(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061984
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】神経成長因子産生抑制剤、皮膚外用組成物、及び、尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20240430BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20240430BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20240430BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240430BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P17/10
A61K31/375
A61K31/704
A61Q19/00
A61K8/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169678
(22)【出願日】2022-10-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「第40回日本美容皮膚科学会総会・学術大会 講演要旨」が記載された「Aesthetic Dermatology VOL.32 NO.2 通巻100号」のp.247「スキントラブルに対する薬用コンシーラーの使用試験」にて公開、および、口頭発表により公開(いずれも2022年8月6日に公開)
(71)【出願人】
【識別番号】000112266
【氏名又は名称】ピアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤本 智美
(72)【発明者】
【氏名】西山 雄基
(72)【発明者】
【氏名】萬本 詩理
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 節子
(72)【発明者】
【氏名】和田 みゆ紀
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD531
4C083AD532
4C083AD641
4C083AD642
4C083CC02
4C083EE14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA18
4C086EA10
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA20
4C086ZA89
4C088AB66
4C088BA08
4C088ZA20
4C088ZA89
(57)【要約】
【課題】 少なくとも皮膚における神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる神経成長因子産生抑制剤、及び、皮膚外用組成物などを提供することを課題とする。
【解決手段】 ユキノシタ抽出物及びアスコルビン酸誘導体のうち少なくとも一方を含む、神経成長因子産生抑制剤などを提供する。また、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む、皮膚外用組成物などを提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユキノシタ抽出物及びアスコルビン酸誘導体のうち少なくとも一方を含む、神経成長因子産生抑制剤。
【請求項2】
グリチルリチン酸塩をさらに含む、請求項1に記載の神経成長因子産生抑制剤。
【請求項3】
前記ユキノシタ抽出物と前記アスコルビン酸誘導体と前記グリチルリチン酸塩とを含む、請求項2に記載の神経成長因子産生抑制剤。
【請求項4】
ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む、皮膚外用組成物。
【請求項5】
尋常性ざ瘡を予防または治療するための、請求項4に記載の皮膚外用組成物。
【請求項6】
尋常性ざ瘡を発症又は悪化させる自己行動を抑制するための、請求項4又は5に記載の皮膚外用組成物。
【請求項7】
前記自己行動が、顔面部での掻破行動である、請求項6に記載の皮膚外用組成物。
【請求項8】
尋常性ざ瘡の前兆症状を抑制するための、請求項4又は5に記載の皮膚外用組成物。
【請求項9】
尋常性ざ瘡症状治癒後の色素沈着を予防するための、請求項4又は5に記載の皮膚外用組成物。
【請求項10】
ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む皮膚外用組成物を皮膚に塗布するステップを含む、尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経成長因子産生抑制剤、皮膚外用組成物、及び、尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚におけるかゆみなどの知覚を過敏にさせる神経成長因子(NGF)の生成を抑制できる神経成長因子生成抑制剤、及び、斯かる抑制剤を含む皮膚外用剤が知られている。
【0003】
この種の神経成長因子生成抑制剤などとしては、例えば、バラ科(Rosaceae)バラ属(Rosa)の植物であるダマスクバラ(Rosa damascena)の溶媒抽出物を含有するものが知られている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載の神経成長因子生成抑制剤、及び、該抑制剤を含む皮膚外用剤は、皮膚に塗布されると、神経成長因子(NGF)の生成を抑制できることから、かゆみ等を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かゆみ等を抑えるべく、神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる神経成長因子産生抑制剤、及び、該抑制剤を含む皮膚外用組成物については、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0007】
そこで、本発明は、神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる神経成長因子産生抑制剤を提供することを課題とする。また、該神経成長因子産生抑制剤を含む皮膚外用組成物を提供することを課題とする。また、該皮膚外用組成物によって、尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る神経成長因子産生抑制剤は、ユキノシタ抽出物及びアスコルビン酸誘導体のうち少なくとも一方を含む。
【0009】
本発明に係る皮膚外用組成物は、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む。
【0010】
本発明に係る尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法は、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む皮膚外用組成物を皮膚に塗布するステップを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の神経成長因子産生抑制剤、及び、皮膚外用組成物は、少なくとも皮膚における神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる。また、本発明の尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法は、皮膚における神経成長因子(NGF)の産生抑制によって、尋常性ざ瘡の発症を予防できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】神経成長因子(NGF)の発現量について、各種成分を用いて評価した結果を表すグラフ。
【
図2】尋常性ざ瘡について人による評価試験(モナディックテスト)の結果を表すグラフ。
【
図3】尋常性ざ瘡について人による評価試験(モナディックテスト)の結果を表すグラフ。
【
図4】尋常性ざ瘡について人による評価試験(モナディックテスト)の結果を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る神経成長因子産生抑制剤の一実施形態について以下に説明する。
【0014】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、ユキノシタ抽出物及びアスコルビン酸誘導体のうち少なくとも一方を含む。
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤によれば、少なくとも皮膚における神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる。
【0015】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、ユキノシタ抽出物と、アスコルビン酸誘導体とを少なくとも含むことが好ましい。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。
【0016】
より好ましくは、本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、グリチルリチン酸塩をさらに含む。換言すると、本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、ユキノシタ抽出物及びアスコルビン酸誘導体のうち少なくとも一方と、グリチルリチン酸塩とを含むことが好ましい。
