(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061647
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240425BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240425BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20240425BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6813 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176490
(22)【出願日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2022168876
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】中矢 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】成 英次
(72)【発明者】
【氏名】厚木 徹
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QR77
4B063QS31
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法などを提供すること。
【解決手段】 線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とする、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法。前記遺伝子群から選択される遺伝子は、EFEMP2遺伝子であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とする、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記遺伝子群から選択される遺伝子は、EFEMP2遺伝子である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
被験物質を接触させた後に、線維芽細胞中の前記特徴遺伝子群のうちの少なくとも1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標として、コントロールと対比し、
前記細胞状態を促進した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制できる物質と選定する、又は、
前記細胞状態を抑制した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制できない物質と選定する、選定工程とを含む、
請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞老化とは、安定的に細胞周期が停止した状態をいい、老化細胞の特徴には、形態的な変化、代謝の変化、クロマチンの再構成、遺伝子発現の変化などが挙げられ、老化した細胞の数は加齢と共に増えることが知られている。
【0003】
従前から、化粧料又は皮膚外用剤などの分野では、消費者ニーズから加齢に伴う老化への対応などを訴求する商品や製品の研究開発がされ、皮膚の細胞老化又は皮膚の加齢に伴う老化などに関する研究も進められている。
【0004】
皮膚は、表皮及び真皮などから構成され、より具体的には、表皮細胞や線維芽細胞、また、細胞外マトリクス(例えば、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン等)等から構成されている。皮膚は、紫外線や乾燥、ストレス、加齢などの外的及び内的要因により、皮膚組織中の細胞老化に起因する症状が種々生じる。例えば、このような単数又は複数の外的及び内的要因によって細胞外マトリクスや線維芽細胞の機能が低下することにより、たるみ、しわ、しみなどの症状が生じると考えられている。このため、このような皮膚組織又はこれらを構成する細胞における老化などに起因する症状などの予防、改善又は治療などができる物質(例えば、化合物、素材、抽出物など)が、従前から求められている。
【0005】
例えば、特許文献1では、生物学的試料中のOLFML2A及び/又はCRLF1の遺伝子産物の発現量eを決定するステップを含む、線維芽細胞の細胞老化状態の評価方法を提供することが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2では、老化した皮膚線維芽細胞の分泌因子により誘導された、表皮組織における老化の評価方法であって、表皮組織のバリア機能低下及び角化不全を指標にした方法を用いた抗皮膚生理老化素材のスクリーニング方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-116088号公報
【特許文献2】特開2020-137451号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kazuhiko KAJI at el.,Human Cell volume 22, p38-42 (2009)
【非特許文献2】堀江信之等、名古屋女子大学紀要. 家政・自然編, 人文・社会編 65 27-38, 2019-03
【非特許文献3】National library of Medicine Notional,EFEMP2 EGF containing fibulin extracellular matrix protein 2 [ Homo sapiens (human) ], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/30008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法などを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標にすることにより、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質をスクリーニングできることを見出し、以下のように本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とする、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法を提供する。
前記遺伝子群から選択される遺伝子は、EFEMP2遺伝子であってもよい。
前記方法は、(A)被験物質と、線維芽細胞とを接触させる工程、
(B)線維芽細胞中の前記特徴遺伝子群のうちの少なくとも1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標として、コントロールと対比し、
前記細胞状態を促進した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制する物質と選択する、又は、
前記細胞状態を抑制した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制できない物質と選定する、選定工程と、を含むことであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法を提供することができる。なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である(質量/質量%)。また、各数値範囲(~)の上限値(以下)と下限値(以上)は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0014】
1.本実施形態に係るスクリーニング方法等
本実施形態は、線維芽細胞の細胞老化状態の指標にできる単数又は複数の遺伝子又は当該遺伝子を新たに見出したので、線維芽細胞の細胞老化状態の指標に用いるための単数又は複数の遺伝子又は当該遺伝子による線維芽細胞における細胞状態、及びその使用若しくはその使用方法、この使用方法により得られる有用性物質、又は被験物質若しくは被験動物の細胞老化状態に関する情報などを提供することができる。
【0015】
また、本実施形態は、好適な態様として、前記線維芽細胞の細胞老化状態の指標を用いることで、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法を提供することができ、又は、被験物質が有する細胞老化状態の調整作用及び調整効果などをより精度よく良好に評価又は判定することができる。
【0016】
線維芽細胞の老化により、増殖性低下による細胞供給能力の低下、細胞及び細胞外マトリクスとの接着能力低下による機械刺激応答能力の低下、細胞外マトリクスの再構成(産生、分解によるリモデリング)機能の低下、炎症反応の惹起などが生ずる。それにより、例えば皮膚の老化として、シワ、たるみ、ほうれい線、しみ、くすみなどが生じるとともに、慢性的な微弱炎症惹起や創傷治癒不全を引き起こす可能性がある。
【0017】
このため、本実施形態では、上述した線維芽細胞の細胞老化又は加齢に伴う皮膚の老化などの状態を評価又は判定をすることができ、また、線維芽細胞の細胞老化を抑制できる物質(例えば、予防、改善又は治療などができる物質)、及び線維芽細胞の細胞老化を促進する物質(例えば、発生又は悪化などが生じる物質)などを探索し取得することができる。このような探索や知見の蓄積又は利用により、細胞老化又は加齢による皮膚の老化などに関する症状又は疾患を、予防・改善・治療などにつなげることができ、また、皮膚の抗老化又は皮膚の若返りといった美容や治療などにもつなげることもできる。
【0018】
本実施形態におけるより好適な態様として、線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とする、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法を提供することができる。当該スクリーニングを行う際に、指標にする遺伝子を少なくとも有する線維芽細胞を用いること、及び/又は、線維芽細胞の培養を行うことがより好適である。
【0019】
さらにより好適な態様として、線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とし、被験物質による当該遺伝子による線維芽細胞の細胞状態に基づき、被験物質が有する細胞老化状態の調整作用などの被験物質の有用性を判定する、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法を提供することができる。
【0020】
前記スクリーニング方法は、被験物質の評価方法であってもよく、好適な態様として、被験物質が線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質であるかどうかを評価又は判定する方法であってもよい。また、本実施形態では、線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群に存在する単数又は複数の遺伝子から選択される1種又は2種以上の遺伝子又はその遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標として使用してもよい。
【0021】
また、本実施形態では、細胞老化状態の評価、スクリーニング又は調整物質などの「細胞老化状態」は、「細胞の抗老化状態」であってもよい。本実施形態で指標として用いる線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群には、抗老化遺伝子が存在するため、選択する遺伝子が抗老化遺伝子の場合には、細胞の抗老化状態を評価したり、抗老化状態の調整物質をスクリーニングしたりすることが好ましい。
【0022】
<線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群>
