(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061362
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20240425BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240425BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169264
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 典宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅浩
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770DA44
5H770JA10X
5H770JA19X
5H770QA01
5H770QA02
5H770QA05
5H770QA06
5H770QA08
(57)【要約】
【課題】ゲート発振の抑制を図る。
【解決手段】半導体モジュール1-1は、IGBT11、12がそれぞれ配置された回路基板b1、b2、補助エミッタ端子AE1、回路基板b1、b2上でIGBT11、21の各エミッタと電気的に接続される接続部13、23、および補助エミッタ配線を有する。補助エミッタ配線は、共通配線部1aおよび個別配線部1b、1cを含む。共通配線部1aは、補助エミッタ端子AE1と分岐点とを結ぶ。個別配線部1bは、分岐点と接続部13とを結び、共通配線部1aのインダクタンスの10%より小さいインダクタンスをもつ。個別配線部1cは、分岐点と接続部23とを結び、共通配線部1aのインダクタンスの10%より小さいインダクタンスをもつ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1スイッチング素子が配置された第1回路基板と、
前記第1スイッチング素子と並列に接続された第2スイッチング素子が配置された第2回路基板と、
補助エミッタ端子と、
前記第1回路基板において前記第1スイッチング素子のエミッタ電極と電気的に接続される第1接続部と、前記第2回路基板において前記第2スイッチング素子のエミッタ電極と電気的に接続される第2接続部と、前記補助エミッタ端子と電気的に接続される補助エミッタ配線と、を有し、
前記補助エミッタ配線は、
前記補助エミッタ端子と分岐点とを結ぶ共通配線部と、
前記分岐点と前記第1接続部とを結び、前記共通配線部のインダクタンスの10%より小さいインダクタンスをもつ第1個別配線部と、
前記分岐点と前記第2接続部とを結び、前記共通配線部のインダクタンスの10%より小さいインダクタンスをもつ第2個別配線部と、を有する、
半導体モジュール。
【請求項2】
前記第1個別配線部と前記第1接続部、または前記第2個別配線部と前記第2接続部は、複数本の導電性ワイヤにより電気的に接続されている、請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記第1個別配線部と前記第1接続部、または前記第2個別配線部と前記第2接続部は、導電パターンにより直接接続されている、請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記第1個別配線部または前記第2個別配線部の配線幅は、前記共通配線部の配線幅よりも広く形成されている、請求項1に記載の半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスイッチング素子を有する半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などのスイッチング素子を含む半導体モジュールは、高電圧、大電流を用いる電力変換装置などに用いられている。
【0003】
例えば、IGBTを含む電力変換用の半導体モジュールは、IGBTとダイオード(FWD(Free Wheeling Diode)として機能する)による上アームと下アームを有する。上アームのIGBTと下アームのIGBTとは直列に接続される。そして、上アームおよび下アームそれぞれにおいて、IGBTとダイオードのセットを並列接続することで、半導体モジュールとしての電流容量の拡大が図られている。
【0004】
