(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061678
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】摩擦帯電型発電機
(51)【国際特許分類】
H02N 1/04 20060101AFI20240425BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20240425BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240425BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20240425BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240425BHJP
【FI】
H02N1/04
H10N30/857
H10N30/87
H10N30/06
H10N30/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181099
(22)【出願日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022169071
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂元 博昭
(72)【発明者】
【氏名】末 信一朗
(72)【発明者】
【氏名】ワン ハイタオ
(72)【発明者】
【氏名】高村 映一郎
(72)【発明者】
【氏名】志磨 将大
(57)【要約】
【課題】電気エネルギーを高効率で出力し得る摩擦帯電型発電機を提供する。
【解決手段】第1発電要素と第1電極を含む第1シートと、第2発電要素と第2電極を含む第2シートを具備し、第1、2発電要素は、第1発電要素と第2発電要素との間の相対運動が摩擦帯電と静電誘導によって第1発電要素と第2発電要素との間に電位差を発生させるように配置されており、第1発電要素が、第1電子親和力を有する第1摩擦帯電材料を含み、第2発電要素が、第2電子親和力を有する第2摩擦帯電材料を含み、第1摩擦帯電材料が第1非導電繊維を含み、第2摩擦帯電材料が第2非導電繊維を含み、第1電極が、第1非導電繊維の一部と当該一部に接続された第1導電材料を含む多孔質な第1複合層を含み、又は、第2電極が、第2非導電繊維の一部と当該一部に接続された第2導電材料を含む多孔質な第2複合層を含む、摩擦帯電型発電機。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1発電要素と、前記第1発電要素に接続された第1電極と、を含む第1シートと、
第2発電要素と、前記第2発電要素に接続された第2電極と、を含む第2シートと、
を具備し、
前記第1発電要素および前記第2発電要素は、前記第1発電要素と前記第2発電要素との間の相対運動が摩擦帯電と静電誘導によって前記第1発電要素と前記第2発電要素との間に電位差を発生させるように配置されており、
前記第1発電要素が、第1電子親和力を有する第1摩擦帯電材料を含み、
前記第2発電要素が、第2電子親和力を有する第2摩擦帯電材料を含み、
前記第1摩擦帯電材料が、第1非導電繊維を含み、
前記第2摩擦帯電材料が、第2非導電繊維を含み、
前記第1電極が、前記第1非導電繊維の一部と、前記第1非導電繊維の前記一部に接続された第1導電材料と、を含む多孔質な第1複合層を含み、または
前記第2電極が、前記第2非導電繊維の一部と、前記第2非導電繊維の前記一部に接続された第2導電材料を含む多孔質な第2複合層を含む、摩擦帯電型発電機。
【請求項2】
前記第1発電要素の多孔度P1と、前記第1複合層の多孔度P11が、0.9≦P1/P11≦1.1を満たし、または
前記第2発電要素の多孔度P2と、前記第2電極の多孔度P22が、0.9≦P2/P22≦1.1を満たす、請求項1に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項3】
前記第1シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、3cm3/cm2/s以上であり、または
前記第2シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、3cm3/cm2/s以上である、請求項1に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項4】
前記第1シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、前記第1発電要素の同法で測定される透気度の80%以上であり、または
前記第2シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、前記第2発電要素の同法で測定される透気度の80%以上である、請求項1に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項5】
前記第1複合層において、前記第1導電材料が、前記第1非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着することにより前記第1非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っており、または、
前記第2複合層において、前記第2導電材料が、前記第2非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着することにより前記第2非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っている、請求項1に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項6】
前記第1非導電繊維の平均繊維径よりも、繊維状である場合の前記第1導電材料の平均繊維径が小さく、または、
前記第2非導電繊維の平均繊維径よりも、繊維状である場合の前記第2導電材料の平均繊維径が小さい、請求項5に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項7】
前記第1複合層において、前記第1導電材料が、前記第1非導電繊維の表面に絡みついており、または、
前記第2複合層において、前記第2導電材料が、前記第2非導電繊維の表面に絡みつている、請求項6に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項8】
前記第1導電材料の少なくとも一部が、複数の前記第1非導電繊維間を架橋しており、または、
前記第2導電材料の少なくとも一部が、複数の前記第2非導電繊維間を架橋している、請求項7に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項9】
前記第1複合層および前記第2複合層の少なくとも一方が、電荷貯蔵材料を含み、
前記電荷貯蔵材料が、前記第1非導電繊維および前記第2非導電繊維とは異なる第3非導電繊維を含み、
前記第1導電材料または前記第2導電材料が、前記第3非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着することにより前記第3非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っており、かつ
前記第3非導電繊維と、前記第1非導電繊維または前記第2非導電繊維とが絡み合っている、請求項1に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項10】
前記第3非導電繊維の平均繊維径よりも、繊維状である場合の前記第1導電材料および前記第2導電材料の平均繊維径が小さい、請求項9に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項11】
前記第1導電材料または前記第2導電材料が、前記第3非導電繊維の表面に絡みついている、請求項10に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項12】
前記第1導電材料または前記第2導電材料の少なくとも一部が、複数の前記第3非導電繊維間を架橋している、請求項11に記載の摩擦帯電型発電機。
【請求項13】
前記第1非導電繊維または前記第2非導電繊維の平均繊維径よりも、前記第3非導電繊維の平均繊維径が小さい、請求項9に記載の摩擦帯電型発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦帯電型発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦帯電型発電機は、摩擦帯電と静電誘導の原理に基づいて機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であり、TENG(triboelectric nanogenerator)とも称される。TENGは、人間の動作、風力、音波など、様々なタイプの機械的エネルギーを効果的に捕らえ、それを電気エネルギーに変換する。
【0003】
特許文献1は、「繊維径が300nm以下の圧電ポリマーの連続する微細繊維からなる膜であって、前記微細繊維がその繊維軸方向を揃えて形成された膜部分とそれらの周囲に配置された前記微細繊維がその繊維軸に方向性がない膜部分を一体化して形成させた一枚の膜であり、前記微細繊維がその繊維軸方向を揃えて形成された膜部分が細長い形状であることを特徴とする圧電ポリマー膜」を提案している。前記圧電ポリマー膜の両端部に電極を備えて感圧センサ又はアクチュエータとすることができ、更には、インターフェースデバイスを製造できる。
【0004】
特許文献2は、「帯電可能な非圧電ポリマからなる繊維が3次元的に堆積されてなるポリマ繊維体を備え、前記ポリマ繊維体は、一つの仮想平面で区分されたときの一方側に正の電荷が負の電荷よりも多く偏在し他方側に負の電荷が正の電荷よりも多く偏在している、発電素子」を提案している。発電素子は「第1導電部材と、前記第1導電部材に対向して配置された第2導電部材と、前記第1導電部材と前記第2導電部材との間の距離が変更可能な状態で前記第1導電部材と前記第2導電部材とを保持する保持部材と、を更に備え、前記ポリマ繊維体は、前記第1導電部材と前記第2導電部材との間に介在し、前記第1導電部材は、前記仮想平面の一面が臨む領域に配置され、前記第2導電部材は、前記仮想平面の他面が臨む領域に配置され、前記保持部材は、前記第1導電部材と前記第2導電部材との少なくとも一方が前記ポリマ繊維体から離間した第1状態と、前記第1導電部材と前記第2導電部材とが前記ポリマ繊維体に接触した第2状態と」をとりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-133368号公報