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、グリチルリチン酸塩をさらに含むことにより、神経成長因子(NGF)の産生をさらに抑制できる。
【0017】
さらに好ましくは、本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、ユキノシタ抽出物とアスコルビン酸誘導体とグリチルリチン酸塩とを含む。
これにより、神経成長因子(NGF)の産生をよりさらに抑制できる。
【0018】
上記のユキノシタ抽出物は、ユキノシタ科ユキノシタ属のユキノシタ(学名:Saxifraga stolonifera Curtis(Saxifragaceae))の全草(部位)に対して抽出溶媒による抽出処理を施して得られたものである。
【0019】
上記のユキノシタ抽出物は、溶媒によって希釈された希釈液、濃縮された濃縮液、又は溶媒を除去した乾燥物の態様になり得る。具体的には、各抽出物は、例えば、液体状、ペースト状、ゲル状、粉末状などの態様になり得る。
【0020】
上記のユキノシタ抽出物の抽出溶媒としては、水、又は、メタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどの脂肪族多価アルコール;アセトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;アセトニトリル;酢酸エチルなどのエステル類;キシレン、ベンゼン、トルエンなどの芳香族類;クロロホルムなどハロゲン化アルキル類などの有機溶媒が挙げられる。
これらの抽出溶媒は、1種が単独で、又は2種以上が混合されて用いられ得る。混合されてなる抽出溶媒の混合比は、特に限定されるものではなく、適宜調整される。
【0021】
抽出溶媒は、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールなどの脂肪族アルコールと水とを含む抽出溶媒であってもよく、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールの少なくとも一方と水とを含む抽出溶媒であってもよく、エタノール又は1,3-ブチレングリコールの一方と水とを含む抽出溶媒であってもよい。抽出溶媒は、脂肪族アルコールのみ(脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコール)であってもよい。
【0022】
抽出の方法としては、特に制限されず、従来公知の一般的な抽出方法を採用することができる。
また、例えば、抽出溶媒量が抽出原料の5倍量以上15倍量以下(質量比)であり、抽出温度が20℃以上80℃以下であり、抽出時間が2時間以上3日間以下である。抽出した後においては、必要に応じて、適宜、ろ過、脱臭、脱色などの精製処理を行うことができる。抽出処理の後、1,3-ブチレングリコールなどによって希釈されたものを採用してもよい。
【0023】
上記のユキノシタ抽出物を含む原料としては、市販製品(例えば、製品名「ユキノシタ抽出液BG」 丸善製薬社製 乾燥後の固形分を2質量%含有)又は製品名「ファルコレックスユキノシタMB」一丸ファルコス社製などを用いることができる。
【0024】
上記のアスコルビン酸誘導体としては、アスコルビン酸グルコシド、リン酸アスコルビルマグネシウム、リン酸アスコルビルナトリウム、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、及び、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アスコルビン酸グルコシドがより好ましく、L-アスコルビン酸2-グルコシドがさらに好ましい。
【0025】
上記のグリチルリチン酸塩としては、グリチルリチン酸カリウム塩、又は、グリチルリチン酸ナトリウム塩などが挙げられる。水溶性がより良好である等の点で、上記のグリチルリチン酸塩は、グリチルリチン酸ジカリウムであることが好ましい。
なお、上記のグリチルリチン酸塩を含む原料としては、例えば甘草、甘草エキス、甘草末などが挙げられる。これら原料を本実施形態の神経成長因子産生抑制剤に配合することによっても、本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、グリチルリチン酸塩を含むこととなる。
【0026】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、乾燥物換算で、上記のユキノシタ抽出物を0.001質量%以上0.1質量%以下含むことが好ましい。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、乾燥物換算で、上記のユキノシタ抽出物を0.0001質量%以上含んでもよい。また、上記のユキノシタ抽出物を乾燥物換算で、1.0質量%以下含んでもよい。
