(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061631
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】良好な透明性および良好な放射線不透過性を有する貯蔵安定な自己接着性コンポジットセメント
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20240425BHJP
A61K 6/836 20200101ALI20240425BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20240425BHJP
A61K 6/802 20200101ALI20240425BHJP
A61K 6/77 20200101ALI20240425BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/836
A61K6/62
A61K6/802
A61K6/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023152193
(22)【出願日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】22202860
(32)【優先日】2022-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドロス ジアナスミディス
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン カテル
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト モスツナー
(72)【発明者】
【氏名】ジルケ ジークリスト
(72)【発明者】
【氏名】ブディマン アリ
(72)【発明者】
【氏名】カールステン ベッカー-ヴィリンガー
(72)【発明者】
【氏名】マレク トヴァルドフ
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA09
4C089AA10
4C089BA01
4C089BA02
4C089BA03
4C089BA04
4C089BA05
4C089BA13
4C089BA14
4C089BA19
4C089BC06
4C089BD02
4C089BD04
4C089BD06
4C089BD07
4C089BD10
4C089BD11
4C089BE02
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】良好な透明性および良好な放射線不透過性を有する貯蔵安定な自己接着性コンポジットセメントを提供すること。
【解決手段】酸基を有さない少なくとも1種の多官能性ラジカル重合性モノマー、少なくとも1種の酸基含有ラジカル重合性モノマーおよび/または少なくとも1種の酸性オリゴマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤、ならびに少なくとも1種のラジカル重合開始剤を含むラジカル重合性組成物であって、フルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤がシリカ(ヘテロ)重縮合物でコーティングされている、ラジカル重合性組成物。組成物は高い安定性を特徴とし、歯科用材料として特に好適である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を有さない少なくとも1種の多官能性ラジカル重合性モノマー、少なくとも1種の酸基含有ラジカル重合性モノマーおよび/または酸オリゴマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤、ならびに少なくとも1種のラジカル重合開始剤を含むラジカル重合性組成物であって、前記フルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤がケイ酸(ヘテロ)重縮合物でコーティングされていることを特徴とする、ラジカル重合性組成物。
【請求項2】
前記フルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤が、一般式I
SiXaR4-a 式I
(式中、可変部は以下の意味を有する:
R=C1~C20アルキルまたはC2~C10アルケニルであり、ここでアルキルおよびアルケニル残基は、1つまたは複数のOまたはS原子、エステル、アミド、アミノまたはウレタン基、C6~C14アリールまたはC6~C15アリールアルキルを含んでもよく、
X=ハロゲン、ヒドロキシ、C1~C10アルコキシ、C1~C6アシルオキシであり、
a=2、3または4、好ましくは3または4である)
の1種または複数種のシラン、ならびに
必要に応じて、1種または複数種の、ホウ素、アルミニウム、チタンおよび/もしくはリンのさらなる加水分解縮合性化合物ならびに/または該化合物に由来する予備縮合物
の加水分解縮合によって形成されたコーティングを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式Iのシランの量が、加水分解縮合性化合物の総量を基準として10~100重量%である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記コーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤が、コーティングされる前記充填剤を、式Iの1種もしくは複数種のシランおよび必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物、または好ましくは、好適な溶媒中の式Iの前記シラン(複数種可)および必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物の溶液に分散させ、その後、水を添加し、得られた混合物を撹拌し、その後、前記充填剤を分離し乾燥させることによって得ることができる、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
組成(wt%):SiO2:20~80;B2O3:5~15;BaOもしくはSrO:0~30;Al2O3:5~20;CaOおよび/もしくはMgO:0~20;Na2O、K2O、Cs2O:各0~10;WO3:0~20;La2O3:0~10;ZrO2:0~15;P2O5:0~10;Ta2O5、Nb2O5もしくはYb2O3:0~5およびCaF2もしくはSrF2:0~10、または好ましくは、SiO2:50~75;B2O3:5~15;BaOもしくはSrO:2~30;Al2O3:5~15;CaOおよび/もしくはMgO:0~10ならびにNa2O:0~10を有する放射線不透過性ガラス充填剤
ならびに/あるいは
組成(wt%):SiO2:20~35;Al2O3:15~35;BaOもしくはSrO:0~25;CaO:0~20;ZnO:0~15;P2O5:5~20;フッ化物:3~18、または好ましくは、SiO2:20~30;Al2O3:20~30;BaOもしくはSrO:5~15;CaO:5~18;P2O5:5~15;Na2O:2~10;およびCaF2:5~20を有するフルオロアルミノシリケートガラス充填剤
を含み、ここで、すべてのデータがガラスの総質量を指し、フッ素以外のすべての成分が酸化物として計算される、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記多官能性ラジカル重合性モノマーが、ビスフェノール-A-ジメタクリレート、Bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシル化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、例えば3つのエトキシ基を有するビスフェノールAジメタクリレートまたは2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートの付加生成物)、テトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはテトラメチルキシリレンジウレタン-2-メチルエチレングリコールジウレタンジ(メタ)アクリレート(V380)、ジ、トリまたはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ならびにグリセロールジおよびトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールジメタクリレート、例えばポリエチレングリコール200ジメタクリレート(PEG-200-DMA)またはポリエチレングリコール400ジメタクリレート(PEG-400-DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸およびジイソシアネート、例えば2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートのウレタン、ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン、ビスアクリルアミド、例えばメチレンまたはエチレンビスアクリルアミド、ビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)ブタンまたは1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン、ならびにそれらの混合物から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
酸基含有モノマーとして、リン酸エステル基またはホスホン酸基を含有するモノマー、好ましくはリン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)、リン酸二水素グリセロールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸、および/または2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸-2,4,6-トリメチルフェニルエステル、および/または4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、および/または4-ビニル安息香酸から選択される少なくとも1種のモノマーを含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
酸性オリゴマーとして、7200g/mol未満、好ましくは7000g/mol未満、より好ましくは6800g/mol未満の数平均分子量を有するポリアクリル酸を含む、請求項4~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ベンジル、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)および2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート(MA-836)、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルプロピル(メタ)アクリレート)、2-アセトキシエチルメタクリレート、ならびにこれらの混合物から選択される酸基を有さない少なくとも1種の単官能性ラジカル重合性モノマーをさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
各場合において前記組成物の総質量を基準として、
(a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のコーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)1~15重量%、好ましくは2~12重量%、より好ましくは3~10重量%の少なくとも1種の酸基を含有するモノマー、
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)0~10重量%、好ましくは0~8重量%、より好ましくは1~5重量%の1種または複数種のオリゴマーカルボン酸、
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.1~8重量%、好ましくは0.5~6重量%、より好ましくは1~5重量%の少なくとも1種のラジカル重合開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.1~2重量%の添加剤