【特許文献2】特開2020-170813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TENGは軽量で材料選択の幅が広く、多様な構造設計が可能である。しかし、例えば衣類にTENGを応用する場合、衣類の通気性を確保することが必要であることが多い。また、衣類で取得された電気エネルギーを高効率で出力する観点からは改善の余地が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、第1発電要素と、第2発電要素と、前記第1発電要素に接続された第1電極と、前記第2発電要素に接続された第2電極と、を具備し、前記第1発電要素および前記第2発電要素は、前記第1発電要素と前記第2発電要素との間の相対運動が摩擦帯電と静電誘導によって前記第1発電要素と前記第2発電要素との間に電位差を発生させるように配置されており、前記第1発電要素が、第1電子親和力を有する第1摩擦帯電材料を含み、前記第2発電要素が、第2電子親和力を有する第2摩擦帯電材料を含み、第1摩擦帯電材料が、第1非導電ナノファイバを含み、第2摩擦帯電材料が、第2非導電ナノファイバを含み、第1電極が、第1導電ナノファイバを含み、第2電極が、第2導電ナノファイバを含む、摩擦帯電型発電機に関する。
【0008】
本発明の別の側面は、第1発電要素と、前記第1発電要素に接続された第1電極と、を含む第1シートと、第2発電要素と、前記第2発電要素に接続された第2電極と、を含む第2シートと、を具備し、前記第1発電要素および前記第2発電要素は、前記第1発電要素と前記第2発電要素との間の相対運動が摩擦帯電と静電誘導によって前記第1発電要素と前記第2発電要素との間に電位差を発生させるように配置されており、前記第1発電要素が、第1電子親和力を有する第1摩擦帯電材料を含み、前記第2発電要素が、第2電子親和力を有する第2摩擦帯電材料を含み、前記第1摩擦帯電材料が、第1非導電繊維を含み、前記第2摩擦帯電材料が、第2非導電繊維を含み、前記第1電極が、前記第1非導電繊維の一部と、前記第1非導電繊維の前記一部に接続された第1導電材料と、を含む多孔質な第1複合層を含み、または、前記第2電極が、前記第2非導電繊維の一部と、前記第2非導電繊維の前記一部に接続された第2導電材料を含む多孔質な第2複合層を含む、摩擦帯電型発電機に関する。
【発明の効果】
【0009】
摩擦帯電と静電誘導による取得された電気エネルギーを高効率で出力し得る通気性に優れた摩擦帯電型発電機が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る摩擦帯電型発電機の発電メカニズムの説明図である。
【
図2】本実施形態に係る摩擦帯電型発電機の一例の断面模式図である。
【
図3】
図2の摩擦帯電型発電機の要部の拡大模式図である。
【
図4】別の実施形態に係る摩擦帯電型発電機の一例の断面模式図である。
【
図5】
図4の摩擦帯電型発電機の拡大模式図である。
【
図6】第1導電ナノファイバが第1非導電ナノファイバ(または第3非導電ナノファイバ)の表面に絡みつき、第1導電ナノファイバの一部が複数の非導電ナノファイバ間を架橋している様子を示す概念図である。
【
図7】ナイロン不織布(a)、PVDF不織布(b)、銀ナノファイバ(c)およびPVDF不織布に積層された銀ナノファイバ(d)のSEM像である。
【
図8】PVDFナノファイバ(第2発電要素)と銀ナノファイバ(第2電極)との積層体のSEM写真である。
【
図9】電界紡糸装置の一例の構成を示す概念図である。
【
図10】電力測定用のリニアモーター(a)、オシロスコープ(b)およびプラットフォーム(c)のイメージ図である。
【
図11】一実施例のTENGの出力特性を示す図である。
【
図12】別の実施例のTENGの出力特性を示す図である。
【
図13】実施例と比較例のTENGの出力特性を対比して示す図である。
【
図14】更に別の実施例のTENGA3のPVDFナノファイバ(第2発電要素)とPSナノファイバと銀ナノファイバ(第2電極)との積層体の表面(銀ナノファイバ側の面)を撮影したSEM写真である。
【
図15】
図14の積層体の裏面(PVDFナノファイバ側の面)を撮影したSEM写真である。
【
図16】更に別の実施例のTENGA4のPVDFナノファイバ(第2発電要素)とPSナノファイバと銀ナノファイバ(第2電極)との積層体の表面(銀ナノファイバ側の面)を撮影したSEM写真である。
【
図17】
図16の積層体の裏面(PVDFナノファイバ側の面)を撮影したSEM写真である。
【
図18】TENGA3、TENGA4の出力特性を示す図である。
【
図19】TENGA5、TENGB2の出力特性を示す図である。
【
図20A】厚さ50nmのPt薄膜が繊維に固着した第1電極の断面SEM写真である。
【
図20B】厚さ100nmのPt薄膜が繊維に固着した第1電極の断面SEM写真である。
【
図21A】TENGA6の出力特性を示す図である。
【
図21B】TENGA6の複数回折り曲げた後の出力特性を示す図である。
【
図21C】TENGA6の複数回伸縮させた後の出力特性を示す図である。
【
図22A】TENGA7の出力特性を示す図である。
【
図22B】TENGA7の複数回折り曲げた後の出力特性を示す図である。
【
図22C】TENGA7の複数回伸縮させた後の出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値、材料等を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値、材料等を適用してもよい。なお、本開示に特徴的な部分以外の構成要素には、公知の摩擦帯電型発電機もしくはTENGの構成要素を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。
【0012】
本開示に係る摩擦帯電型発電機(TENG)は、摩擦帯電と静電誘導の原理に基づいて機械的エネルギーを電気エネルギーへ変換する装置を広く包含する概念である。摩擦帯電型発電機は、第1発電要素と、第2発電要素と、第1電極と、第2電極と、を具備する。第1発電要素と第1電極とは互いに直接または間接的に物理的に接続され、一体化されている。一体化された第1発電要素と第1電極は、シート状であってもよい。第2発電要素と第2電極とは互いに直接または間接的に物理的に接続され、一体化されている。一体化された第2発電要素と第2電極は、シート状であってもよい。一方、第1発電要素と第2発電要素の位置関係は相対的に変化する。第1発電要素および第2発電要素は、両者間の相対運動が摩擦帯電と静電誘導によって両者間に電位差を発生させるように配置されている。
【0013】
第1発電要素と第2発電要素との摩擦帯電により、第1発電要素および第2発電要素の一方が正の表面電荷を帯び、他方が負の表面電荷を帯びる。表面電荷によって第1電極と第2電極に静電誘導が誘引される。
【0014】
第1発電要素および第2発電要素の両者間の相対運動は、両者に摩擦帯電を生じさせ、かつ、第1電極および第2電極に静電誘導による電位差を生じさせる運動であればよい。両者の相対的な移動の方向は限定されない。典型的には、第1発電要素と第2発電要素とが相互に離間した状態から接近し、接触し、その後、離間する動作が繰り返される。第1発電要素と第2発電要素との接触により摩擦帯電が生じる。
【0015】
ここでは、第1発電要素と一体化された第1電極と、第2発電要素と一体化された第2電極とが、外部回路で接続された場合を考える。第1発電要素と第2発電要素とがそれぞれ反対電荷を持って接触した状態から離間させると、外部回路を介して電流が流れ、第1電極と第2電極との間に電位差が生じる。相対運動が停止して平衡状態に達すると、電流は停止する。このとき、第1電極は第1発電要素とは反対の電荷を有し、第2電極は第2発電要素とは反対の電荷を有する。
【0016】
次に、第1発電要素と第2発電要素とが相対運動により接近すると、第1発電要素と第2発電要素の摩擦電荷は互いの反対電荷によって徐々に遮蔽される。そのため、電極間の電位差は徐々に減少し、外部回路を介して、先とは逆方向の電流が流れる。第1発電要素と第2発電要素とが接触すると、摩擦電荷は概ね完全に遮蔽され、平衡状態になる。以上の原理で、外力による第1発電要素と第2発電要素の往復運動から電気エネルギーが取得される。
【0017】
第1発電要素が第1電子親和力を有する第1摩擦帯電材料を含む場合、第2発電要素は、第1電子親和力とは異なる第2電子親和力を有する第2摩擦帯電材料を含んでもよい。このような電子親和力の相違により、第1発電要素および第2発電要素にそれぞれ反対の摩擦電荷が生じやすくなる。
【0018】
以上のように、本開示に係る摩擦帯電型発電機(TENG)は、第1シートと第2シートで構成され得る。第1シートは、第1発電要素と、第1発電要素に接続された第1電極とを含む。第2シートは、第2発電要素と、第2発電要素に接続された第2電極とを含む。第1発電要素は、第1電子親和力を有する第1摩擦帯電材料を含む。第2発電要素は、第2電子親和力を有する第2摩擦帯電材料を含む。第1摩擦帯電材料は、第1非導電繊維を含み、第2摩擦帯電材料は、第2非導電繊維を含む。
【0019】
本実施形態の一態様において、主要な特徴の一つは、第1電極および第2電極の少なくとも一方が、多孔質な複合層で構成されている点である。すなわち、第1電極の少なくとも一部が、多孔質な第1複合層で構成されているか、もしくは、第2電極の少なくとも一部が、多孔質な第2複合層で構成されている。多孔質な第1複合層は、第1非導電繊維の一部と、第1非導電繊維の当該一部に接続された第1導電材料とを含む。多孔質な第2複合層は、第2非導電繊維の一部と、第2非導電繊維の当該一部に接続された第2導電材料を含む。
【0020】
TENGは、第1複合層、および、第2複合層、の両方を有してもよい。すなわち、第1電極の少なくとも一部が、多孔質な第1複合層で構成され、かつ、第2電極の少なくとも一部が、多孔質な第2複合層で構成されていてもよい。
