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特開2024-61926液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061926
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240430BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240430BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240430BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K7/14
C08K3/013
C08G63/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169560
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田邉 純樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002GQ00
4J029AA06
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD09
4J029AE01
4J029BB04A
4J029BB05A
4J029BB05B
4J029BB09A
4J029BB10A
4J029BB13A
4J029BC05A
4J029BC06A
4J029BE05A
4J029BF14A
4J029BG05X
4J029BH02
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC06A
4J029CF08
4J029CF15
4J029CG25X
4J029DB07
4J029DB13
4J029EB05A
4J029EC06A
4J029HA03A
4J029HB01
4J029KB02
(57)【要約】
【課題】低圧で成形可能な成形性を有し、かつ高いエポキシ接着性を有する可能な液晶ポリエステル樹脂組成物を得ること。
【解決手段】液晶ポリエステル樹脂(A)と、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラス繊維(B)1~100重量部とが配合された液晶ポリエステル樹脂組成物であって、組成物中におけるガラス繊維(B)の扁平化率が2~8、重量平均繊維長(Lw)が100~900μmであり、さらに、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)(μm)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを満たし、液晶ポリエステル樹脂(A)が下記要件(α)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物。
要件(α):液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する下記構造単位を20~96モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を2~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を2~40モル%含み、芳香族ヒドロキシカルボン酸として下記構造単位(I)を1~20モル%含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂(A)と、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラス繊維(B)1~100重量部とが配合された液晶ポリエステル樹脂組成物であって、組成物中におけるガラス繊維(B)の扁平化率が2~8、重量平均繊維長(Lw)が100~900μmであり、さらに、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)(μm)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを満たし、液晶ポリエステル樹脂(A)が下記要件(α)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物。
要件(α):液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する下記構造単位を20~96モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を2~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を2~40モル%含み、芳香族ヒドロキシカルボン酸として下記構造単位(I)を1~20モル%含む。
【化1】
【請求項2】
液晶ポリエステル樹脂(A)が、芳香族ジオールに由来する構造単位として下記構造単位(II)を含む、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化2】
【請求項3】
液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)~(VI)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(a)~(f)を満たす請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
1≦[I]≦20 ・・・(a)
2≦[II]+[III]≦35 ・・・(c)
25≦[IV]≦75 ・・・(b)
2≦[V]≦35 ・・・(d)
0.01≦[VI]≦10 ・・・(e)
[VI]/[I]<1 ・・・(f)
([I]~[VI]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)~(VI)の含有量(モル%)を示す。)
【化3】
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項5】
