(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061179
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240425BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20240425BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240425BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240425BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240425BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0525
H01M4/133
H01M4/131
H01M4/136
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168952
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三井 昭男
(72)【発明者】
【氏名】森岡 一裕
(72)【発明者】
【氏名】平野 浩一
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM12
5H029HJ07
5H050AA09
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA13
5H050EA01
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】自己放電量の低減。
【解決手段】全固体電池は、正極層とセパレータ層と負極層とを含む。全固体電池は、「式(1):0.99≦S
a0/S
c0≦1.01」、「式(2):1.00≦S
a1/S
a0≦1.13」、および「式(3):0.93≦S
c1/S
c0≦1.02」の関係を満たす。S
c0は、SOCが0%である時の正極層の面積を示す。S
c1は、SOCが100%である時の正極層の面積を示す。S
a0は、SOCが0%である時の負極層の面積を示す。S
a1は、SOCが100%である時の負極層の面積を示す。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層とセパレータ層と負極層とを含み、
前記セパレータ層は、前記正極層と前記負極層との間に配置されており、
式(1)から(3):
0.99≦Sa0/Sc0≦1.01 (1)
1.00≦Sa1/Sa0≦1.13 (2)
0.93≦Sc1/Sc0≦1.02 (3)
の関係を満たし、
前記式(1)から(3)中、
Sc0は、SOCが0%である時の前記正極層の面積を示し、
Sc1は、SOCが100%である時の前記正極層の面積を示し、
Sa0は、SOCが0%である時の前記負極層の面積を示し、
Sa1は、SOCが100%である時の前記負極層の面積を示す、
全固体電池。
【請求項2】
式(3)’:
0.93≦Sc1/Sc0<1.00 (3)’
の関係を満たす、
請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記負極層は、リチウムチタン複合酸化物、チタンニオブ複合酸化物、グラファイトおよびハードカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記正極層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、およびリチウムリン酸鉄からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
正極層とセパレータ層と負極層とを含み、
前記正極層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、およびリチウムリン酸鉄からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記セパレータ層は、前記正極層と前記負極層との間に配置されており、
前記負極層は、リチウムチタン複合酸化物、チタンニオブ複合酸化物、グラファイトおよびハードカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
式(1)から(3)’:
0.99≦Sa0/Sc0≦1.01 (1)
1.00≦Sa1/Sa0≦1.13 (2)
0.93≦Sc1/Sc0<1.00 (3)’
の関係を満たし、
前記式(1)から(3)’中、
Sc0は、SOCが0%である時の前記正極層の面積を示し、
Sc1は、SOCが100%である時の前記正極層の面積を示し、
Sa0は、SOCが0%である時の前記負極層の面積を示し、
