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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061708
(43)【公開日】2024-05-08
(54)【発明の名称】フィルム剥離装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 41/00 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
B65H41/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169551
(22)【出願日】2022-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】300091670
【氏名又は名称】株式会社アドテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【弁理士】
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】平松 駿也
【テーマコード(参考)】
3F108
【Fターム(参考)】
3F108JA05
(57)【要約】
【課題】 下地層を大きく傷つけることがなく、剥離きっかけが十分に形成されるために自動化が容易であり、強度的に脆弱な基板であっても破損させずにフィルムの剥離ができようにするとともに、ゴミの発生を抑制することが可能なフィルム剥離装置を提供する。
【解決手段】 治具当て機構としての多関節ロボット5は、超音波振動している振動治具42を基板9に貼り付けられたフィルム91の角に当て、フィルム91と下地層との界面に超音波振動を生じさせながら振動治具42を界面に進入させる。引き剥がし手段としての多関節ロボット5は、離間したフィルム91の縁を保持してフィルムを引き剥がす。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に貼り付けられたフィルムを基板から剥離して除去するフィルム剥離装置であって、
振動治具と、
振動治具を超音波振動させる超音波源と、
振動治具を当てることで、基板においてフィルムの下側に位置する層である下地層とフィルムとの界面に超音波振動を生じさせる治具当て機構とを備えており、
治具当て機構は、フィルムの縁における下地層との界面に超音波振動が生じるように振動治具を当てる機構であり、
下地層との界面において超音波振動を発生させたフィルムの縁を保持してフィルムを引き剥がす引き剥がし手段が設けられていることを特徴とするフィルム剥離装置。
【請求項2】
前記治具当て機構は、前記フィルムの縁における前記下地層との界面に前記振動治具を進入させる機構であることを特徴とする請求項1記載のフィルム剥離装置。
【請求項3】
前記振動治具の進入方向の背後に補助治具が設けられており、補助治具は、前記界面に進入することで前記下地層から前記フィルムが離間した際、離間状態を保持する位置及び姿勢で取り付けられていることを特徴とする請求項2記載のフィルム剥離装置。
【請求項4】
前記フィルムは角である縁を有しており、
前記治具当て機構は、前記フィルムの角における前記下地層との界面に超音波振動が生じるよう振動治具を当てる機構であることを特徴とする請求項1記載のフィルム剥離装置。
【請求項5】
前記治具当て機構は、前記フィルムの角における前記下地層との界面に前記振動治具を進入させる機構であることを特徴とする請求項4記載のフィルム剥離装置。
【請求項6】
前記振動治具の進入方向の背後に補助治具が設けられており、補助治具は、前記界面に進入することで前記下地層から前記フィルムが離間した際、離間状態を保持する位置及び姿勢で取り付けられていることを特徴とする請求項5記載のフィルム剥離装置。
【請求項7】
前記引き剥がし手段は、前記フィルムの縁を挟んで保持する挟み具、前記フィルムの縁を吸着して保持する吸着具又は前記フィルムの縁を粘着させる保持する粘着具を備えていることを特徴とする請求項1記載のフィルム剥離装置。
【請求項8】
前記フィルムの剥離状態を監視する剥離監視手段が設けられており、剥離監視手段は、前記引き剥がし手段が動作した後に基板を全体に撮影するカメラと、カメラからの画像データを処理してフィルムが完全に剥離しているかどうか判断する画像処理部とを備えていることを特徴とする請求項1記載のフィルム剥離装置。
【請求項9】
前記治具当て機構は、前記フィルムの縁、前記下地層の縁又はそれらの双方に前記振動治具を当てる機構であることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のフィルム剥離装置。
【請求項10】
前記超音波源と前記振動治具とを制御するコントローラが設けられており、コントローラは、前記超音波源を動作させて前記振動治具が超音波振動している状態で前記振動治具を当てる制御を行うものであることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のフィルム剥離装置。
【請求項11】
前記振動治具は、プレート状であることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のフィルム剥離装置。
【請求項12】
前記振動治具は、ピン状、ワイヤー状又は棒状であることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のフィルム剥離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、基板に貼り付けられたフィルムを剥がして除去するフィルム剥離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種製品を製造する際、その製品の元となる板状物(基板)に対して種々の処理を行って最終的な製品を得る場合が多い。例えば、微細構造を有する製品を製造する際、その元となる基板に対して微細加工プロセスが実施される。代表的な微細加工プロセスであるフォトリソグラフィでは、基板上にレジスト層(感光層)を設け、所定のパターンの光で露光を行った後、現像、エッチングを行うことで微細パターンが形成される。
