(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061238
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
A61C 17/22 20060101AFI20240425BHJP
A46B 5/00 20060101ALI20240425BHJP
A46B 3/04 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A61C17/22 E
A46B5/00 B
A46B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169060
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】香嶋 郁美
(72)【発明者】
【氏名】和田 行紀
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202AB01
3B202CA01
3B202CA05
3B202DB01
3B202EA01
3B202EA06
(57)【要約】
【課題】芯材部の周囲に光透過性の二次樹脂を成形して意匠性や装飾性を高める歯ブラシであって、被覆部を通じて見える芯材部の稜線がはっきりと見え、芯材部の形状が綺麗に見えるとともに、被覆部への芯材部の映り込みを抑え、意匠性や装飾性の高い歯ブラシを提供せんとする。
【解決手段】ハンドル体Hは、一次樹脂により成形される軸状の芯材部4と、二次樹脂により芯材部の上に成形される光透過性の被覆部5とから構成され、被覆部5の外周面における毛束10の突出方向である前方の腹側の面に、該腹側から見て少なくとも芯材部4における軸に直交する左右方向の幅W1の略全ての範囲を覆う断面視略一定曲率の外凸の曲面領域71を有している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛束が植設されるヘッド部と、該ヘッド部に連設されたハンドル体とを備える歯ブラシであって、
前記ハンドル体は、一次樹脂により成形される軸状の芯材部と、二次樹脂により前記芯材部の上に成形される光透過性の被覆部とから構成され、
前記被覆部の外周面における前記毛束の突出方向である前方の腹側の面に、該腹側から見て少なくとも前記芯材部における軸に直交する左右方向の幅の略全ての範囲を覆う断面視略一定曲率の外凸の曲面領域を有していることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記曲面領域が、前記被覆部の外周面における、腹側から見て前記芯材部の左右方向の幅が、前記被覆部の軸方向両端部に対応する各位置を除き、最も大きい位置を被覆している部分の前記腹側の面に、少なくとも設けられている、請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記被覆部の前記曲面領域の左右の側端部が、前記腹側から見て、前記芯材部の前記幅を為す左右の稜線からそれぞれ0.5mm内側の位置よりも外側に位置している、請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記曲面領域の前記断面視の曲率半径が、該軸方向位置での前記被覆部の前後方向の幅の半分の値よりも大きい略一定の値である、請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記被覆部の外周面における、腹側の面に前記曲面領域が形成されている部分の左右側面に、左右側方から見て少なくとも前記芯材部の前後方向の幅の略全ての範囲を覆う断面視略一定曲率の外凸の第2の曲面領域を有していることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記被覆部の外周面における腹側の曲面領域と、前記左右側面の第2の曲面領域との間に、それぞれ双方の曲面よりも曲率の大きな第3の曲面領域を有する、請求項5記載の歯ブラシ。
【請求項7】
腹側から見た、前記腹側の曲面領域および前記左右の第3の曲面領域の各境界位置と、前記左右の第3の曲面領域および前記左右の第2の曲面領域の各境界位置との間の左右の各中間の位置が、それぞれ前記腹側から見て、前記芯材部の前記全幅を為す左右の稜線の位置よりも外側に位置している、請求項6記載の歯ブラシ。
【請求項8】
