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特開2024-61652アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1及びその有機汚染物分解における使用
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  • 特開-アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1及びその有機汚染物分解における使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061652
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1及びその有機汚染物分解における使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240425BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/20 F
C12N1/20 D
C12R1:01
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178549
(22)【出願日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】202211294292.5
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515126422
【氏名又は名称】浙江工▲業▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成卓▲韋▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼建孟
(72)【発明者】
【氏名】王家徳
(72)【発明者】
【氏名】於建明
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼▲東▼之
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA04X
4B065AC20
4B065BA23
4B065CA46
4B065CA55
4B065CA56
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1及びその有機汚染物の分解における応用を提供する。
【解決手段】アシネトバクター・ベネチアヌス(Acinetobacter Venetianus)PFZR-1を提供する。該菌は新型のシクロヘキサン高効率分解菌であり、かつ環境適応性に優れていると同時に、他の有機汚染物を有効に分解することもできる。前記有機汚染物が、シクロヘキサン、トルエン、メタノール、リモネン、酢酸エチル、シクロヘキサノール、またはシクロヘキサノンを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中国典型培養物寄託センターに寄託され、寄託番号がCCTCC NO:M 2022719、寄託日が2022年5月25日、住所が中国、武漢、武漢大学、430072である、アシネトバクター・ベネチアヌス(Acinetobacter Venetianus)PFZR-1。
【請求項2】
請求項1に記載のアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の、微生物による有機汚染物の分解における使用。
【請求項3】
前記有機汚染物が、シクロヘキサン、トルエン、メタノール、リモネン、酢酸エチル、シクロヘキサノール、またはシクロヘキサノンを含む、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1を、有機汚染物を含む無機塩培地に接種し、pH=5~10、20~40℃、100~200rpmの条件下で分解反応を行わせ、有機汚染物に対する分解を実現する、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記有機汚染物の無機塩培地中の初期濃度が63.3~316.4mg/L、前記無機塩培養液中の静止細胞投入量が菌体濃度OD600値で0.01~0.1である、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記無機塩培養液の組成は、KHPOが0.942g/L、KHPOが0.234g/L、NaNOが1.7g/L、NHClが0.98g/L、MgCl・6HOが0.2033g/L、CaCl・2HOが0.0111g/L、FeClが0.0162g/L、微量元素が5ml/Lで、溶媒は脱イオン水、pH=5~10であり、前記微量元素の組成は、ZnClが0.088g/L、MnCl・4HOが0.060g/L、KIが0.01g/L、NaMoO・2HOが0.1g/L、HBOが0.05g/Lで、溶媒は脱イオン水である、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
前記アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1を接種する前に、まず活性化及び拡大培養を行い、拡大培養した静止細胞を無機塩培地に接種し、前記静止細胞が、
