(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061284
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/534 20060101AFI20240425BHJP
A61F 13/535 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A61F13/534 110
A61F13/535 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169138
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 桂子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200BB03
3B200BB17
3B200DB02
3B200DB05
3B200DB12
3B200DB15
3B200DB18
3B200DB23
(57)【要約】
【課題】複数回の吸収でも吸収速度及び吸収量が低下せず、体液漏れ及び液戻りが防止され、柔軟で着用感が良好な薄型の吸収性シートを備える吸収性物品の提供。
【解決手段】液透過性のトップシート10と、液不透過性のバックシート30と、これらの間の吸収体20とを備え、吸収体20は吸収性シートを有し、吸収性シートは、着用者の肌側から、第1親水性不織布、第1高吸収性ポリマー層、第2親水性不織布、第2高吸収性ポリマー層、及び非肌側親水性不織布を重ねたものであり、吸収性シートは、その肌側表面から非肌側親水性不織布へと向けて凹むエンボス溝15を有し、エンボス溝15は、吸収性シートの肌側表面の幅方向中央を長手方向に延びる第1のエンボス溝と、吸収性シートの肌側表面に平面視X字状に設けられ、X字の交点が第1のエンボス溝に位置する第2のエンボス溝と、を有する吸収性物品50。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これらの間に配置される吸収体と、を備える吸収性物品であって、
前記吸収体は、吸収性シートを有し、
前記吸収性シートは、着用者の肌側から順に、第1の親水性不織布、第1の高吸収性ポリマー層、第2の親水性不織布、第2の高吸収性ポリマー層、及び非肌側親水性不織布を重ね合わせたものであり、
前記吸収性シートは、その肌側表面から前記非肌側親水性不織布へと向けて凹むエンボス溝を有し、
前記エンボス溝は、
前記吸収性シートの肌側表面の幅方向中央を長手方向に延びる第1のエンボス溝と、
前記吸収性シートの肌側表面に平面視X字状に設けられ、前記X字の交点が前記第1のエンボス溝に位置する第2のエンボス溝と、を有する吸収性物品。
【請求項2】
前記吸収性シートは、前記第2の高吸収性ポリマー層及び前記非肌側親水性不織布間に、前記着用者の肌側から、第3の親水性不織布及び第3の高吸収性ポリマー層をさらに含む、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
複数の前記第2のエンボス溝が、前記吸収性シートの長手方向に配列されている、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記第2のエンボス溝と、これに隣り合う他の前記第2のエンボス溝との、前記X字の交点の間隔が、40mm以上90mm以下である、請求項3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記エンボス溝を内包する最小面積の仮想図形を設定したときに、前記仮想図形の縁辺と前記吸収性シートの縁辺との距離が、0mm、又は0mm以上3mm以下である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記吸収性シートの長手方向において、前記第1のエンボス溝の長手方向一端から、前記吸収性シートの長手方向先端までの最小距離が、0mm、又は0mm以上3mm以下である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記吸収性シートの幅方向において、前記第1のエンボス溝の幅寸法が、3mm以上8mm以下である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記第2のエンボス溝において、前記吸収性シートの幅方向縁辺を臨む、前記X字が成す角の角度が50°以上90°以下である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記吸収性シートの厚さが1mm以上4mm以下である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記第1、第2、及び第3の親水性不織布、並びに前記非肌側親水性不織布は、それぞれ、坪量が10g/m2以上40g/m2以下であり、厚さが0.05mm以上0.3mm以下である、請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項11】
前記第1、第2、及び第3の親水性不織布、並びに前記非肌側親水性不織布は、すべて同種の不織布である、請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項12】
前記第1、第2、及び第3の親水性不織布、並びに前記非肌側親水性不織布は、スパンボンド不織布である、請求項2に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品は、肌側に位置する液透過性のトップシートと、非肌側に位置する液不透過性のバックシートと、これらの間に配置される吸収体とを備え、トップシートを透過してきた体液を吸収体で吸収及び保持し、バックシートにより体液が着用者の衣類等に付着しないように構成されている。吸収性物品には、例えば、軽失禁パッド、軽失禁ライナー、尿吸収パッド、生理用ナプキン等のパッド製品や、パンツタイプ紙おむつ、テープ止めタイプ紙おむつ等の紙おむつ製品等、用途に応じて様々な形態が存在し、乳幼児、成人及び高齢者を問わず広く汎用されている。
【0003】
