(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061736
(43)【公開日】2024-05-08
(54)【発明の名称】支持フィルム、積層基材、塗工装置、および塗工方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240426BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240426BHJP
B05D 1/40 20060101ALI20240426BHJP
B05C 5/02 20060101ALI20240426BHJP
B05C 9/10 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
B32B27/00 M
B05D1/26 Z
B05D1/40
B05C5/02
B05C9/10
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027717
(22)【出願日】2024-02-27
(62)【分割の表示】P 2022004912の分割
【原出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】福地 毅
(72)【発明者】
【氏名】小塚 大輝
(72)【発明者】
【氏名】高木 善則
(57)【要約】
【課題】厚みが大きい電解質膜が膨潤した場合でも、支持フィルムから電解質膜が剥がれることを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】厚みが50μm以上の電解質膜91を、支持フィルム92により支持する。支持フィルム92は、ベースフィルム921と、接着剤層922とを有する。接着剤層922は、ベースフィルム921の一方の面を覆う。ベースフィルム921の厚みは、50μm以上かつ300μm以下である。また、被着体をPETフィルムとしたときの、JISZ0237の試験方法により測定される接着剤層の粘着力は、0.05N/cm以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが50μm以上の電解質膜を支持するための支持フィルムであって、
ベースフィルムと、
前記ベースフィルムの一方の面を覆う接着剤層と、
を有し、
前記ベースフィルムの厚みは、50μm以上かつ300μm以下であり、
被着体をPETフィルムとしたときの、JISZ0237の試験方法により測定される前記接着剤層の粘着力は、0.05N/cm以上である、支持フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の支持フィルムであって、
前記ベースフィルムの引張強度は、10kg/mm2以上である、支持フィルム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の支持フィルムであって、
前記接着剤層は、熱可塑性の接着剤を有する、支持フィルム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の支持フィルムであって、
前記粘着力は、35N/cm以下である、支持フィルム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の支持フィルムと、
前記支持フィルムの前記接着剤層に貼り付けられた前記電解質膜と、
を有する、積層基材。
【請求項6】
請求項5に記載の積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを塗工するノズルと、
前記ノズルに対して前記積層基材を相対的に移動させる搬送機構と、
を備える、塗工装置。
【請求項7】
請求項5に記載の積層基材をノズルに対して相対的に移動させつつ、前記ノズルにより、前記電解質膜の表面に触媒インクを塗工する、塗工方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の支持フィルムの前記接着剤層に、前記電解質膜を貼り付けることにより、積層基材を形成する貼付部と、
前記積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを塗工するノズルと、
前記ノズルに対して前記積層基材を相対的に移動させる搬送機構と、
を備える、塗工装置。
【請求項9】
