(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061220
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ撹拌装置及びカーボンナノチューブの分散液を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20240425BHJP
B01F 23/50 20220101ALI20240425BHJP
B01F 29/10 20220101ALI20240425BHJP
B01F 35/45 20220101ALI20240425BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C01B32/174
B01F23/50
B01F29/10
B01F35/45
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169023
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000145286
【氏名又は名称】株式会社写真化学
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高岡 文彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】中山 真志
(72)【発明者】
【氏名】西川 明良
【テーマコード(参考)】
2G084
4G035
4G036
4G037
4G146
【Fターム(参考)】
2G084AA07
2G084BB21
2G084CC32
2G084DD01
2G084FF02
2G084FF07
4G035AB43
4G036AA26
4G037DA30
4G037EA05
4G146AA11
4G146AB06
4G146CB10
4G146CB16
4G146CB22
4G146DA07
4G146DA47
(57)【要約】
【課題】使い勝手が良好で、且つ、撹拌性能の高いカーボンナノチューブ撹拌装置を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ撹拌装置100が、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物5を内部に収容する容器1と、容器1が搭載される容器ホルダー106と、容器ホルダー106を自転軸心周りに自転させ且つ自転軸心を公転させる駆動機構Dと、プラズマを含むガスを容器1の内部に導くプラズマ誘導部10とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を内部に収容可能な容器と、前記容器が搭載される容器ホルダーと、前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構と、プラズマを含むガスを前記容器の内部に導くプラズマ誘導部とを備えるカーボンナノチューブ撹拌装置。
【請求項2】
前記容器の外部に設けられ、プラズマを発生させるプラズマ発生部を備え、
前記プラズマ誘導部は、前記プラズマ発生部で発生されたプラズマを含むガスを前記容器の内部に導く請求項1に記載のカーボンナノチューブ撹拌装置。
【請求項3】
前記プラズマ誘導部は、前記容器に装着されて当該容器ホルダーの自転と同期して回転可能な自転部と、前記容器ホルダーの公転と同期して回転可能な公転部と、前記自転部及び前記公転部を連結する回転コネクタと、を備え、
前記プラズマ発生部で発生されたプラズマを含むガスが前記公転部と前記回転コネクタと前記自転部とを経由して前記容器の内部に導かれる請求項2に記載のカーボンナノチューブ撹拌装置。
【請求項4】
前記容器は、上端に開口部を有する有底筒状の本体部と、前記本体部の開口部に着脱可能に設けられる蓋体とを備え、
前記プラズマ誘導部の一部は、前記蓋体の中央部を貫通して前記容器の内部に挿入され、
前記蓋体には当該蓋体の端部よりも前記中央部に近い位置に排気用の通気孔が形成されている請求項1~3の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ撹拌装置。
【請求項5】
前記プラズマ誘導部は、前記容器の内部に挿入される、プラズマを含むガスを放出するノズルを有する請求項1~3の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ撹拌装置。
【請求項6】
前記ノズルは、前記被処理物と接触しない位置に設置される請求項5に記載のカーボンナノチューブ撹拌装置。
【請求項7】
カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を内部に収容可能な容器と、前記容器が搭載される容器ホルダーと、前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構と、プラズマを含むガスを前記容器の内部に導くプラズマ誘導部とを備えるカーボンナノチューブ撹拌装置を用いて、