を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
触媒ペーストおよびベースペーストを含み、前記触媒ペーストが、
各場合において前記触媒ペーストの総質量を基準として、
a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のコーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/またはガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)2~30重量%、好ましくは4~24重量%、より好ましくは6~20重量%の少なくとも1種の酸基を含有するモノマー、
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)0~20重量%、好ましくは0~16重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種のオリゴマーカルボン酸、
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.01~16重量%、好ましくは0.02~12重量%、より好ましくは0.03~10重量%の少なくとも1種の過酸化物および/またはヒドロペルオキシド、ならびに必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、より好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数種の添加剤
を含み、
前記ベースペーストが、
各場合において前記ベースペーストの総質量を基準として、
a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のFASおよび/またはガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)該当なし
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)該当なし
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.01~16重量%、好ましくは0.02~12重量%、より好ましくは0.1~10重量%の少なくとも1種の好適な還元剤、および必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、より好ましくは0.005~2重量%の1種または複数種の添加剤を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
歯科用材料として、好ましくは、歯科用のセメント、コーティングもしくは前装材料、充填用コンポジットまたは合着セメントとして治療的に使用するための、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
歯科修復物、特に、インレー、オンレー、クラウンまたはブリッジの調製または補修のための、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物の非治療的使用。
【請求項14】
コーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤またはガラス充填剤の調製のための方法であって、前記方法が、
(i)コーティングされる充填剤を、式Iの1種もしくは複数種のシランおよび必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物、または好ましくは、好適な溶媒中の前記式Iの1種もしくは複数種のシランおよび必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物の溶液に分散させること、
(ii)その後、水を添加すること、
(iii)得られた混合物を撹拌すること、
(iv)その後、前記充填剤を分離し、乾燥させること
を含む、方法。
【請求項15】
歯科用ラジカル重合性組成物を安定させるための、請求項14に従って調製可能なフルオロアルミノシリケートガラス充填剤またはガラス充填剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、高い貯蔵安定性によって特徴付けられ、歯科用材料、とりわけ、歯科用のセメント、充填用コンポジットまたは前装材料として、およびインレー、オンレーまたはクラウンの作製に特に好適である、良好な透明性および放射線不透過性を有するラジカル重合性自己接着性コンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
コンポジットは、直接および間接充填材の作製のために、すなわち直接および間接充填用コンポジットとして、ならびにセメントとして主に歯科分野で使用される。コンポジットの重合性有機マトリックスは、一般にモノマーと、開始剤成分と、安定剤との混合物からなる。ジメタクリレートの混合物が一般にモノマーとして使用され、モノマーは単官能性および官能化モノマーも含有してもよい。一般的に使用されるジメタクリレートは、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(Bis-GMA)、1,6-ビス[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(UDMA)であり、これらは高い粘度を有し、良好な機械的特性および低い重合収縮率を有するポリマーをもたらす。トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)またはビス(3-メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(DCP)は、主に反応性希釈剤として使用される。p-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)などの単官能性メタクリレートも粘度を低下させるのに好適であり、さらにネットワーク密度の低下および二重結合転化率の増加を引き起こす。
【0003】
自己接着性コンポジットを生成するために、歯組織をエッチングし、イオン相互作用によってエナメル質/象牙質への接着を引き起こすリン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)などの強酸性接着性モノマーが使用される。接着性モノマーは、コンポジットに自己接着性を付与し、したがってエナメル質/象牙質接着剤で歯組織を前処理することなくコンポジットを使用することを可能にするため、その使用は特に魅力的である。
【0004】
有機マトリックスに加えて、コンポジットは1種または複数種の充填剤を含有し、これらは通常、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどの重合性カップリング剤で表面修飾されている。充填剤は、材料の機械的特性(強度、弾性率、耐摩耗性)および加工特性(ペーストの稠度、彫刻性)を改善し、放射線不透過性を付与する。
【0005】
酸性接着性モノマーがしばしば充填剤と不利に相互作用することは問題である。例えば、酸性接着モノマーは、不溶性の塩を形成することによって充填剤の表面に結合するか、または貯蔵中に充填剤から放出されるイオンと難溶性の塩を形成する。これは、樹脂マトリックス中の接着モノマー濃度の顕著な低下をもたらし、この濃度低下は、接着特性の低下、またはさらには喪失を伴う。したがって、酸性接着性モノマーを用いたコンポジットは、限られた貯蔵安定性しか有さない。
【0006】
メタクリレート系歯科用材料は、応用分野に応じてラジカル光開始剤、熱開始剤またはレドックス開始剤系を使用してラジカル重合によって硬化される。二重硬化系は、光開始剤とレドックス開始剤との組合せを含有する。
【0007】
コンポジットセメントは通常、レドックス開始剤系を含有するが、これはレドックス開始剤系が、不十分な透過率のために光硬化ができない場合でさえも十分な硬化を確保するためである。ジベンゾイルペルオキシド(DBPO)と第三級芳香族アミン、例えばN,N-ジエタノール-p-トルイジン(DEPT)、N,N-ジメチル-sym.-キシリジン(DMSX)またはN,N-ジエチル-3,5-ジ-tert-ブチルアニリン(DABA)、との混合物をベースとするレドックス開始剤系が通常使用される。DBPO/アミン系レドックス開始剤系におけるラジカル形成は、強酸、およびしたがって強酸性接着性モノマーによっても大きく損なわれるため、アセチルチオ尿素などのチオ尿素と組み合わせたクメンヒドロペルオキシド含有レドックス開始剤系が好ましい。
【0008】
レドックス開始剤の十分な貯蔵安定性を確保するために、レドックス開始剤系材料は通常、いわゆる2成分系(2C)として使用され、それにより酸化剤(過酸化物またはヒドロペルオキシド)および還元剤(アミン、スルフィン酸、バルビツレート、チオ尿素など)は空間的に分離した成分に組み込まれる。これらは使用直前にのみ一緒に混合される。混合にはダブルプッシュシリンジがますます使用されており、このシリンジは成分を保持するための別々の円筒形チャンバを有する。成分は、相互連結された2つのピストンによってチャンバから同時に押し出され、ノズルで一緒に混合される。可能な限り均質な混合物を得るために、成分をほぼ等しい体積割合で一緒に混合するのが有利である。
【0009】
ZnOオイゲノールセメント、リン酸亜鉛セメント、グラスアイオノマーセメント(GIC)、およびレジン添加型グラスアイオノマーセメント(RMGI)などの従来の合着セメントは、それらが粉末成分を含有し、それにより成分の混合が顕著により困難になるため、ダブルプッシュシリンジでの使用には適さない。さらに、グラスアイオノマーセメントは、低い透明性および比較的劣った機械的特性しか有さない。
【0010】
従来のグラスアイオノマーセメント(GIC)は、液体成分として高分子量ポリアクリル酸(PAA、30,000g/molより大きい数平均モル質量)、または同等のモル質量のアクリル酸とイタコン酸とのコポリマーの水溶液、および粉末成分としてカルシウムフルオロアルミノガラスを含有する。成分の混合後、成分は、純粋にイオン性のアイオノマー形成によって硬化する。
【0011】
レジン添加型グラスアイオノマーセメント(RMGI)は、さらに2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)などの親水性モノマーを含有する。RMGIは、酸塩基反応とラジカル重合の両方によって硬化する。従来のGICと比較して、RMGIは改善された曲げ強度によって特徴付けられる。
【0012】
US2015/0013568A1は、歯科用バリウムおよびストロンチウムガラス充填剤を耐酸性酸化物、例えばSiO2粉末でコーティングし、充填剤の耐酸性を改善させることを開示している。このプロセスにより、緻密なガラス粒子が得られると言及されている。
【0013】
WO2013/156185A1は、アミノシランの加水分解および縮合、ならびにその後の反応生成物とアクリル酸無水物との反応によって得られた水溶性オリゴマーを開示している。アミノシランとアクリル酸無水物との直接反応は、望ましくないトランスエステル化生成物を生成すると言及されており、そのため生成物の複雑な精製が必要である。トランスエステル化生成物の形成は、アミノシランを事前に加水分解し、オリゴマーに縮合することによって回避されると言及されている。オリゴマーは、とりわけ、接着促進剤として、または例えば歯科用印象材および歯科用アクリルにおける充填剤のコーティングに好適であると言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0013568A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2013/156185A1号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
課題に対する解決策
本発明の目的は、2成分系としてダブルプッシュシリンジで良好に混合および適用することができる、良好な透明性、良好な機械的特性および高い放射線不透過性を有する自己接着性歯科用コンポジットを提供することである。コンポジットは、特に歯科用合着セメントとして好適であり、高い貯蔵安定性を示す。
【0016】
本目的は、少なくとも1種のフリーラジカル重合性モノマー、少なくとも1種の酸性フリーラジカル重合性モノマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填剤(FAS充填剤)および/または放射線不透過性ガラス充填剤、ならびに少なくとも1種のフリーラジカル重合開始剤を含む充填剤含有フリーラジカル重合性組成物によって達成される。組成物は、充填剤がシリカ(ヘテロ)重縮合物でコーティングされていることを特徴とする。シリカ(ヘテロ)重縮合物という用語は、シリカ重縮合物またはシリカヘテロ重縮合物を表す。驚くべきことに、充填剤をシリカ(ヘテロ)重縮合物でコーティングすると、他の特性を悪化させることなく、組成物の貯蔵安定性が顕著に増加することが見出された。充填剤を含有する組成物は、コンポジットと称される。