線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群における「線維化特性を有する線維芽細胞亜集団」とは、後記〔実施例〕の考察から、「細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)の再構成に関わる機能及び創傷治癒に関わる機能」がみられたため、線維化特性を有する細胞集団と定義することができ、また、細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)の再構成に関わる機能、及び/又は、細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)の創傷治癒に関わる機能を有する細胞集団ともいう。本実施形態において、これら両方の機能を有する細胞集団が好ましい。
細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)の再構成に関わる機能とは、細胞外マトリクスの産生及び分解に関与し、皮膚構造の恒常性維持に寄与する機能のことである(参考文献1:V. Haydont, B.A. Bernard, N.O. Fortunel, Age-related evolutions of the dermis: Clinical signs, fibroblast and extracellular matrix dynamics, Mech Ageing Dev
177 (2019) 150-156.)。細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)の創傷治癒に関わる機能とは、創傷治癒過程における線維芽細胞機能に関連し、細胞外マトリクスの産生および分解に関与し、損傷による皮膚構造の治癒および再生に関わる機能のことである(参考文献2:B.K. Sun, Z. Siprashvili, P.A. Khavari, Advances in skin grafting and treatment of cutaneous wounds, Science 346(6212) (2014) 941-5.)。
【0023】
本実施形態において、前記特徴遺伝子群又は当該遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を、線維芽細胞における細胞老化状態を判定又は評価するための指標として用いることが好ましい。当該指標を用いることで、所望の物質などのスクリーニング又は評価などをより精度よく行うことができる。
【0024】
前記特徴遺伝子群として、例えば、EFEMP2遺伝子、MFAP4遺伝子、SERPINF1遺伝子、CD81遺伝子、CTSD遺伝子、IGFBP4遺伝子、DPT遺伝子、LUM遺伝子、及びWISP2遺伝子などを挙げることができ、これらに特に限定されない。後記〔実施例〕に示すように、これら遺伝子は、前記細胞亜集団に特に発現が高く、他の細胞集団では発現の低い特徴的な遺伝子であって、TOP10遺伝子ともいう。
本実施形態において、前記特徴遺伝子群(好適にはTOP10遺伝子)から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましく、選択された単数又は複数の遺伝子は、スクリーニング等の指標に用いるための「特定遺伝子」として用いてもよい。
【0025】
前記線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうち、EFEMP2遺伝子又は当該遺伝子による線維芽細胞の細胞状態若しくは当該遺伝子発現状態が、本実施形態のスクリーニング又は評価などにおいて、細胞老化状態の指標として、より精度良く用いることができるので、より好ましい。
【0026】
本実施形態の指標として用いるEFEMP2遺伝子に関しては、National library of Medicine Notional(National Center for Biotechnology Information (An official website of the United States government)に開示されている。EFEMP2遺伝子によ
り発現するタンパク質(EFEMP2遺伝子がコードするタンパク質)として、EGF含有フィブリン細胞外マトリクスタンパク質2(EGF containing fibulin extracellular matrix protein 2 [ Homo sapiens (human)])が、開示されている(非特許文献3:National library of Medicine Notional, URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/30008)
。
【0027】
しかし、前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態又は細胞老化状態の指標としてEFEMP2遺伝子を用いることができる根拠となった、EFEMP2遺伝子の発現低下により老化進行をもたらすこと、及びEFEMP2遺伝子が抗老化遺伝子として機能することは、本発明者らによって、実験にて実証された新たな知見である。
具体的には、後記〔実施例〕に示すように、本発明者らが、線維芽細胞中のEFEMP2遺伝子の発現を抑制すると、老化細胞の進行を促進する現象が、統計的優位差をもって、現れた。このことより、本発明者らは、EFEMP2遺伝子が有効に機能することによって、線維芽細胞に対して抗老化という、よりよい影響を与える抗老化遺伝子であると考えた。そして、このEFEMP2遺伝子は、上述した前記特徴遺伝子群に属するものである。また、後記〔実施例〕に示すように、同一人物由来の線維芽細胞であるASF-4細胞系列を、トランスクリプトーム(遺伝子発現)解析することによって、内因性老化の影響を強く受けた前記特徴遺伝子群を見出すこともできた。
【0028】
また、前記特徴遺伝子群が細胞老化と連動することを、トランスクリプトーム解析と同じ細胞を用いて実証し、これら特徴遺伝子群がスクリーニング方法又は評価の指標やツールとして適切であることも見出した。
【0029】
このことにより、本実施形態では、前記特徴遺伝子群(EFEMP2遺伝子を含む)を、指標として、使用することによる、細胞老化状態の評価方法、及び細胞老化状態を調整する物質や抗老化素材、加齢に伴う老化の抑制素材、若返り素材などのスクリーニング方法などを提供することができる。なお、本明細書における「若返り」とは、老化状態の改善を意味し、いくつかの老化指標によって評価可能である(増殖性、形態、遺伝子発現変化、SA-β-gal陽性数の減少等)(参考文献3:Genes Cells. 2012 May; 17(5): 337-343. Epigenetic rejuvenation, Maria Manukyan1 and Prim B Singh2,*)。
【0030】
<前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態の指標>
本実施形態における「前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態」の指標又は判断基準として、特に限定されないが、例えば、細胞形態の変化又は変化量など細胞形態の変化状態;遺伝子産物の発現又は発現量などの遺伝子の発現状態;などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。「細胞形態の変化」は、顕微鏡や自動測定装置などで観察又は解析してもよく、例えば、染色、蛍光、抗原抗体などの手法を適宜用いてもよい。また、「前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態」の測定は、定性的又は定量的のいずれでもよいが、定量的に行うことが、評価又は判定をより客観的に行える観点から、好ましい。当該遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を、「遺伝子の発現状態」として、遺伝子産物の発現状態又は発現量などで測定することが、より客観的により精度よく判定などが行いやすいので、より好ましい。なお、「遺伝子の発現状態」として、遺伝子産物の発現又は発現量などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができるが、これらに限定されない。なお、「前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態」の「細胞状態」は、細胞老化の状態又は細胞の抗老化状態の何れでもよく、例えば、細胞の抗老化状態を指標や判断基準にしてもよい。また、例えば、細胞中の特定遺伝子の働き(例えば、強弱やオンオフなど)が、細胞の状態(細胞老化や抗老化)に影響を与えることなどが考えられる。
【0031】
前記特徴遺伝子群による線維芽細胞の細胞状態を確認するために測定する物質又は前記特徴遺伝子群の発現状態により得られる遺伝子産物として、特に限定されず、例えば、mRNA、tRNA、siRNA、miRNA(micro RNA)、lncRNA(long non-cording RNA)、タンパク質、及びペプチドなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
前記特徴遺伝子群による線維芽細胞の細胞状態又は前記特徴遺伝子群の発現状態(発現量など)を検出又は測定する方法として、特に限定されないが、例えば、ノーザンプロッティング法、マイクロアレイ法、RNAシーケンス法、遺伝子定量法、免疫染色法、ウェスタンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション(ISH)法、次世代シーケンシング(NGS)法、イムノブロット法、染色法、蛍光法、抗体法、アプタマー法、ELISA法、免疫沈殿法、免疫比濁法などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いてもよく、これらを適宜組み合わせて検出又は測定に使用してもよい。これら検出又は測定方法は、公知の検出又は測定方法を適宜採用することができ、将来生じるであろう検出又は測定方法も適宜採用することができる。このうち、ノーザンプロッティング法、マイクロアレイ法、RNAシーケンス法、遺伝子定量法、免疫染色法、ウェスタンブロット法などから選択される1種又は2種上用いることが、好ましい。
【0033】
また、遺伝子定量法又は遺伝子増幅の方法などは、特に限定されず、例えば、PCR法、RT-PCR法、LAMP法など一般的に用いられている方法を用いることができる。
【0034】
また、本実施形態において、前記特徴遺伝子群のうちの遺伝子が、抗老化遺伝子か否かを判定する場合には、上述した検出又は測定方法を適宜採用できるが、ノックダウン法(RNA干渉法)及び/又は細胞老化マーカー法を用いることが好ましく、より好ましくはこれらの組み合わせであり、具体的には、ノックダウン法(好適にはsiRNA法、)及び細胞老化マーカー法(SA-β-Gal陽性法)を組み合わせてもよい。なお、本実施形態において、前記特徴遺伝子群の発現状態を測定する前に、前記特徴遺伝子群(より好適にはEFEMP2遺伝子)の発現抑制を行ってもよく、当該、発現抑制としてノックダウン法などこれらを適宜採用してもよい。
【0035】
細胞老化マーカーとして、特に限定されないが、例えば、SA-β-gal(老化関連β-ガラクトシダーゼ)染色測定、細胞増殖能測定、細胞粒形の測定、老化細胞遺伝子の発現量測定、DNA損傷応答(DDR)マーカーなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。細胞老化マーカーは、市販品のキットなどを適宜利用してもよい。このうち、SA-β-gal(老化関連β-ガラクトシダーゼ)染色が、好ましく、SA-β-ガラクトシダーゼ陽性細胞率(%)は、(SA-β-ガラクトシダーゼ陽性細胞数/評価した全細胞数)×100で求めることができる。
【0036】
<指標>
本実施形態において、前記指標を用いることで、例えば、被験物質に、線維芽細胞の細胞老化状態の調整作用があるかどうかの有無(Yes or No)を判定すること;被験物質の持つ細胞老化状態の調整の作用効果の評価や選定など;などが行いやすい。これにより、被験物質などが、線維芽細胞老化状態の調整作用を有するかどうか、適宜その調整能力や調整の強さなどを簡便に作業効率よく判定することができる。なお、細胞老化状態の調整は、細胞の抗老化状態の調整であってもよい。本実施形態を用いることで、多数の被験物質から、より簡便に作業効率よく所望物質のスクリーニングを行うことができ、被験物質や候補物質から、所望の物質などをより簡便により精度よく評価や選定などすることができる。また、前記指標を用いることで、被験細胞の判定、評価、選定などを行ってもよく、このときに対比や効果の強さ確認などのために、細胞老化状態を調整する剤(抗老化剤、老化促進剤、ポジティブ成分やネガティブ成分など)を用いても良い。
