(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061577
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】中間転写媒体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/382 20060101AFI20240425BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20240425BHJP
B41M 5/44 20060101ALI20240425BHJP
B41M 5/42 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B41M5/382 800
B41M5/52 300
B41M5/52 400
B41M5/44 310
B41M5/42 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008812
(22)【出願日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2022168985
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
(72)【発明者】
【氏名】松本 友紀
【テーマコード(参考)】
2H111
【Fターム(参考)】
2H111AA26
2H111AB05
2H111BA03
2H111BA07
2H111BA53
2H111BA55
2H111BA61
(57)【要約】
【課題】高濃度の転写物を提供可能としつつ、高温下での耐ブロッキング性が良好な中間転写媒体を提供する。
【解決手段】基材1の一方の面に少なくとも剥離層2および受容層4がこの順で積層され、画像を形成した受容層を被転写体の被転写面に向けて重ね、受容層と共に剥離層を被転写体上に転写形成する中間転写媒体20において、受容層は、軟化点が50℃以上110℃以下の第一エポキシ樹脂と、軟化点が120℃以上の第二エポキシ樹脂とを含み、第一エポキシ樹脂と第二エポキシ樹脂との質量比が、3:7から7:3の範囲内である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に少なくとも剥離層および受容層がこの順で積層され、画像を形成した前記受容層を被転写体の被転写面に向けて重ね、前記受容層と共に前記剥離層を前記被転写体上に転写形成する中間転写媒体であって、
前記受容層は、軟化点が50℃以上110℃以下の第一エポキシ樹脂と、軟化点が120℃以上の第二エポキシ樹脂とを含み、前記第一エポキシ樹脂と前記第二エポキシ樹脂との質量比が、3:7から7:3の範囲内である、
中間転写媒体。
【請求項2】
前記受容層は、前記第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂のいずれでもない他の樹脂を含み、前記受容層の樹脂成分に占める前記他の樹脂の比率が20%以下である、
請求項1に記載の中間転写媒体。
【請求項3】
前記剥離層と前記受容層との間に保護層をさらに備え、
前記保護層は、イソシアネートとの硬化反応によって硬化したアクリルポリオール樹脂と、フィラーとを含有し、
前記イソシアネートに含まれるイソシアネート基と前記アクリルポリオール樹脂に含まれる水酸基との当量比(イソシアネート基/水酸基)が2.0以上4.0以下である、
請求項1に記載の中間転写媒体。
【請求項4】
前記剥離層がアクリル系樹脂を主成分とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の中間転写媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間転写媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート、免許証およびID(identification)カードなどの個人認証媒体の多くは、デザインなどの共通項目以外は、目視による個人認証を可能とするための顔画像と個人に関する情報を、個人毎にその電子データを用いてプリンターの印画・印字により形成している。
【0003】
従来、このような印刷方法としては、熱転写方法が広く使用されている。熱転写方法は、基材シートの一方の面に色材層が設けられた熱転写シートと、紙やプラスチック等の基材シートに必要に応じて受容層を設けた熱転写受像シートを重ね合わせ、サーマルヘッド等の加熱手段により熱転写シートの背面側から画像に応じた加熱工程において、色材層に含まれる色材を選択的に熱転写受像シート上に移行させて画像を形成する方法である。
【0004】
また、画像形成に用いる多くの種類の被転写体記録媒体の材質の汎用性と高信頼性と連続転写性の観点から、中間転写媒体に画像および文字などの情報を形成(一次転写)後に、転写層側を被転写体の基材に重ねて加圧し基材側のいずれかから加熱することにより中間転写媒体の転写層を基材に再転写(二次転写)する中間転写方式も広く用いられている。
【0005】
中間転写方式の用途の多様化と普及の拡大もあり、中間転写媒体が広く用いられつつある。中間転写方式においては、中間転写媒体の転写層が転写後の被転写体の表面の一部を構成する。したがって、転写層には、外的な要因、例えば紫外線の受光や物理的な応力、化学物質(例えば、耐可塑剤)の接触による劣化などに対する高い耐久性が求められる。一方、耐久性を向上させると、転写層の箔切れ性に悪化を生じ、転写層を被転写体上に転写する際、転写層の転写端部にバリ、尾引きなどの転写不良が発生することがある。したがって、中間転写媒体の転写層には、耐久性とともに箔切れ性の向上も求められている。