(1)斜面培養:
アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1をLB固体培地に接種し、30℃の培養箱で培養して斜面菌体を得、LB固体培地の組成は、酵母エキスが5g/L、NaClが10g/L、ペプトンが10g/L、寒天が15~20g/Lで、pHには手を加えず、溶媒は脱イオン水であるステップ、
(2)拡大培養:
ステップ(1)の斜面菌体をLB液体培地に接種し、30℃、160rpmで24時間培養して拡大培養液を取得し、遠心分離し、湿菌体を収集し、無機塩培養液で洗浄してアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1静止細胞を取得し、LB液体培地の組成は、酵母エキスが5g/L、NaClが10g/L、ペプトンが10g/Lであり、pHには手を加えず、溶媒は脱イオン水であるステップ、
で調製される、請求項3に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1及びその有機汚染物分解における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素は、炭素と水素という2種類の元素からなる有機化合物であり、いずれも水には溶けないが、有機溶媒には溶けやすく、密度は水より小さいため、水中では油状不溶物として存在する。シクロヘキサン(Cyclohexane、C)は無色で刺激臭のある液体であり、揮発しやすいシクロアルカンである。シクロヘキサンは用途が広く、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、アジピン酸などの製品を生産する原料として用いることができ、溶媒としてはクロマトグラフ分析及び有機合成プロセスに用いることができ、接着剤として樹脂、塗料などの生産に応用することもできる。そのため、シクロヘキサンは、工業生産や分析応用、輸送漏れなどの過程に関連する環境の中に広く存在している。シクロヘキサンは低毒性物質に属しているが、目と気道に対して軽度の刺激作用があり、皮膚接触により痒みを引き起こし、吸入中毒により眩暈、吐き気、いらいらなどの麻酔症状を引き起こすことがある。
【0003】
シクロヘキサンには一定の粘度があるため、土壌、地表水、海洋などの環境の吸着質に付着しやすく、除去しにくいことが多い。微生物も環境の中に広範に存在しており、微生物による汚染物の処理は、コストが低く、操作が簡単で、技術的にクリーンで無害であるといった利点から広く注目されており、現時点で報告されている高効率で汚染物を分解する菌属の種類は非常に多く、シュードモナス属、フラボバクテリウム属、コリネバクテリウム属、アクモバクター属、アルスロバクター属、ペディオコッカス属、ビブリオ属などがよく見られる。シクロヘキサンを唯一の炭素源として成長する微生物は自然界にほとんど存在していないが、実験室での馴致選別分離培養により、シクロヘキサンを唯一の炭素源とする微生物が数多く報告されるようになった。1919年、TauszとPeteが、シクロヘキサンを分解する炭化水素液化桿菌(Bacterium aliphaticumliquifaciens)を初めて分離した。1948年、Imelikはシクロヘキサンを分解できる緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を分離し、かつその代謝産物を研究した。1999年には、国内の李大年らが、シクロヘキサン、シクロペンタノンを唯一の炭素源とすることができる分解菌株を分離した。その後も、ますます多くのシクロヘキサンに関する分解菌が報告されている。アシネトバクター(Acinetobacter)は、ディーゼル油を分解する重要な微生物の一つとしてすでに広く報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、シクロヘキサンを唯一の炭素源とする新たなタイプのアシネトバクター・ベネチアヌス(Acinetobacter Venetianus)を環境から選別し、該汚染物を含む土壌、排ガス、廃水の微生物浄化プロセスの応用のために有力なサポートを提供する。
【0005】
本発明の目的は、アシネトバクター・ベネチアヌス(Acinetobacter Venetianus)PFZR-1を提供することにあり、該菌は新型のシクロヘキサン高効率分解菌であり、かつ環境適応性に優れていると同時に、他の有機汚染物を有効に分解することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明で採用する技術手法は次の通りである。
【0007】
本発明では、シクロヘキサンを分解する新しい菌株-アシネトバクター・ベネチアヌス(Acinetobacter Venetianus)PFZR-1を提供しており、中国典型培養物寄託センターに寄託され、寄託番号はCCTCC NO:M 2022719、寄託日は2022年5月25日、住所は中国、武漢、武漢大学、430072である。
【0008】
本発明のアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の基本的な特徴としては、コロニーは白色で、好気性であり、滑らかで湿っており、楕円形を呈している。