前記カーボンナノチューブ及び前記液体を収容した前記容器を公転回転及び自転回転させ、前記公転回転及び前記自転回転中の少なくとも一部の時間に前記プラズマを含むガスを前記容器内に供給して、カーボンナノチューブの分散液を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を内部に収容可能な容器と、容器が搭載される容器ホルダーと、容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ自転軸心を公転させる駆動機構とを備えるカーボンナノチューブ撹拌装置、並びにカーボンナノチューブの分散液を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ粒子を含む様々な微細な粒子等を用いて物品を製造することが行われている。このような微細な粒子は、粒子の表面エネルギーが大きいために、細かな一次粒子が凝集して大きな二次粒子となっていることが多く、物品を製造する際には、凝集した状態の二次粒子のうち少なくともある程度の割合は一次粒子の状態にすることが求められる。
【0003】
特許文献1(特開2015-153714号公報)には、リチウムイオン二次電池の電極を製造する場合に、電極活物質にカーボンナノチューブ及びバインダーを添加することが記載されている。具体的には、溶媒である水に活物質粒子を添加してミキサーで撹拌し、更にカーボンナノチューブ分散液を添加して撹拌混合することで電極用スラリーを作製する手法が記載されている。この場合、活物質粒子同士がカーボンナノチューブ及びバインダーの複合体を介して接触し、それにより活物質粒子間の結着性と電極の導電性とが向上することが期待されている。
【0004】
その他の技術として、特許文献2(特許第6510903号公報)には、分散媒中に粉体を分散させる方法が記載されている。この方法では、プラズマを発生させることで、表面にアルミナが存在する粉体周りのゼータ電位を上昇させ、粉体間の静電的反発力により分散媒中にその粉体を良好に分散させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-153714号公報
【特許文献2】特許第6510903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法では、分散媒中にプラズマを発生させるための電極を浸しているため、幾つかの問題がある。例えば、電極が放電により損傷して、分散媒へ混入する可能性がある。また、電極で発生する高熱により、分散媒が意図しない変質をするという問題がある。更に、電極が分散媒に直接触れるため、分散媒と化学反応を起こさない電極材質を選定する必要がある。また更に、プラズマを発生させるために、分散媒に電解質を添加する必要がある。
【0007】
以上のように、従来の処理装置は、使い勝手が良好とは言えなかった。
【0008】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、使い勝手が良好で、且つ、撹拌性能の高いカーボンナノチューブ撹拌装置及びカーボンナノチューブの分散液を生産する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施形態に係るカーボンナノチューブ撹拌装置の構成は、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を内部に収容可能な容器と、前記容器が搭載される容器ホルダーと、前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構と、プラズマを含むガスを前記容器の内部に導くプラズマ誘導部とを備える。
ここで、前記容器の外部に設けられ、プラズマを発生させるプラズマ発生部を備え、前記プラズマ誘導部は、前記プラズマ発生部で発生されたプラズマを含むガスを前記容器の内部に導くように構成してもよい。
また、前記プラズマ誘導部は、前記容器に装着されて当該容器ホルダーの自転と同期して回転可能な自転部と、前記容器ホルダーの公転と同期して回転可能な公転部と、前記自転部及び前記公転部を連結する回転コネクタと、を備え、前記プラズマ発生部で発生されたプラズマを含むガスが前記公転部と前記回転コネクタと前記自転部とを経由して前記容器の内部に導かれるように構成してもよい。
【0010】
上記構成によれば、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を内部に収容した容器を容器ホルダーに搭載して、プラズマ誘導部によってプラズマを含むガスを容器の内部に導きながら、駆動機構を動作させることができる。つまり、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物の撹拌処理を行いながら、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物に対してプラズマ照射を行うことで、プラズマ作用で発生するラジカル等の活性種により被処理物に含まれるカーボンナノチューブの分散効果の増強が期待できる。そのため、カーボンナノチューブが凝集していたとしても、それらが解繊されることや、それらの再凝集の抑制が期待できる。加えて、容器を自転及び公転させることで被処理物を流動させながらプラズマ照射を行うため、プラズマの作用が被処理物に対して均等に加わるという利点がある。更に、容器を自転及び公転させることで被処理物で生じる適度な熱によりプラズマの作用が強まることで、被処理物に含まれるカーボンナノチューブの分散効果が高まることが期待される。
【0011】
