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特開2024-61283アナログ回路シミュレーション装置、アナログ回路シミュレーション方法、アナログ回路シミュレーションプログラム
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  • 特開-アナログ回路シミュレーション装置、アナログ回路シミュレーション方法、アナログ回路シミュレーションプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061283
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】アナログ回路シミュレーション装置、アナログ回路シミュレーション方法、アナログ回路シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16Z 99/00 20190101AFI20240425BHJP
【FI】
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169136
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】島崎 紘一
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049DD02
(57)【要約】
【課題】アナログ回路デバイスを効果的にシミュレーションできるアナログ回路シミュレーション装置等を提供する。
【解決手段】アナログ回路シミュレーション装置1は、アナログ回路デバイス2のシミュレータ12において、当該アナログ回路デバイス2を構成するアナログ回路要素のパラメータを設定する回路パラメータ設定部11と、シミュレータ12とアナログ回路デバイス2に等価な入力信号を提供する入力信号提供部123と、入力信号に応じたシミュレータ12のシミュレータ出力信号と、当該入力信号に応じたアナログ回路デバイス2の実出力信号を、同一グラフ上に表示する比較表示部15と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ回路デバイスのシミュレータにおいて、当該アナログ回路デバイスを構成するアナログ回路要素のパラメータを設定する回路パラメータ設定部と、
前記シミュレータと前記アナログ回路デバイスに等価な入力信号を提供する入力信号提供部と、
前記入力信号に応じた前記シミュレータのシミュレータ出力信号と、当該入力信号に応じた前記アナログ回路デバイスの実出力信号を、同一グラフ上に表示する比較表示部と、
を備えるアナログ回路シミュレーション装置。
【請求項2】
前記比較表示部は、前記シミュレータ出力信号および前記実出力信号に加えて、前記入力信号を前記同一グラフ上に表示する、請求項1に記載のアナログ回路シミュレーション装置。
【請求項3】
前記アナログ回路デバイスは、線型性を有し、
前記入力信号は、少なくとも第1の値および第2の値を取る、
請求項1または2に記載のアナログ回路シミュレーション装置。
【請求項4】
前記入力信号が前記第1の値を取る時の前記シミュレータ出力信号および前記実出力信号の比較と、前記入力信号が前記第2の値を取る時の前記シミュレータ出力信号および前記実出力信号の比較に基づいて、前記パラメータの妥当性を判定する妥当性判定部を更に備える、請求項3に記載のアナログ回路シミュレーション装置。
【請求項5】
前記アナログ回路デバイスは、比例要素および積分要素を有し、
前記入力信号は、ステップ信号である、
請求項1または2に記載のアナログ回路シミュレーション装置。
【請求項6】
前記ステップ信号が入力されている間の前記シミュレータ出力信号の傾きおよび前記実出力信号の傾きの比較に基づいて、前記パラメータの妥当性を判定する妥当性判定部を更に備える、請求項5に記載のアナログ回路シミュレーション装置。
【請求項7】
前記シミュレータに提供されるデジタル信号としての前記入力信号をアナログ信号に変換して前記アナログ回路デバイスに提供するデジタルアナログ変換部と、
前記アナログ回路デバイスからのアナログ信号としての前記実出力信号をデジタル信号に変換して前記比較表示部に提供するアナログデジタル変換部と、
を更に備える請求項1または2に記載のアナログ回路シミュレーション装置。
【請求項8】
アナログ回路デバイスのシミュレータにおいて、当該アナログ回路デバイスを構成するアナログ回路要素のパラメータを設定する回路パラメータ設定ステップと、
前記シミュレータと前記アナログ回路デバイスに等価な入力信号を提供する入力信号提供ステップと、
前記入力信号に応じた前記シミュレータのシミュレータ出力信号と、当該入力信号に応じた前記アナログ回路デバイスの実出力信号を、同一グラフ上に表示する比較表示ステップと、
を備えるアナログ回路シミュレーション方法。
【請求項9】
アナログ回路デバイスのシミュレータにおいて、当該アナログ回路デバイスを構成するアナログ回路要素のパラメータを設定する回路パラメータ設定ステップと、
前記シミュレータと前記アナログ回路デバイスに等価な入力信号を提供する入力信号提供ステップと、
前記入力信号に応じた前記シミュレータのシミュレータ出力信号と、当該入力信号に応じた前記アナログ回路デバイスの実出力信号を、同一グラフ上に表示する比較表示ステップと、
