(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061164
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】曲げ加工装置及び曲げ加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 53/00 20060101AFI20240425BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20240425BHJP
B30B 13/00 20060101ALI20240425BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20240425BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240425BHJP
H02G 3/16 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
B21D53/00 D
B21D5/01 K
B30B13/00 A
B21D22/26 C
B21D22/20 B
B30B13/00 D
B30B13/00 B
H02G3/16
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168924
(22)【出願日】2022-10-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】510042301
【氏名又は名称】株式会社田中製作所
(71)【出願人】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 道男
(72)【発明者】
【氏名】大旗 泰之
(72)【発明者】
【氏名】林 良平
(72)【発明者】
【氏名】塚根 亮
(72)【発明者】
【氏名】玉井 博康
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 賢吾
【テーマコード(参考)】
4E063
4E090
4E137
5G361
【Fターム(参考)】
4E063BA01
4E063CA06
4E063JA01
4E090HA02
4E137AA04
4E137AA05
4E137BA04
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA01
4E137CA24
4E137CA26
4E137EA01
4E137EA05
4E137GA03
4E137GA06
4E137GA17
4E137GB20
4E137HA05
5G361BA02
5G361BA03
(57)【要約】
【課題】 高い寸法精度を有する立体形状の金属部品を成形する曲げ加工装置を提供する。
【解決手段】 オーバベンド加工金型(44a,44b)及びリターンベンド金型(45a,45b)を順に配置した折曲金型を複数採用した曲げ加工装置(順送プレス加工装置)により、複数個所の曲げ加工を伴う金属部品をスプリングバックの影響が蓄積・増幅されることなく成形する。特に、高い寸法精度のバスバーを成形できる。オーバベンド加工金型は、オーバベンド角度θの傾斜面を有するダイスとダイスに当接可能なポンチで構成される。リターンベンド金型は、オーバベンド角度Φ傾斜面を有するダイスとワークWのオーバベンド加工された部分以外を挟持するストッパと上方から降下するポンチで構成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなるワークを曲げ方向と逆方向に所定のオーバベンド角度θでオーバベンド加工する第1金型と、前記第1金型によって曲げ方向と逆方向にオーバベンド加工されたワークを曲げ方向に所定のリターンベンド角度Φでリターンベンド加工する第2金型とを備える金属部品の曲げ加工装置であって、
前記第1金型は、前記ワークを載置する載置部と、前記載置部の両端に配置され前記載置部の載置面に対して所定のオーバベンド角度θの傾斜面を有し、前記ワークを所定のオーバベンド角度θで前記ワークの曲げ方向と逆方向にオーバベンド加工する機能を有する傾斜部と、からなるダイスと、前記ダイスに対向して配置され前記ダイスに当接可能な平面部及び傾斜部を有するポンチとからなり、
