(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061595
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20240425BHJP
G01R 29/16 20060101ALI20240425BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G01R31/08
G01R29/16 A
H02J13/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077975
(22)【出願日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2022169260
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 章弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武尊
【テーマコード(参考)】
2G033
5G064
【Fターム(参考)】
2G033AA02
2G033AB01
2G033AC02
2G033AC04
2G033AD16
2G033AF01
2G033AF03
2G033AF05
2G033AG14
5G064AA04
5G064AC09
5G064CB17
5G064CB19
5G064DA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多様な構成の電力系統に対して故障点を容易に標定することが可能な情報処理装置を提供する。
【解決手段】電力系統に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得する第1取得部と、センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部と、電力系統に実際に設けられた第1ノード及び電力系統の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む電力系統の設備情報と、第1測定値とに基づいて、電力系統の故障前の状態を推定する状態推定部と、電力系統の故障前の状態と、故障の種別と、設備情報とに基づいて、複数のノードのいずれか一を故障点と仮定した場合の第2測定値に対応する計算値を、仮定した複数の故障点ごとに計算する計算部と、第2測定値と、仮定した複数の故障点ごとに計算された計算値との夫々の類似度に基づいて、故障点を標定する標定部と、を含む、情報処理装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理装置であって、
前記電力系統に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得する第1取得部と、
前記センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部と、
前記電力系統に実際に設けられた第1ノード及び前記電力系統の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む前記電力系統の設備情報と、前記第1測定値とに基づいて、前記電力系統の故障前の状態を推定する状態推定部と、
前記電力系統の故障前の状態と、前記故障の種別と、前記設備情報とに基づいて、前記複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定した場合の前記第2測定値に対応する計算値を、仮定した複数の故障点ごとに計算する計算部と、
前記第2測定値と、仮定した前記複数の故障点ごとに計算された前記計算値との夫々の類似度に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、
を含む、
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記計算部は、
前記複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定しつつ、複数のインピーダンスのいずれか一を前記故障点のインピーダンスと仮定した場合の前記計算値を、仮定した前記複数の故障点ごとに、前記複数のインピーダンスに対応させて計算し、
前記標定部は、
前記第2測定値と、複数の前記計算値との夫々の類似度に基づいて、前記故障点を標定しつつ、前記故障点のインピーダンスを推定する、
情報処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の情報処理装置であって、
前記状態推定部は、
対称座標系を用いて前記故障前の状態を推定し、
前記計算部は、
対称座標系を用いて前記計算値を計算する、
情報処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の情報処理装置であって、
前記第2測定値に基づいて、前記故障の種別を判定する判定部を更に含む、
情報処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の情報処理装置であって、
前記標定部は、
零相、正相及び逆相で表現される対称座標系における各相の電圧及び電流についての前記第2測定値及び計算値の差に応じて変化し、前記類似度を示す評価関数を用いて、前記故障点を標定する、
情報処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の情報処理装置であって、
前記評価関数は、
対称座標系における各相の電圧についての前記第2測定値及び計算値の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての前記第2測定値及び計算値の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である、
情報処理装置。
【請求項7】
請求項5に記載の情報処理装置であって、
前記評価関数は、
対称座標系における各相の電圧についての前記第2測定値及び計算値のそれぞれの絶対値の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての前記第2測定値及び計算値のそれぞれの絶対値の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である、
情報処理装置。
【請求項8】
請求項5に記載の情報処理装置であって、
前記評価関数は、
対称座標系における各相の電圧についての前記第2測定値及び計算値のそれぞれの実部又は虚部の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての前記第2測定値及び計算値のそれぞれの実部又は虚部の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である、
情報処理装置。
【請求項9】
請求項5に記載の情報処理装置であって、
前記評価関数は、
対称座標系における各相の電圧についての前記第2測定値及び計算値のそれぞれの絶対値又は偏角の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての前記第2測定値及び計算値のそれぞれの絶対値又は位相の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である、