【0021】
以上のようなTENGは、通気性に非常に優れている。第1摩擦帯電材料および第2摩擦帯電材料は、それぞれ第1非導電繊維および第2非導電繊維で形成された衣類であってもよい。衣類は、織布、不織布、編み物などであってもよい。
【0022】
導電性材料としては、金属、炭素、導電性高分子などが挙げられる。中でも静電誘導が起こりやすい点で、金属および炭素が望ましく、特に金属が望ましい。すなわち、導電性を有するナノファイバは、金属ナノファイバでもよく、カーボンナノファイバでもよい。金属としては、Pt、Au、Ag、Ni、Cu、Al、Feなどが挙げられる。中でも、Agなどの貴金属で構成された金属ナノファイバを用いる場合、ウェアラブルデバイスへの応用に適した高い抗菌性を本実施形態に係る発電機に付与することができる。
【0023】
第1摩擦帯電材料および第2摩擦帯電材料の少なくとも一方は、ポリマー材料であってもよい。ポリマー材料としては、フッ素ポリマー、セルロース、レーヨン、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロ二トリル、ポリエステルなどが挙げられるが、特に限定されない。ポリマー材料は、後述の電荷貯蔵材料として例示する芳香環を有するポリマー材料であってもよい。第1摩擦帯電材料および第2摩擦帯電材料は、同じポリマー材料であってもよく、異なるポリマー材料であってもよい。例えば、衣料中の繊維同士を利用して発電する場合は、同一のポリマー材料の利用が想定される。
【0024】
典型的には、第1摩擦帯電材料が、摩擦ポジティブ材料であるとき、第2摩擦帯電材料は、摩擦ネガティブ材料であってもよい。このとき、第2摩擦帯電材料の第2電子親和力は、第1摩擦帯電材料の第1電子親和力よりも大きい。摩擦ポジティブ材料は、例えば、電子供与性の原子または官能基を有する。摩擦ネガティブ材料は、例えば、電子吸引性の原子または官能基を有する。
【0025】
電子供与性の原子としては、窒素原子、酸素原子などが挙げられる。電子供与性の官能基としては、水酸基、アルキル基、アミド基、ウレタン基などが挙げられる。電子吸引性の原子としては、フッ素原子のようなハロゲン原子が挙げられる。電子吸引性の官能基としては、スルホン基、ニトリル基などが挙げられる。
【0026】
摩擦ポジティブ材料は、例えば、窒素原子を含むポリアミド、レーヨンなどを含む。摩擦ネガティブ型材料は、例えば、フッ素原子を含むフッ素ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリエステルなどを含む。
【0027】
ポリアミドとしては、例えば、n-ナイロン(nは整数)と称されるラクタムの重縮合反応物、n、m-ナイロン(n、mは整数)と称されるアルキレンジアミンとジカルボン酸酸との共縮重合反応、全芳香族ポリアミド(アラミド)などが挙げられる。アラミドはパラ系でも、メタ系でもよい。ラクタムとしては、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタムなどが挙げられるが、特に限定されない。アルキレンジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、メチルペンタジアミンなどが挙げられる。ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
【0028】
フッ素ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0029】
第1導電材料および第2導電材料は、それぞれ第1非導電繊維および第2非導電繊維に導電性を付与できる量であれば十分である。各導電材料は、各非導電繊維の表面を薄く覆う程度でもよい。第1導電材料は、第1非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着することにより第1非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っていてもよい。第2導電材料は、第2非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着することにより第2非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っていてもよい。第1導電材料または第2導電材料は、スパッタリング、蒸着などの気相法、電解めっき法、無電解めっき法などの液相法により形成してもよい。
【0030】
第1導電材料が繊維状である場合、第1導電材料の平均繊維径は、第1非導電繊維の平均繊維径よりも小さいことが好ましい。第2導電材料が繊維状である場合、第2導電材料の平均繊維径は、第2非導電繊維の平均繊維径よりも小さいことが好ましい。
【0031】
第1導電材料が繊維状である場合、第1複合層において、第1導電材料が、第1非導電繊維の表面に絡みつている状態であってもよい。第2導電材料が繊維状である場合、第2複合層において、第2導電材料が、第2非導電繊維の表面に絡みついている状態であってもよい。
【0032】
第1導電材料が繊維状である場合、第1導電材料の少なくとも一部が、複数の第1非導電繊維間を架橋していてもよい。第2導電材料が繊維状である場合、第2導電材料の少なくとも一部が、複数の第2非導電繊維間を架橋していてもよい。
【0033】
TENGの高い通気性を確保する観点から、第1発電要素の体積(V1)は、第1発電要素と第1導電材料との合計体積V1t(V1tは第1シートの体積であり得る)よりも僅かに小さい程度がよい。例えば、V1≧0.90V1tが満たされてもよく、V1≧0.95V1tが満たされてもよい。第2発電要素の体積(V2)は、第2発電要素と第2導電材料との合計体積V2t(V2tは第2シートの体積であり得る)よりも僅かに小さい程度がよい。例えば、V2≧0.90V2tが満たされてもよく、V2≧0.95V2tが満たされてもよい。ここで、体積V1、V1t、V2、V2t、は、いずれも空隙を含む見かけ体積ではなく、空隙を除く材料の真体積をいう。
【0034】
TENGの高い通気性を確保する観点から、第1発電要素の多孔度P1と、第1複合層の多孔度P11は、0.9≦P1/P11≦1.1を満してもよい。また、第2発電要素の多孔度P2と、第2電極の多孔度P22は、0.9≦P2/P22≦1.1を満たしてもよい。各発電要素および各電極の多孔度は、例えば、各発電要素および各電極の断面の走査電子顕微鏡(SEM)像を画像処理して得ることができる。SEM像の観察領域を2値化処理し、観察領域を、空隙と、空隙以外の領域とに区別し、観察領域の面積Sに対する、空隙の面積Spの割合を多孔度として求めればよい。観察領域は、各発電要素の繊維が100本以上観察できるサイズとし、SEMの倍率は100倍~1000倍とすることが好ましい。観察領域の面積は、1mm×1mm以上の面積とすることが好ましい。
【0035】
より具体的には、第1シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、3cm3/cm2/s以上でもよく、10cm3/cm2/s以上でもよく、50cm3/cm2/s以上でもよい。第2シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、3cm3/cm2/s以上でもよく、10cm3/cm2/s以上でもよく、50cm3/cm2/s以上でもよい。
【0036】
第1シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、第1発電要素の同法で測定される透気度の80%以上であってもよい。第2シートのJIS L 1096A法で測定される透気度は、第2発電要素の同法で測定される透気度の80%以上であってもよい。すなわち、第1電極および第2電極は、第1発電要素および第2発電要素の透気度を大きく低下させない態様で、第1発電要素および第2発電要素に接続され得る。
【0037】
本実施形態の別の態様において、主要な特徴の一つは、第1摩擦帯電材料、第2摩擦帯電材料、第1電極および第2電極が、それぞれ、少なくとも部分的にナノファイバの形態を有する点である。すなわち、第1摩擦帯電材料は、第1非導電ナノファイバを含む。第2摩擦帯電材料は、第2非導電ナノファイバを含む。第1電極は、第1導電ナノファイバを含む。第2電極は、第2導電ナノファイバを含む。
【0038】
ナノファイバとは、ナノスケールの繊維径を有する繊維の総称である。ナノスケールの繊維径は、例えば、900nm以下であり、500nm以下であってもよい。繊維径の下限は、特に限定されないが、製造上の制約を考慮すると、例えば、1nm以上であり、3nm以上もしくは10nm以上であってもよい。なお、ナノファイバの繊維径とは、平均繊維径を意味する。ここでは、ナノファイバを走査電子顕微鏡(SEM)で撮影し、任意の50本のナノファイバの繊維径を測定し、50個の測定値の平均値を繊維径とする。
【0039】
第1および第2導電ナノファイバは、導電性(電子伝導性)を有するナノファイバであり、例えば、導電性材料を紡糸することにより得ることができる。具体的には、導電性材料の原料を含む液体をノズルから吐出させることにより導電性を有するナノファイバを得ることができる。
【0040】
第1および第2非導電ナノファイバは、非導電性のナノファイバであり、それぞれ第1摩擦帯電材料および第2摩擦帯電材料を紡糸することにより得ることができる。
【0041】
第1発電要素および第2発電要素が、それぞれ非導電性のナノファイバを含むことにより、両者の摩擦帯電する面積が大きくなる。また、第1電極および第2電極が、それぞれ導電性を有するナノファイバを含むことにより、第1電極および第2電極の静電誘導がスムーズに進行する。その結果、摩擦帯電を生じる機会が増加する一方、静電誘導は促進される。そのため、電気エネルギーを高効率で出力し得るTENGが得られる。
【0042】
また、第1発電要素、第2発電要素、第1電極および第2電極のそれぞれがナノファイバを含むことにより、より軽量なTENGが実現される。その結果、TENGの単位質量あたりの発電効率が高められる。
【0043】
さらに、TENGの用途として特に注目されるのは人体に着用可能(ウェアラブル)なデバイスへの応用である。その場合、TENGには高い通気性と柔軟性が求められる。本実施形態に係る発電機は第1発電要素および第2発電要素のみならず、第1電極および第2電極がナノファイバを含むことで、ウェアラブルデバイスへの応用に適した高い通気性と柔軟性が確保される。そして、ナノファイバをAgなどの抗菌性を有する金属で構成する場合、高い抗菌性を本実施形態に係る発電機に付与することができる。