また、被処理物にはプラズマを発生させるための電極を接触させる必要はないため、電極材料が被処理物に混入することもなく、電極で発生する熱により被処理物が加熱されることもなく、電極が被処理物と化学反応を起こすこともない等、使い勝手がよいカーボンナノチューブ撹拌装置が実現される。
【0012】
本開示に係るカーボンナノチューブ撹拌装置の別の構成は、前記容器は、上端に開口部を有する有底筒状の本体部と、前記本体部の開口部に着脱可能に設けられる蓋体とを備え、
前記プラズマ誘導部の一部は、前記蓋体の中央部を貫通して前記容器の内部に挿入され、
前記蓋体には当該蓋体の端部よりも前記中央部に近い位置に排気用の通気孔が形成されている。
【0013】
上記構成によれば、容器の内部に流入したプラズマを含むガスは、蓋体の中央部から被処理物に向けて流れ、被処理物の表面で広がり、本体部の内壁に沿って上昇し、蓋体の端部付近で方向を変えながら容器の内部を循環する。そして、そのような経路で循環した後のガスの一部が通気孔を通って容器の外部に排出される。つまり、通気孔は、容器の内部に供給されて循環した後のガスが到達する部分に設けられている。その結果、容器の内部に供給されたプラズマを含むガスの容器外への排出を遅らせることが期待できる。そして、容器の内部に流入したプラズマが容器の内部で被処理物に接触する時間が十分に確保され得る。
【0014】
本開示に係るカーボンナノチューブ撹拌装置の更に別の構成は、前記プラズマ誘導部は、前記容器の内部に挿入される、プラズマを含むガスを放出するノズルを有する。
【0015】
上記構成によれば、ノズルの形状を変更することで、被処理物に対するプラズマを含むガスの照射方向等を自在に変更できる。
【0016】
本開示に係るカーボンナノチューブ撹拌装置の更に別の構成は、前記ノズルは、前記被処理物と接触しない位置に設置される。
【0017】
上記構成によれば、ノズルは被処理物に接触しないため、被処理物がノズルの材料と化学反応すること、ノズルに付着している異物が被処理物に混入することなどを防止できる。
【0018】
本開示の一実施形態に係るカーボンナノチューブの分散液を生産する方法は、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を内部に収容可能な容器と、前記容器が搭載される容器ホルダーと、前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構と、プラズマを含むガスを前記容器の内部に導くプラズマ誘導部とを備えるカーボンナノチューブ撹拌装置を用いて、前記カーボンナノチューブ及び前記液体を収容した前記容器を公転回転及び自転回転させ、前記公転回転及び前記自転回転中の少なくとも一部の時間に前記プラズマを含むガスを前記容器内に供給して、カーボンナノチューブの分散液を生産する。
【0019】
上記構成によれば、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を収容した容器を容器ホルダーに搭載して、プラズマ誘導部によってプラズマを含むガスを容器の内部に導きながら、駆動機構を動作させることができる。つまり、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物の撹拌処理を行いながら、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物に対してプラズマ照射を行うことで、プラズマ作用で発生するラジカル等の活性種により被処理物に含まれるカーボンナノチューブの分散効果の増強が期待できる。そのため、カーボンナノチューブが凝集していたとしても、それらが解繊されることや、それらの再凝集の抑制が期待できる。加えて、容器を自転及び公転させることで被処理物を流動させながらプラズマ照射を行うため、プラズマの作用が被処理物に対して均等に加わるという利点がある。更に、容器を自転及び公転させることで被処理物で生じる適度な熱によりプラズマの作用が強まることで、被処理物に含まれるカーボンナノチューブの分散効果が高まることが期待される。従って、良好なカーボンナノチューブの分散液を生産する方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】カーボンナノチューブ撹拌装置の例を示す構成図である。
【
図2】プラズマ発生部及びプラズマ誘導部の例を概略的に描いた図である。
【
図3】容器の内部での被処理物へのプラズマ照射の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本開示に至る経緯>
特許文献1に記載されるような目的でカーボンナノチューブを用いる場合、予め、凝集した状態のカーボンナノチューブを解繊して、液体中に分散させておくことが求められる。
【0022】
カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物を撹拌して、液体へのカーボンナノチューブの分散性を高めるための装置として、例えば、マグネチックスターラー、超音波ホモジナイザー、高速ホモミキサー、ビーズミル、プラネタリーミキサーなどがある。
【0023】
但し、従来の装置では、凝集した状態のカーボンナノチューブを十分に解繊できない場合がある。或いは、撹拌処理を行っている間はカーボンナノチューブが解繊されて液体中に分散していたとしても、処理後にカーボンナノチューブが再凝集する場合もある。また、超音波ホモジナイザーのように、超音波を用いてカーボンナノチューブを液体中に分散させようとした場合、高出力のキャビテーションによりカーボンナノチューブが損傷する可能性、局所的なキャビテーションによる分散ムラが発生する可能性、極度な温度上昇によるカーボンナノチューブの熱変性が起こる可能性などがある。
