(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061415
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】MPDスラスタの駆動装置
(51)【国際特許分類】
B64G 1/40 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
B64G1/40 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169352
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】502178001
【氏名又は名称】学校法人梅村学園
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】上野 一磨
(72)【発明者】
【氏名】村中 崇信
(57)【要約】
【課題】MPDスラスタの駆動装置において、簡易な構成でMPDスラスタの多彩な推力制御を可能にする。
【解決手段】MPDスラスタの駆動装置1は、プラズマ化された推進剤を噴射するノズル状のアノード12aおよびアノード12a内に配置されたカソード12bを有するMPDスラスタ放電部12と、アノード12aとカソード12bの間に入力電圧を印加して放電電流を生成する電源装置21と、入力電圧を連続的にON-OFFする高速スイッチング素子13と、放電電流の時間波形が波打つように高速スイッチング素子13を制御する制御装置14とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ化された推進剤を噴射するノズル状のアノードおよび前記アノード内に配置されたカソードを有するMPDスラスタ放電部と、
前記アノードと前記カソードの間に入力電圧を印加して放電電流を生成する電源装置と、
前記入力電圧を連続的にON-OFFする高速スイッチング素子と、
前記放電電流の時間波形が波打つように前記高速スイッチング素子を制御する制御装置と
を備える、MPDスラスタの駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、推進を待機するとき、前記放電電流の平均値がゼロより大きく推進を待機可能な最小推力範囲に維持されるように前記高速スイッチング素子を制御する、請求項1に記載のMPDスラスタの駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、推進を開始するとき、前記放電電流の平均値が徐々に大きくなるように前記高速スイッチング素子を制御する、請求項1または2に記載のMPDスラスタの駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、推進を終了するとき、前記放電電流の平均値が徐々に小さくなるように前記高速スイッチング素子を制御する、請求項1または2に記載のMPDスラスタの駆動装置。
【請求項5】
前記電源装置は宇宙機本体の電源であり、
前記MPDスラスタ放電部と前記電源装置との間であって、前記宇宙機本体と機械的に連結されたMPDスラスタシステム内に前記高速スイッチング素子が組み込まれている、請求項1または2に記載のMPDスラスタの駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MPD(Magneto Plasma Dynamic)スラスタの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機用の電気推進装置としてプラズマスラスタの一種であるMPDスラスタが知られている。MPDスラスタでは、アルゴンガス等の推進剤が直流放電によってプラズマ化され、プラズマ化された推進剤が放電電流と当該放電電流が誘起する磁場によって生成されるローレンツ力によって加速および排気される。このときMPDスラスタに発生する反力が宇宙機の推進力となる。
【0003】
一般に、MPDスラスタの推力は、電源電圧またはコンデンサ電圧の準定常放電作動またはパルス放電作動によって調整される。そのようなMPDスラスタが、例えば特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-294778号公報
【特許文献2】特開2020-91968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MPDスラスタは、宇宙機の巡行制御だけでなく姿勢制御にも使用され得る。特に姿勢制御のような放電時間が短い制御の場合、高精度に短時間のみ適切な電圧で放電する必要があり、そのような放電制御は容易ではない。従って、巡行制御や姿勢制御等の多彩な推力制御を可能にするための構成は複雑化するおそれがある。これに対して、宇宙機における多彩な推力制御を簡易な構成で実現することが求められている。
