(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006176
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムロール
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106830
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白尾 陽太郎
(72)【発明者】
【氏名】森部 十徳
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA44
4F071AA46
4F071AF14Y
4F071AF27Y
4F071AF28Y
4F071AF38Y
4F071AF39Y
4F071AF61Y
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
(57)【要約】
【課題】近年の品質高度化に対応した、キズ欠点の少ないポリエステルフィルムロールを得ることを課題とする。
【解決手段】ポリエステルフィルムロールの巻き出しから巻き芯までの帯電量分布が0.9V以内且つ、幅方向の帯電量分布が0.6V以下であるポリエステルフィルムロール。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムロールの巻き出しから巻き芯までの帯電量分布が0.9kV以内且つ、幅方向の帯電量分布が0.6kV以下であるポリエステルフィルムロール。
【請求項2】
表面抵抗率が5×1012Ω/□以上2×1014Ω/□以下であるポリエステルフィルムを巻き取った請求項1に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
JIS-Z1707(2019年)に準じた方法での突刺し試験で測定した突刺し強度が0.5N/μm以上、2.5N/μm以下であるポリエステルフィルムを巻き取った請求項1または2に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項4】
静摩擦係数が0.20以上、0.70以下であるポリエステルフィルムを巻き取った請求項1または2に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項5】
中心面平均粗さSRaが10nm以上50nm以下かつ中心面山高さSRpが300nm以上1000nm以下であるポリエステルフィルムを巻き取った請求項1または2に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項6】
厚さが20μm以上48μm以下であり、フィルム幅方向に対する配向主軸の傾き(配向角)が少なくともポリエステルフィルム幅方向5m幅にわたって5度以下であり、100℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率が0.5%以上2.5%以下、フィルム幅方向の熱収縮率が0.3%以上1.1%以下であり、偏光板離型用途に用いられるポリエステルフィルムを巻き取った請求項1または2に記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周期キズの少ないポリエステルフィルムに関する。更には、偏光板離型用途向けに好適なポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは機械特性や熱特性、コシの強さやコストの観点から、工業材料用途として多用な用途に用いられている。特に最近では、電子部材関連の工程紙として、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成型するための離型フィルムや、液晶偏光板離型フィルム、ドライフィルムレジスト用基材などに用いられている。
【0003】
しかし、近年の各種用途の精密化などに伴い、ポリエステルフィルムには、これまで問題となっていなかった微細な欠点や、品質のバラツキも問題視されるようになって来た。ポリエステルフィルムを工程紙などとして用いて成形される成形体の品質は、ポリエステルフィルムの精度や品質、特に表面欠点の有無多少が大きく影響する。
【0004】
特許文献1では、窪み欠点数を削減し、表面粗さを制御することでフィルム表面の微細な欠点が少ない離型用ポリエステルフィルムについて開示されている。特許文献2では、表面粗さ、キズ個数を厳密に規定することで、光学フィルムの透明性を悪化させることなく、光学フィルムに転写するキズの個数を少なくすることで光学フィルムの歩留りを向上させるポリエステルフィルムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、雰囲気の塵埃度、巻取時の面圧、張力を制御することで巻取工程にて発生するキズや異物化見込み等の欠点を防止し、優れた巻き品位とする方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、フィルムロールからの巻き出し時の帯電量とフィルム上の隆起状欠点数を制御することでセラミックグリーンシート上のピンホール等の欠陥を生じる方法が開示されている。
【0007】
特許文献5には、硬化型シリコーン樹脂からなる離型層を形成した離型フィルムを巻き取る際の走行中の巻取ロールの帯電の絶対値を0.5kV以下とすることで、表面が均一で混入異物が少ない、セラミックグリーンシートに欠陥を発生させない、薄層セラミックグリーンシート製造用離型フィルムロールの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-007054号公報
【特許文献2】特開2017-109329号公報
【特許文献3】特開2001-39590号公報
【特許文献4】特開2004-196873号公報