【0037】
<前記特徴遺伝子群のなかの選択された特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態の判定など>
本実施形態では、前記特徴遺伝子群のなかから少なくとも1つの遺伝子を、前記指標にする特定遺伝子として、選択することができ、選択された特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態、特定遺伝子による細胞形態の変化状態等)を指標とすることが好ましい。当該選択された特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態は、コントロールを用いて、判定や評価などを行うことができる。この特定遺伝子は、単数又は複数であってもよいが、単数の方がより簡便に判定できる観点から、好ましい。
【0038】
本実施形態に用いる、コントロールは、対比実験系のような相対的な対比又は同一実験系での時系列変化のような経時的な対比などであってもよいし、公知文献や統計的処理などにて取得した特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態(発現量)等)のデータでもよく、平均値化などの統計的処理がなされた特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態のデータであってもよい。また、本実施形態では、相対値又は絶対値による判定や評価などであってもよい。なお、コントロールを用いる際の細胞状態は、遺伝子の発現状態に限定されず、細胞形態の変化や変化量などの細胞の形態に関する変化状態であってもよい。
【0039】
より好適な具体例として、被験物質及び線維芽細胞を接触させたときの特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態、細胞形態の変化状態等)と、コントロールとを対比して、被験物質による特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態の差をみることができる。当該特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態の差が、コントロールと対比して、大きいほど、より強い老化を抑制する物質又はより強い老化を促進する物質と判定することができる。
【0040】
例えば、被験物質の測定値-コントロールの測定値として対比してもよいし、コントロールを基準値100%とし、例えば(被験物質の測定値/コントロールの測定値)×100(%)と相対比(比率)を求め、対比してもよい。このとき、サンプル同士を精度よく対比又は評価などが行いやすいように、コントロール標本(例えば、被験物質無添加のコントロール標本)と被験物質添加標本とのそれぞれにおいて、特定遺伝子発現量と、ハウスキーピング遺伝子(例えば、GAPDH遺伝子)の発現量とを求め、それぞれの標本から、コントロール標本及び被験物質添加標本の(特定遺伝子発現量/ハウスキーピング遺伝子発現量(例えば、GAPDH遺伝子発現量))をそれぞれ算出し、これら標本同士の対比に用いることができる。簡便にはリアルタイムPCRを用いたΔΔCt法などがある。なお、ハウスキーピング遺伝子として、代表的なものとして、GAPDH遺伝子もしくはACTB遺伝子(ACTB actin beta [ Homo sapiens (human) ])が挙げられるが、これらに限定されず、通常利用されているハウスキーピング遺伝子を適宜選択し用いてもよい。
【0041】
これにより、被験物質によって生じる、線維芽細胞における特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態等)に基づき、被験物質が有する有益性(例えば、細胞老化状態の調整作用又は調整力の強さなど)を、判定又は評価などを行うことができる。
【0042】
また、好適なコントロールとして、例えば、被験物質の添加前の前記特定遺伝子の発現状態、ポジティブ物質添加したときの前記特定遺伝子の発現状態、ネガティブ物質添加したときの前記特定遺伝子の発現状態、被験物質が無添加のコントロールの前記特定遺伝子の発現状態が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。なお、「遺伝子の発現状態」を、「遺伝子による細胞形態の変化状態」に置き換えて行ってもよい。また、コントロールの一例として、被験物質が無添加(溶媒のみ添加)の場合が挙げられる。また、添加物質の側面からではなく、上述したGAPDH遺伝子等の前記特定遺伝子以外でハウスキーピング遺伝子(例えばはACTB遺伝子等)として補正に用いられている遺伝子による線維芽細胞の細胞状態をコントロール(補正)として用いてもよい。
【0043】
また、好適なコントロールとの対比として、例えば、被験物質の添加前の前記特定遺伝子の発現状態と、被験物質の添加後の前記特定遺伝子発現状態との対比;被験物質の添加後の前記特定遺伝子の発現状態と、コントロールにおける前記特定遺伝子の発現状態と対比;コントロール群と被験物質添加群とのそれぞれにおいて、前記特定遺伝子発現状態と、ハウスキーピング遺伝子発現状態から、(特定遺伝子発現量/ハウスキーピング遺伝子発現量)を求め、コントロール群と被験物質添加群との遺伝子発現状態との対比;などにより、前記遺伝子の発現状態の変化を観測(観察及び/又は測定)することなどができる。なお、コントロールの対比における「遺伝子の発現状態」を、「遺伝子による細胞形態の変化状態」に置き換えて行ってもよい。
【0044】
前記特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態(発現量)等)又は上述した対比(例えば、絶対値評価、相対値評価、差や比率などでの評価など)は、公知方法を用いて取得することができる。本実施形態において、取得する特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば発現状態(発現量)等)は、上述した検出又は測定方法を適宜採用することが好ましく、例えば、mRNA(定量PCR、ノーザンブロッティング、マイクロアレイ、RNAシーケンス等、in situ ハイブリダイゼーション(ISH)法)、タンパク又はペプチド(免疫染色、ウェスタンブロット、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assa法等)、および特定遺伝子活動の結果として生ずる脂質や、代謝物から規定される成分などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
そして、例えば、取得した被験物質による特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態、特定遺伝子による細胞形態の変化状態等)が、コントロール(基準)と対比し、変化又は差が生じている場合に、細胞老化状態(老化抑制、抗老化、若さ維持、若い、又は、老け、老化促進のいずれかなど)などを判定することができ、このとき、統計的優位差があることに基づき判定することが、判定の客観性及び精度の観点より、より好ましい。
【0046】
<被験物質>
本実施形態に用いる「被験物質」は、特に限定されず、天然由来又は人工由来の何れでもよく、より具体的な由来として、例えば、動植物由来、微生物由来、鉱物資源由来などから選択される1種又は2種以上が挙げられるがこれらに限定されない。また、被験物質は、被験素材であってもよい。より具体的な被験物質として、例えば、化合物(単品又は混合物);動植物や微生物、人工合成物、これらの細胞;動植物や微生物、合成物などの処理物、培養物、培養上清、抽出物、分離物、精製物;及び、これらの混合物、並びに組成物などから選択される1種又は2種以上であることが好ましい。本実施形態では、化合物は、無機化合物又は有機化合物の何れでもよい。本実施形態では、幅広い物質に対しても、より良好に評価又は判定することができる。
【0047】
本実施形態における、被験物質の溶媒コントロールとして、特に限定されず、被験物質の溶解性(極性、非極性など)を考慮して適宜決定することができるが、例えば、水、DMSO、エタノール等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
本実施形態において、スクリーニング又は評価などを行う際、培地中や試料中等における被験物質の最終濃度は、特に限定されない。そして、被験物質の最終濃度にて、線維芽細胞を含む培地にて培養を行うこと又は反応を行うことなどが挙げられる。本実施形態において、例えば、少なくとも0.00001%以上及び/又は50%以下になるように被験物質の最終濃度を調整した際に、被験物質無添加コントロールと差がない場合には、このような被験物質は細胞老化状態に影響を与えないと判定などを行ってもよい。
【0048】
本実施形態における「被験物質の候補の具体例」として、例えば、活性脂質(例えば、リゾホスファホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、レシチン、リポポリサッカライド、スフィンゴ脂質等);ポリフェノール化合物(例えば、ケルセチン、フィセチン、レスベラトロール、フラボノイド類、及びこれらの配糖体など);カロテノイド化合物(例えば、アスタキサンチン、リコピン、カロテン、クリプトキサンチン等);ビタミン類(VC-pMG、ナイアシン、Q10、ビタミンE及び誘導体等);ムコ多糖(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン等);アミノ酸様化合物(タウリン等);培養上清(幹細胞上清、真皮幹細胞、脂肪幹細胞等の培養上清など);アルカリ金属塩及びアルカリ金属塩(塩化ナトリウム等のアルカリ金属塩化物など);植物抽出物などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。なお、「活性脂質」とは、生理活性脂質ともいわれ、ターゲット蛋白質を介して直にシグナルを伝達する活性をもつ脂質をいう。
本実施形態では、より良好に抗老化状態を評価又は判定することもができるので、これら候補物質のなかから、さらに顕著な効果が発揮し得る物質を得ることも探索することができる。
【0049】
<線維芽細胞>
本実施形態に用いる線維芽細胞は、特に限定されず、好適には動物由来、より好適には哺乳動物由来のものである。本実施形態では、線維芽細胞を含む組織、例えば、真皮組織、又は真皮組織を含む皮膚組織であってもよい。また、本実施形態に用いる線維芽細胞は、浮遊細胞又は付着細胞のいずれでもよい。
前記線維芽細胞として、特に限定されないが、線維芽細胞を含む動物の皮膚、線維芽細胞を含む人工皮膚、これら皮膚に含まれる線維芽細胞、培養線維芽細胞などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。人工皮膚として、三次元皮膚モデルなどが挙げられる。動物由来として、ヒト、ブタなどの哺乳動物が好適であり、また、真皮組織由来が好適である。
【0050】
本実施形態に用いる線維芽細胞は、培養線維芽細胞が好適であり、生体内から採取された線維芽細胞の初代培養の初代線維芽細胞、継代培養された線維芽細胞、iPS細胞、間葉系細胞その他の多分化能を有する幹細胞から分化された線維芽細胞などから選択される1種又は2種以上を用いることができ、線維芽細胞は、細胞老化処理を施したもの又は細胞老化状態にあるもの(例えば、加齢の状態にした細胞など)を用いてもよい。これら細胞や皮膚モデルなどは、市販品、各種保管機関又は公知の製造方法にて取得して使用することができ、また一般のセルバンクから入手可能な細胞を使用することができる。
【0051】
本実施形態に用いる線維芽細胞として、ヒト皮膚由来線維芽細胞がより好適であり、当該ヒト皮膚由来線維芽細胞として、例えば、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)及び線維芽細胞系列(好適にはASF-4細胞)などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができるが、これらに限定されない。このうち、NHDF、HDF、又はASF-4細胞が好適である。なお、近い年齢又は予測したい年齢や年代の細胞株を選択することで、年齢、年代又は加齢などに応じた試験モデルも検討でき、当該試験モデルにより、例えば、年齢又は年代ごとに応じた若さ維持又は老化の予防や改善、老化の進行速度を考慮した抗老化対策などが検討できる。