このように基板に対して各種処理を行って製品を得る製造工程において、中間的な状況として基板にフィルムが貼り付けられる場合がある。このフィルムが後の工程で障害となったり製品化の際には不要であったりする場合には、そのフィルムは剥離して除去される。例えば、フォトリソグラフィにおける露光において、基板を保護するために透明なフィルムで基板を覆った状態とされる場合があるが、保護フィルムは現像において障害となるため、露光後に剥離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-250190号公報
【特許文献2】特開平6-171823号公報
【特許文献3】特開2007-131424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなことから、基板に貼り付けられたフィルムを剥離して除去するフィルム剥離装置が従来から知られている。
このうち、特許文献1に開示された装置は、基板の辺に対して平行に延びる刃を当てて押圧しフィルムの縁を引き起こして剥離する装置となっている。しかしながら、この種の装置は、刃先が鋭利なものを使用するので、フィルムの下側の層を大きく傷ついてしまうという欠点がある。以下、この明細書において、基板においてフィルムの下側の層を下地層という。下地層は、基板に設けられたある層の場合が多いが、基板自体が下地層の場合もある。
【0005】
特許文献2には、基板に貼り付けられたフィルムを粘着ローラーにより剥離させて除去する装置が開示されている。しかしながら、基板に貼り付いているフィルムを粘着ローラーの押し当てのみで剥離して除去することは難しい。この理由は、いわゆる剥離きっかけがないことによる。剥離きっかけとは、フィルムを剥離させる際にフィルムを部分的に下地層から浮いた(離間した)状態とすることを意味する。フィルムと下地層との間に部分的に隙間を作り、そこからフィルムを引き剥がしていく。特許文献2の装置では、剥離きっかけがないため、粘着ローラーのみでフィルムを剥離することは難しい。粘着力の大きな粘着ローラーを用いれば剥離できる可能性もあるが、剥離したフィルムをその粘着ローラーから引き剥がすのが困難となり、自動化の障害となる。
【0006】
特許文献3では、基板の辺に沿ってフィルムに対してローレットローラを圧接して凹凸を形成することでフィルムの剥離を行う装置が開示されている。この装置では、ローレットローラで形成した凹凸が剥離きっかけとなり、そこからフィルムを引き剥がすことができる。
しかしながら、特許文献3の装置では、ローレットローラを圧接させることで剥離きっかけを作るので、薄い基板や強度的に脆弱な基板の場合、基板が破損し易いという問題がある。また、ローレットローラを圧接させた際にフィルムが一部破れてゴミが発生し易いという問題もある。
【0007】
さらに、フィルムの縁から下地層がはみ出している場合、剥離きっかけがうまく形成できなかったり下地層を削ってしまってゴミが発生してしまったりする問題がある。この点について、図7を参照して説明する。図7は、ローレットローラを使用する従来技術においてフィルムの縁から下地層がはみ出している場合の課題について示した断面概略図である。
図7に示すように、フィルム91が基板9の一方の側の面の全面を覆っておらず、フィルム91の縁から下地層92がはみ出している場合がある。この場合、下地層92が弾性変形又は塑性変形によりはみ出し部分で膨らみ、フィルム91とほぼ面一であったり(図7(1))、フィルム91よりも突出してしまったりする場合がある(図7(2))。このような場合、ローレットローラ8を圧接すると、ローレットローラ8の圧接位置の精度の限界から、図7(1)に示すようにローレットローラ8が下地層92に当たって削ってしまう場合がある。この場合、削られた下地層92はゴミの発生源となる。また、図7(2)の場合には、ローレットローラ8を十分にフィルム91に圧接させることができず、剥離きっかけがうまく形成されないこともある。
【0008】
本願の発明は、これら従来技術の課題を解決するために為されたものであり、下地層を大きく傷つけることがなく、剥離きっかけが十分に形成されるために自動化が容易であり、強度的に脆弱な基板であっても破損させずにフィルムの剥離ができようにするとともに、ゴミの発生を抑制することが可能なフィルム剥離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この明細書に開示されたフィルム剥離装置は、
基板に貼り付けられたフィルムを基板から剥離して除去するフィルム剥離装置であって、
振動治具と、
振動治具を超音波振動させる超音波源と、
振動治具を当てることで、基板においてフィルムの下側に位置する層である下地層とフィルムとの界面に超音波振動を生じさせる治具当て機構とを備えている。
治具当て機構は、フィルムの縁における下地層との界面に超音波振動が生じるように振動治具を当てる機構である。