従来の吸収性物品では、吸収体として、フラッフパルプ等の吸収性繊維と、高吸収性ポリマー(Super Absorbent Polymer、以下「SAP」ともいう)とを含むフラッフ吸収体が汎用されている。しかしながら、フラッフ吸収体は、尿等の体液を吸収して比較的大きな厚みになり、他人から目立ち易いという問題を有している。また、歩行可能でありつつ吸収性物品を着用する人の数が増えている。このため、最近では、吸収性物品を着けていることが目立たない、また着用時に違和感がなく、つけている感がない薄型の吸収性物品が望まれている。このような要望に鑑み、吸収体を薄型化するために、種々の提案がなされている。また、薄型の吸収体として、2枚の親水性不織布と、これらの間にホットメルト接着剤により固着されたSAPとを含む吸収性シートについて、種々の提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、着用者の肌側から非肌側に向けて順に設けられる、表面層(トップシート)と、吸収層と、底層(バックシート)とを備え、吸収層は、着用者の肌側から非肌側に向けて順に、ポリエチレン等からなる開孔フィルム層と、上付着層と、コア層と、下付着層とを有し、開孔フィルム層はトップシートとコア層との間に位置し、下付着層はコア層と底層との間に位置し、上付着層と下付着層との間に高吸水性樹脂を充填してコア層とした尿とりパッドが開示されている(請求項1~4、請求項6)。特許文献1によれば、体液の漏れが防止され、着用感に優れると記載されている(段落0018)。
【0005】
特許文献2には、第1シートと、第1シートに対向配置される第2シートと、第1シートと第2シートとの間に配置されるSAPとを含み、第1シートは第2シートとの対向面が接着剤塗布面であり、第2シートは第1シートとの対向面が接着剤塗布面であり、SAPは第1シート及び/又は第2シートの接着剤塗布面に幅方向に間欠的にストライプ状に接着され、その幅方向両側は第1シート及び第2シートの接着剤塗布面同士の接着により封止された吸収性シートが、吸収体として開示されている。特許文献2によれば、吸収体の吸収性能を確保するとともに、吸収体幅を小さくすることができると記載されている(段落0012)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3215515号公報
【特許文献2】特開2006-158676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のパッド製品は、ウェットバック等の液戻り防止性や吸収速度には比較的優れているものの、体液拡散性や吸収性能の向上には十分な効果があるとはいえない。また、特許文献1には、吸収体として、上付着層と下付着層との間に高吸水性樹脂を充填したコア層(請求項6)の使用を記載し、該コア層は、一般的な吸収性シートと同様に、フラッフパルプ等の吸収性繊維を含有しないものである。しかしながら、特許文献1には高吸水樹脂を上付着層と下付着層との間に充填する具体的な方法が明確ではないことから、該コア層が吸収体の薄型化に寄与するということはできない。
【0008】
特許文献2に記載の吸収性シートは、薄型であるものの、従来のフラッフ吸収体と比較すると、SAPが初めに排出された尿等の体液を吸収及び膨潤してゲルブロッキングを起こし、体液の通り道を塞いでしまうことから、2回目以降の体液排出の際、体液吸収速度及び体液吸収量が著しく低下するという問題がある。特許文献2に記載のような、単に2枚の親水性不織布の間にホットメルト接着剤でSAPを固着しただけの従来の吸収性シートは、現在の吸収性物品における複数回の体液吸収の要求に対応できない。
【0009】
さらに、従来の吸収性シートには、SAPが密に配置されていることで、吸収性物品自体に硬さが出てしまい、着用感が低下するという課題や、吸収性シートを構成するプラスチック系樹脂由来の不織布では、SAPが体液を吸収し始めるまでに体液を瞬間的に受け止める機能がないため、最初の体液を吸収できず、体液漏れや液戻りが生じるという課題もある。
【0010】
本発明の目的は、体液を複数回吸収しても吸収速度及び吸収量に優れ、体液漏れ及び液戻りが防止され、柔軟で着用感が良好な薄型の吸収性シートを備える吸収性物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、吸収性シートを所定の多層構造にしてその薄さ、及び体液吸収量を確保し、最も非肌側に非肌側親水性不織布を配置することで強度及び吸収性能を確保しつつ、吸収性シートの肌側表面から非肌側親水性不織布へと向けて凹むエンボス溝を、吸収性シートの肌側表面に所定の平面視形状で設けることにより、所望の吸収性物品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の吸収性物品に係る。
【0012】
(1)液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これらの間に配置される吸収体と、を備える吸収性物品であって、
前記吸収体は、吸収性シートを有し、
前記吸収性シートは、着用者の肌側から順に、第1の親水性不織布、第1の高吸収性ポリマー層、第2の親水性不織布、第2の高吸収性ポリマー層、及び非肌側親水性不織布を重ね合わせたものであり、
前記吸収性シートは、その肌側表面から前記非肌側親水性不織布へと向けて凹むエンボス溝を有し、
前記エンボス溝は、
前記吸収性シートの肌側表面の幅方向中央を長手方向に延びる第1のエンボス溝と、
前記吸収性シートの肌側表面に平面視X字状に設けられ、前記X字の交点が前記第1のエンボス溝に位置する第2のエンボス溝と、を有する吸収性物品。
(2)前記吸収性シートは、前記第2の高吸収性ポリマー層及び前記非肌側親水性不織布間に、前記着用者の肌側から、第3の親水性不織布及び第3の高吸収性ポリマー層をさらに含む、上記(1)の吸収性物品。
(3)複数の前記第2のエンボス溝が、前記吸収性シートの長手方向に配列されている、上記(1)の吸収性物品。
(4)前記第2のエンボス溝と、これに隣り合う他の前記第2のエンボス溝との、前記X字の交点の間隔が、40mm以上90mm以下である、上記(3)の吸収性物品。
(5)前記エンボス溝を内包する最小面積の仮想図形を設定したときに、前記仮想図形の縁辺と前記吸収性シートの縁辺との距離が、0mm、又は0mm以上3mm以下である、上記(1)の吸収性物品。
(6)前記吸収性シートの長手方向において、前記第1のエンボス溝の長手方向一端から、前記吸収性シートの長手方向先端までの最小距離が、0mm、又は0mm以上3mm以下である、上記(1)の吸収性物品。
(7)前記吸収性シートの幅方向において、前記第1のエンボス溝の幅寸法が、3mm以上8mm以下である、上記(1)の吸収性物品。
(8)前記第2のエンボス溝において、前記吸収性シートの幅方向縁辺を臨む、前記X字が成す角の角度が50°以上90°以下である、上記(1)の吸収性物品。
(9)前記吸収性シートの厚さが1mm以上4mm以下である、上記(1)の吸収性物品。
(10)前記第1、第2、及び第3の親水性不織布、並びに非肌側親水性不織布は、それぞれ、坪量が10g/m2以上40g/m2以下であり、厚さが0.05mm以上0.3mm以下である、上記(2)の吸収性物品。
(11)前記第1、第2、及び第3の親水性不織布、並びに非肌側親水性不織布は、すべて同種の不織布である、上記(2)の吸収性物品。
