(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061228
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ケーシングの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/14 20060101AFI20240425BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240425BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240425BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20240425BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
F16J15/14 D
B05D7/00 K
B05D7/00 P
B05D7/24 301V
B05D3/10 K
B05D3/12 C
B05D7/24 301N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169035
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健太
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AC02
4D075AC09
4D075AC88
4D075BB05Z
4D075BB64Z
4D075BB79Z
4D075BB91Y
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA33
4D075DC13
4D075EA05
4D075EA25
4D075EA39
(57)【要約】
【課題】第1ケーシングおよび第2ケーシングの接合面に液体ガスケットおよび水を供給する際、接合面よりも内側への水の浸入を抑制する。
【解決手段】第1ケーシングおよび第2ケーシングを接合することにより、内部に中空空間を有するケーシングを製造するケーシングの製造方法は、第1ケーシングと第2ケーシングとの接合部分に沿って、水硬化性を有する液体ガスケットを、壁状部を含む断面形状で塗布する第1工程と、塗布された液体ガスケットのうち壁状部よりも外側部分に対して、水を付与する第2工程と、第1ケーシングおよび第2ケーシングを近接させて、塗布された液体ガスケットを水とともに押し潰して硬化させることにより、第1ケーシングと第2ケーシングとを接合する第3工程と、を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ケーシングおよび第2ケーシングを接合することにより、内部に中空空間を有するケーシングを製造するケーシングの製造方法において、
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとの接合部分に沿って、水硬化性を有する液体ガスケットを、壁状部を含む断面形状で塗布する第1工程と、
前記塗布された液体ガスケットのうち前記壁状部よりも外側部分に対して、水を付与する第2工程と、
前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングを近接させて、前記塗布された液体ガスケットを前記水とともに押し潰して硬化させることにより、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを接合する第3工程と、
を含む、ケーシングの製造方法。
【請求項2】
前記壁状部を含む断面形状は、前記壁状部が前記液体ガスケットの幅方向の中心位置よりも前記ケーシングの内側に配置される断面形状である、
請求項1に記載のケーシングの製造方法。
【請求項3】
前記第1ケーシングまたは前記第2ケーシングの少なくとも一方のうち前記接合部分は、第1接合部分と、前記第1接合部分よりも内側に形成された第2接合部分としての凹部を有し、
前記第3工程では、前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングの前記接合部分により押し潰された前記液体ガスケットの一部が前記ケーシングの内側に向けて進入し、前記凹部に充填された状態で硬化する、
請求項2に記載のケーシングの製造方法。
【請求項4】
前記第1工程では、ノズルを有する塗布機を用いて、前記接合部分に沿って前記液体ガスケットを塗布し、
前記ノズルは、前記壁状部を含む断面形状に対応する吐出口を有する、
請求項1に記載のケーシングの製造方法。
【請求項5】
前記塗布機の前記ノズルは、当該ノズルの中心軸周りに回転可能に構成されており、
前記ノズルの前記吐出口は、前記中心軸と直交する方向に向いており、
前記第1工程では、前記ノズルを回転させることで、前記吐出口の向きを変更しながら、前記接合部分に沿って前記液体ガスケットを塗布する、