前記第2金型は、前記第1金型によってオーバベンド加工されたワークのオーバベンド加工された部分以外を載置する載置部と前記載置部の両端に配置され載置面に対して所定のリターンベンド角度Φの傾斜面を有し、前記第1金型によってオーバベンド加工された部分を所定のリターンベンド角度Φで前記ワークの曲げ方向にリターンベンド加工する機能を有する傾斜部と、からなるダイスと、前記第1金型によってオーバベンド加工されたワークのオーバベンド加工された部分以外を抑えるストッパと、前記ダイス及びストッパに挟持されたワークに上方から下降して前記ワークのオーバベンド加工された部分を曲げ方向にリターンベンド加工を行うポンチとからなる、
ことを特徴とする金属部品の曲げ加工装置。
【請求項2】
前記金属部品がバスバーであることを特徴とする請求項1に記載する金属部品の曲げ加工装置。
【請求項3】
帯状金属板を所定方向に送り出す搬送機構と、前記帯状金属板の送り方向に沿って送りピッチと同じ間隔で配置された孔明金型及び折曲金型を設けたプレス加工部とを備える金属部品の順送プレス加工装置であって、
前記折曲金型が請求項1に記載する第1金型及び第2金型を順に配置したものであることを特徴とする金属部品の順送プレス加工装置。
【請求項4】
前記金属部品がバスバーであることを特徴とする請求項3に記載する金属部品の順送プレス加工装置。
【請求項5】
帯状金属板から切り出したワークを所定方向に搬送するトランスファー装置と、前記ワークをプレス加工する孔明金型または折曲金型を設けたプレス加工装置を交互に備える金属部品のトランスファプレス加工装置であって、
前記折曲金型を設けたプレス加工装置として請求項1に記載する第1金型を設けたプレス加工装置と請求項1に記載する第2金型を設けたプレス加工装置を順に配置したことを特徴とする金属部品のトランスファプレス加工装置。
【請求項6】
前記金属部品がバスバーであることを特徴とする請求項5に記載する金属部品のトランスファプレス加工装置。
【請求項7】
金属板からなるワークを曲げ方向と逆方向に所定のオーバベンド角度θでオーバベンド加工するオーバベンド加工工程と、
前記オーバベンド加工したワークのオーバベンド加工部を曲げ方向に所定のリターンベンド角度Φでリターンベンド加工するリターンベンド加工工程と、
を備える金属部品のプレス加工方法であって、
前記オーバベンド加工工程は、オーバベンド角度θの傾斜面を有しするダイス及び前記ダイスに対向して配置され前記ダイス当接可能なポンチによって、前記ワークを曲げ方向と逆方向にオーバベンド角度θでオーバベンド加工する工程であり、
前記リターンベンド加工工程は、前記オーバベンド加工工程によりオーバベンド加工された部位以外をストッパにより挟持した後、前記オーバベンド加工工程によりオーバベンド加工された部位をリターンベンド角度Φの傾斜面を有するダイス及び前記ダイスに対向して配置され前記ダイス当接可能なポンチによって、曲げ方向にリターンベンド角度Φでリターンベンド加工する工程である、
ことを特徴とする金属部品のプレス加工方法。
【請求項8】
前記金属部品がバスバーであることを特徴とする請求項7に記載する金属部品のプレス加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、曲げ加工装置及び曲げ加工方法に関する。特に、スプリングバックの影響を排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品を成形する曲げ加工装置及び曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用部材としてプレス成形された鋼板は、基本的に複数の曲げ箇所が形成されるいわゆる箱型またはハット型の断面形状を備えており、プレス成形品の寸法精度を確保するために曲げ箇所のスプリングバック量を制御することが重要である。
しかしながら、高強度鋼板はプレス成形後のスプリングバックが大きいため、そのままでは寸法精度を確保することが難しい。特に、電気自動車等で大容量電流を分岐するバスバーと呼ばれる、銅またはアルミ製の厚板を打ち抜き、複数個所を折り曲げて立体形状に成形し、耐熱性樹脂基材を取り付けた部品は、複数個所の曲げ加工に伴いスプリングバックの影響が蓄積・増幅されて大きな寸法変動を生じるという問題がある。
【0003】
特許文献1には、金属棒を厚潰した金属平板を折曲用プレス装置及び孔明用プレス装置により順に加工して接続経路に応じて折り曲げた金属平板から構成されるバスバーの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、上下方向に移動可能な上部曲げ金型及び下部曲げ金型により、上、下部曲げ金型の一方の曲げ金型で曲げ角部に引張応力をかけ、他方の曲げ金型で曲げ角部に圧縮応力をかけた後、所定の曲げ加工を行う折曲加工装置が開示されている。バウシンガー効果により曲げ角部の曲げ荷重を小さくすることでスプリングバック量を少なくしている。
