(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061725
(43)【公開日】2024-05-08
(54)【発明の名称】構造物保護シート、それを用いた施工方法及びプレキャスト部材、並びに、プレキャスト部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 13/12 20060101AFI20240426BHJP
E04G 21/24 20060101ALI20240426BHJP
C04B 41/71 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
B32B13/12
E04G21/24 A
C04B41/71
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023811
(22)【出願日】2024-02-20
(62)【分割の表示】P 2021533107の分割
【原出願日】2020-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2019132332
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019132333
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 則幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 由起
(72)【発明者】
【氏名】二宮 晃
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌己
(72)【発明者】
【氏名】下谷 健太
(57)【要約】
【課題】コンクリート等の構造物の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができる構造物保護シートの提供。
【解決手段】構造物保護シートは、構造物側に設けられたポリマーセメント層と、該構造物と反対側に設けられた樹脂層とを有する。この構造物保護シートは、ロール状に巻き取られうる。好ましくは、この構造物保護シートの厚さ分布は、±100μm以内である。この構造物保護シートが、ポリマーセメント層と樹脂層との一方の面に、離型シートを有してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を保護するためのシートであって、
前記構造物の側にあるポリマーセメント層と、前記シートの表面側にある樹脂層とを備えており、
ロール状に巻き取られうることを特徴とする構造物保護シート。
【請求項2】
前記ポリマーセメント層は、セメント成分を含有する樹脂で形成された層である、請求項1に記載の構造物保護シート。
【請求項3】
前記ポリマーセメント層と前記樹脂層との一方の面に離型シートを備える、請求項1又は2に記載の構造物保護シート。
【請求項4】
前記ポリマーセメント層が、前記樹脂層と接触している、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造物保護シート。
【請求項5】
前記ポリマーセメント層が、前記構造物の表面に設けられた接着層に対する接着面を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造物保護シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の構造物保護シートを使用した施工方法であって、構造物上に接着剤を塗布した後に前記構造物保護シートを貼り合わせる、ことを特徴とする構造物保護シートの施工方法。
【請求項7】
前記構造物と前記接着剤との間に下塗り層を設ける、請求項6に記載の構造物保護シートの施工方法。
【請求項8】
構造物、
前記構造物に、接着層を介して接合されかつこの接着層に接するポリマーセメント層、
及び、
前記ポリマーセメント層の、前記接着層とは反対の側に位置する、樹脂層
を備えた構造物の保護構造。
【請求項9】
前記樹脂層が、前記ポリマーセメント層に接している、請求項8に記載の保護構造。
【請求項10】
前記構造物と前記接着剤層との間にある下塗り層をさらに備えた、請求項8又は9に記載の保護構造。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載の構造物保護シートが表面の一部又は全部に接着剤を介することなく設けられている、ことを特徴とするプレキャスト部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物保護シート、それを用いた施工方法及びプレキャスト部材、並びに、プレキャスト部材の製造方法に関する。さらに詳しくは、コンクリート等の構造物の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができる構造物保護シート、その構造物保護シートを用いた施工方法及びプレキャスト部材、並びに、プレキャスト部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管きょ、港湾岸壁等の土木構造物は、その老朽化に伴い、補修工事や補強工事が行われる。補修工事は、欠損部分や脆弱部分を補修した後に塗装材を複数回重ね塗りして行われる。一方、補強工事は、補強すべき部分は全体に補強用塗装材を複数回重ね塗りして行われる。
【0003】
こうした補修工事や補強工事で施工する重ね塗りは、例えば、コンクリート上に、下塗り、中塗り、上塗りを順に行うが、通常は、中塗りや上塗りは2回又は3回行われる。それぞれの塗り工程は、塗装を乾燥させるために連続して行うことができず、例えば、下塗り、中塗り1回目、中塗り2回目、上塗り1回目、上塗り2回目の計5層の塗装を行う場合は、少なくとも5日間の工期がかかる。しかも、屋外での塗装なので、天候に左右され、雨天では十分な乾燥ができなかったり、塗装工事自体ができないこともある。そのため、工期の短縮が難しく、その分の労務費がかかり、工事費用も高くなってしまう。さらに、塗工膜の品質(膜厚、表面粗さ、含水量等)が、塗り工程時の外部環境(湿度、温度等)によって影響を受ける結果安定したものとなりにくい。