また、昨今の転写装置の小型化や転写にかかるエネルギーを抑える観点から、一次転写時の転写感度の向上が求められており、中間転写媒体にも色材の受容性能への要求が高まっている。
【0006】
サーマルヘッドにより熱転写を施す際に、中階調から高階調領域では受容層が熱転写にともなう加熱によって軟化することにより、熱融着される顔料との接触が増加し、より高感度になる。そのため、熱転写感度を向上するには受容層が軟化しやすい方が有利であり、100℃を下回る低温の軟化点を有する樹脂を適用するのが好ましい。
一方で、熱転写プリンターに搭載するため、中間転写媒体は通常ロール形態で提供され、巻き長が長いほど、プリント効率やハンドリングの観点で有利である。ロールの巻き長を長くした場合、ロールの巻きずれなどを防ぐため、巻取張力などを調整して巻きを硬くすることがある。このような場合、ロール形態での長期信頼性試験を行うとブロッキングが多く発生することがあり、ハンドリングに影響する。
【0007】
耐ブロッキング性が良好で高濃度の転写物を提供可能な中間転写媒体として、特許文献1には、ガラス転移温度が-10℃から20℃の範囲の水分散型樹脂を主成分とし、表面に0.5μmから30μmの範囲の気孔を有する多孔性インク受容層を有した中間転写媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の中間転写媒体を用いると、多孔性インク受容層の気孔による転写の精彩さの低下が懸念される。さらにはガラス転移点が-10℃から20℃であるため、高温下で保管された際のブロッキング抑制効果についても懸念が残る。
【0010】
本発明は、上記事情を踏まえ、高濃度の転写物を提供可能としつつ、高温下での耐ブロッキング性が良好な中間転写媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基材の一方の面に少なくとも剥離層および受容層がこの順で積層され、画像を形成した受容層を被転写体の被転写面に向けて重ね、受容層と共に剥離層を被転写体上に転写形成する中間転写媒体である。
受容層は、軟化点が50℃以上110℃以下の第一エポキシ樹脂と、軟化点が120℃以上の第二エポキシ樹脂とを含み、第一エポキシ樹脂と第二エポキシ樹脂との質量比が、3:7から7:3の範囲内である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の中間転写媒体は、高濃度の転写物を提供可能でありながら、高温下での耐ブロッキング性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る中間転写媒体を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、
図1を用いて本発明の中間転写媒体20について説明する。本発明の中間転写媒体20は、
図1に示すように、基材1の一方の面上に、基材1から剥離可能な転写層10が設けられており、転写層10は、基材1側から剥離層2、保護層3、および受容層4が、この順に積層される基本構成である。
以下、本発明の中間転写媒体20の各構成を具体的に説明する。
【0015】
(基材)
基材1は、一方の面に転写層10、基材1の他方の面に任意に設けられる耐熱滑性層を保持するものである。基材1は、転写層10の一部である剥離層2の紫外線(UV)硬化反応に用いる紫外線(UV)波長光を透過でき、被転写体上に熱転写する際の加熱温度に耐える耐熱性と、転写工程に支障のない機械的特性を有することが望ましい。基材1としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン・エチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等を用いることができるが、特にこれらに限定されない。また、基材1はこれらの各種プラスチックのフィルムまたはシート形状で用いられる。その厚さは、基材1の強度と耐熱性を確保できるように各種プラスチックに応じて適宜設定することができ、例えば、3~100μm程度である。
【0016】
基材1の転写層10を形成する面に、或いは両面に、接着処理や離型処理を施すことも可能である。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理に二種以上を併用することもできる。
基材1の転写層10を形成しない側の面には耐熱滑性層を設けることができる。
【0017】
(剥離層)
剥離層2は、バインダー樹脂で塗膜を形成し、これを硬化させることで形成できる。
バインダー樹脂としては、基材1との接着力が適度に調節されている樹脂が望ましい。接着力が過度に大きいと、熱転写後の剥離時に基材から転写層10が被転写体表面に転写できず、また接着力が過度に小さいと、基材の剥離後に被転写体端面にバリが発生するという問題点が発生する。
具体的には、熱溶融性のポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、パラフィンワックスなどのワックス類、セルロース誘導体及びこれらの各樹脂の混合物等を例示でき、とくにアクリル系樹脂、セルロース誘導体が好ましい。また必要に応じて、滑り性の付与や表面光沢調整などの目的で、各種添加剤を含有することができる。
剥離層2の厚さは適宜設定でき、0.5μm~3.0μm程度が好ましい。
【0018】
(保護層)
保護層は本発明に係る中間転写媒体において必須の層ではなく、省略することができる。本実施形態に係る保護層3は、イソシアネートにより熱硬化させたアクリルポリオール樹脂を主成分とする層である。