(12)前記第1、第2、及び第3の親水性不織布、並びに非肌側親水性不織布は、スパンボンド不織布である、上記(2)の吸収性物品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、体液を複数回吸収しても吸収速度及び吸収量に優れ、体液漏れ及び液戻りが防止され、柔軟で着用感が良好な薄型の吸収性シートを備える吸収性物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る吸収性物品の構成を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図1に示すX-X切断線による幅方向模式断面図である。
【
図3】エンボス溝を形成する前の吸収性シート前駆体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】別形態の吸収性シート前駆体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】吸収体におけるエンボス溝の構成を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図5に示す吸収体の幅方向の模式断面図である。(a)は
図5に示すX
1-X
1切断線による断面図であり、(b)は
図5に示すX
2-X
2切断線による断面図である。
【
図7】吸収体におけるエンボス溝の他の構成の例を模式的に示す平面図である。
【
図8】実施例の吸収体におけるエンボス溝の構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、吸収性物品50の着用とは、体液吸収の前後を問わず、着用者の身体に装着した状態をいう。吸収性物品50の、長手方向とは、吸収性物品50を着用したときに着用者の股間部を介して前後に亘る、図中Yで示す方向であり、幅方向とは、長手方向に対して略直交する、図中Xで示す方向であり、厚み方向とは、各構成部材を積層する、図中Zで示す方向である。吸収性物品50及びその各構成部材の肌側表面(以下「肌側の面」ともいう)とは着用者の肌に当接する表面又は該肌を臨む表面であり、非肌側表面(以下「非肌側の面」ともいう)とは着用者の衣類に当接する表面又は衣類を臨む表面である。体液とは、尿、血液や軟便中の水分等の体内から体外に排出された液体をいう。
【0016】
<吸収性物品>
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係る吸収性物品50について説明する。
図1乃至
図2は、吸収性物品50を示す。
図3及び
図4は、エンボス溝15を形成する前の吸収性シート前駆体20A、25Aを示す。
図5、
図6、及び
図7は、エンボス溝15を示す。各図は、吸収性物品50及び各構成部材の形状や、寸法の大小関係等を規定するものではない。
【0017】
本実施形態の吸収性物品50は、ベビー用、成人用及び高齢者用の種々の吸収性物品として使用でき、例えば、軽失禁パッド、軽失禁ライナー、尿吸収パッド、生理用ナプキン等のパッド製品、パンツタイプ紙おむつ、テープ止めタイプ紙おむつ等の紙おむつ製品等が挙げられる。アウターとしての各種紙おむつと、インナーとしての吸収性物品50とを組み合わせてもよい。吸収性物品50の、長手方向の寸法L
10(
図1)、及び幅方向の寸法W
10(
図1)はいずれも特に限定されないが、例えば、L
10が100mm以上800mm以下の範囲、及びW
10が50mm以上500mm以下の範囲である。吸収性物品50の寸法を前記の範囲に調整すると、種々の形態の吸収性物品が容易に得られる。
【0018】
図1及び
図2に示す吸収性物品50は、肌側に位置する、液透過性のトップシート10と、トップシート10に対向配置され、非肌側に位置する液不透過性のバックシート30と、トップシート10と吸収体20との間に配置されるセカンドシート60と、セカンドシート60とバックシート30との間に配置される吸収体20と、トップシート10の肌側表面に設けられた一対の立体ギャザー40と、を備える。吸収体20は、着用者の肌側から順に、第1の親水性不織布21、第1の高吸収性ポリマー層23、第2の親水性不織布21、第2の高吸収性ポリマー層23、及び非肌側親水性不織布22を重ね合わせて構成された吸収性シートであり(
図3)、該吸収性シートの肌側表面から非肌側親水性不織布22へと向けて凹むエンボス溝15が所定の平面視形状で形成されている。
【0019】
本実施形態によれば、例えば、次のような優れた効果が得られる。
第1に、吸収性シートを、第1の親水性不織布21、第1の高吸収性ポリマー層23、第2の親水性不織布21、第2の高吸収性ポリマー層23、及び非肌側親水性不織布22を重ね合わせて構成する(
図3)か、或いは、第1の親水性不織布21、第1の高吸収性ポリマー層23、第2の親水性不織布21、第2の高吸収性ポリマー層23、第3の親水性不織布21、第3の高吸収性ポリマー層23、及び非肌側親水性不織布22を重ね合わせて構成する(
図4)ことで、吸収性シートの利点である薄さを保持する。
第2に、薄層の高吸収性ポリマー層23を複数層設けることで、一層毎ではゲルブロッキングを防止しつつ体液吸収能力を向上させて、吸収速度の低下を抑制するとともに、吸収性シートに高吸収性ポリマー12に起因する硬さが発現するのを防止し、吸収性物品50の着用感を向上させる。
第3に、吸収性シートの肌側表面に、所定の平面視形状を有し、吸収性シートの肌側表面から非肌側親水性不織布22へと向けて凹むエンボス溝15を設けることで、吸収性シート(吸収体20)全体の体液拡散性が著しく向上し、吸収性物品50の使用終期に至るまで、吸収速度及び吸収量が高水準に維持されるとともに、吸収性シートに柔軟性が付与され、吸収性物品50の着用感が向上する。
第4に、第1乃至第3の親水性不織布並びに非肌側親水性不織布を同じ種類とすることで、資材の融点や熱の伝わりやすさが均一となるために、エンボス溝15がくっきりと形成されやすく、吸収性物品50の使用終期に至るまで、吸収速度及び吸収量が高水準に維持される。
本実施形態の吸収性物品50は、第1から第4の構成が相乗的に作用することで、優れた機能を発揮するものとなっている。
【0020】
本実施形態の吸収性物品50は、トップシート10、吸収体20、及びバックシート30を基本構成単位とし、例えば、前述のような立体ギャザー40の配設、トップシート10と吸収体20との間へのセカンドシート60の配置等の、公知の様々な改変を加えることができる。以下、本実施形態の吸収性物品50の構成部材について、トップシート10、セカンドシート60、吸収体20、バックシート30、及び立体ギャザー40の順で更に詳しく説明する。
【0021】
<トップシート>
