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特開2024-61335粉体塗料、コイルおよびコイルエンドの封止方法
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  • 特開-粉体塗料、コイルおよびコイルエンドの封止方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061335
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】粉体塗料、コイルおよびコイルエンドの封止方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20240425BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20240425BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20240425BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C09D163/00
C08G59/18
C09D5/03
H01F41/12 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169216
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】山村 浩史
【テーマコード(参考)】
4J036
4J038
5E044
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AD08
4J036AF08
4J036AJ14
4J036JA03
4J038DA061
4J038DB061
4J038DB071
4J038DB081
4J038KA03
4J038KA08
4J038NA26
4J038PA02
4J038PB09
5E044CA04
(57)【要約】
【課題】常温保管性に優れるコイルエンド被覆用の粉体塗料を提供する。
【解決手段】コイルエンドを被覆するために用いられる粉体塗料であって、粒子状の熱硬化性樹脂組成物を含み、前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)エポキシ樹脂と、(B)フェノール樹脂硬化剤と、を含み、当該粉体塗料の吸湿率が1.0%以下であり、粉体塗料の流れ率変化指数Rが0%以上10%以下であり、粉体塗料の保存前の流れ率X(0)が、10%以上30%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルエンドを被覆するために用いられる粉体塗料であって、
粒子状の熱硬化性樹脂組成物を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物が、
(A)エポキシ樹脂
(B)フェノール樹脂硬化剤
を含み、
当該粉体塗料の、以下<吸湿率>に従って測定される吸湿率が、1.0%以下であり、
以下の<流れ率>に従って測定される当該粉体塗料の流れ率変化指数Rが、0%以上10%以下であり、
前記<流れ率>に従って測定される当該粉体塗料の保存前の流れ率X(0)が、10%以上30%以下である、粉体塗料。
<吸湿率>
当該粉体塗料を、常温(23℃)で2時間保管し、保管後の重量W1を測定する。その後、当該粉体塗料を105℃で2時間乾燥し、乾燥後の重量W2を測定する。
式:((重量W1-重量W2)/重量W1)×100から、吸湿率(%)を算出する。
<流れ率>
(手順1)
当該粉体塗料を40℃にて40日間保存し、以下の方法で保存前後の流れ率および流れ率変化指数Rを算出する。
(測定方法)
(1)0.5gの当該粉体塗料を10mmφの成形用金型に入れ、20kgfで10秒間加圧成形し、筒状の試料を作製する。
(2)前記試料の直径D0を測定した後、70mm×150mm×0.8mmのSPCC板上に前記試料を配置し、150℃の熱風乾燥機中に30分静置する。
(3)静置後の前記試料の前記SPCC板との接触面における直径D1を測定する。
(4)保存前(t=0日)および40℃、40日保存後(t=40日)のそれぞれについて、前記D0およびD1を測定し、下記式(i)に基づき、前記保存前の試料の流れ率X(0)および前記40日保存後の試料の流れ率X(40)をそれぞれ算出する。
X(t)(%)=(D1-D0)/D0×100・・・(i)
(5)下記式(ii)に基づき、流れ率変化指数Rを算出する。
R=X(0)-X(40)・・・(ii)
【請求項2】
以下の手順2に従って測定される当該粉体塗料の保存前の200℃におけるゲルタイムT(0)および当該粉体塗料の保存後の200℃におけるゲルタイムT(40)、が、それぞれ10秒以上25秒以下である、請求項1に記載の粉体塗料。
(手順2)
当該粉体塗料を40℃にて40日間保存し、以下の方法で保存前後の200℃におけるゲルタイムを算出する。
(ゲルタイムの測定方法)
保存前(t=0日)および40℃、40日保存後(t=40日)のそれぞれについて、200℃に制御された熱板上に、当該粉体塗料を載せ、スパチュラで約1回/秒のストロークで練る。当該粉体塗料が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、保存前のゲルタイム(秒)T(0)および保存後のゲルタイム(秒)T(40)とする。
【請求項3】
前記<流れ率>に従って測定される当該粉体塗料の保存後の流れ率X(40)が、10%以上30%以下である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【請求項4】
前記(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、およびナフタレン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、熱機械分析装置を用いて温度範囲0℃以上320℃以下、昇温速度5℃/分の条件で測定したときの、40℃以上60℃以下における線膨張係数をα1(ppm/℃)とし、180℃以上200℃以下における線膨張係数をα2(ppm/℃)としたときの、α1/α2が0.25以上0.30以下である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、以下<三点曲げ試験>に従って測定される曲げ強度が、90MPa以上150MPa以下である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
<三点曲げ試験>
前記硬化物を、幅10mm、長さ100mm、厚さ2mmの試験片に切り出す。得られた試験片をJIS K 6911に準拠した方法により、2支点間距離L:50mm、測定温度:25℃、試験速度:5mm/分の条件にて、オートグラフによって曲げ試験を行い、曲げ強度(MPa)を測定する。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、JIS K 6911に準拠して測定される25℃における曲げ弾性率が6000MPa以上13000MPa以下である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、以下<引張強度>にしたがって測定される引張強度が、40MPa以上70MPa以下である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
<引張強度>
前記硬化物を、幅10mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片に切り出す。得られた試験片をJIS K 7161に準拠した方法により、オートグラフによって引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定する。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、以下<引張伸び率>に従って測定される引張伸び率が4.0%以上である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
<引張伸び率>
