(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061364
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】回帰モデル生成装置および漏洩量推定システム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20240425BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G06N20/00 130
G05B23/02 V
G05B23/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169267
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223BB13
3C223EA04
3C223EB01
3C223EB02
3C223FF05
3C223FF22
3C223FF26
3C223GG03
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】目的変数の値に関係なく、推定精度を所定範囲内に保持すること。
【解決手段】サーバ装置20は、第1物理量を目的変数とし、第2物理量を説明変数とする推定モデルMを生成する。サーバ装置20は、目的変数の値である第1物理量の推定値と第1物理量の実測値との誤差を算出し、誤差の前記実測値に対する割合が所定範囲内となるように機械学習により推定モデルMを生成する学習部22を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1物理量を目的変数とし、第2物理量を説明変数とする回帰モデルを生成する回帰モデル生成装置であって、
前記目的変数の値である前記第1物理量の推定値と前記第1物理量の実測値との誤差を算出し、前記誤差の前記実測値に対する割合が所定範囲内となるように機械学習により前記回帰モデルを生成する学習部を備えている
ことを特徴とする回帰モデル生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回帰モデル生成装置において、
前記学習部は、前記推定値をY
kとし、前記実測値をT
kとした場合、下記の式(2)の値が最小となるように、前記回帰モデルを生成する
ことを特徴とする回帰モデル生成装置。
【数1】
【請求項3】
請求項1または2に記載の回帰モデル生成装置において、
前記第1物理量は、弁における流体の漏洩量であり、
前記第2物理量は、前記弁の振動情報である
ことを特徴とする回帰モデル生成装置。
【請求項4】
請求項1に記載の回帰モデル生成装置と、
前記第2物理量である弁の振動情報を検出する検出部、前記検出部によって検出された振動情報を前記回帰モデルに入力することで、前記第1物理量の推定値である弁における漏洩量を出力する推定部を有する推定装置とを備えている
ことを特徴とする漏洩量推定システム。
【請求項5】
請求項4に記載の漏洩量推定システムにおいて、
前記回帰モデル生成装置は、弁の現場において、前記検出部によって検出された振動情報と、前記推定部によって出力された漏洩量とを関連付けた現場データが蓄積されていく蓄積部をさらに備え、
前記学習部は、前記蓄積部の現場データの漏洩量と、前記現場データの漏洩量に関して行った実験により取得した振動情報とを含む実験データを更新用の教師データとして用いて、前記回帰モデルを更新する
ことを特徴とする漏洩量推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、回帰モデル生成装置およびそれを備えた漏洩量推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、回帰式を用いて目的変数を予測する予測モデルが知られている。予測モデルは、回帰式に1つ又は複数の説明変数を入力することで、目的変数の値を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回帰式は、例えば最小二乗法により求められる。即ち、回帰式によって算出された目的変数(即ち、推定値)と実測値との誤差の二乗和が最小になるように、回帰式の係数や切片が求められる。そのため、目的変数の値如何に拘わらず、目的変数と実測値との誤差が略同程度になる。そのため、目的変数の値が小さいほど、目的変数の値に対して誤差の割合が大きくなってしまう。したがって、特に目的変数の値のレンジが広い場合には、目的変数の値が小さい領域において推定精度が低下する問題がある。
【0005】