成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである請求項4に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。より詳しくは、液晶ポリエステル樹脂組成物、ならびにそれを用いて得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性、流動性および寸法安定性に優れるため、それらの特性が要求される電気・電子部品に用いられている。このような電気・電子部品は、近年の機器の小型化や軽量化に伴い、形状の薄肉化と複雑化が進んでいる。また、薄肉かつ複雑な成形品を成形するためには、高温条件で成形することが多く、このような条件では樹脂の劣化が促進される。また、高温条件で成形した場合、成形時にハナタレ(成形時にノズル先端部分から漏れて垂れ下がる現象)や糸引き(金型の型開き時、固化しきらなかった樹脂がスプルー頂点から糸状に伸びる現象)が生じることにより、生産性が低下するため、低温域でも安定して製品が得られる特性が求められる。一方、低温域で成形すると成形圧が高くなり、金型を破損する可能性が高くなるため、低温域で成形圧が低い特性も求められる。
【0003】
液晶ポリエステル樹脂の成形品は多素材と組み合わせて使用されることもあり、液晶ポリエステル樹脂は耐薬品性に優れるため、エポキシ樹脂への接着性(以下、エポキシ接着性と記載することがある)が低い課題がある。
【0004】
液晶ポリエステル樹脂の物性などの種々特性を向上させる目的で、ガラス繊維、タルク、マイカといった無機充填材が溶融混練などの方法によって配合される。例えば、特許文献1および2には、特定の構造単位を有する液晶ポリエステル樹脂に対して、繊維長が制御された扁平断面を有するガラス繊維を配合することによって、スナップフィット性、耐フォギング性、機械物性や寸法安定性といった種々特性が向上することが示されている。同様に、特許文献3には断面が非円形であるガラス繊維を液晶ポリエステルに配合することで、薄肉流動性と耐熱性が向上することも示されている。
【0005】
一方で、特許文献4および5には、特定の構造単位を有する液晶ポリエステル樹脂に対して、繊維長が制御された断面が円形であるガラス繊維を配合することで、流動バラツキが少なく、スナップフィット性やセルフタッピング性、ウェルド強度などの種々特性に優れた材料が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-35915号公報
【特許文献2】特開2008-13702号公報
【特許文献3】特開2009-249416号公報
【特許文献4】国際公開第2012/090411号
【特許文献5】特開2009-215530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~5に示された発明では、精密コネクタなどの複雑形状の製品を射出成形によって得るためには高温で成形しなくてはならず、融点近傍(低温)で成形すると成形圧が高くなることが課題であった。また、前述の低温での成形性と他素材(エポキシ)との接着性を高いレベルで両立した例は示されていない。
【0008】
本発明の課題は、低温でも低圧で成形可能な成形性(以下、成形性と記載することがある)を有し、かつ高いエポキシ接着性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造単位を有する液晶ポリエステル樹脂に対して、扁平化率が2~8であるガラス繊維を配合し、組成物中の該ガラス繊維の繊維長とその分布を制御することによって、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)と、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラス繊維(B)1~100重量部とが配合された液晶ポリエステル樹脂組成物であって、組成物中におけるガラス繊維(B)の扁平化率が2~8、重量平均繊維長(Lw)が100~900μmであり、さらに、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)(μm)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを満たし、液晶ポリエステル樹脂(A)が下記要件(α)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物。
【0010】
【化1】
【0011】
(2)液晶ポリエステル樹脂(A)が、芳香族ジオールに由来する構造単位として下記構造単位(II)を含む、(1)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【0012】
【化2】
【0013】
(3)液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)~(VI)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(a)~(f)を満たす(1)または(2)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
1≦[I]≦20 ・・・(a)
2≦[II]+[III]≦35 ・・・(c)
25≦[IV]≦75 ・・・(b)
2≦[V]≦35 ・・・(d)
0.01≦[VI]≦10 ・・・(e)
[VI]/[I]<1 ・・・(f)
([I]~[VI]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)~(VI)の含有量(モル%)を示す。)
【0014】
【化3】
【0015】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
(5)成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである(4)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、低温でも低圧で成形可能な成形性を有し、かつ高いエポキシ接着性を有する。特に、小型の電気・電子部品用途などを成形する際に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】樹脂組成物中のガラス繊維の累積繊維長分布曲線の例を示す図である。
図2】樹脂組成物中のガラス繊維の繊維長分布曲線の例を示す図である。
図3】D90/Lwが2.5より大きくなる場合の繊維長分布曲線の一例を示す図である。
図4】成形圧評価に用いるコネクタ成形品の概略図である。
図5】エポキシ接着性を評価する試験片の形状と接着方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
<液晶ポリエステル樹脂(A)>
液晶ポリエステル樹脂は、異方性溶融相を形成するポリエステルである。このようなポリエステル樹脂としては、例えば、後述するオキシカルボニル単位、ジオキシ単位、ジカルボニル単位などから異方性溶融相を形成するよう選ばれた構造単位から構成されるポリエステルが挙げられる。
