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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061493
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】医療用ゴム部品の滅菌方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/08 20060101AFI20240425BHJP
   B65B 55/08 20060101ALI20240425BHJP
   B65B 55/04 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A61L2/08 100
B65B55/08 B
B65B55/04 S
B65B55/04 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169472
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】紀田 擁軍
(72)【発明者】
【氏名】田島 啓
(72)【発明者】
【氏名】野尻 和紀
(72)【発明者】
【氏名】松谷 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】森田 峻平
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB06
4C058CC09
4C058EE12
4C058KK03
(57)【要約】
【課題】弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品について、ガンマ線滅菌後も非溶出特性が維持される医療用ゴム部品の滅菌方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の医療用ゴム部品の滅菌方法は、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品が複数個収容されている包装体であって、酸素濃度が5%以下である包装体にガンマ線を照射することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品が複数個収容されている包装体であって、酸素濃度が5%以下である包装体にガンマ線を照射することを特徴とする医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項2】
酸素濃度が3%以下である包装体にガンマ線を照射する請求項1に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項3】
前記酸素濃度が5%以下である包装体は、窒素が封入された包装体である請求項1に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項4】
前記酸素濃度が5%以下である包装体は、脱酸素剤が封入された包装体である請求項1に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項5】
ガンマ線の吸収線量が15kGy以上となるようにガンマ線を照射する請求項1に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項6】
前記弾性体は、ゴム又は熱可塑性エラストマーから構成され、JIS-A硬度が30以上、70以下であり、圧縮永久歪みが20%以下である請求項1に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項7】
前記不活性樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、または超高分子量ポリエチレンである請求項1に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項8】
前記不活性樹脂フィルムの厚さが10μm~150μmである請求項1に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【請求項9】
医療用ゴム部品は、バイアル瓶のゴム栓、シリンジ用のキャップ、プランジャストッパー、または、真空採血管用ゴム栓である請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ゴム部品の滅菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンジ、バイアル瓶などの開口部を密封する医療用ゴム栓には、非溶出性、高清浄性、耐薬品性、耐針刺性、自己密封性、高摺動性など多くの項目が必須とされている。医療用ゴム栓に要求される品質特性は、その用途上、第17改正日本薬局方の輸液用ゴム栓試験に準拠すべきである。
【0003】
医療用ゴム製品(シリンジ用ガスケットやバイアル栓など)を滅菌保証した状態で納入するレディトウユース(RTU:READY TO USE)の要求が高まっている。滅菌保証方法として、高圧蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、ガンマ線滅菌がある。ガンマ線滅菌は、医療用ゴム製品を包装したまま滅菌できるので、包装を開封せずに納入できるメリットがある。EOG滅菌は、環境問題もあり、ガンマ線滅菌へ切り替わる傾向がある。
【0004】
ガンマ線滅菌は、吸収線量の設定と実測値で滅菌保証している。複数個の医療用ゴム部品を包装袋へ袋詰めして、ガンマ線滅菌する場合、包装袋内で医療用ゴム部品の偏りが生じる場合がある。そのため、包装袋に所定の照射線量でガンマ線を照射しても、包装袋内でガンマ線の吸収線量のバラツキが生じて、ガンマ線の吸収線量が低くなるものと、ガンマ線の吸収線量が高くなるものが生じる。しかしながら、医療用ゴム部品のそれぞれについて滅菌できる最低吸収線量を確保する必要があり、包装袋には、最低吸収線量以上のガンマ線を照射する必要がある。そのため、包装袋の中には、ガンマ線滅菌時に過剰のガンマ線を吸収する医療用ゴム部品が生じる。
【0005】
特許文献1には、イソブチレン共重合体を主成分とし、密度が0.95以下である、ゴム組成物であって放射線処理が容易な医療用ゴム栓又は医療用ゴム製品に用いるゴム組成物又はその架橋体が開示されている。
【0006】
特許文献2には、医薬品容器の栓を始めとするエラストマー製の部品(1)を包装する方法であって、空気を実質上通さない材質の1次袋(10)の中に部品(1)を詰めるステップと、前記1次袋(10)の中に、少なくとも80%が窒素の雰囲気を適用するステップとを含み、前記1次袋(10)を2次袋(20)の中に入れ、前記1次袋(10)と前記2次袋(20)との間を真空状態にすることを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-301133号公報
【特許文献2】特表2017-531604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
医療用ゴム部品にガンマ線を照射して滅菌すると、医療用ゴム部品を構成するポリマーの切断と架橋が同時に起こる。過剰のガンマ線を吸収すると、医療用ゴム部品を構成するポリマー主鎖の切断が促進されて、低分子成分が生成する。そのため、ガンマ線滅菌後の医療用ゴム部品の非溶出性能が悪化する。
【0009】
