(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061281
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】状態評価装置および状態評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 15/02 20060101AFI20240425BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G01M15/02
G01N21/17 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169133
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】523085083
【氏名又は名称】日立造船マリンエンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】赤荻 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】片山 猛
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 聖真
【テーマコード(参考)】
2G059
2G087
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB20
2G059FF01
2G059KK04
2G059MM05
2G059MM20
2G087AA08
2G087AA13
2G087BB39
2G087EE14
2G087EE21
(57)【要約】
【課題】ピストンの状態を適切に、かつ、安定して評価する。
【解決手段】状態評価装置5は、ピストンの表面を撮像した撮像画像から、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域を特定して切り出すことにより、複数の領域画像を取得する領域画像取得部511と、複数の領域画像のそれぞれに対して表面状態の判定結果を取得する表面状態判定部516とを備える。これにより、ピストンの状態を適切に、かつ、安定して評価することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価装置であって、
ピストンの表面を撮像した撮像画像から、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域を特定して切り出すことにより、複数の領域画像を取得する領域画像取得部と、
前記複数の領域画像のそれぞれに対して表面状態の判定結果を取得する表面状態判定部と、
を備えることを特徴とする状態評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態評価装置であって、
前記領域画像取得部および前記表面状態判定部を含む第1判定部が、前記複数の領域に対して、前記判定結果である第1判定結果を個別に取得し、
前記状態評価装置が、前記複数の領域のうち、2つ以上の領域の前記第1判定結果を統合して前記ピストンの状態を示す第2判定結果を取得可能な第2判定部をさらに備えることを特徴とする状態評価装置。
【請求項3】
エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価装置であって、
ピストンの表面を撮像した撮像画像において、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域に対して、表面状態の第1判定結果を個別に取得する第1判定部と、
前記複数の領域のうち、2つ以上の領域の前記第1判定結果を統合して前記ピストンの状態を示す第2判定結果を取得可能な第2判定部と、
を備えることを特徴とする状態評価装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の状態評価装置であって、
前記2つ以上の領域が、一のピストンリングの領域と、前記ピストンリングの下側に隣接するリングランドの領域とを含むことを特徴とする状態評価装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の状態評価装置であって、
前記撮像画像が、掃気ポートのポート孔を介して前記ピストンの表面を撮像した画像であることを特徴とする状態評価装置。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の状態評価装置であって、
前記撮像画像が、撮像部の撮像対象範囲において予め指定された領域に掃気ポートのポート孔を配置した状態で、前記ポート孔を介して前記ピストンの表面を撮像した画像であることを特徴とする状態評価装置。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の状態評価装置であって、
判定結果に応じて、取るべき処置内容を利用者に通知する処置内容通知部をさらに備えることを特徴とする状態評価装置。
【請求項8】
エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価方法であって、
ピストンの表面を撮像した撮像画像から、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域を特定して切り出すことにより、複数の領域画像を取得する工程と、