【0020】
次に、液晶ポリエステル樹脂を構成する構造単位について説明する。
【0021】
本発明に用いられる液晶ポリエステル樹脂(A)は、オキシカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~96モル%含む。耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、22モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。一方で、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、75モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましい。
【0022】
本発明に用いられる液晶ポリエステル樹脂(A)は、オキシカルボニル単位として、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する下記構造単位(I)を、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して1~20モル%含むことを特徴とする。構造単位(I)はナフタレン環構造を有しており、後述するp-ヒドロキシ安息香酸やテレフタル酸、ハイドロキノンなどのベンゼン環を有するモノマーと比べて、分子鎖長が僅かに長く、少し曲がった構造をしている。これにより、液晶ポリエステル樹脂の分子鎖が強固にパッキングすることを抑制することができ、ポリエステルの末端基や分子鎖中のカルボニル基が成形品表面に浮きやすくなり、エポキシ接着性が向上する。また、液晶性は保ちつつもパッキング性を落とすことができるため、成形性も向上する。さらに、前述した通り構造単位(I)を含むことで分子鎖が折れ曲がるため、溶融混錬時に液晶ポリエステル樹脂の分子鎖同士で適度に絡み合うことができ、見かけの粘度が増すため後述する成分(B)の、D90/Lwの値を特定の範囲に制御することが容易になる。液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、構造単位(I)は2モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましい。また、構造単位(I)は15モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0023】
【化4】
【0024】
耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、オキシカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(IV)を25~75モル%含むことが好ましい。45モル%以上がさらに好ましい。一方、65モル%以下がより好ましく、55モル%以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、ジオキシ単位として、成分(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジオールに由来する構造単位を2~40モル%含む。耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、12.5モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。一方、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、39モル%以下が好ましく、37.5モル%以下がより好ましい。芳香族ジオールに由来する構造単位としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシノール、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンなどに由来する構造単位が挙げられる。耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンに由来する構造単位を使用することが好ましい。中でも、耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、ハイドロキノンに由来する、下記構造単位(II)を含むことが好ましい。液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、構造単位(II)は2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、8モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位(II)は20モル%以下が好ましく、17モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0026】
【化5】
【0027】
さらに、芳香族ジオールとして、耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(III)を1~25モル%含むことが好ましい。3モル%以上がより好ましく、5モル%以上がささらに好ましい。一方、20モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0028】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、ジカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を2~40モル%含む。12.5モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。一方、39モル%以下が好ましく、37.5モル%以下がより好ましい。芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などに由来する構造単位が挙げられる。入手性に優れる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸に由来する構造単位を使用することが好ましい。
【0029】
ジカルボニル単位として、耐熱性と重合性が良く、優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、テレフタル酸に由来する構造単位(V)を2~35モル%含むことが好ましい。5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましく、15モル%以上が最も好ましい。一方、30モル%以下がより好ましく、25モル%以下がより好ましい。
