(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061987
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】タイヤ摩耗量予測方法、タイヤ摩耗量予測システム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
G01M17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169690
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 寛治
(57)【要約】
【課題】予測精度を向上させたタイヤ摩耗量予測技術を提案する。
【解決手段】車両走行中に加速度センサが計測した車両の加速度の前後方向及び左右方向の2方向それぞれを細分化した複数の区間を設定し、2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定し、複数個の計測データをそれぞれいずれかの走行モードに分類し、一部の複数の走行モードを使用モードに設定し、各々の使用モードの頻度を算出し、各々の使用モードについて前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得し、各々の使用モードについてタイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を取得し、各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出し、各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行中に加速度センサが計測した車両の前後方向及び左右方向の少なくとも2方向の加速度を有する計測データを複数個取得することと、
加速度の少なくとも2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定し、少なくとも2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定することと、
取得した複数個の計測データをそれぞれ、前記複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類することと、
前記複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定することと、
各々の前記使用モードの頻度を算出することと、
各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得することと、
各々の使用モードについて、前記タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験又はシミュレーションの結果から取得することと、
各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出することと、
各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出することと、
を含む、タイヤ摩耗量予測方法。
【数1】
ここで、h
iがi番目の使用モードでの走行距離Lのタイヤ摩耗量を表し、H
0が初期溝深さを表し、Elz
iがi番目の使用モードでのベルト横曲げ剛性を表し、S
xiがi番目の使用モードの前後方向の加速度と重力加速度の比の2乗に頻度をかけた値を表し、S
yiがi番目の使用モードの左右方向の加速度と重力加速度の比の2乗に頻度をかけた値を表し、F
ziがi番目の使用モードでのタイヤ荷重を表し、w
iがi番目の使用モードでの接地幅を表し、l
iがi番目の使用モードでの接地長を表し、CS
iがi番目の使用モードでのコーナリングスティフネスを表し、AS
iがi番目の使用モードでのアライニングスティフネスを表し、DS
iがi番目の使用モードでのドライビングスティフネスを表し、ksが軸方向弾性係数を示し、rがタイヤ半径を表す。
【請求項2】
前記複数の使用モードは、前後方向または左右方向のいずれかの加速度の区間に0が含まれる使用モードを含む、請求項1に記載のタイヤ摩耗量予測方法。
【請求項3】
前記複数の使用モードは、前後方向の加速度の区間に0が含まれる第1使用モードと、左右方向の加速度の区間に0が含まれる第2使用モードと、を含む、請求項2に記載のタイヤ摩耗量予測方法。
【請求項4】
前記計測データが分類された全ての走行モードが前記使用モードに設定されている、請求項3に記載のタイヤ摩耗量予測方法。
【請求項5】
車両走行中に加速度センサが計測した車両の前後方向及び左右方向の少なくとも2方向の加速度を有する計測データを複数個取得する計測データ取得部と、
加速度の少なくとも2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定し、少なくとも2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定する走行モード設定部と、
取得した複数個の計測データをそれぞれ、前記複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類する分類部と、
前記複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定する使用モード設定部と、
各々の前記使用モードの頻度を算出する頻度算出部と、
各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得するタイヤ荷重取得部と、
各々の使用モードについて、前記タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験又はシミュレーションの結果から取得するパラメータ取得部と、
各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出する第1摩耗量算出部と、
各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出する第2摩耗量算出部と、
を備える、タイヤ摩耗量予測システム。
【数2】
ここで、h
iがi番目の使用モードでの走行距離Lのタイヤ摩耗量を表し、H
0が初期溝深さを表し、Elz
iがi番目の使用モードでのベルト横曲げ剛性を表し、S
xiがi番目の使用モードの前後方向の加速度と重力加速度の比の2乗に頻度をかけた値を表し、S
yiがi番目の使用モードの左右方向の加速度と重力加速度の比の2乗に頻度をかけた値を表し、F
ziがi番目の使用モードでのタイヤ荷重を表し、w
iがi番目の使用モードでの接地幅を表し、l
iがi番目の使用モードでの接地長を表し、CS
iがi番目の使用モードでのコーナリングスティフネスを表し、AS
iがi番目の使用モードでのアライニングスティフネスを表し、DS
iがi番目の使用モードでのドライビングスティフネスを表し、ksが軸方向弾性係数を示し、rがタイヤ半径を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ摩耗量予測方法、タイヤ摩耗量予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの実車摩耗試験は、テストタイヤを装着した実車を屋外のテストコースにて走行させることにより行うが、実車走行による摩耗試験はコストが問題となる。特許文献1には、第1テストタイヤを装着した実車がテストコースを走行する際の前後方向及び左右方向の加速度を計測して、計測データを前後方向及び左右方向の加速度を細分化した複数の走行モードに分類し、各走行モードにおける走行条件を求め、各走行モードについて走行条件に合致するように台上のタイヤ摩耗試験機で第2テストタイヤの摩耗試験を実施することが開示されている。
【0003】
非特許文献1は、非特許文献2を引用する文献である。非特許文献1,2では、タイヤの摩耗方程式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Nakajima "Advanced Tire Mechanics" (Springer Nature Singapore,2019 ) Chapter14 Wear of Tires, p.1033-1036.