スイッチング素子を並列接続する構成では、スイッチング動作時やアーム短絡時にゲート電圧に発振現象(以下、ゲート発振という)が観測されることがある。ゲート発振は、スイッチング素子のゲート容量、並列接続したスイッチング素子間のインダクタンス、ゲート間のインダクタンスなどに起因して生じる。ゲート発振が発生すると、スイッチング素子のゲート端子に耐圧を超える電圧が印加される可能性があるため、種々の対策が採られている。
【0005】
関連技術として例えば、並列に接続されたIGBTのエミッタ電極(端子)と合流点との間の主電流が流れる経路のインダクタンスを、基板のインダクタンスなどのエミッタ電極間のインダクタンスよりも小さくすることでゲート発振を抑制する技術が提案されている(特許文献1)。また、複数のIGBT間のエミッタに接続されるワイヤの長さや本数を調整することで、インダクタンスを揃えて電流のアンバランスや発振を抑える(段落番号0052など)技術が提案されている(特許文献2)。
【0006】
一方、同一アームに属する複数のIGBTが異なる基板上に配置され、導電パターンなどを介して並列接続されている半導体装置がある。このような半導体装置では、エミッタ電極間を接続する導電パターンなどに起因するインダクタンスが増大して、発振現象を十分抑制できないことがある。このため同一アームに属する複数のIGBTのエミッタ電極同士を導体ワイヤで直接接続しエミッタ電極間の電位を均一化させることで、ゲート発振を抑制する技術が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-162884号公報
【特許文献2】特開2017-135321号公報
【特許文献3】国際公開第2020/054806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような半導体モジュールでは、IGBTとダイオードのセットをDCB(Direct Copper Bonding)基板に実装し、DCB基板を並列接続した構成を有している。しかし、DCB基板の構成数が増えるほど、IGBTのスイッチング時または短絡状態時にゲート発振の現象が起きやすくなる。
【0009】
このような構成に対して、IGBTのゲート配線上にチップ抵抗を接続してゲート発振を抑制することが考えられる。しかし、チップ抵抗を接続すると、ゲート信号の立ち上がりが遅くなってスイッチング時間に遅延が生じ、ターンオン損失が増加してしまう。また、部品点数も増加するため製品コストが上昇することになる。
【0010】
ゲート発振は、ノイズの発生やゲート酸化膜の破壊につながる危険性があるため、複数のDCB基板を有する半導体モジュールに対して、ターンオン損失やコスト上昇を抑えつつ、ゲート発振の現象を精度よく抑制する技術が望まれている。
1つの側面では、本発明は、ゲート発振の抑制を図った半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、半導体モジュールが提供される。半導体モジュールは、第1スイッチング素子が配置された第1回路基板と、第1スイッチング素子と並列に接続された第2スイッチング素子が配置された第2回路基板と、補助エミッタ端子と、第1回路基板において第1スイッチング素子のエミッタ電極と電気的に接続される第1接続部と、第2回路基板において第2スイッチング素子のエミッタ電極と電気的に接続される第2接続部と、補助エミッタ端子と電気的に接続される補助エミッタ配線とを有する。
ここで、補助エミッタ配線は、補助エミッタ端子と分岐点とを結ぶ共通配線部と、分岐点と第1接続部とを結び、共通配線部のインダクタンスの10%より小さいインダクタンスをもつ第1個別配線部と、分岐点と第2接続部とを結び、共通配線部のインダクタンスの10%より小さいインダクタンスをもつ第2個別配線部とを有する。
【発明の効果】
【0012】
1側面によれば、ゲート発振を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の半導体モジュールの構成の一例を示す図である。
【
図2】上アーム側の補助エミッタ配線の配線構成の一例を示す図である。
【
図3】上アーム側の半導体モジュールの等価回路を示す図である。
【
図5】個別配線部のインダクタンスを変化させたときの位相余裕の変化の一例を示す図である。
【
図6】相対値と位相余裕の変化との関係の一例を示す図である。
【
図7】相対値と位相余裕の傾きとの関係の一例を示す図である。
【
図9】上アーム側の個別配線部と接続部との接続状態の一例を示す図である。
【
図10】上アーム側の個別配線部と接続部との接続状態の一例を示す図である。
【
