(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061965
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】自立膜、積層構造体、素子、電子デバイス、電子機器及びシステム
(51)【国際特許分類】
H10N 30/87 20230101AFI20240430BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240430BHJP
H10N 30/082 20230101ALI20240430BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240430BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H01L41/047
H01L41/187
H01L41/332
C23C14/08
C23C14/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169643
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】721011637
【氏名又は名称】株式会社Gaianixx
(72)【発明者】
【氏名】木島 健
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA02
4K029BA07
4K029BA09
4K029BA13
4K029BB02
4K029CA02
4K029DB03
(57)【要約】
【課題】曲げ強度に優れた素子、電子デバイス、電子機器及びシステム並びにこれらを工業的有利に得ることができる自立膜及び積層構造体を提供する。
【解決手段】結晶基板上に、第1の中間膜として、Hfを含む化合物膜を積層し、ついで第2の中間膜として、Feを含む金属膜を積層した後、そのままで又は他の層を介して、圧電体膜を積層し、前記圧電体膜を積層した後、前記結晶基板、前記第1の中間膜、前記及び第2の中間膜を前記圧電体膜から剥離して、単層構造を有している圧電体膜からなる自立膜を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層構造を有している自立膜であって、 前記自立膜が、圧電体膜であることを特徴とする自立膜。
【請求項2】
可撓性を有する請求項1記載の自立膜。
【請求項3】
前記圧電体膜が、PTO膜又はPZT膜である請求項1又は2記載の自立膜。
【請求項4】
単結晶膜である請求項1~3のいずれかに記載の自立膜。
【請求項5】
圧電体膜と、金属を主成分として含む金属膜とを少なくとも含む積層構造体であって、前記金属が熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属であることを特徴とする積層構造体。
【請求項6】
前記金属膜が、熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属からなる金属膜である請求項5記載の積層構造体。
【請求項7】
前記金属が、Feを含む請求項5又は6に記載の積層構造体。
【請求項8】
前記金属が、Crを含む請求項5~7のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項9】
さらに、導電性酸化膜又は導電性窒化膜を含む請求項5~8のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項10】
前記導電性酸化膜を含み、前記導電性酸化膜が、Sr及び/又はRuを含む請求項9記載の積層構造体。
【請求項11】
前記導電性窒化膜を含み、前記導電性窒化膜が、Hfを含む請求項9又は10に記載の積層構造体。
【請求項12】
可撓性を有する請求項5~11のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項13】
自立膜又は積層構造体を含む素子であって、前記自立膜が請求項1~4のいずれかに記載の自立膜であり、前記積層構造体が請求項5~12のいずれかに記載の積層構造体である素子。
【請求項14】
自立膜、積層構造体又は素子を含む電子デバイス、電子機器又はシステムであって、前記自立膜が請求項1~4のいずれかに記載の自立膜であり、前記積層構造体が請求項5~12のいずれかに記載の積層構造体であり、前記素子が請求項13記載の素子である電子デバイス、電子機器又はシステム。
【請求項15】
結晶基板上に、第1の中間膜を積層し、ついで第2の中間膜を積層した後、そのままで又は他の層を介して、圧電体膜を積層する圧電体膜の製造方法であって、
前記第1の中間膜がHfを含む化合物膜であり、前記第2の中間膜がFeを含む金属膜であることを特徴とする圧電体膜の製造方法。
【請求項16】
