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▶ 酒井 規雄の特許一覧

特開2024-61700乳酸菌株、乳酸菌の取得方法、ヨーグルトの製造方法、ヨーグルトのスターター、ヨーグルトおよび乳酸菌発酵豆乳食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061700
(43)【公開日】2024-05-08
(54)【発明の名称】乳酸菌株、乳酸菌の取得方法、ヨーグルトの製造方法、ヨーグルトのスターター、ヨーグルトおよび乳酸菌発酵豆乳食品
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240426BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20240426BHJP
   A23C 11/02 20060101ALI20240426BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20240426BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20240426BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A23C9/123
A23C11/02
A23C11/10
A23L11/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169542
(22)【出願日】2022-10-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】509097323
【氏名又は名称】酒井 規雄
(74)【代理人】
【氏名又は名称】福島 康文
(74)【代理人】
【識別番号】100192496
【弁理士】
【氏名又は名称】西平 守秀
(72)【発明者】
【氏名】酒井 規雄
【テーマコード(参考)】
4B001
4B020
4B065
【Fターム(参考)】
4B001AC08
4B001AC31
4B001BC14
4B001DC50
4B001EC01
4B001EC99
4B020LB18
4B020LB27
4B020LC02
4B020LC07
4B020LG05
4B020LK16
4B020LK18
4B020LP18
4B065AA01X
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】乳酸菌自身が増殖する過程で雑菌の増殖を抑制するとともに、従来の市販のヨーグルト製品と同様にその味がおいしい乳酸菌株、乳酸菌の取得方法、ヨーグルトの製造方法、ヨーグルトのスターター、ヨーグルトおよび乳酸菌発酵豆乳食品を提供する。
【解決手段】発明の乳酸菌株は、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株である。また、本発明の乳酸菌株は、沖縄本島内の牛舎近くの空中から採取される。また、本発明の乳酸菌の取得方法は、沖縄本島内の牛舎近くの空中から菌を採取し所定の培地で培養する第1の工程と、この第1の工程で培養された菌から、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌を分離する第2の工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株。
【請求項2】
沖縄本島内の牛舎近くの空中から採取される、
請求項1に記載の乳酸菌株。
【請求項3】
沖縄本島内の牛舎近くの空中から菌を採取し所定の培地で培養する第1の工程と、
前記第1の工程で培養された菌から、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌を分離する第2の工程を含む、
乳酸菌の取得方法。
【請求項4】
特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株をヨーグルトのスターターとして使用する、
ヨーグルトの製造方法。
【請求項5】
牛乳の一部または全部を豆乳に代替して用いる、
請求項4に記載のヨーグルトの製造方法。
【請求項6】
特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株である、
ヨーグルトのスターター。
【請求項7】
特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株を含む、
ヨーグルト。
【請求項8】
特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌を含む、