Sa1は、SOCが100%である時の前記負極層の面積を示す、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2021-061102号公報(特許文献1)は、平面視において、電極活物質層が対極活物質層と同じ位置にあることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池(以下「電池」と略記され得る。)は、発電要素を含む。発電要素は、正極層とセパレータ層と負極層とが積層されることにより形成される。発電要素は、側端面を有する。側端面は、積層方向(厚さ方向)と平行な端面を示す。一般に、側端面は段差を有する。段差は、各層の面積が異なるために形成される。例えば、積層中に、正極層と負極層とが位置ずれを起こしても、正極層が負極層からはみ出さないために、正極層に比して、負極層は大きな面積を有し得る。
【0005】
側端面の段差をなくすことも検討されている。すなわち、側端面において、正極層と負極層とが面一である構造(以下「面一構造」とも記される。)が検討されている。面一構造は簡素である。構造の簡素化により、例えば、材料効率および量産性の向上が期待される。例えば、発電要素の形成後(積層後)、発電要素が切断されることにより、面一構造が形成され得る。しかし、面一構造においては、自己放電量が増加する傾向がある。ゆえに本開示は、自己放電量の低減を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.本開示の一局面における全固体電池は、正極層とセパレータ層と負極層とを含む。
セパレータ層は、正極層と負極層との間に配置されている。
全固体電池は、下記式(1)~(3)の関係を満たす。
0.99≦Sa0/Sc0≦1.01 (1)
1.00≦Sa1/Sa0≦1.13 (2)
0.93≦Sc1/Sc0≦1.02 (3)
上記式(1)~(3)中、Sc0は、SOCが0%である時の正極層の面積を示す。Sc1は、SOCが100%である時の正極層の面積を示す。Sa0は、SOCが0%である時の負極層の面積を示す。Sa1は、SOCが100%である時の負極層の面積を示す。
【0007】
「SOC(State Of Charge)」は、電池の満充電容量に対する、その時点の充電容量の割合を示す。SOCは百分率で表示される。「SOC=0%」は、完全放電状態を示す。「SOC=100%」は、満充電状態を示す。
【0008】
一般に正極層および負極層は、充電時に膨張し得る。各層は、厚さ方向だけでなく、平面方向にも膨張し得る。平面方向は、厚さ方向と直交する任意の方向を示す。平面方向の膨張は、面積の増大を示す。正極層と負極層との側端面が面一である時、正極層と負極層とが共に、平面方向に膨張することにより、正極層と負極層とが接触し得る。平面方向における正極層と負極層との接触により、自己放電量が増大し得ると考えられる。
【0009】
上記式(1)の関係は、放電状態において、正極層と負極層とが面一であることを示す。上記式(2)の関係は、充電時、負極層の面積が変化しないか、または負極層の面積が13%まで拡張し得ることを示す。上記式(3)の関係は、充電時、正極層の面積が2%まで拡張し得るか、または縮小することを示す。上記式(2)かつ(3)の関係が満たされることにより、自己放電量の低減が期待される。充電時、正極層と負極層との間で、面積変化のタイミング、および面積変化の方向の少なくとも一方が合わないために、正極層と負極層との接触機会が低減していると考えられる。
【0010】
2.上記「1」に記載の全固体電池は、例えば下記式(3)’の関係を満たしていてもよい。
0.93≦Sc1/Sc0<1.00 (3)’
【0011】
上記式(3)’の関係は、充電時、正極層の面積が縮小することを示す。上記式(2)に示されるように、充電時、負極層の面積は変化しないか、または拡張し得る。すなわち、充電時、正極層の面積変化と、負極層の面積変化とが逆方向となり得る。したがって、正極層と負極層との接触機会がいっそう低減することが期待される。
【0012】
3.上記「1」または「2」に記載の全固体電池において、負極層は、例えば、リチウムチタン複合酸化物(LTO)、チタンニオブ複合酸化物(TNO)、グラファイトおよびハードカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0013】
負極層は、LTO等の負極活物質を含む。上記「3」に記載の負極活物質は、充電時に膨張しないか、または、充電時の膨張率が低い。上記「3」に記載の負極活物質が使用されることにより、上記式(2)の関係が満たされやすくなることが期待される。
【0014】
4.上記「1」~「3」のいずれか1項に記載の全固体電池において、正極層は、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)、およびリチウムリン酸鉄(LFP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0015】
正極層は、NCM等の正極活物質を含む。上記「4」に記載の正極活物質は、充電時に収縮し得る。上記「4」に記載の正極活物質が使用されることにより、上記式(3)および(3)’の関係が満たされやすくなることが期待される。
【0016】