a)請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の支持フィルムの前記接着剤層に、前記電解質膜を貼り付けることにより、積層基材を形成する工程と、
b)前記積層基材をノズルに対して相対的に移動させつつ、前記ノズルにより、前記電解質膜の表面に触媒インクを塗工する工程と、
を有する、塗工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜を支持するための支持フィルム、電解質膜と支持フィルムとを有する積層基材、電解質膜の表面に触媒インクを塗工する塗工装置、および電解質膜の表面に触媒インクを塗工する塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer electrolyte fuel cell)が知られている。固体高分子形燃料電池には、電解質膜の表面に触媒層が形成された膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)が使用される。膜・触媒層接合体は、電解質膜の表面に触媒インクを塗工することにより、製造される。膜・触媒層接合体を製造する従来の装置については、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載のように、電解質膜は、水分を吸収することにより膨潤し、変形しやすいという性質を有する。このため、特許文献1の装置では、電解質膜の変形を抑制するために、電解質膜を、支持フィルムで支持した状態で搬送している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、従来、水(H2O)を電気分解することにより水素(H2)を製造する、固体高分子形水電解と呼ばれる技術が知られている。固体高分子形水電解においても、電解質膜の表面に触媒層が形成された膜・触媒層接合体が使用される。ただし、固体高分子形水電解に使用される電解質膜は、固体高分子形燃料電池に使用される電解質膜よりも、厚みが大きい。このため、電解質膜の膨潤が生じたときに、電解質膜がより大きく変形するという問題がある。
【0006】
上記の特許文献1に記載された支持フィルムは、電解質膜に対して、支持フィルム自体のファンデルワールス力により密着している。しかしながら、このようなファンデルワールス力による密着のみでは、厚みの大きい電解質膜に膨潤が生じたときに、支持フィルムと電解質膜との間に、剥がれが生じる場合がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、厚みが大きい電解質膜が膨潤した場合でも、支持フィルムから電解質膜が剥がれることを抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、厚みが50μm以上の電解質膜を支持するための支持フィルムであって、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの一方の面を覆う接着剤層と、を有し、前記ベースフィルムの厚みは、50μm以上かつ300μm以下であり、被着体をPETフィルムとしたときの、JISZ0237の試験方法により測定される前記接着剤層の粘着力は、0.05N/cm以上である。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の支持フィルムであって、前記ベースフィルムの引張強度は、10kg/mm2以上である。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の支持フィルムであって、前記接着剤層は、熱可塑性の接着剤を有する。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の支持フィルムであって、前記粘着力は、35N/cm以下である。
【0012】
本願の第5発明は、積層基材であって、第1から請求項4までのいずれか1項に記載の支持フィルムと、前記支持フィルムの前記接着剤層に貼り付けられた前記電解質膜と、を有する。
【0013】
本願の第6発明は、塗工装置であって、第5発明の積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを塗工するノズルと、前記ノズルに対して前記積層基材を相対的に移動させる搬送機構と、を備える。
【0014】
本願の第7発明は、塗工方法であって、第5発明の積層基材をノズルに対して相対的に移動させつつ、前記ノズルにより、前記電解質膜の表面に触媒インクを塗工する。
【0015】