前記被覆部は、軸方向に沿った少なくとも前記曲面領域が形成されている位置において芯材部の全周を覆っている、請求項1記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛束が植設されるヘッド部と、該ヘッド部に連設されたハンドル体とを備える歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシの構成のうち、特にヘッド部は、毛束を植毛する際の割れが生じないこと、歯磨き剤などの薬品類からの影響に耐えること、歯磨き時に受ける各種応力に耐えること等、高度な物理的特性および耐薬品性が求められる。このため、ヘッド部には、ポリオレフィン系の樹脂など、使用に適した樹脂材料が限られる傾向にある。これに対し、ハンドル体には、ヘッド部やネック部ほどの高度な物理的特性および耐薬品性は求められず、比較的材料の選択が自由である。
【0003】
このため、ハンドル体を、一次樹脂によりヘッド部と一体成形される芯材部と、二次樹脂により芯材部に組み合わせて成形される光透過性部分とから構成し、意匠性や装飾性など、物理的特性や耐薬品性以外の機能を付与しうるもの(例えば、透明性の高い樹脂など)を選択する二色成形の歯ブラシが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
これに対し、本発明者は、すでに前記芯材部の外周面に意匠性や装飾性を付与し、その周囲に光透過性の二次樹脂を成形することで、芯材部の意匠性や装飾性を高める歯ブラシを提案している(特願2021-125664号)。しかしながら、芯材部と被覆部の各形状の組み合わせによっては、被覆部を通じて見える芯材部の稜線がぼやけて見え、芯材部の形状が綺麗に見えないばかりか、被覆部の本来透明に見えるべき部分に芯材部が映り込み、全体として意匠性や装飾性が著しく低下してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、芯材部の周囲に光透過性の二次樹脂を成形して意匠性や装飾性を高める歯ブラシであって、被覆部を通じて見える芯材部の稜線がはっきりと見え、芯材部の形状が綺麗に見えるとともに、被覆部への芯材部の映り込みを抑え、意匠性や装飾性の高い歯ブラシを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる現況に鑑み、鋭意検討した結果、被覆部の外周面の断面視の曲率が大きく変化する部分での乱反射あるいはレンズ効果により、本来透明に見えるべき位置に芯材部が映り込んだり、芯材部自体の稜線がぼやけてしまうことが生じると考え、特に意匠性・装飾性に大きな影響を与える腹側の面において、被覆部の外周面の少なくとも芯材部とほぼ重なる領域の曲率を略一定にすることで、上記映り込みや稜線のぼやけを防止でき、本来目指した芯材部と光透過性の被覆部との組み合わせによる高い意匠性や装飾性を発揮させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 毛束が植設されるヘッド部と、該ヘッド部に連設されたハンドル体とを備える歯ブラシであって、前記ハンドル体は、一次樹脂により成形される軸状の芯材部と、二次樹脂により前記芯材部の上に成形される光透過性の被覆部とから構成され、前記被覆部の外周面における前記毛束の突出方向である前方の腹側の面に、該腹側から見て少なくとも前記芯材部における軸に直交する左右方向の幅の略全ての範囲を覆う断面視略一定曲率の外凸の曲面領域を有していることを特徴とする歯ブラシ。
【0009】
(2) 前記曲面領域が、前記被覆部の外周面における、腹側から見て前記芯材部の左右方向の幅が、前記被覆部の軸方向両端部に対応する各位置を除き、最も大きい位置を被覆している部分の前記腹側の面に、少なくとも設けられている、(1)記載の歯ブラシ。
【0010】
(3) 前記被覆部の前記曲面領域の左右の側端部が、前記腹側から見て、前記芯材部の前記幅を為す左右の稜線からそれぞれ0.5mm内側の位置よりも外側に位置している、(1)記載の歯ブラシ。
【0011】
(4) 前記曲面領域の前記断面視の曲率半径が、該軸方向位置での前記被覆部の前後方向の前後方向の幅寸法の半分の値よりも大きい略一定の値である、(1)記載の歯ブラシ。
【0012】
(5) 前記被覆部の外周面における、腹側の面に前記曲面領域が形成されている部分の左右側面に、左右側方から見て少なくとも前記芯材部の前後方向の幅の略全ての範囲を覆う断面視略一定曲率の外凸の第2の曲面領域を有していることを特徴とする(1)~(4)の何れかに記載の歯ブラシ。