【0009】
本発明は、上記のアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の、微生物による有機汚染物の分解における使用にも関わり、上記の応用とは、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1を、有機汚染物を含む無機塩培地に接種し、pH=5~10(好適にはpH=6~8)、20~40℃、100~200rpmの条件で分解反応を行わせ、有機汚染物に対する分解を実現するというものであり、上記有機汚染物には、シクロヘキサン、トルエン、メタノール、リモネン、酢酸エチル、シクロヘキサノールまたはシクロヘキサノンが含まれており、好適にはシクロヘキサンである。
【0010】
好適には、上記分解反応条件は30℃、160rpmである。
【0011】
好適には、上記有機汚染物の無機塩培地での初期濃度は63.3~316.4mg/L(好適には63.3~158.2mg/L)である。上記アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の無機塩培養液中の投入量は、菌体濃度OD600値で計算して0.01~0.1、好適には0.02である。
【0012】
上記無機塩培養液の組成は、KHPOが0.942g/L、KHPOが0.234g/L、NaNOが1.7g/L、NHClが0.98g/L、MgCl・6HOが0.2033g/L、CaCl・2HOが0.0111g/L、FeClが0.0162g/L、微量元素が5ml/Lで、溶媒は脱イオン水、pH=5~10である。上記微量元素の組成は、ZnCl 0.088g/L、MnCl・4HO 0.060g/L、KI 0.01g/L、NaMoO・2HO 0.1g/L、HBO 0.05g/Lで、溶媒は脱イオン水である。
【0013】
本発明の上記アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1を接種する前に、まず活性化及び拡大培養を行い、拡大培養した静止細胞を無機塩培地に接種する。上記の静止細胞は、以下のステップによって調製する。
【0014】
(1)斜面培養:
アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1をLB固体培地に接種し、30℃の培養箱で培養して斜面菌体を得る。LB固体培地の組成は、酵母エキスが5g/L、NaClが10g/L、ペプトンが10g/L、寒天が15~20g/Lで、pHには手を加えず、溶媒は脱イオン水である。
【0015】
(2)拡大培養:
ステップ(1)の斜面菌体をLB液体培地に接種し、30℃、160rpmで24時間培養して拡大培養液を取得し、遠心分離し、湿菌体を収集し、無機塩培養液で洗浄し、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の静止細胞を得る。LB液体培地の組成は、酵母エキスが5g/L、NaClが10g/L、ペプトンが10g/Lで、pHには手を加えず、溶媒は脱イオン水である。
【0016】
従来の技術と比較すると、本発明の有益な効果は主に以下の通りである。
【0017】
本発明は、有機汚染物、特にシクロヘキサンの高効率分解菌-アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1を提供しており、該菌は汚水処理場の汚泥の中から得られ、シクロヘキサンを唯一の炭素源及びエネルギー源として成長することができ、分解濃度は316.4mg/Lに達し、かつ該菌の成長に適するpH範囲はかなり広く、pHが6.0~8.0であればシクロヘキサンを比較的よく分解することができ、分解率はいずれも90%以上に達することができる。しかも、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1は、シクロヘキサンに対する分解効率が高く、コストが低く、操作が簡単で、二次汚染が発生せず、従来の吸着及び光触媒による分解に比べると、さらに優位性がある。既存のシクロヘキサン分解菌と比較して、PFZR-1菌株の分解濃度範囲は広く(63.3~316.4mg/L)、適応性が強く(pH:6.0~8.0)、その他の様々な汚染物に対しても一定の分解作用を有している(トルエン、メタノール、リモネン、酢酸エチル、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノン)。つまり、該汚染物を含む土壌、排ガス、廃水の微生物浄化プロセスの応用のために有力な技術的サポートを提供しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】菌株PFZR-1のLB培地でのコロニー形態の写真である。
図2】菌株PFZR-1の透過型電子顕微鏡写真である。
図3】菌株PFZR-1の系統発生樹である。
図4】48時間以内における、異なる濃度のシクロヘキサンに対する菌株PFZR-1の分解曲線である。
図5】48時間での異なるpHにおける菌株PFZR-1のシクロヘキサンに対する分解曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
以下では、具体的実施例と結び付けて本発明についてさらに説明するが、本発明の保護範囲がこれに限定されるわけではない。