【特許文献5】特開2006-181993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これら技術では、緻密性、精密性が加速する現状では十分な解決が難しくなっている。そこで、本発明では近年の品質高度化に対応した、キズ欠点の少ないポリエステルフィルムロールを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ポリエステルフィルムロールの巻き出しから巻き芯までの帯電量分布が0.9V以内且つ、幅方向の帯電量分布が0.6V以下とすることで上記課題を解決できることを見出した。本発明における好ましい一態様は以下の構成を有する。
(1)ポリエステルフィルムロールの巻き出しから巻き芯までの帯電量分布が0.9kV以内且つ、幅方向の帯電量分布が0.6kV以下であるポリエステルフィルムロール。
(2)表面抵抗率が5×1012Ω/□以上2×1014Ω/□以下であるポリエステルフィルムを巻き取った(1)に記載のポリエステルフィルムロール。
(3)JIS-Z1707(2019年)に準じた方法での突刺し試験で測定した突刺し強度が0.5N/μm以上、2.5N/μm以下であるポリエステルフィルムを巻き取った(1)または(2)に記載のポリエステルフィルムロール。
(4)静摩擦係数が0.20以上、0.70以下であるポリエステルフィルムを巻き取った(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
(5)中心面平均粗さSRaが10nm以上50nm以下かつ中心面山高さSRpが300nm以上1000nm以下であるポリエステルフィルムを巻き取った(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
(6)厚さが20μm以上48μm以下であり、フィルム幅方向に対する配向主軸の傾き(配向角)が少なくともポリエステルフィルム幅方向5m幅にわたって5度以下であり、100℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率が0.5%以上2.5%以下、フィルム幅方向の熱収縮率が0.3%以上1.1%以下であり、偏光板離型用途に用いられるポリエステルフィルムを巻き取った(1)~(5)のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、近年の品質高度化の進展に対応した、キズ欠点の少ないポリエステルフィルムロールを得ることができる。また、これにより、これまで以上に後工程、特に偏光板離型フィルム用途の検査工程での歩留まりを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムロールの代表的な実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムにおけるポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことである。ポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、本発明を実施するためには、テレフタル酸を全ジカルボン酸構成成分に対して30mol%以上使用することが好ましい。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としてはマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0014】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3-ベンゼンジメタノール,1,4-ベンセンジメタノール、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、芳香族ジオール類等のジオール、上述のジオールが複数個連なったものなどが例としてあげられるがこれらに限定されない。
【0015】
本発明のポリエステルは公知の方法で製造することができる。具体的にはエステル化工程は単数または複数のエステル化反応槽を使用し、攪拌下に行うことができる。例えば、単一のエステル化反応槽を用いる場合、反応温度は通常240~280℃、大気圧に対する相対圧力は通常0~400kPa、反応時間は通常1~10時間である。エステル化工程で得られるエステル化反応生成物のエステル化反応率は通常95%以上である。
【0016】
エステル化反応後、溶融重縮合工程を経ることが好ましく、溶融重縮合工程は、通常、単数または複数の重縮合反応槽を使用した連続式または回分式で行なうことができ、常圧から漸次減圧して加熱攪拌下に生成するエチレングリコールを系外に留出させながら行なうことができる。例えば、単一の重縮合反応槽を使用した回分式の場合、反応温度は通常250~290℃、常圧から漸次減圧とした最終的な絶対圧力は、通常0.013~1.3kPa(0.1~10Torr)、反応時間は通常1~20時間である。また、ポリエステルフィルム成形時の静電印加キャスト性を良好とする観点から、重縮合反応時に硫黄元素やリン元素、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素を含有する化合物を添加することができる。
【0017】
ポリエステル樹脂の固有粘度は、重合の終点をポリマーの攪拌トルクで判定することができる。攪拌トルクが高い場合には、ポリマーの溶融粘度が高く、固有粘度(IV)も高くなる。目標とする固有粘度になるように重合装置の終点判定攪拌トルクを設定すればよい。本発明ではフィルムのIVが0.50dL/g以上0.70dL/g以下となるように終点判定の攪拌トルクを設定することが好ましい。この範囲とすることで、表面粗さの制御がしやすく、熱収縮特性や突刺し強度の観点から好ましい。得られた重合の終了したポリエステル樹脂は、重合装置下部からストランド状に吐出し、水冷しながらカッターによってカッティングすればよい。カッティングによってチップ形状が制御できるので、本発明において好ましい嵩密度を有するポリエステルチップを得ることができる。
【0018】