図11】上アーム側の個別配線部と接続部との接続状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において実質的に同一の構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。
【0015】
図1は本発明の半導体モジュールの構成の一例を示す図である。本発明の半導体モジュール1-1の平面図を示している。半導体モジュール1-1は、ベース板3の上アーム側に回路基板b1、b2が搭載され、下アーム側に回路基板b11、b12が搭載される。さらに、ベース板3には、補助エミッタ端子AE1、AE2およびゲート端子G1、G2が搭載される。回路基板b1、b2、b11、b12は、例えば、DCB基板である。
【0016】
回路基板b1の主面に配設された導電パターン10には、スイッチング素子であるIGBT11、12が配置される。また、回路基板b1の導電パターン10には、IGBT11に対してFWDとして機能するダイオードD11と、IGBT12に対してFWDとして機能するダイオードD12が配置される。
【0017】
回路基板b2の主面に配設された導電パターン20には、スイッチング素子であるIGBT21、22が配置される。また、回路基板b2の導電パターン20には、IGBT21に対してFWDとして機能するダイオードD21と、IGBT22に対してFWDとして機能するダイオードD22が配置される。
【0018】
回路基板b11の主面に配設された導電パターン30には、スイッチング素子であるIGBT31、32が配置される。また、回路基板b11の導電パターン30には、IGBT31に対してFWDとして機能するダイオードD31と、IGBT32に対してFWDとして機能するダイオードD32が配置される。
【0019】
回路基板b12の主面に配設された導電パターン40には、スイッチング素子であるIGBT41、42が配置される。また、回路基板b12の導電パターン40には、IGBT41に対してFWDとして機能するダイオードD41と、IGBT42に対してFWDとして機能するダイオードD42が配置される。
【0020】
一方、回路基板b1には、導電パターン10の一部を切り欠いて形成されたスペースに別の導電パターンである接続部13が配設され、回路基板b2には、導電パターン20の一部を切り欠いて形成されたスペースに別の導電パターンである接続部23が配設される。
【0021】
また、回路基板b11には、導電パターン30の一部を切り欠いて形成されたスペースに別の導電パターンである接続部33が配設され、回路基板b12には、導電パターン40の一部を切り欠いて形成されたスペースに別の導電パターンである接続部43が配設される。
【0022】
回路基板b1の導電パターン10上に配置されたIGBT11、12は、各々のエミッタが導体ワイヤw11を介して、隣接するダイオードD11、D12のアノードに接続され、さらに導体ワイヤw11を介して接続部13に接続される。また、接続部13は、導体ワイヤw12を介して回路基板b11の導電パターン30に接続される。
【0023】
回路基板b2の導電パターン20上に配置されたIGBT21、22は、各々のエミッタが導体ワイヤw21を介して隣接するダイオードD21、D22のアノードに接続され、さらに導体ワイヤw21を介して接続部23に接続される。また、接続部23は、導体ワイヤw22を介して回路基板b12の導電パターン40に接続される。
【0024】
回路基板b11の導電パターン30上に配置されたIGBT31、32は、各々のエミッタが導体ワイヤw31を介して隣接するダイオードD31、D32のアノードに接続され、さらに導体ワイヤw31を介して接続部33に接続される。
【0025】
回路基板b12の導電パターン40上に配置されたIGBT41、42は、各々のエミッタが導体ワイヤw41を介して隣接するダイオードD41、D42のアノードに接続され、さらに導体ワイヤw41を介して接続部43に接続される。
【0026】
図2は上アーム側の補助エミッタ配線の配線構成の一例を示す図である。半導体モジュール1-1において、補助エミッタ端子AE1は、回路基板b1に配設される導電パターンpt1に導体ワイヤw51を介して接続される。
【0027】
導電パターンpt1は、回路基板b1に配設される導電パターンpt2に導体ワイヤw52を介して接続される。導電パターンpt2は、回路基板b1に配設される導電パターンpt3に導体ワイヤw53を介して接続される。導電パターンpt3は、回路基板b2に配設される導電パターンpt4に導体ワイヤw54を介して接続される。
【0028】