情報処理装置。
【請求項10】
請求項6に記載の情報処理装置であって、
前記標定部は、前記故障の種別に応じて設定された前記所定の重みを用いる、
情報処理装置。
【請求項11】
電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理方法であって、
情報処理装置が、
前記電力系統に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得するステップと、
前記センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得するステップと、
前記電力系統に実際に設けられた第1ノード及び前記電力系統の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む前記電力系統の設備情報と、前記第1測定値とに基づいて、前記電力系統の故障前の状態を推定するステップと、
前記電力系統の故障前の状態と、前記故障の種別と、前記設備情報とに基づいて、前記複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定した場合の前記第2測定値に対応する計算値を、仮定した複数の故障点ごとに計算するステップと、
前記第2測定値と、仮定した前記複数の故障点ごとに計算された前記計算値との夫々の類似度に基づいて、前記故障点を標定するステップと、
を含む、
情報処理方法。
【請求項12】
電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記電力系統に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得する第1取得部と、
前記センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部と、
前記電力系統に実際に設けられた第1ノード及び前記電力系統の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む前記電力系統の設備情報と、前記第1測定値とに基づいて、前記電力系統の故障前の状態を推定する状態推定部と、
前記電力系統の故障前の状態と、前記故障の種別と、前記設備情報とに基づいて、前記複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定した場合の前記第2測定値に対応する計算値を、仮定した複数の故障点ごとに計算する計算部と、
前記第2測定値と、仮定した前記複数の故障点ごとに計算された前記計算値との夫々の類似度に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、
を実現させる、
情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に故障が発生した場合に、故障点の位置を標定する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、故障点の上流側及び下流側のそれぞれに設けられたセンサの電流及び電圧の測定値を用いて、故障点の位置を標定する故障点標定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、故障点の上流側及び下流側に電圧源が設けられていることを前提としている。従って、特許文献1に記載された発明を、例えば一つの電圧源から放射状に線路が構成されている電力系統に対して適用することは困難である。
【0006】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、多様な構成の電力系統に対して故障点を容易に標定することが可能な情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための一の発明は、電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理装置であって、前記電力系統に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得する第1取得部と、前記センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部と、前記電力系統に実際に設けられた第1ノード及び前記電力系統の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む前記電力系統の設備情報と、前記第1測定値とに基づいて、前記電力系統の故障前の状態を推定する状態推定部と、前記電力系統の故障前の状態と、前記故障の種別と、前記設備情報とに基づいて、前記複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定した場合の前記第2測定値に対応する計算値を、仮定した複数の故障点ごとに計算する計算部と、前記第2測定値と、仮定した前記複数の故障点ごとに計算された前記計算値との夫々の類似度に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、を含む、情報処理装置である。
【0008】
また、電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理方法であって、前記電力系統に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得するステップと、前記センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得するステップと、前記電力系統に実際に設けられた第1ノード及び前記電力系統の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む前記電力系統の設備情報と、前記第1測定値とに基づいて、前記電力系統の故障前の状態を推定するステップと、前記電力系統の故障前の状態と、前記故障の種別と、前記設備情報とに基づいて、前記複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定した場合の前記第2測定値に対応する計算値を、仮定した複数の故障点ごとに計算するステップと、前記第2測定値と、仮定した前記複数の故障点ごとに計算された前記計算値との夫々の類似度に基づいて、前記故障点を標定するステップと、を含む、情報処理方法である。
【0009】
また、電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理プログラムであって、コンピュータに、前記電力系統に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得する第1取得部と、前記センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部と、前記電力系統に実際に設けられた第1ノード及び前記電力系統の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む前記電力系統の設備情報と、前記第1測定値とに基づいて、前記電力系統の故障前の状態を推定する状態推定部と、前記電力系統の故障前の状態と、前記故障の種別と、前記設備情報とに基づいて、前記複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定した場合の前記第2測定値に対応する計算値を、仮定した複数の故障点ごとに計算する計算部と、前記第2測定値と、仮定した前記複数の故障点ごとに計算された前記計算値との夫々の類似度に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、を実現させる、情報処理プログラムである。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多様な構成の電力系統に対して故障点を容易に標定することが可能な情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】情報処理装置2が故障点を標定する電力系統1の一例を示す図である。
