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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061666
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ペン型接着剤塗布具
(51)【国際特許分類】
   B05C 17/00 20060101AFI20240425BHJP
   B43M 11/06 20060101ALI20240425BHJP
   B43M 11/00 20060101ALI20240425BHJP
   B65D 83/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B05C17/00
B43M11/06
B43M11/00 A
B65D83/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180550
(22)【出願日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022168636
(32)【優先日】2022-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 翔
(72)【発明者】
【氏名】熊井 南王
(72)【発明者】
【氏名】和田 崇正
【テーマコード(参考)】
3E014
4F042
【Fターム(参考)】
3E014PA01
3E014PA03
3E014PB07
3E014PC03
3E014PC16
3E014PE14
3E014PE15
3E014PE18
3E014PE25
3E014PF06
4F042AB00
4F042FA22
4F042FA23
4F042FA30
4F042FA40
4F042FA43
(57)【要約】
【課題】微小量を安定して塗布可能なペン型接着剤塗布具の提供。
【解決手段】内部に接着剤を収容する合成樹脂製の接着剤収容管と、前記接着剤収容管の先端に装着される合成樹脂製のホルダーと、前記ホルダーの内部に装着されるインナーピンと、前記インナーピンの先端に突設されるとともに前記ホルダーから先端方向へ突出する塗布先端と、を備えたペン型接着剤塗布具であって、前記インナーピンは、前記ホルダーに対して固定される固定部と、前記ホルダーに対して前後方向に摺動可能な可動部と、前記固定部と可動部とを連結する圧縮部と、前記固定部の先端から突設されるとともに、圧縮部の後端との間に間隙が設けられる後退規制部と、を備えたことを特徴とするペン型接着剤塗布具。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に接着剤を収容する合成樹脂製の接着剤収容管と、
前記接着剤収容管の先端に装着される合成樹脂製のホルダーと、
前記ホルダーの内部に装着されるインナーピンと、
前記インナーピンの先端に突設されるとともに前記ホルダーから先端方向へ突出する塗布先端と、
を備えたペン型接着剤塗布具であって、
前記インナーピンは、
前記ホルダーに対して固定される固定部と、
前記ホルダーに対して前後方向に摺動可能な可動部と、
前記固定部と可動部とを連結する圧縮部と、
前記固定部の先端から突設されるとともに、圧縮部の後端との間に間隙が設けられる後退規制部と、
を備えたことを特徴とするペン型接着剤塗布具。
【請求項2】
前記圧縮部が蛇腹形状であることを特徴とする、請求項1に記載のペン型接着剤塗布具。
【請求項3】
前記圧縮部が圧縮された状態においても、前記塗布先端は前記ホルダーの先端から突出していることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のペン型接着剤塗布具。
【請求項4】
前記接着剤収容管内の後端側には、前記接着剤が前記接着剤収容管の後端から流出するのを防止するためのフォロワーが注入されるとともに、
