(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006200
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】免疫機能活性の予測方法
(51)【国際特許分類】
G16H 10/40 20180101AFI20240110BHJP
【FI】
G16H10/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106873
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大里 直樹
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA03
(57)【要約】
【課題】特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能活性を予測することが可能な免疫機能活性の予測方法、並びにそれを実行可能な情報処理装置及びプログラムに関する。
【解決手段】本発明の一形態に係る免疫機能活性の予測方法は、対象者の特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測する方法であって、前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と負に相関する第1の腸内細菌の存在に関する第1細菌情報と、前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と正に相関する第2の腸内細菌の存在に関する第2細菌情報と、を含む、前記対象者の腸内細菌叢に関する情報を取得するステップと、取得された前記対象者の前記第1細菌情報及び前記第2細菌情報に基づいて、前記特定の食品成分の摂取による前記対象者の免疫機能活性を予測するステップと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測する方法であって、
前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と負に相関する第1の腸内細菌の存在に関する第1細菌情報と、前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と正に相関する第2の腸内細菌の存在に関する第2細菌情報と、を含む、前記対象者の腸内細菌叢に関する情報を取得し、
取得された前記対象者の前記第1細菌情報及び前記第2細菌情報に基づいて、前記特定の食品成分の摂取による前記対象者の免疫機能活性を予測する
免疫機能活性の予測方法。
【請求項2】
前記第1腸内細菌が存在する、又は前記第1腸内細菌の菌量を示す値が第1の基準値よりも大きい場合に、前記特定の食品成分の摂取により前記対象者の免疫機能が活性化しないと予測する
請求項1に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項3】
前記第1腸内細菌が存在しない、又は前記第1腸内細菌の菌量を示す値が前記第1の基準値以下であり、かつ、前記第2腸内細菌が存在する、又は前記第2腸内細菌の菌量を示す値が第2の基準値以上である場合に、前記特定の食品成分の摂取により前記対象者の免疫機能が活性化すると予測する
請求項1又は2に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項4】
取得された前記対象者の前記第1細菌情報及び前記第2細菌情報に基づいて、前記特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性度を予測する
請求項1から3のいずれか一項に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項5】
取得された前記対象者の前記第1細菌情報及び前記第2細菌情報に基づいて、前記特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性値を予測する
請求項1から3のいずれか一項に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項6】
前記特定の食品成分が、腸内細菌によってEGC-M5に代謝される食品成分を含む
請求項1から5のいずれか一項に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項7】
前記特定の食品成分が、カテキンを含む
請求項6に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項8】
前記第1の腸内細菌が、Anaerosporobacter属、Bariatricus属、Klebsiella属、Kocuria属、Massiliprevotella属、Megasphaera属、Morganella属、Petroclostridium属、及びWeissella属から選択された少なくとも一つに属する腸内細菌を含む
請求項6又は7に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項9】
前記第1の腸内細菌が、Anaerosporobacter属に属する腸内細菌を含む
請求項8に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項10】
前記第2腸内細菌が、Alistipes属、Catabacter属、Enterocloster属、及びPorphyromonas属から選択された少なくとも一つに属する細菌を含む
請求項6から9のいずれか一項に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項11】
前記第2腸内細菌が、Alistipes属に属する細菌を含む
請求項10に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項12】
前記予測部は、前記特定の食品成分の摂取による前記対象者の免疫機能活性として、免疫細胞の活性を予測する
請求項1から11のいずれか一項に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項13】
前記免疫細胞がNK細胞を含む
請求項12に記載の免疫機能活性の予測方法。
【請求項14】
対象者の特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測する情報処理装置であって、