【0052】
なお、ASF-4細胞系列は、細胞材料開発室-CELL BANK(RIKEBN BRC)、JCRB細胞バンクなどにて取得可能であり、公知の技術を用いて同一ドナーかつ異なる年齢由来の細胞系列を得ることもできる(非特許文献1:Kazuhiko KAJI at el., Human Cell volume 22, p38-42 (2009)、非特許文献2:堀江信之等、名古屋女子大
学紀要. 家政・自然編, 人文・社会編 65 27-38, 2019-03)。なお、ASFの「4-1」が36歳、「4-2」が47歳、「4-3」が56歳、「4-4」が62歳、「4-5」が67歳、「4-6」が72歳、「4-7」が76歳のときに採取され樹立したものであることが知られている。
【0053】
前記線維芽細胞の培養方法は、特に限定されず、公知の培養方法を適宜採用することができる。使用する細胞培養培地は、特に限定されず、市販品又は公知の製造方法にて得られる培地を用いてもよい。また、細胞培養培用培地、培養時の雰囲気、継代培養などの培養条件は、線維芽細胞の種類(例えば、人工皮膚、組織、ASF-4細胞系列など)に応じて、適宜変更してもよい。一例として、線維芽細胞は、市販の培養容器に播種され、細胞培養用培地(例えば、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むDMEM培地)を用いて、37℃にて5%CO2雰囲気下で、培養することができる。
【0054】
被験物質と線維芽細胞とを接触させる条件は、特に限定されず、目的に応じて適宜変更することができる。被験物質と線維芽細胞とを接触させることは、例えば、線維芽細胞と被験物質とが存在する培地で培養することなどが挙げられ、培地への線維芽細胞及び被験物質の添加の順序は、いずれが先後であってもよい。本実施形態では、被験物質及び線維芽細胞を接触後に、これらを含む培地を培養することを含んでもよい。
また、被験物質を含む培養物中の線維芽細胞の密度は、特に限定されないが、例えば、102~106細胞/cm2、好適には103~105細胞/cm2などが挙げられる。
【0055】
本実施形態において、被験物質をスクリーニングする際の培養条件の一例を、以下の(a)~(c)に説明する。コントロールについても、被験物質以外は、同様にして行う。(a)線維芽細胞を培地を含む容器に播種し、一定期間培養した後に、被験物質を所定濃度になるように添加し、線維芽細胞に接触させる。(b)接触後、一定期間、線維芽細胞及び被験物質を存在させて培養する。培地交換ごとに被験物質を所定濃度になるように添加してもよい。(c)所定期間培養のうち、特徴遺伝子群から選択された単数又は複数の特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態、特定遺伝子による細胞形態の変化状態等)を、1回又は複数回、検出又は測定する。一定間隔にて、細胞状態(例えば、発現状態、形態の変化状態)の検出又は測定は、一定間隔にて行ってもよい。
前記スクリーニングでの培養期間は、特に限定されないが、(a)~(c)のような全スクリーニングの培養期間の場合、例えば1~14日間、好ましくは1~7日間である。前記(c)において検出又は測定するための一定間隔は、特に限定されないが、好ましくは0.5日~6日、より好ましくは12時間以上60、48又は36時間以下である。また、スクリーニング期間中に、適宜、継代(植え継ぎ)を行ってもよく、継代は一般的な継代培養の手法(継代のタイミング、剥離方法など)を用いることができる。その継代の回数は単数又は複数のいずれでもよく特に限定されないが、例えば、1~2回程度が好適である。
【0056】
<本実施形態の例>
さらに、本実施形態の好適な態様として、被験物質を接触させた線維芽細胞中の前記特徴遺伝子群のうちの少なくとも1つの遺伝子における細胞状態(遺伝子発現状態等)を取得することが好適である。この取得結果に基づき、被験物質が有する細胞老化状態の調整作用又は調整力の強さなどを、判定、選定又は評価などをすることができる。前記特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を取得するために、各種測定を行ってもよく、これにより前記特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態のデータ又は情報などを取得することができる。前記特定遺伝子のうち、EFEMP2遺伝子が好適である。
【0057】
本実施形態の好適な態様として、被験物質を接触させた線維芽細胞について、被験物質による、線維芽細胞における特徴遺伝子群における細胞状態(遺伝子発現状態等)の変化に基づき、被験物質が有する機能、作用、効能など(例えば、細胞老化状態の調整作用又は調整力の強さなど)を、判定、選定又は評価などをすることが好ましい。
【0058】
例えば、前記特徴遺伝子群のうち指標として選択した1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば遺伝子の発現状態(又は発現量)等)が、コントロールの線維芽細胞の細胞状態(例えば遺伝子の発現状態(又は発現量)等)と対比し、(1)高い場合には、線維芽細胞に接触させた被験物質を、前記細胞状態を促進した物質として、線維芽細胞の細胞老化を抑制できる物質として判定すること、又は、(2)低い場合には、線維芽細胞に接触させた被験物質を、前記細胞状態を抑制した物質として、線維芽細胞の細胞老化を抑制できない物質として判定することができる。なお、本明細書において、判定すること(工程)は、選定すること、評価することであってもよい。このとき、選択した遺伝子は、細胞老化状態の指標として用いることが好適である。また、このとき、選択した遺伝子は、抗老化遺伝子であることが好ましい。
【0059】
上記の(1)高い場合(2)低い場合の判定をより細分化して判定する場合、例えば、前記特徴遺伝子群のうち指標として選択した遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば遺伝子の発現状態(又は発現量)等)が、コントロールの線維芽細胞の細胞状態(例えば遺伝子の発現状態(又は発現量)等)と対比し、(a)被験物質によって抗老化遺伝子の発現量が高い場合には、被験物質は、又は(b)被験物質によって老化遺伝子の発現量が変化がない(例えば統計的優位差がない)場合には、被験物質は細胞老化状態に影響を与えない、又は(c)被験物質によって老化遺伝子の発現量が低い場合には、被験物質は細胞老化状態をより促進する、と判定することもできる。
【0060】
なお、本実施形態において、「細胞老化状態を抑制できる」は、「細胞老化状態を促進しない」若しくは「細胞の若返りを促進できる」;「細胞老化状態をより促進する」は、「細胞老化状態をより抑制しない」若しくは「細胞の若返りをより抑制する」とすることもできる。また、「細胞老化状態を抑制できない」は、「細胞老化状態に影響を与えない、又は、細胞老化を促進する」とすることもできる。
【0061】
本実施形態のより具体的な好適な態様として、
(A)被験物質と、線維芽細胞とを接触させる工程、
(B)被験物質を接触させた後、線維芽細胞中の前記特徴遺伝子群のうちの少なくとも1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態の変化に基づき、被験物質を判定する工程と、を含む、スクリーニング方法を提供することができる。当該(B)判定する工程は、選定又は評価であってもよく、また、前記(A)接触させる工程をスキップして、被験物質の判定などを行ってもよい。また、前記(B)工程において、前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態は、各種の測定方法、測定装置又は測定工程にて、取得してもよい。当該遺伝子による線維芽細胞の細胞状態は、例えば、遺伝子の発現状態や細胞形態の変化状態であってもよい。
【0062】
前記(A)工程において、被験物質を接触させる前に、前記特定遺伝子の発現を調整(例えば、抑制や促進など)するように線維芽細胞を処理してもよく、これを前処理工程としてもよい。
前記(B)工程における「発現状態の変化に基づき」は、「コントロールとの対比」であってもよく、例えば、前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態をコントロールと対比し被験物質を判定すること;などが挙げられる。
【0063】
前記コントロールとの対比として、例えば、被験物質の添加前の前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態と、被験物質の添加後の前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態との差による対比;被験物質によるコントロールとの対比などにより、前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態の変化を観測(観察及び/又は測定)することなどができる。
【0064】
さらに、本実施形態のより具体的な好適な態様として、
(A)被験物質と、線維芽細胞とを接触させる工程、
(B)線維芽細胞中の前記特徴遺伝子群のうちの少なくとも1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば細胞老化の状態)を、指標として、コントロールと対比し、
前記細胞状態(発現状態、細胞形態の変化状態等)を促進した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制する物質と選択する、又は、
前記細胞状態(発現状態、細胞形態の変化状態等)を抑制した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制できない物質と選定する、選定工程とを含む、スクリーニング方法を提供することができ、このとき前記遺伝子は抗老化遺伝子である場合が好ましい。
なお、「細胞老化を抑制する」は、「細胞の若さが維持されている」を含んでもよく、「細胞老化を抑制できない」は、「細胞の若さが維持されていない」、「細胞老化に影響を与えない」、「細胞老化を促進する」を含んでもよく、統計的処理などにより、これらのいずれに含まれるか判定してもよい。
【0065】
<本実施形態における別の態様>
本実施形態における別の態様として、線維芽細胞(好適には対象動物の皮膚細胞又は線維芽細胞)の判定、評価などを行ってもよい。
本実施形態におけるより好適な態様として、線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば遺伝子の発現状態、細胞形態の変化状態等)を指標とする、対象動物の皮膚細胞の老化状態又は抗老化状態を評価する方法を提供してもよく、当該評価方法は、判定方法であってもよい。
【0066】
本実施形態において、対象動物は、特に限定されないが、哺乳動物が好適であり、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ウマ、マウスなどから選択される1種又は2種以上を用いることが好適であり、このうち、美容目的などから、ヒトが好適である。
【0067】
本実施形態において、生物学的試料中の前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とすることが好適であり、生物学的試料として、例えば、被験動物から採取された血液、細胞及び組織から選択される1種又は2種以上である。
【0068】
本実施形態において、前記特徴遺伝子群は、線維芽細胞老化状態に関与する遺伝子群であることが好適である。前記遺伝子発現状態は、EFEMP2遺伝子発現状態である、又は、前記遺伝子群から選択される遺伝子は、EFEMP2遺伝子であることが好適である。
【0069】
また、本実施形態の好適な態様として、(1)培養した線維芽細胞における特定遺伝子による細胞状態(例えば特定遺伝子の発現状態(発現量)等)を測定して、特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を取得する工程、
(2) 前記特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態が、コントロールとの対比において、