本願の第8発明は、塗工装置であって、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の支持フィルムの前記接着剤層に、前記電解質膜を貼り付けることにより、積層基材を形成する貼付部と、前記積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを塗工するノズルと、前記ノズルに対して前記積層基材を相対的に移動させる搬送機構と、を備える。
【0016】
本願の第9発明は、塗工方法であって、a)第1発明から第4発明までのいずれか1発明の支持フィルムの前記接着剤層に、前記電解質膜を貼り付けることにより、積層基材を形成する工程と、b)前記積層基材をノズルに対して相対的に移動させつつ、前記ノズルにより、前記電解質膜の表面に触媒インクを塗工する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
第1発明~第9発明によれば、電解質膜に対して支持フィルムが、十分な粘着力を有する接着剤層により、貼り付けられる。また、ベースフィルムの厚みを50μm以上とすることにより、支持フィルムに高い剛性をもたせることができる。これにより、厚みが大きい電解質膜が膨潤した場合でも、支持フィルムから電解質膜が剥がれることを抑制できる。
【0018】
特に、第2発明によれば、支持フィルムに、より高い剛性をもたせることができる。これにより、厚みが大きい電解質膜が膨潤した場合でも、電解質膜および支持フィルムが変形することを、抑制できる。
【0019】
特に、第3発明によれば、支持フィルムに支持された電解質膜を加熱する場合に、接着剤が硬化することを抑制できる。
【0020】
特に、第4発明によれば、電解質膜からベースフィルムを容易に剥離できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】ベースフィルムの厚みを変化させて、電解質膜に対する密着性と、電解質膜を膨潤させたときの支持フィルムの変形量とを、評価した結果を示した図である。
【
図3】ベースフィルムの引張強度を変化させて、電解質膜に対する密着性と、電解質膜を膨潤させたときの支持フィルムの変形量とを、評価した結果を示した図である。
【
図4】接着剤層の粘着力を変化させて、電解質膜に対する密着性と、電解質膜を膨潤させたときの支持フィルムの変形量とを、評価した結果を示した図である。
【
図5】第1実施形態に係る塗工装置の構成を示した図である。
【
図6】第2実施形態に係る塗工装置の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
<1.積層基材について>
図1は、本発明の一実施形態に係る積層基材9の部分斜視図である。この積層基材9は、膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)の製造工程において使用される、長尺帯状の基材である。
図1に示すように、積層基材9は、電解質膜91と、電解質膜91を支持する支持フィルム92と、を有する。
【0024】
電解質膜91は、イオン伝導性を有する薄膜(イオン交換膜)である。電解質膜91には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。具体的には、電解質膜91として、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜が使用される。
【0025】
本実施形態の電解質膜91は、水(H2O)を電気分解することにより水素(H2)を製造する、固体高分子形水電解に使用される。固体高分子形燃料電池用の電解質膜の厚みは、5μm~30μm程度であるが、固体高分子形水電解用の電解質膜91は、それよりも厚く、50μm以上の厚みをする。電解質膜91の厚みは、例えば、150μm~300μmである。
【0026】
図1に示すように、電解質膜91は、後述する塗工装置1において触媒インクが塗工される第1面911と、第1面911の裏面である第2面912と、を有する。電解質膜91は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜91は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。また、電解質膜91は、触媒インクが塗工されたときに、触媒インク中の溶媒を吸収することによっても、膨潤する。
【0027】