そして、下地層との界面において超音波振動を発生させたフィルムの縁を保持してフィルムを引き剥がす引き剥がし手段が設けられている。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置において、治具当て機構は、フィルムの縁における下地層との界面に振動治具を進入させる機構であり得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置は、振動治具の進入方向の背後に補助治具が設けられており、補助治具は、界面に進入することで下地層からフィルムが離間した際、離間状態を保持する位置及び姿勢で取り付けられているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置は、フィルムが角である縁を有しており、治具当て機構は、フィルムの角における下地層との界面に超音波振動が生じるよう振動治具を当てる機構であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置は、治具当て機構が、フィルムの角における下地層との界面に振動治具を進入させる機構であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置において、引き剥がし手段は、フィルムの縁を挟んで保持する挟み具、フィルムの縁を吸着して保持する吸着具又はフィルムの縁を粘着させて保持する粘着具を備え得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置は、フィルムの剥離状態を監視する剥離監視手段が設けられており、剥離監視手段は、引き剥がし手段が動作した後に基板を全体に撮影するカメラと、カメラからの画像データを処理してフィルムが完全に剥離しているかどうか判断する画像処理部とを備えているという構成を用いる。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置において、治具当て機構は、フィルムの縁、下地層の縁又はそれらの双方に前記振動治具を当てる機構であり得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置は、超音波源と振動治具とを制御するコントローラが設けられており、コントローラは、超音波源を動作させて振動治具が超音波振動している状態で振動治具を当てる制御を行うものであるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置において、振動治具は、プレート状であり得る。
また、上記課題を解決するため、このフィルム剥離装置において、振動治具は、ピン状、ワイヤー状又は棒状であり得る。
【発明の効果】
【0010】
以下に説明する通り、開示された発明に係るフィルム剥離装置によれば、超音波振動により剥離きっかけが作られるので、鋭利な刃物を使用する必要がなく、下地層を大きく傷つけてしまう問題はない。また、十分な剥離きっかけが形成されるため自動化が容易であり、脆弱な基板であっても破損させずにフィルムの剥離が行える。この際、フィルムが破損してしまったり、下地層を傷つけてしまったりすることがないので、ゴミの発生も抑制される。そして、引き剥がし手段が設けられているので、下地層の傷つきをさらに防止しつつフィルムを剥離することができる。
また、治具当て機構が、界面に振動治具を進入させる機構である構成によれば、縁からその内側にかけての広い領域で剥離きっかけが作られるので、剥離の動作がより確実に容易に行えるという効果が得られる。
また、振動治具の進入方向の背後に補助治具が設けられてフィルムの離間状態を保持する構成によれば、フィルムの下地層への再付着が防止され、引き剥がし手段による引き剥がしを確実に行うことができるという効果が得られる。
また、フィルムの角において下地層との界面に超音波振動を生じさせて剥離きっかけを作る構成によれば、フィルム剥離をより容易にし、またゴミの発生をさらに少なくする効果が得られる。
また、フィルムの剥離状態を監視する剥離監視手段が、引き剥がし手段が動作した後に基板を全体に撮影するカメラと、カメラからの画像データを処理してフィルムが完全に剥離しているかどうか判断する画像処理部とを備えている構成によれば、フィルム剥離が正常に完了したかどうか監視できる上、フィルムの部分的な残留も監視できるので、フィルム剥離エラーをより確実に検出することができるという効果が得られる。
また、振動治具が超音波振動している状態で当てられる制御が行われる構成では、空気中の伝搬により予め振動が界面に伝わるため、より効率良く剥離きっかけが作られ、より効率良くフィルム剥離が行える。また、振動治具を界面に進入させる際にも、振動治具を進入させてから超音波振動させるのに比べると、超音波振動している振動治具を進入させる方が進入が容易であり、この点でもより効率の良いフィルム剥離が行えるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るフィルム剥離装置の正面概略図である。
図2図1に示すフィルム剥離装置の主要部の平面概略図である。
図3図1に示すフィルム剥離装置の主要部の斜視図である。
図4】実施形態のフィルム剥離装置の動作を示した平面概略図である。
図5】実施形態のフィルム剥離装置の動作を示した正面概略図である。
図6】振動治具の形状のバリエーションについて示した概略図である。
図7】ローレットローラを使用する従来技術においてフィルムの縁から下地層がはみ出している場合の課題について示した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、実施形態に係るフィルム剥離装置の正面概略図、図2図1に示すフィルム剥離装置の主要部の平面概略図である。
図1に示すように、実施形態のフィルム剥離装置は、フィルム91を剥離する際に基板9を保持するステージ1を備えている。ステージ1は、台状の部材であり、上面(基板載置面)に不図示の真空吸着孔が複数設けられている。各真空吸着孔は、ステージ1に形成された連通路を通して不図示の真空ポンプにつながっており、上面に載置された基板9を真空吸着するようになっている。
【0013】
