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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061241
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】化粧料用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20240425BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240425BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240425BHJP
   C08B 15/04 20060101ALN20240425BHJP
   C08B 11/12 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/25
A61Q1/02
C08B15/04
C08B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169064
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】宮田 苑加
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸治
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AB051
4C083AB431
4C083AB432
4C083AD261
4C083AD262
4C083AD271
4C083AD272
4C083CC02
4C083DD39
4C083EE03
4C083EE07
4C090AA08
4C090BA26
4C090BA29
4C090BC09
4C090CA34
4C090CA37
4C090DA26
(57)【要約】
【課題】 分散安定性に優れ、肌に塗布した場合に、滑らかな外観を与える効果、及び光沢度の向上効果を得ることが可能な化粧料用組成物を提供する。
【解決手段】 アニオン変性セルロースナノファイバーと、板状顔料と、水とを含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン変性セルロースナノファイバーと、板状顔料と、水とを含む化粧料用組成物。
【請求項2】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーである請求項1記載の化粧料用組成物。
【請求項3】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、前記カルボキシアルキル基として、カルボキシメチル基を有するものであり、カルボキシメチル置換度が0.01~0.50のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである請求項2に記載の化粧料用組成物。
【請求項4】
さらにカルボキシメチルセルロースを含有する請求項1又は2に記載の化粧料用組成物。
【請求項5】
前記板状顔料がマイカである、請求項1又は2に記載の化粧料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアニオン変性セルロースナノファイバーを含む化粧料用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水性の化粧料用組成物は、皮膚等への適用時に高い清涼感が得られることや、油性の化粧料用組成物と比べて使用後のべたつきがなく、さらっとした使用感であることから、様々な種類の化粧料向けに開発が進められている。
【0003】
メイクアップ化粧料においては、天然マイカや合成マイカ等の顔料、パール顔料等を配合してつや感を出すことが行われているが、水性の化粧料用組成物に添加した場合は、長期間静置すると、添加した顔料が分離・沈降する場合があった。
【0004】
水性の化粧料用組成物において、顔料等の経時の分離・沈降を防止するため、特定の脂質ペプチド型化合物を分散剤として用いることが行われている(例えば特許文献1)。
【0005】
ところで、近年、セルロース繊維をナノサイズに解繊したセルロースナノファイバーが注目されている。セルロース繊維は、木材などのパルプを原料とするバイオマスであって、これを有効利用することによって、環境負荷低減が期待される。
【0006】
特許文献2には、マイカ等の粉末、油剤及び/又は多価アルコール、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリー状組成物を得て、この組成物から水を除去することにより固形粉末化粧料を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/190383号
【特許文献2】特開2019-43854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイカ等の顔料を含有させた場合であっても、顔料の沈降が生じにくい液状の化粧料用組成物が求められていた。また、環境負荷低減に寄与することも求められる。特許文献2は、固形粉末化粧料に関する技術であるため、液状の化粧料用組成物にそのまま適用することは難しかった。
【0009】
本発明の目的は、分散安定性に優れ、肌に塗布した場合に、滑らかな外観を与える効果、及び光沢度の向上効果を得ることが可能な化粧料用組成物を提供することである。
【0010】
本発明者は上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、アニオン変性セルロースナノファイバーを用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、以下を提供する。
(1) アニオン変性セルロースナノファイバーと、板状顔料と、水とを含む化粧料用組成物。
(2) 前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーである(1)記載の化粧料用組成物。
(3) 前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、前記カルボキシアルキル基として、カルボキシメチル基を有するものであり、カルボキシメチル置換度が0.01~0.50のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである(2)に記載の化粧料用組成物。
(4) さらにカルボキシメチルセルロースを含有する(1)又は(2)に記載の化粧料用組成物。
(5) 前記板状顔料がマイカである、(1)又は(2)に記載の化粧料用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分散安定性に優れ、肌に塗布した場合に、滑らかな外観を与える効果、及び光沢度の向上効果を得ることが可能な化粧料用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の測定用試料に関する、光沢度の測定結果を示すグラフである。
図2】実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の測定用試料に関する、SEM観察結果である:(a)表面観察結果(二次電子モード);(b)表面観察結果(反射電子モード);(c)断面観察結果(反射電子モード)。