【0006】
本発明は、MPDスラスタの駆動装置において、簡易な構成でMPDスラスタの多彩な推力制御を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、
プラズマ化された推進剤を噴射するノズル状のアノードおよび前記アノード内に配置されたカソードを有するMPDスラスタ放電部と、
前記アノードと前記カソードの間に入力電圧を印加して放電電流を生成する電源装置と、
前記入力電圧を連続的にON-OFFする高速スイッチング素子と、
前記放電電流の時間波形が波打つように前記高速スイッチング素子を制御する制御装置と
を備える、MPDスラスタの駆動装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、簡易な構成の高速スイッチング素子によって放電電流の時間波形を波打つように調整できるため、MPDスラスタ放電部(以下、単にMPDスラスタともいう。)の推力を容易に制御できる。具体的には、特定の入力電圧を高速かつ連続的にON-OFF制御すると、放電電流が細かく波打つように出力される。このときの放電電流の平均値をとると、高速スイッチング制御なしの場合と比べて放電電流が低下したものとみなすことができる。また、連続的にON-OFF制御する際に、OFFの回数や時間を大きくするほど放電電流の平均値は低下する。即ち、任意の出力低下を実現できる。例えば、当該出力値を維持するように制御することで所望の巡行制御を実現でき、当該出力値をパルス的に変化させることで所望の姿勢制御を実現できる。なお、ここでの「高速スイッチング素子」とは、1ミリ秒以下で作動するスイッチング素子のことをいう。
【0009】
前記制御装置は、推進を待機するとき、前記放電電流の平均値がゼロより大きく推進を待機可能な最小推力範囲に維持されるように前記高速スイッチング素子を制御してもよい。
【0010】
この構成によれば、点火装置なしでMPDスラスタを再始動できる。仮に、推進を待機するために放電電流をゼロとすると、MPDスラスタを再始動するために点火装置を要する。これに対し、放電電流の平均値を、ゼロより大きく推進を待機可能な最小推力範囲に維持することで、点火装置を要することなく、高速スイッチング素子の制御によってMPDスラスタを再始動できる。ここで、最小推力範囲とは、例えばMPDスラスタ放電部ごとに異なる固有の範囲値であり、MPDスラスタ放電部の形状、推進剤種類、および推進剤流量に依存した範囲値のことをいう。従って、再始動のための点火装置を不要としたアイドリング状態を簡易に実現できる。よって、点火装置の使用は初回に限定され、使用頻度を減少でき、点火装置の劣化防止(長寿命化)を実現できる。なお、実際上、放電電流をゼロとしても推進剤の残留の程度によっては再始動できる場合がある。しかし、推進剤の残留の程度を考慮した複雑な制御が必要となるため、本構成ではそのような複雑な制御なしでアイドリング状態を実現できる。
【0011】
前記制御装置は、推進を開始するとき、前記放電電流の平均値が徐々に大きくなるように前記高速スイッチング素子を制御してもよい。
【0012】
この構成によれば、急発進を防止できるため、乗員や積載物への負荷を軽減できる。
【0013】
前記制御装置は、推進を終了するとき、前記放電電流の平均値が徐々に小さくなるように前記高速スイッチング素子を制御してもよい。
【0014】
この構成によれば、急停止を防止できるため、乗員や積載物への負荷を軽減できる。
【0015】
前記電源装置は宇宙機本体の電源であってもよく、
前記MPDスラスタ放電部と前記電源装置との間であって、前記宇宙機本体と機械的に連結されたMPDスラスタシステム内に前記高速スイッチング素子が組み込まれていてもよい。
【0016】
この構成によれば、宇宙機本体に高速スイッチング素子が組み込まれるのではなく、MPDスラスタシステムに高速スイッチング素子が組み込まれる。従って、DCDCコンバータのような電源回路を宇宙機本体の電源装置に組み込む必要もなく、MPDスラスタシステム内で放電電流の調整を完結できる。ここで、MPDスラスタシステムとは、宇宙機本体とは別個に構成された推進機能を有するシステムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成でMPDスラスタの多彩な推力制御を可能にするMPDスラスタの駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るMPDスラスタの駆動装置の概略構成図。
【
図2】
図1のMPDスラスタ放電部の模式的な断面図。
【
図4】
図3のMPDスラスタ放電部の模式的な断面図。
【
図5】高速スイッチング制御を伴わない入力と出力の関係を示すグラフ。
【
図6】高速スイッチング制御を伴う入力と出力の関係を示す第1のグラフ。
