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  • 特開-銅粉の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061445
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】銅粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/102 20220101AFI20240425BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240425BHJP
   B22F 1/145 20220101ALI20240425BHJP
   B22F 9/28 20060101ALI20240425BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240425BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 L
B22F1/145
B22F9/28 Z
B22F1/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169404
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 諒太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貢
(72)【発明者】
【氏名】菅原 智
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA05
4K017EK03
4K017FB03
4K017FB05
4K017FB06
4K018BA02
4K018BB04
4K018BC08
4K018BC09
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】硫黄を含有するものとしつつ、優れた耐酸化性を有する銅粉を製造することができる銅粉の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の銅粉の製造方法は、処理前銅粉に対し、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩及びその水和物、3-(2-ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸、並びに、(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む防錆剤を用いて、防錆処理を施す防錆工程を含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粉を製造する方法であって、
処理前銅粉に対し、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩及びその水和物、3-(2-ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸、並びに、(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む防錆剤を用いて、防錆処理を施す防錆工程を含む、銅粉の製造方法。
【請求項2】
前記防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する硫黄含有量が、0.005質量%・g/m2~0.4質量%・g/m2である、請求項1に記載の銅粉の製造方法。
【請求項3】
前記防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する炭素含有量が、0.01質量%・g/m2~0.4質量%・g/m2である、請求項1又は2に記載の銅粉の製造方法。
【請求項4】
前記防錆工程で、前記処理前銅粉に対して前記防錆処理を施した後に、水による洗浄を行う、請求項1又は2に記載の銅粉の製造方法。
【請求項5】
前記防錆工程前に、処理前銅粉を、アスコルビン酸、ヒドラジン及びクエン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む脱酸素剤と接触させ、前記処理前銅粉の酸素含有量を低減する脱酸素工程を含む、請求項1又は2に記載の銅粉の製造方法。
【請求項6】
前記防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する酸素含有量が、0.03質量%・g/m2~1.0質量%・g/m2である、請求項5に記載の銅粉の製造方法。
【請求項7】
塩化銅ガスを還元性ガスと接触させ、前記処理前銅粉を得る還元工程と、
前記還元工程後かつ前記防錆工程前に、前記処理前銅粉を、アルカリ金属の水酸化物を含む脱塩素剤と接触させ、前記処理前銅粉の塩素含有量を低減する脱塩素工程と