乳酸菌発酵豆乳食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌株、乳酸菌の取得方法、ヨーグルトの製造方法、ヨーグルトのスターター、ヨーグルトおよび乳酸菌発酵豆乳食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヨーグルトの製造関連技術について、新規市場を創出するヨーグルトスターターとして利用可能な、乳酸菌のクズの根からの分離取得方法、クズの根から分離した乳酸菌、その乳酸菌を使用したヨーグルトの製造方法およびヨーグルトスターターが知られる(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1には、具体的には、クズの根を、抗生物質としてシクロヘキシミドを添加した乳酸菌用の液体培地にて25~37℃で24~48時間集積培養し、得られた培養液をBCP加プレートカウントアガール培地に塗抹して培養して乳酸菌(Lactococcus lactis subsp. lactis)(特許微生物寄託センター受託番号:NITE AP-02601)株を選択するクズの根から分離した乳酸菌の取得方法が開示される。この乳酸菌は、ヨーグルトのスターターとして用いられる。
【0004】
また、その他、ヨーグルトのスターターについて各種の乳酸菌が知られる(たとえば特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-122296号公報
【特許文献2】特許第3364491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明の発明者は、地域活性化の観点からその特産品としてヨーグルトに着目し、沖縄の地方の様々な箇所から乳酸菌を分離培養し、その分離培養した乳酸菌の中から地域の特産品として最適なヨーグルト製品、またはその乳酸菌発酵豆乳食品を探索している。また、沖縄地方は亜熱帯に属し乳酸菌以外の雑菌(たとえば腐敗細菌なども含む)の繁殖力も高い。そのため、ヨーグルトの製造において乳酸菌が繁殖する過程でその乳酸菌がそれら雑菌に対抗し得る強さを有することも要求される。
【0007】
本発明は前述した事情に鑑みてなされたものであり、乳酸菌自身が増殖する過程で雑菌の増殖を抑制するとともに、従来の市販のヨーグルト製品と同様にその味がおいしい乳酸菌株、乳酸菌の取得方法、ヨーグルトの製造方法、ヨーグルトのスターター、ヨーグルトおよび乳酸菌発酵豆乳食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前述した目的は、後記の構成により達成される。
[1]特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株。
[2]沖縄本島内の牛舎近くの空中から採取される、[1]に記載の乳酸菌株。
[3]沖縄本島内の牛舎近くの空中から菌を採取し所定の培地で培養する第1の工程と、前記第1の工程で培養された菌から、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌を分離する第2の工程を含む、乳酸菌の取得方法。
[4]特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株をヨーグルトのスターターとして使用する、ヨーグルトの製造方法。
[5]牛乳の一部または全部を豆乳に代替して用いる、[4]に記載のヨーグルトの製造方法。
[6]特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株である、ヨーグルトのスターター。
[7]特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株を含む、ヨーグルト。
[8]特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌を含む、乳酸菌発酵豆乳食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乳酸菌自身が増殖する過程で雑菌の増殖を抑制するとともに、従来の市販のヨーグルト製品と同様にその味がおいしい。
【0010】
以上、本発明について簡潔に説明した。さらに、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)またはその例(以下「実施例」ともいう。)を通読することにより、本発明の詳細はさらに明確化されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スキムミルク凝固能確認試験での本発明の乳酸菌によるスキムミルク凝固観察写真
図2】スキムミルク凝固能確認試験での陽性コントロールの写真
図3】スキムミルク凝固能確認試験での陰性コントロールの写真
図4】本発明の菌の塩基配列
図5】塩基配列分析による分子系統樹の結果
図6】第1実施例の比較試験での試験1日目の本発明品の様子を示す写真
図7】第1実施例の比較試験での試験1日目の比較品の様子を示す写真
図8】第1実施例の比較試験での試験開始25日目の比較品の様子を示す写真
図9】第1実施例の比較試験での試験開始43日目の比較品の様子を示す写真
図10】第1実施例の比較試験での試験開始25日目の本発明品の様子を示す写真
図11】第1実施例の比較試験での試験開始43日目の本発明品の様子を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る乳酸菌株、乳酸菌の取得方法、ヨーグルトの製造方法、ヨーグルトのスターター、ヨーグルトおよび乳酸菌発酵豆乳食品に関する実施形態について、以下に説明する。
ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。たとえば、すでによく知られた事項の詳細説明または実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されない。
【0013】