5.本開示の一局面における全固体電池は、正極層とセパレータ層と負極層とを含む。正極層は、NCM、NCA、およびLFPからなる群より選択される少なくとも1種を含む。セパレータ層は、正極層と負極層との間に配置されている。負極層は、LTO、TNO、グラファイトおよびハードカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。全固体電池は、上記式(1)、(2)および(3)’の関係を満たす。
【0017】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
【
図2】
図2は、試験電池の構成と自己放電量とを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0020】
「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0021】
幾何学的な用語(例えば「平行」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。
【0022】
化学量論的組成式は、化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば「LiCoO2」は、「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0023】
<全固体電池>
図1は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
図1には、電池100の厚さ方向(Z軸方向)と平行な断面が概念的に示されている。電池100は、発電要素50を含む。電池100は、例えば外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体が発電要素50を収納していてもよい。外装体は、例えば金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよいし、金属製のケース等であってもよい。電池100は、1個の発電要素50を単独で含んでいてもよいし、複数個の発電要素50を含んでいてもよい。複数個の発電要素50は、例えば直列回路を形成していてもよいし、並列回路を形成していてもよい。
【0024】
発電要素50は、正極層10とセパレータ層30と負極層20とを含む。セパレータ層30は、正極層10と負極層20との間に配置されている。セパレータ層30は、正極層10を負極層20から分離している。発電要素50は、正極集電体11および負極集電体21を含んでいてもよい。正極集電体11は、正極層10と接触している。負極集電体21は、負極層20と接触している。正極集電体11および負極集電体21は、それぞれ独立に、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。正極集電体11および負極集電体21は、それぞれ独立に、例えば、Al箔、Al合金箔、Cu箔、Ni箔、ステンレス鋼箔等を含んでいてもよい。
【0025】
《側端面》
発電要素50は、放電状態において、面一構造を有する。
図1のX軸方向の側端面、およびY軸方向の側端面において、正極層は、負極層と面一である。すなわち、下記式(1)の関係が満たされる。
0.99≦S
a0/S
c0≦1.01 (1)
S
a0は、SOCが0%である時の負極層20の面積を示す。S
c0は、SOCが0%である時の正極層10の面積を示す。「S
a0/S
c0」は、例えば、1.00以上であってもよいし、1.00以下であってもよい。「S
a0/S
c0」が0.99未満、または1.01超である場合、発電要素50の側端面に段差があるとみなされる。
【0026】
なお、正極層10および負極層20の平面形状は、任意である。「平面形状」は、XY平面における形状を示す。例えば、正極層10および負極層20の平面形状は、矩形状であってもよい。
【0027】
充電により、負極層20の面積は、変化しないか、または多少拡張し得る。すなわち、下記式(2)の関係が満たされる。
1.00≦Sa1/Sa0≦1.13 (2)
Sa0は、SOCが0%である時の負極層20の面積を示す。Sa1は、SOCが100%である時の負極層20の面積を示す。「Sa1/Sa0」は、例えば、1.06以上、または1.10以上であってもよい。「Sa1/Sa0」は、例えば、1.10以下、または1.06以下であってもよい。「Sa1/Sa0」は、例えば、負極活物質の種類、合材組成、合材密度、負極層20の厚さ等により調整され得る。
【0028】
充電により、正極層10の面積は、僅かに拡張するか、または縮小し得る。すなわち下記式(3)の関係が満たされる。
0.93≦Sc1/Sc0≦1.02 (3)
Sc0は、SOCが0%である時の正極層10の面積を示す。Sc1は、SOCが100%である時の正極層10の面積を示す。上記式(2)かつ(3)が満たされることにより、自己放電量の低減が期待される。充電時、正極層10と負極層20との間で、面積変化のタイミングおよび面積変化の方向の少なくとも一方が合わないために、正極層10と負極層20との接触機会が低減していると考えられる。例えば「1.00<Sc1/Sc0」の関係が満たされる時、「Sa1/Sa0<Sc1/Sc0」の関係が満たされていてもよい。「Sc1/Sc0」は、例えば、正極活物質の種類、合材組成、合材密度、正極層10の厚さ等により調整され得る。