を含む、請求項1又は2に記載の銅粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅粉を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅粉は、有機バインダー等に含ませて金属粉ペーストとし、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板の配線もしくは端子又は、積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)の電極材料等の電子部品の製造に用いられることがある。銅粉は高い導電性を有し、電極材料の薄層化ないし小型化、周波数特性の改善を実現できる可能性があることから、上記の電子部品の原料として有望視されている。
【0003】
銅粉を製造するには、液相法又は気相法が用いられ得る。なかでも気相還元法は、塩化銅ガスと還元性ガスとを接触させ、塩化銅を銅に還元することにより、銅粉を生成させるものであり、これによると、粒径を容易に制御できる他、球状の粒子を効率よく得ることができる。この種の技術としては、たとえば特許文献1に記載されたものがある。
【0004】
特許文献1には、「金属銅と塩素含有ガスとの反応により塩化銅ガスを生成すること、前記塩化銅ガスと還元性ガスとの反応により複数の銅粒子を生成すること、前記複数の銅粒子をアルカリ金属の水酸化物を含む洗浄液で処理することにより、前記複数の銅粒子の塩素含有量を低減すること、および前記複数の銅粒子を、アスコルビン酸、ヒドラジン、またはクエン酸を含む洗浄液で処理することにより、前記複数の銅粒子の酸素含有量を低減すること、および前記酸素含有量の低減によって得られる前記複数の銅粒子を含窒素ヘテロ芳香族化合物を含む処理液で処理することを含む、銅粉体を製造する方法」が提案されている。ここで、上記の「含窒素ヘテロ芳香族化合物」としては、「ベンゾトリアゾールとその誘導体、トリアゾールとその誘導体、チアゾールとその誘導体、ベンゾチアゾールとその誘導体、イミダゾールとその誘導体、およびベンズイミダゾールとその誘導体」が挙げられている。また、この特許文献1では、防錆処理に、「室温で0.33質量%のベンゾトリアゾールを含む水溶液(約300mL)」を用いたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6738460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、銅粉は、焼結後の導電性の向上等を目的として、硫黄を含有するものが求められることがある。この場合、防錆処理を施す際に硫黄を添加できることが、硫黄添加のための別途の工程を要しない等といった観点から望ましい。
【0007】
但し、防錆処理では、銅粉に硫黄を添加しつつ、高い耐酸化性を付与することも必要になる。特に銅粉は、通常よりも温度及び湿度が高い過酷な条件下でも、酸化が十分に抑制されるものであることが要求されることがある。
【0008】
特許文献1では、防錆剤がいくつか例示されているが、実際に使用されたものはベンゾトリアゾールのみである。ベンゾトリアゾールでは、硫黄を添加することはできない。また特許文献1では、防錆処理で銅粉に硫黄を含有させることについては何ら着目されていない。
【0009】
この発明は、上述したような問題に対処することを課題とするものであり、その目的は、硫黄を含有するものとしつつ、優れた耐酸化性を有する銅粉を製造することができる銅粉の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の銅粉の製造方法は、処理前銅粉に対し、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩及びその水和物、3-(2-ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸、並びに、(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む防錆剤を用いて、防錆処理を施す防錆工程を含むものである。
【0011】
前記防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する硫黄含有量は、0.005質量%・g/m2~0.4質量%・g/m2であることが好ましい。
【0012】
前記防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する炭素含有量は、0.01質量%・g/m2~0.4質量%・g/m2であることが好ましい。
【0013】
前記防錆工程では、前記処理前銅粉に対して前記防錆処理を施した後に、水による洗浄を行うことが好ましい。
【0014】
上記の製造方法は、前記防錆工程前に、処理前銅粉を、アスコルビン酸、ヒドラジン及びクエン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む脱酸素剤と接触させ、前記処理前銅粉の酸素含有量を低減する脱酸素工程を含むことが好ましい。
【0015】
前記防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する酸素含有量は、0.03質量%・g/m2~1.0質量%・g/m2であることが好ましい。