前記硬化物を、幅10mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片に切り出す。得られた試験片をJIS K 7161に準拠した方法により、オートグラフによって引張試験を行い、引張伸び率(%)を測定する。
【請求項10】
当該粉体塗料の、以下<せん断引張強度>に従って測定されるせん断引張強度が、5MPa以上20MPa以下である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
<せん断引張強度>
2枚の銅板(材質C1100:幅15mm×長さ100mm×厚さ1mm)を重ね合わせて長さ方向に互いに逆方向にずらし、2枚の重なり部分が長さ方向に10mmとなるように配置する。すなわち、2枚の銅板の重なり領域は幅15mm×長さ10mmの領域となる。重なり領域の2枚の銅板間に当該粉体塗料0.1gを静置し、190℃、20分加熱を実施し、テストピースを得る。
前記テストピースの両端、すなわち各銅板における重なり領域と逆側の端部をオートグラフに挟み、10mm/分にて破断するまで引っ張ることにより、せん断引張強度を測定する。
【請求項11】
前記コイルエンドは、絶縁被覆で導体部が覆われているとともに前記絶縁被覆から前記導体部が露出する露出部が設けられており、
前記粉体塗料は、前記コイルエンドを、粉体塗料が流動する流動槽に浸漬し、前記粉体塗料の溶融物を前記露出部の外側に付着させる工程を含む、粉体塗装方法に用いられる、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【請求項12】
粉体塗料の溶融物を露出部の外側に付着させる前記工程において、前記コイルエンドの前記露出部から前記絶縁被覆にわたって前記溶融物を付着させる前記粉体塗装方法に用いられる、請求項11に記載の粉体塗料。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の粉体塗料により前記露出部が封止されている前記コイルエンドを有する、コイル。
【請求項14】
絶縁被覆で導体部が覆われているとともに前記絶縁被覆から前記導体部が露出する露出部が設けられたコイルエンドを有するコイルの前記コイルエンドを、粉体塗料が流動する流動槽に浸漬し、前記粉体塗料の溶融物を前記露出部の外側に付着させる工程を含み、
前記粉体塗料が、請求項1又は2に記載の粉体塗料である、コイルエンドの封止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料、コイルおよびコイルエンドの封止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂が配合された粉体塗料に関する技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
特許文献1(特開2021-169593号公報)には、ビスフェノール型エポキシ樹脂、融点が130~200℃の硬化剤を必須成分として含有し、200℃におけるゲルタイムが30~70秒であり、硬化剤がイミダゾール誘導体及び有機酸ヒドラジドから選ばれる少なくとも1つであるエポキシ樹脂粉体塗料が記載されており、放冷硬化性に優れ、長期保管、高温下保管後も塗料性状の変化が少なく塗膜性能を発現することができるエポキシ樹脂粉体塗料を提供することができるとされている。
【0003】
特許文献2(特開2018-48314号公報)には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、平均粒子径16~50μm球状無機粒子、及びアクリル系コアシェル型粒子を必須成分として含有するエポキシ樹脂粉体塗料について記載されており、かかるエポキシ樹脂粉体塗料により、塗工時の作業性や塗装性を損なうことなく、近年の金属部品(材質が異なる複数種の金属を複雑に組み合わせた構造からなり、かつ高基準の性能が要求される金属部品)に対しても、耐ヒートサイクル性に優れた塗膜を形成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-169593号公報
【特許文献2】特開2018-48314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、粉体塗料は、加熱や長期保管することにより、硬化反応が進行し、塗装時に粉体塗料が溶融した場合の、溶融粘度が上昇してしまうという問題があった。溶融粘度が上昇すると、塗装時に粉体塗料が塗装物の表面に溶け広がらず、塗装の表面に凹凸やピンホールが発生し、またボイドが多くなるため、塗装物への密着性が低下してしまう。このため、粉体塗料の冷蔵保管や冷蔵輸送、定期的な入れ替えが必要となる。
粉体塗料を常温で長期保管することができれば、使用エネルギーを減少させ、CO排出削減および廃棄物の削減に繋がる。上記文献に記載の技術について本発明者が検討したところ、常温保管性に優れるコイルエンド被覆用の粉体塗料を提供するという点で、改善の余地があることが見出された。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、常温保管性に優れるコイルエンド被覆用の粉体塗料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の粉体塗料、コイルおよびコイルエンドの封止方法を提供する。
【0007】
[1]
コイルエンドを被覆するために用いられる粉体塗料であって、
粒子状の熱硬化性樹脂組成物を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物が、
(A)エポキシ樹脂
(B)フェノール樹脂硬化剤
を含み、
当該粉体塗料の、以下<吸湿率>に従って測定される吸湿率が、1.0%以下であり、
以下の<流れ率>に従って測定される当該粉体塗料の流れ率変化指数Rが、0%以上10%以下であり、
前記<流れ率>に従って測定される当該粉体塗料の保存前の流れ率X(0)が、10%以上30%以下である、粉体塗料。
<吸湿率>
当該粉体塗料を、常温(23℃)で2時間保管し、保管後の重量W1を測定する。その後、当該粉体塗料を105℃で2時間乾燥し、乾燥後の重量W2を測定する。
式:((重量W1-重量W2)/重量W1)×100から、吸湿率(%)を算出する。
<流れ率>
(手順1)
当該粉体塗料を40℃にて40日間保存し、以下の方法で保存前後の流れ率および流れ率変化指数Rを算出する。
(測定方法)
(1)0.5gの当該粉体塗料を10mmφの成形用金型に入れ、20kgfで10秒間加圧成形し、筒状の試料を作製する。
(2)前記試料の直径D0を測定した後、70mm×150mm×0.8mmのSPCC板上に前記試料を配置し、150℃の熱風乾燥機中に30分静置する。
(3)静置後の前記試料の前記SPCC板との接触面における直径D1を測定する。
(4)保存前(t=0日)および40℃、40日保存後(t=40日)のそれぞれについて、前記D0およびD1を測定し、下記式(i)に基づき、前記保存前の試料の流れ率X
(0)および前記40日保存後の試料の流れ率X(40)をそれぞれ算出する。
X(t)(%)=(D1-D0)/D0×100・・・(i)
(5)下記式(ii)に基づき、流れ率変化指数Rを算出する。
R=X(0)-X(40)・・・(ii)
[2]
以下の手順2に従って測定される当該粉体塗料の保存前の200℃におけるゲルタイムT(0)および当該粉体塗料の保存後の200℃におけるゲルタイムT(40)、が、それぞれ10秒以上25秒以下である、[1]に記載の粉体塗料。
(手順2)
当該粉体塗料を40℃にて40日間保存し、以下の方法で保存前後の200℃におけるゲルタイムを算出する。
(ゲルタイムの測定方法)
保存前(t=0日)および40℃、40日保存後(t=40日)のそれぞれについて、200℃に制御された熱板上に、当該粉体塗料を載せ、スパチュラで約1回/秒のストロークで練る。当該粉体塗料が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、保存前のゲルタイム(秒)T(0)および保存後のゲルタイム(秒)T(40)とする。
[3]
前記<流れ率>に従って測定される当該粉体塗料の保存後の流れ率X(40)が、10%以上30%以下である、[1]又は[2]に記載の粉体塗料。
[4]
前記(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、およびナフタレン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の粉体塗料。
[5]