なお、乾燥物換算とは、抽出物から溶媒を除いた残渣(乾燥物)の質量に換算することである。
【0027】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、上記のアスコルビン酸誘導体を0.01質量%以上5.0質量%以下含むことが好ましい。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。上記のアスコルビン酸誘導体を0.1質量%以上含むことがより好ましく、1.0質量%以上含むことがさらに好ましく、2.0質量%以上含むことがよりさらに好ましい。
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、上記のアスコルビン酸誘導体を0.001質量%以上含んでもよい。また、上記のアスコルビン酸誘導体を10質量%以下含んでもよい。
【0028】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、上記のグリチルリチン酸塩を0.005質量%以上0.50質量%以下含むことが好ましい。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。上記のグリチルリチン酸塩を0.01質量%以上含むことがより好ましい。
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤は、上記のグリチルリチン酸塩を0.001質量%以上含んでもよい。また、上記のグリチルリチン酸塩を1.0質量%以下含んでもよい。
【0029】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤において、上記のユキノシタ抽出物(乾燥物換算)に対する上記のグリチルリチン酸塩の質量比が、1以上30以下であることが好ましい。斯かる量比は、3以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。
斯かる質量比は、0.3以上であってもよい。また、斯かる質量比は、25以下であってもよく、50以下であってもよい。
【0030】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤において、上記のグリチルリチン酸塩に対する上記のアスコルビン酸誘導体の質量比が、0.1以上50以下であることが好ましい。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。
斯かる質量比は、0.01以上であってもよく、0.1以上であってもよく、25以上であってもよい。また、斯かる質量比は、250以下であってもよい。
【0031】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤において、上記のユキノシタ抽出物(乾燥物換算)に対する上記のアスコルビン酸誘導体の質量比が、1以上2000以下であることが好ましい。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。
斯かる質量比は、5以上であってもよく、50以上であってもよい。また、斯かる質量比は、1500以下であってもよく、500以下であってもよい。
【0032】
本実施形態の神経成長因子産生抑制剤において、上記のユキノシタ抽出物(乾燥物換算)に対する上記のグリチルリチン酸塩の質量比が、好ましくは3以上25以下であり、上記のグリチルリチン酸塩に対する上記のアスコルビン酸誘導体の質量比が、好ましくは3以上50以下であり、上記のユキノシタ抽出物(乾燥物換算)に対する上記のアスコルビン酸誘導体の質量比が、好ましくは50以上500以下である。これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。
【0033】
次に、本発明に係る皮膚外用組成物の一実施形態について以下に説明する。
【0034】
本実施形態の皮膚外用組成物は、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む。
【0035】
本実施形態の皮膚外用組成物は、例えば、ユキノシタ抽出物と、アスコルビン酸誘導体とを少なくとも含む。又は、本実施形態の皮膚外用組成物は、例えば、ユキノシタ抽出物と、グリチルリチン酸塩とを少なくとも含む。又は、本実施形態の皮膚外用組成物は、例えば、アスコルビン酸誘導体と、グリチルリチン酸塩とを少なくとも含む。
【0036】
本実施形態の皮膚外用組成物によれば、皮膚における神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる。神経成長因子(NGF)の産生を抑制できるため、皮膚におけるかゆみの誘発を抑えることができる。よって、少なくとも神経成長因子(NGF)によってかゆみが誘発される部分を、自分の指で触る(ひっかく等)行動が抑制され得る。