前記複数の領域画像のそれぞれに対して表面状態の判定結果を取得する工程と、
を備えることを特徴とする状態評価方法。
【請求項9】
エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価方法であって、
ピストンの表面を撮像した撮像画像において、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域に対して、表面状態の第1判定結果を個別に取得する工程と、
前記複数の領域のうち、2つ以上の領域の前記第1判定結果を統合して前記ピストンの状態を示す第2判定結果を取得する工程と、
を備えることを特徴とする状態評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに設けられるピストンの状態を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舶用ディーゼルエンジン等において、シリンダコンディションの評価が行われている。シリンダコンディションの評価では、例えば、停止状態のエンジンのピストンを、乗組員が掃気ポートを介して目視することにより、ピストンの状態が評価される。また、乗組員がピストンを撮像した画像を陸上監督に送信し、陸上監督が当該画像を確認することにより、ピストンの状態を評価することもある。
【0003】
特許文献1では、ピストンの監視装置が開示されている。当該装置では、撮影手段により掃気ポートを介してピストンが撮影され、撮影した画像情報が処理手段により処理される。これにより、内燃機関の運転中にピストンを直接認識し、運転中のピストンの観察、計測、監視を容易に行うことが可能となる。なお、特許文献2では、シリンダライナの検査のためのシステムが開示されており、エンジンのピストンの上面に配置可能に構成された撮像手段により、シリンダライナの内側面が撮像される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4185936号公報
【特許文献2】特許第6564844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ピストンの状態の評価は、通常、経験則に基づいて行われるため、評価を行う人によって評価結果がばらつくことがある。したがって、ピストンの状態を適切に、かつ、安定して評価することが可能な手法が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、ピストンの状態を適切に、かつ、安定して評価することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価装置であって、ピストンの表面を撮像した撮像画像から、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域を特定して切り出すことにより、複数の領域画像を取得する領域画像取得部と、前記複数の領域画像のそれぞれに対して表面状態の判定結果を取得する表面状態判定部とを備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の状態評価装置であって、前記領域画像取得部および前記表面状態判定部を含む第1判定部が、前記複数の領域に対して、前記判定結果である第1判定結果を個別に取得し、前記状態評価装置が、前記複数の領域のうち、2つ以上の領域の前記第1判定結果を統合して前記ピストンの状態を示す第2判定結果を取得可能な第2判定部をさらに備える。
【0009】
本発明の態様3は、エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価装置であって、ピストンの表面を撮像した撮像画像において、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域に対して、表面状態の第1判定結果を個別に取得する第1判定部と、前記複数の領域のうち、2つ以上の領域の前記第1判定結果を統合して前記ピストンの状態を示す第2判定結果を取得可能な第2判定部とを備える。
【0010】
本発明の態様4は、態様2または3の状態評価装置であって、前記2つ以上の領域が、一のピストンリングの領域と、前記ピストンリングの下側に隣接するリングランドの領域とを含む。
【0011】
本発明の態様5は、態様1ないし3のいずれか1つ(態様1ないし4のいずれか1つであってもよい。)の状態評価装置であって、前記撮像画像が、掃気ポートのポート孔を介して前記ピストンの表面を撮像した画像である。
【0012】
本発明の態様6は、態様1ないし3のいずれか1つ(態様1ないし4のいずれか1つであってもよい。)の状態評価装置であって、前記撮像画像が、撮像部の撮像対象範囲において予め指定された領域に掃気ポートのポート孔を配置した状態で、前記ポート孔を介して前記ピストンの表面を撮像した画像である。
【0013】
本発明の態様7は、態様1ないし3のいずれか1つ(態様1ないし6のいずれか1つであってもよい。)の状態評価装置であって、判定結果に応じて、取るべき処置内容を利用者に通知する処置内容通知部をさらに備える。
【0014】
本発明の態様8は、エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価方法であって、ピストンの表面を撮像した撮像画像から、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域を特定して切り出すことにより、複数の領域画像を取得する工程と、前記複数の領域画像のそれぞれに対して表面状態の判定結果を取得する工程とを備える。