前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と負に相関する第1の腸内細菌の存在に関する第1細菌情報と、前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と正に相関する第2の腸内細菌の存在に関する第2細菌情報と、を含む、前記対象者の腸内細菌叢に関する情報を取得する取得部と、
取得された前記対象者の前記第1細菌情報及び前記第2細菌情報に基づいて、前記特定の食品成分の摂取による前記対象者の免疫機能活性を予測する予測部と、
を具備する情報処理装置。
【請求項15】
対象者の特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測するためのプログラムであって、情報処理装置に、
前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と負に相関する第1の腸内細菌の存在に関する第1細菌情報と、前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と正に相関する第2の腸内細菌の存在に関する第2細菌情報と、を含む、前記対象者の腸内細菌叢に関する情報を取得するステップと、
取得された前記対象者の前記第1細菌情報及び前記第2細菌情報に基づいて、前記特定の食品成分の摂取による前記対象者の免疫機能活性を予測するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の特定の食品成分の摂取による免疫機能活性の予測方法、並びにそれを実行可能な情報処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
健康を維持する観点から、特定の食品成分を摂取した際の免疫機能への影響が着目されている。例えば、非特許文献1には、茶カテキンの摂取により、NK細胞の活性が高まることが開示されている。また非特許文献2には、カテキンの代謝物であるEGC-M5により、NK細胞の活性が高まることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ryo Iketaniら、Japanese Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics、2019年、第50巻,p.139-145
【非特許文献2】Yoon Hee Kimら、Journal of Agricultural and Food Chemistry、2016年、第18巻、p.3591-3597
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、腸内細菌叢を構成する腸内細菌の種類及び比率は、個人差があることが知られている。このことから、免疫機能への有効性が知られている食品成分であっても、保有している腸内細菌叢によっては、当該食品成分を代謝できず、免疫機能に作用できない可能性がある。このため、特定の食品成分の継続的な摂取にあたっては、対象者毎に、特定の食品成分が免疫機能に作用しやすい体質であるか否か、予測できることが好ましい。
【0005】
本発明は、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能活性を予測することが可能な免疫機能活性の予測方法、並びにそれを実行可能な情報処理装置及びプログラムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る免疫機能活性の予測方法は、対象者の特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測する方法であって、
前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と負に相関する第1の腸内細菌の存在に関する第1細菌情報と、前記特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と正に相関する第2の腸内細菌の存在に関する第2細菌情報と、を含む、前記対象者の腸内細菌叢に関する情報を取得するステップと、
取得された前記対象者の前記第1細菌情報及び前記第2細菌情報に基づいて、前記特定の食品成分の摂取による前記対象者の免疫機能活性を予測するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の免疫機能活性の予測方法によれば、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能活性を予測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性の予測方法を実現可能な情報処理装置を備えたシステムの構成例を示した図である。
【
図2】上記情報処理装置のハードウェア構成を示した図である。
【
図3】上記情報処理装置の機能的構成を示した図である。
【
図4】上記情報処理装置による、免疫機能活性の予測処理の流れを示したフローチャートである。
【
図5】本発明の予測方法に用いられる、第1及び第2腸内細菌と免疫機能活性との関係を示すデータを得るための試験例の結果を示す図である。(A)は、58人の被験者を、Anaerosporobacter属に属する細菌(以下、「An菌」)の非保菌者(50名)と、保菌者(8名)とに分類して、各グループにおけるΔNK細胞活性の平均値を算出したグラフである。(B)は、横軸をAn菌の菌数の割合(存在率)、縦軸をΔNK細胞活性の値として、上述の58人の被験者のΔNK細胞活性のデータをプロットしたグラフであり、An菌の保菌者(8名)に対応するプロットはグレー、An菌の非保菌者(50名)に対応するプロットは黒で示している。
【
図6】上記試験例の結果を示す図である。(A)は、横軸をAlistipes属に属する細菌(以下、「Al菌」)の菌数の割合(存在率)、縦軸をΔNK細胞活性の値として、An菌の非保菌者(50名)のΔNK細胞活性のデータをプロットしたグラフである。さらに同図では、Al菌の菌数の割合を基にAn菌の非保菌者を3分割し、そのうちのAl菌の菌数の割合が多いグループIと当該割合が少ないグループIIとを示している。(B)は、グループI及びIIの各々におけるΔNK細胞活性の平均値を示したグラフである。
【
図7】上記試験例の結果を示す図である。(A)は、グループIとグループIIの被験者におけるEGC-M5の変化量(ΔEGC-M5)を示すグラフである。(B)は、グループIとグループIIの被験者におけるEGCの変化量(ΔEGC)を示すグラフである。