【0004】
塗装はこて塗りやスプレー塗り等で行われるが、均一な塗工による安定した補修や補強は、職人の技量に寄るところが大きい。したがって、職人の技量によっても塗工膜の品質はばらつくことになる。さらに、建設従事者の高齢化及び人口の減少に伴い、コンクリートの補修作業や補強作業の従事者が減少している昨今、熟練した職人でなくとも行うことができるより簡易な補修工法が求められている。
【0005】
こうした課題を解決する技術として、例えば特許文献1では、簡便で、低費用で、工期が短くなり、確実にコンクリートの劣化を防ぐシート及び方法が提案されている。この技術は、樹脂フィルムを有する中間層とその両面に接着樹脂を介して積層された布帛材料からなる表面層とを備えたコンクリート補修用シートを、補修すべきコンクリート面に施工用接着剤で貼付し、その後、貼付したコンクリート補修用シートのコンクリート面とは反対側の表面層に塗料を塗布する、コンクリートの補修方法である。この特許文献1に代表されるコンクリート補修シートは、樹脂フィルムを基材とし、その基材上に接着剤層を介してシート状の補強部材が設けられている。
【0006】
なお、塗装材についての改良も行われている。例えば特許文献2には、アルカリ骨材反応を防止し、コンクリート構造物のひび割れに対しても優れた追従性を有し、塗膜形成後の温度上昇によっても塗膜のふくれを発生させず、コンクリートの剥落を防止することを可能にする塗工材料を用いたコンクリート構造物の保護方法が提案されている。この技術は、コンクリート構造物の表面に、下地調整材塗膜を形成させ、その塗膜表面に塗膜を形成させる方法である。下地調整材塗膜は、カチオン系(メタ)アクリル重合体エマルション及び無機質水硬性物質を含有する組成物から形成される。下地調整材塗膜表面に形成される塗膜は、アルキル(メタ)アクリレート系エマルション及び無機質水硬性物質を含有する組成物から形成された塗膜であり、20℃における伸び率が50~2000%であり、遮塩性が10-2~10-4mg/cm2・dayであり、水蒸気透過性が5g/m2・day以上であり、膜厚が100~5000μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-144360号公報
【特許文献2】特開2000-16886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1等の従来のコンクリート補修シートは、基材と他の層(例えば接着剤層や補強部材)との接着力の違い、基材、接着剤層及び補強部材等の伸びの違い、接着剤層とコンクリートとの接着強度の問題等、解決すべき課題がある。具体的には、基材と補強部材とは接着剤層で貼り合わされているが、コンクリート補修シートの施工時や施工後のコンクリート補修シートに圧力が加わった場合、基材、接着剤層及び補強部材等の伸びの違いは、基材と接着剤層との接着力と接着剤層と補強部材との接着力との相違に基づいた層界面の剥離の原因になり得る。
【0009】
また、コンクリート補修シートに設けられた接着剤層は加熱等で軟化されてコンクリートに貼り合わされるが、十分な接着強度が得られない場合は、コンクリートの表面からコンクリート補修シートが剥がれて補修シートとして機能しないおそれがある。また、コンクリート補修シートを施工した後のコンクリートは、時が経つと膨れる現象が生じることがあったが、この現象は、コンクリート内部の水蒸気が水蒸気透過性の低い補修シートの存在によって逃げ場を失ったためであると考えられる。
【0010】
また、現場で塗工によって塗膜を形成する方法は、上記背景技術の欄で説明したように、1層塗工する毎に1日かかり、下塗り層から上塗り層まで例えば6層の塗工膜を形成する場合には6日もかかり、しかも膜厚がばらつき、表面粗さや含水量等の品質や特性も安定しにくいという課題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、コンクリート等の構造物やプレキャスト部材の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができる構造物保護シート、その構造物保護シートを用いた施工方法及びプレキャスト部材、並びに、プレキャスト部材の製造方法を提供することにある。
【0012】
なお、プレキャスト部材は、現場で組み立て設置を行うために、工場等で予め製造されたコンクリート製品のことである。プレキャスト部材は、現場まで輸送車両で搬送されるが、特に大型のプレキャスト部材は大型トレーラーで搬送され、現場で次々に設置され、道路橋、トンネル、下水道管きょ等の大型構造物が構成される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、コンクリートの表面に塗工手段で層を形成する施工方法によらないで、コンクリートを長期間安定して保護できるコンクリート保護シートを研究した。その結果、コンクリート保護シートに、コンクリートの特性に応じた性能を付与すること、具体的には、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従できる追従性、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させない防水性、遮塩性、中性化阻止性、及び、コンクリート中の水分を水蒸気として排出できる水蒸気透過性、等をさらに備えることを実現し、本発明を完成させた。そして、この技術思想は、コンクリート用でない他の構造物に対しても構造物保護シートとして応用可能である。
【0014】