をコンピュータに実行させるアナログ回路シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ回路シミュレーション装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回路基板における不具合箇所の推定において、回路基板の実測結果だけでなく、電磁界シミュレータによるシミュレーション結果も利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-247207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、回路基板上のレイアウトにおける不具合を推定するための技術であり、回路基板上に配置されるパッケージングされた各回路部品の動作をシミュレーションするものではない。回路部品のうち、主にデジタル信号を扱うデジタル回路デバイスについては、同じデジタル領域でシミュレータを容易に構築できる。しかし、主にアナログ信号を扱うアナログ回路デバイスについては、デジタル領域でのシミュレータの構築の難易度が高く、マニュアルでの計算等に依拠する場合が多い。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、アナログ回路デバイスを効果的にシミュレーションできるアナログ回路シミュレーション装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のアナログ回路シミュレーション装置は、アナログ回路デバイスのシミュレータにおいて、当該アナログ回路デバイスを構成するアナログ回路要素のパラメータを設定する回路パラメータ設定部と、シミュレータとアナログ回路デバイスに等価な入力信号を提供する入力信号提供部と、入力信号に応じたシミュレータのシミュレータ出力信号と、当該入力信号に応じたアナログ回路デバイスの実出力信号を、同一グラフ上に表示する比較表示部と、を備える。
【0007】
この態様では、アナログ回路要素のパラメータを設定可能なシミュレータからのシミュレータ出力信号と、アナログ回路デバイスの実出力信号が同一グラフ上に比較表示されるため、例えば、シミュレータで設定されたアナログ回路要素のパラメータの妥当性を視覚的に確認できる。このようにアナログ回路要素のパラメータの妥当性が確認されたシミュレータは、現実のアナログ回路デバイスを高精度にシミュレーションできる。見方を変えれば、妥当性が確認されたパラメータは、アナログ回路デバイスにおける現実のアナログ回路要素を高精度に表す。
【0008】
本発明の別の態様は、アナログ回路シミュレーション方法である。この方法は、アナログ回路デバイスのシミュレータにおいて、当該アナログ回路デバイスを構成するアナログ回路要素のパラメータを設定する回路パラメータ設定ステップと、シミュレータとアナログ回路デバイスに等価な入力信号を提供する入力信号提供ステップと、入力信号に応じたシミュレータのシミュレータ出力信号と、当該入力信号に応じたアナログ回路デバイスの実出力信号を、同一グラフ上に表示する比較表示ステップと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アナログ回路デバイスを効果的にシミュレーションできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アナログ回路シミュレーション装置の機能ブロック図である。
図2】線型性を有するアナログ回路デバイスのシミュレーションにおいて比較表示部に表示されるグラフの例を模式的に示す。
図3】比例要素および積分要素を有するアナログ回路デバイスのシミュレーションにおいて比較表示部に表示されるグラフの例を模式的に示す。
図4】比例要素および積分要素を有するアナログ回路デバイスのシミュレーションにおいて比較表示部に表示されるグラフの例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施形態に係るアナログ回路シミュレーション装置1の機能ブロック図である。アナログ回路シミュレーション装置1は、アナログ回路デバイス2をシミュレーションまたは模擬する装置である。アナログ回路シミュレーション装置1は、回路パラメータ設定部11と、シミュレータ12と、DA変換部13と、AD変換部14と、比較表示部15と、妥当性判定部16を備える。アナログ回路シミュレーション装置1が以下で説明する作用および/または効果の少なくとも一部を実現できる限り、これらの機能ブロックの一部は省略できる。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0014】
回路パラメータ設定部11は、後述するシミュレータ12において、シミュレーション対象であるアナログ回路デバイス2を構成するアナログ回路要素のパラメータを設定する。アナログ回路要素は、アナログ回路デバイス2におけるアナログ回路を構成する任意の部分である。アナログ回路要素は、抵抗、コンデンサ、インダクタ、トランジスタ、ダイオード等の個別の回路素子でもよいし、これらの回路素子の任意の組合せによって構成される回路素子群または機能素子でもよい。なお、現実のアナログ回路デバイス2は、樹脂等によってパッケージングされているため、そのアナログ回路を構成する回路素子および/または回路素子群を外部から視認できず、それらのパラメータを直接的に測定できない。このため、シミュレータ12によってアナログ回路デバイス2を模擬する意義がある。