本出願は、例えば以下を提供する。
(項目1)
酸基を有さない少なくとも1種の多官能性ラジカル重合性モノマー、少なくとも1種の酸基含有ラジカル重合性モノマーおよび/または酸オリゴマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤、ならびに少なくとも1種のラジカル重合開始剤を含むラジカル重合性組成物であって、前記フルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤がケイ酸(ヘテロ)重縮合物でコーティングされていることを特徴とする、ラジカル重合性組成物。
(項目2)
前記フルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤が、一般式I
SiXaR4-a 式I
(式中、可変部は以下の意味を有する:
R=C1~C20アルキルまたはC2~C10アルケニルであり、ここでアルキルおよびアルケニル残基は、1つまたは複数のOまたはS原子、エステル、アミド、アミノまたはウレタン基、C6~C14アリールまたはC6~C15アリールアルキルを含んでもよく、
X=ハロゲン、ヒドロキシ、C1~C10アルコキシ、C1~C6アシルオキシであり、
a=2、3または4、好ましくは3または4である)
の1種または複数種のシラン、ならびに
必要に応じて、1種または複数種の、ホウ素、アルミニウム、チタンおよび/もしくはリンのさらなる加水分解縮合性化合物ならびに/または該化合物に由来する予備縮合物
の加水分解縮合によって形成されたコーティングを含む、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目3)
式Iのシランの量が、加水分解縮合性化合物の総量を基準として10~100重量%である、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目4)
前記コーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤が、コーティングされる前記充填剤を、式Iの1種もしくは複数種のシランおよび必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物、または好ましくは、好適な溶媒中の式Iの前記シラン(複数種可)および必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物の溶液に分散させ、その後、水を添加し、得られた混合物を撹拌し、その後、前記充填剤を分離し乾燥させることによって得ることができる、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)
組成(wt%):SiO2:20~80;B2O3:5~15;BaOもしくはSrO:0~30;Al2O3:5~20;CaOおよび/もしくはMgO:0~20;Na2O、K2O、Cs2O:各0~10;WO3:0~20;La2O3:0~10;ZrO2:0~15;P2O5:0~10;Ta2O5、Nb2O5もしくはYb2O3:0~5およびCaF2もしくはSrF2:0~10、または好ましくは、SiO2:50~75;B2O3:5~15;BaOもしくはSrO:2~30;Al2O3:5~15;CaOおよび/もしくはMgO:0~10ならびにNa2O:0~10を有する放射線不透過性ガラス充填剤
ならびに/あるいは
組成(wt%):SiO2:20~35;Al2O3:15~35;BaOもしくはSrO:0~25;CaO:0~20;ZnO:0~15;P2O5:5~20;フッ化物:3~18、または好ましくは、SiO2:20~30;Al2O3:20~30;BaOもしくはSrO:5~15;CaO:5~18;P2O5:5~15;Na2O:2~10;およびCaF2:5~20を有するフルオロアルミノシリケートガラス充填剤
を含み、ここで、すべてのデータがガラスの総質量を指し、フッ素以外のすべての成分が酸化物として計算される、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
前記多官能性ラジカル重合性モノマーが、ビスフェノール-A-ジメタクリレート、Bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシル化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、例えば3つのエトキシ基を有するビスフェノールAジメタクリレートまたは2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートの付加生成物)、テトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはテトラメチルキシリレンジウレタン-2-メチルエチレングリコールジウレタンジ(メタ)アクリレート(V380)、ジ、トリまたはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ならびにグリセロールジおよびトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールジメタクリレート、例えばポリエチレングリコール200ジメタクリレート(PEG-200-DMA)またはポリエチレングリコール400ジメタクリレート(PEG-400-DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸およびジイソシアネート、例えば2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートのウレタン、ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン、ビスアクリルアミド、例えばメチレンまたはエチレンビスアクリルアミド、ビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)ブタンまたは1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン、ならびにそれらの混合物から選択される、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
酸基含有モノマーとして、リン酸エステル基またはホスホン酸基を含有するモノマー、好ましくはリン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)、リン酸二水素グリセロールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸、および/または2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸-2,4,6-トリメチルフェニルエステル、および/または4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、および/または4-ビニル安息香酸から選択される少なくとも1種のモノマーを含む、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
酸性オリゴマーとして、7200g/mol未満、好ましくは7000g/mol未満、より好ましくは6800g/mol未満の数平均分子量を有するポリアクリル酸を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
ベンジル、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)および2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート(MA-836)、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルプロピル(メタ)アクリレート)、2-アセトキシエチルメタクリレート、ならびにこれらの混合物から選択される酸基を有さない少なくとも1種の単官能性ラジカル重合性モノマーをさらに含む、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)
各場合において前記組成物の総質量を基準として、
(a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のコーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)1~15重量%、好ましくは2~12重量%、より好ましくは3~10重量%の少なくとも1種の酸基を含有するモノマー、
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)0~10重量%、好ましくは0~8重量%、より好ましくは1~5重量%の1種または複数種のオリゴマーカルボン酸、
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.1~8重量%、好ましくは0.5~6重量%、より好ましくは1~5重量%の少なくとも1種のラジカル重合開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.1~2重量%の添加剤
を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
触媒ペーストおよびベースペーストを含み、前記触媒ペーストが、
各場合において前記触媒ペーストの総質量を基準として、
a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のコーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/またはガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)2~30重量%、好ましくは4~24重量%、より好ましくは6~20重量%の少なくとも1種の酸基を含有するモノマー、
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)0~20重量%、好ましくは0~16重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種のオリゴマーカルボン酸、
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.01~16重量%、好ましくは0.02~12重量%、より好ましくは0.03~10重量%の少なくとも1種の過酸化物および/またはヒドロペルオキシド、ならびに必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、より好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数種の添加剤
を含み、
前記ベースペーストが、
各場合において前記ベースペーストの総質量を基準として、
a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のFASおよび/またはガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)該当なし
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)該当なし
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.01~16重量%、好ましくは0.02~12重量%、より好ましくは0.1~10重量%の少なくとも1種の好適な還元剤、および必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、より好ましくは0.005~2重量%の1種または複数種の添加剤を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目12)
歯科用材料として、好ましくは、歯科用のセメント、コーティングもしくは前装材料、充填用コンポジットまたは合着セメントとして治療的に使用するための、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目13)
歯科修復物、特に、インレー、オンレー、クラウンまたはブリッジの調製または補修のための、先行する項目のいずれか一項に記載の組成物の非治療的使用。
