(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061463
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20240425BHJP
B66C 23/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B66C13/22 M
B66C13/22 Q
B66C23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169431
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰広
【テーマコード(参考)】
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204CA03
3F204EA13
3F204EA17
3F204EB04
3F204EB08
3F205AA07
(57)【要約】
【課題】吊下げ物の搬送作業停止時における吊下げ物の振れをより効果的に抑えることができるクレーンを提供する。
【解決手段】クレーンは、ブームと、ブームから吊り下げられた吊下げ物16と、を有する。そして、クレーンは、クレーンの上方から鉛直下向きに見下ろした平面座標において、吊下げ物16が振れを生じることなくブームに吊り下げられた位置を吊下げ物16の基準位置とすると、吊下げ物16が第1基準位置に対してずれた第1ずれ位置16a1にある場合に、平面座標においてブーム2を第1ずれ位置16a1に近づくように動作させる第1制御と、吊下げ物16が第1制御後の基準位置である第2基準位置からずれた第2ずれ位置16a2にある場合に、平面座標においてブーム2を第2ずれ位置16a2に近づくように動作させる第2制御と、を行うようになっている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームと、前記ブームから吊り下げられた吊下げ物と、を有するクレーンであって、
前記クレーンの上方から鉛直下向きに見下ろした平面座標において、前記吊下げ物が振れを生じることなく前記ブームに吊り下げられた位置を前記吊下げ物の基準位置とすると、
前記吊下げ物が第1基準位置に対してずれた第1ずれ位置にある場合に、前記平面座標において前記ブームを前記第1ずれ位置に近づくように動作させる第1制御と、
前記吊下げ物が前記第1制御後の基準位置である第2基準位置からずれた第2ずれ位置にある場合に、前記平面座標において前記ブームを前記第2ずれ位置に近づくように動作させる第2制御と、
を行うクレーン。
【請求項2】
前記吊下げ物が前記第2基準位置を挟んで前記第1ずれ位置とは反対側に位置した後に前記第2制御を行う請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記第2制御は、前記吊下げ物が前記第2基準位置を挟んで前記第1ずれ位置と反対側の第2ずれ位置にある場合に行う、請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記第1制御と前記第2制御とで1セットとする場合、前記第1制御と前記第2制御とを複数セット繰り返し行う、請求項3に記載のクレーン。
【請求項5】
前記第1制御および前記第2制御は、前記吊下げ物の振幅が所定値以下になったときに終了する、請求項1から請求項4のいずれかに記載のクレーン。
【請求項6】
前記吊下げ物の周囲の物体を検知する検知部を有し、
前記第1制御は、前記検知部で検知された前記物体のうちの前記吊下げ物との接触の可能性がある前記物体に対して、第1ずれ位置が、前記第1基準位置を挟んで反対側に位置する、
請求項1から請求項4のいずれかに記載のクレーン。
【請求項7】
前記第1制御または前記第2制御の開始タイミングは、前記吊下げ物が前記基準位置から最大振幅位置へ移動している時である、請求項1から請求項4のいずれかに記載のクレーン。
【請求項8】
