(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061375
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】PFAS分解細菌カプセル及びそのPFAS処理方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240425BHJP
C12N 11/04 20060101ALI20240425BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240425BHJP
【FI】
C12N1/20 F
C12N11/04
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169286
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】本多 了
(72)【発明者】
【氏名】ソン ソワンラスミー
(72)【発明者】
【氏名】山村(原) 宏江
【テーマコード(参考)】
4B033
4B065
4D040
【Fターム(参考)】
4B033NA12
4B033NB48
4B033NC06
4B033ND04
4B065AA01X
4B065AA03X
4B065AA35X
4B065AA41X
4B065AC20
4B065BC47
4B065CA56
4D040DD03
4D040DD11
(57)【要約】
【課題】PFAS処理の実効性や効果に優れたPFAS分解細菌カプセル及びそのPFAS処理方法の提供を目的とする。
【解決手段】PFAS分解細菌と、前記PFAS分解細菌を内包する生分解性ポリマーを含む、PFAS分解細菌カプセル。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PFAS分解細菌と、前記PFAS分解細菌を内包する生分解性ポリマーを含む、PFAS分解細菌カプセル。
【請求項2】
さらに、負荷電膜でコーティングされた、請求項1に記載のPFAS分解細菌カプセル。
【請求項3】
前記生分解性ポリマーはアルギン酸類であり、
前記負荷電膜はスルホン酸基を有するポリマー膜である、請求項2に記載のPFAS分解細菌カプセル。
【請求項4】
前記PFAS分解細菌はParacoccus属、Hyphomicrobium属、Pseudoxanthomonas indica、Rhizobiaceae属、Achromobacter属、Ochrobactrum属、Micromonosporaceae属、Pandoraea属、Aminobacter属、Herbaspirillum属、Rhizobiales属、Pseudomonas viridiflava、Dokdonella属、Alphaproteobacteria属及びAlcaligenaceae属からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載のPFAS分解細菌カプセル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のPFAS分解細菌カプセルを、PFASを含む処理対象水に投入する、PFAS処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PFAS分解細菌カプセル及びそのPFAS処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの産業で使用されているPFOA(パーフルオロオクタン酸)やPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)などのPFAS(パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物とこれらの塩類)が難分解性であるために、海水や河川水、水道水等から検出され、その環境中への残留や生物濃縮、さらに健康への悪影響が問題視されている。
【0003】
非特許文献1には、Pseudomonas属細菌によるPFOSの生分解能について開示している。
PFASの処理に細菌を利用することで、非特許文献2に開示する高温での熱処理のように多量のエネルギー消費を伴うことなく、また、非特許文献3に開示する活性炭を利用した方法のように使用済み活性炭の廃棄に伴う二次汚染の問題がない。
しかし、水中のPFASに対して細菌を懸濁態として添加する方法では、外部からの微生物汚染(コンタミネーション)等に脆弱であり、より実効性高く、より効果的にPFASを処理する技術が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】B.G. Kwon et al. Biodegradation of perfluorooctanesulfonate (PFOS) as an emerging contaminant. Chemosphere 109, (2014), 221-225.
【非特許文献2】Wang, F., et al. 2013. Mineralization behavior of fluorine in perfluorooctanesulfonate (PFOS) during thermal treatment of lime-conditioned sludge. Environ. Sci. Technol. 47, 2621-2627.