(項目14)
コーティングされたフルオロアルミノシリケートガラス充填剤またはガラス充填剤の調製のための方法であって、前記方法が、
(i)コーティングされる充填剤を、式Iの1種もしくは複数種のシランおよび必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物、または好ましくは、好適な溶媒中の前記式Iの1種もしくは複数種のシランおよび必要に応じてさらなる加水分解縮合性化合物の溶液に分散させること、
(ii)その後、水を添加すること、
(iii)得られた混合物を撹拌すること、
(iv)その後、前記充填剤を分離し、乾燥させること
を含む、方法。
(項目15)
歯科用ラジカル重合性組成物を安定させるための、先行する項目のいずれか一項に従って調製可能なフルオロアルミノシリケートガラス充填剤またはガラス充填剤の使用。
【発明を実施するための形態】
【0017】
要旨
酸基を有さない少なくとも1種の多官能性ラジカル重合性モノマー、少なくとも1種の酸基含有ラジカル重合性モノマーおよび/または少なくとも1種の酸性オリゴマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤、ならびに少なくとも1種のラジカル重合開始剤を含むラジカル重合性組成物であって、フルオロアルミノシリケートガラス充填剤および/または放射線不透過性ガラス充填剤がシリカ(ヘテロ)重縮合物でコーティングされている、ラジカル重合性組成物。組成物は高い安定性を特徴とし、歯科用材料として特に好適である。
【0018】
充填剤は、好ましくはゾル-ゲルプロセスによってコーティングされる。この目的のために、ゾルを、ケイ素と、必要に応じてホウ素、アルミニウム、チタンもしくはリンの群からの他の元素との、1種もしくは複数種の縮合性化合物、および/またはこれらの化合物に由来する予備縮合物の加水分解縮合によって調製し、充填剤と接触させ、充填剤をその後、乾燥させる。
【0019】
ケイ素の好ましい加水分解縮合性化合物は、一般式I:
SiXaR4-a 式I
(式中、可変部は以下の意味を有する:
R=C1~C20アルキルまたはC2~C10アルケニルであり、ここでアルキルおよびアルケニルラジカルは、1つまたは複数のOまたはS原子、エステル、アミド、アミノまたはウレタン基、C6~C14アリールまたはC7~C15アリールアルキルを含んでもよく、
X=ハロゲン、ヒドロキシ、C1~C10アルコキシ、C1~C6アシルオキシであり、
a=2、3または4、好ましくは3または4である)
のシランである。
【0020】
複数のRまたはX残基が存在する場合、それらは異なってもよく、好ましくは同じであってもよい。
【0021】
アリールアルキル基は、少なくとも1つの芳香族残基および少なくとも1つの非芳香族残基を含有する炭化水素基、例えば-CH2-CH2-Phまたは-Ph-CH3基であり、Ph=フェニルである。
【0022】
特に好ましいのは、少なくとも1つ、好ましくはすべての可変部が以下の意味の1つを有する式Iのシランである:
R=C1~C10アルキルまたはC2~C8アルケニルであり、ここでアルキルおよびアルケニルラジカルは、1つまたは複数のO原子またはエステル基、フェニルまたはC7~C15アリールアルキルを含んでもよく、
X=ヒドロキシ、C1~C5アルコキシ-、C1~C3アシルオキシであり、
a=3または4である。
【0023】
式Iのシランは、ラジカルXを介して加水分解縮合し、Si-O-Si単位を有する無機ネットワークを形成することができる。ラジカルRがラジカル重合性基を含有する場合、それらを介して有機ネットワークを形成することもできる。
【0024】
より好ましいのは、可変部が以下の意味を有する式Iのシランである:
R メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、n-ペンチル、ビニル、(メタ)アクリル基(H2C=C(CH3)-COO-)、アリル、フェニルまたはナフチルであり、特に好ましいのはエチル、n-プロピル、i-プロピルであり、最も好ましいのはメチルまたは3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルであり、
X メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、F、Cl、Br、特に好ましくはCl、最も好ましくはエトキシであり、
a 3または4である。
【0025】
本発明によれば、式SiX4(a=4)のシランが特に好ましく、Si(OCH3)4およびSi(OC2H5)4がより一層好ましい。式SiX4のシランは、特に高いネットワーク密度をもたらす。これらは、式Iのシランの総量を基準として、好ましくは40~100重量%、より好ましくは50~100重量%、最も好ましくは60~95重量%の量で使用される。
【0026】
さらに好ましいのは、少なくとも1つのフリーラジカル重合性基を含有する式Iのシランであり、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。ラジカル重合性基は、本発明による材料の硬化中に、コーティングされた充填剤とラジカル重合性マトリックスの間の共有結合を可能にする。ラジカル重合性基を含有するシランは、式Iのシランの総量を基準として、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0~8重量%、最も好ましくは1~5重量%の量で使用される。
【0027】
式Iのシラン(複数可)に加えて、元素Al、Ti、BまたはPの、1種または複数種のさらなる加水分解縮合性化合物を充填剤のコーティングに使用することができる。好ましい化合物は、Al、TiおよびBの化合物である。好ましいアルミニウム化合物は、アルミニウムsec-ブチレートおよびアルミニウムイソプロピレートである。好ましいチタン化合物は、Ti(OC2H5)4、Ti(OC3H7)4、Ti(O-iC3H7)4およびTi(OC4H9)4である。好ましいホウ素化合物は、B(OCH3)3およびB(OC2H5)3である。追加の加水分解縮合性化合物を使用することにより、硬度および耐摩耗性などのコーティングの特性を具体的に制御することができる。1種または複数種の追加の化合物を使用することができる。これらは、式Iのシランの総量を基準として、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0~15重量%、最も好ましくは0~10重量%の総量で使用される。例えばAlまたはTiの金属アルコキシドは、錯体化形態、例えばAlまたはTiアルコキシドと(メタ)アクリル酸または2-アセトアセトキシエチルメタクリレートとの反応生成物の形態で使用することもできる。式Iのシランの割合は、加水分解縮合性化合物の総量を基準として、好ましくは80~100重量%、より好ましくは85~100重量%、最も好ましくは90~100重量%である。
【0028】
式Iの1種または複数種のシラン、および必要に応じて他の加水分解縮合性化合物は、水、好ましくは少なくとも加水分解に化学量論的に必要な量の水、ならびに必要に応じて縮合触媒および/または溶媒、の存在下で加水分解および縮合される。このプロセスで重縮合物またはヘテロ重縮合物が形成される。加水分解縮合性化合物の代わりに、それに由来する予備縮合物を使用することもできる。予備縮合物は、アルコールまたはハロゲン化水素の部分的または完全な脱離を伴う、アルコキシシランおよび/またはハロシランと、ならびに必要に応じて金属アルコキシドと、水との反応生成物である。アルコキシシランの場合、シラノールが予備縮合物として形成される。
【0029】
好ましくは、加水分解縮合は、コーティングされる充填剤を、式Iのシラン(複数種可)および所望によりさらなる加水分解縮合性化合物、または好ましくは、好適な溶媒中のシラン(複数種可)および所望によりさらなる加水分解縮合性化合物の溶液に分散させ、次いで水を添加することによって行われる。混合物は、好ましくはこのプロセスで撹拌される。
【0030】
シランのみが使用される場合、加水分解は、好ましくは室温またはわずかな冷却下で行われる。好ましくは、加水分解または縮合触媒が添加される。このプロセスで重縮合物が得られる。得られた混合物(分散液)は、好ましくは-20~150℃、好ましくは20~110℃の温度で数時間~数日間撹拌される。次いで充填剤を、例えば遠心分離によって分離した後、必要に応じて溶媒で1または複数回洗浄し、次いで乾燥する。乾燥は、室温または高温、好ましくは50~60℃で行うことができる。好ましくは、充填剤は真空乾燥キャビネットで乾燥される。乾燥は数時間から数日の期間に及んでもよい。好ましくは、乾燥は重量が一定になるまで行われる。乾燥後、充填剤はさらなる熱処理に供されてもよい。これは、好ましくは20~150℃、より好ましくは30~100℃、最も好ましくは40~80℃の温度で行われる。温度および処理時間は、コーティング中に存在する任意の有機基が破壊されず、ガラス層が形成されないように選択される。
【0031】
式Iのシランに加えて、他の加水分解縮合性化合物を充填剤のコーティングに使用する場合、水は、好ましくは-20~100℃、好ましくは0~30℃で段階的に添加される。この場合、ヘテロ重縮合物が形成される。水の添加方法は、主に使用される加水分解縮合性化合物の反応性に依存する。所望の量の水を、例えば、分割してまたは1回で添加することができる。
【0032】
重縮合物とヘテロ重縮合物の両方の調製において、水は、好ましくは加水分解性基1モル当たり0.5~10モルの水の量で、特に好ましくは加水分解性基1モル当たり1~10モルの水の量で、最も好ましくは式Iのシランおよび必要に応じた他の加水分解縮合性化合物の加水分解性基1モル当たり1.5~5モルの水の量で添加される。水またはその一部は、純粋な形態で、または他の成分、例えば触媒溶液の構成成分として導入することができる。
【0033】
加水分解縮合を実施するための好ましい溶媒は、低級脂肪族アルコール、例えばエタノールまたはi-プロパノール、低級ジアルキルケトン、例えばアセトンまたはメチルイソブチルケトン、環状エーテル、例えばテトラヒドロフランまたはジオキサン、脂肪族エーテル、例えばイソプロポキシエタノールまたはイソプロポキシプロパノール、アミド、例えばジメチルホルムアミド、およびこれらの混合物である。
【0034】
好ましい加水分解または縮合触媒は、有機または無機酸、例えば塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸、ギ酸または酢酸である。フッ化アンモニウムおよび有機塩基、特にアミン、例えばn-プロピルアミン、ジエチルアミンまたはトリエチルアミン、およびアミノシラン、例えば3-アミノプロピルトリメトキシシランがさらに好ましい。
【0035】
縮合時間は、それぞれの出発成分、それらの割合、もしあれば使用される触媒、反応温度などに依存する。好ましくは、反応時間は1~96時間、より好ましくは2~72時間、最も好ましくは3~48時間の範囲である。
【0036】
充填剤を乾燥させ溶媒を蒸発させると、加水分解および縮合反応によってゾル粒子の形成を介してゲル膜が形成され、これが乾燥の過程でさらに架橋し、充填剤表面に緻密な無機ネットワークを形成する。コーティングの特性、例えば強度、柔軟性、接着、硬度、屈折率および不透過性は、シランおよび他の加水分解縮合性成分の選択によって具体的に調整することができ、特定の用途に適合させることができる。例えば、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)における4と、例えばジアルコキシシランにおける2の間で変化し得る式Iのシランの官能性を使用して、架橋結合の程度、ならびにしたがってコーティングの強度、柔軟性および不透過性を調整することができる。シランの有機基を選択することにより、例えば、コーティングの柔軟性、極性、湿潤または増粘効果に特に影響を与えることができる。例えば、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにおける重合性基を有するシランは、ラジカル重合によるコーティングのさらなる架橋、およびポリマーマトリックスへの充填剤の共有組込みを可能にする。Tiアルコキシドなどの金属アルコキシドとの共縮合は、加水分解縮合の速度論の制御、ならびに例えば密度および硬度の増加、ならびにコーティングの屈折率の調整を可能にする。
【0037】
充填剤は、好ましくは混合物の総質量を基準として1~25重量%、より好ましくは3~20重量%、最も好ましくは4~15重量%の量で加水分解混合物中に分散される。本発明によれば、粒子状充填剤が好ましい。
【0038】
コーティングされる充填剤として、フルオロアルミノシリケートガラス充填剤(FAS充填剤)および放射線不透過性ガラス充填剤が好ましい。
【0039】