かゆみは、例えば尋常性ざ瘡(いわゆるニキビ)が発症する前の部位でも生じ、また、尋常性ざ瘡(いわゆるニキビ)が発症した後の部位でも生じる。かゆみが生じる主な原因の1つは、神経成長因子(NGF)の産生であると広く認識されているところ、本実施形態の皮膚外用組成物によって、上記の理由によりかゆみを抑制できることから、自分の指で触る(ひっかく等)等の自己行動が抑制される。斯かる自己行動の抑制により、尋常性ざ瘡(いわゆるニキビ)が発症すること(ニキビ症状へ進行とすること)を抑制できる。また、斯かる自己行動の抑制により、発症したニキビをさらに悪化させることを抑制できる。
【0037】
好ましくは、本実施形態の皮膚外用組成物は、ユキノシタ抽出物と、アスコルビン酸誘導体と、グリチルリチン酸塩とを含む。
これにより、神経成長因子(NGF)の産生をより抑制できる。
【0038】
なお、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩に関わるそれぞれの詳しい説明は、上述した通りである。また、本実施形態の皮膚外用組成物における、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩のそれぞれの好ましい含有量についても、上述した通りである。また、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩の含有量の好ましい質量比についても、上述した通りである。
【0039】
上記の神経成長因子産生抑制剤及び皮膚外用組成物(以下、単に組成物ともいう)は、通常、いずれも水を含む。また、上記の成分の他に、界面活性剤、増粘剤、pH調整材、又は防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0040】
本実施形態において、上記の組成物の各性状は、特に限定されないが、例えば液状、粘稠状(クリーム状若しくはジェル状など)、又は、固形状(固形粉体状若しくは固形スティック状など)である。
【0041】
本実施形態の組成物は、一般的な方法によって製造できる。
例えば、配合する各成分を混合し、撹拌することによって上記の組成物を製造できる。撹拌するための装置としては、一般的なものを使用できる。必要に応じて、加温しつつ撹拌してもよい。
【0042】
本実施形態の組成物は、例えば、尋常性ざ瘡(いわゆるニキビ)を予防または治療するための皮膚外用組成物である。
また、本実施形態の皮膚外用組成物は、例えば、尋常性ざ瘡を発症又は悪化させる自己行動を抑制するための皮膚外用組成物である。
【0043】
具体的には、本実施形態の組成物は、例えば、まだニキビが生じていない部位に塗布されることにより、ニキビの発症を抑制するための組成物である。ニキビが生じる前の段階であっても、神経成長因子(NGF)の産生によって、その部位にかゆみや違和感が生じ得るところ、上述したように神経成長因子(NGF)の産生が抑制されることにより、自分の指で触る若しくはひっかく等の自己行動を抑えることができる。斯かる自己行動は、まだニキビが発症していない部位におけるニキビの発症を促し得ることから、斯かる自己行動を抑えることによって、ニキビの発症を抑えることができる。すなわち、尋常性ざ瘡を予防できる。
【0044】
本実施形態の組成物は、例えば、ニキビが生じてしまった(発症した)部位、又は、ニキビを生じる前兆としてのムズムズ感や痒みを感じた部位における自己行動(ニキビ周辺の皮膚をさわる、ニキビ周辺の皮膚をひっかく、角栓を押し出す、ニキビをさわる、ニキビを引っ掻く、ニキビを潰すなど)を抑制できる。生じたニキビ付近では、神経成長因子(NGF)の産生などが原因で、かゆみが生じ得る。かゆみが誘発されることで、ニキビを触ったりひっかいたりすると、ニキビ症状がさらに悪化してしまう。これに対して、本実施形態の組成物によってかゆみを抑制できることから、上記のごとき自己行動(ニキビを悪化させる悪化行動)を抑制できる。そのため、ニキビの悪化を抑制でき、ニキビの治療へとつながり得る。
【0045】
上記のごとく説明したニキビを悪化させる自己行動としては、具体的には、顔面部での掻破行動(ニキビをつぶす、触る、ひっかく、どの位ニキビがあるか確かめるためにこする、又は、膿を出すために押したりつぶしたりする)などが挙げられる。なお、ニキビが生じ得る皮膚の一部であれば、顔面部に限定されず、首、背中又は頭皮などの皮膚であっても上記の自己行動が起こり得る。
【0046】
さらには、本実施形態の皮膚外用組成物は、例えば、尋常性ざ瘡の前兆症状を抑制するための皮膚外用組成物である。