【
図3】一線地絡が発生した電力系統の等価回路を示す図である。
【
図4】二線地絡が発生した電力系統の等価回路を示す図である。
【
図5】二相短絡が発生した電力系統の等価回路を示す図である。
【
図6】三相短絡が発生した電力系統の等価回路を示す図である。
【
図7】情報処理装置2のハードウェア構成を説明する図である。
【
図8】情報処理装置2の機能ブロックを示す図である。
【
図9】判定部が故障種別を判定する処理を説明するフローチャートである。
【
図10】情報処理装置2が実行する処理を説明するフローチャートである。
【
図11】評価関数をグラフ化したものの一例である。
【
図12】評価関算を計算する際の具体例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
==実施形態==
<<電力系統1>>
図1は、後述する情報処理装置2が故障点を標定する電力系統1の一例を示す図である。電力系統1は、配電変電所10と、配電線11と、配電線11の所定の位置に設置された複数のノードN
i(iは整数)と、配電線11の所定の位置に設置されたセンサ付開閉器SWとを含む。
【0013】
[配電変電所10]
配電変電所10は、送電線(不図示)から供給される電圧を変圧し、6.6kVの電圧を配電線11へと出力する。
【0014】
[配電線11]
配電線11は、配電変電所10を起点(送り出しノード)とし、配電変電所10に放射状に複数接続されている。
図1では、一の配電線11のみが示されている。配電線は、三相交流方式の配電線である。
【0015】
[ノード]
複数のノードN
i(1≦i≦N)は、配電線11上に設けられている。
図1には、ノードN
1~N
3が示されている。本実施形態では、ノードは柱上変圧器(不図示)単位で管理されている集約単位である。ノードN
iには、柱上変圧器を介して負荷や太陽光発電設備等の需要家が接続されている。配電変電所10が配電線11へ出力した電力は、ノードを介して需要家に供給される。
【0016】
なお、詳細は後述するが、本実施形態においては、電力系統1に実際に設けられたノードに加え、仮想的に設けられたノードを更に取り扱う。
図1に示された上述のノードN
1~N
3は、実際に設けられたノードである。
【0017】
[センサ付開閉器SW]
センサ付開閉器SWは、設置された位置における測定値を、定周期で測定可能なセンサを有する開閉器である。センサ付開閉器SWの測定値は、少なくともセンサ付開閉器SWの設置点における配電線11の電圧及び配電線11に流れる電流を少なくとも含む。センサ付開閉器SWの測定値は、測定値DB3(後述)に出力され、格納される。
【0018】
次いで、情報処理装置2の説明をする前に、測定値DB3及び設備情報DB4の説明をする。
【0019】
<<測定値DB3>>
測定値DB3は、センサ付開閉器SWの測定値を格納する。センサ付開閉器SWの測定値は、情報処理装置2が故障点の位置を標定する際に用いられる。測定値DB3は、過去の所定の期間内(例えば、1週間)において測定された測定値を格納する。
【0020】
<<設備情報DB4>>
設備情報DB4は、電力系統1の設備情報I1と、故障時の電力系統1に関する情報I2とを格納する。
【0021】
<設備情報I1>
設備情報I1は、情報処理装置2が故障点の位置を標定する際に用いられる情報である。設備情報I1は、ノードの位置を示す情報と、接続先のノードを示す情報と、インピーダンスに関する情報と、付帯機器情報とを含む。
【0022】
以下の説明において、「複数のノード」とは、電力系統1に実際に設けられたノード及び電力系統1の所定の位置に仮想的に設けられたノードを含む。
【0023】
なお、実際に設けられたノードは、「第1ノード」に相当し、以下では「実際のノード」と称する。仮想的に設けられたノードは、「第2ノード」に相当し、以下では「仮想的なノード」と称する。
【0024】
[仮想的なノードについて]
設備情報I1の詳細について説明する前に、先ず、仮想的なノードについて説明する。
【0025】
仮想的なノードは、後述する情報処理装置2が故障点の位置を標定する際に計算上設定されるノードであって、配電線11上において実体を有するものではない。仮想的なノードの役割についての詳細は後述する。
【0026】
図2は、仮想的なノードを説明するための図である。
図2(a)には、電力系統1のうち、離接する2つの実際のノードと、これらを接続する配電線11が示されている。ここでの2つの実際のノードのうち一方(上流側)にはノード番号としてi(iは整数)が割り当てられ、他方(下流側)にはノード番号としてi+1が割り当てられている。これらの2つの実際のノードの間の距離を、L[km]とする。
【0027】
図2(b)には、上述の離接する2つの実際のノードの間に設けられた仮想的なノードが縦の線分で示されている。この例では、2つの実際のノードの間に、m個(mは整数)の仮想的なノードが設けられている。
【0028】
図2(b)の例において、m個の仮想的なノードは、2つの実際のノード間をm+1等分するように設けられている。つまり、2つの実際のノード間において、隣接するノード間の距離は、L/(m+1)[km]である。
【0029】
なお、ここでの仮想的なノードの配置は一例であって、2つの実際のノード間に必ずしも等間隔に配置されなくてもよい。
【0030】
更に、
図2の例において、仮想的なノードを設けた後(
図2(b))は、2つの実際のノードのうち上流側のノードはノード番号としてi(iは整数)が再び割り当てられる。一方、下流側のノードはノード番号としてi+m+1が改めて割り当てられる。
【0031】
また、m個の仮想的なノードについては、上流側から、ノード番号としてi+1、i+2、・・・、i+mが割り当てられる。
【0032】
つまり、本実施形態においては、配電線11上の複数のノードには、配電線11の上流側から下流側に亘って連続したノード番号が割り当てられる。
【0033】
なお、ここでのノード番号の割り当て方は一例であって、これに限られるものではない。複数のノードのそれぞれを識別することが可能なノード番号の割り当て方であればよい。
【0034】
また、以下の説明において、「ノードNi」(iは整数)という場合、ノード番号iが割り当てられたノードを意味することする。
【0035】
設備情報I1の説明に戻り、ノードの位置を示す情報と、インピーダンスに関する情報と、接続先のノードに関する情報とについて説明する。
【0036】
[ノードの位置を示す情報]
ノードの位置を示す情報は、複数のノードのそれぞれの位置を特定するための情報である。ノードの位置を示す情報は、地図上の位置である。地図上の位置は、緯度及び経度で表現することができる。
【0037】
[接続先のノードに関する情報]
