目標回転速度を変更しながら駆動制御信号Sdのデューティ比を測定するので、目標回転速度毎のデューティ比の測定のために、ユーザが上位装置(上位装置4)を介してモータ駆動制御装置3を制御する必要がなく、ユーザフレンドリーなモータ駆動制御装置を提供することが可能となる。
【0172】
また、モータ駆動制御装置において、制御回路30(動作モード設定部17)は、動作モードが通常モードであるときに所定の条件を満足した場合に、動作モードを通常モードから測定モードに切り替える。例えば、モータ2の駆動時間が基準時間に到達した場合に、制御回路30は、動作モードを通常モードから測定モードに切り替える。これによれば、モータ2およびモータ駆動制御装置3をアプリケーションに組み込んだ後の慣らし運転(エージング)が終わったタイミングにおいて、自動的に駆動制御信号Sdのデューティ比を測定することができる。これにより、モータの実動作環境に基づいた第1閾値Dthおよび第2閾値Rthを算出することできるので、異常判定の精度を更に高めることが可能となる。
【0173】
また、例えば、外部(例えば、上位装置4)から所定の信号が入力された場合に、制御回路30は、動作モードを通常モードから測定モードに切り替える。これによれば、上位装置4(またはユーザ)が任意のタイミングで駆動制御信号Sdのデューティ比を測定することができる。
【0174】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0175】
例えば、上記実施の形態では、異常判定処理において、駆動制御信号Sdのデューティ比が所定値(100%)を超えた場合に、第1閾値Dthではなく第2閾値Rthを用いて異常の有無を判定する場合を例示したが、これに限られない。例えば、設定された目標回転速度の第1閾値Dthが所定値(100%)以上である場合、換言すれば、第1閾値Dthが所定値(100%)以上となる目標回転速度がモータ駆動制御装置3に設定された場合に、動作制御部18は、第2閾値Rthとモータ2の回転速度とを比較して、異常の有無を判定してもよい。
【0176】
上述のフローチャートは一例であって、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【符号の説明】
【0177】
1…モータ駆動制御システム(ファンシステム)、2…モータ、3…モータ駆動制御装置、4…上位装置(情報処理装置)、5…インペラ、6…ファン、11…目標回転速度取得部、12…駆動制御信号生成部、13…速度制御部、14…デューティ比決定部、15…通電制御部、16…通信部、17…動作モード設定部、18…動作制御部、19…測定データ生成部、20…記憶部、21…閾値算出部、22…回転速度取得部、23…信号生成部、31…駆動回路、32…センサ装置、201,204…測定データ、202…第1閾値Dth、203…第2閾値Rth、Sc…速度指令信号(駆動指令の一例)、Sd…駆動制御信号、St…回転速度信号。