(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061166
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】流体流路部材及びインクジェット記録システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
B41J2/175 503
B41J2/175 153
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168927
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】上原 重彦
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056KB19
2C056KC05
(57)【要約】 (修正有)
【解決手段】流体流路部材7は、色材と液体を含むインクの第1流路13の一部を成す第1挿入孔15を有する第1弾性シール部17と、第2流路の一部を成す挿入針11とを備え、挿入針が第1挿入孔に挿入されることで第1流路と第2流路が繋がる流体流路部材であって、第1挿入孔の内周面23の内径は挿入針の外周面の外径より小さく形成されており、第1弾性シール部は、潤滑剤を含有する潤滑剤含有部を有し、潤滑剤含有部は第1挿入孔の内周面に潤滑剤出口を開口している。
【効果】挿入針を第1挿入孔に挿入する際に、第1弾性シール部の潤滑剤含有部の潤滑剤出口から潤滑剤が前記圧力の作用により自動的に染み出す。これにより、前記挿入針を前記第1挿入孔に挿入する際の摩擦負荷を自動的に低減することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と液体を含むインクの第1流路の一部を成す第1挿入孔を有する第1弾性シール部と、
第2流路の一部を成す挿入針と、を備え、
前記挿入針が前記第1挿入孔に挿入されることで前記第1流路と前記第2流路が繋がる流体流路部材であって、
前記第1挿入孔の内周面の内径は、前記挿入針の外周面の外径より小さく、
前記第1弾性シール部は、潤滑剤を含有する潤滑剤含有部を有し、
前記潤滑剤含有部は前記第1挿入孔の内周面に開口する潤滑剤出口を有する、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項2】
請求項1に記載の流体流路部材において、
前記潤滑剤含有部は、多孔質材料により構成される、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項3】
請求項1に記載の流体流路部材において、
前記潤滑剤含有部は、前記挿入針の周方向に延在する溝部である、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項4】
請求項1に記載の流体流路部材において、
前記第1弾性シール部は、
前記挿入針と接触する接触部を有し、
前記潤滑剤含有部は、前記挿入針の挿入方向において前記接触部の上流に位置し、
前記接触部の吸液性は、前記潤滑剤含有部の吸液性より小さい、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項5】
請求項1に記載の流体流路部材において、
前記挿入針の挿入方向において前記第1弾性シール部の上流に位置し、前記挿入針が挿入される第2挿入孔を有する第2弾性シール部を備え、
前記第2挿入孔の内周面の内径は前記挿入針の外周面の外径より小さく、
前記第2弾性シール部は、前記色材を凝集させる凝集液を含有する凝集液含有部を有し、
前記凝集液含有部は、前記第2弾性シール部の内周面に開口する凝集液出口を有する、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項6】
請求項5に記載の流体流路部材において、
前記挿入針は、前記挿入方向の先端に位置する小径部と、前記小径部と連なる大径部とを有し、
前記第2挿入孔の内周面の内径は、前記第1挿入孔の内周面の内径より大きく、
前記小径部の外周面は前記第2挿入孔の内周面と接触することなく前記第1挿入孔の内周面と接触し、
前記大径部の外周面は前記第2挿入孔の内周面と接触する、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項7】
請求項5に記載の流体流路部材において、
前記第1弾性シール部は、前記第1流路の少なくとも一部を構成する流路管の内部に位置し、
前記第2弾性シール部は、前記流路管の外部に位置する、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の流体流路部材において、