【非特許文献2】真下敏雄,「最近のタイヤ摩耗の研究について」,シンポジウム「車両運動とタイヤ」資料(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、最終的に台上のタイヤ摩耗試験機でのテストが必要となり、更なる試験の削減が望まれる。非特許文献1,2では、テストコースを走行する実車に発生する前後方向及び左右方向の加速度の平均値と静止状態での荷重とを満たすパラメータを求め、タイヤの摩耗方程式を解くと考えられる。そのため、走行で生じる加速度の平均値や荷重の代表値を用いており、実車摩耗試験の結果に対する予測精度の向上が求められると考えられる。
【0007】
本開示は、予測精度を向上させたタイヤ摩耗量予測方法、タイヤ摩耗量予測システムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のタイヤ摩耗量予測方法は、車両走行中に加速度センサが計測した車両の前後方向及び左右方向の少なくとも2方向の加速度を有する計測データを複数個取得することと、加速度の少なくとも2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定し、少なくとも2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定することと、取得した複数個の計測データをそれぞれ、前記複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類することと、前記複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定することと、各々の前記使用モードの頻度を算出することと、各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得することと、各々の使用モードについて、前記タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験又はシミュレーションの結果から取得することと、各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出することと、各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出することと、を含む。
【0009】
本開示のタイヤ摩耗量予測システムは、車両走行中に加速度センサが計測した車両の前後方向及び左右方向の少なくとも2方向の加速度を有する計測データを複数個取得する計測データ取得部と、加速度の少なくとも2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定し、少なくとも2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定する走行モード設定部と、取得した複数個の計測データをそれぞれ、前記複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類する分類部と、前記複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定する使用モード設定部と、各々の前記使用モードの頻度を算出する頻度算出部と、各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得するタイヤ荷重取得部と、各々の使用モードについて、前記タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験又はシミュレーションの結果から取得するパラメータ取得部と、各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出する第1摩耗量算出部と、各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出する第2摩耗量算出部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態のタイヤ摩耗量予測方法で用いられるシステム全体を示すブロック図。
【
図2】第1実施形態のタイヤ摩耗量予測システムを示すブロック図。
【
図3】タイヤ摩耗量予測方法を示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態の加速度頻度分布データを構成する複数の走行モードのうち使用モードを斜線で示す説明図。
【
図6】変形例についての使用モードを斜線で示す説明図。
【
図7】変形例についての使用モードを斜線で示す説明図。
【
図8】変形例についての使用モードを斜線で示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、本開示の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