本発明において使用する重縮合反応触媒には、三酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコラート、二酸化ゲルマニウム、有機チタン化合物などの一種または二種以上を用いることができる。中でも得られるポリエステルの透明性および入手性の面から三酸化二アンチモンが好ましい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムロールの好ましい一様態は、ポリエステルフィルムロールの巻き出しから巻き芯までの帯電量分布が0.9kV以内且つ、幅方向の帯電量分布が0.6kV以下である。各帯電量分布は実施例に記載の方法で求めるものとする。上記とすることで、異物によるキズの発生を抑制することができる。巻き出しから巻き芯までの帯電量分布が0.9kVを超えるまたは、幅方向の帯電量分布が0.6kVを超える場合、前工程からの付着異物の持ち込み、浮遊異物やスリット中に発生した微細紛のフィルムやロールへの付着が増えることでキズの発生が増加する傾向にある。ポリエステルフィルムロールの帯電量分布を上記のように調整する方法としては、巻き取り時のコンタクトロールを調整する方法が好ましく挙げられる。より好ましくはコンタクトロールの材質や接触状態を調整することである。除電機でもポリエステルフィルムロールの帯電量を制御できるが、除電機では電圧をかけ除電針からプラス及びマイナスイオンを放出し除電対象にぶつけることで除電するが、除電針近傍と離れた位置で除電状態にムラを生じやすい傾向にある。一方コンタクトロールはフィルムに一様に接触させているため、帯電量分布の制御に好適である。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムは表面抵抗率が5×1012Ω/□以上2×1014Ω/□以下であることが好ましい、より好ましくは7×1012Ω/□以上9×1013Ω/□以下、さらに好ましくは9×1012Ω/□以上7×1013Ω/□以下である。2×1014Ω/□以下である場合には、摩擦による帯電が大きくなるほか、帯電減衰も起こりづらくなり工程中の異物が付着しやすくなりキズの増加につながる場合がある。5×1012Ω/□未満は、ポリエステル樹脂組成物単独での達成が困難であり、帯電防止剤や導電助剤等を含有もしくは表面塗工する必要がある。しかし、そのような加工を実施するとキズとは異なる欠陥を生じ、例えば帯電防止剤や導電助剤等を含有させる場合にはフィルム内層の異物として検出されるため好ましくない場合がある。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムのJIS-Z1707(2019年)に準じた方法での突刺し試験で測定した突刺し強度は0.5N/μm以上、2.5N/μm以下が好ましい。より好ましくは0.6N/μm以上、2.0N/μm以下、さらに好ましくは0.7N/μm以上、1.8N/μm以下である。突刺し強度を好適な範囲とすることでキズの発生を抑えることが可能である。0.5N/μm未満であるとフィルムのコシが弱く柔らかくなり、製造装置の各ロールに付着した異物によるキズが発生しやすくキズの形状も大きくなる傾向にある。2.5N/μm以下を超えると、フィルムのコシが強く硬くなることで異物による変形を押さえられ周期キズの発生は抑制されるものの、フィルムをカットする際の微紛が発生しやすくなりフィルムの端部の欠点を増大させてしまう場合がある。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムの静摩擦係数は0.20以上、0.70以下が好ましく、より好ましくは0.25以上0.65以下、さらに好ましくは0.30以上0.60以下である。静摩擦係数を好適な範囲とすることで、良好な巻き姿を維持し周期キズの発生の少ないポリエステルフィルムを得ることが可能である。一方、静摩擦係数が0.20未満の場合、、巻取中や保管・輸送中に巻きずれを生じやすくなり良好な巻き姿とすることが難しくなる。また、静摩擦係数が0.70を超えるとフィルム同士が密着してブロッキングしやすくなり、フィルム同士をはがした際に擦れ状の欠点を生じる場合がある。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは中心面平均粗さ(SRa)が10nm以上50nm以下、且つ、中心面山高さ(SRp)が300nm以上、1200nm以下の要件を満たすことが好ましいより好ましくは中心面平均粗さ(SRa)が20nm以上40nm以下、且つ、中心面山高さ(SRp)が400nm以上、1000nm以下である。ポリエステルフィルムの中心面平均粗さ(SRa)が10nm未満または、中心面山高さが300nm未満の場合、フィルムの滑り性が極端に悪くなりフィルム製膜時の擦れ状のキズが発生する場合がある。一方、中心面平均粗さ(SRa)が50nmよりも大きいまたは、中心面山高さが1200nmよりも大きい場合には、ポリエステルフィルムを巻き取った際に表面形状の凹凸が転写してしまい、フィルム単独の場合以上に表面粗さを悪化させる場合がある。
【0024】
ポリエステルフィルムの厚みは10μm以上、50μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以上、45μm以下、さらに好ましくは30μm以上、40μm以下である。膜厚が10μm未満の場合、製膜時に破れやすくなり生産性が極端に低くなる場合がある。またフィルムのコシがなくなりフィルムに張力をかけた際にたわみやすくなり、離型フィルムの離型層コート時の塗工適正が損なわれる場合がある。一方、50μmよりも厚くなる場合には、使用原料量の増加からポリエステルフィルムの価格が上がり、離型用途フィルム向けには適さない場合がある。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムの幅方向に対する配向主軸の傾き(配向角)は少なくともポリエステルフィルム幅方向5m幅にわたって5.0度以下であることが好ましい。より好ましくは4.3度以下、さらに好ましくは3.8度以下である。フィルム幅方向に対する配向主軸の傾き(配向角)が少なくとも5mにわたって5.0度以下とすることで、特に偏光板検査時の離型フィルム由来のノイズを無くし、生産性向上に寄与することができる。ここでいう配向角は、全方位にわたってフィルムに超音波パルスを透過させ、その伝搬速度を測定することによって配向性を評価して配向主軸の傾き(配向角)を測定する。一般的にポリエステルフィルムの配向角は、その製造方法に起因して幅方向における中心より端部に向かって直線的に上昇する特性を有する。測定において、フィルム幅方向の両端部の内、配向角のいずれか大きいほうの値を採ることとする。上記態様を満たすことによりフィルム幅方向全体の配向角が前述する値以下であることを担保することができる。配向角が5.0度を超える場合には、偏光板を検査するクロスニコル法において偏光板から光漏れを生じ、ノイズとして検査の障害となる場合がある。