特に好ましい放射線不透過性ガラス充填剤は、以下の組成(wt%):SiO2:20~80;B2O3:5~15;BaOまたはSrO:0~30;Al2O3:5~20;CaOおよび/またはMgO:0~20;Na2O、K2O、Cs2O:各0~10;WO3:0~20;La2O3:0~10;ZrO2:0~15;P2O5:0~10;Ta2O5、Nb2O5またはYb2O3:0~5およびCaF2またはSrF2:0~10を有する。非常に特に好ましいものは、組成(wt.%):SiO2:50~75;B2O3:5~15;BaOまたはSrO:2~30;Al2O3:5~15;CaOおよび/またはMgO:0~10ならびにNa2O:0~10を有する放射線不透過性ガラス充填剤である。
【0040】
特に好ましいFAS充填剤は、以下の組成(wt%):SiO2:20~35;Al2O3:15~35;BaOまたはSrO:0~25;CaO:0~20;ZnO:0~15;P2O5:5~20;フッ化物:3~18を有する。非常に特に好ましいFAS充填剤は、組成(wt%):SiO2:20~30;Al2O3:20~30;BaOまたはSrO:15~15;CaO:5~18;P2O5:5~15;Na2O:2~10;およびCaF2:5~20を有する。
【0041】
すべてのパーセンテージはガラスの総質量に基づき、フッ素以外の成分は、ガラスおよびガラスセラミックスで一般的なように酸化物として計算され、コーティングを含まない。
【0042】
本発明によれば、平均粒径0.2~20μmの粒子状FAS充填剤および放射線不透過性ガラス充填剤が好ましく、平均粒径0.4~5μmのものが特に好ましい。サイズの仕様は、コーティングを含まない。コーティングの層厚は、好ましくは5~500nmの範囲である。
【0043】
特に断らない限り、本明細書におけるすべての粒径は、体積平均粒径(D50値)であり、すなわち、全粒子の総体積の50%が、示された値よりも小さい直径を有する粒子に含有される。
【0044】
0.1μm~1000μmの範囲の粒径決定は、好ましくは静的光散乱(SLS)によって、例えばLA-960静的レーザー散乱粒径測定装置(Horiba、日本)またはMicrotrac S100粒径測定装置(Microtrac、米国)を用いて行われる。ここでは、波長655nmのレーザーダイオードおよび波長405nmのLEDが光源として使用される。波長の異なる2つの光源を使用することで、1回の測定の実行のみで試料の全体的な粒径分布を測定することができ、それにより測定は湿式測定として行われる。この目的のために、充填剤の水性分散液が調製され、その散乱光がフローセルで測定される。粒径および粒径分布を計算するための散乱光分析は、DIN/ISO 13320によるMie理論に従って行われる。1nm~0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは水性粒子分散液の動的光散乱(DLS)により、好ましくは波長633nmのHe-Neレーザーを用いて、散乱角90°および25℃で、例えば分散ユニットHydro 2000S(Malvern Instruments、Malvern 英国)を備えたMalvern Mastersizer 2000を用いて行われる。
【0045】
塊状および凝集粒子の場合、一次粒径はTEM画像から決定することができる。透過型電子顕微鏡検査(TEM)は、好ましくは加速電圧300kVでPhilips CM30 TEMを使用して実施される。試料調製のために、粒子分散液の液滴を炭素でコーティングされた厚さ50Åの銅グリッド(メッシュサイズ300メッシュ)に適用し、その後、溶媒を蒸発させる。粒子を数え、算術平均を計算する。
【0046】
放射線不透過性ガラス充填剤またはFAS充填剤は、コーティング前に酸で前処理することができる。粒子状FASまたはガラス充填剤の酸処理は、好ましくは充填剤を酸で洗浄することによって行われ、特に好ましくは以下のプロセスによって行われる:
(i)粒子状FASまたはガラス充填剤を、有機酸または好ましくは無機酸の水溶液中に分散する。酸は、好ましくは0.1~5mol/l、より好ましくは0.5~3mol/lの濃度で使用される。
(ii)その後、ステップ(i)からの分散液を、好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~5時間撹拌する。
(iii)酸溶液中で撹拌した後、充填剤を分離し、脱イオン水で洗浄する。この目的のために、好ましくは充填剤を水中に分散させ、1~60分間、より好ましくは2~20分間撹拌する。
(iv)洗浄後、充填剤を分離し、好ましくは真空乾燥キャビネット中で20~80℃、より好ましくは40~60℃の微小真空中で乾燥させる。充填剤は、好ましくは一定重量まで乾燥される。
(v)乾燥後、充填剤を、好ましくは必要に応じたアニーリングに供する。この目的のために、充填剤を、好ましくは2~12時間、特に好ましくは4~6時間、充填剤のガラス転移温度より十分に低い温度、好ましくは200~500℃、特に好ましくは300~400℃に加熱する。
【0047】
充填剤を処理するために使用される酸は、好ましくは酸処理後に充填剤から完全に除去される。充填剤は酸でコーティングされない。
【0048】
酸処理は1回または数回繰り返すことができる。ステップ(i)および(iii)は、好ましくは5~50℃の範囲の温度、特に好ましくは室温(23℃)で行われる。温度は、各場合において溶液または分散液中で測定される。
【0049】
好ましいのは、Ca、Al、SrおよびBaイオンと可溶性の塩を形成する酸である。特に好ましいのは、ギ酸、酢酸、特に塩酸および硝酸である。あるいは、リン酸などのCa、Al、SrまたはBaイオンと低溶性の塩を形成する酸を使用することができるが、これらはあまり好ましくない。難溶性の塩は、溶解度が0.1g/l未満(室温の水中)である塩として定義される。酸性有機モノマーおよび酸性有機ポリマー、ならびに過酸およびフッ化水素酸は、本発明による酸として好適ではない。
【0050】
洗浄ステップ(iii)は、酸が充填剤から完全に除去されるように、好ましくは1~5回、より好ましくは3回繰り返される。この目的のために、充填剤は、ステップ(iii)後に水から分離され、再び脱イオン水中で分散および撹拌される。最後の洗浄ステップにおける水のpHが≧5になるまで洗浄を繰り返す。
【0051】
洗浄後、充填剤はさらなる酸処理および洗浄に供されてもよい。一連の酸処理および洗浄を、1回または数回繰り返すことができる。
【0052】
本発明による充填剤のコーティングは、顕著な量の金属イオン、特にAl、Ca、BaまたはSrイオンが、放射線不透過性ガラス充填剤およびFAS充填剤などの歯科用充填剤から樹脂混合物中に拡散し、そこで酸性モノマーと反応するのを防止する。また、酸性モノマーが不溶性の塩を形成することによって充填剤表面に結合するのを防ぐ。これにより、樹脂マトリックス中の酸モノマー濃度の減少、および結果として生じる接着の低下が回避され、材料の貯蔵安定性が改善する。
【0053】
コーティングされたFASおよび放射線不透過性ガラス充填剤に加えて、本発明による組成物は他の充填剤を含有してもよい。
【0054】
好ましいさらなる充填剤は金属酸化物であり、特に好ましくは、60~80重量%のSiO2、ならびに金属酸化物ZrO2、Yb2O3、ZnO、Ta2O5、Nb2O5および/またはLa2O3、好ましくはZrO2、Yb2O3および/またはZnOのうちの少なくとも1種を、総量が100%になるように含有する混合酸化物である。SiO2-ZrO2などの混合酸化物は、例えば金属アルコキシドの加水分解共縮合により入手可能である。金属酸化物は、好ましくは0.05~10μm、特に好ましくは0.1~5μmの平均粒径を有する。また、1種または複数種の金属酸化物は、好ましくは上記の様式でコーティングされる。
【0055】
他の好ましい追加の充填剤は、一次粒径0.01~0.15μmのヒュームドシリカまたは沈殿シリカ、および粒径0.1~15μm、好ましくは0.2~5μmの石英またはガラスセラミック粉末、および三フッ化イッテルビウムである。三フッ化イッテルビウムは、好ましくは80~900nm、より好ましくは100~300nmの粒径を有する。これらの充填剤は、各場合において組成物の総質量を基準として、好ましくは0.1~25重量%の量、より好ましくは0.2~20重量%、最も好ましくは0.3~15重量%の量で使用される。
【0056】
また、いわゆるコンポジット充填剤がさらなる充填剤として好ましい。これらはイソ充填剤(isofiller)とも称される。これらは、今度は充填剤、好ましくは、ヒュームドSiO2、ガラス充填剤および/または三フッ化イッテルビウムを含有する破片状ポリマーである。好ましいのは、ジメタクリレートをベースとするポリマーである。イソ充填剤の生成のために、例えばジメタクリレート樹脂マトリックスに充填剤(複数種可)を組み込み、次いで得られたコンポジットペーストを熱重合し、その後、粉砕する。
【0057】
本発明に従って好ましいコンポジット充填剤は、例えば、Bis-GMA(8.80wt.%)、UDMA(6.60wt.%)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(5.93wt.%)、ジベンゾイルペルオキシド+2,6-ジ-tert.ブチル-4-メチルフェノール(合わせて0.67wt.%)、ガラス充填剤(平均粒径0.4μm;53.0wt.%)、およびYbF3(25.0wt.%)の混合物を熱硬化し、次いで硬化物を所望の粒径に粉砕することによって調製することができる。パーセンテージはすべてコンポジット充填剤の総質量を指す。
【0058】
充填剤とマトリックスの間の結合を改善するために、充填剤は、好ましくは3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどのメタクリレート官能化シランで表面修飾される。
【0059】
本発明による組成物は、少なくとも1種のラジカル重合性多官能性モノマーを含有する。多官能性モノマーは、2つまたはそれよりも多く、好ましくは2~4つ、特に2つのラジカル重合性基を有する化合物と理解される。したがって、単官能性モノマーは、1つのラジカル重合性基のみ有する。多官能性モノマーは架橋性を有するため、したがって架橋性モノマーとも称される。好ましいラジカル重合性基は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドおよびビニル基である。
【0060】
本発明によれば、酸基を含有するモノマーと酸基を含有しないモノマーとの区別がなされる。本発明による組成物は、少なくとも1種の酸基を有さないモノマー、ならびに少なくとも1種の酸基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを含有する。本発明によれば、酸基を有するモノマーおよび酸基を有さないモノマーを、1:5~1:36、より好ましくは1:6~1:25、最も好ましくは1:7~1:20の重量比で含有する組成物が好ましい。
酸基を有さないモノマー
【0061】
好ましいのは、少なくとも1種の多官能性(メタ)アクリレート、より好ましくは少なくとも1種の多官能性および少なくとも1種の単官能性メタクリレート、最も好ましくは少なくとも1種の単官能性および少なくとも1種の二官能性メタクリレートを含む組成物である。
【0062】
好ましい単官能性(メタ)アクリレートは、ベンジル、テトラヒドロフルフリルまたはイソボルニル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)および2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート(MA-836)、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレートである。CMP-1EおよびMA-836が特に好適である。
【0063】
一実施形態によれば、本発明による組成物は、好ましくは少なくとも1種の官能化単官能性(メタ)アクリレートを含む。官能化モノマーは、少なくとも1つのラジカル重合性基に加え、少なくとも1つの官能性基、好ましくはヒドロキシル基を有するモノマーであると理解される。好ましい官能化モノ(メタ)アクリレートは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシエチルプロピル(メタ)アクリレート、ならびに2-アセトキシエチルメタクリレートである。ヒドロキシエチルメタクリレートが特に好ましい。以下に挙げる酸基を含有するモノマーは、本発明の意味の範囲内で官能化モノマーではない。
【0064】