【0015】
本発明の態様9は、エンジンに設けられるピストンの状態を評価する状態評価方法であって、ピストンの表面を撮像した撮像画像において、それぞれがピストンリングまたはリングランドを示す複数の領域に対して、表面状態の第1判定結果を個別に取得する工程と、前記複数の領域のうち、2つ以上の領域の前記第1判定結果を統合して前記ピストンの状態を示す第2判定結果を取得する工程とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ピストンの状態を適切に、かつ、安定して評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】状態評価装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】ピストンの状態を評価する処理の流れを示す図である。
【
図5】領域特定部、表面状態判定部および第2判定部の処理を説明するための図である。
【
図6A】ピストンリングの領域のマスク画像を示す図である。
【
図6B】第1リングランドの領域のマスク画像を示す図である。
【
図6C】第2以降のリングランドの領域のマスク画像を示す図である。
【
図9】スマートフォンを用いた撮像画像の取得を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るエンジン1の構成を示す図である。
図1では、エンジン1の一部の構成を断面にて示している。エンジン1は、例えば、船舶用の内燃機関であり、2ストロークディーゼルエンジンである。エンジン1は、シリンダ2と、シリンダ2内に設けられるピストン3とを備え、ピストン3は、
図1中の上下方向に移動可能である。なお、
図1中の上下方向を単に「上下方向」と呼ぶが、当該上下方向は重力方向であるとは限らない。
【0019】
シリンダ2は、略円筒状のシリンダライナ21と、シリンダライナ21の上部に取り付けられるシリンダカバー22とを備える。ピストン3は、シリンダライナ21に挿入された厚い略円板状のピストンクラウン31と、一端がピストンクラウン31の下面に接続されるピストンロッド32とを備える。ピストンクラウン31の外周面には、上下方向に並ぶ複数の環状溝が設けられており、複数のピストンリング311が当該複数の環状溝にそれぞれ嵌め込まれる。ピストンロッド32の他端は、図示省略のクランク機構に接続される。
【0020】
エンジン1では、シリンダライナ21、シリンダカバー22、排気弁25(後述)、および、ピストンクラウン31の上面(すなわち、ピストン3の上面)にて囲まれる空間が、燃料および空気を燃焼するための燃焼室20である。シリンダライナ21の下端部近傍には、多数の貫通孔が周状に配列して形成される。これらの貫通孔の集合が、燃焼室20内に後述の掃気を供給する掃気ポート23である。以下、当該貫通孔を「ポート孔」という。掃気ポート23の周囲には、掃気室231が設けられており、掃気ポート23は掃気室231を介して掃気管41に連通する。好ましいエンジン1では、図示省略の過給機において、外部から取り込んだ吸気(空気)が加圧され、掃気として掃気管41内に供給される。
【0021】
シリンダカバー22は、燃料噴射部26と、排気ポート24とを備える。燃料噴射部26は、燃焼室20内に液体燃料を噴射する燃料噴射弁である。排気ポート24は、燃焼室20内のガスを燃焼室20外に排出する。排気ポート24には、排気弁25が設けられる。排気弁25は、排気ポート24を開閉する。排気ポート24を介して燃焼室20から排出されたガス(以下、「排気」という。)は、排気路241を介して排気管42へと導かれる。実際のエンジン1では、複数のシリンダ2が併設されており、複数のシリンダ2が1つの掃気管41および1つの排気管42に接続される。
【0022】
エンジン1では、
図1中において二点鎖線で示すピストン3の位置が上死点であり、実線で示すピストン3の位置が下死点である。ピストン3が上死点近傍に位置する際には、
図1中において二点鎖線で示すように排気弁25により排気ポート24が閉じられており、燃焼室20内の掃気が圧縮される。続いて、燃料噴射部26により、燃焼室20内に液体燃料が噴射され、燃焼室20内で爆発が生じる。これにより、ピストン3が押し下げられ、下死点に向かって移動する。燃焼室20内での爆発後、ピストン3が下死点に到達する前に、排気弁25が下降して排気ポート24が開かれる。これにより、燃焼室20内の燃焼済みガスの排出が開始される。燃焼室20から排出されたガス(すなわち、排気)は、既述のように、排気路241を介して排気管42へと導かれる。
【0023】
ピストン3が下死点近傍まで移動し、ピストンクラウン31の上面が掃気ポート23の下方に位置すると、燃焼室20と掃気室231とが連通し(すなわち、掃気ポート23が開かれ)、掃気室231内の掃気の燃焼室20内への供給が開始される。ピストン3は下死点を通過した後、上昇に転じる。ピストンクラウン31の上面が掃気ポート23の上方に到達することにより、掃気ポート23が閉じられ、燃焼室20内への掃気の供給が停止される。続いて、排気ポート24が排気弁25により閉じられ、燃焼室20が密閉される。ピストン3はさらに上昇して、燃焼室20内の掃気が圧縮される。ピストン3が上死点近傍に到達すると、燃料噴射部26から燃焼室20内に液体燃料が噴射され、燃焼室20内にて爆発が生じる。エンジン1では、上記動作が繰り返される。