前記フォロワーは、互いに異なる成分のグリース状物質である第一の追従体と第二の追従体との層構造とを呈することを特徴とする請求項1又は2に記載のペン型接着剤塗布具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を容器に収容したペン型の塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2には、バルブタイプのペン型の接着剤塗布容器が開示されている。このタイプの接着剤塗布容器では、弁機構の先端を接着部位に押圧することで、容器内部に収容された接着剤が先端から接着部位に吐出される。しかし、弁機構の先端から吐出される接着剤の量が意図するよりも多くなることがあり、接着部位の面積が微少で僅かな量の接着剤で足りる場合の吐出量の制御が難しいことがある。また、弁が押圧されて後退するとホルダーの先端縁が接着部位と接触してしまうため、長期間利用しているうちにホルダー先端縁が摩耗してしまい、先端部分の密閉性を損なうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-123305号公報
【特許文献2】特開平10-337523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の実施態様は、接着部位の面積が微少である場合に過剰量の接着剤を塗布してしまうことを防止し、また、接着部位への接触に伴う先端部分の損傷を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の第1態様は、内部に接着剤を収容する合成樹脂製の接着剤収容管と、前記接着剤収容管の先端に装着される合成樹脂製のホルダーと、前記ホルダーの内部に装着されるインナーピンと、前記インナーピンの先端に突設されるとともに前記ホルダーから先端方向へ突出する塗布先端と、を備えたペン型接着剤塗布具であって、前記インナーピンは、前記ホルダーに対して固定される固定部と、前記ホルダーに対して前後方向に摺動可能な可動部と、前記固定部と可動部とを連結する圧縮部と、前記固定部の先端から突設されるとともに、圧縮部の後端との間に間隙が設けられる後退規制部と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本願の第1態様の構成によると、インナーピンで塗布先端の前後摺動を可能とするスプリングの役割を兼用することができる。
【0007】
本願の第2態様は、前記第1態様の構成に加え、前記圧縮部が蛇腹形状であることを特徴とする。この構成によると、インナーピンを合成樹脂の射出成形で形成することが容易になるとともに、この蛇腹形状で弾発力を確保することが可能となる。
【0008】
また、本願の第3様態は、前記第1態様又は第2態様の構成に加え、前記圧縮部が圧縮された状態においても、前記塗布先端は前記ホルダーの先端から突出していることを特徴とする。この構成によると、ホルダー端面の摩耗等による先端面のシール性への影響を回避することができる。
【0009】
また、本願の第4様態は、前記接着剤収容管内の後端側には、前記接着剤が前記接着剤収容管の後端から流出するのを防止するためのフォロワーが注入されるとともに、
前記フォロワーは、互いに異なる成分のグリース状物質である第一の追従体と第二の追従体との層構造とを呈することを特徴とする。この構成によると、落下等により塗布具に衝撃が与えられても、接着剤の後端部からの漏洩を防ぐことができる。
【0010】
なお、上述の各態様においては、前記接着剤を除く全ての部材が合成樹脂製であることが好ましく、また、ペン型接着剤塗布具が軸筒の中に収容されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の実施態様は上記のように構成されているので、接着剤を微小量のみ塗布することを可能することで、微小面積の接着部位へも接着剤を塗布することが可能となった。また、インナーピンが後退限を持つことで、塗布量の制御が容易になるとともに、ホルダー先端が接着部位と接触することを防止して損傷を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一の実施形態の軸筒に収容されたペン型接着剤塗布具を、正面図(A)、側面図(B)及び(A)のI-I断面図(C)で示す。
図2図1の実施形態のペン型接着剤塗布具を、正面図(A)、側面図(B)及び(B)のII-II断面図(C)で示す。
図3図2(C)の先端部分の拡大図である。
図4図2のペン型接着剤塗布具に用いられるホルダーを、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)及び(B)のIV-IV断面図(G)で示す。