医療用ゴム部品には、非溶出特性および/または摺動性を改善する観点から、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品が存在する。しかしながら、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品にガンマ線を照射すると、不活性樹脂フィルムが劣化する。不活性樹脂フィルムが劣化すると、医療用ゴム部品の非溶出性が低下する。そのため、不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品は、ガンマ線による滅菌に適していないという課題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品について、ガンマ線滅菌後も、非溶出特性が維持される医療用ゴム部品の滅菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の医療用ゴム部品の滅菌方法は、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品が複数個収容されている医療用ゴム部品の包装体であって、酸素濃度が5%以下である包装体にガンマ線を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品をガンマ線滅菌した場合にも、非溶出特性が維持される医療用ゴム部品の滅菌方法を提供できる。また、ガンマ線滅菌後の医療用ゴム部品は、不活性樹脂フィルムが劣化していないので、摺動性および薬液の封止性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の医療用ゴム部品の包装態様の一例を模式的に示す説明図。
図2】本発明の医療用ゴム部品の包装態様の別の一例を模式的に示す説明図。
図3】本発明の医療用ゴム部品の一例を模式的に示す説明図。
図4】本発明の医療用ゴム部品の一例を模式的に示す説明図。
図5】本発明の医療用ゴム部品の一例を模式的に示す説明図。
図6】本発明の医療用ゴム部品の一例を模式的に示す説明図。
図7】本発明の医療用ゴム部品の一例を模式的に示す説明図。
図8】本発明の医療用ゴム部品の一例を模式的に示す説明図。
図9】本発明の医療用ゴム部品の一例を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の医療用ゴム部品の滅菌方法は、弾性体から構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品が複数個収容されている医療用ゴム部品の包装体であって、酸素濃度が5%以下である包装体にガンマ線を照射することを特徴とする。
【0015】
<滅菌方法>
まず、本発明の滅菌方法について説明する。ガンマ線としては、例えば、コバルト60やセシウム137などから放射されるガンマ線を挙げることができ、コバルト60から放射されるガンマ線が好適である。
【0016】
ガンマ線照射は、医療用ゴム部品のガンマ線の吸収線量が実際の滅菌バリデーション手順で確立される。通常の医療機器では15kGyを最小吸収線量として運用している場合は多い。包装体内の全ての医療用ゴム部品のガンマ線の吸収線量が15kGy以上となるようにするためのガンマ線の照射線量は、包装体内の医療用ゴム部品の個数及び入り方等によって変動することになるが、一般的には15kGyの1.4倍以上、2.0倍以下の範囲の線量で照射される。同様に、20kGyを最小吸収線量とする場合には、20kGyの1.4倍以上、2.0倍以下の範囲の線量で照射され、25kGyを最小吸収線量とする場合には、25kGyの1.4倍以上、2.0倍以下の範囲の線量で照射される。なお、ガンマ線の吸収線量は、被照射体に、線量測定計を取り付けることにより確認することができる。
【0017】
ガンマ線照射前の医療用ゴム部品を収容する包装体は、酸素濃度が5%以下であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。包装体中の酸素濃度を5%以下とすることにより、ガンマ線照射による医療用ゴム部品の劣化を抑制することができるからである。
【0018】
包装体中の酸素濃度を5%以下にする方法としては、包装体中の空気を不活性ガスで置換する方法、包装体に脱酸素剤を収容する方法を挙げることができる。
【0019】
前記不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス、或いは、窒素ガスなどを挙げることができる。
【0020】
前記脱酸素剤としては、鉄系の脱酸素剤エージレス(市販品)などを挙げることができる。
【0021】
医療用ゴム部品を収容する包装体としては、ガンマ線を照射することができるものであれば、特に限定されない。包装体としては、袋、箱などの形状を挙げることができる。包装袋としては、例えば、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂フィルムまたはアルミニウムから形成された包装袋を挙げることができる。包装袋は、密閉できるものが好ましい。包装箱としては、特に限定されないが、紙箱、段ボール箱などを挙げることができる。
【0022】
前記包装体としては、通気性を有する包装体と、非通気性(ガス密封性)を有する包装体とを挙げることができ、これらを組み合わせて使用することも好ましい。
【0023】
医療用ゴム部品のガンマ線照射は、例えば、複数個の医療用ゴム部品が収容されている1次包装体(例えば、包装袋)が、さらに複数個収容されている包装体(例えば、ダンボール箱)に対して行ってもよい。
【0024】
図1は、ガンマ線照射する包装態様の一例を模式的に示す説明図である。図1に示した態様では、複数個の医療用ゴム部品1が収容されている1次包装体3が、さらに2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7に収容されている。1次包装体3としては、通気性を有するものが好ましく、2次帯電防止包装体5および3次帯電防止包装体7は、ガスを密封できるものが好ましい。2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7は、それぞれヒートシール9により密封されることが好ましい。脱酸素剤11を使用する場合は、1次包装体3と2次包装体5との間に脱酸素剤11を配置して、脱酸素剤11が医療用ゴム部品1に直接接しないようにすることが好ましい。脱酸素剤11を2次包装体5に配置することにより、2次包装体5および1次包装体3内の酸素濃度5%以下にすることができる。複数個の前記3次帯電防止包装体7を4次包装体(例えば、段ボール箱)に収容して、ガンマ線照射を行うことができる。
【0025】
図2は、ガンマ線照射する包装態様の別の一例を模式的に示す説明図である。図2に示した態様では、複数個の医療用ゴム部品1が収容されている1次包装体3が、さらに2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7に収容されている。2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7は、それぞれヒートシール9により密封されることが好ましい。1次包装体3としては、通気性を有するものが好ましく、2次帯電防止包装体5および3次帯電防止包装体7は、ガスを密封できるものが好ましい。1次包装体3が収容された2次包装体5内には、不活性ガスが充填されている。不活性ガスを充填することにより、2次包装体5および1次包装体3内の酸素濃度5%以下にすることができる。複数個の前記3次帯電防止包装体7を4次包装体(例えば、段ボール箱)に収容して、ガンマ線照射を行うことができる。