好ましい二官能性および多官能性(メタ)アクリレートは、ビスフェノール-A-ジメタクリレート、Bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシル化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、例えば3つのエトキシ基を有するビスフェノールAジメタクリレート(SR-348c、Sartomer)または2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルエステルとジイソシアネート、例えば、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートのウレタン、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートの付加生成物)、テトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはテトラメチルキシリレンジウレタン-2-メチルエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(V380)、ジ、トリまたはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ならびにグリセロールジおよびトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールジメタクリレート、例えばポリエチレングリコール200ジメタクリレートまたはポリエチレングリコール400ジメタクリレート(PEG-200またはPEG-400 DMA)または1,12-ドデカンジオールジメタクリレートである。Bis-GMA、UDMA、V-380、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)およびPEG-400-DMA(NKエステル9G)が特に好ましい。
【0065】
モノマーであるテトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはテトラメチルキシリレンジウレタン2-メチルエチレングリコールジウレタンジ(メタ)アクリレート(V380)は、以下の式を有する。
【化1】
【0066】
示される式中、残基Rはそれぞれ独立してHまたはCH3であり、残基は同じ意味を有してもよく、異なる意味を有してもよい。好ましくは、両方の残基がHである分子、両方の残基がCH3である分子、および一方の残基がHで他方の残基がCH3であり、HのCH3に対する比が好ましくは7:3である分子を含有する混合物が使用される。このような混合物は、例えば、1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼンと2-ヒドロキシプロピルメタクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させることによって得ることができる。
【0067】
他の好ましい二官能性モノマーは、ラジカル重合性ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)ヘキサン、または市販のビスアクリルアミド、例えばメチレンまたはエチレンビスアクリルアミド、およびビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)ブタン、または1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジンであり、これらは対応するジアミンと(メタ)アクリル酸クロリドを反応させることにより合成することができる。N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン(V392)が特に好ましい。これらのモノマーは、高い加水分解安定性によって特徴付けられる。
酸基含有モノマーおよびオリゴマー
【0068】
本発明による組成物は、少なくとも1種の酸性ラジカル重合性モノマーおよび/または少なくとも1種の酸性オリゴマーを含み、少なくとも1種の酸性ラジカル重合性モノマーを含む組成物が好ましい。酸性モノマーおよびオリゴマーは、少なくとも1つの酸基、好ましくはリン酸エステル、ホスホン酸またはカルボキシル基を含有するモノマーまたはオリゴマーを意味すると理解される。酸性モノマーおよびオリゴマーは、本明細書で接着性成分または接着性モノマーまたは接着性オリゴマーとも称される。本発明によれば、少なくとも1種の強酸性モノマーを含有する組成物が特に好ましい。強酸性モノマーは、室温でのpKa値が0.5~4.0、より好ましくは1.0~3.5、最も好ましくは1.5~2.5のモノマーである。
【0069】
好適な酸基を含有するモノマーは、好ましくはpKa値が2.0~4.0の範囲にあるCOOH基含有重合性モノマーである。4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシンおよび4-ビニル安息香酸が好ましい。メタクリル酸(pKa=4.66)は、歯組織へのその低い接着のため除外される。
【0070】
酸基を含有する好ましいモノマーは、好ましくは0.5~3.5の範囲のpKa値を有するリン酸エステルおよびホスホン酸モノマーである。特に好ましいのは、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)、リン酸二水素グリセロールジメタクリレートまたはジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、または加水分解安定性エステル、例えば2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸2,4,6-トリメチルフェニルエステルである。MDP、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニルおよびリン酸二水素グリセロールジメタクリレートが特に好ましい。
【0071】
オリゴマーは、重合度Pnが2~100のポリマーであると理解される(Pn=Mn/Mu;Mn=数平均ポリマーモル質量、Mu=モノマー単位のモル質量)。酸性ラジカル重合性オリゴマーは、少なくとも1つの酸基、好ましくはカルボキシル基、および少なくとも1つのラジカル重合性基、好ましくは少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、より好ましくは少なくとも1つのメタクリレート基を有する。
【0072】
本発明に従って好ましい酸基を含有するオリゴマーは、好ましくは7200g/mol未満、より好ましくは7000g/mol未満、最も好ましくは6800g/mol未満の数平均分子量Mnを有するポリアクリル酸などのオリゴマーカルボン酸であり、ここでMnは、好ましくは800~7200g/mol、より好ましくは500~7000g/mol、最も好ましくは500~6800g/molの範囲である。(メタ)アクリレート基を有するオリゴマーカルボン酸が特に好ましい。これらは、例えば、オリゴマーポリアクリル酸をグリシジルメタクリレートまたは2-イソシアナトエチルメタクリレートと反応させることによって得ることができる。
【0073】
本明細書で別段明記されない限り、オリゴマーおよびポリマーのモル質量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定される数平均モル質量Mnである。
【0074】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、大きさ、より正確には流体力学的体積に基づいて分子を分離する相対的方法である。絶対モル質量は、既知の標準物質による較正によって決定される。好ましくは、分布の狭いポリスチレン標準物質が較正標準物質として使用される。これらは市販されている。スチレン-ジビニルベンゼンカラムが分離材料として、およびテトラヒドロフラン(THF)が溶離液として使用される。スチレン-ジビニルベンゼンカラムは、有機可溶性合成ポリマーに好適である。測定は、試験されるポリマーの希釈溶液(0.05~0.2重量%)で行われる。
【0075】
あるいは、数平均モル質量は、凝固点降下法(クライオスコピー)、沸点上昇法(エブリオスコピー)、または蒸気圧降下法(蒸気圧浸透圧法)といった周知の方法によって決定されてもよい。これらは、較正標準物質を必要としない絶対的方法である。濃度0.005~0.10mol/kgの4~6種類の希釈ポリマー溶液の濃度系列を調査し、次いで測定値を濃度0mol/kgに外挿する。
【0076】
本発明による組成物はまた、好ましくは水を含有する。各場合において組成物の総質量を基準として1~7重量%、特に好ましくは1~5重量%の含水量が、象牙質およびエナメル質に対する結合効果の改善をもたらすことが見出されている。
【0077】
本発明による組成物は、ラジカル重合を開始するための少なくとも1種の開始剤、好ましくは光開始剤をさらに含む。好ましい光開始剤は、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびそれらの誘導体、α-ジケトンまたはその誘導体、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルおよび4,4’-ジクロロベンジルである。特に好ましいのはカンファーキノン(CC)および2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノンであり、最も好ましくは還元剤としてのアミン、例えば4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エチルエステル(EDMAB)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-sym.-キシリジンまたはトリエタノールアミンとの組合せのα-ジケトンが使用される。さらに好ましいのは、ノリッシュI型光開始剤、特にアシルまたはビスアシルホスフィンオキシドであり、最も好ましくはモノアシルトリアルキル、ジアシルジアルキルゲルマニウムおよびテトラアシルゲルマニウム化合物、例えばベンゾイルトリメチルゲルマン、ジベンゾイルジエチルゲルマン、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(Ivocerin(登録商標))、テトラベンゾイルゲルマンまたはテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンである。カンファーキノンおよび4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせてのビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマンまたはテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンなどの様々な光開始剤の混合物を使用することもできる。
【0078】
さらに好ましいのは、ラジカル重合を開始させるためのレドックス開始剤、好ましくは酸化剤および還元剤をベースとするレドックス開始剤を含有する組成物である。好ましい酸化剤は、過酸化物、特にヒドロペルオキシドである。特に好ましい過酸化物は過酸化ベンゾイルである。好ましいヒドロペルオキシドは、EP3 692 976 A1に開示されている低臭気クメンヒドロペルオキシド誘導体、EP21315089.9に開示されているオリゴマーCHP誘導体、特に4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネートおよびクメンヒドロペルオキシド(CHP)である。
【0079】
過酸化物との組合せに好ましい還元剤は、第三級アミン、例えばN,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルまたは他の芳香族ジアルキルアミン、アスコルビン酸、スルフィン酸、チオールおよび/または水素シランである。
【0080】
ヒドロペルオキシドとの組合せに好ましい還元剤は、チオ尿素誘導体、特にEP1 754 465 A1の段落[0009]に列挙されている化合物である。特に好ましいのは、メチル、エチル、アリル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ベンジル、1,1,3-トリメチル、1,1-ジアリル、1,3-ジアリル、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ベンゾイルチオ尿素、およびこれらの混合物である。非常に特に好ましいのは、アセチル、アリル、ピリジルおよびフェニルチオ尿素、ならびにヘキサノイルチオ尿素およびそれらの混合物、ならびに重合性チオ尿素誘導体、例えばN-(2-メタクリロイルオキシエトキシスクシノイル)-チオ尿素およびN-(4-ビニルベンゾイル)-チオ尿素である。さらに、前記チオ尿素誘導体の1種または複数種と1種または複数種のイミダゾールとの組合せを有利に使用することができる。好ましいイミダゾールは、2-メルカプト-1-メチルイミダゾールまたは2-メルカプトベンズイミダゾールである。