【非特許文献3】US EPA, 2012. Emerging Contaminants - Perfluorooctane Sulfonate (PFOS) and Perfluorooctanoic Acid (PFOA). Emerginge Contaminants Fact Sheet - PFOS and PFOA, EPA 505-F-11-002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、PFAS処理の実効性や効果に優れたPFAS分解細菌カプセル及びそのPFAS処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るPFAS分解細菌カプセルは、PFAS分解細菌と、前記PFAS分解細菌を内包する生分解性ポリマーを含むことを特徴とする。
このようにPFAS分解細菌を生分解性ポリマーに内包、すなわちカプセル内に封入すると、PFAS分解細菌を環境ストレス等から保護でき、他の微生物との競合を避けてPFAS処理系内に長期に保持できる。
【0007】
本発明は、さらに、負荷電膜でコーティングされていてもよい。
ここで、負荷電膜とは、負荷電基を有するポリマー膜をいい、負荷電基はスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、フェノール基等が挙げられる。
例えば、前記生分解性ポリマーはアルギン酸類であり、前記負荷電膜はスルホン酸基を有するポリマー膜であってもよい。
例えば、スルホン酸基を有するポリマーとして、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン等が挙げられる。
このような負荷電膜がPFASを吸着することで、生分解性ポリマーに内包されたPFAS分解細菌が負荷電膜に吸着したPFASを効率良く分解できる。
【0008】
本発明において、前記PFAS分解細菌はParacoccus属、Hyphomicrobium属、Pseudoxanthomonas indica、Rhizobiaceae属、Achromobacter属、Ochrobactrum属、Micromonosporaceae属、Pandoraea属、Aminobacter属、Herbaspirillum属、Rhizobiales属、Pseudomonas viridiflava、Dokdonella属、Alphaproteobacteria属及びAlcaligenaceae属からなる群から選択される1種以上であってもよい。
例えば、活性汚泥から集積した細菌群であってもよい。
【0009】
本発明の一態様として、請求項1~4のいずれかに記載のPFAS分解細菌カプセルを、PFASを含む処理対象水に投入する、PFAS処理方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るPFAS分解細菌カプセルは、外部からの微生物汚染や環境ストレス等からPFAS分解細菌を保護し、PFAS分解細菌によるPFAS分解の実効性が高く、効果的にPFASを処理できる。
例えば、PFASを含む海水や河川水、水道水等にPFAS分解細菌カプセルを投入することで、PFASを処理してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】PFAS分解細菌カプセルによるPFOS処理試験結果を示す。
【
図4】PFAS分解細菌カプセルのPFOS処理試験前及び試験6週後の写真を示す。
【
図5】ポリマーに対するPFOS吸着試験結果を示す。
【
図6】5% PSf膜カプセル及び10% PSf膜カプセルの走査型電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<PFAS>
PFASはフッ素系有機化合物群であり、パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物とこれらの塩類をいい、例えば、パーフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質、パーフルオロデカン酸(PFDA)等のパーフルオロカルボン酸類や、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とその塩、パーフルオロオクタンスルホニルフオリド(PFOSF)、パーフルオロブタンスルホン酸(PFBS)等のパーフルオロアルキルスルホン酸類等が挙げられる。
PFASは、海水、河川水、水道水、工業用水、生活排水、工業排水等に含まれるほか、土壌やこの土壌より流出する水についても、その濃度を下げる必要性が指摘されている。
PFAS処理とは、上記のようなPFASを含む処理対象水等のPFAS濃度を下げることをいう。
【0013】
<PFAS分解細菌>