請求項4に記載のケーシングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車には、エンジンの駆動力を伝達する駆動伝達系の部品を収容するためのケーシングが設けられる。ケーシングは、例えば、第1ケーシングと第2ケーシングを接合することによって製造され、接合された第1ケーシングと第2ケーシングの内部に、駆動伝達系の部品を収容するための中空空間が形成される。
【0003】
ケーシング内の中空空間には、駆動伝達系の各部品の破損を防止するための潤滑油が導入される。第1ケーシングおよび第2ケーシングの接合面から潤滑油が漏出することを防止するため、接合面には、シール材としての液体ガスケットが塗布される。しかし、液体ガスケットを硬化させ、接合面のシール機能を発揮するためには、液体ガスケットの塗布後、一定の硬化時間が必要である。
【0004】
特許文献1には、液体ガスケットの硬化時間を短縮するため、液体ガスケットに水を供給することについて開示がある。特許文献1では、シール面に液体ガスケットを塗布し、塗布された液体ガスケットの表面に微細水分を吹き付けることで、液体ガスケットの硬化を促進させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したように、ケーシング内の中空空間には、潤滑油が導入されている。このようなケーシングの第1ケーシングおよび第2ケーシングの接合面に対し、特許文献1に記載の技術を適用した場合、微細水分の一部が接合面よりも内側に浸入してしまい、中空空間内の潤滑油と微細水分が混合するおそれがある。このように、第1ケーシングおよび第2ケーシングの接合面に液体ガスケットおよび水を供給する際、接合面よりも内側に水が浸入すると、中空空間内に設けられた潤滑油に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、第1ケーシングおよび第2ケーシングの接合面に液体ガスケットおよび水を供給する際、接合面よりも内側への水の浸入を抑制することが可能なケーシングの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係るケーシングの製造方法は、
第1ケーシングおよび第2ケーシングを接合することにより、内部に中空空間を有するケーシングを製造するケーシングの製造方法において、
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとの接合部分に沿って、水硬化性を有する液体ガスケットを、壁状部を含む断面形状で塗布する第1工程と、
前記塗布された液体ガスケットのうち前記壁状部よりも外側部分に対して、水を付与する第2工程と、
前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングを近接させて、前記塗布された液体ガスケットを前記水とともに押し潰して硬化させることにより、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを接合する第3工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1ケーシングおよび第2ケーシングの接合面に液体ガスケットおよび水を供給する際、接合面よりも内側への水の浸入を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る車両の構成を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係るケーシング全体の構成を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係るケーシングの接合部分の詳細な構成を示す部分断面図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る第1接合部分に未硬化の液体ガスケットを塗布する第1工程を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る液体ガスケットに水を付与する第2工程を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る第1ケーシングおよび第2ケーシングを接合する第3工程を示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、同実施形態に係るケーシングの製造方法のフローチャートである。
【
図8】
図8は、同実施形態に係る塗布機により未硬化の液体ガスケットを塗布する様子を示す第2ケーシングの概略上面図である。
【
図9】
図9は、同実施形態に係る塗布機のノズルを側面から見た概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料、数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る車両100の構成を示す概略構成図である。
図1に示すように、車両100は、エンジン200と、動力伝達装置300と、車輪400とを備える。エンジン200は、車両100を走行させる原動機であり、燃料を消費して車両100の車輪400に作用させる駆動力を発生させる。ただし、車両100は、エンジン200の駆動力および走行用モータの駆動力により走行可能なハイブリッド車であってもよいし、走行用モータのみの駆動力により走行可能な電気自動車であってもよい。