【0024】
本発明者らは、上記に鑑み、鋭意検討した結果、本開示に至った。
【0025】
以下に図面を参照して実施形態に係るカーボンナノチューブ撹拌装置100について説明する。
図1は、カーボンナノチューブ撹拌装置100の例を示す構成図である。
図2は、プラズマ発生部(plasma generator)2及びプラズマ誘導部10の例を概略的に描いた図である。図示するように、カーボンナノチューブ撹拌装置100は、カーボンナノチューブ及び液体を含む被処理物5を内部に収容する容器1と、容器1が搭載される容器ホルダー106と、容器ホルダー106を自転軸心X1周りに自転させ且つ自転軸心X1を公転させる駆動機構Dとを備える。加えて、カーボンナノチューブ撹拌装置100は、プラズマを含むガスを容器1の内部に導くガス通路であるプラズマ誘導部10を備える。
図1には、カーボンナノチューブ撹拌装置100に二つの容器ホルダー106が設けられる例を示しているが、容器ホルダー106の数は変更可能である。例えば、カーボンナノチューブ撹拌装置100に一つの容器ホルダー106が設けられる場合、カーボンナノチューブ撹拌装置100は、回転時のバランスを取るための錘を備えてもよい。
【0026】
図1に示す本実施形態の駆動機構Dは、公転歯車101、回転ドラム102、公転軸103、駆動モータ104、公転テーブル105、自転歯車108、中間歯車109、太陽歯車110、歯車111、歯車112、及び、歯車113を備える。
【0027】
駆動機構Dにおいて、公転歯車101を有する回転ドラム102は、軸受を介して固定軸である公転軸103に対して回転自在に支持されている。駆動モータ104による回転運動が、公転歯車101を介して回転ドラム102に伝達され、回転ドラム102は、公転軸103の公転軸心X2を中心に回転する。公転テーブル105は、回転ドラム102に連結されて固定されており、回転ドラム102と共に回転する。容器ホルダー106は、公転テーブル105に対してその自転軸心X1を中心に回転自在に支持されている。そのため、容器ホルダー106は、公転テーブル105の回転により、公転軸103の公転軸心X2を中心に回転、即ち、公転する。
【0028】
容器ホルダー106は、自転歯車108とともに回転するように自転歯車108に接続されている。自転歯車108は、軸受を介して公転テーブル105に回転自在に支持されている中間歯車109と噛合する。中間歯車109は、太陽歯車110と噛合する。太陽歯車110は、回転ドラム102の外側に配置されており、回転ドラム102に対して、軸受を介して回転自在に支持されている。
【0029】
太陽歯車110は、歯車111に噛合する。歯車111には、互いに噛合する歯車112及び歯車113を介して、パウダーブレーキ等の制動装置114の制動力が伝達される。
【0030】
太陽歯車110は、制動装置114により加えられる制動力が無い場合、即ち、制動力が0の場合、回転ドラム102に従動して回転する。
【0031】
制動装置114の制動力が歯車111を介して太陽歯車110に伝達された場合、太陽歯車110の回転速度が回転ドラム102の回転速度に比べて減少し、太陽歯車110の回転速度と回転ドラム102に連結されている公転テーブル105の回転速度との間に差が生じる。その結果、太陽歯車110に対して、中間歯車109が相対的に回転する。中間歯車109は、自転歯車108と噛合するため、自転歯車108が回転し、容器ホルダー106は、自転軸心X1を中心に回転、即ち、自転する。
【0032】
上記カーボンナノチューブ撹拌装置100は、1つの駆動モータ104により容器ホルダー106を公転及び自転させる構成例であるが、カーボンナノチューブ撹拌装置100の構成は
図1の例に限定するものではない。例えば、カーボンナノチューブ撹拌装置100は、制動装置114を用いる構成に代えて、公転用駆動モータと自転用駆動モータを別々に備え、容器ホルダー106を公転及び自転させる構成であってもよく、他の構成であってもよい。公転用駆動モータと自転用駆動モータとを別々に備える場合、公転とは独立して自転単独での駆動を行うことができる。自転用駆動モータは公転体(例えば公転テーブル105)に固定して設けてもよいし、公転体と分離して設けてもよい。制動装置114を用いる場合であっても或いは公転用駆動モータ及び自転用駆動モータを用いる場合であっても、カーボンナノチューブ撹拌装置100の容器1の自転の回転速度及び公転の回転速度は、適宜設定できる。
【0033】
カーボンナノチューブ撹拌装置100は、容器1の外部に設けられ、プラズマを発生させるプラズマ発生部2を備える。プラズマ発生部2は、一対の電極を有し、プラズマを発生させる電圧印加部2aと、電圧印加部2aの一対の電極間に電圧を印加する電源部2bとを備える。プラズマ発生部2には、ガス供給源3からガスが供給される。例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどがガス供給源3から供給される。そして、ガス供給源3から供給されるガスが電圧印加部2aに供給されて、そのガスがプラズマ状態になる。ガス供給源3から供給されるガスは、プラズマ発生部2の電圧印加部2aで発生したプラズマのキャリアガスとして、発生したプラズマをプラズマ誘導部10へと送る。