支持フィルム92は、電解質膜91の変形を抑制するためのフィルムである。電解質膜91と支持フィルム92とは、互いに張り合わされる。これにより、電解質膜91が、支持フィルム92に支持される。電解質膜91を、単体で取り扱うのではなく、支持フィルム92に支持された状態で取り扱うことにより、電解質膜91の変形を抑制できる。また、支持フィルム92を用いることで、機械的強度が低い電解質膜91を、損傷させることなく搬送できる。
【0028】
図1に示すように、支持フィルム92は、ベースフィルム921と、接着剤層922とを有する。
【0029】
ベースフィルム921は、電解質膜91よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂製のフィルムである。ベースフィルム921の材料には、PET(ポリエチレンテレフタレート)が使用される。ただし、PETに代えて、PEN(ポリエチレンナフタレート)、延伸ナイロン、延伸硬質ポリ塩化ビニル、OPP(オリエンテッドポリプロピレン)などを、ベースフィルム921の材料として使用してもよい。
【0030】
ベースフィルム921の厚みは、50μm以上かつ300μm以下である。また、ベースフィルム921の常温における引張強度は、10kg/mm2以上である。電解質膜91の厚みが大きい場合、電解質膜91の変形により生じる力も大きくなる。しかしながら、ベースフィルム921の厚みおよび引張強度を適切に設定することで、支持フィルム92に高い剛性を付与することができる。これにより、電解質膜91の変形を抑えつつ、電解質膜91を支持できる。
【0031】
接着剤層922は、ベースフィルム921の一方の表面を覆う接着剤の層である。電解質膜91は、支持フィルム92の接着剤層922に貼り付けられる。接着剤層922には、熱可塑性の接着剤が使用される。具体的には、エポキシ系、アクリル系、シリコーンゴム系の無機溶剤系接着剤を使用することができる。接着剤層922の粘着力は、被着体をPETフィルムとし、JISZ0237の試験方法により測定した場合に、0.05N/cm以上である。このように、十分な粘着力を有する接着剤層922を有することで、支持フィルム92を、電解質膜91に対して、良好に密着させることができる。
【0032】
<2.実験例>
続いて、ベースフィルム921の厚み、ベースフィルム921の引張強度、および接着剤層922の粘着力を変化させて、支持フィルム92の特性を評価した結果について、説明する。
【0033】
<2-1.支持フィルムの厚みについて>
図2は、ベースフィルム921の厚みを変化させて、電解質膜91に対する密着性と、電解質膜91を膨潤させたときの支持フィルム92の変形量とを、評価した結果を示した図である。
図2の実験においては、ベースフィルム921の常温における引張強度を、15kg/mm
2で固定とした。また、
図2の実験においては、被着体をPETフィルムとしたときのJISZ0237の試験方法により測定される接着剤層922の粘着力を、0.25N/cmで固定とした。そして、ベースフィルム921の厚みを、25μm~100μmの範囲で変化させた。
【0034】
図2の実験結果によると、ベースフィルム921の厚みが25μm~100μmのいずれの場合においても、電解質膜91に対する支持フィルム92の密着性は、良好であった。また、ベースフィルム921の厚みが25μmの場合、電解質膜91を膨潤させたときに、支持フィルム92に変形が生じた。ベースフィルム921の厚みが40μmの場合、電解質膜91を膨潤させたときに、支持フィルム92にごく僅かな変形が生じた。しかしながら、ベースフィルム921の厚みが50μm以上の場合、電解質膜91を膨潤させても、支持フィルム92に殆ど変形が生じなかった。
【0035】
これらの結果から、ベースフィルム921の厚みが50μm未満の場合には、ベースフィルム921の厚みが50μm以上の場合よりも、支持フィルム92の剛性が低いため、電解質膜91が膨潤したときに、支持フィルム92に変形が生じているものと考えられる。したがって、ベースフィルム921の厚みは、50μm以上とすることが望ましい。また、ベースフィルム921の厚みは、75μm以上とすることが、より望ましい。
【0036】
ただし、ベースフィルム921の厚みを大きくし過ぎると、支持フィルム92や積層基材9を、ロール状に巻き取って取り扱うことが難しくなる。このため、ベースフィルム921の厚みは、300μm以下とすることが、望ましい。例えば、ベースフィルム921の厚みは、125~190μmとしてもよい。
【0037】
<2-2.支持フィルムの引張強度について>
図3は、ベースフィルム921の引張強度を変化させて、電解質膜91に対する密着性と、電解質膜91を膨潤させたときの支持フィルム92の変形量とを、評価した結果を示した図である。