イソシアネートはキシリレンジイソシアネート(XDI)系またはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系であることが好ましい。
保護層3の厚さは適宜設定でき、0.5μm以上10μm以下程度が好ましい。
【0019】
本実施形態の保護層3は、イソシアネート基と水酸基の当量比(NCO/OH)が2.0以上4.0以下となるようにイソシアネートとアクリルポリオール樹脂とを混合し、熱硬化することにより形成されている。発明者らの検討では、NCO/OHが4.0より大きくなると堅牢な塗膜中に未反応の硬化剤が多量に含有されることにより耐久性が低下する可能性があることを見出している。
【0020】
保護層3は、フィラーを含有することが好ましい。フィラーを添加することにより、保護層3の平滑性、透明性、光沢度を低下させることなく、転写時の箔切れ性と、転写された画像の耐久性を向上させることができる。
フィラーの量は適宜設定できるが、アクリルポリオール樹脂の重量の0.5質量%以上25%以下とすることが好ましい。発明者らの検討では、アクリルポリオール樹脂を主成分とする保護層において、フィラーの量を上記範囲内にすると、転写時の箔切れ性と、転写された画像の耐久性が特に優れることが見出されている。
【0021】
フィラーの材料については、従来公知のものを用いることができ、有機フィラー、無機フィラー、有機-無機ハイブリッド型フィラーのいずれであっても好適に使用することができる。これらのフィラーは粉体であってもよく、ゾル系であってもよい。粉体の有機フィラーとして、非架橋アクリル系粒子、架橋アクリル系粒子等のアクリル系粒子、メラミン系粒子、ポリアミド系粒子、シリコーン系粒子、ポリエチレンワックス等を挙げることができる。粉体の無機フィラーとして、炭酸カルシウム粒子、シリカ粒子、酸化チタンなどの金属酸化物粒子等を挙げることができる。有機-無機のハイブリッド型のフィラーとして、アクリル樹脂にシリカ粒子をハイブリッドしたものを挙げることができる。ゾル系のフィラーには、シリカゾル系、オルガノゾル系のものを挙げることができる。これらのフィラーは、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
フィラーの粒径は特に制限されないが、0.01μm以上3μm以下とできる。この範囲内であると、転写時の脱離抑制や円滑な膜形成の観点で好ましい。
本明細書において、「フィラーの粒径」とは体積平均粒径を意味する。フィラーの粒径は、例えば、BET法、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア解析により測定できる。
なお、フィラーの効果を妨げない範囲であれば、上記の範囲外の粒径を有するフィラーが一部含有されていてもよい。
【0023】
保護層3は、添加樹脂としてアクリルポリオール樹脂以外の樹脂成分を含んでもよい。発明者らの検討では、保護層3において、アクリルポリオール樹脂を主成分としつつポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂の一方又は両方を含有することにより、基材1や受容層4との密着が良好になることを見出している。
これらの樹脂は、アクリルポリオール樹脂に対して1%以上30%以下配合されることが好ましい。樹脂を複数種類含有する場合は、その総量が上記範囲内であればよい。
【0024】
(受容層)
図1に示すように、受容層4は保護層3上に設けられている。受容層4は、中間転写媒体20の最上層を構成しており、熱転写画像が形成される層でもある。画像が形成された受容層4は、保護層3、さらには剥離層2とともに被転写体上に転写され、印画物が形成される。受容層4を形成するための材料としては、昇華性の染料または熱溶融性の転写インク等の熱移行性の色材を受容しやすい、従来公知の樹脂を用いることができる。
【0025】
詳細は後述するが、本実施形態に係る受容層4は、2種類のエポキシ樹脂を含有する。
受容層4は、2種類のエポキシ樹脂以外の樹脂を含んで構成されてもよい。他の樹脂としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体もしくはポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレンもしくはプロピレン等のオレフィンと他のビニルポリマーとの共重合体系樹脂、アイオノマーもしくはセルロースジアスターゼ等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート、等が挙げられ、特に、昇華型熱転写リボンによる転写には、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂またはポリエステル樹脂が好ましく、溶融型熱転写リボンによる転写には、エポキシ樹脂が好ましい。
【0026】
受容層4が接着層を介して被転写体に転写される場合には、受容層4自体の接着性は必ずしも要求されない。しかし、受容層4が接着層を介さないで被転写体に転写される場合には、接着性を有する樹脂を用いて受容層4を形成することが好ましい。
【0027】
受容層4は、上述の材料の中から選択された単独または複数の材料、および必要に応じて各種添加剤等を加え、水または有機溶剤等の適当な溶剤に溶解または分散させて受容層用塗工液を調製し、これをバーコート、ブレードコート、エアナイフコート、グラビアコート、ロールコート等のソルベントコート法によって塗布し、乾燥して形成することができる。受容層4の厚さは、0.1μm以上10μm以下であればよく、0.2μm以上8μm以下程度がより好ましい。
【0028】
受容層4が接着性を有しない場合には、受容層4上にさらに接着層を設けてもよい。接着層は、任意の構成であり、被転写体側に接着処理が施されている等の場合は不要である。