【0026】
しかしながら、配向角を低減し、偏光板を検査するクロスニコル法における光漏れを低 減しても、フィルム中に異物や表面のキズが存在すると、それらが輝点欠点として検出さ れてしまい偏光板の検査の外乱となってしまう。従って、検査性に優れた偏光板離型用ポリエステルフィルムを提供するためには配向角を低減するだけでは十分ではなくフィルム中の異物や表面のキズに起因する輝点欠点を低減することが重要である。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムにおいて100℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率が0.7%以上2.5%以下且つ、フィルム幅方向の熱収縮率が0.4%以上1.1%以下であることが好ましい。より好ましくは長手方向の熱収縮率が0.8%以上2.2%以下且つ、幅方向の熱収縮率が0.5%以上0.9%以下、さらに好ましくは長手方向の熱収縮率が0.85%以上2.0%以下且つ、幅方向の熱収縮率が0.55%以上0.7%以下である。熱収縮率が前記上限を超える場合には、離型層コート並びに偏光板製造時の熱寸法安定性が悪化する場合がある。熱収縮率が前記下限を下回る場合には、突刺し強度や配向角を好適な範囲とすることが困難となりキズの少ないポリエステルフィルムを得られない場合がある。
【0028】
次に本発明のポリエステルフィルム及びフィルムロールの製造方法について説明するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0029】
(工程1)テレフタル酸あるいはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを原料とし、エステル化反応やエステル交換反応などの反応によりBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)に代表される低重合体を得た後、テレフタル酸およびエチレングリコール、並びに硫黄元素やリン元素、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素を含有する化合物を添加し、重縮合反応によってポリエステル樹脂を得る工程。
【0030】
(工程2)ポリエステル樹脂をシート状に溶融押出し、前記シート状に溶融押出したポリエステル樹脂を18~50℃のキャスティングロール上で1~15秒接触させて冷却固化せしめて厚み180~1400μmの未延伸ポリエステルフィルムを得る工程。
【0031】
(工程3)(工程2)で得られた未延伸ポリエステルフィルムを、長手方向に延伸倍率が2.5~5.0倍で延伸した後、冷却をして一軸延伸ポリエステルフィルムを得る工程。
【0032】
(工程4)(工程3)で得られた一軸延伸ポリエステルフィルムを、幅方向に延伸倍率が3.0~6.0倍、かつ、幅方向の延伸倍率が長手方向の延伸倍率よりも高い延伸倍率で延伸した後、冷却をして、二軸延伸ポリエステルフィルムを得る工程。
【0033】
(工程5)前記二軸延伸ポリエステルフィルムを、熱処理温度が180~230℃にて熱処理して、二軸配向ポリエステルフィルムを得る工程。
【0034】
(工程6)工程5で得られたポリエステルフィルムを巻取り、中間フィルムロールを得る工程。
(工程7)工程6で得られた中間フィルムロールを適切な幅にスリットし、ポリエステルフィルムロールを得る工程。
【0035】
以下にそれぞれの工程について詳しく説明する。
(工程1)ポリエステル樹脂の製造
250℃にて溶解したBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコールからなるスラリーを徐々に添加し、水を留出させながらエステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、得られたエステル化反応物を留出装置の付いた重合装置に溶融状態で仕込む。
【0036】
三酸化二アンチモンと、硫黄元素やリン元素を含有する化合物とを、エチレングリコール溶液として添加し、引き続いて重合反応槽内を除々に減圧にし、35分で0.13kPa以下とし、それと同時に除々に昇温して279℃とし、重合反応を実施してポリエステル樹脂を得る。
【0037】
(工程2)未延伸フィルムの作成
ポリエステル樹脂を、必要に応じて乾燥し、押出機に供給し溶融押出する。本発明のポリエステルフィルム並びにフィルムロールの製造における押出機は、1軸または2軸の押出機を用いることができる。また、ペレットの乾燥工程を省くために、押出機に真空引きラインを設けた、ベント式押出機を用いることもできる。また、多層フィルムとする場合における最も押出量が多くなる中間層には、ペレットを溶融する機能と、溶融したペレットを一定温度に保つ機能をそれぞれの押出機で分担する、いわゆるタンデム押出機を用いることができる。フィルムの固有粘度を上述の範囲とするためには、押出機に供給するポリエステル樹脂の平均固有粘度は0.55~0.64dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.55~0.62dl/gである。
【0038】