[タイヤ摩耗量予測システム]
第1実施形態のタイヤ摩耗量予測システム2は、タイヤ摩耗量を予測(算出)する。
図1に示すように、タイヤ摩耗量予測システム2は、テストコースを走行する実車に取り付けられた加速度センサ10が計測した計測データD1を取得可能である。タイヤ摩耗量予測システム2は、タイヤ挙動予測システム11からタイヤ挙動データを取得可能である。タイヤ摩耗量予測システム2は、公知のコーナリング試験機12からコーナリングスティフネス(CS)及びアライニングスティフネス(AS)を取得可能である。タイヤ摩耗量予測システム2は、公知の駆制動試験機13からドライビングスティフネス(DS)を取得可能である。タイヤ摩耗量予測システム2は、公知の接地面観察機14から接地面形状データを取得可能である。タイヤ摩耗量予測システム2は、公知のタイヤサイド剛性試験機15からサイド剛性(軸方向弾性係数ks)を取得可能である。
【0013】
図2に示すように、タイヤ摩耗量予測システム2は、計測データ取得部20と、走行モード設定部21と、分類部22と、使用モード設定部23と、頻度算出部24と、タイヤ荷重取得部25と、パラメータ取得部26と、第1摩耗量算出部27と、第2摩耗量算出部28と、を有する。これらの各部(20~28)は、プロセッサ2a、メモリ2b、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいて予め記憶されている
図3に示す処理ルーチンをプロセッサ2aが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ2aが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて分散させ、複数のプロセッサ2aが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサ2aが処理を実行する。メモリ2bは、計測データD1、加速度頻度分布データD2、タイヤ荷重データD3、パラメータD4等のタイヤ摩耗量を算出するために必要なデータを記憶する。
【0014】
計測データ取得部20は、複数個の計測データD1を取得する。計測データD1は、車両に設けられた加速度センサ10が走行中に計測した加速度を含む。計測データD1は、車両の2方向の加速度、つまり、車両の前後方向の前後加速度Ax、左右方向の左右加速度Ayを含む(
図4参照)。加速度の単位は[m/s
2]である。加速度センサ10が3軸の加速度を検出する場合には、計測データD1に上下方向の加速度が含まれていてもよい。計測データ取得部20が計測データD1を取得する前提として、加速度計測工程が実施され、加速度計測工程により、複数個の計測データD1が生成される。加速度計測工程では、実車の所定位置(例えば重心位置)に加速度センサ10が設けられた実車を所定のテストコースを走行させ、車両走行中に加速度センサ10が加速度を計測する。例えば、走行コースのスタート地点にて車両が停止状態から加速し、カーブ手前で減速してカーブを曲がり、その後に加速し、その後、加速や減速、旋回を繰り返した後に、走行コースのゴール地点で車両が停止するまでに、加速度センサ10が加速度を計測することが一例として挙げられる。第1テストタイヤを装着した実車で計測された計測データD1は、第1テストタイヤ以外の第2テストタイヤのタイヤ摩耗量の予測に利用可能である。すなわち、テストコースが同じである限り、1つのテストタイヤ(第1テストタイヤ)を装着した実車による走行試験を1回実行すればよく、その際に計測された計測データD1を用いて他のタイヤのタイヤ摩耗量を予測可能となる。
【0015】
計測データ取得部20は、計測データD1を取得できれば、どのような手段で加速度センサ10から計測データD1を取得してもよい。例えば、車両に搭載されたコンピュータの記憶媒体に計測データD1が記憶され、車両走行の完了後に、その記録媒体がタイヤ摩耗量予測システム2の読み取り装置に取り付けられて、読み取り装置から計測データD1を取得するようにしてもよい。また、計測データ取得部20は、車両の加速度センサ10を含むコンピュータから無線通信で計測データD1を受領してもよい。
【0016】
走行モード設定部21は、複数の走行モードを設定する。走行モード設定部21は、
図4に模式的に示すように、加速度の少なくとも2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定する。
図4では1つのボックスの辺が1つの区間に相当する。1つの走行モードは、図に示す1つのボックスで表すことができる。1つのボックス(走行モード)は、2方向の区間(辺)の組み合わせで構成される。本実施形態では、2方向をそれぞれ0.05m/s
2毎に分割しており、それゆえに、1つの走行モード(ボックス)の加速度の範囲(辺の幅)は0.05m/s