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、熱機械分析装置を用いて温度範囲0℃以上320℃以下、昇温速度5℃/分の条件で測定したときの、40℃以上60℃以下における線膨張係数をα1(ppm/℃)とし、180℃以上200℃以下における線膨張係数をα2(ppm/℃)としたときの、α1/α2が0.25以上0.30以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の粉体塗料
[6]
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、以下<三点曲げ試験>に従って測定される曲げ強度が、90MPa以上150MPa以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の粉体塗料。
<三点曲げ試験>
前記硬化物を、幅10mm、長さ100mm、厚さ2mmの試験片に切り出す。得られた試験片をJIS K 6911に準拠した方法により、2支点間距離L:50mm、測定温度:25℃、試験速度:5mm/分の条件にて、オートグラフによって曲げ試験を行い、曲げ強度(MPa)を測定する。
[7]
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、JIS K 6911に準拠して測定される25℃における曲げ弾性率が6000MPa以上13000MPa以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の粉体塗料。
[8]
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、以下<引張強度>にしたがって測定される引張強度が、40MPa以上70MPa以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の粉体塗料。
<引張強度>
前記硬化物を、幅10mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片に切り出す。得られた試験片をJIS K 7161に準拠した方法により、オートグラフによって引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定する。
[9]
前記熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、以下<引張伸び率>に従って測定される引張伸び率が4.0%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の粉体塗料。
<引張伸び率>
前記硬化物を、幅10mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片に切り出す。得られた試験片をJIS K 7161に準拠した方法により、オートグラフによって引張試験を行い、引張伸び率(%)を測定する。
[10]
当該粉体塗料の、以下<せん断引張強度>に従って測定されるせん断引張強度が、5MPa以上20MPa以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の粉体塗料。
<せん断引張強度>
2枚の銅板(材質C1100:幅15mm×長さ100mm×厚さ1mm)を重ね合わせて長さ方向に互いに逆方向にずらし、2枚の重なり部分が長さ方向に10mmとなるように配置する。すなわち、2枚の銅板の重なり領域は幅15mm×長さ10mmの領域となる。重なり領域の2枚の銅板間に当該粉体塗料0.1gを静置し、190℃、20分加熱を実施し、テストピースを得る。
前記テストピースの両端、すなわち各銅板における重なり領域と逆側の端部をオートグラフに挟み、10mm/分にて破断するまで引っ張ることにより、せん断引張強度を測定する。
[11]
前記コイルエンドは、絶縁被覆で導体部が覆われているとともに前記絶縁被覆から前記導体部が露出する露出部が設けられており、
前記粉体塗料は、前記コイルエンドを、粉体塗料が流動する流動槽に浸漬し、前記粉体塗料の溶融物を前記露出部の外側に付着させる工程を含む、粉体塗装方法に用いられる、[1]~[10]のいずれかに記載の粉体塗料。
[12]
粉体塗料の溶融物を露出部の外側に付着させる前記工程において、前記コイルエンドの前記露出部から前記絶縁被覆にわたって前記溶融物を付着させる前記粉体塗装方法に用いられる、[11]に記載の粉体塗料。
[13]
[11]又は[12]のいずれかに記載の粉体塗料により前記露出部が封止されている前記コイルエンドを有する、コイル。
[14]
絶縁被覆で導体部が覆われているとともに前記絶縁被覆から前記導体部が露出する露出部が設けられたコイルエンドを有するコイルの前記コイルエンドを、粉体塗料が流動する流動槽に浸漬し、前記粉体塗料の溶融物を前記露出部の外側に付着させる工程を含み、
前記粉体塗料が、[1]~[12]のいずれかに記載の粉体塗料である、コイルエンドの封止方法。
【0008】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明によれば、前記本発明における粉体塗料により塗装されてなる、物品を得ることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、常温保管性に優れるコイルエンド被覆用の粉体塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態における固定子の構成例を示す斜視図である。
図2図1に示した固定子における固定子コイルのコイルエンドの構成例を示す上面図である。
図3】実施例の耐ヒートサイクル試験に用いられる、固定子コイルのコイルエンドを模した模擬テストピースを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について説明する。本実施形態において、組成物は、各成分をいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて含むことができる。
【0012】
(粉体塗料)
本実施形態において、粉体塗料は、コイルエンドを被覆するために用いられる粉体塗料であって、熱硬化性樹脂組成物を含む。この熱硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)フェノール樹脂硬化剤と、を含むとともに、当該粉体塗料の吸湿率(%)が1.0%以下である。粉体塗料は、流れ率について、以下の態様1に係る構成を有する。
【0013】
(態様1)
以下の<流れ率>に従って測定される粉体塗料の流れ率変化指数Rが、0%以上10%以下であり、粉体塗料の保存前の流れ率X(0)が、10%以上30%以下である、粉体塗料。
<流れ率>
(手順1)
当該粉体塗料を40℃にて40日間保存し、以下の方法で保存前後の流れ率および流れ率変化指数Rを算出する。
(測定方法)
(1)0.5gの当該粉体塗料を10mmφの成形用金型に入れ、20kgfで10秒間加圧成形し、筒状の試料を作製する。
(2)前記試料の直径D0を測定した後、70mm×150mm×0.8mmのSPCC板上に前記試料を配置し、150℃の熱風乾燥機中に30分静置する。
(3)静置後の前記試料の前記SPCC板との接触面における直径D1を測定する。
(4)保存前(t=0日)および40℃、40日保存後(t=40日)のそれぞれについて、前記D0およびD1を測定し、下記式(i)に基づき、前記保存前の試料の流れ率X
(0)および前記40日保存後の試料の流れ率X(40)をそれぞれ算出する。
X(t)(%)=(D1-D0)/D0×100(i)
(5)下記式(ii)に基づき、流れ率変化指数Rを算出する。
R=X(0)-X(40)(ii)
【0014】
本実施形態においては、粉体塗料に含まれる粒子状の熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、特定のフェノール樹脂硬化剤を含み、当該粉体塗料の吸湿率が特定の範囲を有するとともに、粉体塗料の保存後の流れ率について、態様1の構成を有するため、常温保管性に優れる粉体塗料を提供することができる。
以下、粉体塗料の構成を具体的に説明する。
【0015】
当該粉体塗料を常温(23℃)で2時間保管した後の重量W1とし、その後、当該粉体塗料を105℃で2時間乾燥した後の重量W2としたとき、式:((重量W1-重量W2)/重量W1)×100で表される吸湿率(%)は、保管中の吸湿を抑えることにより予期せぬ反応を防ぎ、常温保管性を良好とする観点から、1.0%以下であり、好ましくは0.8%以下であり、より好ましくは0.5%以下である。