図3】実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2で用いたCMC含有CM化CNF、カルボキシル化CNF、CMC、キサンタンガムの0.5質量%濃度の水溶液(分散液)のせん断粘度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0015】
本発明の化粧料用組成物は、アニオン変性セルロースナノファイバーと、板状顔料と、水とを含む。
【0016】
(セルロースナノファイバー)
本発明において、セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース原料であるパルプなどがナノメートルレベルまで微細化されたもので、繊維径が3~500nm程度の微細繊維である。セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長を平均することによって得ることができる。セルロースナノファイバーは、パルプに機械的な力を加えて微細化することで得られ、あるいは、カルボキシル化したセルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)、カルボキシメチル化したセルロース、リン酸エステル基を導入したセルロース、カチオン化したセルロースなどの化学変性により得られた変性セルロースを解繊することによって得ることができる。微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、化学変性処理、解繊処理により調整することができる。
【0017】
本発明に用いるセルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、10以上が好ましく、20以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0018】
(セルロース原料)
セルロース原料としては、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。植物または微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロース繊維がより好ましい。
【0019】
(アニオン変性)
本発明に用いるセルロースナノファイバーは、アニオン変性セルロースナノファイバーであることが好ましく、アニオン変性したセルロース原料を解繊することにより得ることができる。アニオン変性とは、セルロースにアニオン基を導入することであり、具体的には、酸化または置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入することである。本発明において前記酸化反応とは、ピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化する反応をいう。また、本発明において置換反応とは、当該酸化以外の置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入する反応である。
【0020】
アニオン変性セルロースナノファイバーの原料となるアニオン変性セルロースとしては、水や水溶性有機溶媒に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものを用いる。繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、分散媒に溶解するもの)を用いると、ナノファイバーを得ることができない。分散した際に繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、アニオン変性セルロースの分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるアニオン変性セルロースは好ましい。
原料のアニオン変性セルロースにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、解繊により繊維を微細化した後も溶解することのない結晶性セルロース繊維を充分に得ることができる。アニオン変性セルロースナノファイバーのセルロースI型の結晶化度は、50~90%であることが好ましく、60~80%であることがより好ましく、65~75%が特に好ましい。結晶化度が50%未満では分散効果が低下する。
セルロースの結晶性は、原料であるセルロースの結晶化度、及びアニオン変性の度合によって制御できる。アニオン変性セルロース及びアニオン変性CNFの結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
【0021】
(カルボキシル化)
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシ基とは、-COOH(酸型)または-COOM(塩型)をいう。ここで、Mは金属イオンであり、ナトリウムやカリウムが挙げられる。カルボキシル化セルロース(「酸化セルロース」とも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されないが、カルボキシル基の量はアニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.6~3.0mmol/gが好ましく、1.0~2.0mmol/gがさらに好ましい。カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0022】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であればいずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、セルロース原料を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.01~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度がよい。
【0023】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。当該変性は酸化反応による変性である。
【0024】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、2.5~25mmolがさらに好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0025】
セルロース原料の酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHが低下する。酸化反応を効率よく進行させるために、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を随時反応系中に添加して、反応液のpHを9~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
【0026】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後にろ別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する塩による反応阻害を受けることなく、セルロース原料に効率よくカルボキシル基を導入することができる。