【0034】
プラズマ誘導部10は、プラズマ発生部2で発生されたプラズマを含むガスを容器1の内部に導く。
図2に示す例では、プラズマ誘導部10は、容器1に装着されて容器ホルダー106の自転と同期して回転可能な自転部15と、容器ホルダー106の公転と同期して回転可能な公転部13と、自転部15及び公転部13を連結する回転コネクタ14とを備える。そして、プラズマ発生部2で発生させたプラズマを含むガスが公転部13と回転コネクタ14と自転部15とを経由して容器1の内部に導かれる。加えて、プラズマ誘導部10は、自転回転及び公転回転の何れも行わない固定部11と、固定部11及び公転部13を連結する回転コネクタ12とを備える。つまり、プラズマ発生部2で発生されたプラズマを含むガスは、固定部11と回転コネクタ12と公転部13と回転コネクタ14と自転部15とを経由して容器1の内部に導かれる。
【0035】
カーボンナノチューブ撹拌装置100は、カーボンナノチューブ撹拌装置100の各部及びガス供給源3を制御する制御部4を更に備える。カーボンナノチューブ撹拌装置100及びガス供給源3は、制御部4の制御により、容器ホルダー106に装着された容器1を自転・公転させ、容器1へのガス供給を行う。制御部4は、例えば、プロセッサ回路と、プログラムを記録したハードディスク、メモリ等の記録媒体とを備え、記録媒体に格納されたプログラムに従って制御処理を実行する。
【0036】
図3は容器1の内部での被処理物5へのプラズマ照射の様子を示す図である。
図4は容器1の蓋体1bの構成を示す図である。容器1は、上端に開口部を有する有底筒状の本体部1aと、本体部1aの開口部に着脱可能に設けられる蓋体1bとを備える。図示する例では、本体部1aの横断面の形状は円形である。つまり、本体部1aは、円筒の中心軸に沿った方向の一端側が閉じられて底部になり、他端側が開放されて開口部になる。本体部1aの開口部及び蓋体1bも円形である。プラズマ誘導部10の一部は、蓋体1bの中央部を貫通して容器1の内部に挿入される。容器1の内部に挿入されるプラズマ誘導部10の一部は、容器1の内部に挿入される、プラズマを含むガスを放出するノズル15aを有する。ノズル15aは自転部15の一部であり、被処理物5と接触しない位置に設置される。そして、ノズル15aから放出されるプラズマを含むガスが、撹拌処理中の被処理物5の表面に当たる。
【0037】
制御部4は、駆動機構D、およびプラズマ誘導部10に設けられた弁を制御して、被処理物5を内部に収容する容器1を公転回転及び自転回転させ、その公転回転及び自転回転中の少なくとも一部の時間にプラズマを含むガスを容器1内に供給する。それにより、カーボンナノチューブ撹拌装置100を用いて撹拌された被処理物5、即ち、カーボンナノチューブの分散液を生産する方法が実現される。詳細には、制御部4は、駆動機構Dに容器1を同時に自転・公転させて被処理物5の撹拌処理を行っている間の全部又は一部の時間に、アクチュエータに弁を開放させ、プラズマ発生部2から容器1に継続的にプラズマを含むガスを供給させる。制御部4は、更に、容器1を同時に自転・公転させて被処理物5の撹拌処理を行う前に及び/又はその撹拌処理を行った後にも、プラズマ発生部2から容器1にプラズマを含むガスを供給させてもよい。
【0038】
蓋体1bにはその蓋体1bの端部よりも中央部に近い位置に排気用の通気孔1cが形成されている。この通気孔1cを経由して、容器1の内側と外側との間で気体が移動できる。本実施形態の場合、プラズマを含むガスが容器1の内部に継続的に供給されている間、通気孔1cを経由して、容器1の内部のガスが容器1の外部に継続的に排出される。
【0039】
図3に示すように、プラズマを含むガスは、蓋体1b側から本体部1aの底に向けて放出されている。また、通気孔1cは、蓋体1bに形成されている。図示する例では、2つの通気孔1cは、ノズル15aを間に挟むように、蓋体1bの端部よりも中央部に近い位置に配置されている。つまり、円形の蓋体1bの中心部にノズル15aが配置され、円形の蓋体1bの径方向外側の端部よりも蓋体1bの中心部に近い位置に各通気孔1cが配置されている。その結果、
図3に矢印で示すように、容器1の内部に供給されたプラズマを含むガスは被処理物5に当たり、本体部1aの内壁に沿って上昇し、蓋体1bの端部付近で方向を変えながら容器1の内部を循環し、その後、蓋体1bに形成された通気孔1cから容器1の外部に排出される。このように、通気孔1cは、容器1の内部に供給されて循環した後のガスが到達する部分に設けられている。その結果、容器1の内部に供給されたプラズマを含むガスの容器1の外部への排出を遅らせることが期待できる。つまり、プラズマと被処理物5との接触時間が長くなるという利点がある。
【0040】
図5はノズル15aの構成例を説明する図である。
図5(a)は、ノズル15aの先端から、ノズル15aの中心軸に沿って平行にガスが直線的に放出され、且つ、ノズル15aの中心軸から離れる方向に向けてガスが直線的に放出されるタイプのノズルである。
図5(b)は、ノズル15aの先端から、ノズル15aの中心軸に沿って平行に相対的に多くのガスが直線的に放出され、その周囲ではノズル15aの中心軸に沿って平行に相対的に少ない量のガスが直線的に放出されるタイプのノズルである。
図5(c)は、ノズル15aの先端から、ノズル15aの中心軸に沿って平行に全てのガスが直線的に放出されるタイプのノズルである。