(1)本発明に係る構造物保護シートは、構造物側に設けられたポリマーセメント層と、該ポリマーセメント層上に設けられた樹脂層とを備え、厚さ分布が±100μm以内である、ことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、厚さ分布が上記範囲内にあるので、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物の表面に安定して設けることができる。構造物側に設けられるポリマーセメント層は、構造物との密着性等に優れ、ポリマーセメント層上に設けられる樹脂層は、防水性、遮塩性、中性化阻止性、等に優れている。また、基材、接着剤層及び補強部材等の構成要素を有さないので、各構成要素間の接着力の違いや各構成要素の伸びの違いに基づいた上記従来の問題が生じにくい。また、接着剤層とコンクリート等の構造物との接着強度の問題も生じにくい。また、構造物保護シートは工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により、厚さ分布のバラツキを小さくして量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
【0016】
本発明に係る構造物保護シートにおいて、前記ポリマーセメント層と前記樹脂層の両層が、それぞれ、単層で形成されているか又は積層として形成されてもよい。
【0017】
この発明によれば、全体厚さ、付与機能(追従性、防水性、遮塩性、中性化阻止性、接着性、水蒸気透過性等)、生産コスト等を考慮して、それぞれの層を単層とするか積層とするかを任意に選択することができる。
【0018】
本発明に係る構造物保護シートにおいて、前記ポリマーセメント層は、セメント成分を含有する樹脂で形成された層である。なお、本発明において『ポリマーセメント』の語は、その組成の中の樹脂成分含有割合に依らず、用いられるものとする。
【0019】
この発明によれば、ポリマーセメント層は追従性に優れた相溶性のよい層であるので、層自体の密着性は優れている。さらに、構造物側のポリマーセメント層が含有するセメント成分はコンクリート等の構造物との密着性を高めるように作用する。
【0020】
本発明に係る構造物保護シートにおいて、前記ポリマーセメント層と前記樹脂層との一方の面に離型シートを備えていてもよい。
【0021】
この発明によれば、離型シートを備えていてもよく、例えば施工現場への輸送の際に構造物保護シートの表面を保護することができ、施工現場では離型シートを剥がして貼り合わせることができる。なお、離型シートは、構造物保護シートの生産工程で利用する工程紙あることが好ましい。
【0022】
本発明に係る構造物保護シートにおいて、水蒸気透過率が10~50g/m2・dayの防水シートである。
【0023】
この発明によれば、上記範囲内の水蒸気透過率を有する防水シートであるので、外からコンクリート等の構造物に水分や劣化因子が入るのを防ぐことができるとともに、構造物内の水分を水蒸気として外に透過することができる。
【0024】
(2)本発明に係る構造物保護シートの施工方法は、上記本発明に係る構造物保護シートを使用した施工方法であって、構造物上に接着剤を塗布した後に前記構造物保護シートを貼り合わせる、ことを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、基材や補強部材を含まない層だけで構成された厚さバラツキの小さい構造物保護シートを使用するので、構造物の表面に容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物の表面に安定して設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができる。
【0026】
本発明に係る構造物保護シートの施工方法において、前記構造物と前記接着剤との間に下塗り層を設ける。
【0027】
この発明によれば、構造物と接着剤との間に設ける下塗り層は、相互の密着を高めるように作用するので、構造物保護シートは、長期間安定して構造物を保護することができる。
【0028】
(3)本発明に係るプレキャスト部材は、本発明に係る構造物保護シートがコンクリートの表面の一部又は全部に接着剤を介することなく設けられている、ことを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、熟練した作業者でなくても厚さバラツキが小さい保護シートがコンクリートの表面に接着剤を介することなく設けられているので、長期間不具合なく使用されるプレキャスト部材の低コスト化を実現できる。
【0030】
(4)本発明に係るプレキャスト部材の製造方法は、構造物保護シートを型枠内面に配置した後に該型枠内にコンクリート形成用組成物を流し込んでプレキャスト部材を製造する方法であって、製造された前記プレキャスト部材は、前記構造物保護シートがその表面の一部又は全部に設けられ、前記構造物保護シートが、ポリマーセメント層と該ポリマーセメント層上に設けられる樹脂層とを備えた厚さ分布が±100μm以内である、ことを特徴とする。
【0031】
この発明によれば、構造物保護シートで覆われたプレキャスト部材を容易に製造することができる。特に、プレキャスト部材を製造した後に構造物保護シートを貼り合わせる従来の方法とは異なり、コンクリートと構造物保護シートとの間に下塗り層や接着剤層を設けないので、コンクリートとポリマーセメント層との強固な密着性を実現することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、コンクリート等の構造物を長期にわたって保護することができる構造物保護シート、その構造物保護シートを用いた施工方法及びプレキャスト部材、並びに、プレキャスト部材の製造方法を提供することができる。特に、構造物保護シートに構造物の特性に応じた性能を付与し、構造物に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせること等を実現した構造物保護シートを提供することができる。さらに、これまで手塗りで形成されてきた層と比較して品質の安定性、均一性を改善できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係る構造物保護シートの一例を示す断面構成図である。
【
図2】本発明に係る構造物保護シートの他の一例を示す断面構成図である。
【
図3】構造物保護シートの施工方法の説明図である。
【
図4】現場打ち工法に構造物保護シートを適用した例を示す説明図である。
【
図5】本発明に係るプレキャスト部材の例を示す説明図である。
【