前記潤滑剤の組成は前記液体の組成と同じである、
ことを特徴とする流体流路部材。
【請求項9】
インクサーバーと、
前記インクサーバーから送られるインクによって記録を実行するインクジェット記録装置と、を備えるインクジェット記録システムであって、
前記インクサーバーと前記インクジェット記録装置は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の流体流路部材を介して、インクの流路が連通状態と非連通状態を取り得るように接続され
る、
ことを特徴とするインクジェット記録システム。
【請求項10】
インクサーバーと、
前記インクサーバーから送られるインクによって記録を実行するインクジェット記録装置と、を備えるインクジェット記録システムであって、
前記インクサーバーと前記インクジェット記録装置は、請求項8に記載の流体流路部材を介して、インクの流路が連通状態と非連通状態を取り得るように接続され
る、
ことを特徴とするインクジェット記録システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体流路部材及びインクジェット記録システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置の一例として、特許文献1に記載のものが挙げられる。特許文献1には、インクが流動する液体導入路110を有する液体導入針100と、液体導入針100が挿入される針挿入口44とを備える流路部材が開示されている。針挿入口44の先端開口寄りには、ゴム等の弾性材料からなるシール部材45が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造では、液体導入針100と針挿入口44との摩擦により、液体導入針100を針挿入口44に対して挿入する際に負荷が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る流体流路部材は、色材と液体を含むインクの第1流路の一部を成す第1挿入孔を有する第1弾性シール部と、第2流路の一部を成す挿入針と、を備え、前記挿入針が前記第1挿入孔に挿入されることで前記第1流路と前記第2流路が繋がる流体流路部材であって、前記第1挿入孔の内周面の内径は前記挿入針の外周面の外径より小さく形成されており、前記第1弾性シール部は、潤滑剤を含有する潤滑剤含有部を有し、前記潤滑剤含有部は前記第1挿入孔の内周面に潤滑剤出口を開口していることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係るインクジェット記録システムは、インクサーバーと、前記インクサーバーから送られるインクによって記録を実行するインクジェット記録装置と、を備えるインクジェット記録システムであって、前記インクサーバーと前記インクジェット記録部は、流体流路部材を介してインクの流路が連通状態と非連通状態を取り得るように接続され、前記流体流路部材は、後述する第1の態様から第7の態様のいずれか一つの態様の流体流路部材、又は第8の態様の流体流路部材であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1に係るインクジェット記録システムを示す斜視図。
【
図2】実施形態1に係る流体流路部材のインク出口ユニット側の斜視図。
【
図3】実施形態1に係る流体流路部材のインク出口ユニット側の要部拡大図。
【
図4】実施形態1に係る流体流路部材のインク入口ユニット側を示す要部斜視図。
【
図5】実施形態1に係る流体流路部材の要部縦断面図。
【
図6】実施形態1に係る流体流路部材の要部縦断面図。
【
図7】実施形態1に係る第1弾性シール部の部分の拡大縦断面図。
【
図8】実施形態1に係る第2弾性シール部部分の拡大縦断面図。
【
図9】実施形態2に係る第1弾性シール部の部分の拡大縦断面図。
【
図10】実施形態2に係る第1弾性シール部の部分の拡大縦断面図。
【
図11】実施形態3に係る第1弾性シール部と第2弾性シール部の部分の要部縦断面図。
【
図12】実施形態3に係る第1弾性シール部と第2弾性シール部の部分の要部縦断面図。
【
図13】実施形態3に係る第2弾性シール部の部分の拡大縦断面図。
【
図14】実施形態4に係る第1弾性シール部の部分の要部縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について先ず概略的に説明する。
