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特開2024-61761光学フィルム切削用エンドミルおよび該エンドミルを用いた光学フィルムの製造方法
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  • 特開-光学フィルム切削用エンドミルおよび該エンドミルを用いた光学フィルムの製造方法 図1
  • 特開-光学フィルム切削用エンドミルおよび該エンドミルを用いた光学フィルムの製造方法 図2
  • 特開-光学フィルム切削用エンドミルおよび該エンドミルを用いた光学フィルムの製造方法 図3
  • 特開-光学フィルム切削用エンドミルおよび該エンドミルを用いた光学フィルムの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061761
(43)【公開日】2024-05-08
(54)【発明の名称】光学フィルム切削用エンドミルおよび該エンドミルを用いた光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20240426BHJP
   B23C 3/00 20060101ALI20240426BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
B23C3/00
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032948
(22)【出願日】2024-03-05
(62)【分割の表示】P 2019080282の分割
【原出願日】2019-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018117679
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 裕太
(72)【発明者】
【氏名】仲井 宏太
(72)【発明者】
【氏名】伊▲崎▼ 章典
(72)【発明者】
【氏名】麓 弘明
(72)【発明者】
【氏名】中市 誠
(57)【要約】
【課題】光学フィルムの切削加工を行う場合に、クラック、イエローバンド、糊欠け、およびケバを抑制し得るエンドミルを提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による光学フィルム切削用エンドミルは、回転軸を中心として回転する本体と、本体から突出し最外径として構成される切削刃と、を有し、切削刃のねじれ角が0°であり、すくい角が5°~45°である。本発明の光学フィルムの製造方法は、上記の光学フィルム切削用エンドミルを用いて光学フィルムの端面を切削加工することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心として回転する本体と、該本体から突出し最外径として構成される切削刃と、を有し、
該切削刃のねじれ角が0°であり、すくい角が5°~45°である、
光学フィルム切削用エンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム切削用エンドミルおよび該エンドミルを用いた光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム(例えば、偏光板)の端面を切削加工することが知られている。このような切削加工においては、切削刃が回転軸の方向に(例えば、回転軸と平行に)延在するように構成された切削工具が用いられる場合がある(例えば、特許文献1)。しかし、このような切削工具を用いた切削加工によれば、(i)光学フィルムにクラックが生じやすい、(ii)摩擦により変色しやすい(いわゆるイエローバンドが生じやすい)、(iii)光学フィルムに接着層(例えば、接着剤層、粘着剤層)が存在する場合、糊欠け(接着層の接着剤または粘着剤が切削刃に掻き取られて欠落すること)が生じやすい、および(iv)ケバ(削り残し)が生じやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-72453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、光学フィルムの切削加工を行う場合に、クラック、イエローバンド、糊欠けおよびケバを抑制し得るエンドミルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光学フィルム切削用エンドミルは、回転軸を中心として回転する本体と、該本体から突出し最外径として構成される切削刃と、を有し、該切削刃のねじれ角が0°であり、すくい角が5°~45°である。
1つの実施形態においては、上記光学フィルム切削用エンドミルは、上記切削刃の逃げ角が5°~30°である。