フィルム剥離装置には、不図示のオートローダが付設されている。ステージ1内には不図示の昇降ピンが設けられており、オートローダによるステージ1への基板9の載置の際には上昇して基板9を受け取り、下降してステージ1に基板9を載置する。フィルム剥離後の基板9のアンロードの際はこれとは逆の動きで、昇降ピンが上昇して基板9を押し上げ、オートローダが基板9を保持してアンロードした後、昇降ピンは元の位置に下降する。
【0014】
実施形態のフィルム剥離装置の大きな特徴点は、フィルム91の角の位置で剥離きっかけを作って剥離する構成となっている点である。フィルム91の角の位置で正確に剥離きっかけを作るため、装置は、アライメント機構2を備えている。
図1及び図2に示すように、アライメント機構2は、ステージ1上に立てて設けられた円柱状の受け具21と、ステージ1に載置された基板9を押して受け具21に当てる押し出し具22とから構成されている。この実施形態では、基板9は方形となっている。押し出し具22は二つ設けられており、直交する二つの辺において基板9を押し出すよう取り付けられている。押し出し具22としては、例えばエアシリンダが使用される。受け具21は、各押し出し具22が押し出す辺と対向する辺において基板9を受けるよう取り付けられている。この例では、一つの辺に2個の受け具21(計4個)が取り付けられている。各押し出し具22が基板9を押し出して各受け具21に当てることで、各受け具21で規定される位置に基板9が位置してアライメントが完了する。
【0015】
尚、図1に示すように、装置の各部を制御するコントローラ3が設けられている。コントローラ3は、上記のような基板9の投入/搬出やアライメントの各動作を制御する。コントローラ3にはシーケンスプログラム31が実装されている。各部の制御は、シーケンスプログラム31が実行されることで行われる。また、コントローラ3は、装置の動作状態などを表示する表示部32を備えている。
【0016】
このようにしてアライメントされた基板9に対してフィルム剥離の処理をするための構成を、図3を参照して説明する。図3は、図1に示すフィルム剥離装置の主要部の斜視図である。
実施形態のフィルム剥離装置の別の大きな特徴点は、超音波振動を利用して剥離きっかけを作る構成となっている点である。このため、図3に示すように、超音波振動ユニット4が設けられている。超音波振動ユニット4は、超音波源41と、超音波源41に接続された振動治具42とから成っている。
【0017】
そして、実施形態のフィルム剥離装置は、振動治具42を当てることでフィルム91と下地層との界面に超音波振動を生じさせる治具当て機構を備えている。この実施形態では、治具当て機構として、多関節ロボット5が使用されている。図1に示すように、装置は架台6を備えており、架台6上に多関節ロボット5が設置されている。図3には、多関節ロボット5のアーム51の先端に取り付けられたハンド52が示されている。
【0018】
図3に示すように、アーム51の先端には、垂直な姿勢のベース盤521が固定されている。ベース盤521の上部には連結板522が固定されており、連結板522の先端には軸支ピン523が固定されている。軸支ピン523は垂直な姿勢であり、二股盤524を保持している。二股盤524は、略逆U字状の開口内にユニット保持ロッド43を挿通させている。ユニット保持ロッド43は、二股盤524に固定されている。
ベース盤521の前面には、垂直方向に延びるリニアガイド525が固定されている。二股盤524の背面には、スライダ526が固定されている。スライダ526は、リニアガイド525に嵌め込まれて滑動可能となっており、二股盤524やそれに固定された各要素も垂直方向に移動可能である。軸支ピン523内には、ボールネジ機構が内蔵されており、それを駆動することで、二間盤524やそれに固定された各要素の垂直方向の位置が調節されるようになっている。尚、図3におけるハンド52の姿勢を前提とした「垂直」や「水平」は、アーム51が駆動されてハンド52の姿勢が変化すれば、それに応じて変化する。
【0019】
超音波振動ユニット4は、ユニット保持ロッド43に固定されている。ユニット保持ロッド43には超音波源41を嵌め込む嵌め込み孔が形成されており、嵌め込み孔を通して超音波源41が固定されている。振動治具42は、この例ではプレート状の部材となっている。振動治具42は超音波源41に連結されてユニット保持ロッド43の長さ方向に対して垂直な方向に延びている。振動治具42の断面形状は、種々の形状を採り得るが、この例では、薄い楕円形状となっている。尚、必要に応じて、ユニット保持ロッド43は後端部が二股盤524内で水平な軸支された構造とされ、ユニット保持ロッド43を水平な軸の回りに回転可能とされる。これは、ユニット保持ロッド43に保持された各部の垂直面内での向きを微調節するためである。
【0020】
超音波源41としては、例えば40kHz程度の超音波振動を発生させるものが使用される。超音波振動ユニット4としては、超音波カッターとして市販されているものをそのまま使用することもできる。振動治具42の材質は、ステンレス等のスチールやアルミ等の金属である場合が多いが、セラミックスや硬質プラスチック等である場合もあり得る。尚、このような超音波振動ユニット4は、ハンド52の構成要素となっており、多関節ロボット5によって任意の位置に位置することができ、また任意の方向に移動可能であり、任意の姿勢を取ることができる。尚、超音波源41の動作は、コントローラ3によって制御されるようになっている。
【0021】
このような超音波振動ユニット4と協働する要素として、実施形態のフィルム剥離装置は、補助治具61と、引き剥がし手段と、基板押さえ具62とを備えている。補助治具61は、振動治具42と協働してフィルム91の下地層からの離間状態を保持する要素であり、引き剥がし手段は、フィルム91の縁を保持してフィルム91を引き剥がす手段である。基板押さえ具62は、主として高さ方向の位置決めの目的のために設けられている要素である。
【0022】