【0027】
カルボキシル化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。カルボキシル化セルロースにおけるカルボキシル基量と、同カルボキシル化セルロースを解繊することにより得たカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量とは、通常同じである。
【0028】
本発明では、上記の工程で得られる酸化セルロースにおいて、セルロース原料に導入したカルボキシル基は、通常、塩型であり、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。解繊工程の前に、酸化セルロースのアルカリ金属塩を、ホスホニウム塩、イミダゾリニウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の他のカチオン塩に置換してもよい。置換は、公知の方法で行うことができる。
【0029】
(カルボキシアルキル化)
好ましいアニオン基としては、カルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基が挙げられる。本発明におけるカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)または-RCOOM(塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基、Mは金属イオンである。カルボキシアルキル化セルロースは公知の方法で得てもよく、また市販品を用いてもよい。セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は0.50以下であることが好ましい。さらにアニオン基がカルボキシメチル基である場合、カルボキシメチル置換度は0.50以下であることが好ましい。当該置換度が0.50より大きいと結晶性が低下し、溶解成分の割合が増加するため、ナノファイバーとしての機能が失われる。またカルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02~0.50であることが特に好ましく、0.10~0.40であることが更に好ましい。このようなカルボキシアルキル化セルロースを製造する方法の一例として、以下の工程を含む方法が挙げられる。当該変性は置換反応による変性である。カルボキシメチル化セルロースを例にして説明する。
i)発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理する工程、
ii)次いで、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う工程。
【0030】
発底原料としては前述のセルロース原料を使用できる。溶媒としては、3~20質量倍の水または低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、または2種以上の混合媒体を使用できる。低級アルコールを混合する場合、その混合割合は60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用できる。
【0031】
前述のとおり、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.01以上0.50以下であることが好ましく、0.02以上0.50以下であることがより好ましく、0.10以上0.40以下であることがさらに好ましい。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.02より小さいと、ナノ解繊が十分でない場合がある。カルボキシメチル化セルロースにおけるカルボキシメチル置換度と、同カルボキシメチル化セルロースを解繊することにより得たカルボキシメチル化セルロースナノファイバーのカルボキシメチル置換度とは、通常同じである。
【0032】
本発明では、上記の工程で得られるカルボキシアルキル化セルロースにおいて、セルロース原料に導入したカルボキシアルキル基は、通常、塩型であり、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。解繊工程の前に、カルボキシアルキル化セルロースのアルカリ金属塩を、ホスホニウム塩、イミダゾリニウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の他のカチオン塩に置換してもよい。置換は、公知の方法で行うことができる。
【0033】
なお、本明細書において、セルロースナノファイバーの調製に用いるアニオン変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化したセルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化したセルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化したセルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0034】
(エステル化)
アニオン変性セルロースとしてエステル化したセルロースを用いることもできる。セルロース原料にリン酸系化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。リン酸系化合物Aはリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用してリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応を均一に進行できかつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物Aは水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0035】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の例として、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10質量%のセルロース原料の懸濁液に、リン酸系化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2~500質量部であることが好ましく、1~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるので、コスト面から好ましくない。
【0036】
リン酸系化合物Aの他に化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよい。化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0037】
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。これらのエステル化による変性は置換反応による変性である。リン酸エステル化セルロースにおけるリン酸基置換度と、同リン酸エステル化セルロースを解繊することにより得たリン酸エステル化セルロースナノファイバーのリン酸基置換度とは、通常同じである。
【0038】