1つの実施形態においては、上記光学フィルム切削用エンドミルは、上記切削刃の刃先角が45°以上である。別の実施形態においては、上記光学フィルム切削用エンドミルは、上記刃先角が55°以上である。別の実施形態においては、上記光学フィルム切削用エンドミルは、上記刃先角が65°以下である。
1つの実施形態においては、上記光学フィルム切削用エンドミルは、外径が10mm未満である。
1つの実施形態においては、上記切削刃は焼結ダイヤモンドを含む。
1つの実施形態においては、上記光学フィルム切削用エンドミルは、切削する光学フィルムが偏光子と粘着剤層と表面保護フィルムとセパレーターとを含み、セパレーターの剥離力は表面保護フィルムの剥離力より小さい。
本発明の別の局面によれば、光学フィルムの製造方法が提供される。この製造方法は、上記の光学フィルム切削用エンドミルを用いて光学フィルムの端面を切削加工することを含む。
1つの実施形態においては、上記光学フィルムは偏光板を含む。
1つの実施形態においては、上記偏光板は、偏光子と粘着剤層と表面保護フィルムとセパレーターとを含み、セパレーターの剥離力が表面保護フィルムの剥離力より小さい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、切削刃のねじれ角が0°の光学フィルム切削用エンドミルにおいて、切削刃のすくい角を所定範囲とすることにより、光学フィルムの切削加工を行う場合に、クラック、イエローバンド、糊欠けおよびケバを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(a)は、本発明の1つの実施形態による光学フィルム切削用エンドミルの構造を説明するための軸方向から見た概略平面図であり;図1(b)は、図1(a)の光学フィルム切削用エンドミルの概略斜視図である。
図2】本発明の実施形態による光学フィルム切削用エンドミルを用いる光学フィルムの製造方法により得られ得る非直線加工された光学フィルムの形状の一例を示す概略平面図である。
図3】本発明の実施形態による光学フィルム切削用エンドミルを用いた光学フィルムの切削加工を説明するための概略斜視図である。
図4図4(a)~図4(e)は、本発明の実施形態による光学フィルム切削用エンドミルを用いた光学フィルムの切削加工の一例である非直線的な切削加工の一連の手順を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、見やすくするために図面は模式的に表されており、さらに、図面における長さ、幅、厚み等の比率、ならびに角度等は、実際とは異なっている。
【0009】
A.光学フィルム切削用エンドミル
図1(a)は、本発明の1つの実施形態による光学フィルム切削用エンドミル(以下、単にエンドミルと称する)の構造を説明するための軸方向から見た概略平面図であり;図1(b)は、図1(a)のエンドミルの概略斜視図である。図示例のエンドミル100は、鉛直方向(ワーク200の積層方向、ワークは光学フィルムを積層した切削対象物であり、詳細については後述する)に延びる回転軸22を中心として回転する本体20と、本体20から突出し最外径として構成される切削刃10と、を有する。エンドミルは、代表的にはストレートエンドミルである。さらに、本発明の実施形態においては、切削刃10のねじれ角は0°である。このような構成であれば、光学フィルムの切削を良好に行うことができる。より詳細には、ねじれ角を有する切削刃を用いて切削(例えば、異形加工または非直線加工)する場合、切削面が横方向からみてテーパー状となる場合があるところ、ねじれ角が0°の切削刃を用いることにより、切削面がテーパー状となることを抑制することができる。特に、小径のエンドミルを用いて光学フィルムに微細な非直線加工(異形加工)を行う場合に顕著な効果が得られ得る。なお、本明細書において「ねじれ角が0°」とは、刃先10aが回転軸22と実質的に平行な方向に延びていること、言い換えれば、刃が回転軸に対してねじれていないことをいう。なお、「0°」は実質的に0°であるという意味であり、加工誤差等によりわずかな角度ねじれている場合も包含する。
【0010】
切削刃10は、本体20と一体で構成されてもよく(すなわち、エンドミルが無垢材から削り出されて構成されてもよく)、別体として本体20に取り付けられてもよい。切削刃10は、代表的には、刃先10aとすくい面10bと逃がし面10cとを含む。すくい面10bと本体20とによりポケット30が規定され得る。逃がし面10cの平面視形状は、図示例のように屈曲状であってもよく(2つの逃がし面を有していてもよく)、直線状であってもよく、滑らかな曲線状であってもよい。逃がし面10cは、好ましくは、粗面化処理されている。粗面化処理としては、任意の適切な処理が採用され得る。代表例としては、ブラスト処理が挙げられる。逃がし面に粗面化処理を施すことにより、光学フィルムが接着層(例えば、接着剤層、粘着剤層)を含む場合に切削刃への接着剤または粘着剤の付着が抑制され、結果として、ブロッキングが抑制され得る。本明細書において「ブロッキング」とは、光学フィルムが接着層を含む場合にワークにおける光学フィルム同士が端面の接着剤または粘着剤で接着する現象をいい、端面に付着する接着剤または粘着剤の削りカスが光学フィルム同士の接着に寄与することとなる。