接続先のノードに関する情報は、複数のノードNj(2≦i≦N)のそれぞれに対して、上流側に隣接するノードである。なお、最上流のノードであるノードN1は、接続先のノードに関する情報は有しない。
【0038】
[インピーダンスに関する情報]
インピーダンスに関する情報は、例えば、電力系統1についてのインピーダンスZである。インピーダンスZは、複数のノードのそれぞれへの注入電流をI、複数のノードのそれぞれの電圧をVとした場合に、次式で表わされる。
【0039】
【0040】
以下の説明において、電力系統1にはN個(Nは整数)のノード(ノードN1~ノードNN)が設けられているとする。この場合、電圧V、電流I及びインピーダンスZは、それぞれ次式で表わされる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
つまり、電圧V及び電流IはN行1列の行列であり、インピーダンスZはN行N列の行列である。以下では、特に、数4のインピーダンスZを「インピーダンス行列Z」と称する。
【0045】
数2において、電圧Vの成分Vi(1≦i≦N)はノードNiの電圧である。また、数3において、電流Iの成分Ii(1≦i≦N)はノードNiへの注入電流である。
【0046】
数4において、インピーダンス行列Zの成分Zij(1≦i≠j≦N)は、ノードNiとノードNjとの間のインピーダンスである。
【0047】
ノードNiとノードNjとの間のインピーダンスは、いずれか少なくとも一方のノードが仮想的なノードである場合であっても、双方のノードが実際のノードである場合と同様に定義することができる。
【0048】
また、数4において、インピーダンス行列Zの対角成分Ziiは、ノードNiを基準とした場合の電力系統1全体のインピーダンスに相当する。
【0049】
図2(b)の例では、ノードN
j(i+1≦j≦i+m)についてのインピーダンス行列Zの成分Z
jjは、既知の値であるノードN
i(実際のノード)についてのインピーダンス行列Zの成分Z
iiを用いて得られる。具体的には、成分Z
jjは、成分Z
iiに成分Z
ii+1、成分Z
i+1i+2、・・・、成分Z
j-1jを加算した値である。
【0050】
[付帯機器情報]
付帯機器情報は、複数のノードNj(1≦i≦N)のそれぞれに設けられた付帯機器を示す情報である。付帯機器とは、センサ付開閉器SW、柱状変圧器等の機器である。
【0051】
<故障時の電力系統1に関する情報I2>
故障時の電力系統1に関する情報I2は、ノードNi(1≦i≦N)に故障が乗じた場合の、故障の種別CFに応じた電力系統1の等価回路を示す情報である。
【0052】
ここで、「故障の種別CF」とは、一線地絡、二線地絡、二相短絡、三線地絡及び三相短絡のいずれかである。
【0053】
図3~
図6は、故障の種別CFに応じた電力系統1の等価回路を示す図である。これらの図において、
図3は一線地絡、
図4は二線地絡、
図5は二相短絡、
図6は三相短絡が発生した場合の電力系統1の等価回路を示す図である。これらの図はいずれも、ノードN
iでそれぞれ種別の故障が発生した場合の等価回路を示している。
【0054】
なお、詳細は後述するが、情報処理装置2は、零相、正相及び逆相で表現される対称座標系で表現された電圧、電流及びインピーダンスを用いて故障点の標定を行う。そのため、
図3~
図6において、電圧V、電流I及びインピーダンス行列Zには、対称座標系による表現であることを示す上付き文字(0、1又は2)が付されている。
【0055】
対称座標系を用いた表現において、上付き文字「0」は零相、上付き文字「1」は正相、上付き文字「2」は逆相を意味する。
【0056】
また、これらの図においてZfは、故障点のインピーダンスである。詳細は後述するが、故障点のインピーダンスZfは情報処理装置2による推定の対象であり、未知の値である。
【0057】
<<情報処理装置2>>
情報処理装置2は、事故等により電力系統1に故障が発生した場合に故障点Pを標定する装置である。情報処理装置2は、更に、故障点Pのインピーダンスを推定することも可能な装置である。以下、情報処理装置2のハードウェア構成及び機能ブロックの順に説明する。
【0058】
<情報処理装置2のハードウェア構成>
図7は、本発明の一実施形態である情報処理装置2のハードウェア構成を説明する図である。情報処理装置2は、CPU(Central Processing Unit)200と、メモリ201と、通信装置202と、記憶装置203と、入力装置204と、出力装置205と、記録媒体読取装置206とを有するコンピュータである。
【0059】
[CPU200]
CPU200は、メモリ201や記憶装置203に記憶された情報処理プログラムを実行することにより、情報処理装置2が有する様々な機能を実現する。
【0060】
[メモリ201]
メモリ201は、例えばRAM(Random-Access Memory)等であり、様々なプログラムやデータ等の一時的な記憶領域として用いられる。
【0061】
[通信装置202]
通信装置202は、ネットワークを介して、他のコンピュータと各種プログラムやデータの受け渡しを行う。
【0062】
[記憶装置203]
記憶装置203は、CPU200によって、実行または処理される各種データを格納する非一時的な(例えば不揮発性の)記憶装置である。
【0063】
[入力装置204]
入力装置204は、ユーザによるコマンドやデータの入力を受け付ける装置であり、キーボード、タッチパネルディスプレイ上でのタッチ位置を検出するタッチセンサなどの入力インタフェースを含む。
【0064】
[出力装置205]
出力装置205は、例えばディスプレイやプリンタなどの装置である。
【0065】
[記録媒体読取装置206]
記録媒体読取装置206は、SDカードやDVD、CDROM等の記録媒体3に記録された情報処理プログラム等の様々なデータを読み取り、記憶装置203に格納する。
【0066】
<情報処理装置2の機能ブロック>
図8は、情報処理装置2の機能ブロックを示す図である。情報処理装置2は、取得部210,211と、判定部212と、状態推定部213と、計算部214と、標定部215と、出力部216とを含む。
【0067】
以下、それぞれについて説明するが、ここでは先ず概要について説明する。それぞれの詳細については後にフローチャートを用いて具体例を示しながら説明する。
【0068】
[取得部210]
取得部210(「第1取得部」に相当)は、センサ付開閉器SW(
図1)のセンサで測定された故障前の測定値D1(故障前の測定値D1は、「第1測定値」に相当する)を取得する。ここでの測定値は、センサ付開閉器SWの設置点における配電線11の電圧及び配電線11に流れる電流を含む。以下の説明において、単に「故障前の測定値D1」という場合、取得部210が取得した測定値を意味する。
【0069】
なお、故障の発生時において、故障前の測定値D1は測定値DB3に格納されているため、取得部210は、測定値DB3を介して測定値D1を取得する。
【0070】
[取得部211]
取得部211(「第2取得部」に相当)は、センサ付開閉器SWから故障後の測定値D2(故障後の測定値D2は、「第2測定値」に相当する)を取得する。ここでの測定値についても、センサ付開閉器SWが設置された位置における配電線11の電圧及び配電線に流れる電流を含む。以下の説明において、単に「故障後の測定値D2」という場合、取得部211が取得した測定値を意味する。
【0071】
[判定部212]