前記圧電体膜を積層した後、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離する工程を含む請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
前記結晶基板の剥離を、ウエットエッチングにて行う請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離した後、前記第1の中間膜を前記圧電体膜から剥離する工程を含む請求項16又は17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記第1の中間膜を前記圧電体膜から剥離した後、前記第2の中間膜を前記圧電体膜から剥離する工程を含む請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
結晶基板上に直接又は他の層を介して圧電体膜を積層する工程を含む電子デバイス又は電子機器の製造方法であって、前記圧電体膜を積層した後、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自立膜、積層構造体、素子、電子デバイス、電子機器及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
優れた圧電性、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下、PZTともいう)からなる圧電体薄膜などが検討されており、圧電体薄膜は、不揮発性メモリ(FeRAM)等のメモリ素子、インクジェットヘッドや加速度センサ等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術に応用されている。
【0003】
近年においては、(100)に配向したSi基板上に、(200)に配向したZrO2膜等を介して、(200)に配向したPt膜を形成することで、Pt膜上に、良好な圧電特性を有する圧電体膜を成膜することが検討されている(特許文献1)。しかしながら、成膜時又は圧電素子としての使用時に、曲げ応力によって結晶基板等にクラックや割れなどが生じる問題があり、耐久性や長期使用においてまだまだ満足のいくものではなく、曲げ応力に強い圧電素子が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、曲げ強度に優れた素子、電子デバイス、電子機器及びシステム並びにこれらを工業的有利に得ることができる自立膜又は積層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、結晶基板上に、第1の中間膜としてHfを含む化合物膜を積層し、ついで第2の中間膜としてFeを含む金属膜を積層した後、圧電体膜を積層すると、曲げ強度に優れた圧電素子が容易に実現できることを知見し、このような素子が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 単層構造を有している自立膜であって、 前記自立膜が、圧電体膜であることを特徴とする自立膜。
[2] 可撓性を有する前記[1]記載の自立膜。
[3] 前記圧電体膜が、PTO膜又はPZT膜である前記[1]又は[2]記載の自立膜。
[4] 単結晶膜である前記[1]~[3]のいずれかに記載の自立膜。
[5] 圧電体膜と、金属を主成分として含む金属膜とを少なくとも含む積層構造体であって、前記金属が熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属であることを特徴とする積層構造体。
[6] 前記金属膜が、熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属からなる金属膜である前記[5]記載の積層構造体。
[7] 前記金属が、Feを含む前記[5]又は[6]に記載の積層構造体。
[8] 前記金属が、Crを含む前記[5]~[7]のいずれかに記載の積層構造体。
[9] さらに、導電性酸化膜又は導電性窒化膜を含む前記[5]~[8]のいずれかに記載の積層構造体。
[10] 前記導電性酸化膜を含み、前記導電性酸化膜が、Sr及び/又はRuを含む前記[9]記載の積層構造体。
[11] 前記導電性窒化膜を含み、前記導電性窒化膜が、Hfを含む前記[9]又は[10]に記載の積層構造体。
[12] 可撓性を有する前記[5]~[11]のいずれかに記載の積層構造体。
[13] 自立膜又は積層構造体を含む素子であって、前記自立膜が前記[1]~[4]のいずれかに記載の自立膜であり、前記積層構造体が前記[5]~[12]のいずれかに記載の積層構造体である素子。
[14] 自立膜、積層構造体又は素子を含む電子デバイス、電子機器又はシステムであって、前記自立膜が前記[1]~[4]のいずれかに記載の自立膜であり、前記積層構造体が前記[5]~[12]のいずれかに記載の積層構造体であり、前記素子が前記[13]記載の素子である電子デバイス、電子機器又はシステム。