図6】プレキャスト部材を製造するための型枠の説明図である。
【
図7】プレキャスト部材の製造方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る構造物保護シート、それを用いた施工方法及びプレキャスト部材、並びに、プレキャスト部材の製造方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0035】
[構造物保護シート]
本発明に係る構造物保護シート1は、
図1~
図3に示すように、構造物21側に設けられたポリマーセメント層2と、ポリマーセメント層2上に設けられた樹脂層3とを備え、厚さ分布が±100μm以内、好ましくは±50μm以内であることに特徴がある。このポリマーセメント層2と樹脂層3の両層が、それぞれ、単層で形成されてもよいし積層として形成されてもよい。
【0036】
この構造物保護シート1は、厚さ分布が上記範囲内であるので、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物21の表面に安定して設けることができる。構造物側に設けられたポリマーセメント層2は、構造物21との密着性等に優れ、ポリマーセメント層2上に設けられた樹脂層3は、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れている。また、基材、接着剤層及び補強部材等の構成要素を有さないので、各構成要素間の接着力の違いや各構成要素の伸びの違いに基づいた問題が生じにくい。また、接着剤層とコンクリート等の構造物との接着強度の問題も生じにくい。また、構造物保護シート1は工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により、厚さ分布のバラツキを小さくして量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。その結果、構造物21の表面に貼り合わせる際の工期を大幅に削減できるとともに構造物21を長期にわたって保護することができる。
【0037】
以下、各構成要素の具体例について詳しく説明する。
【0038】
(構造物)
構造物21は、本発明に係る構造物保護シート1が適用される相手部材である。構造物21としては、コンクリートからなる構造物を挙げることができる。コンクリートは、一般的には、セメント系無機物質と骨材と混和剤と水とを少なくとも含有するセメント組成物を打設し、養生して得られる。こうしたコンクリートは、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管きょ、港湾岸壁等の土木構造物として広く使用される。本発明ではコンクリートからなる構造物21に構造物保護シート1を適用することで、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従でき、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、コンクリート中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。
【0039】
(ポリマーセメント層)
ポリマーセメント層2は、
図3(C)に示すように、構造物側に配置される層である。このポリマーセメント層2は、例えば、
図1(A)に示すように重ね塗りしない単層であってもよいし、
図1(B)に示すように重ね塗りした積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、構造物への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
【0040】
ポリマーセメント層2は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にした、この塗料を塗工して得られる。セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘度類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント層2が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、コンクリート構造物21構造物への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。
【0041】
樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層3を構成する樹脂成分と同じものであることが、ポリマーセメント層2と樹脂層3との密着性を高める観点から好ましい。
【0042】
ポリマーセメント層2を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルジョンであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタアクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルジョンを好ましく挙げることができる。アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され特に限定されないが、エマルジョンとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0043】
ポリマーセメント層2は、その塗工液を離型シート4上に塗布し、その後に溶媒(水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルジョンとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント層2を形成する。なお、
図2(A)に示すように、離型シート4上には、ポリマーセメント層2を形成した後に樹脂層3を形成してもよいが、
図2(B)に示すように、離型シート4上に樹脂層3を形成した後にポリマーセメント層2を形成してもよい。
【0044】