【0029】
例えば、下記式(3)’の関係がさらに満たされていてもよい。
0.93≦Sc1/Sc0<1.00 (3)’
上記式(3)’が満たされることにより、充電時、正極層10の面積変化と、負極層20の面積変化とが逆方向となり得る。したがって自己放電量の低減が期待される。「Sc1/Sc0」は、例えば0.98以下、または0.96以下であってもよい。
【0030】
例えば、下記式(4)の関係がさらに満たされていてもよい。
0.98≦Sa1/Sc1≦1.10 (4)
上記式(4)の関係が満たされることにより、自己放電量の低減が期待される。発電要素50において、充電時の歪みが小さくなるためと考えられる。「Sa1/Sc1」は、例えば、1.02以上であってもよい。「Sa1/Sc1」は、例えば、1.08以下、または1.04以下であってもよい。
【0031】
充電時、セパレータ層30の面積は実質的に変化しないと考えられる。面一構造において、例えば、下記式(5)および(6)の関係が満たされていてもよい。
0.99≦Sa0/Ss≦1.01 (5)
0.99≦Sc0/Ss≦1.01 (6)
Ssは、セパレータ層30の面積を示す。
【0032】
《正極層》
正極層10は、例えば、10~500μmまたは50~200μmの厚さを有していてもよい。正極層10は、例えば2~5g/cm3または2~4g/cm3の密度(合材密度)を有していてもよい。正極層10は、正極活物質を含む。正極層10は、固体電解質、導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。正極層10は、例えば、質量分率で、1~10%のバインダと、0~10%の導電材と、1~30%の固体電解質と、残部の正極活物質とを含んでいてもよい。
【0033】
(正極活物質)
正極活物質は、例えば粒子状であってもよい。正極活物質は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよい。「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。正極活物質は、正極反応を生起する。正極活物質は、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LCO)、スピネル型リチウムニッケルマンガン複合酸化物(NiMnスピネル)、NCM、NCA、およびLFPからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0034】
NCAは、例えば、一般式:Li1-aNixCoyAlzO2(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1、-0.5≦a≦0.5)により表される組成を有していてもよい。xは、例えば、0.7~0.9であってもよい。zは、例えば、0.03~0.15であってもよい。NCAは、例えば、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2等を含んでいてもよい。
【0035】
NCMは、例えば、一般式:Li1-aNixCoyMnzO2(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1、-0.5≦a≦0.5)により表される組成を有していてもよい。xは、例えば、0.3~0.9であってもよい。NCMは、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.3Mn0.1O2、LiNi0.7Co0.2Mn0.1O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等を含んでいてもよい。
【0036】
LFPは、例えば、LiFePO4等の組成を有していてもよい。NiMnスピネルは、例えば、LiNi0.5Mn1.5O4等の組成を有していてもよい。LCOは、例えば、LiCoO2等の組成を有していてもよい。正極活物質は、例えば酸化物固体電解質により被覆されていてもよい。酸化物固体電解質は、例えばLiNbO3、Li3PO4等を含んでいてもよい。
【0037】
充電時、正極活物質が収縮することにより、「Sc1/Sc0」が小さくなり得る。例えば、NCM、NCA、およびLFPは、充電時に収縮し得る。正極活物質の体積変化率(収縮率)は、例えば、-7~-2%、または-7~-4%であってもよい。電極活物質の体積変化率は、下記式により求まる。「電極活物質」は、正極活物質または負極活物質を示す。
α={(v1/v0)-1}×100
α[%]は体積変化率を示す。
v0は、SOCが0%である時の、電極活物質の比容積[m3/kg]を示す。
v1は、SOCが100%である時の、電極活物質の比容積を示す。
【0038】
(固体電解質)