【
図8】上記試験例の結果から、腸内細菌叢におけるAn菌の存在の有無と、Al菌の菌量とに基づいて、カテキン摂取によって予測されるNK細胞の活性が3群に分類できることを説明する図であり、横軸はAn菌の存在の有無、縦軸はAl菌の菌量を示す。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る情報処理装置の機能的構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0010】
[システムの概要]
本発明に係る情報処理装置は、本発明に係る免疫機能活性の予測方法を実現可能に構成され、一例として、以下のようなインターネット50を介したシステムを構成する。
図1に示す例において、本発明の一実施形態に係るシステムは、インターネット50上のサーバ100と、複数のユーザ端末200とを含んでいる。
【0011】
サーバ100は、例えば、特定の食品成分の摂取による免疫機能予測サービスを提供可能なウェブサイトの運営者によって運営されるウェブサーバ(情報処理装置)とすることができる。サーバ100は、例えば、複数のユーザ端末200とインターネット50を介して接続されている。
【0012】
ユーザ端末200(200A,200B,200C...)は、免疫機能予測サービスのユーザである対象者により使用される端末とすることができ、例えばスマートフォン、携帯電話、タブレットPC(Personal Computer)、ノートブックPC、デスクトップPC等である。ユーザ端末200は、例えば、サーバ100へアクセスし、サーバ100により生成されたウェブページ等を受信してブラウザ等により画面に表示する。
【0013】
本実施形態では、サーバ100は、ユーザ端末200を使用する対象者から提供された腸内細菌情報を基に、各対象者における特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測する。さらに、本実施形態において、サーバ100は、予測された特定の食品成分の摂取による免疫機能活性に関する情報を、ユーザ端末200に提供することができる。
【0014】
免疫機能予測サービスの運営者は、例えば、各対象者に腸内細菌叢の検査キットを送付し、対象者が当該キットにより採取したサンプルを運営者又は運営者に委託を受けた者へ返送する。本実施形態において、採取サンプルは、便、血液、尿、唾液等であり、腸内細菌叢に含まれる腸内細菌をより精度よく検出する観点から、便であることが好ましい。
【0015】
サーバ100には、採取サンプルから測定されたデータが入力され、サーバ100は、当該データを基に、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性の予測データを生成する。免疫機能活性の予測処理については、後述する。
【0016】
本発明における食品成分は、喫食可能な成分であり、飲料に含まれる成分も含むものとする。本発明における食品成分は、免疫機能に対して作用し得る食品成分であり、例えば、ポリフェノール(カテキン、アントシアニン、ルチン、クロロゲン酸、セサミン等)、乳酸菌類、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、カロテノイド(βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン等)、オメガ3系脂肪酸等から選択された1又は複数種の食品成分を含む。
本実施形態においては、食品成分としてカテキンの例を挙げる。カテキンは、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガラート(EGCg)等として茶などの食品中に存在する。EGCの代謝物であるEGC-M5は、NK細胞を活性化することが知られている(非特許文献2参照)。
また、特定の食品の「摂取」は、所定の期間(例えば2週間以上)における継続的な摂取であることが好ましい。
【0017】
後述するNK細胞活性化のためのカテキンの摂取は、所定の期間(例えば2週間以上)における継続的な摂取であることが好ましい。カテキンは、カテキンを含有する一種類の食品から摂取されてもよいし、カテキンを含有する複数の食品を組み合わせて摂取されてもよい。また、カテキンが非重合体カテキン類である場合、NK細胞活性化のための1日当たりの摂取量は、好ましくは100mg以上、より好ましくは200mg以上、さらに好ましくは300mg以上、より一層好ましくは400mg以上である。
【0018】
本発明において予測される「特定の食品成分の摂取による免疫機能活性」とは、特定の食品成分を摂取した前後における、免疫機能の活性の変化を意味する。
つまり、本発明において、「特定の食品成分の摂取により免疫機能が活性化する」とは、特定の食品成分の摂取前よりも摂取後で、免疫機能の活性を示す値が増加することを意味する。また、「特定の食品成分の摂取により免疫機能が活性化しない」とは、特定の食品成分の摂取前後で免疫機能の活性を示す値が変化しない、又は摂取前よりも摂取後で免疫機能の活性を示す値が減少することを意味する。
免疫機能の活性を示す値は、公知の方法(一例として、Medical Technology,1993年、21巻7号、p.574~580に開示の方法)で測定された値であり得る。
本発明における免疫機能活性とは、免疫細胞又は免疫反応に関わる分子の活性を意味する。
本発明における免疫細胞は、自然免疫に関する免疫細胞でも、獲得免疫に関する免疫細胞でも特に限定されない。例えば、本発明における免疫細胞は、好酸球、好中球、好塩基球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞、リンパ球等から選択された1又は複数種の免疫細胞を含む。
免疫反応に関わる分子は、例えば、サイトカイン又は抗体から選択された1又は複数種の分子を含む。サイトカインとしては、インターロイキン、インターフェロン(IFN-α,IFN-β,IFN-γ等)、腫瘍壊死因子(TNF-α,TNF-β等)、ケモカイン、造血性コロニー刺激因子(CSF)、形質転換増殖因子(TGF)等が挙げられる。抗体としては、IgM、IgG、IgA、IgD、IgE等が挙げられる。
本実施形態においては、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性が、例えば、カテキン摂取によるNK細胞活性であることが好ましい。
なお、本発明に係る免疫機能活性の予測方法は、疾病の治療又は診断に関するものではない。