【0024】
図2は、状態評価装置5の構成を示すブロック図である。状態評価装置5は、ピストン3の状態を評価する装置であり、例えば、陸上に設けられる。状態評価装置5が、上記エンジン1を有する船舶等に設けられてもよい。状態評価装置5は、例えば、CPU、メモリ等を有するコンピュータが所定のプログラムを実行することにより実現される。状態評価装置5の一部または全部が、専用の電気回路により実現されてもよい。状態評価装置5は、撮像画像入力部56と、第1判定部51と、第2判定部52と、処置内容通知部57とを備える。第1判定部51は、領域画像取得部511と、表面状態判定部516とを備え、領域画像取得部511は、領域特定部512と、領域切出部513とを備える。
【0025】
撮像画像入力部56は、ピストンクラウン31を撮像した後述の撮像画像を第1判定部51に入力する。第1判定部51における領域画像取得部511の領域特定部512は、撮像画像において所定の複数の領域を特定する。領域切出部513は、領域特定部512により特定された各領域を切り出して領域画像を取得する。表面状態判定部516は、各領域画像が示す領域について表面状態の第1判定結果を取得する。第2判定部52は、領域画像の第1判定結果に基づいてピストン3の状態を示す第2判定結果を取得する。処置内容通知部57は、最終的な判定結果に応じて、取るべき処置内容を利用者に通知する。
【0026】
図3は、状態評価装置5がピストン3の状態を評価する処理の流れを示す図である。ピストン3の状態の評価では、まず、エンジン1が停止した状態において、例えば、船舶の乗組員がピストン3の表面を撮像することにより、カラーの撮像画像が取得される(ステップS11)。具体的には、
図1のエンジン1において、ピストンクラウン31が掃気ポート23に対向する位置に配置される。そして、掃気ポート23のポート孔を介してピストンクラウン31の表面を撮像することにより、撮像画像が取得される。撮像画像は、インターネット等のネットワークを介して状態評価装置5に送信される。
【0027】
図4は、撮像画像61の一例を示す図である。既述のように、ピストンクラウン31の外周面には、複数のピストンリング311が設けられる。
図4の撮像画像61は、掃気ポート23の一部のポート孔230のほぼ全体を示し、当該ポート孔230を介して複数のピストンリング311が視認可能である。また、撮像画像61では、ピストンクラウン31の外周面において、各ピストンリング311の下側(燃焼室20とは反対側)に隣接する領域であるリングランド312も視認可能である。本実施の形態では、4個のピストンリング311が設けられており、燃焼室20側からピストンロッド32に向かって(
図4の上側から下方に向かって)順に配置される4個のピストンリング311を、それぞれ「第1ピストンリング」、「第2ピストンリング」、「第3ピストンリング」、「第4ピストンリング」とも呼ぶ。
【0028】
また、第1ピストンリング311、第2ピストンリング311、第3ピストンリング311および第4ピストンリング311の下側に隣接するリングランド312を、それぞれ「第1リングランド」、「第2リングランド」、「第3リングランド」、「第4リングランド」とも呼ぶ。ピストンクラウン31の外周面では、第1ピストンリング311、第1リングランド312、第2ピストンリング311、第2リングランド312、第3ピストンリング311、第3リングランド312、第4ピストンリング311、第4リングランド312が、上下方向に順に並ぶ。ピストンクラウン31におけるピストンリング311の個数は、3個以下、または、5個以上であってもよい。リングランド312の個数についても同様である。
【0029】
撮像画像入力部56では、撮像画像61に対して、正規化等の所定の前処理が必要に応じて行われる。その後、撮像画像61が、領域画像取得部511の領域特定部512に入力される。領域特定部512は、例えば、教師データを用いた学習により構築される学習済みモデルであり、撮像画像61において所定の複数の領域を特定するセグメンテーションAIである。領域特定部512の学習については後述する。
【0030】
図5は、領域特定部512、表面状態判定部516および第2判定部52の処理を説明するための図である。本実施の形態では、領域特定部512は、撮像画像61に含まれるピストンリング311の領域と、第1リングランド312の領域と、残りのリングランド312(
図4の例では、第2ないし第4リングランド312であり、以下、「第2以降のリングランド312」ともいう。)の領域とを区別して特定する。具体的には、撮像画像61の入力により、領域特定部512は、ピストンリング311の領域を示す二値画像と、第1リングランド312の領域を示す二値画像と、第2以降のリングランド312の領域を示す二値画像とを出力する。以下の説明では、各二値画像を「マスク画像」ともいう。
【0031】
図6Aは、ピストンリング311の領域のマスク画像62を示す図であり、
図6Bは、第1リングランド312の領域のマスク画像62を示す図であり、
図6Cは、第2以降のリングランド312の領域のマスク画像62を示す図である。ピストンリング311の領域のマスク画像62では、ピストンリング311の領域に含まれる画素に対して、他の領域の画素とは異なる画素値が付与されている。第1リングランド312の領域のマスク画像62、および、第2以降のリングランド312の領域のマスク画像62において同様である。
【0032】
領域切出部513では、各マスク画像62に対してラベリング処理が施され、互いに連結した連結領域621が特定される。