固体電解質は、電極層中にイオン伝導パスを形成し得る。「電極層」は、正極層および負極層の総称である。固体電解質は、例えば、粒子状であってもよい。固体電解質は、例えば、0.1~3μmのD50を有していてもよい。固体電解質のD50は、例えば、1μm以下、または0.5μm以下であってもよい。電極層は、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、および水素化物固体電解質からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、高いイオン伝導性を有し得る。硫化物固体電解質は、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-P2S5、Li4P2S6、Li7P3S11、およびLi3PS4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば、「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiIとLiBrとLi3PS4とが任意のモル比(物質量比)で混合されることにより合成された物質を示す。硫化物固体電解質は、例えば、ガラスセラミックス型であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。
【0039】
(導電材)
導電材は、電極層中に電子伝導パスを形成し得る。導電材は、例えば、アセチレンブラック(AB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0040】
(バインダ)
バインダは、固体材料同士を結合し得る。バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0041】
《負極層》
負極層20は、例えば、10~500μmまたは50~200μmの厚さを有していてもよい。負極層20は、例えば0.5~3g/cm3または1~2g/cm3の密度を有していてもよい。負極層20は、負極活物質を含む。負極層20は、固体電解質、導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。負極層20は、例えば、質量分率で、1~10%のバインダと、0~10%の導電材と、1~30%の固体電解質と、残部の負極活物質とを含んでいてもよい。固体電解質、導電材、およびバインダは、例えば、前述の《正極層》の項目に記載の材料群から任意に選択され得る。固体電解質等の各種材料は、負極層20と正極層10との間で共通していてもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
(負極活物質)
負極活物質は、例えば、粒子状であってもよい。負極活物質は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよい。負極活物質は、負極反応を生起する。負極活物質は、例えば、LTO、TNO、グラファイトおよびハードカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。LTOは、例えば、Li4Ti5O12等の組成を有していてもよい。TNOは、例えば、TiNb2O7等の組成を有していてもよい。LTOは、充電時の体積変化が殆どないことが期待される。TNO、グラファイト、ハードカーボンは、充電時の膨張率が低い傾向がある。充電時、負極活物質の膨張率が低いことにより、「Sa1/Sa0」が小さくなり得る。負極活物質の体積変化率(膨張率)は、例えば、0~+13%、0~+10%、または、0~+6%であってもよい。
【0043】
《セパレータ層》
セパレータ層30は、例えば1~100μmの厚さを有していてもよい。セパレータ層30は、「固体電解質層」とも称される。セパレータ層30は、固体電解質およびバインダ等を含んでいてもよい。固体電解質およびバインダは、例えば、前述の《正極層》の項目に記載の材料群から任意に選択され得る。セパレータ層と電極層との間で、固体電解質およびバインダは共通していてもよいし、異なっていてもよい。
【実施例0044】
<試験電池の製造>
《No.1》
(負極ペーストの作製)
負極活物質(Li4Ti5O12)と、導電材(炭素材料)と、バインダと、1.6質量部の分散媒(酪酸ブチル)とが、超音波ホモジナイザ(型式「UH-50」SMT社製、以下同じ)によって30分間混合されることによりスラリーが形成された。さらに、スラリーと固体電解質とが超音波ホモジナイザによって30分間混合されることにより、負極ペーストが形成された。
【0045】
(正極ペーストの作製)
正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)の表面が酸化物固体電解質(LiNbO3)により被覆された。被覆処理後、2質量部の正極活物質と、0.048質量部の導電材(VGCF)と、0.407質量部の固体電解質と、0.016質量部のバインダと、1.3質量部の分散媒(酪酸ブチル)とが、超音波ホモジナイザによって、混合されることにより、正極ペーストが形成された。
【0046】
(セパレータペーストの作製)