【0013】
(6) 前記被覆部の外周面における腹側の曲面領域と、前記左右側面の第2の曲面領域との間に、それぞれ双方の曲面よりも曲率の大きな第3の曲面領域を有する、(5)記載の歯ブラシ。
【0014】
(7) 腹側から見た、前記腹側の曲面領域および前記左右の第3の曲面領域の各境界位置と、前記左右の第3の曲面領域および前記左右の第2の曲面領域の各境界位置との間の左右の各中間の位置が、それぞれ前記腹側から見て、前記芯材部の前記全幅を為す左右の稜線の位置よりも外側に位置している、(6)記載の歯ブラシ。
(8) 前記被覆部は、軸方向に沿った少なくとも前記曲面領域が形成されている位置において前記芯材部の全周を覆っている、(1)記載の歯ブラシ。
【発明の効果】
【0015】
被覆部を通じて見える芯材部の稜線がはっきりと見え、芯材部の形状が綺麗に見えるとともに、被覆部への芯材部の映り込みを抑え、本来目指した芯材部と光透過性の被覆部との組み合わせによる高い意匠性や装飾性を発揮させることができる。また、腹側の面にこのような断面視略一定曲率の外凸の曲面領域を有していることで、表面の歪みが少なく、持ちやすく操作しやすい歯ブラシを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の代表的実施形態に係る歯ブラシを植毛面側(腹側/前側)からみた平面図。
【
図3】同じく歯ブラシの一次成形品を実線で示した側面図。
【
図4】(a)は同じく歯ブラシの
図1のA-A端面図、(b)はB-B端面図,(c)はC-C端面図,(d)はD-D端面図,(e)はE-E端面図。
【
図6】実施例1のサンプルの本体部の形状、各寸法を示す図。
【
図7】実施例2のサンプルの本体部の形状、各寸法を示す図。
【
図8】実施例3のサンプルの本体部の形状、各寸法を示す図。
【
図9】比較例1のサンプルの本体部の形状、各寸法を示す図。
【
図10】比較例2のサンプルの本体部の形状、各寸法を示す図。
【
図11】各サンプルの本体部の部分を腹側から撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
本発明にかかる歯ブラシTは、
図1~
図3に示すように、先端側のヘッド部1と、基端側のハンドル体Hとを備える手動の歯ブラシである。ハンドル体Hは、ネック部2とハンドル部3とから構成されており、ネック部2は、ヘッド部1の後端側に連設されている。ハンドル部3は、ヘッド部1、ネック部2とともに一次樹脂により一体成形される軸状の芯材部4と、二次樹脂により芯材部4の上に成形される光透過性の被覆部5とから構成されている。
【0019】
芯材部4と光透過性の被覆部5とは、二色成形により形成される。芯材部4は、ハンドル体Hを構成するハンドル部3の一部又は全部、ネック部2の一部又は全部、ハンドル部3及びネック部2のそれぞれの一部又は全部に形成されていてもよい。本発明において、「光透過性」とは、可視光の透過を認めることができることを意味する。また、可視光を透過しない物質(例えば、ラメ、顔料など)を少量混合した樹脂であっても、可視光を透過することができれば光透過性に該当する。
【0020】
ヘッド部1は、
図2に示すように、略平板状の植毛台11を有するとともに、この植毛台11の腹面側に位置する植毛面12に複数の毛束10が植毛されている。毛束10は、植毛台11に形成された植毛穴に対し、平線とともに打ち込んで植毛するものや、平線を使用せずに融着式やインモールド式などで毛束10を立設したものでも勿論よい。植毛台11の厚みt1は、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.0mm以下に構成される。
【0021】
毛束10を構成する各フィラメントの材質も特に限定されず、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィンなどの樹脂材料からなる人工毛でもよく、豚毛などの天然毛でもよい。その他、毛束10の断面形状や断面の大きさなども、公知の形態を広く採用できる。毛束10の数や配列も、特に限定されない。
【0022】
ネック部2は、中央の位置よりも先端側の部分について、前後方向の厚み寸法、左右方向の幅寸法は、いずれも5.5mm以下、より好ましくは3.5mm以上、4.5mm以下の細型ネックとされている。このように、中央の位置よりも先端側の部分について、厚み及び幅を薄型ヘッドに対応させて5.5mm以下に形成した場合、奥歯の細かい部位までヘッド部1が届き、奥歯を含めて口腔内全体をより確実にしっかりと磨くことが可能である。ネック部2の基端側の残りの部分は、その先端部から基端部に向かって径寸法が拡大するとともに、その拡大率が基端側程大きくなった末広がり形状(ラッパ型の形状)を有している。