【0015】
回路パラメータ設定部11は、各種のアナログ回路要素(回路素子および/または回路素子群)の特性や機能に関わる任意のパラメータを設定できる。また、回路パラメータ設定部11は、各アナログ回路要素について、アナログ回路デバイス2(シミュレータ12によってシミュレーションされるもの)における他のアナログ回路要素、入力、出力等との接続態様(例えば、直列、並列)をパラメータとして設定してもよい。このように、回路パラメータ設定部11は、シミュレータ12において任意の特性や機能のアナログ回路要素を任意の接続態様で組み合わせて任意のアナログ回路デバイスを仮想的に構成できる。
【0016】
回路パラメータ設定部11は、シミュレータ12によるシミュレーション対象であるアナログ回路デバイス2を正確に模擬できるようなパラメータを設定することが好ましい。この目的のため、回路パラメータ設定部11は、アナログ回路デバイス2の過去の設計文書や回路図を参照し、それらを再現するようなパラメータを自動的に設定してもよい。但し、現実のアナログ回路デバイス2は、改造、調整、経年劣化等によって過去の設計文書や回路図から乖離していることもある。このような場合、後述する比較表示部15や妥当性判定部16において、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータが現実のアナログ回路デバイス2を正確に表していないことが示唆される。そこで、必要に応じて、回路パラメータ設定部11におけるパラメータが調整される。なお、回路パラメータ設定部11におけるパラメータの設定や調整は、アナログ回路シミュレーション装置1の管理者がマニュアルで行ってもよいし、アナログ回路シミュレーション装置1が自動的または自律的に行ってもよい。
【0017】
シミュレータ12は、回路パラメータ保持部121と、シミュレーション演算部122と、入力信号提供部123を備える。回路パラメータ保持部121は、回路パラメータ設定部11によって設定された各種のアナログ回路要素の各種のパラメータを保持する。シミュレーション演算部122は、回路パラメータ保持部121によって保持されている各種のパラメータに基づいて、アナログ回路デバイス2における各種のアナログ回路要素を仮想的に構成する。入力信号提供部123は、シミュレーション演算部122に入力信号を提供する。なお、入力信号提供部123は、シミュレータ12の外部に設けられてもよい。入力信号の具体例については後述するが、シミュレーション演算部122は、入力信号提供部123から提供された入力信号を、回路パラメータ保持部121によって保持されている各種のパラメータに基づいて仮想的に構成されたアナログ回路デバイス2に入力する。当該入力信号に応じてシミュレーション演算部122(仮想的に構成されたアナログ回路デバイス2)が出力する信号(シミュレータ出力信号)は、後述する比較表示部15および/または妥当性判定部16に提供される。
【0018】
デジタルアナログ変換部であるDA変換部13は、入力信号提供部123からシミュレーション演算部122に提供されるデジタル信号としての入力信号を、アナログ信号に変換してアナログ回路デバイス2に提供する。このように、入力信号提供部123およびDA変換部13は、シミュレーション演算部122とアナログ回路デバイス2に対して、デジタルとアナログの形式的な信号態様のみが異なる実質的に等価な入力信号を提供する。
【0019】
アナログデジタル変換部であるAD変換部14は、DA変換部13からの入力信号(アナログ信号)に応じたアナログ回路デバイス2からの実出力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換して、後述する比較表示部15および/または妥当性判定部16に提供する。また、AD変換部14は、DA変換部13を介してアナログ回路デバイス2に実際に提供された入力信号をシミュレータ12にフィードバックしてもよい。このようにAD変換部14からフィードバックされた入力信号と、入力信号提供部123によって生成された入力信号の間に乖離がある場合、その影響を低減するようにシミュレーション演算部122に提供される入力信号が補正されてもよい。
【0020】
比較表示部15は、入力信号提供部123からの入力信号(デジタル信号)に応じたシミュレーション演算部122のシミュレータ出力信号と、DA変換部13からの入力信号(アナログ信号)に応じたアナログ回路デバイス2の実出力信号(AD変換部14によってアナログ信号からデジタル信号に変換されたもの)を、同一グラフ上に表示する。比較表示部15は、シミュレータ出力信号および実出力信号に加えて、入力信号提供部123からの入力信号を同一グラフ上に表示してもよい。妥当性判定部16は、シミュレータ出力信号および実出力信号の比較に基づいて、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータの妥当性を判定する。
【0021】