本開示の技術は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、目的変数の値に関係なく、推定精度を所定範囲内に保持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の回帰モデル生成装置は、第1物理量を目的変数とし、第2物理量を説明変数とする回帰モデルを生成する。前記回帰モデル生成装置は、前記目的変数の値である前記第1物理量の推定値と前記第1物理量の実測値との誤差を算出し、前記誤差の前記実測値に対する割合が所定範囲内となるように機械学習により前記回帰モデルを生成する学習部を備えている。
【0007】
本開示の漏洩量推定システムは、前述の回帰モデル生成装置と、推定装置とを備えている。前記推定装置は、前記第2物理量である弁の振動情報を検出する検出部、前記検出部によって検出された振動情報を前記回帰モデルに入力することで、前記第1物理量の推定値である弁における漏洩量を出力する推定部を有している。
【発明の効果】
【0008】
前記の回帰モデル生成装置によれば、目的変数の値に関係なく、推定精度を所定範囲内に保持することができる。
【0009】
前記の漏洩量推定システムによれば、目的変数の値に関係なく、推定精度を所定範囲内に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、漏洩量推定システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、蓄積部における現場データの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、推定モデルの入出力を示す概念図である。
【
図4】
図4は、推定モデルの特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、従来の推定モデルの特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、推定装置による漏洩量の推定動作を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、表示部における表示態様の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
本実施形態の漏洩量推定システム100は、例えば化学プラントに設けられる弁2における流体の漏洩量を推定する。弁2は、例えば配管1に設けられている。
【0013】
具体的に、弁2の種類としては、グローブ弁、ゲート弁、ボール弁などが挙げられる。流体としては、水素、硫化水素、飽和炭化水素(メタン、エタン、プロパン等)、不飽和炭化水素(エチレン、プロピレン等)などが挙げられる。
【0014】
図1に示すように、漏洩量推定システム100は、推定装置10と、サーバ装置20とを備えている。推定装置10とサーバ装置20とは、ネットワークNを介して通信可能である。ネットワークNは、インターネットなどの広域通信ネットワークである。サーバ装置20は、回帰モデル生成装置の一例である。
【0015】
推定装置10は、弁2における漏洩量、即ち、弁2から下流側へ漏れている流体の流量を推定する携帯用の装置である。具体的に、推定装置10は、装置本体11およびプローブ18を有している。
【0016】
プローブ18は、推定対象となる弁2の振動情報(例えば、振動レベル)を検出する検出部の一例である。プローブ18は、例えば弁2のケーシングに押し当てられることで、弁2の振動情報を検出する。プローブ18は、ケーブル18aを介して装置本体11と接続されている。プローブ18によって検出された振動情報は、ケーブル18aを介して装置本体11に出力される。推定対象となる弁2とは、漏洩量が推定される弁2である。
【0017】
なお、装置本体11とプローブ18とは、一体に形成されていてもよい。また、装置本体11とプローブ18とは、Bluetooth(登録商標)等の無線通信規格によって無線で接続されていてもよい。
【0018】
装置本体11は、プローブ18によって検出された振動情報に基づいて、弁2における漏洩量を推定する。装置本体11は、ネットワークNを介してサーバ装置20と通信可能である。具体的に、装置本体11は、入力部12と、記憶部13と、表示部14と、推定部15とを有している。
【0019】
入力部12は、ユーザである測定員からの入力操作を受け付ける。入力部12は、入力操作に応じた入力信号を出力する。入力部12は、例えば、入力キー、または後述する表示部14に重ね合わされるタッチパネルである。
【0020】
記憶部13は、各種プログラム及び各種データを記憶する、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体である。記憶部13は、ハードディスク等の磁気ディスク、CD-ROMおよびDVD等の光ディスク、または半導体メモリによって形成されている。記憶部13は、後述するサーバ装置20の学習部22で生成された推定モデルM等を記憶する。また、記憶部13は、後述する推定部15によって出力された漏洩量等も記憶する。