判定部212は、取得部211が取得した故障後の測定値D2に基づいて、電力系統1に発生した故障の種別CFを判定する。この判定部212の処理の詳細は後述する。
【0072】
[状態推定部213]
状態推定部213は、設備情報I1と、取得部210が取得した故障前の測定値D1とに基づいて、電力系統1の故障前の状態を推定する。
【0073】
このとき、状態推定部213は、対称座標系を用いて故障前の状態を推定する。本実施形態では、センサ付開閉器SWのセンサは、三相の各相の電圧及び電流の値を測定値として得る。そのため、状態推定部213は、故障前の状態を推定する前に、取得部210が取得した電圧及び電流の測定値を、対称座標系を用いた表現に変換する。
【0074】
なお、センサ付開閉器SWのセンサが、対称座標系を用いて表現される零相、正相及び逆相の値を測定値として得る場合には、上記の変換する処理は不要である。
【0075】
[計算部214]
計算部214は、電力系統1の故障前の状態S1と、故障の種別CFと、設備情報I1とに基づいて、電力系統1に所定の故障条件を課した場合の電力系統1を模擬する計算を実行する。この計算によって、計算部214は、取得部211が取得した故障後の測定値D2に対応する計算値Cを計算する。なお、計算部214は、状態推定部213と同様に、対称座標系を用いて計算値Cを計算する。
【0076】
ここで、「電力系統1の故障前の状態S1」とは、状態推定部213によって推定された状態である。状態推定部213によって推定された状態とは、具体的には、ノードNi(1≦i≦N)における配電線11の電圧及び配電線11を流れる電流である。
【0077】
また、「故障の種別CF」とは、判定部212によって判定された故障の種別である。また、「故障条件」とは、故障点Pに対応するノードと、故障点Pのインピーダンスである。
【0078】
計算部214は、故障後の状態として、複数のノードのいずれか一を故障点Pと仮定しつつ、複数のインピーダンスのいずれか一を故障点Pのインピーダンスと仮定する。
【0079】
ここでの「複数のインピーダンス」とは、予め設定されている複数のインピーダンスの候補値Zfk(1≦k≦M)である(k及びMは整数)。詳細は後述するが、候補値Zfkは、故障点Pの実際のインピーダンスの値を含むと想定される範囲から抽出されたM個の値とすればよい。
【0080】
そして、計算部214は、この場合の故障後の測定値D2に対応する計算値Cを、仮定した複数の故障点Pごとに、複数のインピーダンスZfk(1≦k≦M)に対応させて計算する。つまり、計算部214は、複数の計算値Cを得る。
【0081】
なお、「故障後の測定値D2に対応する計算値C」とは、センサ付開閉器SWの設置点における配電線11の電圧及び配電線11に流れる電流の計算値であって、故障を模擬する計算によって得られた計算値である。
【0082】
[標定部215]
標定部215は、取得部211が取得した故障後の測定値D2と、計算部214が計算した複数の計算値Cとの夫々の類似度に基づいて、故障点Pを標定しつつ、故障点PのインピーダンスZfを推定する。
【0083】
計算部214が仮定した複数の故障条件のうち、対応する計算値Cが故障後の測定値D2に類似する故障条件ほど、故障後の電力系統1の状態に近いと考えられる。このことを用いて、標定部215は、故障点Pを標定しつつ、故障点PのインピーダンスZfを推定する。
【0084】
[出力部216]
出力部216は、標定部215によって標定された故障点P及び推定された故障点PのインピーダンスZfを、出力装置205に出力する。
【0085】
<情報処理装置2が実行する処理>
情報処理装置2が実行する処理について、フローチャートを用いて説明する。
図9は、情報処理装置2が実行する処理を説明するフローチャートである。この処理は、ステップS100~ステップS106を含んでいる。なお、以下では、電力系統1に一線地絡が発生した場合を例示して説明する。
【0086】
先ず、ステップS101において、取得部210は、センサ付開閉器SWのセンサから故障前の測定値D1を取得する。前述のように、取得部210は、故障前の測定値D1として、センサ付開閉器の設置点における電圧及び電流を取得する。
【0087】
次いで、ステップS102において、取得部211は、センサ付開閉器SWのセンサから故障後の測定値D2を取得する。前述のように、取得部211は、故障後の測定値D2として、センサ付開閉器の設置点における電圧及び電流を取得する。
【0088】
ここで取得された三相の各相の電圧を、Va(F)、Vb(F)及びVc(F)とし、各相の電流をIa(F)、Ib(F)及びIc(F)とする。「F」は、故障後であることを示している。
【0089】
次いで、ステップS103において、判定部212は、ステップS102において取得部211が取得した故障後の測定値D2に基づいて、電力系統1に発生した故障の種別CFを判定する。
【0090】
判定部212が故障の種別CFを判定する処理について、フローチャートを用いて説明する。
図10は、判定部212が故障の種別CFを判定する処理を説明するフローチャートである。この処理は、ステップS201~ステップS203を含んでいる。
【0091】
先ず、ステップS201において、判定部212は、ステップS102(
図9)において取得された故障後の測定値D2に基づく零相電流I
0が所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0092】
なお、零相電流I0は、前述のステップS102で取得されたIa(F)、Ib(F)及びIc(F)を、対称座標系を用いた表現に変換した場合の零相の成分である。
【0093】
ステップS201において、零相電流I0が所定の閾値以上である場合(S201:Y)、ステップS202へ進む。
【0094】
ステップS202において、故障後の測定値D2に基づく逆相電流I2が所定の閾値以上である場合(S202:Y)、判定部212は、故障の種別CFを二線地絡であると判定する。
【0095】
なお、逆相電流I2は、前述のステップS102で取得されたIa(F)、Ib(F)及びIc(F)を、対称座標系を用いた表現に変換した場合の逆相の成分である。
【0096】
ステップS202において、逆相電流I2が所定の閾値より小さい場合(S202:N)、判定部212は、故障の種別CFを一線地絡であると判定する。
【0097】
ステップS201の説明に戻り、このステップにおいて、零相電流I0が所定の閾値より小さい場合(S201:N)、ステップS203へ進む。
【0098】
ステップS203において、逆相電流I2が所定の閾値以上である場合(S203:Y)、判定部212は、故障の種別CFを二相短絡であると判定する。
【0099】
ステップS202において、逆相電流I2が所定の閾値より小さい場合(S203:N)、判定部212は、故障の種別CFを三相短絡又は三線地絡であると判定する。
【0100】
以上のステップにより、判定部212が故障の種別CFを判定する。前述のように、本実施形態においては、発生した故障の種別CFは一線地絡であるとして説明する。
【0101】
次いで、ステップS104(
図9)において、状態推定部213は、設備情報I1と、ステップS101において取得部210が取得した故障前の測定値D1とに基づいて、電力系統1の故障前の状態S1を推定する。
【0102】
具体的には、状態推定部213は、故障前の複数のノードNi(1≦i≦N)のそれぞれにおける電圧及び電流の値を推定する。
【0103】