【0005】
特許文献3には、板材の曲げ加工において、所望の曲げ角度より所定角度オーバベントした後、所望の曲げ角度まで積極的に曲げ戻すことで、捩じれやスプリングバックの原因となる応力・曲げモーメントが残留しないようにした折り曲げ加工品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-023888号公報
【特許文献3】特開2003-191021号公報
【特許文献2】特開2004-195535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、バウシンガー効果を活用してスプリングバックの影響を極力排除した高い寸法精度を有する立体形状の金属部品を成形できる曲げ加工装置及び曲げ加工方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の課題は、以下の態様(1)乃至態様(6)により解決できる。具体的には、
【0009】
(態様1) 金属板からなるワークを曲げ方向と逆方向に所定のオーバベンド角度θでオーバベンド加工する第1金型と、前記第1金型によって曲げ方向と逆方向にオーバベンド加工されたワークを曲げ方向に所定のリターンベンド角度Φでリターンベンド加工する第2金型とを備える金属部品の曲げ加工装置であって、前記第1金型は、前記ワークを載置する載置部と、前記載置部の両端に配置され前記載置部の載置面に対して所定のオーバベンド角度θの傾斜面を有し、前記ワークを所定のオーバベンド角度θで前記ワークの曲げ方向と逆方向にオーバベンド加工する機能を有する傾斜部と、からなるダイスと、前記ダイスに対向して配置され前記ダイスに当接可能な平面部及び傾斜部を有するポンチとからなり、前記第2金型は、前記第1金型によってオーバベンド加工されたワークのオーバベンド加工された部分以外を載置する載置部と前記載置部の両端に配置され載置面に対して所定のリターンベンド角度Φの傾斜面を有し、前記第1金型によってオーバベンド加工された部分を所定のリターンベンド角度Φで前記ワークの曲げ方向にリターンベンド加工する機能を有する傾斜部と、からなるダイスと、前記第1金型によってオーバベンド加工されたワークのオーバベンド加工された部分以外を抑えるストッパと、前記ダイス及びストッパに挟持されたワークに上方から下降して前記ワークのオーバベンド加工された部分を曲げ方向にリターンベンド加工を行うポンチとからなる、ことを特徴とする金属部品の曲げ加工装置である。
金属板からなるワークを曲げ方向と逆方向に所定のオーバベンド角度θでオーバベンド加工する第1金型と、第1金型によってオーバベンド加工された部分を所定のリターンベンド角度Φでワークの曲げ方向にリターンベンド加工する第2金型によりバウシンガー効果を活用した曲げ加工を実現できるからである。これにより、スプリングバックの影響を極力排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品を成形できるからである。
【0010】
(態様2) 前記金属部品がバスバーであることを特徴とする態様1に記載する金属部品の曲げ加工装置である。
態様1に記載する曲げ加工装置によりスプリングバックの影響が蓄積・増幅されることがないため、複数個所の曲げ加工を伴うバスバーを高い寸法精度で成形できるからである。
【0011】
(態様3) 帯状金属板を所定方向に送り出す搬送機構と、前記帯状金属板の送り方向に沿って送りピッチと同じ間隔で配置された孔明金型及び折曲金型を設けたプレス加工部とを備える金属部品の順送プレス加工装置であって、前記折曲金型が態様1に記載する第1金型及び第2金型を順に配置したものであることを特徴とする金属部品の順送プレス加工装置である。
態様1に記載する第1金型及び第2金型を順に配置した順送プレス加工装置により、バウシンガー効果を活用した曲げ加工を実現できるからである。これにより、スプリングバックの影響を極力排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品を順送プレス加工により成形できるからである。
【0012】
(態様4) 前記金属部品がバスバーであることを特徴とする態様3に記載する金属部品の順送プレス加工装置である。
態様3に記載する順送プレス加工装置によりスプリングバックの影響が蓄積・増幅されることがないため、複数個所の曲げ加工を伴うバスバーを高い寸法精度で成形できるからである。