図5図2のペン型接着剤塗布具に用いられるホルダーを、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。
図6図2のペン型接着剤塗布具において塗布先端の押圧状態を、正面図(A)、側面図(B)及び(B)のVI-VI断面図(C)で示す。
図7図6(C)の先端部分の拡大図である。
図8図5のホルダーの圧縮状態を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。
図9】第二の実施形態のペン型接着剤塗布具を、正面図(A)、側面図(B)及び(B)のIX-IX断面図(C)で示す。
図10図9(C)の先端部分の拡大図(A)及び(A)の先端部分をさらに拡大した図(B)である。
図11図9のペン型接着剤塗布具に用いられるホルダーを、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)、(B)のXI-XI断面図(G)及び(E)の先端部分の拡大図(H)で示す。
図12図9のペン型接着剤塗布具に用いられるホルダーを、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、「先端」とはペン型接着剤容器において塗布先端が設けられている側を指し、「後端」はその反対側を指す。また、各図面において共通している符号は、以下の図面についての説明において特に言及がなくても同一の部材又は部位を示す。また、各図面においては、図面の右側が先端側かつ底面側で、左側が後端側かつ平面側である。
【0014】
(1)第一の実施形態
<外観>
図1は、本開示の実施形態のうち、第一の実施形態の接着剤容器10を、正面図(A)、側面図(B)及び図1(A)におけるI-I断面図(C)で示す。これらの図に示すように、本実施形態の接着剤容器10は、後端に尾栓40が装着されている軸筒30の先端に、クリップ37を備えたキャップ36が装着された外観を呈している。軸筒30、尾栓40及びキャップ36はいずれも、たとえばポリカーボネートのような合成樹脂により形成されている。
【0015】
図1(C)の断面図に示すように、本実施形態の接着剤容器10においては、接着剤24を収容するペン型接着剤塗布具20が軸筒30に内蔵されており、また、このペン型接着剤塗布具20の後端は尾栓40に当接して支持されている。このペン型接着剤塗布具20において、接着剤24を収容する接着剤収容管23の先端には、ホルダー60が装着されている。このホルダー60の先端からは塗布先端58が突出している。また、ホルダー60の内部には、塗布先端58を先端方向に付勢するインナーピン50が装着されているが、その構造については後述する。さらに、ペン型接着剤塗布具20に収容されている接着剤24の後端にはグリース状のフォロワー25が注入されている。接着剤24及びフォロワー25については後に詳述する。また、軸筒30は、先端部分が先細りに形成された円筒形状を呈し、先端に設けられた開口部からはホルダー60の先端部分が突出している。
【0016】
<ペン型接着剤塗布具20>
図2は、図1の接着剤容器10に用いられるペン型接着剤塗布具20を、正面図(A)、側面図(B)及び図2(B)におけるII-II断面図(C)で示す。前述したように、前記ペン型接着剤塗布具20は、円筒状のポリプロピレン等で形成された合成樹脂製の接着剤収容管23の先端に、インナーピン50(図2(C)参照)を収容したホルダー60が装着された外観を呈している。また、前記したように、ホルダー60の先端からは塗布先端58が突出している。図2のペン型接着剤塗布具20は、塗布先端58に筆圧がかかっていない状態を示している。インナーピン50及びホルダー60は、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレン、等の接着剤24により密着しにくい合成樹脂で形成されている。
【0017】
図2(C)の断面図に示すように、ホルダー60の先端からは塗布先端58が突出している。また、ホルダー60の内部には、塗布先端58を先端方向に付勢するインナーピン50が装着されている。さらに、接着剤収容管23には、前記したように接着剤24が収容されている。
【0018】
<接着剤24>
本実施形態の接着剤24は、シアノアクリレート系や酢酸ビニル系等を含有する接着剤が挙げられる。
【0019】