PFAS分解細菌とは、PFASを分解する能力を有する細菌であり、好ましくは好気条件下でPFASの分解能力を有する細菌であり、例えば、Paracoccus属、Hyphomicrobium属、Pseudoxanthomonas indica、Rhizobiaceae属、Achromobacter属、Ochrobactrum属、Micromonosporaceae属、Pandoraea属、Aminobacter属、Herbaspirillum属、Rhizobiales属、Pseudomonas viridiflava、Dokdonella属、Alphaproteobacteria属及びAlcaligenaceae属等の細菌が挙げられる。
例えば、PFAS分解細菌は活性汚泥から集積した細菌群であってもよく、細菌群はParacoccus属、Hyphomicrobium属、Pseudoxanthomonas indica、Rhizobiaceae属、Achromobacter属、Ochrobactrum属、Micromonosporaceae属、Pandoraea属、Aminobacter属、Herbaspirillum属、Rhizobiales属、Pseudomonas viridiflava、Dokdonella属、Alphaproteobacteria属及びAlcaligenaceae属からなる群から選択される2種以上の細菌を含んでいてもよい。
例えば、Paracoccus属、Hyphomicrobium属、Pseudoxanthomonas indica、Rhizobiaceae属、Achromobacter属、Ochrobactrum属及びMicromonosporaceae属からなる群から選択される1種の細菌が、細菌群の4%以上を占めてもよく、10%以上を占めることが好ましい。
例えば、Paracoccus属72%、Hyphomicrobium属24%及びMicromonosporaceae属4%の細菌群であってもよい。
【0014】
<PFAS分解細菌カプセル>
PFAS分解細菌カプセルとは、生分解性ポリマーを壁材とするカプセルにPFAS分解細菌を内包したものであり、PFAS分解細菌カプセルの形態は、例えば、ゲルビーズである。
生分解性ポリマーは、アルギン酸類であることが好ましい。
アルギン酸類は、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸エステル等が挙げられ、これらの中で、水溶性を示すことからアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせが好ましく、アルギン酸ナトリウムがより好ましい。
PFAS分解細菌カプセルは、生分解性ポリマーを壁材とするカプセルにPFAS分解細菌を内包し、さらに、その外側を有機濾過膜である負荷電膜でコーティングしてあることが好ましい。
負荷電膜とは、負荷電基を有するポリマー膜であり、負荷電基はスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、フェノール基等が挙げられ、強電解質を示すことからスルホン酸基を有するポリマー膜であることが好ましい。
スルホン酸基を有するポリマーは、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン等が挙げられ、剛性や強度が高く、透明であることからポリスルホンが好ましい。
負荷電膜のPFAS吸着(例えば、処理対象水中のカルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの二価陽イオンによる架橋)を利用して、PFASを含む処理対象水のPFAS濃度を下げることもできる。
なお、ゲルビーズを形態とするPFAS分解細菌カプセルの製造方法は、ゲル化剤を含む連続相(例えば、塩化ナトリウム溶液)に、PFAS分解細菌を含む生分解性ポリマー水溶液を分散相として滴下混合し、PFAS分解細菌を内包することで、生分解性ポリマーを壁材とするPFAS分解細菌カプセルを形成してもよい。
さらに、ゲル化剤内で攪拌等して固化したPFAS分解細菌カプセルを、ポリマー膜液に浸漬して、ポリマー膜でコーティングしたPFAS分解細菌カプセルを形成してもよい。
例えば、カプセルをポリマー膜液に約30~60秒浸漬し、その後に約15~25℃の水に所定時間浸漬することで、カプセル表面にポリマー膜をコーティングしてもよい。
なお、製造したカプセルは、滅菌済の生理食塩水等の中で冷蔵保存することが好ましい。
【実施例0015】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0016】
<集積株の細菌種同定>
活性汚泥からPFAS含有培地を用いた馴致と継代培養によりS1~S8の細菌群を集積した。
この集積株S1~S8に存在する細菌種を、16S rRNA遺伝子のV3-V4領域を対象とした微生物群集解析により同定した。
具体的には、集積株の培養液を10,000×gで5分間遠心分離して得られた沈殿物より市販のDNA抽出キットを用いてDNA抽出を行い、得られたDNA抽出液を、次世代シーケンサーMiSeq (Illumina社製) による配列解析に供した。