吸湿率の下限に制限はないが、たとえば0%以上であり、好ましくは0%である。
【0016】
粉体塗料は、流動槽内で好ましく流動する観点から、粒子状である。
粉体塗料中の熱硬化性樹脂組成物の粒径d90は、常温保管した粉体塗料を用いた場合も、コイルエンドの被覆時に粉体塗料が流動槽内で好ましく流動するようにする観点から、たとえば55μm以上であり、好ましくは70μm以上、より好ましくは90μm以上、さらに好ましくは100μm以上、さらにより好ましくは110μm以上、よりいっそう好ましくは120μm以上である。
また、常温保管した粉体塗料を用いた場合も、流動槽底面への粗粉の堆積を防ぎ、より安定的に塗装する観点から、熱硬化性樹脂組成物の粒径d90は、たとえば200μm以下であり、好ましくは180μm以下、より好ましくは160μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
【0017】
ここで、熱硬化性樹脂組成物の粒径d90および他の粒度特性については、レーザー回折法により、具体的には、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、島津製作所社製、SALD-7000)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定することにより得ることができる。
【0018】
熱硬化性樹脂組成物の粒径d10は、常温保管した粉体塗料を用いた場合も、粉体塗料により形成される塗膜の膜厚の確保や凝集抑制の観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、さらにより好ましくは25μm以上である。
また、生産コストをより低減する観点から、熱硬化性樹脂組成物の粒径d10は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは35μm以下、よりいっそう好ましくは30μm以下である。
【0019】
次に、粉体塗料および粉体塗料中の熱硬化性樹脂組成物の物性をさらに具体的に説明する。
【0020】
粉体塗料の保存前(t=0日)の流れ率X(0)は、流動槽内での粉体塗料の流動性を好ましい状態としてコイルエンドへの塗布性を向上する観点から、10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。
また、塗膜の垂れを抑制する観点から、流れ率X(0)は、30%以下であり、好ましくは28%以下、より好ましくは25%以下である。
【0021】
粉体塗料において、40℃で40日保存後(t=40日)の流れ率X(40)は、常温保管後も、粉体塗料の溶け広がりをより良好とし、ボイドが少なく、良好な塗膜外観とする観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。
また、常温保管した粉体塗料を用いた場合も、塗膜の垂れ抑制の観点から、流れ率X(40)は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは28%以下、さらに好ましくは25%以下である。
【0022】
また、粉体塗料の保存前後の流れ率変化指数Rは、常温保管した粉体塗料を用いた場合も、形成される塗膜の厚みの変動や外観変動を抑える観点から、10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
また、流れ率変化指数Rは0%以上である。
【0023】
保存前後の流れ率および流れ率変化指数Rは具体的には以下の手順で測定される。
まず、保存前(t=0日)の粉体塗料の流れ率は以下の手順で測定される。すなわち、0.5gの粉体塗料を10mmφの成形用金型に入れ、20kgfで10秒間加圧成形し、筒状の試料を作製し、得られた試料の直径D0を測定する。
次に、70mm×150mm×0.8mmのSPCC板上に試料を配置し、150℃の熱風乾燥機中に30分静置する。静置後、試料のSPCC板との接触面における直径D1を測定する。
下記式(i)に基づき、保存前の流れ率X(0)が算出される。
X(t)(%)=(D1-D0)/D0×100・・・(i)
【0024】
保存後(t=40日)の流れ率については、まず、粉体塗料を40℃にて40日間保存する。具体的には、上述の成形工程をおこなっていない粉体塗料を保存する。保存後、保存前の粉体塗料(t=0)の流れ率の測定手順に準じて、保存後の粉体塗料の試料の作製、D0の測定、150℃にて30分静置、D1の測定をそれぞれおこなう。上記式(i)に基づき、保存後の流れ率X(40)が算出される。
【0025】
保存前後の流れ率変化指数Rは、得られた流れ率X(0)および流れ率X(40)より、下記式(ii)に基づき算出される。
R=X(0)-X(40)・・・(ii)
【0026】
粉体塗料の、保存前(t=0日)のゲルタイムT(0)および40℃で40日保存後(t=40日)のゲルタイムT(40)の下限値は、常温保管前後において、粉体塗料の金型への充填性をより向上させる観点から、それぞれ、好ましくは10秒以上であり、より好ましくは15秒以上である。また、保存前(t=0日)のゲルタイムT(0)および40℃で40日保存後(t=40日)のゲルタイムT(40)の上限値は、生産性をより向上させる観点から、それぞれ、好ましくは25秒以下であり、より好ましくは20秒以下である。
【0027】
保存前後のゲルタイムは、具体的には以下の手順で測定される。
まず、保存前のゲルタイムT(0)は以下の方法で測定される。200℃に制御された熱板上に、粉体塗料を載せ、スパチュラで約1回/秒のストロークで練る。粉体塗料が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、保存前の粉体塗料のゲルタイム(秒)T(0)とする。
保存後のゲルタイムT(40)については、まず、粉体塗料を40℃にて40日間保存する。保存後、保存前の粉体塗料のゲルタイムの測定手順に準じて、保存後の粉体塗料のゲルタイム(秒)T(40)を測定する。
【0028】
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物のJIS K 7161に準拠して測定される引張伸び率は、コイルへの接着性をより良好とする観点から、好ましくは4.0%以上であり、より好ましくは4.5%以上であり、さらに好ましくは5.0%以上である。また、粉砕時の生産性をより良好とする観点から、好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは7.5%以下であり、さらに好ましくは7.0%以下である。
なお、引張伸び率は、以下のように測定される。
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分で硬化した硬化物から、幅10mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片を切り出す。得られた試験片をJIS K 7161に準拠した方法により、オートグラフによって引張試験を行い、引張伸び率(%)を測定する。
【0029】
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物の、JIS K 6911に準拠した三点曲げ試験に従って測定される曲げ強度は、塗装の強度をより高める観点から、好ましくは90MPa以上であり、より好ましくは95MPa以上であり、さらに好ましくは105MPa以上であり、さらにより好ましくは110MPa以上であり、よりいっそう好ましくは115MPa以上である。また塗装のクラックの発生をより抑制し、生産性をより高める観点から、好ましくは150MPa以下であり、より好ましくは145MPa以下であり、さらに好ましくは140MPa以下であり、さらにより好ましくは135MPa以下であり、よりいっそう好ましくは130MPa以下であり、ことさら好ましくは125MPa以下である。
なお、三点曲げ試験は、以下のように実施される。
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分で硬化した硬化物から、幅10mm、長さ100mm、厚さ2mmの試験片を切り出す。得られた試験片をJIS K 6911に準拠した方法により、2支点間距離L:50mm、測定温度:25℃、試験速度:5mm/分の条件にて、オートグラフによって曲げ試験を行い、曲げ強度(MPa)を測定する。