[15] 結晶基板上に、第1の中間膜を積層し、ついで第2の中間膜を積層した後、そのままで又は他の層を介して、圧電体膜を積層する圧電体膜の製造方法であって、
前記第1の中間膜がHfを含む化合物膜であり、前記第2の中間膜がFeを含む金属膜であることを特徴とする圧電体膜の製造方法。
[16] 前記圧電体膜を積層した後、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離する工程を含む前記[15]記載の製造方法。
[17] 前記結晶基板の剥離を、ウエットエッチングにて行う前記[16]記載の製造方法。
[18] 前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離した後、前記第1の中間膜を前記圧電体膜から剥離する工程を含む前記[16]又は[17]に記載の製造方法。
[19] 前記第1の中間膜を前記圧電体膜から剥離した後、前記第2の中間膜を前記圧電体膜から剥離する工程を含む前記[18]記載の製造方法。
[20] 結晶基板上に直接又は他の層を介して圧電体膜を積層する工程を含む電子デバイス又は電子機器の製造方法であって、前記圧電体を積層した後、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離することを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の素子、電子デバイス、電子機器及びシステムは、曲げ強度に優れており、本発明の自立膜又は積層構造体はこれらを工業的有利に製造できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の積層構造体の好適な実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図2】実施例におけるXRD回折パターンを示す図である。
【
図3】試験例における実施例品の試験片を説明する図である。
【
図4】試験例における比較例品の試験片を説明する図である。
【
図5】試験例における曲げ強度試験結果を示す図である。
【
図6】本発明においてMEMSトランスデューサの実施態様の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の流体排出装置への好適な適用例として、圧電アクチュエータを備えているウエハの一部の断面図の一例を模式的に示す図である。
【
図8】実施例において好適に用いられる成膜装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の自立膜は、単層構造を有している自立膜であって、前記自立膜が、圧電体膜であることを特長とする。本発明においては、前記自立膜が、可撓性を有するのが好ましい。また、前記圧電体膜がPTO膜又はPZT膜であるのも好ましい。また、本発明においては、前記自立膜が単結晶膜であるのが好ましい。このような好ましい範囲によれば、より優れた圧電性、特に自立圧電性に優れた圧電体膜を提供することができる。
【0011】
また、本発明の積層構造体は、圧電体膜と、金属を主成分として含む金属膜とを少なくとも含む積層構造体であって、前記金属が熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属であることを特長とする。なお、「主成分」とは、前記金属膜中の前記金属の原子比が0.5以上の割合であればそれでよい。本発明においては、前記金属膜中の全ての金属元素に対する前記金属の原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。
【0012】
前記金属は、熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属であれば特に限定されず、公知の金属であってよい。前記のマルテンサイト変態する金属としては、例えば、Fe-Cr-Ni、Fe、Fe-Cr-Ni-Cu-Nb、Fe-Ni、Fe-Ni-Co、Fe-Si、Fe-Cr、Fe-Mn、Fe-Mn-C、Fe-Mn-Ni、Fe-Mn-Cr、Fe-C、Fe-N、Fe-Ni-C、Fe-Cr-C、Fe-Cu-C、Fe-Si-C、Fe-Cr-Ni-C、Co、Co-Ni、Co-Fe、Mn-Cu、In-Tl、In-Tl-Li、Na、Zr、Tl、Hf、Ti、Ti-Al、Ti-Cu、Ti-Cr、Ti-Fe、Ti-Mn、Ti-Mo、Ti-V、Ti-Zr、Ti-Al-V、Zr-U、Cu-Al-Ni、Cu-Al、Ag-Cd、Au-Cd、Au-Cd-Cu、Li、Li-Mg、Cu-Zn、U、U-Cr、Hgなどが挙げられる。本発明においては、前記金属が、Fe、Cr又はNiを含むのが好ましく、Fe及びCrを含むのがより好ましく、ステンレスであるのが最も好ましい。このような好ましい範囲によれば、曲げ強度をより優れたものとすることができる。