(a)低下している場合には、老化が進行している、又は、(b)増加している場合には、老化が抑制されている、と判定する工程を含む、評価方法を提供してもよく、当該判定工程において、前記遺伝子が抗老化遺伝子である場合、又は、前記遺伝子が、老化を抑制するタンパク質を発現する遺伝子である場合での判定が好適である。なお、「老化が抑制されていない又は老化が抑制されている」は、「若さが維持されていない又は維持されている」としてもよい。
【0070】
前記コントロールは、特に限定されず、コントロール細胞であってもよく、コントロール細胞として、特に限定されず、例えば、同年齢又は同年代の線維芽細胞であってもよいし、同一対象の以前に採取した線維芽細胞であってもよく、予め取得した細胞状態(例えば、発現状態(発現量))のデータでもよく、平均値化などの統計的処理がなされた細胞状態のデータであってもよい。
【0071】
本実施形態において、前記(1)の培養した線維芽細胞は、対象動物の皮膚から採取された線維芽細胞を含む皮膚から、線維芽細胞を抽出する工程、及び/又は、処理された線維芽細胞を培養(好適には、継代培養)する工程にて、得られたものであることが好適である。
【0072】
なお、本実施形態に係る方法(例えば、スクリーニング方法や評価方法)において、被験物質による細胞状態を判定する又は評価する工程などは、コンピュータにより又は評価装置などにより、実施してもよい。
【0073】
本実施形態に関する方法を、スクリーニング又は評価などに用いるための装置又はシステム(例えば、コンピュータ、PLC、サーバ、クラウドサービスなど)における、CPUなどを含む制御装置又は制御部によって、実現させることも可能である。また、本実施形態に関する方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリなど)、SDD、HDD、CD、DVD、ブルーレイなど)などを備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、制御部によって実現させることも可能である。本実施形態におけるスクリーニング方法、判定若しくは評価方法などの方法を実行するためのシステムなどを含む制御部もしくは当該システムを備える装置を提供することも可能である。
【0074】
本実施形態におけるスクリーニング方法又は評価方法などの方法を実行するための装置又システムは、キーボードなどの入力部、ネットワークなどの通信部、ディスプレイなどの出力部、HDDなどの記憶部、測定部などを備えることができる。当該装置又はシステムは、入力部、出力部、記憶部を備えることが好ましく、さらに、通信部及び/又は測定部を備えることが好ましい。
【0075】
また、本実施形態に係るスクリーニング、評価などに関するシステムは、プログラム及びハードウェアを利用することによって実行することができる。本発明の一実施形態に係るコンピュータ1の一実施形態(図示せず)は、これに限定されないが、コンピュータ1の構成要素として、CPUを少なくとも備え、さらに、RAM、記憶部、出力部、入力部、通信部、ROM、及び測定部などから選択される1種又は2種を備えることができ、このうちRAM、記憶部、出力部及び入力部を備えることが好適であり、さらに、通信部、測定部、ROMなどを少なくとも1つ備えることが好適である。それぞれの構成要素は、例えばデータの伝送路としてのバスで接続されていることが好適である。
【0076】
上述した本発明におけるスクリーニング方法などの例の説明において、後述の「2.」「3.」等と同じ又は重複する、線維芽細胞、被験物質、遺伝子による線維芽細胞の細胞状態、スクリーニング方法、評価方法などの各技術的特徴、各構成要件、各用語、各方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「3.」等の説明が、上述した本実施形態にも当てはまり、本実施形態に適宜採用することができる。
【0077】
2.細胞老化状態調整用組成物など
本発明における細胞老化状態調整用組成物などの例の説明において、前述の「1.」及び後述の「3.」等と同じ又は重複する、線維芽細胞、被験物質、遺伝子による線維芽細胞の細胞状態、スクリーニング方法、評価方法などの各技術的特徴、各構成要件、各用語、各方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「3.」等の説明が、本実施形態の何れにも当てはまり、本実施形態に適宜採用することができる。
【0078】
本実施形態における別の目的として、細胞老化状態の調整作用を有する物質(「前記有効物質」ともいう)、若しくは細胞老化状態の調整の有効成分、細胞老化状態調整用組成物などを提供することを目的とすることも可能である。本実施形態のスクリーニング方法等にて得られる物質の「細胞老化状態」は、「線維芽細胞の細胞老化状態」であることが、好ましい。
本実施形態では、前記有効物質等の探索又は評価に関する技術を提供することができ、具体的に、前記指標を用いて、細胞老化状態の調整作用を有する物質、若しくは細胞老化状態の調整の有効成分、細胞老化状態の調整用組成物を提供することができる。これにより、細胞老化状態の調整物質を提供することができる。当該細胞老化状態は、線維芽細胞の老化状態、皮膚(好適には真皮)の老化状態であることが好適であり、加齢による細胞老化状態であることがより好適である。本実施形態における「細胞老化状態調整」は、「EFEMP2遺伝子発現調整」としてもよく、EFEMP2遺伝子発現調整による細胞老化状態の調整であってもよい。
【0079】
本実施形態における細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法、評価及び/又は選択方法によって、選択された又は選定された物質(以下、「選定物質」ともいう)を、細胞老化状態の調整作用を有する物質として、又は、細胞老化状態の調整用組成物の有効成分として、提供することができる。
また、当該細胞老化状態の調整作用を有する物質のスクリーニング方法、評価及び/又は選択方法は、本実施形態における細胞老化状態の調整作用を有する物質のスクリーニング、評価及び/又は選択に用いる装置又はシステムであってもよい。
【0080】
線維芽細胞の細胞老化状態の調整作用として、例えば、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する作用、皮膚の老化状態を調整する作用、加齢による細胞の老化状態を調整する作用などが挙げられるが、これらに限定されない。当該調整作用には、促進若しくは誘導作用、及び、阻害若しくは抑制作用、改善作用、維持作用などが挙げられる。これらから1種又は2種以上を選択することができる。
よって、本実施形態の細胞老化状態の調整の評価及び/又は選択方法によって得られた選定物質又は細胞老化状態の調整作用を有する物質(以下、「前記有効物質」ともう)は、細胞老化状態の調整作用を有するので、線維芽細胞又は皮膚の抗老化、老化抑制、若返りなど;加齢による線維芽細胞又は皮膚の老化抑制などに対して効果を発揮することができる。
【0081】
本実施形態に用いる前記有効物質又は前記選定物質(以下、「前記有効物質等」ともいう)は、特に限定されず、天然由来又は人工由来の何れでもよく、また、単品又は混合物の何れでもよい。また、選定物質は、化合物、微生物又はこの培養物、抽出物、及びこれらの混合物、並びに組成物などから選択される1種又は2種以上であることが好適である。化合物は、無機化合物、有機化合物の何れでもよい。前記有効物質等は、上述した<被験物質>に記載の「被験物質の候補の具体例」から選択される1種又は2種以上であることが好適である。
【0082】
前記有効物質等の製造方法又は抽出方法の一例として、前記有効物質等を含む素材、例えば植物、動物等から、前記有効物質等を抽出することができる。
植物の場合、抽出に使用する部位として、何れの部位を用いてもよいが、例えば、種子、実、葉、茎、根及び全草等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択したものを用いることができる。
また、素材に応じた処理を行うことが好ましく、例えば、乾燥、粉砕、切断又は細断等の物理的処理、又は、酵素分解等による酵素的処理等の処理を適宜施したものを使用することができ、当該処理後に抽出を行うことが望ましい。
【0083】
前記抽出方法は、特に限定されない。例えば、当該抽出は、抽出部位を一定温度(低温、室温又は加温)下にて、所定期間、浸漬法、向流抽出法等の常法の抽出法にて抽出溶媒を用いて行えばよい。前処理として、抽出部位を、必要に応じて予め水洗浄して異物を除去した後、これをそのまま又は乾燥し、さらに必要に応じて切断又は粉砕してもよい。
【0084】
前記抽出に用いられる溶媒として、特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択したものを用いることができる。このうち水溶性有機溶媒が好ましく、また、アルコール類及び/又は水が好ましい。前記アルコール類として、例えば、低級1価アルコール(例えば、メタノール、エタノール等);液状多価アルコール(例えば、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)等が挙げられる。前記アルコール類は、1価アルコール類及び2価アルコール類が好ましく、アルコール類の炭素数は1~5程度であるのが好ましい。前記アルコール類のうち、エタノール、1,3-ブチレングリコール(1,3-BG)が好ましい。これらから選ばれる1種又は2種以上のものを用いることができる。また、アルコール水溶液の場合、水の濃度(V/V)は、好ましくは0~100体積%であり、より好ましくは20~80体積%である。
【0085】
抽出する際のpHは、特に限定されないが、一般的にpH4~9の範囲とすることが好ましい。
好適な抽出方法の例として、素材を、前記抽出溶媒にて、室温(例えば1~30℃程度)又は加温(例えば30~100℃程度)で、5分間~50日間抽出を行う方法が挙げられる。
得られた抽出物は、適宜希釈若しくは濃縮により所望の濃度とした上で、ろ過やクロマト分離等の分離精製方法により不純物を除去してもよい。また、適宜、スプレードライ法、凍結乾燥法等の常法に従って乾燥させてもよい。得られた抽出物の形態は特に限定されず、例えば、液状、固形状、半固形状、粉末状等を挙げることができる。なお、本実施形態に用いる抽出物は、市販品を用いてもよい。
【0086】
本実施形態において、前記有効物質等として、活性脂質(リゾホスファホスファチジン酸, リゾホスファチジルコリン、レシチン、リポポリサッカライド、スフィンゴ脂質等);ポリフェノール化合物(ケルセチン、フィセチン、レスベラトロール、フラボノイド類);カロテノイド化合物(アスタキサンチン、リコピン、カロテン、クリプトキサンチン等);ビタミン類(VP-pMG、ナイアシン、Q10、ビタミンE類(ビタミンE及びその誘導体)等);ムコ多糖(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン等);培養上清(幹細胞上清、真皮幹細胞、脂肪幹細胞等);アルカリ金属塩(塩化ナトリウム等);アミノ酸様化合物(タウリン等)等が挙げられ、これらから選択された1種又は2種以上の前記有効物質等を使用することができる。
【0087】
前記有効物質等のうち、ポリフェノール化合物(ケルセチン、フィセチン、レスベラトロール、フラボノイド類及びこれらの配糖体等)及び/又はタウリン化合物(チオタウリン、ヒポタウリン、タウリン等)が、抗老化遺伝子(好適には、EFEMP2遺伝子)の発現状態を促進作用、線維芽細胞の老化抑制作用、若返り作用等を有することができるので、好ましく、さらに、ケルセチン及び/又はレスベラトロール、並びに、タウリンから選択される1種又は2種以上が、より好ましい。これらは、市販品又は公知の製造方法にて取得してもよい。
EFEMP2遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば遺伝子の発現状態等)を促進する物質は、例えば、老化、皮膚老化、真皮の老化などの予防・改善・治療、若返り維持に用いることが好適であり、より具体的な症状などとして、例えば、シワ、たるみ、ほうれい線、しみ、くすみなど;慢性的な微弱炎症惹起や創傷治癒不全などから選択される1種又は2種以上の予防、改善、治療に用いることが、さらに好適である。
【0088】