【0044】
第1発電要素、第2発電要素、第1電極および第2電極は、例えば、それぞれを構成するナノファイバ同士が絡み合った不織布で構成してもよい。ただし、各構成要素は、織布でもよく、編み物でもよく、その他の形態でもよい。
【0045】
第1および第2電極(もしくは導電性を有するナノファイバで構成された不織布、織布、編み物など)の平均厚さは、例えば、1μm~1000μmであればよいが、特に限定されない。また、第1および第2発電要素(もしくは非導電性のナノファイバで構成された不織布、織布、編み物など)の平均厚さは、例えば、1μm~1000μmであればよいが、特に限定されない。
【0046】
第1発電要素と第1電極との間の第1界面領域に、第1導電ナノファイバと第1非導電ナノファイバとを連絡する第1複合層が形成されていてもよい。同様に、第2発電要素と第2電極との間の第2界面領域に、第2導電ナノファイバと第2非導電ナノファイバとを連絡する第2複合層が形成されていてもよい。
【0047】
第1および第2電極、ならびに第1および第2発電要素の平均厚さは、例えば、以下の方法で測定することができる。まず、第1または第2発電要素と第1または第2電極との積層体を積層方向に沿って切断し、断面像を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影する。ただし、断面像において、第1または第2発電要素と第1または第2電極との界面の長さは1000μm以上とする。断面像は5視野以上で撮影することが望ましい。次に、断面像を上記界面方向に沿って10等分するように界面方向に垂直な方向(つまり、複合層の厚さ方向)の9本の線分を引く。
【0048】
次に、断面像の10個の領域において、第1または第2発電要素の最も内側(反対極性の発電要素側)に第1または第2非導電ナノファイバが存在する点T1と、第1または第2電極側に第1または第2非導電ナノファイバが最も深く侵入している点U1と、を検出する。次に、点T1と点U1との上記線分と平行な方向における距離dt1を求める。第1または第2複合層がない場合、10個の距離dt1の平均値dt1aが、第1または第2発電要素の平均厚さと見なされる。第1または第2複合層がある場合は、平均値dt1aと第1または第2複合層の平均厚さとの差が、第1または第2発電要素の平均厚さと見なされる。複数の視野で断面像を測定する場合は、各視野で求められた第1または第2発電要素の平均厚さの平均値を第1または第2発電要素の平均厚さと見なす。
【0049】
同様に、断面像の10個の領域において、第1または第2電極の最も外側に第1または第2導電ナノファイバが存在する点T2と、第1または第2発電要素側に第1または第2導電ナノファイバが最も深く侵入している点U2と、を検出する。次に、点T2と点U2との上記線分と平行な方向における距離dt2を求める。第1または第2複合層がない場合、10個の距離dt2の平均値dt2aが、第1または第2電極の平均厚さと見なされる。第1または第2複合層がある場合は、平均値dt2aと第1または第2複合層の平均厚さとの差が、第1または第2電極の平均厚さと見なされる。複数の視野で断面像を測定する場合は、各視野で求められた第1または第2電極の平均厚さの平均値を第1または第2電極の平均厚さと見なす。
【0050】
次に、複合層の形態に応じて実施形態を分けて説明する。
以下、ナノファイバの平均繊維径とは、ナノファイバを走査電子顕微鏡(SEM)で撮影し、任意の50本のナノファイバの繊維径を測定し、平均した値とする。その他の非導電繊維、繊維状の導電材料についても同様である。
【0051】
(第1実施形態)
第1複合層は、第1非導電繊維と第1導電材料により形成されている。第1導電材料は、例えば、第1非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着して、第1非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っている。同様に、第2複合層は、第2非導電繊維と第2導電材料により形成されている。第2導電材料は、例えば、第2非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着して、第2非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っている。第1、2非導電繊維および第1、2導電材料は、ナノファイバでもよい。すなわち、第1複合層は、第1非導電ナノファイバと第1導電ナノファイバとの絡み合いにより形成されていてもよい。同様に、第2複合層は、第2非導電ナノファイバと第2導電ナノファイバとの絡み合いにより形成されていてもよい。各複合層において、それぞれナノレベルの繊維径を有する導電性のナノファイバと非導電のナノファイバとが隣り合って絡み合うことにより、導電性のナノファイバと非導電性のナノファイバとの接点が顕著に増加し、静電誘導がスムーズに誘引されるようになる。また、第1導電材料が、第1非導電繊維の表面に薄い膜状で固着または接着することにより、導電材料と非導電性繊維との接点が顕著に増加し、静電誘導がスムーズに誘引されるようになる。薄い膜状の第1、2導電材料の厚さは、例えば300nm以下でもよく、10nm~100nmの範囲にあってもよい。
【0052】
第1導電ナノファイバと第1非導電ナノファイバとの絡み合い、および、第2導電ナノファイバと第2非導電ナノファイバとの絡み合いの程度は、できるだけ大きいことが望ましい。例えば、第1または第2非導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2導電ナノファイバを深く侵入させることが望ましい。もしくは、第1または第2導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2非導電ナノファイバを深く侵入させることが望ましい。
【0053】
なお、第1または第2非導電ナノファイバは、通常、相対的に第1または第2導電ナノファイバよりも剛直である。よって、第1または第2非導電ナノファイバのネットワークの隙間に、第1または第2導電ナノファイバを侵入させることが有効である。
【0054】
第1または第2非導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2導電ナノファイバを深く侵入させるには、第1または第2非導電ナノファイバの平均繊維径よりも、第1または第2導電ナノファイバの平均繊維径を小さくすることが望ましい。逆に、第1または第2導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2非導電ナノファイバを深く侵入させるには、第1または第2導電ナノファイバの平均繊維径よりも、第1または第2非導電ナノファイバの平均繊維径を小さくすることが望ましい。
【0055】
ここで、第1および第2非導電ナノファイバの平均繊維径をDnc、第1および第2導電ナノファイバの平均繊維径をDcとする。
【0056】
各複合層において、Dnc=Dcでもよい。ただし、太い繊維と細い繊維との絡まり合いが形成される場合、ナノファイバ同士の接点がより増加しやすく、静電誘導が更にスムーズに誘引されると考えられる。よって、Dnc>Dcのとき、Dnc/Dc比は、例えば3以上が望ましく、3~20の範囲内でもよい。同様に、Dnc<Dcのとき、Dc/Dnc比は、例えば3以上が望ましく、3~20の範囲内でもよい。
【0057】
第1または第2複合層の平均厚さは、第1電極、第2電極、第1発電要素および第2発電要素のそれぞれの平均厚さよりも小さく、それぞれの平均厚さの半分以下であってもよい。第1または第2複合層は、第1または第2電極と、第1または第2発電要素との界面付近を構成するのに十分な厚さであればよい。第1または第2複合層の厚さは、例えば、1μm~500μmであってもよい。
【0058】
第1または第2複合層の平均厚さは、第1または第2発電要素の一方の表面から第1または第2導電ナノファイバが侵入する深さ、もしくは、第1または第2電極の一方の表面から第1または第2非導電ナノファイバが侵入する深さと、言い換えることもできる。
【0059】
第1または第2複合層の平均厚さは、例えば、以下の方法で測定することができる。まず、第1または第2発電要素と第1または第2電極との積層体を積層方向に沿って切断し、断面像を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影する。ただし、断面像において、第1または第2発電要素と第1または第2電極との界面の長さは1000μm以上とする。断面像は5視野以上で撮影することが望ましい。次に、断面像を上記界面方向に沿って10等分するように界面方向に垂直な方向(つまり、複合層の厚さ方向)の9本の線分を引く。次に、断面像の10個の領域において、第1または第2発電要素側に第1または第2導電ナノファイバが最も深く侵入している点Pと、第1または第2電極側に第1または第2非導電ナノファイバが最も深く侵入している点Qと、を検出する。次に、点Pと点Qとの上記線分と平行な方向における距離d1を求める。10個の距離d1の平均値d1aが、第1または第2複合層の平均厚さと見なされる。複数の視野で断面像を測定する場合は、各視野で求められたd1aの平均値を第1または第2複合層の平均厚さと見なす。
【0060】
一方、第1または第2複合層の平均厚さは、第1発電要素または第2発電要素を裏面(複合層が形成されている側とは反対側の面)から観察したときに、第1または第2導電ナノファイバが事実上観察されない程度の厚さであることが望ましい。例えば、上記10個の距離d1の平均値(d1a)、標準偏差(σ)から求めたCV値(d1a/σ)が0.1以上であることが好ましい。第1または第2非導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2導電ナノファイバがあまりに深く侵入すると、第1発電要素または第2発電要素が摩擦帯電を生じにくくなって、発電効率がかえって低下する可能性がある。
【0061】