後述する本発明の菌(乳酸菌)は、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されている(2022年8月4日通知)。
【0014】
<第1実施形態>
図1図6に基づいて、本発明に係る第1実施形態について説明する。
【0015】
(・本発明の乳酸菌の取得方法)
本発明の乳酸菌の取得方法について説明する。
【0016】
沖縄県本島の国頭郡本部町において、牛舎の近くの空中に浮遊する複数の菌を、牛舎の所在地から風下となる地点で、たとえばその空気自体を採取したり、あるいは市販品のヨーグルトまたは牛乳を載置してそれを餌として捕獲(トラップ)したりする。それにより、本発明の乳酸菌を含む複数の菌を自然界から採取する。つまり、沖縄本島内の、牛舎の近くの空中から菌を採取し所定の培地で培養する(第1の工程の一例)。
【0017】
また、採取して培養した複数の菌をそれら共存の状態で25℃から30℃の間の常温、かつ24時間から30時間の間において牛乳などの内部で増殖させ凝固するか否かを観察した。その観察試験を、本発明の乳酸菌がその他の菌(たとえばカビ菌などの腐敗細菌なども含み、以下単に「雑菌」ともいう)も存在する状態で複数回(本実施形態では4、5回程度)繰り返し実行し、いずれも凝固することを確認した。
なお、この観察試験を通じて、腐敗細菌などの雑菌も存在する中でその雑菌の繁殖に負けず牛乳が凝固されることが確認された。
【0018】
(・本発明の乳酸菌の凝固能確認試験)
図1図3を参照しながら、本発明の乳酸菌に係る分離株に関するスキムミルクの凝固能の確認試験について説明する。
【0019】
前述のように沖縄本島内の牛舎近くから採取され培養された複数の菌から本発明の乳酸菌を分離し(第2の工程の一例)、この分離株によっても凝固が可能か否かを試験した(分離株の凝固能確認試験)。
【0020】
前培養条件を以下に示す。
[前培養条件]
・培地 :MRS Broth(Oxoid,GBR)+寒天
・培養温度 :30℃
・培養期間 :24時間
・その他 :好気培養
【0021】
なお、前述の培地の組成は以下である。なお、この培地は分離およびアンプル作成時に寒天を入れて使用される。
【0022】
【表1】
【0023】
スキムミルク凝固能の確認条件を以下に示す。
[スキムミルク凝固能の確認]
・培地 :10% Skim Milk Powder (FUJIFILM Wako Pure Chemical,Japan)+リトマス(FUJIFILM Wako Pure Chemical,Japan)
・培養温度 :30°C
・培養時間 :1週間
・測定方法 :液体培地へ菌株植菌
・その他条件 :好気培養
【0024】
凝固観察像(写真)を図1に示す。また、図2に陽性コントロールの写真を示し、図3に陰性コントロールの写真を示す。
図1は、スキムミルク凝固能確認試験での本発明の乳酸菌によるスキムミルク凝固観察写真である。
図2は、スキムミルク凝固能確認試験での陽性コントロールの写真である。
図3は、スキムミルク凝固能確認試験での陰性コントロールの写真である。
なお、陽性コントロールは、Clostridium perfringens JCM 1290Tである。陰性コントロールは、菌未接種である。
【0025】
凝固の有無については、培養後の液体培地が凝固したものを陽性(凝固有)と判定した。判定の結果、本発明の乳酸菌を植菌したサンプルが凝固したことが分かる(図1参照)。また、陽性コントロールにも同様に凝固が見られるものの、陰性コントロールは凝固が確認できなかった。
【0026】
すなわち本試験によれば、本発明の乳酸菌は凝固能を有することが確認され、本発明の乳酸菌をヨーグルトのスターターとして使用して、ヨーグルトを製造することが可能であることが分かった。
【0027】
(・本発明の乳酸菌の培養方法)
本発明の乳酸菌の培養方法について説明する。
【0028】
前述のように本発明の乳酸菌の培地は、MRS Broth(Oxoid,GBR)に加えたものであり、この培地に本発明の乳酸菌を植菌して培養する。その培養温度は、30℃に設定され、その時間は、1~3日の間、好適には72時間程度とされる。また、培養の際、嫌気とするとよい。
なお、培養温度は、25℃から30℃の間の常温に設定すればよい。
【0029】
(・本発明の乳酸菌の塩基配列解析)
図4および図5を参照しながら、本発明の乳酸菌の塩基配列解析について説明する。
【0030】
本発明の乳酸菌について16SrDNA(16SrRNA遺伝子)の塩基配列分析を行った。その結果に基づいて、本発明の菌(乳酸菌)の帰属分類群を推定した。
なお、今回解析された、本発明の菌の塩基配列を図4に示す。
【0031】
[DNAの抽出方法]
DNAの抽出方法について説明する。
アクロモペプチダーゼ(FUJIFILM Wako Pure Chemical, Japan)を用いて行い、Tks Gflex DNA Polymerase (Takara Bio,Japan)によってPCR増幅を実行した。また、サイクルシーケンスは、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems, USA)を用いて行った。使用プライマリーは、PCR 増幅:9F,1510Rシーケンス(約1,500 bp): 9F, 515F, 1099F, 536R, 926R, 1510Rである。さらに、ABI PRISM 3500xL Genetic Analyzer System (Applied Biosystems)でシーケンスを行った。