【0019】
[情報処理装置のハードウェア構成]
図2に示すように、サーバ100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、入出力インタフェース15、及び、これらを互いに接続するバス14を備える。
【0020】
CPU11は、必要に応じてRAM13等に適宜アクセスし、各種演算処理を行いながらサーバ100の各ブロック全体を統括的に制御する。ROM12は、CPU11に実行させるOS、プログラムや各種パラメータ等のファームウェアが固定的に記憶されている不揮発性のメモリである。RAM13は、CPU11の作業用領域等として用いられ、OS、実行中の各種アプリケーション、処理中の各種データを一時的に保持する。
【0021】
入出力インタフェース15には、表示部16、操作受付部17、記憶部18、通信部19等が接続される。
【0022】
表示部16は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)、OELD(Organic ElectroLuminescence Display)、CRT(Cathode Ray Tube)等を用いた表示デバイスである。
【0023】
操作受付部17は、例えばマウス等のポインティングデバイス、キーボード、タッチパネル、その他の入力装置である。操作受付部17がタッチパネルである場合、そのタッチパネルは表示部16と一体となり得る。
【0024】
記憶部18は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や、フラッシュメモリ(SSD;Solid State Drive)、その他の固体メモリ等の不揮発性メモリである。当該記憶部18には、上記OSや各種アプリケーション、各種データが記憶される。
【0025】
本実施形態において、記憶部18は、後述する免疫機能活性の予測処理に必要なアプリケーション等のプログラムの他、対象者情報データベース等のデータベースを有していてもよい。対象者情報データベースは、免疫機能活性の予測処理において、必要に応じて参照されて用いられる。
対象者情報データベースは、採取サンプルを提供した対象者の属性情報を対象者毎に記憶している。対象者の属性情報としては、特に限定されないが、例えば、氏名(ニックネーム)、対象者を識別するための対象者ID、年齢(年代)、職業、住所(居住エリア)、性別、メールアドレス、といった一般的な情報の他、食物繊維摂取量、飲酒量、喫煙習慣、運動習慣等の生活習慣に関する情報を含んでいる。また、対象者情報データベースは、対象者ID毎に、取得された腸内細菌叢の情報、又はそれを用いて生成された特定の食品成分の摂取による免疫機能活性の予測データの少なくとも一方を記憶していてもよい。
なお、対象者情報データベース等のデータベースは、記憶部18ではなくサーバ100に外部接続された記憶装置やサーバに記憶されていてもよい。
【0026】
通信部19は、例えばEthernet用のNIC(Network Interface Card)や無線LAN等の無線通信用の各種モジュールであり、上記ユーザ端末200との間の通信処理を担う。
【0027】
なお、図示しないが、ユーザ端末200の基本的なハードウェア構成も上記サーバ100のハードウェア構成と略同様であり得る。
【0028】
[サーバの機能的構成]
図3に示すように、本実施形態に係るサーバ100は、上記ハードウェア構成によって実現される機能的構成として、取得部101と、予測部102と、情報出力部103と、を有する。
【0029】
取得部101、予測部102、及び情報出力部103の各構成については、ROM12が記憶する情報処理プログラムをRAM13にロードしてCPU11が実行することにより構成される。これらの各部の機能については、後述するサーバ100の動作例において詳細に説明する。
【0030】
[サーバの動作]
次に、以上のように構成されたサーバ100の動作について説明する。当該動作は、サーバ100のCPU11及び通信部19等のハードウェアと、記憶部18に記憶されたソフトウェアとの協働により実行される。
【0031】
(取得ステップ(ST31))
図4に示すように、まず取得部101が、対象者の腸内細菌叢に関する情報を取得する(ST31)。具体的に、本ステップでは、対象者の腸内細菌叢に関する情報として、第1腸内細菌の存在に関する第1細菌情報と、第2腸内細菌の存在に関する第2細菌情報と、を取得する。第1細菌情報及び第2細菌情報は、採取サンプルから測定された対象者の腸内細菌叢のデータから、サーバ100によって生成された情報であってもよいし、他の情報処理装置によって生成された情報でもよい。
【0032】
第1腸内細菌は、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と負に相関する腸内細菌である。つまり、第1腸内細菌は、腸内細菌叢に存在しない又は菌量が少ない方が、特定の食品成分の摂取後における免疫機能活性が高まるというデータが得られている菌である。
特定の食品成分がカテキンの場合、第1腸内細菌は、好ましくはAnaerosporobacter属、Bariatricus属、Klebsiella属、Kocuria属、Massiliprevotella属、Megasphaera属、Morganella属、Petroclostridium属、及びWeissella属から選択された少なくとも一つの属に属する細菌を含み、より好ましくはAnaerosporobacter属に属する細菌(以下、「An菌」)を含む。
【0033】
第2腸内細菌は、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と正に相関する腸内細菌である。つまり、第2腸内細菌は、腸内細菌叢に存在する又は菌量が多い方が、特定の食品成分の摂取後における免疫機能活性が高まるというデータが得られている菌である。
特定の食品成分がカテキンの場合、第2腸内細菌は、好ましくはAlistipes属、Catabacter属、Enterocloster属、及びPorphyromonas属から選択された少なくとも一つの属に属する細菌を含み、より好ましくはAlistipes属に属する細菌(以下、「Al菌」)を含む。
【0034】
第1細菌情報及び第2細菌情報は、各腸内細菌の存在に関する情報として、各腸内細菌の存在の有無を示す情報、又は菌量を示す値についての情報を含んでいてもよい。
腸内細菌の存在の有無を示す情報は、当該腸内細菌の存在の有無を直接示す情報であってもよいし、当該腸内細菌の存在の有無と相関を有する指標についての情報であってもよい。