【0013】
(態様5) 帯状金属板から切り出したワークを所定方向に搬送するトランスファー装置と、前記ワークをプレス加工する孔明金型または折曲金型を設けたプレス加工装置を交互に備える金属部品のトランスファプレス加工装置であって、前記折曲金型を設けたプレス加工装置として請求項1に記載する第1金型を設けたプレス加工装置と請求項1に記載する第2金型を設けたプレス加工装置を順に配置したことを特徴とする金属部品のトランスファプレス加工装置である。
態様1に記載する第1金型を設けたプレス加工装置と態様1に記載する第2金型を設けたプレス加工装置を順に配置したトランスファプレス加工装置により、バウシンガー効果を活用した曲げ加工を実現できるからである。これにより、スプリングバックの影響を極力排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品をトランスファプレス加工により成形できるからである。
【0014】
(態様6) 前記金属部品がバスバーであることを特徴とする態様5に記載する金属部品のトランスファプレス加工装置である。
態様5に記載するトランスファプレス加工装置によりスプリングバックの影響が蓄積・増幅されることがないため、複数個所の曲げ加工を伴うバスバーを高い寸法精度で成形できるからである。
【0015】
(態様7) 金属板からなるワークを曲げ方向と逆方向に所定のオーバベンド角度θでオーバベンド加工するオーバベンド加工工程と、前記オーバベンド加工したワークのオーバベンド加工部を曲げ方向に所定のリターンベンド角度Φでリターンベンド加工するリターンベンド加工工程と、を備える金属部品のプレス加工方法であって、前記オーバベンド加工工程は、オーバベンド角度θの傾斜面を有しするダイス及び前記ダイスに対向して配置され前記ダイス当接可能なポンチによって、前記ワークを曲げ方向と逆方向にオーバベンド角度θでオーバベンド加工する工程であり、前記リターンベンド加工工程は、前記オーバベンド加工工程によりオーバベンド加工された部位以外をストッパにより挟持した後、前記オーバベンド加工工程によりオーバベンド加工された部位をリターンベンド角度Φの傾斜面を有するダイス及び前記ダイスに対向して配置され前記ダイス当接可能なポンチによって、曲げ方向にリターンベンド角度Φでリターンベンド加工する工程である、ことを特徴とする金属部品のプレス加工方法である。
金属板からなるワークを曲げ方向と逆方向に所定のオーバベンド角度θでオーバベンド加工するオーバベンド加工工程と、オーバベンド加工したワークのオーバベンド加工部を曲げ方向に所定のリターンベンド角度Φでリターンベンド加工するリターンベンド加工工程とを備えるプレス加工方法によって、バウシンガー効果を活用したプレス加工を実現できるからである。これにより、スプリングバックの影響を極力排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品を成形できるからである。
【0016】
(態様8) 前記金属部品がバスバーであることを特徴とする態様5に記載する金属部品のプレス加工方法である。
態様7に記載するプレス加工方法によりスプリングバックの影響が蓄積・増幅されることがないため、複数個所の曲げ加工を伴うバスバーを高い寸法精度で成形できるからである。
【発明の効果】
【0017】
金属板からなるワークを曲げ方向と逆方向に所定のオーバベンド角度θでオーバベンド加工する第1金型と、第1金型によってオーバベンド加工された部分を所定のリターンベンド角度Φでワークの曲げ方向にリターンベンド加工する第2金型を組み合わせた曲げ加工により、バウシンガー効果を活用した曲げ加工を実現でき、スプリングバックの影響を極力排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品を成形できる。
また、順送プレス加工装置またはトランスファプレス加工装置の折曲金型にとして、オーバベンド加工金型及びリターンベンド金型を組み合わせて採用することで、バウシンガー効果を活用した順送プレス加工またはトランスファプレス加工を実現でき、スプリングバックの影響を極力排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品を成形できる。
本願発明により、複数個所の曲げ加工を伴うバスバーをスプリングバックの影響が蓄積・増幅されることなく成形できるため、高い寸法精度のバスバーを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本願発明のバウシンガー効果を活用した曲げ加工を示す説明図である。