ケルセチン(quercetin)及びこの配糖体は、フラボノイド(ポリフェノール)の1種で、野菜などに多く含まれており、抗酸化作用が知られている。ケルセチン配糖体として、ルチン等が挙げられ、ルチンは、ケルセチンの3位に二糖のβ-ルチノース(6-O-α-L-ラムノシル-β-D-グルコース)がグリコシド結合したフラボノイド配糖体であり、この3位に、グリコシド結合するオリゴ糖(2~5糖残基程度)が結合するものでもよい。
【0089】
レスベラトロール(resveratrol)及びその配糖体は、はスチルベノイド(スチルベン誘導体)ポリフェノールの一種であり、ブドウの果皮などにも含まれる抗酸化物質として知られている。
【0090】
タウリンは、動物の生体中の組織に存在する物質であり、胆汁の分泌を促進させたり、肝臓に働きを促す作用が知られている。
なお、タウリン化合物とは、上述のように、チオタウリン(別名:2-アミノエタンチオスルホン酸)、ヒポタウリン(別名:2-アミノエタンスルフィン酸)、タウリン(別名:2-アミノエタンスルホン酸)が挙げられ、これらはイオウ及びアミノ基を有する化合物であって、2-アミノエタン及びS(=O)OHを構造に少なくとも有することで共通する化合物であり、前記イオウは1個又は2個が好ましく、前記アミノ基は1個が好ましい。
【0091】
前記有効物質等は、細胞老化状態調整用の組成物、細胞老化状態の予防・改善・治療用の組成物などの有効成分として含有させること又は当該組成物等に使用することができる。なお、本実施形態において、当該組成物は、剤であってもよいし、剤は、組成物であってもよい。
また、前記有効物質等は、本実施形態の細胞老化状態調整用組成物等を製造するために使用することができる。
また、本実施形態は、細胞老化状態の調整などのための、前記有効物質等又はその使用を提供することもできる。また、本実施形態は、細胞老化状態の調整などのために用いる、前記有効物質等を提供することもできる。当該細胞老化状態調整等は、老化、皮膚老化、真皮の老化などの予防・改善・治療、若返り維持などから選択される1種又は2種以上であってもよい。
本実施形態は、前記有効物質等を用いる細胞老化状態の調整方法、老化などの予防・改善・治療、若返りの方法、又は前記選定物質又は有効成分を含む組成物を用いる細胞老化状態の調整方法、老化などの予防・改善・治療の方法、若返りの方法を提供することも可能である。
【0092】
前記有効物質等は、上述した生理活性作用を発揮するため、老化などに起因する症状若しくは疾患の予防、改善又は治療の方法に使用することができる。
皮膚老化(好適には真皮の老化)の症状又は疾患として、特に限定されないが、例えば、シワ、たるみ、ほうれい線、しみ、くすみなど;慢性的な微弱炎症惹起や創傷治癒不全などが挙げられ、これらからなる群から1種又は2種以上を選択することができる。
【0093】
本実施形態において、「予防」とは、適用対象における症状若しくは疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象における症状若しくは疾患の発症の危険性を低下させること等をいう。本実施形態において、「改善」とは、適用対象における疾患、症状又は状態の好転又は維持;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0094】
本実施形態は、前記有効物質等を、例えば、化粧料、皮膚外用剤、医薬部外品、飲食品、飼料、これらへの添加剤等に、使用することができるが、これらに特に限定されない。
また、前記「細胞老化状態の調整用組成物等」は、例えば、化粧料、皮膚外用剤、医薬部外品、飲食品、飼料等として、使用してもよいが、これらに特に限定されず、また、これらから1種又は2種以上を選択してもよい。このうち、化粧料、及び皮膚外用剤、医薬品、及び医薬部外品等が、好適である。
また、前記「細胞老化状態の調整用組成物等」は、組成物に対する配合剤又は添加剤として使用してもよく、例えば、化粧料、皮膚外用剤、医薬部外品、飲食品、飼料等の組成物に配合又は添加するために用いる「細胞老化状態の調整用組成物等」であってもよい。
【0095】
本実施形態が、例えば、化粧料、及び皮膚外用剤の場合には、前記有効物質等又は細胞老化状態の調整用組成物等を、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、メーキャップ化粧料、分散液、軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の種々の形態の化粧料又は皮膚外用剤に配合することができるが、これらに限定されない。本実施形態は、これらから1種又は2種以上を選択することができる。
【0096】
本実施形態が、例えば、医薬品、及び医薬部外品の場合には、前記有効物質等又は細胞老化状態の調整用組成物等を、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤等の経口剤;外皮用剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤、口腔剤、坐剤等の外用剤;点滴剤、注射剤等の非経口剤に配合することできるが、これらに限定されない。本実施形態は、これらから1種又は2種以上を選択することができる。
【0097】
また、本実施形態が、例えば、食品組成物の場合には、前記有効物質等又は細胞老化状態の調整用組成物等を、例えば、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ゼリー状飲料、ニアウォーター等の飲料;ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品に、及びそれらの原料として配合することができるが、これらに限定されない。また、当該食品組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、液剤、シロップ等の経口投与製剤の形態を有するサプリメントであってもよい。また、当該食品組成物には、上述した抗老化等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した機能性表示食品、特定保健用食品、サプリメント等が包含されうる。これらの食品は機能表示が許可された食品であるため、一般の食品と区別することができる。本実施形態は、これらから1種又は2種以上を選択することができる。
【0098】
前記有効物質等又は細胞老化状態の調整用組成物等は、公知の製造方法を利用して製造することができる。前記有効物質等は、市販品を用いてもよい。
【0099】
前記有効物質等の含有量は、特に制限はなく、組成物中又は製剤全量中、前記有効物質等を、例えば0.0001~99%が挙げられ、好ましくは0.001~99質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.01~90質量%程度含有させることができる。「製剤全量中」の「製剤」は、前記「細胞老化状態調整用組成物等」であってもよい。
【0100】
前記有効物質等又は細胞老化状態調整用組成物等の適用対象は、ヒト、及び非ヒト動物(例えば、ペット、家畜等)等に適用することができる。このうち、ヒト及びペットが好ましく、より好ましくはヒトである。
【0101】
前記有効物質等又は細胞老化状態調整用組成物等の使用方法としては、経皮投与、経口投与、注射による投与等の投与;経口摂取;皮膚への塗布等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記有効物質等の使用量又は投与量としては、本発明の効果が得られる量であればよく、特に制限はなく、当該製剤の剤型、適用部位、年齢、性別等に応じて適宜調整するとよい。
【0102】
細胞老化状態調整用組成物等は、公知の製造方法を利用して製造することができる。また、当該細胞老化状態調整用組成物等は、前記選定物質又は前記有効物質の他に、必要に応じて各種添加剤等の任意成分を併用することができる。
【0103】
本実施形態において、前記任意成分として、化粧料、皮膚外用剤、医薬品、飲食品、又は飼料等において許容される成分を適宜配合することができ、例えば、賦形剤、着色剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、保湿剤、pH調整剤等から選択される1種又は2種以上を適宜使用してもよく、これにより所望の剤型を得ることができる。
【0104】
3.また、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
【0105】
・〔1〕 線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とする、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法。当該「遺伝子による線維芽細胞の細胞状態」は、遺伝子発現状態又は細胞形態の変化状態であってもよい。また、当該「線維芽細胞の細胞老化状態」は、線維芽細胞の細胞抗老化状態であってもよい。
・〔2〕 線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態に基づき、被験物質の細胞老化状態の調整作用などを判定する、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニング方法。
【0106】
・〔3〕 被験物質と、線維芽細胞とを接触させる工程、
線維芽細胞中の前記特徴遺伝子群のうち少なくとも1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を、コントロールと対比し、
前記細胞状態(発現状態、細胞形態の変化状態等)を促進した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制できる物質と選定する、又は、
前記細胞状態(発現状態、細胞形態の変化状態等)を抑制した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化を抑制できない物質と選定する、工程を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。当該判定工程において、前記遺伝子が抗老化遺伝子である場合、又は、前記遺伝子が、老化を抑制するタンパク質を発現する遺伝子である場合での判定が好適である。
【0107】
・〔4〕 前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態のコントロールは、被験物質の添加前の前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(例えば遺伝子の発現状態等)、ポジティブ物質添加したときの前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態、ネガティブ物質添加したときの前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態、前記被験物質が無添加の前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態から選択される1種以上である、前記〔1〕~〔3〕の何れか1つ記載の方法。
・〔5〕 前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態は、好ましくは遺伝子の発現状態又は細胞形態の変化状態であり、より好ましくは前記遺伝子の発現量等である、前記〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載の方法。
・〔6〕 前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(好適には遺伝子の発現状態)は、mRNA、tRNA、タンパク質、ペプチド、及びDNAなどの遺伝子産物の発現量などから選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔5〕の何れか1つに記載の方法。
【0108】
・〔7〕 前記特徴遺伝子群として、EFEMP2遺伝子、MFAP4遺伝子、SERPINF1遺伝子、CD81遺伝子、CTSD遺伝子、IGFBP4遺伝子、DPT遺伝子、LUM遺伝子、及びWISP2遺伝子などから選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔6〕の何れか1つに記載の方法。