【0030】
優れた成形性とエポキシ接着性を有する観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、イソフタル酸に由来する構造単位(VI)を0.01~10モル%含むことが好ましい。イソフタル酸はベンゼン環の1位と3位にカルボキシル基を有しており、他の直線性が高いモノマーと比べて、大きく曲がった構造をしている。これにより、液晶ポリエステル樹脂の分子鎖が強固にパッキングすることを抑制することができ、ポリエステルの末端基や分子鎖中のカルボニル基が成形品表面に浮きやすくなり、エポキシ接着性が向上する。また、液晶性は保ちつつもパッキング性を落とすことができるため、成形性も向上する。さらに、分子鎖が折れ曲がるため、溶融混錬時に液晶ポリエステル樹脂の分子鎖同士で適度に絡み合うことができ、見かけの粘度が増すため後述する成分(B)の、D90/Lwの値を特定の範囲に制御することが容易になる。0.05モル%以上がさらに好ましく、0.1モル%以上がより好ましい。一方、7モル%以下がより好ましく、4モル%以上がさらに好ましい。
【0031】
また、上記構造単位に加えて、エチレングリコール、p-アミノ安息香酸、p-アミノフェノールなどから生成した構造単位を、液晶性や特性を損なわない程度の範囲でさらに有することができる。
【0032】
上記の各構造単位を構成する原料となるモノマーは、各構造単位を形成しうる構造であれば特に限定されない。また、そのようなモノマーの水酸基のアシル化物、カルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体などが使用されてもよい。
【0033】
液晶ポリエステル樹脂(A)について、各構造単位の含有量の算出法を以下に示す。各構造単位の含有量は1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により求める。粉砕した成分(A)を5mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H-NMR測定を実施し、7~9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピーク面積比から組成を分析する。
【0034】
液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、耐熱性の観点から、280℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。一方、加工性の観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、370℃以下が好ましく、360℃以下がより好ましく、350℃以下がさらに好ましい。融点(Tm)の測定は、示差走査熱量測定により行う。具体的には、まず、液晶ポリエステル樹脂(A)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm)を観測する。吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm)+20℃の温度でポリマーを5分間保持する。その後、20℃/分の降温条件で室温までポリマーを冷却する。そして、20℃/分の昇温条件でポリマーを加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm)を観測する。融点(Tm)とは、該吸熱ピーク温度(Tm)を指す。
【0035】
液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造の際に、好ましい粘度範囲に制御しやすい観点から、3Pa・s以上が好ましく、5Pa・s以上がより好ましく、7Pa・s以上がさらに好ましい。一方、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造の際に、好ましい粘度範囲に制御しやすいうえ、流動性が向上する観点から、液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、30Pa・s以下が好ましく、25Pa・s以下が好ましく、20Pa・s以下がさらに好ましい。
【0036】
なお、この溶融粘度は、液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)+20℃の温度において、かつ、せん断速度1000/秒の条件下で、高化式フローテスターによって測定した値である。
【0037】
<液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法>
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。公知のポリエステルの重縮合法としては、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸に由来する構造単位からなる液晶ポリエステル樹脂(A)を例に、以下が挙げられる。
【0038】
(1)p-アセトキシ安息香酸、6-アセトキシ-2-ナフトエ酸、4,4’-ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸、およびイソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0039】
(2)p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重合することによって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0040】
(3)p-ヒドロキシ安息香酸フェニル、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニル、およびイソフタル酸ジフェニルから脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0041】
(4)p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、テレフタル酸およびイソフタル酸の芳香族カルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0042】
なかでも(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法が、液晶ポリエステル樹脂(A)の末端構造の制御および重合度の制御に工業的に優れる点から、好ましく用いられる。