図5(d)は、ノズル15aの先端から、ノズル15aの中心軸に沿って平行に、且つ、ノズル15aの中心軸から離れる方向に向けて、ほぼ同じ量のガスが放出されるタイプのノズルである。
図5(d)のノズル15aは、
図15(a)のノズル15aよりも広い範囲にガスが放出される。このように、ノズル15aから放出されるガスの方向及び量を適宜設定できる。
【0041】
次に、被処理物5にプラズマ照射を行いながら撹拌処理を行った場合の効果について説明する。撹拌処理を行った試料1~試料3は以下の通りである。
【0042】
(1)試料1:撹拌処理中のプラズマ照射なし、カーボンナノチューブの表面処理なし
カーボンナノチューブ:0.2g
分散媒:N-メチル-2-ピロリドン(NMP):48.8g
分散剤(芳香族ポリマー):1g
カーボンナノチューブ濃度:0.4wt%
分散剤濃度:2wt%
【0043】
(2)試料2:撹拌処理中のプラズマ照射あり、カーボンナノチューブの表面処理なし
カーボンナノチューブ:0.2g
分散媒:N-メチル-2-ピロリドン(NMP):48.8g
分散剤(芳香族ポリマー):1g
カーボンナノチューブ濃度:0.4wt%
分散剤濃度:2wt%
【0044】
(3)試料3:撹拌処理中のプラズマ照射なし、カーボンナノチューブの表面処理あり
カーボンナノチューブ:0.2g
分散媒:N-メチル-2-ピロリドン(NMP):48.8g
分散剤(芳香族ポリマー):1g
カーボンナノチューブ濃度:0.4wt%
分散剤濃度:2wt%
【0045】
撹拌処理の条件は以下の通りである。
被処理物5の撹拌処理は株式会社写真化学のSK-400TRを用いて行った。具体的には、以下の公転回転速度及び自転回転速度でSTEP1~STEP5を順に行う撹拌処理を実行した。また、試料2の場合は、STEP2及びSTEP4でプラズマ照射を行った。
[STEP1]公転回転速度:1400rpm、自転回転速度:2000rpm、時間:600秒
[STEP2]公転回転速度:1200rpm、自転回転速度:1200rpm、時間:600秒
[STEP3]公転回転速度:1400rpm、自転回転速度:2000rpm、時間:600秒
[STEP4]公転回転速度:1200rpm、自転回転速度:1200rpm、時間:600秒
[STEP5]公転回転速度:1400rpm、自転回転速度:2000rpm、時間:600秒
【0046】
STEP2及びSTEP4で行ったプラズマ照射の条件は以下の通りである。
プラズマ発生部2は、株式会社魁半導体のチューブ内壁大気圧プラズマ装置S5000-Tを用いた。電源は単相100V(60Hz)、10Aである。ガス供給源3からプラズマ発生部2へは、窒素ガスをガス圧力:0.3MPa、ガス流量:30L/minで供給した。チューブ内壁大気圧プラズマ装置S5000-Tにおいて、「HV TIMER」の操作部は9999秒に設定し、「電力調整」の操作部は100に設定した。ノズル15aは、
図5(a)に示すタイプを用いた。
【0047】
試料3のカーボンナノチューブの表面処理は、回転式卓上真空プラズマ装置 YHS-DφS(株式会社魁半導体製)を用いて、カーボンナノチューブ粉体に対し真空中でプラズマ照射を行ったものである。
【0048】
次に、撹拌処理中のプラズマ照射がカーボンナノチューブにどのような影響を与えているのかを、マイクロ領域及びナノ領域で観察した結果を説明する。
【0049】
図6及び
図7は、マイクロ領域での観察結果である。具体的には、
図6は、撹拌処理を行った後に得られた試料1、即ち、プラズマ照射を行わずにカーボンナノチューブ撹拌装置100で撹拌処理を行った後に得られた試料1の液体をマイクロスコープで観察した画像(倍率は500倍)である。
図7は、撹拌処理を行った後に得られた試料2、即ち、プラズマ照射を行いながらカーボンナノチューブ撹拌装置100で撹拌処理を行った後に得られた試料2の液体をマイクロスコープで観察した画像(倍率は500倍)である。
【0050】
図6及び
図7からは、撹拌処理中にプラズマを照射したものは、明らかにカーボンナノチューブの凝集体が少ないことが分かる。これは、プラズマの照射によりカーボンナノチューブの親水性が向上したため、撹拌処理中に受けたせん断力でカーボンナノチューブの解繊が促進され、その結果、凝集した状態のカーボンナノチューブが少なくなったためだと考えられる。
【0051】
図8及び
図9は、ナノ領域での観察結果である。具体的には、
図8は、撹拌処理を行った後の試料1、即ち、プラズマ照射を行わずにカーボンナノチューブ撹拌装置100で撹拌処理を行った後に得られた試料1を用いて観察用サンプルを作製し、その観察用サンプルを電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した画像(倍率は20000倍)である。
図8は、撹拌処理を行った後に得られた試料2、即ち、プラズマ照射を行いながらカーボンナノチューブ撹拌装置100で撹拌処理を行った後に得られた試料2を用いて観察用サンプルを作製し、その観察用サンプルを電界放出形走査電子顕微鏡で観察した画像(倍率は20000倍)である。観察用サンプルは、撹拌処理を行った後に得られた試料の液体を銅シートに滴下し、スキージにより膜厚が数μm~数十μmの塗膜を作製した後、オーブンで乾燥させたものである。
【0052】
図8及び
図9からは、撹拌処理中におけるプラズマの照射の有無に関わらず、カーボンナノチューブの凝集体はナノ領域で解繊しており、良好な分散状態になっていることが分かる。尚、