【0013】
本発明においては、前記圧電体膜と前記金属膜とがそれぞれ略同一の結晶軸方向に配向しているのが好ましく、前記圧電体膜と前記金属膜とがそれぞれ(100)方向に配向しているのがより好ましい。前記の「(100)方向に配向」とは、X線回折法により検出される結晶方位角が(100)方向に配向していればそれでよく、より具体的には、X線回折法により検出される前記金属膜の全ピークに対し、(100)方向のピーク比が50%以上であればそれでよく、好ましくは前記ピーク比が90%以上である。
【0014】
本発明においては、前記金属膜の膜厚が100μm以下であるのが好ましく、膜厚1μm~10μmであるのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、機能膜の結晶成長用中間膜として、より優れたものとなる。
【0015】
前記積層構造体は、結晶基板上に、第1の中間膜としてHfを含む化合物膜を積層し、ついで第2の中間膜としてFeを含む金属膜を積層した後、直接に又は他の層を介して、圧電体膜(以下、「圧電体層」ともいう)を積層することにより、容易に得ることが可能である。本発明においては、前記圧電体膜を積層した後、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離する工程を含むのが好ましい。なお、前記剥離手段は、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離できればそれでよく、公知の剥離手段を用いてよい。前記剥離手段は、前記結晶基板の除去手段であってよく、本発明の目的を阻害しない限り、ドライエッチング及びウエットエッチング等の公知の除去手段も前記剥離に用いることができる。なお、本発明では、前記結晶基板の剥離を、ウエットエッチングにて行うのが好ましい。また、本発明においては、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離した後、前記第1の中間膜を前記圧電体膜から剥離する工程を含むのが好ましく、前記第1の中間膜を前記圧電体膜から剥離した後、前記第2の中間膜を前記圧電体膜から剥離する工程を含むのも好ましい。このようにすることにより、前記自立膜を容易に得ることができる。
【0016】
前記結晶基板(以下、単に「基板」ともいう)は、基板材料等、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の結晶基板であってよい。有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。本発明においては、前記結晶基板が無機化合物を含んでいるのが好ましい。本発明においては、前記基板が、表面の一部または全部に結晶を有するものであるのが好ましく、結晶成長側の主面の全部または一部に結晶を有している結晶基板であるのがより好ましく、結晶成長側の主面の全部に結晶を有している結晶基板であるのが最も好ましい。前記結晶は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、結晶構造等も特に限定されないが、立方晶系、正方晶系、三方晶系、六方晶系、斜方晶系又は単斜晶系の結晶であるのが好ましく、(100)又は(200)に配向している結晶であるのがより好ましい。また、前記結晶基板は、オフ角を有していてもよく、前記オフ角としては、例えば、0.2°~12.0°のオフ角などが挙げられる。ここで、「オフ角」とは、基板表面と結晶成長面とのなす角度をいう。前記基板形状は、板状であって、前記エピタキシャル膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいが、本発明においては、前記基板が、Si基板であるのが好ましく、結晶性Si基板であるのがより好ましく、(100)に配向している結晶性Si基板であるのが最も好ましい。なお、前記基板材料としては、例えば、Si基板の他に周期律表第3族~第15族に属する1種若しくは2種以上の金属又はこれらの金属の酸化物等が挙げられる。前記基板の形状は、特に限定されず、略円形状(例えば、円形、楕円形など)であってもよいし、多角形状(例えば、三角形、正方形、長方形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形など)であってもよく、様々な形状を好適に用いることができる。また、本発明においては、大面積の基板を用いることもでき、このような大面積の基板を用いることによって、エピタキシャル膜の面積を大きくすることができる。
【0017】