まず,dsDNA 915 Reagent Kit (Agilent Technologies、USA) を用いて、341F(5’-CCTACGGNGGCWGCAG-3’) と 805R(5’-GACTACHVGGTATCTAATCC-3’) のユニバーサルプライマーセットによる配列ライブラリーを作製した。
ライブラリー調製のためのPCR増幅条件は、94℃で2分の初期変性1サイクル、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒の30サイクル、72℃で5分の最終伸長とした。
調製したライブラリーは、メーカーのプロトコルに従って Wizard SV Gel and PCR Clean-UP System (Promega、Madison、USA) で精製した後、MiSeq Reagent Kit v3 (Illumina、USA) により MiSeq シーケンサーシステム (Illumina社製) を用いて2×300 bpで配列解析を行った。
得られた配列データから、Fastx toolkit version 0.0.14 と sickle version 1.33 を用いて品質の低い配列を除去した後、FLASH (version 1.2.11) でペアエンドライブラリーを作成した。
分類解析には、Quantitative Insights into Microbial Ecology 2 (QIIME2) version 2020.8 を使用した。
なお、ペアエンドライブラリーは、dada2 プラグインを使用してキメラ配列を除去した後、Greengene version 13_8 の参照ライブラリーのもと、97%の同一性を基準にoperational taxonomic unit (OTUs) に分類した。
【0017】
図1に、集積株S1~S8の細菌種について示す。
図1中、例えば、「Paracoccus sp.」とは、「Paracoccus属の細菌」を示す。
【0018】
<集積株によるPFOS分解試験>
次に、集積株S1~S8によるPFOS分解試験を実施した。
具体的には、PFOS 2mg/Lとメタノール0.4%(v/v)を含む培地25mLに集積株S1~S8の培養液5mLをそれぞれ加え、培養3、6週後にそれぞれPFOS濃度(C)をLC-MS/MSにて測定し、初期濃度(C0:2mg/L)に対するPFOS残存率(C/C0)を求めた。
なお、未集積の活性汚泥についても、PFOS 2mg/Lとメタノール0.4%(v/v)を含む培地25mLに活性汚泥0.6mgを加え、培養3、5週後の初期濃度(C0:2mg/L)に対するPFOS残存率(C/C0)を求めた。
【0019】
その結果を、
図2に示す。
未集積の活性汚泥の場合は、PFOS残存率が培養3週後に約1.2、培養5週後に約1.1とPFOS濃度が低下しなかったのに対し、集積株S1~S8はいずれも、培養3週後に約0.7~0.8とPFOS濃度を低下させ、さらに培養6週後にはPFOS残存率が約0.3~0.6であった。
特に、集積株S1~S5は、培養6週後にはPFOS残存率が約0.3~0.4と、PFOS濃度を大きく低下させた。
【0020】
<PFAS分解細菌カプセルの製造方法>
PFOS 2mg/Lとメタノール0.4%(v/v)を含む培地で約1週間培養した上記集積株S3の培養液を遠心分離して細菌を回収し、回収した細胞ペレットに残存する培養液成分を滅菌済生理食塩水で洗浄した後、滅菌済生理食塩液に再懸濁した。
この細菌懸濁液を、アルギン酸ナトリウムを純水に溶解した2~3%(w/v)アルギン酸ナトリウム溶液と混合し、アルギン酸ナトリウムの最終濃度が2%(w/v)の細菌懸濁アルギン酸ナトリウム溶液を調製した。
この細菌懸濁アルギン酸ナトリウム溶液を、撹拌下で4%(w/v)塩化ナトリウム溶液中に注射針を用いて滴下して複数のゲルビーズを形成した。
その後、3時間塩化ナトリウム溶液内で固化させた各ゲルビーズを、滅菌水で洗浄した後、滅菌済生理食塩水中で冷蔵保存した。
このゲルビーズを、以下、「アルギン酸ゲルビーズ」という。
次に、ポリスルホン(PSf)を1-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒に添加し、75~80℃で約12時間撹拌しながら溶解して、5%(w/v)、10%(w/v)のポリスルホン溶液をそれぞれ調製した。
このポリスルホン溶液に、上記アルギン酸ゲルビーズを約30秒浸漬した後、20~25℃のウォーターバスに約1時間浸漬することで、ゲルビーズ表面にポリマー膜を形成した。
このポリマー膜でコーティングしたアルギン酸ゲルビーズを、滅菌水で洗浄して残留溶媒を除去し、滅菌済の生理食塩水中で冷蔵保存した。
この5%(w/v)、10%(w/v)ポリスルホン膜でコーティングしたアルギン酸ゲルビーズを、以下、それぞれ「5% PSf膜カプセル」、「10% PSf膜カプセル」という。