図6Aのピストンリング311の領域のマスク画像62では、各ポート孔230(
図4参照)に重なる領域において上下方向に並ぶ4個の連結領域621が特定される。
図6Bの第1リングランド312の領域のマスク画像62では、各ポート孔230に重なる領域において1個の連結領域621が特定される。
図6Cの第2以降のリングランド312の領域のマスク画像62では、各ポート孔230に重なる領域において上下方向に並ぶ3個の連結領域621が特定される。
【0033】
領域切出部513では、撮像画像61において、マスク画像62の各連結領域621と重なる領域を切り出すことにより、当該連結領域621に対応する領域画像が取得される(ステップS12)。
図4の撮像画像61では、各ポート孔230において、第1ピストンリング311、第1リングランド312、第2ピストンリング311、第2リングランド312、第3ピストンリング311、第3リングランド312、第4ピストンリング311および第4リングランド312のそれぞれの領域画像が取得される。各領域画像には、「ピストンリング」、「第1リングランド」、または、「第2以降のリングランド」のいずれかのラベルが付与される。本実施の形態では、ピストンリング311の領域画像に対して、第1ピストンリング311、第2ピストンリング311等のピストンリング311の番号は関連付けられない。第2以降のリングランド312の領域画像についても同様である。状態評価装置5の設計によっては、ピストンリング311の領域画像および第2以降のリングランド312の領域画像に対して、その番号が関連付けられてもよい。
【0034】
図7は、ピストンリング311の領域画像63の一例を示す図であり、
図8は、リングランド312の領域画像63の一例を示す図である。
図7および
図8に示すように、各領域画像63のおよそ全体が、ピストンリング311またはリングランド312の表面を示す。換言すると、ピストンリング311の領域画像63では、ピストンリング311以外の領域がほぼ除去されており、リングランド312の領域画像63では、リングランド312以外の領域がほぼ除去されている。各領域画像63は、表面状態判定部516に入力される。以下の説明では、ピストンリング311の領域画像63を「ピストンリング領域画像63」といい、第1リングランド312の領域画像63を「第1リングランド領域画像63」といい、第2以降のリングランド312の領域画像63を「第2以降のリングランド領域画像63」という。また、第1リングランド領域画像63および第2以降のリングランド領域画像63を単に「リングランド領域画像63」ともいう。
【0035】
表面状態判定部516は、例えば、教師データを用いた学習(深層距離学習)により構築される学習済みモデル(AI)であり、各領域画像63が示す領域について表面状態の第1判定結果を取得する(ステップS13)。換言すると、表面状態判定部516は、学習済み分類器であり、予め定められた複数種類の表面状態のいずれかに各領域画像63を分類する。表面状態判定部516の学習については後述する。
【0036】
ここで、第1判定結果(分類結果)として取り得る複数種類の表面状態について説明する。第1判定結果として取り得る表面状態は、ピストンリング領域画像63と、リングランド領域画像63とで相違する。ピストンリング領域画像63では、第1判定結果として取り得る表面状態は、例えば、「リング_正常」、「焼付Lv.1」、「焼付Lv.2」、「焼付Lv.3」、「ブローバイ」、「剥離あり_非貫通」および「剥離あり_貫通」の7種類である。また、リングランド領域画像63では、第1判定結果として取り得る表面状態は、例えば、「残渣なし」および「残渣あり」の2種類である。
【0037】
具体的に、ピストンリング領域画像63について、「リング_正常」は、ピストンリング311の表面に傷等の異常がなく、油汚れのみが付着した状態である。「焼付Lv.1」は、ピストンリング311の表面に軽微な縦筋がある状態である。「焼付Lv.2」は、ピストンリング311の表面に中重度の部分的な凝着摩耗がある状態である。「焼付Lv.3」は、ピストンリング311の表面にスカッフィングや全体的な凝着摩耗がある状態である。「ブローバイ」は、ピストンリング311の表面に、残渣(すなわち、油に混ざったすす)が付着した状態である。「剥離あり_非貫通」は、ピストンリング311の溶射層に剥離があるが、
図7中に細い実線にて示すように、剥離部分P1が上下方向に貫通していない状態である。「剥離あり_貫通」は、ピストンリング311の溶射層に剥離が見られ、かつ、
図7中に二点鎖線にて示すように、剥離部分P1が上下方向に貫通している状態である。
【0038】
また、リングランド領域画像63について、「残渣なし」は、リングランド312の表面に、残渣が見られず、良好な状態である。「残渣あり」は、リングランド312の表面に、残渣がある状態である。上記の表面状態は、一例に過ぎず、ピストンリング領域画像63に対して設定される表面状態の種類が、6種類以下、または、8種類以上であってもよく、上記とは異なる種類が含まれてもよい。また、リングランド領域画像63に対して設定される表面状態の種類が、3種類以上であってもよく、上記とは異なる種類が含まれてもよい。
【0039】
各領域画像63に対する、表面状態判定部516による第1判定結果(すなわち、表面状態の分類結果)は、第2判定部52に入力される。第2判定部52は、例えば、ルールベースの分類器を含み、第1判定結果が所定の種類の場合に第2判定結果を取得する(ステップS14)。第2判定結果は、最終的な判定結果である。