トップシート10は、吸収体20に向けて体液を速やかに通過させて吸収体20の面方向に体液を拡散させる液透過性のシート状基材である。トップシート10は、着用者の肌に直接当接してもよいように、柔らかな感触で、肌に刺激を与えない基材が好ましい。該基材としては、例えば、親水性シート、相互に同種又は異種の親水性シートの積層体である複合不織布、開口ポリエチレンフィルム等の開口性フィルム、ポリエチレンフォーム、ウレタンフォーム等の発泡フィルム等が挙げられる。親水性シートとしては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等の合成樹脂からなる合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿等の天然繊維等を用いて作製された、エアスルー不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布等が挙げられる。これらの中でも各不織布が好ましい。
【0022】
トップシート10には、液透過性を向上させる観点から、エンボス加工や穿孔加工を表面に施してもよい。トップシート10は、肌への刺激を低減させる観点から、ローション、酸化防止剤、抗炎症成分、pH調整剤、抗菌剤、保湿剤等の1種又は2種以上を含有してもよい。トップシート10の坪量は、強度、加工性及び液戻り量の観点から、例えば、15g/m2以上40g/m2以下の範囲である。トップシート10の形状は特に制限されず、漏れがないように体液を吸収体20に誘導するために必要とされる、吸収体20の一部又は全部を覆う形状であればよい。
【0023】
<セカンドシート>
セカンドシート60は、トップシート10の非肌側、より詳しくはトップシート10と吸収体20との間に配置される。セカンドシート60を配置することで、クッション性が増し、フィット性と着用感が向上するとともに、トップシート10を透過してきた体液を吸収体20全体にほぼ均一に拡散させることができる。
【0024】
セカンドシート60の基材は、例えば、体液の透過速度がトップシート10より速く、体液を吸収体20へ素早く拡散する嵩高な不織布である。該不織布としてはエアスルー不織布、スパンボンド不織布等が好ましい。セカンドシート60の厚さは例えば0.1mm以上4mm以下の範囲であり、その坪量は例えば20g/m2以上60g/m2以下の範囲、又は22g/m2以上37g/m2以下の範囲である。厚さが0.1mm未満、又は、坪量が20g/m2未満もしくは60g/m2より大きいと、吸収体20の肌側表面全体に体液が十分に拡散しないとともに、吸収性物品50の着用感が低下する傾向がある。また、セカンドシート60の形状は、特に制限はないが、好ましい実施形態では、吸収体20の表面を完全に覆うことができる形状である。
【0025】
<吸収体>
吸収体20は、その長手方向の寸法(最大長さ)L
40(
図1)が、例えば、100mm以上800mm以下の範囲、150mm以上500mm以下の範囲、又は270mm以上500mm以下の範囲である。吸収体20の幅方向の寸法(最大幅)W
40(
図1)は、例えば、50mm以上500mm以下の範囲、60mm以上400mm以下の範囲、又は70mm以上105mm以下の範囲である。また、吸収体20の平面視形状が砂時計型である場合は、長手方向寸法が180mm以上800mm以下の範囲、着用者の腹部及び背部にそれぞれ当接する前部A及び後部Cの幅方向寸法がともに60mm以上400mm以下の範囲であり、着用者の股間部に当接する中央部Bの幅方向寸法が90mm以上250mm以下の範囲である。吸収体20の平面視形状としては、例えば、砂時計型、Iの字状、長方形、4角が丸まった角丸四角形、長円等が挙げられる。
【0026】
本実施形態の吸収体20は、吸収性シートを含んで構成される。該吸収性シートとしては、
図3に示す吸収性シート前駆体20Aの肌側表面にエンボス溝15を形成したもの、又は
図4に示す吸収性シート前駆体25Aの肌側表面にエンボス溝15を形成したもの等が挙げられる。エンボス溝15は、吸収性シートの肌側表面から吸収性シートの最も非肌側に位置する非肌側親水性不織布22へと向けて凹む溝部であるが、その詳細は後述する。
【0027】
(吸収性シート)
図3に示す吸収性シート前駆体20Aは、着用者の肌側から順に、第1の親水性不織布21、第1の高吸収性ポリマー層23(以下「SAP層23」ともいう)、第2の親水性不織布21、第2の高吸収性ポリマー層23、及び非肌側親水性不織布22を重ね合わせて構成された吸収性シートである。また、
図4に示す吸収性シート前駆体25Aは、着用者の肌側から順に、第1の親水性不織布21、第1の高吸収性ポリマー層23、第2の親水性不織布21、第2の高吸収性ポリマー層23、第3の親水性不織布21、第3の高吸収性ポリマー層23、及び非肌側親水性不織布22を重ね合わせて構成された吸収性シートである。吸収性シートの厚さは、例えば、1mm以上4mm以下、より好ましくは1.5mm以上3mm以下の範囲である。1mmよりも小さい場合には、エンボス溝の深さが不十分となり、体液拡散性の向上が十分でない傾向がある。また、4mmよりも大きい場合には、吸収性物品が厚くなることで、柔軟性や着用感が劣る傾向がある。高吸収性ポリマー12は、第1、第2及び第3の高吸収性ポリマー層23中に、例えば、ホットメルト接着剤により固着されている。
【0028】
(親水性不織布)
第1、第2、第3の親水性不織布21は、例えば、吸収体20の面方向及び厚さ方向に体液を拡散させる。第1、第2、第3の親水性不織布21としては、体液の拡散性に優れる親水性不織布を特に限定なく使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂からなる繊維の1種又は2種以上を含む、エアスルー不織布、スパンボンド不織布等が挙げられる。これらの中でも、不織布表面が滑らかで接着剤が埋もれにくいために高吸収性ポリマーの固定率が優れること、及び、不織布が薄いために吸収性シート又は吸収性シート前駆体20A、25Aの薄型化が可能であること、といった観点から、スパンボンド不織布がより好ましい。第1、第2、第3の親水性不織布21の坪量は、例えば、10g/m2以上40g/m2以下の範囲であり、10g/m2以上20g/m2以下の範囲がより好ましい。第1、第2、第3の親水性不織布21の厚さは、例えば、0.05mm以上0.3mm以下の範囲である。なお、第1、第2、第3の親水性不織布21には、相互に同種又は異種の親水性不織布を用いることができるが、同種の方が好ましい。第1乃至第3の親水性不織布並びに非肌側親水性不織布を同じ種類とすることで、資材の融点や熱の伝わりやすさが均一となるために、エンボス溝15がくっきりと形成されやすく、吸収性物品50の使用終期に至るまで、吸収速度及び吸収量が高水準に維持される。
【0029】
(非肌側親水性不織布)