前記第1制御は、前記ブームを旋回動作および起伏動作させておらず、かつ前記吊下げ物の巻き上げ・巻き下げ動作を行っていないときに開始される、請求項1から請求項4のいずれかに記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クレーンは、吊下げ物(フック、フック及びフックに引っ掛けられた吊荷)の振れを抑えながら、吊下げ物を所定位置に搬送する技術が開発されてきた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クレーンは、吊下げ物の搬送作業停止時に、吊下げ物が何らかの原因(例えば、停止時の残留振動、地震、風等)で振れを生じている場合の吊下げ物の振れをより効果的に抑えたいという要求があった。
【0005】
本発明は、吊下げ物の搬送作業停止時における吊下げ物の振れをより効果的に抑えることができるクレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクレーンは、ブームと、前記ブームから吊り下げられた吊下げ物と、を有している。そして、本発明に係るクレーンは、前記クレーンの上方から鉛直下向きに見下ろした平面座標において、前記吊下げ物が振れを生じることなく前記ブームに吊り下げられた位置を前記吊下げ物の基準位置とすると、前記吊下げ物が第1基準位置に対してずれた第1ずれ位置にある場合に、前記平面座標において前記ブームを前記第1ずれ位置に近づくように動作させる第1制御と、前記吊下げ物が前記第1制御後の基準位置である第2基準位置からずれた第2ずれ位置にある場合に、前記平面座標において前記ブームを前記第2ずれ位置に近づくように動作させる第2制御と、を行うようになっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のクレーンは、吊下げ物の搬送作業停止時における吊下げ物の振れをより効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るクレーンの側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るクレーンの一部を省略して示す平面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るクレーンの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】吊下げ物の最大振幅時の位置と作業現場の周辺構造物との関係を簡略化して示す平面図である。
【
図6】吊下げ物の振れ止め処理の第1例を示す図である。
【
図7】
図7(a)は吊下げ物の振れ止め処理の第2例を示す平面図であり、
図7(b)は吊下げ物の振れ止め処理の第3例を示す平面図である。
【
図8】吊下げ物の振れ止め処理の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
(クレーンの構成)
図1は、本実施形態に係るクレーン1の側面図である。また、
図2は、本発明の実施形態に係るクレーン1の一部(ブーム2、起伏ロープ3等)を省略して示す平面図である。また、
図3は、
図1に示したクレーン1の一部拡大図であり、カメラ4の取付構造を示す図である。
図1及び
図2に示すように、クレーン1は、いわゆる移動式のクローラクレーンである。具体的に、クレーン1は、自走可能なクローラ式の下部走行体5と、下部走行体5上に旋回可能に搭載された上部旋回体6とを備えている。
なお、以下では、クレーン1の搭乗者から見た前後左右方向をクレーン1の前後左右方向として説明する。
【0011】
上部旋回体6の前側には、ブーム2が起伏可能に取り付けられている。上部旋回体6の後部には、ブーム2及び吊荷の重量バランスをとるカウンタウエイト7が取付けられている。
上部旋回体6の右側前部には、オペレータが着座してクレーン1の操縦を行うキャビン8が配置されている。
【0012】
ブーム2の起伏動作は、起伏ウインチ10による起伏ロープ3の巻き取り又は巻き出しにより行われる。
【0013】
巻上ロープ11の一端はフック12に接続されており、フック12はブーム2の先端のポイントシーブ17に巻き掛けられた巻上ロープ11によって吊下げられている。巻上ロープ11の他端は上部旋回体6上の巻上ウインチ13に巻回されており、巻上ウインチ13の駆動によって巻上ロープ11が巻き取られるか又は巻き出されて、フック12が昇降する。吊荷14は、紐状、鎖状等の吊下げ材15でフック12に吊り下げられている。そして、本実施形態において、フック12及び吊荷14は、ブーム2に吊り下げられる吊下げ物16を構成している。