ポリマーセメント層2の厚さは特に限定されないが、構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管きょ、港湾岸壁等の土木構造物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。厚さとしては、例えば、0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となる。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0045】
このポリマーセメント層2は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層3に比べて水蒸気が容易に透過する。このときの水蒸気透過率は、例えば10~50g/m
2・day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、
図3に示すように、構造物21の表面に下塗り層22と接着剤23が順に設けられている場合にも、セメント成分を含有するポリマーセメント層2が接着剤23に密着性よく接着する。また、このポリマーセメント層2は、延伸性があるので、構造物21にひび割れや膨張が生じた場合であっても、コンクリートの変化に追従することができる。
【0046】
(樹脂層)
樹脂層3は、
図3(C)に示すように、構造物21とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層3は、例えば、
図1(A)に示すように単層であってもよいし、
図1(B)に示すように積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0047】
樹脂層3は、柔軟性を有し、コンクリートに発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層3を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層3を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、前記したポリマーセメント層2を構成する樹脂成分と同じものであること好ましい。特に弾性膜形成成分を含有する樹脂であることが好ましい。
【0048】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0049】
樹脂層3を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート4上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層3を形成する。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。後述の実施例では、水系溶媒を用いており、アクリル系ゴム組成物で樹脂層3を作製している。なお、離型シート4上には、後述の実施例に示すように、離型シート4上に樹脂層3を形成し、その後にポリマーセメント層2を形成することが好ましい。
【0050】
樹脂層3の厚さは、構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管きょ、港湾岸壁等の土木構造物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0051】
この樹脂層3は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過する。このときの水蒸気透過率としては、例えば10~50g/m2・day程度とすることが望ましい。こうすることにより、構造物保護シート1に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント層2と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント層2との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0052】
作製された構造物保護シート1は、ポリマーセメント層2と樹脂層3との一方の面に離型シート4を備えてもよい。離型シート4は、例えば施工現場への輸送の際に構造物保護シート1の表面を保護することができ、施工現場では離型シート4を容易に剥がして貼り合わせることができる。なお、離型シート4は、構造物保護シート1の生産工程で利用する工程紙であることが好ましい。
【0053】
離型シート4として使用される工程紙は、製造工程で使用される従来公知のものであれば、その材質等は特に限定されない。例えば、公知の工程紙と同様、ポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂層を有するラミネート紙等を好ましく挙げることができる。その厚さも特に限定されないが、製造上及び施工、取り扱いを阻害する厚さでなければ例えば50~500μm程度の任意の厚さとすることができる。
【0054】
以上説明した構造物保護シート1は、コンクリート等の構造物21を長期にわたって保護することができる。特に、構造物保護シート1に構造物21の特性に応じた性能を付与し、構造物21に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物21に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせること、ができる。そして、こうした構造物保護シート1は、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に寄らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【0055】
[構造物保護シートの施工方法]
本発明に係る構造物保護シートの施工方法は、