バインダ溶液が準備された。バインダ溶液は、質量分率で5%の溶質(ブタジエン系ゴム)と、残部の溶媒(ヘプタン)とを含んでいた。ポリプロピレン(PP)製容器内において、分散媒(ヘプタン)と、バインダ溶液と、固体電解質(LiI-LiBr-Li3PS4系ガラスセラミックス、D50=2.5μm)とが、超音波ホモジナイザによって30秒間混合された。次いで、PP製容器が振とう機にセットされた。振とう機において、PP製容器が3分間振とうされることにより、セパレータペーストが形成された。
【0047】
(電極層の形成)
ブレード式アプリケータにより、正極集電体(Al箔)の表面に正極ペーストが塗工されることにより、塗膜が形成された。100℃のホットプレート上で、塗膜が30分間乾燥されることにより、正極層が形成された。
【0048】
ブレード式アプリケータにより、負極集電体(Al箔)の表面に負極ペーストが塗工されることにより、塗膜が形成された。100℃のホットプレート上で、塗膜が30分間乾燥されることにより、負極層が形成された。負極層の目付量[g/cm2]は、対向容量比が1.15となるように調整された。「対向容量比」は、単位面積あたりの正極層の充電容量[mAh/cm2]に対する、単位面積あたりの負極層の充電容量の比を示す。正極層の充電容量は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の充電比容量を185mAh/gとして算出された。
【0049】
(セパレータ層の形成)
正極層にプレス加工が施された。プレス加工後、ダイコータにより、正極層の表面にセパレータペーストが塗工されることにより、塗膜が形成された。100℃のホットプレート上で、塗膜が30分間乾燥されることにより、第1セパレータ層が形成された。ロールプレス加工(2t/cm2、室温)が、第1セパレータ層および正極層に施されることにより、第1ユニットが形成された。
【0050】
負極層にプレス加工が施された。プレス加工後、ダイコータにより、負極層の表面にセパレータペーストが塗工されることにより、塗膜が形成された。100℃のホットプレート上で、塗膜が30分間乾燥されることにより、第2セパレータ層が形成された。ロールプレス加工(2t/cm2、室温)が、第2セパレータ層および負極層に施されることにより、第2ユニットが形成された。
【0051】
基材の表面にセパレータペーストが塗工されることにより、第3セパレータ層が形成された。転写加工により、第3セパレータ層が第1セパレータ層の表面に圧着された。第3セパレータ層が第2セパレータ層に貼り合わされるように、第1ユニットと第2ユニットとが重ね合わされることにより、積層体が形成された。プレス加工(2t/cm2、130℃)が積層体に施されることにより、発電要素が形成された。発電要素は、正極層とセパレータ層と負極層とを含んでいた。セパレータ層は、第1~第3セパレータ層が一体となることにより形成された。
【0052】
打ち抜き加工により、発電要素が円板状に加工された。加工後、発電要素は、11.28mmの直径を有していた。発電要素の側端面(外周面)は面一であった。外装体として、Alラミネートフィルム製のパウチが準備された。外装体に、発電要素が真空封入されることにより、試験電池が製造された。発電要素に5MPaの圧力が加わるように、試験電池に拘束部材が取り付けられた。
【0053】
《No.2~12》
図2は、試験電池の構成と自己放電量とを示す表である。表中に記載の各種材料が、負極活物質および正極活物質として使用されることを除いては、No.1と同じ手順により、試験電池が製造された。
【0054】
《No.13~15》
No.13~15においては、打ち抜き加工が施されず、側端面に段差を有する発電要素が製造された(
図2参照)。
【0055】
<自己放電量の測定>
定電流-定電圧方式充電(定電流充電時の電流=1C、定電圧充電時の電圧=2.95V、カット電流=0.01C)により、試験電池のSOCが100%に調整された。「C」は、電流の時間率を示す記号である。1Cは、試験電池の定格容量を1時間で放電する時間率を示す。室温環境下において、試験電池が72時間保管された。下記式により自己放電量が求められた。
ΔV=OCV1-OCV2
ΔV:自己放電量[mV/day]
OCV1:48時間経過時のOCV(Open Circuit Voltage)
OCV2:72時間経過時のOCV
【0056】
<結果>
No.13~15は、発電要素の側端面に段差を有する。No.13~15は、自己放電量が少ない(
図2参照)。ただし、材料効率等に改善の余地があると考えられる。
【0057】
No.11は、発電要素が面一構造を有する点で、No.14と相違する。No.11は、No.14に比して、自己放電量が増大している(
図2参照)。充電時、正極層と負極層とが接触し得るためと考えられる。
【0058】
No.1~10は、発電要素が面一構造を有する。それにもかかわらず、No.1~10は、自己放電量が小さい傾向がある(
図2参照)。No.1~10は、上記式(1)~(3)の関係を満たす。充電時、正極層と負極層との間で、面積変化のタイミング、および面積変化の方向の少なくとも一方が合わないために、正極層と負極層との接触機会が低減していると考えられる。
【0059】
No.9とNo.10との比較から、上記式(3)’の関係が満たされることにより、自己放電量が低減し得ると考えられる。充電時、正極層の面積変化と、負極層の面積変化とが逆方向となり得るためと考えられる。