【0023】
ハンドル部3の芯材部4は、
図4に示すように、被覆部5が被覆される棒状部41と、この棒状部41の前面(腹面)側に、軸方向に間隔をおいて突設された単または複数の円柱状の突部42,43と、棒状部41の基端に設けられた円板形の板状部44とを有している。棒状部41は、
図4の(a)~(e)の各端面図からも分かるように、断面形状が軸方向の位置によって変化する(略四角形、略楕円、等)が、本発明の効果は芯材部4のこれら形状によって影響されるものではなく、どのような断面視形状(本例の形状以外に、略三角形やひし形、その他異形の形等)であっても、腹側からみたその左右の幅(稜線の間の距離)と被覆部の曲面領域との関係が本発明の要件を満たすことで同様の効果を奏する。
【0024】
突部42、43は、二次金型内にセットする際のスペーサ、背面側のゲートから二次樹脂を射出した際に芯材部4が金型内で湾曲しない為の支持台として機能し、さらに、被覆部5の二次樹脂が芯材部4の一次樹脂に対して密着性(溶着性、接着性)の低い樹脂で成形される場合に、成形後の互いの相対移動を防止する係止片としても機能する。
【0025】
ハンドル部3の先端側の領域には、
図1及び
図2に示すように、径方向に膨出した指当て部31が設けられている。指当て部31は、その前後の幅と左右の幅とが略同じ寸法の形状である。このような形状であれば、ペングリップ法またはパームグリップ法の何れ把持状態においても、ハンドル部3を適正に把持することが可能であり、ヘッド部1を正確に操作して、優れた清掃性が得られる。
【0026】
指当て部31の先端部には、ネック部2との接続位置に向かって径方向寸法が次第に小さくなるように構成された先窄まりのテーパー形状部30が設けられている。このテーパー形状部30は、上記した芯材部4の先端部4aとこれに被覆された被覆部5とより構成される。テーパー形状部30を構成する被覆部5は先窄まりに傾斜し、その外周面はネック部2の基端部の末広がり形状の外周面に連続的に接続される。
【0027】
指当て部31、及びその基端側部分は、ハンドル部3の軸方向中央位置32に向かって幅寸法が次第に小さくなるように構成されている。指当て部31とハンドル部3の軸方向中央位置32との間における幅寸法の減少率は、10~40%に設定される。これにより歯ブラシ全体の重心をハンドル部3の軸方向中央よりも先端側に位置する指当て部31を含む所定領域内に位置させるように構成することができる。
【0028】
また、前記軸方向中央位置32よりも基端側部分には、ハンドル部3の基端側に向かって幅寸法が次第に大きくなるように構成された拡径部33と、ハンドル部3の基端側に向かって幅寸法が次第に小さくなるように構成された端末部34とが設けられている。また、ハンドル部3の背面側(後面側)には、ハンドル部3の軸方向略全長に亘って延びる長尺な平坦面35が設けられている。これにより、ハンドル部3を把持する際のグリップ力を効果的に向上させることができる。しかも、歯ブラシの背面(平坦面35)をテーブルの上等に載置する際に、安定した載置状態が得られる等の利点がある。
【0029】
そして、ハンドル部3の腹側の面には、
図5の各位置の端面図からも分かるように、軸方向ほぼ全域にわたり、該腹側から見て少なくとも芯材部4の左右の幅W1の略全ての範囲を覆う断面視略一定曲率の外凸の曲面領域71が形成されており、これにより、腹側からみて、光透過性の被覆部5を通じて芯材部4の稜線B1、B2がはっきりと確認でき、芯材部4の形状が綺麗に見えるとともに、被覆部5への芯材部4の形状の映り込みが抑えられ、高い意匠性や装飾性を発揮させることが可能とされている。図示した例では、腹側からみて、曲面領域71が芯材部4の幅W1の全ての領域を完全に覆っているが、略全ての領域、具体的には、曲面領域71の左右の側端部60、61が芯材部4の左右の稜線B1、B2からそれぞれ0.5mm内側の位置よりも外側に位置していれば、同様の効果が得られる。
【0030】