本発明では、上記の工程で得られるリン酸エステル化セルロースにおいて、セルロース原料に導入したリン酸基は、通常、塩型であり、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。解繊工程の前に、リン酸エステル化セルロースのアルカリ金属塩を、ホスホニウム塩、イミダゾリニウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の他のカチオン塩に置換してもよい。置換は、公知の方法で行うことができる。
【0039】
(解繊)
本発明において、アニオン変性セルロースを解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いてアニオン変性セルロースの水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、上記のCNFに予備処理を施すことも可能である。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0040】
分散処理においては通常、溶媒にアニオン変性セルロースを分散する。溶媒は、アニオン変性セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース原料が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
【0041】
分散体中のアニオン変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0042】
解繊処理又は分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0043】
解繊処理を経て得られたアニオン変性セルロースナノファイバーが塩型の場合は、そのまま用いても良いし、鉱酸を用いた酸処理や、陽イオン交換樹脂を用いた方法等により酸型として用いても良い。また、カチオン性添加剤を用いた方法により疎水性を付与して用いても良い。
【0044】
なお、本発明に用いるセルロースナノファイバーとしては、上記の解繊処理を経て得られたアニオン変性セルロースナノファイバーの水分散液をそのまま用いても良いし、乾燥・粉砕して得られた粉末状のものを用いてもよいし、水等の水系溶媒に再分散させたものを用いてもよい。
【0045】
なお、本発明に用いるセルロースナノファイバーは、固形分濃度1%、60rpm、25℃の条件におけるB型粘度が、好ましくは100~8400mPa・sであり、より好ましくは300~7000mPa・sである。
【0046】
本願発明に用いられるアニオン変性セルロースナノファイバーは、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度を固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、60rpmにおける粘度で除した値(単に「6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値」とも呼ぶ)が、6.0以上であることが好ましい。この値が高いほど、剪断応力の差によって粘度の変化が大きいことを示しており、チキソ性が高いことを示している。チキソ性の高いセルロースナノファイバーは、粘度調整剤や顔料分散剤として使用するのに適している。6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値の上限は限定されないが、実際は15.0程度が上限となると考えられる。
アニオン変性セルロースナノファイバーの6rpmにおける粘度(固形分1%(w/v)の水分散体、25℃)は、2000mPa・s以上であることが好ましく、3000mPa・s以上であることがさらに好ましい。低い剪断速度(6rpm)における粘度が高いほど、チキソ性が高くなる可能性がある。6rpmにおける粘度の上限は特に限定されないが、現実的には30000mPa・s程度となると考えられる。
アニオン変性セルロースナノファイバーの60rpmにおける粘度(固形分1%(w/v)の水分散体、25℃)は、100~8400mPa・s程度であることが好ましく、200~7000mPa・s程度であることがさらに好ましく、250~7000mPa・s程度であることがさらに好ましく、300~7000mPa・s程度であることがさらに好ましい。
【0047】
(板状顔料)
本発明に用いることができる板状顔料としては、マイカ、マイカチタン、タルク、セリサイト、ガラス、板状シリカ、板状セリウム、板状アルミナ、板状硫酸バリウムなどの板状の形状を持つ顔料が挙げられる。板状顔料は、適用する化粧料に合わせて選択することができ、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。
板状顔料の平均粒径は、十分な光沢を得る観点から、好ましくは10~1000μm、より好ましくは、10~500μmである。ここでいう平均粒径とは、体積平均粒子径をいい、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0048】
(化粧料用組成物)
本発明の化粧料用組成物は、アニオン変性セルロースナノファイバー、板状顔料、及び水を必須成分として、この水を含む水系溶媒に分散させたものである。本発明に用いる水系溶媒は、水、水溶性有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒であることが好ましい。化学変性パルプおよびCNFの分散性を考慮すると、水系溶媒としては水、または水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が好ましい。さらに、コスト、環境面、及び安全性の観点から、水系溶媒として水を用いることがより好ましい。
【0049】
水溶性有機溶媒とは、水に溶解する有機溶媒である。その例として、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、およびこれらの組合せが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数が1~4の低級アルコールが好ましく、安全性および入手容易性の観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。前記混合溶媒中の水溶性有機溶媒の量は、10質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。当該量の上限は限定されないが95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。また、発明の効果を損なわない程度で、当該水系溶媒は非水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の化粧料用組成物において、各成分の配合比率は特に制限されないが、化粧料用組成物中、板状顔料の含有量は適度なツヤを与える観点から好ましくは0.01~30質量%、より好ましくは0.05~25質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%である。また、化粧料用組成物中のセルロースナノファイバーの固形分濃度は、分散安定性および作業性の観点から好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.1~2質量%、さらに好ましくは0.2~1質量%である。また、顔料を均一に分散させる観点から、板状顔料100質量部に対して、CNFの固形分を0.01~2000質量部配合することが好ましく、0.1~1000質量部配合することがより好ましい。また、化粧料用組成物中の水系溶媒の含有量は、適度な清涼感や保湿性を得る観点から、50~99質量%であることが好ましく、60~95質量%であることがより好ましい。