第1発電要素または第2発電要素を裏面から観察したときに、第1または第2導電ナノファイバが第1または第2非導電ナノファイバで遮蔽されて事実上観察されない状態を達成するには、第1発電要素または第2発電要素を構成する第1または第2非導電ナノファイバの密度を十分に高めることが望ましい。例えば90μm2以上の視野に観測される第1または第2非導電ナノファイバの本数は、0.08本/μm2以上であることが望ましく、0.1本/μm2以上でもよく、0.15本/μm2以上でもよい。
【0062】
なお、第1または第2導電ナノファイバが事実上観察されない状態とは、上記裏面から見たときに、90μm2以上の視野に観測される第1または第2非導電ナノファイバの本数が、0.01本/μm2以下、もしくは0.005本/μm2以下である場合をいう。この点、後述の第2実施形態においても同様である。
【0063】
第1複合層では、第1導電ナノファイバは、第1非導電ナノファイバの表面に絡みついていることが望ましい。同様に、第2複合層では、第2導電ナノファイバが、第2非導電ナノファイバの表面に絡みつていることが望ましい。複数本の第1または第2導電ナノファイバが、1本の第1または第2非導電ナノファイバの表面に密着していてもよい。例えば、第1または第2導電ナノファイバは、第1または第2非導電ナノファイバの表面をネットワーク状に覆っていてもよい。この場合、相対的に剛直な第1または第2非導電ナノファイバと第1または第2導電ナノファイバとの絡み合いの程度は非常に大きくなる。また、第1または第2非導電ナノファイバのネットワークの隙間よりも、第1または第2非導電ナノファイバの表面に付着する第1または第2導電ナノファイバの割合を大きくすることができるため、静電誘導がスムーズに誘引される。
【0064】
静電誘導を面方向でより均一に連結させることで発電効率を向上させる観点からは、第1導電ナノファイバの少なくとも一部が、複数の第1非導電ナノファイバ間を架橋しており、第2導電ナノファイバの少なくとも一部が、複数の第2非導電ナノファイバ間を架橋していることが望ましい。そのような架橋ナノファイバは、複数の第1または第2非導電ナノファイバに跨って配置される。架橋ナノファイバは、第1または第2非導電ナノファイバのネットワークの隙間に複数の第1または第2非導電ナノファイバ間を架け渡すように配置されてもよい。
【0065】
(第2実施形態)
第1または第2複合層は、電荷貯蔵材料を含んでもよい。電荷貯蔵材料は、例えば、電荷を引き寄せて安定化させる所定の化学構造を有する。所定の化学構造は、π共役系電子軌道を有する構造が典型的であるが、これに限定されない。電荷貯蔵材料は、第1または第2発電要素もしくは第1または第2非導電繊維(ナノファイバを含む)よりも長期間にわたって電荷をトラップできる化学構造を有してもよい。
【0066】
一般に摩擦帯電で発生する電荷の多くは、空気中の反対電荷で中和されたり、第1または第2電極に逃げたりする傾向があり、第1または第2発電要素に表面電荷が蓄積されにくい傾向がある。静電誘導で生じる電流の大きさは、表面電荷の蓄積量に依存する。第1または第2複合層が電荷貯蔵材料を含むことで、摩擦帯電で生成された電荷は複合層にしっかりと結合し、ウォーターポンプのように機能する。そのため、第1電極と第2電極との間に誘導される電位差が増加し、強い静電誘導が刺激され、より高い出力を生成できるようになる。
【0067】
電荷貯蔵材料は、芳香環を有するポリマー材料であってもよい。芳香環は、安定なπ共役系電子軌道を有する。よって、摩擦帯電で生じる電荷を高度に安定化させ、より長期間にわたって電荷をトラップできる。芳香環は、単環でもよく、縮合環でもよい。芳香環は、ベンゼン環でもよく、複素環(ヘテロ環)でもよい。
【0068】
芳香環を有するポリマー材料としては、例えば、ポリスチレン、アラミドなどであってもよい。ポリマー材料は、π共役系高分子であってもよい。π共役系高分子としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0069】
電荷貯蔵材料は、第1非導電繊維および第2非導電繊維とは異なる第3非導電繊維を含んでもよい。第1導電材料または第2導電材料は、第3非導電繊維の表面に、繊維状または膜状で固着または接着することにより第3非導電繊維の表面の少なくとも一部を覆っていてもよい。第3非導電繊維と、第1非導電繊維または第2非導電繊維とが絡み合っていてもよい。
【0070】
第1導電材料または第2導電材料が繊維状である場合、第3非導電繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が小さいことが好ましい。また、第1導電材料または第2導電材料が繊維状である場合、第1導電材料または第2導電材料は、第3非導電繊維の表面に絡みついている状態が好ましい。
【0071】
第1導電材料または第2導電材料の少なくとも一部が、複数の第3非導電繊維間を架橋していてもよい。第1非導電繊維または前記第2非導電繊維の平均繊維径よりも、第3非導電繊維の平均繊維径が小さくてもよい。
【0072】
電荷貯蔵材料は、少なくとも部分的にナノファイバの形態を有してもよい。すなわち、電荷貯蔵材料は、第1または第2非導電ナノファイバとは異なる第3非導電ナノファイバを含んでもよい。この場合、各複合層において、第1または第2導電ナノファイバと第3非導電ナノファイバとが絡み合い、かつ第3非導電ナノファイバと第1または第2非導電ナノファイバとが絡み合っていることが望ましい。中でも、第1または第2電極と電荷貯蔵材料との複合化が重要であり、第1または第2導電ナノファイバと第3非導電ナノファイバとが十分に絡み合っていることが望ましい。
【0073】
各複合層は、少なくとも第1または第2導電ナノファイバと第3非導電ナノファイバとが絡み合う第1複合領域を有し、第3非導電ナノファイバと第1または第2非導電ナノファイバとが絡み合う第2複合領域を有してもよく、更に、第3非導電ナノファイバのみで構成される中間領域を有してもよい。中でも第1複合領域が重要であり、第1複合領域により、導電性のナノファイバと非導電性のナノファイバとの間の接点が顕著に増加し、静電誘導がスムーズに誘引されるようになる。
【0074】
第1または第2導電ナノファイバと第3非導電ナノファイバとの絡み合いの程度は、できるだけ大きいことが望ましい。例えば、第1または第2導電ナノファイバのネットワークの隙間に、第3非導電ナノファイバを深く侵入させることが望ましい。同様に、第3非導電ナノファイバのネットワークの隙間に、第1または第2導電ナノファイバを深く侵入させてもよい。
【0075】
第1または第2導電ナノファイバのネットワークの隙間に第3非導電ナノファイバを深く侵入させるには、第1または第2導電ナノファイバの平均繊維径よりも、第3非導電ナノファイバの平均繊維径を小さくすることが望ましい。逆に、第3非導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2導電ナノファイバを深く侵入させるには、第3非導電ナノファイバの平均繊維径よりも、第1または第2導電ナノファイバの平均繊維径を小さくすることが望ましい。
【0076】
ここで、第3非導電ナノファイバの平均繊維径をDnc3とする。
【0077】
各複合層において、Dc=Dnc3でもよいが、太い繊維と細い繊維との絡まり合いが形成される場合、ナノファイバ同士の接点がより増加しやすく、静電誘導が更にスムーズに誘引されると考えられる。よって、Dc>Dnc3のとき、Dc/Dnc3比は、例えば、3以上が望ましく、3~20の範囲内でもよい。同様に、Dc<Dnc3のとき、Dnc3/Dc比は、例えば、3以上が望ましく、3~20の範囲内でもよい。
【0078】
第1または第2非導電ナノファイバのネットワークの隙間に第3非導電ナノファイバを深く侵入させるには、第1または第2非導電ナノファイバの平均繊維径よりも、第3非導電ナノファイバの平均繊維径を小さくすることが望ましい。逆に、第3非導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2非導電ナノファイバを深く侵入させるには、第3非導電ナノファイバの平均繊維径よりも、第1または第2非導電ナノファイバの平均繊維径を小さくすることが望ましい。
【0079】
Dnc>Dnc3のとき、Dnc/Dnc3比は、例えば、3以上が望ましく、3~20の範囲内でもよい。同様に、Dnc<Dnc3のとき、Dnc3/Dnc比は、例えば、3以上が望ましく、3~20の範囲内でもよい。
【0080】
第1または第2複合層のうち、第1または第2導電ナノファイバと第3非導電ナノファイバとが絡み合う第1複合領域の平均厚さは、第1電極、第2電極、第1発電要素および第2発電要素のそれぞれの厚さよりも、小さく、それぞれの平均厚さの半分以下であってもよい。第1または第2複合層の厚さは、例えば、1μm~500μmであってもよい。
【0081】
第1または第2複合層のうち、第1複合領域の平均厚さは、例えば、以下の方法で測定することができる。まず、第1または第2発電要素と第1または第2電極との積層体を積層方向に沿って切断し、断面像を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影する。積層体には、第1または第2複合層が含まれている。断面像において、第1または第2発電要素と第1または第2電極との間に介在する第1または第2複合層(発電要素と電極との界面領域)の長さは1000μm以上とする。断面像は5視野以上で撮影することが望ましい。次に、断面像を上記界面に沿って10等分するように界面方向に垂直な方向(つまり、複合層の厚さ方向)の9本の線分を引く。次に、断面像の10個の領域において、第1または第2電極側に第3非導電ナノファイバが最も深く侵入している点Rと、電荷貯蔵材料側(すなわち第1または第2発電要素側)に第1または第2導電ナノファイバが最も深く侵入している点Sと、を検出する。次に、点Rと点Sとの上記線分と平行な方向における距離d2を求める。10個の距離d2の平均値d2aが、第1複合領域の平均厚さと見なされる。複数の視野で断面像を測定する場合は、各視野で求められたd2aの平均値を第1複合領域の平均厚さと見なす。
【0082】
一方、第1複合領域の厚さは、第1発電要素または第2発電要素を裏面(複合層が形成されている側とは反対側の面)から観察したときに、第1または第2導電ナノファイバが事実上観察されない程度の厚さであることが望ましい。例えば、上記10個の距離d1の平均値(d2a)、標準偏差(σ)から求めたCV値(d2a/σ)が0.1以上であることが好ましい。第3非導電ナノファイバのネットワークの隙間に第1または第2導電ナノファイバがあまりに深く侵入すると、第1発電要素または第2発電要素が摩擦帯電を生じにくくなって、発電効率がかえって低下する可能性がある。