具体的にはシアノアクリレート系の接着剤としては、安定化剤としてトリフロロメタンスルホン酸希土類元素塩を含有した2-シアノアクリレート系組成物とすることで、保存時の劣化が抑制され、かつ長期間にわたって瞬間接着性が低下を防ぐことができる。
【0020】
シアノアクリレート系接着剤の主成分としての2-シアノアクリレート組成物は、メチル-2-シアノアクリレート、エチル-2-シアノアクリレート、プロピル-2-シアノアクリレート及びヘキサフルオロイソプロピル-2-シアノアクリレート等が挙げられる。
【0021】
トリフロロメタンスルホン酸希土類元素塩は、スカンジウムトリフロロメタンスルホナート及びイッテルビウムトリフロロメタンスルホナート水和物等の周期表III族A亜族に属するいわゆる希土類元素とトリフロロメタンスルホン酸との塩である。
【0022】
トリフロロメタンスルホン酸希土類元素塩は、2-シアノアクリレートに対して0.001重量ppm~5重量%になる量に含有するのが好ましい。0.001重量ppm未満では、2-シアノアクリレート系組成物を安定化する能力が乏しくなり、5重量%を超えて含有させると、2-シアノアクリレート系組成物の接着性を損ねる恐れがある。なお、この濃度は2種類以上のトリフロロメタンスルホン酸希土類元素塩を使用する場合には、その総和に対する濃度をいう。
【0023】
また、その他の成分として、ラジカル重合安定剤、増粘剤、硬化促進剤、可塑剤又はチキソトロピー性付与剤を添加することができる。ラジカル重合安定剤としては、ハイドロキノン、ピロガロール等が挙げられる。添加量は、2-シアノアクリレートに対して0より多く1重量%未満が好ましい。増粘剤としては、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート/メタクリル酸エステル共重合体又はセルロース誘導体等が挙げられる。添加量は、2-シアノアクリレートに対して0.1重量%~20重量%が好ましい。硬化促進剤としては、クラウンエーテル又はカリックスアレン等が挙げられる。添加量は、2-シアノアクリレートに対して0.001重量%~5重量%が好ましい。可塑剤としては、ジオクチルフタレート又はジブチルフタレート等が挙げられる。添加量は、2-シアノアクリレートに対して0.01重量%~30重量%が好ましい。チキソトロピー性付与剤としては、疎水性シリカ等が挙げられる。添加量は、2-シアノアクリレートに対して0.1重量%~20重量%が好ましい。さらに、上記以外にも目的に応じて、密着性付与剤、染料、香料、充填剤、架橋剤、タフナー又は有機溶剤等が併用されてもよい。
【0024】
また、酢酸ビニル系の接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系重合体と、樹脂酸で表面処理された炭酸カルシウムと、有機溶剤とを含む接着剤組成物が挙げられる。酢酸ビニル系の接着剤は、塗布作業性、ズレ性、糸引き性、接着力に優れており、特にJIS A 5537に規定されている木材等への接着剤として用いられる。
【0025】
酢酸ビニル樹脂系重合体としては、酢酸ビニルのホモポリマーの他、酢酸ビニルと(メタ)アクリレート、エチレン、プロピレン等のオレフィン、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニル、ビニルエーテル等との共重合体が使用され、特に酢酸ビニルホモポリマー、酢酸ビニル-(メタ)アクリレート、酢酸ビニル-バーサチック酸ビニル、酢酸ビニル-エチレン、酢酸ビニル-アクリル酸、酢酸ビニル-メタクリル酸、酢酸ビニル-マレイン酸等の(共)重合体を用いるのが好ましい。また、酢酸ビニル樹脂系重合体の重合度は、200~10000が好ましい。前記重合度が200未満であると得られる接着剤組成物の凝集力が不足するため、十分な接着力が得られないことがある。また、前記重合度が5000を超えると、得られる接着剤組成物の粘度が高くなりすぎて塗布作業性が低下したり、接着剤組成物を容器から取り出す際、接着剤の「糸引き」が生じるため、所望の接着範囲以外の周囲にも接着剤が付着してしまうことがある。また、酢酸ビニル樹脂系重合体の分子量を1500以下とすることが好ましい。
【0026】