図6及び
図7で観察されたような大きな凝集体は、観察用サンプルを作製する際にスキージによって剥ぎ取られたと考えられるため、
図8及び
図9の画像では見ることはできない。
【0053】
図8及び
図9の画像において、カーボンナノチューブのナノ領域での解繊状態が撹拌処理中におけるプラズマの照射の有無に関わらず同様の結果に見受けられるのは、試料1及び試料2に分散剤を混合したことで撹拌処理が効果的に行われたためだと考えられる。尚、分散剤を混合しなかった試料の観察用サンプルを同様の手法で用意し、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した場合、プラズマ照射を行わなかったサンプル(即ち、本実施形態の「試料1」に対応)はカールしたカーボンナノチューブが比較的多く見受けられた。それに対して、プラズマ照射を行ったサンプル(即ち、本実施形態の「試料2」に対応)はカールしたカーボンナノチューブは多く見受けられず、直線状のカーボンナノチューブが多く見受けられた。カーボンナノチューブを電気材料として用いる場合、直線状のカーボンナノチューブが解繊された状態で多く含まれる方が、導電パスが形成され易いため好ましいと考えられる。
【0054】
図10及び
図11は、撹拌処理を行ったカーボンナノチューブを含む被処理物5をパルスNMRにより測定した結果を示す図である。このパルスNMRは、マジェリカ・ジャパン株式会社から販売されているMagno Meter SED VTを用いて測定した。
図10はRsp値を示し、
図11はKa値を示す。縦軸に示すRsp値及びKa値が大きいほど、多くの液体を拘束できる界面特性を有している、即ち、濡れ性が良い(分散性が良い)ことを示している。
【0055】
図10及び
図11に示したように、撹拌処理中にプラズマを照射することで得られた試料2は、Rsp値及びKa値が最も高く、カーボンナノチューブがより多くの液体を拘束できる界面特性を有していると言える。これは濡れ性が良い、言い換えれば分散性が良いと言える。
図12は、試料2のRsp値を100%のカーボンナノチューブの分散度とした場合の、試料1及び試料3のカーボンナノチューブの分散度を示す図である。試料2でのカーボンナノチューブの分散度を100%と仮定した場合、試料3でのカーボンナノチューブの分散度は93.7%、試料1でのカーボンナノチューブの分散度は92.2%となる。つまり、撹拌処理中にプラズマ照射を行った試料2は、撹拌処理の前にカーボンナノチューブのプラズマ照射を単独で行った試料3と比べても分散度が高く分散性が良いと言える。
【0056】
このように、カーボンナノチューブの親水性の向上及びそれによる分散性の向上は、カーボンナノチューブに対するプラズマ照射のみよって得られる効果ではなく、撹拌処理によるカーボンナノチューブに対するせん断力の付与と、カーボンナノチューブに対するプラズマ照射とを同時に行うことによる相乗効果によって達成されると考えられる。
【0057】
また、プラズマ照射によってカーボンナノチューブの親水性が向上するため、分散度の高いカーボンナノチューブ分散液を生産するのに必要な分散剤の量を抑制できる。つまり、得られるカーボンナノチューブ分散液を用いて作製した製品が分散剤による影響を受けることを抑制できる。
【0058】
更に、リチウムイオン電池では、電極活物質へのリチウムイオンの出入りにより電極が膨張及び収縮することで電極活物質での導電パスが切断されるという問題が生じるが、電極活物質に添加されたカーボンナノチューブが電極活物質での導電パスとなることが期待されている。但し、添加するカーボンナノチューブの長さ、形状、柔軟性、存在密度(即ち、単位体積当たりのカーボンナノチューブの本数)などを適切に調節する必要がある。つまり、リチウムイオン電池の電極を製造する場合に用いるカーボンナノチューブ分散液に、適切なカーボンナノチューブが含まれている必要がある。
【0059】
そのため、適切に解繊された状態のカーボンナノチューブを液体中に分散させたカーボンナノチューブ分散液を生産することができれば好ましい。例えば、解繊が不十分なために大きな凝縮体のカーボンナノチューブが含まれるカーボンナノチューブ分散液や、解繊が行われ過ぎたために微細なカーボンナノチューブが含まれる過分散のカーボンナノチューブ分散液などは好ましくないと判断され得る。つまり、所望の電池特性に合った、ほどよいカーボンナノチューブ解繊状態が必要とされている。また、カーボンナノチューブの解繊技術をリチウムイオン電池の電極の量産化で利用するためには、そのカーボンナノチューブの解繊技術が、解繊効果が大きく且つカーボンナノチューブに対するダメージが少ないこと、簡便な技術であること、解繊の程度をコントロール可能であること等が好ましい条件になる。
以下に、本開示のカーボンナノチューブ撹拌装置100及びカーボンナノチューブの分散液を生産する方法が、それらの条件を満たしていることを説明する。
【0060】
先ず、上述したような本開示のカーボンナノチューブ撹拌装置100及びカーボンナノチューブの分散液を生産する方法の場合、マイクロ領域及びナノ領域の両方でカーボンナノチューブの適切な解繊を実現できることが分かった。加えて、本開示で説明したような撹拌処理及びプラズマ照射を同時に行う技術で得られたカーボンナノチューブ分散液は、ダメージを受けたカーボンナノチューブを多くは含まないことが分かった。
【0061】
