(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061188
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリート
(51)【国際特許分類】
A01G 24/10 20180101AFI20240425BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20240425BHJP
A01K 61/70 20170101ALI20240425BHJP
【FI】
A01G24/10
A01G33/00
A01K61/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168964
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】冨貴 丈宏
(72)【発明者】
【氏名】稲邉 裕司
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 紀之
【テーマコード(参考)】
2B003
2B022
2B026
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003AA04
2B003DD01
2B003EE04
2B022AB04
2B022BA01
2B022BA02
2B022BA11
2B022BA21
2B022BB10
2B026AA01
2B026AA02
2B026AB09
2B026AC02
2B026EA03
(57)【要約】
【課題】混和する栄養素の種類に制約を受けないとともに、水中・陸上を問わず藻類・植物類の育生を可能とし、普通コンクリートより強度を向上する。
【解決手段】藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートであって、前記栄養素が高分子化合物(ポリイオンコンプレックス1)に添加されるとともに、前記高分子化合物が前記コンクリートに混和されている。前記高分子化合物は、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で同等に配合して形成されたポリイオンコンプレックスに、疎水性の前記栄養素が吸着してなるか、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で偏りを持たせて形成されたポリイオンコンプレックスに、これと逆の電荷を有する前記栄養素が吸着してなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートであって、
前記栄養素が高分子化合物に添加されるとともに、前記高分子化合物が前記コンクリートに混和されていることを特徴とする藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリート。
【請求項2】
前記高分子化合物は、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で同等に配合して形成されたポリイオンコンプレックスに、疎水性の前記栄養素が吸着してなる請求項1記載の藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリート。
【請求項3】
前記高分子化合物は、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で偏りを持たせて形成されたポリイオンコンプレックスに、これと逆の電荷を有する前記栄養素が吸着してなる請求項1記載の藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリート。
【請求項4】
前記高分子化合物は、負電荷側に偏りを持たせたポリイオンコンプレックスに、2価の鉄イオンが吸着してなる請求項1記載の藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製品に藻類・植物類の栄養素(窒素、リン酸、鉄、アミノ酸等)を添加することにより、沿岸部での磯焼け対策や都市部のヒートアイランド現象対策と多岐に応用が利くコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、沿岸の海域における藻場が著しく減少・消失し、海藻が繁茂しなくなる磯焼け現象や、都市部における草地、森林、水田、水面等の植生域が減少・消失し、アスファルトやコンクリート等の人工被覆域の増加などにより気温が上昇するヒートアイランド現象など、広く温暖化に関連した悪影響が懸念されて久しい。
【0003】
上述の磯焼け現象の対策として、コンクリートや石、鋼材などからなる人工魚礁を海底に沈め、その表面に海藻類を生息させる技術が知られている。ところが、通常のコンクリート構造体で前記人工魚礁を製作すると、利用開始当初は藻場が形成され、この藻を食料とする魚類や貝類の住処となるが、3年経過後辺りから、コンクリートが劣化してアルカリ成分が溶出することにより、藻類の生育を妨げ、魚礁としての機能が段々と失われていくという報告がある(下記非特許文献1参照)。
【0004】
また、上述のヒートアイランド現象の対策として、建造物の屋上緑化・壁面緑化を推進する動きが進められている。国内では、令和元年までの20年間の合計で、屋上緑化は約537ha、壁面緑化は約103haが創出されたとの報告がある(下記非特許文献2参照)。ところが、屋上緑化などでは、設計段階で積載荷重に関する検討が必要となる、建物の防水層に植栽土壌が接するため、成長する植物の根が防水層を突き破ってしまうことのないよう、防根層を設ける必要がありコストが嵩む、継続的な灌水が必要となる(例:芝生の場合で1日5L/m2)、などの欠点がある。
【0005】