【0083】
第1発電要素または第2発電要素を裏面から観察したときに、第1または第2導電ナノファイバが第1または第2非導電ナノファイバで遮蔽されて事実上観察されない状態を達成するには、第1発電要素または第2発電要素を構成する第1または第2非導電ナノファイバの密度と、電荷貯蔵材料である第3非導電ナノファイバの密度を十分に高めることが望ましい。例えば90μm2以上の視野に観測される第1または第2非導電ナノファイバと第3非導電ナノファイバの合計本数は、0.08本/μm2以上であることが望ましく、0.1本/μm2以上でもよく、0.15本/μm2以上でもよい。
【0084】
第1複合領域では、第1または第2導電ナノファイバは、第3非導電ナノファイバの表面に絡みついていることが望ましい。複数本の第1または第2導電ナノファイバが、1本の第3非導電ナノファイバの表面に密着していてもよい。例えば、第1または第2導電ナノファイバは、第3非導電ナノファイバの表面をネットワーク状に覆っていてもよい。この場合、相対的に剛直な第3非導電ナノファイバと第1または第2導電ナノファイバとの絡み合いの程度は非常に大きくなる。また、第3非導電ナノファイバのネットワークの隙間よりも、第3非導電ナノファイバの表面に付着する第1または第2導電ナノファイバの割合を大きくすることができるため、静電誘導がスムーズに誘引される。
【0085】
静電誘導を面方向でより均一に連結させることで発電効率を向上させる観点からは、第1または第2導電ナノファイバの少なくとも一部は、複数の第3非導電ナノファイバ間を架橋していることが望ましい。そのような架橋ナノファイバは、複数の第3非導電ナノファイバに跨って配置される。架橋ナノファイバは、第3非導電ナノファイバのネットワークの隙間に複数の第3非導電ナノファイバ間を架け渡すように配置されてもよい。
【0086】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係るTENGについて更に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、発明の範囲内で種々の改変が可能である。以下の図面では、同一の参照符号は同一部分または相当部分を示している。
【0087】
図1は、本実施形態に係るTENGの発電メカニズムを示す説明図である。TENG100は、それぞれがシート状の第1発電要素110と、第2発電要素120と、第1電極111と、第2電極121とを具備する。第1電極111と第2電極121は抵抗Rを有する外部回路101を介して電気的に接続されている。ここでは、第1発電要素110は摩擦ポジティブ材料、第2発電要素120は摩擦ネガティブ材料を含む。
【0088】
第1発電要素110と第1電極111とは互いに接触した状態で一体化され、第2発電要素120と第2電極121とは互いに接触した状態で一体化されている。第1発電要素110と第2発電要素120は、それぞれの第1位置で相互に離間した状態(
図1(c))から次第に接近し、それぞれの第2位置で接触し(
図1(a))、その後、離間して第1位置に移動する動作を繰り返す。
【0089】
図1(a)は、第1発電要素110と第2発電要素120とが、それぞれの第2位置で接触している状態である。両者が圧縮圧力を受けることで、接触界面に摩擦帯電が生じる。すなわち、第1発電要素110は、正の表面電荷を、第2発電要素120は、負の表面電荷を持つ。この状態では、正の表面電荷と負の表面電荷とが相互に概ね完全に遮蔽し合って、静的な平衡状態にある。このとき、外部回路101に電流は流れない。
【0090】
図1(b)は、第1発電要素110と第2発電要素120とが、離間し、第1位置まで移動する途中の状態である。第1発電要素110と第2発電要素120との距離が離れるほどに表面電荷の遮蔽効果が弱まり、第1電極に負の電荷が、第2電極に正の電荷が誘導され(つまり、外部回路101に電流Iが流れ)、電極間の電位差が次第に大きくなる。
【0091】
図1(c)は、第1発電要素110と第2発電要素120とが、それぞれの第1位置で停止している状態である。この状態は静的な平衡状態であり、外部回路101に電流は流れない。
【0092】
図1(d)は、第1発電要素110と第2発電要素120とが、接近し、第2位置まで移動する途中の状態である。第1発電要素110と第2発電要素120との距離が近づくほどに、表面電荷の遮蔽効果が強くなり、第1電極の負の電荷と第2電極の正の電荷が減少し(つまり、外部回路101に先とは逆方向の電流Iが流れ)、電極間の電位差が次第に小さくなる。
【0093】
図2は、本実施形態に係るTENG100の一例の断面模式図である。第1発電要素110に含まれる第1摩擦帯電材料は、摩擦ポジティブ材料である。ここで、摩擦ポジティブ材料は、ナノファイバ(第1非導電ナノファイバ110ncF)の形態を有する。第1発電要素110は、例えば、第1非導電ナノファイバ110ncFで構成された不織布である。一方、第2発電要素120に含まれる第2摩擦帯電材料は、摩擦ネガティブ材料である。摩擦ネガティブ材料は、ナノファイバ(第2非導電ナノファイバ120ncF)の形態を有する。第2発電要素120は、例えば、第2非導電ナノファイバ120ncFで構成された不織布である。
【0094】
第1電極111は、ナノファイバ(第1導電ナノファイバ111cF)の形態を有する。第1電極111は、例えば、第1導電ナノファイバ111cFで構成された不織布である。同様に、第2電極121は、ナノファイバ(第2導電ナノファイバ121cF)の形態を有する。第2電極121は、例えば、第2導電ナノファイバ121cFで構成された不織布である。
【0095】
図3は、
図2のTENG100の要部である第1複合層130の拡大模式図である。
図2、3では、第1複合層130を含む領域が破線で囲まれている。第1複合層130は、破線で囲まれた第1非導電ナノファイバ110ncFと第1導電ナノファイバ111cFとの絡み合いが形成されている領域である。
図3は、既述の断面像の10個の領域のうちの1つに相当する。
図3中に、第1発電要素110側に第1導電ナノファイバ111cFが最も深く侵入している点Pと、第1電極111側に第1非導電ナノファイバ110ncFが最も深く侵入している点Qとの距離d1を示す。
【0096】
図4は、別の実施形態に係るTENG100Aの一例の断面模式図である。この実施形態は、第1複合層の構成が異なる点以外、
図2の実施形態と概ね同様の構造を有する。第1複合層130Aは、電荷貯蔵材料を含み、電荷貯蔵材料は、ナノファイバの形態を有する。すなわち、電荷貯蔵材料は、第1または第2非導電ナノファイバとは異なる第3非導電ナノファイバ130ncFを含む。
【0097】
図5は、
図4のTENG100Aの要部である第1複合層130Aの拡大模式図である。
図4、5では、第1複合層130Aを含む領域が破線で囲まれている。また、第1複合領域130Bが一点鎖線で囲まれている。第1複合層130Aにおいて、第1導電ナノファイバ111cFと第3非導電ナノファイバ130ncFとが絡み合い、かつ第3非導電ナノファイバ130ncFと第1非導電ナノファイバ110ncFとが絡み合っている。第1複合領域130Bにおいて、第1導電ナノファイバ111cFと第3非導電ナノファイバ130ncFとが絡み合っている。
図5は、既述の断面像の10個の領域のうちの1つに相当する。
図5中に、第1電極111側に第3非導電ナノファイバ130ncFが最も深く侵入している点Rと、電荷貯蔵材料側に第1導電ナノファイバ111cFが最も深く侵入している点Sとの距離d2を示す。
【0098】
図6は、好ましい第1複合層のより詳細な構造を示す概念図である。第2複合層についても同様の構造を有してもよい。
図6は、第1導電ナノファイバ111cFが、第1非導電ナノファイバ110ncF(または第3非導電ナノファイバ130ncF)の表面に絡みついている様子を示している。このように、細い導電ナノファイバが太い非導電ナノファイバの表面に鞘状に絡みつくことで、静電誘導がよりスムーズに誘引されると考えられる。また、第1導電ナノファイバ111cFの一部は、複数の第1非導電ナノファイバ110ncF(または第3非導電ナノファイバ130ncF)の間を架橋している。このように、導電ナノファイバが複数の非導電ナノファイバに跨って付着することで、静電誘導を面方向でより均一に連結させることができ、発電効率が向上すると考えられる。
【0099】
次に、本実施形態に係るTENGの製造方法の一例について説明する。
【0100】
(第1または第2発電要素)
ここでは一例として、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)により、第1または第2発電要素として、第1または第2非導電ナノファイバを含む不織布を製造する方法について説明する。第1および第2非導電ナノファイバは、それぞれ第1摩擦帯電材料および第2摩擦帯電材料を紡糸することにより得ることができる。
【0101】
電界紡糸法による非導電ナノファイバの製造方法は、例えば、摩擦帯電材料を含む溶液を調製する工程、ナノファイバ形成空間に静電気を有する溶液を吐出して電界によりナノファイバを生成させる工程と、生成したナノファイバを堆積させて不織布を形成する工程とを有する。
【0102】
溶液の調製方法は、特に制限されず、例えば、摩擦帯電材料を溶媒に溶解させて調製すればよい。溶媒は、摩擦帯電材料を溶解でき、揮発により除去可能な溶媒であれば、特に制限されない。このような溶媒としては、非プロトン性の極性有機溶媒が挙げられる。具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド(鎖状または環状アミドなど)、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド、アセトンなどが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
溶液に含まれる摩擦帯電材料の濃度は、適宜設定すればよい。溶液は、必要に応じて、電界紡糸法で使用される公知の添加剤を含んでもよい。
【0104】
次に、ナノファイバ形成空間で溶液からナノファイバを生成させる。電界紡糸法では、静電延伸現象によりナノファイバを生成させる。具体的には、電界を有する空間(ナノファイバ形成空間)に帯電させた溶液を吐出すると、空間を飛行中に溶液中の溶媒が徐々に揮散し、溶液の液滴の体積が減少していく。その結果、空間を飛行中の液滴の電荷密度が徐々に上昇し、電荷の反発力が液滴の表面張力よりも勝ったときに、液滴が爆発的に線状に延伸される。静電延伸現象によれば、ナノファイバを効率よく製造することができる。