【0021】
表示部14は、推定部15によって出力された漏洩量と、その推定モデルMの信頼度を表示する。推定モデルMの信頼度は、推定モデルMが出力した漏洩量の信頼度でもある。表示部14は、例えば、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。
【0022】
推定部15は、プローブ18によって検出された振動情報を、学習部22によって生成された推定モデルMに入力することで、推定される漏洩量を出力する。より詳しくは、推定部15は、プローブ18によって検出された振動情報と、プローブ18が検出したときの推定対象となる弁2の圧力とを、学習部22によって生成された推定モデルMに入力することで、推定される漏洩量を出力する。推定部15は、例えば、マイクロコンピュータまたはプロセッサと、各種半導体メモリとによって実現される。弁2における漏洩量は、第1物理量の一例であり、弁2の振動情報は、第2物理量の一例である。弁2の圧力は、第3物理量の一例である。
【0023】
サーバ装置20は、弁2における漏洩量を出力する推定モデルMを生成する。また、サーバ装置20は、現場Sで取得された弁2の振動情報および漏洩量を含む現場データを蓄積していくと共に、蓄積した現場データを用いて推定モデルMを更新する。サーバ装置20は、例えば、クラウドサーバである。具体的に、サーバ装置20は、蓄積部21と、学習部22とを有している。
【0024】
蓄積部21は、弁2の現場において、プローブ18によって検出された振動情報と、推定部15によって出力された漏洩量とを関連付けた現場データが蓄積されていく。弁2の現場Sとは、弁2が実際に設置されて稼働している場所である。
【0025】
具体的に、蓄積部21の現場データは、
図2に示すように、振動情報と漏洩量とが関連付けされている。より詳しくは、現場データは、弁2の種類、振動情報、圧力および漏洩量が関連付けされている。圧力は、プローブ18が振動情報を検出したときの弁2の流体圧力であり、例えば、入口側のドレン配管1に設けられている圧力計によって測定される弁2の入口圧力である。漏洩量は、数値で表されている。また、弁2の種類は、「弁A」、「弁B」および「弁C」で表されている。
【0026】
学習部22は、実験室で取得した実験データを教師データとして機械学習により初期の推定モデルMを生成する。具体的に、実験データは、実験で取得した弁2の振動情報および漏洩量、詳しくは、振動情報、圧力(入口圧力)および漏洩量である。また、学習部22は、蓄積部21の現場データの漏洩量と、その漏洩量に関して行った実験により取得した振動情報とを含む実験データを更新用の教師データとして用いて、推定モデルMを更新する。具体的に、学習部22は、データ選択部23と、モデル生成部24とを有している。
【0027】
データ選択部23は、モデル生成部24が初期の推定モデルMを生成するために必要な教師データを、実験データから選択して作成する。より詳しくは、データ選択部23は、実験データにおける振動情報および圧力を入力とし漏洩量を出力とする教師データを作成する。さらに、データ選択部23は、モデル生成部24が推定モデルMを更新するために必要な更新用の教師データを、蓄積部21の現場データに基づいて行った実験で取得した更新用の実験データから選択して作成する。詳しくは、更新用の実験データは、弁2の漏洩量が蓄積部21の現場データの漏洩量の値に設定された実験により取得された振動情報および圧力と、設定された現場データの漏洩量である。つまり、データ選択部23は、更新用の実験データにおける振動情報および圧力を入力とし漏洩量を出力とする更新用の教師データを作成する。また、この例では、データ選択部23は、弁2の種類ごとに教師データを作成する。
【0028】
このように、蓄積部21の現場データの漏洩量に関して行った実験で振動情報および圧力を取得するので、漏洩量として可能性のある範囲の漏洩量について振動情報および圧力を実験により取得することができる。そのため、広範な値の漏洩量について実験を行わなくてもすむので、実験を効果的に行うことができ、有効な更新用の実験データを取得することができる。したがって、適切な更新用の教師データを作成することができる。
【0029】
モデル生成部24は、データ選択部23によって作成された教師データを機械学習により初期の推定モデルMを生成する。推定モデルMは、漏洩量(即ち、第1物理量)を目的変数とし、振動情報(即ち、第2物理量)を説明変数とする回帰モデル(回帰式とも称される)である。より詳しくは、推定モデルMは、漏洩量を目的変数とし、振動情報および圧力(即ち、第3物理量)の2つを説明変数とする重回帰モデルである。つまり、