樹脂酸で表面処理された炭酸カルシウムとしては、樹脂酸で処理された炭酸カルシウムであればよいが、特に膠質炭酸カルシウムが好ましい。膠質炭酸カルシウムとは消石灰に二酸化炭素を反応させて人工的に合成した炭酸カルシウムをいう。炭酸カルシウムの一次粒子径が0.5μm未満とすることでチキソトロピー性(塗布した接着剤の垂れ防止性)を付与する効果が大きくなるので好ましい。他の炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等を用いることができる。なお、重質炭酸カルシウムとは石灰石を粉砕して得られる炭酸カルシウムをいう。また軽質炭酸カルシウムとは消石灰に二酸化炭素を反応させて人工的に合成した炭酸カルシウムをいう。
【0027】
樹脂酸は、植物樹脂中に見られる不揮発性テルペン酸全体の総称であり、その中でも特に松脂(ロジン)中に含まれるジテルペン系樹脂酸が好ましい。
【0028】
樹脂酸で表面処理された炭酸カルシウムの使用量は、上記(A)酢酸ビニル樹脂系重合体を100重量部に対し、50~300重量部が好ましい。酢酸ビニル樹脂系重合体成分100重量部に対し、樹脂酸で表面処理された炭酸カルシウム成分の使用量が50重量部未満であると得られる接着剤組成物の接着力向上効果が十分に得られないことがある。また、樹脂酸で表面処理された炭酸カルシウム成分の使用量が300重量部を超えると、得られる接着剤組成物の粘度や構造粘性などが高くなりすぎて、塗布作業性や貯蔵安定性が低下したり、接着強度の発現が遅くなったりすることがある。
【0029】
有機溶剤は、酢酸ビニル樹脂系重合体を溶解するものであり、工業的に安価に入手できるメタノールが好ましいが、その他酢酸エチル、酢酸メチル、エタノール、イソプロピルアルコール等の汎用の有機溶剤も使用することができる。有機溶剤の含有量は、接着剤組成物の所望される作業性や粘度等によって適宜選択されるが、酢酸ビニル樹脂系重合体100重量部に対して好ましくは10~1000重量部が好ましい。
【0030】
その他必要に応じて、充填剤、及び上記以外の接着性樹脂、着色剤、可塑剤、界面活性剤、水等を配合してもよい。たとえば充填剤として、粒子径が1μm以上の粒状充填剤である表面処理されていない重質炭酸カルシウム等を併用することで接着力の向上を得られる。粒状充填剤は、酢酸ビニル樹脂系重合体成分100重量部に対し、50~300重量部使用することが好ましい。また、可塑剤は、酢酸ビニル樹脂に対する相溶性に優れるフタル酸エステル、芳香族系炭化水素が好ましい。上記酢酸ビニル樹脂系重合体を100重量部に対し、好ましくは3~30重量部添加することが好ましい。
【0031】
また、図2(C)に示すように、接着剤24の後端側には、接着剤24が接着剤収容管23の後端から流出するのを防止するために、グリース状のフォロワー25が注入されている。このフォロワー25は、塗布によって接着剤24が消費されていくのに伴い、先端方向へ追随していく。なお、このフォロワー25の中に、比重がフォロワー25と同じになるように調整した合成樹脂製の円柱状のフロートを埋没させることとしてもよい。また、フォロワー25の中に複数のフロートを埋没させたり、あるいは、フォロワー25を貫通するようにフロートを設けることとしてもよい。
【0032】
<ホルダー60>
図3は、図2(C)の先端部分の拡大図である。ホルダー60は、接着剤収容管23の先端に装着されるとともに、内部には、塗布先端58を先端方向に付勢するインナーピン50が装着されている。また、ホルダー60の先端から、インナーピン50の一部である塗布先端58が突出している。
【0033】
図4は、図2及び図3のペン型接着剤塗布具20に用いられるホルダー60を、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)及び図4(B)のIV-IV断面図(G)で示す。ホルダー60は、たとえば、ポリアセタール又はポリエチルエーテルケトンのような合成樹脂製で、図3にも示されるように、後端側から、取付部61、フランジ部62、中間部63及び先端部64により構成されている。
【0034】
取付部61は、略円筒形を呈し、図3に示すように、接着剤収容管23の先端に圧入される部分である。取付部61の後端には、内部に通ずる開口である後端開口65が形成されている。また、フランジ部62は取付部61の先端側で拡径する円盤状の部位であり、取付部61が接着剤収容管23の先端に圧入された際に、接着剤収容管23の先端に当接してそれ以上の圧入を阻止する部分である。フランジ部62の左右両側には平面状に削がれた形状の面削部62Aが形成されている。この面削部62Aは、ホルダー60が接着剤収容管23に挿入される際に工具にて把持される部分である。