図3に示すように、補助治具61は、方形のプレート状の部材であり、ユニット保持ロッド43に取り付けられている。したがって、この実施形態では、補助治具61は、振動治具42と一体に移動する部材となっている。補助治具61は、板面が水平に対して少し斜めになる姿勢で取り付けられている。補助治具61の取り付け位置は、振動治具42の背後であり、振動治具42よりも少し上側である。
【0023】
多関節ロボット5は、引き剥がし手段を構成する要素にもなっている。多関節ロボット5がアーム51の先端に備えるハンド52は、フィルム91の縁を保持することが可能に構成されている。この実施形態では、ハンド52は、フィルム91の縁を挟んで保持するよう構成されており、挟み具53を備えている。
挟み具53は、この例では一対の挟み板531と、不図示のバネ部材と、不図示のプランジャとを備えた機構となっている。例えばバネ部材の弾性は内側に(挟む方向に)向く状態とされ、プランジャがこれに抗して広げることができるように取り付けられる。プランジャは、多関節ロボット5の制御対象要素としてコントローラ3によって制御可能とされる。図3に示すように、挟み具53は、二股盤524の側面に対して固定されている。
【0024】
挟み具53を構成する一対の挟み板531は、開状態では先端が離間しているが、この離間している先端部分は、補助治具61の後端付近に位置している。一対の挟み板531は、上下に配設された部材となっており、下側の挟み板531は、開状態では補助治具61と面一になるように同じ角度で傾斜している。
【0025】
図3に示すように、基板押さえ具62は短い角棒状であり、2個の車輪(符号省略)を有している。フィルム剥離の際には、基板押さえ具62は水平な姿勢とされ、下側に位置する2個の車輪がフィルム91に接触する。基板押さえ具62は二つ設けられており、ユニット保持ロッド43に対して固定されている。ユニット保持ロッド43の先端には、L字状の保持プレート431が固定されており保持プレート431の下面に各基板押さえ具62が固定されている。尚、図3に示すように、各基板押さえ具62の長さ方向はユニット保持ロッド43の長さ方向(前後方向)に一致しており、各車輪の軸方向はそれに対して垂直な方向となっている。
【0026】
また、実施形態のフィルム剥離装置は、フィルム91の剥離が正常に完了したことを監視する剥離監視手段を有している。図1に示すように、剥離監視手段は、この実施形態では、基板全体を撮影可能なカメラ71と、カメラ71による撮影で得られた画像データを処理して剥離正常完了を判断する画像処理部とから構成されている。画像処理部は、コントローラ3の記憶部に設けられた画像処理プログラム72と、コントローラ3内の不図示のプロセッサによって構成されている。
【0027】
基板9にフィルム91が貼り付けられている状態とフィルム91が剥離された状態とでは画像の状態が異なるので、画像処理によりフィルム剥離完了を判断することができる。例えば、フィルム91が貼り付けられている場合、フィルム91の縁が映り込むので、判別できる。基板9とフィルム91とが同一の寸法形状の場合には縁が重なるが、縁を示す線の太さ又は縁における光の散乱状態の違い等からフィルム91の有無を判断できる。フィルム91の一部が破れて残留しているような場合も、残留した縁の像の映り込みや縁における光の散乱等から残留を確認できる。画像処理プログラム72は、このような原理に基づき、画像処理によりフィルム91の剥離が正常に完了したかを判断するプログラムとなっている。
【0028】
このような構成に係る実施形態のフィルム剥離装置の動作について、図4及び図5を参照して説明する。図4は実施形態のフィルム剥離装置の動作を示した平面概略図、図5は実施形態のフィルム剥離装置の動作を示した正面概略図である。
フィルム剥離が行われる基板9は、不図示のオートローダによりステージ1に載置される。基板9を覆っているフィルム91は、例えば露光時の保護フィルムであり、材質としては露光波長に対して透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)等である。厚さは、例えば10~20μm程度である。コントローラ3は、まずアライメント機構2を動作させる。各押し当て具22が基板9を受け具21に押し当て、アライメントが行われる。その後、コントローラ3は、真空ポンプにつながる配管のバルブを開いて基板9をステージ1に真空吸着させる。
【0029】
次に、コントローラ3は、多関節ロボット5に制御信号を送り、ハンド52をフィルム剥離のスタンバイ状態とさせる。スタンバイ状態では、図4(1)に示すように、ハンド52はフィルム91の角に接近した位置に位置する。ハンド52が接近するフィルム91の角は、そこで剥離きっかけが作られる角であり、以下、剥離開始角と呼ぶ。図4(1)に示すように、スタンバイ状態では、振動治具42は、長さ方向が基板9の対角線上になる姿勢とされる。尚、剥離開始角の位置は、アライメントされた基板9において固定された位置(一定の位置)であり、制御情報としてコントローラ3に記憶されている。コントローラ3は、この位置に対して図4(1)に示す状態となるよう多関節ロボット5に制御信号を出力する。
【0030】
また、図5(1)に示すように、スタンバイ状態では、振動治具42は、フィルム91と下地層との界面の高さに位置する。より正確には、振動治具42の前側の縁が界面の高さとなる位置とされる。この位置制御は、基板押さえ具62を利用して行われる。スタンバイ状態にする際、多関節ロボット5は、各基板押さえ具62をフィルム91に当てた状態とする。ハンド52を上方から下降させていくと、各基板押さえ具62がフィルム91に当たり、負荷がかかる。多関節ロボット5は、この負荷を検出して下降を停止する。この状態は、ハンド52の高さ方向の位置決めがされた状態である。
【0031】