なお、巻上ロープ11は、説明の便宜上、ポイントシーブ17から離間してフック12まで延びる部分を吊り荷ロープ11aと呼び、また、その吊り荷ロープ11aの長さをローブ長と呼ぶものとする。また、吊下げ物16は、吊荷14がフック12に吊下げられていない場合、フック12のみとなる。
【0014】
図1に示すクレーン1は、吊下げ物16の搬送作業停止時の状態を示しており、吊下げ物16がブーム2の先端に配置されたポイントシーブ17の中心17aの鉛直下方に位置しており、振れを生じることなく吊り荷ロープ11aによって吊下げられている。そして、この
図1に示すクレーン1において、吊下げ物16が振れを生じることなくブーム2に吊下げられたと仮定した位置(ポイントシーブ17の中心17aから鉛直下方に延びる基準線VL上の位置)を吊下げ物16の基準位置とする。また、説明の便宜上、ポイントシーブ17の中心17aをブーム2における吊下げ物16の吊下げ位置とする。また、
図2に示すクレーン1において、吊下げ物16の左右方向(Y軸に沿った方向)の振れを考えた場合、吊下げ物16が振れを生じることなくブーム2に吊下げられたと仮定した位置(ポイントシーブ17の左右方向の中心位置から鉛直下方に延びる仮想線上の位置)を基準位置とする。また、
図1に示すクレーン1において、作業時とは、クレーン1の接地面に対して、ブーム2を相対的に移動させたり、吊り荷ロープ11aを動かして吊下げ物16を所定の場所に移動させる作業時のことである。例えば、作業時とは、クレーン1の起伏、旋回、吊り荷ロープ11aの巻き上げ巻き下げ等の作業時のことである。また、作業時とは、例えば、クレーン1が周囲監視装置を有する場合に、その周囲監視装置で周囲を監視する作業時を含まない。
【0015】
図1及び
図3に示すように、ブーム2の先端側には、検知部としてのカメラ4が取付具18を介して吊り下げられている。取付具18は、ブーム2に固定された基部20と、この基部20に一端が回動可能に支持された支柱21と、支柱21の他端に固定されたカバー22と、を有している。この取付具18は、支柱21及びカバー22がブーム2の起伏動作に関わらず、自重によって下方に向いた姿勢が保持される。カバー22の内部には、カメラ4が収納されている。その結果、カメラ4は、ブーム2の起伏動作に関わらず、取付具18の支柱21及びカバー22と同様に、下方を向いた姿勢が保持される。
【0016】
カメラ4は、吊下げ物16及び吊下げ物16の周囲の作業現場を撮像し、取得した画像データを制御部23に送信するようになっている。
【0017】
図4は、クレーン1の機能構成を示すブロック図である。
この
図4に示すように、クレーン1は、上記構成のほか、制御部23、駆動部24、操作部25、表示部26、通信部27、カメラ(検知部)4、記憶部28を備える。
【0018】
制御部23は、例えばCPU(Central Processing Unit)等により構成され、クレーン1の各部の動作を制御する。制御部23は、ECU(Electronic Control Unit)の機能を含み、上部旋回体6に配置される。具体的に、制御部23は、オペレータの操作入力等に基づいて駆動部24を作動させ、後述する記憶部28に予め記憶されているプログラム31(31a~31c)等と協働して各種処理を実行する。
【0019】
駆動部24は、クレーン1の各部を動作させる駆動源であり、上述した起伏ウインチ10、巻上ウインチ13、上部旋回体6の旋回装置30、その他の各種モータやアクチュエータ等を含む。
操作部25は、オペレータが各種操作を行う操作手段である。操作部25は、例えばハンドルやペダル、レバー、各種ボタン等を含み、これらの操作内容に応じた操作信号を制御部23に出力する。
【0020】
表示部26は、例えば液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイその他のディスプレイであり、制御部23から入力される表示信号に基づいて、吊下げ物16及び吊下げ物16周辺の作業現場の画像や各種情報を表示する。なお、表示部26は、操作部25の一部を兼ねるタッチパネルであってもよい。
通信部27は、例えば図示しない情報端末等との間で各種情報を送受信可能な通信デバイスである。
【0021】