【0032】
[BLAST相同性検索]
BLAST相同性検索については、解析ソフトウェアとしてENKI V3.2(TechnoSuruga Laboratory,Japan)を用いた。また、データベースとして、DB-BA16.0(TechnoSuruga Laboratory,Japan)および国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)を用いた。
【0033】
本発明の菌(乳酸菌)のDB-BA16.0に対するBLAST相同性検索の結果を表2に示す。本発明の菌(乳酸菌)の国際塩基配列データベースに対するBLAST相同性検索の結果を表3に示す。
表2は、DB-BA16.0に対するBLAST相同性検索の結果を示すリストである。
表3は、国際塩基配列データベースに対するBLAST相同性検索の結果を示すリストである。
なお、表2および表3では、相同性スコアで上位10に検索された16SrDNA塩基配列データである。また、表2に示される、BSLの記号はバイオセーフティーレベルを意味し、そのレベル1(日和見病原体)以上を表記し、空欄はレベル1を示す(以下同様)。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
[分子系統解析]
そして分子系統解析については、その系統図の推定は近隣結合法に従って実行し、その塩基置換モデルをKimura-2-parameterとした。樹形の信頼性評価は、ブートストラップ法(1000反復)によって行った。
【0037】
本塩基配列分析による分子系統解析の結果を図4に示す。
図4は、塩基配列分析による分子系統樹の結果を示す系統図である。
【0038】
図4に示すように、16SrDNA(16SrRNA遺伝子)の塩基配列解析の結果から、本発明の細菌(乳酸菌)は、Lactococcus属が構成するクラスター内に含まれ、また登録名Lactococcus taiwanensis {株名:0905C15T(Accessin No:AB699722)}とクラスターを形成する(この点は表3および表4からも理解される)が、両者の間には明らかな距離が認められた。つまり、本発明の乳酸菌は、Lactococcus sp.に属する新種の菌(未知の乳酸菌)であることが確認された。
なお、登録名Lactococcus taiwanensisのバイオセーフティーレベルはレベル1である。
【0039】
(・本発明の乳酸菌を用いるヨーグルトの製造方法)
本発明の乳酸菌を用いるヨーグルトの製造方法について説明する。
【0040】
原料となる牛乳を用意し、この用意された牛乳をタンクに貯留させる。タンクに貯留される牛乳に対し、本発明の乳酸菌を投入し所定の拡散装置を用いて攪拌する。
【0041】
攪拌の際、たとえば温度は25℃から30℃の間の常温に設定されるとよい。湿度は多湿とされ、たとえば70%以上に設定されるとよい。また、攪拌期間は1日から3日(24時間~72時間)の期間とされ、その凝固状態を適宜観察して牛乳の凝固がある程度進んだと判断される時点で攪拌を停止する。そのように本発明の乳酸菌によって発酵され凝固した牛乳をパック詰めおよび密封してヨーグルトを製造する。
【0042】
また、そのようにして製造されるヨーグルトは、本発明の乳酸菌株を含んでおり、また雑菌(カビ菌などの腐敗細菌)などに対して強い繁殖力を有し、それら雑菌の繁殖を抑制する性質を有する(後述参照)。また、本発明の乳酸菌株を用いることで、従来の市販のヨーグルト製品よりもおいしくすることが可能である。
【0043】
(・本発明の乳酸菌の、豆乳に対する凝固能)
本発明の乳酸菌の、豆乳(大豆)に対する凝固能について説明する。
【0044】
原料となる豆乳を用意し、この豆乳に本発明の乳酸菌を投入し、前述のヨーグルトの製造方法と同様な攪拌条件(温度および期間など)で攪拌した。その結果、豆乳が発酵して凝固することを確認した。
【0045】
すなわち、本発明の乳酸菌は豆乳に対しても凝固能を有する。そのため、本実施形態の変形例として、牛乳の一部または全部を豆乳に代替して豆乳を含めて発酵させて一部が豆乳であるヨーグルト、またはその全部が豆乳である場合、乳酸菌発酵豆乳食品を製造することが可能である。
【0046】
つまり、原料が牛乳、またはその一部に豆乳を含む場合、本発明の菌は乳酸菌としてヨーグルトのスターターとして機能し、その製品はヨーグルト食品として製造される。原料の全部が豆乳の場合、本発明の乳酸菌株によっていわゆる豆乳ヨーグルトを製造することが可能であり、またこの製品は本発明の乳酸菌株を含む乳酸菌発酵豆乳食品としても捉えることが可能である。
【0047】
(・本発明の特徴および利点)
以上説明したように、本発明は以下のとおりその特徴を整理することができる。
なお、前述のように本発明の菌(乳酸菌)は、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されている。
【0048】
本発明の乳酸菌株は、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株である。
【0049】
本発明の乳酸菌株は、沖縄本島内の牛舎近くの空中から採取される。
【0050】