図3に示すように、推定モデルMは、振動情報および圧力を入力とし、推定される漏洩量を出力とするものであり、振動情報および圧力と漏洩量との関係を学習させる教師あり機械学習により生成される学習済みモデルである。
【0030】
例えば、推定モデルMである重回帰モデル(重回帰式とも称される)は、次の式(1)のように表される。
Yk=a+b1Xk1+b2Xk2 ・・・式(1)
ここで、Ykは、目的変数としての漏洩量の推定値であり、Xk1は、説明変数としての振動情報の値であり、Xk2は、説明変数としての圧力の値である。b1およびb2は、偏回帰係数であり、aは、回帰定数である。
【0031】
モデル生成部24は、目的変数の値である漏洩量の推定値と漏洩量の実測値との誤差を算出し、その誤差の実測値に対する割合が所定範囲内となるように機械学習により推定モデルMを生成する。具体的に、モデル生成部24は、実測値に対する誤差の割合の二乗和が最小となるように、重回帰モデルを生成する。つまり、モデル生成部24は、下記の式(2)の値が最小となるように、前述した重回帰モデルの偏回帰係数b
1,b
2および回帰定数aを求める。
【数1】
ここで、T
kは、漏洩量の実測値である。T
k-Y
kは、推定値と実測値との誤差である。
【0032】
このように生成された推定モデルMによれば、実測値のとり得る範囲において、実測値に対する誤差の割合が略一定、即ち所定範囲内となる。つまり、
図4に矢印で示すように、誤差は、実測値が小さくなるほど小さくなり、逆に実測値が大きくなるほど大きくなる。そのため、実測値が小さい領域においても実測値が大きい領域においても、略同程度の推定精度が保持される。つまり、目的変数の値に関係なく、推定値の推定精度が所定範囲内に保持される。特に、弁2の漏洩量は、弁2の振動情報や圧力に対して、とり得る値の範囲が非常に広い。つまり、漏洩量の数値は、桁数が2桁、3桁変わるぐらい広い範囲で変化する。このように数値の桁数が変わるようなとり得る値の範囲が非常に広い漏洩量を推定する場合、特に本開示の推定モデルMは有効である。
【0033】
図5に示すように、従来の回帰モデル、即ち、誤差の二乗和が最小となるように求められた回帰モデルによれば、実測値のとり得る範囲において、誤差の量が略一定となる。そのため、実測値に対する誤差の割合は、実測値が大きい領域では小さいが、実測値が小さい領域では大きくなる。つまり、実測値が小さい領域では、推定値の推定精度が低下してしまう。特に、とり得る値の範囲が非常に広い漏洩量を推定する場合では、漏洩量の数値が小さい領域における推定精度の低下が顕著なる。しかしながら、本開示の推定モデルMによれば、それが解消される。
【0034】
また、モデル生成部24は、データ選択部23によって作成された更新用の教師データを用いて推定モデルMを更新する。モデル生成部24は、弁2の種類ごとに推定モデルMを生成および更新する。更新用の教師データは前述の如く適切なデータであるため、推定モデルMはより推定精度の高いものに更新される。
【0035】
また、モデル生成部24は、推定モデルMの更新時に用いた更新用の教師データの数に応じて推定モデルMの信頼度を設定する。具体的に、モデル生成部24は、推定モデルMの更新時に用いた更新用の教師データの数が多いほど、信頼度を高く設定する。推定モデルMの更新時に用いた更新用の教師データの数は、データ選択部23が、現場データの漏洩量に基づいて行われた実験による実験データから選択して作成した教師データの数である。この例では、推定モデルMの信頼度は、「大」、「中」、「小」の3段階で表される。なお、推定モデルMの信頼度は、2段階または4段階以上で表すようにしてもよい。
【0036】
以上のように構成された漏洩量推定システム100では、測定員が推定装置10を操作することにより、推定装置10が、推定対象となる弁2の漏洩量を推定する。推定装置10の記憶部13には、モデル生成部24によって生成された最新の推定モデルMが格納されている。例えば、推定装置10は、ネットワークNを介してサーバ装置20から推定モデルMをダウンロードすることで、記憶部13に格納する。より詳しくは、記憶部13には、弁2の各種類に対応する複数種の推定モデルMが格納される。
【0037】
具体的に、推定装置10による漏洩量の推定動作について、
図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0038】
サーバ装置20の学習部22は、定期的または任意のタイミングにおいて、実験データに基づいて機械学習により推定モデルMを生成する。推定装置10は、定期的または任意のタイミングにおいて、学習部22によって生成された推定モデルMをダウンロードし、記憶部13に格納する。
【0039】