図3の実験においては、ベースフィルム921の厚みを、100μmで固定とした。また、
図3の実験においては、被着体をPETフィルムとしたときのJISZ0237の試験方法により測定される接着剤層922の粘着力を、0.25N/cmで固定とした。そして、ベースフィルム921の常温における引張強度を、5kg/mm
2~15kg/mm
2の範囲で変化させた。
【0038】
図3の実験結果によると、ベースフィルム921の引張強度が5kg/mm
2~15kg/mm
2のいずれの場合においても、電解質膜91に対する支持フィルム92の密着性は、良好であった。また、ベースフィルム921の引張強度が9kg/mm
2以下の場合、電解質膜91を膨潤させたときに、支持フィルム92に変形が生じた。しかしながら、ベースフィルム921の引張強度が10kg/mm
2以上の場合、電解質膜91を膨潤させても、支持フィルム92に殆ど変形が生じなかった。
【0039】
これらの結果から、ベースフィルム921の引張強度が10kg/mm2未満の場合には、ベースフィルム921の引張強度が10kg/mm2以上の場合よりも、支持フィルム92の剛性が低いため、電解質膜91が膨潤したときに、支持フィルム92に変形が生じているものと考えられる。したがって、ベースフィルム921の常温における引張強度は、10kg/mm2以上とすることが望ましい。また、ベースフィルム921の常温における引張強度は、15kg/mm2以上とすることが、より望ましい。
【0040】
ただし、ベースフィルム921の引張強度を大きくし過ぎると、支持フィルム92や積層基材9を、ロール状に巻き取って取り扱うことが難しくなる。このため、ベースフィルム921の常温における引張強度は、50kg/mm2以下とすることが、望ましい。
【0041】
<2-3.接着剤層の粘着力について>
図4は、接着剤層922の粘着力を変化させて、電解質膜91に対する密着性と、電解質膜91を膨潤させたときの支持フィルム92の変形量とを、評価した結果を示した図である。
図4の実験においては、ベースフィルム921の厚みを、100μmで固定とした。また、
図4の実験においては、ベースフィルム921の常温における引張強度を、15kg/mm
2で固定とした。そして、被着体をPETフィルムとしたときのJISZ0237の試験方法により測定される接着剤層922の粘着力を、0.02N/cm~0.2N/cmの範囲で変化させた。
【0042】
図4の実験結果によると、接着剤層922の粘着力が0.02N/cm~0.2N/cmのいずれの場合においても、電解質膜91を膨潤させたときに、支持フィルム92に殆ど変形が生じなかった。また、接着剤層922の粘着力が0.05N/cm未満の場合、電解質膜91に対する支持フィルム92の密着性が比較的低かった。具体的には、電解質膜91と接着剤層922との間に、部分的な剥がれが認められた。これに対し、接着剤層922の粘着力が0.05N/cm以上の場合、電解質膜91に対する支持フィルム92の密着性は、良好であった。具体的には、接着剤層922からの電解質膜91の剥がれが認められなかった。
【0043】
これらの結果より、支持フィルム92からの電解質膜91の剥がれを抑制するためには、被着体をPETフィルムとしたときのJISZ0237の試験方法により測定される接着剤層922の粘着力を、0.05N/cm以上とすることが望ましい。また、被着体をPETフィルムとしたときのJISZ0237の試験方法により測定される接着剤層922の粘着力を、0.125N/cm以上とすることが、より望ましい。
【0044】
ただし、支持フィルム92は、最終的には、電解質膜91から剥離する必要がある。接着剤層922の粘着力が強すぎると、電解質膜91から支持フィルム92を剥離することが困難となる。このため、被着体をPETフィルムとしたときのJISZ0237の試験方法により測定される接着剤層922の粘着力は、例えば、35N/cm以下とすることが望ましい
【0045】
<3.塗工装置について>
<3-1.第1実施形態>
続いて、上記の積層基材9を用いて、電解質膜91の第1面911に触媒インクを塗工する塗工装置1について、説明する。
【0046】
図5は、第1実施形態に係る塗工装置1の構成を示した図である。この塗工装置1は、固体高分子形水電解に使用される膜・触媒層接合体の製造工程において、長尺帯状の積層基材9を長手方向に搬送しつつ、電解質膜91の第1面911に、電極となる触媒層93を形成する装置である。