【0011】
本発明の実施形態においては、切削刃10のすくい角αは、5°~45°であり、好ましくは5°~30°である。すくい角αがこのような範囲であれば、刃の鋭利さを担保でき、切削加工時の抵抗を適切に抑制し、かつ、ポケット30を適切な大きさとして切削クズを良好に排出することができる。その結果、光学フィルムのクラックおよびイエローバンドを良好に抑制することができ、さらに、光学フィルムが接着層を有する場合には糊欠けを良好に抑制することができる。なお、すくい角αが大きすぎると、特に切削刃を別体として本体に取り付ける場合に切削刃(最終的には、エンドミル)の作製自体が困難となる場合がある。切削刃10の逃げ角βは、好ましくは5°~30°であり、より好ましくは5°~25°である。逃げ角βがこのような範囲であれば、逃がし面10cとワーク200との接触を防止して、切削加工時の抵抗を適切に抑制することができる。さらに、刃先角γが過度に小さくなることを防止することができる。その結果、光学フィルムのクラックおよびイエローバンドを良好に抑制することができ、さらに、光学フィルムが接着層を有する場合には糊欠けを良好に抑制することができる。加えて、切削刃の寿命を増大させることができる。切削刃10の刃先角γは、好ましくは45°以上であり、より好ましくは55°以上である。刃先角γがこのような範囲であれば、切削刃の寿命を増大させることができる。刃先角γは、すくい角αおよび逃げ角βを考慮すると、85°未満であり、好ましくは80°以下であり、より好ましくは75°以下である。別の実施形態においては、刃先角γは、65°以下である。刃先角γがこのような範囲であれば、切削刃の良好な寿命(刃先の割れの抑制)を維持しつつ、ケバの発生を抑制することができる。1つの実施形態においては、すくい角αの範囲は好ましくは5°~15°であり、逃げ角βの範囲は好ましくは15°~25°であり、刃先角γの範囲は好ましくは55~65°である。なお、本明細書において「すくい角α」は、刃先10aおよび回転軸22を結ぶ直線とすくい面10bとがなす角度であり;「逃げ角β」は、ワーク200の切削面と逃がし面10cとがなす角度であり;「刃先角γ」は刃先10aを頂点として規定される角度であり、式:90°-すくい角α-逃げ角β から算出される角度である。
【0012】
エンドミルの刃数としては、目的に応じて任意の適切な刃数が採用され得る。刃数は、図示例のように1枚であってもよく、2枚であってもよく、3枚以上であってもよい。好ましくは、刃数は1枚~3枚である。このような構成であれば、切削刃同士の間隔が適切に確保されるので、切削クズを良好に排出することができる。より好ましくは、刃数は2枚である。このような構成であれば、切削刃の剛性が確保され、かつ、ポケットが確保されて切削クズを良好に排出することができる。
【0013】
エンドミルの刃の厚みδは、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1.2mm以下であり、さらに好ましくは1.0mm以下である。厚みの下限は、好ましくは0.3mmであり、より好ましくは0.6mmであり得る。刃の厚みをこのような範囲にすることで、切削の切れ味が維持され得る。さらに、上記刃先角度を調整することで、良好な刃物寿命と、良好な切削の切れ味とを両立することができる。
【0014】
エンドミルの外径は、好ましくは10mm未満であり、より好ましくは3mm~9mmであり、さらに好ましくは4mm~7mmである。本発明の実施形態によれば、例えばこのような小径のエンドミルを用いた微細な非直線加工(異形加工)において、光学フィルムのクラックおよびイエローバンドを良好に抑制することができ、さらに、光学フィルムが接着層を有する場合には糊欠けを良好に抑制することができる。なお、本明細書において「エンドミルの外径」とは、回転軸22から刃先10aまでの距離を2倍したものをいう。
【0015】
1つの実施形態においては、切削刃10は、焼結ダイヤモンドを含む。このような構成であれば、上記のような小径のエンドミルを用いた微細な非直線加工(異形加工)を良好に行うことができる。
【0016】
B.光学フィルムの製造方法
本発明の実施形態による光学フィルムの製造方法は、上記A項に記載の光学フィルム切削用エンドミルを用いて光学フィルムの端面を切削加工することを含む。より詳細には、この製造方法は、光学フィルムを複数枚重ねてワークを形成すること、および、ワークの外周面を切削加工することにより、ワークを構成する光学フィルムの端面を切削加工することを含む。1つの実施形態においては、切削加工は、非直線加工(異形加工)を含む。
【0017】