検知部としてのカメラ4は、上述したように、吊下げ物16及び吊下げ物16周辺の作業現場の画像データを制御部23に出力するようになっている。また、カメラ4は、測距機能を有している場合、吊下げ物16までの距離データを取得し、その距離データを制御部23に出力する。なお、検知部は、単眼カメラの他、ステレオカメラ、LiDARなどのレーザーセンサ、GNSS(全球測位衛星システム)等を使用してもよい。また、吊下げ物16までの距離データは、フック12に吊荷14が吊り下げられていない場合、カメラ4からフック12までの距離データである。また、また、吊下げ物16までの距離データは、フック12に吊荷14が吊り下げられている場合であっても、カメラ4からフック12までの距離データとしてもよい。本実施形態において、カメラ4は、ブーム2の先端側に配置されているが、これに限られず、吊下げ物16及び吊下げ物16周辺の作業現場の画像データを取得できる位置(例えば、ブーム2の中間部、ブーム2の下端部、上部旋回体6)に配置される。
【0022】
記憶部28は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等により構成されるメモリであり、各種のプログラム及びデータを記憶するとともに、制御部23の作業領域としても機能する。本実施形態の記憶部28は、後述の吊下げ物16の振れ止め処理(
図8参照)を実行するための振れ止め処理プログラム31を予め記憶している。この振れ止め処理プログラム31は、吊下げ物位置計測プログラム31a、障害物検知プログラム31b、及びブーム作動制御プログラム31cを含んでいる。
【0023】
吊下げ物位置計測プログラム31aは、カメラ4で取得した画像データを利用して、吊下げ物16の最大振幅、振れ方向、振れの周期を算出する。
【0024】
障害物検知プログラム31bは、カメラ4で取得した画像データを利用して、吊下げ物16との衝突の可能性がある障害物(物体)を検出し、吊下げ物16の振れ止め方向の決定を行う。例えば、障害物検知プログラム31bは、カメラ4で取得した画像データを利用して、吊下げ物16の最大振幅時の位置と作業現場の周辺構造物(物体)32との水平距離(
図5のX-Y平面内の最短距離)Lを算出する。そして、障害物検知プログラム31bは、水平距離Lと予め定めた管理寸法Laとを比較して、水平距離Lが管理寸法Laと同一又は小さい場合に、該当の周辺構造物(物体)32を障害物として認定する。次に、障害物検知プログラム31bは、後述する振れ止め処理における吊下げ物16の振れ止め方向を障害物(32)から遠ざかる方向(
図5の-X方向)に決定して、後述する第1制御におけるブーム2の吊下げ位置(17a)を障害物(32)から離れる方向に移動させる。
【0025】
ブーム作動制御プログラム31cは、吊下げ物位置計測プログラム31aの算出結果及び障害物検知プログラム31bによる決定結果に基づいて、吊下げ物16の振れを抑えるためのブーム2の旋回角度及び/又はブーム2の起伏角度を算出する。
【0026】
(振れ止め処理の第1例)
図6は、吊下げ物16の振れ止め処理の第1例を示す図であり、吊下げ物16の最大振幅方向がX軸方向に沿った振動パターンIの場合を示している。また、
図6は、障害物検知プログラム31bによって障害物(32)が発見されない場合の吊下げ物16の振れ止め処理を示している。なお、
図6(a)は吊下げ物16の振れ止め処理の第1例を示す平面図であり、
図6(b)は吊下げ物16の振れ止め処理の第1例を示す側面図である。
【0027】
図6に示すように、ブーム作動制御プログラム31cは、吊下げ物16の最大振幅位置(基準線VL上の位置である基準位置に対してずれた位置)にポイントシーブ17の中心17a(吊下げ物16の振幅の支点であり、吊下げ物16のブーム2への吊下げ位置)が近づけられると、吊下げ物16の振動が抑えられることに着目し、ブーム2の起伏角度を算出するようになっている。
【0028】
本実施形態においては、吊下げ物16の振れ止めは、2回に分けて行うことによって、吊下げ物16の振動の振幅が予め定めた設定値以下になる場合を例示してある(