【0021】
<PFAS分解細菌カプセルによるPFOS処理試験>
次に、上記細菌懸濁液、アルギン酸ゲルビーズ、5% PSf膜カプセル及び10% PSf膜カプセルによるPFOS処理試験を実施した。
具体的には、PFOS 2mg/Lとメタノール0.4%(v/v)を含む培地100mLに対し、25mL相当の細菌懸濁液、同量の細菌懸濁液から作成したアルギン酸ゲルビーズ、5% PSf膜カプセル及び10% PSf膜カプセルをそれぞれ加え、3、6週後にそれぞれPFOS濃度(C)をLC-MS/MSにて測定し、初期濃度(C0:2mg/L)に対するPFOS残存率(C/C0)を求めた。
【0022】
その結果を、
図3に示す。
PFOS溶液(Control)は、PFOS残存率が3、6週後ともに約0.9であったが、細菌懸濁液は3週後に約0.7、6週後に約0.6と、PFOS濃度を低下させた。
そして、細菌を内包したアルギン酸ゲルビーズは、PFOS残存率が3週後に約0.3、6週後に約0.2と、細菌懸濁液よりも大きくPFOS濃度を低下させた。
また、5% PSf膜カプセルは、PFOS残存率が3週後に約0.3、6週後に約0.35であり、さらに、10% PSf膜カプセルは、PFOS残存率が3、6週後ともに約0.05と著しくPFOS濃度を低下させた。
なお、PFOS溶液(Control)が、3、6週後ともにPFOS残存率が約0.9であったのは、PFOSとメタノールを含む培地を入れた容器への吸着や分析のための前処理過程での喪失によるもと考えられる。
【0023】
<PFAS分解細菌カプセルの物理的強度>
図4に、アルギン酸ゲルビーズ、5% PSf膜カプセル及び10% PSf膜カプセルについて、上記PFOS処理試験前の写真と、PFOS処理試験6週後の写真を示す。
アルギン酸ゲルビーズ、5% PSf膜カプセル及び10% PSf膜カプセルはともに直径約2mmのカプセルであり、試験6週後にはアルギン酸ゲルビーズ及び5% PSf膜カプセルはカプセルが崩壊したのに対し、10% PSf膜カプセルは、試験6週後においても崩壊が認められなかった。
このことから、10% PSf膜カプセルが10%(w/v)ポリスルホン膜により物理的強度に優れることがわかる。
ポリマー膜がポリスルホン膜である場合、物理的強度の観点からは、ポリスルホン濃度は約10%(w/v)以上であることが好ましい。
【0024】
<ポリマーに対するPFOS吸着試験>
次に、ポリマーに対するPFOS吸着能を確認した。
まず、アルギン酸ナトリウムを純水に溶解した2%(w/v)アルギン酸ナトリウム溶液を、撹拌下で4%(w/v)塩化ナトリウム溶液中に注射針を用いて滴下してゲルビーズを形成し、3時間塩化ナトリウム溶液内で固化させた。
この細菌未封入のアルギン酸ゲルビーズを、以下、「未封入アルギン酸ゲルビーズ」という。
次に、ポリスルホン(PSf)とNMP溶媒を75~80℃で約12時間撹拌して調製した5%(w/v)、10%(w/v)のポリスルホン溶液に、上記未封入アルギン酸ゲルビーズを約30秒浸漬し、さらに20~25℃のウォーターバスに約1時間浸漬して、ゲルビーズ表面にポリマー膜を形成し、その後、滅菌水で洗浄して残留溶媒を除去した。
この5%(w/v)、10%(w/v)ポリスルホン膜でコーティングした細菌未封入のアルギン酸ゲルビーズを、以下、それぞれ「未封入5% PSf膜カプセル」、「未封入10% PSf膜カプセル」という。
この未封入アルギン酸ゲルビーズ、未封入5% PSf膜カプセル及び未封入10% PSf膜カプセルを、PFOS 2mg/Lとメタノール0.4%(v/v)を含む培地に加え、3、6、12、24時間後にそれぞれPFOS濃度(C)をLC-MS/MSにて測定し、初期濃度(C0:2mg/L)に対するPFOS残存率(C/C0)を求めた。
【0025】
その結果を、
図5に示す。
PFOS溶液(Control)及びコーティングを施していない未封入アルギン酸ゲルビーズは、PFOS残存率が24時間後に約0.8であったのに対し、未封入5% PSf膜カプセル及び未封入10% PSf膜カプセルは約12時間後には、PFOS濃度をほぼ0に低下させた。
このことから、ポリスルホン膜にPFOSが吸着していることがわかる。
【0026】
<ポリマー膜の構造解析>
図6に、5% PSf膜カプセル及び10% PSf膜カプセルの走査型電子顕微鏡写真を示す。
10% PSf膜カプセルのポリマー膜は、5% PSf膜カプセルのポリマー膜よりも厚みがあることがわかる。
また、10% PSf膜カプセルは、5% PSf膜カプセルの断面構造に比べて、スポンジのような格子状の構造(外部から内部方向への略鉛直方向の柱と、それをおよそ水平につなぐ梁からなる構造)によって空隙部が細かく仕切られていることがわかる。
10% PSf膜カプセルは、ポリマー膜の層が十分な厚みを有すること、また、膜内部のポリマーが格子状の構造を有するために強度に優れ、PFAS分解細菌を長期に保持できると考えられる。