図2は、線型性を有するアナログ回路デバイス2のシミュレーションにおいて比較表示部15に表示されるグラフの例を模式的に示す。アナログ回路デバイス2の線型性を考慮するために、入力信号提供部123によって生成される入力信号Einは、少なくとも第1の値V1および第2の値V2を取る。シミュレータ12によるシミュレーション精度が高い場合、すなわち、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度が高い場合、図示の例のようにシミュレータ出力信号Esimおよび実出力信号Eoutは入力信号Einの値(V1、V2)によらず略一致する。一方、Einの一方の値(例えばV1)においてシミュレータ出力信号Esimおよび実出力信号Eoutが略一致していたとしても、Einの他方の値(例えばV2)においてシミュレータ出力信号Esimおよび実出力信号Eoutが略一致しない場合は、シミュレータ出力信号Esimにおいてアナログ回路デバイス2の線型性が正確に再現されていないため、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度が低いといえる。
【0022】
以上のような、シミュレータ出力信号Esimのシミュレーション精度、すなわち、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度は、比較表示部15が表示する図2のような比較グラフによって、アナログ回路シミュレーション装置1の管理者がマニュアルで視覚的に確認できる。また、シミュレータ出力信号Esimのシミュレーション精度の確認、すなわち、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度の確認は、妥当性判定部16によって自動化されてもよい。
【0023】
例えば、妥当性判定部16は、入力信号Einが第1の値V1を取る時のシミュレータ出力信号Esimおよび実出力信号Eoutの比較と、入力信号Einが第2の値V2を取る時のシミュレータ出力信号Esimおよび実出力信号Eoutの比較に基づいて、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータの妥当性を判定してもよい。具体的には、妥当性判定部16は、入力信号Einが第1の値V1を取る時のシミュレータ出力信号Esimおよび実出力信号Eoutの差ΔE1を所定の第1閾値Eth1と比較し、入力信号Einが第2の値V2を取る時のシミュレータ出力信号Esimおよび実出力信号Eoutの差ΔE2を所定の第2閾値Eth2と比較する。両方の差ΔE1およびΔE2が、それぞれの閾値Eth1およびEth2以下の場合、妥当性判定部16は、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータが妥当であると判定する。
【0024】
一方、いずれかの差ΔE1またはΔE2が、それぞれの閾値Eth1またはEth2より大きい場合、妥当性判定部16は、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータが妥当でないと判定する。回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータが妥当でないとの妥当性判定部16による判定に応じて、回路パラメータ設定部11が少なくとも一部のパラメータを自動調整し、妥当性判定部16によって妥当性が確認されるまで上記の処理が繰り返されてもよい。
【0025】
以上のような処理の結果、アナログ回路シミュレーション装置1は、線型性を有するアナログ回路デバイス2を高精度に再現または模擬できる。換言すれば、アナログ回路デバイス2の線型性を高精度に再現または模擬するパラメータが、回路パラメータ設定部11によって設定される。このため、アナログ回路デバイス2の構成やパラメータが、改造、調整、経年劣化等によって過去の設計文書や回路図から乖離していたとしても、現実のアナログ回路デバイス2の特性や機能を正確に表すパラメータが、アナログ回路シミュレーション装置1によるシミュレーションを通じて間接的に取得される。特に、アナログ回路デバイス2の内部はパッケージングによってブラックボックス化されているため、そのアナログ回路を構成する各種のアナログ回路要素の各種のパラメータを取得できる意義は大きい。
【0026】
図3および図4は、比例要素(P:Proportional)および積分要素(I:Integral)を有するPI増幅器等のアナログ回路デバイス2のシミュレーションにおいて比較表示部15に表示されるグラフの例を模式的に示す。図3は、図2と同様に、入力信号Ein、シミュレータ出力信号Esim、実出力信号Eoutの経時的変化を表す。図4は、図3におけるシミュレータ出力信号Esimの時間微分Esim′、図3における実出力信号Eoutの時間微分Eout′の経時的変化を表す。図3に示されるように、アナログ回路デバイス2の比例要素および積分要素を考慮するために、入力信号提供部123によって生成される入力信号Einはステップ信号になっている。
【0027】