【0020】
以下の実施例及び図面は例示的な説明に用いるものであり、本発明に対する限定と理解することはできない。特に説明のない限り、下記の実施例で使用される試薬原料は、一般的な市販または商業ルートにより得られる生化学試薬原料であり、使用される実験器具は、特に説明のない限り、いずれも実験室で通常使われている器具であり、以下の実施例中で使用される方法及び設備は、同分野で通常使用されている方法及び設備である。
【0021】
本発明の実施例に用いる培地の組成は以下の通りである。
【0022】
無機塩培養液の組成は、KHPOが0.942g/L、KHPOが0.234g/L、NaNOが1.7g/L、NHClが0.98g/L、MgCl・6HOが0.2033g/L、CaCl・2HOが0.0111g/L、FeClが0.0162g/L、微量元素が5ml/Lで、溶媒は脱イオン水、pH=5~10である。上記微量元素の組成は、ZnClが0.088g/L、MnCl・4HOが0.060g/L、KIが0.01g/L、NaMoO・2HOが0.1g/L、HBOが0.05g/Lで、溶媒は脱イオン水である。
【0023】
LB固体培地の組成:酵母エキス5g/L、NaCl10g/L、ペプトン10g/L、寒天15~20g/L、pHには手を加えず、溶媒は脱イオン水である。
【0024】
LB液体培地の組成:酵母エキス5g/L、NaCl10g/L、ペプトン10g/L、pHには手を加えず、溶媒は脱イオン水である。
【実施例0025】
実施例1:アシネトバクター・ベネチアヌス(Acinetobacter Venetianus)PFZR-1の分離、精製及びその同定
【0026】
1、サンプルの採取及び馴致
(1)一次選別:何らかの生活汚水処理プールの活性汚泥を現場で採取し、静置して2時間沈降させた後、脱離液と懸濁不純物を除去すると、粒子の細かい汚泥が残るので、静置後の下層汚泥と無機塩培地を取って1:1(v/v)で混合して混合培地とし、汚泥馴致タンクに投入する。総体積は4Lで、シクロヘキサンを基質とし、それを唯一の炭素源及びエネルギーとし、(30±1℃)の恒温で汚泥を馴致する。馴致実験期間中は馴致タンクに対して安定的に曝気を行い、馴致タンクのpH値を7.0に維持し、一日の中で基質濃度が30mg/L以下まで下がった時に、基質を1回加えて投入後の基質濃度を100mg/Lに到達させ(基質投入前にサンプリングし、残存基質濃度を測定する)、5日間隔で混合培地を交換すると、約2ヶ月後、馴致された汚泥が1日当たり150mg/Lのシクロヘキサンを安定的に分解することができるようになり、このサンプルを振盪フラスコに入れてさらに濃縮することにより、馴致サンプルを得る。
【0027】
上記の馴致されたサンプルを、体積濃度10%の投入量で50mLの無機塩培地に接種し、シクロヘキサンを基質とし、初期濃度を63.3mg/Lとして、30℃、160r/分で、振盪器上で培養し、実施例3に記載のガスクロマトグラフィーを用いて48時間内の残存基質濃度を測定し、基質の分解率が80%前後に達した後、培養液を体積濃度10%の投入量で同等濃度(63.3mg/L)のシクロヘキサンを含む新鮮な無機塩培地に移し、継代濃縮を行い、その後、徐々にシクロヘキサンの初期濃度(63.3~316.4mg/L)を増やして継代濃縮を数回行い、シクロヘキサン投入濃度が316.4mg/Lの培養液を集めて一次選別サンプルとする。
【0028】
(2)再選別:一次選別したサンプルを希釈して63.3mg/Lのシクロヘキサンを含む無機塩固体培地に塗布し、プレート倒置法を用いて30℃で24時間成長させ、単コロニーをピックアップする。単コロニーは、LB固体培地の中で画線分離を数回行った後、再びシクロヘキサン(初期濃度:63.3mg/L)を唯一の炭素源及びエネルギー源とする無機塩培地中に接種し、30℃で48時間培養し、実施例3に記載のガスクロマトグラフィーを用いて残存基質濃度を測定し、分解活性を計算する。
【0029】
シクロヘキサン分解能力を有する単コロニーを選択し、再選別のステップを繰り返して分離精製をさらに進め、分解が80%以上に達すると、シクロヘキサン分解活性を有する菌株が得られるので、これを菌株PFZR-1とする。
【0030】
2、菌株PFZR-1の同定
(1)菌株PFZR-1の特徴:
菌株PFZR-1をLB培地に接種し、30℃で24時間培養する。コロニーは白色で、好気性であり、滑らかで湿っており、楕円状を呈している。コロニー形態は図1の通りであり、透過型電子顕微鏡写真は図2の通りである。
【0031】
(2)16S rRNA配列解析
Prep Man Ultra Kits核酸抽出剤を用いて菌株PFZR-1のDNAを抽出し、4℃で保存した。細菌ユニバーサルプライマ(フォワードプライマ:5’-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’;リバースプライマ:5’-GGTTACCTTGTTACGACTT-3’)を用いて、ABI社のPCR増幅装置で増幅を行った。Applied Biosystems 3500遺伝子分析装置を用いてPCR精製後の産物に対して核酸シーケンシングを行った。シーケンシング作業は、浙江天科高新技術発展有限公司が完成させた。菌株の16S rRNA配列は以下の通りである(Genebank登録番号はON692913)。
【0032】
配列番号1:
CCTACTTCTGGTGCACAAACTCCCATGGTGTGACGGGCGGTGTGTACAAGGCCCGGGAACGTATTCACCGCGGCATTCTGATCCGCGATTACTAGCGATTCCGACTTCATGGAGTCGAGTTGCAGACTCCAATCCGGACTACGATCGGCTTTTTGAGATTAGCATCCTATCGCTAGGTAGCAACCCTTTGTACCGACCATTGTAGCACGTGTGTAGCCCTGGCCGTAAGGGCCATGATGACTTGACGTCGTCCCCGCCTTCCTCCAGTTTGTCACTGGCAGTATCCTTAAAGTTCCCATCCGAAATGCTGGCAAGTAAGGAAAAGGGTTGCGCTCGTTGCGGGACTTAACCCAACATCTCACGACACGAGCTGACGACAGCCATGCAGCACCTGTATCTAGATTCCCGAAGGCACCAATCCATCTCTGGAAAGTTTCTAGTATGTCAAGGCCAGGTAAGGTTCTTCGCGTTGCATCGAATTAAACCACATGCTCCACCGCTTGTGCGGGCCCCCGTCAATTCATTTGAGTTTTAGTCTTGCGACCGTACTCCCCAGGCGGTCTACTTATCGCGTTAGCTGCGCCACTAAAGCCTCAAAGGCCCCAACGGCTAGTAGACATCGTTTACGGCATGGACTACCAGGGTATCTAATCCTGTTTGCTCCCCATGCTTTCGTACCTCAGCGTCAGTATTAGGCCAGATGGCTGCCTTCGCCATCGGTATTCCTCCAGATCTCTACGCATTTCACCGCTACACCTGGAATTCTACCATCCTCTCCCATACTCTAGCCATCCAGTATCGAATGCAATTCCCAAGTTAAGCTCGGGGATTTCACATTTGACTTAAATGGCCGCCTACGCACGCTTTACGCCCAGTAAATCCGATTAACGCTCGCACCCTCTGTATTACCGCGGCTGCTGGCACAGAGTTAGCCGGTGCTTATTCTGCGAGTAACGTCCACTATCCAGTAGTATTAATACTAGTAGCCTCCTCCTCGCTTAAAGTGCTTTACAACCATAAGGCCTTCTTCACACACGCGGCATGGCTGGATCAGGGTTCCCCCCATTGTCCAATATTCCCCACTGCTGCCTCCCGTAGGAGTCTGGGCCGTGTCTCAGTCCCAGTGTGGCGGATCATCCTCTCAGACCCGCTACAGATCGTCGCCTTGGTAGGCCTTTACCCCACCAACTAGCTAATCCGACTTAGGCTCATCTATTAGCGCAAGGCCCGAAGGTCCCCTGCTTTCTCCCGTAGGACGTATGCGGTATTAGCATTCCTTTCGGAATGTTGTCCCCCACTAATAGGCAGATTCCTAAGCATTACTCACCCGTCCGCCGCTAGGTCCAGTAGCAAGCTACC
【0033】
(3)生理生化学実験
菌株ZRPF-1の、メリューCBCカード上の46種類の炭素源に対する利用能力:メリュー全自動同定装置を利用して、46中の異なる炭素源に対する菌株の代謝情況を考察した(浙江天科高新技術発展有限会社(旧浙江省微生物研究所)に委託)。同定結果は表1の通りである。メリュー全自動同定装置VITEKの生化学反応を経て、菌株ZRPF-1は15種類の炭素源を比較的よく利用することができ、他の31種類の炭素源は利用できないことがわかった。
【0034】
【表1】
【0035】
菌株PFZR-1の形態特徴及び生理生化学特徴に対して研究及び分析を行うと同時に、該菌株配列をNCBIデータベース中の遺伝子配列とブラスト比較し、16s RNAの相同性分析と結び付けて系統発生樹(図3)を構築し、それにより該菌株PFZR-1をAcinetobacter Venetianusと確定し、アシネトバクター・ベネチアヌス(Acinetobacter Venetianus)PFZR-1と命名して、中国典型培養物寄託センターに寄託した。寄託番号はCCTCC NO:M 2022719、寄託日は2022年5月25日、住所は中国、武漢、武漢大学、430072である。
【0036】
実施例2:アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の静止細胞の取得
(1)斜面培養:
アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1をLB液体培地に接種し、30℃、160rpmで48時間培養した後、活性化した細菌をLB固体プレートに画線し、30℃の培養箱で24時間培養し、単コロニーを取って引き続きプレートに画線して細菌の純度を測定し、LB試験管の斜面で通常(4℃)保存する。
【0037】
(2)拡大培養:
ステップ(1)の斜面菌体をLB液体培地に接種し、30℃、160rpmで24時間培養して拡大培養液を取得し、遠心分離し、湿菌体を収集し、無機塩培養液で洗浄し、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1静止細胞を得る。
【0038】
実施例3:アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の、異なる濃度のシクロヘキサンに対する分解性能測定。