接着層を構成する樹脂としては、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、アイオノマー樹脂等を主成分とする従来公知の接着剤を用いることができる。
【0029】
発明者らは、上記構成の中間転写媒体において、耐ブロッキング性と、転写物の高濃度とを共により向上できる構成について種々検討した。その結果、2種類のエポキシ樹脂を受容層4に含有させることでこれを実現した。
具体的には、軟化点が50℃以上110℃以下の第一のエポキシ樹脂(A)と、軟化点が120℃以上の第二のエポキシ樹脂(B)とを、混合比A/Bが3/7以上7/3以下となるように混合することにより、耐ブロッキング性と、転写物の高濃度の両方を良好とすることができた。
受容層が第一のエポキシ樹脂および第二のエポキシ樹脂以外の樹脂を含有して構成される場合、第一および第二のエポキシ樹脂の質量の和が受容層の質量の80%以上であることが好ましい。
【0030】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明についてさらに説明する。本発明は、実施例あるいは比較例の具体的内容のみよって限定されることはない。以降の説明において、「部」とは、特にことわりのない限り、質量基準を示す。
【0031】
(実施例1)
基材として厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、一方の面に下記組成の剥離層用塗工液を乾燥後の膜厚が1.0μmとなるように塗工し、100℃1分間乾燥して剥離層を形成した。
<剥離層用塗工液>
・バインダー樹脂:アクリル樹脂(パラロイドA21 DOW社製) 20部
・メチルエチルケトン 60部
・トルエン 20部
【0032】
次に、剥離層の上に下記組成の受容層用塗工液Aを、乾燥後の膜厚が3.0μmとなるように塗工し、100℃1分間乾燥させた。
以上により、基材上に剥離層および受容層が設けられた実施例1に係る中間転写媒体を作製した。なお、剥離層用塗工液および受容層用塗工液は、いずれもグラビアコーティング法により塗工した。
<受容層用塗工液A>
・第一エポキシ樹脂(jER1004、三菱ケミカル社製 軟化点97℃) 21部
・第二エポキシ樹脂(jER1007、三菱ケミカル社製 軟化点128℃) 9部
・メチルエチルケトン 70部
【0033】
(実施例2)
剥離層の上に下記組成の保護層用塗工液を、乾燥後の膜厚が2.0μmとなるようにグラビアコーティング法で塗工し、100℃1分間乾燥させた。その後、50℃ 2日間保護層の養生を行い、アクリルポリオールを硬化させた。
<保護層用塗工液>
・アクリルポリオール(6AN-5000(固形物比率:40.5%)、大成ファインケミカル社製) 41部
・ポリイソシアネート(タケネートD-110 三井化学社製) 12部
・フィラー(シリコーン、粒径0.5μm) 2部
・酢酸エチル 80部
その後、受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Bを用いて受容層を形成した。
<受容層用塗工液B>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 15部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 15部
・メチルエチルケトン 70部
その他の点は実施例1と同様の手順で実施例2に係る中間転写媒体を作製した。
【0034】
(実施例3)
受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Cを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例3に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液C>
・第一エポキシ樹脂(NPES-904、NAN YA PLASTICS社製 軟化点107℃) 15部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 15部
・メチルエチルケトン 70部
【0035】
(実施例4)
受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Dを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例4に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液D>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 9部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 21部
・メチルエチルケトン 70部
【0036】
(実施例5)
受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Eを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例5に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液E>
・第一エポキシ樹脂(jER1001、三菱ケミカル社製 軟化点64℃) 15部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 15部
・メチルエチルケトン 70部
【0037】
(比較例1)