【0105】
ナノファイバ形成空間で生成したナノファイバを所定の基材表面に堆積させると、不織布が得られる。形成された不織布は、基材表面から容易に剥離することができる。
【0106】
電界紡糸法により非導電ナノファイバを製造する装置は、例えば、摩擦帯電材料を含む溶液を吐出するためのノズルと、溶液を帯電させる帯電手段と、ナノファイバを堆積させるコレクタ部とを具備する。帯電手段は、例えば、ノズルに高電圧を印加する電圧印加装置を有する。帯電手段は、コレクタ部よりもノズルから遠くにコレクタ部と平行に設置される対電極を有してもよい。コレクタ部もしくは対電極は接地すればよい。これにより、ノズルと対電極との間に電位差が生じる。すなわち、ノズルとコレクタ部もしくは対電極との間にナノファイバ形成空間が形成される。
【0107】
(電荷貯蔵材料)
電荷貯蔵材料は、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)により、例えば、発電要素として形成された第1または第2非導電ナノファイバを含む不織布の一方の表面に、第3非導電ナノファイバを紡糸して堆積させることにより形成される。コレクタ部に、第1または第2非導電ナノファイバを含む不織布を配置し、ナノファイバ形成空間で第3非導電性ナノファイバを生成させることで、第1または第2発電要素の一方の表面に、第3非導電性ナノファイバを含む電荷貯蔵材料を堆積させることができる。
【0108】
(第1または第2電極)
第1または第2電極は、例えば、ポリオール法により、第1または第2導電性ナノファイバを含む不織布として製造することができる。ポリオール法とは、液相で金属ナノファイバを合成する方法の一例であり、界面活性剤、高分子などの保護剤の存在下、水または溶媒中で金属イオンをポリオール(多価アルコール)で還元してナノファイバを成長させる方法である。ポリオール法によれば、金属塩溶液の濃度、温度条件を制御することにより、様々な繊維径と繊維長を有する金属ナノファイバを合成することができる。保護剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)が用いられる。金属塩としては、例えば、硝酸銀が用いられる。ポリオールとしては、例えば、エチレングリコールが用いられる。例えば、硝酸銀溶液中での銀イオンの還元反応は、PVPのような保護剤により方向が一方向に制御されながら進行し、銀ナノファイバが生成する。溶液中に誘導剤として塩化ナトリウムを添加すると、銀ナノファイバの成長が促進される。導電性ナノファイバ(金属ナノファイバ)を摩擦帯電材料もしくは電荷貯蔵材料に積層もしくは堆積させた後、所定の外力を付与することで導電性ナノファイバと非導電性ナノファイバとの絡み合いが形成される。例えば、導電性ナノファイバを摩擦帯電材料もしくは電荷貯蔵材料に対して加圧したり、導電性ナノファイバを摩擦帯電材料(もしくは電荷貯蔵材料)を介して摩擦帯電材料(もしくは電荷貯蔵材料)側から吸引したりすることで、導電性ナノファイバと非導電性ナノファイバとの絡み合いの形成を促進することができる。
【0109】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0110】
≪実施例1≫
(1)第1および第2発電要素
第1摩擦帯電材料として摩擦ポジティブ材料であるポリアミド(ナイロン-6,6)を準備し、ナイロン-6,6をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させて、ナイロン-6,6の含有率が7.5質量%のナイロン溶液を調製した。ナイロン溶液を所定の電界紡糸装置を用いて電界紡糸し、平均繊維径400nmの第1非導電ナノファイバ(ナイロンナノファイバ)をコレクタ部に堆積させて、第1発電要素としてナイロン不織布(厚さ50μm)を形成した。ナイロン(Nylon)不織布のSEM像を
図7(a)に示す。
【0111】
第2摩擦帯電材料として摩擦ネガティブ材料であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を準備し、PVDFをDMFとアセトンの体積比7:3の混合溶媒に溶解させて、PVDFの含有率が20質量%のPVDF溶液を調製した。PVDF溶液を所定の電界紡糸装置を用いて電界紡糸し、平均繊維径300nmの第2非導電ナノファイバ(PVDFナノファイバ)をコレクタ部に堆積させて、第2発電要素としてPVDF不織布(厚さ50μm)を形成した。PVDF不織布のSEM像を
図7(b)に示す。
【0112】
図9に示される構成を有する電界紡糸装置を用いて電界紡糸を行った。電界紡糸装置200は、摩擦帯電材料を含む溶液を吐出するためのシリンジ(ノズル)210と、シリンジ210に溶液を送るシリンジポンプ220と、シリンジ210を帯電させる電圧印加装置(帯電手段)230と、ナノファイバを堆積させる回転体240(コレクタ部)とを具備する。回転体240は接地されている。シリンジ210と回転体240との間のナノファイバ形成空間にナノファイバが生成し、回転する回転体240にシート状の不織布として巻き取られる。
【0113】
電界紡糸のパラメータを表1に示す。
【0114】
【0115】
(2)第1および第2電極
第1および第2導電ナノファイバとして、ポリオール法により生成させた銀ナノファイバ(平均繊維径50nm、平均長さ100μm)を用いた。銀ナノファイバ(AgNWs)の一例のSEM像を
図7(c)に示す。銀ナノファイバの分散液をナイロン不織布およびPVDF不織布の一方の表面にそれぞれ吸引濾過により堆積させて、不織布の状態の第1電極および第2電極を形成した。具体的には、吸収フィルタファネルの表面上にナイロン不織布およびPVDF不織布を配置し、その後、銀ナノファイバの分散液を吸収フィルタファネルに注入して吸引し、その後、エタノールで洗浄した。吸引時間は10分間とした。得られたナイロン不織布またはPVDF不織布と銀ナノファイバとの積層体は60℃で乾燥させた。第1および第2電極の厚さは、それぞれ5μmであった。PVDF不織布に積層された銀ナノファイバ(特に図の右側)を
図7(d)に示す。
【0116】
吸引濾過のプロセスにより、ナイロンナノファイバおよびPVDFナノナノファイバ(ナイロン不織布およびPVDF不織布)のネットワークの隙間に銀ナノファイバが深く侵入し、ナイロンナノファイバと銀ナノファイバとが絡み合った第1複合層とPVDFナノファイバと銀ナノファイバとが絡み合った第2複合層が形成された。
【0117】
図7(d)に示すPVDF不織布と銀ナノファイバとの積層体の一部の拡大SEM写真を
図8に示す。
図8より、繊維径が小さい銀ナノファイバが、繊維径が大きいPVDFナノファイバの表面に絡みついている様子が観察できる。また、銀ナノファイバの一部は、複数のPVDFナノファイバ間を架橋している様子が観察できる。
【0118】
第1複合層では、ナイロンナノファイバの平均繊維径をDncと銀ナノファイバの平均繊維径Dcとの比:Dnc/Dc=8であり、既述の方法で求められる第1複合層の厚さは1μmであった。
【0119】
第2複合層では、PVDFナノファイバの平均繊維径をDncと銀ナノファイバの平均繊維径Dcとの比:Dnc/Dc=6であり、既述の方法で求められる第2複合層の厚さは1μmであった。
【0120】
(3)TENGの組み立て
ナイロン不織布と銀ナノファイバとの積層体、および、PVDF不織布と銀ナノファイバとの積層体を用いてTENGA1を組み立てた。そして、TENGA1を、
図10(a)に示すようなリニアモーターで駆動し、その出力を
図10(b)に示すようなオシロスコープを介して測定した。TENGA1は、
図10(c)に示すような電力測定用のプラットフォームに配置した。リニアモーターの駆動周波数と駆動力をそれぞれ1~5Hz、12Nに制御した。TENGA1の出力特性を
図11に示す。
図11において、VocはTENGA1の出力電圧である。周波数1~5Hzのいずれにおいても、100V程度以上の高い出力電圧が安定的に得られている。
【0121】
≪実施例2≫
電荷貯蔵材料としてポリスチレン(PS)を準備し、DMFに溶解させて、PSの含有率が15質量%のPS溶液を調製した。PS溶液を所定の電界紡糸装置を用いて電界紡糸し、平均繊維径500nmの第3非導電ナノファイバ(PSファイバ)を第2発電要素(PVDF不織布)に堆積させた。 電界紡糸のパラメータを表2に示す。
【0122】
【0123】
電界紡糸のプロセスにより、PVDFナノナノファイバ(PVDF不織布)のネットワークの隙間にPSナノファイバが侵入し、PVDFナノファイバとPSナノファイバとが絡み合った第2複合領域が形成された。
【0124】
得られたPVDF不織布とPSナノファイバとの積層体に銀ナノファイバを吸引濾過で堆積させたこと以外、実施例1と同様にTENGA2を組み立て、駆動周波数と駆動力をそれぞれ2Hz、10Nに制御し、その出力を評価した。TENGA2の出力特性を
図12に示す。
図12(a)はPSナノファイバのない実施例1のTENGA1の出力特性であり、
図12(b)はPSナノファイバを含む実施例2のTENGA2の出力特性である。TENGA2では飛躍的(概ね3倍以上)に出力が向上し、100V~160Vの電圧が安定的に得られている。
【0125】
TENGA2において、PVDFナノファイバの平均繊維径をDncとPSナノファイバの平均繊維径Dncとの比:Dnc3/Dnc=1.6、PSナノファイバの平均繊維径Dnc3と銀ナノファイバの平均繊維径Dcとの比:Dnc3/Dc=10であった。既述の方法で求められる第1複合領域の厚さは1μmであった。なお、第2複合層の全体の平均厚さは80μmであった。
【0126】
≪比較例1≫
第1および第2電極に銀ナノファイバを用いず(すなわち第1および第2複合層を形成せず)、厚さ300μmの銀シートをナイロン不織布およびPVDF不織布の一方の表面に圧接したこと以外、実施例1と同様にTENGB1を組み立て、評価した。TENGB1の出力特性をTENGA1の出力特性と対比して
図13に示す。ここでは、TENGの単位質量あたりの出力電圧を対比する。
図13(a)は実施例1のTENGA1の出力特性であり、