腸内細菌の存在の有無と相関を有する指標は、当該腸内細菌の存在を予測可能な指標であって、例えば、他の腸内細菌の存在又は菌量、対象者の属性情報若しくは生活習慣に関する指標、又は、採取サンプルから得られた特定の生体成分から導出された指標等であり得る。
【0035】
腸内細菌の菌量を示す値についての情報は、例えば、腸内細菌叢における当該腸内細菌の菌数の割合、便等の採取サンプル中における絶対的な菌量、その他の当該腸内細菌の菌量と相関を有する指標についての情報から選択された1又は複数の情報を含む。腸内細菌の菌量を示す値についての情報を用いることで、予測処理における予測精度を高めることができる。
当該腸内細菌の菌量と相関を有する指標は、当該腸内細菌の菌量を予測可能な指標であって、例えば、他の腸内細菌の菌量、対象者の属性情報若しくは生活習慣に関する指標、又は、採取サンプルから得られた特定の成分等から導出された指標等であり得る。
【0036】
腸内細菌の菌量を示す値についての情報は、各対象者の保有する腸内細菌量の多少にかかわらず、腸内細菌叢における各腸内細菌の占める割合を把握できることから、腸内細菌の菌数の割合についての情報を含んでいることが好ましい。
腸内細菌の菌数の割合とは、腸内細菌叢における全ての腸内細菌の菌数に占める、当該腸内細菌の菌数の割合を意味する。腸内細菌の菌数の割合は、例えば、対象者の便などを検体として腸内細菌の核酸を抽出し、リアルタイムPCR、シークエンス等の定量的な分析を行うことで、比較的容易に算出することができる。
【0037】
(予測ステップ(ST32))
続いて、
図4に示すように、予測部102が、取得された対象者の第1細菌情報及び第2細菌情報に基づいて、対象者の特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測する(ST32)。
本発明者は、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性に対して、正に相関する腸内細菌(例えば第2腸内細菌)だけでなく、負に相関する腸内細菌(例えば第1腸内細菌)も存在することを見出した。さらに、本発明者は、正に相関する腸内細菌(第2腸内細菌)が存在する場合でも、負に相関する腸内細菌(第1腸内細菌)の存在により、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性が得られなくなる場合があることを見出した。
したがって、本実施形態においては、これらの双方の情報を用いて、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を予測することで、食品成分の摂取による対象者の免疫機能活性を精度よく予測できる。なお、本実施形態におけるプログラムは、コンピュータに
図4に示すステップを実行させるプログラムであれば良く、
図4に示すステップ以外のステップを含むプログラムであっても良い。
【0038】
本実施形態において、予測部102は、例えば、第1腸内細菌が存在する、又は第1腸内細菌の菌量を示す値が第1の基準値よりも大きい場合に、特定の食品成分の摂取により対象者の免疫機能が活性化しないと予測することができる。
これに加えて、あるいはこれに替えて、予測部102は、例えば、第1腸内細菌が存在しない、又は第1腸内細菌の菌量を示す値が第1の基準値以下であり、かつ、第2腸内細菌が存在する、又は第2腸内細菌の菌量を示す値が第2の基準値以上である場合に、特定の食品成分の摂取により対象者の免疫機能が活性化すると予測することができる。
一例として、予測部102は、An菌が存在する場合に、カテキンの摂取により対象者のNK細胞が活性化しないと予測することができる。また、予測部102は、An菌が存在せず、Al菌の菌数の割合が0より大きい所定の値以上である場合に、カテキンの摂取により対象者のNK細胞が活性化すると予測することができる。
【0039】
具体例として、特定の食品成分がカテキンの場合、予測部102は、以下のような基準値を用いて予測処理を行うことができる。
例えば、An菌の腸内細菌叢における菌数の割合としての第1の基準値は、NK細胞活性が高い対象者を精度よく予測する観点から、好ましくは0.2%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0%である。
【0040】
予測部102は、例えば、An菌の菌数の割合が上記第1基準値以下であった場合、対象者の免疫機能が活性化し得ると予測することができる。
例えば、Al菌の腸内細菌叢における菌数の割合としての第2の基準値は、NK細胞活性が高い対象者を精度よく予測する観点から、好ましくは0.5%、より好ましくは0.9%、更に好ましくは1.6%である。
予測部102は、例えば、Al菌の菌数の割合が上記第2基準値以上であった場合、対象者の免疫機能が活性化すると予測することができる。なお、上記基準値の数値は、被験者集団から得られたデータ等に基づいて、適宜変更して用いてよい。
【0041】
さらに、予測部102は、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性を段階的に予測してもよい。具体的に、予測部102は、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性度を予測してもよい。
ここでいう活性度とは、特定の食品成分の摂取による免疫機能の活性を段階的に示す指標を意味する。
例えば、予測部102は、第1腸内細菌の存在の有無、及び第2の腸内細菌の菌量を示す値に基づいて、活性度を予測することができる。
具体例として、予測部102は、第1腸内細菌が存在する場合に、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性度が第1の活性度であると予測することができる。そして、予測部102は、第1腸内細菌が存在せず、かつ、第2腸内細菌が第2の基準値未満である場合に、当該活性度が、第1の活性度よりも高い第2の活性度であると予測することができる。そして、予測部102は、第1腸内細菌が存在せず、かつ、第2腸内細菌の菌量を示す値が第2の基準値以上第3の基準値未満である場合に、当該活性度が、第2の活性度よりも高い第3の活性度であると予測することができる。さらに、予測部102は、第1腸内細菌が存在せず、かつ、第2腸内細菌の菌量を示す値が第3の基準値以上である場合に、当該活性度が、第3の活性度よりも高い第4の活性度であると予測することができる。
【0042】