【0039】
比較的適切な培養条件下(pH7.0、温度30℃)で、異なる濃度のシクロヘキサンに対するアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の分解を研究した。具体的には以下の通りである。
【0040】
50mLの新鮮な無機塩培地に濃度の異なる基質シクロヘキサンを加え、基質の初期濃度をそれぞれ63.3、94.9、126.6、158.2、189.8、253.12、316.4mg/Lとし、実施例2の方法で調製したアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の静止細胞をそれぞれ接種し、各並列サンプル中の初期菌体濃度を0.02(OD600で計算)とした。30℃、回転数160r/分の振盪器内で培養し、定時にサンプリングし、ガスクロマトグラフィーを用いてシクロヘキサン濃度を測定し、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1のシクロヘキサン分解速度を計算した。実験過程では、1つの並列サンプル及び1つの菌株不接種のブランク対照群を設定した。結果は図4に示す通りであり、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1は、かなり高い濃度(316.4mg/L)でもシクロヘキサンを完全に分解することができるが、シクロヘキサンの濃度が316.4mg/Lを超えて395.5mg/Lに到達した後は、60時間内にそれを完全に分解することはできなかった。
【0041】
福立9790IIガスクロマトグラフを用いて気相中のシクロヘキサンの濃度を測定した。クロマトカラムはKB-5(30m×0.32mm×0.5μm)である。サンプル入口、検出器(FID)、カラムの温度はそれぞれ120℃、200℃、80℃で、補助炉の温度は100℃、分流比は100:1である。水素流量は30mL/分、気流は300mL/分、キャリアガスの窒素流量は30mL/分、ガス注入量は1mLである。
【0042】
実施例4:アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の、異なるpH下でのシクロヘキサンに対する分解性能測定。
pHがそれぞれ5、6、7、8、9、10の無機塩培養液50mLを、体積がいずれも330mLの振盪フラスコに分けて入れ、各フラスコを50mL、110℃で40分滅菌した。滅菌終了後、室温で2日間放置し、雑菌の成長がないことを確認した。シクロヘキサンをアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の唯一の炭素源とし、無機塩培地に接種した。基質の初期濃度は63.3mg/Lで、実施例2の方法で調製したアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の静止細胞を接種し、初期菌体濃度を0.02(OD600で計算)、温度を30℃、回転数を160r/分として培養し、かつ細菌を加えないブランク対照を作った。実施例3と同じ方法で振盪フラスコ中の残留シクロヘキサン濃度を定時測定し、異なるpH下での48時間内における菌株のシクロヘキサンに対する除去率曲線を作成した。結果は図5の通りであり、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1によるシクロヘキサンの分解に最適なpHは7であることがわかった。
【0043】
実施例5:アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の基質分解の広域スペクトル性
実際の使用では、シクロヘキサンという有機汚染物が存在するだけでなく、工業排ガス中には一般に様々な揮発性有機排ガスが含まれている。そのため、他の基質に対するアシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1の分解効果を検討する必要性は非常に高く、実施例3と同様に、炭素源を初期濃度が50mg/Lのトルエン、メタノール、リモネン、クロロホルム、酢酸エチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノンに変更し、その他の操作を実施例3と同様に行った。分解効果は表2に示す通りである。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示すように、アシネトバクター・ベネチアヌスPFZR-1は、クロロホルムに対する分解効果がないことを除き、他の選択された汚染物に対しては、すべて異なる度合いで分解効果を有している。その理由としては、クロロホルムは分解しにくいハロゲン化炭化水素化合物であるため、分解効果がよくない。
【0046】
本発明は、実施例によって上記のように開示されているが、それは本発明の範囲を限定するものではなく、当業者が本発明の構想及び範囲から逸脱することなく行った変更及び修飾は、いずれも本発明の保護範囲に属するものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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