図3に示すように、上記本発明に係る構造物保護シート1を使用した施工方法であって、構造物21上に接着剤23を塗布した後に構造物保護シート1を貼り合わせる、ことを特徴とする。この施工方法は、基材や補強部材を含まない層だけで構成された厚さバラツキの小さい構造物保護シート1を使用するので、構造物21の表面に構造物保護シート1を容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層で構成された構造物保護シート1を、構造物21に設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、構造物21を長期にわたって保護することができる。
【0056】
図3は、構造物保護シート1の施工方法の説明図である。施工は、
図3(A)に示すように、構造物21の表面に下塗り層22を形成する。下塗り層22は、エポキシ樹脂等の樹脂と溶媒とを混合した塗工液を、構造物21に塗工し、その後、塗工液中の溶媒を揮発乾燥させて形成することができる。このときの溶媒も上記同様の水等を挙げることができる。下塗り層22の厚さは特に限定されないが、例えば100~150μmの範囲内とすることができる。構造物21と接着剤23との間に設ける下塗り層22は、相互の密着を高めるように作用するので、構造物保護シート1は、長期間安定して構造物21を保護することができる。なお、構造物21にひび割れや欠損が生じている場合には、それを補修した後に下塗り層22を設けることが好ましい。なお、補修は特に限定されないが、通常、セメントモルタルやエポキシ樹脂等が使われる。
【0057】
下塗り層22を形成した後、
図3(B)に示すように、接着剤23が塗布される。塗布された接着剤23は、乾燥させることなく、
図3(C)に示すように、その上に構造物保護シート1を貼り合わせる。接着剤23としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等を挙げることができる。なかでも、構造物保護シート1のポリマーセメント層2を構成する樹脂成分と同種の樹脂成分からなる接着剤23は、ポリマーセメント層2との接着強度が高くなるのでより好ましい。接着剤23の厚さは特に限定されない。接着剤23は、通常、コンクリートに刷毛塗り又はスプレー塗り等の手段で塗布した後に時間経過によって自然乾燥させて硬化する。
【0058】
図4は、現場打ち工法に構造物保護シート1を適用した例を示す説明図である。現場打ち工法とは、作業現場で型枠24を形成し、その型枠24内にコンクリート組成物21’を流し込み、放置して硬化させてコンクリート構造物21得る工法である。この現場打ち工法において、硬化したコンクリート構造物21を形成した後、その表面に構造物保護シート1を貼り合わせることで、劣化が生じにくい構造物21とすることができる。貼り合わせに当たっては、コンクリート構造物21の表面に下塗り層22を塗工・乾燥し、その上に接着剤23を塗工した後、構造物保護シート1を貼り合わせる。その後、通常、自然放置して接着剤23を乾燥硬化して、構造物保護シート1を接着する。
【0059】
一方、既にひび割れ等が生じた構造物21に対しては、欠損部分を補修した後に、上記同様の施工方法により構造物保護シート1を貼り合わせる。こうしてコンクリート構造物21の寿命を延ばすことができる。
【0060】
[プレキャスト部材]
本発明に係るプレキャスト部材は、本発明に係る構造物保護シート(以下、単に保護シートともいう)が用いられたものである。すなわち、本発明に係るプレキャスト部材31は、
図5に示すように、保護シート1が表面の一部又は全部に接着剤を介することなく設けられているプレキャスト部材31であって、保護シート1が、ポリマーセメント層2と該ポリマーセメント層2上に設けられる樹脂層3とを備えた厚さ分布が±100μm以内である、ことを特徴とする。保護シート1を構成するポリマーセメント層2は、セメント成分を有する樹脂を塗工して得られた層であり、樹脂層3は、弾性膜形成成分を有する樹脂を塗工して得られた層である。
【0061】
このプレキャスト部材31は、熟練した作業者でなくても厚さバラツキが小さい保護シート1がコンクリート21の表面に接着剤を介することなく設けられているので、長期間不具合なく使用されるプレキャスト部材31の低コスト化を実現できる。保護シート1を構成する層2、3は、いずれも追従性に優れた相溶性のよい樹脂層3であるので、層自体の密着性は優れている。コンクリート21側に設けられるポリマーセメント層2は、コンクリート21との密着性等に優れ、ポリマーセメント層2上に設けられる樹脂層3は、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れている。また、保護シート1は、基材、接着剤層及び補強部材等の構成要素を有さないので、各構成要素間の接着力の違いや各構成要素の伸びの違いに基づいた上記従来の問題が生じにくい。また、保護シート1は工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により、厚さ分布のバラツキを小さくして量産できるので、低コスト化を実現できる。
【0062】
以下、各構成要素を詳しく説明する。
【0063】
[プレキャスト部材]
プレキャスト部材31は、
図5に示すように、保護シート1が表面の一部又は全部に接着剤を介することなく設けられている。プレキャスト部材31の製造は、
図6及び
図7に示すように、保護シート1を型枠24の内面に配置した後にその型枠内にコンクリート組成物21’を流し込んで製造される。製造されたプレキャスト部材31は、保護シート1がその表面の一部又は全部に設けられており、保護シート1は、ポリマーセメント層2と、そのポリマーセメント層2上に設けられる樹脂層3とを備えた厚さ分布が±100μm以内、好ましくは±50μm以内である。
【0064】
プレキャスト部材31は、コンクリート21で構成される。プレキャスト部材31は、一般的には、セメント系無機物質と骨材と混和剤と水とを少なくとも含有するセメント組成物を打設し、養生して得られる。こうしたプレキャスト部材31は、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管きょ、港湾岸壁等の土木コンクリートとして広く使用される。本発明では、プレキャスト部材31に保護シート1を適用することで、コンクリート21に生じたひび割れや膨張に追従でき、コンクリート21内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、コンクリート21中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。