【0026】
なお、ガンマ線照射に際しては、複数個の医療用ゴム部品が収容されている包装体は、例えば、アルミ合金製の収納容器に収納された状態で、ガンマ線を照射することが好ましい。
【0027】
<医療用ゴム部品>
次に、本発明を適用する医療用ゴム部品について説明する。本発明を適用する医療用ゴム部品は、弾性体から構成される本体と、前記本体の表面の少なくとも一部に積層された不活性樹脂フィルムとを有する。
【0028】
<医療用ゴム部品の本体を構成する弾性体>
前記弾性体としては、特に限定されないが、例えば、力を加えると変形し、その力を取り除くと元の形にもどる性質を有する物体であれば特に限定されない。
【0029】
このような観点から、前記弾性体は、JIS K6262:2013所載の測定方法に則って、70℃の22時間後で測定される圧縮永久歪みが20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。前記弾性体の圧縮永久歪みの下限は、特に限定されない。
【0030】
前記弾性体は、ゴム硬さが日本工業規格JIS K6253-3:2012「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」所載の測定方法に則って測定されるデュロメータタイプA硬さ(ショアA硬さ)で、30以上であることが好ましく、35以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましく、70以下であることが好ましく、65以下であることがより好ましく、60以下であることがささらに好ましい。
【0031】
前記弾性体を構成する材料としては、例えば、ゴム、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0032】
前記熱可塑性エラストマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等などが挙げられる。
【0033】
弾性体を構成するゴムとしては、例えば、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴムまたは1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。これらのなかでも、弾性体を構成するゴムとしては、ブチル系ゴムが好ましく、ハロゲン化ブチルゴムがより好ましい。
【0034】
弾性体を構成する材料は、単独若しくは複数の成分をブレンドして使用することもできる。
【0035】
前記医療用ゴム部品の本体を構成する弾性体は、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーを含有する医療用ゴム組成物の硬化物であることが好ましい。以下、前記医療用ゴム組成物が含有する原料について説明する。
【0036】
まず、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーについて説明する。ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、塩素化ブチルゴム、および、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体ゴムの臭素化物(臭素化イソブチレンパラメチレンスチレン共重合体ゴム)などが挙げられる。
【0037】
前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムが好ましい。前記塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムは、例えば、ブチルゴム中のイソプレン構造部分、具体的には二重結合および/または二重結合に隣接する炭素原子に塩素または臭素を付加または置換反応させたものである。なお、ブチルゴムは、イソブチレンと少量のイソプレンとを重合して得られる共重合体である。
【0038】
ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
前記塩素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のCHLOROBUTYL1066〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:1.26%、ムーニー粘度:38ML1+8(125℃)、比重:0.92〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL CB1240等の少なくとも1種が挙げられる。
【0040】
前記臭素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のBROMOBUTYL2255〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:2.0%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL BBX2等の少なくとも1種が挙げられる。
【0041】
前記(a)基材ポリマーは、ハロゲン化ブチルゴム以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、例えば、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴムまたは1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。
【0042】
他のゴム成分を使用する場合、(a)基材ポリマー中のハロゲン化ブチルゴムの含有率は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。また、(a)基材ポリマーがハロゲン化ブチルゴムのみからなることも好ましい態様である。
【0043】
前記医療用ゴム組成物は、(b)架橋剤を含有することが好ましい。(b)架橋剤は、(a)基材ポリマーが含有するハロゲン化ブチルゴム成分を架橋させるために配合される。(b)前記架橋剤としては、ハロゲン化ブチルゴムを架橋させることが可能な架橋剤であれば特に限定されない。(b)前記架橋剤としては、例えば、硫黄、金属酸化物、樹脂架橋剤、有機過酸化物、トリアジン誘導体などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上併用して用いることができる。
【0044】
架橋剤として使用される硫黄としては、例えば粉末硫黄、微粉硫黄、沈降性硫黄、コロイド硫黄、塩化硫黄などを挙げることができる。
【0045】
架橋剤として使用される金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などを挙げることができる。
【0046】
樹脂架橋剤としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、熱反応性フェノール樹脂、フェノールジアルコール系樹脂、ビスフェノール樹脂、熱反応性ブロモメチルアルキル化フェノール樹脂などのアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂類を挙げることができる。
【0047】