予測部102による予測処理に用いられる判定基準は、例えば、予め被験者集団から得られた、第1細菌情報及び第2細菌情報と、特定の食品成分の摂取による免疫機能の活性化との関係を示すデータに基づいて定めることができる。
これらの関係を示すデータを得るためには、例えば、以下のような試験を行う。
まず、特定の食品成分を摂取した被験者集団から、摂取前後の免疫機能活性のデータと、腸内細菌叢のデータと、を取得する。取得したデータを統計学的に処理によって、免疫機能活性と正及び負に相関する腸内細菌を抽出する。さらに、統計学的な処理によって、抽出された腸内細菌と免疫機能活性との関係を示すデータを生成する。
本実施形態における、上記データを得るための具体的な試験例については、後述する。
【0043】
さらに、予測部102による予測処理は、上記判定基準を用いて定性的な予測結果を得る方法に限定されず、予測部102が、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性を示す数値を算出してもよい。
つまり、予測部102は、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性値を予測してもよい。ここでいう特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能の活性値とは、特定の食品成分の摂取前後の免疫機能の活性値の変化量を意味する。
【0044】
予測部102による免疫機能の活性値の予測処理は、例えば、上述のような被験者集団から得られた、腸内細菌と免疫機能活性との関係を示すデータから、機械学習の手法を用いた予測モデルを生成し、これに基づいて予測部102が活性値の予測処理を行うことができる。
具体的に、予測部102は、複数の被験者における、第1腸内細菌の菌量に関するデータと、第2腸内細菌の菌量に関するデータと、特定の食品成分の摂取による免疫機能の活性値に関するデータと、を含む学習データにより生成された予測モデルに対して、対象者における第1細菌情報及び第2細菌情報を適用し、特定の食品成分の摂取による免疫機能の活性値を予測することができる。なお、ここで用いる各腸内細菌の菌量に関するデータは、各腸内細菌の菌量の値を示すデータが好ましいが、当該菌量の値を推定可能なデータであってもよく、例えば当該菌量と有意に相関を有することが確認されている指標を用いることや、菌量の数値の単位等の表現を変更して表現されてもよい。
予測部102による予測処理に用いられる予測モデルは、予め被験者集団から得られたデータに加えて、予測処理において各対象者から得られたデータを用いて生成されたものでもよい。つまり、対象者に対する予測処理によって、予測モデルが更新されるように構成されてもよい。
予測処理に用いられる機械学習の手法としては、例えば、重回帰分析又はロジスティック回帰分析等の回帰分析、多層パーセプトロン、CNN(Convolutional Neural Network)及びRNN(Recurrent Neural Network)などのニューラルネットワーク、ガウシアンカーネル等の任意のカーネル関数を用いるサポートベクターマシーン、回帰木としてモデル化したランダムフォレスト、隠れマルコフモデルなどを利用したモデル等から選択された1又は複数の手法を選択することができる。
なお、上述のような予測モデルを用いた予測処理は、免疫機能の活性値の予測だけでなく、例えば、免疫機能の活性度の予測にも適用することもできる。
【0045】
(情報出力ステップ(ST33))
続いて、
図4に示すように、情報出力部103が、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能活性の予測結果に関する情報を出力する(ST33)。情報出力部103は、本ステップにより得られた情報を、摂取情報の提供元の対象者に対して提供しても良い。
具体的な動作として、情報出力部103は、例えば、各採取サンプルの提供元の各ユーザ端末200へ上記情報を送信しても良い。情報の提供方法は、例えば電子メールや各種メッセンジャーアプリケーション、又は上記免疫機能予測サービスを提供するウェブサイト上の通知機能等を用いて行うことができる。
本ステップでは、採取サンプルの提供元の対象者に対して、興味の対象である免疫機能活性の予測結果に関する情報を提供することによって、対象者の満足度を高めることができる。
【0046】
情報出力部103により出力される情報は、免疫機能活性の予測結果に関する情報であれば特に限定されない。例えば、当該情報は、予測部102による予測結果を示す情報であってもよく、予測結果に関連する情報であってもよい。
情報出力部103により出力される情報は、上述の1又は複数の情報を含んでいてもよく、また、これらの情報を表示するウェブページへのアクセス情報を含んでいてもよい。
【0047】
予測結果を示す情報としては、各対象者において、特定の食品成分が免疫機能に作用しやすいか否かを伝える情報が、一例として挙げられる。
予測結果に関連する情報としては、例えば、特定の食品成分の摂取に関する情報、特定の食品成分を含有する食品(以下、「特定成分含有食品」)に関する情報、特定成分含有食品に関するサービスについての情報等が挙げられる。以下、具体例について説明する。なお、情報出力部103により出力される情報が特定の食品成分、製品及び/又はこれらに関するサービス等の情報を含む場合には、対象者により選択可能な複数の選択肢を含むことが好ましい。
【0048】
特定の食品成分の摂取に関する情報は、例えば、特定の食品成分の摂取量及び/又は摂取方法についての情報を含んでいてもよい。
特定成分含有食品に関する情報は、例えば、特定成分含有食品の種類、具体的な製品についての情報、及び/又はそれらを推奨する情報等を含んでいてもよい。
特定成分含有食品に関するサービスは、特定成分含有食品の摂取プログラム、特定成分含有食品である製品についてのキャンペーン等についての情報を含んでいてもよい。
なお、情報出力部103は、これらの情報を免疫機能と関係の無い食品の摂取プログラムや、生活改善提案と併せて対象者に提供してもよい。
【0049】
さらに、情報出力部103は、特定の食品成分の摂取により免疫機能が活性化しない、又は活性度(活性値)が低いと予測された対象者に対して、腸内細菌叢を改善する食品や方法に関する情報を提供することもできる。これにより、ネガティブな予測結果であった対象者に対しても、ポジティブな情報を提供することができ、対象者の満足度を高めることができる。
【0050】