【
図2】バウシンガー効果の原理を示す説明図である。
【
図4】本願発明のオーバベンド加工の一実施態様を示す説明図である。
【
図5】本願発明のリターンベンド加工の一実施態様を示す説明図である。
【
図6】本願発明の順送プレス加工装置の一実施態様を示した概略構成図である。
【
図7】本願発明の順送プレス加工装置で成形される帯状金属板の概略加工工程を示す平面図である。
【
図8】本願発明の順送プレス加工装置の折曲プレス金型とワークの加工態様を示す縦断面図である。
【
図9】本願発明のトランスファプレス加工装置の一実施態様を示した概略構成図である。
【
図10】本願発明の順送プレス加工装置で成形される帯状金属板の加工態様を示す写真である。
【
図11】本願発明の順送プレス加工装置で加工された金属部品を示す写真である。
【
図12】本願発明の順送プレス加工装置で加工された金属部品の計測部位を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明のバウシンガー効果を活用してスプリングバックの影響を極力排除した高精度な形状を実現する曲げ加工装置及び曲げ加工方法の実施態様について、図面を用いて説明する。ただし、本願発明は、実施態様に限定されるものではない。
図1は、本願発明のバウシンガー効果を活用した曲げ加工を示す説明図である。本願発明の曲げ加工は、金属板からなるワークWを本来の曲げ方向と逆方向にオーバベンド角度θで曲げ加工(以下、「オーバベンド加工」という。)した後、本来の曲げ方向にリターンバベンド角度Φで曲げ加工(以下、「リターンベンド加工」という。)を順に行うオーバベンド加工とリターンベンド加工を組み合わせた曲げ加工方法であることが特徴である。
【0020】
図2は、バウシンガー効果の原理を示す説明図(応力-ひずみ線図)である。X軸の上側は引張りの応力ひずみ曲線、下側は圧縮の応力一ひずみ曲線である。材料に引張荷重を負荷すると、降伏点aを通過して塑性変形a-bが生じる。引張荷重を除荷すると永久ひずみcが残留する。次いで、圧縮荷重を負荷すると点dで再降伏し、塑性変形d-eが生じる。ここでは、圧縮変形の降伏応力Y´が引張変形の降伏応力Yより小さくなる。これをバウシンガー効果という。
このバウシンガー効果を曲げ加工で活用することは、曲げ角部Rに引張応力がかかるように塑性変形させておき、次いで圧縮応力がかかるように逆方向に塑性変形させると曲げ荷重が小さくなり、曲げ加工時のワークのたわみも小さくなる。また、スプリングバック量は曲げモーメントと線形であり、曲げモーメントと曲げ荷重も線形であるため、スプリングバック量も少なくなる。
【0021】
(1)金属部品
本願発明の曲げ加工装置及び方法により成形加工される金属部品としては、複数の曲げ角部を有する複雑形状であり、かつ高精度の立体形状寸法を要求される金属部材であれば特に限定されるものではない。例えば、バスバーを挙げることができる。
バスバーは、高圧大電流が流れる部材を相互に接続する部材である。次世代自動車(例、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池車、天然ガス自動車)は、モータ駆動のため大量の蓄電池を高圧大電流で相互に接続可能なバスバーを必要とする。バスバーは、使用される回路や制御盤の構造に合わせて様々な構造が要求され、接続端子間を適切に接続するため、高精度の立体形状寸法を要求される。特に、生産人口減少による労働力不足を背景に自動機設備による生産性向上には、高精度の立体形状寸法を要求される。
バスバーは、導電性の高い帯状金属板を打ち抜きや曲げ加工により製作する。金属素材としては、導電性の観点から銅(例、タフピッチ銅、無酸素銅)が好適であり、軽量かつ安価という観点からアルミも好適であり、導電性かつ成形加工性の観点から銅・鉄系合金も好適である。
図3は、バスバー構造を例示する斜視図である。バスバー1は、金属板を複数の折曲プレス加工により接続経路に応じて立体的に折り曲げ、孔明プレス加工により接続端子11に係止孔12を設ける。
【0022】
(2)折曲プレス加工
本願発明の金属部品の曲げ加工装置では、オーバベンド加工とリターンベンド加工を順に配置した折曲プレス加工により、成形加工された金属部品の高精度の立体形状寸法を実現している。
図4は、本願発明のオーバベンド加工20の一実施態様を示す説明図である。それぞれ、(a)は、オーバベンド加工金型(第1金型)構造とワークWの配置を示す断面図であり、(b)は、オーバベンド加工されたワークWとオーバベンド加工金型(第1金型)の配置を示す断面図であり、(c)は、オーバベンド加工されたワークWの断面図である。