ハンド52において、振動治具42と各基板押さえ具62とは、高さ方向の位置関係が所定の位置関係になるように取り付けられている。所定の位置関係とは、各基板押さえ具62の下端(車輪の下端)に対して振動治具42の前側の縁がフィルム91の厚み分だけ下側となる位置である。このために、基板押さえ具62がフィルム91に当たってハンド52の下降が停止すると、振動治具42の前側の縁はフィルム91と下地層との界面の高さの位置に位置する。尚、各基板押さえ具62の高さ方向の位置調節は、スライダ526をリニアガイド525に沿って移動させることで行われる。即ち、軸支ピン523内のボールネジ機構を使用して高さ方向の位置が精度良く微調整される。各基板押さえ具62を保持した保持プレート431はユニット保持ロッド43に対して高さ方向の位置を調節可能に取り付けて位置調節する場合もあり得る。いずれにしても、これらにより、フィルム91の厚さが異なる場合に、各基板押さえ具62の高さ方向の位置が微調節される。
尚、図5(1)に示すように、振動治具42は、幅方向(楕円の長軸方向)が水平に対して僅かに傾いた状態となっている。傾斜の角度(図5(1)にθで示す)は、例えば0~70度程度であり、水平の場合もあり得る。
【0032】
コントローラ3は、スタンバイ状態において超音波源41に制御信号を送り、動作を開始させる。これにより、振動治具42が超音波振動する。その後、コントローラ3は、多関節ロボット5に制御信号を送り、ハンド52を前方に進行させる。前方にとは、図4(1)に矢印で示すように、方形の基板9の対角線の方向の水平方向である。尚、フィルム91が正方形でない場合、前進の方向は対角線ではなく、45度の方向(直角の角に対して半分の角度の方向)とされる場合もあり得る。それらの角度の範囲内のいずれかの角度の方向が、前進方向とされることもあり得る。
この前進により、超音波振動している振動治具42は、図5(2)に示すようにフィルム91と下地層との界面に当たる。界面に当たった振動治具42は、界面において超音波振動を生じさせる。超音波振動は、フィルム91と下地層の双方に生じる場合が多いが、フィルム91のみに生じていたり、下地層のみに生じていたりする場合もある。
【0033】
いずれにしても、超音波振動により界面に部分的な剥離が生じ、隙間が形成される。即ち、剥離きっかけが作られる。界面に当たった後も、ハンド52は前進を継続する。前進は、例えば1mm毎秒~100mm毎秒程度のゆっくりした速度である。この前進の際、剥離きっかけが作られているので、図4(3)及び図5(3)に示すように、振動治具42はフィルム91と下地層との間に入り込む。
【0034】
コントローラ3は、ハンド52をさらに前進させる。そうすると、図4(3)及び図5(3)に示すように、下地層から離間して浮き上がったフィルム91の縁は、補助治具61の上に乗る。そして、補助治具61にガイドされながら、一対の挟み板531の間に達する。このタイミングで、コントローラ3は、多関節ロボット5に制御信号を送り、挟み具53を動作させる。これにより、図4(4)及び図5(4)に示すように、挟み具53がフィルム91の縁を挟んで保持した状態となる。
【0035】
次に、コントローラ3は、多関節ロボット5に制御信号を送り、引き剥がしの動作を行わせる。即ち、図5(5)に示すように、多関節ロボット5は、挟み具53がフィルム91の縁を保持した状態でハンド52を斜め上方に移動させ、フィルム91を下地層から完全に分離させる。この際の移動方向は、平面で見ると、基板9の対角線の方向(又は45度の方向もしくはそれらの角度範囲内の方向)である。
その後、コントローラ3は、ハンド52が不図示の廃棄ボックスの上方に位置するよう多関節ロボット5に制御信号を送り、その位置で挟み具53に開動作(解放動作)を行わせる。これにより、剥離したフィルム91が廃棄ボックスに投入される。
【0036】
また、コントローラ3は、フィルム91を下地層から完全に分離させるのに必要な動作を多関節ロボット5に行わせた後、カメラ71に制御信号を送り、基板9を撮影させる。画像データがコントローラ3に戻されると、コントローラ3は、画像処理プログラム72を実行し、正常にフィルム剥離が完了したかどうか判断する。正常に完了している場合、コントローラ3は、基板9の真空吸着を解除し、昇降ピンを上昇させてアンロードを行う。正常に完了していないと判断された場合、コントローラ3は、エラー表示を表示部32において行う。
尚、上記動作において、振動治具42の前側の縁はフィルム91と下地層との界面に当てられるが、これは、フィルム91と下地層の双方に当たる場合である。但し、フィルム91にのみ当たる場合や下地層にのみ当たる場合もあり得る。これらいずれの場合でも、フィルム91の縁において下地層との界面に超音波振動が生じるので、剥離きっかけができ、フィルム剥離が行える。
【0037】
このような実施形態のフィルム剥離装置によれば、超音波振動により剥離きっかけを作っているので、鋭利な刃物を使用する必要がなく、下地層を傷つけてしまう問題はない。また、十分な剥離きっかけが形成されるために自動化が容易であり、脆弱な基板9であっても破損させずにフィルム91の剥離が行える。この際、フィルム91が破損してしまったり、下地層を大きく傷つけてしまったりすることがないので、ゴミの発生も抑制される。
また、振動治具41は、フィルム91と下地層との間から界面に入り込んで進入する構成であるので、縁からその内側にかけての広い領域で剥離きっかけが作られる。このため、剥離の動作がより確実に容易に行えるようになっている。
【0038】
そして、実施形態のフィルム剥離装置は、基板9の角においてフィルム91と下地層との界面に振動治具42を当てて剥離きっかけを作る。この点は、フィルム剥離をより容易にし、またゴミの発生をさらに少なくする効果をもたらしている。