受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Fを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液F>
・第一エポキシ樹脂(jER1001) 30部
・メチルエチルケトン 70部
【0038】
(比較例2)
受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Gを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例2に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液G>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 30部
・メチルエチルケトン 70部
【0039】
(比較例3)
受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Hを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例3に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液H>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 24部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 6部
・メチルエチルケトン 70部
【0040】
(比較例4)
受容層用塗工液Aに代えて下記組成の受容層用塗工液Iを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例4に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液I>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 6部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 24部
・メチルエチルケトン 70部
【0041】
各例の中間転写媒体を用いて、以下の評価を行った。
【0042】
<耐ブロッキング性の評価>
各例の中間転写媒体を、向きを揃えて(すなわち、一方の受容層ともう一方の基材とが接触するように)2枚重ねた。この状態で8kg/cm2の荷重をかけ、50℃環境下で24時間静置した。その後、荷重を取り除いて2枚を分離し、もう一方の基材と接触していた受容層の状態を目視で評価した。評価は以下の2段階とした。
〇(good):受容層の欠損なし
×(bad):受容層の欠損を認める
【0043】
<転写物の評価>
裏面に耐熱滑性層としてシリコーン樹脂による耐熱処理を施した、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる基材に、下記組成の熱転写インキ層用塗布液をグラビアコーティング法により、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように塗布し、80℃1分乾燥させることにより、熱転写インキ層を形成した。これにより、評価用の熱転写シートを作製した。
<熱転写インキ層用塗布液>
・フタロシアニンブルー(顔料) 6部
・エポキシ樹脂 16部
・シリカ微粒子 3部
・メチルエチルケトン 75部
各例の中間転写媒体に上記熱転写シートを重ね合わせ、サーマルシミュレーターにて受容層に画像(単色全面印刷)を形成した。さらに、中間転写媒体を塩化ビニル製のカードと重ね合わせ、ICカード用プリンターを用いてカード上に画像を再転写した。
以上により、各例に係る転写物を得た。この転写物を用いて、以下の評価を行った。
【0044】
<転写性評価>
転写物における転写画像に貼りつき(転写層が基材から剥離せず基材ごと貼りつく)や転写抜け(転写されるべき部位が転写されず基材上に残留する)等の不良を認めるか否かを目視により評価した。評価は以下の2段階とした。
〇(good):不良を認めない
×(bad):不良を認める
【0045】
<OD(光学濃度)値測定>
各例に係る転写物に対し、X-rite社製のX-rite exactを用いて80%転写時のOD値を測定した。測定条件は濃度ステータスAを適用した。
評価は以下の3段階とし、×以外を合格とした。
◎(GOOD):OD値1.0以上
○(FAIR):OD値0.9以上1.0未満
×(BAD):OD値0.9未満
【0046】
<耐久性(テーバー摩耗試験)>
各例に係る転写物に対し、JIS K 7204に準拠したテーバー試験を実施した。試験環境は以下の通りである。
摩耗輪(CF-10F、東洋精機社製)を試験機(ロータリーアブレージョンテスター 東洋精機社製)に設置
試験条件:500gf、回転速度60rpm
評価は以下の3段階とし、×以外を合格とした。
◎(GOOD):1000回転の回転摩耗で転写物上の画像に欠損が生じない。
○(FAIR):800回転の回転摩耗で転写物上の画像に欠損が生じない。
×(BAD):800回未満の回転摩耗で転写物表面に欠損を生じる。
なお、欠損とは、「摩耗輪の通過部位の50%以上が削れている状態」を意味する。
結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示されるように、軟化点が50℃以上110℃以下の第一エポキシ樹脂と軟化点が120℃以上の第二エポキシ樹脂とを含み、その質量比が3:7から7:3の範囲内である受容層を備えた各実施例の中間転写媒体は、耐ブロッキング性に優れ、高いOD値を得ることができ、転写不良などを生じず、優れた転写物を得ることができた。