光学フィルムの具体例としては、偏光子、位相差フィルム、偏光板(代表的には、偏光子と保護フィルムとの積層体)、タッチパネル用導電性フィルム、表面処理フィルム、ならびに、これらを目的に応じて適切に積層した積層体(例えば、反射防止用円偏光板、タッチパネル用導電層付偏光板)が挙げられる。1つの実施形態においては、光学フィルムは、接着層(例えば、接着剤層、粘着剤層)を含む。本発明の実施形態によれば、接着層を含む光学フィルムであっても、切削加工における糊欠けを抑制することができる。
【0018】
1つの実施形態においては、上記光学フィルムは、表面保護フィルムと偏光子と粘着剤とセパレーターとをこの順で含む粘着剤層付偏光板であり得る。1つの実施形態においては、該セパレーターの剥離力は該表面保護フィルムの剥離力よりも小さい。このような粘着剤層付偏光板に対してエンドミルを用いると、表面保護フィルムより剥離力の小さいセパレーターが、エンドミルの刃から逃げやすいので、ケバが発生する場合がある。しかし、本発明の実施形態によれば、上記刃先角度を55°~65°にすることで、良好な切削の切れ味が維持され、セパレーター側のケバが抑制され、さらに切削刃の良好な寿命(刃先の割れの抑制)を実現することができる。
【0019】
以下、光学フィルムの一例として粘着剤層付偏光板を採用した場合の製造方法について説明する。具体的には、図2に示すような平面形状の粘着剤層付偏光板の製造方法における各工程を説明する。なお、光学フィルムが粘着剤層付偏光板に限定されないこと、および、粘着剤層付偏光板の平面形状が図2の平面形状に限定されないことは当業者に自明である。すなわち、本発明の製造方法は、任意の形状の任意の光学フィルムに適用され得る。
【0020】
B-1.ワークの形成
図3は、光学フィルムの切削加工を説明するための概略斜視図であり、本図にワーク200が示されている。図3に示すように、光学フィルム(粘着剤層付偏光板)を複数枚重ねたワーク200が形成される。粘着剤層付偏光板は、業界で周知慣用の方法により製造され得るので、当該製造方法の詳細な説明は省略する。粘着剤層付偏光板は、ワーク形成に際し、代表的には任意の適切な形状に切断されている。具体的には、粘着剤層付偏光板は矩形形状に切断されていてもよく、矩形形状に類似する形状に切断されていてもよく、目的に応じた適切な形状(例えば、円形)に切断されていてもよい。図示例では、粘着剤層付偏光板は矩形形状に切断されており、ワーク200は、互いに対向する外周面(切削面)200a、200bおよびそれらと直交する外周面(切削面)200c、200dを有している。ワーク200は、好ましくは、クランプ手段(図示せず)により上下からクランプされている。ワークの総厚みは、好ましくは10mm~50mmであり、より好ましくは15mm~25mmであり、さらに好ましくは約20mmである。このような厚みであれば、クランプ手段による押圧または切削加工時の衝撃による損傷を防止し得る。粘着剤層付偏光板は、ワークがこのような総厚みとなるように重ねられる。ワークを構成する粘着剤層付偏光板の枚数は、例えば20枚~100枚であり得る。クランプ手段(例えば、治具)は、軟質材料で構成されてもよく硬質材料で構成されてもよい。軟質材料で構成される場合、その硬度(JIS A)は、好ましくは60°~80°である。硬度が高すぎると、クランプ手段による押し跡が残る場合がある。硬度が低すぎると、治具の変形により位置ずれが生じ、切削精度が不十分となる場合がある。
【0021】
B-2.エンドミル加工
次に、ワーク200の外周面の所定の位置を、エンドミル100により切削する。エンドミル100は、代表的には、工作機械(図示せず)に保持され、エンドミルの回転軸まわりに高速回転されて、回転軸に交差する方向に送り出されながら切削刃をワーク200の外周面に当接させ切り込ませて用いられる。すなわち、切削は、代表的には、エンドミルの切削刃をワーク200の外周面に当接させ切り込ませることにより行われる。図2に示すような平面視形状の粘着剤層付偏光板を作製する場合には、ワーク200の外周の4つの隅部に面取り部200E、200F、200G、200Hを形成し、面取り部200Eと200Hとを結ぶ外周面の中央部に凹部200Iを形成する。
【0022】
ワーク200の切削加工について詳細に説明する。まず、図4(a)に示すように、図2の面取り部200Eが形成される部分が面取り加工され、次いで、図4(b)~図4(d)に示すように、面取り部200F、200Gおよび200Hが形成される部分が順次面取り加工される。最後に、図4(e)に示すように、凹部200Iが切削形成される。なお、図示例では面取り部200E、200F、200Gおよび200H、ならびに凹部200Iをこの順に形成しているが、これらは任意の適切な順序で形成されればよい。
【0023】