続いて押出機により溶融押出されたポリエステル樹脂をフィルターにより濾過する。小さな異物もフィルム欠点となるため、このフィルターには例えば5μm以上の異物を95%以上捕集する高精度のものを用いることが有効である。溶融したポリエステル樹脂は熱分解や、加水分解をすることで、その分子鎖が切れ、固有粘度が低下する。溶融押出を行う際のポリエステル樹脂の温度および水分率は、安定して溶融押出を行うためには、その温度はポリエステル樹脂の融点+5~+40℃、水分率は300ppm以下であることが好ましい。
【0039】
続いてT型口金等を用いてシート状に成形し、シート状に成形されたポリエステル樹脂をキャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを得る。3層積層フィルムの場合は、3台の押出機、3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて3層に積層し、口金からシートを押し出す。この場合、背圧の安定化および厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置する方法は有効である。この際、キャスティングロールの温度は18~50℃、シート状に成形されたポリエステル樹脂がキャスティングロールに接触する冷却時間は1~15秒であることが好ましい。キャスティングロールの温度が18℃未満であると、キャスティングドラム上に結露が生じやすくなり、製膜性が悪化する場合がある。キャスティングロールの温度が50℃を超えると、冷却速度が遅くなることで未延伸フィルム中に微結晶を生じ、その後の延伸工程にて結晶配向が加速し配向角を悪化させてしまう。同様に、キャスティングロールに接触して冷却される時間が1秒未満であると、冷却時間が不足することにより冷却ムラや延伸ムラの発生につながり、膜厚や静摩擦係数、表面粗さを上述の範囲とすることが困難となる。キャスティングロールによる冷却時間は、キャスティングロールを大径化したり、ラインスピードを下げることで長くしたりすることができるが、設備スペースや生産性を鑑みるとその上限は15秒である。より好ましくは、キャスティングロールの温度は20~30℃、シート状に成形されたポリエステル樹脂がキャスティングロールに接触する冷却時間は3~12秒である。
【0040】
また、工程2で得られる未延伸フィルムの厚みは180~1400μmであることが好ましい。未延伸フィルムの厚みが180μm未満であると、配向角や熱収縮率を所望の範囲となるように延伸するためには膜厚みが十分でなく、延伸中に膜破れなどが起きる場合がある。一方、未延伸フィルムの厚みが1400μmを超えると、ポリエステル樹脂シートをキャスティングロール上で冷却固化する際、厚み方向で冷却ムラが発生を発生してしまい均一なポリエステルフィルムを得ることが困難となる場合がある。また、二軸配向ポリエステルフィルムの最終厚みが、偏光板離型用途に適した範囲から外れる場合がある。
【0041】
ポリエステルに不活性粒子を含有せしめる方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに不活性粒子を所定割合にてスラリーの形で分散せしめ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、粗大突起の発生を抑制でき好ましい。また粒子の水スラリーを直接、所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も本発明の製造に有効である。
【0042】
(工程3)一軸延伸フィルムの作成
前記(工程2)で得られた未延伸フィルムを、長手方向に延伸倍率が2.5~5.0倍で延伸、冷却することによって、一軸延伸ポリエステルフィルムを得る。長手方向への延伸は、90~130℃の延伸温度で1段階的に、もしくは多段階的に分けて延伸することが好ましい。ボーイング現象およびフィルム長手方向の厚みムラを抑える観点から、延伸温度は100~120℃、延伸倍率は3~4倍がより好ましく、延伸ムラおよびキズを防止する観点から延伸は2段階以上に分けて行うことが好ましい。延伸温度及び延伸倍率が前述の範囲を超える場合には突刺し強度、熱収縮率を上述の範囲とすることが困難となる。また、長手方向延伸により幅方向の収縮が生じるが、この延伸工程から冷却工程におけるフィルムの幅縮みは15%以下であることが好ましい。フィルムの幅縮みが15%を超えるとフィルムの蛇行や幅変動が生じる、またはフィルムの幅方向の面配向の均一性が悪化するため配向角を上述の範囲とすることが困難になる場合がある。フィルムの幅縮みは、長手方向延伸を行う前のフィルム端部の厚みプロファイルを調整したり、延伸張力をニップロールなどで調整したりすることで制御することができる。
【0043】
なお、ここで示したフィルムの幅縮みは、長手方向延伸工程直前のフィルム幅と延伸・冷却を終えた後のフィルム幅との差を長手方向延伸工程直前のフィルム幅で除することで算出される。(工程3)における冷却工程におけるフィルム温度は25~45℃であると、次の(工程行程3)における幅方向の延伸を安定して行う上で好ましい。
(工程4)二軸延伸フィルムの作成
前記(工程3)で得られた一軸延伸ポリエステルフィルムを、幅方向に延伸倍率が3.0~6.0倍、かつ、幅方向の延伸倍率が長手方向の延伸倍率よりも高い延伸倍率で延伸する。幅方向の延伸は、90~130℃の延伸温度で延伸することが好ましい。延伸温度が90℃よりも低く、延伸倍率が6.0倍よりも高くなると配向角は低減し突刺し強度は増大する傾向にあるが、フィルムが破断しやすくなる他、熱収縮を悪化させる場合がある。延伸温度は100~120℃、延伸倍率は4.0~5.0倍であるとより好ましい。また、配向角を低くするためには、幅方向の延伸倍率が、長手方向の延伸倍率よりも高いことが好ましい。幅方向の延伸倍率より長手方向延伸倍率を高くすると、フィルム内の分子配向が長手方向側に傾くため、配向角バラツキを抑制することが困難となる。
【0044】
本発明のポリエステルフィルムを製造するに際し、長手方向の延伸の後に幅方向延伸を行う。幅方向延伸後に長手方向延伸を行うと、最初の幅方向延伸後に分子が主に幅方向に強く配向するが、その後に長手方向延伸を行うと長手方向にも配向してしまい、配向角が高くなってしまうためである。
【0045】