図8のステップS4~S9参照)。すなわち、吊下げ物16の振れ止めは、吊下げ物16が基準線VL(第1基準線(VL1))上の基準位置(第1基準位置)から最大振幅位置方向へ移動している時に第1回目の振れ止めである第1制御が行われる。この第1制御は、吊下げ物16が第1基準位置に対してずれた第1ずれ位置16a1にある場合に、ブーム2が第1ずれ位置16a1に近づくように(吊下げ位置17aが第1基準線(VL1)上の位置からm1の距離(第2基準線VL2上)の吊下げ位置17a1)まで移動できるように)、ブーム作動制御プログラム31cが吊下げ物位置計測プログラム31aの算出結果(吊下げ物16の最大振幅、振れ方向、振れの周期)等に基づいてブーム2の起伏角度を算出する。この第1制御は、クレーン1の非作業時に行われ、吊下げ位置(17a)が吊下げ物16に近づけられる。そして、制御部23は、このブーム作動制御プログラム31cの算出結果に基づいて起伏ウインチ10を作動させ、ブーム2を起伏させる。なお、ブーム2は、吊下げ位置(17a)を+X方向の先端側へ向かって移動させる場合に倒し、吊下げ位置(17a)を+X方向の先端側から引き戻す場合に起こすようになっている。また、この第1制御において、吊下げ位置(17a)の移動のタイミングは、吊下げ物16が第1基準線VL1上の基準位置から最大振幅位置へ移動している時である。このようなタイミングで動かすことで、吊下げ物16の移動方向と同一方向にブーム2を移動させることができるのでより振れを抑制させやすい。また、この第1制御と後述する第2制御との間には、手動操作でいう中立状態(中立ブレーキ状態)がある。この場合(中立ブレーキ状態)、油圧クレーンであれば、クレーン1の作動に油圧ブレーキがかかることになる。なお、吊下げ物16の振幅の設定値は、作業現場の状況等に応じて任意に定められる。
【0029】
第2回目の吊下げ物16の振れ止めである第2制御は、第1制御と逆方向(反対方向)の制御であり、吊下げ物16が第1制御後の基準位置である第2基準線Vl2上の第2基準位置からずれた第2ずれ位置16a2にある場合に、ブーム2を第2ずれ位置16a2に近づくように動作させる。すなわち、この第2制御は、第1制御の終了時における吊下げ位置(17a1)から次の吊下げ物16の最大振幅位置(第2ずれ位置16a2)までの距離m2(吊下げ位置(17a2)までの距離)をブーム作動制御プログラム31cによって算出すると共に、距離m2に対応するブーム2の起伏角度をブーム作動制御プログラム31cによって算出する。制御部23は、このブーム作動制御プログラム31cの算出結果に基づいて起伏ウインチ10を作動させ、ブーム2を起伏させる。なお、この第2制御において、吊下げ位置(17a1)の移動のタイミングは、吊下げ物16が第1制御の終了時の吊下げ位置(17a1)における第2基準線VL2上の第2基準位置から最大振幅位置(距離m2の位置)へ移動している時である。また、第2制御は、第1制御と逆方向の制御の場合に限られず、第1制御の終了時の吊下げ位置(17a1)を第1ずれ位置16a1側へ戻る吊下げ物16の移動方向へ合わせて移動させてもよい(第1制御と同一方向の制御にしてもよい)。すなわち、第2制御は、第1制御と第2制御の間の中立状態(中立ブレーキ状態)にした後で吊下げ物16が第2基準線(VL2)を2回通過した後に、第1制御と同一方向に行うようにしてもよい。
【0030】
このような吊下げ物16の振れ止め処理は、吊下げ物16の振れ止めが複数回に分けて行われるため、吊下げ物16の振れ止めを1回で行う場合に比較し、吊下げ物16に作用する加速度が小さくなり、滑らかに且つ確実に吊下げ物16の振れ止めを行うことが可能になる。
【0031】
また、
図6に示した吊下げ物16の振れ止め処理は、第2制御が第1制御の反対方向へ吊下げ位置(17a)を移動させるようになっているため、吊下げ位置(17a)の移動距離を小さくできる。
【0032】
また、上述したように、
図6に示した吊下げ物16の振れ止め処理の第2制御において、吊下げ位置(17a1)の移動のタイミングは、吊下げ物16が第1制御の終了時の吊下げ位置(17a1)における第2基準線VL2上の第2基準位置から最大振幅位置(距離m2の位置)へ移動している時である。したがって、本実施形態に係る吊下げ物16の振れ止め処理は、大きな振れ止め効果を期待できる。
【0033】
なお、
図6に示した吊下げ物16の振れ止め処理は、+X方向で実施されるようになっているが、これに限られず、-X方向で実施するようにしてもよい。このように、吊下げ物16の振れ止め処理を-X方向で実施する場合は、
図6(a)における吊下げ位置(17a)の移動がブーム2を起こすことにより行われる。
【0034】
また、
図6に示した吊下げ物16の振れ止め処理は、第1制御と第2制御の2回に分けて実施するようになっているが、これに限られず、吊下げ物16の振幅が予め定めた設定値以下にならない場合など、3回以上の複数回に分けて実施するようにしてもよい(