また近年では、下記特許文献1や非特許文献3に示されるように、アミノ酸の一種であるアルギニンからなる生体誘引物質を混練してなる環境活性コンクリートが開発されている。この環境活性コンクリートの特性として、中性化特性は変化しない、アミノ酸の溶出期間は約15年、耐塩害性能は向上する(鉄筋の腐食抑制)、表面単位面積当たりの藻の量は普通コンクリートの約3倍、藻の再生スピードは普通コンクリートの5~10倍、などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】裏方思考、磯焼けの話第9回 テトラ(コンクリート)が藻場喪失の原因か?(2)、環境施設、No.156、P.82-86、2019年6月
【非特許文献2】国土交通省、令和元年全国屋上・壁面緑化施工実績調査の結果、2020年12月25日
【非特許文献3】“コンクリートにアミノ酸!防災と環境保全の両立を実現する「環境活性コンクリート」”、[online]、平成29年12月4日、日建工学株式会社、[令和4年10月5日検索],インターネット <URL:https://k-rip.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2018/01/8f871eb2546eba2916e3bdff1db3d1c6.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1や非特許文献3に記載された環境活性コンクリートでは、酸性度の高いアミノ酸の場合、コンクリート内部のアルカリ成分を中性化してしまうため、混和できないという問題があった。
【0009】
また、環境活性コンクリートの適用が海や河川に投入されるコンクリート製品に限定され、陸上の屋上緑化や壁面緑化に用いられるコンクリートに適用可能か否かが不明である。
【0010】
更に、圧縮強度試験結果などを参照すると、環境活性コンクリートの各種強度は普通コンクリートには劣る結果となっている。
【0011】
一方、磯焼けと言われる藻場の減少は、森林から河川を通じて輸送されるフミン質に吸着した2価の鉄イオンの減少が原因だと考えられている。このため、2価の鉄イオンを効果的且つ長期的に藻類や植物類に供給できるようにすることも、藻類・植物類の育生促進の観点から重要となってくる。
【0012】
そこで本発明の主たる課題は、混和する栄養素の種類に制約を受けないとともに、水中・陸上を問わず藻類・植物類の育生を可能とし、普通コンクリートより強度が向上した藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートであって、
前記栄養素が高分子化合物に添加されるとともに、前記高分子化合物が前記コンクリートに混和されていることを特徴とする藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートが提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明では、藻類・植物類の栄養素が添加された高分子化合物をコンクリートに混和している。このため、製造されたコンクリートから藻類・植物類の栄養素(窒素、リン酸、鉄、アミノ酸等)が徐放され、藻類・植物類の生育が促進される。この際、原料となる高分子化合物と栄養素の比率や種類を調整することで、従来の方法では混和させることのできない酸性度の高い窒素、リン酸、鉄、アミノ酸などの栄養素も混和することができるようになり、混和する栄養素の種類の制約がなくなり、水中・陸上を問わず藻類・植物類の育生が可能となる。また、高分子化合物を混和したコンクリートは、混和しない普通コンクリートと比較して強度が増加することが明らかとなっており、普通コンクリートと同等以上の強度を確保することができる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記高分子化合物は、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で同等に配合して形成されたポリイオンコンプレックスに、疎水性の前記栄養素が吸着してなる請求項1記載の藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートが提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明は、高分子化合物に栄養素を添加する第1の方法であり、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で1:1に配合してポリイオンコンプレックスを形成する。ポリアニオンとポリカチオンで電荷が打ち消された部分が疎水性となるため、同じく疎水性の栄養素(アラニン、バリン、メチオニン等)がその部分に吸着できる。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記高分子化合物は、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で偏りを持たせて形成されたポリイオンコンプレックスに、これと逆の電荷を有する前記栄養素が吸着してなる請求項1記載の藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートが提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明は、高分子化合物に栄養素を添加する第2の方法であり、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で偏りを持たせてポリイオンコンプレックスを形成する。ポリアニオンの比率が高い場合には、+電荷を持つ栄養素(Fe2+、NH4
+、アルギニン、リシン等)を吸着させることができ、ポリカチオンの比率が高い場合には、-電荷を持つ栄養素(NO3