図13(b)は比較例1のTENGB1の出力特性である。電極を導電ナノファイバで形成したTENGA1では、銀シートを用いたTENGB1に比べ、単位質量あたりの出力電圧が、概ね6倍程度以上の約250Vにまで飛躍的に向上している。
【0127】
≪実施例3≫
PVDFナノファイバの堆積時間を1時間、PSナノファイバの堆積時間を1時間としたこと以外、実施例2と同様に、TENGA3を組み立てた。
【0128】
TENGA3のPVDFナノファイバ(第2発電要素)とPSナノファイバと銀ナノファイバ(第2電極)との積層体を表面(銀ナノファイバ側の面)から撮影したSEM写真と、その反対側の裏面(PVDFナノファイバ側の面)から撮影したSEM写真を、それぞれ
図14、
図15に示す。視野は94.4μm
2とした。
【0129】
図14(表面)では、繊維径が大きいPSナノファイバが18本(密度0.19本/μm
2)、繊維径が小さい銀ナノファイバが75本(密度0.79本/μm
2)観測できる。ここでも、繊維径が小さい銀ナノファイバが、繊維径が大きいPSナノファイバの表面に絡みついている様子や、銀ナノファイバの一部が複数のPSナノファイバ間を架橋している様子が観察できる。
【0130】
一方、
図15(裏面)では、PSナノファイバは17本(密度0.18本/μm
2)で表面とほぼ同じであったが、銀ナノファイバは全く観測されなかった(密度0本/μm
2)。
【0131】
≪実施例4≫
PVDFナノファイバの堆積時間を0.5時間、PSナノファイバの堆積時間を0.5時間としたこと以外、実施例2と同様に、TENGA4を組み立てた。
【0132】
TENGA4のPVDFナノファイバ(第2発電要素)とPSナノファイバと銀ナノファイバ(第2電極)との積層体を表面(銀ナノファイバ側の面)から撮影したSEM写真と、その反対側の裏面(PVDFナノファイバ側の面)から撮影したSEM写真を、それぞれ
図16、
図17に示す。視野は586μm
2とした。
【0133】
図16(表面)では、繊維径が大きいPSナノファイバが21本(密度0.036本/μm
2)、繊維径が小さい銀ナノファイバが17本(密度0.029本/μm
2)観測できる。また、繊維径が小さい銀ナノファイバが、繊維径が大きいPSナノファイバの表面に絡みついている様子が観察できる。
【0134】
図17(裏面)では、PSナノファイバは9本(密度0.015本/μm
2)、銀ナノファイバが7本(密度0.012本/μm
2)観測できる。裏面において観測される銀ナノファイバは、発電効率に影響を及ぼすものと考えられる。
【0135】
TENGA3、TENGA4の出力を、駆動周波数と駆動力をそれぞれ2Hz、10Nに制御して評価した。TENGA3、TENGA4の出力特性を
図18に示す。
図18より、PVDFナノファイバおよびPSナノファイバの密度が十分に大きいTENGA3は、TENGA4よりも高い出力を示すことがわかる。
【0136】
≪実施例5≫
(1)第1および第2発電要素
第1摩擦帯電材料として、株式会社GU製の衣類用の第1布(品番351-345496(31-01))を準備した。第1布は、厚さ1mmであり、摩擦ポジティブ材料であるレーヨン繊維(平均繊維径100μm)82質量%とポリアミド繊維(平均繊維径100μm)18質量%の編物である。
【0137】
第2摩擦帯電材料として、株式会社GU製の衣類用の第2布(品番251-345840(31-01))を準備した。第2布は、厚さ1mmであり、摩擦ネガティブ材料であるアクリル系繊維(平均繊維径100μm)とポリエステル繊維(平均繊維径100μm)の編物である。
【0138】
(2)第1および第2電極
第1布および第2布を、それぞれ2.5cm×1.5cmのサイズに切り出し、それぞれの一方の面のみに金(Au)をスパッタリングして、第1布にPtと繊維の第1複合層からなる第1電極を形成し、第2布にAuと繊維の第2複合層からなる第2電極を形成した。Auは、第1布および第2布の繊維の表面に、厚さ100nmの薄膜状で固着した状態であり、Au薄膜の形成の前後で、第1布の通気性に実質的な変化はなかった。スパッタ装置には、サンユー電子株式会社製のQUICK AUTO COATER SC-701ATを用いた。
【0139】
(3)TENGの組み立て
第1複合層が形成された第1布(第1シート)、および、第2複合層が形成された第2布(第1シート)を用いてTENGA5を組み立てた。そして、TENGA5を、モーター式プレス機(摩擦帯電装置)で1分間駆動し、そのときの出力を、オシロスコープを介して測定した。モーターの駆動周波数と駆動力をそれぞれ1Hz、約20Nに制御した。TENGA5の出力特性を
図19に示す。
図19より、TENGA5が十分な電圧を出力できていることがわかる。
【0140】
≪比較例2≫
Auをスパッタリングする代わりに、厚さ100μmのアルミニウムテープを第1布および第2布のそれぞれの一方の面のみに張り付けたこと以外、実施例5と同様に、TENGB2を作製し、同様に出力を測定した。結果を
図19に示す。
図19より、通気性の優れる実施例5のTENGA5は、TENGB2よりも出力が低いが、それでも十分な出力を発現することが確認できた。
【0141】
≪実施例6、7≫
(1)第1および第2発電要素
第1摩擦帯電材料として、ナイロン生地の第1布を準備した。第1布は、厚さ1mmであり、摩擦ポジティブ材料であるナイロン繊維(平均繊維径100μm)100質量%の編物である。
【0142】
第2摩擦帯電材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のシートを準備した。PTFEシートは、厚さ0.1mmであり、摩擦ネガティブ材料である。
【0143】
(2)第1および第2電極
第1布を、それぞれ2.5cm×1.5cmのサイズに切り出し、その一方の面のみに白金(Pt)をスパッタリングして、第1布にPtと繊維の第1複合層からなる第1電極を形成した。Ptは、第1布の繊維の表面に、厚さ50nmまたは厚さ100nmの薄膜状で固着した状態であった。一方、PTFEシートには、その一方の面のみに厚さ100μmのアルミニウムテープを張り付けて第2電極を形成した。
【0144】
(3)透気度(通気性)
JIS L 1096A法に準拠したに通気度試験機(テクノテスト社製のFX-3300)を用いて、Pt薄膜の形成の前後の第1布の透気度を測定した。その結果を表3に示す。また、未処理の第1布の透気度を100としたときのスパッタ後の第1布の透気度の相対値を表3に示す。スパッタによるPt薄膜を形成する前に比べ、形成後には、第1布および第2布の透気度が10%程度低下したが、大きな減少は見られず、未処理の場合の透気度の80%以上、すなわち十分な通気性を確保できていた。スパッタ装置には、サンユー電子株式会社製のQUICK AUTO COATER SC-701ATを用いた。
【0145】
【0146】
(4)第1電極の断面画像
厚さ50nmまたは100nmのPt薄膜が繊維に固着した第1電極の断面SEM写真を
図20(a)および
図20(b)に示す。各写真では、ナイロン繊維の表面がPt薄膜で覆われている様子が観測できる。明度の高い部分がPtで被覆された部分である。厚さ50nmまたは厚さ100nmのPt薄膜が固着した繊維の体積は、外観上、大きく変化しておらず、透気度が損なわれていないことが画像上でも確認できた。また、厚さ100nmのPt薄膜の場合、厚さ50nmのPt薄膜よりも、布のより奥深くの繊維まで被覆できていることが確認できた。
【0147】
(5)TENGの組み立て
厚さ50nmのPt薄膜が繊維に固着した第1電極(第1複合層が形成された第1布(第1シート))、および、第2電極としてアルミニウムテープを張り付けたPTFEシートを用いて実施例6のTENGA6を組み立てた。
【0148】
厚さ100nmのPt薄膜が繊維に固着した第1電極(第1複合層が形成された第1布(第1シート))、および、第2電極としてアルミニウムテープを張り付けたPTFEシートを用いてTENGA7を組み立てた。
【0149】
そして、TENGA6、7を、モーター式プレス機(摩擦帯電装置)で2分間駆動し、そのときの出力を、オシロスコープを介して測定した。モーターの駆動周波数と駆動力をそれぞれ1Hz、約20Nに制御した。TENGA6の出力特性を
図21A~
図21Cに示す。TENGA7の出力特性を
図22A~
図22Cに示す。
図21A、
図22Aは、第1電極および第2電極の作製直後の出力特性であり、
図21B、
図22Bは、第1電極および第2電極を複数回折り曲げた後の出力特性であり、
図21C、
図22Cは、その後、第1電極および第2電極を複数回伸縮させた後の出力特性である。
【0150】
≪参考例1≫
Ptをスパッタリングする代わりに、厚さ100μmの銀ペースト層を第1布および第2布のそれぞれの一方の面のみに塗布したこと以外、実施例6、7と同様に、第1電極および第2電極を作製し、TENGB3を作製し、作製直後のTENGB3の出力を測定した。結果を
図23に示す。
【0151】
以上の結果から、TENGA6、7は、TENGB3と同程度の出力を発揮できる一方、電極の形成によっても大きく通気性が低下せず、通気性に優れていることが理解できる。また、各電極を折り曲げたり、伸縮させたりした場合でも出力に特に影響はないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明に係る摩擦帯電型発電機(TENG)は、様々な機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機として利用できるが、特に全体がナノファイバで形成されている場合、通気性に優れたウェアラブルデバイスとしての応用に適している。さらに本発明に係る摩擦帯電型発電機は、ウェアラブルデバイスとして効率よく極微弱電流を発生させることができるので、極微弱電流による生体への働きかけ(抗菌、抗ウイルス、再生医療、美容)の効果を狙った物品、装置デバイスへの適用の可能性を有する。
【符号の説明】
【0153】
100、100A:摩擦帯電型発電機(TENG)
101:外部回路
110:第1発電要素
110ncF:第1非導電ナノファイバ
111:第1電極
111cF:第1導電ナノファイバ
120:第2発電要素
120ncF:第2非導電ナノファイバ
121:第2電極
121cF:第2導電ナノファイバ
130、130A:第1複合層
130B:第1複合領域
130ncF:第3非導電ナノファイバ
R:抵抗
200:電界紡糸装置
210:シリンジ(ノズル)
220:シリンジポンプ
230:電圧印加装置(帯電手段)
240:回転体(コレクタ部)