本発明の乳酸菌の取得方法は、沖縄本島内の牛舎近くの空中から菌を採取し所定の培地で培養する第1の工程と、この第1の工程で培養された菌から、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌を分離する第2の工程を含む。
【0051】
本発明のヨーグルトの製造方法は、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株をヨーグルトのスターターとして使用する。
【0052】
本発明のヨーグルトの製造方法は、牛乳の一部または全部を豆乳に代替して用いる。
【0053】
本発明のヨーグルトのスターターは、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株である。
【0054】
本発明のヨーグルトは、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌株を含む。
【0055】
本発明の乳酸菌発酵豆乳食品は、特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677として寄託されかつ分類学上Lactococcus sp.に属する乳酸菌を含む。
【0056】
このように本発明によれば、乳酸菌自身が増殖する過程で雑菌の増殖を抑制するとともに、従来の市販のヨーグルト製品と同様にその味がおいしい。
【0057】
次に実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明の内容は同様にこれら複数の実施例の説明によって特許請求の範囲に記載の主題が限定されることは意図されない。
【実施例0058】
本実施例では、本発明に係る具体例として複数の試験を挙げ本発明についてより詳細に説明する。
ただし、下述する複数の実施例は、本発明の一例として詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の技術的範囲を制限するためにいかなる意味でも解釈されない。
また、以下に説明されていない内容は、この技術分野に属する熟練した者であれば十分に技術的に類推可能なものであるので、その記載を省略する。
【0059】
(・第1実施例:雑菌との繁殖力比較)
本実施例では、本発明の乳酸菌株の、雑菌に対する繁殖力の有無についてその評価試験を行った。
【0060】
前述のように本発明の乳酸菌を用いて製造されたヨーグルト(本発明品)、および市販品のヨーグルト(比較品:広く流通されスーパーマーケットにて一般的に容易に入手可能なヨーグルト製品)を用意し、悪態変化を観察した。具体的には、本発明品および比較品を、25℃から30℃の範囲の常温で放置して、本発明品および比較例に含まれる微生物(菌を含む)による腐敗および発酵の経時的変化を観察した。
なお、図6に試験1日目の本発明品の様子を示す写真を、図7に試験日1日目の比較品の様子を示す写真を示す。
【0061】
この観察の結果、図8および図9に示すように、比較品は白色から黄色に変色し腐敗が明らかに進行していることが肉眼でも観察可能であった。
なお、図8は試験開始25日目の比較品の様子を示す写真である。図9は試験開始43日目の比較品の様子を示す写真である。
【0062】
その一方、図10および図11に示すように、本発明品はその時点ではその変色の様子は観察することができなかった。本発明の乳酸菌は、従来の市販品と比較して、その他の雑菌に対し強く繁殖力を有していることが確認することができた。
なお、図10は試験開始25日目の本発明品の様子を示す写真である。図11は試験開始43日目の本発明品の様子を示す写真である。
【0063】
(・第2実施例:官能評価)
本実施例では、本発明品について官能試験を行った。
なお、本発明品とは、前述のように、本発明の乳酸菌株をヨーグルトのスターターとして用いて製造されるヨーグルトである。
【0064】
官能試験の評価項目は、「非常においしい」、「普通においしい」、「ヨーグルトは嫌いだが食べられた」、「便通が非常によい」および「市販のヨーグルトと同じく便通がよい」の5項目とし、該当するもの全てを選択可能な複数回答様式とした。これら評価項目は、15人の評価者によって評価された。該当するものがない場合、無回答可能とした。
【0065】
また、評価者には本発明の乳酸菌を含むヨーグルト(発明品のヨーグルト)を1リットルの容量を渡して2週間の期間食させた。ヨーグルトを完食した2週間後に前述した評価項目のアンケートを実施した。そのアンケートの結果{評価者のそれぞれによって評価(選択)された結果}を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4に示すように、本発明の乳酸菌(乳酸菌株)を含むヨーグルトは、味がおいしく、また便秘に効く可能性があることが示された。本発明の有用性が確認された。
【0068】
特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03677
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、乳酸菌自身が増殖する過程で雑菌の増殖を抑制するとともに、従来の市販のヨーグルト製品と同様にその味がおいしい乳酸菌株、乳酸菌の取得方法、ヨーグルトの製造方法、ヨーグルトのスターター、ヨーグルトおよび乳酸菌発酵豆乳食品として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11