【0051】
また、本発明の化粧料用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、CNF以外の分散剤を含んでいてもよい。CNF以外の分散剤としては、水溶性高分子、アクリル系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、ポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤、シリコーン系材料、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0052】
水溶性高分子としては、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、陽性澱粉、燐酸化澱粉、コーンスターチ、アラビアガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物を例示することができる。これらの中でも、分散性向上の観点から、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。
【0053】
(化粧料用組成物の製造方法)
本発明の化粧料用組成物の製造方法は、特に限定されず、アニオン変性セルロースナノファイバー、板状顔料を、水を含む水系溶媒に分散させることができれば、どのような方法であってもよい。例えば、板状顔料を水中で撹拌しながら、そこへアニオン変性セルロースナノファイバーの水分散液を添加してさらに撹拌する方法や、アニオン変性セルロースナノファイバーの水分散液に板状顔料を混合して撹拌する方法や、アニオン変性セルロースナノファイバーの水分散液に、板状顔料を水系溶媒に分散させたものを少量ずつ混合して撹拌する方法が挙げられる。本発明の化粧料用組成物は、常法の装置、手段により撹拌・混合して得ることができ、温度条件等は特に限定されない。
【0054】
本発明の化粧料用組成物は、アニオン変性セルロースナノファイバーを含むため、マイカ等の板状顔料が安定して分散され、沈降が生じにくい。その結果、この化粧料用組成物を肌に塗布した場合に、滑らかな外観を得ることができ、さらに、光沢度が向上する効果が得られる。したがって、この化粧料用組成物は、メイクアップ化粧品(アイシャドウ、リップ、ファンデーション、コンシーラー、下地など)に好適に用いることができる。
【0055】
本発明の化粧料用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記で例示した分散剤の他に、紫外線吸収剤、油剤、界面活性剤、防腐剤、香料、保湿剤、塩類、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤等を併用してもよい。
【実施例0056】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0057】
(製造例1)
(カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造)
回転数を100rpmに調節した5L容の二軸ニーダーに、イソプロパノール(IPA)1089部と、水酸化ナトリウム31部を水121部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量で200部仕込んだ。30℃で60分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸ナトリウム117部を添加し、30℃で30分間撹拌した後、30分かけて70℃に昇温し、70℃で60分間カルボキシメチル化反応をさせた。マーセル化反応時及びカルボキシメチル化反応時の反応媒中の水の割合は、10質量%である。反応終了後、中和し、65%含水メタノールで洗浄し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.27、セルロースI型の結晶化度64%のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。なお、セルロースI型の結晶化度の測定方法は、先述の通りである。
得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体とした。これを、150MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体を得た。得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3.2nm、アスペクト比が40であった。
【0058】
得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを水で固形分0.7質量%の分散体とし、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ということがある)(日本製紙(株)製、商品名:FS350HC-4、粘度(1質量%、25℃、60rpm)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.90)を、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーに対して40質量%(すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの固形分を100質量部としたときにカルボキシメチルセルロースの固形分が40質量部となるように)添加し、TKホモミキサー(12,000rpm)で60分間撹拌した。得られたCMC含有カルボキシメチル化(CM化)セルロースナノファイバーの水分散液を、水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを9に調整した後、ドラム乾燥装置で脱水・乾燥することにより乾燥固形物を得てから粉砕し、粉砕物を30メッシュを用いて分級し、CMC含有CM化セルロースナノファイバーの粉末を得た。
【0059】
(グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法)
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。メタノール90mLに特級濃硝酸10mLを加えて調製した液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチル化セルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出した:
A=[(100×F’-(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0060】
(製造例2)
(カルボキシル化セルロースナノファイバーの製造)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプを分離し、パルプを十分に水洗することでカルボキシル基を導入したパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。このカルボキシル化セルロースのカルボキシル基量は、1.42mmol/gであった。