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る流体流路部材は、色材と液体を含むインクの第1流路の一部を成す第1挿入孔を有する第1弾性シール部と、第2流路の一部を成す挿入針と、を備え、前記挿入針が前記第1挿入孔に挿入されることで前記第1流路と前記第2流路が繋がる流体流路部材であって、前記第1挿入孔の内周面の内径は前記挿入針の外周面の外径より小さく形成されており、前記第1弾性シール部は、潤滑剤を含有する潤滑剤含有部を有し、前記潤滑剤含有部は前記第1挿入孔の内周面に開口する潤滑剤出口を有することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、前記第1弾性シール部は、潤滑剤を含有する潤滑剤含有部を有し、前記潤滑剤含有部は前記第1挿入孔の内周面に開口する潤滑剤出口を有する。更に、前記第1挿入孔の内周面の内径は前記挿入針の外周面の外径より小さく形成されている。
これにより、前記第1流路と前記第2流路を繋ぐために、前記挿入針を前記第1挿入孔に挿入すると、前記内周面の内径と前記外周面の外径の寸法差に基づく弾性圧力が前記第1弾性シール部に発生し、その圧力によって前記潤滑剤含有部が含有する前記潤滑剤が前記潤滑剤出口から前記挿入針との接触部分に自動的に放出される。即ち、前記挿入針を前記第1挿入孔に挿入する際に、前記第1弾性シール部の前記潤滑剤含有部の前記潤滑剤出口から前記潤滑剤が前記圧力の作用により自動的に染み出す。これにより、前記挿入針を前記第1挿入孔に挿入する際の摩擦負荷を自動的に低減することができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る流体流路部材は、第1の態様において、前記潤滑剤含有部は、多孔質材料により構成されることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、前記潤滑剤含有部は、多孔質材料により構成されるので、前記挿入に際しての前記潤滑剤の自動的な放出を安定性良く行うことができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る流体流路部材は、第1の態様において、前記潤滑剤含有部は、前記挿入針の周方向に延在する溝部であることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、前記潤滑剤含有部は、前記挿入針の周方向に延在する溝部であるので、前記潤滑剤含有部を簡単な構造で実現することができる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る流体流路部材は、第1の態様において、前記第1弾性シール部は、前記挿入針と接触する接触部を有し、前記潤滑剤含有部は、前記挿入針の挿入方向において前記接触部よりの上流に位置し、を備え、前記接触部の吸液性は、前記潤滑剤含有部の吸液性より小さいことを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、前記挿入針と接触する前記接触部は前記潤滑剤含有部より吸液性が小さいので、前記第1弾性シール部の全体が前記潤滑剤含有部として構成される場合と比べて、前記潤滑剤の放出量が過度にならないように抑制することができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る流体流路部材は、第1の態様において、前記挿入針の挿入方向において前記第1弾性シール部の上流に位置し、前記挿入針が挿入される第2挿入孔を有する第2弾性シール部を備え、前記第2挿入孔の内周面の内径は前記挿入針の外周面の外径より小さく形成されており、前記第2弾性シール部は、前記色材を凝集させる凝集液を含有する凝集液含有部を有し、前記凝集液含有部は、前記第2弾性シール部の内周面に開口する凝集液出口を有することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、更に前記第2弾性シール部を前記第1弾性シール部より上流に有し、前記第2挿入孔の内周面の内径は前記挿入針の外周面の外径より小さく形成されている。更に、前記第2弾性シール部は、前記色材を凝集させる凝集液を含有する凝集液含有部を有し、前記凝集液含有部は、前記第2弾性シール部の内周面に開口する凝集液出口を有する。