また曲面領域71は、本例では軸方向のほぼすべての領域に設けられているが、これに限定されるものではない。芯材部4の稜線が最もぼやけやすい位置、具体的には芯材部4の左右方向の幅W1が、被覆部の軸方向両端部に対応する各位置50、51を除き、最も大きくなる位置(本例では、指当て部31の先端側の最も幅が大きくなる位置であるB-B端面の位置52)を被覆している部分に曲面領域71が設けられることが重要となるが、少なくとも当該部分に設けられるのであれば軸方向に沿った一部の領域に設けられてもよい。とくにペングリップで操作することを考えると、少なくとも指当て部のうち上記最も幅が大きくなる位置から基端側へ10~15mmまでの範囲には、上記曲面領域71が形成されていることが安定した操作がしやすくなる点で好ましい。
【0031】
曲面領域71の断面視の曲率半径は、軸方向位置(たとえば位置52)での前記被覆部5の前後方向の幅T2の寸法の半分の値よりも大きい略一定の値であることが好ましい。これにより意匠性や美観に影響の大きい腹側の面が曲率の小さい扁平な形状となり、芯材部4の稜線B1、B2、すなわち芯材部4の形を腹側からよりクリアに綺麗に見せることができる。
【0032】
また、本例では、曲面領域71が形成されている部分の左右側面に、左右側方から見て少なくとも芯材部4の前後方向の幅T1の略全ての範囲を覆う断面視略一定曲率の外凸の第2の曲面領域72を有している。これにより歯ブラシの本体部を腹側を正面にして見るときだけでなく、側方あるいは腹側と側方の間の斜め方向から見た場合にも芯材部4の形状が綺麗に見え、芯材部4の形状の映り込みも抑えられ、より高い意匠性や装飾性を発揮させることが可能とされている。
【0033】
腹側の曲面領域71と、前記左右側面の第2の曲面領域72との間には、それぞれ双方の曲面よりも曲率の大きな第3の曲面領域73を有している。腹側から見た、曲面領域71および前記左右の第3の曲面領域73の各境界位置60、61と、左右の第3の曲面領域73および左右の第2の曲面領域72の各境界位置62、63との間の左右の各中間の位置c1、c2が、それぞれ腹側から見て、芯材部4の全幅W1を為す左右の稜線B1、B2の位置よりも外側に位置しておれば、芯材部4の稜線B1、B2がよりはっきりと確認でき、芯材部4の形状がより綺麗に見え、芯材部4の形状の映り込みもより抑えられる。第3の曲面領域73は、本例では曲面領域71、72の間に一つの第3の曲面領域73が介在しているが、互いに曲率の異なる第3の曲面領域73を複数連設したものでもよい。本実施形態では、被覆部5は、軸方向に沿ったすべての領域において芯材部4の全周を覆っているが、これに限定されるものではない。ただし、軸方向に沿った少なくとも前記曲面領域が形成されている位置において芯材部の全周を覆っていることが美観の上では好ましい。被覆部5が芯材部4の全周を覆うことで、被覆部5と芯材部4が互いに密着性の低い樹脂で構成されていても被覆部5が安定保持される。
【0034】
一体成形されるヘッド部1、ネック部2及びハンドル部3の芯材部4の成形に用いられる一次樹脂は、光透過性の被覆部5の成形に用いられる二次樹脂よりも融点が高い樹脂を選ぶ。一次樹脂には、例えば、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂がより好ましい。光透過性の二次樹脂の選択を考慮して、一次樹脂の融点は、225~265℃である樹脂が好ましく、ポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の硬質樹脂が好適である。ポリアミド系樹脂としては、6-ナイロン、6,6-ナイロン等が好適である。色についても特に限定はない。
【0035】
芯材部4の表面は、光透過性の被覆部5を通して目視できることから、例えば色のついた芯材部4の表面に凹凸を有する模様を設けることで、よりデザイン性に優れた歯ブラシとすることが可能である。例えば、幾何学模様、綾目模様、市松模様、千鳥模様等の模様が挙げられる。色も特に限定はない。
【0036】
被覆部5を構成する二次樹脂は、一次樹脂よりも融点が低く、かつ光透過性の樹脂を広く用いることができる。また、光透過性の度合は、全光線透過率40%以上の樹脂を用いることが好ましい。全光線透過率は、JIS K7375:2008に記載の方法により測定することができる。80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。芯材部4、被覆部5ともに硬質樹脂で成形されることが好ましい。
【0037】