次いで、ステップS105において、計算部214は、ステップS102において取得部211が取得した故障後の測定値D2に対応する計算値Cを計算する。このとき、計算部214は、電力系統1に所定の複数の故障条件のうちの一を課して計算する。
【0104】
前述のように、故障条件とは、故障点Pに対応するノードと、故障点PのインピーダンスZfである。具体的には、「故障点Pに対応するノード」は、電力系統1のノードNi(1≦i≦N)のいずれかである。また、「故障点PのインピーダンスZf」とは、予め設定された複数のインピーダンスの候補値Zfk(1≦k≦M)のいずれかである。
【0105】
ステップS105において、計算部214は、故障後の状態として、ノードNiを故障点Pと仮定しつつ、候補値ZfkをノードNiのインピーダンスと仮定する。
【0106】
以下、ステップS105において計算部214が実行する計算の詳細について説明する。ステップS105における計算部214による計算は、具体的には、故障点Pの電圧及び電流を計算するステップと、センサ付開閉器SWの設置点の故障後の電圧及び電流を計算するステップとを含む。以下、詳細に説明する。
【0107】
[故障点Pの電圧及び電流を計算するステップ]
先ず、故障点Pと仮定したノードN
iの電流及び電圧を定式化する。前述のように、この例では、発生した故障の種別CFは一線地絡である。この場合、
図3に示した一線地絡が発生した電力系統1の等価回路を用いる。
【0108】
故障点Pと仮定したノードN
iの電流は、
図3に示した故障後の等価回路から、次式を用いて計算される。
【0109】
【0110】
【0111】
前述のように、計算部214は対称座標系を用いて計算を行う。そのため、電流I、電圧V及びインピーダンス行列Zの成分には、対称座標系を用いた表現であることを示すための上付き文字が付されている。上付き文字「0」は零相、上付き文字「1」は正相、上付き文字「2」は逆相を意味する。以下の説明においても同様とする。
【0112】
数5の左辺及び数6において、「F」とは故障後であることを示している。また、数5の右辺の分母のZfkは、故障点Pのインピーダンスの複数の候補値の一である。
【0113】
故障点Pと仮定したノードN
iの電圧は、
図3に示した故障後の等価回路から、次式で表現することができる。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
数8の右辺のVi
1は、ノードNiの故障前の正相の電圧であり、ステップS104において状態推定部213によって推定された値を代入することができる。数7~数9のそれぞれの右辺の電流には、数5及び数6の電流を代入することができる。計算部214は、数5~数9を用いて、故障点Pと仮定したノードNiの電圧を計算する。
【0118】
[センサ付開閉器SWの設置点の故障後の電圧及び電流を計算するステップ]
次いで、センサ付開閉器SWの設置点の故障後の電圧及び電流を定式化する。前述のように、センサ付開閉器SWの設置点は、複数のノードのうちのいずれかに対応する位置であり、そのノードをノードNkとする。
【0119】
センサ付開閉器SWの設置点に対応するノードNkの電圧は、数7~数9とオームの法則を用いて、次式を用いて計算される。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
更に、センサ付開閉器SWの設置点に対応するノードNkの電流は、数10~数12とオームの法則を用いて、次式を用いて計算される。
【0124】
【0125】
【0126】
【数15】
ここで、数13~数15のそれぞれは、ノードN
kと、ノードN
kに隣接するノードN
jとの間の電流である。数13~数15のそれぞれの2つ目の等号の右辺の分母は、ノードN
kと、ノードN
jとの間のインピーダンスである。
【0127】
計算部214は、数10~数15を用いて、センサ付開閉器SWの設置点の故障後の電圧及び電流(計算値C)を計算することができる。
【0128】
計算部214は、更に、故障後の測定値D2に対応する計算値Cを、全ての故障条件について上述の手順で計算する。
【0129】
つまり、計算部214は、この場合の故障後の測定値D2に対応する計算値Cを、ノードNi(1≦i≦N)ごとに、複数のインピーダンスZfk(1≦k≦M)に対応させて計算する。従って、計算部214は、N×M個の計算値Cを得る。
【0130】
本実施形態においては、Mを3として、3個のインピーダンスの値(Zf1、Zf2及びZf3)が予め設定されているとする。
【0131】
なお、予め設定する候補値Zfkおよびその数Mには特に制限は無い。候補値Zfkは、故障点Pの実際のインピーダンスの値を含むと想定される範囲から抽出されたM個の値とすればよい。
【0132】
例えば、故障点Pの実際のインピーダンスの値を含むと想定される範囲をM-1等分するM個の値とすればよい。
【0133】
次いで、ステップS106において、標定部215は、ステップS102において取得部211が取得した故障後の測定値D2と、ステップS105において計算部214が計算したN×M個(本実施形態ではN×3個)の計算値Cとの夫々の類似度に基づいて、故障点Pを標定しつつ、故障点PのインピーダンスZfを推定する。
【0134】
具体的には、標定部215は、類似度を示す評価関数を用いて、故障点Pを標定する。評価関数は、零相、正相及び逆相で表現される対称座標系における各相の電圧及び電流についての測定値及び計算値Cの差に応じて変化する関数が用いられる。
【0135】
本実施形態においては、標定部215は、次式に示す評価関数Fを用いる。
【0136】
【0137】
【数17】
数16のpは、数17に示した変数であり、故障点Pと仮定したノードN
iと、故障点Pのインピーダンスの候補値Z
fkの一をまとめて示したものである。
【0138】
数16の評価関数は、対称座標系における各相の電圧についての故障後の測定値D2及び計算値Cの差の絶対値と、各相の電流についての故障後の測定値D2及び計算値Cの差との夫々に所定の重みw1~w6を乗じた加重和である。
【0139】
標定部215は、故障の種別CFに応じて設定された所定の重みw1~w6を用いる。例えば、故障の種別CFが地絡のいずれかである場合には、零相電圧に関する重みw1及び零相電流に関する重みw4を1とし、他の重みを0としてもよい。あるいは、故障の種別CFが地絡でない場合には、零相電圧に関する重みw1及び零相電流に関する重みw4を0とし、他の重みを1としてもよい。
【0140】
図11は、評価関数をグラフ化したものの一例である。この図において、横軸は故障点Pと仮定したノード、縦軸は評価関数の値である。なお、横軸において白丸で示したノードN
10及びノードN
20は実際のノードであり、縦の線分で示した他のノードは仮想的なノードである。
【0141】
この図において、故障点Pのインピーダンスの候補値がZf1のものを丸、Zf2のものを三角、Zf3のものを四角で示している。
【0142】
図11の結果は、評価関数の値を最小化する条件は、故障点PがノードN
12であり、故障点PのインピーダンスがZ
f1の条件である。
【0143】
この場合、標定部215は、故障点Pの位置を、ノードN12に対応する位置の近傍であると標定する。更に、標定部215は、Zf1~Zf3のうち、Zf1が故障点PのインピーダンスZfに最も近い値であると推定する。
【0144】
ここで、ノードN12は、仮想的なノードである。つまり、仮想的なノードを導入した上で上記の処理をすることにより、一定の精度で故障点Pの位置を標定することができる。