【
図7】高速スイッチング制御を伴う入力と出力の関係を示す第2のグラフ。
【
図8】高速スイッチング制御を伴う入力と出力の関係を示す第3のグラフ。
【
図9】高速スイッチング制御を伴う入力と出力の関係を示す第4のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るMPDスラスタの駆動装置1の概略構成図を示している。
【0021】
MPDスラスタの駆動装置1は、人工衛星または探査機等の宇宙機2に搭載される電気推進システムであるMPDスラスタシステム10の駆動を制御するための装置である。即ち、MPDスラスタの駆動装置1によってMPDスラスタシステム10の推力を調整できる。
【0022】
宇宙機2は、推進機能を有するMPDスラスタシステム10と、乗員や積載物が収容される宇宙機本体20とを有している。MPDスラスタシステム10および宇宙機本体20は、別個に構成され、機械的に連結されている。
【0023】
宇宙機本体20は、任意の態様の電源装置21を有している。電源装置21は、MPDスラスタシステム10やその他の機器に所定の電力を供給する。代替的には、電源装置21は、MPDスラスタシステム10内に配置されてもよい。
【0024】
本実施形態では、MPDスラスタシステム10は、推進剤供給部11と、MPDスラスタ放電部12と、高速スイッチング素子13と、制御装置14とを有している。
【0025】
推進剤供給部11は、推進剤を貯留しており、必要に応じて貯留している推進剤をMPDスラスタ放電部12へと供給する。推進剤としては、例えばアルゴンガスが使用される。
【0026】
図2は、MPDスラスタ放電部12の模式的な断面図を示している。
図2は、模式図であり、高速スイッチング素子13の図示は省略されている。
【0027】
MPDスラスタ放電部12は、ノズル状のアノード12aおよびアノード12a内に配置されたカソード12bを有している。MPDスラスタ放電部12は、アノード12aとカソード12bの間に電源装置21から入力電圧を印加して放電電流を生成し、推進剤をプラズマ化して噴射する。本実施形態では、カソード12bは、アノード12aの中心に配置され、尖った先端を有する概略円柱形状をしている。なお、MPDスラスタ放電部12を、単にMPDスラスタと称することもある。
【0028】
図1を参照して、高速スイッチング素子13は、上記入力電圧を連続的にON-OFFし、1ミリ秒以下で作動するスイッチング素子である。高速スイッチング素子13は、公知のものを使用できる。そのため、高速スイッチング素子13の構造の詳細な説明は省略する。本実施形態では、高速スイッチング素子13は、MPDスラスタ放電部12と電源装置21との間であって、MPDスラスタシステム10内に組み込まれている。高速スイッチング素子13の作用については後述する。
【0029】
制御装置14は、演算処理およびMPDスラスタシステム10全体の制御を行う。制御装置14は、例えば、ソフトウェアと協働して所定の機能を実現するCPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)を含む。制御装置14は、所定の機能を実現するように設計された専用の電子回路または再構成可能な電子回路等のハードウェア回路で構成されてもよいし、種々の半導体集積回路で構成されてもよい。種々の半導体集積回路としては、例えば、CPU、MPUの他に、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が挙げられる。また、制御装置14は、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)等の記憶装置を含んでもよい。
【0030】
制御装置14は、放電電流の時間波形が波打つように高速スイッチング素子13を制御する。具体的には、特定の入力電圧を高速かつ連続的にON-OFF制御(高速スイッチング制御)すると、放電電流が細かく波打つように出力される。このときの放電電流の平均値をとると、高速スイッチング制御を伴わない場合と比べて放電電流が低下したものとみなすことができる。また、連続的にON-OFF制御する際に、OFFの回数や時間を大きくするほど放電電流の平均値は低下する。従って、高速スイッチング制御によって任意の出力低下を実現できる。
【0031】
上記高速スイッチング制御による出力低下の実現性を確認した実験について説明する。
【0032】
図3は、上記高速スイッチング制御についての実験装置100の概略構成図を示している。
【0033】