これにより、前記第1弾性シール部と前記挿入針との接触部分からインクが漏れたとしても、前記第2弾性シール部と前記挿入針との接触部分において前記凝集液によって前記インクに含まれる前記色材が凝集するので、前記インクの漏れを一層抑制することができる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る流体流路部材は、第5の態様において、前記挿入針は、前記挿入方向の先端に位置する小径部と、前記小径部に連なる大径部とを有し、前記第2挿入孔の内周面の内径は、前記第1挿入孔の内周面の内径より大きく、前記小径部の外周面は前記第2挿入孔の内周面と接触することなく前記第1挿入孔の内周面と接触し、前記大径部の外周面は前記第2挿入孔の内周面と接触することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、前記挿入針は前記小径部と前記大径部とを有し、前記第2挿入孔の内径は前記第1挿入孔の内径より大きく、前記小径部の外周面は前記前記第1挿入孔の内周面と接触し、前記大径部の外周面は前記第2挿入孔の内周面と接触する。これにより、前記挿入針の前記小径部は、前記挿入に際して前記第2弾性シール部の前記内周面とは接触しないので、前記凝集液が前記インクの流路内に入る虞を抑制することができる。
【0020】
本発明の第7の態様に係る流体流路部材は、第5の態様において、前記第1弾性シール部は、前記第1流路の少なくとも一部を構成する流路管の内部に位置し、前記第2弾性シール部は、前記流路管の外部に位置することを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、前記第1弾性シール部はインクの前記流路管の内部に位置するので、前記挿入針と前記流路管との間のシール性が向上する。また、前記第2弾性シール部は前記流路管の外部に位置するので、前記第2弾性シール部から染み出た前記凝集液が前記流路管の内部に入り込み難くなり、前記流路管の内部で色材が凝集することによるインクの目詰まりを抑制することができる。
【0022】
本発明の第8の態様に係る流体流路部材は、第1の態様から第7の態様のいずれか一つの態様において、前記潤滑剤の組成は前記液体の組成と同じであることを特徴とする。
ここで、「前記液体と同じ組成のもの」における「同じ組成のもの」とは、本願明細書においては、厳密に同じ組成である必要はなく、その潤滑剤が前記インクに混入しても前記インクに求められる性状に影響しない範囲で組成が異なっていてもよい意味で使われている。
【0023】
本態様によれば、前記第1弾性シール部から染み出た前記潤滑剤が前記第2流路を構成する流路管の内部に浸入して前記インクと混合しても、前記潤滑剤はインクの前記液体と同じ組成のものであるので、前記インクと前記潤滑剤との化学反応によって異物が生成する虞を低減することができる。
【0024】
本発明の第9の態様に係るインクジェット記録システムは、インクサーバーと、前記インクサーバーから送られるインクによって記録を実行するインクジェット記録装置と、を備えるインクジェット記録システムであって、前記インクサーバーと前記インクジェット記録装置は、流体流路部材を介して連通状態と非連通状態を取り得るように接続され、前記流体流路部材は、第1の態様から第7の態様のいずれか一つの態様の流体流路部材であることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、インクジェット記録システムとして、第1の態様から第7の態様のいずれか一つの態様と同様の効果が得られる。
【0026】
本発明の第10の態様に係るインクジェット記録システムは、インクサーバーと、前記インクサーバーから送られるインクによって記録を実行するインクジェット記録装置と、を備えるインクジェット記録システムであって、前記インクサーバーと前記インクジェット記録装置は、流体流路部材を介して連通状態と非連通状態を取り得るように接続され、前記流体流路部材は第8の態様の流体流路部材であることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、インクジェット記録システムとして、第8態様と同様の効果が得られる。
【0028】
[実施形態]
以下、本発明の各実施形態に係る流体流路部材と、この流体流路部材を備えるインクジェット記録システムについて、図面に基づいて具体的に説明する。
以下の説明においては、互いに直交する3つの軸を、各図に示すように、それぞれX軸、Y軸、Z軸とする。3つの軸(X,Y,Z)の矢印の示す方向が各方向の+方向であり、その逆が-方向である。Z軸方向は鉛直方向即ち重力が作用する方向に相当し、+Z方向が鉛直上方を示し、-Z方向が鉛直下方を示す。X軸方向及びY軸方向は、水平方向に相当する。+Y方向が装置の前方向を示し、-Y方向が装置の後方向を示す。+X方向が装置の右方向を示し、-X方向が装置の左方向を示す。
【0029】
[実施形態1]
<インクジェット記録システムの全体構成>
図1から
図4に示したように、実施形態1のインクジェット記録システム1は、インクサーバー3と、インクサーバー3から送られるインクによって記録を実行するインクジェット記録装置5とを備える。インクサーバー3とインクジェット記録装置5は、流体流路部材7による後述する接続によってインクの流路2が繋がるように構成されている。