【0030】
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物のJIS K 6911に準拠して測定される25℃における曲げ弾性率は、耐ヒートサイクル性等の機械的強度をより一層良好とする観点から、好ましくは6000MPa以上であり、より好ましくは7000MPa以上であり、さらに好ましくは8000MPa以上であり、さらに好ましくは9000MPa以上である。また、熱硬化性樹脂組成物の曲げ弾性率の上限は制限されないが、例えば、好ましくは13000MPa以下である。
【0031】
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物のJIS K 7161に準拠して測定される引張強度は、塗装の機械的強度をより向上させる観点から、好ましくは40MPa以上であり、より好ましくは45MPa以上であり、さらにより好ましくは60MPa以上である。熱硬化性樹脂組成物の引張強度の上限は制限されないが、たとえば70MPa以下である。
なお、引張強度は以下のように測定される。
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分で硬化した硬化物から、幅10mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片を切り出す。得られた試験片をJIS K 7161に準拠した方法により、オートグラフによって引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定する。
【0032】
粉体塗料を190℃、20分硬化した硬化物のせん断強度は、硬化後の塗膜の剥離を防ぐ観点から、好ましくは5MPa以上であり、より好ましくは8MPa以上であり、さらに好ましくは10MPa以上であり、また、同様の観点から、好ましくは20MPa以下であり、より好ましくは18MPa以下であり、さらに好ましくは15MPa以下、さらにより好ましくは13MPa以下である。
なお、せん断引張強度は、以下のように測定される。
2枚の銅板(材質C1100:幅15mm×長さ100mm×厚さ1mm)を重ね合わせて長さ方向に互いに逆方向にずらし、2枚の重なり部分が長さ方向に10mmとなるように配置する。すなわち、2枚の銅板の重なり領域は幅15mm×長さ10mmの領域となる。重なり領域の2枚の銅板間に粉体塗料0.1gを静置し、190℃、20分加熱を実施し、粉体塗料を溶融硬化してテストピースを得る。このテストピースの両端、すなわち各銅板における重なり領域と逆側の端部をオートグラフに挟み、10mm/分にて破断するまで引っ張ることにより、せん断引張強度を測定する。
【0033】
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物を、熱機械分析装置を使用し、昇温条件5℃/minにて0℃~320℃まで温度上昇させ、窒素雰囲気下条件にて測定されるガラス転移温度は、耐熱性により優れる観点から、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは115℃以上であり、また好ましくは150℃以下であり、より好ましくは145℃以下であり、さらに好ましくは140℃以下である。
【0034】
熱硬化性樹脂組成物を190℃、20分硬化した硬化物を、熱機械分析装置を用いて温度範囲0℃以上320℃以下、昇温速度5℃/分の条件で測定したときの、40℃以上60℃以下における線膨張係数をα1(ppm/℃)とし、180℃以上200℃以下における線膨張係数をα2(ppm/℃)としたときの、α1/α2は、コイルに対する密着性をより良好とする観点から、好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.26以上であり、また好ましくは0.30以下であり、より好ましくは0.29以下である。なお、α1は、ガラス転移温度以下における線膨張係数、α2は、ガラス転移温度以上における線膨張係数である。
なお、α1(ppm/℃)の数値範囲としては、好ましくは20以上であり、より好ましくは23以上であり、さらに好ましくは25以上であり、また好ましくは35以下であり、より好ましくは33以下であり、さらに好ましくは30以下である。
α2(ppm/℃)の数値範囲としては、好ましくは90以上であり、より好ましくは95以上であり、また好ましくは125以下であり、より好ましくは120以下であり、さらに好ましくは115以下であり、さらにより好ましくは110以下であり、よりいっそう好ましくは105以下である。
【0035】
粉体塗料の構成成分について説明する。
粉体塗料は、熱硬化性樹脂組成物を含み、熱硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂および(B)フェノール樹脂硬化剤を含む。
【0036】
(A)エポキシ樹脂
(A)エポキシ樹脂の具体例として、分子中に2個以上のエポキシ基を有し、室温下で固形のものが挙げられる。このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ノボラック型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ナフタレン型、芳香族アミン型などのエポキシ樹脂が挙げられる。
コイルエンドをより安定的に被覆する観点から、(A)エポキシ樹脂は、好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂およびナフタレン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上を含み、より好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を併用することがさらに好ましい。これにより、優れた常温保管性を得るとともに、熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度の低下を抑制することができる。
【0037】
熱硬化性樹脂組成物中の(A)エポキシ樹脂の含有量は、粉体塗料の硬化物の表面の平滑性を向上する観点から、熱硬化性樹脂組成物全体に対して好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上である。
また、粉体塗料の塗装成形性を良好なものとする観点から、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、熱硬化性樹脂組成物全体に対して好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、さらにより好ましくは35質量%以下である。
【0038】
また、熱硬化性樹脂組成物は、他の熱硬化性樹脂を含んでもよい。他の熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂(ただし後述する(B)フェノール樹脂硬化剤を除く)、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0039】
(B)フェノール樹脂硬化剤
(B)フェノール樹脂硬化剤の具体例としては、具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、フェノール-ビフェニルノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;ポリビニルフェノール;トリフェニルメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF(ジヒドロキシジフェニルメタン)等のビスフェノール化合物;4,4'-ビフェノールなどのビフェニレン骨格を有する化合物などが挙げられる。
(B)フェノール樹脂硬化剤としては、上記具体例の中から選択される1種類または2種類以上を含むことができ、好ましくはノボラック型フェノール樹脂であり、より好ましくはフェノールノボラック樹脂である。
【0040】