2である。区間の幅が0.05m/s
2であるので、各々の走行モードの代表値は、+0.10[m/s
2],+0.05[m/s
2],0[m/s
2],-0.05[m/s
2],-0.10[m/s
2]というように変化する。走行モード設定部21は、計測データD1が分類されない走行モードを設定することを避けるために、複数個の計測データD1を参照して走行モードを設定することが好ましい。
【0017】
分類部22は、計測データ取得部20が取得した複数個の計測データをそれぞれ、複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類する。計測データは、各方向の加速度が合致する走行モードに分類される。例えば、前後加速度Axが0.12m/s
2の場合、代表値が0.10m/s
2であり且つ加速度範囲が0.075~0.125m/s
2である走行モードに分類される。これにより、計測データは、必ずいずれかの走行モードに分類される。走行モードは、1つも計測データが分類されない場合があり、また、分類される計測データの数も異なる。計測データD1を複数の走行モードのいずれかに分類することにより、複数の走行モードと、各々の走行モードの頻度とを有する加速度頻度分布データD2を生成可能となる。頻度は、その走行モードが、全ての計測データにおいて出現する頻度を表す。
図4に例示するように、或る走行モードM1は、代表値の前後加速度Ax、代表値の左右加速度Ayを有し、後述する頻度(頻度値:0.1)が対応付けられている。同様に、或る走行モードM2は、代表値の前後加速度Ax、代表値の左右加速度Ayを有し、頻度(頻度値:0.01)が対応付けられている。なお、複数個の計測データD1を走行モードに分類すればよく、後述する使用モードを設定する前に、頻度を算出しなくてもよいし、頻度を算出してもよい。
図4に示す加速度頻度分布データD2は、前後方向の区間及び左右方向の区間が11個であり、走行モードが11×11=121個の例を挙げているが、区間の数は分解能であり、任意に変更可能である。
【0018】
使用モード設定部23は、
図4に示す複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定する。複数の走行モードが使用モードに設定されていればよく、全ての走行モードを使用モードに設定してもよいし、全ての走行モードのうちの一部である複数の走行モードを使用モードに設定してもよい。
図5は、第1実施形態において使用モードに設定した複数の走行モードを斜線で示している。
図5で示す例では、前後方向または左右方向のいずれかの加速度の区間に0が含まれる使用モードを有する。具体的には、複数の使用モードには、前後方向の加速度の区間に0が含まれる第1使用モード(M
0,5,M
0,4,M
0,3,M
0,2,M
0,1,M
0,0,M
0,-1,M
0,-2,M
0,-3,M
0,-4,M
0,-5)を含んでおり、左右方向の加速度の区間に0が含まれる第2使用モード(M
5,0,M
4,0,M
3,0,M
2,0,M
1,0,M
0,0,M
-1,0,M
-2,0,M
-3,0,M
-4,0,M
-5,0)を含んでいる。
【0019】
頻度算出部24は、各々の使用モードの頻度を算出する。具体的には、頻度算出部24は、頻度を算出する対象の使用モードに分類された計測データの数と、いずれかの使用モードに分類された計測データの全数とに基づいて、各々の使用モードの頻度を算出する。
図5の例では、全て(21個)の使用モードそれぞれの頻度を算出する。
図5の例において、例えば使用モード(M
0,0)の頻度を算出する場合には、頻度を算出する対象の使用モード(M
0,0)に分類された計測データの数を、全て(21個)の使用モード(第1使用モード及び第2使用モード)のいずれかに分類された計測データの全数で除算すれば、頻度が算出可能である。ここでは、使用モードに設定されなかった走行モードを考慮せずに、使用モードとして設定された走行モードのみを用いた頻度を算出する処理である。
【0020】
タイヤ荷重取得部25は、各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得する。
図1に示すタイヤ挙動予測システム11は、車両諸元に関するデータ、タイヤ諸元に関するデータ及び使用モードにおける前後方向及び左右方向の加速度に基づいてタイヤ挙動データを算出する。タイヤ挙動データは、タイヤにおける前後方向の力(Fx)、左右方向の力(Fy)、鉛直方向の力(Fz;タイヤ荷重)に関するデータを含む。タイヤ荷重取得部25は、タイヤ挙動データに含まれるタイヤ荷重(Fz)を取得する。第1実施形態では、タイヤ挙動予測システム11として、米国Mechanical Simulation社製の車両運動シミュレーションソフトウェア「CarSIM(登録商標)」を用いている。CarSIM(登録商標)は、入力されたデータをもとに、指定された前後方向の加速度及び左右方向の加速度が得られるように、仮想車両を走行させる。例えば、右方向に5m/s