【0035】
中間部63は、わずかに先細りの円筒形状を呈し、その外径は取付部61の外径より小さい。中間部63の先端側には、より外径が小さい略円筒形状の先端部64が形成されている。中間部63と先端部64との間の段差である突当部63Aは、ペン型接着剤塗布具20が軸筒30に装着される際に、軸筒30の先端開口の内側に突き当たる部分である(図1(C)参照)。また、先端部64の先端側部分は先細に形成されたテーパ部64Aとなっており、その先端に設けられている開口部である先端開口68の周囲は内方に縮径されたカシメ部64Bとなっている。
【0036】
ホルダー60の内部は、図4(G)に示すような中空構造となっている。この中空構造は、後端開口65から先端方向に向かって段階的に内径が縮小するバック孔66と、バック孔66と先端開口68とを連絡するフロント孔67とで構成されている。バック孔66は、中間部63の半ば付近の段差である後方縮径部66Aと、中間部の先端付近の段差である中間縮径部66Bとで段階的に縮径している。また、バック孔66からフロント孔67にかけて、これらの間の段差である先端縮径部66Cで段階的に縮径している。すなわち、ホルダー60は、後端開口65から、バック孔66及びフロント孔67を経て、先端開口68まで貫通している。
【0037】
図5は、ホルダー60の内部に装着されるインナーピン50を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。インナーピン50は、固定部51と、押圧部53を備えた可動部52と、固定部51と可動部52との間に介在する圧縮部54と、固定部51から先端方向へ突設される後退規制部55とで構成される。
【0038】
固定部51、圧縮部54及び可動部52はいずれも略円柱形状を呈するものの、対向する二面が平面状に削がれた大平面部50A及び小平面部50Bとして形成され、また、別の対向する二面にそれぞれ溝状のサイド溝57が穿設されることで、図5(E)に示すような平面形状を呈することとなっている。大平面部50Aの面積は、小平面部50Bの面積より大きく形成されている。
【0039】
固定部51は、より大径な圧入部51Aが、バック孔66の後方縮径部66A(図4(G)参照)の前方部分に圧入されることで、インナーピン50がホルダー60に装着される際に、ホルダー60に対して固定される部分である(図3参照)。可動部52は、ホルダー60に対して相対的に前後方向に摺動可能な部分である。可動部52の前端縁である後方当接部52Aは、インナーピン50がホルダー60に装着される際に、バック孔66の中間縮径部66B(図4(G)参照)に当接する部分である(図3参照)。
【0040】
可動部52から先端方向へ突設される押圧部53は後方側に位置し、より幅広の広幅部53Aと、前方側に位置しより幅狭の狭幅部53C、その狭幅部53Cの先端に形成される略半球状の塗布先端58とで構成される。また、広幅部53Aと狭幅部53Cとの間の段差は前方当接部53Bとなっている。前方当接部53Bは、インナーピン50がホルダー60に装着される際に、バック孔66の先端縮径部66C(図4(G)参照)に当接する部分である。さらに、前方当接部53Bが先端縮径部66Cに当接した状態で、狭幅部53Cはフロント孔67の内部に位置し、その状態で塗布先端58がホルダー60の先端から突出する(図3参照)。
【0041】
圧縮部54は、固定部51と可動部52との間を、蛇腹形状に2回屈曲した形状で連結している。後方側の屈曲部分が後方屈曲部54Aで、前方側の屈曲部分が前方屈曲部54Bである。また、後退規制部55は、固定部51から可動部52へ向けて延伸した板状形状を呈し、インナーピン50がホルダー60に装着され、塗布先端58に筆圧がかかっていない状態では、可動部52との間に間隙が生じている(図3参照)。この間隙は、可動部52が後退可能な範囲としての後退間隙56となっている。
【0042】
図2(C)及び図3に示すように接着剤収容管23に収容されている接着剤24は、ホルダー60のバック孔66からフロント孔67を経て、塗布先端58に至りそこで接着部位に対し接着剤が流出することで接着層が形成される。このとき、ホルダー60の内部に装着されているインナーピン50にはサイド溝57と大平面部50A及び小平面部50Bが形成され、さらに押圧部53も平板形上となっていることで、インナーピン50が接着剤24の先端方向への流動を阻止することはない。