現場Sにおいて、測定員は、推定対象となる弁2の振動情報を推定装置10によって検出する(ステップS1)。具体的に、測定員が推定装置10のプローブ18を弁2のケーシングに押し当てることによって、プローブ18が弁2の振動情報を検出する。プローブ18によって検出された振動情報は、装置本体11に出力される。
【0040】
続くステップS2において、測定員は、圧力および弁2の種類を推定装置10に入力する。具体的に、測定員は、例えばドレン配管1に設けられている圧力計から推定対象となる弁2の圧力(即ち、入口圧力)を読み取り、読み取った圧力を入力部12によって入力する。また、測定員は、推定対象となる弁2の種類を入力部12によって入力する。
【0041】
続くステップS3では、推定部15が、推定対象となる弁2の漏洩量を推定する。具体的に、推定部15は、入力部12によって入力された弁2の種類に対応する推定モデルMを記憶部13から読み出す。そして、推定部15は、プローブ18から出力された振動情報および入力部12によって入力された圧力を、記憶部13から読み出した推定モデルMに入力することで、推定される漏洩量を出力する。
【0042】
続くステップS4では、推定部15によって出力された漏洩量が、
図7に示すように表示部14に表示される。また、このステップS4では、推定される漏洩量を出力した推定モデルMの信頼度も表示部14に表示される。つまり、推定部15が記憶部13から読み出した推定モデルMに設定されている信頼度が漏洩量の信頼度として表示される。この例では、信頼度は「大」であることが表示されている。
【0043】
ステップS5では、記憶部13が、推定部15によって推定された漏洩量等を記憶する。具体的に、推定部15が出力した漏洩量と、漏洩量を推定部15が出力したときに推定モデルMに入力された振動情報および圧力(入口圧力)とが関連付けられて、記憶部13に記憶される。その際、弁2の種類も漏洩量等と関連付けされて記憶部13に記憶される。こうして、推定部15によって推定された漏洩量等が記憶されると、ステップS6へ移行する。
【0044】
ステップS6では、蓄積部21に現場データが蓄積される。ステップS5で記憶部13に記憶された漏洩量や振動情報等は、例えばネットワークNを介してサーバ装置20の蓄積部21に新たな現場データとして蓄積される。
【0045】
サーバ装置20の学習部22は、定期的または任意のタイミングにおいて、推定モデルMを更新する。具体的に、データ選択部23は、更新用の教師データを、更新用の実験データから選択して作成する。そして、モデル生成部24が、更新用の教師データを用いて推定モデルMを更新する。
【0046】
このように、サーバ装置20の学習部22は、目的変数の値である第1物理量の推定値と第1物理量の実測値との誤差を算出し、誤差の実測値に対する割合が所定範囲内となるように機械学習により推定モデルM(回帰モデル)を生成する。具体的に、学習部22は、前記の式(2)の値が最小となるように、誤差の実測値に対する割合の二乗和が最小となるように、推定モデルM(回帰モデル)を生成する。そのため、誤差は、実測値が小さくなるほど小さくなり、実測値が大きくなるほど大きくなる。したがって、実測値のとり得る範囲において、推定値の推定精度を所定範囲内に保持することができる。
【0047】
また、第1物理量は、弁2における流体の漏洩量であり、第2物理量は、弁2の振動情報である。弁2の漏洩量は、弁2の振動情報や圧力に対して、とり得る範囲が非常に広い。そのため、従来の回帰モデルを用いた場合、漏洩量の数値が小さい領域における推定精度の低下が顕著なる。しかしながら、本開示の推定モデルMを用いて漏洩量を推定すれば、漏洩量の数値が小さい領域における推定精度の低下を防止できる。このように、本開示の推定モデルMは、とり得る範囲が非常に広い漏洩量を推定する場合、特に有効である。
【0048】
また、サーバ装置20の蓄積部21は、弁2の現場において、プローブ18によって検出された振動情報と、推定部15によって出力された漏洩量とを関連付けた現場データを蓄積していく。学習部22は、蓄積部21の現場データの漏洩量と、前記現場データの漏洩量に関して行った実験により取得した振動情報および圧力とを含む実験データを更新用の教師データとして用いて推定モデルMを更新する。この構成では、蓄積部21の現場データの漏洩量に関して実験を行って振動情報および圧力を取得するので、漏洩量として可能性のある範囲の漏洩量について振動情報および圧力が取得される。そのため、効果的な実験を行うことができ、有効な更新用の実験データを取得することができる。したがって、適切な更新用の教師データを作成することができる。そうした更新用の教師データを用いて推定モデルMを更新するため、漏洩量の推定精度を向上させることができる。したがって、例えば、経験の浅い測定員であっても容易に推定精度の高い漏洩量を得ることができる。