2で定常走行するように設定すれば、右方向の加速度が5m/s
2になるように、車両が旋回を継続する。また、制動時の加速度(減速度)が5m/s
2であれば、車両は初速度から5m/s
2で減速するようにブレーキの圧力が制御される。これにより、指定された走行モード(前後方向及び左右方向の加速度)が実現できるように車両を走行させ、そのときの各四輪のタイヤ挙動データを得ることができる。
【0021】
車両諸元に関するデータは、タイヤ挙動予測システム11に予め記憶されていてもよいし、タイヤ摩耗量予測システム2に予め記憶されておりタイヤ荷重取得部25がタイヤ挙動予測システム11に送信してもよい。車両諸元に関するデータの具体例として、車両の全長[m]、全幅[m]、全高[m]、前軸負荷質量[kg]、後軸負荷質量[kg]、ホイールベース[m]、前輪の左右に装着されたタイヤの接地中心間距離[m]、後輪の左右に装着されたタイヤの接地中心間距離[m]、前軸と重心の間の水平方向の距離、フロントオーバーハング又はリアオーバーハング、ロール慣性モーメント、ピッチ慣性モーメント、ヨー慣性モーメント、前輪のキャンバー角、後輪のキャンバー角、前輪のトー角、後輪のトー角などが挙げられる。
【0022】
タイヤ諸元に関するデータは、タイヤ挙動予測システム11に予め記憶されていてもよいし、タイヤ摩耗量予測システム2に予め記憶されておりタイヤ荷重取得部25がタイヤ挙動予測システム11に送信してもよい。タイヤ諸元に関するデータの具体例として、タイヤの質量、縦剛性、転がり半径、無負荷時の半径、転がり抵抗、μ-S特性、SA-CF特性、SA-SAT特性、緩和長などが挙げられる。
【0023】
パラメータ取得部26は、各々の使用モードについて、タイヤ荷重取得部25が取得したタイヤ荷重(Fzi)を満たすコーナリングスティフネス(CSi)、アライニングスティフネス(ASi)、ドライビングスティフネス(DSi)、接地面形状データ(接地幅wi、接地長li)をタイヤ試験の結果から取得する。各パラメータは、タイヤ摩耗量の予測対象となるテストタイヤの特性を表す値である。コーナリング試験機12、駆制動試験機13及び接地面観察機14は、タイヤ荷重(Fzi)を条件として試験を実施し、各パラメータを得ることができる。Fziがi番目の使用モードでのタイヤ荷重を表し、wiがi番目の使用モードでの接地幅を表し、liがi番目の使用モードでの接地長を表し、CSiがi番目の使用モードでのコーナリングスティフネスを表し、ASiがi番目の使用モードでのアライニングスティフネスを表し、DSiがi番目の使用モードでのドライビングスティフネスを表す。また、パラメータ取得部26は、タイヤサイド剛性試験機15からサイド剛性(軸方向弾性係数ks)及びタイヤ半径rを取得する。
【0024】
第1摩耗量算出部27は、各々の使用モードにおけるタイヤ摩耗量を、式(1)~(6)を用いて算出する。
【数1】
ここで、h
iがi番目の使用モードでの走行距離Lのタイヤ摩耗量を表し、H
0が初期溝深さを表し、Elz
iがi番目の使用モードでのベルト横曲げ剛性を表し、S
xiがi番目の使用モードの前後方向の加速度と重力加速度の比の2乗に頻度をかけた値を表し、S
yiがi番目の使用モードの左右方向の加速度と重力加速度の比の2乗に頻度をかけた値を表す。
【0025】
第2摩耗量算出部28は、第1摩耗量算出部27が算出した各々の使用モードのタイヤ摩耗量h
iに基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量h
totalを算出する。具体的には、次の式(7)で算出可能である。Nは使用モードの数を表す。タイヤ摩耗量h
totalが予測対象の値である。
【数2】
【0026】
[タイヤ摩耗量予測方法]
図3を用いて、タイヤ摩耗量予測方法について説明する。
図3に示すように、タイヤ摩耗量予測方法は、まず、ステップST1において、車両走行中に加速度センサ10で車両の前後方向及び左右方向の2方向の加速度を計測する。次のステップST2において、計測データ取得部20は、計測された加速度を有する計測データを複数個取得する。次のステップST3において、走行モード設定部21は、加速度の2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定し、少なくとも2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定する。次のステップST4において、分類部22は、取得した複数個の計測データをそれぞれ、複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類する。