インクサーバー3は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック等の複数の色のインクのインクタンク8,8,…(
図2(A))が着脱可能にセットされている。各色のインクは、インクタンク8,8,…から個別のインク流路管を通って送られる。前記個別のインク流路管は、インクジェット記録装置5の後面(-Y方向)の接続部において後述するように接続される。各色のインクは色材と液体を含む。
【0030】
図2(A)において、符号4はインク流路管カバーを示す。インク流路管カバー4は、前記個別のインク流路管をカバーして保護するよう内部に収容している。インク流路管カバー4の先端には、流体流路部材7の一部を構成するインク出口ユニット6が設けられている。
図2(B)に示したように、インク出口ユニット6の接続面10には、インクの流路2の一部を構成する複数の第1流路13が縦横に配置されている。複数の第1流路13は、前記各色の個別のインク流路管に対応している。
各第1流路13には、第1流路13の一部を成す第1挿入孔15を有する第1弾性シール部17が設けられている。インク出口ユニット6がインクジェット記録装置5の後面にある前記接続部に接続されることで、各色のインクがインクサーバー3からインクジェット記録装置5内の記録ヘッドに供給可能になる。
【0031】
図3に示したように、インクジェット記録装置5の後面の前記接続部には、流体流路部材7の一部を構成するインク入口ユニット12が設けられている。インク入口ユニット12の接続面14には、インクの流路2の一部を構成する複数の第2流路9が縦横に配置されている。複数の第2流路9は複数の第1流路13に対応する。即ち、複数の第2流路9は前記各色の個別のインク流路管に対応している。
各第2流路9には、第2流路9の一部を成す挿入針11が設けられている。挿入針11が第1弾性シール部17の第1挿入孔15に挿入されることで第1流路13と第2流路9が繋がる。
【0032】
<第1弾性シール部>
図4(A)(B)に示したように、第1弾性シール部17は、第1流路13の少なくとも一部を成す流路管16の出口部分に固定部材18によって固定されている。第1弾性シール部17は弾性変形できる材料により形成されている。
図5(A)に示したように、本実施形態では、第1弾性シール部17の第1挿入孔15は、その内周面23の内径L1が挿入針11の外周面25の外径L2より小さく形成されている。言い換えると、第1弾性シール部17は、挿入針11が第1挿入孔15に対して圧入することで挿入できるように構成されている。
また、第1弾性シール部17は、潤滑剤19を含有する潤滑剤含有部21を有する。潤滑剤含有部21は第1挿入孔15の内周面23に開口する複数の潤滑剤出口27を有する。従って、挿入針11を挿入孔15に圧入することで、潤滑剤含有部21の複数の潤滑剤出口27から潤滑剤19が挿入針11との接触部分に放出される。
【0033】
<潤滑剤含有部>
図5(A)に示したように、本実施形態では、潤滑剤含有部21は、多孔質部分を有する多孔質構造29に形成されている。すなわち、潤滑剤含有部21は、多孔質材料で構成される。先ず、第1弾性シール部17を、多孔性ゴム材や多孔質発泡体等の材料(多孔質材料)を、潤滑剤出口27を有する第1弾性シール部17の構造に成型する。次に、前記多孔質部分に潤滑剤19を含浸させる。この成型及び含浸により、潤滑剤出口27を有する潤滑剤含有部21が作られる。尚、潤滑剤19の含浸量は、挿入針11を第1挿入孔15に挿入する回数の想定値により決められる。
また、多孔質構造29の潤滑剤含有部21は、特開昭54-138701号公報や特開昭55-90361号公報に記載されている多孔質ゴムの製造方法によって作ることもできる。
【0034】
潤滑剤19は、潤滑剤として使える性状のものであればよく、特定の種類のものに限定されない。本実施形態では、潤滑剤19の組成は、色材と液体を含むインクのうち前記液体の組成と同じである。潤滑剤19には、前記色材は含まれない。ここで、「同じ組成」とは、厳密に同じ組成である必要はなく、その潤滑剤が流路2を流れるインクに混入してもインクの求められる性状に影響しない範囲で組成が異なっていてもよい。具体的は、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。水より非揮発性のものが好ましい。
【0035】
<第2弾性シール部>
図4(A)(B)に示したように、本実施形態では、挿入針11の挿入方向(+Y方向)において、第1弾性シール部17より上流(-Y側)に、挿入針11が挿入される第2挿入孔31を有する第2弾性シール部33を更に備えている。第2弾性シール部33も弾性変形できる材料により形成されている。