非肌側親水性不織布22は、吸収性シート又は吸収性シート前駆体20A、25Aの最も非肌側に位置し、例えば、第2又は第3の高吸収性ポリマー層23を支持するとともに、体液が排出されたときに、体液漏れ、液戻り等の発生を防止する。非肌側親水性不織布22としては、体液の拡散性に優れる親水性不織布を特に限定なく使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂からなる繊維の1種又は2種以上を含む、エアスルー不織布、スパンボンド不織布等が挙げられる。これらの中でも、吸収性シート又は吸収性シート前駆体20A、25Aの薄型化の観点から、スパンボンド不織布がより好ましい。非肌側親水性不織布22の坪量は、例えば、10g/m2以上40g/m2以下の範囲であり、厚さは、例えば、0.05mm以上0.3mm以下の範囲である。なお、非肌側親水性不織布22には、第1、第2、第3の親水性不織布21と同種又は異種の親水性不織布を用いることができる。また、第1、第2、及び第3の親水性不織布21並びに非肌側親水性不織布は、すべて同種の不織布であってもよく、そして、すべてスパンボンド不織布であってもよい。
【0030】
(高吸収性ポリマー)
第1、第2、第3の各SAP層23に用いられる高吸収性ポリマー12としては、体液を吸収し、かつ、逆流を防止できるものであれば特に制限はなく、ポリアクリル酸塩、ポリアスパラギン酸塩、(デンプン-アクリル酸)グラフト共重合体、(アクリル酸-ビニルアルコール)共重合体、(イソブチレン-無水マレイン酸)共重合体及びそのケン化物等が挙げられる。これらの中でも、重量当たりの吸収量の観点から、ポリアクリル酸塩が好ましく、ポリアクリル酸アルカリ金属塩がより好ましく、ポリアクリル酸ナトリウムが更に好ましい。高吸収性ポリマー12は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
高吸収性ポリマー12は、例えば、粒子状、繊維状等の形態で用いられるが、取扱い易さ等の観点から好ましくは粒子状で用いられる。このとき、粉体としての流動性が悪い微粉末の高吸収性ポリマー12の使用を避け、中位粒子径を有する高吸収性ポリマー12を用いることにより、吸収に関する基本性能を高め、かつ、吸収体20が体液を吸収した後に硬化することにより発生するごつごつとした触感を低減することができる。高吸収性ポリマー12の中位粒子径は、例えば、50μm以上600μm以下の範囲又は100μm以上500μm以下の範囲である。
【0032】
第1、第2、第3のSAP層23中の高吸収性ポリマー12の坪量は、ゲルブロッキングの発生を防止する観点から、例えば、100g/m2以上800g/m2以下の範囲、又は100g/m2以上400g/m2以下の範囲、又は150g/m2以上300g/m2以下の範囲である。SAPの坪量を前述の数値範囲内とすることで、第1、第2、第3の高吸収性ポリマー層23中でのゲルブロッキングを防止し、かつ、吸収体20(吸収性シート)を柔らかい触感にすることができる。なお、第1、第2、第3のSAP層23の坪量及び厚さは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0033】
第1、第2、第3のSAP層23中に高吸収性ポリマー12を固着させるために用いられるホットメルト接着剤としては、融点が100℃以上180℃以下のものを特に限定なく使用でき、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン系共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン系共重合体等の合成ゴム系ホットメルト接着剤、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系ホットメルト接着剤等が挙げられる。ホットメルト接着剤の塗布方法としては、ノズルから溶融状態のホットメルト接着剤を非接触式で塗布するカーテンコート法やスパイラル法、接触式で塗布するスロット法等、公知の方法が利用できる。ホットメルト接着剤の親水性不織布21、22の片側一面に対する含有量は、高吸収性ポリマー12の吸収性及び装着時の肌触りを損なわない観点から、例えば30g/m2以下、より好ましくは20g/m2以下の範囲である。すなわち、親水性不織布21、22の間に配置されるSAP層23各々では、親水性不織布21と接する一方の面のホットメルト接着剤の含有量は、例えば30g/m2以下、より好ましくは20g/m2以下の範囲であり、かつ、親水性不織布21又は22と接する他方の面のホットメルト接着剤の含有量は、例えば30g/m2以下、より好ましくは20g/m2以下の範囲である。そして、SAP層23各々で、全体(両面)のホットメルト接着剤の含有量は、40g/m2以下の範囲であることがより好ましい。
【0034】
<吸収性シート前駆体の製造方法>
吸収性シート前駆体20Aは、公知の方法に従って製造できる。製造方法としては、例えば、第1の親水性不織布21の非肌側表面にホットメルト接着剤を塗布し、更に所定量の高吸収性ポリマー12を散布して第1の高吸収性ポリマー層23を形成する第1工程と、第1の高吸収性ポリマー層23の上に第2の親水性不織布21を重ね合わせ、第2の親水性不織布の非肌側表面に、第1工程と同様にして第2の高吸収性ポリマー層23を形成する第2工程と、第2の高吸収性ポリマー層23の上に非肌側親水性不織布22を重ね合わせて吸収性シート前駆体20Aを得る第3工程とを含む製造方法が挙げられる。吸収性シート前駆体20Aには、必要に応じて、加圧処理又は加圧加熱処理を施してもよい。吸収性シート前駆体20Aにエンボス加工を施すことにより、本実施形態で吸収体20として使用される吸収性シートが得られる。吸収性シート前駆体25Aも同様にして作成できる。
【0035】
(エンボス溝)
図5及び
図6に示すように、本実施形態の吸収体20(吸収性シート)は、その肌側表面から非肌側親水性不織布22へと向けて凹む溝部である、平面視所定パターンのエンボス溝15を有する。エンボス溝15は、非肌側親水性不織布22の肌側表面に達する程度(深さ)の溝部として形成されるようにしてもよく、或いは、非肌側親水性不織布22の肌側表面には達しない程度(深さ)の溝部として形成されるようにしてもよい。エンボス溝15を設けることで、吸収体20中での体液拡散性が大きく向上し、さらに吸収体20に柔軟性が付与され、着用感、フィット感に優れた吸収性物品50になる。エンボス溝15は、吸収性シートの肌側表面の幅方向中央を長手方向に延びる第1のエンボス溝16と、吸収性シートの肌側表面に平面視X字状に設けられ、前記X字の交点が第1のエンボス溝16に位置する第2のエンボス溝17と、を有している。
図5のX
1-X
1断面では、