図5は、本願発明のリターンベンド加工30の一実施態様を示す説明図である。それぞれ、(a)は、リターンベンド加工金型(第2金型)構造とワークWの配置を示す断面図であり、(b)は、リターンベンド加工されたワークWとリターンベンド加工金型(第2金型)の配置を示す断面図であり、(c)は、リターンベンド加工されたワークWの断面図である。
オーバベンド角度(θ
1,θ
2)で曲げ方向と逆方向にオーバベンド加工されたワークWは、リターンベンド角度(Φ
1,Φ
2)で曲げ方向に折り曲げ加工される。オーバベンド加工でワークWの曲げ角部Rには、引張応力が発生して引張変形が生じる。次いで、リターンベンド加工でワークWの曲げ角部Rには、圧縮応力が発生して圧縮変形が生じる。この場合、圧縮変形の降伏応力Y´が引張変形の降伏応力Yより小さくなるバウシンガー効果により、曲げモーメントを小さくすることができ、スプリングバック量が少なくなる(
図1,
図2参照)。
【0023】
本願発明の金属部品の折曲プレス加工では、オーバベンド角度θは、鋭角であれば適宜選択できるが、10°~40°を好適に選択できる。また、ワークWの曲げ角部Rごとに選択できる(θ1,θ2)。また、リターンベンド角度Φは、金属部品の立体形状を成形するための曲げ角度であれば適宜選択できる(Φ1,Φ2)。
【0024】
(2-1)オーバベンド加工金型
オーバベンド加工金型20は、ワークWに並行でワークWを載置する載置部21と、載置部21の両端に配置され載置部21の載置面に対して所定のオーバベンド角度(θ1,θ2)の傾斜面を有し、ワークWを所定のオーバベンド角度(θ1,θ2)で曲げ方向と逆方向にオーバベンド加工する機能を有する傾斜部(22a,22b)からなるダイス23と、ダイス23に対向して配置されダイス23に当接可能な平面部24及び傾斜部25を有するポンチ26とで構成される。ポンチ26及びダイス23は、それぞれ上台(図示せず)及び下台(図示せず)に配置され、上下台の上下駆動により、ワークWを所定のオーバベンド角度(θ1,θ2)で曲げ方向と逆方向にオーバベンド加工する。
【0025】
(2-2)リターンベンド加工金型
リターンベンド加工金型30は、オーバベンド加工されたワークWのオーバベンド加工された部分以外を載置する載置部31と載置部31の両端に配置され載置面31に対して所定のリターンベンド角度(Φ1,Φ2)の傾斜面を有し、ワークWのオーバベンド加工された部分を所定のリターンベンド角度(Φ1,Φ2)で曲げ方向にリターンベンド加工する機能を有する傾斜部(32a,32b)からなるダイス33と、オーバベンド加工されたワークWのオーバベンド加工された部分以外を抑えるストッパ34と、ダイス33及びストッパ34に挟持されたワークWに上方から下降してワークWのオーバベンド加工された部分を曲げ方向にリターンベンド加工を行うポンチ36とで構成される。ポンチ36及びダイス33は、それぞれ上台(図示せず)及び下台(図示せず)に配置され、上下台の上下駆動により、ワークWのオーバベンド加工された部分を所定のリターンベンド角度(Φ1,Φ2)で曲げ方向にリターンベンド加工する。
【0026】
(2-3)金型材質
本願発明の金属部品を成形する成形金型(20,30)を構成するダイス(23,33)及びポンチ(26,36)の材質は、特に限定されるものではないが、SKD11等の合金工具鋼が望ましい。また、硬さ(ビッカース硬さ)は限定されるものではないが、HV1000~1600であることが望ましい。表面保護のため非晶質硬質炭素膜(DLC)で被覆することが好ましい。
【0027】
(3)順送プレス加工装置
本願発明の金属部品の順送プレス加工装置について、
図6、
図7、
図8により説明する。ただし、
図6、
図7、
図8は、一実施態様であり本願発明の金属部品の順送プレス加工装置を限定するものではない。
【0028】
図6は、本願発明の順送プレス加工装置の一実施態様を示す概略構成図である。
本願発明の順送プレス加工装置40は、帯状金属板(ワークW)を連続的に供給する搬送機構(ロールフィーダ)41と、搬送機構(ロールフィーダ)41から連続的に供給される帯状金属板(ワークW)を所定の圧力でプレスする上下台(46,47)及び上下台(46,47)に送りピッチと同じ間隔で配置された複数の金型(43,44,45)からなるプレス加工部48とで構成されている。なお、搬送機構(ロールフィーダ)41は、レベラー42を付帯したレベラーフィーダ49とすることができる。