【0040】
例えば、一のピストンリング領域画像63(以下、「注目ピストンリング領域画像63」という。)の第1判定結果が「剥離あり_非貫通」である場合、「剥離Lv.1」が、注目ピストンリング領域画像63に対する第2判定結果として取得される。「剥離Lv.1」は、剥離が、ガス抜けを伴わない軽微な状態である。
【0041】
注目ピストンリング領域画像63の第1判定結果が「剥離あり_貫通」である場合、注目ピストンリング領域画像63が示すピストンリング311の下側に隣接するリングランド312(以下、「下側隣接リングランド312」という。)の領域画像63が特定され、下側隣接リングランド312の領域画像63の第1判定結果が確認される。既述のように、各ピストンリング領域画像63には、ピストンリング311の番号は関連付けられないが、マスク画像62における連結領域621は関連付けられている。リングランド領域画像63についても同様である。したがって、注目ピストンリング領域画像63に対応する、マスク画像62の連結領域621の座標と、リングランド312の領域のマスク画像62における各連結領域621の座標とを比較することにより、下側隣接リングランド312の領域画像63が特定可能である。
【0042】
下側隣接リングランド312の領域画像63の第1判定結果が「残渣なし」であるときには、「剥離Lv.2」が注目ピストンリング領域画像63に対する第2判定結果として取得される。「剥離Lv.2」は、注目ピストンリング領域画像63が示すピストンリング311による気密に影響がない(気密が保たれている)状態である。下側隣接リングランド312の領域画像63の第1判定結果が「残渣あり」であるときには、「剥離Lv.3」が注目ピストンリング領域画像63に対する第2判定結果として取得される。「剥離Lv.3」は、注目ピストンリング領域画像63が示すピストンリング311による気密に影響が生じている状態である。
【0043】
このように、注目ピストンリング領域画像63の第1判定結果が「剥離あり_貫通」である場合に、下側隣接リングランド312の領域画像63の第1判定結果を用いて、注目ピストンリング領域画像63に対する1つの第2判定結果が取得される。換言すると、注目ピストンリング領域画像63、および、下側隣接リングランド312の領域画像63の2つの領域画像63の第1判定結果を用いて、第2判定結果が取得される。上記処理は、注目ピストンリング領域画像63が示すピストンリング311が、第1ないし第4ピストンリング311のいずれである場合も同様である。本実施の形態では、各ピストンリング領域画像63の第1判定結果が、「剥離あり_非貫通」および「剥離あり_貫通」以外である場合には、第1判定結果が、そのまま最終的な判定結果となる。
【0044】
また、各ポート孔230にて取得される第1リングランド領域画像63、および、第2以降のリングランド領域画像63(
図4の例では、4個のリングランド領域画像63であり、以下、「リングランド領域画像群」という。)については、これら全てのリングランド領域画像63の第1判定結果を用いて、1つの第2判定結果が取得される。具体的には、リングランド領域画像群の全てのリングランド領域画像63の第1判定結果が「残渣なし」である場合には、「リングランド_正常」がリングランド領域画像群に対する第2判定結果として取得される。「リングランド_正常」は、リングランド領域画像群が示すリングランド312に残渣が見られない状態である。なお、リングランド312には、油汚れが付着していてもよい。
【0045】
リングランド領域画像群のうち第1リングランド領域画像63の第1判定結果が「残渣あり」である場合に、第2以降のリングランド領域画像63の全て(すなわち、第2ないし第4リングランド312の領域画像63)の第1判定結果が「残渣なし」であるときには、「残渣過多Lv.1」がリングランド領域画像群に対する第2判定結果として取得される。「残渣過多Lv.1」は、リングランド領域画像群が示す第1リングランド312に残渣があるが、第2以降のリングランド312に残渣がない状態である。また、第1リングランド領域画像63の第1判定結果に関わらず、第2以降のリングランド領域画像63のいずれかの第1判定結果が「残渣あり」である場合には、「残渣過多Lv.2」がリングランド領域画像群に対する第2判定結果として取得される。「残渣過多Lv.2」は、第1リングランド312のみならず、第2以降のリングランド312にも残渣があると考えられる状態である。上記の第1判定結果と第2判定結果との関係は、一例に過ぎず、適宜変更されてよい。
【0046】
第2判定部52による処理が完了すると、処置内容通知部57では、最終的な判定結果と共に、当該判定結果に応じた、取るべき処置内容が利用者に通知される(ステップS15)。例えば、最終的な判定結果が「焼付Lv.1」または「焼付Lv.2」であるピストンリング領域画像63については、ピストン油の増加等が取るべき処置内容として通知される。最終的な判定結果が「焼付Lv.3」または「ブローバイ」であるピストンリング領域画像63については、シリンダライナ21の補修もしくは交換、または、ピストンリング311の交換等が、取るべき処置内容として通知される。最終的な判定結果が「剥離Lv.1」であるピストンリング領域画像63については、経過観察が取るべき処置内容として通知される。最終的な判定結果が「剥離Lv.2」であるピストンリング領域画像63については、ピストンリング311の交換の検討等が取るべき処置内容として通知される。最終的な判定結果が「剥離Lv.3」であるピストンリング領域画像63については、ピストンリング311の交換等が取るべき処置内容として通知される。