また、回路基板b1に配設される接続部13は、導電パターンpt3に導体ワイヤw55を介して接続され、回路基板b2に配設される接続部23は、導電パターンpt4に導体ワイヤw56を介して接続される。
【0029】
ここで、上アーム側における、補助エミッタ端子AE1に接続される補助エミッタ配線は、共通配線部1aおよび個別配線部1b、1cを有する。共通配線部1aは、補助エミッタ端子AE1と分岐点p1とを結ぶ配線部である。また、個別配線部1bは、分岐点p1と接続部13とを結ぶ配線部であり、個別配線部1cは、分岐点p1と接続部23とを結ぶ配線部である。
【0030】
この場合、共通配線部1aは、補助エミッタ端子AE1から、導電パターンpt1、pt2および導体ワイヤw51、w52、w53を介して、導電パターンpt3上の分岐点p1に繋がる配線部である。また、個別配線部1bは、分岐点p1から、導電パターンpt3および導体ワイヤw55を介して、接続部13に繋がる配線部である。さらに、個別配線部1cは、分岐点p1から、導電パターンpt4および導体ワイヤw56を介して、接続部23に繋がる配線部である。
【0031】
なお、上記では、スイッチング素子にIGBTを用いたが、IGBT以外のスイッチング素子を用いることができる。例えば、IGBTの代わりに、MOSFETであってもよい。またSiC(Silicon carbide)などのワイドバンドギャップ半導体基板に形成された素子を適用してもよい。MOSFETの場合は、エミッタがソース、コレクタがドレインと読み替えられる。またスイッチング素子内部にダイオードを設けたRC-IGBT(Reverse Conducting IGBT)を適用するなどして、個別のダイオードを省略してもよい。
【0032】
回路基板b1、b2、b11、b12に配設される導電パターン10、20、30、40、導電パターンpt1、pt2、pt3、pt4および接続部13、23、33、43は、導電性に優れた材質により構成されている。このような材質は、例えば、銅、アルミニウム、または、少なくともこれらの1種を含む合金等により構成されており、これら導電パターンおよび接続部の厚さは、例えば、0.2mmである。
【0033】
また、導電パターン10、20、30、40には、スイッチング素子やダイオード以外に、他の電子部品を適宜配置することができる。なお、導電パターン10、20、30、40、導電パターンpt1、pt2、pt3、pt4および接続部13、23、33、43の配置位置並びに形状は、適宜設計により選択することができる。
【0034】
配線部材である、導体ワイヤw11、w12、w21、w22、w31、w41、w51、w52、w53、w54、w55、w56は、金、銅、アルミニウム、金合金、銅合金、アルミニウム合金のいずれか1つ又はそれらの組み合わせを用いることができる。導体ワイヤによる接合としては、超音波および荷重によるワイヤボンディングが行われる。
【0035】
図3は上アーム側の半導体モジュールの等価回路を示す図である。この等価回路は、IGBT11、12、21、22、ダイオードD11、D12、D21、D22および抵抗R11、R12、R21、R22を備える。
【0036】
また、導電パターンおよび導体ワイヤのインダクタンス(寄生インダクタンス)をインダクタL1~L24とし、共通配線部1aのインダクタンスをインダクタLam、個別配線部1bのインダクタンスをインダクタLae11、個別配線部1cのインダクタンスをインダクタLae12とする。
【0037】
IGBT11のエミッタは、インダクタL5の一端に接続され、ダイオードD11のアノードは、インダクタL7の一端に接続される。IGBT12のエミッタは、インダクタL9の一端に接続され、ダイオードD12のアノードは、インダクタL11の一端に接続される。
【0038】
補助エミッタ端子AE1は、インダクタLamの一端に接続される。インダクタLamの他端は、インダクタLae11の一端およびインダクタLae12の一端に接続される。インダクタLae11の他端は、インダクタL5の他端、インダクタL7の他端、インダクタL9の他端およびインダクタL11の他端に接続される。
【0039】
IGBT21のエミッタは、インダクタL16の一端に接続され、ダイオードD21のアノードは、インダクタL18の一端に接続される。IGBT22のエミッタは、インダクタL21の一端に接続され、ダイオードD22のアノードは、インダクタL23の一端に接続される。インダクタLae12の他端は、インダクタL16の他端、インダクタL18の他端、インダクタL21の他端およびインダクタL23の他端に接続される。
【0040】