図8のステップS8~S11参照)。このように、吊下げ物16の振れ止め処理が3回以上の複数回に分けて実施される場合には、吊下げ位置(17a)の移動距離が振れ止め処理の回数に応じた最適の数値となるように決定される。なお、この振れ止め処理の第1例は、吊下げ物16の振幅に基づいて実施される場合を例示しているが、これに限られず、振れ止め処理の回数に基づいて実施されるようにしてもよい。
【0035】
また、吊下げ物16の振れ止め処理は、吊下げ位置(17a)に作用する力が相殺されやすくするため、偶数回に分けて実施することが好ましい。例えば、吊下げ物16の振れ止め処理は、第1制御と第2制御とを1セットとすると、第1制御と第2制御とを複数セット行うようにしてもよい。このように、制御方向が逆の第1制御と第2制御とを複数セット行う場合には、振れ止め処理開始時と終了時のブーム2の移動距離が少なくなるので、開始前後で位置がずれにくい。また、クレーン非作業時におけるスペースを大きく確保する必要がなく、クレーン非作業時に特に有効である。なお、吊下げ物16の振れ止め処理は、第1制御及び第2制御を1セット行った後、第1制御の終了時に吊下げ物16の振幅が設置値以下になった場合、第2制御を行うことなく終了してもよい。
【0036】
また、吊下げ物16の振れ止め処理は、第1制御と第2制御のいずれか一方が複数回実行されるようにしてもよい。
【0037】
また、本実施形態において、吊下げ物16の振れ止めは、振れ止め処理プログラム31を使用して制御部23等によって自動的に行われるが、これに限られず、オペレータが操作部25を手動で操作することにより、吊下げ位置(17a)を吊下げ物16に近づけるようにしてもよい。このようなオペレータによるクレーン1の手動操作の場合には、例えば表示部26がオペレータに指示し、オペレータが実際の操作を行うことになる。なお、
図6(b)において、吊下げ位置(17a2)と吊下げ物16とが完全に一致せず、吊下げ位置(17a2)と吊下げ物16とがずれを生じていてもよい。
【0038】
(振れ止め処理の第2例)
図7(a)は、吊下げ物16の振れ止め処理の第2例を示す平面図であり、吊下げ物16の最大振幅方向がY軸方向に沿った振動パターンIIの場合を示している。また、
図7(a)は、障害物検知プログラム31bによって障害物(32)が発見されない場合の吊下げ物16の振れ止め処理を示している。なお、この吊下げ物16の振れ止め処理の第2例の説明は、第1例の説明と共通する説明を適宜省略する。
【0039】
図7(a)に示すように、ブーム作動制御プログラム31cは、吊下げ物16の最大振幅位置にポイントシーブ17の中心17a(吊下げ物16の振幅の支点であり、吊下げ物16のブーム2への吊下げ位置)が近づけられると、吊下げ物16の振動が抑えられることに着目し、ブーム2の旋回角度を算出するようになっている。そして、この第2例は、+Y軸方向において吊下げ物の振れ止め処理を行うようになっており、第1例と同様に第1制御と第2制御が行われるようになっている。
【0040】
このような第2例は、吊下げ位置(17a)の移動がブーム2の旋回によって行われるようになっており、ブーム作動制御プログラム31cが吊下げ物位置計測プログラム31aの算出結果(吊下げ物16の最大振幅、振れ方向、振れの周期)等に基づいてブーム2の旋回角度を算出する。そして、制御部23は、このブーム作動制御プログラム31cの算出結果に基づいて旋回装置30を作動させ、上部旋回体6及びブーム2を旋回させる。
【0041】
このような第2例は、第1例と同様に吊下げ物16の振れ止めを行うことができる。
なお、第2例は、+Y軸方向で吊下げ物16の振れ止め処理を行っているが、これに限られず、-Y軸方向で吊下げ物16の振れ止め処理を行うことができる。
また、この第2例において、ブーム2を旋回させる場合、第1制御と第2制御との間で、手動操作でいうところの中立状態(旋回中立フリーの状態)になる。この旋回中立フリー状態において、ブーム2は上部旋回体6の慣性で旋回する(旋回用の油圧モータの慣性による回転に応じて油が循環する)。
また、この第2例の中立状態において、ブーム2が上部旋回体6の慣性で旋回する際に、ブーム2の旋回にブレーキがかかってもよい。例えば、旋回用の油圧モータに別途油圧ブレーキを設けておき、この油圧ブレーキによってブレーキを掛けてもよい。この場合、油圧ブレーキによってブーム2の旋回速度はより下がる。
【0042】