図5に示すように、塗工装置1は、搬送機構10、塗工部20、乾燥部30、および制御部40を備えている。
【0047】
搬送機構10は、積層基材9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻出ローラ11、複数の搬送ローラ12および巻取ローラ13を有する。巻出ローラ11には、予め別の装置で電解質膜91と支持フィルム92とを貼り合わせることにより形成された積層基材9が、セットされる。積層基材9は、巻出ローラ11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により規定される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、水平軸を中心として回転することによって、積層基材9を搬送経路の下流側へ案内する。搬送後の積層基材9は、巻取ローラ13へ回収される。なお、搬送ローラ12の位置や数は、必ずしも
図5の通りでなくてもよい。
【0048】
塗工部20は、搬送機構10により搬送される積層基材9の電解質膜91の第1面911に、触媒インクを塗工するための機構である。触媒インクには、触媒材料(例えば、白金(Pt))を含む粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた電極ペーストが用いられる。
【0049】
積層基材9は、巻出ローラ11よりも搬送経路の下流側、かつ、乾燥部30よりも搬送経路の上流側において、搬送ローラの役割も兼ねたバックアップローラ14に支持される。バックアップローラ14は、円柱状または円筒状のローラであり、積層基材9の支持フィルム92に接触しながら、水平軸を中心として回転する。
【0050】
塗工部20は、バックアップローラ14に支持された積層基材9の電解質膜91の第1面911に対向する塗工ノズル21を有する。バックアップローラ14の回転により、積層基材9は、塗工ノズル21に対して相対的に移動する。塗工ノズル21には、例えば、幅方向(積層基材9の長手方向に直交し、かつ水平な方向)に沿って延びるスリット状の吐出口を有する、いわゆるスリットノズルが用いられる。
【0051】
塗工ノズル21は、給液配管22を介して、触媒インク供給源23と流路接続されている。また、給液配管22には、開閉弁24が介挿されている。このため、開閉弁24を開放すると、触媒インク供給源23から給液配管22を通って塗工ノズル21に、触媒インクが供給される。そして、塗工ノズル21の吐出口から、バックアップローラ14に支持された積層基材9の電解質膜91の第1面911へ向けて、触媒インクが吐出される。これにより、電解質膜91の第1面911に、触媒インクが塗工される。
【0052】
本実施形態では、開閉弁24を一定の周期で開閉することによって、塗工ノズル21の吐出口から、触媒インクを断続的に吐出する。これにより、電解質膜91の第1面911に、触媒インクを搬送方向に一定の間隔で間欠塗工する。ただし、開閉弁24を連続的に開放して、電解質膜91の第1面911に、搬送方向に切れ目無く触媒インクを塗工してもよい。
【0053】
なお、塗工ノズル21は、必ずしもバックアップローラ14に支持された積層基材9に対して、触媒インクを吐出するものでなくてもよい。例えば、隣り合うローラの間に掛け渡された積層基材9の電解質膜91に対して、触媒インクを吐出するものであってもよい。また、塗工ノズル21は、電解質膜91に対して、スプレー状に触媒インクを噴射するものであってもよい。
【0054】
乾燥部30は、塗工ノズル21よりも搬送経路の下流側に配置されている。乾燥部30は、触媒インクを乾燥させるための乾燥炉31を有する。乾燥炉31内では、搬送機構10により搬送される積層基材9の電解質膜91に、加熱された気体(熱風)が吹き付けられる。そうすると、電解質膜91の第1面911に塗工された触媒インクが加熱され、触媒インク中の溶媒が気化する。これにより、触媒インクが乾燥して、電解質膜91の第1面911に触媒層93が形成される。ただし、触媒インクを乾燥させるための方法は、必ずしも熱風の供給でなくてもよい。乾燥部30は、光照射や減圧などの他の方法で、触媒インクを乾燥させるものであってもよい。
【0055】
このように、この塗工装置1では、巻出ローラ11からの積層基材9の繰り出し、電解質膜91の第1面911への触媒インクの塗工、乾燥炉31による乾燥、の各工程が、順次に実行される。これにより、電解質膜91の第1面911に、触媒層93が形成される。また、この塗工装置1では、電解質膜91は、支持フィルム92に常に支持されている。これにより、電解質膜91の膨潤による変形が抑制される。