【0016】
上記の製造方法は、塩化銅ガスを還元性ガスと接触させ、前記処理前銅粉を得る還元工程と、前記還元工程後かつ前記防錆工程前に、前記処理前銅粉を、アルカリ金属の水酸化物を含む脱塩素剤と接触させ、前記処理前銅粉の塩素含有量を低減する脱塩素工程とを含む場合がある。
【発明の効果】
【0017】
この発明の銅粉の製造方法によれば、硫黄を含有するものとしつつ、優れた耐酸化性を有する銅粉を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の一の実施形態に係る銅粉の製造方法を示すフロー図である。
図2図1の銅粉の製造方法に使用可能な処理前銅粉を作製する方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る銅粉の製造方法には、処理前銅粉に対し、所定の防錆剤を用いて防錆処理を施す防錆工程が含まれる。
【0020】
ここで、所定の防錆剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩及びその水和物、3-(2-ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸、並びに、(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸からなる群から選択される少なくとも一種を含むものを使用する。防錆工程で上記の防錆剤を使用することにより、硫黄を含有するとともに、過酷な条件下でも酸化しにくい高い耐酸化性を有する銅粉を製造することができる。
【0021】
必要に応じて、図1に示すように、防錆工程の前に脱酸素工程を行うことがある。但し、そのような脱酸素工程は省略する場合もある。
【0022】
(未処理銅粉)
ここでいう処理前銅粉とは、防錆工程の防錆処理を施す前の銅粉を意味し、最終的に製造される銅粉と区別するための呼称である。
【0023】
処理前銅粉は、市販品等の既に作製されたものとすることも可能であるが、気相還元法等の気相法又は、液相法により作製してもよい。ここでは一例として、気相還元法で処理前銅粉を作製する場合について詳細に説明するが、これに限らない。
【0024】
気相還元法では、図2に示すように、主として銅の単体からなる固体の銅原料を塩素ガスと接触させ、塩化銅ガスを得る塩化工程、及び、塩化銅ガスと還元性ガスとを接触させて反応させる還元工程を行うことがある。より詳細には、塩化工程で塩化銅ガスを発生させながら、この塩化銅ガスを還元工程に供給して還元性ガスと接触させ、塩化銅ガスを連続的に還元することができる。
【0025】
塩化工程では、銅原料を融点以下の温度、たとえば800℃~1000℃に加熱しながら、そこに塩素ガスを供給して、高温の銅原料に塩素ガスを接触させる。このとき、銅原料に接触させる塩素の量を調整するため、塩素ガスとともに、希釈のための不活性ガスを供給してもよい。そのようにすると、銅原料の銅の塩化により、ガス状の銅の塩化物、すなわち塩化銅ガスが生成される。但し、既に得られている塩化銅ガスを入手できる場合や、別の手法で塩化銅ガスを得る場合は、塩化工程を行わないこともある。
【0026】
還元工程では、上記の塩化銅ガスを、たとえば1000℃~1300℃の温度で還元性ガスと接触させ、塩化銅ガス中の塩化銅を銅に還元する。還元性ガスとしては、たとえば水素やヒドラジン、アンモニア、メタン等が挙げられる。還元性ガスに加えて、塩素ガスや、希釈のための不活性ガスを供給してもよい。塩化銅ガスと還元性ガスとが接触すると、その瞬間に銅原子が生成し、銅原子どうしが衝突することによって超微粒子が生成するとともに成長して銅粒子になる。
【0027】
還元工程で得られた銅粒子は、必要に応じて窒素等の不活性ガスを吹き込みながら、所定の温度に急冷することにより、凝集が抑制される。その後、バグフィルター等を用いて、銅粒子を分離して回収する。これにより、銅粒子の集合体としての処理前銅粉が得られる。
【0028】
(脱塩素工程)
上記のようにして還元工程で得られた処理前銅粉は、たとえば塩化水素との反応で銅粒子の表面に形成された塩化銅等として、塩素を含むものになる傾向がある。塩素は、銅粉を用いて製造され得る積層セラミックチップコンデンサ等において、金属の劣化その他の悪影響を及ぼす。脱塩素工程は、この塩素を処理前銅粉から除去するため、還元工程の後であって、後述する防錆工程の前(脱酸素工程を行う場合はさらに脱酸素工程の前)に行うことができる。
【0029】
脱塩素工程では、還元工程で得られた処理前銅粉を、アルカリ金属の水酸化物を含む脱塩素剤と接触させる。典型的には、処理前銅粉を脱塩素剤に添加してスラリーとし、これを撹拌することができる。それにより、処理前銅粉中の塩素が除去される。
【0030】
脱塩素剤として具体的には、たとえば濃度が0.1mоl%~1.5mоl%程度である水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液を使用することができる。なかでも水酸化ナトリウム水溶液は、安価であることから好ましい。