(振れ止め処理の第3例)
図7(b)は、吊下げ物16の振れ止め処理の第3例を示す平面図であり、吊下げ物16の最大振幅方向がX軸方向に対して反時計回り方向にθ傾いた方向の振動パターンIIIの場合を示している。また、
図7(b)は、障害物検知プログラム31bによって障害物(32)が発見されない場合の吊下げ物16の振れ止め処理を示している。なお、この吊下げ物16の振れ止め処理の第3例の説明は、第1例の説明と共通する説明を適宜省略する。
【0043】
図7(b)に示すように、ブーム作動制御プログラム31cは、吊下げ物16の最大振幅位置にポイントシーブ17の中心17a(吊下げ物16の振幅の支点であり、吊下げ物16のブーム2への吊下げ位置)が近づけられると、吊下げ物16の振動が抑えられることに着目し、ブーム2の旋回角度及び起伏角度を算出するようになっている。そして、この第3例は、第1象限において吊下げ物の振れ止め処理を行うようになっており、第1例と同様に第1制御と第2制御が行われるようになっている。
【0044】
このような第3例は、吊下げ位置(17a)の移動がブーム2の旋回及び起伏によって行われるようになっており、ブーム作動制御プログラム31cが吊下げ物位置計測プログラム31aの算出結果(吊下げ物16の最大振幅、振れ方向、振れの周期)等に基づいてブーム2の旋回角度及び起伏角度を算出する。そして、制御部23は、このブーム作動制御プログラム31cの算出結果に基づいて旋回装置30を作動させ、上部旋回体6及びブーム2を旋回させると共に、ブーム作動制御プログラム31cの算出結果に基づいて起伏ウインチ10を作動させ、ブーム2を起伏させる
【0045】
このような第3例は、第1例と同様に吊下げ物の振れ止めを行うことができる。
なお、第3例は、第1象限で吊下げ物16の振れ止め処理を行っているが、これに限られず、第3象限で吊下げ物16の振れ止め処理を行うことができる。
また、第3例は、吊下げ物16の最大振幅方向がX軸方向に対して時計回り方向にθ傾いた方向の振動パターンIVの場合に適用できる。
【0046】
(振れ止め処理の流れ)
図8、本実施形態に係るクレーン1における吊下げ物16の振れ止め処理の流れを示すフローチャート図である。
【0047】
本実施形態において、吊下げ物16の振れ止め処理は、例えばオペレータの操作に基づいて、制御部23が記憶部28から振れ止め処理プログラム31を読み出して展開することで実行される。なお、オペレータの操作に基づかず、他の自動操作の後、振れ止めプログラム31を読み出して展開してもよい。
【0048】
先ず、吊下げ物16の最大振幅、振れ方向、振れの周期が吊下げ物位置計測プログラム31aによって算出される(ステップS1)。この吊下げ物16の最大振幅等の算出には、カメラ4で取得した画像データが利用される。
【0049】
次に、吊下げ物16と衝突の可能性がある障害物の認定が障害物検知プログラム31bによって行われる(ステップS2)。この障害物検知プログラム31bによる障害物の認定は、カメラ4で取得した画像データを利用して行われる。
【0050】
障害物検知プログラム31bによって障害物が有ると認定された場合には、障害物との衝突を回避する振れ止め方向が障害物検知プログラム31bによって決定される(ステップS3)。
【0051】
障害物検知プログラム31bによって障害物が無いと認定された場合には、予め任意に設定された振れ止め方向で吊下げ物16の振れ止め処理(ステップS4~S9)が実行され(吊下げ物の振れ止め処理の第1例から第3例参照)、障害物検知プログラム31bによって障害物が有ると認定された場合には、ステップ3で決定された振れ止め方向で吊下げ物16の振れ止め処理が実行される(ステップS4~S9)。なお、振れ止め処理が開始された後(例えば、第1制御終了後)に、障害物検知プログラム31bによって障害物が認定された場合には、障害物が認定された方向への第2制御が行われない。また、第1制御は、カメラ(検知部)4で検知された物体のうちの吊下げ物16のとの接触の可能性のある物体(障害物)に対して、第1ずれ位置16a1が、第1基準位置を挟んで反対側に位置する。このように、本実施形態の吊下げ物16の振れ止め処理は、吊下げ物16が障害物を避けるように移動させられるので、吊下げ物16と障害物との衝突を回避でき、より安全な作業実施が可能になる。
【0052】