【0081】
少なくとも1種のヒドロペルオキシドおよび少なくとも1種のチオ尿素誘導体に加えて、本発明による組成物は、硬化を促進するための少なくとも1種の遷移金属化合物をさらに含んでもよい。本発明に従って好適な遷移金属化合物は、特に、少なくとも2つの安定な酸化状態を有する遷移金属に由来する化合物である。特に好ましいのは、元素の銅、鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンの化合物である。これらの金属は、以下の安定な酸化状態:Cu(I)/Cu(II)、Fe(II)/Fe(III)、Co(II)/Co(III)、Ni(II)/Ni(III)、Mn(II)/Mn(III)を有する。少なくとも1種の銅化合物を含有する組成物が特に好ましい。遷移金属化合物は、好ましくは触媒量、より好ましくは10~200ppmの量で使用される。これらは歯科用材料の変色につながらない。それらの良好なモノマー溶解度のために、遷移金属は、好ましくはそれらのアセチルアセトネート、2-エチルヘキサノエートまたはTHF付加物の形態で使用される。さらに好ましいのは、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、トリエチレンテトラミン、ジメチルグリオキシム、8-ヒドロキシキノリン、2,2’-ビピリジンまたは1,10-フェナントロリンなどの多座配位子とのそれらの錯体である。本発明による特に好適な開始剤は、クメンヒドロペルオキシド(CHP)と上記のチオ尿素誘導体の少なくとも1種、および銅(II)アセチルアセトネートとの混合物である。本発明によれば、バナジウム化合物を含有しない組成物が好ましい。
【0082】
本発明による組成物は、追加の添加剤、特に安定剤、着色剤、殺微生物剤、フッ化物イオン放出添加剤、例えばフッ化物塩、特にNaFもしくはフッ化アンモニウム、またはフルオロシラン、蛍光増白剤、可塑剤および/またはUV吸収剤も含有してもよい。
【0083】
本発明によれば、好ましい組成物は以下の構成成分を含有するものである:
各場合において組成物の総質量を基準として、
a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のコーティングされたFASおよび/または放射線不透過性ガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)1~15重量%、好ましくは2~12重量%、より好ましくは3~10重量%の少なくとも1種の酸基を含有するモノマー、
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)0~10重量%、好ましくは0~8重量%、より好ましくは1~5重量%の1種または複数種のオリゴマーカルボン酸、
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.1~8重量%、好ましくは0.5~6重量%、より好ましくは1~5重量%の少なくとも1種のラジカル重合開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.1~2重量%の添加剤。
【0084】
開始剤は、レドックス開始剤、光開始剤または二重硬化開始剤であり得る。記載された量は、すべての開始剤成分、すなわち開始剤自体、および該当する場合は還元剤、遷移金属化合物などを含む。本発明によれば、少なくとも1種のレドックス開始剤、または少なくとも1種のレドックス開始剤および少なくとも1種の光開始剤を含有する組成物が好ましい。
【0085】
レドックス開始剤を含有する組成物は、自己硬化型とも称される。これらは、好ましくは空間的に分離した2つの成分の形態で、すなわち2成分系(2C系)として使用される。酸化剤と還元剤は、組成物の別々の成分に組み込まれる。一方の成分、いわゆる触媒ペーストは、酸化剤、好ましくは過酸化物またはヒドロペルオキシド、および必要に応じて光開始剤を含有し、第2の成分、いわゆるベースペーストは、対応する還元剤、必要に応じて光開始剤、および必要に応じて触媒量の遷移金属化合物を含有する。重合は、成分を混合することによって開始される。レドックス開始剤と光開始剤の両方を含有する組成物は、二重硬化型と称される。
【0086】
本発明によれば、2成分系が好ましい。これらは、好ましくは自己硬化型または二重硬化型である。ペーストは、好ましくはダブルプッシュシリンジによって使用直前に一緒に混合される。
【0087】
触媒ペーストは、好ましくは以下の組成を有する:
各場合において触媒ペーストの総質量を基準として、
a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のコーティングされたFASおよび/またはガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)2~30重量%、好ましくは4~24重量%、より好ましくは6~20重量%の少なくとも1種の酸基を含有するモノマー、
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)0~20重量%、好ましくは0~16重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種のオリゴマーカルボン酸、
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.01~16重量%、好ましくは0.02~12重量%、より好ましくは0.03~10重量%の少なくとも1種の過酸化物および/またはヒドロペルオキシド、ならびに必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、より好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数種の添加剤。
【0088】
ベースペーストは、好ましくは以下の組成を有する:
各場合においてベースペーストの総質量を基準として、
a)25~80重量%、好ましくは30~75重量%、より好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のFASおよび/またはガラス充填剤、
b)0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは2~30重量%の1種または複数種のさらなる充填剤、好ましくは金属酸化物、
c)該当なし
d)5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~25重量%の少なくとも1種の酸基を有さない多官能性モノマー、
e)該当なし
f)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、より好ましくは1~10重量%の1種または複数種の酸基を有さない単官能性モノマー、
g)0.01~16重量%、好ましくは0.02~12重量%、より好ましくは0.1~10重量%の少なくとも1種の好適な還元剤、および必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h)0~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~7重量%の水、ならびに
i)0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、より好ましくは0.005~2重量%の1種または複数種の添加剤。
【0089】
充填剤のコーティングは、充填剤と酸性モノマーまたはオリゴマーとの相互作用を防止する。本発明によれば、酸モノマーおよびオリゴマーは触媒ペーストにのみ存在し、したがってコーティングされていないFAS充填剤および/またはX線不透過性ガラス充填剤は、好ましくはベースペーストを調製するために使用され、コーティングされていない形態の上記FAS充填剤および/またはX線不透過性ガラス充填剤が好ましい。
【0090】
塗布のために、触媒およびベースペーストは、好ましくはほぼ等しい割合で一緒に混合される。したがって、これらはダブルプッシュシリンジによる塗布に特に好適である。
【0091】
ダブルプッシュシリンジは、ベースペーストおよび触媒ペーストを保持するための2つの別個の円筒形チャンバを有する。成分は、2つの相互連結されたピストンによって同時にチャンバから押し出され、好ましくは混合ノズルに強制的に通され、そこで混合される。ペーストを押し出すために、シリンジをいわゆるハンドディスペンサーに挿入することができ、これによりシリンジの取り扱いが容易になる。
【0092】
本発明による組成物は、高い貯蔵安定性、および好ましくは10%より大きい改善された透明性、およびエナメル質/象牙質に対する良好な自己接着によって特徴付けられる。これらは、損傷した歯の修復(治療的使用)のために歯科医が口腔内で使用するための歯科用材料として、特に、歯科用のセメント、コーティングまたは前装材料、充填用コンポジット、およびとりわけ合着セメントとして特に好適である。透明性は、実施例に記載の様式で決定される。
【0093】
コーティングは、従来の放射線不透過性充填剤を用いた安定な歯科用コンポジットの生成を可能にし、この従来の放射線不透過性充填剤は、高い透明性を有するコンポジットの生成を可能にするがそれらの酸への感受性のために不利である。充填剤がコーティングされると、式Iのシランから形成された残留表面シラノール基(Si-OH)によって水素結合のネットワークがもたらされ、したがって粘度が著しく上昇すると予想された。驚くべきことに、本発明によるコーティングは、充填剤の増粘効果を増加させないことが見出された。さらに、コーティングされた充填剤は、触媒とベースペーストの混和性を改善し、したがって均質な材料の調製を顕著に容易にすることが見出された。
【0094】
損傷した歯の処置のために、歯は、好ましくは歯科医によって第1のステップで準備される。その後、本発明による少なくとも1種の組成物が準備された歯に適用されるか、またはその中に適用される。その後、組成物は、例えば虫歯を修復する場合、好ましくは好適な波長の光を照射することによって直接硬化させることができる。あるいは、歯科修復物、例えばインレー、オンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ、フレームワークまたは歯科用セラミックが、準備された歯に配置されるかまたは適用される。組成物のその後の硬化は、好ましくは光および/または自己硬化によって達成される。それにより、補綴物が歯に結合する。
【0095】
本発明による組成物はまた、口腔外材料(非治療用)として、例えば歯科修復物の作製または補修に使用することができる。これらはまた、インレー、オンレー、クラウンまたはブリッジの作製および補修のための材料としても好適である。
【0096】
インレー、オンレー、クラウンまたはブリッジなどの歯科修復物の生成のために、本発明による少なくとも1種の組成物は、それ自体公知の様式で所望の歯科修復物へと形成され、次いで硬化される。硬化は、光、自己硬化によって、または好ましくは熱的に行うことができる。
【0097】
歯科修復物の補修において、本発明による組成物は、補修される修復物、例えば隙間の補修または断片の接合に適用され、次いで硬化される。
【0098】
以下では、図および例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】
図1~3はそれぞれ、本発明に従ってコーティングされた充填剤の粒径分布を、コーティングされていない出発材料と比較して示す。
【0100】
【
図4】
図4は、コーティングされていないガラス充填剤を含むコンポジットペースト(-■-)と比較した、実施例1のコーティングされたガラス充填剤を含むコンポジットペースト(-▼--)の貯蔵時間の関数としての酸性モノマーMDPの濃度の減少を示す。コーティングされていない充填剤を含むペーストでは、MDP濃度は急速に減少するが、本発明によるペーストは試験期間中安定である。
【0101】
【
図5】
図5は、コーティングされていないガラス充填剤を含むコンポジットペースト(-■-)および酸処理された充填剤を含むコンポジットペースト(-●-)と比較した、実施例3のコーティングされたガラス充填剤を含むコンポジットペースト(-▲--)の貯蔵時間の関数としての酸性モノマーMDPの濃度の減少を示す。酸処理された充填剤を含むペーストは、コーティングされていない充填剤を含むペーストと比較して著しく高い安定性を示す。コーティングされた充填剤を含む本発明によるペーストの安定性は、ここでも顕著に改善されている。試験期間中、MDP濃度の減少は観察されなかった。
【0102】
【
図6】