続いて幅方向に延伸したフィルムをフィルム温度25~45℃、フィルムの幅縮み速度が0.1~20%/minにて冷却することによって、冷却された二軸延伸ポリエステルフィルムを得る。冷却工程におけるフィルム温度は25~45℃とすることが幅縮みによる幅方向の配向緩和を抑制し、ボーイング現象を抑制できることに加え、熱収縮率の低減にも効果があるため好ましい。より好ましくは、30~40℃である。冷却工程におけるフィルム温度が45℃より高いと、フィルム幅縮みによる張力が影響して製膜性が悪くなり、また幅方向の配向緩和を抑制する効果が十分に出ない場合がある。冷却工程におけるフィルム温度が20℃未満に冷却することは、生産性が悪くなる場合がある。
【0046】
ポリエステルフィルムの冷却方法は、熱処理を行うテンターによる空冷方法、熱処理領域の上下にアルミ板などの遮蔽板で熱風を遮断する空冷方法、ロールによる冷却方法等が挙げられる。熱処理を行うテンターによる空冷方法では各ゾーンが長手方向に全てつながっているため、随伴気流など高温空気の自由な流れによりフィルム上下や幅方向に温度差が発生し、フィルム温度を十分冷却できない場合がある。その場合は、圧縮空気などを送り込んで積極的に冷却することで対応することもできる。
【0047】
また、ロールによる冷却方法では、使用するロール本数や設定温度は限られるものではないが、ロール本数を複数本用いて冷却することが好ましい。ロールによる冷却方法においてフィルム温度を上記の範囲とするためには、ロール温度は20~45℃であることが好ましく、さらに好ましくは30~40℃である。また、ロールによる冷却方法ではフィルムをニップロールで冷却ロールに荷重をかけて密着させると、安定して冷却が行えるため好ましい。
【0048】
また、この冷却工程において、フィルムの幅縮み速度は0.1~20%/minであることが好ましい。幅縮み速度が0.1%/min未満では、フィルムの幅縮みが抑制されたことによるフィルム張力が影響し、製膜性が悪くなり、フィルム破れ等の原因となる場合がある。また、幅縮み速度が20%/minより速いと、フィルムの幅縮みによる配向緩和を抑制する効果は少なく、ボーイング現象の抑制が不十分となる場合がある。フィルムの幅縮み速度は、0.2~18%/minとすることがさらに好ましい。幅縮み速度を制御する方法としては、冷却工程長さ、製膜速度から幅縮みの速度を設定し、様々な方法で実現することができる。具体的にはテンターにおける空冷方法においては両端をクリップで把持し、レール幅を調整することで幅縮み速度を所望の値にすることが出来る。
【0049】
なお、ここで示した冷却工程におけるフィルムの幅縮み速度は、幅方向延伸工程を経た後であって冷却工程に入る直前のフィルム幅W1(mm)、冷却工程を経た後のフィルム幅W2(mm)、冷却工程の通過時間をT1(min)としたときに式(1)にて算出されるものである。
【0050】
フィルムの幅縮み速度 =(W1-W2)/W1 × 1/T1 式(1)
また、(工程3)の冷却工程においてフィルムは温度が低下した状態である程度の時間を経ることが好ましい。この理由としては、以下のように推測している。前述したように冷却工程では幅縮みをする際に配向緩和が起こっていると考えられるが、フィルムを冷却することによって配向緩和を止めるには一定の時間が必要であると推測される。そのため、冷却工程の通過時間が不十分であると配向緩和を抑制できないため、ボーイング現象を抑制する効果が少ないと推測している。本発明のポリエステルフィルムを製造するに際して、冷却工程の通過時間は、10秒間以上が好ましく、更に好ましくは15秒間以上である。冷却工程の通過時間の上限は特に限定されないが、60秒間以下であると生産性が良好となるため好ましい。
【0051】
二軸延伸フィルムの製造は前述の逐次二軸延伸に限らず同時二軸延伸によって製造することもできる。特に、同時二軸延伸においてはロールによる延伸を伴わないため、フィルム表面の局所的な加熱ムラ及び冷却ムラを抑制し、均一な品質、特に熱収のバラツキを抑制したフィルムが得られると共に、延伸時にロール延伸に伴うフィルムとロールとの接触場所での速度差、ロールの微小傷の転写などによるキズの発生を抑制でき好ましい。
【0052】
(工程5)二軸延伸フィルムの熱処理
前記(工程4)で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムを、熱処理することによって、二軸配向ポリエステルフィルムを得る。熱処理温度は180~230℃が好ましく、さらに好ましくは180~215℃、とくに好ましくは185~210℃である。熱処理温度が180℃未満では熱処理が不十分となり、150℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率を2.5~7.0%、フィルム幅方向の熱収縮率を2.5~8.0%の範囲に収めることが困難となる場合がある。熱処理温度が230℃より高いと、ボーイングが発生しやすくなり配向角を上述の範囲に制御することが困難となるため好ましくない場合がある。
【0053】
また、上記熱処理においては、必要に応じて弛緩処理を行ってもよい。弛緩処理は、幅方向・長手方向いずれの方向について行っても良く、幅方向・長手方向を同時に行っても、それぞれ別に行ってもよい。弛緩率は、フィルムの全幅に対して好ましくは1~20%、さらに好ましくは1~15%であると、熱寸法安定性の優れたフィルムを得るのに有効である。
【0054】
(工程6)中間フィルムロールを得る工程
工程5で得られたポリエステルフィルムは巻取装置を用いて巻き取られ中間フィルムロールとなる。
【0055】
(工程7)ポリエステルフィルムロールを得る工程