【0031】
脱塩素工程により、処理前銅粉の塩素含有量が低減される。脱塩素工程を経て防錆工程後に得られる銅粉の塩素(Cl)の含有量は、100質量ppm以下であることが好ましく、たとえば30質量ppm以下となることがある。銅粉の塩素含有量は、塩素分析装置 TOX2100H(三菱化学社製)を用いて、燃焼電量滴定法により測定する。
【0032】
(脱酸素工程)
処理前銅粉は、次に述べる防錆工程に供する前に予め、脱酸素工程を行って酸素含有量を低減しておくことが望ましい。それにより、防錆工程にて耐酸化性が付与される銅粉で、比較的少ない酸素含有量が維持され得る。
【0033】
なお、酸素含有量が多く酸化が進んだ銅粉は、凹凸を有する酸化銅の表層が形成されることによって円形度が低くなり、それを用いて製造された電極の平坦性を悪化させて電気抵抗や接触不良の増大を招く。そのような問題の発生を防止するため、ここで述べるように、脱酸素工程を行って酸素含有量を低減させ、また防錆工程で耐酸化性を高めることが好ましい。
【0034】
脱酸素工程では、処理前銅粉を脱酸素剤に添加して撹拌すること等により、処理前銅粉を脱酸素剤と接触させる。これにより、処理前銅粉中の酸素が除去されて、その酸素含有量を低減することができる。
【0035】
脱酸素剤は、アスコルビン酸、ヒドラジン及びクエン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む水溶液等とすることができる。アスコルビン酸を含む脱酸素剤を用いる場合、脱酸素剤のアスコルビン酸濃度は、5質量%以上、さらに10質量%、また25質量%以下、さらに20質量%以下とすることができる。脱酸素剤は、溶媒として、水、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類を含むことがある。
【0036】
脱酸素工程を行うことにより、防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する酸素含有量を、たとえば0.03質量%・g/m2~1.0質量%・g/m2と好適に少なくすることができる。
【0037】
(防錆工程)
処理前銅粉は、必要に応じて上記の脱酸素工程が行われた後に、防錆工程に供される。
【0038】
防錆工程では、処理前銅粉に防錆処理を施しながら、硫黄を添加する。それにより、この実施形態で製造される銅粉は硫黄を含有するものになる。一般に硫化銅は酸化銅よりも導電性が高いことが知られている。硫黄を含有する銅粉は、酸化銅よりも硫化銅が形成されやすく、先述した電子部品等の用途で好適に用いられることが期待される。
【0039】
防錆処理では硫黄を添加するが、本来の目的である耐酸化性の付与も有効に行われることが必要になる。発明者は、高温かつ高湿度の苛酷な条件下であっても銅粉の酸化が抑制されるようにしつつ、硫黄を添加できる防錆剤について鋭意検討した結果、次のような硫黄を含む防錆剤を使用することが有効であることを見出した。
【0040】
すなわち、この実施形態では、防錆工程にて、ベンゾチアゾールのなかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩及びその水和物、3-(2-ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸、並びに、(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む防錆剤を用いる。なおここで、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩の水和物には、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩一水和物が含まれる。上記の防錆剤は、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩(C64(NCS)-SNa)、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩一水和物(C64(NCS)-SNa・H2O)、3-(2-ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸(C64(NCS)-S-C352)、及び、(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸(C64(NCS)-S-C232)からなる群から選択される少なくとも一種を含むことがある。なお、チオ尿素等を含む他の防錆剤では、それほど高い耐酸化性を付与することができない。
【0041】
典型的には、上記の防錆剤を溶媒に溶解させて水溶液とし、この水溶液中に処理前銅粉を添加することにより、処理前銅粉に防錆処理を施すことができる。ここで使用する溶媒としては、たとえば、水、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、N,N-ジメチルアセトアミドやN,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類、トルエンやキシレン等の芳香族化合物等が挙げられる。溶媒として水を使用する場合、3-(2-ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸や(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸その他の水に不溶の防錆剤は、水酸化ナトリウム等の中和剤で中和してから溶解させることができる。