【0043】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法として、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。固相重合法による処理としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、液晶ポリエステル樹脂(A)のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕する。粉砕したポリマーまたはオリゴマーを、窒素気流下、または、減圧下において加熱し、所望の重合度まで重縮合することで、反応を完了させる。上記加熱は、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-50℃~融点-5℃(例えば、200~300℃)の範囲で1~50時間行うことができる。
【0044】
<ガラス繊維(B)>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラス繊維(B)(以下、成分(B)と記載することがある)1~100重量部とが配合されてなり、組成物中の成分(B)の扁平化率が2~8、重量平均繊維長(Lw)が100~900μmであり、さらに、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを特徴とする(以下、前記比について、「D90/Lw」ということがある)。
【0045】
組成物中の成分(B)の扁平化率と重量平均繊維長(Lw)は、以下の方法によって求める。液晶ポリエステル樹脂組成物10gを、空気中において500℃で8時間加熱して樹脂を除去する。残存した成分(B)を、光学式顕微鏡を用いて観察し、無作為に選択した1000個以上の成分(B)の扁平化率と繊維長(μm)を測定する。ここで、扁平化率とは、成分(B)の長さ方向に直交する断面において、長径a(断面の外周上の2点を結ぶ線分のうち、最長となる2点間の線分の長さ)と短径b(前記最長となる2点間を結ぶ線分と直交し、該断面内において最長となる線分の長さ)の比率(a/b)であって、前記の手法で測定した扁平化率の算術平均値を指す。なお、長径aと短径bの長さの区別ができない円形断面である場合、扁平化率は1とする。重量平均繊維長は、式{Σ(Ni×Li)/Σ(Ni×Li)}で算出する。ここで、Liは、選択された成分(B)の繊維長(μm)であり、Niは繊維長Liの成分(B)の本数である。次に、D90/Lwは、以下の方法によって求める。測定された繊維長(μm)とその繊維長の頻度(%)から、短繊維長側から横軸を繊維長(μm)、縦軸を累積頻度(%)とした累積繊維長分布曲線(図1)を描いたとき、累積頻度が90%となる繊維長(μm)をD90として算出し、重量平均繊維長(Lw)との比(D90/Lw)を求める。なお、測定された繊維長(μm)とその繊維長の頻度(%)について、横軸に繊維長(μm)縦軸に頻度(%)として曲線を描いた場合は、繊維長分布曲線(図2)が得られる。
【0046】
液晶ポリエステル樹脂組成物の射出成形時には、液晶ポリエステル樹脂(A)の流れ方向に沿ってガラス繊維は長手方向に配向する。このとき、繊維長を前記した特定の範囲に制御しつつ特にガラス繊維が扁平形状を有していることによって、液晶ポリエステル樹脂(A)が長手方向へ配向して流れるだけではなく、短手方向にも流れることができる。これにより、成型金型内での液晶ポリエステル樹脂の流れ方向が多岐に渡り、複雑形状の成型品であっても低い圧力で成型することが可能となり、特に構造単位(I)を有する液晶ポリエステル樹脂(A)と組み合わせることによって、特異的に成型性が向上する。さらに、前記した通り液晶ポリエステルの流れ方向が多岐に渡るため、成型品表面に液晶ポリエステル樹脂(A)の末端基などの官能基が多く出現するため、特異的にエポキシ接着性も向上する。
【0047】
成分(B)の扁平化率は、液晶ポリエステル樹脂(A)中において良く分散し、成形性とエポキシ接着性を両立できる観点から、6以下が好ましく、5以下がさらに好ましい。
前述したとおり、液晶ポリエステル樹脂組成物における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御することによって、成形性とエポキシ接着性を極めて高いレベルで両立することが可能となる。重量平均繊維長が900μmより大きいと、曲げ強度などの物性は改善するものの、特に低温での成形時に成形圧が増加して成形性が低下する。一方、100μm未満であれば、成形品表面に適度にガラス繊維が浮かず、エポキシ接着性が向上しない。D90/Lwは、図2に示す繊維長分布曲線の形状を表す値の一つである。すなわち、D90/Lwの値が大きいほど図3に示すような、繊維長分布曲線が長繊維側にテーリングした分布の広い曲線となる。D90/Lwが2.5より大きくなると、図3に示すように、たとえ重量平均繊維長(Lw)が100~900μmの範囲であっても、長繊維の存在比率が大きくなるため、流動性と成形性が低下する。D90/Lwを2.5以下に制御しつつ、構造単位(I)を有する液晶ポリエステル(A)と組み合わせることによって、成形性とエポキシ接着性を高度な次元で両立することができる。
【0048】
液晶ポリエステル樹脂(A)中において良く分散し、成形性とエポキシ接着性を両立できる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対する成分(B)の配合量は、30重量部以上が好ましく、40重量部以上がさらに好ましく、50重量部以上が最も好ましい。また、90重量部以下が好ましく、85重量部以下がさらに好ましい。
【0049】
組成物中の成分(B)の重量平均繊維長(Lw)は、成形性とエポキシ接着性を両立できる観点から、下限については、300μm以上とすることが好ましく、350μm以上がさらに好ましく、また、上限については、700μm以下とすることが好ましく、600μm以下とすることがさらに好ましい。
【0050】
液晶ポリエステル樹脂組成物中の成分(B)のD90/Lwは、成形性とエポキシ接着性を両立できる観点から、2以下とすることが好ましく、1.5以下がより好ましい。下限としては特に限定はないが、1.0以上であることが最も好ましい。
【0051】