イソシアネートとの硬化反応によって硬化せしめたアクリル系樹脂を用いた保護層を備えた実施例2の中間転写媒体は、特に耐久性に優れた転写物が得られた。
【0049】
一方、比較例1から3の中間転写媒体は、受容層における第一エポキシ樹脂の比率が高いことで、高いODは得られるものの、ブロッキングが発生した。特に比較例1においては、転写時の過剰な受容層の軟化により、ICカードへの転写時に転写不良が生じた。また、比較例4においては、第一エポキシ樹脂の比率が低いことで耐ブロッキング性には優れるものの、高いOD値を得ることができなかった。
【0050】
以下では、受容層がエポキシ樹脂以外の樹脂成分を含んでいる実験例を示す。
(実験例11)
受容層用塗工液Bに代えて下記組成の受容層用塗工液Jを用いた点を除き、実施例2と同様の手順で実験例11に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液J>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 13.5部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 13.5部
・アクリル樹脂(三菱ケミカル社製 BR50) 3部
・メチルエチルケトン 70部
(実験例12)
受容層用塗工液Bに代えて下記組成の受容層用塗工液Kを用いた点を除き、実施例2と同様の手順で実験例12に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液K>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 12部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 12部
・アクリル樹脂(BR50) 6部
・メチルエチルケトン 70部
(実験例13)
受容層用塗工液Bに代えて下記組成の受容層用塗工液Lを用いた点を除き、実施例2と同様の手順で実験例13に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液L>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 10.5部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 10.5部
・アクリル樹脂(BR50) 9部
・メチルエチルケトン 70部
(実験例14)
受容層用塗工液Bに代えて下記組成の受容層用塗工液Mを用いた点を除き、実施例2と同様の手順で実験例14に係る中間転写媒体を作製した。
<受容層用塗工液M>
・第一エポキシ樹脂(jER1004) 7.5部
・第二エポキシ樹脂(jER1007) 7.5部
・アクリル樹脂(BR50) 15部
・メチルエチルケトン 70部
実験例11から14においては、いずれも第一エポキシ樹脂と第二エポキシ樹脂との質量比が5:5(1:1)であり、保護層を備えている。
【0051】
実験例11から14について、上述した実施例と同様、4項目の評価を行った。併せて、実施例2の転写物を再度作製し、同じ評価を行った。その際、OD値の評価基準については、実用性を考慮して以下の通りとした。なお、表1に記載された各例のOD値評価は、下記基準を適用した場合でも変化しない。
◎(GOOD):OD値1.0以上
○(FAIR):OD値0.8以上1.0未満
×(BAD):OD値0.8未満
【0052】
さらに、この検討では、転写物のカスレについても評価した。手順を以下に記す。
<カスレ評価>
各例に係る転写物に対し、スキャナをもちいて600dpiの解像度で画像取り込みを行い、画像解析ソフト「ImageJ」を用いて80%転写した領域に対する色材が転写された部分の比率を算出し、カスレの評価を行った。評価基準は以下の通りとした。
〇(GOOD):転写面積が95%以上である。
×(BAD):転写面積が95%未満である。
転写物における色彩は、各色が様々な強度で組み合わせられることにより実現するものである。すなわち、転写エネルギーが100%より低い場合であっても転写エネルギーの大きさに応じてかすれずにムラなく転写が行われることが色再現性の向上に重要であり、特に転写エネルギー70~90%の高階調で品質の差が顕著になる。すなわち、カスレ評価は、熱転写シートから中間転写媒体への一次転写性に関するものであり、被転写体への二次転写性を見ている上述した転写性の評価とは異なっている。
結果を表2に示す。表2には、再作製した実施例2の結果も併せて示している。
【0053】
【0054】
表2に示すように、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂のいずれでもない樹脂を多く含んだ実験例13および14では、耐ブロッキング性や転写性には問題なかったものの、ODおよびカスレの評価が良くなかった。これは、第一エポキシ樹脂の総量が十分でなくなったために、一次転写において、ミリ秒単位かつドット単位で制御されるサーマルヘッドの加熱に対応して受容層が迅速に軟化して色材を受け取ることが十分できなかったことによると推測された。
実験例11から14の結果から、受容層が第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂のいずれでもない第三の樹脂を含有する場合、受容層の樹脂成分に占める第三の樹脂の割合を20%以下とすることが好ましいと考えられた。
【0055】
本発明の一実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 基材
2 剥離層
3 保護層
4 受容層
10 転写層
20 中間転写媒体