振れ止め処理は、先ず、吊下げ物16の第1基準位置と第1ずれ位置16a1とを検出する(ステップS4)。この吊下げ物16の第1基準位置と第1ずれ位置16a1との検出は、例えば、カメラ4やオペレータによって行われる。なお、ここで、障害物があるか否かの認定が可能である。
【0053】
次に、第1基準位置から第1ずれ位置16a1に向かってブーム2を動かす(ステップS5)。
【0054】
次に、ブーム2の吊下げ位置17a(基準位置)がブーム2の吊下げ位置17a1(第1基準位置)を挟んで第1ずれ位置16a1とは反対側に位置することをカメラ4やオペレータ等によって検出する(ステップS6)。なお、ここで、障害物があるか否かの認定が可能である。
【0055】
次に、第2基準位置から第2ずれ位置16a2に向かってブーム2を動かす(ステップS7)。
【0056】
次に、吊荷14(吊下げ物16)の振幅をカメラ4やオペレータ等によって検出する(ステップS8)。
【0057】
次に、ステップS8で検出した吊荷14(吊下げ物16)の振幅が予め設定した値(設定値)以下であるか否か判定し(ステップS9)、振幅が設定値以下と判定された場合、吊下げ物16の振れ止め処理(第1制御及び第2制御)を終了する。その結果、吊下げ物16の振れは、確実に抑えられる。なお、振れ止め処理は、予め定めた処理回数(複数回)が終了した場合に止めるようにしてもよい。また、振れ止め処理は、吊下げ物16の振幅が所定の設定値以下でかつ第1制御及び第2制御を合わせた振れ止め処理回数が偶数回となった場合に止めるようにしてもよい。(この場合、
図9のステップS9において、NOの場合には点線を通ってステップS4に戻る。)このように条件を設定した場合、振れ止め処理の前後の移動距離をより小さくでき、かつ、より確実に振れを抑制できる。
【0058】
一方、振幅が設定値を超えていると判定された場合(ステップS9)、第N基準位置と第Nずれ位置を検出し(ステップS10)、第N基準位置から第Nずれ位置に向かってブーム2を動かし(ステップS11)、吊荷14(吊下げ物16)の振幅を検出し(ステップS8)、振幅が設定値以下になるまで(ステップS9)、ステップS10、S11、S8、S9の振れ止め処理が繰り返される。なお、本実施形態において、Nは、3以上の数値であり、振れ止め処理の回数が増えるごとに1増加する。
【0059】
以上の実施形態に係る振れ止め処理は、吊下げ物16の振幅が設定値以下になるように制御される例を示したが、これに限られず、振れ止め処理の回数(予め任意に設定された回数)で制御するようにしてもよい。例えば、振れ止め処理の回数は、
図6、
図7、
図8のステップS4~S7に示すように、2回の振れ止め処理回数としてもよい。
【0060】
(本実施形態の効果)
本実施形態のクレーン1は、吊下げ物16の搬送作業停止時において、吊下げ物16の振れを効果的に抑えることができる。
【0061】
また、本実施形態のクレーン1は、吊下げ物16の振れ止めを複数回の振れ止め処理で行うようになっているため、吊下げ物16がフック12と吊荷14とで構成されていたとしても、吊下げ物16の振れ止めを1回の振れ止め処理で行う場合と比較し、フック12と吊荷14とに作用する加速度を小さくでき、フック12と吊荷14との間で2重振動が生じるのを防止できる。
【0062】
(その他の実施形態)
本発明に係るクレーン1は、カメラ4の設置角度をサーボモータ等の可動機構部(図示せず)で可変に設定してもよい。
本実施形態のクレーン1では、カメラ4によって吊り荷の状態を検出して、振れ止め処理が実行されていたが、おオペレータが吊り荷状態を監視して、上記第1制御及び第2制御を行う操作方法によりクレーン1が動作してもよい。この場合も吊下げ物16の搬送作業停止時において、吊下げ物16の振れを効果的に抑えることができる。
【0063】
また、本発明は、クレーンの種類は特に限定されず、クローラクレーンやホイールクレーン、トラッククレーン等の移動式クレーンに加えて、港湾クレーン、天井クレーン、門型クレーン、アンローダ、固定式クレーン等のあらゆるクレーンを含んでよい。
また、本発明は、ショベルカーであって、ブーム及びアームがあって、アームにロープが吊り下げられていて、そのロープにフックが取り付けられているものもクレーンに含める。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 クレーン
2 ブーム
16 吊下げ物
16a1 第1ずれ位置
16a2 第2ずれ位置