・〔8〕 前記遺伝子群から選択される遺伝子は、EFEMP2遺伝子である、及び/又は、前記特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態が、EFEMP2遺伝子による線維芽細胞の細胞状態である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の方法。
【0109】
・〔9〕 線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とする、対象動物の皮膚細胞の老化状態を評価する方法。好適には、前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態(好適には前記遺伝子の発現状態)は、前記遺伝子の発現量である。
・〔10〕被験動物における生物学的試料中の前記遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を指標とする、前記〔9〕に記載の方法。
・〔11〕 (1) 培養した線維芽細胞の特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を測定して、特定遺伝子による線維芽細胞の細胞状態を取得する工程、
(2) (a)低下している場合には、老化が進行している、又は、(b)増加している場合には、老化が抑制されている、と判定する工程を含む、前記〔9〕又は〔10〕に記載の評価方法。
・〔12〕 前記特徴遺伝子群は、前記〔7〕に記載の9つの遺伝子から選択される遺伝子、又は、前記〔8〕に記載のEFEMP2遺伝子である、前記〔9〕~〔11〕の何れか1つに記載の評価方法。
【0110】
・〔13〕 コンピュータによる、又は、コンピュータを含む装置により実施されるものである、 前記〔1〕~〔12〕の何れか1つに記載の方法。
【0111】
・〔14〕 前記〔1〕~〔13〕の何れか一つに記載の方法により、評価及び/又は選択された有効物質、又は当該有効物質を含有する線維芽細胞の細胞老化状態調整用の組成物(好適にはEFEMP2遺伝子発現調整用組成物)等。
・〔15〕 有効物質を含有する、線維芽細胞の細胞老化状態調整用組成物(好適にはEFEMP2遺伝子発現調整用組成物)等。前記有効物質が、線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質であることが好適である。前記有効物質は、前記〔14〕で選択された有効物質であることが好適である。
・〔16〕 前記〔14〕又は〔15〕に記載の組成物等が、化粧料、皮膚外用剤、医薬部外品、医薬品、食品、添加剤から選択される1種又は2種以上である、前記組成物等。・〔17〕 線維芽細胞の細胞老化状態調整用組成物等を製造するための又は製造するために用いる、有効物質又はその使用。前記有効物質は、前記〔14〕で選択された有効物質であることが好適である。
・〔18〕 線維芽細胞の細胞老化状態調整用組成物等に使用するための又は線維芽細胞の細胞老化状態調整等のための、有効物質又はその使用。前記有効物質は、前記〔14〕で選択された有効物質であることが好適である。
・〔19〕 有効物質を対象動物に使用する、適用する、又は、塗布する、線維芽細胞の細胞老化状態調整等の方法。前記有効物質は、前記〔14〕で選択された有効物質であることが好適である。
【0112】
なお、本明細書において、例えば「調整する(こと)」等の「する(こと)」を、方法、工程、手段又はステップなどとしてもよく、これら用語を適宜置き換えてもよく、例えば、工程を、「する(こと)」、方法又は手段などにしたり、方法を、工程、「する(こと)」又は手段などにしてもよい。手段は、装置であってもよく、装置は手段としてもよい。本明細書において、「第1、第2、第3…」、「A、B、C…」、「1次、2次、3次…」などと数字やアルファベット等を付して、便宜上説明することがあるが、これにより、本発明が、順序など狭義に限定解釈されることはなく、任意に順序を変更してもよい。
【実施例0113】
以下、実施例等に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例等は、本技術の代表的な実施例等の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0114】
<材料:ASF-4細胞>
試験例に使用する細胞株として、ASF-4細胞を使用した。ASF-4細胞は、同一ドナーから得た真皮組織より樹立した線維芽細胞で、ASF-4-1細胞は36歳時点、ASF-4-6細胞は72歳時点の真皮組織から樹立した線維芽細胞である。なお、ASF-4細胞は、CELL BANK(RIKEN
BRC)及びJCRBから入手可能である。ASF-4細胞の作成方法、及び、これと同じように同一ドナーかつ異なる年齢由来の細胞系列の作成方法は、公知の作成方法を参考にすることができる(非特許文献1:Kazuhiko KAJI at el.,Human Cell volume 22, p38-42 (2009))。その他、ASF-4-1からASF-4-5系列を用いた文献情報として、非特許文献2:堀江信之等、名古屋女子大学紀要. 家政・自然編, 人文・社会編 65 27-38, 2019-03(https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282813763977856)などが挙げられる。
【0115】
<試験例1:特徴遺伝子群の検索>
<線維化特性亜集団の特徴遺伝子群について>
下記の実験手法に記載の方法で、クラスタリングした細胞亜集団の特徴遺伝子を抽出した。
各細胞亜集団の特徴遺伝子のうち、Avg_logFC(線維特性を有する線維芽細胞亜集団と、その他3つの亜集団における発現比のlog(2) Fold ChangeのTop10を、特徴遺伝子として、本発明では記述する。線維化特性を有する線維芽細胞亜集団に特に発現の高く、他細胞亜集団では低い、特徴的な遺伝子を10個(GAPDHを除いて9個)抽出した。当該9個の特徴的な遺伝子は、MFAP4遺伝子、SERPINF1遺伝子、CD81遺伝子、EFEMP2遺伝子、CTSD遺伝子、IGFBP4遺伝子、DPT遺伝子、LUM遺伝子、WISP2遺伝子である。
【0116】
細胞亜集団の特徴遺伝子について、下記の実験手法の記載の手法を用いてGene Ontology(GO)解析を行った。GO解析とは、Biological process (生物学的機能)に基づいて付与される遺伝子のアノテーションであり、特徴遺伝子の機能を大まかに把握する目的で実施される。その結果、線維化特性を有する細胞亜集団の特徴遺伝子群は、「細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)の再構成に関わる機能および、創傷治癒に関わる機能」がみられたため、線維化特性を有する細胞集団と定義した。
【0117】
<単一細胞 RNA 配列解析>
単一細胞 RNA 配列解析は、シングルセルRNAシーケンスともいい、トランスクリプトームによる網羅的な遺伝子発現解析手法の一つである。
【0118】
<データ取得方法>
100mmディッシュでほぼ均等なコンフルエント状態で採取した凍結ASF-4-1(36歳ドナー由来、20.4PDL)およびASF-4-6(72歳ドナー由来、16.3PDL)を使用した(PDL: Population doubling level, 集団倍加数)。
最大20,000細胞/サンプルを用いて、以下の試薬でシーケンスライブラリーを調製した。
【0119】
<Chromium Next GEM Chip G Single Cell Kit (PN-1000120)>
Chromium Next GEM Single Cell 3' GEM, Library & Gel Bead Kit v3.1 (PN-1000121) and the Dual Index Kit TT Set A (PN-1000215)ライブラリーはNovaSequence 6000 System device (Illumina) を用いて100 bp paired-end (PE) sequencing (i5 index 10-cycle, i7 index 10-cycle) を実行してデータ取得した。リファレンスゲノムは、hg38.p13とした。
【0120】
<データ解析方法(特徴遺伝子の抽出(各細胞亜集団定義)、およびGO解析)>
生シーケンスデータは、10X Genomics社のCell Ranger, version 3.1.0を用いて処理した。ダウンストリーム解析には、Seuratパッケージバージョン3.2.2(Rバージョン3.6.2)を使用した。合計10,541 個 (ASF-4-1L) および 13,139 個 (ASF-4-6L2) の細胞が Cell Ranger の品質管理ステップを通過した。発現数が200未満の遺伝子、発現数が3未満の細胞はフィルタリングされ、ミトコンドリアリードが5%以上の細胞情報は削除した。
【0121】
フィルタリングの結果、10,080 (ASF-4-1L) および 12,992 (ASF-4-6L2) の単一細胞トランスクリプトームからなる最終データセットとなった。
2つのサンプルデータを統合し、正規化、スケーリング、主成分分析(PCA)を行った。エルボープロットにより、クラスタリングとUniform Manifold Approximate Projection(UMAP)構築に必要な主成分(PC)数を決定した(PC1~PC15)。最終的なUMAPクラスタリングの可視化には、0.2の解像度を使用した。
その結果、4つのクラスター(以降、細胞亜集団と呼称)にクラスタリング(分類)された。各細胞亜集団の特徴遺伝子のうち、Aveg_logFCがTOP10の遺伝子を用いて以下の通りクラスター情報が要約可能となった。
【0122】
さらに、各細胞亜集団の特徴遺伝子について、プログラムDAVID WebserviceにてGene Ontology(GO)解析を行なった。GOはBiological process(生物学的機能)に基づいて付与される遺伝子のアノテーションであり、発現変動遺伝子と関連性の高いTermを抽出し、変動遺伝子の機能を把握し、各細胞亜集団に機能的な名称を付与した。
【0123】
<Aveg_logFCがTOP10の遺伝子:各細胞亜集団を定義する特徴遺伝子群>
【0124】
線維化特性を有する細胞亜集団:MFAP4、GAPDH、SERPINF1、CD81、EFEMP2、CTSD、IGFBP4、DPT、LUM、WISP2。当該線維化特性を有する細胞亜集団として、細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)再構成及び、創傷治癒に関わるGOタームが、検出された。
【0125】
老化特性を有する細胞亜集団:IGFBP5、PI16、MFAP5、PLA2G2A、ABI3BP、ASTF5、IGFBP7。当該老化特性を有する細胞亜集団として、細胞老化および細胞増殖抑制に関わるGOタームが、検出された。
【0126】
増殖特性を有する細胞亜集団:TUBA1B、STMN1、TUBB4B、PTTG1、CENPF、TOP2A、MT2A、H2AFZ、CAV1、TAGLN。当該増殖特性を有する細胞亜集団として、細胞周期および増殖に関わるGOタームが、検出された。
【0127】
組織リモデリング特性を有する細胞亜集団:THBS1、COL12A1、RPS20、RPL23、RPS11、RPL27A、FOS、RPL13A、GJA1、IL6ST。当該組織リモデリング特性を有する細胞亜集団として、細胞外マトリクス(コラーゲン線維等)再構成および、機械刺激に関わるGOタームが検出された。
【0128】
<EFEMP2遺伝子>
上記線維化特性を有する細胞亜集団の特徴遺伝子群のうち、EFEMP2遺伝子を選択し、このEFEMP2遺伝子が、細胞老化状態を評価又は判断の指標として、非常に適したものであるかどうかを、下記に示す試験例にて、判断した。
EFEMP2遺伝子(EFEMP2 EGF containing fibulin extracellular matrix protein 2 [ Homo sapiens (human) ])に関しては、National library of Medicine Notional (ウェブサイト:URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/30008)などに開示されている。