(A)エポキシ樹脂に対する(B)フェノール樹脂硬化剤の割合は、良好な硬化性および硬化物特性を得る観点から、(B)フェノール樹脂硬化剤の官能基(数)が、(A)エポキシ樹脂のエポキシ基(数)に対して、好ましくは0.3モル当量以上、より好ましくは0.5モル当量以上、さらに好ましくは0.6モル当量以上であり、また、好ましくは1.3モル当量以下、より好ましくは1.2モル当量以下、さらに好ましくは1.1モル当量以下である。
【0041】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物が、(A)エポキシ樹脂および(B)フェノール樹脂硬化剤を含むことにより、常温保管後の塗装時の粉体塗料の溶け広がりを促進し、常温保管性を良好とするメカニズムは定かではないが、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂との相溶性が良好なフェノール樹脂硬化剤を併用することにより、塗装時に、粉体塗料が溶け広がり易くすることができると考えられる。またフェノール樹脂硬化剤は、融点が低いため、塗装時にフェノール樹脂硬化剤自体も溶け、粉体塗料の溶け広がりがより良好となると考えられる。
【0042】
また、熱硬化性樹脂は、(B)フェノール樹脂硬化剤以外の硬化剤を使用してもよい。
(B)フェノール樹脂硬化剤以外の硬化剤の具体例としては、ジアミノジフェニルメタンやアニリン樹脂などの芳香族アミン、脂肪族アミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合物、ジシアンジアミドおよびその誘導体等のアミン類;
アジピン酸やフタル酸などのジヒドラジッド、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールAなどとアルデヒドとの縮合物であるノボラック類;
カルボン酸アミド;
メチロール化メラミン類;および
ブロック型イソシアヌレート類が挙げられる。
なお、(B)フェノール樹脂硬化剤以外の硬化剤として、熱硬化性樹脂組成物が、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等を含む酸無水物を含まないことが好ましい。これにより、粉体塗料の常温保管時の吸湿劣化を抑えることができるため、常温保管性をより一層良好とすることができる。また、粉体塗料の保管時や塗装時に、酸無水物由来の酸の発生を抑えることができるため、保管中の予期せぬ反応を防ぐことができる。
【0043】
熱硬化性樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含んでもよい。
硬化促進剤の具体例として、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン;3級アミン等のアミン化合物が挙げられる。これにより、常温保管後の粉体塗料を用いた場合の、塗装時の溶け広がりをより良好とすることができる。
熱硬化性樹脂組成物中の硬化促進剤の含有量は、良好な硬化特性を得る観点から、熱硬化性樹脂組成物全体に対して好ましくは0.005質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、さらにより好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、さらにより好ましくは0.3質量%以下である。
【0044】
熱硬化性樹脂組成物は、無機充填剤をさらに含んでもよい。
無機充填材として、具体的には、結晶シリカ、溶融破砕シリカ等の溶融シリカ、球状シリカ、表面処理シリカ等のシリカ;炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等のカルシウム化合物;硫酸バリウム、酸化アルミニウム(具体的にはアルミナ)、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、ジルコン、モリブデン化合物が挙げられる。
入手の容易さの観点から、無機充填材は、好ましくは、シリカ、アルミナおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される1種または2種以上を含み、より好ましくはシリカ、アルミナおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される1種または2種以上である。
【0045】
熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の機械的強度を向上する観点から、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、さらにより好ましくは50質量%以上である。また、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の平滑性を高める観点から、熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは75質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下である。
【0046】
熱硬化性樹脂組成物は、レベリング剤をさらに含んでもよい。
レベリング剤の具体例としては、アクリルオリゴマーが挙げられる。
粉体塗料中のレベリング剤の含有量は、被覆膜の平滑性向上の観点から、粉体塗料全体に対して好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0047】
熱硬化性樹脂組成物は、顔料等の着色剤をさらに含んでもよい。
顔料の具体例として、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、カーボンブラックおよびシアニンブルーからなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
粉体塗料中の顔料の含有量は、好ましい着色性を得る観点から、粉体塗料全体に対して好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、さらにより好ましくは1質量%以下である。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物は、上述した成分以外の成分をさらに含んでもよい。たとえば、熱硬化性樹脂組成物が、難燃剤、カップリング剤等を配合してもよい。
【0049】
また、粉体塗料は、粒子状の熱硬化性樹脂組成物以外の成分を含んでもよい。かかる成分の具体例として、流動性付与材が挙げられる。すなわち、粉体塗料は、その流動性をさらに向上する観点から、粒子状の熱硬化性樹脂組成物以外の成分として、好ましくは無機微粒子をさらに含む。
無機微粒子の材料は、好ましくはアルミナおよびシリカからなる群から選択される1種以上であり、より好ましくはアルミナである。
【0050】
レーザー回折法にて測定される無機微粒子の平均粒径d50は、粉体塗料の流動性を向上する観点から、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上であり、また、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。
【0051】
粉体塗料中の無機微粒子の含有量は、粉体塗料全体に対して好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上であり、また、たとえば5質量%以下であってよく、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0052】
本実施形態における粉体塗料は、たとえば、絶縁被覆で導体部が覆われているとともに絶縁被覆から導体部が露出する露出部が設けられたコイルエンドを有するコイルのコイルエンドを、粉体塗料が流動する流動槽に浸漬し、粉体塗料の溶融物を露出部の外側に付着させる工程を含む、粉体塗装方法に用いることができる。
また、本実施形態における粉体塗料は、好ましくは、粉体塗料の溶融物を露出部の外側に付着させる工程において、コイルエンドの露出部から絶縁被覆にわたって溶融物を付着させる粉体塗装方法に用いられる。さらに具体的には、本実施形態における粉体塗料により、露出部における導体の結線部分、溶接部分等を安定的に封止することができ、これにより、たとえば結線部分や溶接部分の強度を向上することも可能となる。
【0053】
(粉体塗料の製造方法)
次に、粉体塗料の製造方法を説明する。粉体塗料の製造方法は、具体的には、熱硬化性樹脂組成物を準備する工程を含む。また、粉体塗料が熱硬化性樹脂組成物以外の成分(たとえば無機微粒子)を含むとき、粉体塗料の製造方法は、たとえば、熱硬化性樹脂組成物と他の成分とを混合する工程をさらに含んでもよい。