【0047】
リングランド領域画像群に対する最終的な判定結果が「残渣過多Lv.1」である場合には、ピストン油の増加等が取るべき処置内容として通知される。リングランド領域画像群に対する最終的な判定結果が「残渣過多Lv.2」である場合には、ピストンリング311の点検等が取るべき処置内容として通知される。
【0048】
既述のように、各ピストン3に対する撮像画像61では、複数のポート孔230において、複数のピストンリング領域画像63、および、リングランド領域画像群が取得される。したがって、利用者に通知される、取るべき処置内容は、各ピストン3に対する処置内容のうち、最も重要度が高い処置内容のみであってもよい。各処置内容の重要度については、予め決定される。同じピストン3に対して、複数の撮像画像61が取得される場合も同様である。
【0049】
以上により、状態評価装置5がピストン3の状態を評価する処理が完了する。状態評価装置5による評価処理では、評価の基準がばらつくことなく、ピストン3の状態を適切に、かつ、安定して評価することが可能となる。
【0050】
領域特定部512の学習では、例えば、様々な撮像方向から掃気ポート23を介してピストンクラウン31の表面を撮像した複数の撮像画像が準備される。複数の撮像画像には、異なるピストン3の画像が含まれることが好ましい。続いて、各撮像画像において、作業者によりピストンリング311の領域が特定され、当該領域に「ピストンリング」のラベルが付与される。同様に、作業者により第1リングランド312の領域が特定されて、当該領域に「第1リングランド」のラベルが付与され、さらに、第2以降のリングランド312の領域が特定されて、当該領域に「第2以降のリングランド」のラベルが付与される。これにより、各撮像画像と、当該撮像画像における「ピストンリング」のラベルの領域、「第1リングランド」のラベルの領域、および、「第2以降のリングランド」のラベルの領域の情報との組合せである教師データが得られる。その後、ニューラルネットワーク等を、複数の教師データを用いて学習させることにより、学習済みモデルである領域特定部512が生成される。領域特定部512では、撮像画像61の入力により、ピストンリング311の領域を示す二値画像と、第1リングランド312の領域を示す二値画像と、第2以降のリングランド312の領域を示す二値画像とを出力することが可能である。
【0051】
表面状態判定部516の学習では、まず、様々な表面状態を示す複数のピストンリング311の領域画像(すなわち、ピストンリング領域画像)が準備される。各ピストンリング領域画像は、領域特定部512を用いて生成されてもよく、作業者自身が、ピストンリング311の領域を特定することにより生成されてもよい。続いて、作業者により、各ピストンリング領域画像に対して「リング_正常」、「焼付Lv.1」、「焼付Lv.2」、「焼付Lv.3」、「ブローバイ」、「剥離あり_非貫通」および「剥離あり_貫通」のいずれかを示すラベルが付与される。これにより、各ピストンリング領域画像と、当該ピストンリング領域画像が示すピストンリング311の表面状態のラベルとの組合せである教師データが得られる。その後、ニューラルネットワーク等を、複数の教師データを用いて学習させることにより、ピストンリング領域画像分類用の学習済み分類器が生成される。
【0052】
また、様々な表面状態を示す複数のリングランド312の領域画像(すなわち、リングランド領域画像)が準備される。続いて、作業者により、各リングランド領域画像に対して「残渣なし」および「残渣あり」のいずれかを示すラベルが付与される。これにより、各リングランド領域画像と、当該リングランド領域画像が示すリングランド312の表面状態のラベルとの組合せである教師データが得られる。その後、ニューラルネットワーク等を、複数の教師データを用いて学習させることにより、リングランド領域画像分類用の学習済み分類器が生成される。表面状態判定部516は、ピストンリング領域画像分類用の学習済み分類器と、リングランド領域画像分類用の学習済み分類器とを含む。
【0053】
表面状態判定部516では、ピストンリング領域画像分類用の学習済み分類器を利用することにより、ピストンリング領域画像63を「リング_正常」、「焼付Lv.1」、「焼付Lv.2」、「焼付Lv.3」、「ブローバイ」、「剥離あり_非貫通」および「剥離あり_貫通」のいずれかに分類することが可能である。また、リングランド領域画像分類用の学習済み分類器を利用することにより、リングランド領域画像を「残渣なし」および「残渣あり」のいずれかに分類することが可能である。表面状態判定部516の設計によっては、ピストンリング領域画像およびリングランド領域画像の双方を分類可能な1つの分類器が生成されてもよい。
【0054】
以上に説明したように、状態評価装置5は、ピストン3の表面を撮像した撮像画像61から、それぞれがピストンリング311またはリングランド312を示す複数の領域を特定して切り出すことにより、複数の領域画像63を取得する領域画像取得部511と、複数の領域画像63のそれぞれに対して表面状態の判定結果を取得する表面状態判定部516とを備える。このように、ピストンリング311およびリングランド312の各領域に対して、当該領域以外の部分がおよそ除去された領域画像63を取得することにより、各領域の表面状態の判定結果を精度よく取得することができる。その結果、ピストン3の状態を適切に、かつ、安定して評価することが可能となる。