次のステップST5において、使用モード設定部23は、複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定する。次のステップST6において、頻度算出部24は、各々の使用モードの頻度を算出する。次のステップST7において、タイヤ荷重取得部25は、各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得する。次のステップST8において、パラメータ取得部26は、各々の使用モードについて、タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験の結果から取得する。次のステップST9において、第1摩耗量算出部27は、各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出する。次のステップST10において、第2摩耗量算出部28は、各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出する。
【0027】
[1]
以上、第1実施形態のように、タイヤ摩耗量予測方法は、車両走行中に加速度センサ10が計測した車両の前後方向及び左右方向の少なくとも2方向の加速度を有する計測データを複数個取得することと、加速度の少なくとも2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定し、少なくとも2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定することと、取得した複数個の計測データをそれぞれ、複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類することと、複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定することと、各々の使用モードの頻度を算出することと、各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得することと、各々の使用モードについて、タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験又はシミュレーションの結果から取得することと、各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出することと、各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出することと、を含む、としてもよい。
【0028】
このように、各々の使用モードごとの加速度に基づいて式により各々の使用モードのタイヤ摩耗量を算出し、全ての使用モードのタイヤ摩耗量を算出するので、全体として平均的な加速度に基づく同式により算出される摩耗量に比べて予測精度を実車摩耗試験に近づけることが可能となる。
【0029】
[2]
上記[1]に記載のタイヤ摩耗量予測方法であって、複数の使用モードは、前後方向または左右方向のいずれかの加速度の区間に0が含まれる使用モードを含む、としてもよい。
加速度の区間に0が含まれる使用モードの頻度が高いため、タイヤ摩耗量の予測精度を向上可能となる。
【0030】
[3]
上記[1]又は[2]に記載のタイヤ摩耗量予測方法であって、前記複数の使用モードは、前後方向の加速度の区間に0が含まれる第1使用モードと、左右方向の加速度の区間に0が含まれる第2使用モードと、を含む、としてもよい。
加速度の区間に0が含まれる使用モードの頻度が高いため、タイヤ摩耗量の予測精度を向上可能となる。
【0031】
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載のタイヤ摩耗量予測方法であって、計測データが分類された全ての走行モードが使用モードに設定されている、としてもよい。
使用モードの数が増えるので、タイヤ摩耗量の予測精度を向上可能となる。
【0032】
[5]
第1実施形態のように、タイヤ摩耗量予測システム2は、車両走行中に加速度センサ10が計測した車両の前後方向及び左右方向の少なくとも2方向の加速度を有する計測データを複数個取得する計測データ取得部20と、加速度の少なくとも2方向それぞれの方向に対して細分化した複数の区間を設定し、少なくとも2方向の区間の組み合わせで構成される複数の走行モードを設定する走行モード設定部21と、取得した複数個の計測データをそれぞれ、複数の走行モードのうちのいずれかの走行モードに分類する分類部22と、複数の走行モードのうちの少なくとも一部の複数の走行モードを使用モードに設定する使用モード設定部23と、各々の使用モードの頻度を算出する頻度算出部24と、各々の使用モードについて、前後方向及び左右方向の加速度を満たすタイヤ荷重を取得するタイヤ荷重取得部25と、各々の使用モードについて、タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験又はシミュレーションの結果から取得するパラメータ取得部26と、各々の使用モードについて、式(1)~(6)を用いてタイヤ摩耗量を算出する第1摩耗量算出部27と、各々の使用モードのタイヤ摩耗量に基づいて、全ての使用モードにおけるタイヤ摩耗量を算出する第2摩耗量算出部28と、を備える、としてもよい。