-、H2PO4
-、グルタミン酸等)を吸着させることができる。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記高分子化合物は、負電荷側に偏りを持たせたポリイオンコンプレックスに、2価の鉄イオンが吸着してなる請求項1記載の藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートが提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明は、上記第2の方法のうち特に好ましい形態として、ポリアニオンの比率を高くして負電荷側に偏りを持たせたポリイオンコンプレックスに2価の鉄イオンを混入させることで、ポリアニオンに2価の鉄イオンを吸着させ、2価の鉄イオンの除放効果を高くしたものである。このため、ポリイオンコンプレックスから徐放された2価の鉄イオンが効果的且つ長期的に水中に溶け出して、藻類や植物類がこれを吸収することにより、藻類や植物類の生長が促進されるようになる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、混和する栄養素の種類に制約を受けないとともに、水中・陸上を問わず藻類・植物類の育生が可能となり、普通コンクリートより強度が向上する藻類・植物類の栄養素が添加されたコンクリートが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】栄養素が添加されたポリイオンコンプレックス1の模式図である。
【
図2】コンクリートの製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
本発明は、藻類及び/又は植物類の栄養素が添加されたコンクリートである。前記藻類とは、光合成を行う生物のうち、昆布やわかめ、海苔、珪藻などの陸上植物以外の主に水中に生息する珪藻類・海藻類である。また、前記植物類とは、主に陸上に生息する陸上植物のことである。
【0025】
前記栄養素とは、藻類・植物類の生育に用いられる栄養素のことであり、生長に必要な必須栄養素と、正常な生長に必ずしも必要ではないが、生長を促進する有用栄養素とを含む概念である。具体的には、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、鉄(Fe)、特に2価の鉄イオン(Fe2+)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、塩素(Cl)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)などの元素やこれらの元素を含む化合物の他、グリシン、グルタミン酸、プロリン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、ロイシン、リジン、バリン、セリン、フェニルアラニン、スレオニン、イソロイシン、チロシン、ヒスチジン、メチオニン、トリプトファン、シスチンなどのアミノ酸などが挙げられる。
【0026】
本発明に係るコンクリートは、前記藻類・植物類の栄養素が高分子化合物に添加されるとともに、この栄養素が添加された高分子化合物が混和されたコンクリートである。製造されたコンクリート製品を水中に設置したり、法面保護工に用いたりすることにより、設置されたコンクリートから藻類・植物類の栄養素が徐放され、藻類・植物類の育生が促進される。すなわち、前記コンクリートを水中に設置した場合、コンクリートに混和された高分子化合物から栄養素が分離して水中に溶出することにより、コンクリートの表面やその近傍に付着した藻類の栄養源となって生長が促進される。また、前記コンクリートを陸上に設置した場合、コンクリートに混和された高分子化合物から栄養素が分離して雨水等に溶出し、栄養素を含んだ雨水等が植物の根から吸収されることにより、又はコンクリート表面に植物の根が張って、コンクリートに混和された高分子化合物から分離した栄養素が直接植物に吸収されることにより、植物の生長が促進される。
【0027】
前記高分子化合物としては、前記栄養素が添加可能で、コンクリートに混和可能であり、且つコンクリートに混和しても混和しないコンクリートと同等以上の強度が維持できる化合物であるのが好ましく、特にポリイオンコンプレックスであるのが好ましい。前記ポリイオンコンプレックスは、
図1に示されるように、マイナス(アニオン)とプラス(カチオン)の電荷を持つ2種類のポリマー(ポリアニオン、ポリカチオン)の高分子電解質の水溶液を混合して形成される高分子電解質集合体のことであり、ポリアニオンとポリカチオンの配合比率や栄養素の種類を調整することで栄養素の種類に制約なく混和させることができる。
【0028】
前記ポリアニオンとしては、天然由来、合成由来のものを問わず使用可能であり、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、カルボキシメチル化澱粉、リグニンスルホン酸及びその塩、(ポリ)アクリル酸及びその塩、ポリスルホン酸及びその塩などを例示することができる。
【0029】
前記ポリカチオンとしては、天然由来、合成由来のものを問わず使用可能であり、例えば、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド樹脂、ジエチレントリアミン・ジシアンジアミド・アンモニウムクロライド縮合物、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドの重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの重合物、エチレンイミン重合物、ジアリルアミン重合物、アンモニア・エピクロロヒドリン・ジメチルアミン共重合物、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、カチオン化セルロースなどを例示することができる。