次に、試料3のように、撹拌処理の前にカーボンナノチューブのプラズマ照射を行い、その後に撹拌処理を行う場合、プラズマ照射で用いる容器から撹拌処理で用いる容器へのカーボンナノチューブの移し替えが必要になるという問題がある。更に、プラズマ照射で用いていた容器に付着したカーボンナノチューブの一部を廃棄せざるを得なくなるという材料ロスの問題もある。ところが、本開示で説明したように撹拌処理及びプラズマ照射を同時に行う場合、カーボンナノチューブの移し替えなどは不要であるため、技術の簡便性が確保されている。更に、移し替えは不要であるため、上述したような材料ロスの問題は生じない。
【0062】
試料3のように、撹拌処理の前にカーボンナノチューブのプラズマ照射を行い、その後に撹拌処理を行う場合、例えばプラズマ照射で用いる容器から撹拌処理で用いる容器へのカーボンナノチューブの移し替えの際にカーボンナノチューブに作用するプラズマ効果が低下する可能性がある。また、カーボンナノチューブに対するプラズマ照射を行うのに要する時間と撹拌処理を行うのに要する時間とが別々に発生するため、その間にカーボンナノチューブに作用するプラズマ効果が低下する可能性がある。そのような理由から、試料3のように、撹拌処理の前にカーボンナノチューブのプラズマ照射を行い、その後に撹拌処理を行う場合、最終的にカーボンナノチューブ分散液として生産された時点でのカーボンナノチューブに作用しているプラズマ効果が、カーボンナノチューブ分散液の生産を行う毎に異なる状態になる、即ち再現性のあるプラズマ効果が得にくい可能性がある。つまり、解繊の程度をコントロールできない可能性がある。
ところが、本開示で説明したように撹拌処理及びプラズマ照射を同時に行うのであれば、撹拌処理の条件及びプラズマ照射の条件が同じであれば、最終的にカーボンナノチューブ分散液になった時点でのプラズマ効果は複数のカーボンナノチューブ分散液で均一になることが期待できる。そのため、本開示で説明したような撹拌処理及びプラズマ照射を同時に行う技術では、カーボンナノチューブの解繊の程度をコントロール可能であると言える。そして、得られるカーボンナノチューブ分散液を用いて製品を量産化することに支障はないと言える。
【0063】
<別実施形態>
<1>
上記実施形態では、カーボンナノチューブ撹拌装置100の構成について具体例を挙げて説明したが、その構成は適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、プラズマ発生部2がカーボンナノチューブ撹拌装置100に搭載されている例を説明したが、プラズマ発生部2は、カーボンナノチューブ撹拌装置100の外部に設けられてもよい。
【0064】
<2>
上記実施形態では、ガス供給源3からプラズマ発生部2に窒素ガスを供給してプラズマを発生させる例を説明したが、ガス供給源3からプラズマ発生部2に供給するガスの種類は適宜変更可能である。例えば、ガス供給源3からプラズマ発生部2に、酸素ガス、アルゴンガスなどのガスを供給してプラズマを発生させることもできる。
【0065】
<3>
上記実施形態では、2つの通気孔15cが設けられている例を説明したが、通気孔15cの数は、一つであってもよいし、又は、3つ以上であってもよく、適宜変更可能である。また、一つ又は複数の通気孔15cをどのような位置関係で配置するのかも適宜変更可能である。例えば、一つ又は複数の通気孔15cを蓋体1bの中央部よりも端部に近い位置に設けてもよい。
【0066】
<4>
上記実施形態では、カーボンナノチューブ撹拌装置100の公転回転速度及び自転回転速度、被処理物5に対するプラズマ照射タイミング及び照射期間、プラズマ強度、ノズル15aの形状などについて具体例を挙げて説明したが、それらは適宜変更可能である。
【0067】
<5>
上記実施形態では、制御部4は、容器1の自転・公転中の少なくとも一部の時間に、プラズマを含むガスを容器1内に継続的に供給させた。これに代えて、制御部4は、容器1の自転・公転中の少なくとも一部の時間に、プラズマ発生部2から容器1内にプラズマを含むガスを断続的に供給させてもよい。
【0068】
<6>
上述実施形態では、容器1の本体部1aは有底円筒状であったが、開口部と底部の径が異なる形状など、他の形状であってもよい。また、上述実施形態では、プラズマ誘導部10の一部が蓋体1bの中央部を貫通して容器1の内部に挿入されていた。これに代えて、プラズマ誘導部10の一部が蓋体1bの他の部分を貫通していてもよい。
【0069】
<7>
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本開示の実施形態はこれに限定されず、本開示の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示は、使い勝手が良好で、且つ、撹拌性能の高いカーボンナノチューブ撹拌装置及びカーボンナノチューブの分散液を生産する方法に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 :容器
1a :本体部
1b :蓋体
1c :通気孔
2 :プラズマ発生部
3 :ガス供給源
4 :制御部
5 :被処理物
10 :プラズマ誘導部
12 :回転コネクタ
13 :公転部
14 :回転コネクタ
15 :自転部
15a :ノズル
15c :通気孔
100 :カーボンナノチューブ撹拌装置
106 :容器ホルダー
D :駆動機構
X1 :自転軸心
X2 :公転軸心