切削加工の条件は、粘着剤層付偏光板の構成、所望の形状等に応じて適切に設定され得る。例えば、エンドミルの回転速度(回転数)は、好ましくは25000rpm未満であり、より好ましくは22000rpm以下であり、さらに好ましくは20000rpm以下である。エンドミルの回転速度の下限は、例えば10000rpmであり得る。また例えば、エンドミルの送り速度は、好ましくは500mm/分~10000mm/分であり、より好ましくは500mm/分~2500mm/分であり、さらに好ましくは800mm/分~1500mm/分である。エンドミルによる切削箇所の切削回数は、1回削り、2回削り、3回削りまたはそれ以上であり得る。
【0024】
以上のようにして、切削加工された粘着剤層付偏光板が得られ得る。図示例においては、非直線加工された部分を含む粘着剤層付偏光板が得られ得る。
【実施例0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、実施例における評価項目は以下のとおりである。
【0026】
(1)クラック
実施例および比較例で得られた粘着剤層付偏光板(ワークを構成するすべての粘着剤層付偏光板)について、クラックの発生状況を目視により確認し、以下の基準で評価した。なお、クラックは、光学顕微鏡で拡大したものを観察した。
◎:クラックは認められなかった
○:わずかなクラックが認められたが実用上問題ない程度であった
×:クラックが認められた
(2)イエローバンド
実施例および比較例で得られた粘着剤層付偏光板(ワークを構成するすべての粘着剤層付偏光板)について、イエローバンドの発生状況を目視により確認し、以下の基準で評価した。なお、イエローバンドは、光学顕微鏡で拡大したものを観察した。
◎:イエローバンドは認められなかった
○:わずかなイエローバンドが認められたが実用上問題ない程度であった
×:イエローバンドが認められた
(3)糊欠け
実施例および比較例で得られた粘着剤層付偏光板(ワークを構成するすべての粘着剤層付偏光板)について、粘着剤層の糊欠け(接着層が切削刃に掻き取られて欠落すること)の状態を目視により確認し、以下の基準で評価した。
◎:糊欠けは認められなかった
○:わずかな糊欠けが認められたが実用上問題ない程度であった
×:糊欠けが認められた
(4)切削刃の寿命
実施例および比較例で使用した切削刃の切削後の状態を確認した。
◎:刃にキズや欠けはなく耐久性は良好であった
○:刃にわずかなキズが認められた
(5)ケバ
実施例および比較例で切削したワークを束の状態で固定し、蛍光灯の下で反射にて端部を観察した。ケバが発生しているサンプルを含むワークは目視にて端面が白く変色していることが確認できる。一束のワークの中の白く変色した部分のケバの大きさを目視により確認し、以下の基準でケバの評価を行った。
◎:ケバは認められなかった
〇:ごくわずかに白く変色する部分があったので、ケバの大きさを確認したところ、わずかなケバ
が認められたが実用上問題ない程度であった
△:わずかに白く変色する部分があったので、ケバの大きさを確認したところ、ケバが認められた
が基準範囲内であった
×:ケバが認められた
【0027】
<製造例1> 粘着剤層付偏光板の作製
偏光子として、長尺状のポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムにヨウ素を含有させ、長手方向(MD方向)に一軸延伸して得られたフィルム(厚み12μm)を用いた。この偏光子の片側に光学機能フィルム(帯電防止層付COPフィルム)を貼り合わせた。なお、帯電防止層付COPフィルムは、シクロオレフィン(COP)フィルム(25μm)に帯電防止層(5μm)が形成されたフィルムであり、COPフィルムが偏光子側となるようにして貼り合わせた。得られた偏光子/COPフィルム/帯電防止層の積層体の帯電防止層側に表面保護フィルムを貼り合わせた。一方、当該積層体の偏光子側にシクロオレフィン系樹脂の位相差フィルム(日本ゼオン社製、商品名「ZB-12」、面内位相差Re(550)=50nm、厚み40μm)を貼り合わせた。さらに、位相差フィルムの外側に粘着剤層(厚み20μm)を形成し、当該粘着剤層にセパレーターを貼り合わせた。このようにして、表面保護フィルム/帯電防止層/COPフィルム/偏光子/位相差フィルム/粘着剤層/セパレーターの構成を有する粘着剤層付偏光板1を作製した。
【0028】
<製造例2> 粘着剤層付偏光板の作製
製造例1と同様にして偏光子を作製し、この偏光子の片側に輝度向上フィルム(3M社製、商品名「DBEF」)を貼り合わせた。得られた偏光子/輝度向上フィルムの輝度向上フィルム側に表面保護フィルムを貼り合わせた。一方、当該積層体の偏光子側にけん化処理した40μm厚のアクリル樹脂フィルムを貼り合わせた。さらに、アクリル樹脂フィルムの外側に粘着剤層(厚み20μm)を形成し、当該粘着剤層にセパレーターを貼り合わせた。このようにして、表面保護フィルム/輝度向上フィルム/偏光子/アクリル樹脂フィルム/粘着剤層/セパレーターの構成を有する粘着剤層付偏光板2を作製した。
【0029】
<実施例1>