上述したように、ニキビが生じる前の段階であっても、神経成長因子(NGF)の産生によって、その部位にかゆみや違和感が生じ得る。これに対して、本実施形態の組成物は、神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる。よって、ニキビがまだ発症していない状態で起こる前兆症状(ムズムズ感や痒みなど)を抑制できる。
【0047】
加えて、本実施形態の皮膚外用組成物は、例えば、尋常性ざ瘡症状治癒後の色素沈着を予防するための皮膚外用組成物である。
尋常性ざ瘡症状による不快感に対して、上記のごとき自分の指で触るといった自己行動を行うと、発症部位の炎症をさらに悪化させることから、炎症によって生じる赤みなどの色素沈着が、尋常性ざ瘡症状の治癒後であっても残存し得る。
これに対して、本実施形態の組成物は、神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる。よって、自己行動を抑えて炎症のさらなる悪化を抑制することにより、尋常性ざ瘡症状が治癒した後の上記のごとき色素沈着を予防できる。
【0048】
本実施形態の組成物は、例えば、皮膚などに塗布されて使用される。上記の組成物は、例えば、顔の皮膚、首の皮膚、手・腕・足・脚・若しくは胴体などの皮膚、頭皮、鼻孔・唇・耳・生殖器・肛門などにおける粘膜に塗布されることが可能な人体への外用剤である。また、上記の組成物は、入浴剤の用途で使用されてもよく、皮膚貼付剤の用途で使用されてもよい。上記の組成物は、薬機法上の化粧料、医薬部外品、医薬品等の分類には特に拘束されない。
【0049】
上記の組成物は、例えば、素肌に塗布してもよく、スキンケア組成物又はメイクアップ組成物などの化粧用組成物に重ねて塗布してもよい。例えば、少なくとも体質顔料と着色顔料とを含有するファンデーションなど(メイクアップ組成物)を塗布する前又は後に、斯かるファンデーションなどに重ねて使用されてもよい。
【0050】
続いて、上述した組成物を用いて尋常性ざ瘡の発症を予防する方法、尋常性ざ瘡を改善させる方法、尋常性ざ瘡の悪化を抑制する方法などについて説明する。
以下、本発明の尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法を挙げて、斯かる方法の一実施形態について詳しく説明する。
【0051】
本実施形態の尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法(以下、本実施形態の方法と称する)は、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む皮膚外用組成物を皮膚に塗布するステップ(以下、塗布ステップと称する)を含む。
本実施形態の方法は、例えば上述した神経成長因子産生抑制剤又は皮膚外用組成物(以下、単に組成物ともいう)を用いて実施される。
【0052】
塗布ステップでは、上記の組成物を、皮膚に塗布する。上記の組成物は、例えば、ニキビが発症していない皮膚に塗布してもよく、又は、ニキビが発症した皮膚に塗布してもよい。
【0053】
塗布ステップを実施することにより、上述した理由により、ニキビの発症を抑え、尋常性ざ瘡を予防できる。また、ニキビの悪化を抑制でき、ニキビの治療へ導くことができる。
【0054】
本実施形態の方法は、皮膚の外観を改善させる美容上の目的で、非治療的に実施できる。美容上の目的としては、例えば、皮膚に潤いを与える目的、皮膚のハリを出す目的、皮膚のキメを細かく見せる目的、皮膚の色味をより均一に近づける目的、皮膚のシワを目立たなくする目的、又は皮膚の色素沈着(シミ)を目立たなくする目的などが挙げられる。
【0055】
本発明の神経成長因子産生抑制剤、皮膚外用組成物、及び、尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の実施形態に限定されるものではない。また、本発明では、一般の皮膚用化粧料、皮膚外用剤、化粧方法などにおいて採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【0056】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
ユキノシタ抽出物及びアスコルビン酸誘導体のうち少なくとも一方を含む、神経成長因子産生抑制剤。
(2)
グリチルリチン酸塩をさらに含む、上記(1)に記載の神経成長因子産生抑制剤。
(3)
前記ユキノシタ抽出物と前記アスコルビン酸誘導体と前記グリチルリチン酸塩とを含む、上記(1)又は(2)に記載の神経成長因子産生抑制剤。
(4)
ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む、皮膚外用組成物。
(5)
前記ユキノシタ抽出物及び前記アスコルビン酸誘導体のうち少なくとも一方と、前記グリチルリチン酸塩とを含む、上記(4)に記載の皮膚外用組成物。
(6)