また、本発明においては、前記結晶基板が平坦面を有するのが好ましいが、前記結晶基板が表面の一部または全部に凹凸形状を有しているのも、前記エピタキシャル膜の結晶成長の品質をより良好なものとし得るので、好ましい。前記の凹凸形状を有する結晶基板は、表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されていればそれでよく、前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凹凸部が周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ドット状またはストライプ状が好ましく、ドット状がより好ましい。また、凹凸部が周期的かつ規則的にパターン化されている場合には、前記凹凸部のパターン形状が、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの形状であるのが好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、ドットの格子形状を、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子形状にするのが好ましく、三角格子の格子形状にするのがより好ましい。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは100~1000μmである。
【0018】
前記圧電体層は、圧電体からなる圧電体層であれば特に限定されない。前記圧電体も公知の圧電体であってよいが、本発明においては、前記圧電体が、Pb及びTiを含むのが好ましい。また、前記半導体層は、半導体からなる半導体層であれば特に限定されない。前記半導体は公知の半導体であってよいが、本発明においては、前記半導体が、Si、SiC、GaN又はGa2O3を含むのが好ましい。なお、本明細書中、「膜」及び「層」の各用語は、それぞれ場合によって、又は状況に応じて、互いに入れ替えてもよい。
【0019】
また、本発明においては、結晶基板上に、第1の中間膜を積層し、ついで第2の中間膜を積層した後、そのままで又は他の層を介して、前記圧電体層又は前記半導体層が積層するのが好ましい。前記他の層としては、例えば、金属膜、導電性酸化膜又は導電性窒化膜などが挙げられる。本発明においては、前記導電性酸化膜が、Sr及び/又はRuを含むのが好ましく、また、前記導電性窒化膜が、Hfを含むのが好ましい。前記他の層における金属膜としては、前記金属とは異なる金属からなるのが好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、銀パラジウム、銅、ニッケル、又はこれらの合金等が挙げられる。
前記の積層手段は、いずれも公知の成膜手段を用いて積層することができる。本発明においては、前記成膜手段が、蒸着(MBE含む)又はスパッタであるのが好ましい。各層のそれぞれの厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10nm~100μmであり、より好ましくは50nm~30μmである。
【0020】
以上のようにして得られた自立膜又は積層構造体は、公知の手段を用いて、圧電素子又は半導体素子等の素子に好適に用いられる。また、前記素子は、常法に従い、電子デバイスに好適に用いられる。例えば、前記積層構造体を、圧電素子として、電源や電気/電子回路と接続し、回路基板に搭載したり、パッケージしたりすることにより様々な電子デバイスを構成することができる。本発明においては、前記電子デバイスが、圧電デバイスであるのが好ましく、例えば、インクジェットプリンタヘッド、マイクロアクチュエータ、ジャイロスコープ、モーションセンサ等の電子機器における圧電デバイスとして利用可能である。また、例えば、増幅器と整流回路を接続しパッケージすれば、磁気センサなどの各種センサに利用可能である。また、定電圧駆動のメモリにも適用できるし、例えば、蓄電素子と整流電力管理回路を接続すれば、外部からの磁場や振動から電力を発電するエネルギー変換デバイス(エネルギーハーベスタ)となる。なお、前記エネルギー変換デバイスは、電源システムやウェアラブル端末(イヤホン/ヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス(眼鏡)、スマートコンタクトレンズ、人工内耳、心臓ペースメーカーなど)などに組み込まれ利用される。本発明においては、前記積層構造体を、例えばスマートグラス、ARヘッドセット、LiDARシステム向けのMEMSミラー、先端医療向けの圧電MEMS超音波トランスデューサ(PMUT)、商工業用3Dプリンタ向けのピエゾヘッド等に用いることが好ましい。
【0021】
前記電子デバイスは、常法に従い電子機器に好適に用いられる。前記電子機器としては、上記した電子機器以外にも様々な電子機器に適用可能であり、より具体的に例えば、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、振動波モータ、光学機器、振動装置、撮像装置、圧電音響部品や該圧電音響部品を有する音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、各種情報端末等が好適な例として挙げられる。