第2挿入孔31は、第1挿入孔15と孔軸を共通にするように第2弾性シール部33が配置されている。これにより、挿入針11は、挿入方向に移動することで、先ず第2挿入孔31に入り、続いて第1挿入孔15に入る。
【0036】
図5(B)に示したように、本実施形態では、第2弾性シール部33の第2挿入孔31は、その内周面35の内径L5が挿入針11の外周面25の外径L2より小さく形成されている。言い換えると、第2弾性シール部33は、挿入針11が第2挿入孔31に対して圧入することで挿入できるように構成されている。本実施形態では、第2挿入孔31の内径L5は第1挿入孔15の内径L1と同径に形成されているが、異なっていてもよい。
また、第2弾性シール部33は、インクの前記色材を凝集させる凝集液37を含有する凝集液含有部39を有する。凝集液含有部39は第2挿入孔31の内周面35に複数の凝集液出口41を開口している。従って、挿入針11を第2挿入孔31に圧入することで、凝集液含有部39から凝集液37が挿入針11との接触部分に放出される。
第1弾性シール部17の少なくとも一部は、第1流路13の少なくとも一部を構成する流路管16の内部に位置し、第2弾性シール部33は、流路管16の外部に位置する。第2弾性シール部33は、図示を省く固定部材によってインク出口ユニット6の接続面10に固定されている。
【0037】
<凝集液含有部>
本実施形態では、凝集液含有部39は、潤滑剤含有部21と同様に多孔質部分を有する多孔質構造29に形成されている。先ず、第2弾性シール部33を、多孔性ゴム材や多孔質発泡体等の材料を使って潤滑剤出口41を有する第2弾性シール部33の構造に成型する。次に、前記多孔質部分に凝集液37を含浸させる。この成型及び含浸により、凝集液出口41を有する凝集液含有部39が作られる。尚、凝集液37の含浸量は、挿入針11を第2挿入孔31に挿入する回数の想定値により決められる。
凝集液37は、インクの前記色材を凝集させるものとして使えるものであればよく、特定の種類のものに限定されないが、本実施形態では、水酸化アルミニウムが使われている。他に凝集液37としては、インクの分散をくずす材質であればよい。例えば、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ハンタイト、ハイドロマグネサイト、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、二水和石膏、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト及びカオリンクレー等の水和金属塩化合物、ポリリン酸アンモニウム(
A P P )、リン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニル尿素等のアミノ基等が挙げられる。
【0038】
<実施形態1の作用の説明>
図2に示したインク出口ユニット6をインクジェット記録装置5の後面にあるインク入口ユニット12に向かって押し込む。これにより、挿入針11が先ず第2弾性シール部33の第2挿入孔31に挿入され、続いて第1弾性シール部17の第1挿入孔15に挿入される。
挿入針11が第1挿入孔15に挿入される際に、その圧入により潤滑剤含有部21の複数の潤滑剤出口27から潤滑剤19が挿入針11との接触部分に放出される。また、挿入針11が第2挿入孔31に挿入される際に、同様に凝集液含有部39から凝集液37が挿入針11との接触部分に放出される。
【0039】
<実施形態1の効果の説明>
(1)実施形態1では、第1弾性シール部17は、潤滑剤19を含有する潤滑剤含有部21を有し、潤滑剤含有部21は第1挿入孔15の内周面23に潤滑剤出口27を開口している。更に、第1挿入孔15の内周面23の内径L1は挿入針11の外周面25の外径L2より小さく形成されている。
これにより、第1流路13と第2流路9を繋ぐために、挿入針11を第1挿入孔15に挿入すると、内周面23の内径L1と外周面25の外径L2の寸法差に基づく弾性圧力が第1弾性シール部17に発生し、その圧力によって潤滑剤含有部21が含有する潤滑剤19が潤滑剤出口27から挿入針11との接触部分に自動的に放出される。即ち、挿入針11を第1挿入孔15に挿入する際に、第1弾性シール部17の潤滑剤含有部21の潤滑剤出口27から潤滑剤19が前記圧力の作用により自動的に染み出す。これにより、挿入針11を第1挿入孔15に挿入する際の摩擦負荷を自動的に低減することができる。本発明者らは、実験によって、多色化が進んだカラープリンターの10色機において、実験によって、潤滑材19の放出により前記挿入の際の摩擦負荷を92.5%低減できた結果を得た。
【0040】