前記有機過酸化物は、具体的には、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシ、ジ-t-ヘキシルペルオキシ、ジ-t-ブチルペルオキシ、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3などが挙げられる。パーオキシエステルとしては、例えば、t-ブチルペルオキシマレエート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエートなどが挙げられる。パーオキシケタールとしては、例えば、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ジ(4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記医療用ゴム組成物は、(b)架橋剤として、トリアジン誘導体を含有することが好ましい。
【0049】
前記トリアジン誘導体としては、例えば一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
[式中、Rは、-SH、-OR、-SR、-NHRまたは―NR(R、R、R、RおよびRは、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基またはシクロアルキル基を示す。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。)である。MおよびMは、H、Na、Li、K、1/2Mg、1/2Ba、1/2Ca、脂肪族1級アミン、2級アミンもしくは3級アミン、第4級アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。MおよびMは、同一または異なってもよい。]
【0050】
一般式(1)において、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1,1-ジメチルプロピル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、またはドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、または2-ペンテニル基等の炭素数1~12のアルケニル基が挙げられる。アリール基としては、単環式または縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられ、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基またはアセナフチレニル基等の炭素数6~14のアリール基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2,2-ジフェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、5-フェニルペンチル基、2-ビフェニリルメチル基、3-ビフェニリルメチル基または4-ビフェニリルメチル基等の炭素数7~19のアラルキル基が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えばトリル基、キシル基またはオクチルフェニル基等の炭素数7~19のアルキルアリール基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基またはシクロノニル基等の炭素数3~9のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0051】
一般式(1)で表されるトリアジン誘導体の具体例としては、例えば2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-メチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-(n-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-オクチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-プロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジアリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジメチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(iso-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジプロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(2-エチルヘキシル)アミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジオレイルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ラウリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンもしくは2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、またはこれらのナトリウム塩もしくはジナトリウム塩が挙げられる。
【0052】
これらのなかでも、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-ジアルキルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが好ましく、入手の容易さから2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが特に好ましい。
【0053】
また、トリアジン誘導体としては、例えば、6-[ビス(2-エチルへキシル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール等の1種または2種以上が挙げられる。
【0054】
前記医療用ゴム組成物において、トリアジン誘導体としては1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
前記医療用ゴム組成物中の(b)架橋剤の含有量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、2.0質量部以下であることが好ましく、1.4質量部以下であることがより好ましく、1.2質量部以下であることがさらに好ましい。(b)架橋剤の含有量が、前記範囲内であれば、良好なゴム物性(硬度、引張、Cset)と溶出性能と加工性(ヤケの少ない)の良いゴムを得ることができるからである。
【0056】
前記医療用ゴム組成物は、加硫促進剤を含まないことが好ましい。最終製品のゴム製品中に加硫促進剤が残存して、シリンジやバイアル瓶中の薬液へ溶出する場合があるからである。前記加硫促進剤としては、例えば、グアニジン系促進剤(例:ジフェニルグアニジン)、チウラム系促進剤(例:テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド)、ジチオカルバミン酸塩系促進剤(例:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、チアゾール系促進剤(例:2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド)、スルフェンアミド系促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)が挙げられる。
【0057】