<充填材>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前述した液晶ポリエステル樹脂(A)と成分(B)を含有するが、その他の特性を付与するためにその他の充填材を含有してもよい。本発明で使用される充填材は、特に限定されるものではないが、例えば、繊維状、ウィスカー状、板状、粉末状、粒状などの充填材を挙げることができる。具体的には、繊維状、ウィスカー状充填材としては、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、および針状酸化チタンなどが挙げられる。板状充填材としては、マイカ、タルク、カオリン、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、およびワラステナイトなどが挙げられる。粉状、粒状の充填材としては、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などが挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用される上記の充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤により処理されていてもよい。また、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0053】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。
【0054】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、充填材の含有量は、成分(A)100重量部に対し、10~200重量部が好ましい。15重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。一方、150重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。
【0055】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。
【0056】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
液晶ポリエステル樹脂(A)に対して、成分(B)やその他の添加剤を配合し、液晶ポリエステル樹脂組成物とする方法としては、例えば、液晶ポリエステル樹脂(A)に成分(B)およびその他の固体状の添加剤等を配合するドライブレンド法や、液晶ポリエステル樹脂(A)に成分(B)およびその他の液体状の添加剤等を配合する溶液配合法、成分(B)およびその他の添加剤を液晶ポリエステル樹脂(A)の重合時に添加する方法、液晶ポリエステル樹脂(A)に成分(B)およびその他の添加剤を溶融混練する方法を用いることができ、なかでも溶融混練する方法が好ましい。
【0057】
溶融混練には、公知の方法を用いることができる。例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを挙げることができる。なかでも二軸押出機が好ましい。
【0058】
組成物中における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)を100~900μmとし、D90/Lwを2.5以下に制御する方法は特に限定されず、種々の手法をとることができる。例えば、前記した通り液晶ポリエステル樹脂(A)を好ましい構造単位で構成することで、溶融混練時に液晶ポリエステル樹脂(A)が好ましい溶融粘度となって剪断応力の制御が容易となり、ガラス繊維(B)の破断が適した範囲で起こるため、重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御できるが、さらに以下に好ましい手法を記載する。
【0059】
重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、本発明の液晶ポリエステル樹脂を製造する方法として、二軸押出機を用いて溶融混練をする方法が好ましい。なかでも、スクリュー長さをL,スクリュー直径をDとすると、L/D>30の二軸押出機を使用して溶融混練する方法が特に好ましい。ここで言うスクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置から、スクリュー先端部までの長さを指す。二軸押出機のL/Dの上限は150であり、好ましくはL/Dが30を越え、100以下のものが使用できる。
【0060】
また、本発明において二軸押出機で用いる場合のスクリュー構成としては、フルフライトおよびニーディングディスクを組み合わせて用いられるが、重量平均繊維長とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、スクリュー全長に対するニーディングディスク(以下、「ニーディングゾーン」ということがある)の合計長さの割合を、5~50%の範囲とすることが好ましく、10~40%の範囲であればさらに好ましく、10~30%の範囲が最も好ましい。ニーディンングゾーンの割合が増えるほど重量平均繊維長とD90/Lwの値は小さくなる。
【0061】
重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、押出機の元込め部とベント部の途中に中間供給口(サイドフィーダー)を設置して、元込め部から液晶ポリエステル樹脂(A)とその他添加剤を添加し、成分(B)を中間供給口から添加する方法が好ましい。さらに、中間供給口と吐出口の途中にニーディングゾーンを組み込んだスクリュー構成とすることが好ましく、中間供給口と吐出口の途中に組み込んだニーディングゾーンの、スクリュー全長に対する割合は、5~30%の範囲とすることが好ましく、5~20%の範囲とすることがさらに好ましく、8~18%の範囲とすることがもっとも好ましい。
【0062】
重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、溶融混練時のスクリューの回転周速度(m/min)は10~30m/minとすることが好ましい。回転周速度が大きいほど、重量平均繊維長とD90/Lwの値は小さくなる。13~23m/minの範囲とすることがより好ましく、13~20m/minの範囲とすることがさらに好ましい。なお、スクリューの回転周速度(m/min)は、スクリュー直径(m)×円周率×回転数(rpm)で算出することができる。
【0063】
重量平均繊維長とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、溶融混練時の押出機のシリンダーの設定温度は、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点+10~+60℃の範囲に設定することが好ましい。設定温度が高いほど、重量平均繊維長とD90/Lwの値は大きくなる。成分(A)の融点+15~+50℃の範囲とすることがより好ましく、融点+20~+30℃の範囲とすることがさらに好ましい。また、剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度が5~20Pa・sとなるような温度で溶融混錬することが好ましい。このような溶融粘度となる温度で溶融混錬することで、液晶ポリエステル樹脂組成物中の成分(B)の重量平均繊維長とD90/Lwを特定の範囲に制御することが容易となる。溶融混錬時の液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度の下限は、6Pa・s以上がより好ましい。一方、溶融混錬時の液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度の上限は、18Pa・s以下がより好ましく、15Pa・s以下がさらに好ましく、10Pa・s以下が最も好ましい。