実験装置100は、MPDスラスタ放電部110と、ボンベ120と、電源装置130と、真空チャンバ140と、排気装置150とを有している。ボンベ120は、MPDスラスタ放電部110に対する推進剤(アルゴンガス)の供給源となっている。電源装置130は、MPDスラスタ放電部110に対する電力源となっている。詳細は省略するが、電源装置130は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と電気二重層コンデンサとを搭載することによって大電力(数百kW)を出力でき、数ミリ秒以上の定常作動を実現できる。真空チャンバ140は、内部を真空状態に維持でき、MPDスラスタ放電部110を収容している。本実験では、直径(高さ)1mおよび長さ1.5mの筒状の真空チャンバ140を使用した。排気装置150は、真空チャンバ140内の気体を排気する装置である。
【0034】
真空チャンバ140内にはアルミフレーム141が懸架され、アルミフレーム141にはワイヤ142を介して振り子式のスラストスタンド143が吊り下げられている。スラストスタンド143上には、MPDスラスタ放電部110と、貯気槽144と、電磁弁145とが設置されている。貯気槽144は、ガスチューブ121を介してボンベ120と流体的に接続され、アルゴンガスを貯留する。電磁弁145は、電源装置130と電気線131を介して電気的に接続されるとともに、貯気槽144からMPDスラスタ放電部110へのアルゴンガスの供給を許容または遮断するように構成されている。実験に用いたMPDスラスタ放電部110は、本実施形態におけるMPDスラスタ放電部12と概略同じ構造を有しているが、以下で詳細を説明する。
【0035】
図4は、
図3のMPDスラスタ放電部110の模式的な断面図を示している。
【0036】
MPDスラスタ放電部110は、ノズル状のアノード111およびアノード111内に配置されたカソード112を有している。アノード111は、ポリアセタールからなる外側部111aと、無酸素銅からなる内側部111bとを有している。内側部111bは、内径4.5mmの貫通孔Hを画定し、縁部111cが図示の断面において30°拡径するように面取りされている(θ=30°)。カソード112は、銅タングステンからなる本体部112aと、本体部112aの端部に設けられた2%ランタンタングステンからなるドーム状の先端部112bとを有している。本体部112aの内部にはガスポート112cが設けられており、ガスポート112cを通じてアノード111内に必要量の推進剤が供給される。
【0037】
上記実験装置100を使用し、高速スイッチング制御を伴わない場合と、高速スイッチング制御を伴う場合について比較して実験を行った結果を
図5,6に示す。
【0038】
図5は、高速スイッチング制御なしでの入力と出力の関係を示すグラフである。
図6は、高速スイッチング制御ありでの入力と出力の関係を示す第1のグラフである。
【0039】
図5,6では、横軸が時間(ミリ秒)を示し、左側縦軸が入力としてIGBTの制御電圧(V)を示し、右側縦軸(kA)が出力として放電電流を示している。IGBTの制御電圧は、その値自体に大きな意味はなく、最大値がON信号、最小値がOFF信号を示す。IGBTの制御電圧は、前述の入力電圧に対応するため、以下では入力電圧ともいう。
図5,6では、入力電圧が符号Aで示され、放電電流が符号Bで示されている。また、
図6では、放電電流Bの平均値が符号Cで示されている。これらは以降の図でも同様である。
【0040】
図5では、一定の入力電圧Aに対して時間0秒から図示しないイグナイタ(点火装置)による点火が実行され、入力電圧Aが約2ミリ秒の間維持されている。この約2msの間、一定の放電電流Bが出力されている。図示の例では、約7Vの入力電圧Aに対し、約1kAの放電電流Bが出力されている。このように、入力電圧Aを印加すると、放電電流Bが得られる。なお、高速スイッチング素子13を有していない一般的なMPDスラスタシステムでは、入力電圧Aを複雑に調整して所望の放電電流Bを得る必要がある。
【0041】
図6では、一定の入力電圧Aに対して時間0秒からイグナイタ(点火装置)による点火が実行されるとともに高速スイッチング素子13を利用した高速スイッチング制御が適用され、入力電圧Aが連続的にON-OFFされている。図示の例では、約7Vの入力電圧Aに対し、約2ミリ秒の間にON-OFFが10回繰り返されている。これにより、放電電流Bの時間波形が波打つように制御され、放電電流Bの平均値Cとして約0.5kAの出力が得られている。
【0042】
本実施形態によれば、簡易な構成の高速スイッチング素子13によって放電電流の時間波形を波打つように調整できるため、MPDスラスタ放電部12の推力を容易に制御できる。具体的には、特定の入力電圧を高速かつ連続的にON-OFF制御すると、放電電流が細かく波打つように出力される。このときの放電電流の平均値をとると、高速スイッチング制御なしの場合と比べて放電電流が低下したものとみなすことができる。また、連続的にON-OFF制御する際に、OFFの回数や時間を大きくするほど放電電流の平均値は低下する。即ち、任意の出力低下を実現できる。例えば、当該出力値を維持するように制御することで所望の巡行制御を実現でき、当該出力値をパルス的に変化させることで所望の姿勢制御を実現できる。