このように本実施形態によれば、サーバ100は、対象者の腸内細菌叢における第1細菌情報と第2腸内細菌情報に基づいて、対象者毎に、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性を客観的に予測することができる。これにより、例えば対象者に対し、特定の食品成分の摂取やその継続を判断するための情報を提供することができる。
【0051】
さらに、本実施形態によれば、予測部102が、特定の食品成分の摂取による免疫機能活性と正に相関する第2の腸内細菌に関する情報だけでなく、当該免疫機能活性と負に相関する第1の腸内細菌に関する情報を参照する。これにより、免疫機能活性の予測精度を高めることができる。
【0052】
[第1及び第2腸内細菌と免疫機能活性との関係を示すデータを得るための試験例]
以下、本発明の予測処理に用いられる、第1及び第2腸内細菌と免疫機能活性との関係を示すデータを得るための試験例について説明する。本試験例において、特定の食品成分はカテキン、免疫細胞はNK細胞とする。
【0053】
本試験例では、カテキン含有飲料の継続的な摂取が免疫機能に及ぼす影響を検証するため、二重盲検ランダム化交差比較試験を行った。
被験者集団は、55歳以上65歳未満の健常な男女60名とした。
試験は、被験者集団を2群に分けて行われた。2群のうち、一方の群の被験者は、カテキン含有飲料を2週間継続的に摂取した後、カテキン非含有飲料を2週間継続的に摂取した。他方の群の被験者は、カテキン非含有飲料を2週間継続的に摂取した後、カテキン含有飲料を2週間継続的に摂取した。
なお、カテキン含有飲料は、490mgのカテキンと75mgのカフェインを含み、カテキン非含有飲料は、カテキンを含まず75mgのカフェインを含むものとした。これらの飲料のカテキン以外の成分は、実質的に同一とした。
被験者は、各飲料を1日1本(350mg)、2週間毎日摂取した。
【0054】
試験期間の前後と試験期間中の所定のタイミングにおいて、各被験者から、便、血液(血漿、血清及び抹消単核球分離)等のサンプルを採取し、採取されたサンプルを分析した。
分析項目は、便の腸内細菌叢、NK細胞活性、IFN-γ、TNF-α等を含むものとした。
試験後のNK細胞活性値から試験前のNK細胞活性値を減じた値を、ΔNK細胞活性とした。なお、NK細胞活性値は、抹消単核球分離サンプルから公知の手法により測定された。
【0055】
便サンプルの分析は、株式会社テクノスルガ・ラボに委託して行われた。一例として、以下のような手順で分析を行った。採便容器(例えば株式会社テクノスルガ・ラボ製)を用いて便サンプルを採取した。そして、この採取した便サンプルからDNA抽出を行い、次世代シーケンサーMiSeq(Illumina社製)を用いて菌叢解析を行った。具体的には、被験者が採取した便サンプルを冷凍保存(-80℃)で株式会社テクノスルガ・ラボへ輸送し、DNA抽出を委託した。
そして、KAPA HiFi Hot Start Ready Mix (KapaBiosystems社製)を使用してPCRを行い、16S rRNAの遺伝子断片を増幅した。この増幅した16s rRNAの遺伝子断片を鋳型として、NexteraXT index kit(Illumina社製)を用いて次世代シーケンサー用のDNAライブラリーを調製した。
さらに、この調製したDNAライブラリーを用いて、次世代シーケンサーMiSeq(
Illumina社製)により解析を行い、各腸内細菌の菌数の割合を算出した。
【0056】
そして、16S rRNA菌叢解析を用いて、腸内細菌叢に一般的に含まれる腸内細菌(307属)から、ΔNK細胞活性と相関する腸内細菌を網羅的に探索した。その結果、ΔNK細胞活性と負に相関する因子として、Anaerosporobacter属、Bariatricus属、Klebsiella属、Kocuria属、Massiliprevotella属、Megasphaera属、Morganella属、Petroclostridium属、及びWeissella属に属する細菌が抽出された。ΔNK細胞活性と正に相関する因子として、Alistipes属、Catabacter属、Enterocloster属、及びPorphyromonas属に属する細菌が抽出された。
【0057】
そして、被験者を、ΔNK細胞活性を4つのグループ(Q1~Q4)に分類した。なお、これらのグループは、Q1、Q2、Q3、Q4の順に、ΔNK細胞活性が高くなるように設定された。
これらのグループ毎に、ΔNK細胞活性と正又は負に相関する因子として抽出された腸内細菌の菌数の割合の平均値を算出した。そして、年齢、性別等の交絡因子を調整し、各グループのΔNK細胞活性の値と、各腸内細菌の菌数の割合とに対して傾向検定(Jonckheere-Terpstra trend test)を行った。この結果の一部を、表1に示す。なお、表1において、Anaerosporobacter、Bariatricus、MegasphaeraはΔNK細胞活性と負に相関する因子、CatabacterはΔNK細胞活性と正に相関する因子である。
【0058】
【0059】
表1に示すように、最もΔNK細胞活性の高いQ4群に属する被験者は、全員An菌を保菌していなかった。このため、次に、An菌に着目した解析を行った。
【0060】
図5(A)に示すように、Q1~Q4に属する58人の被験者を、An菌の非保菌者(50名)と、保菌者(8名)とに分類して、各グループにおけるΔNK細胞活性の平均値を算出した。
同図に示すように、非保菌者は、保菌者よりも、ΔNK細胞活性の平均値が高かった。
【0061】
また、
図5(B)に示すように、横軸をAn菌の菌数の割合(存在率)、縦軸をΔNK細胞活性の値として、上述の58人の被験者のΔNK細胞活性のデータをプロットした。なお、An菌の保菌者(8名)に対応するプロットはグレー、An菌の非保菌者(58名)に対応するプロットは黒で示している。また、An菌の保菌者(8名)に対応するプロットを破線で囲み、これらのプロットの近似直線を破線の直線で示している。
この結果、An菌の保菌者(8名)における菌数の割合(存在率)は、ΔNK細胞活性の値と負の相関を有していた。
一方で、Anの非保菌者(50名)では、ΔNK細胞活性に差が見られた。
【0062】
これらの結果から、An菌の保菌の有無がΔNK細胞活性に大きく影響していることがわかった。但し、An菌の保菌者内でもΔNK細胞活性に差があることから、ΔNK細胞活性には、An菌の有無に加えて、他の因子が関わっているものと考えられた。
【0063】