【0065】
この製造方法では、保護シート1で覆われたプレキャスト部材31を容易に作製することができる。特に、従来の施工方法とは異なり、プレキャスト部材31と保護シート1との間に接着剤23を設けなくても、コンクリート21とポリマーセメント層2との強固な密着性を実現することができる。
図6は、プレキャスト部材31を製造するための型枠24の説明図であり、
図7は、プレキャスト部材31の製造方法の一例を示す説明図である。
【0066】
型枠24は、
図6に示すように、得られるプレキャスト部材31の用途、大きさ、形状で構成されている。型枠24の種類は特に限定されない。通常は木枠が用いられるが、それ以外の材質の型枠であってもよい。型枠24内には、必要に応じて鉄筋等の補強部材が設けられていてもよい。型枠外には、必要に応じて鋼材等の補強部材で型枠自体を補強してもよい。
【0067】
型枠24の内面には、保護シート1が敷設される。型枠24の内面への保護シート1の敷設は、型枠24の内面に保護シート1を仮止め等して行うことができる。また、
図6(B)に示すような凹形状の型枠24の場合は、その後にコンクリート組成物21’が流し込まれるので、保護シート1を型枠24の内面に押し当てた状態とするだけでもよい。コンクリート組成物21’は、硬化前のコンクリート流動物であり、型枠内に容易に流し込むことができる。コンクリート組成物21’は、必要に応じて種々の特性(補強材等)を付与する材料を含んでいてもよい。
【0068】
流し込んだコンクリート組成物21’は、通常は自然乾燥して硬化する。硬化したコンクリート21は、
図3に示すように、その表面の一部又は全部がコンクリート21で覆われたプレキャスト部材31となる。こうしたプレキャスト部材31は、保護シート1により長期にわたって保護され、ひび割れや膨張が生じない。さらに、コンクリート21に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させない。また、コンクリート21中の水分が水蒸気として排出されるので、膨張することもない。こうしたプレキャスト部材31は、工場等で作製きるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に寄らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【0069】
(保護シート)
保護シート1は、上述した本発明に係る構造物保護シートと同様である。
こうした保護シート1は、プレキャスト部材31を長期にわたって保護することができる。特に、保護シート1にプレキャスト部材31の特性に応じた性能を付与し、コンクリート21に生じたひび割れや膨張に追従させること、コンクリート21に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、コンクリート中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせることができる。
【0070】
以上説明したように、この製造方法によれば、プレキャスト部材31の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、長期にわたってプレキャスト部材31を保護することができる。特に、熟練した作業者でなくても厚さバラツキが小さい保護シート1がコンクリート21の表面に接着剤を介することなく設けられているので、長期間不具合なく使用されるプレキャスト部材31の低コスト化を実現できる。
【実施例0071】
実施例と比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0072】
[実施例1]
PPラミネート紙からなる厚さ130μmの離型シート4を用いた。その離型シート4上に、ポリマーセメント層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ1.29mmのポリマーセメント層2を形成した。その後、そのポリマーセメント層2上に、アクリル系樹脂を含む樹脂層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ100μmの樹脂層3を形成した。こうして合計厚さ1.39mmの構造物保護シート1を作製した。なお、この構造物保護シート1は、約25℃に管理された工場内で連続生産され、離型シート4を含んだ態様でロール状に巻き取った。
【0073】
ポリマーセメント層形成用組成物は、セメント混合物を45質量部含む水系のアクリルエマルジョンである。セメント混合物は、ポルトランドセメント70±5質量部、二酸化ケイ素10±5質量部、酸化アルミニウム2±1質量部、酸化チタン1~2質量部を少なくとも含むものであり、アクリルエマルジョンは、アクリル酸エステルモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したアクリル酸系重合物53±2質量部、水43±2質量部を少なくとも含むものである。これらを混合したポリマーセメント層形成用組成物を塗布乾燥して得られたポリマーセメント層2は、ポルトランドセメントをアクリル樹脂中に50質量%含有する複合層である。一方、樹脂層形成用組成物は、アクリルシリコーン系樹脂である。このアクリルシリコーン系樹脂は、アクリルシリコーン樹脂60質量部と、二酸化チタン25質量部と、酸化第二鉄10質量部と、カーボンブラック5質量部とを含有するエマルジョン組成物である。
【0074】
[実施例2]
実施例1で用いたポリマーセメント層形成用組成物を塗工し乾燥して厚さが0.65mmのポリマーセメント層2を2層形成した(2層厚さ1.30mm)。その後、そのポリマーセメント層2上に、実施例1で用いた樹脂層形成用組成物を塗工し乾燥して厚さ50μmの樹脂層3を2層形成した(2層厚さ100μm)。各層の形成は、約25℃に管理された工場内の連続塗工乾燥装置で行った。実施例1で用いたこうして合計厚さ1.40mmの構造物保護シート1を作製した。なお、この構造物保護シート1も、工場内で連続生産され、離型シート4を含んだ態様でロール状に巻き取った。