【0043】
<動作>
図6は、図2に示す状態のペン型接着剤塗布具20の先端の塗布先端58に塗布圧がかかって押圧された状態を、正面図(A)、側面図(B)及び図6(B)におけるVI-VI断面図(C)で示す。この状態では、塗布先端58はホルダー60の内部へ後退している。また、図6(C)の先端部分の拡大図である図3に示すように、塗布先端58への筆圧による押圧によって可動部52が後退し、可動部52の後方当接部52Aとバック孔66の中間縮径部66Bとの間が離間する。その一方で、可動部52は後退規制部55と当接し、図3に示す状態では空いていた後退間隙56がなくなっている。
【0044】
図8は、図7に示す状態におけるインナーピン50を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。これらの図に示すように、可動部52の後退により圧縮部54が撓んで圧縮し、これにより可動部52の後端縁と後退規制部55の後端縁とが接触し、図5に示すような後退間隙56が消失している。
【0045】
以上より、後退規制部55の先端縁が塗布先端58の押圧による後退の限界となっている。また、バック孔66の中間縮径部66Bが、インナーピン50の前進の限界となっている。また、圧縮部54によるバネ効果によって、塗布先端58は常に前方に付勢されることとなっている。なお、圧縮部54が圧縮された状態においても、図7に示すように、塗布先端58はホルダー60の先端から突出した状態を維持している。このため、ホルダー60の先端が接着部位に接触することがなく、接触に伴うホルダー60の先端の損傷を回避することができる。
【0046】
また、ホルダー60及びインナーピン50は、合成樹脂による射出成形可能な形状となっているとともに、インナーピン50に設けられているサイド溝57並びに大平面部50A及び小平面部50Bによってホルダー60の内部での接着剤24の流路が確保されている。さらには、接着剤容器10を構成する部材は、接着剤24を除き全て合成樹脂製であり金属部品を使用していないため、廃棄の際に分別の手間がかからないとともに、合成樹脂素材のリサイクルも容易となっている。
【0047】
(2)第二の実施形態
図9は、本開示の実施形態のうち、第二の実施形態のペン型接着剤塗布具20を、正面図(A)、側面図(B)及び図9(B)におけるIX-IX断面図(C)で示す。図2に示す第一の実施形態のペン型接着剤塗布具20との相違点は、インナーピン50の先端形状、ホルダー60の内部形状、及びグリース状物質であるフォロワー25が層構造となっている点である。この点については後述する。このフォロワー25以外の構成は、第一の実施形態のペン型接着剤塗布具20の構成と同様である。
【0048】
図10(A)は、図9(C)及び図9(C)の先端部分の拡大図であり、ホルダー60の先端部分の内部形状を詳細に示したものであり、図10(B)は、図10(A)の先端部分をさらに拡大したものである。また、図11は、図9及び図10のペン型接着剤塗布具20に用いられるホルダー60を、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)、図11(B)のXI-XI断面図(G)及び図10Eの先端部分の拡大図(H)で示す。さらに、図12は、ホルダー60の内部に装着されるインナーピン50を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。
【0049】
本実施形態のホルダー60は、以下の点で第一の実施形態のホルダー60と相違している。すなわち、フロント孔67において、先端開口68の近傍が、内方へ環状に肥厚した形状を呈しており、この部分がホルダーシール面64Cとなっている(図10(B)、図11(G)参照)。また、バック孔66の先端部分からフロント孔67にかけての内周面に、複数本(本実施形態では4本)のリブ64Dが、長手方向に沿って内方へ突設されている。その他の構成は、第一の実施形態のホルダー60と同様である。
【0050】