【0013】
動力伝達装置300は、エンジン200から車輪400への動力伝達経路中に設けられる。動力伝達装置300は、例えば、トルクコンバータ310と、前後進切換機構320と、CVT(Continuously Variable Transmission)330とを備える。
【0014】
トルクコンバータ310は、クラッチ機能とトルク増幅機能を有し、エンジン200のクランク軸210に接続される。トルクコンバータ310は、不図示のロックアップクラッチを備え、ロックアップクラッチが非ロックアップ状態であるとき、エンジン200の駆動力であるトルクを増幅して出力軸340に伝達する。また、トルクコンバータ310は、ロックアップクラッチがロックアップ状態であるとき、エンジン200の駆動力を直接出力軸340に伝達する。
【0015】
前後進切換機構320は、出力軸340から伝達されたトルクをその方向を変えずにプライマリ軸350に伝達する前進状態と、出力軸340から伝達されたトルクをその方向を反転してプライマリ軸350に伝達する後進状態とに切り換えるための機構である。例えば、前後進切換機構320は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構によって構成される。
【0016】
CVT330は、エンジン200の駆動力を連続的に無段階に変速して出力可能な変速装置である。CVT330は、プライマリ軸350に接続された不図示のプライマリプーリと、セカンダリ軸360に接続された不図示のセカンダリプーリと、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられる不図示の巻き掛け部材とを備える。巻き掛け部材は、例えば、ベルトやチェーンなどである。
【0017】
プライマリプーリおよびセカンダリプーリは、巻き掛け部材が巻き掛けられる溝の幅を変更可能に構成される。具体的に、巻き掛け部材が巻き掛けられる溝の幅を広くすることで、巻き掛け部材の巻き掛け半径が小さくなる。反対に、巻き掛け部材が巻き掛けられる溝の幅を狭くすることで、巻き掛け部材の巻き掛け半径が大きくなる。このように、巻き掛け部材の巻き掛け半径を変更することで、エンジン200の駆動力を連続的に無段階に変速する。
【0018】
セカンダリ軸360は、不図示のリダクションギヤ、デファレンシャルギヤ、ドライブシャフト等の駆動伝達部材を介して車輪400に接続される。セカンダリ軸360に伝達された駆動力は、このような駆動伝達部材を介して車輪400に伝達される。その結果、車輪400の路面との接地面に駆動力が生じ、車両100を走行させることができる。
【0019】
動力伝達装置300は、トルクコンバータ310と、前後進切換機構320と、CVT330とを収容するケーシング500を備える。本実施形態に係るケーシング500は、例えば、駆動伝達系の部品を収容する駆動伝達部材用ケーシングである。
【0020】
図2は、本実施形態に係るケーシング500全体の構成を示す概略断面図である。
図2に示すように、ケーシング500は、内部に中空空間Sを有する容器である。ケーシング500の中空空間Sには、例えば、トルクコンバータ310、前後進切換機構320、CVT330を構成する構成部品や、当該構成部品の破損を防止するための潤滑油などが収容される。
【0021】
製造容易性の観点から、ケーシング500は、複数の部品を接合して製造される。本実施形態では、例えば、2つの部品(例えば、第1ケーシング510、第2ケーシング520)を接合してケーシング500が製造されるが、3つ以上の部品を接合して、ケーシング500を製造してもよい。
【0022】
本実施形態に係るケーシング500は、
図2に示すように、第1ケーシング510と、第2ケーシング520、液体ガスケット530とを備える。第1ケーシング510は、第2ケーシング520よりも上側に設けられ、第2ケーシング520は、第1ケーシング510よりも下側に設けられる。
【0023】
液体ガスケット530は、第1ケーシング510の接合面である接合部分512と第2ケーシング520の接合面である接合部分522との間に設けられる。第1ケーシング510の接合部分512は、液体ガスケット530を介して第2ケーシング520の接合部分522と接合する部分である。第2ケーシング520の接合部分522は、液体ガスケット530を介して第1ケーシング510の接合部分512と接合する部分である。液体ガスケット530は、第1ケーシング510の接合部分512と第2ケーシング520の接合部分522とを接合し、第1ケーシング510の接合部分512と第2ケーシング520の接合部分522との間をシールするシール材である。本実施形態の液体ガスケット530は、水硬化性を有する材料であり、例えば、シリコン系のFIPG(Formed In Place Gasket)である。
【0024】