図6(a)に示すように第1のエンボス溝16のみを確認することができ、
図5のX
2-X
2断面では、
図6(b)に示すように第1のエンボス溝16の幅方向両側に第2のエンボス溝17が配置されているのを確認できる。エンボス溝15は、例えば、ヒートエンボス、超音波エンボス、高周波エンボス等を利用して、吸収体20の肌側表面に形成することができる。
【0036】
第1のエンボス溝16の幅寸法(即ち、第1のエンボス溝16の延在方向と直交する方向に沿う寸法であり、第1のエンボス溝16については吸収性物品50の幅方向に沿う寸法である)及び第2のエンボス溝17の幅寸法(即ち、第2のエンボス溝17の延在方向と直交する方向に沿う寸法である)は特定の値には限定されないものの、例えば、第1のエンボス溝16の幅寸法は3mm以上8mm以下の範囲であり、第2のエンボス溝17の幅寸法は3mm以上8mm以下の範囲である。3mm未満では、体液拡散性が不十分になる傾向がある。8mmを超えると、太い体液流れが生じ、漏れの原因になる傾向がある。なお、第1のエンボス溝16の幅寸法と第2のエンボス溝17の幅寸法とは、同じでもよいし、異なってもよい。また、第1のエンボス溝16の幅寸法は、第2のエンボス溝17の幅寸法以上であることが好ましく、第2のエンボス溝17の幅寸法よりもやや大きいことが一層好ましい。第1のエンボス溝16の幅寸法が第2のエンボス溝17の幅寸法よりも(やや)大きい方が、体液拡散性が一層良好になる。第1のエンボス溝16の幅寸法と第2のエンボス溝17の幅寸法との差は、1mm以上3mm以下であることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態では、複数の第2のエンボス溝17が、吸収性シートの長手方向に配列されている。すなわち、3個のX字形の第2のエンボス溝17が、前記X字の交点を線(第1のエンボス溝16)の上に置いて、長手方向に並んでいる。第2のエンボス溝17の数は、本実施形態に限定されず、1個でも複数個でもよい。好ましい実施形態では、第2のエンボス溝17と、これに隣り合う他の第2のエンボス溝17と、の間隔V(
図5)は、0mmでもよく、互いに離隔しているときは、例えば、0mm以上(0mmより大きく)40mm以下の範囲である。Vが40mmよりも大きい場合、第2のエンボス溝17同士が長手方向に離れすぎてしまい、体液拡散性の向上が十分ではない傾向がある。
【0038】
また、好ましい実施形態では、第2のエンボス溝17と、これに隣り合う他の第2のエンボス溝17との、X字の交点の間隔は、例えば、40mm以上90mm以下の範囲である。X字の交点の間隔が90mmよりも大きい場合、第2のエンボス溝17同士が長手方向に離れすぎてしまい、体液拡散性の向上が十分ではない傾向がある。
【0039】
他の好ましい実施形態では、第1のエンボス溝16の長手方向両端各々を幅方向に延長した2つの直線Aを想定し、かつ第2のエンボス溝17の幅方向両側それぞれにおいて最も幅方向外側の点同士を結ぶ線分を長手方向に延長した2つの直線Bを想定する。これら2つの直線Aと2つの直線Bとで囲まれた仮想図形は、エンボス溝15全体を内包しかつ吸収性シートの平面視形状と相似関係にある最小面積の図形となる。ただし、該仮想図形と吸収性シートの平面視形状とが相似関係にあることは必須の要件ではなく、長手方向における相似比と幅方向における相似比とが異なっていてもよく、或いは、例えば一方が台形状で他方が長方形状であるように相互に異なる形状であってもよい。
【0040】
このときに、該仮想図形の縁辺と吸収性シートの縁辺との距離は、
図5では、長手方向の距離であるL1、L2、幅方向の距離であるW1、W2で示されているが、これらはすべて同じになり、0mmでもよく(即ち、該仮想図形と吸収性シートの平面視形状とが一致する場合)、距離があるときは、例えば0mm以上(0mmより大きく)3mm以下の範囲である。本実施形態によれば、排出された体液がエンボス溝15を通して吸収体20に円滑に吸収される。該仮想図形の縁辺と吸収性シートの縁辺との距離が3mmを超えると、エンボス溝15から拡散された体液の一部が吸収体20により瞬時に吸収されにくくなり、肌側表面にあふれて漏れが発生し易くなる傾向がある。なお、本実施形態に限定されず、L1、L2、W1、W2をそれぞれ相互に独立に例えば0mm以上3mm以下の範囲で変動させてもよい。
【0041】
すなわち、吸収性シートの長手方向において、第1のエンボス溝16の長手方向一端から、吸収性シートの長手方向先端(縁辺)までの距離L1、L2(
図5)の最小距離が、0mmでもよく、距離があるときは、例えば0mm以上(0mmより大きく)3mm以下の範囲でもよい。距離L1、L2が3mmを超えると、エンボス溝15から拡散された体液の一部が吸収体20により瞬時に吸収されにくくなり、肌側表面にあふれて漏れが発生し易くなる傾向がある。
【0042】
さらに別の好ましい実施形態では、第2のエンボス溝17において、吸収性シートの幅方向縁辺を臨む、第2のエンボス溝17の平面視X字状の形状の「X」が成す角α、β、γ(
図5)の角度が50°以上90°以下である。この実施形態によれば、第2のエンボス溝17の形成による体液拡散性の向上効果が安定的に発揮される。角度α、β、γが50°未満及び90°を超える場合、体液を吸収して膨潤した高吸収性ポリマー12がゲルブロッキングを起こし、第2のエンボス溝17を埋め、体液拡散性が低下する傾向がある。なお、
図5のように複数の第2のエンボス溝17が存在する場合、角度α、β、γは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0043】
また、第2のエンボス溝17の平面視X字状は、
図7に示すように、X字の全体に相当する形状と、X字の半分に相当する形状とを含むようにしてもよい。なお、
図7に示す例では、第1のエンボス溝16の長手方向一端から吸収性シートの長手方向先端(縁辺)までの距離L1、L2が0mmとなっている。
【0044】
<キャリアシート>
本実施形態では、吸収体20をキャリアシート(不図示)で包んでもよい。キャリアシートは親水性シートであり、吸収体20を全体的に又は部分的に包む。例えば、キャリアシートの幅方向中央部に吸収体20を載置し、必要に応じてキャリアシートと吸収体20とをホットメルト接着剤等で接着した後、キャリアシートの幅方向両端部を吸収体20の肌側で重ね合わせて必要に応じてホットメルト接着剤等で接着することにより、キャリアシートでC折りした吸収体20が得られる。キャリアシートとしては、この分野で常用される親水性シートをいずれも使用でき、例えば、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、エアレイド不織布、エアスルー不織布、パルプ含有不織布等の親水性不織布、ティシュペーパー、吸収紙等が挙げられる。親水性不織布の中でも、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布、パルプ含有不織布等の親水性不織布がより好ましく、エアスルー不織布、パルプ含有不織布、スパンボンド不織布等がさらに好ましい。また、キャリアシートの厚さは例えば0.10mm以上0.25mm以下の範囲、坪量は例えば5g/m2以上40g/m2以下の範囲である。