【0056】
制御部40は、塗工装置1内の各部を動作制御するための手段である。制御部40は、CPU等のプロセッサ、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータにより構成される。記憶部内には、上述した塗工・乾燥処理を実行するためのコンピュータプログラムが、記憶されている。
【0057】
また、制御部40は、搬送機構10、開閉弁24、および乾燥炉31と、それぞれ通信可能に接続されている。制御部40は、コンピュータプログラムに従って、塗工装置1内の上記各部を動作制御する。これにより、塗工装置1における塗工・乾燥処理が進行する。
【0058】
上記の塗工部20において、電解質膜91に触媒インクを塗工すると、触媒インク中の溶媒が、電解質膜91に浸透する。これにより、電解質膜91が膨潤する。特に、固体高分子形水電解用の電解質膜91は、50μm以上の厚みを有するため、膨潤により大きな変形が生じやすい。しかしながら、本実施形態では、電解質膜91の第2面912に、厚みが50μm以上のベースフィルム921を、接着剤層922を介して貼り付けている。これにより、電解質膜91の変形を抑制できる。また、電解質膜91が膨潤により多少変形したとしても、支持フィルム92から電解質膜91が剥がれることを、抑制できる。
【0059】
また、固体高分子形水電解用の膜・触媒層接合体では、触媒層93に含まれる白金の担持量を、0.5mg/cm2以上とする必要がある。固体高分子形燃料電池用の膜・触媒層接合体では、触媒層に含まれる白金の担持量は、0.5mg/cm2未満であるが、固体高分子形水電解用の膜・触媒層接合体では、それよりも白金の担持量が多い。具体的には、固体高分子形水電解用の膜・触媒層接合体では、触媒層93に含まれる白金の担持量が、例えば、0.5mg/cm2~1.0mg/cm2である。
【0060】
このように、触媒層93に含まれる白金の担持量を多くするためには、上述した塗工部20において、電解質膜91に塗工される触媒インクの単位面積あたりの量を多くする必要がある。そうすると、電解質膜91への溶媒の浸透量も多くなるため、電解質膜91が、より膨潤しやすくなる。しかしながら、本実施形態では、上述の通り、電解質膜91の第2面912に、厚みが50μm以上のベースフィルム921を、接着剤層922を介して貼り付けている。これにより、電解質膜91の変形を抑制できる。また、電解質膜91が膨潤により多少変形したとしても、支持フィルム92から電解質膜91が剥がれることを、抑制できる。
【0061】
また、上述した乾燥部30では、触媒インクだけでなく、接着剤層922も加熱される。具体的には、接着剤層922が、50~160℃の温度まで加熱される。しかしながら、本実施形態では、接着剤層922に熱可塑性の接着剤を使用している。このため、乾燥部30において接着剤層922が加熱されても、接着剤層922が硬化して、電解質膜91との密着性が過剰に高くなるということはない。したがって、乾燥処理後の電解質膜91から支持フィルム92を剥離しにくくなるという問題は生じない。また、電解質膜91から支持フィルム92を剥離した後に、電解質膜91の第2面912に、接着剤が残存することも抑制される。
【0062】
<3-2.第2実施形態>
続いて、上記の積層基材9を用いて、電解質膜91の第1面911に触媒インクを塗工する塗工装置1の、第2実施形態について説明する。
【0063】
図6は、第2実施形態に係る塗工装置1の構成を示した図である。上述した第1実施形態では、塗工装置1とは別の装置において、電解質膜91と支持フィルム92の貼り合わせが行われていた。これに対し、第2実施形態では、塗工装置1の内部において、電解質膜91と支持フィルム92の貼り合わせが行われる。
【0064】
図6に示すように、第2実施形態の塗工装置1は、貼付部50、搬送機構10、塗工部20、乾燥部30、および制御部40を備えている。搬送機構10の巻出ローラ11以外の部分、塗工部20、乾燥部30、および制御部40については、上述した第1実施形態と同等であるため、重複説明を省略する。
【0065】
貼付部50は、電解質膜供給ローラ51、支持フィルム供給ローラ52、剥離ローラ53,剥離フィルム回収ローラ54、および一対の貼合ローラ55を有する。
【0066】
電解質膜供給ローラ51には、ロール状の電解質膜91がセットされる。電解質膜91は、電解質膜供給ローラ51から繰り出される。支持フィルム供給ローラ52には、ロール状の支持フィルム92がセットされる。支持フィルム92の接着剤層922の表面には、剥離フィルム923が貼り付けられている。すなわち、支持フィルム供給ローラ52にセットされる支持フィルム92は、ベースフィルム921、接着剤層922、および剥離フィルム923の3層を有する。