【0075】
[厚さバラツキの測定]
実施例1、2について、ロール状に巻き取った構造物保護シート1から、A4サイズ程度(200mm×300mm)を切り出し、各部で14箇所の厚さを測定し、その厚さバラツキを計算した。実施例1では、厚さバラツキが26μmであり、実施例2も厚さバラツキは26μmであった。
【0076】
[実施例3~5]
実施例1において、構造物保護シート1の合計厚さを変化させた。実施例3は、厚さ0.66mmのポリマーセメント層2と、厚さ100μmの樹脂層3とを積層した合計厚さ0.76mmの構造物保護シート1を作製した。実施例4は、厚さ0.96mmのポリマーセメント層2と、厚さ100μmの樹脂層3とを積層した合計厚さ1.06mmの構造物保護シート1を作製した。実施例5は、厚さ1.47mmのポリマーセメント層2と、厚さ100μmの樹脂層3とを積層した合計厚さ1.57mmの構造物保護シート1を作製した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0077】
[強度と水蒸気透過率]
実施例3~5について、強度と水蒸気透過率を測定した。強度は引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-J)で測定した破断強度で評価した。水蒸気透過率(WVTR)は、「透湿度」とも呼ばれ、1m2のフィルム(構造物保護シート1)を24時間で透過する水蒸気の量をグラム数で表すものであり、g/m2・day又はg/m2/dayで表す。水蒸気バリア性を示す指標として用いられている。JIS K 7129に準拠した方法で測定した。
【0078】
測定結果は、実施例3では、強度が8.5N、水蒸気透過率が18.2g/m2・dayであった。実施例4では、強度が14.7N、水蒸気透過率が13.0g/m2・dayであった。実施例5では、強度が21.1N、水蒸気透過率が10.2g/m2・dayであった。いずれの厚さでも強度と水蒸気透過率は問題なく、使用可能であった。
【0079】
[比較例1]
現場でコンクリート上にスプレー塗工する作業を再現した。約25℃程度に管理した作業環境で、コンクリート板上にスプレー塗りでエポキシ樹脂からなる下塗り層22を形成し、工程紙上にスプレー塗り1層からなる厚さ1.47mmのポリマーセメント層2を形成し、その上にスプレー塗り1層からなる厚さ100μmの樹脂層3を形成した。各層は、塗工後の放置時間(常温、12時間)と乾燥(40℃、24時間)の関係で、2日で1層とした。ポリマーセメント層2と樹脂層3との合計厚さは1.57mmであった。乾燥後、工程紙上からポリマーセメント層2と樹脂層3との積層体である塗装膜を剥がし、引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-J)で引張破断強度を評価した。
【0080】
[比較例2]
比較例1において、約40℃程度に管理した作業環境で作業した。スプレー塗り2層からなる厚さ1.18mmのポリマーセメント層2と、スプレー塗り2層からなる厚さ100μmの樹脂層3とを形成し、構造物保護シート1の合計厚さを1.28mmとした。それ以外は比較例1と同様とした。
【0081】
[比較例3]
比較例3において、約10℃程度に管理した作業環境で作業した。スプレー塗り2層からなる厚さ1.29mmのポリマーセメント層2と、スプレー塗り2層からなる厚さ100μmの樹脂層3とを形成し、構造物保護シート1の合計厚さを1.39mmとした。それ以外は比較例1と同様とした。
【0082】
[強度と水蒸気透過率]
比較例1~3について、上記実施例3~5と同様の強度と水蒸気透過率を測定した。測定結果は、比較例1では、強度が21.1N、水蒸気透過率が10.2g/m2・dayであった。比較例2では、強度が16.2N、水蒸気透過率が11.3g/m2・dayであった。比較例3では、強度が17.8N、水蒸気透過率が11.4g/m2・dayであった。比較例2は、塗工中の粘度上昇が激しく、使用時間はかなり短いと想定される。比較例3は、塗工乾燥後の表面が白っぽく変色した。比較例1~3のいずれも、現場でコンクリート上にスプレー塗工する作業を再現したものであるので、厚さバラツキは大きく、本発明の範囲である±100μmよりもかなり大きく、厚さバラツキは222μm(±111μm)~260μm(±130μm)の範囲内であった。
【0083】
[実施例6]
(プレキャスト部材の作製)
プレキャスト部材31は、
図6(A)に示す型枠24を用い、
図7に示す方法で製造した。プレキャスト部材31の製造は、
図6及び
図7に示すように、実施例1で得られた保護シート1を型枠24の内面に配置した後にその型枠内にコンクリート組成物21’を流し込んで製造した。製造されたプレキャスト部材31は、保護シート1がその表面の一部又は全部に設けられる。
【0084】
[実施例7]
実施例2で得られた保護シート1を用いて、実施例6と同様にしてプレキャスト部材31を製造した。
【0085】
[比較例4]
実施例6、7で用いた保護シート1に代えて、特開2004-36097号公報の第0052~0054段落の保護シート1を用いた。この保護シート1は、フッ素樹脂フィルムと接着剤層とで構成されており、プレキャスト部材31は、接着剤層側をコンクリート21上に貼り合わせて製造した。
【0086】
[密着性評価]
実施例6、7で形成したプレキャスト部材31と、比較例4で形成したプレキャスト部材31について、コンクリート21と保護シート1との密着性を評価した。密着性は、コンクリート21上の保護シート1を180°方向に引きはがす方法で行った。定性試験ではあったが、実施例6、7のプレキャスト部材31は、ポリマーセメント層2がコンクリート21表面に残る層間剥離であり、コンクリート21と保護シート1との界面は、強く接着していることがわかった。一方、比較例4のプレキャスト部材31は、保護シート1を構成する接着剤層と、コンクリート21との界面で剥離しており、保護シート1とコンクリート21とは、実施例1、2ほど強く接着していないことがわかった。