【0145】
なお、評価関数は数16の例に限られるものではない。他の例としては、数16の故障後の測定値D2及び計算値Cの差の絶対値に代えて、故障後の測定値D2及び計算値Cの差の絶対値が大きいほど大きくなる他の関数としてもよい。
【0146】
以上説明した手順によれば、多様な構成の電力系統1に対して故障点Pを容易に標定することが可能となる。
【0147】
==変形例==
上記実施形態において、標定部215は、数式16に示した評価関数を用いたが、この例に限られるものではない。以下では、数式16に代えて用いることができる幾つかの評価関数について説明する。
【0148】
[評価関数の他の例1]
評価関数の他の例として、標定部215は、次式に示す評価関数Fを用いてもよい。
【0149】
【0150】
数式17の評価関数は、第1~6項を含む。第1~6項の夫々は、所定の関数に所定の重みw1~w6を乗じた値である。
【0151】
数式17の第1~3項において、「所定の関数」は、対称座標系における各相の電圧についての測定値D2及び計算値Cのそれぞれの絶対値の差の絶対値である。また、第4~6項において、「所定の関数」は、対称座標系における各相の電流についての測定値D2及び計算値Cのそれぞれの絶対値の差の絶対値である。
【0152】
数式17の評価関数のように、「所定の関数」として、対称座標系における各相の電圧又は電流についての故障後の測定値D2及び計算値Cのそれぞれの絶対値の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数としてもよい。
【0153】
このような評価関数を用いても、多様な構成の電力系統1に対して故障点Pを容易に標定することが可能となる。
【0154】
[評価関数の他の例2]
評価関数を計算する際の具体例を挙げつつ、評価関数の他の例を説明する。
図12は、評価関算を計算する際の具体例を説明する図である。
【0155】
図12の例では、(a)に示すように、実際に設けられたノードN
10及びN
20の間に仮想ノードN
11~N
19が設けられている。この例では、仮想ノードN
17の近傍で故障が発生した状況を示している。
【0156】
この状況において評価関数を計算するにあたり、ノードN13における電圧及び電流が計算される。(b)には、ノードN17における正相電流の測定値の絶対値と、ノードN13における正相電流の計算値の絶対値とが示されている。更に、測定値及び測定値のそれぞれ実部及び虚部の値も示されている。
【0157】
図12(b)の例では、ノードN
17における正相電流の測定値の絶対値は1287[A]であり、ノードN
13における正相電流の計算値の絶対値は1285[A]である。これらの絶対値の差(2[A])は、それぞれの絶対値に比べれば十分に小さい。
【0158】
一方、ノードN17における正相電流の測定値の位相と、ノードN13における正相電流の計算値の位相との差は、π/6程度である。この位相の差(偏角)は、十分に小さいとみなすことはできない。
【0159】
そのため、評価関数において正相電流の絶対値のみが考慮される場合、仮想ノードN13が故障点と標定される可能性がある。
【0160】
従って、電圧又は電流の絶対値のみではなく、対称座標系における位相(あるいは、電圧又は電流の実部及び虚部)を考慮することにより、標定の精度が向上することが期待される。
【0161】
そこで、評価関数の更に他の例として、標定部215は、次式に示す評価関数Fを用いてもよい。
【0162】
【0163】
数式18の評価関数は、第1~6項を含む。第1~6項の夫々は、所定の関数に所定の重みw1~w6を乗じた値である。
【0164】
数式18の第1~3項において、「所定の関数」は、対称座標系における各相の電圧についての測定値D2及び計算値Cのそれぞれの実部の差の絶対値の二乗と、それぞれの虚部の差の絶対値の二乗との和の平方根である。
【0165】
また、数式18の第4~6項において、「所定の関数」は、対称座標系における各相の電流についての測定値D2及び計算値Cのそれぞれの実部の差の絶対値の二乗と、それぞれの虚部の差の絶対値の二乗との和の平方根である。
【0166】
このように、電圧又は電流の絶対値のみではなく、電圧又は電流の実部及び虚部を考慮することにより、標定の精度が向上することが期待される。
【0167】
なお、数式18における「所定の関数」は一例である。「所定の関数」として、対称座標系における各相の電圧又は電流についての測定値D2及び計算値Cのそれぞれの実部又は虚部の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数を含んでもよい。
【0168】
[評価関数の他の例3]
評価関数の更に他の例として、標定部215は、次式に示す評価関数Fを用いてもよい。
【0169】
【0170】
数19の評価関数は、第1~12項を含む。第1~6項は、数式17と同じである。第7~第9項は、各相の電圧について測定値D2及び計算値Cの偏角の絶対値に所定の重みw7~w9を乗じた値である。第10~第12項は、各相の電流について測定値D2及び計算値Cの偏角の絶対値に所定の重みw10~w12を乗じた値である。
【0171】
このように、電圧又は電流の絶対値のみではなく、対称座標系における位相を考慮することにより、標定の精度が向上することが期待される。
【0172】
なお、数式19は一例であり、数式19のように、対称座標系における各相の電圧又は電流についての測定値D2及び計算値Cの位相差の絶対値が大きいほど大きくなる関数を含んでもよい。
【0173】
==変形例2==
上記実施形態では、判定部212が故障の種別CFを判定する処理について、
図10を用いて説明した。しかし、故障の種別CFを判定する処理はこれに限られない。
【0174】
上記実施形態では、ステップS201(
図10)において故障後の測定値D2に基づく零相電流I
0を用いて判定を行ったが、これに代えて、零相電圧V
0が所定の閾値以上であるか否かを判定することとしてもよい。
【0175】
つまり、ステップS201において、零相電圧V0が所定の閾値以上である場合(S201:Y)はステップS202へ進み、零相電圧V0が所定の閾値より小さい場合(S201:N)はステップS203へ進むこととしてもよい。
【0176】
==まとめ==
以上、実施形態の情報処理装置2は、電力系統1に故障が発生した場合に故障点Pを標定する情報処理装置2であって、電力系統1に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得する取得部210と、センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する取得部211と、電力系統1に実際に設けられた第1ノード及び電力系統1の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む電力系統の設備情報I1と、第1測定値とに基づいて、電力系統1の故障前の状態を推定する状態推定部213と、電力系統1の故障前の状態と、故障の種別CFと、設備情報I1とに基づいて、複数のノードのいずれか一を故障点Pと仮定した場合の第2測定値に対応する計算値Cを、仮定した複数の故障点Pごとに計算する計算部214と、第2測定値と、仮定した複数の故障点Pごとに計算された計算値Cとの夫々の類似度に基づいて、故障点Pを標定する標定部215と、を含む。
【0177】