また、本件のスクリーニング等の補正に、GAPDH遺伝子(GAPDH glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase [ Homo sapiens (human) ])を用いることができるが、当該GAPDH遺伝子は、National library of Medicine Notional(ウェブサイト:URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/2597)などに開示されている。
【0129】
<試験例2:EFEMP2遺伝子の抗老化状態の指標の実証>
EFEMP2遺伝子が、非常に優れている抗老化状態の評価又は指標として、用いることができるかどうかを、EFEMP2発現抑制による細胞老化促進の実証にて、確認を行った。
【0130】
このとき、EFEMP2遺伝子の発現を、siRNA法を用いてノックダウンさせ、ノックダウンしたときに、細胞老化が見られる場合には、EFEMP2遺伝子が細胞老化に関与することが確認できる。
【0131】
さらに、ノックダウン後のEFEMP2遺伝子の状況下において、ノックダウン後の比較遺伝子との対比により、ノックダウン後の比較遺伝子よりも、細胞老化状態が強く見られる場合には、EFEMP2遺伝子は抗老化に強く関与する(つまり、EFEMP2遺伝子は、細胞老化状態を判断する際の非常に優れた指標である)と判断することができる。
【0132】
また、ノックダウン後のEFEMP2遺伝子の状況下において、同一ドナーの年齢(若齢と高齢)の違う細胞との対比により、高齢の細胞の方で細胞老化状態が強く見られる場合には、EFEMP2遺伝子は抗老化に強く関与する(つまり、EFEMP2遺伝子は、細胞老化状態を判断する際の非常に優れた指標である)と判断することができる。
【0133】
そして、下記の試験例に示すように、ノックダウン後の種々の細胞老化試験において、非常に高い発現状態又は発現量を得ることができたので、EFEMP2遺伝子は、線維芽細胞の細胞老化状態又は細胞老化状態を評価又は判定するための非常に優れた指標として用いることができることを実証できた。
【0134】
<siRNAによる発現抑制>
ASF-4-1(36歳ドナー由来)およびASF-4-6(72歳ドナー由来)の細胞を12ウェルプレート(CORNIG)に播種し、翌日に下記siRNAを、Lipofectamin試薬(Thermofisher, 13778030)用い、リポフェクション法にて導入した。翌日培地交換し、適切なタイミングで、以下の通り、細胞老化指標を評価した。
<siRNA>
siEFEMP2(EFEMP2の発現抑制):BIONEER社製, #30008-1-B
siCTR(siRNAコントロール):Ambion社製, #4390843
【0135】
<SA-β-galactosidase陽性細胞率の増加の試験>
siRNA処理から3日後に、別の12ウェルプレートに細胞を再播種し、さらに3日目に、キット(SIGMA, #CS0030-1KT)を用い、推奨プロトコールに従って染色を実施した。
陽性細胞は顕微鏡下にてランダムに撮像した細胞画像から、以下の式を用いて算出した。
SA-β-galactosidase陽性細胞比率(%)=SA-β-galactosidase陽性細胞数/評価した全細胞数 x 100
【0136】
ASF-4-1細胞および4-6細胞のそれぞれについて、siCTRとsiEFEMP2の陽性率を比較し、ノックダウンにより陽性細胞比率が増加することを確認した(表1)。各条件について、N=6ずつデータ取得し、チューキー・クレーマー検定 (Tukey-Kramer test)にて検定を実施し、統計的優位であることを確認した(<0.05*)。
【0137】
【0138】
<細胞増殖能の低下の試験>
siRNA処理から6日後に、細胞をカルチャーディッシュから剥離し、自動細胞係数装置(コールターカウンター、ヤマト科学)を用い、11-33μmの細胞数を測定した。ASF-4-1細胞および4-6細胞のそれぞれについて、各wellあたりの細胞数を比較し、ノックダウンにより増殖性が低下していることを確認した(表2)。各条件について、N=6ずつデータ取得し、チューキー・クレーマー検定 (Tukey-Kramer test)にて検定を実施し、統計的優位であることを確認した(<0.001***)。
【0139】
【0140】
<細胞平均粒径の増加の試験>
siRNA処理から3日後、細胞をカルチャーディッシュから剥離し、自動細胞係数装置(コールターカウンター、ヤマト科学)を用い、粒度分布を測定した。ASF-4-1細胞および4-6細胞のそれぞれについて、siCTRとsiEFEMP2の平均粒径を比較し、細胞平均粒径が増加していることを確認した(表3)。各条件について、N=6ずつデータ取得し、チューキー・クレーマー検定 (Tukey-Kramer test)にて検定を実施し、統計的優位であることを確認した(<0.001***)。
【0141】
【0142】
<老化細胞遺伝子の定量PCRの試験>
siRNA処理から3日後に、RNeasy(R)Plus Mini(QIAGEN, #74136)を用い、推奨プロトコールに従って細胞からmRNAを抽出した。mRNAはiScrip Advanced cDNA Synthesis Kit for RT-qPCR(BIO-RAD, # 1725038)を用い、cDNAへと逆転写した。合成cDNAをテンプレートとして、SsoAdvancedTMUniversal SYBR(R) Green Supermix(BIO-RAD, # 172-5271)を用い、ΔΔCt法によって発現量を解析した(表4)。用いたプライマー配列は、市販品を用いてもよく、以下の配列番号2~7に示す。
【0143】
GAPDH (補正に用いたハウスキーピング遺伝子):
配列番号1:CTGACTTCAACAGCGACACC
配列番号2:TGCTGTAGCCAAATTCGTTG
【0144】
解析対象遺伝子1 :
LMNB1:核膜構成タンパクをコードする遺伝子であり、老化により発現低下。
配列番号3:GAAGAAGCAGCTGGAGTGGT
配列番号4:TTGGATGCTCTTGGGGTTCC
【0145】
解析対象遺伝子2
CDKN1A: サイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp21をコードする。老化により発現上昇。
配列番号5:TTAGCAGCGGAACAAGGAGT
配列番号6:GCCGAGAGAAAACAGTCCAG
【0146】
【0147】
<試験例3:特徴遺伝子群のいずれか1つの特定遺伝子(例えば、EFEMP2)を用いたスクリーニング方法>
以下に<被験物質添加~細胞由来mRNA回収まで>を一例として示すが、本実施形態の方法において、培養期間や被験物質の添加期間、検出方法などの条件は、使用する細胞や被験物質などを考慮して、適宜、変更してもよい。
【0148】
<被験物質添加~細胞由来mRNA回収まで>
ヒト皮膚由来線維芽細胞(ASF-4-6細胞で試験)を12 plateに播種し、翌日培地交換と共に被験物質を添加する。さらに翌日培地交換と共に被験物質を再度添加する。処理48時間後にあたる翌々日に、前述同様細胞をmRNA解析様に回収する。ASF-4-6細胞に替えて、異なるドナー年齢由来のASF-4細胞またはNHDF, HDFでもよい。
被験物質の溶媒コントロール(水, DMSO, エタノール等)。
前記特定遺伝子(例えば、EFEMP2遺伝子)の発現状態の検出方法及び測定方法として、定量PCR、タンパク発現量、ウェスタンブロットによる検出などを用いることができる。
【0149】
使用する被験物質は、<被験物質の例示>から選択することが好適である。使用する被験物質の濃度は、特に限定されないが、培地中、0.0001~50%であることが好適であり、培地に被験物質又はこれを含む溶媒を添加し、所望とする培地中の被験物質の濃度(最終濃度ともいう)になるように調節することが望ましい。
コントロールとして、被験物質の添加時の補正遺伝子(例えばGAPDH遺伝子)の発現量をコントロールとすることが好適である。
【0150】
<被験物質の例示>
本実施形態において、被験物質の候補として、以下からなる群から選択される1種又は2種以上を選択することができる。
・活性脂質(リゾホスファホスファチジン酸, リゾホスファチジルコリン、レシチン、リポポリサッカライド、スフィンゴ脂質等)
・ポリフェノール(ケルセチン、フィセチン、レスベラトロール、フラボノイド類)
・カロテノイド(アスタキサンチン、リコピン、カロテン、クリプトキサンチン等)
・ビタミン類(VC-pMG、ナイアシン、Q10、ビタミンE類(ビタミンE及び誘導体)等)
・ムコ多糖(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン等)
・培養上清(幹細胞上清、真皮幹細胞、脂肪幹細胞等)
・アルカリ金属塩(塩化ナトリウム等)
・アミノ酸様化合物(タウリン等)
【0151】
<EFEMP2の検出方法(遺伝子発現量:定量PCR)>
前述<老化細胞遺伝子の定量PCRの試験>でのLMNB1及びCDKN1Aと同様のΔΔCt法にて、EFEMP2遺伝子の発現量を定量した。なお、他の前記特定遺伝子(8つ)について、各遺伝子に対応したプライマーを用いて、この検出方法と同様な検出方法(定量PCR)を行うことができる。
プライマー配列は以下の通り。
配列番号7:TACCCGGGTCTCTACTGCTC
配列番号8:TGTGCATTCCGTGTAGCTGT
【0152】
判定基準及びプロセスの一例は以下のとおりである。
定量PCRにて求めたEFEMP2遺伝子発現量を、以下の通り判定することができる。統計有意性をもって、行うことが望ましい。
【0153】
例えば、被験物質が、コントロールと比較して、EFEMP2遺伝子の発現量が高い場合には、細胞の老化状態を抑制している物質であると評価又は判定することができる。
例えば、被験物質が、コントロールに比較して、EFEMP遺伝子の発現量に変化ない場合には、細胞老化状態に影響を与えないと評価又は判定することができる。
例えば、被験物質が、コントロールに比較して、EFEMP2遺伝子の発現量が低い場合、細胞の老化状態をより促進していると評価又は判定することができる。
【0154】
例えば、コントロールが被験物質無添加の場合、EFEMP2遺伝子の発現状態を確認しやすく、短回帰曲線などの数式にすると、以下のようになる。
Y=被験物質Xを添加した後のEFEMP2発現量/溶媒コントロールのEFEMP2発現量
Y>1:添加物質Xは細胞老化状態を抑制している。
Y<1:添加物質Xは細胞老化状態を促進している。
【0155】
<試験例3A:溶媒コントロールのEFEMP2遺伝子発現量に対する被験物質によるEFEMP2遺伝子発現量での判定>
ASF-4細胞を評価対象細胞として用い、上記<試験例3>のスクリーニング方法及び表5に記載の被験物質を用いて、スクリーニングを実施した。処理後48時間後にあたる翌々日に、被験物質を接触させたASF-4細胞における、GAPDH遺伝子発現量と、EFEMP2遺伝子発現量とを測定した。表5の相対比はΔΔCt法を用いて、GAPDH遺伝子発現量で補正を実施したEFEMP2遺伝子発現量である。判定は、被験物質の相対値が、溶媒コントロールの相対値と対比し、EFEMP2遺伝子が増加した被験物質は、EFEMP2遺伝子発現促進作用があると判定する。当該発現状態を促進した被験物質を、線維芽細胞の細胞老化状態を抑制できる物質と選定することができる。表5において、タウリンと、レスベラトロール及びケルセチン等のポリフェノールとを、線維芽細胞の細胞老化状態を抑制できる物質、一方で、シキミ酸及びD-フルクトースは、線維芽細胞の細胞老化状態を抑制できない物質と選定できた。
【0156】
<被験物質>
・シキミ酸 (富士フィルム和光純薬株式会社製);培地中の最終濃度0.2μg/ml
・D-フルクトース (富士フィルム和光純薬株式会社製);培地中の最終濃度 0.4μg/ml
・タウリン (富士フィルム和光純薬株式会社製);培地中の最終濃度 0.2μg/ml
・レスベラトロール (DSM NUTRITIONAL PRODUCTS社製);培地中の最終濃度 4μg/ml
・ケルセチン水和物 (TCI社製);培地中の最終濃度 1μg/ml
【0157】
【0158】
<被験物質のスクリーニング結果>
線維化特性を有する線維芽細胞亜集団の特徴遺伝子群のうちの少なくともいずれか1つの遺伝子の発現状態、及び、抗老化遺伝子であるEFEMP2遺伝子の発現状態を、指標とすることで、より簡便に精度よく線維芽細胞の細胞老化状態を調整する物質のスクリーニングを実施することができた。