【0064】
<成形品>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形、溶液キャスト製膜、紡糸などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)、機械的性質、耐熱性を有する成形品に加工することが可能である。ここでいう成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの各種フィルム、未延伸糸、超延伸糸などの各種繊維などが挙げられる。特に加工性の観点から射出成形であることが好ましい。溶融成形する場合、液晶ポリエステル樹脂組成物の劣化を抑制し、機械強度を向上させる観点から、370℃以下で溶融成形するのが好ましく、360℃以下がより好ましい。
【0065】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、電気・電子部品として好ましく用いることができる。電気・電子部品としては、例えば、パソコン、GPS内蔵機器、携帯電話、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、タブレットやスマートフォンなどの移動通信・電子機器のアンテナに用いられるフレキシブルプリント基板、積層用回路基板、プリント配線基板および三次元回路基板;LEDなどのランプリフレクターやランプソケット、移動通信端末の通信基地局スモールセルやマイクロセル部材、アンテナカバー、筐体、センサー、カメラモジュールのアクチュエータ部品、コネクタ、リレーケースおよびベース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサーなどが挙げられる。なかでも、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能であるため、薄肉複雑形状部を有するコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、カメラモジュールのアクチュエータ部品などに有用である。
【実施例0066】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。表1の製造例中に示した、液晶ポリエステル樹脂(A)の組成および特性評価は以下の方法により測定した。
【0067】
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析
液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析は、1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により求めた。粉砕した成分(A)を5mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H-NMR測定を実施し、7~9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピーク面積比から組成を分析した。
【0068】
(2)液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)測定
示差走査熱量計DSC-7(パーキンエルマー製)により、液晶ポリエステル樹脂(A)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、Tm+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0069】
(3)液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度
高化式フローテスターCFT-500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、Tm+20℃で、剪断速度1000/秒の条件で液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度を測定した。
【0070】
実施例および比較例に用いられる液晶ポリエステル樹脂(A)の製造令を次に示す。
【0071】
[製造例1]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(DHB)352重量部、ハイドロキノン(HQ)89重量部、テレフタル酸(TPA)292重量部、イソフタル酸(IPA)157重量部および無水酢酸1278重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で120分反応させた後、145℃から360℃まで4時間かけて昇温した。その後、重合温度を360℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、所定の撹拌トルクに到達したところで重合を完了させた。次に、直径6mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-1)を得た。
【0072】
[製造例2]
モノマー仕込みを、HBA808重量部、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)88重量部、DHB229重量部、HQ161重量部、TPA428重量部、IPA19重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(A-2)を得た。
【0073】
[製造例3]
モノマー仕込みを、HBA760重量部、HNA88重量部、DHB261重量部、HQ161重量部、TPA476重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(A-3)を得た。
【0074】
【表1】
【0075】
成分(B)
(B-1)扁平ガラス繊維:日東紡(株)製ガラス繊維CSG 3PA-830(扁平化率が4)を用いた。