このような構成によれば、センサによる故障前と故障後の測定値D2と、設備情報I1とから故障点Pを標定することができる。従って、多様な構成の電力系統1に対して故障点Pを容易に標定することが可能となる。
【0178】
請求項2
また、情報処理装置2において、計算部214は、複数のノードのいずれか一を故障点Pと仮定しつつ、複数のインピーダンスのいずれか一を故障点Pのインピーダンスと仮定した場合の計算値Cを、仮定した複数の故障点Pごとに、複数のインピーダンスに対応させて計算し、標定部215は、第2測定値と、複数の計算値Cとの夫々の類似度に基づいて、故障点Pを標定しつつ、故障点Pのインピーダンスを推定する。このような構成によれば、センサによる故障前と故障後の測定値D2と、設備情報I1とから、故障点Pのインピーダンスを推定することができる。従って、多様な構成の電力系統1に対して故障点Pインピーダンスを容易に推定することが可能となる。
【0179】
また、情報処理装置2において、状態推定部213は、対称座標系を用いて故障前の状態を推定し、計算部214は、対称座標系を用いて計算値Cを計算する、このような構成によれば、三相交流方式を扱いやすくなり、標定のための計算が容易になる。
【0180】
また、情報処理装置2は、第2測定値に基づいて、故障の種別CFを判定する判定部212を更に含む。このような構成によれば、容易に故障の種別CFを判定することができる。これによって、更に容易に故障点Pを標定することが可能となる。
【0181】
情報処理装置2において、標定部215は、零相、正相及び逆相で表現される対称座標系における各相の電圧及び電流についての第2測定値及び計算値Cの差に応じて変化し、類似度を示す評価関数を用いて、故障点Pを標定する。このような構成によれば、類似度を定量的に表現することができる。これによって、更に容易に故障点Pを標定することが可能となる。
【0182】
情報処理装置2において、評価関数は、対称座標系における各相の電圧についての第2測定値及び計算値Cの差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての第2測定値及び計算値Cの差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である。このような構成によれば、評価関数を極小にする故障条件を、最も確からしい故障の状態と推定することができる。
【0183】
情報処理装置2において、評価関数は、対称座標系における各相の電圧についての第2測定値及び計算値Cのそれぞれの絶対値の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての第2測定値及び計算値Cのそれぞれの絶対値の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である。このような構成によれば、評価関数を極小にする故障条件を、最も確からしい故障の状態と推定することができる。
【0184】
情報処理装置2において、評価関数は、対称座標系における各相の電圧についての第2測定値及び計算値のそれぞれの実部又は虚部の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての第2測定値及び計算値のそれぞれの実部又は虚部の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である。このような構成によれば、電圧又は電流の絶対値のみではなく、電圧又は電流の実部及び虚部を考慮することにより、標定の精度が向上する。
【0185】
情報処理装置2において、評価関数は、対称座標系における各相の電圧についての第2測定値及び計算値のそれぞれの絶対値又は偏角の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数と、対称座標系における各相の電流についての第2測定値及び計算値のそれぞれの絶対値又は位相の差の絶対値が大きいほど大きくなる関数との夫々に所定の重みを乗じた加重和である。このような構成によれば、電圧又は電流の絶対値のみではなく、対称座標系における位相を考慮することにより、標定の精度が向上する
【0186】
情報処理装置2において、標定部215は、故障の種別CFに応じて設定された所定の重みを用いる。このような構成によれば、故障の種別CFに応じて、標定への寄与に応じた電圧又は電流の成分の重みを用いることができ、標定の精度が向上する。
【0187】
実施形態の情報処理方法は、電力系統1に故障が発生した場合に故障点Pを標定する情報処理方法であって、電力系統1に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得するステップと、センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得するステップと、電力系統1に実際に設けられた第1ノード及び電力系統1の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む電力系統1の設備情報I1と、第1測定値とに基づいて、電力系統1の故障前の状態を推定するステップと、電力系統1の故障前の状態と、故障の種別CFと、設備情報I1とに基づいて、複数のノードのいずれか一を故障点Pと仮定した場合の第2測定値に対応する計算値Cを、仮定した複数の故障点Pごとに計算するステップと、第2測定値と、仮定した複数の故障点Pごとに計算された計算値Cとの夫々の類似度に基づいて、故障点Pを標定するステップと、を含む。
【0188】
このような方法によれば、センサによる故障前と故障後の測定値D2と、設備情報I1とから故障点Pを標定することができる。従って、多様な構成の電力系統1に対して故障点Pを容易に標定することが可能となる。
【0189】
実施形態の情報処理プログラムは、電力系統1に故障が発生した場合に故障点Pを標定する情報処理プログラムであって、コンピュータに、電力系統1に設置されたセンサから故障前の電圧及び電流を含む第1測定値を取得する取得部210と、センサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する取得部211と、電力系統1に実際に設けられた第1ノード及び電力系統1の所定の位置に仮想的に設けられた第2ノードを含む複数のノードに関する情報を含む電力系統1の設備情報I1と、第1測定値とに基づいて、電力系統1の故障前の状態を推定する状態推定部213と、電力系統1の故障前の状態と、故障の種別CFと、設備情報I1とに基づいて、複数のノードのいずれか一を故障点Pと仮定した場合の第2測定値に対応する計算値Cを、仮定した複数の故障点Pごとに計算する計算部214と、第2測定値と、仮定した複数の故障点Pごとに計算された計算値Cとの夫々の類似度に基づいて、故障点Pを標定する標定部215と、を実現させる。
【0190】
このようなプログラムによれば、センサによる故障前と故障後の測定値D2と、設備情報I1とから故障点Pを標定することができる。従って、多様な構成の電力系統1に対して故障点Pを容易に標定することが可能となる。
【符号の説明】
【0191】
電力系統 1
配電変電所 10
配電線 11
情報処理装置 2
CPU 200
メモリ 201
通信装置 202
記憶装置 203
入力装置 204
出力装置 205
記録媒体読取装置 206
第1取得部 210
第2取得部 211
判定部 212
状態推定部 213
計算部 214
標定部 215
出力部 216
センサ付開閉器 SW
測定値DB 3
設備情報DB 4