【0030】
前記ポリアニオンとポリカチオンとは、水性溶媒、必要であれば少量の界面活性剤を含む水性溶媒、好適には水溶液中で混合される。予め水性溶媒を準備し、この水性溶媒中に、ポリアニオンとポリカチオンとを添加してもよいが、好適には、ポリアニオンの水溶液と、ポリカチオンの水溶液とを混合する。特に好適には、いずれか一方の溶液を少量ずつ滴下することができる。なお、ポリアニオン及びポリカチオンの水溶液濃度は、これらポリアニオン又はポリカチオンの分量(粘度)に依存し、少なくとも一方の水溶液は、滴下可能な粘度となるような水溶液濃度である。
【0031】
本発明に係るコンクリートは、藻類・植物類の栄養素を添加したポリイオンコンプレックスを含み、所望により収縮低減剤として使用される界面活性剤や膨張剤として用いられるカルシウムサルホアルミネートや生石灰さらには混和剤として用いられる高炉スラグやシリカヒュームのような、通常の添加剤を含むことができる。ポリイオンコンプレックスをコンクリート中に添加した場合、無機材料であるセメントの無機構造と、カチオン性セルロースポリマー/アニオン性セルロースポリマーの有機構造との間に、有機的なネットワークが構築され、著しい強度増加が得られるようになる。
【0032】
本発明に係るコンクリートは、好適には粉末状のポリイオンコンプレックスを、前記した添加剤、好適には粉末状の添加剤を添加、混合して製造することができる。前記ポリイオンコンプレックスを粉末状にするには、ポリアニオンの水溶液とポリカチオンの水溶液とを混合した混合溶液を、所定時間静置してから上澄み液を除去した後、得られた沈殿物を乾燥機内で乾燥し、ミキサーで粉砕することにより得ることができる。
【0033】
本発明に係るコンクリートは、水分の存在下に水和反応により硬化しうる組成物として、例えば、普通ポルトランドセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超速強セメント、高ビーライト含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカフォームセメントのようなセメント水硬性組成物を含み、所望により骨材、例えば砂や砂利を含む組成物(モルタル、コンクリート)を挙げることができる。
【0034】
本発明に係るコンクリートは、任意の添加割合で、ポリイオンコンプレックスを含有することができる。コンクリートに対し、好適な添加割合は、当該コンクリート中のセメント1000gに対し、ポリイオンコンプレックスが10~70g、より好適には12~50g、特に好適には15~35gとなるように含有する。なお、前記ポリイオンコンプレックスの添加方法は、
図2に示されるように、ミキサーでのコンクリートの混練時に、粉末または塊状の状態で添加してもよいが、好適には、予め水を加えて膨潤状態で添加することができる。
【0035】
本発明に係るコンクリートでは、前記高分子化合物(ポリイオンコンプレックス)に、前述の藻類・植物類の栄養素を添加する際、原料となる高分子化合物と栄養素の比率や種類を調整することで、酸性度の高い窒素、リン酸、鉄、アミノ酸などの栄養素も添加できるようにしている。
【0036】
前記高分子化合物に栄養素を添加する方法としては、以下の2つの方法がある。添加する栄養素の種類によって、いずれかの方法を用いることができる。
【0037】
第1の添加方法は、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で同等(1:1)に配合して形成されたポリイオンコンプレックスに、疎水性の栄養素を吸着させる方法である。ポリアニオンとポリカチオンで電荷が打ち消された部分は疎水性となるため、同じく疎水性の栄養素(アラニン、バリン、メチオニン等)をその部分に吸着させることができる。
【0038】
第2の添加方法は、ポリアニオンとポリカチオンを電荷比で偏りを持たせて形成されたポリイオンコンプレックスに、これと逆の電荷を有する栄養素を吸着させる方法である。ポリアニオンの比率が高い場合には、+電荷を持つ栄養素(Fe2+、NH4
+、アルギニン、リシン等)を吸着させることができ、ポリカチオンの比率が高い場合には、-電荷を持つ栄養素(NO3
-、H2PO4
-、グルタミン酸等)を吸着させることができる。
【0039】
特に、ポリアニオンの比率を高くして負電荷側に偏りを持たせたポリイオンコンプレックスに、2価の鉄イオンFe2+を吸着させることにより、2価の鉄イオンFe2+を効果的且つ長期的に藻類や植物類に供給できるようにするのが好ましい。2価の鉄イオンFe2+は、藻類・植物類の光合成やエネルギー生産、代謝等に必要な栄養素であり、これをポリイオンコンプレックスに吸着させた状態でコンクリートに添加することにより、コンクリートから2価の鉄イオンFe2+が徐放され、藻類や植物類に効果的且つ長期的に供給され、これらの生長が促進される。
【0040】
上記の添加方法で高分子化合物に栄養素を添加することにより、混和する栄養素の種類に制約を受けることがないとともに、コンクリートを設置する場所が水中・陸上を問わず、藻類・植物類の育生が可能となる。
【0041】
また、特開2010-132862号公報にも記載されるように、コンクリートにポリイオンコンプレックスを添加することで、ポリイオンコンプレックスを添加しない普通コンクリートより強度が向上する。
【0042】
更に、高分子化合物を混和したコンクリートは、高分子化合物の親水基が保水機能を持つため、調湿性に優れるようになる。これにより、このコンクリートに育生する藻類・植物類、特に陸上で生育する植物類にとって、最適な湿度に保つことができ、陸上での緑化の際には長期維持の補助効果がある。
【符号の説明】
【0043】
1…ポリイオンコンプレックス