(B-2)円形ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維ECS03T―747H(扁平化率が2未満)を用いた。
【0076】
[実施例1および2、比較例3および4]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)で、各製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)および成分(B)を表2に示す配合量で二軸押出機に導入した。なおここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は二軸押し出し機の元込め部から、ガラス繊維(B)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。また、ニーディングゾーンを、サイドフィーダーから吐出口の途中の二箇所に組み込んだスクリュー構成とし、その割合をスクリュー全長に対して18%とした(以下、前記割合をニーディングゾーンの割合と記載することがある)。シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂(A)の融点+10℃に設定し、スクリューの回転周速度を19m/minの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0077】
[実施例3]
スクリューの回転周速度を30m/minとした以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0078】
[実施例4]
スクリューの回転周速度を10m/minとした以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0079】
[実施例5]
ニーディングゾーンの割合を12%としてスクリューの回転周速度を10m/minとした以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0080】
[比較例1]
ニーディングゾーンの割合を4%とした以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0081】
[比較例2]
スクリューの回転周速度を24m/minとした以外は比較例1と同様の方法でペレットを得た。
【0082】
前記に示すそれぞれの方法にて得られたペレットを用いて、以下(4)~(6)の評価を行った結果を表2に示す。
【0083】
(4)扁平化率、重量平均繊維長およびD90/Lw
液晶ポリエステル樹脂組成物の試料10gを、空気中において500℃で8時間加熱して樹脂を除去し、残存した成分(B)を、光学式顕微鏡を用いて観察し、無作為に選択した1000個の成分(B)の扁平化率と繊維長を測定し、扁平化率の算術平均値と、式{Σ(Ni×Li)/Σ(Ni×Li)}にて重量平均繊維長(Lw(μm))を算出する。ここで、Liは、選択された成分(B)の繊維長(μm)であり、Niは繊維長Liの成分(B)の本数である。次に、測定によって得られた繊維長とその繊維長の頻度(%)から、短繊維長側から横軸を繊維長(μm)、縦軸を累積頻度(%)とした累積繊維長分布曲線(図1)を描き、累積頻度が90%となる繊維長(μm)をD90として算出し、重量平均繊維長(Lw)との比(D90/Lw)を求めた。なお、繊維長Liの頻度は、式(Ni/1000)×100(%)で求める。
【0084】
(5)成形圧の評価
液晶ポリエステル樹脂組成物を、熱風乾燥機を用いて150℃で3時間乾燥した後、ファナックα30C射出成形機(ファナック製)に供し、シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定し、金型温度90℃、射出速度400mm/sの条件で射出成形を行い、図4に示す、コネクタ成形品の片側の短尺面2に設置したピンゲートG1(ゲート径0.3mm)から液晶ポリエステル樹脂組成物を充填し、端子間ピッチが0.4mm、製品の最小肉厚部(隔壁部3)が0.2mm、外形寸法が幅3mm×高さ2mm×長さ30mmのコネクタ成形品を得たときの成形時のピーク圧力を求めた。これを10ショット行い、ピーク圧力の平均値を成形圧として評価した。成形圧が低いほど優れる。図4は上記コネクタ成形品の斜視図である。
【0085】
(6)エポキシ接着性
液晶ポリエステル樹脂組成物を、熱風乾燥機を用いて150℃で3時間乾燥した後、ファナックロボショットα-30C(ファナック(株)製)射出成形機で、樹脂温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+20℃に設定し、金型温度90℃として、射出速度150mm/sの条件で射出成形し、厚さ3.2mmのASTM1号ダンベル試験片を得た。作製した試験片を二等分となるように切削し、図5に示すようにエポキシ樹脂(住友ベークライト製“ECR-9250K”)を接着面積1cm、2mm厚となるように塗布し、120℃で60分硬化して接着した。その後、室温に戻して24時間静置し、引張試験機(AG500C、島津製作所製)を用いて、スパン間距離を100mm、クロスヘッドスピード1mm/分で引っ張り、該接着面が剥離した時の荷重を試験n数5で測定した。また、接着面が剥離せず、母材が破壊したものについては、そのときの値を測定した。エポキシ接着強度は該荷重を接着面積で除した値(MPa)として示した。エポキシ接着強度が高いほど、エポキシ接着性に優れる。
【0086】
【表2】
【0087】
表2の結果から、特定の構造単位を有する液晶ポリエステル樹脂(A)に対して、繊維長とその分布が特定の範囲に制御された、扁平化率が2~8であるガラス繊維を配合することで初めて、成型性とエポキシ接着性を高いレベルで両立可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、優れた成型性とエポキシ接着性を有するためコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品などの電気・電子部品や機械部品用途に好適である。
【符号の説明】
【0089】
1 繊維長(μm)の軸:矢印の向かう側が長繊維側
2 累積頻度(%)の軸
3 累積繊維長分布曲線
4 繊維長(μm)の軸:矢印の向かう側が長繊維側
5 頻度(%)の軸
6 繊維長分布曲線
7 繊維長(μm)の軸:矢印の向かう側が長繊維側
8 頻度(%)の軸
9 D90/Lwが2.5より大きい繊維長分布曲線の形状の例
10 長尺面
11 短尺面
12 長さ30mm
13 高さ2mm
14 幅3mm
15 ピッチ間距離0.4mm
16 最小肉厚部0.2mm
17 二等分に切削した試験片
G1 ピンゲート
E エポキシ樹脂
図1
図2
図3
図4
図5