具体的には、二次樹脂は一次樹脂に比べて耐熱温度が低い硬質合成樹脂、例えばポリカーボネート(PC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS樹脂)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、もしくはポリプロピレン(PP)等からなるとともに、光透過性を有する素材が好適である。PC、ABS等の融点をもたない樹脂を使用することもできる。このような樹脂はガラス転移点が一次樹脂の融点よりも低い樹脂であればよい。
【0038】
被覆部5は、200~300℃の成形温度で溶融された二次樹脂の固化物で構成されていることが好ましい。この温度範囲で溶融された二次樹脂を用いることで、二色成形時に、一次樹脂の溶融を効率よく抑えることができ、透明性に優れた光透過性の被覆部5を形成し易い利点がある。
【0039】
また、芯材部4と被覆部5とは、互いに低密着(低溶着/低接着)の性質を有する硬質の合成樹脂の組み合わせ、つまり成形時に混ざり合うことなく、成形後に互いに分離した状態となる性質を有する硬質樹脂を用いることが好ましい。例えば、一次樹脂がポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、もしくはポリプロピレン(PP)等からなる結晶化樹脂であって、二次樹脂は、同じ結晶化樹脂、又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)もしくはポリメチルメタクリレート(PMMA)等からなる非結晶化樹脂のいずれかである場合互いに密着しにくい性質であるため、互いに低密着な樹脂に該当する。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施の例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0041】
次に、本体部を構成する芯材部4の形状が互いに異なる5種の歯ブラシサンプル(実施例1~3、比較例1、2)を作製し、各サンプルについて、腹側から写真撮影して芯材部4の稜線の様子や被覆部への芯材部4の映り込みを確認した試験について説明する。
【0042】
実施例1のサンプルは、
図6に示す形状、寸法、端面形状を備え、芯材部4をポリブチレンテレフタレート(PBT)より成形し、被覆部5をポリカーボレート(PC)より成形した。被覆部の全光線透過率(JIS K7375:2008)は91%である。
【0043】
実施例2のサンプルは、
図7に示す形状、寸法、端面形状を備えている。芯材部4を成形する樹脂、被覆部5を成形する樹脂、被覆部5の光透過率、外形(被覆部5の外形)の形状、寸法は、いずれも実施例1と同じである。すなわち、実施例1とは芯材部4の形状、寸法のみ異なるサンプルである。
【0044】
実施例3のサンプルは、
図8に示す形状、寸法、端面形状を備えている。芯材部4を成形する樹脂、被覆部5を成形する樹脂・光透過率、外形(被覆部5の外形)の形状、寸法は、いずれも実施例1と同じである。すなわち、実施例1とは芯材部4の形状、寸法のみ異なるサンプルである。
【0045】
比較例1のサンプルは、
図9に示す形状、寸法、端面形状を備えている。芯材部4を成形する樹脂、被覆部5を成形する樹脂、光透過率、外形(被覆部5の外形)の形状、寸法は、いずれも実施例1と同じである。すなわち、実施例1とは芯材部4の形状、寸法のみ異なるサンプルである。
【0046】
比較例2のサンプルは、
図10に示す形状、寸法、端面形状を備えている。芯材部4を成形する樹脂、被覆部5を成形する樹脂、光透過率、外形(被覆部5の外形)の形状、寸法は、いずれも実施例1と同じである。すなわち、実施例1とは芯材部4の形状、寸法のみ異なるサンプルである。
【0047】
試験の結果を、
図11に示す。腹側から見た、芯材部4の最も左右幅の大きい位置(B-B端面の位置)を被覆している部分において、曲面領域71および左右の第3の曲面領域73の各境界位置60、61と、左右の第3の曲面領域73および左右の第2の曲面領域72の各境界位置62、63との間の左右の各中間の位置c1、c2が、それぞれ腹側から見て、芯材部4の全幅W1を為す左右の稜線B1、B2の位置よりも外側に位置している実施例1~3では、
図11に示すように、芯材部の稜線がよりはっきりと確認でき、芯材部の形状がより綺麗に見え、芯材部の形状の映り込みもより抑えられることが分かる。
【0048】
中間の位置c1、c2が芯材部4の左右の稜線B1、B2の位置よりも内側に位置している比較例1、2では、芯材部の稜線がぼやけてしまい、被覆部に芯材部が映り込んでいることが分かる。