第1ケーシング510と第2ケーシング520が液体ガスケット530により接合されることで、第1ケーシング510の接合部分512と第2ケーシング520の接合部分522との間がシールされ、内部に中空空間Sを有するケーシング500が形成される。このケーシング500内の中空空間Sは密閉されている。ただし、中空空間Sは、完全な密閉空間でなくてもよく、例えば、ケーシング500の一部に隙間や通気口が設けられ、外部空間と連通する部分を有するような空間であってもよい。このようにして、第1ケーシング510および第2ケーシング520が液体ガスケット530により接合されることで、ケーシング500の内部には、中空空間Sが形成される。
【0025】
図3は、本実施形態に係るケーシング500の接合部分の詳細な構成を示す部分断面図である。
図3に示すように、第1ケーシング510は、液体ガスケット530を介して第2ケーシング520と接合する接合部分512を有する。接合部分512は、例えば、平面形状である。また、第2ケーシング520は、液体ガスケット530を介して第1ケーシング510と接合する接合部分522を有する。接合部分522は、第1接合部分522aと、第2接合部分である凹部522bとを含む。なお、本実施形態では、接合部分522に凹部522bが設けられるが、これに限定されず、接合部分512に凹部522bが設けられてもよい。また、接合部分512および接合部分522の双方に凹部522bが設けられてもよい。
【0026】
第1接合部分522aは、第2接合部分としての凹部522bよりも第1ケーシング510の接合部分512に近い位置に配置される。また、第1接合部分522aは、凹部522bよりもケーシング500の外側に位置する。第1接合部分522aは、例えば、平面形状であり、第1ケーシング510の接合部分512と平行な面である。第1接合部分522aは、詳しくは後述するが、第1ケーシング510と第2ケーシング520を接合する前に未硬化の液体ガスケット530が塗布される部分である。
【0027】
凹部522bは、第1接合部分522aに対し、第1ケーシング510の接合部分512から離れる側に窪んでいる。凹部522bは、第1接合部分522aよりもケーシング500の内側に位置する。ケーシング500の内側には、中空空間Sが形成される。
【0028】
第1接合部分522aは、第2ケーシング520の接合部分522のうち第1ケーシング510の接合部分512と最も近い部分である。接合部分512と第1接合部分522aとの間の間隔は、接合部分512と凹部522bとの間の間隔より狭い。また、接合部分512と第1接合部分522aとの間の空間は、接合部分512と凹部522bとの間の空間より狭い。
【0029】
液体ガスケット530は、詳しくは後述するように、接合部分512と第1接合部分522aに押し潰されることで、接合部分512および接合部分522の間の空間に充填される。接合部分512と第1接合部分522aとの間の間隔が接合部分512と凹部522bとの間の間隔より狭いため、液体ガスケット530は、接合部分512と第1接合部分522aとの間に隙間なく充填される。つまり、接合部分512と第1接合部分522aとの間に充填される液体ガスケット530は、接合部分512と凹部522bとの間に充填される液体ガスケット530よりも、空隙が少なく、密着性が高くなる。
【0030】
一方、接合部分512と第1接合部分522aとの間の液体ガスケット530の厚さT1は、接合部分512と凹部522bとの間の液体ガスケット530の厚さT2より薄い。そのため、第1ケーシング510および第2ケーシング520が互いに離れる方向に荷重が加わった際、接合部分512と第1接合部分522aとの間に充填される液体ガスケット530が、剥離する場合がある。つまり、接合部分512と第1接合部分522aとの間の液体ガスケット530の厚さT1は、接合部分512と凹部522bとの間の液体ガスケット530の厚さT2よりも薄いことから、剥離し易くなる。
【0031】
そのため、接合部分522に凹部522bを設け、接合部分512と凹部522bとの間の液体ガスケット530の厚さT2を、接合部分512と第1接合部分522aとの間の液体ガスケット530の厚さT1よりも厚くしている。これにより、接合部分512と凹部522bとの間の液体ガスケット530の剥離を抑制することができ、接合部分512と接合部分522の間の液体ガスケット530全体が剥離することを防止できる。
【0032】
ケーシング500の内側の中空空間Sには、ケーシング500に収容されるトルクコンバータ310、前後進切換機構320、CVT330等の各構成部品の破損を防止するための潤滑油が導入されている。また、本実施形態において第2ケーシング520は、この潤滑油を貯留するためのオイルパンとしての機能を有する。なお、潤滑油は、駆動伝達系の、例えばCVT330のプライマリプーリやセカンダリプーリなどの油圧で作動する油圧装置を作動するための作動油としても使用される。
【0033】
液体ガスケット530は、第1ケーシング510の接合部分512および第2ケーシング520の接合部分522からケーシング500の外側に潤滑油が漏出することを防止する目的で接合部分512および接合部分522の間に設けられる。液体ガスケット530は、接合部分512および接合部分522の間に塗布され、硬化することで、接合部分512および接合部分522の間のシール機能を発揮する。
【0034】
