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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006187
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】圧電磁器組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/491 20060101AFI20240110BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20240110BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
C04B35/491
H01L41/187
H01L41/257
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106855
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 健志
(72)【発明者】
【氏名】北村 和昭
(72)【発明者】
【氏名】笠島 崇
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正人
(57)【要約】
【課題】高い圧電特性、高いキュリー温度、および高い耐電圧性を実現できる圧電磁気組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】圧電磁器組成物は、一般式(PbLa(1-x)(ZrTi(1-Z-W)Nb)O3-δで表され、かつ、x、y、z、wが0.95≦x≦0.98、1.03≦y≦1.18、0.52≦z≦0.57、0.04≦w≦0.14を満たす化合物を主成分とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(PbLa(1-x)(ZrTi(1-Z-W)Nb)O3-δで表され、かつ、x、y、z、wが0.95≦x≦0.98、1.03≦y≦1.18、0.52≦z≦0.57、0.04≦w≦0.14を満たす化合物を主成分とする圧電磁器組成物。
【請求項2】
前記一般式におけるx、y、z、wが、0.95≦x≦0.96、1.03≦y≦1.18、0.54<z<0.56、0.04≦w≦0.14を満たす、請求項1に記載の圧電磁器組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、圧電磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電性を示すセラミックスとして、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が広く利用されており、PZTの圧電特性を高めるために、種々の改良がなされてきている。例えば、PZTにLa(ランタン)を含有させるとともに、Nbを適量添加することにより、誘電率を高め、高い圧電定数および高い抗電界強度を実現することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の圧電磁器組成物を、高振幅で信頼性の高い圧電素子に応用したいという要望があり、さらに高いレベルの圧電特性を満たすとともに、耐電圧性能に優れる圧電磁器組成物の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される圧電磁器組成物は、一般式(PbLa(1-x)(ZrTi(1-Z-W)Nb)O3-δで表され、かつ、x、y、z、wが0.95≦x≦0.98、1.03≦y≦1.18、0.52≦z≦0.57、0.04≦w≦0.14を満たす化合物を主成分とする。
【発明の効果】
【0006】
本明細書によって開示される圧電磁器組成物によれば、高い圧電特性、高いキュリー温度、および高い耐電圧性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、試験例4の焼結体について、レーザーマイクロスコープを用いて撮像した画像である。
図2図2は、従来の圧電磁気組成物の焼結体について、レーザーマイクロスコープを用いて撮像した画像である。
図3図3は、試験例において、一般式(1)中の係数xの値と、圧電定数d33の値との関係を示すグラフである。
図4図4は、試験例において、一般式(1)中の係数yの値と、圧電定数d33の値との関係を示すグラフである。
図5図5は、試験例において、一般式(1)中の係数zの値と、圧電定数d33の値との関係を示すグラフである。
図6図6は、試験例において、一般式(1)中の係数wの値と、圧電定数d33の値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示される圧電磁器組成物は、一般式(PbLa(1-x)(ZrTi(1-Z-W)Nb)O3-δで表され、かつ、x、y、z、wが0.95≦x≦0.98、1.03≦y≦1.18、0.52≦z≦0.57、0.04≦w≦0.14を満たす化合物を主成分とする。
【0009】
上記の構成によれば、高い圧電特性、高いキュリー温度、および高い耐電圧性を実現できる。
【0010】
(2)上記(1)の圧電磁気組成物において、前記一般式におけるx、y、z、wが、0.95≦x≦0.96、1.03≦y≦1.18、0.54<z<0.56、0.04≦w≦0.14を満たすことが好ましい。
【0011】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
[圧電磁気組成物の構成]
本実施形態の圧電磁器組成物は、下記一般式(1)で表される化合物を主成分としている。
【0013】
(PbLa(1-x)(ZrTi(1-Z-W)Nb)O3-δ …(1)
【0014】
上記一般式(1)で表される化合物は、PZTにおいてTi(チタン)の一部がLaで置換されたPLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)を基本構成とし、Nbが添加されたものである。
【0015】
上記一般式(1)で表される化合物において、Pb(鉛)とLaとは、ペロブスカイト構造のAサイトに配置され、Zr(ジルコニウム)、Ti、およびNb(ニオブ)はBサイトに配置される。
【0016】
係数x、y、z、wは、0.95≦x≦0.98、1.03≦y≦1.18、0.52≦z≦0.57、0.04≦w≦0.14を満たし、より好ましくは、0.95≦x≦0.96、1.03≦y≦1.18、0.54<z<0.56、0.04≦w≦0.14を満たす。
【0017】
係数x、y、z、wがこの範囲の値を取れば、高い圧電特性、高いキュリー温度、および高い耐電圧性を実現できる。
【0018】