以降では、共通配線部1aのインダクタLamのインダクタンスをインダクタンスLam、個別配線部1b、1cそれぞれのインダクタLae11、Lae12のインダクタンスを総称してインダクタンスLaeと呼ぶ場合がある。
【0041】
図4は位相余裕を説明するための図である。ゲート発振の起きやすさを確認する方法として、オペアンプ等の安定性解析で用いられるAC解析を用いることができる。
図4では半導体モジュールのAC解析結果の一例を示しており、横軸は周波数[Hz]、縦軸は利得[dB]および位相[deg]である。
【0042】
ここで、ゲート発振の起きやすさを判定する特性値として位相余裕がある。位相余裕Pmは、利得0dB(増幅率が1)の周波数における位相から-360°を引いた値である。位相余裕Pmが大きいほど、ゲート発振が生じにくくなり安定する特性を有する。
【0043】
図5は個別配線部のインダクタンスを変化させたときの位相余裕の変化の一例を示す図である。共通配線部のインダクタンスLamを65nHとし、個別配線部のインダクタンスLaeを変化させたときのAC解析のシミュレーション結果を示しており、横軸は周波数[Hz]、縦軸は利得[dB]および位相[deg]である。また、インダクタンスLaeが26nHのときの利得および位相の波形を実線で示し、インダクタンスLaeが6nHのときの利得および位相の波形を点線で示す。
【0044】
ここで、シミュレーションによって、インダクタンスLaeが26nHのときの位相余裕は37[deg]となり、インダクタンスLaeが6nHのときの位相余裕は49[deg]となる結果が得られた。
【0045】
図6は相対値と位相余裕の変化との関係の一例を示す図である。横軸は共通配線部のインダクタンスLamと個別配線部のインダクタンスLaeとの相対値(Lae/Lam)であり、縦軸は位相余裕[deg]である。相対値(Lae/Lam)が小さいほど位相余裕が増加することがわかる。また、ゲート発振の安定性に寄与するためには、45[deg]以上の位相余裕が求められる。
【0046】
図7は相対値と位相余裕の傾きとの関係の一例を示す図である。横軸は共通配線部のインダクタンスLamと個別配線部のインダクタンスLaeとの相対値(Lae/Lam)であり、縦軸は位相余裕の傾きである。
【0047】
図7で示されるように、相対値(Lae/Lam)が小さくなるにつれて位相余裕が大きくなっている。また、相対値(Lae/Lam)が概ね0.10で位相余裕の傾き(位相余裕の増加の変化)が大きくなっており、相対値(Lae/Lam)を0.10より小さくすることにより45[deg]以上の位相余裕が得られることがわかる。0.10より小さい、とする相対値は、個別配線部のインダクタンスLaeが共通配線部のインダクタンスLamの10%より小さい相対値に該当する。
【0048】
このように、個別配線部のインダクタンスLaeを共通配線部のインダクタンスLamの10%より小さい値になるように調整することで、位相余裕の増加の変化が大きくなり、また、位相余裕を45[deg]以上とすることができ、ゲート発振を精度よく抑制することができる。
【0049】
図8は位相余裕の改善結果の一例を示す図である。半導体モジュール1-1における、共通配線部1aのインダクタンスLamと、個別配線部1b、1cのインダクタンスLaeとの相対値(Lae/Lam)を変化させたときのAC解析のシミュレーション結果を示している。横軸は周波数[Hz]、縦軸は利得[dB]および位相[deg]である。また、改善前の利得および位相の波形を実線で示し、改善後の利得および位相の波形を点線で示す。
【0050】
ここで、改善前では、共通配線部1aのインダクタンスLamは65nHであり、個別配線部1b、1cのインダクタンスLaeは13nHであり、このときの位相余裕は41[deg]であった。
【0051】
これに対し、改善後では、共通配線部1aのインダクタンスLamを73nHとし、個別配線部1b、1cのインダクタンスLaeを73nHの10%より小さい5nHとした場合、このときの位相余裕は51[deg]の結果が得られた。
【0052】
このように、個別配線部のインダクタンスLaeを共通配線部のインダクタンスLamの10%より小さくすることで位相余裕の増加度合いを大きくして位相余裕を45[deg]以上とすることができ、ゲート発振を精度よく抑制することができる。
【0053】
図9は上アーム側の個別配線部と接続部との接続状態の一例を示す図である。個別配線部1bにおいて、導電パターンpt3と接続部13とは、複数本の導体ワイヤw55aで接続され、個別配線部1cにおいて、導電パターンpt4と接続部23とは、複数本の導体ワイヤw56aで接続される。
【0054】