ここで、粉体塗料を常温(23℃)で2時間保管した後の重量W1とし、その後、当該粉体塗料を105℃で2時間乾燥した後の重量W2としたとき、式:((重量W1-重量W2)/重量W1)×100で表される吸湿率(%)が特定の範囲にある粉体塗料を得るためには、たとえば、熱硬化性樹脂組成物の組成および粉体塗料の組成を適切に選択するとともに、熱硬化性樹脂組成物の製造工程を適切に選択することが重要である。
ここで、熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、たとえば、(A)エポキシ樹脂の種類および(B)フェノール樹脂硬化剤の種類、およびこれらの組み合わせを適切に選択し、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤および任意成分の全部を混合した後、加熱し、溶融混練して、全原料の混練物を得る。次いで、室温で十分に冷却後、得られた全原料混練物を、衝撃式微粉砕機により粉砕し、気流分級、篩分けにより微粉、粗粒カットを実施し、エポキシ樹脂粉体塗料を得る。篩分けにおいては、たとえば90メッシュ程度の篩を用いることができる。
【0054】
(粉体塗料の保管方法)
次に粉体塗料の保管方法を説明する。本実施形態の粉体塗料は、たとえば20~40℃程度の温度で、90~360日程度の長期間、保管することができる。上記条件で保管する場合は、保管中に粉体塗料が溶融固結することを防ぐことができる。
本実施形態の粉体塗料は、常温保管性に優れているため、上記条件にて保管した場合も、保管中に粉体塗料の粘度が上昇することにより、塗装時に溶け広がりが悪化し、塗膜にピンホールやボイドが発生することを抑制することができる。
【0055】
(コイル)
コイルは、本実施形態における粉体塗料により、露出部が封止されているコイルエンドを有する。
コイルの具体例として、駆動モーターコイル等のモーターコイルが挙げられる。以下、モーターの固定子コイルを例にさらに具体的に説明する。
【0056】
図1は、実施形態における固定子の構成例を示す斜視図である。図1に示した固定子100は、固定子鉄心101と固定子コイル103とを有する。固定子コイル103は、固定子鉄心101の内壁に設けられた溝部(スロット、不図示)に配設されている。
【0057】
図2は、固定子コイル103のコイルエンド105の構成例を示す上面図である。コイルエンド105には、絶縁被覆、たとえばエナメルで導体部が覆われているエナメル被覆部107と、エナメル被覆から導体部が露出している露出部109とが設けられており、露出部109が、本実施形態における粉体塗料により封止されている。図2においては、露出部109からエナメル被覆部107にわたって被覆部111が設けられている。被覆部111は、本実施形態における粉体塗料の硬化物により構成される。
【0058】
(粉体塗装方法)
粉体塗装方法は、たとえば本実施形態における粉体塗料を用いてコイルエンドを封止する方法である。かかる方法は、具体的には、絶縁被覆で導体部が覆われているとともに絶縁被覆から導体部が露出する露出部109が設けられたコイルエンド105を有するコイル(固定子コイル103)のコイルエンド105を、粉体塗料が流動する流動槽に浸漬し、粉体塗料の溶融物を露出部の外側に付着させる工程(工程1)を含む。
【0059】
工程1は、たとえば、粉体塗料が収容された流動槽に空気を導入して粉体塗料を流動させる工程(工程1-1)と、粉体塗料が流動している流動槽にコイルエンド105を浸漬する工程(工程1-2)と、を含んでもよい。
工程1-1は、たとえば、底部に多孔板が設けられている流動槽を用いて多孔板の上部に粉体塗料を充填し、多孔板の外側から空気を導入することにより、多孔板を介して流動槽中に空気を導入しておこなうことができる。
【0060】
工程1-2において、流動槽にコイルエンド105を浸漬すること、および、粉体塗料の溶融物を露出部の外側に付着させることは、単一の工程としておこなわれてもよいし、段階的におこなわれてもよいが、露出部109の封止安定性向上の観点から、好ましくは単一の工程としておこなわれる。すなわち、粉体塗料の溶融物の露出部の外側への付着は、好ましくはコイルエンド105を流動槽に浸漬している際に生じる。
【0061】
粉体塗装方法は、露出部109の封止安定性向上の観点から、好ましくは、流動槽にコイルエンド105を浸漬する前に、コイルエンド105を加熱する工程をさらに含む。このとき、粉体塗料が流動する流動槽に加熱されたコイルエンド105を浸漬することにより、流動槽中で、コイルエンド105の近傍の粉体塗料が溶融物としてコイルエンド105に付着する。また、コイルエンド105に付着した粉体塗料をさらに安定的に溶融物とする観点から、コイルエンド105を流動槽から取り出した後、コイルエンド105を加熱してもよい。
コイルエンド105の加熱は、たとえば、流動槽の上部に配置されたヒータにておこなうことができる。
【0062】
本実施形態において、粉体塗装方法は、粉体塗料の溶融物をコイルエンド105の露出部109の外側に付着させる工程の後、コイルエンド105を加熱して粉体塗料を硬化する工程(工程2)をさらに含んでもよい。温度条件以外の加熱硬化条件は、コイルエンド105の種類や大きさ、粉体塗料の構成成分等に応じて適宜設定することができる。
また、粉体塗装方法は、被覆の厚さを増す観点から、工程1および工程2を交互に複数回繰り返してもよい。
【0063】
本実施形態においては、特定の成分を有する熱硬化性樹脂組成物を含むとともに、吸湿率について特定の性質を有する粉体塗料を用いることにより、常温で保管した粉体塗料を用いた場合においても、コイルエンド105を安定的に封止して被覆部111を形成することができるとともに、コイルエンド105を安定的に封止して被覆部111を形成することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0065】
(実施例1、比較例1)
本例の粉体塗料に用いた成分を以下に示す。
【0066】
(熱硬化性樹脂組成物の原料)
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YD-012、軟化点81℃
エポキシ樹脂2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YD-013、軟化点95℃
エポキシ樹脂3:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC株式会社製、N-670、軟化点69~77℃
(無機充填材)
無機充填材1:球状シリカ、日鉄ケミカル&マテリアル社製、HS-208
(顔料)
顔料1:酸化チタン、石原産業社製、CR-500
顔料2:カーボンブラック、三菱ケミカル社製 MA-600
(硬化剤)
硬化剤1:フェノールノボラック型硬化剤、住友ベークライト株式会社製、PR-51470
硬化剤2:3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)
(硬化促進剤)
硬化促進剤1:トリフェニルホスフィン(TPP)、ケイアイ化成社製
(レベリング剤)
レベリング剤1:アクリルオリゴマー、allnex社製、モダフローパウダー3
【0067】
(その他成分)
(流動性付与材)
流動性付与材1:微粒アルミナ、エボニック社製、AEROXIDE AluC、d50=13nm
【0068】
(粉体塗料の製造)
表1に記載の配合で熱硬化性樹脂組成物を調製し、得られた熱硬化性樹脂組成物を常法にしたがって混合することにより、各例の粉体塗料を得た。
ここで、熱硬化性樹脂組成物については、原料成分をミキサー(徳寿社製、V-10)により混合し、80℃条件下で溶融混練し、室温で十分に冷却後、粉砕機(ホソカワミクロン社製、ACM粉砕機)により微粉砕し、流動性付与材を加えてさらにミキサーで混合し、気流分級および90メッシュの篩を用いて、表1に記載の粉体塗料を得た。
なお、得られた各例の粉体塗料について、粒径d90およびd10を、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD-7000)にて測定した。結果を表1に示す。
【0069】
(粉体塗料の物性)
各例で得られた粉体塗料の吸湿率、流れ率、ゲルタイムおよびせん断引張強度の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0070】