次に、An菌の非保菌者においてΔNK細胞活性に関わる重要因子を探索するため、当該非保菌者(50名)を上述の方法でQ1~Q4の4つのグループに分類し、正又は負に相関する因子として抽出された腸内細菌の菌数の割合の平均値を算出した。そして、年齢、性別等の交絡因子を調整し、各グループのΔNK細胞活性の値と、各腸内細菌の菌数の割合とに対して傾向検定(Jonckheere-Terpstra trend test)を行った。
そして、表2に示すように、An菌の非保菌者における重要な因子として、Al菌を抽出した。
【0064】
【0065】
さらに、
図6(A)に示すように、横軸をAl菌の菌数の割合(存在率)、縦軸をΔNK細胞活性の値として、上述のAn菌の非保菌者(50名)のΔNK細胞活性のデータをプロットした。そして、An菌の非保菌者を、Al菌の菌数の割合(存在率)に基づいて略同数ずつ3グループに分類し、Al菌の菌数の割合の高いグループ、当該菌数の割合が中程度のグループ、当該菌数の割合の低いグループ、の3グループに分類した。Al菌の菌数の割合の高いグループをグループI、Al菌の菌数の割合の低いグループをグループIIとし、以下の解析を行った。
【0066】
図6(B)に示すように、年齢、性別等の交絡因子を調整し、グループI及びIIの各々におけるΔNK細胞活性の平均値を算出した。
同図に示すように、グループIの被験者は、グループIIの被験者よりも、ΔNK細胞活性の平均値が大きかった。この結果から、Al菌の保菌量が多いグループIの被験者は、Al菌の保菌量が少ないグループIIの被験者よりも、カテキンによるNK細胞の活性化作用が高いことがわかった。
【0067】
さらに、Al菌のカテキン及びその代謝物への影響を調べるため、グループIとグループIIの被験者の便サンプルから検出された、試験の前後における、エピガロカテキン(EGC)と、その代謝物であるEGC-M5の変化量について解析した。なお、解析には、試験後の各物質の検出量から、試験前の各物質の検出量を減じた値を用いた。
【0068】
図7(A)に示すように、グループIの被験者におけるEGC-M5の変化量(ΔEGC-M5)は、グループIIの被験者における当該変化量の約2.0倍に増加していた。
一方で、
図7(B)に示すように、グループIの被験者におけるEGCの変化量(ΔEGC)は、グループIIの被験者における当該変化量と、ほぼ同等であった。
この結果から、An菌を保菌しておらず、Al菌の保菌量が多い被験者は、EGC-M5の代謝活性が高いことがわかった。
つまり、An菌を保菌しておらず、Al菌の保菌量が多い場合には、EGC-M5の代謝活性が高くなることで、ΔNK細胞活性が高まると考えられる。
【0069】
図8に示すように、本試験例の結果から、カテキン摂取によるNK細胞の活性については、腸内細菌叢におけるAn菌の存在の有無と、Al菌の菌量とに基づいて、被験者を3群に分類できることがわかった。
具体的に、An菌が存在している被験者は、EGC-M5を産生できず、カテキン摂取によってNK細胞を活性化できないNon-Responder群に分類できる。An菌が存在しておらず、かつ、Al菌の菌量が少ない被験者は、EGC-M5の産生量が少なく、カテキン摂取によってNK細胞を少し活性化できるSemi Non-Responder群に分類できる。An菌が存在しておらず、かつ、Al菌の菌量が多い被験者は、EGC-M5の産生量が多く、カテキン摂取によってNK細胞を活性化できるResponder群に分類できる。
【0070】
この結果から、情報処理装置がカテキン摂取による対象者のNK細胞活性を予測する場合には、例えば、An菌の存在の有無と、Al菌の存在の有無又は菌量と、を基準として、カテキン摂取によるNK細胞活性の予測処理を実行することができる。あるいは、被験者集団から得られた上記データを基に、統計学的手法及び/又は機械学習の手法を用いて、An菌及びAl菌の菌量からΔNK細胞活性を導出するプログラムを生成し、NK細胞活性の予測処理を実行することもできる。
【0071】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0072】
上述の実施形態では、サーバ100がインターネット50を介して直接ユーザ端末200に接続されるシステムの例を示したが、これに限定されない。
例えば、サーバ100は、他の情報処理装置を介して間接的にユーザ端末200と接続されていてもよい。
例えば、当該他の情報処理装置は、エンドユーザである対象者向けのサービスの運営者の使用する情報処理装置(サーバ)とすることができ、本発明のサーバ100は、この運営者に対して免疫機能活性の予測サービスを提供する者の使用するサーバとすることができる。この場合、上記運営者のサーバが、対象者から採取された生体サンプルのデータを取得し、サーバ100にそのデータを送信する。これにより、サーバ100が、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能活性を予測し、予測結果のデータを上記運営者のサーバに提供することができる。
この例において、
図9に示すように、サーバ100は、取得部101と、予測部102と、を備え、対象者に対して情報を提供する情報出力部103を有していなくてもよい。
【0073】
さらに、上述の実施形態において、予測処理の対象者は、ユーザ端末200の使用者であったが、これに限定されない。例えば、当該対象者は、ユーザ端末200を使用しない、乳幼児、ヒト以外の動物(イヌ、ネコ等の愛玩動物、牛、馬、豚等の家畜等)であってもよい。この場合には、例えば、ユーザ端末200の使用者が、対象者から生体サンプルを採取し、これを免疫機能予測サービスの運営者に送付する。この採取サンプルから得られた腸内細菌叢の情報に基づいて、サーバ100が、特定の食品成分の摂取による対象者の免疫機能活性を予測することができる。
【0074】
上述の実施形態では、上記サーバ100は1台のみ示したが、上記サーバ100が実行する処理は、複数のサーバで分散して実行されても構わない。例えば、免疫機能活性の予測処理と情報提供処理とが別個のサーバで実行されても構わない。
【0075】
本願の特許請求の範囲に記載された発明のうち、「免疫機能活性の予測方法」と記載された発明は、その各ステップを、ソフトウェアによる情報処理によりコンピュータ等の少なくとも1つの装置が自動的に行うものであり、人間がコンピュータ等の装置を用いて行うものではない。すなわち、当該「免疫機能活性の予測方法」は、コンピュータ・ソフトウェアによる免疫機能活性の予測方法であって、コンピュータという計算道具を人間が操作する方法ではない。
【符号の説明】
【0076】
100 情報処理装置
101 取得部
102 予測部
103 情報出力部
200 ユーザ端末