しかし、液体ガスケット530を硬化させ、接合部分512および接合部分522の間のシール機能を発揮するためには、液体ガスケット530の塗布後、一定の硬化時間としての乾燥時間が必要である。液体ガスケット530は、水硬化性を有し、水分を吸収することで、硬化する性質を有する。そのため、液体ガスケット530に水を付与することで、液体ガスケット530の硬化を促進させ、液体ガスケット530の塗布後の乾燥時間を短縮することができる。
【0035】
しかし、ケーシング500内部の中空空間Sには、潤滑油が封入されている。そのため、接合部分512および接合部分522の間の液体ガスケット530に水を付与した際、付与した水の一部が接合部分512および接合部分522よりも内側に導入され、中空空間Sの潤滑油と混合するおそれがある。潤滑油と水が混合すると、エマルジョンが発生し、例えば油圧装置の油圧機能が低下するなどの問題が発生する。
【0036】
そこで、本実施形態では、液体ガスケット530の塗布形状を工夫することで、液体ガスケット530の硬化を促進させるための水が付与された際に、水が中空空間Sに浸入することを抑制する。
【0037】
図4は、本実施形態に係る第1接合部分522aに未硬化の液体ガスケット530を塗布する第1工程を示す概略断面図である。
図4に示すように、液体ガスケット530は、第2ケーシング520の接合部分522の第1接合部分522a上に塗布される。ただし、液体ガスケット530は、第1ケーシング510と第2ケーシング520との接合部分に塗布されればよく、例えば、第1ケーシング510の接合部分512に塗布されてもよい。また、液体ガスケット530は、第1ケーシング510の接合部分512のうち第1接合部分522aと対向する部分に塗布されてもよい。
【0038】
液体ガスケット530は、基部532と、壁状部534とを有する。基部532は、例えば、平板状に形成され、矩形の断面形状を有する。ただし、これに限定されず、基部532の断面形状は、円形、楕円形、多角形であってもよい。
【0039】
壁状部534は、基部532上に形成される。壁状部534は、液体ガスケット530に付与される水の移動を制限する機能を有する。具体的に、ケーシング500の外側から内側に向かう水の移動を制限する機能を有する。壁状部534は、例えば、平板状に形成され、矩形の断面形状を有する。ただし、これに限定されず、壁状部534の断面形状は、円形、楕円形、多角形であってもよい。
【0040】
壁状部534は、第1接合部分522a上に塗布された液体ガスケット530の幅方向Wの中心位置O(例えば、基部532の幅方向Wの中心位置O)よりもケーシング500の内側に位置する。なお、ケーシング500の内側とは、ケーシング500の中空空間S側であり、ケーシング500の外側とは、ケーシング500の中空空間Sとは反対側である。本実施形態では、壁状部534は、例えば、基部532の幅方向Wの最も内側に位置する。本実施形態では、液体ガスケット530の基部532および壁状部534を含む断面形状は、L字型形状である。
【0041】
このように、本実施形態では、第1接合部分522a上に塗布された未硬化の液体ガスケット530の断面形状は、壁状部534を含む断面形状であり、例えば、L字型の断面形状である。しかし、かかる例に限定されず、塗布された未硬化の液体ガスケット530の断面形状は、例えば、T字型、直角三角形、複数段の階段形状などであってもよい。また、本実施形態では、壁状部534は、単一であるが、複数設けられてもよい。例えば、壁状部534は、基部532上に幅方向Wに沿って複数設けられてもよい。このとき、複数の壁状部534は、互いに高さが同じであってもよいし、異なっていてもよい。複数の壁状部534の高さが異なる場合、壁状部534の高さは、ケーシング500の内側に近づくほど、高くなってもよい。
【0042】
壁状部534は、第1接合部分522a上に塗布された液体ガスケット530のうち最も高さが高い部分である。そのため、本実施形態の液体ガスケット530の最も高さの高い部分は、基部532の幅方向Wの中心位置Oよりも内側に位置する。
【0043】
このように、第1接合部分522a上に塗布された液体ガスケット530の最も高さの高い部分は、基部532の幅方向Wの中心位置Oよりも内側にあればよく、その断面形状もL字形状に限定されない。
【0044】
図5は、本実施形態に係る液体ガスケット530に水540を付与する第2工程を示す概略断面図である。
図5に示すように、水540は、第1接合部分522aに塗布された液体ガスケット530のうち壁状部534よりも外側部分に対して付与される。換言すれば、水540は、第1接合部分522aに塗布された液体ガスケット530のうち、壁状部534よりも内側部分に対して付与されない。なお、液体ガスケット530のうち壁状部534よりも外側部分とは、例えば、壁状部534のうちケーシング500の外側に面した外壁部分、および、液体ガスケット530のうち当該外壁部分よりもケーシング500の外側の部分であってよい。また、液体ガスケット530のうち壁状部534よりも内側部分とは、例えば、壁状部534のうちケーシング500の内側に面した内壁部分、および、液体ガスケット530のうち当該内壁部分よりもケーシング500の内側の部分であってよい。
【0045】
液体ガスケット530に水540を付与するとき、壁状部534は、ケーシング500の内側に向かう水540の移動を制限する。これにより、液体ガスケット530の硬化を促進させるための水540が付与された場合に、水540が中空空間Sに浸入することを抑制することができる。