実出力信号Eoutは、ステップ信号Einの入力直後の短時間にアナログ回路デバイス2の比例要素の比例ゲインGpに応じた傾きで略線型に増加した後、それより小さい傾きで緩やかに略線型に増加する。そして、ステップ信号Einの入力からアナログ回路デバイス2の積分要素の積分時間TIが経過すると、実出力信号Eoutは増加を終えてステップ信号Einの大きさに応じた略一定値に収束する。なお、理想的なシミュレータ12ではシミュレータ出力信号Esimも実出力信号Eoutと同じ挙動を示すべきであるが、図示の例ではシミュレータ出力信号Esimに比例ゲインGpや積分時間TIを表す挙動が現れていない。
【0028】
本実施形態では、シミュレータ12によるシミュレーション精度が、図4に示されるシミュレータ出力信号の傾きEsim′と実出力信号の傾きEout′の比較に基づいて評価される。具体的には、シミュレータ12によるシミュレーション精度が高い場合、すなわち、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度が高い場合、図示の例のようにシミュレータ出力信号の傾きEsim′および実出力信号の傾きEout′は積分時間TIの略全体に亘って略一致する。一方、シミュレータ出力信号の傾きEsim′および実出力信号の傾きEout′が積分時間TIの略全体に亘って略一致しない場合は、シミュレータ出力信号Esimにおいてアナログ回路デバイス2の比例要素および/または積分要素が正確に再現されていないため、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度が低いといえる。
【0029】
以上のような、シミュレータ出力信号Esimのシミュレーション精度、すなわち、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度は、比較表示部15が表示する図3および/または図4のような比較グラフによって、アナログ回路シミュレーション装置1の管理者がマニュアルで視覚的に確認できる。また、シミュレータ出力信号Esimのシミュレーション精度の確認、すなわち、回路パラメータ設定部11によるパラメータの設定精度の確認は、妥当性判定部16によって自動化されてもよい。
【0030】
例えば、妥当性判定部16は、ステップ信号Einが入力されている間(特に積分時間TI)のシミュレータ出力信号の傾きEsim′および実出力信号の傾きEout′の比較に基づいて、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータの妥当性を判定してもよい。具体的には、妥当性判定部16は、積分時間TIにおけるシミュレータ出力信号の傾きEsim′および実出力信号の傾きEout′の差ΔE′を所定の傾き閾値E′thと比較する。差ΔE′が閾値E′th以下の場合、妥当性判定部16は、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータが妥当であると判定する。
【0031】
一方、差ΔE′が閾値E′thより大きい場合、妥当性判定部16は、回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータが妥当でないと判定する。回路パラメータ設定部11によって設定されたパラメータが妥当でないとの妥当性判定部16による判定に応じて、回路パラメータ設定部11が少なくとも一部のパラメータを自動調整し、妥当性判定部16によって妥当性が確認されるまで上記の処理が繰り返されてもよい。
【0032】
以上のような処理の結果、アナログ回路シミュレーション装置1は、比例要素および積分要素を有するアナログ回路デバイス2を高精度に再現または模擬できる。換言すれば、アナログ回路デバイス2の比例要素および積分要素を高精度に再現または模擬するパラメータが、回路パラメータ設定部11によって設定される。このため、アナログ回路デバイス2の構成やパラメータが、改造、調整、経年劣化等によって過去の設計文書や回路図から乖離していたとしても、現実のアナログ回路デバイス2の特性や機能を正確に表すパラメータが、アナログ回路シミュレーション装置1によるシミュレーションを通じて間接的に取得される。特に、アナログ回路デバイス2の内部はパッケージングによってブラックボックス化されているため、そのアナログ回路を構成する各種のアナログ回路要素の各種のパラメータを取得できる意義は大きい。
【0033】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0034】
以上の実施形態では、アナログ回路シミュレーション装置1によるシミュレーション対象として、線型性を有するアナログ回路デバイス2(図2)および比例要素および積分要素を有するアナログ回路デバイス2を例示したが、本実施形態に係るアナログ回路シミュレーション装置1は、他の任意のアナログ回路デバイス2のシミュレーションに利用できる。例えば、パルスの周波数を測定することでパルスを計数するパルスカウンタのシミュレーションに、本実施形態に係るアナログ回路シミュレーション装置1が利用されてもよい。
【0035】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 アナログ回路シミュレーション装置、2 アナログ回路デバイス、11 回路パラメータ設定部、12 シミュレータ、13 DA変換部、14 AD変換部、15 比較表示部、16 妥当性判定部、121 回路パラメータ保持部、122 シミュレーション演算部、123 入力信号提供部。
図1
図2
図3
図4