(吸湿率)
各例の粉体塗料を、常温(23℃)で2時間保管し、保管後の重量W1を測定した。その後、各例の粉体塗料を105℃で2時間乾燥し、乾燥後の重量W2を測定した。
式:((重量W1-重量W2)/重量W1)×100から、吸湿率(%)を算出した。
【0071】
(流れ率)
常温保管性の指標として、以下の方法に従い、流れ率を測定した。
(保存前(t=0))
各例で得られた粉体塗料0.5gを10mmφの成形用金型に入れ、20kgfで10秒間加圧成形し、筒状の試料を作製し、得られた試料の直径D0を測定した。次に、70mm×150mm×0.8mmのSPCC板上に試料を配置し、150℃の熱風乾燥機中に30分静置した。静置後、試料のSPCC板との接触面における直径D1を測定した。
下記式(i)に基づき、保存前の水平流れ率すなわち流れ率X(0)[%]を算出した。
X(t)(%)=(D1-D0)/D0×100・・・(i)
【0072】
(保存後(t=40))
各例で粉体塗料を、成形せずに、40℃にて40日間保存した。保存後、保存前の粉体塗料(t=0)の流れ率の測定手順に準じて、保存後の試料の作製、D0の測定、150℃にて30分静置、D1の測定をそれぞれおこなった。上記式(i)に基づき、保存後の水平流れ率すなわち流れ率X(40)[%]を算出した。
【0073】
(流れ率変化指数R)
得られた流れ率X(0)および流れ率X(40)より、下記式(ii)に基づきR[%]を算出した。
R=X(0)-X(40)・・・(ii)
【0074】
(ゲルタイム)
常温保管性の指標として、ゲルタイムを測定した。
各例の粉体塗料を40℃にて40日間保存し、以下の方法で保存前後の200℃におけるゲルタイムを算出した。保存前のゲルタイムをT(0)とし、保存後のゲルタイムをT(40)とした。結果を表1に示す。
(ゲルタイムの測定方法)
200℃に制御された熱板上に、各例の粉体塗料を載せ、スパチュラで約1回/秒のストロークで練る。各例の粉体塗料が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、ゲルタイム(秒)とした。ゲルタイムは、数値が小さい方が硬化が速いことを示す。
【0075】
(せん断引張強度)
2枚の銅板(材質C1100:幅15mm×長さ100mm×厚さ1mm)を重ね合わせて長さ方向に互いに逆方向にずらし、2枚の重なり部分が長さ方向に10mmとなるように配置した。すなわち、2枚の重なり領域は幅15mm×長さ10mmの領域である。重なり領域の2枚の銅板間に各例で得られた粉体塗料0.1gを広げて静置し、190℃、20分加熱を実施し、粉体塗料を溶融硬化してテストピースを得た。
上記テストピースの両端、すなわち各銅板における重なり領域と逆側の端部をオートグラフ(島津製作所社製)に挟み、10mm/分にて破断するまで引っ張ることにより、せん断引張強度測定を実施した。
【0076】
(粉体塗料を硬化して得られた硬化物の物性)
次に各例で得られた粉体塗料を硬化させたときの硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張伸び、ガラス転移温度、線膨張係数、耐熱性および耐ATF性(引張強度、曲げ強度の測定)、および耐ヒートサイクル性を以下の方法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0077】
(硬化物の作成)
実施例、比較例で得られた各粉体塗料について、加熱プレス機(テスター産業株式会社製 SA-302)を用いて、温度:190℃、圧力:0.2MPa、20分の条件で硬化させ、硬化物を得た。
【0078】
(曲げ強度)
得られた硬化物から、幅10mm、長さ100mm、厚さ2mmの試験片を作製する。得られた試験片をJIS K 6911に準拠した方法により、2支点間距離L:50mm、測定温度:25℃、試験速度:5mm/分の条件にて、オートグラフ(島津製作所社製、オートグラフAG-IS)によって曲げ試験を行い、上記条件で曲げ荷重が最大となったときの応力の値を曲げ強度(MPa)とした。
【0079】
(曲げ弾性率)
得られた硬化物を、幅10mm×長さ100mm×厚さ2mmの試験片に切り出した。試験片の25℃における曲げ弾性率(MPa)を、JIS K 6911に準拠して測定した。
【0080】
(引張伸び、引張強度)
得られた硬化物から、幅10mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片を切り出す。得られた試験片をJIS K 7161に準拠した方法により、オートグラフによって引張試験を行い、25℃における引張伸び率(%)および引張強度(MPa)を測定した。
【0081】
(ガラス転移温度、線膨張係数(α1、α2))
得られた硬化物のガラス転移温度および線膨張係数を、次のように測定した。
得られた硬化物を、20mm×5mm×5mmの試験片に切り出した。次いで、得られた試験片について、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。この測定結果から、ガラス転移温度Tg、ガラス転移温度以下における線膨張係数(α1)、ガラス転移温度以上における線膨張係数(α2)を算出した。α1は、40℃~60℃における線膨張係数、α2は、180℃~200℃における線膨張係数とした。α1とα2の単位はppm/℃であり、ガラス転移温度の単位は℃である。α1およびα2の値から、α1/α2を算出した。
【0082】
(耐熱性および耐ATF性評価)
各例の粉体塗料について、熱処理およびATF処理を行った後の物性(曲げ強度、引張強度、絶縁破壊評価)を測定し、耐熱性および耐ATF性を評価した。具体的には以下の方法にしたがっておこなった。
(試験片サンプルの準備)
(硬化物の作成)で得られた各例の粉体塗料の硬化物から、上記(引張強度)および(曲げ強度)に記載のサイズの試験片をそれぞれ切り出した。
(耐熱性評価)
(試験片サンプルの準備)で得られた試験片について、保管前、200℃500時間保管後および200℃1000時間保管後の、引張強度および曲げ強度の測定を行った。引張強度、曲げ強度については上記(引張強度)および(曲げ強度)に従って測定した。結果を表1に示す。
(耐ATF性評価)
(試験片サンプルの準備)で得られた試験片を、ATF(Automatic transmission fluid、トヨタ自動車製AUTO FLUID WS)に浸漬し、150℃の温度で保管し、保管前、500時間保管後および1000時間保管後の、引張強度および曲げ強度の測定を行った。引張強度、曲げ強度については上記(引張強度)および(曲げ強度)に従って測定した。結果を表1に示す。
【0083】
(耐ヒートサイクル試験)
固定子コイルのコイルエンドを模した、PEEK樹脂にて被覆された模擬テストピース(図3に示す)を190℃で20分加熱し、各例で得られた粉体塗料を、模擬テストピースのコイルエンド部分を被覆するように溶融付着させ(図3、粉体塗料による被覆部201)、190℃20分硬化させることにより、膜厚0.5mmとなるように塗装された塗装物を作製した。
各例の塗装物を、-40℃および150℃各20分を1サイクルとし、2000サイクルまで繰り返し、ヒートサイクル試験を行った。
ヒートサイクル試験後の塗装物の塗装表面を観察し、クラックの観察されない塗装物数を計測し、以下式により、クラック無塗装物(%)を算出した。なお、計測は500サイクル毎に行った。
クラック無塗装物(%)=(ヒートサイクル試験後クラック無塗装物の個数/作製直後塗装物の個数)×100
【0084】
【表1】
【0085】
表1より、実施例1で得られた粉体塗料においては、曲げ強度、曲げ弾性率、せん断引張強度および線膨張係数等の物性も好ましいものであった。また、実施例1では、ゲルタイムについても良好な結果が得られた。また、実施例1で得られた粉体塗料においては、耐熱性、耐ATF性および耐ヒートサイクル試験についても良好な結果が得られた。
各実施例における粉体塗料は、常温保管性に優れるものであり、コイルエンドの露出部の被覆に好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
100 固定子
101 固定子鉄心
103 固定子コイル
105 コイルエンド
107 エナメル被覆部
109 露出部
111 被覆部
200 耐ヒートサイクル試験用模擬テストピース
201 粉体塗料による被覆部
図1
図2
図3