【0033】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0034】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0035】
(A)前記実施形態において、計測データは、前後方向及び左右方向の2方向の加速度を計測したものであるが、これに限定されない。計測データは、更に鉛直方向の加速度を有していてもよい。この場合、1つの走行モードが前後方向及び左右方向の2方向の加速度を有するだけでなく、更に鉛直方向の加速度を有していてもよい。
【0036】
(B)前記実施形態において、計測データ取得部20、走行モード設定部21、分類部22によって
図4に示す加速度頻度分布データD2を生成しているが、これに限定されない。例えば、全ての計測データD1が複数の走行モードのいずれかに分類され、各々の走行モードの頻度が算出された加速度頻度分布データD2を外部から取得してもよい。
【0037】
(C)前記実施形態において、各々の使用モードについて、タイヤ荷重を満たすコーナリングスティフネス、アライニングスティフネス、ドライビングスティフネス、接地幅、接地長を、タイヤ試験の結果から取得するが、これに限定されない。例えば、各パラメータをシミュレーションの結果から取得してもよい。
【0038】
(D)前記実施形態において、
図5に示すように、複数の使用モードは、第1使用モードと第2使用モードを含んでいるが、これに限定されない。例えば、複数の使用モードは、前後方向または左右方向のいずれかの加速度の区間に0が含まれる使用モードを含んでいるとしてもよい。この場合には、例えば、
図6において使用モードに設定された走行モードを斜線で示すように、前後方向の加速度の区間に0が含まれる第1使用モード(M
0,5,M
0,4,M
0,3,M
0,2,M
0,1,M
0,0,M
0,-1,M
0,-2,M
0,-3,M
0,-4,M
0,-5)のみが使用モードに設定されていてもよい。また、
図7において使用モードに設定された走行モードを斜線で示すように、左右方向の加速度の区間に0が含まれる第2使用モード(M
5,0,M
4,0,M
3,0,M
2,0,M
1,0,M
0,0,M
-1,0,M
-2,0,M
-3,0,M
-4,0,M
-5,0)のみが使用モードに設定されていてもよい。また、
図8において使用モードに設定された走行モードを斜線で示すように、計測データが分類された全ての走行モード(第1使用モード及び第2使用モードを含む)が使用モードに設定されている、としてもよい。
【0039】
(E)前記実施形態において、タイヤ摩耗量予測方法を構成する各ステップを1又は複数のプロセッサが実行している。また、タイヤ摩耗量予測方法を構成する各ステップを1又は複数のプロセッサに実行させるプログラムが用いられているが、これに限定されない。タイヤ摩耗量予測方法を構成する各ステップの一部又は全部を人が実行してもよい。
【0040】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0041】
図2に示す各部は、所定プログラムを1又は複数のプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステムは、一つのコンピュータのプロセッサにおいて各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0042】
システムは、プロセッサを含む。例えば、プロセッサは、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システムは、システムのデータを格納するためのメモリを含む。一例では、メモリは、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステムがアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0043】
2 :タイヤ摩耗量予測システム
10 :加速度センサ
20 :計測データ取得部
21 :走行モード設定部
22 :分類部
23 :使用モード設定部
24 :頻度算出部
25 :タイヤ荷重取得部
26 :パラメータ取得部
27 :第1摩耗量算出部
28 :第2摩耗量算出部
D1 :計測データ
D4 :パラメータ
hi :タイヤ摩耗量
ks :軸方向弾性係数
L :走行距離
li :接地長
r :タイヤ半径
wi :接地幅