帯状金属板(ワークW)は、搬送機構(ロールフィーダ)41の作動により、上下枠(46,47)間の搬送路に所定ピッチで連続的に送られる。送られたワークWは、複数の金型(43a,43b,44a,44b,45a,45b)によるプレス加工により金属部品W´が成形される。
本願発明の順送プレス加工装置40は、孔明金型43、折曲金型として、オーバベンド加工金型44とリターンベンド加工金型45を順に配置していることに特徴がある。オーバベンド加工金型44及びリターンベンド加工金型45を組み合わせることで、バウシンガー効果によりスプリングバックの影響を極力排除できる。オーバベンド加工金型44及びリターンベンド加工金型45を複数組み合わせることで複数回の折り曲げ加工により立体形状に成形した高精度な寸法精度を有する金属部品W´を成形することができる。
【0029】
図7は、本願発明の順送プレス加工装置40で成形される帯状金属板(ワークW)の加工工程を示す平面図であり、
図8は、本願発明の順送プレス加工装置40の折曲プレス金型(44a,44b,45a,45b)と帯状金属板(ワークW)の加工態様を示す縦断面図である。
下枠47には、位置決めピン(図示せず)が備えられ、帯状金属板(ワークW)の位置決め孔hに差し込まれて帯状金属板(ワークW)の正確な位置決めが行われる。位置決め孔hは、送りピッチに合わせて複数開口している。孔明金型43aにより帯状金属板(ワークW)に孔が設けられる。
次いで、帯状金属板(ワークW)の曲げ角部(R
11,R
12)がオーバベンド加工金型44aにより帯状金属板(ワークW)の上面方向に折り曲げられ、さらに、オーバベンド加工金型44aにより上面方向へ折り曲げられた曲げ角部(R
11,R
12)がリターンベンド加工金型45aにより帯状金属板(ワークW)の下面方向に折り曲げられる。
同様に、帯状金属板(ワークW)の曲げ角部(R
21,R
22)がオーバベンド加工金型44bにより帯状金属板(ワークW)の下面方向に折り曲げられ、さらに、オーバベンド加工金型44bにより下面方向へ折り曲げられた曲げ角部(R
21,R
22)がリターンベンド加工金型45bにより帯状金属板(ワークW)の上面方向に折り曲げられる。
孔明金型43bにより帯状金属板(ワークW)の中央部に孔が設けられ、接続端子11に係止孔12を設けた金属部品W´(バスバー1)が成形される。
【0030】
(4)トランスファプレス加工装置
本願発明の金属部品のトランスファプレス加工装置について、
図9により説明する。ただし、
図9は、一実施態様であり本願発明の金属部品のトランスファプレス加工装置を限定するものではない。
【0031】
図9は、本願発明のトランスファプレス加工装置の一実施態様を示す概略構成図である。
本願発明のトランスファプレス加工装置50は、搬送機構(ロールフィーダ)41から連続的に供給される帯状金属板を切断装置(図示せず)で切り出した金属板(ワークW)を所定方向に搬送するトランスファー装置(51a,51b,51c,51d,51e,51f)と、金属板(ワークW)をプレス加工する孔明金型または折曲金型を設けたプレス加工装置(53a,53b,54a,54b,55a,55b)を交互に備える複数のプレス加工装置からなるプレス加工部52を備える。ワークWは、複数のプレス加工装置(53a,53b,54a,54b,55a,55b)によるプレス加工により金属部品W´が成形される。
本願発明のトランスファプレス加工装置50は、孔明金型を設けたプレス加工装置53、折曲金型を設けたプレス加工装置として、オーバベンド加工金型を設けたプレス加工装置54とリターンベンド加工金型を設けたプレス加工装置55を順に配置していることに特徴がある。オーバベンド加工金型を設けたプレス加工装置54及びリターンベンド加工金型を設けたプレス加工装置55を組み合わせることで、バウシンガー効果によりスプリングバックの影響を極力排除できる。オーバベンド加工金型を設けたプレス加工装置54及びリターンベンド加工金型を設けたプレス加工装置55を複数組み合わせることで複数回の折り曲げ加工により立体形状に成形した高精度な寸法精度を有する金属部品W´を成形することができる。
【実施例0032】
次に本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示す。なお、
図10は、本願発明の順送プレス加工装置で成形される帯状金属板(ワークW)の加工態様を示す平面写真であり、
図11は、成形したバスバー1(金属部品W´)を示す写真である。
【0033】
1.バスバー製作
<実施例1>