酸素の係数3+δのうち、係数δは、通常3である酸素の係数に対し、酸素の欠損あるいは過剰を示す正または負の値である。酸素の係数3+δは、化合物がペロブスカイト型酸化物を構成する値を取り得る。係数δの典型的な値は、δ=0であり、0≦δ≦0.1が好ましい。なお、係数δの値は、化合物の組成の電気的な中性条件から算出することができる。但し、化合物の組成としては、電気的な中性条件からやや外れた組成も許容できる。
【0019】
[圧電磁気組成物の製造方法]
上記の圧電磁気組成物を製造する手順の一例を、以下に示す。
【0020】
まず、原料粉末を目的とする組成となるように秤量する。原料粉末は、目的とする圧電磁気組成物に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよい。これらの原料粉末に、エタノール、水等の分散媒を加え、ボールミルにて湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600-1200℃で1-10時間仮焼して仮焼物を得る。
【0021】
得られた仮焼物に、分散剤、バインダを加え、湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥させて造粒粉末を得る。
【0022】
得られた造粒粉末を所定の形状に成形して成形体を得る。成形は例えば一軸加圧により行うことができる。得られた成形体を、例えば大気雰囲気下500-800℃で2-100時間保持して脱脂した後、900-1400℃で1-10時間焼成して圧電磁気組成物を得る。
【0023】
なお、上述した製造方法は一例であり、圧電磁気組成物を製造するための他の種々の工程や処理条件を利用可能である。
【0024】
本実施形態の圧電磁器組成物は、振動検知用途や、圧力検知用途、発振用途、及び、圧電デバイス用途等に広く用いることが可能である。例えば、各種振動を検知するセンサ類(ノックセンサおよび燃焼圧センサ等)、振動子、アクチュエータ、フィルタ等の圧電デバイス、高電圧発生装置、マイクロ電源、各種駆動装置、位置制御装置、振動抑制装置、流体吐出装置(塗料吐出及び燃料吐出等) などに利用することができる。本実施形態の圧電磁器組成物は、特に、高振幅および高信頼性(高い耐電圧性および駆動耐久性)が要求される用途に好適である。
【0025】
[試験例]
1.試料の作成
PbO粉末、ZrO粉末、TiO粉末、La(OH)粉末、Nb粉末の各々を、下記一般式中の係数x、y、z、wの値が、目標とする値となるように秤量して混合した。
【0026】
(PbLa(1-x)(ZrTi(1-Z-W)Nb)O3-δ …(1)
【0027】
これらの原料粉末の混合物にエタノールを加え、ボールミルにて15時間以上湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600℃-1200℃で1-10時間仮焼して仮焼粉を得た。得られた仮焼粉に、直径10mmのYTZボール、バインダ、水を加えて、仮焼粉の平均粒子径D50が0.9μm以下、span(D90-D10/D50)が2.2μm以上となるまで粉砕・混合してスラリーとした。得られたスラリーを乾燥させて造粒粉末を得た。
【0028】
得られた造粒粉末を、直径30mmの金型を用いて圧力150MPaで一軸プレスを行うことにより、円板状に成形して成形体を得た。得られた成形体を、大気雰囲気下500-800℃で2-100時間保持して脱脂した後、900-1400℃で1-10時間保持して焼成し、圧電磁気組成物の焼結体を得た。
【0029】
得られた焼結体の表裏両面に、電極を形成した。電極形成後の焼結体を、80℃のシリコーンオイル中にて、2.5kv/mmの直流電圧を印加して分極処理を行い、圧電素子を得た。
【0030】
2.試験方法
(1)構造解析
得られた焼結体に鏡面研磨を行った後、レーザーマイクロスコープ(株式会社キーエンス製 VK-X100)を用いて観察した。XRD(X-ray Diffraction:X線回折法)により、焼結体がペロブスカイト型構造の1相のみを有することを確認したのち、XRF(X-ray Fluorescence:蛍光X線分析法)にて組成分析を行い、一般式(1)中の係数x、y、z、wの値を決定した。
【0031】
(2)圧電特性
厚み2mm、直径25mmの円板状に形成した圧電素子を用いた。圧電定数d33は、d33メータ(INSTITUTE OF ACADEMIA AINICA社製、ZJ-4B)用いて計測した。電気機械結合係数krと比誘電率ε33 /εは、インピーダンスアナライザ(KEYSIGHT社製、E4990A)を用いて計測した。温度に対する比誘電率ε33 /εをプロットし、頂点となった温度をキュリー温度Tcとした。
【0032】
(3)耐電圧性
厚み1mm、直径16mm円板状に形成した焼結体の両表面に直径14mm電極を焼き付けで形成した圧電素子を用いた。圧電素子に電圧を印加し、徐々に昇圧させていき、リーク電流が流れたときの電圧を測定した。
【0033】
(4)比重
得られた焼結体の比重を、アルキメデス法により算出した。
【0034】
3.結果
各試験例について、組成分析により決定された係数x、y、z、wの値と試験結果とを表1に示した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1より、上記一般式(1)中の係数xの値が0.94の試験例1では、電気機械結合定数krが56%、キュリー温度Tcが190℃と低かった。また、比重が7.63g/cmと低く、4.8kv/mmでリーク電流が観測され、耐電圧性も低かった。また、上記一般式(1)中の係数wの値が0.16の試験例25では、キュリー温度Tcが200℃と低かった。
【0037】
上記一般式(1)中の係数x、y、z、wが、0.95≦x≦0.98、1.03≦y≦1.18、0.52≦z≦0.57、0.04≦w≦0.14を満たす試験例2-24では、200℃を超える高いキュリー温度Tcを実現できた。また、比重が7.65g/cm以上となっており、緻密な焼結体が得られていた。また、レーザーマイクロスコープによる観察によっても、得られた焼結体(図1参照)は、従来の圧電磁気組成物(図2参照)よりも緻密な構成となっていることが確認された。リーク電流が観測された電圧は6.4kv/mm以上であり、高い耐電圧性を実現できていた。
【0038】
さらに、上記一般式(1)中の係数x、y、z、wが、0.95≦x≦0.96、1.03≦y≦1.18、0.54<z<0.56、0.04≦w≦0.14を満たす試験例2-4、8-13、20-24では、表1および図3-6に示すように、圧電定数d33が600pC/N以上であり、高い圧電定数d33と高いキュリー温度Tcとを両立できていることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6