超音波振動により剥離きっかけを作る場合、角の部分ではなく辺の途中の位置(例えば辺の中央)において振動治具42を当てて超音波振動を印加しても良く、このようにしても、従来に比べるとゴミやゴミの発生を抑制しつつフィルム剥離が行える。但し、辺の途中において振動治具42を当てた場合、超音波振動が拡散し易く、大きな振動を与えたり、長い時間振動を与えたりする必要が生じる場合がある。これと比べると、角において超音波振動を印加する実施形態の構成では、振動が局所的に止まり易いので、大きな振動を与えたり長時間振動を与えたりする必要がなく迅速に剥離きっかけを作ることができる。また、大きな振動を与えたり長時間振動を与えたりする必要がないことから、下地層を削ってしまうことによるゴミの発生もより抑制される。
【0039】
さらに、実施形態のフィルム剥離装置は、フィルム91の離間状態を保持する補助治具61を備えているので、フィルム91の再付着が防止され、引き剥がし手段による引き剥がしを確実に行うことができる。補助治具61がない場合、超音波振動している振動治具42を前進させていくと、振動治具42が通り過ぎた後方の箇所でフィルム91が垂れ下がり、下地層に再付着してしまうことがあり得る。そうなると、挟み具53がフィルム91の縁を挟み込むことができなくなり、引き剥がしエラーとなってしまう。幅広の振動治具42を使用することもあり得るが、振動治具42が大型化すると、超音波源41も大型(大出力)のものが必要になり、大掛かりになってしまう欠点がある。補助治具61が設けられていると、振動治具42は小さいもので済むので、このような欠点はない。
【0040】
尚、引き剥がし手段を設けていることは、製品化に必要な領域において下地層の傷つきを防止する重要な意義を有する。超音波によりフィルム剥離を行う場合、振動治具42のみで剥離を行うことも不可能ではない。例えば、基板9を垂直に立てて保持したり、基板9を上下逆にして保持したりしながら、超音波振動している振動治具42を下地層に沿ってフィルム貼り付き領域の全域で移動させる構成が考えられる。この場合、振動治具42は、基板9の幅より長いもの又は基板9の対角線長さよりも長いものが使用される。この構成の場合、フィルム91は自重によって落下することになるが、振動治具42がフィルム貼り付き領域の全域で移動すると、下地層を傷つけてしまう可能性が高くなり、実用的ではない。例えば、フィルム91が露光の際に使用された保護フィルム91である場合、露光された(感光済みの)レジストが傷つけられて変形してしまう結果、現像後のパターンに欠陥が生じてしまうことになり易い。このような問題が招かないで、引き剥がし手段を備えることは重要な意義を有する。尚、引き剥がし手段を備える場合、振動治具42の前進は短い距離で足り、小さな領域にとどめることができ、基板周辺の製品化には不要な領域内にとどめることができる。
【0041】
振動治具42を超音波振動している状態で当てられる制御が行われる点は、さらに効率良くフィルム剥離を行うことに貢献でしている。即ち、最初に振動治具42を超音波振動させ、その状態でフィルム91と下地層との界面に近づけていくと、空気中の伝搬により予め振動が界面に伝わる。このため、多少振動している状態でさらに振動治具42の接触により振動が伝わり、より効率良く剥離きっかけが作られる。尚、本願発明の実施に際しては、振動治具42を最初に界面に進入させ、その後に、振動治具42を超音波振動させても良いが、超音波振動している振動治具42を進入させる方が進入が容易であり、フィルム剥離の効率が向上する。
【0042】
また、実施形態のフィルム剥離装置は、フィルム剥離が正常に終了したことを監視する剥離監視手段が設けられているので、フィルム剥離が正常に完了していない基板9が次の工程に回されることが未然に防止される。この際、剥離監視手段は、基板全体をカメラ71が撮影してその画像データの処理により剥離正常完了を監視する手段であるので、フィルム91の部分的な残留も監視でき、剥離の際にフィルム91が破れて部分的に残留するエラーも監視できるようになっている。
尚、上記剥離監視手段による効果は、実施形態のように超音波振動によってフィルム剥離を行う構成ではない構成を有するフィルム剥離装置においても発揮される。例えば特許文献1~6に開示されたいずれかの構成において剥離監視手段を設けても良い。
【0043】
引き剥がし手段は、剥離きっかけが生じた部分においてフィルム91を保持し、そこからフィルム91を引き剥がす手段であるが、挟み具53によりフィルム91の縁を挟んで保持する以外の構成もあり得る。例えば、負圧によりフィルム91を吸着して保持する吸着具を備えていたり、粘着力によりフィルム91を保持する粘着具を備えていたりしても良い。いずれの場合にも、フィルム91の縁を保持した吸着具や粘着具を移動させてフィルム91を引き剥がす機構が付設される。
尚、引き剥がし手段として、多関節ロボット5を使用することは必須ではない。フィルム91の縁を保持した部分(実施形態ではハンド52)が引き剥がしの向きに移動すれば良いので、直線駆動源やリニアガイド等を備えたシンプルな機構であっても良い。
【0044】
また、実施形態では、引き剥がし手段を構成する挟み具53と振動治具42とがハンド52の構成要素であり、一体に移動するものであったが、この構成は必須ではない。振動治具42の移動(前進)は、ある程度広い領域で剥離きっかけを作って剥離を容易にするためであるが、このために挟み具53が一緒に前進する必要はない。振動治具42が前進して剥離きっかけが作られた後、これとは別に(独立して)移動して挟み具53がフィルム91の縁を保持する状態になるような構成でも良い。この点は、吸着や粘着によりフィルム91の縁を保持する場合も同様である。但し、一体に移動する構成の方が、移動機構が簡略化されるので好適である。
補助治具61についても同様であり、振動治具42と一体に移動するよう取り付けられていなくとも良い。振動治具42とは別々の移動機構が補助治具61に設けられ、振動治具42に追従するように補助治具61が移動しても良い。但し、一体に移動する構成の方が、移動機構が簡略化されるので好適である。