【0046】
図6は、本実施形態に係る第1ケーシング510および第2ケーシング520を接合する第3工程を示す概略断面図である。
図5および
図6に示すように、第1ケーシング510および第2ケーシング520を近接させると、未硬化の液体ガスケット530および水540は押し潰され、水540が液体ガスケット530に吸収される。また、水540を吸収した液体ガスケット530は、接合部分512および接合部分522の間の空間に充填される。液体ガスケット530は、水硬化性を有する樹脂であり、この第3工程で、押し潰された未硬化の液体ガスケット530が水540と混じり合うことで、液体ガスケット530の硬化が促進される。
【0047】
このとき、未硬化の液体ガスケット530の一部である壁状部534は、第1ケーシング510の接合部分512および第2ケーシング520の第1接合部分522aにより押し潰され、ケーシング500の内側に向けて進入し、凹部522bに充填される。
【0048】
ここで、壁状部534は、基部532の幅方向Wの最も内側に位置することから、凹部522bに液体ガスケット530の一部である壁状部534を充填し易くすることができる。
【0049】
また、液体ガスケット530および水540が押し潰される間も、壁状部534は内側に向かう水540の移動を制限する。そのため、
図6に示すように、液体ガスケット530が吸収しきれなかった余分な水540は、ケーシング500の外側に押し出され、ケーシング500の外部空間に排出される。
【0050】
このようにして、接合部分512および接合部分522の間の空間に液体ガスケット530が充填された状態で硬化することで、第1ケーシング510および第2ケーシング520が接合される。
【0051】
つぎに、本実施形態に係る第1ケーシング510および第2ケーシング520を接合することにより、内部に中空空間Sを有するケーシング500を製造するケーシング500の製造方法について説明する。
図7は、本実施形態に係るケーシング500の製造方法のフローチャートである。
図7に示すように、ケーシング500の製造方法は、液体ガスケット530を塗布する第1工程S100と、水540を付与する第2工程S200と、第1ケーシング510および第2ケーシング520を接合する第3工程S300とを含む。
【0052】
(第1工程S100)
第1工程S100では、第1ケーシング510と第2ケーシング520との接合部分である第1接合部分522aに沿って、未硬化の液体ガスケット530を、壁状部534を含む断面形状で塗布する。ここでは、未硬化の液体ガスケット530を塗布する塗布機600を用いて、第1接合部分522aに液体ガスケット530を塗布する。
【0053】
図8は、本実施形態に係る塗布機600により未硬化の液体ガスケット530を塗布する様子を示す第2ケーシング520の概略上面図である。また、
図9は、本実施形態に係る塗布機600のノズル610を側面610bから見た概略側面図である。
【0054】
図8に示すように、塗布機600は、ノズル610を有する。また、
図9に示すように、ノズル610の内部には、液体ガスケット530を流通させる流路610aが形成される。流路610aは、ノズル610の中心軸Cに沿って延びるように形成される。
【0055】
また、ノズル610は、中心軸C周りに回転可能に構成される。具体的に、塗布機600には、不図示のモータが搭載され、モータは、ノズル610を中心軸C周りに回転させる。
【0056】
図9に示すように、ノズル610の側面610bには、流路610aと連通する吐出口612が形成される。吐出口612は、液体ガスケット530の基部532および壁状部534を含む断面形状に対応する形状を有する。具体的に、吐出口612は、基部532の断面形状に対応する形状を有する基部吐出部612aと、壁状部534の断面形状に対応する形状を有する壁状部吐出部612bとを有する。
【0057】
吐出口612は、ノズル610の中心軸Cと直交する方向に向いており、流路610aを流通した液体ガスケット530は、ノズル610の側面610bから中心軸Cと直交する方向に吐出される。液体ガスケット530は、ノズル610の側面610bに形成された吐出口612から吐出されることで、立体的な壁状部534を含む断面形状を維持したまま、第1接合部分522aに塗布される。換言すれば、吐出口612は、ノズル610の側面610bから液体ガスケット530を吐出することで、立体的な壁状部534を含む断面形状を維持したまま、液体ガスケット530を第1接合部分522aに塗布することができる。
【0058】
塗布機600は、不図示の駆動装置により、第1接合部分522aに沿って移動させられる。このとき、不図示のモータがノズル610を回転させることで、吐出口612の向きを変更しながら、液体ガスケット530を第1接合部分522aに沿って塗布することができる。
【0059】