工程6で得られた中間フィルムロールをスリット工程により適切な幅・長さにスリットして巻き取り、本発明の本発明のポリエステルフィルムロールが得られる。硬度68~82、摩擦係数0.1~0.5のコンタクトロールをフィルム全幅にわたって適度に接触させながら巻き取ることが好ましい。適度に接触させることでフィルムの摩擦帯電を抑えつつ、エア噛みなく良好な巻き姿のフィルムロールを得ることができる。加えて、摩擦帯電を抑えられることに起因し、本願発明のフィルムロール内の帯電量分布を適切なものとすることが可能となる。コンタクトロールの面圧が高すぎると摩擦帯電が高くなるほか、フィルム同士のブロッキングを起こしやすくなる。また、面圧が低いと随伴エアを除去できなくなるなどの影響で巻き姿が悪くなる。前述の理由により、好ましい面圧の範囲は5.0~15.0kg/mである。コンタクトロールの硬度が低いとコンタクトロールが変形し良好な巻き姿を得られなくなり、一方で硬度が高いと随伴エアを抜くための摩擦が得られなくなる場合がある。また、摩擦係数が低いと滑ることでフィルムとの速度差を生じ擦れ状のキズ発生につながり、摩擦係数が高いと摩擦帯電が大きくなりフィルムロール内の帯電量の分布が悪化し、キズが増加してしまう場合がある。
【実施例0056】
実施例及び比較例における特性値の測定方法及び評価方法は次の通りである。
【0057】
(1)ポリエステルフィルムロールの幅方向の帯電量分布
シシド静電気製“スタチロン”(登録商標)DZ3を使用しフィルムロールの表面電位を測定した。フィルムロールの幅方向に5点の表面電位を測定し、最大値と最小値の差を算出した。フィルムロールを切開しながら表層から巻き芯までフィルム長手方向の10の位置で同様の計測をし、各位置における表面電位の幅方向5点の最大値と最小値の差を求め、そのうちの最大値を幅方向の帯電量分布とした。
【0058】
(2)ポリエステルフィルムロールの巻き出しから巻き芯までの帯電量分布
上述の幅方向の帯電量分布の測定データを用いて、フィルム長手方向の各位置において幅方向の5点の測定データの平均値を算出し、フィルム長手方向の10の位置における各平均値の最大値と最小値の差を巻き出しから巻き芯までの帯電量分布とした。
【0059】
(3)突刺し強度
JIS-Z1707(2019年)に準じた方法で突刺し試験を実施した。ポリエステルフィルムを直径40mmのリングに、フィルムをたるみのないように、直径が1mm、先端Rが0.5mmの半円形の針を使用し、円の中央を50mm/分の速度で突刺し、針が貫通するときの加重(N)を突刺し強度とし、フィルムの厚み(μm)で割り返した。
【0060】
(4)表面抵抗率
23℃×65%RH環境下にて、表面抵抗測定機(日東精工製 ハイレスターUX MCP-HT800 検出限界上限値1014Ω)を用い、ポリエステルフィルム表面の任意5点の表面抵抗率を測定し、5点の平均値をポリエステルフィルムの表面抵抗値とした。
【0061】
(5)静摩擦係数
JIS-C2151(2006年)に準拠して、東レ(株)製スリップテスターを用い以下の条件にて、本発明のポリエステルフィルム同士の静摩擦係数(μs)を測定した。 測定は3回行い平均値を静摩擦係数(μs)とした。
試料サイズ : 75mm(幅)×105mm(長さ)
すべり速度 : 150mm/分
荷重 : 200g
測定環境 : 22℃±2℃ 65RH%±5RH%(測定試料はこの雰囲気下で24 時間エージングする。)
また、静摩擦係数は、以下の計算によって求めた。
「静摩擦係数」=「試料がすべり始める時の抵抗値」/「荷重」
(6)表面粗さSRa、SRp
三次元微細表面形状測定器(小坂研究所製ET-350K)を用いて測定し、得られた表面のプロファイル曲線より、JIS-B0601(2001年)に準じて3次元的に拡張した概念である、中心面平均粗さSRa値および中心面山高さSRpを求めた。測定条件は下記のとおりである。
X方向測定長さ:0.5mm、X方向送り速度:0.1mm/秒
Y方向送りピッチ:5μm、Y方向ライン数:40本
カットオフ:0.25mm
触針圧:0.02mN
高さ(Z方向)拡大倍率:5万倍。
【0062】
(7)厚さ
ポリエステルフィルムを全幅にわたって採取し、これを10枚重ね合わせてミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定し、10で割って1枚あたりの厚みを出した。サンプリング箇所は幅方向に均等に10カ所とし、この平均値をとって平均厚みとした。
【0063】
(8)配向角
野村商事製配向性測定機(SST-4000)を用いて測定をした。試料となる二軸延伸ポリエステルフィルムの幅に対して配向主軸の傾きが実質的に最も大きくなる幅方向両端部からA4サイズのサンプルを切り出した。切り出したA4サイズのサンプルの中点(105mm)を測定し、配向主軸がフィルム幅方向と平行である時を配向角0度であり、フィルム幅方向に対して時計回りの傾きを+、反時計回りを-とし、その絶対値の大きい方を測定結果とした。
【0064】
(9)熱収縮
フィルム表面に、幅10mm、測定長約100mmとなるように2本のラインを引き、こ の2本のライン間の距離を23℃で測定しこれをL0とする。このフィルムサンプルを1 00℃のオーブン中に30分間、1.5gの荷重下で放置した後、再び2本のライン間の 距離を23℃で測定しこれをL1とし、下式により熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)={(L0-L1)/L0}×100
フィルムの長手方法および幅方向についてそれぞれ3カ所の測定を行い、平均値を求めた。
【0065】
(10)周期キズ発生個数の測定方法
周期キズはクロスニコル検査により観測される輝点欠点を用いて測定した。輝点欠点とは、クロスニコル検査において検知されるフィルム中の欠陥による光漏れのことを指し、輝点欠点を評価する機器として、照明手段としてLEDライト(アトー製 HBLF-WSL1500、HBLF-WSL700)および角度調整が可能な第1の偏光板が設けられ、受光手段として分解能50μmのCCDカメラ(ヒューテック製 GMFMB3B80)と角度調整が可能な第2の偏光板を組み合わせて複数配置されているクロスニコル検査器を使用した。クロスニコル検査器のカメラの検出感度を変えずにフィルム100mを検査した。検出された輝点欠点の中で、長手方向に連続3打点以上し、且つ、n+1打点目を基準にその前後(n打点目、n+2打点目)が長手方向に±5mm以内の一定周期を持ち、且つ、隣り合うキズ間の距離のばらつきが3mm以内、且つ、ポリエステルフィルム幅方向の位置のばらつきが10mm以内であるものを一つの周期キズとして幅方向の周期キズ個数をカウントし、以下式にて発生個数を求めた。