前記医療用ゴム組成物は、ハイドロタルサイトを含有してもよい。ハイドロタルサイトは、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時にスコーチ防止剤として、また、医療用ゴム部品の圧縮永久ひずみが大きくなるのを防止するためにも機能する。さらにハイドロタルサイトは受酸剤として、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時に発生する塩素系ガスや臭素系ガスを吸収して、これらのガスによる架橋阻害等の発生を防止するためにも機能する。なお、先述した酸化マグネシウムも受酸剤として機能しうる。
【0058】
ハイドロタルサイトとしては、例えば、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、Mg4.5Al(OH)13CO、MgAl(OH)12CO・3.5HO、MgAl(OH)16CO・4HO、MgAl(OH)14CO・4HO、MgAl(OH)10CO・1.7HO等のMg-Al系ハイドロタルサイト等の1種または2種以上が挙げられる。
【0059】
ハイドロタルサイトの具体例としては例えば協和化学工業社製のDHT-4A(登録商標)-2等が挙げられる。
【0060】
前記医療用ゴム組成物において、ハイドロタルサイトを受酸剤として用いる場合、MgOとセットで用いることが好ましい。この場合、ハイドロタルサイトの配合量は、受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)の総量で考えることが好ましい。受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)としての含有量総量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)の含有量総量が、前記範囲内であれば、金型等への錆発生を抑制し、原料自体が白点異物となる不具合を減らすことができるからである。
【0061】
前記医療用ゴム組成物は、共架橋剤を含有してもよい。前記共架橋剤は、多官能(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレート化合物は、二官能以上の(メタ)アクリレート系化合物であることがより好ましく、三官能以上の(メタ)アクリレート系化合物であることがさらに好ましく、八官能以下の(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましく、六官能以下の(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。二官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を少なくとも2個有する化合物を挙げることができる。なお、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味する。
【0062】
二官能以上の(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。共架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
前記医療用ゴム組成物には、充填剤を配合してもよい。前記充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、タルクなどの無機充填剤が挙げられる。前記充填剤としては、クレーまたはタルクがさらに好ましい。前記充填剤は、医療用ゴム部品のゴム硬さを調整するために機能するとともに、増量材として医療用ゴム部品の生産コストを低減させるためにも機能する。
【0064】
前記クレーとしては、焼成クレーやカオリンクレーを挙げることができる。前記クレーの具体例としては、例えばHOFFMANN MINERAL(ホフマンミネラル)社製のSILLITIN(登録商標)Z、ENGELHARD(エンゲルハード)社製のSATINTONE(登録商標)W、土屋カオリン工業社製のNNカオリンクレー、イメリス スペシャリティーズ ジャパン社製のPoleStar200Rなどが挙げられる。
【0065】
前記タルクの具体例としては、例えば竹原化学工業社製のハイトロンA、日本タルク社製のMICRO ACE(登録商標)K-1、イメリス・スペシャリティーズ・ジャパン社製のミストロン(登録商標)ベーパー等が挙げられる。
【0066】
前記医療用ゴム組成物には、さらに、酸化チタンやカーボンブラックなどの着色剤、加工助剤、架橋活性剤としてのポリエチレングリコール、可塑剤(例えば、パラフィンオイル)等を適宜の割合で配合してもよい。
【0067】
<不活性樹脂フィルム>
本発明を適用する医療用ゴム部品は、弾性体から構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている。不活性樹脂フィルムは、弾性体を構成する成分が医薬品へ溶出するのを防止する。また、不活性樹脂フィルムは、例えば、医療用ゴム部品に摺動性や薬液の封止性を付与する。
【0068】
不活性樹脂フィルムは、弾性体から構成される医療用ゴム部品本体表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されていればよく、医療用ゴム部品の形態に応じて適宜積層されていることが好ましい。
【0069】
不活性樹脂フィルムを構成する樹脂としては特に限定されないが、良好な耐薬品性が得られるという点から、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂またはオレフィン系樹脂が好ましい。
【0070】
テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)とは、エチレンとテトラフルオロエチレンを30/70~70/30のモル比で共重合したものであり、改質目的でさらに他の成分を共重合した変性ETFEがある。他の成分としては、フッ素含有オレフィンや炭化水素系オレフィンが挙げられる。具体的には、プロピレン、ブテンなどのα-オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロブチルエチレン、トリフルオロクロロエチレンなどの含フッ素オレフィン、エチレンビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、含フッ素アクリレート類などがあり、2~10モル%程度共重合されて、ETFEを改質する。
【0071】
変性ETFEとしては、接着性を付与する官能基を有するETFEを好適に使用することができ、該官能基としては、カルボキシル基、無水カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、シアノ基、炭素-炭素二重結合、スルホン酸基、エーテル基などが挙げられる。また、変性ETFEの市販品としては、旭硝子(株)製のフルオンAH-2000などが挙げられる。
【0072】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、塩素化ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンの共重合体等が挙げられ、ポリエチレン(特に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))が好ましい。また、オレフィン系樹脂は、フッ素を含んでいてもよい。
【0073】