このような構成により、導体ワイヤw55aの接続本数を変えることで、個別配線部1bのインダクタンスLae11を共通配線部1aのインダクタンスLamの10%より小さくするように調整することができる。また、導体ワイヤw56aの接続本数を変えることで、個別配線部1cのインダクタンスLae12を共通配線部1aのインダクタンスLamの10%より小さくするように調整することができる。したがって、位相余裕を増加することができ、ゲート発振を抑制することが可能になる。
【0055】
図10は上アーム側の個別配線部と接続部との接続状態の一例を示す図である。個別配線部1bにおいて、導電パターンpt3は接続部13に直接接続され、個別配線部1cにおいて、導電パターンpt4は接続部23に直接接続される。
【0056】
このような構成により、個別配線部1bを接続部13に導電パターンで直接接続することにより、個別配線部1bのインダクタンスLae11を共通配線部1aのインダクタンスLamの10%より小さくするように調整することができる。また、個別配線部1cを接続部23に導電パターンで直接接続することにより、個別配線部1cのインダクタンスLae12を共通配線部1aのインダクタンスLamの10%より小さくするように調整することができる。したがって、位相余裕を増加することができ、ゲート発振を抑制することが可能になる。
【0057】
図11は上アーム側の個別配線部と接続部との接続状態の一例を示す図である。個別配線部1bに含まれる導電パターンpt3の幅は、共通配線部1aに含まれる導電パターンpt1、pt2の幅よりも広く形成され、個別配線部1cに含まれる導電パターンpt4の幅は、共通配線部1aに含まれる導電パターンpt1、pt2の幅よりも広く形成される。
【0058】
このような構成により、個別配線部1bに含まれる導電パターンの幅を共通配線部1aの導電パターンの幅より広く形成することにより、個別配線部1bのインダクタンスLae11を共通配線部1aのインダクタンスLamの10%より小さくするように調整することができる。また、個別配線部1cに含まれる導電パターンの幅を共通配線部1aの導電パターンの幅より広く形成することにより、個別配線部1cのインダクタンスLae12を共通配線部1aのインダクタンスLamの10%より小さくするように調整することができる。したがって、位相余裕を増加することができ、ゲート発振を抑制することが可能になる。
【0059】
以上説明したように、本発明の半導体モジュールでは、補助エミッタ端子から各回路基板へ分岐する分岐点までの共通配線部と、分岐点から各回路基板に配置される接続部までの個別配線部と、を含む補助エミッタ配線を有し、ゲート発振への感度の高い個別配線部のインダクタンスの値を減少させる調整を行う構成とした。この場合、個別配線部は、共通配線部のインダクタンスの10%より小さいインダクタンスをもつように調整される。これにより、ターンオン損失やコスト上昇を抑えつつ、位相余裕を増加させてゲート発振を抑制して、動作の安定性を向上させることができる。なお、上記では上アーム側に対する補助エミッタ配線の構成について説明したが、下アーム側に対する補助エミッタ配線についても同様の構成にすることができる。
【0060】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。さらに、前述した実施の形態のうちの任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1-1 半導体モジュール
1a 共通配線部
1b、1c 個別配線部
3 ベース板
10、20、30、40 導電パターン
11、12、21、22、31、32、41、42 IGBT
13、23、33、43 接続部
AE1、AE2 補助エミッタ端子
G1、G2 ゲート端子
b1、b2、b11、b12 回路基板
D11、D12、D21、D22、D31、D32、D41、D42 ダイオード
w11、w12、w21、w22、w31、w41、w51、w52、w53、w54、w55、w56、w55a、w56a 導体ワイヤ
pt1、pt2、pt3、pt4 導電パターン
L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、L9、L10、L11、L12、L13、L14、L15、L16、L17、L18、L19、L20、L21、L22、L23、L24 インダクタ
R11、R12、R21、R22 抵抗
Lam インダクタ(共通配線部)
Lae11、Lae12、Lae インダクタ(個別配線部)
p1 分岐点
Pm 位相余裕