本実施形態のインナーピン50は、以下の点で第一の実施形態のインナーピン50と相違している。すなわち、押圧部53と塗布先端58との間に、テーパー状に縮径する面であるピンシール面53Dが形成されている(図10(B)、図12(A)~(D)、(F)、(G))。また、押圧部53の広幅部53A及び狭幅部53Cには、図5に示すような平面上に削がれた部分は形成されていない。さらには、広幅部53Aと狭幅部53Cとの間には、図5に示す前方当接部53Bほどの明瞭な段差は形成されていない(図12(A)~(D)、(F)、(G))。その他の構成は、第一の実施形態のインナーピン50と同様である。
【0051】
上記のような構造を有する本実施形態のペン型接着剤塗布具20においては、先述の第一の実施形態と比較して、インナーピン50とホルダー60とのシール性(換言すると、吐出する液体を外部と遮断することで、硬化や揮発を抑制する性能)が向上している。すなわち、インナーピン50とホルダー60との接触位置、換言すると、ピンシール面53Dとホルダーシール面64Cとの接触位置(図10B参照)が、第一の実施形態と比較して後方に位置することとなっている。これによって、使用に伴って生ずるホルダー60の表面摩耗によるシール部破損によるシール性の低下を防ぐことができるようになり、さらには、インナーピン50とホルダー60の各シール部との密着性を向上させることができるようになった。また、ホルダー60の内面に形成された複数(図面上は4箇所)のリブ64Dによりインナーピン50の位置を軸心側に保持しやすくなった。
【0052】
なお、本実施形態のフォロワー25は、図9(C)に示すように、先端側に配される第一の追従体25aと、後端側に配される第二の追従体25bとからなる。これら第一の追従体25a及び第二の追従体25bはいずれも、オイルと増稠剤とを含有するが、互いに異なる成分を有するグリース状の物質である。
【0053】
第一の追従体25aに含有されるオイルは、シリコーン油又はフッ素油のうち少なくとも一種である。一方、第二の追従体25bに含有されるオイルは、鉱油、合成炭化水素油、エステル油、及びポリグリコール油から成る群より選択される少なくとも一種である。
【0054】
第一の追従体25aに含有される増稠剤は、シリカ及び各種無機塩粒子から成る群より選択される少なくとも一種である。一方、第二の追従体25bに含有される増調剤は、各種エラストマーから成る群より選択される少なくとも一種である。
【0055】
温度25℃及び剪断速度50s-1の条件で測定した第一の追従体25aの粘度(η)及び第二の追従体25bの粘度(η)は、下記式(1)で定義される粘度差率(Δη)が、7%以上70%以下となるように調整されることが好ましい。
【0056】
Δη=|1-η/η|×100 ・・・(1)
【0057】
なお、温度25℃、剪断速度50s-1の条件下で測定される第一の追従体25aの粘度(η)及び第二の追従体25bの粘度(η)は、上記式(1)で定義される粘度差率(Δη)が7%以上70%以下の範囲であれば、いずれも2Pa・s以上20Pa・s以下であることが好ましい。
【0058】
また、第一の追従体25a及び第二の追従体25bにそれぞれ含有される増稠剤の含有率は、全体の質量に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ペン型接着剤塗布具に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 接着剤容器
20 ペン型接着剤塗布具 23 接着剤収容管 24 接着剤
25 フォロワー 25a 第一の追従体 25b 第二の追従体
30 軸筒 36 キャップ 37 クリップ
40 尾栓
50 インナーピン 50A 大平面部 50B 小平面部
51 固定部 51A 圧入部
52 可動部 52A 後方当接部
53 押圧部 53A 広幅部 53B 前方当接部
53C 狭幅部 53D ピンシール面
54 圧縮部 54A 後方屈曲部 54B 前方屈曲部
55 後退規制部 56 後退間隙 57 サイド溝
58 塗布先端
60 ホルダー 61 取付部
62 フランジ部 62A 面削部
63 中間部 63A 突当部
64 先端部 64A テーパ部 64B カシメ部
64C ホルダーシール面 64D リブ
65 後端開口
66 バック孔 66A 後方縮径部 66B 中間縮径部
66C 先端縮径部
67 フロント孔 68 先端開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12