【0043】
また、本実施形態では、宇宙機本体20に高速スイッチング素子13が組み込まれるのではなく、MPDスラスタシステム10に高速スイッチング素子13が組み込まれている。従って、DCDCコンバータのような電源回路を宇宙機本体20の電源装置21に組み込む必要もなく、MPDスラスタシステム10内で放電電流の調整を完結できる。
【0044】
また、MPDスラスタの駆動装置1は、MPDスラスタシステム10の駆動を上記以外にも様々に制御することができる。
【0045】
図7は、高速スイッチング制御ありでの入力と出力の関係を示す第2のグラフである。
【0046】
図7に示すように、制御装置14は、推進を待機するとき、放電電流の平均値がゼロより大きく推進を待機可能な最小推力範囲に維持されるように高速スイッチング素子13を制御してもよい。ここで、最小推力範囲とは、例えばMPDスラスタ110固有の最小推力範囲のことをいう。上記実験では、
図6に示される放電電流Bの波形の最小値(下側各頂点)が放電維持可能な最小の放電電流の値となり得る。放電電流の平均値がこの最小値を下回るとIGBTを再度ONにしても放電が維持されず、アイドリング状態を維持できない。従って、この最小値が、MPDスラスタ110の形状、推進剤種類、および推進剤流量に依存したMPDスラスタ110固有の値となり得る。従って、最小推力範囲は、当該最小値以上で、かつ、推進を待機可能な最大値以下の範囲をいう。
【0047】
図7では、入力電圧AをOFFする間隔を
図6の場合よりも小さくしている。これにより、放電電流の平均値Cの値を
図6の場合よりも小さくすることができ、特に最小推力範囲に維持できる。
【0048】
上記制御によれば、点火装置なしでMPDスラスタ12を再始動できる。仮に、本実施形態と異なり、推進を待機するために放電電流をゼロとすると、MPDスラスタ12を再始動するために点火装置を要する。これに対し、本実施形態では、放電電流の平均値を、ゼロより大きく推進を待機可能な最小推力範囲に維持に維持することで、点火装置を要することなく、高速スイッチング素子13の制御によってMPDスラスタ12を再始動できる。従って、再始動のための点火装置を不要としたアイドリング状態を簡易に実現できる。よって、点火装置の使用は初回に限定され、使用頻度を減少でき、点火装置の劣化防止(長寿命化)を実現できる。なお、実際上、放電電流をゼロとしても推進剤の残留の程度によっては再始動できる場合がある。しかし、推進剤の残留の程度を考慮した複雑な制御が必要となるため、本実施形態ではそのような複雑な制御なしでアイドリング状態を実現できる。
【0049】
図8は、高速スイッチング制御ありでの入力と出力の関係を示す第3のグラフである。
【0050】
図8に示すように、制御装置14は、推進を開始するとき、放電電流の平均値Cが徐々に大きくなるように高速スイッチング素子13を制御してもよい。
【0051】
図8では、入力電圧AをOFFする間隔を徐々に大きくしている。これにより、放電電流の平均値Cの値を徐々に大きくすることができる。
【0052】
上記制御によれば、急発進を防止できるため、乗員や積載物への負荷を軽減できる。
【0053】
図9は、高速スイッチング制御ありでの入力と出力の関係を示す第4のグラフである。
【0054】
図9に示すように、制御装置14は、推進を開始するとき、放電電流の平均値Cが徐々に小さくなるように高速スイッチング素子13を制御してもよい。
【0055】
図9では、入力電圧AをOFFする間隔を徐々に小さくしている。これにより、放電電流の平均値Cの値を徐々に小さくすることができる。
【0056】
上記制御によれば、急停止を防止できるため、乗員や積載物への負荷を軽減できる。
【0057】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の制御の内容を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 MPDスラスタの駆動装置
2 宇宙機
10 MPDスラスタシステム
11 推進剤供給部
12 MPDスラスタ放電部(MPDスラスタ)
12a アノード
12b カソード
13 高速スイッチング素子
14 制御装置
20 宇宙機本体
21 電源装置
100 実験装置
110 MPDスラスタ放電部
111 アノード
111a 外側部
111b 内側部
111c 縁部
112 カソード
112a 本体部
112b 先端部
112c ガスポート
120 ボンベ
121 ガスチューブ
130 電源装置
131 電気線
140 真空チャンバ
141 アルミフレーム
142 ワイヤ
143 スラストスタンド
144 貯気槽
145 電磁弁
150 排気装置