【0055】
また、状態評価装置5は、ピストン3の表面を撮像した撮像画像61において、それぞれがピストンリング311またはリングランド312を示す複数の領域に対して、表面状態の第1判定結果を個別に取得する第1判定部51と、当該複数の領域のうち、2つ以上の領域の第1判定結果を統合してピストン3の状態を示す第2判定結果を取得可能な第2判定部52とを備える。このように、2つ以上の領域の第1判定結果を統合して用いることにより、異常の種類や程度等を精度よく特定した第2判定結果を取得することができ、ピストン3の状態を適切に、かつ、安定して評価することが可能となる。
【0056】
好ましくは、上記2つ以上の領域が、一のピストンリング311の領域と、当該ピストンリング311の下側に隣接するリングランド312の領域とを含む。これにより、当該ピストンリング311の表面状態(上記の例では、剥離の影響)を精度よく判定することができる。なお、ピストンリング311の下側は、重力方向に依存せず、ピストンリング311に対するピストンロッド32側を意味する。
【0057】
好ましくは、状態評価装置5が、最終的な判定結果に応じて、取るべき処置内容を利用者に通知する処置内容通知部57をさらに備える。これにより、ピストン3の状態に応じて利用者に適切な処置を促すことができ、エンジン1の安定稼働を実現することが可能となる。
【0058】
上記処理例では、撮像画像において、ポート孔230の領域が任意の位置に配置されるが、予め指定された領域にポート孔230が配置されてもよい。例えば、撮像部としてスマートフォンを用いて撮像画像を取得する場合、専用のアプリケーションプログラムを利用することにより、
図9に示すように、スマートフォンのディスプレイ91上において撮像対象範囲を映す表示領域92に、ポート孔230を配置すべき領域を示す枠93(
図9中に破線にて示す。)が表示される。そして、作業者(例えば、乗組員)により、ポート孔230の縁を枠93に合わせた状態で、ピストン3が撮像される。
【0059】
以上のように、撮像部の撮像対象範囲において予め指定された領域にポート孔230を配置した状態で、ポート孔230を介してピストン3の表面を撮像した撮像画像が取得される。このような撮像画像では、ポート孔230の領域を正確に特定することが可能となり、ピストンリング311またはリングランド312を示す各領域を精度よく特定することが可能となる。その結果、ピストン3の状態をより精度よく評価することが可能となる。なお、スマートフォン以外に、タブレット型端末や、カメラ機能を有する携帯型のコンピュータ等が、撮像部として用いられてもよい。
【0060】
図10は、撮像画像の他の例を示す図である。状態評価装置5では、
図10に示すように、ポート孔230の一部の領域を示す撮像画像61aが用いられてもよい。この場合、領域特定部512は、撮像画像61aからピストンリング311の領域と、リングランド312の領域とを区別して特定する。換言すると、第1リングランド312の領域と、第2以降のリングランド312の領域とが区別されない。領域特定部512は、ポート孔230の一部の領域を示す複数の撮像画像を用いて学習により生成される。また、第2判定部52において、「残渣過多Lv.1」および「残渣過多Lv.2」の分類は行われず、各リングランド領域画像については、第1判定結果が最終的な判定結果となる。他の処理は、上記処理例と同様である。状態評価装置5では、ポート孔230の一部の領域を示す撮像画像61aを用いる場合も、ピストン3の状態を適切に、かつ、安定して評価することができる。
【0061】
上記状態評価装置5および状態評価方法では様々な変形が可能である。
【0062】
表面状態判定部516は、必ずしも学習により生成される必要はなく、例えば、画像から所定の特徴量を求め、当該特徴量に基づくルールベースにて分類を行う分類器であってもよい。領域画像取得部511についても同様である。
【0063】
上記処理例では、撮像画像61,61aが、掃気ポート23のポート孔230を介してピストン3の表面を撮像した画像であるため、ピストン3をシリンダ2から取り出すことなく、撮像画像61,61aを容易に取得することが可能であるが、シリンダ2から取り出したピストン3を撮像した画像が、撮像画像として状態評価装置5において用いられてもよい。
【0064】
領域画像取得部511および表面状態判定部516を有する状態評価装置5において、第2判定部52が省略されてもよい。この場合に、例えば、第1判定結果における「剥離あり_非貫通」および「剥離あり_貫通」が、「剥離Lv.1」、「剥離Lv.2」および「剥離Lv.3」に変更され、ピストンリング311の表面において剥離が生じている面積の比率等によって、これらのいずれかへの分類が行われてもよい。
【0065】
また、第1判定部51および第2判定部52を有する状態評価装置5において、領域画像取得部511が省略されてもよい。この場合に、撮像画像61から複数の領域画像を取得することなく、第1判定部51において、複数の領域に対する表面状態の第1判定結果が個別に取得されてもよい。
【0066】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0067】
1 エンジン
3 ピストン
5 状態評価装置
23 掃気ポート
51 第1判定部
52 第2判定部
57 処置内容通知部
61,61a 撮像画像
63 領域画像
230 ポート孔
311 ピストンリング
312 リングランド
511 領域画像取得部
516 表面状態判定部
S11~S15 ステップ