このカルボキシル化パルプを水で希釈して固形分濃度1質量%に調整した後、超高圧ホモジナイザーを用いて150MPaの条件で3回解繊し、カルボキシル化セルロースナノファイバーを得た。得られたカルボキシル化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3nm、アスペクト比が250であった。
【0061】
(カルボキシル基量の測定)
カルボキシル化セルロース試料の0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
【0062】
(実施例1)
(化粧料用組成物の製造)
上記製造例1で得られたCMC含有CM化セルロースナノファイバーの粉末0.5gを25℃の水94.5gに加え、3000rpmで、60分間ホモディスパーで撹拌することにより、スラリーを得た。マイカ粉末(株式会社ヤマグチマイカ製、品名:A-21S、平均粒子径:23μm、形状:板状(フレーク状)のパウダー、嵩比重:0.13g/mL、アスペクト比(参考値):70)5gを添加し、得られた混合物を3000rpmで、10分間ホモディスパーで撹拌することにより、均一に分散した懸濁物(化粧料用組成物)を得た。得られた懸濁物は、一部を下記に示す測定用試料としての乾燥膜の製造に用いた。残りの懸濁物について24時間静置後に目視で分散状態を確認したところ、マイカの沈降は確認されず、分散状態を保っていた。
【0063】
(測定用試料の製造)
ホモディスパーで撹拌した直後の懸濁物(化粧料用組成物)1gを、PETフィルム上に配置したシリコン枠(2cmx2cm)に流し込み、40℃で1日間放置し、乾燥膜を得た。得られた乾燥膜について、光沢度の測定および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察を行った。
【0064】
(実施例2)
上記製造例1で得られたCMC含有CM化セルロースナノファイバーの粉末に代えて、上記製造例2で得られたカルボキシル化セルロースナノファイバーの1質量%水分散体を、CNF固形分が、得られる組成物全体の0.5質量%となるように用いたこと以外は実施例1と同様にして、均一に分散した懸濁物(化粧料用組成物)を得た。この懸濁物は、24時間静置後もマイカの沈降が確認されず分散状態を保っていた。
【0065】
また、乾燥膜を実施例1と同様に得た。得られた乾燥膜について、光沢度の測定および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察を行った。
【0066】
(比較例1)
上記製造例1で得られたCMC含有CM化セルロースナノファイバーの粉末に代えて、CMC(日本製紙株式会社製、商品名:FS350HC-4、粘度(1質量%、25℃、60rpm)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.9)の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、均一に分散した懸濁物(化粧料用組成物)を得た。この懸濁物は、24時間静置後にマイカの沈降がみられた。
【0067】
また、乾燥膜を実施例1と同様に得た。得られた乾燥膜について、光沢度の測定および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察を行った。
【0068】
(比較例2)
上記製造例1で得られたCMC含有CM化セルロースナノファイバーの粉末に代えて、キサンタンガム(CP Kelco社製、商品名:ケルトロールCG-T)の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、均一に分散した懸濁物(化粧料用組成物)を得た。この懸濁物は、24時間静置後もマイカの沈降が確認されず分散状態を保っていた。
【0069】
また、乾燥膜を実施例1と同様に得た。得られた乾燥膜について、光沢度の測定および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察を行った。
【0070】
(光沢度の測定)
実施例および比較例で得られた乾燥膜について、下記条件で光沢度の測定を行った。なお、各試料について4箇所光沢度の値を測定し、その平均値を図1に示した。値が大きいほど光沢度が高い(光沢度に優れる)ことを示す。
<測定条件>
装置:Lorentzen & Wettre製 Gross Tester
入射角:75°
【0071】
(SEM観察)
実施例1, 2および比較例1,2で得られた乾燥膜について、SEM観察を行う前に、乾燥膜の様子を、光学顕微鏡(キーエンス社製、デジタルマイクロスコープ VHX-6000)を用いて倍率100倍で観察した。次に、乾燥膜の表面及び断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-IT100)を用いて倍率700倍で観察した。なお、表面観察は、二次電子モード及び反射電子モードでそれぞれ行った。断面観察は、反射電子モードで行った。SEM観察結果を図2に示す。
【0072】
光学顕微鏡の観察結果から、実施例1および実施例2の乾燥膜は、色むらがなく滑らかな表面であることがわかった。一方、比較例1の乾燥膜は、色むらがあり不均一に乾燥していることがわかった。また、比較例2の乾燥膜は、色むらは確認されなかったものの、中央部に凸凹が確認され、レベリング性に劣るものであった。
図2の(a)列および(b)列に示すSEMを用いた表面観察結果から、実施例1, 2および比較例2の乾燥膜の表面には、平板状のマイカを確認することができた。一方、比較例1の乾燥膜はマイカが凝集しており、凹凸が多いことがわかった。
図2の(c)列に示すSEMを用いた断面観察結果(画像の上側が試料の表面側を示す)から、実施例1, 2および比較例2の乾燥膜の断面では、マイカが表面に比較的平行に配向していることがわかった。一方、比較例1の乾燥膜の断面では、マイカが縦に(表面に対して垂直に)配向している様子が確認できた。
【0073】
(評価結果まとめ)
CNFを添加した実施例1,2、キサンタンガムを添加した比較例2では、懸濁物を24時間静置した後に、マイカの沈降は確認されなかった。一方、CMCのみを添加した比較例1では、懸濁物を24時間静置した後に、マイカの沈降が確認された。この理由としては、CMCは、0.5%水溶液としたときの、せん断速度0.1(1/s)以下条件での粘度が、他の3種類と比較して低いことが挙げられる。なお、実施例1, 2、比較例1、2で用いたCMC含有CM化CNF、カルボキシル化CNF、CMC、キサンタンガムについて、それぞれ0.5%水溶液(分散液)を調製し、この水溶液(分散液)についてレオメータを用いたせん断粘度の測定を行った。測定結果のグラフを図3に示した。
【0074】
また、CNFを添加した実施例1, 2では、マイカを安定的かつ均一に分散できたことにより、表面へしっかりマイカを露出し、表面を滑らかにすることができた結果、乾燥膜の光沢度の向上につながったものと考えられる。一方、CMCのみを添加した比較例1では、マイカの分散安定性が低いものであり、不均一な分散となったことにより、不均一乾燥による凹凸増加・マイカの凝集を引き起こした結果、乾燥膜の光沢度の低下につながったものと考えられる。
図1
図2
図3