不活性樹脂フィルムの厚みは、医療用ゴム部品の形状やサイズに合わせて適宜調整すればよいが、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、150μm以下が好ましく、130μm以下がより好ましく、110μm以下がさらに好ましい。不活性樹脂フィルムの厚みが前記範囲内であれば、製品成形時のフィルム破り、成形後製品表面のフィルムに皺や浮き不良等が発生せず、成形加工性と製品特性の両立ができることとなるからである。
【0074】
不活性樹脂フィルムの算術平均粗さRaは、キャスティング法フィルムや、押出しフィルムの0.01~0.03μmのものから、スカイビングフィルムの0.10μmのものでも、金型の表面粗さを0.03μm以下にすることで、液密着性、気密性に優れた医療用ゴム部品が得られる。不活性フィルム自体のRaの下限は特に限定されない。
【0075】
不活性樹脂フィルムは、ゴム等との接着性を高める処理を行うことが好ましい。接着性を高める処理としては、化学処理法、フィルムの表面を粗面化する処理や、これらを組み合わせたものが挙げられ、具体例としては、ナトリウム処理、グロー放電処理、大気圧下又は真空下でのプラズマ処理(放電処理)、エキシマレーザー処理(放電処理)、イオンビーム処理が挙げられる。
【0076】
本発明を適用する医療用ゴム部品は、例えば、弾性体から構成されるシートに前記不活性樹脂フィルムを重ねた状態で、プレス成形することにより、弾性体から構成される本体と不活性樹脂フィルムとが一体化した医療用ゴム部品を得る。
【0077】
具体的には、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーと、(b)架橋剤と、その他必要に応じて加える配合材料とを混練して、医療用ゴム組成物を得る。混練は、例えば、オープンロール、密閉式ニーダーなどを用いて行うことができる。混練物は、リボン状、シート状、ペレット状などに成形することが好ましく、シート状に成形することがより好ましい。
【0078】
得られたシート状のゴムに不活性樹脂フィルムを積層し、プレス成形することにより、弾性体から構成される本体と不活性樹脂フィルムとが一体化した医療用ゴム部品を得る。
【0079】
プレス時に医療用ゴム組成物の架橋反応が進行する。成形温度は、例えば、130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。成形時間は、2分間以上が好ましく、3分間以上がより好ましく、60分間以下が好ましく、30分間以下がより好ましい。成形圧力は、0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましく、10MPa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0080】
プレス成型後の成形品から、不要部分を切除、除去して所定の形状にする。得られた成形品を、洗浄、乾燥、および、包装して、医療用ゴム部品が製造される。
【0081】
本発明を適用する医療用ゴム部品としては、例えば、液剤、粉末製剤、凍結乾燥製剤等の各種薬剤用の容器のゴム栓やシール部材、真空採血管用ゴム栓、プレフィラブルシリンジ用のプランジャストッパー、あるいはノズルキャップなどの摺動もしくはシール部品等が挙げられる。以下、本発明を適用する医療用ゴム部品の具体例について説明する。
【0082】
<プランジャストッパー>
図3は、本発明の医療用ゴム部品が使用される医療用注射器、いわゆるプレフィラブルシリンジ30と呼ばれる注射器を分解状態で示す図である。図3において、シリンジバレル31およびプランジャストッパー33は、半分が断面で表わされている。プレフィラブルシリンジ30は、円筒形状のシリンジバレル31と、シリンジバレル31と組み合わされ、シリンジバレル31内を往復移動し得るプランジャ32と、プランジャ32の先端に装着されるプランジャストッパー33とを含んでいる。プランジャストッパー33の表面には、摺動性を改善するための不活性樹脂フィルムが積層されている。
【0083】
プランジャ32は、たとえば横断面が十文字状の樹脂製板片で構成され、その先端部にはプランジャストッパー33が取り付けられるヘッド部38が備えられている。ヘッド部38は、プランジャ32と一体に形成された樹脂製で、雄ねじ形状に加工されている。プランジャストッパー33は、短軸の略円柱形状で、その先端面は、たとえば軸中心部が突出する鈍角の山形形状をしている。そして後端面から軸方向に彫り込まれた雌ねじ形状の嵌合凹部35が形成されている。プランジャ32のヘッド部38が、プランジャストッパー33の嵌合凹部35にねじ込まれることにより、プランジャ32の先端にプランジャストッパー33が装着される。
【0084】
図4は、プランジャストッパーの一例の半断面正面図である。プランジャストッパー40は、弾性体で構成された本体41と、この本体の表面に積層された不活性樹脂フィルム42とを含む。前記プランジャストッパー40は、短い円柱形状であり、前記円柱形状の外側周面46に環状リブ43,44,45を複数有する。前記環状リブは、シリンジバレルの内周面と摺接する。複数の環状リブは、プランジャストッパーの先端面47から後端面48に向かって、軸方向に配列されている。環状リブの個数は、1以上であれば、特に限定されないが、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。
【0085】
図4のプランジャストッパー40は、先端側から第1環状リブ43、第2環状リブ44、第3環状リブ45を有する。先端の第1環状リブ43は、径方向の圧縮率が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、10%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。圧縮率は、非圧縮状態の環状リブの外径D1と、シリンジバレルの内径Rとから、次式により算出される。圧縮率(%)=100×(D1-R)/D1
【0086】
先端の環状リブ43の摺接部直線長さH1(前記軸方向長さ)は、前記円柱形状の外側周面の直線長さ(外側周面の前記軸方向長さ)Hoに対して、1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、6%以上であることがさらに好ましく、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
第2環状リブ44の摺接部直線長さH2(前記軸方向長さ)および第3環状リブ45の摺接部直線長さH3(前記軸方向長さ)は、前記円柱形状の外側周面の直線長さHo(外側周面の前記軸方向長さ)に対して、それぞれ、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、15%以下であることが好ましく、14%以下であることがより好ましく、13%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
図4に示した態様では、不活性樹脂フィルム42が、プランジャストッパー本体のほぼ全面(先端面47と外側周面46)に設けられているが、不活性樹脂フィルム42は、弾性体から構成される本体41の少なくとも一部に設けられていればよい。例えば、プランジャストッパーをシリンジ内に挿入したときに、薬液と接する山形形状の先端面47のみに不活性樹脂フィルム42を積層してもよい。不活性樹脂フィルム42としては、ポリテトラフルオロエチレンフィルムが好ましい。
【0089】
また、前記先端の第1環状リブ43には、その摺接部に、レーザー加工によって形成された円周方向に延びる円環溝が1本以上設けられていることも好ましい。