【0022】
また、前記電子機器は、常法に従いシステムにも適用され、かかるシステムとしては、例えばセンサーシステム等が挙げられる。
【実施例0023】
(実施例1)
Si基板(100)の結晶成長面側をRIEで処理し、窒素の存在下、蒸着法にて、蒸着源の金属と、窒素とを熱反応させ、HfZrN単結晶をSi基板上に形成した。なお、この成膜時の蒸着法の各条件は次の通りであった。
蒸着源 : Hf、Zr
電圧 : 3.5~4.75V
圧力 : 3×10-2~6×10-2Pa
基板温度 : 450~700℃
【0024】
HfZrN単結晶の蒸着において用いた蒸着成膜装置を
図8に示す。
図8の成膜装置は、ルツボに金属源1101a~1101b、アース1102a~1102h、ICP電極1103a~1103b、カットフィルター1104a~1104b、DC電源1105a~1105b、RF電源1106a~1106b、ランプ1107a~1107b、Ar源1108、反応性ガス源1109、電源1110、基板ホルダー1111、基板1112、カットフィルター1113、ICPリング1114、真空槽1115及び回転軸1116を少なくとも備えている。なお、
図8のICP電極1103a~1103bは基板1112の中心側に湾曲した略凹曲面形状又はパラボラ形状を有している。
【0025】
図8に示すように、基板1112を基板ホルダー1111上に係止する。ついで、電源1110と回転機構(図示せず)とを用いて回転軸1116を回転させ、基板1112を回転させる。また、基板112をランプ1107a~1107bによって加熱し、真空ポンプ(図示せず)によって真空槽1115内を排気により真空又は減圧下にする。その後、真空槽1115内にAr源1108からArガスを導入し、DC電源1105a~1105b、RF電源1106a~1106b、ICP電極1103a~1103b、カットフィルター1104a~1104b、及びアース1102a~1102hを用いて基板1112上にアルゴンプラズマを形成することにより、基板1112の表面の清浄化を行う。
【0026】
真空槽1115内にArガスを導入するとともに反応性ガス源1109を用いて反応性ガスを導入する。このとき、ランプヒーターであるランプ1107a~1107bのオンとオフとを交互に繰り返すことで、より良質な結晶成長膜を形成することができるように構成されている。
【0027】
次に、蒸着源の金属として、Fe、Cr及びNiを用いたこと以外、上記と同様にして、SUS304単結晶膜を成膜した。
【0028】
次に、結晶性金属酸化物の単結晶膜の上に、導電膜として、白金(Pt)の金属膜をスパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
圧力 : 1.20×10-1Pa
ターゲット : Pt
電力 : 100W(DC)
厚さ : 100nm
基板温度 : 450~600℃
【0029】
次に、導電膜上に、SRO膜を、スパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
パワー : 150W(RF)
ガス : Ar
圧力 : 1.8Pa
基板温度 : 600℃
厚さ : 20nm
【0030】
次に、SRO膜上に、圧電膜として、PbTiO
3膜を成膜した。得られた積層構造体は、良好な密着性及び結晶性を有する積層構造体であった。また、積層構造体の結晶基板、結晶性金属酸化物の単結晶膜及び導電膜につき、X線回折装置を用いて、それぞれの結晶を測定した。
図2に、XRD測定結果を示す。
図2から明らかなように、良好な結晶性を有するSUS304単結晶膜が形成されており、PbTiO
3膜等の結晶性等も良好であった。
【0031】
PbTiO3膜を成膜した後、水酸化ナトリウムを用いて、Si基板をウエットエッチングにより除去して、PbTiO3膜からSi基板を剥離した。また、HFを用いてウエットエッチングにより、HfZrN膜、Pt膜及びSRO膜をそれぞれ除去し、PbTiO3膜からそれぞれ剥離した。得られた自立膜は単結晶膜であり、可撓性を有していた。
【0032】
(試験例)
試験例として
図3及び
図4のような微小素子の片持ちはりをFIB FB2100 (日立ハイテクノロジーズ製)を用いて作製し、その破壊強度特性をナノインデンター NanoTest Xtreme(Micro Materials社製)にて破壊強度評価したところ
図5のようになった。
図5よりSiの破壊強度は約1GPa程度とほぼ一定値を示した。Si単結晶バルク材の曲げ強度が、300MPa程度(論文)であることを考えると、マイクロマテリアルでは大きな強度を持つことがわかった。さらにSUS304単結晶薄膜の場合は、破壊強度約5GPaと、Si単結晶の約5倍の曲げ強度を有していた。このことは、SUS304単結晶薄膜をMEMSデバイスの梁(可動部分、SOI基板の活性層相当)に用いることで、MEMSデバイスの変位量の大幅な改善に加えて、大幅な寿命特性の改善が期待できる。