不図示のモータは、ノズル610の吐出口612の位置と、第1接合部分522aの位置とに応じてノズル610を回転させる。具体的に、モータは、ノズル610の吐出口612の位置が第1接合部分522aの角部に位置するとき、吐出口612の壁状部吐出部612bがケーシング500の内側に位置するように、ノズル610の回転角度を調整する。こうすることで、壁状部534を常にケーシング500の内側に配置しつつ、液体ガスケット530を第1接合部分522aに沿って塗布することができる。
【0060】
(第2工程S200)
第2工程S200では、第1接合部分522aに塗布された液体ガスケット530のうち壁状部534よりも外側部分に対して、水540を付与する。水540は、不図示の水供給ノズルにより、液体ガスケット530に塗布、滴下あるいは噴霧される。第2工程S200については、
図5を用いて詳細に説明したため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0061】
(第3工程S300)
第3工程S300では、第1ケーシング510および第2ケーシング520を近接させて、第1接合部分522aに塗布された液体ガスケット530を水540とともに押し潰して硬化させることにより、第1ケーシング510と第2ケーシング520とを接合する。第3工程S300については、
図6を用いて詳細に説明したため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0062】
以上、本実施形態によれば、液体ガスケット530は、壁状部534を含む断面形状で塗布され、水540は、液体ガスケット530のうち壁状部534よりも外側部分に対して付与される。ここで、壁状部534は、ケーシング500の内側に向かう水540の移動を制限する。これにより、液体ガスケット530の硬化を促進させるための水540が付与された場合に、水540が中空空間Sに浸入することを抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、壁状部534を含む液体ガスケット530の断面形状は、壁状部534が液体ガスケット530の幅方向Wの中心位置Oよりも内側に配置される断面形状である。これにより、水540が液体ガスケット530の幅方向Wの中心位置Oよりも内側に移動することを制限することができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、第1ケーシング510または第2ケーシング520の少なくとも一方のうち接合部分522は、第1接合部分522aと、第1接合部分522aよりも内側に形成された第2接合部分としての凹部522bを有する。ここで、第1ケーシング510および第2ケーシング520を接合する第3工程では、第1ケーシング510および第2ケーシング520の近接により押し潰された液体ガスケット530の一部がケーシング500の内側に向けて進入する。そして、液体ガスケット530は、凹部522bに充填された状態で硬化する。これにより、接合部分512と凹部522bとの間の液体ガスケット530の厚さT2を、接合部分512と第1接合部分522aとの間の液体ガスケット530の厚さT1よりも厚くすることができる。その結果、接合部分512と凹部522bとの間の液体ガスケット530の剥離を抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、塗布機600のノズル610は、壁状部534を含む断面形状に対応する吐出口612を有する。また、塗布機600のノズル610は、当該ノズル610の中心軸C周りに回転可能に構成されている。また、ノズル610の吐出口612は、中心軸Cと直交する方向に向いている。そして、ノズル610を回転させることで、吐出口612の向きを変更しながら、第1接合部分522aに沿って液体ガスケット530を塗布する。これにより、立体的な壁状部534を含む断面形状を維持したまま、液体ガスケット530を第1接合部分522aに塗布することができる。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
例えば、上記実施形態では、第1ケーシング510および第2ケーシング520を接合することにより、内部に中空空間Sを有するケーシングが、ケーシング500である例について説明した。しかし、これに限定されず、第1ケーシング510および第2ケーシング520を接合することにより、内部に中空空間Sを有するケーシングは、シリンダブロックとオイルパンとが接合されたエンジン200のケーシングであってもよい。また、第1ケーシング510および第2ケーシング520を接合することにより、内部に中空空間Sを有するケーシングは、内部の中空空間Sに電子部品が設けられるECU(Engine Control Unit)やTCU(Transmission Control Unit)のケーシングであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
100 車両
200 エンジン
300 動力伝達装置
310 トルクコンバータ
320 前後進切換機構
330 CVT
400 車輪
500 ケーシング
510 第1ケーシング
512 接合部分
520 第2ケーシング
522 接合部分
522a 第1接合部分
522b 凹部
530 液体ガスケット
532 基部
534 壁状部
600 塗布機
610 ノズル
610b 側面
612 吐出口