図6は、コーティングされていない充填剤を含むセメント(下の曲線)と比較した、実施例1のコーティングされた充填剤を含む2成分コンポジットセメント(上の曲線)の象牙質せん断結合強度を、それらの貯蔵時間の関数として示す。本発明によるセメントは、数週間貯蔵した後でさえも高い接着値を達成するが、比較セメントは、わずか2週間後にもはや接着効果を示さない。
【実施例0103】
(実施例1)
コーティングされたガラス充填剤(固形分10重量%)の調製
120.0gの放射線不透過性ガラス充填剤GM 27884(Schott AG;平均粒径1μm;比表面積(BET DIN ISO 9277)3.9m2/g;組成(wt%):Al2O3:10、B2O3:10、BaO:25およびSiO2:55)、1080.0gの溶媒イソプロポキシエタノール(IPE)、750.0gのテトラエトキシシラン(TEOS)、および376.0gの脱イオン水の混合物を、KPG撹拌機および還流コンデンサを備えた5L二重壁反応器中で、撹拌速度500回転毎分(rpm)で23℃にて撹拌した。固形分は10wt%であった。触媒溶液を調製するために、0.325gのフッ化アンモニウムを250mLの脱イオン水に溶解し、一晩撹拌した。このNH4F溶液12.83gを上記の反応混合物に添加した。その後、混合物を100℃に加熱し、100℃で3時間さらに撹拌した。その後、混合物を4つの500ml遠心分離容器に分配し、2000rpmで15分間遠心分離した。分離した充填剤粒子をイソプロパノールで少なくとも2回洗浄し、再度遠心分離した。その後、洗浄した充填剤粒子を60℃の真空乾燥キャビネットで12時間乾燥した。得られた試料を211220-IVOと指定した。
【0104】
粒径分布を決定するために、0.1gのコーティングされた粒子(試料211220-IVO)を50gの脱イオン水に添加し、磁気撹拌棒で2時間撹拌した。その後、試料を超音波槽で30分間処理した。並行して、0.1gのコーティングされていない充填剤粒子(試料IVO ref NH
4F)を、記載される様式で50gの水に分散させた。充填剤IVO ref NH
4Fは上述の様式で調製したが、シラン(TEOS)は添加しなかった。粒径分布は、動的光散乱(DLS)(分散ユニットHydro 2000Sを備えたMalvern Mastersizer 2000)によって決定した。粒径分布(粒径分布ヒストグラム)を
図1に示す。コーティングされた試料211220-IVOでは、0.2μmおよび2μmに最大ピークを有する二峰性の粒径分布が決定された。
【0105】
使用された充填剤の屈折率(nD=1.526)はコーティングによって変化しなかった。コーティングされた充填剤およびコーティングされていない充填剤の屈折率は、浸漬法(Carl-Zeiss Abbe屈折計モデルA 72901;浸漬油:2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(nD=1.526)およびスギ油(nD=1.504))によって決定した。
(実施例2)
酸中での実施例1の充填剤のイオン放出の決定
【0106】
バリア効果の決定のために、実施例1のコーティングされた充填剤粒子(試料211220-IVO)2gを50gの1M HClに分散させ、1時間撹拌した。次に、粒子を遠心分離によって除去した。浸出した粒子を遠心分離した後、遠心分離物のAl、B、Ba含有量を決定した。この目的のために、試料を、溶液中のAl、B、Baイオン濃度に応じて1:10または1:100の比で、超純水(Millli-Q(登録商標)、Merck Company)で希釈した。分析は、誘導結合プラズマ発光分光分析法によって実施した(ICP-OES;機器:Conikalアトマイザーを備えたHoriba Jobin Yvon Ultima2;測定パラメータ:圧力:2.71bar、流量:0.73 l/分、発光波長:Al:λ=396.152nm、B:λ=208.957nm、Ba:λ=455.403nm)。以下の濃度を決定した:Al:3.97mg/L、B:2.74mg/L、およびBa:23.0mg/L。
【0107】
対照的に、コーティングされていない充填剤IVO ref NH4Fを用いた同様の浸出試験では、以下の濃度が得られた:Al:226.9mg/L、B:126.7mg/L、およびBa:1060mg/L。
【0108】
値を比較すると、充填剤のコーティングにより、Alイオンの浸出が98.2重量%減少し、Baイオンの浸出が97.8重量%減少したことが示される。
(実施例3)
シラン濃度が低減したコーティングされたガラス充填剤の生成
【0109】
120.0gの放射線不透過性ガラス充填剤GM 27884、1080.0gのIPE、250.0gのTEOS、および125.3gの脱イオン水の混合物を、5Lの二重壁反応器中で、23℃で500rpmの撹拌速度で撹拌した。固形分は10wt%であった。実施例1のNH
4F溶液4.28gを反応混合物に添加し、次いで混合物を100℃に加熱し、100℃で24時間撹拌した。その後、混合物を実施例1に記載されたように遠心分離し、分離した充填剤粒子を洗浄し、乾燥した(試料220124-IVO)。粒径分布を実施例1と同様に決定し、
図2に示す。DLS測定は単峰性の粒径分布を示し、これはコーティングされていない参照試料IVO ref NH
4Fのものとほぼ一致した。ピークの最大値はおよそ4μmであった。
【0110】
使用された充填剤の屈折率(nD=1.526)はコーティングによって変化しなかった。
【0111】
実施例2と同様の浸出試験では、以下の濃度が得られた:Al:1.75mg/L、B:1.43mg/L、およびBa:18.87mg/L。いずれも参照試料IVO ref NH4Fと比較して、コーティングによってAlイオンの浸出は99.2重量%減少し、Baイオンの浸出は98.2重量%減少した。
(実施例4)
コーティングされたガラス充填剤(固形分20重量%)の調製
【0112】
150.0gの放射線不透過性ガラス充填剤GM 27884、600.0gのIPE、312.50gのTEOS、および156.66gの脱イオン水の混合物を、5Lの二重壁反応器中で、23℃で500rpmの撹拌速度で撹拌した。実施例1のNH
4F溶液5.35gを反応混合物に添加し、次いで混合物を100℃に加熱し、100℃で24時間撹拌した。その後、混合物を実施例1に記載されたように遠心分離し、分離した充填剤粒子を洗浄し、乾燥した(試料220510-IVO)。粒径分布を実施例1と同様に決定し、
図3に示す。DLS測定は、実施例1の試料211220-IVOと同様に、0.2μmおよび2.2μmに最大ピークを有する二峰性の粒径分布を示した。
【0113】
実施例2と同様の浸出試験では、以下の濃度が得られた:Al:5.067mg/L、B:1.91mg/L、およびBa:10.49mg/L。いずれも参照試料IVO ref NH4Fと比較して、コーティングによってAlイオンの浸出は97.8重量%減少し、Baイオンの浸出は99.0重量%減少した。
(実施例5)
酸処理された充填剤の生成(EP21218194.5による一般的な仕様)
【0114】
それぞれ充填容積1Lの2つの遠心分離プラスチック容器に、処理される充填剤150gおよび1.0モル濃度の塩酸350gを注ぎ、磁気撹拌板上で室温にて1時間撹拌する。磁気撹拌棒を取り除いた後、混合物を遠心分離機(Hettich Silenta RS)にて3000rpmで5分間遠心分離し、この間に充填剤が沈降する。液体を分離し、蛍光X線(XRF)分析のために液体の試料を採取する。液体のpHは1~2である。次に、分離した充填剤を400mlの脱イオン水に分散させ、分散液を3000rpmで再び5分間遠心分離する。次に、洗浄液をデカンテーションによって分離する。洗浄手順は、最後の洗浄でpHが5またはそれよりも高くまで上昇するまで繰り返される(およそ3回)。洗浄後、酸処理された充填剤を、50℃の真空乾燥キャビネットで一定重量が得られるまで乾燥し、次いでシラン化する。シラン化のために、12gの3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(シランA-174、Sigma Aldrich)を充填剤(185g)に添加し、次いで15分間混合する(Turbolaミキサー、Willy A.Bachofen AG)。次に5gの脱イオン水を添加し、再び15分間混合する。次いで充填剤を90μmのプラスチック篩を通して篩い分けし、24時間静置し、その後、遊離シランが検出できなくなるまで(ガスクロマトグラフィー)50℃の乾燥オーブンで3日間乾燥する。
【0115】
(実施例6)
本発明に従ってコーティングされたガラス充填剤の貯蔵安定性の決定
表1に示される組成を有するコンポジットセメントペーストK-1~K-4を調製した。
【表1】
【0116】
ペーストを室温で数週間貯蔵し、酸性モノマーMDPの含有量をHPLCによって繰り返し決定した。125×4 Nucleodur 100-5 C18ecカラムおよびUV/VIS検出器(220nm)を備えたHPLC Ultimate 3000機器(ThermoFisher Scientific)をHPLC測定に使用した。測定する試料をメタノールに溶解した。溶離は、0.01mol/Lのo-リン酸を含む水およびアセトニトリルを溶離液として使用し、標準勾配プログラムに従って実施した(アセトニトリルのパーセンテージは100%まで連続的に増加させた)。結果は
図4および5に示され、コンポジットペースト中のMDP含有量の経時変化を示す。
【0117】
図4に示される結果は、コーティングされていないガラス充填剤GM 27884を含むコンポジットセメントK-1と比較して、コンポジットセメントK-2の貯蔵安定性が著しく改善されたことを示す。K-1は、2~4週間後に既に利用可能なMDPの著しい減少を示す。時間0での差は、ペースト製造中に酸性モノマーが未処理の充填剤と非常に急速に反応するという事実に起因する。
【0118】
図5に示される結果は、コーティングされていない充填剤を含むコンポジットセメントK-1と比較して、欧州特許出願No.EP21218194.5に従い酸処理されたガラス充填剤を含有するコンポジットセメントK-4の貯蔵安定性が顕著に改善されたことを示す。本発明によるコンポジットセメントK-3は、さらに改善された安定性を示す。12週間貯蔵した後でも、MDP濃度の変化は検出することができない。
(実施例7)
本発明によるコンポジットセメントの象牙質せん断結合強度の測定
【0119】
二重硬化型2成分コンポジットセメントを調製した。各セメントは、触媒ペーストおよびベースペーストを含んでいた。ペーストの組成を表2および3に示す。貯蔵時間の関数としての象牙質結合強度を決定した。象牙質接着を測定するために、ウシの歯を付加硬化型ビニルポリシロキサン(Dreve Company)を含むプラスチック製シリンダーに、象牙質とプラスチックが同一平面になるように埋め込んだ。サンドペーパー(グリットサイズ400)で研磨した歯の表面をぬるま湯ですすぎ、37℃にプレテンパリングした。その後、象牙質表面を水ですすいだ。象牙質表面を拭き取って乾かし、触媒ペーストをそれぞれ対応するベースペーストと1:1の比で混合し、次いで歯の表面に塗布した。同時に、硬化した歯科用コンポジット材料(Tetric Evo-Ceram、Ivoclar Vivadent AG)から作製されたプラグの下面をセメントで濡らし、象牙質表面の可能な限り中央に配置した。その後、固定用マンドレルがTetric Evo-Ceramプラグの中心に来るように、Ultradentクランプデバイスでコンポジットプラグを上向きにして歯をクランプした。その後、直ちに余分な合着セメントを注意深く除去し、クランプした歯を備えたUltradent固定具を37℃の乾燥キャビネットで15分間貯蔵した。その後、プラグを解放し、37℃の水中で24時間保管した後、37℃の乾燥キャビネットで24時間貯蔵した。せん断結合強度を測定するために、Ultradent法(EN ISO 35 29022、2013年)に従い、Zwick試験機を使用してプラグを23℃でせん断し、せん断結合強度を破断力と結合面積の商として求めた。結果を
図6に示す。
【表2】
【表3】
【0120】
図6に示される結果は、触媒ペーストCP-BとベースペーストBP-Bとを混合することによって得られた本発明によるセメントCP-B/BP-Bが、数週間の貯蔵後でさえも高い結合強度を達成したことを示す。本発明による触媒ペーストCP-Bは、強酸性モノマーMDP、および本発明に従ってコーティングされたX線不透過性Baガラス充填剤を含有する。測定された接着値は、充填剤のコーティングが酸性モノマーとの望ましくない反応を効果的に抑制することを示す。ベースペーストは酸モノマーを含有しないため、ここではコーティングされていないガラス充填剤を使用した。コーティングされていない充填剤を含む比較セメントCP-A/BP-Aは、わずか2週間の貯蔵後に、もはや既に接着を示さなかった。