【0045】
また、振動治具42が界面に進入することは、本願発明において必須ではない。超音波振動によって剥離きっかけが形成されるから、引き剥がし手段がその部分においてフィルムを保持して引き剥がしを行うことでフィルム剥離ができる。例えば、上記実施形態の構成において、ハンド52にフィルム91を吸着する吸着具を設け、フィルム91の縁(例えば角)に振動治具42を当てた後、その縁(剥離きっかけが形成された部分)を吸着保持しながら引き剥がす構成構成があり得る。この場合には、振動治具42の界面への進入は不要であり、界面において超音波振動が生じれば良い。
尚、多関節ロボット5は治具当て機構としても採用されているが、多関節ロボット以外の機構が治具当て機構として採用されることもあり得る。例えば、単純に水平方向でのみ振動治具42を進退させる機構が採用されたり、水平及び垂直方向に振動治具42を直線移動させる機構が採用されることもあり得る。
【0046】
上記実施形態において、振動治具42は、断面楕円形の細長いプレート状であったが、他の種々の形状のものを振動治具42として採用し得る。この点について、図6を参照して説明する。図6は、振動治具42の形状のバリエーションについて示した概略図である。
振動治具42としては、図6(a)に示すように、単純な方形の断面形状を有するプレート状であってもよく、図6(b)(c)に示すように、前側がナイフエッジ状になっているプレート状であっても良い。
【0047】
これらプレート状の場合、断面楕円形の場合も含め、厚さ(図6にtで示す)はあまり厚くない方が好ましい。厚さtは、例えば0.1mm~5mm程度とすることが好ましい。5mmより厚くなると、フィルム91と下地層との界面に進入しづらくなる。0.1mmより薄いと、強度的な問題が生じ、耐久性が低下する。尚、図6(b)の構成の場合、前側で斜めの面が水平になる姿勢で界面に当てられるようにすることが好ましい。
【0048】
また、振動治具42は、図6(d)(e)に示すように細長い形状であっても良い。細長い形状とは、ピン状、ワイヤー状、線状、棒状等である。長尺状態が保持される剛性を有することが好ましく、紐状のものは不向きである。但し、紐状のものを両端で引っ張り、適度の張力をもった状態で超音波振動させる構成もあり得るので、紐状のものが使用されることもある。尚、細長い形状の場合、断面形状は図6(d)に示すように円形であっても良く、図6(e)に示すように多角形状(三角形、四角形、五角形等)であっても良い。尚、図6(d)の場合には、直径(外径)が上記tの範囲になっていることが好ましく、図6(e)の場合には、断面において前進方向に垂直な方向の幅が上記tの範囲になっていることが好ましい。
【0049】
上述した実施形態において、アライメント機構2は必須ではない。アライメント機構2が設けられない場合は、ステージ1における基板9の載置位置がその時々で変わるので、例えばカメラ71の画像データを利用して(画像処理によって)角の位置を検出する構成を採用し得る。
また、基板押さえ具62を設けない構成も採用し得る。基板押さえ具62がない場合、高さ方向の位置決めとしては、例えば基板9の端面を撮影するカメラを設け、その画像を処理することで高さ方向の位置を検出する構成を採用し得る。また、上方の基準となる位置に距離計を設けてフィルム91までの距離を計測して位置決めに利用しても良い。フィルム91の厚みが一定の場合には、固定された高さ位置を振動治具42のスタンバイ位置とすることもできる。
【0050】
尚、フィルム91の剥離の際に基板9に対して横方向の力が多少加わるが、基板9が受け具21で受けられていて位置がずれることはない。このため、真空吸着機構を特に設けない構成もあり得る。受け具21のような部材がない場合でも、横方向の力は大きくはないので、基板9とステージ1上の摩擦力のみで足りる場合もある。
【0051】
上述した実施形態のフィルム剥離装置の動作において、フィルム91に初期的に振動治具42が当たる場合、フィルム91が僅かに撓んだ状態となった後、振動治具42の前進に伴って振動治具42がフィルム91の下側に入り込み、その後、撓みが解消される状態となる場合があり得る。この場合でも、フィルム剥離は問題なく行われる。また、下地層に振動治具42が当たる場合、振動治具42の前進に伴って下地層が弾性(又は塑性)によって変形する場合の他、下地層が多少削られる場合もあり得る。この場合でも、振動治具42の前進距離は短いので、ゴミの発生量は少なく抑えられる。特に角において振動治具42を当てて前進させる場合には、ゴミの発生量はより少なく抑えられる。また、削り取り又は塑性変形により下地層が変形してしまうような場合でも、振動治具42の前進距離は短く製品化に不必要な領域にとどめられるので、問題は生じない。
【0052】
上述した実施形態のフィルム剥離装置の説明では、剥離するフィルム91は露光の際の保護フィルム91であることを想定したが、他の場合もあり得る。例えば、何らかの目的でマスキングするためにフィルム91を貼り付け、その後に除去するようなるプロセスにおいて、当該マスキングフィルム91の除去のために実施形態のフィルム剥離装置が使用され得る。
また、下地層は、ドライフィルムレジストやソルダーレジストの他、層間絶縁膜のような機能層である場合もある。
【符号の説明】
【0053】
1 ステージ
2 アライメント機構
3 コントローラ
31 シーケンスプログラム
4 超音波振動ユニット
41 超音波源
42 振動治具
5 多関節ロボット
51 アーム
52 ハンド
53 挟み具
61 補助治具
62 基板押さえ具
71 カメラ
72 画像処理プログラム
9 基板
91 フィルム
92 下地層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7