【0033】
(適用例)
得られた積層構造体の適用例を、以下、図を用いてより具体的に説明するが、本発明は、これら適用例に限定されるものではない。なお、本発明においては、特に断りがない限り、公知の手段を用いて、前記積層構造体から圧電デバイス等を製造することができる。
【0034】
図6は、本発明において前記積層構造体が好適に用いられるMEMSマイクロフォンを構成する音響MEMSトランスデューサの実施態様を示す。なお、前記MEMSトランスデューサは、音響放出機器(例えば、スピーカー等)を構成することができる。
【0035】
図6の音響MEMSトランスデューサにて構成されるMEMSマイクロフォンは、カンチレバータイプのMEMSマイクロフォンを示しており、2つのカンチレバー・ビーム28A、28Bと空洞30とを有するSi基板21を備えている。各カンチレバー・ビーム28A、28Bは、それぞれの端部で基板21に固定されており、カンチレバー・ビーム8A、8Bの間には隙間9が設けられている。なお、カンチレバー・ビーム8A、8Bは、例えば、複数の圧電層(PZT膜)26a、26bを含む積層構造体によって形成され、複数の電極層すなわちPt膜24a、24b、24c及びSRO膜25a、25b、25c、25dと交互になっている。Pt膜24aは、SUS膜23上に設けられており、SUS膜23上には、HfZrN膜23が設けられている。SiO
2やSiN等を用いた場合に比べ、HfZrN膜23を用いると、Si基板との密着性及び結晶性に優れたものとなり、その上に複数の層に至るまで結晶性をより向上させることができ、さらには、圧電特性や耐久性にもより優れたものとなる。
【0036】
図7は、本発明において前記積層構造体が好適に用いられる印刷用途、特にインクジェットプリントヘッドの態様で使用することができる流体排出装置への適用例を示し、具体的には、電極層として、Pt膜34a、34b及びSRO膜35a、35bを含み、かつ圧電膜としてPZT膜36を含む圧電アクチュエータを備えているウエハの一部の断面図を示す。
図7のウエハは、前記圧電アクチュエータの他に、流体を収容するためのチャンバー41を備えている。チャンバー41は、タンク(図示せず)から流路40を介して流体を取り込めるように構成されている。また、
図10のウエハは、Si基板31を含み、その上に、HfZrN膜32及びSUS膜33が積層されており、チャンバー41に面している。
図10では、HfZrN膜32を用いることにより、SiO
2やSiN等を用いた場合に比べ、Si基板との密着性及び結晶性により優れたものとしており、その上に複数の層に至るまで結晶性をより向上させており、さらには、圧電特性や耐久性にもより優れたものとなっている。なお、HfZrN膜32は、例えば、上面図(図示せず)において四角形の形状を有しており、かかる形状は、例えば、正方形、長方形、角が丸い長方形、平行四辺形等のいずれであってもよい。
【0037】
SUS膜33の上には、Pt膜34a、SRO膜35a、圧電膜(PZT膜)36、SRO膜35b、及びPt膜34bが順に積層されており、圧電アクチュエータを構成している。また、前記圧電アクチュエータは、電極34a及び35a、圧電膜36、並びに電極34b及び35b上に延びる絶縁膜37をさらに備えている。絶縁膜37は、電気絶縁に使用される誘電体材料を含むが、かかる誘電体材料は公知の誘電体材料であってよく、例えばSiO2層、SiN層又はAl2O3層であってよい。なお、絶縁膜を構成材料として含む絶縁層の厚さは特に限定されないが、好ましくは、約10nm~約10μmの間の厚さである。また、導電路39は、絶縁層(絶縁膜)37上に設けられ、それぞれ電極34a及び35a並びに電極34b及び35bに接触し、使用時に選択的アクセスを可能にしている。なお、導電路の構成材料は、公知の導電材料であってよく、このような導電材料としては、例えば、アルミニウム(Al)等が好適な例として挙げられる。また、パッシベーション層42は、絶縁層37、電極34b及び35b、並びに導電路39上に設けられている。パッシベーション層42は、前記圧電アクチュエータのパッシベーションに使用される誘電体材料から構成されていればよく、かかる誘電体材料も特に限定されず、公知の誘電体材料であってよい。前記誘電体材料としては、例えば、SiNまたはSION(シリコンオキシナイトレート)等が好適な例として挙げられる。前記パッシベーション層の厚さは特に限定されないが、好ましくは約0.1μm~約3μmの間の厚さである。また、導電パッド38も同様に前記圧電アクチュエータに沿って設けられ、導電路39に電気的に接続されている。なお、パッシベーション層42は、圧電体を湿度等から守るバリア層として機能する。