【0090】
前記円環状溝の深さは、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0091】
また、前記円環状溝の幅は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、200μm以下であることが好ましく、170μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0092】
なお、プランジャストッパーは、ストッパー、あるいは、ガスケットと言われる場合がある。
【0093】
<ゴム栓>
図5は、本発明を適用する医療用栓体の一例を説明するための説明図である。より具体的には、バイアル瓶のゴム栓である。図5(a)は、平面図であり、図5(b)は、図5(a)におけるA-A線断面図である。
【0094】
前記医療用栓体50は、天板53と天板53の下面から下方に延出する円筒状の脚部55を有する。天板53および脚部55が弾性体で構成されている。脚部55は、本発明の医療用栓体で医療容器を打栓したときに、医療容器の口部に嵌入する。図5(b)において、円筒状の脚部55の対向する内面は、下方から上方(天面側に)向って、脚部の内面間の距離が徐々に小さくなるようにテーパ―状に形成されている。
【0095】
前記天板53は、平面視で円形である。天板53には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部53aと、医療容器を打栓したときに、医療容器の口部の上縁面に接するフランジ部53bを有している。
【0096】
フランジ部53bの天面側には、他のゴム栓との密着防止のための突起物57が設けられている。
【0097】
穿刺部53aは、天板53における容器内部の薬液を吸引するために注射針を差し込むための領域である。前記穿刺部53aは、平面視において円形であり、天板53の中央に存在する。また、前記穿刺部53aは、天面から凹状に形成されている。
【0098】
図5の態様では、不活性樹脂フィルム59が、天板53の下面および脚部55の表面の全体に積層されている。なお、不活性樹脂フィルム59は、天板53の下面および脚部55の表面の少なくとも一部に積層されていてもよい。不活性樹脂フィルム59としては、ポリテトラフルオロエチレンフィルムが好ましい。
【0099】
図6は、本発明を適用する医療用ゴム栓体50の別の態様を示す説明図である。図6(a)は、平面図であり、図6(b)は、図6(a)におけるB-B線断面図である。図6の医療用ゴム栓体50において、図5と構成が共通する部分については、説明を省略する。
【0100】
本態様の医療用ゴム栓体50は、天板53の下面から延出する二股の脚部55を有している。図6(b)において、二股状の脚部55の対向する内面は、下方から上方(天面側に)向って、脚部の内面間の距離が徐々に小さくなるようにテーパ―状に形成されている。図6の態様では、天板53および脚部55が弾性体から構成され、不活性樹脂フィルム59が、天板53の下面および脚部55の表面の全体に積層されている。なお、不活性樹脂フィルム59は、天板53の下面および脚部55の表面の少なくとも一部に積層されていてもよい。
【0101】
図5および図6の医療用ゴム栓50の天板53の天面部にはナイロンフィルム層が設けられていてもよい。医療用ゴム栓50の天面部にナイロンフィルム層を設けることで、医薬品製造時の機械的搬送性を担保できる。また、医療用ゴム栓50の天面部にナイロンフィルム層を設けることで天面部の表面滑性度を上昇させることができ、注射針の穿刺時に針刺フラグメントの発生を防止できる。
【0102】
<真空採血管のゴム栓>
図7は、真空採血管の一例を示す説明図である。真空採血管90は、有底管91と有底管91の開口を封止するゴム栓93とからなる。採血管内を減圧にすることにより自動的に血液を採取できるように設計されている。
【0103】
図8は、本発明を適用する医療用栓体の一例を説明するための説明図である。真空採血管用ゴム栓の一例を示す説明図である。図8(a)は、斜視図であり、図8(b)は、断面図である。真空採血管のゴム栓は、天板94と天板94の下面から下方に延出する円筒状の脚部95を有する。天板94および脚部95が弾性体で構成されている。脚部95は、ゴム栓で真空採血管を打栓したときに真空採血管の口部に嵌入する。天板94の中央には、注射針を差し込むための領域である穿刺部96が設けられている。前記穿刺部96は、天面から凹状に形成されている。不活性樹脂フィルム97が、天板94の下面および脚部95の表面の全体に積層されている。なお、不活性樹脂フィルム97は、天板94の下面および脚部95の表面の少なくとも一部に積層されていてもよい。
【0104】
<ノズルキャップ>
図9(a)は、医療用シリンジのノズルキャップの一例と、それを被せる注射筒のノズルを示す断面図である。図9(b)は、ノズルキャップをノズルに被せた状態を示す断面図である。ノズルキャップ81は、医療用ゴム組成物から一体に形成されている。ノズルキャップ81は、内径D8がノズル83の外径D9よりわずかに小さい筒状部86と、当該筒状部86の一端側(図では上端側)に連成された針刺部87とを備えている。針刺部87は、筒状部86と連続した外面を有する柱状に形成されている。筒状部86の他端側(図では下端側)にはノズル83を筒状部86に挿入してノズルキャップ81を上記ノズル83に被せるための開口88が設けられている。ノズルキャップ81の内表面および筒状部86の下方端部の表面に不活性樹脂フィルム84が積層されている。
【実施例0105】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0106】
[評価方法]
(1)溶出物試験
測定サンプル:医療用ゴム部品として、プランジャストッパーをポリエチレン袋に入れた状態で(図1および図2に示す包装形態で、表1に記載の包装体内部の環境で)吸収線量が、25kGy及び50kGyとなるようにガンマ線を照射して、ガンマ線照射後のプランジャストッパーとした。
測定サンプルについて、第17改正日本薬局方「7.03輸液用ゴム栓試験法」所載の「溶出物試験」を実施した。適合条件は、以下の通りとした。
試験液の性状:無色澄明
UV透過率:層長10mmで、波長430nmおよび波長650nmの透過率が99.0%以上
紫外吸収スペクトル:波長220nm~350nmにおける吸光度が0.20以下
pH:試験液および空試験液の差が1.0以下
亜鉛:試料溶液の吸光度が、標準溶液の吸光度以下
過マンガン酸カリウム還元物質:2.0mL/100mL以下(薬局方の規格)
蒸発残留物:2.0mg以下
いずれかの項目を満足しない場合には、「不適合」とし、すべての項目を満足した場合には「適合」と評価した。
【0107】
(2)TOC試験
(1)の溶出液について、全有機体炭素値TOC(NPOC:酸性化通気処理によるTOC)を測定した。
測定分析装置:島津全有機体炭素計TOC-VCSH(燃焼酸化方式)
測定分析条件:燃焼管温度680度、高感度触媒使用、
キャリアガス:高純度空気150mL/min、
注入量200μL、
酸添加濃度1.5%、
通気処理時間90sec
【0108】
ガンマ線照射前後のTOC値の差を示した。差が小さいほど、溶出性能が悪化していないことを意味する。
(判定基準)
〇(照射前と同等):ΔTOC値0.1mg/L以下、
△(照射前より悪化):ΔTOC値0.1mg/L超、0.3mg/L以下
×(照射前より大幅悪化):ΔTOC値0.3mg/L超
【0109】
(3)摺動性