帯状金属板W(素材:無酸素銅C1020-1/2H,板厚:1.5mm)を冷間(常温)順送プレス加工によりバスバー1(金属部品W´)に成形した。以下、
図10、
図11、
図12に基づいて説明する。
(1)孔明金型加工
孔明金型43aにより帯状金属板Wの両端に係止孔12を形成した。
(2)オーバベンド加工
オーバベンド金型44aにより曲げ角部(R
11,R
12)を帯状金属板Wの上面方向(本来の曲げ方向と逆方向)にオーバベンド角度20°でオーバベンド加工した。
(3)リターンベンド加工
オーバベンド加工した曲げ角部(R
11,R
12)をオーバベンド金型45aにより帯状金属板Wの下面方向(本来の曲げ方向)へそれぞれ、曲げ角部(R
11)を60°、曲げ角部(R
12)を90°でリターンベンド加工して、接続端子11を形成した。
(4)オーバベンド加工
オーバベンド金型44bにより曲げ角部(R
21,R
22)を帯状金属板Wの下面方向(本来の曲げ方向と逆方向)にオーバベンド角度20°でオーバベンド加工した。
(5)リターンベンド加工
オーバベンド加工した曲げ角部(R
21,R
22)をオーバベンド金型45bにより帯状金属板Wの上面方向(本来の曲げ方向)へそれぞれ、曲げ角部(R
21)を60°、曲げ角部(R
22)を90°でリターンベンド加工して、金属部品W´を成形した。
(6)孔明金型加工
孔明金型43bにより帯状金属板Wの中央部に分離孔13を形成した。
(7)バスバー作成
孔明金型43bにより帯状金属板Wの中央部に分離孔13を形成した金属部品W´を切り離してバスバー1を作製した。これを「実施例1品」とする。
【0034】
<実施例2>
帯状金属板W(素材:無酸素銅C1020-1/2H,板厚:1.5mm)をオーバベンド角度40°とした以外は、実施例1と同様に冷間(常温)順送プレス加工によりバスバー1を作製した。これを「実施例2品」とする。
【0035】
<比較例1>
帯状金属板W(素材:無酸素銅C1020-1/2H,板厚:1.5mm)をオーバベンド角度0°(オーバベンド加工を行わない)とした以外は、実施例1と同様に冷間(常温)順送プレス加工によりバスバー1を作製した。これを「比較例1品」とする。
【0036】
2.バスバー寸法精度計測
実施例1品、実施例2品、比較例1品について、
図12に示す計測部位(1~5)について、位置寸法及び角度計測は、画像測定器(ミツトヨ製 QUICK VISION HYBRID)を使用した。計測結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
(1)寸法精度
オーバベンド加工行った実施例品1、実施例品2の計測部位(1)の計測寸法は、比較例1品の計測寸法に比べて、いずれも設定値に近く、寸法精度が高い。
(2)角度精度
オーバベンド加工行った実施例品1、実施例品2の計測部位(2~5)の計測角度は、比較例1品の計測角度に比べて、いずれも最大値と最小値の差が小さく、角度精度が高い。
帯状金属板から切り出したワークを所定方向に搬送するトランスファー装置と、前記ワークをプレス加工する孔明金型または折曲金型を設けたプレス加工装置を交互に備える曲げ角度の異なる複数の曲げ角部で構成される金属板を立体形状とした金属部品のトランスファプレス加工装置であって、
前記折曲金型を設けたプレス加工装置として請求項1に記載する第1金型を設けたプレス加工装置と請求項1に記載する第2金型を設けたプレス加工装置を順に配置した態様で複数設けたことを特徴とする曲げ角度の異なる複数の曲げ角部で構成される金属板を立体形状とした金属部品のトランスファプレス加工装置。
(態様5) 帯状金属板から切り出したワークを所定方向に搬送するトランスファー装置と、前記ワークをプレス加工する孔明金型または折曲金型を設けたプレス加工装置を交互に備える曲げ角度の異なる複数の曲げ角部で構成される金属板を立体形状とした金属部品のトランスファプレス加工装置であって、前記折曲金型を設けたプレス加工装置として請求項1に記載する第1金型を設けたプレス加工装置と請求項1に記載する第2金型を設けたプレス加工装置を順に配置した態様で複数設けたことを特徴とする曲げ角度の異なる複数の曲げ角部で構成される金属板を立体形状とした金属部品のトランスファプレス加工装置である。
態様1に記載する第1金型を設けたプレス加工装置と態様1に記載する第2金型を設けたプレス加工装置を順に配置したトランスファプレス加工装置により、バウシンガー効果を活用した曲げ加工を実現できるからである。これにより、スプリングバックの影響を極力排除した高精度な寸法精度を有する立体形状の金属部品をトランスファプレス加工により成形できるからである。