【0049】
(その他の実施形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0050】
例えば、推定モデルMである回帰モデルは、振動情報、即ち第2物理量のみを説明変数としてもよい。
【0051】
また、第3物理量は、弁2の圧力に限定されない。第3物理量は、例えば、弁2の上下流の温度差であってもよい。上下流の温度差は、測定員が振動情報を測定したときの弁2の上流側配管の温度と下流側配管の温度との温度差である。上下流の温度差が大きいほど、漏洩量は増加する傾向にある。
【0052】
また、推定モデルMである回帰モデルは、説明変数が3つ以上であってもよい。例えば、推定モデルMは、振動情報、圧力および上下流の温度差の3つを説明変数とする回帰モデルであってもよい。
【0053】
また、第1物理量等は、漏洩量等に限定されず、他の物理量であってもよい。特に、とり得る値の範囲が非常に広い物理量であれば、如何なるものも目的変数にし得る。
【0054】
また、回帰モデル生成装置は、サーバ装置20に限定されず、例えば、装置本体11に組み込まれた生成装置であってもよい。
【0055】
以上、本開示の技術をまとめると、以下のようになる。
【0056】
[1] サーバ装置20は、第1物理量を目的変数とし、第2物理量を説明変数とする推定モデルMを生成する。サーバ装置20は、前記目的変数の値である前記第1物理量の推定値と前記第1物理量の実測値との誤差を算出し、前記誤差の前記実測値に対する割合が所定範囲内となるように機械学習により前記推定モデルMを生成する学習部22を備えている。
【0057】
この構成によれば、実測値のとり得る範囲において、実測値に対する誤差の割合が所定範囲内となるため、目的変数の値に関係なく推定値の推定精度を所定範囲内に保持することができる。つまり、実測値が小さい領域においても推定精度の低下を解消することができる。
【0058】
[2] [1]に記載のサーバ装置20において、前記学習部22は、前記推定値をYkとし、前記実測値をTkとした場合、前記の式(2)の値が最小となるように、前記推定モデルMを生成する。
【0059】
この構成によれば、簡易な方法で推定モデルMを生成することができる。
【0060】
[3] [1]または[2]に記載のサーバ装置20において、前記第1物理量は、弁2における流体の漏洩量であり、前記第2物理量は、前記弁2の振動情報である。
【0061】
この構成によれば、漏洩量は、とり得る値の範囲が非常に広いため、前述の推定モデルMを用いることが特に有効である。
【0062】
[4] 漏洩量推定システム100は、前述のサーバ装置20と、前記第2物理量である弁2の振動情報を検出するプローブ18、前記プローブ18によって検出された振動情報を前記推定モデルMに入力することで、前記第1物理量の推定値である弁2における漏洩量を出力する推定部15を有する推定装置10とを備えている。
【0063】
この構成によれば、漏洩量のとり得る値の範囲において、実測値に対する誤差の割合が所定範囲内となるため、漏洩量の推定精度を所定範囲内に保持することができる。
【0064】
[5] [4]に記載の漏洩量推定システム100において、前記サーバ装置20は、弁の現場において、前記プローブ18によって検出された振動情報と、前記推定部15によって出力された漏洩量とを関連付けた現場データが蓄積されていく蓄積部21をさらに備えている。前記学習部22は、前記蓄積部21の現場データの漏洩量と、前記現場データの漏洩量に関して行った実験により取得した振動情報とを含む実験データを更新用の教師データとして用いて前記推定モデルMを更新する。
【0065】
この構成によれば、蓄積部21の現場データの漏洩量に関して行った実験で振動情報を取得するため、漏洩量として可能性のある範囲の漏洩量について振動情報を実験により取得することができる。そのため、効果的な実験を行うことができ、有効な更新用の実験データを取得することができる。したがって、適切な更新用の教師データを作成することができる。そうした更新用の教師データを用いて推定モデルMを更新するため、漏洩量の推定精度を向上させることができる。したがって、例えば、経験の浅い測定員であっても容易に推定精度の高い漏洩量を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本開示の技術は、回帰モデル生成装置および漏洩量推定システムについて有用である。
【符号の説明】
【0067】
100 漏洩量推定システム
2 弁
10 推定装置
15 推定部
18 プローブ(検出部)
20 サーバ装置(回帰モデル生成装置)
21 蓄積部
22 学習部
S 現場
M 推定モデル(回帰モデル)
Yk 推定値
Tk 実測値