(2)また、本実施形態では、潤滑剤含有部21は、多孔質構造29であるので、前記挿入に際しての潤滑剤19の自動的な放出を安定性良く行うことができる。
(3)また、本実施形態では、更に第2弾性シール部33を第1弾性シール部17より上流に有し、第2挿入孔31の内周面35の内径L5は挿入針11の外周面25の外径L2より小さく形成されている。更に、第2弾性シール部33は、前記色材を凝集させる凝集液37を含有する凝集液含有部39を有し、凝集液含有部39は、第2弾性シール部33の内周面35に凝集液出口41を開口している。
これにより、第1弾性シール部17と挿入針11との接触部分からインクが漏れたとしても、第2弾性シール部33と挿入針11との接触部分において凝集液37によって前記インクに含まれる前記色材が凝集するので、前記インクの漏れを一層抑制することができる。
【0041】
(4)また、本実施形態では、第1弾性シール部17はインクの流路管16の内部に位置するので、挿入針11と流路管16との間のシール性が向上する。また、第2弾性シール部33は流路管16の外部に位置するので、第2弾性シール部33から染み出た凝集液37が流路管16の内部に入り込み難くなり、流路管16の内部で色材が凝集することによるインクの目詰まりを抑制することができる。
(5)また、本実施形態では、第1弾性シール部17から染み出た前記液体が第2流路9を構成する流路管16の内部に浸入して前記インクと混合しても、潤滑剤19はインクの前記液体と同じ組成のものであるので、インクと潤滑剤19との化学反応によって異物が生成する虞を低減することができる。
言い換えると、例えばシリコーンオイルからなる潤滑剤を用いた場合は、当該シリコーンオイルが流路管16内に浸入した場合、流路管16の中を流動するインクと化学的に反応して異物が生成され、当該異物がインク詰まりの原因となる虞があるが、本実施形態では、その虞が少ない。
【0042】
[実施形態2]
以下、実施形態2に係る流体流路部材7と、この流体流路部材7を備えるインクジェット記録システム1について、
図6(A)(B)に基づいて具体的に説明する。実施形態1と同一部分については同一符号を付してその構成及び対応する効果の説明は省略する。
実施形態2の流体流路部材7では、
図6(B)に示したように、第1弾性シール部17が有する潤滑剤含有部21は、実施形態1の多孔質構造29ではなく、溝部43である。この溝部43は、挿入針11の周方向に延在するように設けられている。尚、
図6(A)では溝部43の図示が省かれている。
尚、実施形態2に係る流体流路部材7は、第2弾性シール部33は設けられていない構造である。
【0043】
溝部43は、第1弾性シール部17の第1挿入孔15の内周面23に潤滑剤出口27を開口している。この溝部43の溝は、潤滑剤出口27から溝底部20に向かう方向が、挿入針11の挿入方向(+Y方向)に対して傾斜している。具体的は、溝底部20が前記挿入方向において上流に位置し、潤滑剤出口27は下流に位置するように傾斜している。溝部43は、ゴム材を型成型することで作られる。
図6(B)には、溝が一つである構造が示されているが、2つ以上であってもよい。
また、溝部43における溝は、挿入針11の周方向の全体に連続する連続溝に限らず、不連続な溝でもよい。
【0044】
実施形態2の溝部43による効果は、実施形態1の多孔質構造29とほぼ同様である。尚、実施形態2は、第2弾性シール部33が設けられていないので、第2弾性シール部33による効果は得られないが、その他は実施形態1と同様の効果が得られる。
【0045】
[実施形態3]
以下、実施形態3に係る流体流路部材7と、この流体流路部材7を備えるインクジェット記録システム1について、
図7(A)(B)に基づいて具体的に説明する。実施形態1と同一部分については同一符号を付してその構成及び対応する効果の説明は省略する。
実施形態3の流体流路部材7では、挿入針11は、挿入方向(+Y方向)の先端に位置する小径部45と、小径部45と挿入方向の手前側で連なる大径部47とを有する構造である。本実施形態3は、
図4に示した実施形態1における挿入針11に大径部47を追加した構造に相当する。
【0046】
更に、
図8に示したように、第2弾性シール部33の第2挿入孔31の内周面35の内径L3は、実施形態1と異なり、第1挿入孔15の内周面の内径L1より大きく形成されている。
そして、小径部45の外周面25は第1挿入孔15の内周面23と接触し、大径部47の外周面49は第2挿入孔31の内周面35と接触するように構成されている。小径部45の外周面25は第2挿入孔31の内周面35には接触しない寸法である。第2挿入孔31の内径L3は、大径部47の外周面49の外径L4より小さく形成され、挿入すると圧入状態になるように構成されている。
【0047】