製造例1で得られた粘着剤層付偏光板1を5.7インチサイズ(縦140mmおよび横65mm程度)に打ち抜き、打ち抜いた偏光板を複数枚重ねてワーク(総厚み約20mm)とした。得られたワークをクランプ(治具)で挟んだ状態で、ねじれ角0°のエンドミルを用いた切削加工により、ワークの外周の4つの隅部に面取り部を形成し、さらに、4つの外周面のうちの1つの外周面の中央部に凹部を形成し、図2に示すような非直線加工された粘着剤層付偏光板を得た。ここで、エンドミルの刃数は1枚であり、外径は5mmであり、切削刃のすくい角は5°であり、逃げ角は15°であり、刃先角は70°であった。また、エンドミルの送り速度は1200mm/分であり、回転速度は15000rpmであった。
【0030】
最終的に得られた非直線加工された粘着剤層付偏光板を、上記(1)~(3)の評価に供した。さらに、切削刃について上記(4)の評価を行った。さらに、切削後の粘着剤層付偏光板について、上記(5)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0031】
<実施例2~6および比較例1>
エンドミルの切削刃のすくい角、逃げ角および刃先角を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、非直線加工された粘着剤層付偏光板を作製した。得られた非直線加工された粘着剤層付偏光板を上記(1)~(3)の評価に供した。さらに、用いた切削刃について上記(4)の評価を行った。さらに、切削後の粘着剤層付偏光板について、上記(5)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0032】
<実施例7>
製造例2で得られた粘着剤層付偏光板2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、図2に示すような非直線加工された粘着剤層付偏光板を作製した。得られた非直線加工された粘着剤層付偏光板を上記(1)~(3)の評価に供した。さらに、用いた切削刃について上記(4)の評価を行った。さらに、切削後の粘着剤層付偏光板について、上記(5)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
<実施例8~12および比較例2>
エンドミルの切削刃のすくい角、逃げ角および刃先角を表1に示すように変更したこと以外は実施例7と同様にして、非直線加工された粘着剤層付偏光板を作製した。得られた非直線加工された粘着剤層付偏光板を上記(1)~(3)の評価に供した。さらに、用いた切削刃について上記(4)の評価を行った。さらに、切削後の粘着剤層付偏光板について、上記(5)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
<比較例3>
すくい角が50°のエンドミルの作製を試みたが、作製できなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、エンドミルの切削刃のすくい角を所定範囲とすることにより、光学フィルム(ここでは、粘着剤層付偏光板)の切削加工において、クラック、イエローバンドおよび糊欠けを抑制することができる。さらに、すくい角の下限を所定値以上とすることにより、刃の鋭利さをさらに良好とすることができ、結果として、クラック、イエローバンドおよび糊欠けをさらに良好に抑制することができる(実施例1と実施例2~6との比較、および、実施例7と実施例8~12との比較)。また、すくい角の上限を所定値以下とすることにより、適切なサイズのポケットを確保することができ、結果として、切削クズによる摩擦を減少させて、イエローバンドをさらに良好に抑制することができる(実施例6と実施例2~5との比較、および、実施例12と実施例8~11との比較)。さらに、刃先角を所定値以上とすることにより、切削刃の寿命を増大させることができる。さらに、刃先角を所定値以下とすることにより、切削の切れ味を良好とすることができ、結果として、ケバを抑制することができる(実施例4~6と実施例1~3との比較、および、実施例10~12と実施例7~9との比較)。さらに、刃先角を所定範囲とすることで、ケバの抑制を維持しつつ、切削刃の良好な寿命(刃先の割れの抑制)を満足することができる(実施例3~4と実施例1~2および5~6との比較、および、実施例9~10と実施例7~8および11~12との比較)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のエンドミルは、光学フィルムの切削加工に好適に用いられ得る。本発明のエンドミルにより切削加工された光学フィルムは、例えば、自動車のインストゥルメントパネルやスマートウォッチに代表される異形の画像表示部に用いられ得る。
【符号の説明】
【0038】
α すくい角
β 逃げ角
γ 刃先角
δ 刃の厚み
10 切削刃
10a 刃先
10b すくい面
10c 逃がし面
20 本体
22 回転軸
30 ポケット
100 エンドミル
200 ワーク
図1
図2
図3
図4