(周期キズ発生個数)=(幅方向の周期キズ発生個数)÷(検査面積)
(実施例1)
250℃にて溶解したBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対して1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、水を留出させながらエステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、得られたエステル化反応物105質量部(PET(ポリエチレンテレフタレート)100質量部相当)を留出装置の付いた重合装置に溶融状態で仕込んだ。
【0066】
三酸化二アンチモンを0.0084質量部と、p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを0.0175質量部とを、エチレングリコール溶液として添加し、引き続いて重合反応槽内を除々に減圧にし、35分で0.13kPa以下とし、それと同時に除々に昇温して279℃とし、ポリエステル樹脂組成物の固有粘度が0.625dL/gとなるまで重合反応を実施した。その後、窒素ガスによって重縮合反応槽を常圧に戻し、口金より冷水中にストランド状に吐出し、押し出しカッターによって円柱状にペレット化してポリエステル樹脂組成物を得た。
【0067】
さらに別に、モノマーを吸着させる方法によって得た体積平均粒子径1.0μm、体積形状係数f=0.51のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子の水スラリーを、上記のポリエステル樹脂組成物ペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒子径1.0μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステル樹脂組成物99質量部に対し1質量部含有するマスターペレットを得た。
【0068】
なお、体積形状係数fとは次式で表される。
f=V/Dm3
ここでVは粒子体積(μm3)、Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6をとる。
【0069】
これらのポリエステルをそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥し、水分率を100ppmとした後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して、5μm以上の捕集効率95%の高精度フィルターで濾過した後、矩形の3層用合流ブロックで合流積層し、ポリエステル層B/ポリエステル層A/ポリエステル層B’からなる3層積層とした。ポリエステル層Bおよびポリエステル層B’へは上記マスターペレットを使用し、ポリエステル層Aには上記ポリエステル樹脂組成物を使用した。
【0070】
その後、285℃に保ったスリットダイを介し静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングロール上で7秒冷却固化し、厚み570μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、まず103℃に加熱したロールとラジエーションヒーターによって長手方向に3.4倍延伸した。このときの幅縮み量は14%であった。続いてテンターにて幅方向に110℃で4.4倍に延伸した。その後、冷却工程の幅縮み速度18%/minでフィルム温度が35℃になるよう冷却した。この冷却工程ではロール方式を採用し、ロールの温度は30℃とし、冷却工程の通過時間は15秒とした。次いで195℃で熱処理を行って、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを巻き取って中間製品ロールを得た。得られた中間製品ロールをスリッターにてスリットし、厚さ38μm、フィルムの積層厚さがポリエステル層B/ポリエステル層A/ポリエステル層B’=2.0μm/34μm/2.0μmフィルム幅1300mm、長手方向の長さが6200mのポリエステルフィルムロールを得た。ポリエステルフィルムロールを作製する際には、硬度が73、静摩擦係数が0.23のコンタクトロールを用いて面圧を7.5kg/mとして巻き取った。表1にその他実施例、比較例と合わせ評価結果を記載する。
【0071】
(実施例2、比較例1)
コンタクトロールの面圧を変更することで、帯電量を制御したフィルムロールを得た。
【0072】
(実施例3、比較例2)
実施例3では、硬度70、摩擦係数を0.28としたコンタクトロールを用いて巻き取ったフィルムロールを得た。比較例2では、コンタクトロールの導電性を上げることでフィルムロールの帯電量の制御を狙い表面に導電層を設けたコンタクトロールを用いて巻き取ったフィルムロールを得た。導電層は帯電物質との電子のやり取りを行うことで除電をするが、本発明のポリエステルフィルムはほとんどの場合摩擦帯電により物質内で電荷のばらつきを生じることで帯電すると考えられる。また、絶縁体のポリエステルフィルムは電気が非常に流れにくく導電層を接触させるだけでは除電が不十分であった結果、フィルムロールの帯電量分布が大きくなったと考えられる。
【0073】
(実施例4、5、比較例3)
キャスティングロールの温度を変更することで、表面抵抗率を変化させたフィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。
【0074】
(実施例6、7)
目的の突刺し強度となるよう、延伸倍率を変化させたフィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。
【0075】
(実施例8、9)
熱処理温度を変更し、静摩擦係数の異なるフィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。
【0076】
【0077】