【0045】
<バックシート>
バックシート30は、吸収体20が保持する体液が着用者の衣類を濡らさないような液不透過性を備えた基材を用いて形成されればよく、該基材としては、例えば、樹脂フィルム、樹脂フィルムと不織布との積層体である複合シート等が挙げられる。複合シートに用いられる不織布としては、製法を特に限定せず、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布等の単層不織布、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布積層体、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/スパンボンド不織布積層体等の複合不織布、これらの複合材料等が挙げられる。また、樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合フィルム等が挙げられる。
【0046】
バックシート30の坪量は、強度及び加工性の点から、例えば15g/m2以上60g/m2以下の範囲である。また、着用時の蒸れを防止するため、バックシート30には、通気性を持たせることが好ましい。バックシート30に通気性を備えさせるためには、例えば、基材の樹脂フィルムにフィラーを配合したり、バックシート30にエンボス加工を施したりすればよい。なお、フィラーとしては炭酸カルシウムを挙げることができ、その配合方法は、公知の方法を制限なく行うことができる。
【0047】
<立体ギャザー>
立体ギャザー40は、例えば、吸収性物品50の着用者が排泄した体液の横漏れ等を防止するために、吸収性物品50の幅方向両端付近で吸収性物品50の長手方向に沿ってトップシート10の肌側面に固定される。立体ギャザー40は、弾性伸縮部材40aと、撥水性及び/又は防水性のシート部材40bと、を含む。
【0048】
弾性伸縮部材40aは、シート部材40bの自由端(他端)付近に長手方向に沿って配設され、該自由端に起立性を付与し、シート部材40bの自由端及びその近傍領域を着用者の体型に合わせて変形可能にする。シート部材40bは、本実施形態では幅方向一端(固定端)がバックシート30の肌側面の幅方向両端付近に固定され、幅方向途中部がトップシート10の肌側面の幅方向両端付近に固定され、幅方向他端が起立性を有する自由端である。シート部材40bの固定端(幅方向一端)の固定位置は、本実施形態に限定されず、例えば、バックシート30の非肌側面、内部に吸収体20を収納したトップシート10とバックシート30との各縁辺の全部又は一部接合体の肌側面又は非肌側面の幅方向両端付近、トップシート10の肌側面の幅方向両端付近等が挙げられる。
【0049】
シート部材40bは撥水性及び/又は防水性を有するシートであり、例えば不織布から構成される。第1シート部材用不織布としては、疎水性繊維にて形成された撥水性及び/又は防水性(液不透過性)の不織布を特に限定なく使用でき、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/スパンボンド不織布積層体である複合不織布(SMS不織布)等が挙げられる。シート部材40bの坪量は、例えば、13g/m2以上20g/m2以下の範囲である。弾性伸縮部材40aとしては、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ポリウレタン等からなる、糸状、紐状、帯状のものを適宜使用することができる。
【0050】
<吸収性物品の製造方法>
吸収性物品50は、公知の製造方法により製造できるが、例えば、トップシート10及びセカンドシート60と、バックシート30との間に吸収体20を収容する工程と、トップシート10の縁辺とバックシート30の縁辺とを一部又は全周に亘ってホットメルト接着剤やヒートエンボス、超音波エンボス、高周波エンボス等を利用して固定する工程と、立体ギャザー40をバックシート30及びトップシート10の所定位置に設置する工程と、を含む製造方法が挙げられる。吸収性物品50には、必要に応じて、レッグギャザー、ウエストギャザー、サイドフラップ等が適宜設けられる。こうして得られた吸収性物品50を折り畳んで製品化される。
【0051】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態や実施例に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例0052】
以下に実施例を挙げ、本実施形態を更に具体的に説明する。
【0053】
(実施例1~5並びに比較例1~2)
表1の上段側に示す構成で、吸収体として用いられる実施例1~5並びに比較例1~2の吸収性シートを作製した。表1において、第1シートとは第1の親水性不織布を示し、第2シートとは第2の親水性不織布を示し、第3シートとは第3の親水性不織布を示し、第4シートとは最も非肌側のシートを示す(即ち、実施例1~5では、第4シートとは非肌側親水性不織布を示す)。また、表1において、シートの種類としてのSSはスパンボンド不織布を表し、ATはエアスルー不織布を表す。なお、目付(gsm)は坪量(g/m2)と同義である。
【0054】
(吸収性物品の作製)
吸収体として上記で得られた吸収性シートを用い、液透過性のトップシートとして、エアスルー不織布(坪量25g/m2)を用い、セカンドシートとしてエアスルー不織布(坪量30g/m2)を用い、立体ギャザーとして、スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布を積層した複合不織布(坪量15g/m2)を用い、液不透過性のバックシートとして、通気性ポリエチレンシート(坪量32g/m2)を用いた。トップシート、バックシート、吸収体を一体化する際に、ホットメルト接着剤を用いてトップシートと吸収体上面とを接合し、実施例1~5並びに比較例1~2の吸収性物品を作製した。なお、吸収性物品の寸法は、長手方向が270mm、幅105mmとした。
【0055】
ここで、実施例1~5並びに比較例1~2のいずれについても、第1のエンボス溝16の長手方向一端から吸収性シートの長手方向先端(縁辺)までの距離L1、L2が0mmとなっているところ、第2のエンボス溝17によるX字形の個数が3個である実施例1~3、5並びに比較例1は具体的には例えば