前記ユキノシタ抽出物及び前記アスコルビン酸誘導体を少なくとも含む、上記(4)に記載の皮膚外用組成物。
(7)
前記ユキノシタ抽出物、前記アスコルビン酸誘導体、及び前記グリチルリチン酸塩を含む、上記(4)に記載の皮膚外用組成物。
(8)
尋常性ざ瘡を予防または治療するための、上記(4)乃至(7)のいずれかに記載の皮膚外用組成物。
(9)
尋常性ざ瘡を発症又は悪化させる自己行動を抑制するための、上記(4)乃至(7)のいずれかに記載の皮膚外用組成物。
(10)
前記自己行動が、顔面部での掻破行動である、上記(9)に記載の皮膚外用組成物。
(11)
尋常性ざ瘡の前兆症状を抑制するための、上記(4)乃至(10)のいずれかに記載の皮膚外用組成物。
(12)
尋常性ざ瘡症状治癒後の色素沈着を予防するための、上記(4)乃至(11)のいずれかに記載の皮膚外用組成物。
(13)
ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む皮膚外用組成物を皮膚に塗布するステップを含む、尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法。
(14)
ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む皮膚外用組成物を皮膚に塗布するステップを含む、尋常性ざ瘡の症状悪化を抑制するための方法。
(15)
ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む皮膚外用組成物を皮膚に塗布するステップを含む、尋常性ざ瘡を治療するための方法。
(16)
ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、及びグリチルリチン酸塩からなる群より選択される少なくとも2種を含む皮膚外用組成物を皮膚に塗布するステップを含む、皮膚への掻破行動の抑制方法。
【実施例0057】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
以下の原材料を用いて、神経成長因子産生抑制剤(皮膚外用組成物)を調製した。以下、調製した製剤を単に組成物という。
[原材料]
(ユキノシタ抽出物)-以下の表中において「抽出物」で示す
製品名「ユキノシタ抽出液BG」 丸善製薬社製
抽出部位:全草、抽出溶媒:1,3-BG、固形分濃度:2質量%
(アスコルビン酸誘導体)-以下の表中において「AA-2G」で示す
・L-アスコルビン酸2-グルコシド(市販品)
(グリチルリチン酸塩)-以下の表中において「GK2」で示す
・グリチルリチン酸ジカリウム(市販品)
【0059】
(試験例1~22)
表1に示す配合組成で、各試験例の組成物を製造した。
【0060】
【0061】
製造した各組成物を使用して、以下のようにして性能評価を行った。
【0062】
<神経成長因子(NGF)発現量の測定>
各試験例において、NGF発現増強物質としてサブスタンスPを10nM濃度で使用した。サブスタンスPは、11のアミノ酸からなる神経ペプチドであり、タキキニンの1種である。サブスタンスPを10nM濃度で適用することにより、サブスタンスPを適用しなかった場合よりも、NGF発現量が約1.13倍となった。
なお、グリチルリチン酸ジカリウムは、NGF発現を抑制する物質として知られている。
【0063】
評価結果を
図1によって示す。
図1に示すように、ユキノシタ抽出物又はアスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸グルコシド)によって、神経成長因子(NGF)の発現を抑制できた。
また、
図1に示すように、ユキノシタ抽出物とグリチルリチン酸塩とを併用することにより、また、アスコルビン酸誘導体とグリチルリチン酸塩とを併用することによって、神経成長因子(NGF)の発現をより抑制できた。この結果は、少なくとも2成分を併用したことによって相乗的に発揮されたといえる。
また、ユキノシタ抽出物とアスコルビン酸誘導体とを併用した場合、これら2成分の質量比が特定範囲内であることにより、神経成長因子(NGF)の発現をさらに抑制できた。アスコルビン酸誘導体とグリチルリチン酸塩とを併用した場合も、これら2成分の質量比が特定範囲内であることにより、神経成長因子(NGF)の発現をさらに抑制できた。
さらに、グリチルリチン酸塩とユキノシタ抽出物とアスコルビン酸誘導体とを併用することによって、2成分を併用した場合よりも、神経成長因子(NGF)の発現をより抑制できた。
【0064】
<ヒトによる評価>
ニキビに悩みを持つ成人女性による評価を実施した。
(評価対象者)
・20~39歳女性
ニキビ頻度:2週間以内に少なくとも1回はニキビを発症する(評価試験開始前の段階で赤いニキビが1個以上ある)
化粧水の使用頻度:週に5日以上使■
ニキビに対する対応:ニキビ付近の肌を指でさわる、肌をひっかく、ニキビをさわる、ニキビを引っ掻く、ニキビを潰す、角栓を押し出す、といったニキビ悪化行動を自己で行っている