プランジャストッパーをシリンジバレル(1mL用COP樹脂シリンジ、内径6.35mmmm)に挿入し、プランジャで100mm/minの速度で押し込む際に要する力を精密万能試験機(AG-X 100kN、株式会社島津製作所製)を用いて計測した。摺動距離10mmから15mmでの摺動に要する力の平均値を摺動抵抗(N)として記録した。ガンマ線照射前後の摺動抵抗値(N)の差(照射後の摺動抵抗値-照射前の摺動抵抗値)を示した。差が小さいほど、摺動性が悪化していないことを意味する。
(判定基準)
〇:Δ摺動抵抗値2N以下
△:Δ摺動抵抗値2N超、5N以下
×:Δ摺動抵抗値5N超
【0110】
(4)薬液の封止性(液漏れ試験)
プランジャストッパーをシリンジバレル(1mL用シクロオレフィン(COP)樹脂シリンジ、内径6.35mmmm)に打栓後、試験液を充填し、反対側をキャップした。40℃にて保管し、1日後および1週間静置後、ビデオマイクロスコープ(ライカマイクロシステムズ株式会社製DVM5000)にて対物レンズ50倍で観察し、液漏れの有無を測定した。10個の製品を観察し、試験液がストッパーの第1リブを越えたものは、液漏れと判定し、その個数を記載した。試験液は水に色素(メチレンブルーシグマアルドリッチジャパン合同会社製)0.2g/L、および界面活性剤(ポリソルベート80 日油株式会社製)1.0g/L加えたものを使用した。
(判断基準)
〇(漏れなし):0本
△(やや漏れ):1本
×(漏れあり):2本以上
【0111】
(5)READY TO USEの適否については、以下のように判断した。
溶出物試験結果が適合である、TOC試験結果が△以上の評価結果である、摺動試験結果が△以上である、かつ、液漏れ試験結果が△以上である場合には、READY TO USEに適合していると判断し、いずれか一つの評価結果を満足しない場合は、不適合とした。
【0112】
[医療用ゴム部品(シリンジ用プランジャストッパー)の作製]
表1に示した各成分のうち架橋成分以外の成分を配合して10L加圧式密閉ニーダーを用いて充填率75%で混練し、室温で熟成後、架橋成分を加えてオープンロールで混練してゴム組成物を調製した。前記ゴム組成物をシート状に成形した。
【0113】
【表1】
【0114】
使用した配合材料の詳細は以下の通りである。
ブチル化ゴム:エクソンモービル社製HT-1066(塩素含有率:1.26wt%)
トリアジン誘導体:三協化成社製ジスネットDB
タルク:イメリススペシャリティーズ社製ミストロンベーパー
ハイドロタルサイト:協和化学工業社製アルカマイザー1
酸化マグネシウム:協和化学工業社製マグサラット150s
カーボンブラック:三菱ケミカル社製ダイアブラックG
酸化チタン:チタン工業社製KR-380
オイル:出光興産社製PW380
【0115】
前記ゴムシートに、片面接着処理した不活性樹脂フィルムを重ねて、成型金型上に置き、真空プレスで175℃で10分成型し加硫接着させた。プランジャストッパーは、1mL用COP樹脂シリンジ(シリンジバレルの内径6.35mm)に適する形態に形成した。不活性樹脂フィルムは、架橋ゴム(弾性体)からなるガスケット本体の先端面と外周側面の全体に積層されている。不活性樹脂フィルムとしは、以下のものを用いた。
・変性PTFE
・スカイビング法フィルム:日本バルカー工業株式会社製 商品名「ニューバルフロン」 フィルム厚さT=70μm 中心線平均粗面粗さ0.11μm
【0116】
得られたプランジャストッパーの寸法(図4参照)は、以下の通りである。
環状リブの数:3
Ho:7.0mm
第1リブ圧縮率:3.8%
第2リブ圧縮率:3.1%
第3リブ圧縮率:3.1%
H1:1.0mm
H2:0.5mm
H3:0.5mm
【0117】
得られたプランジャストッパー100個を包装袋にいれて、表2に示した酸素濃度および吸収線量でガンマ線を照射して減菌処理を行った。減菌処理後のストッパーについて、溶出物試験、TOC,液漏れ性を評価した結果を併せて表2に示した。
【0118】
【表2】
【0119】
表2の結果より、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品が複数個収容されている医療用ゴム部品の包装体を酸素濃度が5%以下である包装体にガンマ線を照射する滅菌方法によれば、非溶出特性が維持される。また、不活性樹脂フィルムが劣化していないので、摺動性に優れ、液漏れが少ない医療用ゴム部品が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、ガンマ線滅菌後も非溶出特性が維持され、医療用品の製造工程でトラブルの少ない医療用ゴム部品の滅菌方法を提供できる。
【符号の説明】
【0121】
1:医療用ゴム部品、3:1次包装体、5:2次包装体、7:3次包装体、9:ヒートシール、11:脱酸素剤、
【0122】
本発明の好ましい態様(1)は、弾性体で構成される本体の表面の少なくとも一部に不活性樹脂フィルムが積層されている医療用ゴム部品が複数個収容されている包装体であって、酸素濃度が5%以下である包装体にガンマ線を照射することを特徴とする医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0123】
本発明の好ましい態様(2)は、酸素濃度が5%以下である包装体にガンマ線を照射する態様(1)に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0124】
本発明の好ましい態様(3)は、前記酸素濃度が3%以下である包装体は、窒素が封入された包装体である態様(1)または(2)に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0125】
本発明の好ましい態様(4)は、前記酸素濃度が5%以下である包装体は、脱酸素剤が封入された包装体である態様(1)または(2)に記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0126】
本発明の好ましい態様(5)は、ガンマ線の吸収線量が15kGy以上となるようにガンマ線を照射する態様(1)~(4)のいずれか一つに記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0127】
本発明の好ましい態様(6)は、前記弾性体は、ゴム又は熱可塑性エラストマーから構成され、JIS-A硬度が30以上、70以下であり、圧縮永久歪みが20%以下である態様(1)~(5)のいずれか一つに記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0128】
本発明の好ましい態様(7)は、前記不活性樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、または超高分子量ポリエチレンである態様(1)~(6)のいずれか一つに記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0129】
本発明の好ましい態様(8)は、前記不活性樹脂フィルムの厚さが10μm~150μmである態様(1)~(7)のいずれか一つに記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
【0130】
本発明の好ましい態様(9)は、医療用ゴム部品は、バイアル瓶のゴム栓、シリンジ用のキャップ、プランジャストッパー、または、真空採血管用ゴム栓である態様(1)~(8)のいずれか一つに記載の医療用ゴム部品の滅菌方法である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9