図8(A)に示すような態様であり、第2のエンボス溝17によるX字形の個数が1個である実施例4は具体的には例えば同図(B)に示すような態様である。なお、
図8に示す例では、第2のエンボス溝17の幅方向一端から吸収性シートの幅方向先端(縁辺)までの距離W1、W2も0mmとなっている。
【0056】
[評価]
上記で得られた実施例1~5並びに比較例1~2の吸収性物品を、次の評価に供した。評価結果を表1の下段側に示す。
【0057】
(吸収性シートの厚さ)
吸収性シートの平面視における中心部に35g/cm2加圧となる錘を載せ、ABSデジマチックハイトゲージHDS-HC(株式会社ミツトヨ製)により、吸収性物品を載置している基準面から錘の所定位置までの高さを測定し、測定した値から錘自体の底面から前記の所定位置までの高さを減じて測定した。
【0058】
(吸収速度)
底面積16.8cm2の円柱の中央に内径19mmの穴が開いており、重さを755.6gとした測定治具を、トップシートを上に向けて広げた状態の吸収性物品の長手方向、かつ幅方向の中央部の上に置き、測定治具の上部の穴から生理食塩水40mlを投下し、生理食塩水が吸収性物品に接触した時点から測定治具中央円内の円周に液体が完全に吸い込まれるところを終点として時間を計測した。そして3分経過後に同様の時間を計測し(2回目)、同様に3回目を計測し、1回目と3回目の吸収速度を計測した。
【0059】
(液戻り量)
吸収性物品を広げてトップシートを上に向けた状態で、生理食塩水120mlを吸収体の平面視における中心部に向かって注水し、10分間放置した後、生理食塩水の吸収部位に、予め重量を測定したろ紙(ADVANTEC社製 No.2 ろ紙、直径55mm)を置き、その上に35kgf/cm2の錘を載せ、30秒経過後、ろ紙の重量を測り、ろ紙の重量差を液戻り量とした。
【0060】
(SAP固定率)
「吸収性シートの前端を持ち、縦(上下)に15回振り、続いて、吸収性シートの後端を持ち、縦(上下)に15回振る」の動作を行い、落下したSAP重量を計測した。そして、下記の数式1に従い、SAP固定率Rf(%)を算出した。
(数1) Rf = (Ws-Wd)/Ws×100
ここで、 Rf:SAP固定率(%)
Ws:吸収性シートの散布したSAP重量(g)
Wd:落下したSAP量(g)
【0061】
(官能評価)
「やわらかさ」「装着時の違和感のなさ」及び「漏れ感のなさ」のそれぞれについて、10人のモニターの中で、個包装した状態の各吸収性物品包装体を「やわらかい」、「装着時の違和感がない」、「漏れ感がない」と評価したモニターの人数によって3段階の官能評価を行った。評価基準は、「やわらかい」、「装着時の違和感がない」、「漏れ感がない」と感じたモニターの人数によって以下のとおりとした。
◎:8名以上
○:4名~7名
△:3名以下
【0062】
【0063】
表1の結果から、実施例1~5の吸収性物品は、吸収速度が速く(特に、3回目について比較例1~2と比較した場合)、且つ、液戻り量が少ないと言える。一方、比較例1~2の吸収性物品は、吸収速度が遅く(特に、3回目)、且つ、液戻り量が多い。よって、実施例の態様を含む本実施形態によれば、ゲルブロッキングが生じにくいため吸収速度が速く、且つ、液戻り量が少ない吸収性物品を得ることができる。
【0064】
表1の結果から、また、実施例1~5の吸収性物品はSAP固定率が98%又は95%であり、一方、比較例1の吸収性物品はSAP固定率が90%となっている。ここで、ティシュー(パルプシート;比較例1の第4シート)は、ホットメルト接着剤を塗布してSAPを固着させる際、ホットメルト接着剤を吸収してしまうため、SAPの固定に十分な固着力を発揮することができない。そして、SAPの固定が不十分であると、吸収性能が安定しない、また、SAPが吸収体の一部分に偏るために装着時に違和感が生じる、という問題が生じる。これに対して、実施例1~5のように第4シートが親水性不織布であれば、ホットメルト接着剤がシート表面に残るので、SAPの固定に十分な固着力が発揮されることが確認される。そして、実施例1~5の吸収性物品は、SAPが固定されやすいので、吸収性能に優れ、吸収速度を向上させるとともに漏れ感(液戻り量)を低減させることができる。この結果として、実施例1~5の吸収性物品は官能評価の「漏れ感のなさ」が◎又は〇であり、一方、比較例1~2の吸収性物品は「漏れ感のなさ」が△となっている。
【0065】
表1の結果から、また、実施例1~5の吸収性物品は官能評価の「やわらかさ」及び「装着時の違和感のなさ」が◎又は〇であり、一方、比較例1の吸収性物品は「やわらかさ」及び「装着時の違和感のなさ」が△となっている。ここで、ティシュー(パルプシート;比較例1の第4シート)は、化繊から成る不織布と比較して曲げこわさが高いため、吸収性物品全体の柔軟性が損なわれて、装着時に硬いと感じる、また、身体の動きへの追随性が低い、といった状態となり、着用者に装着時の違和感が生じやすいという問題がある。これに対して、実施例1~5の吸収性物品のようにすべてのシートが不織布であれば、身体の動きへの追随性が十分に確保され、延いては、装着時の違和感が十分に低減されることが確認される。また、比較例2の吸収性物品も「やわらかさ」及び「装着時の違和感のなさ」が△となっている。したがって、エンボス溝15を形成することにより、身体の動きへの追随性が十分に確保され、延いては、装着時の違和感が十分に低減されることが確認される。
【0066】
また、ティシュー(パルプシート;比較例1の第4シート)は、ホットメルト接着剤が塗布されて濡れる(即ち、ホットメルト接着剤を吸収する)と伸びたり縮んだりするため、シート走行時にしわが発生しやすいという問題がある。ティシュー(パルプシート;比較例1の第4シート)は、また、ホットメルト接着剤が塗布されて濡れると引張り強度が低下するため、破れやすく、高速操業することができないという問題がある。したがって、ホットメルト接着剤の塗布量を増やすとしわの発生や引張り強度の低下を助長するため、十分な固着力を発揮させるのに必要とされる十分な量のホットメルト接着剤を塗布することができないという問題がある(言い換えると、ホットメルト接着剤の最大塗布量に制限がある)。加えて、ティシュー(パルプシート;比較例1の第4シート)は、曲げこわさが高いにもかかわらず引張り強度が低く、成形性が劣るため、吸収性シートの左右両端を折りたたんで形成することが難しい(具体的には、曲げこわさが高いので折りたたみにくく、折りじわや破れが発生しやすい)という問題がある(比較例1の吸収性物品は操業性の「しわ入りのなさ」及び「破れにくさ」が△である)。これに対して不織布は、ホットメルト接着剤が吸収されにくいので、しわ入りが発生しづらいとともに引張り強度が低下しづらく、ティシュー(パルプシート)における前記のような問題はない(実施例1~5の吸収性物品は操業性の「しわ入りのなさ」及び「破れにくさ」が◎である)。