(評価サンプル)
・実施製品
ユキノシタ抽出物(乾燥物換算で0.02質量%)とアスコルビン酸グルコシド(2質量%)とグリチルリチン酸ジカリウム(0.08質量%)とを少なくとも含む組成物(クリーム)を使用
・比較製品
医薬部外品の市販製品(トラネキサム酸及びグリチルリチン酸ジカリウムを含有)
(テスト形式)
モナディックテスト(2群の評価結果を、有意差検定で判定する■法)
一方の群(総数60名)-上記の実施製品を使用
他方の群(総数67名)-上記の比較製品を使用
(評価期間)
8週間(ただし、1週間後、2週間後、4週間後においてもそれぞれ評価)
【0065】
上記のヒトによる評価結果をグラフ化して
図2~
図4に示す。
なお、
図2~
図4において、p値が0.05未満であった場合に*を付記し、p値が0.01未満であった場合に**を付記している。後の表2~表5も同様である。
【0066】
図2及び
図3で示された結果は、評価対象者のうち20才以降にニキビを発症した対象者をピックアップして、評価結果を解析した結果を示す。一方の群で25名を、他方の群で27名をピックアップした結果である。
【0067】
図2(a)のグラフは、上記のニキビ悪化行動のうちいずれかの悪化行動が抑制された対象者(全くしなかった又は悪化行動回数が減った対象者)の割合(%)を示す。
図2(b)のグラフは、上記のニキビ悪化行動のうちいずれかの悪化行動を全くしなかった対象者の割合(%)を示す。
図2(c)のグラフは、上記のニキビ悪化行動のすべてが抑制された対象者(全くしなかった及び悪化行動回数が減った対象者)の割合(%)を示す。
一方、
図3(a)のグラフは、上記のニキビ悪化行動のそれぞれについて、全くしなかった対象者の割合(%)を示す。
図3(b)のグラフは、上記のニキビ悪化行動のそれぞれについて、全く行わず且つ悪化行動回数が減った対象者の割合(%)を示す。
【0068】
図2及び
図3に示す結果から把握されるように、ユキノシタ抽出物とアスコルビン酸グルコシドとグリチルリチン酸ジカリウムとを少なくとも含む組成物によって、ニキビの発生(発症)要因及び発症したニキビの悪化要因となる自己による“悪化行動(さわる、ひっかく、つぶす等)”を抑制することが抑制できた。悪化行動が抑制されたことにより、ニキビ症状の進行を抑制できることが分かった。
【0069】
上記のヒトによる評価(モナディックテスト)の結果についての解析結果をさらに示す。なお、上記のヒトによる評価では、上述した評価項目以外に、以下の表2及び表3に示すような評価項目についても4段階で評価を実施した。
具体的には、各評価項目について、「ぜひ購入したい」のトップボックス値(TB値)、「ぜひ+やや購入したい」のトータルポジティブ値(TP値)、「どちらともいえない」のドントノウ値「DK値」、及び、「購入したくない」のトータルネガティブ値「TN値」の4段階で評価対象者に評価してもらった。
表2は、一方の群の全部(60名)、他方の群の全部(67名)について評価結果を解析した結果を示す。有意差があった評価項目について示す。
表3は、評価対象者のうち20才以降にニキビを発症した対象者をピックアップして、評価結果を解析した結果を示す。一方の群で25名を、他方の群で27名をピックアップした結果である。有意差があった評価項目について示す。
表2の結果をグラフ化して
図4(a)に示し、表3の結果をグラフ化して
図4(b)に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
表2及び表3、並びに、
図4に示す結果から把握されるように、特に、「ニキビの腫れが引いた後の、肌の赤み(ニキビ跡の赤み)が薄くなる」、及び、「ニキビができそうという予感や違和感(ムズムズ、しこりなど)の症状が治まる」という評価項目においては、実施製品の方が、比較製品よりも有意差ありで優れていた。
【0073】
以上の結果から把握されるように、上記の実施形態に相当する皮膚外用組成物(神経成長因子産生抑制剤)によって、神経成長因子(NGF)の発現を抑制することができた。よって、神経成長因子(NGF)の産生を抑制できる。これにより、皮膚における少なくともかゆみの誘発を抑制できる。従って、尋常性ざ瘡などの発症前及び発症後におけるかゆみの誘発を抑制でき、これにより、尋常性ざ瘡の発症前及び発症後における、自己による掻破行動などを抑制できる。
本発明の神経成長因子産生抑制剤及び皮膚外用組成物は、例えば、尋常性ざ瘡などが原因のかゆみを抑える目的で、顔、胴体、手足、腕、若しくは脚などにおける皮膚に塗布されて使用される。
本発明の尋常性ざ瘡の発症を予防するための方法、尋常性ざ瘡の症状悪化を抑制するための方法、尋常性ざ瘡を治療するための方法、及び、皮膚への掻破行動の抑制方法は、尋常性ざ瘡の発症を抑え、又は尋常性ざ瘡の悪化を抑制して治療へと導く目的で、顔面などの皮膚に適用される。