【0067】
剥離ローラ53は、支持フィルム供給ローラ52から繰り出された支持フィルム92から、剥離フィルム923を剥離するためのローラである。支持フィルム92が剥離ローラ53を通過した後、剥離フィルム923は、剥離フィルム回収ローラ54へ向けて搬送され、剥離フィルム回収ローラ54に回収される。また、ベースフィルム921および接着剤層922は、剥離ローラ53を通過した後、貼合ローラ55へ向けて搬送される。
【0068】
一対の貼合ローラ55は、電解質膜91と、剥離フィルム923が剥離された支持フィルム92とを、貼り合わせるためのローラである。一対の貼合ローラ55の一方は、ゴムにより形成される。一対の貼合ローラ55の他方は、金属により形成される。一対の貼合ローラ55は、外周面同士が対向し、図示を省略した加圧機構によって、互いに接近する方向へ加圧されている。
【0069】
電解質膜91および支持フィルム92は、一対の貼合ローラ55の間に導入される。電解質膜91の第1面911は、ゴム製の貼合ローラ55に接触する。支持フィルム92のベースフィルム921は、金属製の貼合ローラ55に接触する。支持フィルム92の接着剤層922と、電解質膜91の第2面912とは、一対の貼合ローラ55の間を通過する際に、互いに密着する。これにより、接着剤層922に電解質膜91が貼り付けられる。その結果、電解質膜91と支持フィルム92とで構成される長尺帯状の積層基材9が形成される。
【0070】
その後、積層基材9は、搬送機構10により、下流側へ向けて搬送される。そして、上記の第1実施形態と同様に、塗工部20における触媒インクの塗工と、乾燥炉31における乾燥処理とが、順次に実行される。これにより、電解質膜91の第1面911に、触媒層93が形成される。
【0071】
第2実施形態の塗工装置1も、第1実施形態の塗工装置1と同様に、電解質膜91の第2面912に、接着剤層922を有する支持フィルム92を貼り付けた状態で、触媒インクの塗工および乾燥処理を行う。これにより、電解質膜91の変形を抑制できる。また、電解質膜91が膨潤により多少変形したとしても、支持フィルム92から電解質膜91が剥がれることを、抑制できる。
【0072】
また、第2実施形態の塗工装置1では、塗工装置1内で、電解質膜91と支持フィルム92の貼り合わせを行う。このため、貼り合わせ後の積層基材9を、複数の装置の間で搬送する必要がない。
【0073】
<4.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0074】
上記の実施形態の塗工装置1は、長尺帯状の積層基材9を搬送しつつ、電解質膜91に触媒インクを塗工していた。しかしながら、塗工装置は、静止したステージにシート状の積層基材9を載置し、当該積層基材9に対して塗工ノズルを移動させつつ、電解質膜91に触媒インクを塗工するものであってもよい。すなわち、塗工装置1は、積層基材9および塗工ノズルのいずれか一方を、他方に対して相対的に移動させつつ、塗工ノズルにより、電解質膜91に触媒インクを塗工するものであればよい。
【0075】
また、上記の実施形態では、固体高分子形水電解に使用される膜・触媒層接合体を製造するための支持フィルム92および積層基材9について、説明した。しかしながら、本発明の支持フィルムおよび積層基材は、固体高分子形水電解以外の用途に使用されるものであってもよい。例えば、本発明の支持フィルムおよび積層基材は、燃料電池に使用される膜・触媒層接合体を製造するためのものであってもよい。
【0076】
また、本発明の支持フィルムおよび積層基材は、トルエンなどの芳香族化合物を水素化することにより、有機ハイドライド(例えば、トルエン-メチルシクロヘキサン)を製造するプロセスに使用される膜・触媒層接合体を製造するためのものであってもよい。
【0077】
また、積層基材や塗工装置の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に取捨選択してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 塗工装置
9 積層基材
10 搬送機構
20 塗工部
21 塗工ノズル
30 乾燥部
40 制御部
50 貼付部
91 電解質膜
92 支持フィルム
93 触媒層
921 ベースフィルム
922 接着剤層
923 剥離フィルム