<実施形態3の作用の説明>
図2に示したインク出口ユニット6をインクジェット記録装置5の後面にあるインク入口ユニット12に向かって押し込む。これにより、挿入針11の小径部45が第2弾性シール部33の第2挿入孔31に接触することなく通過する(
図7(A)の状態)。更に押し込むと、
図7(Bに示したように、挿入針11の小径部45が第1弾性シール部17の第1挿入孔15に圧入される。また、挿入針11の大径部47が第2弾性シール部33の第2挿入孔31に圧入される。
挿入針11の小径部45が第1挿入孔15に挿入される際に、その圧入により潤滑剤含有部21の複数の潤滑剤出口27から潤滑剤19が挿入針11の小径部45との接触部分に放出される。また、挿入針11の大径部45が第2挿入孔31に挿入される際に、凝集液含有部39の複数の凝集液出口41から凝集液37が挿入針11の大径部47との接触部分に放出される。
【0048】
<実施形態3の効果の説明>
本実施形態では、挿入針11は小径部45と大径部47とを有し、第2挿入孔31の内径L3は第1挿入孔15の内径L1より大きく形成され、小径部45の外周面25は第1挿入孔15の内周面23と接触し、大径部47の外周面49は第2挿入孔31の内周面31と接触する。
これにより、挿入針11の小径部45は、前記挿入に際して第2弾性シール部33の内周面35とは接触しないので、凝集液37が前記インクの流路内に入る虞を抑制することができる。
【0049】
[実施形態4]
以下、実施形態4に係る流体流路部材7と、この流体流路部材7を備えるインクジェット記録システム1について、
図9に基づいて具体的に説明する。実施形態1と同一部分については同一符号を付してその構成及び対応する効果の説明は省略する。尚、
図9においては、挿入針11が模式化してシンプルに記載されている。
本実施形態では、第1弾性シール部17は、挿入針11と接触する接触部51と、接触部51より前記挿入方向における上流に位置する潤滑剤含有部21とを備える。更に、接触部51の吸液性は、潤滑剤含有部21の吸液性より小さくなるように構成されている。具体的には、本実施形態の第1弾性シール部17は、潤滑剤含有部21を成す部分と、接触部51を成す部分とが、吸液性において異なる材料が使われている。ここでは、それらの異なる材料を二色成形することによって一体化されている。勿論、この二色成形による作り方に限定されるものではない。
接触部51を成す部分は、エラストマーもしくはEPDM(Ethylene Propylene Diene Methylene Linkage)ゴムが使われ、潤滑剤含有部21を成す部分は、多孔質ゴムが使われている。
【0050】
図9において、符号22は逆止弁、符号24はコイルスプリングを示す。逆止弁22は挿入針11を第1弾性シール部17の第1挿入孔15から抜いたときに、封止してインクの漏れを防ぐ役割で設けられている。逆止弁22はコイルスプリング24によって常時封止方向(-Y方向)に付勢されている。
尚、逆止弁22とコイルスプリング24は、実施形態1から実施形態3のいずれにおいても設けられているが、図示及び説明は省かれている。
【0051】
本実施形態では、挿入針11と接触する接触部51は潤滑剤含有部21より吸液性が小さいので、第1弾性シール部17の全体が潤滑剤含有部21として構成される場合と比べて、潤滑剤19の放出量を過度にならないように抑制することができる。
【0052】
〔他の実施形態〕
本発明に係る流体流路部材7及び流体流路部材7を備えるインクジェット記録システム1は、以上述べた実施形態の構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内での部分的構成の変更や省略等を行うことは勿論可能である。
例えば、流体流路部材を備えるものとしては、インクジェット記録装置以外の他の装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…インクジェット記録システム、2…インクの流路、3…インクサーバー、
4…インク流路管カバー、5…インクジェット記録装置、6…インク出口ユニット、
7…流体流路部材、8…インクタンク、9…第2流路、10…接続面、
11…挿入針、12…インク入口ユニット、13…第1流路、14…接続面、
15…第1挿入孔、16…流路管、17…第1弾性シール部、18…固定部材、
19…潤滑剤、20…溝底部、21…潤滑剤含有部、23…内周面、
25…外周面、27…潤滑剤出口、29…多孔質構造、31…第2挿入孔、
33…第2弾性シール部、35…内周面、37…凝集液、39…凝集液含有部、
41…潤滑剤出口、43…溝部、45…小径部、47…大径部、51…接触部、
L1…内径、L2…外径、L3…内径、L4…外径、L5…内径