【0042】
防錆剤の使用量は、防錆工程後に得られる銅粉の硫黄含有量や炭素含有量等の目標値に応じて適宜決定することができる。
【0043】
防錆工程後に得られる銅粉の比表面積は、粒径に依存するが、2m2/g~30m2/gであることが好ましい。銅粉の比表面積は、全自動比表面積測定装置 Macsorb(登録商標)(マウンテック社製)を用いて、BET法(ガス吸着法)により測定する。吸着ガスは、例えば、窒素ガス等などを適用することができる。
【0044】
防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する硫黄含有量は、焼結後の導電率向上等の観点から、0.005質量%・g/m2~0.4質量%・g/m2であることが好ましい。なお、銅粉の硫黄含有量が多すぎる場合は、硫黄由来のガスが多量に発生し、クラックやデラミネーションが生じることが懸念される。銅粉の硫黄含有量は、ICP発光分光分析装置 SPS3100(SIIナノテクノロジー社製)を用いて、ICP発光分光分析法により測定する。
【0045】
また、防錆工程後に得られる銅粉の比表面積に対する炭素含有量は、0.01質量%・g/m2~0.4質量%・g/m2であることが好ましい。銅粉の炭素含有量が多いと、焼結時に当該炭素に由来する多量のガスが発生することが懸念される。銅粉の炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置 EMIA-920V2(堀場製作所社製)を用いて、燃焼赤外線吸収法により測定する。
【0046】
防錆処理の後は、純水等の水で洗浄することが好ましい。これにより、上記の防錆剤や中和剤に由来して付着し得るナトリウムを有効に除去することができる。防錆工程後に得られる銅粉のナトリウム含有量は、10質量ppm未満であることが好ましい。銅粉のナトリウム含有量は、偏光ゼーマン原子吸光光度計 ZA3300(日立ハイテク社製)を用いて、原子吸光法により測定する。
【0047】
防錆工程が終了すると、必要に応じて、乾式もしくは湿式の分級や、ジェットミル等による解砕、篩別等を行われた後、たとえば50%粒子径が100nm~500nm程度の銅粉が得られる。なお、50%粒子径とは、体積基準の粒子径ヒストグラムにおける累積頻度が50%になるときの粒子径を意味する。このようにして製造された銅粉は、硫黄を含有し、苛酷条件下でも酸化しにくく耐酸化性に優れたものになる。
【実施例0048】
次に、この発明の銅粉の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されるものではない。
【0049】
気相還元法で作製した処理前銅粉に対し、水酸化ナトリウム水溶液を用いた脱塩素処理及び、アスコルビン酸を用いた脱酸素処理を順次に施した後、防錆処理を行い、銅粉を製造した。
【0050】
防錆処理は、防錆剤として、表1に示すように、実施例1では(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸(三新化学工業株式会社製のサンビットABT)を使用し、比較例1ではチオ尿素(関東化学株式会社製)を使用した。
【0051】
なお、実施例1で用いた(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸は、溶媒としての水に不溶であることから、水酸化ナトリウムで中和した後に溶解させた。いずれの実施例1及び比較例1でも、防錆処理後に純水による洗浄を行った。
【0052】
実施例1及び比較例1のそれぞれで得られた銅粉の硫黄含有量、炭素含有量及びナトリウム含有量をそれぞれ、先述した方法で測定したところ、表1に示すとおりであった。銅粉の硫黄含有量及び炭素含有量はそれぞれ、銅粉の比表面積に対する比で表している。
【0053】
また各銅粉について、防錆処理が終了した後の製造直後の酸素含有量及び、製造直後から、温度が40℃で湿度が70%である苛酷な環境下に7日間静置した後の酸素含有量をそれぞれ、先述した方法で測定した。その結果も表1に示す。ここでいう酸素含有量も、比表面積に対する比で表した値である。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より、実施例1では、銅粉の酸素含有量の増加量が少ないので、苛酷な条件下でも酸化が有効に抑制される銅粉が得られたことがわかる。また、実施例1の銅粉は、適正な量の硫黄を含有するものであった。比較例1は、銅粉の酸素含有量の増加量が多く、硫黄含有量がある程度多くなった。
【0056】
以上より、この発明の銅粉の製造方法によれば、硫黄を含有するものとしつつ、優れた耐酸化性を有する銅粉を製造できる可能性が示唆された。
図1
図2